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2017年度過労死防止啓発講演会
日時:2017年12月1日(金) 18:30~20:00 会場:立教大学 池袋キャンパス 8号館 8201教室 新座キャンパス 8号館 N8B1教室
(池袋と新座の同時中継)
『働きすぎ社会から身を守る!
~長時間労働・パワハラの実態と対応~』
講師 玉木 一成 氏(東京駿河台法律事務所・弁護士、
過労死弁護団全国連絡会議 事務局長)
木谷 晋輔 氏(東京過労死を考える家族の会)
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○玉木 皆さん、こんばんは。ただ今ご紹介いただきました、弁護士の玉木と申します。
今日は、「働き過ぎ社会から身を守る―長時間労働・パワハラの実態と対応―」ということ でお話をさせていただきます。
3年前に過労死等防止対策推進法という 法律ができました。その中で、過労死を防止 する責務が国にあるということが定められ て、幾つかの対策を行っています。調査研究、
啓発、相談体制の整備、民間団体の活動に対 する支援の事業をすることになっているの です。今日のこの講演会はその中の1つ、過 労死防止の啓発ということで、大学や高校な どで過労死防止の趣旨や実態、内容について お話しするという、厚生労働省の事業として
行っています。今年はこの講演会の開催を200校を目標にしています。
今日はドイツから取材の方も来ていますが、日本の過労死問題は一昨年ぐらいから、非 常に多く取り上げられています。電通の高橋まつりさんという女性の方も亡くなられてい ますし、最近では、オリンピックに向けて国立競技場を建設されていた新入社員の方が、
長時間労働の末、自死されました。それからNHKの記者の方の過労死も最近報道されていま す。ということで、過労死問題が非常に大きく扱われていて、一方で、日本の働き方改革 という点からも話題になっています。
【長年にわたり過労死問題に取り組む中、今、改めて思うこと】
過労死問題については、私どもは1988年に「過労死110番」という電話相談を始めました。
そのころから社会問題として色々なところで取り上げられましたので、今、日本の中で「過 労死」という言葉を知らない方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。それか ら、これは大変残念なことですが、「過労死」という言葉は、世界中でそのまま通じる日本 語として行き渡ってしまいました。過労死問題はなかなか改善されないまま、もう30年近 くが経っています。実は改善されないどころではなくこの問題に取り組んでいる者として は、実態はどんどん悪くなっているのではないかと考えています。
私は、弁護士になって今年で33年目ですが、そのうち30年間は過労死の問題にずっと取 り組んできています。なぜ過労死の問題に取り組んでいこうと考えたかというと、労働基 準法とか労働安全衛生法という法律が、なかなか会社の中、労働者の労働実態の中に入っ ていかないということがありました。昔、憲法は会社の工場の前で立ち止まるといって、
中に入っていけないと言われたのですが、労働関係の法律も会社で実際に働いている人の 中になかなか入っていけないわけです。それをどのようにしていったらいいだろうかとい うことで、30年近く前に、こういう長時間労働などを原因として亡くなる方たちの問題を 取り上げて、事実を解明して対策をとっていくことによって、働く人たちの労働条件や労 働環境がよくなっていくだろうという思いがありました。よくなっていくだろう、ではな くて、よくなっていかせようということでこの問題に取り組み始めました。
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しかし、30年間たって日本の労働者が置かれている労働環境というのは非常に悪くなっ ています。特に若い方たちが置かれている労働環境は、本当に悪くなっているのではない かと私は考えています。今、こういう過労死問題が若い人たちの間にたくさん起こってい て、防止のための対策が必要であるということで、今日の講演会をやらせていたただいて います。
【過労死の定義 -労災認定基準、改定される-】
最初に戻りまして、過労死という言葉を知らない方はなかなかいらっしゃらないですが、
では、過労死とはどういうことを指すのかというところをお話ししたいと思います。お配 りした資料に「『過労死等』とは」ということで、過労死等防止対策推進法という法律の中 に書かれている過労死の定義を載せています。法律用語ですので非常にわかりにくいので すが、そこに「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする 死亡、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又は脳血 管疾患、心臓疾患、精神障害をいう」とありますが、なぜこんな難しい定義が書いてある かというと、これは過労死として労災認定される際の言葉がそのまま引用されているため です。今から30年前に過労死という言葉で問題になったのは、脳の血管の病気と心臓の血 管の病気でした。脳で言えば脳出血、くも膜下出血など、脳の血管が破れて出血する病気。
それから、脳の血管が詰まる脳梗塞などいずれも血管の病気です。それから心臓に関して 言うと、心筋梗塞とか狭心症など、やはり心臓を取り巻く血管が詰まる病気のことを言っ ていました。
ところが、過労死が大きな問題になって、脳・心臓疾患の病気の方たちの労災認定が少 し拡大して認められるようになって、私たちのところに、精神疾患になって自殺した若い 青年の母親から、仕事が原因で精神疾患になって自殺までしたケースについて労災が認め られないのはおかしいじゃないか、脳・心臓疾患より、精神疾患になって自死したほうが、
よほど仕事との関係が強いんじゃないかという訴えがありました。
当初、私たちは、自殺は労災認定になりませんと回答していました。30年前までは本当 にそうだったのです。しかし、どうしても問題提起したいという遺族の思いがありました。
遺族は確信を持って、これは仕事が原因だということを訴えました。そんな中、最も大き な影響を与えたのが、1991年に亡くなられた電通の青年社員の方の事件でした。電通の過 労死問題というと、皆さんはつい最近の女性の労働者の事件をお考えかもしれませんが、
同じように長時間労働で精神疾患になって1991年自死をされた事件について、厚生労働省 がなかなか労災と認めないので、会社に損害賠償請求をしたという事件があります。当時 はまだ、仕事が原因の精神疾患はもちろん、自殺についても損害賠償請求が認められた例 はありませんでした。そういう中で、電通最高裁判決といって、これは法律を学ぶ、特に 労働関係の法律を学ぶ者にとっては、著明な判決でして、初めて自殺について損害賠償請 求を認める最高裁判決が出たのです。その判決では、非常に長時間労働であったり過酷な 労働をしていれば精神疾患になるというのは、もはや周知の事実である、だから、会社は、
そうならないように配慮しなくてはいけないということで精神疾患についても損害賠償請 求を認めたのです。25年、四半世紀以上たって、また同じような過労死が起きてしまった
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ということは非常に大きな問題があると思います。これについては後ほどお話しさせてい ただきます。
【過労死等防止対策白書 -脳・心臓疾患に係る労災請求件数と認定件数-】
では、過労死というものが、今どういう状況にあるかを見ていきたいと思います。厚生 労働省が作った「過労死白書」といわれているものです。過労死等防止対策推進法の中で、
1年間に1回、過労死防止の状況や対策について国会に報告をする文書のことで、政府の 刊行物を販売するところへ行くと、「過労死白書」として販売されています。ですので、こ れは法律に基づいた厚生労働省、政府としての報告の文書ということになります。
☞「平成29年版過労死等防止対策白書」
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/17/dl/17-1.pdf
さきほど、脳・心臓疾患のお話をしましたが、その推移の表をご覧ください。上の表は 請求件数で、下の表は認定件数です。下の表にピンク色の棒が立っていると思いますが、
青い棒は認定された数で、ピンク色のほうは認定された中で死亡した件数です。
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過労死と言うと、亡くなったケースばかりかと思われるかもしれませんが、脳・心臓疾 患でも、実際には死亡されたケースよりも、死亡されてはおらず、働けなくなってしまっ たような状況にある方たちがたくさんいらっしゃるということを表しています。この表の 一番左を見ていただくと、平成12年度は617件。その後、一番ピークが900件ぐらいで、昨 年度は825件ということで、ほぼ700から800という件数で推移しています。決して減っては いないんです。特にこの3年間を見ていただくと少しずつ増えています。
【精神疾患により働けなくなるケースが急増 -数字は氷山の一角か-】
これに対して、下の表は精神障害と自死の労災請求件数と認定の件数です。労災請求件 数の推移を見ていただくと、ものすごい勢いで増えていっているのがおわかりいただける と思います。平成 12 年度のころは 200 件だったものが、今、1,586 件請求がされています。
ここ1、2年、毎年 100 件ずつぐらいの割合で伸びています。認定件数もずっと右肩上が りに増えていて、最近では 498 件が労災認定されて、そのうち自死されたケースは 84 件で、
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約 400 件が精神疾患になって働けなくなった方たちが労災認定をされています。労災請求 の 1,500 件のうち、自殺をしたケースというのは 200 件くらいで、1,300 件は、精神疾患に なって働けなくなったケースということです。
年間1,300件ぐらいかと思われるかもしれませんが、精神疾患になって仕事ができなくな って会社を休み始めて、すぐに労災申請をするかというと、なかなか労災申請をされませ ん。なぜかというと、長時間労働で精神疾患になったとか、パワハラを受けて精神疾患に なったとしても、最初はやはり会社で働き続けたいという思いがあるからです。労災申請 するということは、長時間労働やパワハラなど、仕事に問題があるということを労働者自 身が労基署に訴えることですから、これは、会社の中で働く人たちにとっては、会社とは 非常にシビアな関係になるわけです。精神疾患で働けなくなって休み始めると、健康保険 の傷病手当というのが1年半の間、給料の約6割出るわけです。そういうものが出てまだ 生活していける間は、なかなか会社を訴えたり、労災申請しないわけです。では、実際は どういうときに労災申請しているかというと、そういう保証がなくなって、会社を退職さ せられるような状態になってきたり、傷病手当が出なくなると、生活の糧を得ることがで きなくなるので、そこで初めて労災申請をするという方が圧倒的に多いわけです。そうい う方が、実は年間1,500人近くいらっしゃるということですので、全くこれは氷山の一角で、
その下にはすごく多くの過労による精神疾患の方たちがいらっしゃると思います。ある統 計によれば、日本の労働者のうち10%近くがメンタルヘルスの不調を訴えているといわれ ています。
【20~30代の若年層の深刻な現状が浮き彫りに】
さらに特徴的なことは、脳・心臓疾患というと、脳出血とか脳梗塞、心筋梗塞などをイ メージされると思いますが、20代、30代で多い病気ではありません。初期には、過労死と いうのは中高年の問題だと言われてきました。しかし、私は、脳・心臓疾患でも20代、30 代の方で亡くなられたケースを事件として扱っていて、決して油断はできないと思ってい ます。例えば、20代で不整脈を発症するケースです。不整脈というのは、心臓が、普通は ドクドクドクと規則的に打っているものが、不規則な拍動となり、心臓から血液が行かな くなるというものです。それから、若い方では、くも膜下出血もあります。健康診断上は まったく異常が出ていないのに、極めて長時間の労働を続けていて亡くなるというケース も担当しましたので、その点からもあまり油断してはいけないのですが、やはり中高年に 比べると圧倒的に少ないです。
そこで、精神疾患の労災請求件数と認定件数を年齢層別にみてみると、20-29歳の20代は、
請求件数が昨年度で266件、それからそのうち認定件数が107件。30代ですと、請求件数が 408件で、認定件数が136件というような形で、40代、50代と同じくらいの割合で、20代、
30代で精神疾患になっていたり、自死したケースについて認定がされています。もともと 20代の死亡原因は自殺が一番多いわけですが、このように精神疾患になるケースについて は、20代、30代に非常に多くなっているというのが現状です。
ということで、若い方たちにとっては、過労死というのは中高年の問題だとお考えの方 もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ若い方たちの問題としても認識していただきたい
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ですし、自死にまで至らなくても精神疾患で働くことができなくなるケースも非常に多く なっているので、過労死は中高年の問題ではなくて、若い人を含む全体の問題だと考えて いただきたいと思います。
【まずは問題の事実を見極めること -抽象論や一般論では防げない過労死-】
これから、私が担当したワタミ過労自殺の件について、どういう実態があったかという ことをお話ししようと思います。なぜそういう実態をお話しするかというと、過労死をな くすのに、抽象的に、過労死は悪いから長時間労働をなくしましょう、パワハラをやめま しょうと言っても、簡単にはできないんですね。それができるのであれば、もう30年の間 にとっくにできています。やはり、過労死した事実を細かく調べて、どこの、どういうこ とが長時間労働やパワハラを招く原因になったのかということを考えていかないとなかな か防止はできません。
例えば、パワハラの問題にしても、パワハ ラをしてはいけないというのはわかるわけ ですが、では、なぜこんなにたくさん日本で パワハラが起きているのか。それは、やはり パワハラを起こす人たちにどういう問題が 生じているかということも考えなくてはい けないということです。パワハラをやった人 の人格に問題があるということかもしれな いですが、私たちが見ていくと、パワハラを
する人たちも追い込まれているのです。ノルマを課せられたり、業績を上げるように指示 されたり、上から人件費を削るように言われたり。そういう非常に余裕がなくなってくる 中で、今度は部下のほうに当たって、きちんとした仕事ができないと、どなったり、無理 を言ったり、人格を否定したりというようなことが多くなるわけです。追い込まれたから パワハラをしてもよいということにはならないし、追い込まれてもパワハラをしない人は いるのですが、パワハラがここまで増加している理由を究明することは重要です。そうい うことがありますので、やはり抽象論や一般論では過労死は防止できないというお話をし たいと思います。
【ワタミ過労自殺損害賠償訴訟】
まず、ワタミの過労死事件についてお話ししたいと思います。この方は、死亡当時26歳 で、平成20年4月1日からこの会社に正社員として勤め始めました。それで彼女は6月12 日に横須賀市内のマンションから飛び降りて自死をされました。入社してから2カ月と12 日で自死をされたわけです。実際に精神疾患を発症したのが5月中旬と言われていますの で、もう入社して1カ月半でうつ病を発症しているわけです。
この方の、この2カ月間の行動を当時の勤務表をもとに見ていきたいと思います。この 勤務表は公表していませんが、実は、亡くなられた彼女の母親が、ぜひとも自分の子ども の亡くなる前の働き方を明らかにしたいということで作られたものです。
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ワタミというグループは、当時3つの事業をやっていました。1つは、皆さんよくご存 じの居酒屋、もう1つは農業、そしてもう1つは介護事業で、彼女は実はこの中の農業の 事業に就きたいと思って面接を受けたのですが、入社前に、飲食店事業に配属しますとい う辞令が出て、当時の子会社に入社しました。彼女は、調理の仕事は全く経験がないし、
調理の勉強もしたことがない方でした。実際には3月31日に入社して、4月10日までは座 学研修で、朝7時とか8時から、17時、18時ごろまでの勤務でした。
座学の研修が終わった後、配属されたのは京浜急行久里浜駅前店という店舗でした。こ こに正社員は何人いたかというと、4人しかいませんでした。店長と副店長とこの彼女と、
もう1人、同期の新入社員です。この4人だけが正社員で、ほかは全部アルバイトのスタ ッフでした。彼女ももちろん、もう1人の同期の新入社員の方も調理経験はありませんで した。初めの10日間の座学研修のときに、玉子焼きを作るというレベルのことはさせられ たのですが、それ以上のことは研修していませんでした。
【新入社員を襲った極度の過労とプレッシャー】
店舗に配属になった後、この4人の中の構成で、彼女は冷たいもの、サラダと刺身系と デザートを担当しました。もう1人の新入社員の方は揚げ物を担当しました。店長は、こ れ以外のものを作って、副店長はホール担当でした。この担当を見ていただいて、まずわ かることは、誰一人代わりがいないわけです。したがって、簡単には休めない。新入社員 の2人の方はどうやって調理をしたかというと、非常に立派なマニュアルがあって、それ を見ながら作るわけです。もちろん初心者には、刺身をきれいに切るということも難しい し、サラダ、デザートを盛りつけるのも難しいわけです。こういう冷たい料理を造るとい うことを、ここで初めてやったわけです。
どのように働いていたかということですが、この店は夕方の7時に開店して、ウィーク デーは翌日の朝3時まで営業しています。金土は17時から翌日の朝5時までの営業です。
所定労働はどうなっていたかというと、16時に店に来て、翌日の3時の店が閉まる30分後 の3時半まで勤務をするということになっています。そうすると、所定だけで11時間30分 です。さらに彼女は、店長から「4時に来たのでは仕込みが間に合わないから3時に来な さい」ということを言われていて、結局、12時間30分の勤務が常にあるわけです。12時間 30分のうち2時間休憩を取ることになっていますので、所定は10時間30分ですが、2時間 の休憩のうち実際に休憩をとれたのは30分ということなので、結局、毎日12時間労働して いるわけです。そうすると、既に、通常の労働時間である8時間労働からいうと毎日4時 間残業していて、かつ22時からの深夜勤務も毎日しているわけです。
さらに、3時半に終わってもすぐには帰れませんでした。社員は会社が指定した寮に住 むことを求められていて、その会社の指定した寮というのは、歩いて行ける距離ではなく て1駅先にあったわけです。私たちが地図で調べたところ、大体45分から50分歩かないと 帰れないところにありました。3時半とか4時という深夜に、女性が40分から50分も歩い て帰るのはできないということで、始発が動く5時ごろまで待機をしています。待機と言 っても、その店の中には仮眠室や待機室があるわけではないので、普通のテーブルとかで 2時間待たなくてはいけなかったのです。
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【長すぎる拘束時間、やがて精神疾患を発症】
このように非常に長い勤務時間だったわけですが、当時の勤務表を見ると、「レポート」
「マニュアル」と書いてあるところがあります。これは何かというと、調理のためのマニ ュアルを覚えたり、会社の創業者が作った理念集があるのですが、それを覚える。理念集 などのテキストの中にこの会社で問題になった、「1年365日24時間死ぬまで働け」という 言葉や説話などがあり、それらを覚えてテストを受けるというものです。空欄を埋めてい くテストなのですが、90点以上取らないと再度やらされたり、レポートを書かなくてはい けませんでした。それから、勤務表には「ボランティア」という項目もあって、これは近 くのボランティアを要する施設に行くのですが、自主的だと言われながら、実はそのエリ アにいる新入社員は全員が行くことを義務づけられていました。全員が集合してからボラ ンティアをやりに行って、終わった後はまた集合して、そのボランティアのレポートや報 告書を出すというように、ほぼ強制されているような方法で行われていました。
結局、京浜急行久里浜店に配属されてから、0時から24時までちゃんと1日休めた日は 実際には4日間しかありませんでした。労災の審査官が認定した残業時間数は141時間26分 ということで、精神疾患を発症されています。さきほどお話ししたように、5月の中旬ご ろに精神的なうつ状態になっていましたが、その5月中旬に店長がちゃんとカウンセリン グをしています。そういうことだけはちゃんとやっていたのです。そこで、本人も体がつ らいとかうつ状態だということは言っているのです。店長のほうも、行動がおかしいとい う記録を残していて、それがちゃんとエリアのマネージャーに送られているにもかかわら ず、全くそれについて対応がされないままでした。さきほどから店長と言っていますが、
その店長という方がどのくらいの年代の方かというと、30代前半の方ということで、それ ほど多くの人事管理の経験があるわけではありません。そういうことからいっても、店長 も日々の対応しかできないというようなことになっていました。
【利益を上げるための極端な労働システム】
さきほど言ったように、長時間労働でなかなか代替もきかない、休めないという働き方 の中で本人はうつ病を発症して、自死をしていってしまうわけです。この会社はよく、お 客様を幸せにすることで、労働者も幸せになる、会社も幸せになるということで、
Win-Win-Winというようなことを言うわけです。実際に、中で働いている方はそういうこと を本当に思い込まされてそういう心理的な刺激を与えて管理しているだけかと思ったので すが、そうではないんです。利益を生み出すために、システム的には非常に高度な方式を 取っていて、毎日、毎日、売り上げから原価、人件費を引いたものがプラスにならないと いけないというように指導されているわけです。そうすると、お客さんが少ない日、売り 上げが少ない日はどうするかというと、売り上げが少ないんだから、マイナスで利益が出 なくなる。それでしょうがないということにはならなくて、それがマイナスになっている と、翌日にはすぐエリアのマネージャーから「なぜマイナスになっているんだ」という指 導が来るわけです。その指導が来るから、何としても毎日プラスにしなくてはいけない。
仕入原価はもう前の日に決まっているので、当日動かすことはできない。そこでどういう 形でプラスにしたかというと、やはり人件費をカットするんですね。人件費をカットする
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やり方として、まず一番最初にやるのは、正社員の残業時間をつけない、カットするとい うことです。次に、それでも利益が上がらない場合は、アルバイト労働者の方に待機をし てもらう。つまり、仕事をせずにある部屋で待っていてもらって、そのかわり賃金は払わ ない。そうすると、アルバイトの方の賃金がカットできるので、コストが下がるわけです。
正社員の4人だけでお店を回していくというやり方です。だから、必ず売り上げを上げて プラスを出していく、利益を挙げていくシステムとして、こういう極めて無理な労働をさ せていくという構造になっていたのです。
では、こういう長時間労働がこの会社だけかというと、必ずしもそうでもなくて、飲食 店の労働の仕方としてはこのような業務のさせ方ではないかと思います。同じ飲食店では、
日本海庄屋という会社を聞いたことがあるかもしれませんが、そこで過労死をした青年労 働者について、初任給が二十何万と書いてあるうち、実はその中には残業時間80時間分の 残業手当が入っていて、基本給が13万、14万だということです。つまり80時間以上残業を やらないと給料がカットされる。そのような働かせ方で長時間労働をやっていたというこ とですので、長時間労働をさせるシステムというのは、多様で種々の方法が作られている と言わざるを得ません。
【三六(サブロク)協定 -長時間労働に陥る『特別条項』という抜け道-】
資料の中に「過労自死の原因となる業務体制」の定義を書かせていただきました。まず 1番目に「長時間労働・深夜連続労働を前提としたシフト体制」があります。さきほど言 った4人の正社員は、もう割り振られた仕事がきちんと決まっていて、有給を取って休む なんていうことはなかなかできないわけです。それから2番目に、「安全配慮義務を無視し た労働基準法36条に関する協定」とあります。これが問題の三六(サブロク)協定です。
隠語みたいですが、実は労働基準法36条に関する規定、協定ということでこう呼ばれてい ます。日本の労働基準法は、1日8時間、週40時間の規制をしています。実はそれ以上長 く働かせること自体が違法であるし、刑事罰が与えられるという規定になっているわけで す。ところが、そんな話をすると、皆さん、それはどこの国の話ですかという感じになる のですが、日本ではこの労働時間規制の例外を認めるために、労働基準法36条で、会社と 労働者の過半数を代表する者、組合なりが協定を結ぶと残業をさせることができるように なっています。残業をさせることの協定について、現在、日本では上限がないんです。青 天井と言っているのですが、何時間残業させても違法ではないんです。今、どういう形で 行政指導が行われているかというと、労働基準監督署は、1カ月の時間外が45時間までの 三六協定しか、原則として認めないように指導しています。では、1カ月45時間なのに、
なぜさきほど言ったような140時間も残業させることができるのか。それは三六協定に特別 条項というものがあって、特別に忙しいときには45時間を超えて残業させてもいいという 条項で、このワタミでは120時間で協定を結んでいました。1カ月120時間までは時間外労 働をさせられるという協定になっていたのです。
では、その特別なときというのは、1年間に何回認められるのかというと、実は6カ月 認められています。特別なのは12カ月のうち1カ月とか2カ月ではなくて、1年のうち半 分も認められているのです。ですので、実は特別でも何でもなくて、1年の半分は120時間
11 / 23 まで残業をさせるということでできたのです。
ワタミ過労死事件の労働者は残業時間が140時間を超えていますから、それにも違反する わけです。それ以外にも、新人研修や配置後の業務内容、それから社宅の配置の不適切、
新人研修、ボランティア研修、レポートなど、実際は労働時間とカウントしないような形 で業務を課していたことになります。これが1つの長時間労働の典型パターンです。そこ で、裁判の中でどういう形で防ぐための和解条項を結ばせたかということですが、やはり 大きいのは、まず、労働時間を記録するということです。これが非常に重要です。私たち はこの会社に、労働時間については、会社の中にいる時間の全部を労働時間として認める べきだという要求をしました。そうしないと、色々なことをごまかして、労働時間を短く してしまうから、そういう意味で必要だと主張しましたが、これはなかなか実現しません。
まず労働時間をきちんと記録をすることが大きな意味では一番大事だと思います。
この会社はこの事故があった後、三六協定で45時間、特別のときとしては75時間までに 制限しました。1カ月80時間というのが過労死の労災認定基準なので、それ以下にしたわ けです。この裁判では、さらにもう少し短くすべきだという私どもの主張をして、それを 努力させるような形で約束させました。
【大手広告代理店(電通) 新入社員死亡事案】
次にもう1つ、大手広告会社、電通の新入社員の事例もお話ししたいと思います。彼女 は死亡当時24歳。配属先はダイレクトマーケティングのデジタルアカウント部で、インタ ーネット広告等を担当する業務でした。インターネット広告というのはどういうものか皆 さんご存じだと思いますが、インターネットを閲覧すると画面に色々なバナーが出てきて、
関心を持ったところをクリックしてアクセスするというような形の広告です。
彼女はどういうことをやっていたかというと、一番初め、自動車火災保険のデジタル業 務を担当していました。インターネット広告に月曜日までにどれだけのアクセスがあって、
どのように契約したかというデータ確認や分析をしていくのですが、月曜日の分析に基づ いて水曜日には週次レポートを作成し、クライアントに改善点を提案します。その上でイ ンターネット広告を改善して、また月曜日にデータの集計・確認・分析をやっていくとい うことになるわけです。これが、毎週毎週繰り返されるわけで、彼女は非常に追い詰めら れていきました。
そして、10月に試用期間が終わって正社員になった後は、FX証券のデジタル業務も担当 するようになります。さらに12月には、局の部会の幹事をやることになるのですが、これ は実は、局で行っている宴会の幹事なんですね。従業員は、クライアントに対する営業活 動の勉強ということでやっていました。
【心身ともに追い詰められて -25年前の最高裁判決の教訓、生かされず-】
さきほどお話ししたように、電通という会社は25年前に最高裁判決で、自殺について初 めて損害賠償を命じられて、その後、改善しています。改善しているというか、長時間労 働を防ぐためにどういうことをしたかというと、汐留の電通のビルに行くとわかりますが、
ゲートがあって、そこにカードを通さないと出入りができないようにしたわけです。今回
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も、その出入りしているときの入社時間と退社時間で労働時間を認定しているのです。と ころが実際よりもそれを少なく申告させていたわけです。会社への勤務状況報告で、彼女 は、10月、69.9時間、11月、69.5時間、12月、69.8時間と70時間を若干下回るように申告 しているわけです。これを見て不自然だと思わないほうがおかしいんです。亡くなる直前 に労基署が労災認定した時間は105時間。実際にゲートでカウントされた労働時間は140時 間でした。ですので、25年前に過労死の最高裁判決にまでなって、防ごうとして造ったゲ ートですが、そのゲートでの時間よりも、労働者がこういう形で労働時間を少なく申告さ せられているのです。なぜ69.9時間とか69.8時間というかというと、さきほどお話しした 特別条項としての上限が70時間だからです。そこを超えないように申告するよう上司から 指示・命令がされていました。「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」とか、「会議 中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」、「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤 するな」、「今の業務量で辛いのはキャパがなさ過ぎる」、「女子力がない」。こういうパワハ ラ、セクハラを上司から言われていて、実際より少ない労働時間の申告をさせられて追い 込まれていくということになります。
【極限状態で感じる、せめぎ合う二つの思い】
皆さんも、テレビや新聞の報道の中で、彼女がSNSとかで色々な方に、困っていることや 苦痛を訴えているのをご覧になったかと思いますが、そういう自覚症状があって訴えてい るにもかかわらず、なぜ過労死を防げなかったのか。これは2つの面から考えられます。
まず、亡くなられた労働者に対して、死ぬぐらいだったら会社を辞めればいいじゃないか という非難や疑問があります。これはよく言われる疑問なのですが、彼女が自殺したとき には、うつ病などの精神疾患を発症しているわけです。ワタミの労働者のときも精神疾患 を発症していて、ワタミの労働者の場合は、実は自殺する直前に買い物をしています。そ の中にはシャンプーと目覚まし時計と、それから日常用品がありました。そういうものを 買うということは、彼女自身はそのとき自殺するなんていうことは決して思っていないわ けです。それから、電通の労働者も、母親が、「とにかく辞めなさい。もう仕事を辞めて帰 ってきなさい」と言っているのですが、彼女は色々な方に訴えると同時に、自分で判断す るという気持ちもあるのです。何とかしてほしい。でも、一方では、自分で何とか判断で きるという思いもあるので会社を辞められないんですね。後ほど木谷さんからお話がある と思いますが、そういううつ状態とか精神疾患になったときには、そんな合理的な判断が できなくて、つい、ここで自死したら会社に行かなくてすむんじゃないか。それから、こ こで自死をすれば、このつらい状態から逃げられるんじゃないかということで、自死に至 ってしまう。そういう病気になってしまうと、もうそこから先は、そのぐらいだったら辞 めたほうがいいんじゃないかというような正常な判断ができなくなってしまうのです。
では、家族が止められるかというと、これはもう、なかなか止められないんですね。ワ タミの労働者も、店舗の正社員4人のうちの1人で、私がここで突然辞めたらみんなに迷 惑がかかると思っていますから、簡単に色々なところに訴えたり、辞めるという判断にな らないわけです。そういうことから言っても、周りが止めるのも難しいという状態の中で、
自死が発生してしまうということです。
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【改善が見込めないなら「辞める」決断も必要
-まずは労働時間を記録することから-】
今日は、これから就職をする方たちだけではないと思いますが、これまで色々な学校に 講演に行って、じゃあ、どういうふうにしたらいいんですかと聞かれます。なかなか自分 たちで、会社のそのような状況を止められないんじゃないですかという質問をされるので す。
私が考えているのは、まず労働時間を自分できちんと記録しなければいけないというこ とです。会社が労働時間を記録しているかというと、そうではないです。自分できちっと 労働時間を記録して、時間外労働が60時間から80時間、さらに100時間に達しているとする と、相当、危険な領域に入っているなというように、自分で警戒する資料になってきます。
次に、もしそういう状態が続くようなら、上司とか同僚にこの状態を改善してもらいた い、もっと残業時間を短くしてもらいたいという話をするということになると思うんです。
しかし、さきほど言ったパワハラで、「おまえの残業時間20時間は無駄だ」とか言われてい るところに、そんな話をしても、到底残業時間を短くしてもらうことは無理なわけですね。
そうなってくると、次の段階は、やはり専門家のところに相談に行くことだと思います。
専門家とはどういうところかというと、まず労働基準監督署ですね。労働基準監督署に匿 名でいいから行って、何とか是正や指導に入ってもらいたいという依頼をする。それから 弁護士や労働組合等に相談する。それでも改善するのが難しいと思ったら、会社を辞めな きゃいけない。そこから逃げ出さなきゃいけないということを、私はこのごろお話しして います。
今の日本の労働者の正社員と非正規の割合をみてみると、約4割が非正規なんです。就 職するのに、50、60、70社エントリーしても駄目だったという経験を聞くこともあります。
そういう若い人たちが正社員になったときに、ここでこの会社を辞めて非正規になること について、すごく恐怖感があるのです。正社員と非正規社員のグラフを作って、一生の間 に収入に1億円ぐらい差があるんだということを教えていることもあります。さらに、人 に迷惑をかけるなというのを小さいころから叩き込まれる。しかし、そういう中でも、や はり長時間労働が改善されない会社からは、抜け出さないといけない。辞めないといけな いのです。そういうことを社会も、家族も、ご本人も自覚を持ってやっていかないと、こ の過労死になるという事態は防げないということだと思います。
【ワークルールを学ぶことは、自分の身を守ること】
最後に、ワークルールの問題についてお話ししたいと思います。ワークルールをどのよ うに身に付けていくか。さきほど言った労働基準法などの法律をそのまま見ても、なかな かよくわからないと思います。
なぜ労働者が長時間労働になるかというと、長時間労働とかパワハラをする会社という のは、労働基準法の中の例外を使って長時間労働をさせるんです。例えば、さきほど言っ た三六協定というのは例外です。その中で、時間外45時間という協定を結んでいると、45 時間以上は残業させてはいけないから、それ以上残業した人に対して残業手当は払えない んだということを言う会社があるわけです。これはお金だけの問題ではなくて、もう45時
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間以上幾ら残業しても残業手当は払わなくてよいとなったら、長時間労働を規制すること ができません。
それから、管理監督者という例外というのがあります。管理監督者は労働時間管理をし なくてもいいし、残業手当も払わなくてよいと定まっているわけです。社会では、管理職、
管理職と言っていますが、これは実際、労働基準法上の管理監督者とは違っています。よ く名ばかり管理職と言いますよね。つい最近、名ばかり店長がマクドナルドで問題になり ましたが、労働基準法が言う管理監督者というのは、相当、地位と権限のある方です。銀 行で言うと、支店の支店長ぐらいだと言われています。ですから、係長とか課長とかは、
本当は労働基準法上は管理監督者にならないんです。
ところが、これを悪用して、私が知っている会社では、新入社員で入社して3カ月の試 用期間が終わった途端、あなたは主任です、主任手当5,000円払いますから、管理職だから 残業手当は一切払わなくていいのだということをやる会社もあります。
それから、裁量労働制もありますし、それについても後ほど木谷さんが話されるかもし れません。例えば、システムエンジニアというのは裁量労働制の適用がある職種なのです が、実際にはシステムエンジニアということで裁量労働が適用になる場合は少ないです。
また、プログラマーは、システムエンジニアのように裁量を持ってやっている方というの はほとんどいらっしゃらないです。ところが、プログラマーもシステムエンジニアだから 裁量労働制が適用になる。だから、残業手当は支払わないと扱うのです。さらに、固定残 業制という制度もあります。例えば50時間の固定残業手当といったら、50時間以下の残業 でも50時間分を払わなければなりません。50時間を超えて60時間なら10時間分、70時間な ら20時間分の残業手当を払わなければならないのですが、実際には、うちは固定残業手当 制だから何時間残業しても同じですと言って払わないという会社があります。これもいわ ゆる労働基準法の例外の悪用です。
こういう形で法律の例外を悪用する、濫用するケースが非常に多いのです。こうやって 悪用する話をすると、会社によっては、じゃあうちもそれやろうかということになるわけ ですが、こういう実際にある話をふまえて、皆さんのワークルールの知識で防備をしてい かなくてはなりません。今日お配りしたワークルールのパンフレットも参考にしていただ いて、自分の命と健康を守る、そのためにぜひワークルールを勉強していただきたいです し、また我々も、今言ったような世の中のブラック企業と言われるところは、どういうこ とをやって長時間労働をさせたり、労働者に手当を払わないようなことをやっているのか をお話しして、皆さんに理解していっていただきたいと思っています。
これで私のお話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
☞「知って役立つ労働法」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/
0000171194.pdf
☞「知っておきたい働くときのルールについて」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/rule.pdf
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○木谷 「東京過労死を考える家族の会」の木谷晋輔と申します。よろしくお願いします。
初めに簡単に自己紹介をさせていただきます。私は大手電子機器メーカーの子会社でシス テムエンジニアをしておりました。同じ部署の同じ課に配属された、同期の同僚が過労死 をしました。また、私自身も過労疾病から退職をしております。こういった友人や私自身 の事例紹介を踏まえて、ワークルールを学ぶ意義というのをぜひ感じてもらう機会にして いただきたいと思います。
【具体的事例:同僚のケース -劣悪な労働環境と頻発する仕様変更-】
最初に同僚のケースからお話しさせていただきます。今、テレビはデジタルですが、昔 はアナログ波でして、それをアナログからデジタルに移していこうという、地上波デジタ ル放送関連のプロジェクトに従事していました。当時、二千何年に地デジが始まるという 総務省のCMをかなり頻繁にやっていました
ので、覚えている方もいらっしゃると思いま すが、そういった状況の中、納期が絶対とい う状況がまず前提としてありました。ただ、
ちょっと見積もりが甘くて、仕様変更という ものがすごく発生するプロジェクトでした。
仕様変更とはどういったものかというと、簡 単に言うと、飲食店だったら注文を変更する 感じですね。トッピングを変えたり、注文そ のもの、例えばチャーハンからラーメンに変 えたりといったものが仕様変更のイメージです。
同僚の労働環境については、そういった過重な、結局、納期が変わらないまま仕様変更 が発生して、作業量が増えるという感じで長時間労働になって、やがてうつ病を発症して、
休職、復職を繰り返しながら仕事を続けていたのですが、治療薬の過量服薬をしたときに 重篤な副作用が起きまして、命を落とすということになってしまいました。その後、労災 申請して、労働基準監督署では認められなかったのですが、国を相手に行政訴訟裁判を起 こすことで、認定されることになりました。
劣悪な労働環境についてですが、これはこの間、NHKの「プロフェッショナル」という番 組で取り上げられたので、ご覧になった方はちょっと見覚えがあるかもしれないですが、
労働環境は最悪でした。とにかく狭いです。1人当たり80センチぐらいのスペースの机で、
人が1フロアに数百名単位で押し込まれている状況で、ものすごく暑かったんですよね。
無理やり集めてきているので、椅子とかもあまり質のよくないもので、裁判で出された資 料によると、二酸化炭素濃度が基準値を超えているというような状況になっていました。
終電がなくなると、上司はタクシーで帰っていたのですが、同僚たちはタクシー券がある ということ自体を知らされずに、パイプ椅子を並べてその辺で寝たりして夜を過ごしてい たといった状況です。
さきほど仕様変更について少しお話ししましたが、例えば飲食店で、トッピングの追加 のようなものは作業量が増えるだけなのでまだいいのですが、根本的に作り直しのように
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なると、精神的にかなり厳しいものがありますし、また、精神的だけではなくて、やはり 時間も厳しくなってきます。ですので、納期が変わらない中で仕様変更が頻発するという のは、開発者としてはかなりプレッシャーがかる状況でした。
私自身も結構、仕様変更をやっていました。つい最近の裁判でも、仕様変更をめぐって 結構大きな事例があったので、ご紹介したいと思います。これは旭川医大の「病院情報管 理システム」をNTT東日本が受注した事例です。625項目というすさまじい数の要望が出て おりまして、さらにどんどん、どんどん仕様が変わっていくという状況でした。いくら作 っても終わらないので、1回凍結をしたのですが、それでも要望がやまなくて、さらに171 項目が追加されて、うち136件を受け入れるということをやっています。最終的に間に合わ なくて債務不履行になるかどうかということで裁判沙汰になりました。高裁の判決が今年 の8月に出まして、今、最高裁に行っているという状況で、よそでもこういった似たような 事例が発生しています。
【具体的事例:木谷氏のケース -長時間労働に陥った背景とは-】
私のケースとしては、当時e-Japan(政府が掲げた、日本型IT社会の実現を目指す構想、
戦略、政策の総体)と言われていたころで、今で言うe-gov(イーガブ)とか、電子政府と いうものに近いのですが、その省庁向けの電子申請システムを作っていました。官公庁向 けで、納期が絶対でしたので、24時間体制、2交代制の勤務体制になりました。私はさら にその中の夜勤務になって、夜の9時が出社時刻で、朝の10時までが定時のような仕事も していました。実際のところ、朝10時に帰れることがなくて、そこからさらに昼過ぎまで 仕事をしているなんていうことが起こりました。中でも、自分でなければ担当できないよ うな、ちょっと特殊なことをやらされていたので、結局、何かあると呼び出されるので、
帰るに帰れないというような状況で過ごしていました。結果、労働時間がかなり多くなっ てしまって、そういった中で精神障害を発生して、同僚と同じように休職、復職を繰り返 して仕事を続けたのですが、やがて退職するということになりました。
参考までに、当時の残業時間をみてみると、問題のプロジェクトが2003年1月、2月、
3月で、だいたい100時間から150時間、平均すると120時間くらいでした。残業100時間と いわれてもピンとこないと思いますので、社内報に掲載されている入社10年目の社員の働 き方の例をみてみます。朝の9時に出社して夜の11時に退社しているというパターンで、
労働時間が12時間10分、1日当たりの残業時間は4時間という感じになります。だいたい 1カ月80時間強の残業時間ということになるのですが、つまり、毎日朝9時から夜11時ま で働いているだけでは、月100時間いかないんですよね。そこにさらに徹夜をしたり、休日 出勤をしたりして、初めて月100時間という数字になるというぐらいの労働時間です。
長時間労働に陥った背景としては、何よりも問題だったのは、私1人に業務が集中する ような状況というか、放置されていたことが一番大きかったと思います。あと、やはり長 時間労働を美徳とするような社風がありました。労働時間を記録されてはいたのですが、
さきほど玉木先生のお話にあった、三六協定の範囲内に合わせるよう、ちょっと調整をさ れたりということもあって、法を守るための労務管理はされていても、何のために労務管 理をするのかという、その根本的なところが抜け落ちていたということを感じています。
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【法の趣旨を踏まえていないコンプライアンスの例】
ここで、病院の事例を2つご紹介したいと思います。まず、岐阜市民病院というのは最 近、結構話題になった病院ですが、残業月100時間の三六協定を結んでいて、是正勧告を受 けました。そうなると、普通は100時間以内に労働時間を抑えようとすると思うのですが、
ここは100時間では間に合わないから150時間に増やしてしまおうというようなことをやっ ています。それから、新潟市民病院の例ですが、こちらも研修医の過労自殺が話題になっ て、今年労災認定されたということがありました。こちらも三六協定違反で是正勧告をさ れて、80時間を100時間に延長しています。そしてまた是正勧告を受けて、さらに遺族が改 善要求をしましたが芳しくなく、遂に刑事告発するに至りました。ようやく入退館時刻を 把握できるシステムを検討という動きが出ているという状況です。
【死ぬくらいならなぜ会社を辞めないのか】
さきほども出ましたが、死ぬくらいならなぜ会社を辞めないのかという話がありました。
人それぞれ理由はあると思いますが、本来ならとり得るはずの辞めるという決断を、選択 肢から外してしまう、なるべくだったらとりたくないという思いで、後々に回してしまう ということがあると思います。そういった中でも、まだ大丈夫だと思って頑張っているう ちに、いつの間にか、実はもう大丈夫ではない状況になっていたということだと思います。
気がつくと目に入ってくるものが、死ぬよりつらいようなことばかりになってしまったと きに、死の危険性があるのかなと個人的には感じます。私自身も自殺未遂のようなことを したことがあって、それは死にたいと思ってやったというよりは、今この瞬間から逃げ出 したいという感じでした。結果的に死んでも構わないとは思っていたのですが、それより も、今この瞬間から逃げ出すことが最優先という感じになってしまうといったことがあり ます。結果的には助かりましたが、ただ、そのときに、実は亡くなった友人が一番最初に 気がついて夜中にタクシーで真っ先にうちに駆けつけてくれて、色々と連絡をしてくれた ので、そういった意味では、私は彼のときに気づいてやれなかったことを今でもすごく後 悔しています。
【命より大切な仕事はない- 一人で抱え込まず、相談する勇気を持って!-】
いったん起きたら、取り返すのがとても難しいというのがあります。玉木先生のお話に もありましたが、やはりいざとなったら逃げるという選択肢をとることは大切だと思いま す。遠回りになったとしても、絶対にそうしたほうが結果としてプラスになる。これは間 違いなく言えると思います。息子を亡くした遺族の方の言葉ですが、「命より大切な仕事は ない」「きついと言える勇気は逃げではない」というような言葉があって、これはとても重 い言葉だなと思っております。
あと、一人で抱え込まないことです。やはり自分一人で考えていると、どうしてもドツ ボにはまってしまうというか、見えるものも見えなくなってしまうということがあると思 うので、なるべく周りに話をするというのはすごくシンプルだけれども大切だと思います。
ただ、家族や友人とか、そういった身近な人には話はしやすいのですが、いざというとき にはどうしても行き詰まってしまうということはあると思います。そういったときには、
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ハードルが高いなと思っても、やはり専門家の力を借りる勇気というのは大切だと思いま す。ぜひとも労働基準監督署や労働組合、弁護士の方とかに相談していただければと思い ます。
【ワークルールを学ぶ意義- 一人ひとりの認識がやがて社会を変えていく-】
休職したり会社を辞めたりすると、生活に不安が出てくると思うのですが、こういう仕 組みがあるということを頭に入れておくと、少しは気が楽になるのかなと思って、転ばぬ 先の杖と言いましょうか、そういったものを知っておくのも大事だと思います。
あと、よく言われるのが、経済も大事なのではないかという話があります。労働基準法 を守っていたら会社が成り立たないなんていうことを言う方も結構いるのですが、労働者 も一人の人間です。大学を卒業して、それから社会に出てという、そこまでにかかったお 金や時間というのを考えると、それを新卒数年で使いつぶしたりすることのほうがよほど 経済的に害悪だということが言えるかと思います。また、お金と健康は天秤にかけられる ものではないですし、ぜひとも自分自身を大切にするという姿勢を持っていただきたいと 思います。
ワークルールを知る機会ということで、例えば、車を運転するときには、免許を持って いない方は教習所で勉強して実技試験を受けていくわけですが、労働法に関しては、そう いった機会が全くないまま仕事を始めます。仕事が義務と言われながら、仕事のルールを 教わらない。やはりこのワークルールはぜひとも知ってもらいたいと思います。知っても らうと、何が正しくて何が間違っているかということがわかります。法律上、どういった ことが正しいかというのを、実際に主張できるかどうかは別として、自分の置かれている 状況について、会社が言っていることが理不尽なのか、自分のほうがおかしいことを言っ ているのかがわかるだけでも、だいぶ気分は楽になると思います。
また、みんながルールを知っていることによって変わってくるところもあると思います。
例えば、赤信号は止まれ、青信号は渡れ。これはみんなが知っているから成り立っている ルールで、もし誰も知らなかったら成り立たないんですね。赤だから止まれ、青だから渡 れというのをわからないまま車を運転したら、多分、大変なことが起きてしまいますが、
労働法については、結構そういうところがまかり通っているという現状があります。でも、
みんなが知識を持っていたら、それは本当はやってはいけないことだとみんながわかって いくと、自然と会社の中でのあり方は変わってくると思います。そういった意味では、一 人一人の認識がゆくゆくは社会を変えていくものになるのではないかと思います。ぜひと も社会に出る前に、社会に出た後でも、ルールを知ってもらいたいと思います。
私からは以上です。ありがとうございます。
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○質問者1 今、お話をお伺いして、皆さんとても優秀で、すごく真面目で、なぜ寝る時 間まで削ってこんなにやるのかなと普通思ってしまうと思います。私は医療関係で働いて いるので、寝る時間がないとまず判断能力を失ってしまいます。ワタミの事件を見ても、
あのお嬢さんが深夜時間帯に働いていること自体がまずおかしいと思うんです。もし私の 子どもが深夜時間帯に働いていたら、それがわかった時点でそこを辞めなさいと言うので、
なぜこれを辞めないのかなと思ってしまうんです。社会に迷惑をかけない、親に迷惑をか けないと書いてありますが、死んでしまったほうがよっぽど迷惑をかけると思うし、そう いう判断基準というか、気づいてあげる人がいないのかなということをまず思いました。
○玉木 今、寝る時間を削ったり、深夜にこれだけ恒常的に働くのは非常に体にとって危 険だという認識のお話をされましたが、じゃあ、今、日本の社会でそういう認識が一般的 になっているかというと、私はあまり
なっていないんじゃないかと思うん です。例えば、日本では、何時間以上 働いてはいけないという規制とか常 識というのは、つい最近までなかった わけです。その規制が出てきたのは、
労災で過労死が問題になったからで す。残業を1カ月80時間とか100時間 以上やってはいけないんだというの がやっと世の中に少し行きわたって きたというところです。悲しいかな、
それ以上働いてはいけないという理由は、死んでしまうからなんです。外国では、ちゃん とした社会生活、家庭生活を送るためには、どれだけ労働時間を減らさなくてはいけない かということを男女共同で地域で考えていて、例えば、ヨーロッパでは1週間35時間とい うような労働規制をしているわけです。
ところが、日本ではまず、何時間以上働いてはいけないというのが今回初めて、過労死 防止法の中で出てきたところで、深夜の労働に関しても、昼間7時間、8時間、寝られる 時間が確保されればいいんだという認識なのです。実は、深夜交代制勤務については体に 与える影響はそれほどないという報告がされていて、実際、研究されている中でも、体へ の影響についてはあまり報告されていません。ですので、まずは長時間労働とか、深夜の 労働が体に悪い影響を与えるという一般常識というか認識自体がまだ行きわたっていない のだと思います。深夜8時間働くのも、昼間8時間働くのも同じだと。そういう観念にな っているのではないかというのが1つあります。
もう1つ、真面目ですねというお話なんですね。過労死、過労自死をされる方たちとい うのは、よく、うつ病親和性が高い方が多いと言われます。うつ病親和性が高い方という のはどういう方かというと、真面目で、几帳面で、責任感が強くて、かつ協調性がある、
こういう方たちだと言われています。うつ病親和性とか脆弱性と言っても、これは日本で は美徳とされることばかりですよね。協調しなさい、責任感を持ってやりなさい、完璧に
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やりなさい。小さいころからずっとそれを教えられてきたわけです。実は、そう教えられ てきて、それに適合して、適応してやってきた人たちが、企業でもそれを求められて、無 警戒にやっていくわけです。
その中には、さきほど木谷さんがおっしゃいましたが、会社にやっと入れて、これをや っていくことが自分に与えられた使命であり、これをやっていくことにアイデンティティ を感じているような形になりますから、無理をしてしまって精神疾患を発症する。私から 言わせれば、まさにそういう性格を利用してもうけている人たちがいるということなので す。それは別に個人でやっているのではなくて、日本ではそういうことを利用してやって いる経営システムが非常に多いのだということです。さきほど言った4人体制での勤務に しても、ほかに人をたくさん入れないんです。4人のチームで、誰かが休んだり、また長 時間労働をしなかったら目の前の人が迷惑をこうむる。こういう形で労務管理するわけで す。
これは意図しているかしていないかは別として、そういう今の日本人の小さいころから 叩き込まれることを利用して労務管理しているという現状のなかで、やっと残業時間80時 間、100時間は悪いというところまで来たわけです。ですので、こういう形で無理して働く のは、もちろん自分にも悪いし、家族にも悪い。地域にも社会にも悪いということをやは り教えていかないといけないのです。そういうことで今日はお話をさせていただいていま す。今、価値を転換していかないと、私は若い人たちが犠牲になっていくと思います。
電通の事件が出たときに、電通のOBの大学の教授が、「残業100時間ぐらい、俺はいつで もやっていた。なぜ100時間やれない人間が企業で生きていけるんだ」というようなことを 言っていましたが、私は言いたいです。「あなたたちが100時間やっていた時代と今とは全 く違います」と。当時は携帯電話もないんです。スマホもないんです。コンピューターも ない。メールもない。私が弁護士になったころは、やっとファクスを送る時代なんです。
今はみんなGPSで位置を確認されて管理されたり、LINEも見た途端に返信しないと、「な ぜ返事しないんだ」と言われたり、土日でもメールでどんどん、どんどん指示が来て、文 書を作れば作ったで、昔は郵送していましたが今は違います。メールで送って、すぐ答え なくてはいけない。さらに文書の内容を変更したところは全部履歴が残るわけです。後か ら、誰が直したんだ、どうして変えたんだという追及をされる時代なんですね。そういう 中で時間外100時間をみんなやっているわけです。さきほど言った電通のインターネット広 告にしても、5分単位、15分単位でただちに売り上げが出てくる時代なわけです。
そういう中で過酷に利益を上げることを求められている今の労働者、若い人たちが置か れている100時間というのは、過去の、30年前の100時間とは全く違うという認識を持たな いと駄目だと思います。そういうことを若い人たちにやらせているんだというそこのとこ ろの意識を、社会全体として、特に40代、50代の人、60代の人が本当に真面目に深刻に考 えないと、これはもう、どんどん、どんどん精神疾患が増えていくと思います。
○木谷 答えになるかどうかわかりませんが、逆に私がなぜ長時間働いたかということを お話ししますと、やはり当時、まず第一にあったのは、私は2002年入社で、ちょうど就職 氷河期世代でした。正社員で入った職というのはやはりすごく大きくて、あの時代、いっ たん失職したら正社員にまた戻るのはなかなか難しいだろうという思いはすごくありまし