― 89 ― 1. 研究の背景・目的
本研究は修学旅行において民家体験泊(以下,
民泊)が増えていることを受けて,沖縄県を対象 に,修学旅行での民泊がどのような社会的背景の もと選択されてきたかを明らかにする.また,一 般的な沖縄観光イメージとの関連や,民泊の商品 化について分析を加える.
修学旅行の主な目的は,時代とともに変化する が,学習指導要領の改定に伴い現在主流となって いるのが体験型学習である.体験型学習が全国的 に広がる中,平和学習と体験型学習の素材が多い 沖縄県は 2003 年頃から高等学校の行先として最 も多く選ばれている.
伊江島は面積 22.7㎢,人口 4,825 人,世帯数 2,197
(平成 24 年)の離島で,沖縄本島北部から船で 30 分の距離である.伊江島での民泊が開始され たのは平成 15 年であるが,平成 24 年の時点で民 泊の実績は,学校数 311 校,延べ 57,978 人である.
伊江島で民泊事業が開始された背景としては政 府による 2000 年代の公共事業削減,失業率の上 昇等が要因として挙げられる.また,修学旅行の 傾向として,沖縄修学旅行のマンネリ化,体験型 学習の必要性等から,民泊が増加したと考えられ る.
2. 研究の方法手続き
本研究では文献調査,資料分析及び現地におけ る参与観察,聞き取り調査を行う.
3. 研究の概要
本研究は 6 章で構成されている.
第一章では,研究の背景,目的,方法,期待さ れる研究成果について記述した.
第二章では,日本の修学旅行の歴史と変遷につ いてまとめた.
第三章では,伊江島での民泊の実態について報 告した.伊江島へは本島北部の本部港から村営 フェリーで約 30 分である.伊江島において,民 泊受入れの窓口業務を行う団体は現在 2 つ存在 し,一般社団法人伊江島観光協会と民間会社 A 社である.それぞれ別々に修学旅行の受け入れを 行っており,登録民家数は両社合わせて 300 軒程 である.
第四章では,伊江島の事例において民泊を希望 する学校が年々増加していることから,本土の学
修学旅行における民泊の社会的認知要因と観光の商品化
̶沖縄県伊江島を事例に̶
Social Cognitive Factor of Home Stay in Educational Tour and Tourism Commercialization
Case of Ie-Island,Okinawa
上村 真千乃 UEMURA Machino
キーワード:修学旅行,沖縄観光,民泊
Keywords: educational tourism, tourism, tourism in Okinawa, home stay
立教観光学研究紀要 第 16 号 2014 年 3 月
St. Paul’s Annals of Tourism Research No.15 March ’13 pp.89-91.
修士論文
図 1 民泊受入れのしくみ
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St. Paul’s Annals of Tourism Research
(SAT)No.16
校が民泊に見出していると考えられる社会的認知 要因について分析を試みた.第一に環境的要因と して離島である,非日常を簡単に味わえる,別れ も演出できる,自転車で回れる,地域のまとまり が良いので安全,戦跡が残っていて平和学習でき る等が挙げられた.
第二にイメージ要因として,沖縄観光のイメー ジは主に本土の人間によって時代ごとに様々に表 象されてきた.戦前は「異国性」 「エキゾチック」,
戦後は「戦跡」「ショッピング」,近年は「リゾー ト」「癒し」等がキーワードとして挙げられる.
このような一般的な沖縄観光の流れが,イメージ として教員の修学旅行の選択に関連していると考 えられる.
旅の販促研究所による 2008 年の「島旅
1」の 実態についての調査によると,過去 5 年での印象 に残る島旅の旅行目的は, 「自然・景観(77.5%)」
がトップで,自分の生活圏で見ることのできない 自然や景観を期待していることがわかる.また,
印象に残る島旅で挙げられた島に旅行するきっか けとなった情報源に関しては,「友人・知人・趣 味の仲間からの口コミ(41.2%)」が他の主要媒体 を上回りトップとなった.学校の教員からも民泊 を口コミで聞いて,実施したいと思ったという意 見が聞かれた.
第三に教育的要因として,初めて伊江島で民泊 を行った大阪の中学校の教員に,当時のメリット とデメリットを聞いた.メリットは島民が親身に なってくれたこと,不登校の生徒が旅行後に投稿 するようになった等が挙げられ,デメリットとし ては生徒の態度の悪さによるトラブル等であった が,学校と島民の協議が重ねられ,民泊は継続さ れることになった.その後学校側は,島では貴重 な水の使い方や言葉遣いを指導していき,島側で も最初は拒んでいた戦争体験等の話を生徒に語る ようになったという.また,伊江島で初めて民泊 の手続きを行った都立高校の教員へ修学旅行の目 的を尋ねた.「日常から隔離された状況で,見ず 知らずの他人とどうやってコミュニケーションを とるのか,どれだけ他人に対して客観的に自己表 現できるか」「都会の生活から離れることで,普 段自分たちの日常がいかにして成立していたかを 振り返るきっかけとなる」等が挙げられた.
第五章では,伊江島という場所の消費のされ方 と,民泊の商品化について議論した.民泊の受け 入れが増加したことで,「民泊の商品化」が起き ていると考えられる.地元住民への聞き取り調査 から,地元の人も「素朴さ」を本土の学校が求め ていることを理解し,自己表象の手段として使用 していることがわかった.生活の商品化が進み,
安全面が重視されることは,年間5万人の修学旅 行生の受け入れのためには必要不可欠である.し かしそれゆえに,今後の事業の継続性について検 討する時,民泊の内容について見直す時期がきて いるのではないかと考えられる.
第六章では,結論と研究の不足点について述べ た.
4. 結論
民泊が社会的認知される要因として,立地とい う環境的な要因も不可欠であるが,本論文で注目 したいのはイメージ要因と教育的要因である.
まずイメージ要因であるが,民泊に対しては本 土からのある種のノスタルジックなまなざしが伊 江島という「沖縄の中でも特に昔ながらの共同体 が残っている社会」に注がれていると考えられ る.このようなイメージは沖縄の離島独自の環境 とも無関係ではなく,環境的要因とイメージ要因 は密接な関連がある.修学旅行は基本的に行先を 教員が決定するものである.そのため修学旅行の 内容や行先には教員の教育的方針や歓声が表れや すい.教員はその時代の社会的背景や政治問題と 無関係ではないため,現代においては,民泊が教 育旅行に適していると考えられていることが分 かった.ただし中学校と高等学校においては期待 される教育効果が異なると予想されたが,その違 いにまで言及することができなかった.また修学 旅行で伊江島を訪れる教員と生徒では,民泊に対 して持つ印象が事前の知識から違うと考えられた が,詳細に分析することができなかった.これら を持って今後の課題とする.■
【注】
1 この調査では以下のように定義されている.第一に島に 船または航空機を利用して訪れる旅行.第二に,島の 固有な観光資源を活用し,都市や他の島々の旅行者と の交流を促進する観光事業.