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藤原京出土ガラス坩堝の 化学的特徴

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Academic year: 2021

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奈文研紀要 2016

1 はじめに

 藤原京右京一条二坊東北坪(飛鳥藤原第64次)から出土 した坩堝片に、ガラス質が残存していたため、坩堝胎土 とあわせて分析をおこなった。その結果、坩堝に付着し たガラス質は鉛ガラスであり、鉛同位体比分析によって 国産鉛を原料としていたことがあきらかとなった。また それらの値は、奈良時代の緑釉や青銅製品の集中領域と 重なることから、所謂「奈良時代の鉛」を使用したガラ ス生産が、7世紀後半から8世紀初頭にまで遡る一例と なる。

2 分析資料

 今回分析をおこなった資料は、1990年におこなわれた 飛鳥藤原第64次調査(『藤原概報 22』)で出土した3点の ガラス坩堝片である(図32)。

資料1  坩堝の胴部片である。胎土は2㎜以下の砂 粒を多く含み、器壁・外面は灰白色を呈する。内面に は灰白色の銀化したガラス質が付着している。釉層は 3点のなかではもっとも厚く残存している。残存長5.5

㎝、残存幅4.9㎝、厚さ1.1㎝、重さは26.0gである。土 坑SK7186から出土し、飛鳥Ⅴの土器と共伴する。

資料2  坩堝の胴部片である。胎土は2㎜以下の砂粒 をまばらに含み、器壁・外面は灰白色を呈する。内面に 緑黄色の失透したガラス質が付着し、釉層は中央部で帯 状に厚く残存する。坩堝外面に格子文叩きがかすかに残 る。残存長4.4㎝、残存幅3.7㎝、厚さ1.1㎝、重さ17.8g である。資料1と同じく土坑SK7186から出土した。

資料3  坩堝の胴部片である。胎土は2㎜以下の砂粒 を多く含み、器壁・外面は灰白色を呈する。内面に緑色 のガラス質が付着している。残存長5.3㎝、残存幅3.8㎝、

厚さ1.2㎝、重さ23.2gである。井戸SE7165から出土し、

飛鳥Ⅳの土器と共伴する。  (諫早直人)

 これらの資料は、透過X線撮影、顕微鏡観察をおこ なった後に、釉薬は蛍光X線分析および鉛同位体比分 析、胎土は蛍光X線分析およびX線回折分析を実施し た。

3 分析方法

  蛍 光 X 線 分 析 は、EAGLEⅢ(EDAX製 )を 使 用 し、

測定条件は管電圧20kV、管電流200μA、X線照射径50

㎛、測定時間300秒、真空雰囲気中である。定量分析は 標準試料10点を使用し、検出元素の各酸化物の合計が 100wt%になるよう規格化しFP法により定量値を求め た。表面風化層を含んだ測定のため風化の影響による組 成の変動は大きいものと考える。鉛同位体比分析は、釉 層を約1㎜×1㎜採取し分析に供した。鉛の分離は高周 波加熱分離法によりおこなった 1)。分析装置は表面電離 型質量分析装置Finnigan MAT-262を使用し、同一条件 で測定した標準試料(NIST SRM-981)のデータを用いて 質量分別効果の補正をおこなった。C領域などの範囲 は、あくまで数値を読み取る際の目安であり、すべてが この範囲に存在することを意味するものではない。X線 回折分析は、MiniFlexⅡ(リガク製)を使用し、測定条 件は管電圧30kV、管電流15mA、Cuターゲット、走査速

藤原京出土ガラス坩堝の 化学的特徴

図₃₂ 第₆₄次調査出土ガラス坩堝 1:2 ガラス光沢

1

3 2

0 5㎝

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37

Ⅰ 研究報告

度は毎分0.6°、ステップ幅0.01°、モノクロメータ使用で ある。測定は坩堝器壁の内面と外面の2ヵ所から胎土資 料を採取して実施した。

4 分析結果

 蛍光X線分析結果を表9に示す。資料はすべて鉛ガラ スといえ、PbOは44~50wt%であり飛鳥池遺跡出坩堝 2)

の67~74wt%と比較するとやや少ない傾向を示した。色 調はCuOを0.1~0.3wt%、Fe2O3を0.3~0.5wt%検出して いるため、淡緑色もしくは淡黄緑色と想定される。各坩 堝の化学組成には顕著な差異は認められない。坩堝胎土 のX線回折測定から推定される焼成温度は、器壁外面で はすべての資料から石英・ムライト・長石類を検出した ため、約1,000~1,100℃と考えられる。しかし坩堝自体 の焼成時と坩堝として使用した時の焼成温度の区別はで きず、より高いほうの温度履歴が残るため、この温度が ガラス溶融時のものかはあきらかではない。鉛同位体比 分析結果を表10に、さらにa式図を図33に示す。すべて C領域内に分布し、国産鉛と推定される鉛原料が使用 されているといえる。参考に飛鳥池遺跡出土坩堝の値 3)

もプロットした。今回は、奈良時代の緑釉や青銅製品の 値が集中する領域Ⅰ(点線)内に分布し、値も比較的ま とまる傾向を示した。

5 まとめ

 藤原京右京一条二坊東北坪出土坩堝破片は、鉛ガラス 生産に用いられた坩堝と考えられる。風化によりガラス 光沢を有する部分は少ないが、化学組成や鉛同位体比が 近似することから、同じ地域から産出された鉛原料を用 いて、同じ種類のガラスを溶融した可能性がある。また 胎土分析からは、坩堝自体の焼成温度ないし坩堝の使用 時の温度が、約1,000~1,100℃であったことを推定した。

飛鳥池遺跡出土坩堝から検出されているクリストバライ ト 3)が、今回は器壁外面・内面ともに検出されなかっ たことから、飛鳥池遺跡出土坩堝ほどの高温には達しな

かったといえる 2)。このため飛鳥池遺跡のように鉱石か ら直接ガラスを生産していたかどうかはあきらかではな い。調査区周辺ではガラス坩堝のほかに鞴羽口や砥石、

鉄滓などが出土し、付近に工房関係の施設の存在が想定 されている。共伴土器からみて、「奈良時代の鉛」とい われる国産鉛原料による鉛ガラス生産の開始時期は7世 紀後半~8世紀初頭にまで遡るのであろう。本稿がガラ ス溶融技術、および鉛ガラス原材料をあきらかにしてい く一助になれば幸いである。  (降幡順子)

謝辞

鉛同位体比分析に際しては国立歴史民俗博物館齋藤努教授に ご協力を頂きました。心より感謝致します。

1) 齋藤努「日本の銭貨の鉛同位体比分析」『国立歴史民俗博 物館研究報告第86集』65-129頁、1991。

2) 肥塚隆保「古代珪酸塩ガラスの研究―弥生〜奈良時代の ガラス材質の変遷―」『文化財論叢 Ⅱ』同朋社、929-967頁、

1995。

3) 肥塚隆保・平尾良光・川越俊一・西口寿生「鉛ガラスの 研究―飛鳥池遺跡出土遺物からの検討―」『日本文化財科 学会第10回大会研究発表要旨集』、100-101頁、1993。

表9 ガラス質部分の蛍光X線分析結果(wt%,nd;検出限界以下)

表₁₀ 鉛同位体比分析結果

資料 ID 番号207Pb/206Pb208Pb/206Pb206Pb/204Pb207Pb/204Pb208Pb/204Pb

1 25947 0.8475 2.0909 18.412 15.603 38.498

2 25948 0.8472 2.0901 18.406 15.594 38.468

3 25949 0.8474 2.0907 18.411 15.602 38.493

資料 ID 番号 SiO2 PbO Al2O3 Na2O K2O MgO CaO TiO2 Fe2O3 CuO

1 25947 48.2 49.5 1.1 0.33 0.06 0.11 0.21 tr 0.29 0.27

2 25948 50.4 44.1 3.3 0.29 0.10 0.27 0.99 0.06 0.39 0.13

3 25949 45.9 49.5 2.9 0.34 0.13 0.30 0.27 0.05 0.47 0.25

図₃₃ 鉛同位体比分析結果(a式図)

2.070 2.075 2.080 2.085 2.090 2.095 2.100 2.105 2.110 2.115 2.120

0.840 0.842 0.844 0.846 0.848 0.850 0.852 0.854 0.856 藤原京坩堝 飛鳥池遺跡 D

B

C

(a式図)

208Pb/206Pb

207Pb/206Pb

参照

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