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「天草版伊曽保物語」の語彙と語法

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(1)

の語棄と語法

十六世紀に来日したイエズス会の宣教師たちは布教のた めに、日本語を熱心に学んだ。印刷物を出し、布教の手段 にするとともに、自分たちの日本語学習にも使った。それ ら の テ キ ス ト の 一 冊 に 、 ﹁ イ ソ ポ の フ ァ プ ラ ス ﹂ が あ る 。 イソップ物語の初めての和訳であり、一五九三年に天草で 却 刊 行 さ れ た の で 、 ﹁ 天 草 版 伊 曽 保 物 語 ﹂ と 呼 ば れ て い る 。 キリシタソ版は、当時の日本語発音がローマ字で書かれて い る こ と か ら 、 室 町 時 代 の 口 語 を 知 る 上 で 貴 重 な 資 料 と な っ て い る の で あ る 。 天草版伊曽保物語は、国字本との関係も見過ごすことは できない。両者を比較してみると、イソポ伝において話の 順序が前後しており、文章の違う所がある。また、国字本 にあって、天草版にない話も存在する。寓話においては天 草 版 七

O

話 、 国 字 本 六 回 話 、 共 通 の 話 二 五 話 と い う よ う に 、

j

いっそう差が著しい。新村出氏、土井忠生氏、柊源一氏の 研究によると両者に共通の祖本として、文語訳の広本が存 在 し た の で は な い か と 言 わ れ て い る 。 ま た 、 こ の 時 代 は 、 古代語から近代語へと日本語が大きく変化する時代でもあ ることから、ここでは、音便や連体形の終止形化などの語 法や語葉を通して、この作品にどのような変化が見られる か を 考 察 し て い く こ と に す る 。 二、動調の音便形について 古 来 日 本 語 に は 母 音 の 並 列 を 許 さ な い き ま り が あ っ た 。 それが平安時代に入って、母音だけの音節が語中にくると いう音便が発生した。この音便の発生した原因として一般 に言われている事は、単音の脱落現象である。イ音便やウ 音便は﹁高ウ﹂﹁書イテ﹂などのように、子音の︿ k ﹀ や ︿ S ﹀ の 脱 落 に よ る も の で 、 促 音 便 や 接 音 便 は ﹁ 死 シ デ ﹂ ﹁ 読 γ デ﹂﹁持ッテ﹂などに見られる母音︿ i ﹀の脱落に

(2)

つまり、子音の︿ k ﹀︿ S ﹀や母音の ︿ i ﹀などの響度の弱い音が脱落しやすいと言える。しか し、この時期には物語などにイ音便やウ音便があらわれて も、促音便や楼音便はめったにあらわれない。これは、イ 音便やウ音便が穏やかな音になるのに対して、促音便や接 音便が強さを感じる音であることから、優雅さを重んじた 当時の女性にはイ音便やウ音便の方が喜ばれたためである と思われる。しかし、音便形は和歌の詞書に使われても、 和歌自体には使用されなかった。それは音便形があくまで も口語での使用であり、和歌の言葉としては品格が劣ると 考えられていたためであると思われる。また、種類によっ てそのあらわれ方に違いがあり、ガ行四段のイ音便﹁騒い で﹂やパ行四段の接音便﹁呼んで﹂、ラ行四段の促音便 ﹁ 取 っ て ﹂ な ど 、 ま だ ま れ に し か 見 ら れ な い も の も あ る 。 さて、十一世紀末から十七世紀の初めまでの約五

00

年 聞を中世といい、国語史の中でも変化の激しい時期であっ た こ と は よ く 知 ら れ て い る こ と で あ る 。 こ の 時 期 の 音 便 は 、 前代と同じく四種類であるが、そのあらわれる条件などに 変化が出てきた。まず、イ音便であるが、主にカ・ガ・サ 行四段動調の連用形から﹁て・た﹂に続くようになる。ウ 音便は、前代と同様にハ行四段動調の連用形にあらわれて いる。促音便は、との時期になって、初期の説話集や戦記 よ る も の で あ る 。 物などにおいて盛んに使われている。促音便はタ・ハ・ラ 行四段、ラ変動調の連用形にあらわれたが、ハ行四段動詞 に限つては、まだウ音便形になる方が普通であったようで ある。最後に接音便は、パ・マ行四段とナ変動詞の連用形 にあらわれるが、パ行四段動調の﹁呼んで﹂﹁飛んで﹂な どは鎌倉期から多くなっている。また、パ・マ行の接音便 は後期になって、﹁呼うで﹂﹁頼うだ﹂のようにオ段の長 音になったため、ウ音便と同じになった。しかし、文献に は同じ語が両形あらわれている例も見られる。こうして、 この時代の後期になると、音便形が連用形と並ぶ一つの活 用形のようになり、使用度数も増えていく。 それでは四段活用が音便を起こしゃすいのはなぜであろ うか。柳田征司氏の研究によると、従来厳しい別があった のではなく、四段活用が音便を起こしゃすく、上二段活用 が音便を起こしにくいという傾向があったようである。四 段活用である﹁置く・織る﹂、下二段活用である﹁起く・ 降 る ﹂ の よ う に 両 形 が 音 便 を 起 こ す と 衝 突 す る 語 が あ っ た 。 しかし、このことのみで四段活用が音便しやすいと言う理 由にはならない。ここで﹁掻き﹂の例を挙げて考えてみる こ と に す る 。 ︿ kaki ﹀の︿ k ﹀ は 軟 口 蓋 音 で あ る 。 ︿ i ﹀ 広前舌母音なので発音する場合の労力が大きいため、︿ k ﹀ の脱落が生じる。これがいわゆる音便であるが、ここで言 34

(3)

えることは語幹末母音が、︿

a

﹀のように広い母音である ほど、音便は起きやすいのではないかということである。 四段活用の語幹末母音はパ行を除くと、どの行も語幹末母 音が︿

a

﹀である動詞が多くなっている。逆に上二段活用 はパ・マ行を除くと語幹末母音が︿

a

﹀である動詞は一例 あるかないかである。つまり、広い母音を持つ四段活用が 早くから音便を発生させていたということになる。さらに パ・マ行で語幹末母音が広い母音である上二段活用が四段 活用に転じている語もある。語幹末母音が︿

a

﹀である語 と し て 、 ﹁ ス サ ブ ︵ 弄 ︶ ・ マ ナ プ ︵ 学 ︶ ﹂ な ど が あ り 、 ︿ O ﹀ で あ る 語 と し て は 、 ﹁ ウ ト プ ︵ 疎 ︶ ・ ヨ ロ コ プ ︵ 喜 ︶ ﹂ な ど がある。この他に母音︿ i ﹀である﹁アヤシム︵ブ︶﹂の ように四段活用になっている語も見られる。これは接音便 の時には︿

m

﹀が独立し得るため、狭い母音の場合でも音 便が起きたからであると考えられている。このように音便 の発生から語幹末母音との関連など興味深い点が数多く見 られる。天草版伊曽保物語においてもこのような現象があ らわれているのかを以下考察していくことにする。 天草版伊曽保物語の動調のうち、四段活用は異なり語数 で 九 一 一 一 語 、 延 べ 語 数 三

O

一四語が用いられている。この 四段活用を各活用形別にして示すと、次のようになる。 四段活用の活用形別、音便形別語表 連体|巳然|命令|イ音便|ウ音便|促音便|按音便|全体 表1 終止 連用 未然 911 16 99 53 92 38 55 160 56 159 183 異 語 数 延 語 数 この表のように音便形は異なり語数でイ 音 使 九 二 語 、 ウ 音 便 五 三 語 、 促 音 便 九 九 語 、 接音便一六語が用いられている。音便形の 延べ語数二二六、二五五、五一七、四

O

を 合 計 す る と 、 一

O

三八語になり、これは四 段活用全体の三四・四%である。これにナ 変の接音便九を加えて、音便形の延べ語数 と連用形の非音便形に対する音便形の比率 を 出 し て み る 。 3014 40 517 255 226 58 ×100 142 音便形延語数 音便形延語数+連用形延語数 1038+9 1038+493+9 588 161 493 534 音使率 X100=67.9% つまり、音便形延べ語数 一

O

四七語は、原形と音便 形 延 べ 語 数 の 合 計 で あ る 一 五 四

O

語の六七・九%にな る。天草版平家物語におい ても、七四・五%であるか ら、ほぽ大差はないようで ある。ここで平安時代の和 文の音便率を見てみると、 ﹁ 伊 勢 物 語 ﹂ 一 ・ 八 七 % 、 ﹁ 枕 草 子 ﹂

0

・ 九 一 % 、 ﹁ 更 級 日 記 ﹂ 二 ・ 六 二 % の ようになっている。これら と比較してみても、天草版

(4)

の音便率はかなり高くなっていることが分かる。音便率が こ の よ う に 高 い 理 由 と し て 、 こ の こ ろ に な る と 、 助 詞 ﹁ て ﹂ や助動調﹁た﹂に続く時、ほとんど音便形が使われるよう になったためであると言われている。このことは天草版伊 曽保物語においてはどうであるかを調べてみると、四段活 用音便形のイ音使から撤音便までの一

O

三 人 語 は 、 そ の ほ , とんどが﹁て・た﹂に続いている。しかし、二例だけ例外 が見られる。それはイ音便の﹁浮く﹂とウ音便の﹁沈む﹂ で あ る 。 そ の 用 例 を 示 す 。 互 い に 浮 い っ 、 沈 う づ す る と こ ろ に ︵ 四 二 ー

l

一 八 ︶ このように﹁浮く﹂は﹁つ﹂に、﹁沈む﹂は﹁づ﹂に下接 している。詳しくはイ音便やウ音便の項で述べることにす る 。 一方、非音便形から﹁て・た﹂に続く例は、人語二九回 だけである。その八語二九回を 行 別 に 示 す と 次 の よ う に な る 。 さらにこの八語を連用形の用 法と音便形の度数別にして示す と 次 の 表 の よ う に な る 。 非音便形から「て・た」に 続く語数 サ タ 「? ノt ムロ f, 』I.

f

r

4・ f

T

r

r

計 異 語 数 5 1 1 1 8 延 語 数 26 1 1 1 29 表2 原形から「て・た」に続く語の連用形用法別語数

r

r

単 誼"ロ 中止 「てたJイ音使 ウ音使 促音便 援音便 合 計 サ 伝 申 す 1 1 サ 伏 す 1 2 3 サ 申す 2 19 21 サ 増 す 1 1 サ 召 す 3 3 タ 持つ 1 53 54 . マ 羨 む 1 1 ノ 、. 飛 ぶ 1 2 3 -36-表3 以下各語について﹁て・た﹂に続いた非音便形及びその 語の音便形の例をあげてみる。女印は非音便形に、−印は 音便形に﹁て・た﹂のついた例である。 一 伝 申 す カ我この程名医に伝え申した事がある。︵六七

l

七 ︶

(5)

二 伏 す 食前後も知らず、酔い伏したところを︵九六

l

一 一 ︶ −その言葉に安堵して隠れ伏いたところに、狩人来て︵六 四

l

一 七 ︶ −ひたと倒れ伏いて、吐息をついては言うは︵五

O

一 ll 一 七 ︶ 三 申 す み M ﹁ こ こ に 証 跡 が あ る ﹂ と 申 し て ︵ 三 三 | 一

O

︶ 女智分の程のただ一人な事を申した︵一七

l

一 六 ︶ ﹁申す﹂は﹁申し﹂が一二回用いられているが、その内の 一九回が﹁て・た﹂に続いている。そのすべては、﹁申し て﹂﹁申した﹂の形で用いられ、音便形は用いられていな 四 増 す 女山川には水嵩が増して︵九七

l

五 ︶ 五 召 す 会 イ ソ ポ を 召 し て ︵ 一 六 | 三 ︶ A K かくてエヂットの帝王国家の学匠を召して︵四

O

| 六 ︶ 六 持 つ 女我眼一つ持ちたれば︵九四

l

八 ︶ ﹁持つ﹂が原形で﹁て・た﹂に付くのは、この一つだけ で 他 の 五 三 回 は 、 促 音 便 に な っ て い る 。 −或る百姓上々の熟柿を持って来て主人に捧ぐれば︵一

O

ー 五 ︶ A V し き り に 乞 い を 受 け て 持 っ た ︵ 一 一 一 | 二 四 ︶ 七 羨 む ム X 鳥これを羨みて︵九

O

I

六 ︶ ﹁ 羨 む ﹂ に は 音 便 形 は な い 。 八 飛 ぶ 女或る亀飛びたい心が付いて︵八七|二三︶ ﹁飛びたい﹂は助動詞﹁たし﹂に続いたもので、この場合 は音便形になることはまずない。それは現代語についても 言える事である。他に接音便形になっている用例は次のニ 例 で あ る 。 − 鷲 一 つ 飛 ん で 来 て ︵ 二 五 | 一 七 ︶ −羊の皮の上に飛んで来たによって︵九

O

l

七 ︶ 天 草 版 平 家 物 語 で は 、 サ 行 四 段 活 用 を 中 心 に 音 便 形 が な か っ た 語 、 原 形 と 音 便 形 の 両 方 か ら ﹁ て ・ た ﹂ に 続 く 語 が あ る 。 しかし、天草版伊曽保物語においては、その傾向が平家物 語ほど現われてはいない。これは語数の差もあると思われ るが、伊曽保物語では、﹁て・た﹂に続く形が音便形に、 固定してきていることを示していると思われる。また、平 家物語には見えないタ行四段活用﹁持つ﹂に原形と音便形 の両方から﹁て・た﹂に続く語が多く見られるが、これは 原 形 一 、 促 音 便 五 一 ニ と い う 数 か ら 見 て 音 便 形 に 移 行 し て い る途中で、ほぽ完成していると思われる。また、天草版平

(6)

家物語には使用されていないパ行四段活用﹁飛ぶ﹂に原形 に続く形一、接音便二が見られる。しかし、先に述べたよ うに原形に続く例は﹁飛びたい﹂となっており、これは音 便 形 に な る こ と は な い 形 で あ る 。 また、柳田征司氏は﹁室町時代の国語﹂において、原形 で あ ら わ れ る 語 を 次 の よ う に 定 義 し て い る 。

ω

語幹末が長音﹁申ス﹂

ω

二音節動調アクセント第一類の語﹁押ス・貸ス・増 ス ﹂ 伺使役性他動調﹁言ワス・立タス﹂

ω

語幹末母音が︿

e

﹀﹁消ス・召ス﹂ 天草版伊曽保物語においても、﹁申す﹂は音便化していな い。この事に関して、次のような説がある。それは﹁タオ ス﹂が長音形にならず、﹁タオイテ﹂となることから分か るように、イ音便は長音の後には続かない傾向がある。 ﹁申す﹂の場合、この現象とは逆で[自 U 一 ] が 長 音 で あ るので、イ音便にはなりえない。なぜ﹁申す﹂が音使化し ないのかについては、かなり難しい問題を含んでいると思 われるので、ここではっきりとした結論は出す事はできな B U さらに音便を詳しく調べてみることにする。まず、イ音 便であるが、イ音便をしている語は表 4 のように異なり語 数九二語、延べ語数二二六語である。これを行別に分けて 示 す と 次 の よ う に な る 。 イ音便の語数 カ行 ガ行 サ行 計 異語数 40 5 46 92 延語数 111 14 101 226 表4 いま、その用例を示すと、次のよう に な る 。 サ 行 その時イソポ文字の謂れを読み顕い て 申 す は ︵ 一 九

l

一 八 ︶ いかにも打ち現われ喉笛を怒らかい て ︵ 九 九

l

一 一 一 ︶ 口を聞くと共に肉塊をば落いた。 ︵ 五

O

| 一 一

O

︶ 犬は眠りを覚いて忽ち狐に飛び掛っ て ︵ 七 七 | 一 一 ︶ 一38ー カ 行 喜 う で 道 を 歩 い た 。 ︵ 二 ニ | 六 ︶ シ ャ γ 卜 は 大 き に 驚 い て ︵ 一 八 | 六 ︶ か の 勅 使 と 連 れ て リ ヂ ャ の 国 へ 赴 い た 。 ︵ 一 一 九 | 一 四 ︶ 今 は 既 に 齢 も 傾 い て 、 歯 も 抜 け ︵ 八 五 | 一 一 一 一 ︶ ガ 行 口のあたりを嘆いでみれども︵七

O

| 二 四 ︶ ﹁汝に負せた小麦一石急いで返せ﹂と催促したれども︵四 四 | 一 七 ︶ イ音便はこのように、下接する語はその多くは﹁て・た﹂ であり、ガ行では連濁した語に続いて音便形を取っている ことが分かる。ここで注意しておくべきことは、前述した ようにイ音便では一例だけ﹁て・た﹂に続いていない﹁浮

(7)

く﹂が使用されていることである。日葡辞書には︿︿

a

c

・ 日 H m w﹀︵ウキ、夕、イタ︶と出ているようにイ音便形は ﹁ た ﹂ に 下 接 し て い る 。 ま た 、 用 例 に も ︿ の

0

8

8

8

4

Z

宮 0 ・︵心の浮いた人︶﹀と出ている。この事から、一般 的ではなくとも、口語ではこのような言い回しがあったの ではないかと考えられる。天草版平家物語では、サ行四段 活用を中心に音便形がなかった語、原形と音便形の両形か ら﹁て・た﹂に続く語があったようである。しかし、天草 版伊曽保物語においては﹁伏す﹂にイ音便の例が二例見ら れるだけで、その他に両形の例は見られない。ここで、イ 音便の中でもサ行四段活用について、その語幹末母音を分 析 し て み る こ と に す る 。 サ行四段イ音便語幹末母音別語数 イ 音 便 形 非 音 便 形 母 音 異 語 数 延 語 数 異 語 数 延 語 数 ー −a 28 57 12 30 ー −u 8 19 4 6 -e 1 1 -o 9 24 3 4 全体 46 101 19 40 表5 ﹁て・た﹂に続くサ行四段活用の語幹末母音、例えば、 ﹁ 顕 す ・ 流 す ﹂ は ︿

a v

、 ﹁ 隠 す ・ 許 す ﹂ は ︿ U ﹀ 、 ﹁ 落 す ・ 直す﹂は︿ O ﹀というように分けて、その母音と語数の関 係を表にまとめると上記のようになる。この表を見ると分 かるように、語幹末母音が広い母音である︿

a

﹀の語が圧 倒的に多い。これは語幹末母音が広い母音であるほど、音 便が起きやすいということと一致している。さらにその所 属語を母音別に分類して示すと次のようになる。 ︿ イ 音 便 形 の 語 幹 末 母 音 分 類 所 属 語 ﹀ 数字は延語数

l

a

の 語 あらわすっ己・いからかすこ︶・いたすさ乙・いだす ︵二︶・かやすこ︶・かわす︵二・けがすご︶・こころ ざすこ︶・さす︵五︶・さたいたすごてさます士乙・ っかわす︵二・さらす︵二・しやめんいたす︵こ・し んたいいたす︵ご・だす︵四︶・ただす︵こ・たぷらか すご︶・ながすご︶・にどらす︵一︶・はなすご己・は たす︵二︶・めしいだす︵こ・まわす︵二︶・もてなす 士 己 ・ も や す ︵ 一 ︶ ・ な す ︵ 一 一 ︶ ・ わ た す ︵ 四 ︶ 以上二八語

l

u

の 語 かくす︵一︶・ぞんじっくす︵ご・つくす︵五︶・つぶす ︵こ・とりはずす︵二︶・はずす︵四︶・ふす士己・ゆる す ︵ 二 ︶

(8)

以 上 八 語

l

e

の 語 ひ る が え す ︵ 一 ︶

l

o

の 語 おこす︵二︶・おとす︵三︶・おどす︵二・つかみころす ︵ご・っきおとす︵こ・なおす︵一︶・のこす

2

3

・ も どす︵一︶・ころすここ 以 上 九 語 語幹末が|

a

の﹁かやす﹂については﹁かえす﹂となって い る 例 も 見 ら れ る 。 ﹁ か や す ﹂ は イ 音 便 が 一 例 で あ り 、 ﹁ か えす﹂は未然形一、命令形一となっている。﹁返す﹂に二 つの形が用いられていることの意味として、以前は

e

と i の母音連続になる﹁カエイテ﹂を避けるため、﹁カヤス﹂ になっていたと考えられていた。しかし、室町時代に﹁カ エイテ﹂という形は用いられていたことから、これは理由 にはならない。柳田氏によると、これは語幹末母音が︿

e

﹀ であるからではなく、二音節動調であったためであると考 え ら れ て い る 。 そ し て 、

e

と i の母音連続を避ける傾向は 江戸時代に入ってからあらわれてくるようである。次に原 形の非音便形から﹁て・た﹂に続いた一九語を同じように 語幹末母音によって分類すると次のようになる。 以上一語

l

a

の 語 あらわすこ︶・いだすこ︶・だす

2

3

・ さ す ︵ 一

O

さらす︵二・ただす土乙・たぶらかすこ︶・っかわす ︵二・ながすっ一︶・なす︵六︶・にどらすこ︶・わたす ︵三︶以上二一語

l

u

の 語 かくす︵こ・ゆるす︵一︶・つくす︵ご・ふす︵三︶ 以 上 回 語 * ー

o

の 語 おとす士己・ころす︵二・なおす︵一︶ 以上三語 このように音使形の語と非音便形の語の語幹末母音を比 べてみると、語幹末母音が|

a

の語がイ音便形で異なり語 数二八、延べ語数五七、非音便形で異なり語数三一、延べ 語 数 三

O

というように最も数が多い。そして、やはり広い 母音である|

a

は音便化する傾向が強いことが分かる。次 い で | O が 多 く 音 便 化 し て お り 、 イ 音 便 形 で 異 な り 語 数 九 、 延べ語数ニ四、非音便形で異なり語数三、延べ語数回であ る 。

l

u

は、音便形八非音便形四で、延べ語数から見てみ ると、音便形一九、非音便形六となっている。これから見 ても、音便形の割合は高くなっている。|

e

は﹁ひるがえ す ﹂ の 音 便 形 一 語 一 回 だ け で 非 音 便 形 は 見 え な い 。 つ ま り 、 イ音便形において言える事は、広い母音である|

a

や | O 、 40一

(9)

− U では音便形が、多く用いられ、特に

l

e

は音便率が低 くなっている。そして、狭い母音である| i が語幹末母音 になっている語は用いられていないようである。 それでは、ヵ行ガ行の語幹末母音はどのようになってい るかを示すと次の表のようになる。カ行では| u の一七語 カ行ガ行イ音便 母 音 カ 行 ガ 行 -a 10 3 - 1 3 一 −u 17 1 - e 2 - o 8 1 全体 40 5 表6 がもっとも多く、﹁あるく︵一︶かたむく︵一︶﹂などの 音 便 形 が あ る 。

l

e

で は ﹁ ち だ め く ︵ 一 ︶ ま ね く ︵ 一 ︶ ﹂ の二語の音便形でーーでは J ﹁きく︵一六︶ひく︵一︶みき くごとに三語の音便形がある。また、ガ行では|−ーと |

e

の 語 は み ら れ ず 、

l

a

に ﹁ か ぐ ︵ 一 ︶ さ わ ぐ ︵ 一 一 一 ︶ い はぐ︵五︶﹂の三語の音便形がある。さらに| u で は ﹁ つ ぐ︵二︶﹂の一語が音便形で、

l

o

においては﹁いそぐ ︵ 三 ︶ ﹂ の 一 語 だ け で あ る 。 ︵ 数 字 は 延 べ 語 数 ︶ こ こ で カ 行 に注目してみると、天草版平家物語では、その一つである ﹁ 行 く ﹂ の 多 く は 促 音 便 だ が 、 四 例 は イ 音 便 に な っ て い る 。 このような傾向について天草版伊曽保物語ではどうなって いるかを見てみると、イ音便については﹁引いて﹂という 用例が見られるが、促音便については、﹁引く﹂の複合語 である﹁引き掛くる﹂において、促音便が﹁引っ掛くる﹂ の一例だけが使われている。しかし、これは複合語である ため、促音便からは除くことにする。つまり、天草版平家 物語のような傾向はここでは見られないということになる。 イ音便ここでかの番のこめに引いて︵

E

g

︶ 行った犬どもが思うやうは︵九七|一一︶ 何と取り外いたか角を茂りに引っ掛けて、︵

m o

g

ρ

2

0

︶ 抜 き 差 し も 叶 わ い で ︵ 六 一 一 | 一 一 一 一 一 ︶ つづいてウ音便を見ていくことにする。ウ音便の行別語 数 を 表 に 示 す と 次 の よ う に な る 。 ウ音便の行別語数 ハ 行 マ 行 パ 行 言十 異 語 数 35 13 5 53 延 語 数 208 24 23 255 ウ音便では、ハ行・マ行・パ行の 連用形が﹁て・た﹂に続く時、音便 化 し て い る 。 そ の 用 例 を 次 に 一 示 す 。 ハ行その時争うた人は間訊して ︵ 一 八 | 二

O

︶ 表7 後を慕うて行く程に ︵ 八 二

i

一 五 ︶ 案じ煩うて居らるる体を ︵ ニ 六 | 四 ︶

(10)

シ ャ

γ

ト 怪 し う で 言 わ る る は ︵ 一 三 | 一 七 ︶ 七 つ の 文 字 を 刻 う だ 。 ︵ 一 九

l

四 ︶ 親 類 を 頼 う で ︵ 二 四 | 六 ︶ か の 島 を 出 る に 臨 う で ︵ 四 一 ! 一 一 一 ︶ ハ行では﹁て・た﹂に下接した形になっているが、マ行 では、﹁て・た﹂が﹁で・だ﹂と連濁した形で用いられて い る 。 パ 戸 行 r IT 或る時イソポが主人旅をせらるるに及うで ︵ 一 二

l

一 四 ︶ ま だ 糞 土 を 運 う だ 事 は 無 い 。 ︵ 六

O

l

一 一 一 ︶ 犬を呼うで︵二三 l l 三 ︶ パ 行 に お い て も マ 行 と 同 様 に ﹁ で ・ だ ﹂ と 連 潤 し て い る 。 ここで改めて表を見てみると、天草版伊曽保物語のウ音便 の 異 な り 語 数 は 五 三 語 、 延 べ 語 数 は 二 五 五 語 で あ る 。 い ま 、 行別語数を見るとハ行の異なり語数は三五語、延べ語数が

O

八語とあり、圧倒的に多い。さらに、語幹末母音を調 べてみると、表 8 の よ う に な る 。 この表を見ると分かるように、ハ行において

la

の 数 が 最 も多く、次いで| O で あ る 。 ま た 、 パ 行 に 一 語 あ る ほ か は 、 ハ行とマ行のどちらにも

i

e

の 語 は 使 わ れ て い な い 。 ウ音便語幹末母音表 母 音 ハ 行 マ 行 パ 行 -a 24 6 - 1 1 3 - u 1 1 -e 1 - o 9 3 4 全体 35 13 5 表8 さらに母音別に詳しく見てみることにする。ー

a

の ウ 音 便 の 用 例 を 示 す 。 大 き に 笑 う た 。 ︵ ︿ 向 。

E

︶ ︵ 一 五 | 一 一 ︶ その時鳥類度々利を失うて︵

a z

g

︶ ︵ 六

O

| 一 一

O

︶ 蝉 が 来 て こ れ を 貰 う た 。 ︵ 目 。 包

g

︶ ︵ 六 五 | 一 四 ︶ 七 つ の 文 字 を 刻 う だ o Z W A 位 。 ︶ ︵ 一 九

l

四 ︶ こ の よ う に

l

a

のウ音便の︿ O ﹀は開音になっており、長 音 で 表 さ れ て い る 。 ま た 、

l

o

の ウ 音 便 を 見 る と 、 請け負うた︵

s s

r

白︶事必定ぢや︵四五|二 ﹁ ゃ あ 貴 所 は 約 束 を 忘 れ た か ﹂ と 問 う た れ ば ︵

H

E

向 。

E

︶ の よ う に ︿ O ﹀は合音であり、やはり長音になっている。 次に| u の ハ 行 ウ 音 便 で あ る が 、 ﹁ 食 う ︵ く う ︶ ﹂ の 一 語 一 回 の み で あ る 。

(11)

-42-いざこの柿を両人して取り食うて︵

g

乱 。 旨 0 ︶ 一 一 ︶ こ こ で は

l

u

は長音で表されている。パ行については、

l

e

の 一 語 は 、 次 の よ う に 出 て い る 。 大音を揚げて、喚き叫うで︵凹

2

8

e

︶戦うによって ︵ 九 九 | 一 一 一 一 ︶ こ の よ う に

l

e

で ︿ O ﹀は合音になっている。さらにマ行 の語幹末母音

I

i

の三語は﹁あやしむ・かなしむ・くるし む﹂となっている。その用例を示す。 我が業ばかりで苦しうでな同日

E

O

︶ ︵ 七 一 二 ll 四 ︶ こ の よ う に

l

u

は 長 音 で 表 さ れ て い る 。 つ ま り 、

l

a

の ウ 音便における︿ O ﹀は開音となり、− O のウ音便における ︿ O ﹀ は 合 音 と な る 。

l

e

のウ音便は︿ U ﹀で表され、長 音 に な る 。 そ し て 、

li

のウ音便も︿ U ﹀で表され、長音 ︵ 一

o

ー に な る 。 音便形は﹁て・た﹂に続く形がほとんどであるが、その 例外として

l

u

の﹁沈む﹂が用いられていることは先に述 べたとおりである。しかし、日葡辞書にはこのような表記 は 見 ら れ な い 。 浮 い つ 沈 う づ ︵ 凶 仲 間 ふ NNd ︶ す る と こ ろ に ︵ 四 二 | 一 八 ︶ ﹁つ﹂に続く音便形の例は、天草版平家物語にも用いられ て い る 。 泣いつわらうっせられた︵三二四

l

O

︶ 大塚光信氏の﹃キリシタソ版﹁エソポのハプラス﹂私注﹄ によると、パ行・マ行の語で、その b ・

m

の直前の母音が ︿

a

o

e

・ − 1 ﹀の場合、ウ長音便になるとある。 例 タノミタ←タノウダ サケピタ←サケウダ アヤシミタ←アヤシウダ u の場合はヌスミタ←ヌスシダのように接音便に なる。しかし、大塚氏は﹁パ四マ四の音便形﹂︵﹁国語国 文﹂第二十四巻︶において、語幹の音節数の多いものは例 外的にウ音便になり得ると述べている。 ﹁ 沈 む ﹂ を こ の 例 外 に 入 れ て よ い か 、 問 題 が 残 る 。 続いて、促音便について考察していくことにする。ここ で﹁持ツ﹂の例を挙げてみる。八日 O H ︵ 日 ︶ 宮 ﹀ で 分 か る よ う に、狭い母音である︿ i ﹀が広い母音である︿ O ﹀と︿

e

﹀ に 挟 ま れ て い る の で 、 ︿ i ﹀は発音しにくくなり、脱落が 生じる。この︿ i ﹀の脱落が生じやすい条件をまとめてみ さ ら に 、 る と 、

ω

前後の子音が同一の破裂音︵﹁持ツ﹂では

t

l

t

ωt

n

に 転 じ や す い r

ω

それだけで独立できる m ・

n

︵ こ の 場 合 母 音 は 広 く な く て も よ い 。 ︶

(12)

子音の連続を許さない日本語の中で、同一破裂音の連続が 許されたのは、閉鎖したまま一拍休み、破裂させることで 促音便化するようになっているようである。促音便におい ては、タ行・ラ行四段が﹁て・た﹂に続く場合とカ行四段 ﹁行く﹂の一語だけが﹁て・た﹂に続いて促音便化してい る。行と語数を示すと次のようになる。

l

J

叶﹂ラ行四段からの促音便がもっとも多

H H け 一 Q d 胃 i 圃

i

一 5 一く、四段活用の異なり語数九一八語 撒一行一回お一に対して、ラ行の九三語は一

0

・ 一 長一ラ一 4

ゎ ﹃ ﹂ 川 斗 111114%である。また延べ語数で見ると四 働一行一 4 1 一 音一タ一 6 一 段 活 用 の 三

O

二一語に対して、ラ行 促一行一

1

m

一は四三六語で一回・四%である o 以

J 1

1 ι

下 例 を 示 す 。 喜 一 一 数 数 一 一 一 語 語 一 結 句 大 き に 噸 っ て 先 に 行 っ た れ ば

l

l

l

陣﹂︵八

O

i

一 一 ︶ 狼やがてこの計略を悟って︵五

O

l

一 一 ︶ 掘って見るに、文字の如く、過分の黄金が見えた。︵一 九 | 一 一 一 一 ︶ ラ行の﹁あり﹂の促音便は天草版平家物語では﹁て・た﹂ の他に、助動詞﹁つ﹂に続いた﹁あっつ﹂の例があるが、 天草版伊曽保物語において、﹁あり﹂はすべて﹁て・た﹂ に 続 い て 促 音 便 に な っ て い る 。 シ ャ シ ト と い う 学 匠 が あ っ た が ︵ 一 一 一 一 | 一 一 ︶ ﹁ さ ら ば 答 え い ﹂ と あ っ て ︵ 一 五

l

八 ︶ 我が侭であったれども︵四七

l

一 四 ︶ 計 ら れ ぬ 事 で あ っ た 。 ︵ 五

OO

| 一

O

︶ タ行四段活用の促音便は三語あり、そのうちの﹁持つ﹂は 五三回使われているが、三八回は﹁以て﹂の形で用いられ て い る 。 こ こ に 持 っ て 参 っ た と 言 う て ︵ 三 二 | 一 一 ︶ 石 を 持 っ た も 同 前 ぢ ゃ 。 ︵ 七 九 | 一 一 ︶ タ行にはこの他に﹁打つ・立つ﹂が用いられている。 犬は打っても叩いても︵三ニ e e l − 九 ︶ 忽ちそこを立って去んだと申す。︵六九|二三 次 に カ 行 で あ る が 、 カ 行 は そ の 多 く は イ 音 便 に な っ て い る 。 し か し 、 ﹁ 行 く ﹂ に は 促 音 便 の 形 が い く つ か 見 ら れ る 。 ﹁ ゃ あ し た り や ﹂ と 噸 っ て 行 っ た 。 ︵

1

g

︶ ︵ 五 九 | 一 六 ︶ 先に行ったれば︵

1 S

B σ

白 ︶ ︵ 八

O

| 一 一 ︶ 獅子王の所に行って︵

15

︶ ︵ 八 四 | 四 ︶ さらに、この﹁行く﹂のイ音便の例も示す。 今二人を買い添えてサモと言う所へ行いた。 ︵ 判 巳

E

︶ ︵ 一 一 一 一 ー ー 一

O

︶ 近 い 里 に 行 い て ︵ ヨ 号 。 ︶ ︵ 六 六 | 一 一 一 ︶ このように﹁行く﹂において、イ音便の場合は

J

Z

3

44

(13)

︵ 行 い て ︶ の 形 に な っ て お り 、 促 音 便 の 場 合 は

R

1

S

3

︵ 行 っ て︶の形になっている。また、﹁行く﹂には﹁いて﹂の形 が 2 例 用 い ら れ て い る 。 これはいづれも賞翫の物ぢゃ程に、持って行て ︵

1

0

いつもの如く行て︵

3

0

見 れ ば ︵ 七 八 | 一 一 一 ︶ つまり、﹁行く﹂には﹁ゆいた・ゆいて﹂﹁いった・いっ て﹂﹁いて﹂の三つの形があったということになる。日葡 辞書には︿

E

F

R

も︵いき・いく・いた︶の形と︿ペ己 ρ ゲ

ρ

F

官。︵ゆき・ゆく・ゆいた︶の両形が示されている。 また、﹁いって﹂の促音脱落形である﹁いて﹂は﹁いい て﹂の短音化したものと思われる。﹁いいて﹂は﹁行く﹂ のイ音便であり、ここでは同一母音の連続を生じている。 こ れ と 同 じ よ う な 事 が 起 こ る ﹁ 生 く ﹂ が 四 段 活 用 で は な く 、 音便を起こしにくい上二段活用に転じていることを考えあ わせてみても、これらの形は具合が悪いものであることが 分かる。しかし、﹁行く﹂が具合が悪くなるにもかかわら ず、四段活用から上二段活用へ転じることが出来なかった のは﹁ユク﹂という形を持っていたためであり、それ故に 促 音 便 化 し た と い え る 。 ハ行四段の音便形はウ音便が多く、異なり語数三五語、 延 べ 語 数 二

O

八語であることは先に述べた。天草版平家物 語においてもハ行四段の音便形はウ音便が殆どであるが、 ﹁言ふ・従ふ・向かふ﹂の三語にウ音便と促音便が重なる 形がある。天草版伊曽保物語では﹁追ふ﹂が﹁追っ掛け﹂ という複合語で接音便化している。しかし、複合語は音便 形としては除外するため、天草版伊曽保物語ではハ行四段 活用において、重なる形は見られないということになる。 接音便はパ行・マ行四段活用が﹁て・た﹂に連なって用 いられている。その語数を示すと次のようになる。マ行四 段から接音便している形がもっとも多く、﹁歩む・生む・ 混む・沈む・済む・工む・謹しむ・積む・盗む・臨む・含 む・踏む・休む﹂の一三語である。そのうちの二語、﹁沈 む・臨む﹂は接音便とウ音便の両形を持ち、その他は接音 便だけが用いられている。その二語の接音便とウ音便の語 数 を 示 す 。 按音便の語数 パ 行 マ 行 計 異 語 数 3 13 16 延 語 数 4 36 40 表10 援音便・ウ音便の両形を 持つ語 沈 む 臨 む 被 音 便 1 1 ウ 音 使 1 4 表11

(14)

両 方 の 用 例 を 示 す と 、 次 の よ う に な る 。 接音便不断常住酒に酔い沈んで ︵ 対 O W H N N ロ足。︶︵九六|七︶ ウ音便互いに浮いっ、沈うづ︵岡山 N N U N N 戸 ︶ す る と こ ろ に ︵ 四 二 | 一 八 ︶ 接音便忽ち打榔しようとするに臨んで︵ロ O N O 。 ︶ ︵ 一 一

l

一 一 一 ︶ ウ音便かの島を出るに臨うで︵ロ ONEO ︶ ︵ 四 一 b t l − 一 一 一 ︶ 狼 餓 に 臨 う で ︵ ロ 自 主 O ︶そこへ来て言うは ︵ 六 六

l

五 ︶ 大 事 に 臨 う で ︵ ロ O N

O ︶見放さうずる者と知音す な ︵ 七 一 o l − − 六 ︶ 成敗の場に引かるるに臨うで ZONEO ︶ ︵ 七 五 | 一 九 ︶ 用例を比べてみると、用法の違いはないようだが、マ行四 段 活 用 の 音 便 形 を 取 っ て い る 語 を 示 し て み る 。 ※ウ音便数字は延べ語数。 怪しむご︶・掻摘むこ︶・悲しむ︵二︶・刻むこ︶・ 舷むこ︶・苦しむ︵三︶・沈む二︶・頼む︵四︶・掴む ︵三︶・臨む︵四︶・飲むこ︶・鉄むこ︶・苧む︵ご 以上二ニ語二四回 ※接音便数字は延べ語数。 歩むつ一︶・生むつ一︶・扱むこ︶・沈むこ︶・済む ︵ ご ・ 工 む ︵ 四 ︶ ・ 謹 む ︵ 四 ︶ ・ 積 む つ 一 ︶ ・ 盗 む ︵ 六 ︶ ・ 臨む︵こ・含む︵一

07

踏むこ︶・休む︵ご 一 三 語 三 六 回 また、日葡辞書と比較してみると、接音便をしている語 は、﹁謹しむ・積む・盗む・含む・踏む・休む﹂の六語だ け で あ る 。 ウ音便は異なり語数二ニ語、延べ語数二四語であり、接 音 便 は 異 な り 語 数 二 ニ 語 、 延 べ 語 数 一 ニ 六 語 と な っ て い る 。 さ ら に 語 数 だ け の 表 に し て 示 す と 次 の よ う に な る 。 以 上 マ行田段活用音便形の語幹末母音別語数 単 語 母音 ウ音使 按音便 単 翠阿 同 母音 ウ音使 援音便 怪 し む 1 1 掴 む a 3 生 む u 2 護しむ 1 4 歩 む u 2 積 む u 2 掻 摘 む a 1 盗 む u 6 悲 し む I 2 臨 む

4 1 設 む u 1 合 む u 10 亥1 む a 1 踏 む u 1 舷 む a 1 飲 む

1 苦 し む 1 3 欽 む a 1 沈 む u 1 1 字 む a 1 済 む u 1 休 む u 1 工 む u 4 頼 む

4 -46-表12

(15)

マ行四段活用の語幹末母音別語数 ウ 音 便 援 音 使 母 音 異語数 延語数 異語数 延語数 -a 6 8 - 1 3 6 1 4 一 −u 1 1 11 31 -e -o 3 9 1 1 全 体 13 24 13 36 表13 すでに、ウ音便 の 項 目 で 触 れ て い る が 、 パ 行 マ 行 の 四段活用の麟音便 と ウ 音 便 に つ い て 、 大 塚 光 信 氏 は ﹁ パ 四 マ 四 の 音 便 形 ﹂ ︵ ﹁ 国 語 国 文 第 二 十 四 巻 第 三 号 ﹂ ︶ で次のような法則 を 示 し て い る 。 凶語幹末がウ列 音なる時|撰音便 国語幹末がアエイオ列音なる時|ウ音便 の二法則が存在していた。しかし、その聞に︵

a

﹀語幹 一 音 節

l

特に母音音節である場合ーはそれぞれの原則よ りはずれ、接音便となるとともある。︿ b ﹀前項により 語幹末ウ列音語でウ音便となるものはほとんど語幹二音 節 以 上 の 語 で あ る 。 の二傾向も存し、それは抄物よりキリシタ

γ

物において 著 し か っ た 。 この事について、天草版伊曽保物語ではどのようになって い る か を さ ら に 詳 し く 考 察 し て み る 。 マ行四段活用のうち、音便形を持つ語とその語幹末母音 を 示 す と 表 ロ の よ う に な る 。 凶の﹁語幹末母音がウ 列 音 の 時 は 、 接 音 便 ﹂ で あ る が 、

l

u

に お け る接音便の異なり語数 は一一語、延べ語数は 三 一 一 語 に な っ て い る 。 一 方 、 ウ 音 便 は 異 な り 語 数 一 語 、 延 べ 語 数 一 語と完全に法則の通り ではない。これは、ウ 音便の項目でも挙げた ﹁ 沈 む ﹂ で あ る 。 ま た 、 国の﹁語幹末がアエイ オ列音になる時、ウ音便﹂は

l

a

に関しては、法則の通り であるが、! i と

l

o

においては必ずしもそうなってはい な い 。 ま ず 、 | − ー で は ウ 音 便 は 、 延 べ 語 数 六 語 で ﹁ 怪 し む ・ 悲しむ・苦しむ﹂の三語である。また、楼音便は、延べ語 数回語で﹁謹しむ﹂の一語だけである。つまり、語幹末が

l

i

でありながら、﹁謹しむ﹂は接音便になっている。そ の 用 例 を 挙 げ る 。 吃 り 吃 り 謹 ん で 申 す は ︵ 一 一

l

一 三 ︶ そ の 時 イ ソ ポ 叡 慮 を 察 し て 謹 ん で ︵ 二 九 ! 一 一 一 ︶ 鼠 も そ こ で 大 き に 肝 を 消 し 、 謹 ん で 申 し た は ︵ 五 二 | 三 ︶ パ行四段活用音便形の語幹末母音別語数 単 語 母 音 ウ 音 便 畿 音 便 及 ぴ

12 叫 ぶ e 1 飛 ぷ

2 眺 ぶ

1 運 ぷ

1 結 ぶ u 1 呼 ぷ

3 喜 ぷ

6 表14

(16)

狐謹んで︵五

O

l

一 六 ︶ 次に| O であるが、ウ音便は﹁頼む・臨む・飲む﹂の三語 で、延べ語数九語になっている。また、接音便は﹁臨む﹂ の一語である。この﹁臨む﹂はウ音便の項目で挙げたよう に、﹁沈む﹂とともにウ音便と接音便の両形を持つ語であ

忽 ち 打 損 し よ う と す る に 臨 ん で ︵ 一 一 | 一 一 一 ︶ 語幹一音節語は接音便になると大塚氏は述べているが、 ﹁つつしむ﹂﹁のぞむ﹂はこの説から外れている。大塚氏 によると、パ行四段活用のウ音便と接音便においても同様 のことが言えるはずである。パ行四段活用のウ音便と接音 便の語幹末母音別の語数を示すと、表のようになる。 表を見ると、− U の ﹁ 結 ぶ ﹂ の 接 音 便 と

i

e

の﹁叫ぶ﹂のウ音便 は大塚氏の説から外れ ていない。ー

o

に お い ても﹁及ぶ・運ぶ・呼 ぶ・喜ぶ﹂の四語で延 べ語数二二語のウ音便 となっており、外れて し か し 、 ﹁ 飛 パ行四段活用の語幹末母音別語数 ウ 音 使 按 音 便 母音 異語数 延語数 異語数 延語数 -a - 1 - u 1 1 -e 1 1 -o 4 22 2 3 合計 5 23 3 4 表15

F L h

O L W A す ん l v ぶ・跳ぶ﹂の二語、延べ語数三語が接音便となっている。 そ の 用 例 を 示 す 。 羊の皮の上に飛んで来たによって︵九

O

i

七 ︶ 狐 跳 ん で 井 桁 の 中 に 跳 び 上 っ て ︵ 九 一 ー ー 二 ﹁飛んで﹂が二回、﹁跳んで﹂が一回用いられており、い ずれも語幹が一音節語であるから、大塚氏の説を外れては p i h

O B V ゅ ん t v 参考文献 ﹁ 天 草 版 伊 曽 保 物 語 ﹂ 章 風 間 出 版 昭和三九・二・二五 ﹁天草版平家物語対照本文及び総索引﹂江口 明治書院 井 上 48-正 弘 昭和六一・一一・ニ

O

東京堂出版 昭和五五・九・三

O

﹁キリシタン版﹃エソポのハプラス﹄私注﹂大塚光信 臨川書店 ﹁ 国 語 学 大 辞 典 ﹂ 国語学会編 ﹁ 日 本 古 典 全 集 源 一 校 注 昭 和 五 八 ・ 一 二 ・ 一

O

下 ﹂ 吉利支丹文学集 新 村 出 格 ﹁ 室 町 時 代 の 圏 諸 巴 朝日新聞社 柳 田 征 司 昭和田ニ・ニ・二八 東京堂出版

(17)

﹁ 日 本 古 典 文 学 大 系 森 田 武 校 注 昭 和 六

0

・ 九 ・ 二 五 仮名草子集﹂前回金五郎・ ﹁ 国 語 史 辞 典 ﹂ 東京堂出版 林 岩波書店 巨樹・池上 昭 和 四

0

・ 五 ・ 六 秋 彦 編 ﹁ パ 四 マ 四 の 音 便 形 ﹂ 四巻第三号 大 塚 昭和五四・九・二五 光 信 国 語 国 文 第 二 十 ﹁ 国 語 史 の 諸 問 題 ﹂ 漬 田 昭 和 三

0

和泉書院 昭和六一・五・二二 忠 生 ・ 森 田 武 ・ 長 南 実 敦 ﹁邦訳日葡辞典﹂土井 編 訳 岩 波 書 院 昭和五五・五・二九 ﹁天草版平家物語の動調の音使形について﹂江口正弘 熊本女子大学学術紀要別刷第二十四巻

参照

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