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日外傷会誌 30 巻 4 号 (2016) 重症頭部外傷に対し CT 直後から実施する脳低温療法 + バルビツレート療法の有効性 関西医科大学総合医療センター救命救急センター 1) 大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター 2) 1) 早川航一 1) 岩村拡 長崎大学病院救命救急センター 3) 2

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(1)

目  的  我々は頭蓋内圧亢進を有さない頭部外傷症例に は脳低温療法は効果がなく1),頭蓋内圧亢進を有 する症例に効果があることを示した2).これまで 我々は頭蓋内圧亢進を呈する重症頭部外傷に対し て,頭蓋内圧降下治療として脳室ドレナージ,バ ルビツレート療法,脳低温療法,外減圧術の順で 実施してきた.頭蓋内圧亢進に対し脳低温療法を 行った143症例を対象とした検討では最初に測定 した脳灌流圧(以下 CPP)が40 mmHg 以下を呈 し た42例 の 転 帰 は ₁ 例 が persistent vegetable state,41例が死亡と転帰不良であり,本治療方針 の限界が明らかとなった(2012米国外傷学会で報 告).本治療方針では ICP を測定するまでに搬入 から約 ₁ 時間を要しているが,CPP40 mmHg 以 下という虚血の程度を考慮した場合,CPP を測 定できた時点ですでに全脳に致命的なダメージが 加わっていたため,全例が転帰不良となったもの と推測した.そこで我々は CT 直後から減圧術を 行うまでの時間にバルビツレート療法と脳低温療 法を導入することにより早期に頭蓋内圧降下治療 を開始することができ,予後を改善できるのでは ないかという仮説をたてた.Clifton らは,Glasgow Coma Scale(以下,GCS);₃︲₈ 点で除去すべき血 腫を有する鈍的頭部外傷を対象に減圧術前に脳低 温 療 法 を 行 う 群(N=15) と 行 わ な い 群(N= 13)に分ける Randomized Control Trial を行い,

脳低温療法群の転帰が有意に良いことを示した3) 我々は血腫除去術を必要としない症例(びまん性 脳腫脹例)においても,CT 直後から超早期にバ ルビツレート療法と脳低温療法を導入することで より早期に頭蓋内圧降下治療を開始することがで き,予後改善に繋がるのではないかと考えた.

重症頭部外傷に対し CT 直後から実施する脳低温療法

+バルビツレート療法の有効性

関西医科大学総合医療センター救命救急センター1)・大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター2) 長崎大学病院救命救急センター3)

早 川 航 一

1)

  吉 矢 和 久

2)

  金 山 周 史

1)

  丸 山 修 平

1)

岩 村   拡

1)

  和 田 大 樹

1)

  齊 藤 福 樹

1)

  射 場 治 郎

2)

塩 崎 忠 彦

2)

  中 森   靖

1)

  田 崎   修

3)

嶋 津 岳 士

2)

  鍬 方 安 行

1)  【目的】重症頭部外傷に対する CT 直後からの脳低温療法(HT)とバルビツレー ト療法(BT)の有効性を検証すること.【対象と方法】2012年から2014年までに研 究実施施設に直送となった Glasgow Coma Scale(GCS)₈ 点以下の頭部外傷患者で 両側の対光反射が消失,あるいは CT で広汎なくも膜下出血を有する,あるいは CT で脳底槽が消失した患者11例を対象とした.対象患者に対し CT 直後から減圧 術と並行して HT と BT(HT+BT)を導入し early HT 群とした.1997年から2012 年までに搬送された頭部外傷例のうち,同一基準を満たし一貫したプロトコールに 基づき加療され HT まで施行された36例を control 群とした.【結果】 ₂ 群間で患者 背景に有意差を認めなかった.early HT 群の受傷 ₃ ヵ月後の神経学的転帰は con-trol 群に比して有意に良好であった.【結語】CT 直後からの HT+BT は重症頭部 外傷患者の予後を改善させる可能性がある. 索引用語:重症頭部外傷,脳低温療法,バルビツレート療法

原  著

(2)

満たし,Figure 2 に示した一貫したプロトコール に基づき加療され,脳低温療法まで施行された36 例を control 群とした.なお,上記期間内におい ても CT 直後からバルビツレート療法や脳低温療 法を実施した症例が少数あり,これは解析から除 外した.また,出血性ショックが原因で死亡した 症例も除外した.

 全例が Advanced Trauma Life Support Guidelines あるいは Japan Advanced Trauma Evaluation and Care に基づいた蘇生と安定化のための治療が施 され,安定化ののち可及的速やかに頭部 CT が施 行された.頭部 CT で除去すべき頭蓋内血腫を認 めた場合には穿頭術あるいは開頭術を行い, mass effect を有する血腫を除去したうえで,ICP センサーを留置した.ICP センサーはできれば脳 実質内に留置し,実質内への留置が困難であれば, 硬膜下に留置した.開頭血腫除去術中に脳の腫脹 が顕著であれば,術者の判断で外減圧術が併施さ れた.Control 群では頭部 CT で除去すべき血腫 を認めない場合であっても,意識レベルが GCS で ₈ 点以下の場合には ICP センサーを留置した.  一方,early HT プロトコールでは,CT 直後か ら減圧術の準備を進める一方で,大腿静脈から静 脈カテーテルを留置し,バルビツレートを ₄ mg/ kg 静脈内投与ののち,₄ mg/kg/h で持続投与を 方  法 a.対  象  2012年11月 ₁ 日から2013年 ₃ 月31日までにおい て大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター に直送となった頭部外傷例と2013年11月 ₁ 日から 2014年 ₆ 月30日までに関西医科大学滝井病院救命 救急センターに直送となった頭部外傷例のうち, 以下の inclusion criteria を満たした患者11例を対 象とした.なお,本介入はマンパワーを要するた め,inclusion criteria を満たしたものの,対象と ならなかった症例が2012年11月 ₁ 日から2013年 ₃ 月31日の期間で ₁ 例,2013年11月 ₁ 日から2014年 ₆ 月30日までの期間で ₂ 例存在した. Inclusion criteria  GCS:₈ 点以下の重症頭部外傷患者で以下の a, b,c のいずれかを満たす患者.a. 両側の対光反 射が消失,b. CT で広汎なくも膜下出血(SAH) を有する,c. CT で脳底槽が消失.  上記対象患者に対し,CT 直後から減圧術と並 行してバルビツレート療法および34℃台脳低温療 法を導入する群を early HT 群とした.early HT プロトコールを Figure 1 に示した.  また,1997年から2012年10月31日までに大阪大 学医学部附属病院高度救命救急センターに搬送さ れた頭部外傷例のうち,同一 inclusion criteria を

Figure 1 Early HT protocol(early HT group)

Abbreviations:LR:light reflex, e-SAH:external subarachnoid hemorrhage

※ If an intracranial hematoma needed to be evacuated, we performed craniotomy or trepanation to reduce any mass effects and replaced the intracranial pressure(ICP) monitor. If severe brain swelling occurred during the surgery, decompressive craniectomy was performed in conjunction with mass evacuation based on the judgement of the neurosurgeon.

(3)

な輸液負荷,バルビツレート療法を行った際にみ られる低血圧に対しては昇圧剤を用いることで CPP を50mmHg 以上に維持することを目標とし た.なお,濃グリセリンや D︲マンニトール注射 液は一時的な頭蓋内圧降下作用を有するのみであ るため原則として使用しなかったが,減圧術前に D︲マンニトール注射液を投与した症例は存在し た. ま た, 動 脈 血 液 ガ ス に お け る PaCO₂は30︲ 35mmHg をコントロール目標とした.最低でも ₁ 日 ₂ 回の血清電解質検査を行い,必要に応じて 電解質補正を実施した. c.評価項目  血圧,体温,GCS,対光反射は来院時のものを 記録した.動脈血液ガス分析は来院時に測定した ものを記録した.対光反射は一側でも残存してい る場合を対光反射ありと定義した.広汎な SAH とは来院時の CT で脳底槽と円蓋部くも膜下腔の 双方に High Density を認めるものと定義した. CT 検査ののち ICP センサーを留置し得られた ICP,CPP をそれぞれ initial ICP,CPP と定義した. もし,除去すべき頭蓋内血腫が存在する場合には, 血腫除去術後 ICU 入室時の ICP,CPP をそれぞ れ initial ICP,CPP と定義した.主要評価項目は 神経学的転帰とし,受傷後 ₃ ヵ月後の Glasgow outcome scale で評価した.good recovery(GR) と moderate disability(MD)を転帰良好(favorable outcome)とし,severe disability(SD),persistent vegetative state(VS),death(D)を転帰不良(poor outcome)と定義し,₂ 群間比較を行った.また, GR,MD,SD を意識回復群,VS,D を非意識回 開始した.バルビツレート投与により低血圧をき たす際にはドーパミン持続静脈内投与を行い,血 圧の維持に努めた.また,同時並行で胃管を留置 のうえ,氷生食を用いて胃洗浄を行い,34℃台へ 到達させた. b.頭蓋内圧センサー留置後の ICU における頭 蓋内圧亢進に対する治療  ICP 25mmHg 以上が30分以上続いた場合に順次 頭蓋内圧降下治療を行った.頭蓋内圧亢進を呈し た場合にはまずは髄液排除を目的とした脳室ドレ ナージ術を行った.コントロール群では,脳室ド レナージ術が施行不可能か,効果が十分でない場 合にバルビツレート療法を開始した.バルビツ レート療法は脳波上 burst and suppression を認め るまで増量した.それでも ICP が25mmHg を呈 する場合には脳低温療法を導入した.脳低温療法 は上述の方法で導入し,クールブランケットを用 いて維持した.シバリングがみられ体温コント ロールに難渋する場合には筋弛緩剤を使用した. 体温は膀胱温を測定し,33.5℃から34.5℃をコン トロール目標とした.脳低温療法は ICP のコン トロールがつき必要ないと判断されるまで継続し て行った.復温は ICP,CPP を観察しながら,原 則 ₁ 日 ₁ ℃の速度で行った.復温過程で許容でき ない ICP の上昇が認められた場合には復温を中 止した.また,脳低温療法自体が呼吸循環に悪影 響を及ぼすか,感染の制御のためには中止すべき と判断した際には終了した.脳低温療法を導入後 ICP のコントロールが不良な場合には,外減圧術 実施を検討した.以上の頭蓋内圧降下治療と適切

Figure 2 Therapeutic protocol(control group)

※ If an intracranial hematoma needed to be evacuated, we performed craniotomy or trepanation to reduce any mass effects and replaced the ICP monitor. If severe brain swelling occurred during the surgery, decompressive craniectomy was performed in conjunction with mass evacuation based on the judgement of the neurosurgeon.

(4)

Table 1 に示した.すべての項目で群間に有意差 を認めなかったが,control 群は early HT 群に比 べ,ICP が高く,CPP が低い傾向がみられた.こ れは early HT 群では ICP 測定よりも早く頭蓋内 圧降下療法を行った結果であると考えられた.外 傷 症 例 の 重 症 度 を 表 す ISS も control 群 が early HT 群に比べ,やや高い傾向がみられた.両側の 対光反射が消失している患者の割合,広汎なくも 膜下出血を認める患者の割合,脳底槽が消失して いる患者の割合は ₂ 群間で差はみられなかった. ま た,control 群36例 中12例,early HT 群11例 中 ₅ 例が GCS 3かつ対光反射消失した最重症例で あった.control 群の最重症例12例の転帰は VS ₂ 例,D10例であり,early HT 群の最重症例 ₅ 例の 転帰は SD ₁ 例,D ₅ 例であった.   ₂ 群間の転帰比較に関する結果を Table 2 に示 した.受傷後 ₃ ヵ月の神経学的転帰は control 群 では36例中 ₁ 例が予後良好であるのに対し,early HT 群では11例中 ₂ 例が転帰良好であり,統計学 的有意差はみられなかった(p=0.13,Fisher's exact test).一方,control 群では36例中 ₄ 例が意 識回復したのに対し,early HT 群では11例中 ₅ 復群とした. d.統計学的解析  連続変数は中央値と四分位数で示した.カテゴ リー変数は全体の割合を示した.連続変数の比較 には Mann︲Whitney's U test を用い,カテゴリー 変数の比較にはχ2 test,もしくは Fischer's exact

test を用いて行った.また,₂ 群間に重症度の差 が潜在する可能性が否定できないため,以下のロ ジスティック回帰分析を行った.従属変数は受傷 ₃ ヵ月後の神経学的転帰とした.説明変数に年齢, GCS,Injury severity score(以下 ISS),対光反射 の有無,CT における広汎なくも膜下出血の有無, 脳底槽の消失の有無,来院時の収縮期血圧,base excess,initial ICP,initial CPP, 体 温,evacuate mass の有無,外減圧術実施の有無,early HT 実 施の有無をとり,ロジスティック回帰分析(変数 減少法)を行った.検定手法には両側検定を用い, p<0.05を有意差ありと定義した.すべての統計 学 的 解 析 は SPSS Ver. 21.0(SPSS, Inc., Chicago, IL)を用いて実施した.

結  果

 early HT 群11例と control 群36例の患者背景を

Table 1 Patient characteristics early HT group (n=11) control group (n=36) p value Age 52.0(32.0-76.0) 36.5(21.0-67.3) 0.44 Sex(male, %) 72.7% 61.1% 0.72 GCS 4(3-7) 4(3-6) 0.99 ISS 25.0(16.0-29.0) 26.0(25.0-34.0) 0.054

LR(loss on both sides, %) 72.7% 75.0% 1.00

e-SAH(presence, %) 72.7% 83.3% 0.42 Absent cistern(presence, %) 45.5% 33.3% 0.49 sBP(mmHg) 136.5(72.0-182.5) 137.0(108.8-197.8) 0.63 Base deficit(mmol/L) 2.2(-0.8-6.2) 3.7(1.3-7.3) 0.26 ICP(mmHg) 32.0(6.5-49.5) 34.5(12.8-58.0) 0.36 CPP(mmHg) 58.0(35.5-90.5) 53.0(26.3-66.0) 0.25 BT(℃) 36.3(35.4-36.8) 36.5(35.6-36.8) 0.72 Evacuate mass 8/11(72.7%) 28/36(77.8%) 0.70 DC 6/11(54.5%) 13/36(36.1%) 0.46

Abbreviations  GCS:Glasgow coma scale, ISS:injury severity score, LR:light reflex, e-SAH:extensive SAH, sBP:systolic blood pressure, ICP:intra cranial pressure, CPP:cerebral perfusion pressure, BT:body temperature, DC:decompressive craniectomy

(5)

考  察

 本研究は重症頭部外傷に対する CT 直後からの 脳低温療法とバルビツレート療法の有用性を検討 し た historical control study で あ る.2011年12月 ₁ 日から inclusion criteria を満たす症例に対し, CT 直後からの脳低温療法とバルビツレート療法 の介入を開始した.control 群には,頭部外傷に 対し一貫した治療プロトコールでの治療介入を開 始した1997年から2012年10月31日までに大阪大学 医学部附属病院高度救命救急センターに搬送され た頭部外傷例のうち,同一 inclusion criteria を満 たし,脳低温療法を要したものとした.early HT 群は control 群より神経学的転帰は良好であり, 例で意識回復が得られ,統計学的有意差がみられ

た(p<0.05,Fisher's exact test).

 次にロジスティック回帰分析の結果をTable 3 に示す.  従属変数が予後良好(or 不良)の場合には early HT と予後との関連は認められなかったが, 意識回復の有無を説明変数とした解析では,early HT 実施の有無と initial ICP が予後関連因子とし て検出された.このことより,重症頭部外傷に対 する CT 直後から実施する脳低温療法およびバル ビツレート療法は予後改善に寄与する可能性が示 唆された.

Table 2 Comparison between groups of prognosis early HT group (n=11) control group (n=36) Favorable outcome 2 1 Poor outcome 9 35

p=0.13(Fisher’s exact test) Favorable outcome:GR, MD Poor outcome:SD, PVS, D early HT group (n=11) control group (n=36) Consciousness recovery 5 4 No consciousness recovery 6 32

p=0.023(Fisher’s exact test) Consciousness recovery:GR, MD, SD No consciousness recovery:PVS, D

Table 3 Logistic regression analysis Dependent variables:consciousness recovery

Explanatory variables: age, GCS, ISS, abnormality LR, e-SAH, absent cistern, sBP, BE, initial ICP, initial CPP, BT, evacuate mass, DC, early HT

Odds ratio Confidence interval p value

early HT 56.0 1.901-1651 p=0.02

initial ICP 0.931 0.871-0.995 p=0.03

Abbreviations  GCS:Glasgow coma scale, ISS:injury severity score, LR:light reflex, e-SAH:extensive SAH, sBP: systolic blood pressure, ICP:intra cranial pressure, CPP:cerebral perfusion pressure, BT:body temperature, DC:decompressive craniectomy

(6)

 また,本研究は先行する Clifton らの研究とは いくつかの相違点が存在する.一つは,inclusion criteria が異なる点である.本研究では我々が過 去に報告した頭部外傷の予後規定因子に関する研 究10)から得られた知見をもとに inclusion criteria を設定した.本予後規定因子に関する研究では, 対光反射が両側で消失していること,CT で広汎 なくも膜下出血を認めること,同じく CT で脳底 槽の消失がみられるものが予後不良因子であっ た.本研究ではその予後不良因子を一つでも含む ものを対象として研究を行った.一方で Clifton らは鈍的頭部外傷例で GCS 3︲₈ かつ16︲65歳のも のを対象とし,対光反射の消失した症例を除外し ている.確かに瞳孔が ₄ mm 以上に散大し,対光 反射が消失している症例の予後は極めて不良であ るが,対光反射が消失しているのみで,瞳孔が散 大していなければ,絶対的予後不良とはいえない. 実際,本研究においても,両側で対光反射が消失 している症例は両群で35例存在したが,そのうち ₅ 例(14.3%)が SD 以上の転帰であった.もう 一つは study design が異なる点である.Clifton ら は多施設共同での randomized control study であ るが,本研究は ₂ 施設での historical control study であり,我々も今後は多施設共同での前向き研究 を行う予定としている.  本研究にはいくつかの limitation が存在する. ひとつは過去の症例を control 群とした historical control study であるため,₂ 群間の重症度が異な る可能性がある.control 群においても,全例が 減圧術後に脳低温療法を要しており,背景の比較 からも重症度に明らかな違いはないと考えられる が,重症度の差は否定できない.また,early HT 群が対象期間内の連続症例ではないことである. 本 介 入 は マ ン パ ワ ー を 要 す る た め,inclusion criteria を満たす症例全例に対しての介入は困難 であった.そのため,マンパワーが足りていると きに本治療介入を実施し,early HT 群とした.  もう一つはサンプルサイズが小さいことであ る.基本的な治療方針が同一である他の施設へも 研究への参加を呼びかけ,さらに症例数を蓄積し 検討を行いたいと考えている. 結  論  重症頭部外傷症例に対する CT 直後からの脳低 温療法とバルビツレート療法は予後を改善させる 可能性がある. CT 直後からの脳低温療法とバルビツレート療法 は予後改善に寄与する可能性が示唆された.その 機序として以下の三つの要因が考えられる.一つ は減圧術前の脳低温療法が脳の虚血再灌流障害を 和らげる可能性である.脳低温療法は心肺停止症 例や新生児の低酸素脳症に有用であり,虚血再灌 流時に生じる生化学的カスケードを弱める作用が あると報告されており4)5),虚血再灌流障害が生じ る重症頭部外傷に対しても有用である可能性が高 いといえる.二つめは,バルビツレートが虚血時 の脳を保護した可能性である.バルビツレートが 脳の代謝を低下させ,虚血時に脳を保護する作用 があることは諸家が報告しており6)︲8)副作用とし て生じる低血圧をカテコラミンを用いて制御した 本研究では脳保護的に作用した可能性があると考 え ら れ る. ま た, バ ル ビ ツ レ ー ト は functional CMRO₂(cerebral metabolic rate of oxygen)(シナ プス伝達などの神経機能に要するエネルギー需 要)を抑制する効果を有するが,basal CMRO₂(神 経細胞が細胞としての機能を維持するために必要 なエネルギー需要)は抑制しないとされている. 一方,低体温は温度依存性に脳酸素消費量,とく に basal CMRO₂を減少させるとされ,その酸素消 費量を低下させる作用機序は異なり9),相乗効果 が得られた可能性も考えられる.もう一つは CT 直後からの頭蓋内圧降下治療が脳虚血を緩和した 可能性である.我々は背景でも述べたように,脳 低温療法を施行した連続143症例の検討で,最初 に測定された CPP が40mmHg 以下の症例は全例 が予後不良であったことを示した.このことは CPP 40mmHg 以下という虚血の程度から考えて, 頭蓋内圧が測定された時点から頭蓋内圧降下治療 を開始しても,すでに高度の虚血ダメージが加 わっており,治療時期を逸していることを示唆し ている.CT 直後から頭蓋内圧降下治療である脳 低温療法とバルビツレート療法を組み合わせるこ とにより,虚血のダメージを緩和させることがで きたのではないかと考えている.Clifton らは,除 去すべき頭蓋内血腫を有する evacuated mass type のみにおいて,減圧術前からの脳低温療法が有用 である可能性を論じているが,我々は除去すべき 血腫がない diffuse brain swelling type においても CT 直後からの頭蓋内圧降下治療(脳低温療法+ バルビツレート療法)が有用である可能性が高い と考えている.

(7)

arrest. Prog Cardiovasc Dis 2009;52:168︲179.  6) Smith DS, Rehncrona S, Siesjo BK, et

al:Barbitu-rates as protective agents in brain ischemia and as free radical scavengers in vitro. Acta Physiol Scand Suppl 1980;492:129︲134.

 7) Pappas TN, Mironovich RO:Barbiturate︲induced coma to protect against cerebral ischemia and increased intracranial pressure. Am J Hosp Pharm 1981;38:494︲498.

 8) Gross CE, Adams HP Jr, Yamada T, et al:Use of anticoagulants, electroencephalographic monitoring, and barbiturate cerebral protection in carotid endar-terectomy. Neurosurgery 1981;9:1︲5.

 9) 塩崎忠彦:脳低温療法-スタンダードな治療 法?救急集中治療 2001;13:613︲622.

10) Tasaki O, Shiozaki T, Sugimoto H, et al:Prognostic indicators and outcome prediction model for severe traumatic brain injury. J Trauma 2009;66:304︲ 308.





論文受付日:2016年 ₁ 月15日論文受理日:2016年 ₈ 月24日





利益相反はない.

文  献

 1) Shiozaki T, Hayakata T, Sugimoto H, et al:A mul-ticenter prospective randomized controlled trial of the efficacy of mild hypothermia for severely head injured patients with low intracranial pressure. J Neurosurgery 2001;94:50︲54.

 2) Shiozaki T, Sugimoto H, Sugimoto T, et al:Effect of mild hypothermia on uncontrollable intracranial hypertension after severe head injury. J Neurosur-gery 1993;79:363︲368.

 3) GL Clifton, Coffey CS, Okonkwo DO, et al:Early induction of hypothermia for evacuated intracranial hematomas:a post hoc analysis of two clinical trials. J Neurosurgery 2012;117:714︲720.  4) Jacobs SE, Tarnow︲Mordi WO:Therapeutic

hypo-thermia for newborn infants with hypoxic︲ischaemic encephalopathy. J Paediatr Child Health 2010;46: 568︲576.

 5) Janata A, Holzer M:Hypothermia after cardiac

THE EFFICACY OF INDUCING MILD HYPOTHERMIA AND ADMINISTERING BARBITURATE THERAPY

IMMEDIATELY AFTER A COMPUTED TOMOGRAPHY SCAN FOR

SEVERE TRAUMATIC BRAIN INJURIES

Koichi HAYAKAWA1), Kazuhisa YOSHIYA2), Shuji KANAYAMA1), Shuhei MARUYAMA1), Hiromu IWAMURA1), Daiki WADA1), Fukuki SAITO1), Jiro IBA2), Tadahiko SHIOZAKI2), Yasushi NAKAMORI1), Osamu TASAKI3),

Takeshi SHIMAZU2) and Yasuyuki KUWAGATA1)

Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kansai Medical University Takii Hospital1)

Department of Traumatology and Acute Critical Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine2) Nagasaki University Hospital Emergency Medical Center3)

  Purpose:The purpose of this study was to evaluate the efficacy of inducing mild hypothermia (HT) and administering barbiturate therapy (BT) immediately after a computed tomography (CT) scan as a treatment for severe traumatic brain injuries (TBI). Methods:This study was a historical control study. The inclusion criteria were severe TBI patients (Glasgow Coma Scale score:≤8) whose bilateral pupillary light reflexes were absent or who exhibited extensive subarachnoid hemorrhaging or absent cisterns on CT. The 11 patients that were transferred to our facilities between 2012 and 2014 and in whom HT was induced and BT was administered immediately after a CT scan comprised the early HT group. The 36 patients who met the inclusion criteria and were treated with HT between 1997 and 2012 made up the control group. Results:There was no significant difference in the patient characteristics of the two groups. The prognosis of the early HT group was significantly better than that of the control group. Conclusion:Inducing HT and administering BT immediately after a CT scan might improve the prognosis of severe TBI.

Figure 1 Early HT protocol(early HT group)
Figure 2 Therapeutic protocol(control group)
Table 1 に示した.すべての項目で群間に有意差 を認めなかったが,control 群は early  HT 群に比 べ,ICP が高く,CPP が低い傾向がみられた.こ れは early  HT 群では ICP 測定よりも早く頭蓋内 圧降下療法を行った結果であると考えられた.外 傷 症 例 の 重 症 度 を 表 す ISS も control 群 が early  HT 群に比べ,やや高い傾向がみられた.両側の 対光反射が消失している患者の割合,広汎なくも 膜下出血を認める患者の割合,脳底槽が消失し
Table 2 Comparison between groups of prognosis early HT group (n=11) control group(n=36) Favorable outcome 2 1 Poor outcome 9 35

参照

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