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国立大学の規模と範囲の経済性 : トランスログ・ モデルによる推定

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モデルによる推定

著者 菅原 千織

雑誌名 經濟學論叢

巻 61

号 2

ページ 369‑392

発行年 2009‑10‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012501

(2)

【研究ノート】

国立大学の規模と範囲の経済性

―トランスログ・モデルによる推定―

菅 原 千 織  

1 は じ め に

 1999年,わが国の国立大学の数は99校であった.それが10年を経たいま,

その数は86校(大学院大学を含む)に減少している.この間,国立大学のあり 方が大きく変わった.2004年,「国立大学法人法」の施行をもって,全ての 国立大学は独立行政法人の一部である「国立大学法人」となったのである.

それまでの国立大学の活動経費は,国の事業の一環として国立学校特別会計 によりその歳出予算が決定されていた.各大学で徴収される授業料収入や付 属病院収入なども国立大学特別会計の歳入として計上され,すべて国の予算 管理の下にその活動が行われていた.しかし,国立大学が法人格を得てから は,各大学で徴収される授業料や付属病院収入などは各大学固有の財源とな り,それに加えて国から個々の大学に運営費交付金と施設費補助金が交付さ れるかたちとなった.特に,運営費交付金はその使途に制限が無く繰越も可 能であり,法人化前よりも国立大学の財務的独立性をいくぶんか保障するも のとなっている.このように,国立大学は,組織運営の責任をともなった財 政措置の裏づけのもとに法人化されることとなったのである.

 このような改革を前に2002年10月,山梨大学と山梨医科大学が統合した のを皮切りに国立大学の再編・統合は推進され,現在,国立大学の統合は14

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件を数えるまでになった.これらの統合は「遠山プラン1)」に従い,いずれも 医科大学などの単科大学と総合大学・複合大学との間で行われている.しかし,

何のための再編・統合なのか疑問が残る.教育や研究の充実(活性化)のため か.大学経営の合理化のためか.それとも,ただ多すぎるからなのか.

 本研究では,大学経営の費用面での合理化という観点からこの問題を捉え たい.こうした主張には,国立大学という産業には規模の経済性が存在する という前提が暗黙のうちに置かれている.同時に,国立大学は,学部教育の 場,大学院教育の場,さらに研究の成果を生み出す場であるという3つの役 割が求められており,これらを分離,独立させようという動きはない.ここ にもまた,範囲の経済性の存在が前提として置かれているようである.高等 教育機関に規模や範囲の経済性が存在しているかどうかという研究は欧米を 中心に数多く行われているが,わが国についてはいまだ研究の蓄積は不十分 で,はっきりとした答えが出ているわけではない.そこで,本稿では国立大 学の再編・統合に関して,国立大学の費用関数を推定し,規模や範囲の経済 性が存在するか否かについての,検討を行う.

 規模の経済性と範囲の経済性は,その産業が持つ技術特性や産業政策の あり方を考える上で重要な指標である.ここで,規模の経済性(Economies of

Scale)とは,投入量(インプット)の増加以上に生産量(アウトプット)が増加

する割合のことを言う.規模の経済性が認められるならば,規模の拡大は平 均費用の低下をもたらし効率的な生産を可能にする.このことは,大学が再編・

統合を通して1つの大きな大学になることが費用効率の観点から望ましいか どうか,という判断材料を与えてくれる.一方,範囲の経済性(Economies of

1) 20016月に発表された「「大学(国立大学)の構造改革の方針」.当時の文部科学大臣遠山

敦子氏が経済財政諮問会議で説明したことから「遠山プラン」として知られているが,これは 次の3つの柱からなる.(1)国立大学の再編・統合を大胆に進める.(2)国立大学に民間的発 想の経営手法を導入する.(3)大学に第三者評価による競争原理を導入する.これらは単科大 学(医科など)の他大学との統合を進め大学の活性化を図ること,国立大学法人へ早期に移行 すること,トップの大学を世界最高水準に育成するため,評価に応じて資金を重点配分すること,

などを目標に掲げている.

(4)

Scope)は,複数の異なるアウトプットを生産する場合に,それらを別々に生 産するのと同時に生産するのとでは,どちらが費用効率的かという問題に重 要な示唆を与えてくれる.大学のケースでは,学部教育と大学院教育に範囲 の経済性が認められるなら,総合大学が推奨され,学部と大学院を別々に運 営した方が費用効率の観点から優れている(範囲の経済性が存在しない)のなら,

独立大学院(あるいは大学院大学)のような形態が望ましいということになる.

 これまでにも,わが国で多くの研究がこうした指標の計測を行ってきた.

特に,電力産業や銀行業,証券業など,自由化の必要性が考えられる規制産 業での研究が多い.その理由は,規模の経済性や範囲の経済性が認められる ならば,当該分野での自由化を進めること,すなわち,生産規模の拡大や業 務の多様化の推進することが,経済全体に大きな利益をもたらすと考えられ るからである.

 これまで,わが国の国立大学を対象にした規模や範囲の経済性の計測が,

妹尾(2004)や中島ほか(2004)や山内研究室(2006),菅原(2008)などで行 われてきた.また,私立大学についてもHashimoto and Cohn (1997)で同様 の研究が行われている.いずれの研究においても,FFCQ(Flexible Fixed Cost

Quadratic function)モデルという二次関数に2,3のダミー変数を加えたモデル

が推定に用いられている.しかし,他の産業の実証分析では規模や範囲の経 済性を計測する方法としてChristensen, Jorgenson and Lau (1973)により提案さ れたトランスログ型の費用関数が,しばしば推定に用いられてきた.その理 由は,この関数型がコブ・ダグラス型をその特殊ケースに含むより一般的な 関数型であり,生産関数や費用関数の推定で安定的な推定値を得られること が広く知られているからである.この研究分野の諸外国における高等教育機 関の実証分析には,De Groot,McMahon and Volkwein (1991),Glass,McKillop and Hyudma (1995),Nelson and Hevert (1992)などの研究がある.そこで,本 稿では国立大学を対象にトランスログ・モデルに基づく費用関数を推定し,

その規模の経済性や範囲の経済性について検討を行う.

(5)

 また,わが国の先行研究における本稿の位置づけとしての新たな試みは,

次の3つである.第一に,費用に関して,従来の経常費用,それに資本コス トを加えたもの,さらに大学の保有する付属病院の診療経費を考慮したもの を導入したこと.第二に,トランスログ型の費用関数を分析するとともに,

それをベースにパネル・データ分析でよく用いられる固定効果モデルや変量 効果モデルヘの拡張を試みたこと.第三に,規模と範囲の経済性を計算する だけではなく,それが統計学的に支持されるかどうかをWald検定によって検 証していることである.

 以下,本稿の構成は次のとおりである.第2節では,本稿で用いるモデル とその分析方法ついて説明する.第3節では,分析対象となるデータについ て説明する.第4節では,推定結果を示し,その考察を行う.最後に第5節 で本稿のまとめを述べる.

2 モデルと分析方法

 規模の経済性と範囲の経済性の指標を計測するには,まず費用関数を推計 しなければならない.一般に複数の生産物を生産する企業の費用関数は,以 下の式で表される.

    C=C(y1, y2,・・・,ym, p1, p2,・・・,pn) (1)  

ここで,Cは総費用,yi(i=1, 2, ・・・, m)は第i生産物の生産量,pk(k=1, 2, ・・・, n) は生産要素kの価格である.この分野の先行研究の多くは,単年度のクロス セクション・データ,もしくは数年の短い期間のパネル・データを用い,生 産要素価格については個々の大学が共通の価格に直面していると仮定するこ とによって生産要素価格を費用関数から省いている.本稿でも先行研究と同 様に国立大学の生産要素である教員や職員の給与などには,法人化後も大学 間に大きな差異はないとして,生産要素価格を省略した費用関数を扱う.また,

Cohn, Rhine and Santos (1989)をはじめ多くの先行研究では,大学の生産物と

(6)

して学部教育Yu,大学院教育Yg,研究活動Yrの3つが用いられている.本 研究でもこれらの生産物を踏襲する.すると,ここで分析対象とするMulti- production Modelの費用関数は(2)式のようになる.

    C=C(yu, yg, yr) (2)  

 次に,この費用関数の具体的な関数型を決める必要がある.わが国の先行研 究では,いずれも(2)式の二次近似式にいくつかのダミー変数を加えたFFCQ モデルの推定を行っているが,菅原(2008)では,FFCQ型費用関数のパラメー タ推定値は不安定であることが示されている.そこで,本研究ではトランスロ グ型の費用関数を用いる.トランスログ関数は一般に次のように示される.

    lnC=α0

i αilnyi+1 2

i

jβijlnyilnyj (3)  

一般にトランスログ・モデルは企業の費用関数や生産関数の推定で安定的な 結果を得やすいことが知られており,企業の研究でよく使用されている.また,

コブ・ダグラス型など他の関数型をその特殊ケースに含む,よりフレキシブ ルな関数型であることもその特徴の1つである.さらに,本稿ではこのトラ ンスログ型費用関数をベースに,パネル・データ分析でよく行われる固定効 果モデルと変量効果モデルについても推定を行う.固定効果モデルは,個々 の大学の事情を考慮して大学ごとのダミー変数を(3)式に加えたもので,ト ランスログ型費用関数よりも一般的なモデルであるといえる.また,固定効 果モデルのように非確率的な大学別ダミー変数ではなく,確率変数として個々 の大学の事情を考慮したものが変量効果モデルである.

 推定された費用関数のパラメータから規模の経済性と範囲の経済性が計算 できる.生産物が複数である場合,すべての生産物をt倍に増やしたときに 費用がt倍以下にしか増えないならば,規模の経済性があると定義できる.

これをモデルで表すと次のようになる.

(7)

    

lnC

∂lnyi

i

βiklnyk)<1 (4)  

したがって、次の条件をみたすとき規模の経済性が存在するといえる。

    SAL=

i

βiklnyk)−1<0 (5)  

 ここで,(3)式において各説明変数が標本平均で指数化された後に対数変換 されていることを考慮すると,標本平均を基準とする規模のとき,すなわち,

lnyi=0ととなる基準時点では,

    SAL

αi−1<0 (6)  

をみたすとき,規模の経済性が存在するということになる.一方,特定生産 物についても同様に,特定の生産物をt倍したときに総費用がt倍以下にしか 増大しないとき規模の経済性が存在すると定義でき,次のように表すことが できる.

    SALi=∂lnC

∂lnyi<1 (7)  

したがって,次の条件をみたせば,規模の経済性が認められる.

    SALi=αi−1<0 (8)  

 範囲の経済性は,「複数の生産物を生産する場合において,それぞれの生産 物を別々に生産するよりも同時に生産するときの費用が小さい」と定義でき る. Multi-production Model関数が,

    C(y1, y2,・・・, ym)<C1(y1, 0,・・・, 0)+C2(0, y2, 0,・・・, 0)+・・・+Cm(0, ・・・, ym) (9)  

である場合,範囲の経済性が存在するといえる.しかし,(9)式を直接的に検 討することは困難であり,Baumol, Panzar and Willig (1982)に従い,費用の補 完性(Cost Complementarities)の概念を利用する.二階微分可能な費用関数に

(8)

おいて,(9)式が成り立つための十分条件は,次のような費用補完性の条件が みたされるときである.

     ∂2C

yiyj<0 , (i≠j;i,j=1,・・・, m) (10)  

したがって,トランスログ費用関数においては,以下のように表される.

     ∂2C

y1y2C

y1y2

[

β121

β1klnyk)(α2

β2klnyk)

]

<0 (11)  

ここで,C/ yiyjは常に正の値をとり,数値上は次の条件をみたせば範囲の経 済性が存在することになる2)

    SCP=β12

(

α1

β1klnyk

)(

α2

β2klnyk

)

<0 (12)  

規模の経済性のときと同様に,基準時点での(12)式を考えると,次のように なる.

    SCP=β12+α1α2<0 (13)  

 これまで定義したSAL,SALi,SCPを推定されたパラメータから計算し,

これらの値が有意に「0」よりも小さければ,規模や範囲の経済性が統計学的 にも支持される.なお,この仮説検定にはWald検定を用いる.

3 デ ー タ

 本稿で分析の対象とするのは,国立大学法人法により設立され,社団法人 国立大学協会に正会員として参加している国立大学法人86校のうち大学院 大学4校を除いた82校である3).期間は法人化後の2004年度から2006年度

2) ここでは,第1生産物と第2生産物の費用の補完性を示している.本研究では3つの生産物

をモデルに含むので,それらの組み合わせにより3種類のSCPについて検討する.

3) 大学院大学は学部を持たないため学部教育のアウトプットがゼロとなってしまう.トラン スログ関数では対数値をとるためにゼロ・アウトプットを含めることが出来ない.この場合,

Box-Cox変換を利用してトランスログ・モデルを拡張することも提案されているが,パラメー

タの非線形性が強く目的関数が収束しにくいなどの問題が生じる.そこで,本稿では大学院大 学を分析対象から除いた.

(9)

の3年間.この期間中,2005年10月(後期)に富山大学,富山医科薬科大学 と高岡短期大学が統合されている.そこで,半期ごとに公表される費用など のフローのデータは統合前と統合後を合算したものを,ストック・データに ついては当期と次期の値を平均したものを,富山大学のデータとして用いた.

なお,統合前の富山医科薬科大学と高岡短期大学については分析対象から除 いた.

 (3)式の被説明変数は大学が財・サービスを生産するための総費用であり,

本稿では,各大学の損益計算書と貸借対照表から算出した3種類の費用を分 析対象とする.多くの先行研究では経常費用に臨時損失を足し合わせたもの が用いられている.本稿でも比較のため,これを用いてCOST 1とする.経 常費用や臨時損失は主に教員や職員の人件費,教育や研究活動の経費で構成 される.しかし,それでは総費用に資本のコストが欠落している.菅原(2008)

では,各大学の貸借対照表から有形固定資産を抜き出し,その機会費用を資 本コストとして算出して経常費用に加えた「総費用」が用いられている.資 本コストの具体的な計算方法は次のとおりである.

資本コスト=(land×plan)+(book×pbok)+((yuke−land−book)×pyuk)×(int r+rdep) ここで,1and:各大学の土地資産(貸借対照表),plan:大学所在地の都道府 県地価(国土交通省都道府県地価調査),book:各大学の書籍資産(貸借対照表),

pbok:消費者物価指数の書籍・その他印刷物(総務省統計局),yuke:各大学の有

形固定資産(貸借対照表),pyuk:国内企業物価指数(日本銀行),int r:全銀貸出 約定平均金利(日本銀行),rdep:減価償却率(貸借対照表の減価償却費から計算)

である.この資本コストをCOST 1に加えたものを,COST 2とする.

 第三の費用は,COST 2から診療経費を差し引いたものである.診療経費と は,付属病院を所有する国立大学の診療活動にかかる経費で,損益計算書の 経常費用に含まれる.対象大学の約半数が付属病院を保有しており,この影 響を総費用から除くことがねらいである.この費用をCOST 3とし分析の対

(10)

象に加える.次に,(3)式の説明変数,学部教育,大学院教育,研究活動の3 つの生産物について,どのようなデータを用いるかが問題となる.先行研究 に従い,学部教育には学部学生数(GAKU),大学院教育には大学院生数(INSE), 研究には科学研究費補助金額(KENN)を用いた.本来,科学研究費補助金額 はインプットであり,研究活動のアウトプットとして採用するには議論の起 こるところである.しかし,科学研究費補助金をより多く取得している大学 ほど研究のアウトプットが多いはずであるとして,多くの先行研究でも用い られている.本稿でもこれらを踏襲する.学生数は各大学ホームページ掲載 の各年度 「 事業報告書 」 と『大学ランキング』(朝日新聞,各年版),科学研究 費補助金額は文部科学省ホームページ掲載の「科学研究費補助金機関別採択 件数・配分一覧」の各年版を出所とした.以上で説明したデータの記述統計 量が,第 1 表に示されている.

変数名 変数の定義 平均 標準偏差 最小値 最大値 COST 1 経常費用 28535.20 30921.40 2066.68 184649.00

(1.084)(7.24%)(647.09%)

COST 2 経常費用+資本コスト 33808.96 37203.79 2590.87 240713.17

(1.100)(7.66%)(711.98%)

COST 3 経常費用+資本コスト−診療経費 28587.32 32096.18 2590.87 216169.17

(1.123)(9.06%)(756.17%)

GAKU 学部生数 5430.00 3459.37 446.00 14888.00

(0.637)(8.21%)(274.18%)

INSE 大学院生数 1755.25 2259.60 54.00 13600.00

(1.287)(3.08%)(774.82%)

KENN 科学研究費補助金 1354.65 3024.44 22.82 22101.67       (2.233)(1.68%)(1631.54%)

第 1 表 記述統計量

(注) 費用,補助金の単位は100万円,学生数の単位は人.標準偏差下の( ) 内は変動係数,最 大 ・ 最小値下の( )内は平均値に対する比率である.

(11)

4 推 定 結 果

 ここでは,推定結果の考察を行う.各費用のトランスログ・モデルの推定 結果が第 2 表に示されている.

 Model 1からModel 3は,それぞれ総費用がCOST 1〜3に対応している.

このモデルでは,(3)式に年次ダミーが加えられている. D 2005は2005年 度に「1」をとり,D 2006は2006年度に「1」をとるダミー変数である.

 第2表の推定結果を見てみると,わが国の先行研究でこれまで行われてき た二次近似式のFFCQモデルに比べて,トランスログ・モデルの方が標準誤 差も小さく安定的であることがわかる.3つのモデルを比較してみると,自 由度修正済み決定係数やSBICの値からみてCOST 3を用いたモデルの説明力 が最も高い.また,費用を変えてもD 2005の係数を除くすべての係数で,符 号の変化は見られなかった.

 次に,トランスログ型費用関数の一次の項を見てみよう.一次の項は当然 プラスの値をとることが予想される.というのも,負の値をとるということは,

生産量が増加するほど費用が減少することであり,そのような費用構造は現 実的には考えにくいからである.しかし,第2表では院生数の一次の項がす べてマイナスに計測されている.しかも有意に,である.一方で学部生数と 研究の一次の項はプラスかつ有意に計測されており,予想を裏切らない結果 となった.

 この一次の項と関連して,次は交差項に着目したい.交差項は153ページ の式(13)のSCPの構成要素の1つである.一次の項の符号はプラスが予想さ れるので,範囲の経済性が存在するためには,交差項 βij(ij, i, j=1,・・・, m) がマイナスでなければならない.したがって,交差項の符号がマイナスであ ることは範囲の経済性が存在するための必要条件である.このモデルでは大 学院生数の一次の項がマイナスであったためこのとおりとはいかないが,交 差項は学部と研究,大学院と研究において有意にマイナスに,学部と大学院

(12)

については有意にプラスに計測された.この結果から,学部と研究,大学院 と研究については先の必要条件をみたしていることがわかる.

  Mode1 1 Mode1 2 Mode1 3

C 0.1596 0.1092 0.0693

(2.5290) (1.8949) (1.4960)

GAKU 0.8117 0.7296 0.5937

(13.8003) (12.8133) (13.8412)

INSE -0.8414 -0.7394 -0.4449

(-7.9510) (-7.5699) (-5.4804)

KENN 0.9801 0.9301 0.7426

(13.9968) (14.3024) (13.7931)

GAK2 0.6000 0.4827 0.3641

(5.1708) (4.3133) (4.0955)

GAIN 0.1853 0.2474 0.1856

(2.0720) (2.7323)  (2.3660)

GAKE -0.1639 -0.1791 -0.1522

(-2.7562) (-3.1043) (-3.3362)

INS2 -0.0172 -0.037 -0.0201

(-0.1062) (-0.2262) (-0.1549)

INKE -0.3915 -0.3903 -0.2895

(-5.9214) (-5.8281) (-5.6662)

KEN2 0.5121 0.5187 0.4209

(9.6257)  (9.4860)  (8.8755)

D2005 -0.0514 0.0058 0.0039

(-1.0507)  (0.1252)  (0.1068)

D2006 0.0024 0.1047 0.1021

  (0.0481)  (2.2736)  (2.7581)

R2 0.9034 0.9063 0.9300

SBIC 89.7136 80.8566 24.9455

第 2 表 トランスログ・モデルのパラメータ推定値

(注) R2は自由度修正済み決定係数,SBICはシュワルツのベイズ統計量を示している.推定値下の

( )内はt値.なお,t値の計算にはWhiteのHeteroscedastic-Consistent Standard Errors を用いた.

(13)

 第 3 表にトランスログ・モデルのパラメータ推定値から計算した規模(SAL)

と範囲(SCP)の経済性の指標が示してある.規模の経済性の基準値は(6),(8)

式によって計算された値で,それを検定するWald統計量とそれに対応するp 値が下段に示されている.これを見ると,全体の規模の経済性はすべてのモ デルで基準値にマイナスの値をとり,Model 2,3においては統計学的にも規 模の経済性が認められる一方,Model 1では帰無仮説(SAL=0)を棄却できず,

統計学的に規模の経済性があるとはいえない結果となった.つづいて,生産物 ごとの規模の経済性を見ていこう.学部と大学院については,すべてのモデル で基準値がマイナスの値で計測され,規模の経済性が統計学的にも強く支持 されている.一方で研究については,基準値はすべてマイナスであるものの,

Model 1, 2において帰無仮説は棄却できず,規模の経済性が支持されなかった.

したがって,COST 3を用いたModel 3では,全体と全ての生産物について規 模の経済性が存在するという結果を得た.わが国の国立大学に関する先行研

第 3 表 トランスログ・モデルの推定値から計算された規模と範囲の経済性

    規模の経済性 範囲の経済性

    全体 学部 大学院 研究 学部×

大学院 学部×

研究 大学院

×研究 基準値 -0.0495 -0.1883 -1.8414 -0.1985 -0.4977 0.6317 -1.2161 Model1 wald 1.5358 10.7700 318.3292 0.0845 11.3001 27.9138 41.4424

(p-値)(0.2151)(0.0010)(0.0000)(0.7713)(0.0008)(0.0000)(0.0000)

基準値 -0.0797 -0.2704 -1.7394 0.0699 -0.2921 0.4995 -1.0780 Model2 wald 4.1973 22.5421 317.1128 1.1546 4.5852 20.8144 39.2986

(p-値)(0.0405)(0.0000)(0.0000)(0.2826)(0.0323)(0.0000)(0.0000)

基準値 -0.1086 -0.4063 -1.4449 -0.2574 -0.0786 0.2886 -0.6198 Model3 wald 12.3776 89.7291 316.8301 22.8591 0.6953 14.8043 30.6949   (p-値)(0.0004)(0.0000)(0.0000)(0.0000)(0.4044)(0.0001)(0.0000)

(注) 上の場合,Wald統計量は自由度「1」のχ2乗分布に従う.基準値は基準時点(lnyi=0)での評 での評価である.

(14)

究では,多くの場合に全体の規模の経済性が認められており,個別の規模の経 済性についての結果はまちまちであった.Model 1は,多くの先行研究と同様

COST 1(経常費用+臨時損失)が用いられているが,ここで全体と研究の規

模の経済性が認められなかったことは,先行研究のFFCQモデルと異なる.

 次に,範囲の経済性の検討に移る.規模の経済性の基準値は(13)式によっ て計算された値で,それを検定するWald統計量とそれに対応するp値が下段 に示されている.学部と大学院の範囲の経済性については,すべてのモデル でマイナスに計測され,Model 1,2で統計学的にも範囲の経済性が支持された.

一方,学部と研究の指標はすべてのモデルでプラスに,しかも有意に計測され,

範囲の経済性は認められない結果となった.これとは逆に,大学院と研究の 基準値はすべてマイナスで計測され,Wald検定の結果も3つのモデルで統計 学的に強く支持された.

 先行研究で用いられるFFCQモデルでは,費用関数の交差項,すなわち交 差限界費用の係数の符号によって費用補完性の直接的な解釈ができる.菅原

(2008)では,同じ変数についてFFCQモデルを推定しているが,その交差項 は学部と大学院,大学院と研究でプラス,つまり費用代替的と計測され,学 部と研究ではマイナス,費用補完的と計測され,トランスログモデルとはまっ たく逆の結果であった.

 以上の結果をみると,トランスログ・モデルはFFCQモデルよりも安定的 であるが,それでもやはりまだ必要な情報が欠けている感が否めない.では,

トランスログ・モデルを固定効果モデルや変量効果モデルに拡張すると,結 果はどのようにかわるだろうか.そこで,パネル・データを使った分析でよ く行われる固定効果モデルと変量効果モデルについても推定を行った.第 4 表〜第 6 表には,被説明変数をそれぞれCOST 1(経常費用+臨時損失),COST 2COST 1+資本コスト),COST 3COST 2−診療経費)としてトランスログ・

モデル,固定効果モデル,変量効果モデルの推定を行った結果が示されている.

ここで,第4表から第6表の「トランスログ・モデル」は第2表のModel 1

(15)

からModel 3と同一のもので,比較のため表示している.

 固定効果モデルは,すべての大学について大学固有の事情を考慮した大学 個別のダミー変数を費用関数に加えたもので,より一般的なモデルであると いえる.そこで,大学固有の事情を考慮しないトランスログ・モデルを帰無 仮説,固定効果を含むモデルを対立仮説としてF統計量で検定する.その結 果は第4表の下段に示されているように,固定効果モデルが支持される.また,

自由度修正済み決定係数をみても,固定効果モデルのほうが良好である.次に,

確率変数として個別大学の事情を考慮した変量効果モデルか,非確率的な大 学別ダミー変数を含む固定効果モデルかというモデル選択をハウスマン検定 によって行う.この場合,帰無仮説は変量効果モデル,対立仮説は固定効果 モデルである.第4表の下段に示された結果によると,ここでも固定効果モ デルがはっきりと支持されている.

 同様にして,第5表及び第6表の推定結果についてもF検定とハウスマン 検定を行ったところ,いずれも固定効果モデルが支持された.固定効果モデ ルが選択されたということは,学生数や科研費などの説明変数だけでなく,

学部の種類や大学の歴史や伝統など,有形無形の大学固有の要因が費用構造 に大きく影響していることを示している.

 被説明変数の異なる3つの固定効果モデルの係数推定値について見てみる と,固定効果モデル1,2は似かよった値をとるのに対し,固定効果モデル3 では係数推定値が他のモデルと異なっている.また,全体的に個々のパラメー タの有意性が低く,符号の変化も見受けられる.COST 1を被説明変数とする 固定効果モデル1では,年次ダミーがD 2005,D 2006ともに有意なマイナス に計測され,2005年度,2006年度と経常費用に削減の圧力があったことがう かがわれる.しかし,費用に資本コストを反映した固定効果モデル2,3では,

いずれの年次ダミーも有意なプラスに転じ,費用増加の傾向を示した.これ は,国立大学で建物の新設などが相次いだ可能性をうかがわせるものであり,

菅原(2008)においても同様の傾向が観測された.

(16)

第 4 表 パネル ・ モデルのパラメータ推定値(COST 1)

注) R2は自由度修正済み決定係数.推定値下の( )内はt値.F統計量,CHISQ統計量右側の

( )内は自由度.なお,トランスログ・モデルと固定効果モデルのt値の計算にはWhite Heteroscedastic-Consistent Standard Errorsを用いた.

  トランスログ・モデル1 固定効果モデル1 変量効果モデル1

C 0.1596 -0.3047

(2.5290) (-5.8165)

GAKU 0.8117 1.2459 0.951

(13.8003) (3.4853) (11.8180)

INSE -0.8414 0.1085 0.1267

(-7.9510) (1.6560)  (2.5819)

KENN 0.9801 0.0285 0.1599

(13.9968) (0.4511)  (4.1550)

GAK2 0.6000 0.5884 0.7526

(5.1708) (2.2438)  (5.4614)

GAIN 0.1853 -0.0345 0.0087

(2.0720) (-0.5123)  (0.1397)

GAKE -0.1639 -0.0029 -0.0704

(-2.7562) (-0.0807) (-2.0132)

INS2 -0.0172 0.0304 0.0284

(-0.1062) (0.5030)  (0.4790)

INKE -0.3915 0.0418 0.0114

(-5.9214) (1.4757)  (0.4014)

KEN2 0.5121 -0.0332 0.034

(-9.6257) (-1.2493) (-1.1956)

D2005 -0.0514 -0.0384 -0.0413

(-1.0507) (-6.1990) (-7.3268)

D2006 0.0024 -0.0205 -0.0196

  (0.0481) (-3.0746) (-3.3504)

R2 0.9034 0.9987 0.7988

F検定 F(81,153)=221.15,P-value=[.0000]    ハウスマン検定CHISQ(9)=110.39,P-value=[.0000]

(17)

注) R2は自由度修正済み決定係数.推定値下の( )内はt値.F統計量,CHISQ統計量右側の

( )内は自由度.なお,トランスログ・モデルと固定効果モデルのt値の計算にはWhite Heteroscedastic-Consistent Standard Errorsを用いた.

  トランスログ・モデル2 固定効果モデル2 変量効果モデル2

C 0.1092 -0.3261

(-1.8949) (-6.2256)

GAKU 0.7296 1.2548 0.8517

(-12.8133) (-3.7036) (-10.4082)

INSE -0.7394 0.1055 0.1386

 (-7.5699) (-1.6410) (-2.6481)

KENN 0.9301 0.0134 0.1823

(-14.3024) (-0.2147) (-4.4813)

GAK2 0.4827 0.4791 0.7852

(-4.3133) (-1.9456) (-5.5756)

GAIN 0.2474 -0.1523 -0.0447

(-2.7323) (-2.1938) (-0.6854)

GAKE -0.1791 -0.0339 -0.1012

(-3.1043) (-0.9335) (-2.7241)

INS2 -0.037 0.0593 0.0456

(-0.2262) (-0.9049) (-0.7133)

INKE -0.3903 0.0702 0.0194

(-5.8281) (-2.4561) (-0.6329)

KEN2 0.5187 -0.0386 0.0486

(-9.486) (-1.4018) (-1.5883)

D2005 0.0058 0.0185 0.0154

(-0.1252) (-2.8529) (-2.5133)

D2006 0.1047 0.0855 0.0866

  (-2.2736) (-10.8134) (-13.6170)

R2 0.9063 0.9984 0.8118

F検定F(81,153)=172.66,P-value=[.0000]    ハウスマン検定CHISQ(9)=114.94,P-value=[.0000]

第 5 表 パネル ・ モデルのパラメータ推定値(COST 2)

(18)

注) R2は自由度修正済み決定係数.推定値下の( )内はt値.F統計量,CHISQ統計量右側の

( )内は自由度.なお,トランスログ・モデルと固定効果モデルのt値の計算にはWhite Heteroscedastic-Consistent Standard Errorsを用いた.

第 6 表 パネル ・ モデルのパラメータ推定値(COST 3)

  トランスログ・モデル3 固定効果モデル3 変量効果モデル3

C 0.0693 -0.2249

(1.4960) (-0.2249)

GAKU 0.5937 0.8586 0.6411

(13.8412) (3.3448) (8.8728)

INSE -0.4449 0.0874 0.1705

(-5.4804) (1.6339) (3.2220)

KENN 0.7426 -0.0082 0.2209

(13.7931) (-0.1285) (5.4911)

GAK2 0.3641 0.2461 0.5872

 (4.0955) (1.1083) (4.6493)

GAIN 0.1856 -0.1456 -0.0359

(2.3660) (-1.8337) (-0.5749)

GAKE -0.1522 -0.0383 -0.1087

(-3.3362) (-0.8675) (-2.9613)

INS2 -0.0201 0.0258 0.0310

(-0.1549) (0.3949) (0.4681)

INKE -0.2895 0.0886 0.0285

(-5.6662) (2.3439) (0.9056)

KEN2 0.4209 -0.0497 0.0603

(8.8755) (-1.3115)  (1.9042)

D2005 0.0039 0.0179 0.0114

(0.1068)  (2.4890)  (1.7345)

D2006 0.1021 0.0945 0.0918

  (2.7581) (10.9429) (13.5475)

R2 0.9300 0.9979 0.8804

F検定F(81,153)=93.981,P-value=[.0000]    ハウスマン検定CHISQ(9)=107.06,P-value=[.0000]

(19)

 次に,一次の項の符号を見てみよう.学部の一次の項はプラスで計測され,

統計学的にも有意であった.大学院でも,有意ではないがプラスの値をとった.

最後に研究の一次の項は,すべて有意ではなかったが,固定効果モデル3を 除きプラスに計測された.したがって,一次の項で負の値をとったのはモデ ル3の研究アウトプットの係数推定値のみである.これは先ほどのトランス ログ・モデルと大きく異なる点である.

 一次の項の係数がプラスであるとき範囲の経済性が存在するためには,少 なくとも交差項の係数はマイナスの値でなければならない.そこで,交差項 を見てみると,統計学的に有意でないが学部と大学院,学部と研究で係数推 定値はマイナスに計測された.一方,大学院と研究の係数推定値はすべてプ ラスに計測され,モデル2,モデル3では有意であった.この結果も,先ほ どのトランスログモデルと異なる.学部と大学院,学部と研究では範囲の経 済性が存在するための必要条件をみたしているようだが,実際に計算された 値と仮説検定の結果はどうだろうか.

 第 7 表に固定効果モデルのパラメータ推定値から計算した規模(SAL)と 範囲(SCP)の経済性の指標が示してある.モデル1とモデル2のパラメータ 推定値がほぼ同じ値をとることから,一次の項の係数の線形の式で表される 規模の経済性の指標もまた非常に近い値を示している.まず規模の経済性か らみていくと,モデル1,モデル2では全体の規模の経済性を示す基準値が プラスに計測され,統計学的にも規模の経済性が支持されない結果となった.

モデル3では,基準値はマイナスに計測されたが,他のモデルと同じく帰無

仮説(SAL=0)を棄却できなかった.

 次に,生産物ごとの規模の経済性を見ていく.学部についてはモデル1,2 で基準値はプラス,モデル3でマイナスの値を示したが,いずれも統計学的 に有意でなく規模の経済性は支持されなかった.大学院については,すべて のモデルで基準値が約−0.9と近い値をとり,統計学的にも規模の経済性が認 められた.最後に,研究についても先ほどと同様に,すべてのモデルで基準

(20)

値が約−1.0をとり,統計学的にも有意に規模の経済性が支持された.これら は,全体と学部の規模の経済性が認められなかった点で,先のトランスログ モデルの結果と大きく異なる.また,菅原(2008)のFFCQ固定効果モデルの 結果とも,全体,個別ともに平均規模の大学で規模の経済性が支持されない という点で一致する.

 つづいて,範囲の経済性の検討に移る.結論を先取りすると,ここではす べてのモデル,すべての生産物の組み合わせにおいて範囲の経済性は認めら れなかった.その内訳を説明すると,まず「学部 × 大学院」の基準値は,モ デル1でプラス,モデル2,モデル3でマイナスに算出されたが,統計学的 にすべて有意でなく範囲の経済性が存在するとはいえなかった.「学部 × 研 究」も同様に,基準値はモデル1でプラスに,モデル2,モデル3でマイナ スに算出されたが,すべて有意ではなかった.さらに,「大学院 × 研究」に いたっては基準値がすべてプラスで,かつ統計学的にも10%水準で有意であ

    規模の経済性 範囲の経済性

    全体 学部 大学院 研究 学部×

大学院 学部×

研究 大学院

×研究 基準値 0.3829 0.2459 -0.8915 -0.9715 0.1007 0.0326 0.0449 モデル1 wald 1.7451 0.8094 313.0932 404.9779 1.7575 0.2470 3.0057

p-値)(0.1865)(0.3683)(0.0000)(0.0000)(0.1849)(0.6192)(0.0830)

基準値 0.3737 0.2548 -0.8945 -0.9866 -0.0199 -0.0171 0.0717 モデル2 wald 1.9426 0.9666 294.6598 418.0564 0.0763 0.0658 7.7182

p-値)(0.1634)(0.3255)(0.0000)(0.0000)(0.7824)(0.7975)(0.0055)

基準値 -0.0621 -0.1414 -0.9126 -1.0082 -0.0705 -0.0453 0.0878 モデル3 wald 0.0841 0.4352 360.751 438.6086 1.2675 0.8087 8.7262   (p-値)(0.7718)(0.5095)(0.0000)(0.0000)(0.2602)(0.3685)(0.0031)

第 7 表 固定効果モデルの推定値から計算された規模と範囲の経済性

(注) 上の場合,Wald統計量は自由度「1」のχ2乗分布に従う。基準値は基準時点(lnyi=0)での評 価である.

(21)

るという結果となった.先に分析したトランスログ・モデルでは,学部と大 学院,大学院と研究で範囲の経済性が認められたのに対し,固定効果モデル では異なる結果を得た.また,菅原(2008)のFFCQ固定効果モデルとは,範 囲の経済性はごく小規模な大学を除き存在しないという点でー致した.

5 ま と め

 本稿では,国立大学法人法により設置された国立大学法人82校の2004年 度から2006年度の3年間のデータを対象に費用関数を推定し規模と範囲の経 済性を計測した.先行研究に対し,本稿では3つの新たな試みを行った.第 一に,費用に関して従来の経常費用,それに資本コストを加えたもの,さら に大学の保有する付属病院の診療経費を考慮したものを導入したこと.第二 に,トランスログ型の費用関数を分析するとともに,パネル・データ分析で 用いられる固定効果モデルや変量効果モデルを試みたこと.第三に,規模と 範囲の経済性を計算するだけではなく,それが統計学的に支持されるかどう かをWald検定によって検証していることである.

 トランスログ・モデルをベースに固定効果モデルや変量効果モデルに拡張 し,3種類の費用について推定を行った.この結果,トランスログ・モデル,

固定効果モデル,変量効果モデルの3つのなかから仮説検定により,費用の 種類にかかわらず固定効果モデルが選ばれた.この固定効果モデルでは,規 模と範囲の経済性について費用の種類による差異は見られず,3つのモデル で同様に安定的な結果となった.まず,全体と学部の規模の経済性は統計学 的に存在するとはいえず,大学院と研究の規模の経済性が支持された.そのー 方で,範囲の経済性はすべてのモデルのすべての生産物について統計学的に 支持されなかった.また,2005年度,2006年度と経常費用には削減圧力が働 くものの,費用に資本コストを含めると,一転して費用増加の傾向が観察さ れたことも興味深い.これらの結果は,菅原(2008)のFFCQモデルを拡張し た固定効果モデルの結果と一致する.

(22)

 もし本稿の結果で得られたように全体の規模の経済性が存在しないならば,

国立大学の統合と拡大は少なくとも費用の観点からのメリットはない.さら に,大学院と研究に規模の経済性が存在し,すべての生産物において範囲の 経済性が存在しないとすれば,大学院や研究所を大学から独立させ,統合を 進めることが費用削減につながるということになる.FFCQ型とトランスロ グ型費用関数,2つの固定効果モデルにおいて同様に規模や範囲の経済性に ついて否定的な結果が得られたことは,興味深い.

 ただし,固定効果モデルによる本稿の結果については,その解釈にあたり 注意を要する.というのも,わが国の国立大学はその規模に関して非常に格 差が大きい.このような状況では,固定効果が費用構造の違いの大半を吸収 してしまい,費用関数における説明変数の影響があらわれにくい可能性があ る.このような観点から見ると,本稿の固定効果モデルの推定結果が,規模 や範囲の経済性について否定的な結果を導いたのも予想できるものである.

すなわち,国立大学の規模や範囲の経済性を計測した従来の研究は,大学の 歴史や伝統,立地など,有形無形の大学固有の特性を十分に反映できていな いということになる.もしそうしたモデルで規模や範囲の経済性が計測され ていたとしても,特定の大学の規模をそのまま拡大しても,計測どおりの経 済性が発揮されるかは疑わしい.

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(すがわら ちおり・同志社大学経済学研究科後期課程)

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The Doshisha University Economic Review Vol.61 No.2 Abstract

Chiori SUGAWARA, Economies of Scale and Scope in Japanese National Universities: The Estimates of Translog Models

  This paper estimates multiple-output cost functions for 82 Japanese national universities, using the translog models for the period 2004-2006. The three outputs employed are undergraduate teaching, graduate teaching and research.

The results, statistically, do not provide any evidence of ray economies of scale;

global and product-specific economies of scope are similarly ruled out. Product- specific economies of scale are shown for graduate teaching and research. 

参照

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