深層構造における抽象性 : 自然生成音韻論の観点 からみて
著者 龍城 正明
雑誌名 主流
号 44
ページ 97‑118
発行年 1983‑02‑20
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014953
深層構造における抽象性
←一一自然生成音韻論の観点からみて一一
龍 城 正 明
1
序 論周知の如く, Chomsky
&
Halleによって提唱された transformational generati ve phonology (変形生成音韻論)は,彼等の共著である The Sound Pattern0 /
English (以下 SPEと略す〉の完成をもってその完成 期を迎えた, と言って決して過言ではあるまい.その出版年である1968年 より15年を経た今日,80年代の音韻論の世界には,後等の理論,方法論を基 礎として,様々に拡大修正された,新,或は改訂生成音韻論と言えるもの が続々と誕生している.それらの主な理論だけでも Stampe,Donegan に よる naturalphonology (自然音韻論〉を始めとして Hooperの natu‑ ral generative phonology (自然生成音韻), Goldsmithの autosegmen‑tal phonology (オートセグメンタル理論), Dinnsenの, atomic phonol‑ ogy (核音韻論), Leben
&
Robinsonの upside‑downphonology (転倒 音韻論),それに最近発表された, Kiparskyのlexicalph6nology (語葉 音韻論)等々,枚挙にいとまがないこれらの理論の多くは,SPEが提唱 した基本的な原理を変更することな<.単なる修正理論にとどまっている.しかし乍ら,それらの中にあって, Goldsmithの autosegmentalphonol‑ ogyは,SPEが完全に無視していたtoneを十分考慮に入れ,さらにlexi‑ cal representationとsystematicphonetic representationの二点に大揺 な修正を加えた理論として注目に値する. その一方, Hooperの natural generati ve phonologyでは,自然音戸過程としての phoneticallycondi‑
98 深層構造における抽象性
tioned rules (P‑rules)と後天的に習得された結果使用されるとする mor‑
phophonemic rules (MP‑rules)の2つを設定することにより, I過程と 規則」を完全に区別した.この過程と規則という 2つの異なった概念を設 定することにより ,
SPE
における基本姿勢であった, idea1ized speaker hearerという概念を完全に否定する結果となったのは,特に注目すべき 点である.本論では,上記の如く種々の音韻論が活発に誕生している80年代の音韻 論の分野で,特にHooperのnaturalgenerative phonologyにスポットを あて,これを従来の transformationalgenerative phonologyと対比さぜ 乍ら, SPE等他に表われた generativephonologyのもつ問題点,特に 深層構造における抽象表示のもつ問題点について,それを否定する natural generative phonologyを紹介しながら考察していくこととする.
natural generative phonologyも,他の新理論同様従来の transforma圃 tional generative phonologyに対する反動として誕生した理論であるの で,これを論ずるにあたり,従来の理論を適宜引用し,又データも各々の 理論で共通に取扱われているものを対象にして論ずると共に,これらを通 して,今後の音韻論の方向ともいうべきものも考慮しながら論を進めてい きたいと考えるものである.
2
変 形 生 成 音 韻 論 vs.自 然 生 成 音 韻 論自然生成音韻論 (naturalgenerative phonology,以下 NGPと略す) も音戸過程を重視するという点については,従来の変形生成音韻論(trans司
formational generative phonology,以下 TGPと略す) とその基本的主 旨には大差はない.しかし,この二つの理論における最大の相違点は形態 音韻論(形態交替派生〉における双方の分析法に見ることができか
先ず, TGPとNGPにおける「音韻論」そのものの取扱いを見てみょ
っ .
伝統的な音韻論の位置は,言語における文法を通して音声学との繋を持 つ領域とされていた. TGPでは, 音韻論が音声学と統語論との linkの 役目である, というこの考えをさらに一歩おし進め,統語構造を言語全体 像の出発点とし,その統語構造に関連のある種々の言語事実を駆使して音 韻論の領域の問題をも解決しようとした.例えば,SPEでは, 英語のス トレス規則は,英語の統語及び品詞の配置構造等の知識がなくては,完全 な記述ができない, と言うことができる
こういった,音韻論を統語論の一部とみなす TGPの問題点として,同 音異義語のもつ暖昧f生についての解釈がある.例えば,
( 1 ) Tom took no notice of her size. ( 2) Tom took no notice of her sighs.
という上記二文における sizeとsighsの解釈に見られる様に,音韻的対 比のない語棄は,統語的に識別される発話に対しては問題ないが,上記の 様な統語的構造が同一な文においては常に識別可能であるとは限らない,
と言えるからである.しかしながら, Halleも又,音韻論を文法における内 的部分と解する為,言語の文法に適切に統合されて音韻記述はなされるべ きである,と言っているえその結果, Halleは,彼の初期の仕事より Jakob幽 sonian featureとして知られた distinctive featureを音韻分析の基本要 素とし SPEではこれにさらに改訂をほどこし, 踏襲している. この distincti ve featureは語葉や文に於ける実際の発音を表示する表層レベル での phoneticrepresentationに使用されるのみならず,それらを表出す る為に設定される,とする深層レベルでのphonologicalrepresentationに も使用される結果となった.それ故,これらの表示は,実際の発音という 観点から見ればお互いのレベル闘での連結は殆どない, と言え,この結果,
音声部門で生成される基底表示には多分に abstractrepresentation (抽象 表示)が許容されることとなったのである.従って,この抽象的な基底表 示と表層に現われる音声表示とを結ぶ役目として ruleが設定され,この
100 深層構造における抽象性
「規則」を使っ一ての TGPの分析法が大きく注目を浴びる結果となったの は周知の事実である. そこで規則の折りたたみや, 合成規則, 或は, 規 則の適用に関する順序づけが問題となり,こういった「規則の為の規則」
(rules for rules)は,基底表示における抽象表示と共に TGPでの重要 なポイントとなった.さらには simplicity即ち衝素化という概念から,
如何に規則を効果的に設定するかということが重要な問題点となった.
そこで, NGPは上述の様な基底部における抽象表示や, それを表層に 導く為の種々の規則,或は,
r
規則の為の規則」といったものに強く反論 するのである.先づそのーっとして, NGPにおける音韻論の位置であるが, TGPや伝 統的な音韻論の立場に対し,純粋に音声,音韻を扱う独立した領域とする.
即ち音韻変化というものはある条件,あるいは制約の下でおこるが,ここ で言うある条件や制約とは音声的,若しくは音韻(論〉的環境のことを言う のであり,文法を含む統語論を基礎として成り立つ領域ではない,とされる。
これは,音声過程を重視し,その言語の構造記述にあった surface true (表層忠実表示〉な記述をその基本理念とする NGPにあっては, 当然の 結果といえる.さらに surfacetrueという概念からすれば, TGPにおけ る抽象表示を含む abstractという概念は, 全面的に認めない, と言う結 果になるのである.
さて, ここで上述の si.mp1icity或は economy という概怠に基づいた TGPの分析により, データ言語の音韻を歴史的な形態音韻変化の面から 分析して抽象的な基底部の segmentを設定した例
ι
基底部で設定され た segmentがそのデータ言語の音韻目録に全く表出されない例を考察し てみよう.最初の例は, Menominiにおける2つの/立/という segmentの Bev‑
erの分析法に見出だすことができる仁
これは,この言語の音価
/ n /
が音声環境によって2つの異なったパターンを呈示する, と言うもので,あるノ
n /
は,非低前母音/ e /
と半母音/ y /
の前では/ s /
に交替し,又,ある/ n /
はその様な交替を呈しない,と いう音韻変化を扱った分析である. Beverは, この分析に関し, 二種類 の/ n /
の内, 口蓋化をおこすものは /(J/から, そして口蓋化をおこさ ないものを /n/から派生するとした. これは, /n/→/s/と/n/→/n/ というごつの変化を simp1icityという観点に立って考察した場合,/(J/→ /sん/n/→/n/として /(J/と/n/というニつの異なった基底形を設けた 方が, 双方に同じ/ n /
という基底形を使用するより理解し易い, という 立場をとった分析であるといえる.ところが,この分析は Kenstowicz&
Kisseberthの 指 摘 に も あ る 様 に 音 韻 的 に 動 機 づ け ら れ た も の で は な し 語案分析に基づく
/ n /
と/ s /
の支替を考慮に入れた分析なのである. という のは, Menominiには,歴史的変化として/(J/→/1/→/s/というのがあり,Beverの分析は,この変化を考慮に入れたものであると,言えるからである.
これ即ち,音韻分析に異次元のレベノレである歴史的語棄変化を導入して,
レベノレの混同をおこしている,と言え,さらに,表層表示
/ n /
に対する基 底表示に /(J/を設定する事は,/ θ /
と/ s /
との関係では一見得策の様に 見えるこの分析も,その/ s /
が/ n /
との交替形という音戸事実を見る時,/(J/と
/ n /
との音戸的関連という観点からの説得度は極めて薄い,と言える.それ故,この/(J/は音声的に動機づけられた基底表示とは認め難い,と言え るのである.その上,歴史的変化をもってしても, Proto A1gonquianの/(J/ が直接に /n/に融合したという事実はなく, /8/が, Proto AIgonquian の *1と融合して/1/となり,その内の幾っか,即ち吋から派生したも のはsと交替をおこすが,他の *1から派生したものはそのまま lとして 留まっている, というのが正しい歴史的変化である.これからも ,/(J/を
/ n /
の基底部に使用するというのは決して好ましい分析ではなく,分析を 単lこ簡素化する為の抽象表示である, と言えるのである.第2の例としては, Saportaの LatinAmerican Spanishの動詞の形態
102 深層構造における抽象性 変化の分析に見られるものである
この言語の動詞 crecer
r
成長する」は crecer [kreserJ と crezco [kreskoJに見られる様に語尾音がI s / " " / s k l
という交替をおこす.即ち,I s k l
という形態が一人称単数現在と接続法現在(全ての人称)に表われ る他は,全てI s l
として表われる, というのである.このI s k l
をもっ 形式は, 表層構造からでは見い出せない.というのも, 同じI s l
を含む 動詞 coserr
縫う」には, 上記の様な形態変化は見出だせないからであ る.Saportaは,この違いを説明するのに,下記の様な順序づけ規則を設定 した分析法を示している¥
Rule 1 V8
→ ー
V8kー ベ n
Rule 2 8→s
基底表示には,下記の如く
1 8 1
を含むものとI s l
のものとを設定する.crecer = [kre8er J coser = [koser J
そして上記の規則(1),(2)の適用に関しては下記の如くなる.
Ikre8+ol Ikre8+el
I k o s o l I k o s e l
rule 1 kreθk十o
rule 2 kresk十O kres十e
surface [kreskoJ [kreseJ 王[losoJ [koseJ orthographic crezco crece coso cose
この分析の問題点としては,この Latin American Spanishの方言の 音韻目録に見出だされる voicelesscoronal continuantとしては, [sJが あるのみで,表層レベルでの [8Jは存在しない, という点である,この事 は,音韻目録にない [8Jが何故, 基底部表示として使用されなければな らないのか, という点で問題となるのである.
以上見てきた様に,
TGP
の枠組では,表層表示に至る分析に於て, その基底形には抽象性の高い segmentを設定することも許容される.この ことは,いいかえれば,表層レベルで正しい音声表示が得られれば,その 基底形,及びそれを表層に導く規則は,音声的な見地からは重要視されな かった, と言えるのである.
ところが, NGPは, こういった TGPの分析に対して, 全ての音声規 則は,表層構造に対し,直接関係づけられねばならぬ, とすることにより,
TGPが許容する segmentの抽象性に対し,厳しい制限を設ける結果とな った.NGPは,可能な規別 (possiblerules)に対し,制限を設けることに より,話し手が言語の表層構造として生成する種々の音声に対する一般化,
そして音声過程を一層適切な音声現象として反映させようとした理論とい うことができる.このことは,いいかえれば,話し手のもつ competence を明確に映し出す機能を持った理論, と言うこともできるのである.
Hooper は,音韻規則において, TrueGeneralization Condition " (以 下 TGCと略す)と呼ばれる条件を設定している.これは,従来の TGP 理論がもっ抽象性に関する問題への1つの解答を示すべく設定された条件
と言えるが,この TGCとは下記の様な条件である.
A very strong constraint on rules would be one that does not allow abstract rules at all. It would require that all rules express trans‑ parent surface generalizations, generalizations that are true for aU surface forms and that, furthermore, express the relation be‑ tween surface forms in the most direct manner possible. ... The True Generalization Condition claims that the rules speakers formulate are based directly on surface forms and that these rules relate one surface form to another, rather than relating underly‑ ing to surface form.8
さらに Hooperは,基底表示と表層表示との関係は quitedirectでなけ ればならないと述べていることからも判る様に, TGCという条件下では3
前出の如き Menominiの/ロ/や LatinAmerican Spanishの動詞形態
104 深層構造における抽象I生
論に見られる/s/と/sk/の交替に関する TGPの分析は,完全に拒否され る結果を招来するのである.しかし,多くの生成音韻論と呼ばれあ既成の理 論ではこのTGCを容認することはできない.何故なら, TGPの基本原理 のーっとして,音韻規則は,音声的でなくてもよく,表層を導く為の一つの 手段であり,それ故,基底表示は抽象的な表示でもよい, と定義づけられ るからである.もっとも,この規則を含む「抽象性」即ち, abstractとい う尺度の幅においては, どの程度迄,この幅,即ち解釈を拡大するかとい うのが, TGPの問題点と言え,この解釈については,今度の改訂に多いに 期待がもてる点である10 そういった意味では, NGPに於いて, TGCに
よる abstractの完全廃止という分析は,これをして多少 radicalな ap喝
proachと評される11のは額ける点である.しかし乍ら,このTGCを設定 するからこそ NGPは, TGPとの関係に於いて,好対照として論ずるに 価するのであるz
次に,この TGCを支持するのに, どの様な改訂が必要であり, NGP はその為にどの様な方法をとったかを見てゆくことにする.
先づは,前出の如く, NGPは, 形態音韻論について基本的な改訂を試 みたのである.そのーっとして,統語論範鴎や怒意的な語案下位範障に対 して,抽象的なレベルで作用している規則を再考し,それに代わる規則と して,形態素の語葉表示に対して,それがもっ音韻表示は,その形態素が 表層構造として表示されない限り,いかなるレベルにも表われてくること
のない様,形態素の表示方法に制限を設ける.ここでいう規則とは勿論,
TGCに適合したものだけを言うのである.これは NGPが基底表示と表 層表示の関係より,表層表示における種々の表層間関係に重点をおいてい るからであり,いいかえれば,母国語話者が実際に使用する soundを 観 察し,それが使用される範囲に於いて,例えば, f昔用語やnonsenseword に至る迄,実際に表われる音価に従ってその適合規則を設定する,という結 果を生むことになる.これは,各言語のもつ事実に即した音価だけを考慮、し,
深層構造における抽象性
事実に反するものは全て除外する,という点で, TGCを設けることになり,
これを基礎としての分析を提唱することになるのである.この TGCの下 での規則,或いは possiblerulesという概念に対する取扱いは,ある一定 の明確な規則タイプを生じる結果となった.これらは,三つの主要規則,
phonetically conditioned rules (P‑rules), morphophonemic rules (MP‑
rules) ,そしてvia‑rulesと呼ばれるものと,三つの副規則, morphological spell out rules, word formation rulesそして syllabi五cationrulesと呼 ばれる規則である圃ここで,先づ上記の副規則から簡単に説明する.
morphological spel1 out rulesというのは,英語の複数形態素である /z/のような抽象的な形態素に対し,音韻形態を与える規則である.
NGP
では各々の形態素が常に1つの基底音声表示をもったものとする必要がな く,これをして抽象形の表出を避けているのである word formation rulesとは,語を形成する形態素的要素とそれに対する順序を規定する規 則である.そして3番目の syllabi五cationrulesとは音声連鎖にsyllable boundaryを設定する為の規則である.
次に主要規則を見てゆくことにする.
P‑rulesとは音声的に条件づけられた規則である.これは,純粋に音声 的な項目について,それを指定することができる音声環境下におこる交替 を記述する規則であり, これには音声的手段で決定される phonological featureをはじめとして, syllable, pauseを含む boundaryも含まれる.
即ち,これらには,話者の調音における生理的条件や調音能力の実際に即 したもので,音声的情報を含むもののみが取扱われ,究極的には,発音の 法則, 調音を形成する要素だけがこの規則で取扱われることになる. Ho‑ operはこれを"P‑rules describe processes governed by the physical properties of the vocal tract町へという様に記している.これは, natural process (自然過程〉とは,規則的に表層で観察され,音声交替もそれを正し
く音声的に動機づけられた場合に限る, ということを表わした規則のこと
106 深層構造における抽象性
を言っているに他ならない=この結果,このP‑rulesには如何なる例外も 認められないこととなった.この方法論は Stampeの提唱する natural phonologyの制約をさらにおし進め, P‑rules即ち processにあっては 規則は,完全に unsuppressibleである, とした点で興味深い13
P‑rulesで取扱われる例としては, 英語の cooと keyの間で生じる jkj→jkヴへの口蓋化現象などがある.
次に morphophonemicrules (MP‑rules)を見てみよう.MP‑rulesは 言語の「音と意味」の関係に関与し,この規則は, Ianguage specific,即 ち,特定の言語についての特有な規則であると,言える.又,この規則は,
非音声環境における,形態音韻素性の交替を支配する規則であるので,当 然例外が生ずることは許容されている.これらの中には,名詞の複数形や,
動詞の過去形といった動調の形態変化形等が含まれるが,こういった環境 は,形態統語論や語禁論の中で,形態統語的,或は,悲意的語業範曙とい った領域で取扱われるべきもの, とされている.しかし,基底表示には,
NGPの原理に基づき,表層における異形態にかかわらず, 実際に生じる 素性のみを含むものとする.例えば,英語のある語蒙に生じる複数形にお ける摩擦音の有戸化といった様な例,これ等が MP‑rulesにより支配さ れる.つまり house:houses, knife: knivesと caIf:caI vesなどがそ れであり,これは,ほんの一連の語素だけがこの規則を受ける為,語素的 にマークされなければならず,従ってこれらは,語実目録に入力される.
さらにこの規則は複数形だけに適用されるものであるから,これらは形態 音韻目録にも入力されるものとする. 他の例としては electricと巴lec‑ tricityという英語の形容詞, 名詞間におこる有名な krvsの交替があり,
これも当然 MP‑rulesで取扱われる.TGPには,言語のもつ事実に即し て如何に規則が設定されねばならぬかという強い制約(例えば, NGPに 於ける TGC等)は無かった.それ故「音声的に条件づけられた規則Jと
「非音声的に条件づけられた規則」といった明確な区別はできなかった.
深層構造における抽象住
しかし乍ら, ここにおいて, NGPでは P‑rulesとMP‑rulesを設定す る事により
r
過程と規則J(process and rules) としての上記の区別が 成し遂げられた, と言えるのである.主要規則の三番に挙げた規則で, NGPの枠組にあって,興味ある vla‑ rulesという規則を最後に見てゆくことにする.
via‑rulesとはAとBとの関係をある環境Xを通して関係づける規刻で ある.例えば, phonological via‑rulesを用いて,語嚢関係を記述するこ とができる.しかし,これは単に非交替形態素の語葉形態と表層表示とを 直接連結するのに用いる為3 生成的な規則とは言えず,又これによって,
通常の派生関係も表わすことはできない.ここで via‑rulesとはどういっ た規則かを Hooperが挙げている SpanishChicano dialectsにおける同 族語案間にみられる二重母音化の分析, という実例を通してみてみよう14
poblacionという語棄は
r
人口,市」を意味する語であり3 こ れ は「国民,村」を意味する puebloや
r
小さな村」を意味する pueblito と意味の上で類似があることが察せられる. しかし乍ら, 音韻の点で,二つの語幹上では, jpobl‑j jpwebl‑jの様に差異が認められる.こうい った場合の意味と音韻の類{以形の関係を表わすのが via‑rulesであり,そ れは下記の様な規則である.
。 ] ‑ ‑ + [ ~~ ]
jI
十STRm]日[~→|Y: 川 +VERB i
LH~ .J I +D
via‑rulesに於いては,環境を表わす素性群に先行する
r
/Jは意味を持 たない16 又r
→」は,形態音韻論にあっては, iswritten as と解 釈されるのが普通であるが,この規則では is related to"と解されるものとする.従って,上記の規則は, poblacionの jpobl一/と pueblo,
「十STRESSl
pueblitoのjpwebl‑jは ! 十VERB という環境下ではお互いに関係
L
+D Jがある, と解されるのである.この同じ分析は, 以前 Harrisに よ っ て
108 深層構造における抽象性
TGPの枠組でなされたのであるが17 彼は,上記3つの語嚢に対する基 底形を [pobl‑J18とし, [pwebl‑Jという表層表示は,二重母音化規則を 経て表出されるものとした.しかし,前出の如く, NGPでは,基底形も 常に surfacetrueでなければならず, Harrisが用いた様な基底形jpobl‑j
は,これ又抽象形とみなされ,許容されないのである.さらに al con開
tado (現金で)と cuentar(数える〉 という異品詞聞におこる音韻変化を も via‑rulesを通してその関係を表わす事が出来, Harrisが試みた様な [contarJという二つに共通の基底形を設定して,名詞句と動詞とL寸 直 接 意味関係が成立し難い関係に同一基底形を示した TGPの分析を否定して いる.NGPでは,種々の表層形に同一基底形を設定する必要を認めないの で上例の如きは, cuentarは, jkwent‑jと,基底形にも既に二重母音表示 を与えておき, al contadoはjcont‑jとして,個々に語業百録に入力する.
その上で,お互いに関係があるとして,動詞jkwent‑jと名詞句alcontado における jkontー/との関係を via‑rulesで関係づけようとするのである.
これによって,名詞句と動詞という異なったレベルを結ぶのに同ーの抽象 基底表示を設定する,という分析は避けられることになるのである.Hooper は又,via‑rulesとは, 名詞や形容詞の様な語業交替を含む非生産的な突 替形を表わすのに設定された規則で,これは,動詞の形態変化を含む生産的 形態音韻交替を取扱う MP‑rulesに対する規則である, とも言っている19
この章における最後として, surface trueという NGPの観点に立った 規則の順序づけに関する問題を見てみよう.
TGCと共に,もう一つの重要な条件として NGPは,生成される規則 の適用に関して No‑OrderingCondition (以下 N‑OCと略す〉という条 件を設定する. TGPは,規則のIJ買序とその適用に関して strict linear orderingとそれに対する cyclicapplicationという方法論を確立した.こ れにより音韻連鎖は, bracketで区分され,統語構成素に分析される規則は,
一番内側の bracketから外側へと循環的に適用される. さらに外的順序
(extrinsic order)と呼ばれる特殊な環境における特別順序をも許容した.
これは,規則適用に関する極めて強力な理論であると言えるが,
NGP
は, これに反して,同じデータの分析に於いても,この様な強力な理論は良し としない.NGP
では,各々の規則は,それ以前の規則の出力に対してSI‑multaneouslyではなく, sequentiallyに適用されるとし,その規則に於け るextrinsicorderingは認めず,又,ある規則に対しての一度限りの適 用といった制眼も設けない.しかし乍ら規則は,それの適用以前には必ず その構造記述に適合していなければならないとする.この条件により,音 韻論における absoluteneutralization (絶対中和)20や
TGP
に於いて生成 される則規とそれの抽象形態との関係を,効果的に排除することができる 様になった, と言えるのである.さらに規則の順序づけをもって種々の音 韻規則を解決してきたTGP
に対し,NGP
ではN‑OC
により,前出の如き extrinsic orderといわれる bleedingorder (奪取I1贋序), counter feed‑ ing order (反投与I1頁序),それに counter bleeding order (反奪取I1民序) といった,特別な順序づけを認めない21 これは規則A, Bがあった場合,規則Aの適用後に適用されるとする規則Bは,その構造記述が適合する迄 適用不可能である為,規則Aが規則JBの適用以前に必らず適用されなくて はならない,という制約を記述する必要がなくなったからである.それ故
NGP
では,自然I1買序と目される feedingorder (投与順序〉のみが許容され ることとなった.これは,一見TGP
に対しては徴弱な理論の様に見える が,前述のTGC
,N‑OC
という二つの条件を設定することにより surface trueという概念を確立しようとしている理論であることを鑑みると決して 弱い理論とは言えない.即ち,自然過程を重視した枠組を用い,抽象形の 排除或いは音韻論の位置などの問題に対して一つの解決方法を示したという点で,強力な理論であると言えるのである.
110 深層構造における抽象性
3 NGPの 日 本 語 デ ー タ へ の 応 用 試 論
前章では, TGPと比較しながら, NGPの概略を見てきた.ここでは有 名な日本語の jtjの異音に関する TGPの分析を挙げ,それを NGP で はどの様に取扱われるかを考察してゆくことにしたい.
日本語のjtjは,その音声環境,即ち,高舌前及び高舌後母音の前では,
それぞれ [cJ,及び [cJ と具現されるのは周知の事実である.この音韻 変化は,特に jtat‑j (立つ〉 という動詞の語幹に於いて [tac‑i‑masm],
[tac一 回 一tokiJ,[tat‑e‑ba]の様に形態音韻論的変化をすることで知られて
いる.ここで,このjtjを Chomsky
&
HalleのSPE
のdistinctivefea‑ tureで見ると下記の様になる22jtj jcj jcj
high +
ant + 十
cor 十 + + deI rel 十 十
str 十 +
高舌前母音 [i]の前で生じる [c]は, [i]の前での歯音が口蓋化を起 こした結果として,他の言語にもこの種の例は見出だすことができる23
それ故,これは,自然過程として取扱われ,音声的に可能な規則として下 記の如く記述できる.
[ +
一 →な
][+delrE11[+sy111
+str1
j̲ 1
+highL
‑ant JL
‑back Jところが,上記の規則に対し, 高舌後母音[羽]の前での [cJの具現 は,前述の口蓋化の様に自然音声過程である,と簡単に言うことができない.
勿論,この音声変化,即ちjtjがjcjに変化する,という過程のみならば,
[tJの破擦化の結果生じたもの,ということになるのであるが,jtjを基準
深層構造における抽象性
とした場合の
/ c /
と/ c /
との関係が問題になるのである.BachとHarrnsもこの t→c/̲uという /t/の破擦化規則は,以下の 理由によって不自然な過程を経て生じたものであるとしている24
先づその理由の1つは至って簡単,こういった過程は,彼等にとって余 111
り馴染がない音声過程であるからだと言い,他の理由は上記
/ t /
の口蓋化 規則t
→c / ̲ i
と,/ t /
の 破 擦 化 規 則 →c/̲uという二つの規則の折り たたみを設定した場合に問題がある, とするのである.この二つの折りた たみ規則とは3 次の様な規則である.寸1
1J
?i ll
﹂l
市K;hz u u g m ω
可Hb
十
+ α
﹁i1111L
︐r '
J
﹁1
11 1l il J
l ρしUV
予i
&a
d rヨ ‑ 巾
唱d
UE
ψE
+ + α
﹁1
ii i1
││﹂
↓ 寸llJnr
o ο
cupL
一 +
﹁1111L
Chornsky
&
Halle素性で示した如く/ c /
と/c/はそれぞれ [antJに お い て + で あ る . こ れ を 上 記 の 様 な 折 り た た み 規 則 に か け た 場 合 ,[antJ, [backJ という素性の一致を必要としなければならず,この二つの 素性は,互に相反するものである為,これの一致,即ち assirnilation は 成立し難い点で問題がある, と言う.故に,この規則は不自然であり,彼 等はこういった言語にまれにおこる規則を crazy rule" と呼んでいる
のである.被等のいう crazyruleとは次の様なものである.
Languages have rules which are plausible or which can be derived frorn plausible rules by a sequence of steps involving (arnong other things) sirnplification, but in the process rules can becorne highly irnplausible. In short, languages have crazy rules. This fact is inexplicable if sirnpli五cationis constrained too rnuch by plausible conditions.25
この点に関して Hooperは,破擦化された /t/が /u/の前で /c/と 具現されるのは, BachやHarrnsがいう程不自然な過程ではない,と言い歩 彼女は,調音,即ち自然過程という観点から次の様に述べてい忍.
112 深層構造におげる抽象住
Actually, there is a rather straightforward phonetic explanation for th巴 affricationof /t/ in th巴 transitionto the high back vowel. In anticipation of th巴highvowels, the tongue is high; when the coronal consonant is released, the tip of the tongue is pulled straight back for [wJ, creating friction at the alveolar ridge, and thus affricatIon. Viewed articulatory, the process does not seem unnatura1.26
Hooperの説明に加えて, 日本語の /u/ば非円唇性をもった [w]であ る点をさらに強調すれ(ま¥ この非円唇性が:口の張接イ七を一層促進し,こ の為i乙 通 常 の tu‑とならず¥ =cw] と具現されると音声学的に解釈で きるのである.
さらにこれら二つの規則{え 日本語では例外のない規則的な音声変化で ある圃 ょこのことは93i1,CcmJがヲ 以下lこ示す如し名詞, 形容詞とい った語素;こも語頭,語中,語草lこ規則的に表出する点から,単に動詞の形 態音韻変化:こだげ浪ったものでなくヲ基本的iこunsuppressibleな過程で ある, と言える.
[CikaiJ 近い [cw['w~
[ma5<igaiJ 間違い =acwiJ 謬tい Ckwci] 口 Cki['icw] 規律
以上の様lこ見てくるとう TGPの問題点は/<5/,
/ c /
に対する基底形を 共通の/ t /
とする点,そしてこの/ t /
より口蓋{t"及び破擦化規則を通 して/さ/,/ c /
が生成されるとする点で,その為の折りたたみ規則の設定 が問題となり,これをして crazyrule とLイ範曙に嵩ずる結果となるの である.Hooperば,前出の如く /c/の表出も P‑rules,郎ち,自然過程 として取扱うべきである,と主張はするが,/ t /
に対する /E/及び/ c /
と いう関係についての問題にf主一切ふれずしてこの議論を終わっている.そこで, /t/との関係(こ注目して, ここで主lは吋vア寸la‑イ:uleの 可 能 性 を 考 察
してみよう.先づ jtjとjcijjcujという関係を示した以下の via‑rule を設定する.
[tJ
→ [ 斗 J j 日誌]
これは, via‑rulesの拡大解釈として9単に語嚢関係を通しての音韻変化 という情報のみならず,音声変化という情報をも取扱おうとするのである。
' ' ' ' ' ' j d
u c
rf
'J
'
門U及
/ /
vC
//Jd
てし通を係関
h﹁ ノ
︑ ︑
﹀ ﹂
﹁1
11 11
﹂1
hI X
J
叫 旧 官 邸
勾 十E b
+ + α
F1 11 11
1﹄
カ
/ / J
十L/fJ
ふ4で
然当
に関係づけられる,という音声的事実のみを示しているにすぎない.従って,
音韻規則の様に ,jt/という基底形を設定して jcj及 び jcjという seg‑ mentを生成する際に於ける様な,各 segmentがもっ素性や,それを含
b折りたたみ規則といったものはp この規則では問題としない.即ち,各 各の segmentは P‑rulesで取扱われるべきであるから,この規則では3
単にそれらの関係を,その言語がもっ特別な音声変化情報のーっとして,
この via‑rulesに入力しておこうというものである. 日本語の様に mora が基本的音韻単位である言語では,jtaj, jcij, jcujという音韻結合が重 要な音韻単位と見倣され,この jtjに見られる様に 1つの segmentが, あるXのrowにおいて各母音との結合,という音声環境が, Y, Zという 異った moraを具現する結果となるので,これらの moraとしての音韻 結合が当然重要な情報となる.このことは, jcij: jtiんjcuj:jtujといっ た音韻的対立がない日本語に於いて ,jtij, jtujといった moraの表出は,
ある借用語における表出以外は,極めて奇異に感じられることからも容易 に察せられる.従って,その言語のもつ音声言語事実という観点からすれば,
日本語の場合,単に jtj,jとん jcjという個々の segmentの重要性もさる ことながら ,jtjがji,ujという母音との結合の結果 [tiJ[tmJではなく,
[6J, [cmJと具現され, これは [taJ,[teJ, [toJ と同じ rowに属する moraであるという情報は頗る重要なもの,と言うことができるのである27
114 深層構造における抽象性
以上の如く考察してくると, phonological via‑rulesの他に phonetic via‑rul巴Sという類の規則も設定されてよいことになり, この章での /t/ に関する via‑rulesは, 日本語分析における phoneticvia‑ruleという一 つの試論である, と言うことができるのである.
4 終 論
以上観てきた様に,既成の TGPモデルは強力な分析法といわれる理論 を持ちながらも各言語特有の音韻規則は必らずしも透明な規則ばかりとは 言いがたく,基底形には抽象度の高い表示を使用し,それの表層への表出に は種々の規則に依っている場合が多く認められた28 こういった中にあり,
NGPでは, TGCを設定することにより表層表示に現われない抽象的な segmentは全て排除する, という抽象性に対する一つの方向を示した.同 時に,規則は, N‑OCをもって intrinsicorderである feedingorderのみ に限定する.これは自然言語の分析を言語事実に基づいて行うという言語 学の本質に戻った考え方と言え,この原理に基づく限り
r
規則の為の規 則」などという変形生成理論にありがちな概念を排除しようとしている点 で大きな進歩である,と言わねばならない.というのも TGPでの規則とは,基底形から表層表示を得る為の手段であると同時に,これは又,言語の話 者が後天的に獲得する知識である, と定義づけされている概念であるから である.しかし音声過程では後天的獲得知識とはどれを意味するのか暖味 な概念で, TGPの如く,音韻規則も後天的獲得知識として「規則」とい
う概念の中に含めて考えるのは今後の大きな問題と言わねばならない29
この点に於いて,生得的に自然過程で得られたものをprocessとし,後天 的に得られた知識を ruleとして,それを具体的に P‑rulesとMP‑rules
として区別して考えるという NGPの理論は,上の問題に対しても 1つの 解答を示したもの, と言うことができる.
しかし,本論で概観してきた Hooperの NGP理論も誕生したばかり
で,実際の言語への応用例もまだ少ない.それ故,近い将来この理論の枠 組について種々の問題も提議されることであろう.又序論に述べた如く,
続続と新しい理論が誕生している現在, 80年代の音韻論の世界は一つの転 期を迎えようとしている, と言っても過言ではない.しかしながら,こう いった時代にこそ,音韻論の本質が何であるかを見極め,言語事実に却し た分析,即ち自然過程を重視した分析が如何に重要なポイントであるかを 改めて再考すべきである.この点では, NGPは一つの示唆を与えてくれ た理論である, という点でおおいに注目すべきである.この意味で,本論 の抽象i生に対する問題と,それについて一つの方向を示している NGP理 論の紹介が,少しでも今後の音韻論の方向というべきものを考えるのに役 立つことを願って論を終えることにする.
注
1 各理論については, D. H. Dinnsen (ed.), Current Ajう'proachesto Phonolog‑ ical Theory (Bloomington and London: Indiana University Press, 1979)及び,
Leben & Robinson,Upside‑down Phonology," Language, LIII (1977), 1‑ 20を参照の事.
2 E. C. Fudge, Phonology," 'Lyons (ed.), New Horizon in Linguistics (Harmondsworth: Penguin Books, 1970), pp. 90‑91及 び N.Chomsky & M.
Halle, The Sound Pattern 0/ E叩glish(New Y ork : Harper & Row, Publishers, 1968), pp. 77 ff.参照.
3 M. Halle, The Sou河d Pattern 0/ Russia刀 (The Hague: Mouton, 1959), p.24.
4 M. Kenstowicz & C. Kisseberth,が Topics仇 PhonologicalTheory (New Y ork: Academic Press, 1977), p. 59で述べている如く en‑凸hnet ifhe walks hither"は巴s‑ya‑t ifhe goes hither "の如く /y/の前では n→sとい う音韻変化を起こすが,一方 o‑t拍‑an"his daughter"は o‑t孟n‑ew he has a daughter"に見られる如しこの /n/は/邑/の前で n→sという変化はお こらず n→nの如くなる.詳細については ,ibid., pp. 59‑62を参照.
5 Kenstowicz & Kisseberth, op. cit., p. 61.
6 S. Saporta,Ordered Rules, Dialect Differences, and Historical Processes,"
116 深層構造における抽象性 Language, XLI (1965), 218‑224.
7 S. Saporta, ibid, 221及び].Hooper, An Introduction toNatural Generative Phonology (New Y ork: Academic Press, 1976), pp. 6, 7, & 13を参照のこと.
8 Hooper ibid., p. 13. 9 Ibid., p. 20.
10 TGPがもっ abstractに関する問題は Kenstowicz& Kisseberth, 0ρ cit., pp. 1‑62にその批判を含む説明が詳しい. 彼等はこの問題に対して A" ,Fの6 つの条件を設定し,各種の言語からの例を使って問いかけてくる.そして, The problem of abstractness thus remains one of the most important issues facing contemporary generative phonology"(ibid., p. 61)と述べていることからもこ の問題の重大さが理解できる.
11 M. Kenstowicz & C. Kisseberth, Generative Phonology (New Y ork : Academic Press, 1~79) , p. 219.
12 Hooper, op. cit., p. 12.
13 Stampeの naturalphonologyでは, processはsuppressすること,或いは,
他のprocessの順次適用により部分的にsuppressすることができ,これによって 表層での例外は,ある程度迄容認できるとしている.これについては].Hooper,
Substantive Principles in Natural Generative Phonology," Dinnsen (ed.), op. cit,・p・107を参照のこと.
14 ]. Hooper, oJう.cit., pp. 47‑48.
15 この規則にある D" IまDiphthongization(二重母音化〕をおこす母音とそ うでない母音を区別する為の diacriticであり, (十DJは diphthongizeする母 音を表わしている.cf. Hooper, op. cit., p. 43.
16 音韻規則にある f/Jは inthe environment of "と解釈されるのは周知の 事実である.
17 ].羽T.Harris, Spanish Phonology (Cambridge, Mass.: The M. I. T. Press, 1969), p. 24, pp. 125‑127及び p.161等で, Spanishの二重母音化規則として の記述があるので参照のこと.
18 ここで使用されている (PObl‑Jの大文字の 0"は str巴ssが な く て も diphthongizationを,即ちO→weをおこすsegmentを表わしている.cf. Harris. op. cit., p. 24, n. 13.
19 Hooper, op. cit., p. 48.
20 Absolute neutralizationとは,根底にある表示のレベルで設定された区別が常 に消失し同ーのものとなって表出されるもので, 本論の Saportaの分析による Latin American Spanishにおける 0→sという音韻規則は基底表示の/()/が
常に /s/となって表出するという点で absoluteneutralizationの例,と言う ことができる.しかし,この墓底表示は abstractsegmentである為,表層との関 係に於いて,上述のabsoluteneutralizationという概念は,音声的事実としては生 成されてないことになる.Chomsky & Halleは,SPEでこの absoluteneutrali‑
zationを認めるが, HooperはNGPでこれを否定し,彼女以前では, P. Kiparsky, が HowAbstract is Phonology?," O. Fujimura (edふThreeDimenszons 01 Linguistic Theory (Tokyo: TEC Company, Ltd., 1973), pp. 24 & 30で,こ れを否定している.
21 規則の順序に関しては, P. Kiparsky,Linguistic Universals and Linguistic Change," Bach and Harms. (ed.), Universals π Linguistic Theory (New Y ork: Holt, Rinehart and Winston, Inc, 1968), pp. 196‑200にfeeding,bleed‑ ing orderについての記述があり Hooper,op. cit., ch. 5で, N‑OCと関連さ せて詳述している.
22 ここで使用した distinctive featureは Chomsky& Halle, op. cit., pp. 176
‑177を参照.
23 /t/のpalatalizationとしての/c/は, Brazi1ian Portugueseにも見出だされる.
24 E. Bach & R. Harms, How Do Languages Get Crazy Rules?," R. P. Stock‑ well & R. K. S. Macaulay (eds.), Linguistic Change and Generative Theory
(Bloomington & London: Indiana University Press, 1972), p. 14. 25 Ibid., p. 6.
26 Hooper, op. cit., p. 135.
27 日本語にモーラという概念がなければ, /t/, /とん /c/は各々 P‑rulesで音韻 目録に入力されていれば十分である.しかし,モーラという観点、に立つならば,
/ta/, /6んそして /cu/は/t/行の音韻, (即ちモーラ〉ということになり,/t/ が /i,u/との結合で/己i/,/cu/という具現形をもっ音声事実を /t/,/c/, /c/
との間で関連づけが必要となる.
28 Saportaの LatinAmerican Spanishの例も, Rule 1, & 2とこの規則のj眠 序づけが必要となり,この順序づけがなければ,正しい表層表示が得られないこ
とになる.TGPでの規則の順序づけの例としてはR.Harmsが Introductionto Phonological Theory (Englewood Cliffs, N. ].: Prentice‑Hall INC., 1968), pp. 48‑54でフィンランド語の例を使って記述している.
29 例えば, [Ci], [c田]が/t/より規則をもって生成されるとすれば,日本語の話 者は先づ[ti],[tu]という moraを獲得して,その後,それを日i],[cUI]に交替 されるということになる.では乳幼児が全て「お乳J
r
爪」を先づ[otiti],[t田me]と発音した後, それを [oCici],[cUIme]とEしく発音するか, と言うと決して
118 深層構造における抽象性
そうではない.このことからも音声変化を規則で扱い,それを後天的獲得知識と するのは亙しいとは言いがたい.