相続財産の承継放棄と債権者の不利益
著者 フランク ライナー, 神谷 遊, 且井 佑佳
雑誌名 同志社法學
巻 70
号 5
ページ 1793‑1809
発行年 2019‑01‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000362
相続財産の承継放棄と債権者の不利益
ライナー・フランク
(解題・翻訳) 神 谷 遊 且 井 佑 佳
目 次
【解題】
【翻訳】Ⅰ.序
Ⅱ.民事訴訟法第852条第1項の成立史
Ⅲ.現行法の体系における不整合 1.遺留分請求権に対する差押えの制限 2.遺留分請求権の社会扶助運営主体への移行 3.相続法上の請求権と扶養
4.免責手続における相続財産の承継
Ⅳ.立法にあたって
【参照条文】
【解題】
わが国においても、相続を契機として、相続人と債権者との間の利害対立をいかに 調整すべきかが問われる局面がある。たとえば、相続人が相続を放棄する場合、それ は債権者の利益を損なうことにつながる。最高裁は、相続人による相続放棄を相続債 権者に対する詐害行為として取り消すことができるかが争われた事案で、相続放棄の 身分行為性と相続放棄の自由の保障を強調して、これを否定している(最判昭和49年 9月20日民集28巻6号1202頁)。この判例の射程については議論がありうるが、一般 論として相続放棄の身分行為性を説く判示内容から推察するに、相続人の債権者にも 及ぶものと考えられる。また、相続人が遺留分を侵害された場合に、遺留分減殺請求 権を行使するかどうかは当該相続人の債権者にとって大きな影響の及ぶ問題となる。
最高裁は、相続人が遺留分減殺請求権を行使しない場合に、その債権者による代位行 使が許されるかが問われた事案で、遺留分減殺請求権が行使上の一身専属性を有する 権利であることを強調し、「これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を 有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位 の目的とすることができない」としている(最判平成13年11月22日民集55巻6号
1033頁)。要するに、相続の放棄、遺留分減殺請求権の行使といった相続財産を承継 するか否かという場面については、それらの行為の身分行為性ないし一身専属性が強 調され、相続人の利益が優先され、債権者による介入は妨げられている。
後掲のライナー・フランク(Rainer Frank)教授の論稿は、まさにこうした問題が、
ドイツにおいてどのように扱われているか、関係する裁判例を紹介し、批判的に検証 しようとするものである。
フランク教授によると、相続の放棄については、ドイツ民法の制定過程から、相続 が包括承継であり、義務を承継しなければならない可能性もあることから、相続人に よる相続放棄の自由が広く承認されていたとのことであり、そこに債権者の利益への 配慮がなされる余地はなかったようである。
他方、遺留分の侵害があると、ドイツ法上は、金銭債権としての遺留分請求権を行 使することができるが、遺留分請求権はまさに権利であり、義務の承継を伴う相続と は本質的に異なる。それでも立法上は、遺留分請求権が被相続人と遺留分権利者との
「親密な家族の結び付き」に根差した権利であることを理由に、遺留分権利者が債務 を負担している場合でも、遺留分権利者に遺留分請求権を行使するかどうかの決定が 委ねられ、債権者の介入を制限することが基本とされている。もっとも、判例上は、
いくつかの具体的な事案類型において、さらに債権者の利益への配慮が求められてき た。
本稿では、遺留分請求権の差押えの可否(Ⅲ-1)、社会扶助受給者に遺留分請求権 が帰属した場合における社会扶助運営主体への遺留分請求権の移行と行使(Ⅲ-2)、
扶養権利者または扶養義務者の相続財産の承継の要否(Ⅲ-3)、倒産法による免責手 続中に債務者が相続財産の承継を放棄する場合の免責の当否(Ⅲ-4)が取り上げら れている。
フランク教授は、これらの事案類型におけるドイツの立法・判例による対応は、体 系的な一貫性を欠くと指摘し、さらに家族の結び付きを強調して債権者の利益より相 続人または遺留分権利者の判断を過度に尊重する考え方には疑問を投げかけている。
本稿は、相続財産の承継放棄をめぐるドイツの法状況を俯瞰できる好論文であり、し かもドイツを代表する家族法研究者の問題意識に触れることのできる貴重な論稿とい える。そこで、著者であるフランク教授の許諾を得て訳出することにした。訳出を快 く承諾してくださったフランク教授には、この場を借りて深甚の謝意を表したい。本 稿の原題は「Der Verzicht auf erbrechtlichen Erwerb zum Nachteil der Gläubi
ger」
であり、原文は、Festschrift für Dieter Leipold zum 70. Geburtstag, 2009, S.983ff. に 収録されているが、本稿は、これにフランク教授が補筆されたものである。
ライナー・フランク教授は、家族法、比較法の権威であり、国際的にも著名な研究
者である。1977年以降、ドイツのミュンスター大学、アウグスブルク大学教授を歴 任された後、1985年からフライブルク大学教授を勤められ、現在、同大学名誉教授 である。また、1994年からの4年間は国際家族法学会会長も務められた。フランク 教授は2018年に80歳を迎えられ、なお執筆・講演活動を精力的にこなされている。
なお、本稿は基本的にドイツ語テキストの本文・脚注を訳出ないし掲載したもので あるが、原文注とは別に本文中に訳者注を入れている。本稿の末尾には、資料として ドイツ民事訴訟法第852条および倒産法第83条のドイツ語テキストとその訳を掲載し ているので、参照されたい。
【翻訳】
Ⅰ.序
相続人としての資格を有する者は、相続を放棄することができる。このとき、その 債権者に配慮する必要はない。債権者の不利益となることを目的とする放棄であって も、良俗違反にはならず、債権者取消権の対象となることもない1)。倒産手続について、
倒産法第83条第1項第1文は次のことを明らかにしている。すなわち、「債務者に、
倒産手続の開始前に相続又は遺贈が生じたとき、又は手続係属中にこれが生じたとき は、承認又は放棄は、債務者のみがすることができる。」。遺留分請求権についても類 似の規定がある。民事訴訟法第852条第1項によると、遺留分請求権は、契約により 承認されているとき、または係争中であるときに限り、差し押さえることができる。
さらに、倒産法第36条第1項は、この規定を受けて、目的物は、それが強制執行に服 さない限りで、倒産財団に属さないとする。要するに、債権者には、個別の強制執行 においても、倒産手続においても、債務者の意思に反してその遺留分請求権に干渉す ることが禁じられている。
一般的にこうした法規定の根拠とされるのは、被相続人と相続人または遺留分権利 者間に典型的にみられるような、家族の結び付きである2)。相続人ないし遺留分権利 者の債権者が、家族内の関係を妨害するようなことがあってはならない。相続人また は遺留分権利者がその権利を行使するか否かは、もっぱら、その決定に委ねられるべ きである。
現行法の規定は、学説および判例により受け容れられており、いずれにせよ、基本 1) Ivo FamRZ 2003, 6 m. Nachw.; BGH NJW 1997, 2384 = ZEV 1997, 345.
2) BGHZ 123, 183, 186;その概観については、Hannich, Die Pfändungsbeschränkung des §852
ZPO, 1998, S. 16ff.;また、規定の成立史に関しては、後記Ⅱ参照。
的には批判されていない。しかしながら、債権者に全く配慮しない現行法の規定が常 に適切な解決を導くことができるかどうかは、疑わしい。まず第一に目を引くのは、
実際には濫用を回避することができないことである。すなわち、債務者が相続を放棄 し、または遺留分請求権を行使しないときは、その放棄は通常、近親者の利益となる。
この場合、近親者の側で、債務超過の相続人または遺留分権利者に「闇で」相続財産 の一部を与えることが多い。その結果、債権者は、その債務者が少なくとも部分的に は被相続人の財産を得ているにもかかわらず、何ももらえない。実際上も、債権者の 利益に対して、債務者の利益を一方的に考慮することが問題であるのは、明らかであ る。Kuchinkeは、次のような場合を指摘して、現行法が如何に苛酷であるかを明ら かにしている。すなわち、扶養義務者である父が扶養請求権者である子を飢えさせて おきながら、家族を害する目的で自身に帰属する相続財産を放棄するような場合であ る3)。同様の問題は、扶養請求権者においても生じる可能性がある。たとえば、財産 がなく、働くことを嫌う子が、自身に帰属する相続財産を承認するよりも、その父母 または祖父母に面倒を見てもらうことを望むような場合である。また、家族内の関係 を根拠とする請求権の強制を債権者に許すべきではないと論じること自体も疑わし く、少なくとも、どこかに限界を設けるべきではないかという問題が提起される。家 族構成員間の不法行為上あるいは契約上の損害賠償請求権もしくは慰謝料請求権、ま たは子のための身上配慮もしくは財産上の配慮の違反を理由とする父母に対する子の 請求権は、いずれも差押えが可能であるのに、なぜ遺留分請求権は差し押さえること ができないのだろうか。民事訴訟法第852条第1項に依拠して、同条第2項は、法定 夫婦財産制における付加利得の清算請求権は、契約により承認された場合、または手 続係属中である場合にのみ差し押さえることができる旨を定めている。そこで、次の ような問題が生じる。すなわち、夫婦間のいわゆる無名出捐(unbenannte Zu
wendung
/共同生活を維持するための出捐)について、離婚により行為基礎が喪失し、または婚姻外の共同生活が破綻した後に組合類似の分割請求権(内部組合)が議論の 対象となるときは、なぜ同様に扱われないのだろうか。ドイツ法の解決が疑わしいも のであることは、隣国のフランス法を見ても明らかである。2006年6月23日の法律 第2006-728号によって改正されたフランス民法典第779条は次のように規定している。
「Les créanciers personnels de celui qui s’abstient d’ accepter une succession ou qui
renonce
àune succession au pr
éjudice de leurs droits peuvent
être autroris
és en justice
àaccepter la succession du chef de leur d
ébiteur
,en son lieu et place
.L’acceptation n’a lieu qu’en faveur de ces créanciers et jusqu’à concurrence de
3) Lange/Kuchinke, Erbrecht, 5. Aufl. 2001,§VII 1 b(= S. 214).leurs cr
éances
.Elle ne produit pas d’autre effet
àl’
égard de l’h
éritier
.」4)。倒産の場合についても同様である。すなわち、債務者の相続法上の請求権は、その 債権者ないし倒産管財人により、債務者の意思に反しても、いわゆる詐害行為取消権
(action
paulienne)によって倒産財団に組み込むことができる
5)。法律上は、債務者 が相続を放棄し、または10年の期間内に何らの意思表示もしないことで相続する資格 を失い(フランス民法典第780条)、その債権者の不利益となる行動をしたことのみが 要件とされており、当然に詐害の意図(「intention frauduleuse
」)までは要件とされ ていない6)。詐害行為取消権を行使するその他の場合と同様に、債務者が単に債権者 の不利益になることを認識していれば、それで足りる。すなわち、「Lafraude résulte de la seule connaissance qu’a le débiteur du préjudice causé à son créancier par l’acte litigieux
.」7)。Ⅱ.民事訴訟法第852条第1項の成立史
ドイツ民法典の起草段階では、初めから、債権者の利益に配慮することなく、相続 または遺贈を放棄することができなければならないことで意見が一致していたが、遺 留分請求権については、もともとこれとは異なる考慮が有力であった。「法律によっ て剥奪することのできない権利である遺留分請求権は、相続および遺贈とは本質的に 異なる。相続は、通常義務と結び付いており、それゆえに相続人の資格を持つ者の意 思なしにこれを押し付けることはできない。また、遺贈および終意処分に基づいて被 相続人の財産を承継するか否かは、被相続人の意思に左右される。これに対して、遺 留分請求権は権利が保障されているに過ぎず、それは法律に依拠するものである。」8)。 第一委員会の草案第266条第2項は、それに応じて次のように規定する。すなわち、「取
4) 「債権者の不利益となるように相続を承認せず、又は放棄する者の債権者本人は、裁判によ って、その債務者に代わり相続を承認することができる。
承認は、申立てをした債権者のために、その債権額を限度として効力を有する。承認は、相 続人に対してそれ以上の効力を有さない。」
5) 詳細は、Moritz von Campe, Insolvenzanfechtung in Deutschland und Frankreich, 1995, S. 54, 80.
6) フランス民法典第779条の規定に関して、詳細は、Malaurie, Les Successions Les Libéralités, 2. Aufl. 2006, Nr. 181 ;さらに、Juris Classeur Civil Code, Les Successions, 2007, Nr. 67ff.参照。
7) 「債務者が、問題となる行為によって債権者に生じた損害について認識していただけで、フ ロード(詐害の意図)があると認められる。(Cass,1 re civ., 17. Juni 1986, JCP G 1987 II 20816 m. Anm. Simler);Grimaldi, Droit civil Successions, 6. Aufl. 2001, Nr. 498:「La fraude est suffisamment caractérisée par la conscience du préjudice causé aux créanciers」(「フロード(詐 害の意図)は、債務者が債権者に加えた損害を認識していることで十分である」)。
8) Prot. I 10238.
9) Prot. I 10228.
10) Prot. I 12259, Prot. V 526f.
11) Mot. V 418.
12) 民事訴訟法第852条の現行規定は、1898年5月20日の民事訴訟法改正法により強制執行法に 導 入 さ れ て い る。 な お、1898年 5 月17日 の「 民 事 訴 訟 法 の 変 更 に 関 す る 法 律(Gesetz betreffend die Änderungen der Civilprozeßordnug)」においてこの規定は、第749条b第2項と されていた。しかし、結局、ドイツ民法典の施行と同時に民事訴訟法第852条として施行され た(RGBl1898, 332)。
13) Johan Albert Ankum, De Geschiedenis Der “Actio Pauliana”, Zwolle 1962, S. 87.
14) 学説集成には次のような一節がある(Ulpian(D. 42, 8, 6, 2))。「Proinde et qui repudiavit hereditatem vel legitimam vel testamentariam, non est in ea causa, ut huic edicto locum faciat:
noluit enim adquirere, non suum proprium patrimonium diminuit.」(「法定または遺言相続を拒 絶した者は本告示の適用を受ける状態にはない。なぜなら、同人は取得することを欲しなかっ たので、自分の固有の財産を減少させたのではないからである。」(船田享二『ローマ法
[第3巻]』(岩波書店・改版・1970年)500頁))。
得した遺留分金銭債権(Pflichitteilsgeldforderung)は、一般規定に基づき、相続及 び譲渡することができる。遺留分金銭債権は、遺留分権利者に対する強制執行の対象 とすることができ、破産財団を構成する。」9)。それにもかかわらず、第一委員会の多 数意見は、権利者が遺留分請求権を「裁判上または裁判外で行使」したときにのみ、
遺留分請求権の差押可能性を認めるとした10)。「遺留分請求権を例外なく差し押さえ ることができるとすれば、遺留分権利者は、場合によっては間接的にその遺留分請求 権の行使を強制されることになるであろう。このことは、事情によっては、権利者に とって不当に苛酷であることが明らかである。なぜなら、高尚な動機から、権利者が 遺留分権を行使するつもりがないという場合も十分に考えられるからである。とくに 権利者およびその家族に著しく不利益となることから、その請求権が行使されないこ ともある。」11)。後のドイツ民法典起草段階では、第一委員会が最終的に支持した提案 は、もはや問題とされることはなかった。その提案は、結局―文言上の修正を受けて
―民事訴訟法第852条第1項となった12)。民事訴訟法第852条第1項の規定が立法手続 において、すでに早い段階で一般的に受け容れられたのは、おそらく次のような理由 からであろう。すなわち、ローマ法においては―今日のフランス法とは異なり―相続 の資格を持つ者がその債権者を害するためにのみ相続を拒否するときでさえも、詐害 行為取消権を行使することが禁じられていたということである13)。詐害行為取消権の 目的は、ローマ法では、債務者が債権者の不利益となるようにその財産を減少させる ことを阻止することであって、債権者の利益となるようなその財産の増加を妨げる行 為を阻止することではない14)。
Ⅲ.現行法の体系における不整合 1.遺留分請求権に対する差押えの制限
民事訴訟法第852条第1項の文言は、曖昧かつ誤解を招きやすいものである15)。遺 留分請求権は、それが契約によって承認され、または訴訟の係属中であるときに初め て差し押さえることが可能である。訴訟の係属という概念が一義的であるのに対して、
契約の承認が何を意味するかは疑わしい。結局、遺留分請求権の差押可能性は、それ が争われているかどうかとは無関係である。おそらく意図されているのは、遺留分請 求権が裁判外ですでに行使され、行使によって「権利者の内心の決定領域から現れ出 ている」16)ことであろう。債権者にとって、差押可能性を要式性を欠く単なる裁判外 の行使にかからしめることは、著しい執行リスクを伴う。しかし、契約による承認に かからしめることは、民事訴訟法第852条第1項の元々の立法趣旨からは逸脱してい る。ドイツ民法典の起草段階では、最終的に現行規定となるまでに、差し当たり単に
「裁判外で行使されたとき」とされ、後に請求権が裁判で確定したときとされてい た17)。判例によれば、「遺留分権利者および相続人が、黙示の行為によるのであれ、
遺留分請求権が存在し、かつ行使されることを了解しているとき」は、契約により請 求権が承認されている18)。
民事訴訟法第852条第1項が遺留分請求権を前記の要件のもとでのみ差押えが可能 である旨を明らかにしているにもかかわらず、連邦通常裁判所は、1993年7月8日 の判決19)において次のように判断した。すなわち、遺留分請求権は、契約による承 認または訴訟の係属より前に、「停止条件付で強制的に換価可能となる請求権」とし て差し押さえることができるとする。判決は、法律の文言と整合性があるとは言い難 いとしても、合理的である20)。すなわち、ドイツ民法典第400条の原則規定に反して、
遺留分請求権は、(なお)差し押さえることができなくとも、譲渡することができる(ド イツ民法典第2317条第2項)。したがって、遺留分請求権が契約による承認または裁 判上の行使によって差押えが可能となる前に、債務者が、譲渡または担保提供によっ てその債権者による遺留分請求権への干渉を妨げることができるように思われる。し かし、すでに停止条件付の請求権として遺留分請求権を差し押さえることができると
15) Munscheler, Universalsukzession und Vonselbsterweb, 2002, S. 211.
16) Lnge/Kuchinke(Fn. 3),§37 VIII 2b(= S. 920). 17) Prot. V 527.
18) すでに、OLG Karlsruhe HRR 1930 Nr. 1164; OLG Düsseldorf FamRZ 2000, 367, 368.
19) BGHZ 123, 183.
20) Staudinger/Haas(2006)§2317 Rn. 52; Hannich(Fn. 2)S. 51ff.を参照。
すると、後に民事訴訟法第852条第1項の要件が満たされると直ちに、差押質権
(Pfändungspfandrecht)*は完全に価値のある質権に強化される21)。すなわち、「民事 訴訟法第852条第1項の拡張解釈によって」22)、遺留分請求権が譲渡されるというとき に、すでに差し押さえることができるのであって、契約による承認または裁判上の行 使を待って初めて差押えが可能となるのではない。
連邦通常裁判所の判断は、とりわけ、遺留分請求権が遺留分権利者の債権者による 差押えを受ける前に譲渡された場合において、実際上の意義を有する。すなわち、停 止条件付の請求権として遺留分請求権を(原則として)差し押さえることができると すると、債権者は、譲渡後でも、詐害行為取消法(AnfG)第3条に基づき、譲渡さ れた請求権ないし譲受人になされた給付への干渉を妨げられない23)。
連邦通常裁判所の判断は賛同されるものである。もっとも、この判決が明らかにし ているように、民事訴訟法第852条第1項の規定とドイツ民法典第2317条第2項の規 定の関係は十分には検討されていなかった24)。いずれにせよドイツ民法典の立法者の 立場からは、被相続人と遺留分権利者との間に親密な家族の結び付きがあることを理 由として、遺留分請求権の差押可能性を否定するのであれば、これを譲渡することが できないものとする方が一貫していたであろう25)。
* 債権者は、差押により目的物上に質権を取得し、これにより他の一般債権者に優先 して債権回収を図ることができる。
2.遺留分請求権の社会扶助運営主体への移行
社会法典第12編第93条第1項第1文によれば、社会扶助運営主体(Sozialhilfeträger)
は、社会扶助受給者が援助を受ける期間につき第三者に対して有する請求権を、第三 者への書面による通知によって、その費用の限度で自身に移行させることができる。
また、社会法典第12編第93条第1項第4文によると、譲渡、担保提供または差押え 21) BGHZ 123, 183, 190.
22) BGHZ 123, 183, 190.
23) BGHZ 123, 183, 189f.; Kuchinke NJW 1994, 1769, 1772; Klumpp ZEV 1998, 123, 125; Keim ZEV 1998, 127, 128.
24) BGHZ 123, 183, 188:「立法資料からは、条文化された規定と結び付く法律効果が詳細に検討 されたり、一定の意義を追求していたことを読み取ることはできない。」
25) 第一委員会においては、差し当たり次のように考えられていた。すなわち、「遺留分権利者 の被相続人に対する畏敬を考慮すれば、立法者が遺留分請求権を一身専属的かつ譲渡すること ができないものとして扱うことは、正当化される。」(Prot. V 526)。その後、「被相続人と遺留 分権利者の人的な関係は、遺留分請求権の発生原因となるに過ぎない。遺留分請求権の発生後、
遺留分権の固有の性質は、せいぜい権利者が個人的な理由からその権利を行使しない契機を認 める点に意義があるに過ぎない。」(Prot. V 526)との見解が多数となった。
をすることができない請求権であっても、移行をすることができる。
この規定に基づき、連邦通常裁判所26)およびそれに従う支配的な見解27)は、社会 扶助運営主体に移行した遺留分請求権は社会扶助運営主体が行使することができ、そ の限りで遺留分権利者自身の決定にかからしめられることはないとする。その結果、
支配的な見解によれば、社会法典第12編第93条第1項第4文は、民事訴訟法第852条 第1項の原則の例外であるとされる。「社会扶助運営主体は、社会扶助受給者の援助 者として遺留分権利者のその他の債権者とは異なる扱いを受ける。社会扶助受給者は、
扶養請求権者としてよりも、遺留分請求権を優先的に活用しなければならない。」28)。 連邦通常裁判所による前記の帰結は一見正当であるように思われるとしても、未解 決の問題が多く残されている。
すなわち、社会扶助の補足性の原則によって、社会扶助運営主体を特別に扱うこと を正当化することは難しい。その他にも、補足的に援助を行う機関または私人がある。
これらも、まさに「緊急の場合」に援助をしているのである。このことは、極めて多 岐にわたる公法上の組織についてもあてはまるし、扶養義務を負担していない血族ま たは友人も同様であり、ましてや、これらの者は、不適切な申し出を受けて援助した 場合ですら、現行法によれば賠償を求めることができないのである。
現行法では、確かに社会扶助運営主体は遺留分請求権を自身に移行させることがで きるが、相続人または受遺者の放棄する権利を移行させることはできないのであって、
これは一貫しないように思われる。放棄する権利は、一身専属的な形成権であって、
社会法典第12編第93条第1項第1文の意味での「移行可能な請求権」ではない29)。
Muscheler
30)は、次のように的確に述べている。すなわち、遺留分を取得するにとど まる者は、対価を支払わなければならないのに対し、相続することができる者、した がって遺留分より多くを受け取る者は、そのままでよいという。債権者の満足を目的 として相続または遺贈の承認を強いることは問題であるが、金銭請求権としての遺留 分請求権が、現に存する債務を限度として問題なく債権者に移行可能とすることは正 当である。しかし、この問題は「技術上の」ものであって、本質的な性質のものでは ない。たとえば、フランスでは遺留分権利者は常に「推定相続人(Noterben)」である。26) ZEV 2005, 117 m. Anm. Muscheler = FamRZ 2005, 448; BGH ZEV 2006, 76 = FamRZ 2006. 194 も参照。
27) Palandt/Edenhofer, 67. Aufl. 2008,§2317 Rn. 9; Staudinger/Haas(2006)§2317 Rn. 48 a-d;
MüKo/Lange, 4. Aufl. 2004, §2317 Rn. 10.
28) BGH ZEV 2005, 117, 118 = FamRZ 2005, 448, 450.
29) これに関しての詳細は、Ebrel-Borges/Schüttlöffel FamRZ 2006, 589, 596 m. Nachw.
30) ZEV 2005, 120; ausf. ders.(Fn. 15)S. 231ff.
遺留分権利者は相続人の共同体(Erbengemeinschaft)に属し、このとき、その相続 割合は通常は法定相続分の半分となる。債権者が相続(共同相続)の放棄によって不 利益を被るときは、詐害行為取消権によって債権者に不当となる限りで、放棄が修正 される余地がある31)。法技術上、個別の事案においてどのように解決を図るかは、立 法者の責務である。しかし、債権者が債務者より厚い保護を受けるものとするかどう かという問題(あるいはその逆)を、具体的にどのように相続財産を承継するかにか からしめるわけにはいかない32)。社会扶助受給者が被相続人により遺留分に相当する 範囲で相続人に指定されているかどうか、または社会扶助受給者が相続から排除され て、相続分の価額に応じた金銭の遺留分を受け取るかどうかによって差異が生じるこ とは、正当化できない。後位相続人の指定、遺言執行者の指定、もしくは遺産分割方 法の指定により制約を受け、または遺贈もしくは負担によって義務を負った相続人が 相続を放棄する(ドイツ民法典第2306条)かどうかにより遺留分請求権の成否が決 まる場合は、支配的な見解によれば、相続人が相続を放棄した後に初めて、遺留分請 求権を社会扶助運営主体に移行することができる33)。社会扶助運営主体は、放棄の権 限を持たないので、制約を受けた相続人、または負担によって義務を負った相続人が 相続を放棄するか否かをただ待たなければならない。適切な解決としては―立法論で あるが―、それぞれの相続財産の承継を債権者保護の観点から同列に扱うものとする ほかない。根本的な解決としては、次の二つが考えられる。すなわち、立法者が、相 続人、受遺者または遺留分権利者に相続または遺贈を承認し、ないしは遺留分請求権 を行使するか否かを委ねるものとするか、あるいは、社会扶助受給者が相続によって 承継する財産を、その者が受給した援助を限度として、社会扶助運営主体にそもそも 取得させることができるものとするかである34)。
31) 前記Ⅰ参照。
32) それゆえに、Muscheler(ZEV 2005, 120)は、次のように考えている。すなわち、遺留分請 求権は、社会扶助運営主体に移行させることは差し支えないが、遺留分権の行使については、
遺留分権利者本人の判断に委ねるべきである。−この見解は、確かに、社会扶助受給者が相続 人、受遺者または遺留分権利者であるかどうかによる区別を回避する長所があるが、法律上の 文言とはほとんど一致しない。
33) もちろん、この問題は議論の余地がないではない。van de Loo ZEV 2006, 473, 475および Ebrel-Borges/Schüttlöffel FamRZ 2006, 589, 596参照。
34) 最も新しい判例は、すでに解釈論として二つ目の方向に進んでいるようである。Hamm上 級地方裁判所2009年7月16日(ZEV 2009, 471 m. Anm. Leipold)の示した原則は、次のような ものである。すなわち、「相続財産の放棄は、相続人(vorläufige Erben)について社会扶助の 必要性が存続する場合は、良俗に反する。ただし、例外的に相続人の重大な利益(überwiegendes Interesse)を理由とする放棄は、この限りではない。」
3.相続法上の請求権と扶養
連邦通常裁判所(NJW 1993, 1920)では、扶養請求権者に遺留分請求権が帰属す る場合に、扶養義務者に対する関係で、遺留分請求権を行使する責務(
Obliegenheit
)* を負うかどうかが問題となった。連邦通常裁判所は、この問題を原則的に肯定し、も っとも、次のような場合は例外であるとした。すなわち、遺留分請求権の行使が不経 済(unwirtschaftlich)であり、または両者の経済状況を考慮して不当であるときで あ る。 連 邦 通 常 裁 判 所 は、 共 同 遺 言 に お け る 遺 留 分 違 約 罰 条 項(Pflicht
teilsstrafklausel
)**がある場合に、扶養請求権者にその最終相続人の地位を放棄して 遺留分請求権を行使したり、遺留分義務者であるその母を経済的窮状に追い込むこと までは期待できないことを示唆する。逆に、扶養義務者に遺留分請求権が帰属する場合に、扶養義務者が遺留分請求権を 行使する責務を負うかどうかとの問題については、連邦通常裁判所(NJW 1982, 2771)およびライヒ裁判所(WarnR 1919, Nr. 98)が言及している。両判決は異なる 事案を扱っていたにもかかわらず、次のような共通点がある。すなわち、期待可能性 が中核的な役割を演じているということである。連邦通常裁判所(
NJW
1982, 2771, 2772)は、扶養義務者に実際にはその死亡した父の意思に反する遺留分請求権の行使 を「道義的事由からも経済的観点のもとでも期待することができない」としている。これまで明らかになった判決は、例外なく遺留分請求権に関するものであった。し かし、実際、遺留分請求権を行使しないかどうか、相続または遺贈を放棄するかどう かという問題には差がない。
判例の公正な解決(Billigkeitslösung)は、学説に十分に浸透しているわけではない。
遺留分請求権の行使を放棄した扶養権利者を扶養義務者が援助することは、およそ考 えられないとか、逆に、扶養債務者も、扶養債権者の需要を満たすのに必要な資源を 調達するために、常に遺留分請求権を行使する義務を負うといった見解がみられ る35)。
このような批判は理解できるが、問題の核心ではない。判例および学説は、同じよ うに、債務者が債権者に配慮する必要があるときに(およびその逆)、あたかも扶養 法の特殊な問題が重要となるかのような印象を抱いている。しかし、そうではない。
債権者が扶養を理由として生じた金銭支払いを請求することができるかどうか、ある いは債権者に自身の生活およびその家族の扶養に資する売買代金請求権または給料債 権が帰属するかどうかに差異を設けることは困難である。立法者の当初の考え方を総 合すると、相続財産の承継を放棄するとの債務者の意思は、原則として債務者が現実 35) Winkler von Mohrenfels FamRZ 1981, 521; Muscheler (Fn. 15)S. 229f.; Staudinger/Haas
(2006)§2317 Rn. 39ff.
に相続財産を承継することへの債権者の利益より高く評価されるべきであるというこ とである。しかし、このような考え方は、債権者にとってもその債権の満足が死活問 題であるということを見ていない。すなわち、債権者が給付を受けられない場合は、
あるいは社会扶助に頼らざるを得ないし、倒産の申立てをしなければならなくなり、
その子に適切な養育を与えることができず、あるいは費用のかさむ医療処置を断念し なければならないことになるだろう。
* 債務関係における義務の1つであるが、義務(
Pflicht
)とは異なり、その不履行に よって損害賠償義務を生じるものではない。** 夫婦が互いに相続人と定め、生存配偶者が死亡した後に子または第三者が相続する 旨の遺言(いわゆるベルリン遺言(
Berliner Testament
))において、子による遺留分 権の行使を妨げるために、先に死亡する配偶者の相続時に子が遺留分権を行使すると きは、生存配偶者の相続においても遺留分権のみが認められるとする条項。4.免責手続における相続財産の承継
倒産法第35条によれば、倒産手続は、手続開始時に債務者に帰属した財産および手 続中に債務者が取得した全ての財産に及ぶ。相続財産、遺贈請求権および遺留分請求 権もまた、原則として倒産財団に含まれる。もっとも、債務者(倒産管財人ではない)
には、相続および遺贈を放棄する可能性が認められる(倒産法第83条第1項)。倒産 手続開始前または開始後の時点で生じた遺留分請求権もまた、債務者の意思に反して 倒産財団に帰属することはない(民事訴訟法第852条第1項、倒産法第83条第1項)。
相続または遺贈の放棄も遺留分請求権の不行使もまた、―債務者の動機を考慮せず に―否認(
Insolvenzanfechtung
)されることはない36)。このような帰結は確かに議 論の余地がないではないが37)、法律の文言および倒産法第83条第1項、民事訴訟法第 852条第1項・倒産法第36条第1項の趣旨にも合致し、連邦通常裁判所38)によっても 是認されている。免責の手続(倒産法第286条以下)について、倒産法第295条第1項第2号は次の ように定める。すなわち、債務者は、免責要件として求められる6年の良好な態度を 維持すべき期間(「誠実行為期間(Wohlverhaltensperiode)」)内に、ある人の死亡を
36) Muscheler(Fn. 15)S. 171 Fn. 77; Windel in Jaeger, InsO, 1. Aufl. 2007,§83 Rn. 10;
Uhlenbruck/Uhlenbruck, InsO, 12. Aufl. 2003,§83 Rn. 9; MünchKommZPO-Smid, 3. Aufl. 2007,
§852 Rn. 6.
37) たとえば、Bartels KTS 2003, 41ff.参照(遺留分請求権は容易に否認されるべきではないが、
相続および遺贈の放棄によって債権者が不利益を被ることは否認されるべきである。)。
38) BGH NJW 1997, 2384; BGH NJW 2001, 2084, 2085; BGHZ 123, 183 = NJW 1993, 2876も参照。
原因として取得した財産または将来の相続権を考慮して取得した財産の半分を裁判所 が定めた受託者に引渡す義務を負う。立法者は、この半分分割の原則(Halb
teilungsgrundsatz
)により、債権者の利益と債務者の利益間の調整を試みた。しかし、半分分割の原則は―支配的な見解であるが39)―、債務者が、良好な態度を維持すべ き期間内に債権者の不利益となる相続または遺贈を放棄し、ないしは遺留分請求権の 行使をしないことができるということに何らの修正も加えるものではない。これは、
適切ではない。債務者の職責は、後になお残存する債務を免れるために、良好な態度 を維持すべき期間内にその債権者を可能な限り満足させるべく、できる限りの努力を することである40)。債務者が承継する相続財産を、その債権者を害する(および近親 者の利益とする)目的で放棄するとすれば、このような基本的な考え方にそぐわない。
民事訴訟法第852条第1項、倒産法第83条において明らかにされている債務者の利益 の一方的な保護は、確かに、法政策上疑わしい立法者の判断として甘受せざるを得な い。しかし、免責を受けようとする債務者が、相続による財産承継を拒否することを 責務違反と評価するならば、基本的な考え方には矛盾しない。
半分分割を回避するために、債務者が「免責後によりよき日々の訪れを期待し て」41)相続財産の承継を先延ばしにしようとするときも同様である。私の尊敬する友
人である
Leipold
は、おそらく最初に次のことを指摘した。すなわち、倒産債務者が相続または遺贈を放棄するか否か、あるいは遺留分請求権を行使するか否かを自由 に決定できる限りで、いずれにせよ、倒産手続から免責手続に、免責手続からその後 の時点にまで、財産の承継を繰り延べることが可能であるということである42)。確か に、相続人には6週間の熟慮期間が与えられているに過ぎないが(ドイツ民法典第 1944条第1項)、遺贈請求権および遺留分請求権の消滅時効はそれぞれ3年である(ド イツ民法典第195条)。その間、債務者は、遺産価額が倒産財団に属するか否か、遺産 価額が半分分割の原則に服するか否か、または免責後に債務者に制限なく帰属するか 否かを定めることができることになる。
債務者が決定を先延ばしにすることで免責手続中に開始した相続財産の承継を免責 39) BGH ZEV 2009, 469 = FamRZ 2009, 1485;異なる見解として、Dieckmann in: Leipold(Hesg.)
, Insolvenzrecht im Umbruch, 1991, S. 127, 133ff.; Uhlenbruck/Uhlenbruck, InsO, 12. Aufl. 2003,§
83 Rn. 6; MünchKommInsO- Ehricke, 2003,§295 Rn. 57(遺留分請求権についてのみ、異なる 見解である。)。
40) Bt-Drs. 12/2443, S. 108ff.
41) Dieckmann(Fn. 39)S. 134:「債務者がたとえば遺留分請求を免責後のよりよき日々の訪れ を期待して先延ばしにするときは、それは疑わしいものであろう。」
42) Erbrechtlicher Erwerb und Zugewinnausgleich im Insolvenzverfahren und bei der Restschuld- befreiung, in: Festschrift Gaul, 1994, S, 367, 371f.
後に確定しようとする場合、それは、債務者がその債権者の不利益となるように免責 手続中の相続財産の承継を放棄するのとほぼ同じことである。すなわち、債務者のそ のような行動は、その債権者に対する責務に反するものである43)。
これを敷衍すると、倒産法第295条以上に倒産法第83条第1項、民事訴訟法第852 条第1項・倒産法第36条によって債務者の利益を一方的に強調することを弱め、それ によって、適切な結果を達成することができる。もっとも、これは、倒産手続におけ る相続財産の承継の取扱いが、一般的に調和のとれたものにすることを意味するので はない。Windelは、これに関して次のように考えている44)。すなわち、「倒産法第35 条第1項によれば、新たな財産の承継は債権者の利益となるべきである。債務者が免 責を申し立てるときは、倒産法第295条第1項第2号に基づき、死亡を原因として取 得した財産の半分を債権者に帰属させなければならない。倒産手続において、財団ひ いては債権者におおよそ何かが与えられるかどうかを、債務者が『一身専属的に』決 定することができるとされていることは、このことに適合していない。」。この問題を 合理的に規律することが、立法者に残された課題である。
Ⅳ.立法にあたって
債務者がいかなる制限も受けずに、相続財産の承継に対する債権者の干渉を阻止で きるものとすることに、説得力のある理由付けを見出すことは困難である。被相続人 を一方とし、他方を相続人または遺留分権利者とする緊密な人的または家族的な結び 付きが指摘されるが、これは説得的ではない。このような結び付きは、夫と妻、父母 と子の間での慰謝料請求権もしくは不法行為に基づく損害賠償請求権、または特別に 緊密な人的もしくは家族関係に根差したその他の請求権が問題となるときにも、存在 している。支配的な見解とは異なり、民事訴訟法第852条第1項の特別規定の根拠を、
生存者間の贈与または死亡を原因とする財産の取得を強制してはならないことに見い 出そうとする者は、合理的な解決をするためには、あらゆる利益を衡量しなければな らないことを見落としてはならない。債権者にとっても、債権の満足は時に死活問題 となる。それゆえに、これまで論じてきたように、すでに解釈論として判例および学 説は、苛酷な場合における修正も辞さなかった。それに加えて、次のような事実を見 過ごすべきではない。すなわち、相続財産の承継の放棄が近親家族の利益となるよう になされるときは、濫用となることは避けられない。
民事訴訟法第852条第1項が本来的な評価の問題性を見えなくしていることは、後 に導入された民事訴訟法第852条第2項の規定からも示されている。1958年に付加利
43) Bartels KTS 2003, 41, 66も同様である。
44) In Jaeger, InsO, 1. Aufl. 2007,§83 Rn. 2.
得共同制が新たな法定夫婦財産制として導入されたときに、立法者は、民事訴訟法第 852条第1項に依拠して、清算請求権が契約により承認され、または訴訟が係属した 後にのみ差押えを受けるとすることが妥当であるとした。この規定は、民事訴訟法第 852条第1項の規定よりも疑わしく思われる。付加利得共同制の考え方は、清算請求 権者である配偶者がその婚姻中の活動によって請求権を誠実に取得することを基本と している。したがって、―相続におけるのとは異なり―「与えられる」のではない。
多くの外国法では、それゆえに、婚姻中に獲得した財産も即座に共同財産となり(い わゆる所得共同制(Errungenschaftsgemeinschaft))、その結果、各配偶者の一方の 債権者は、共同で取得した財産権に対し、すでに婚姻中に強制執行をかけることがで きる。ドイツでは、債権者が、その債務者の意思に反して、婚姻の解消後でさえ婚姻 中に取得した財産価額に介入できないということは、納得のできるものではない。
さらに、民事訴訟法第852条第2項の規定は、近時広く解釈されている。連邦通常 裁判所は、2003年2月20日の判決45)において、「婚姻が破綻し、ひいては婚姻に関連 した出捐の行為基礎を喪失したこと」から生じる清算請求権または返還請求権につい ても、民事訴訟法第852条第2項を準用するものとしている。連邦通常裁判所の見解 は、予防法学の分野で、民事訴訟法第852条第2項は連邦通常裁判所の示した限界を 超えて「差押制限のある再取得権(pfändungsfeste Rückerwerbsrecht)」の合意を許 すかどうかという問題について活発な議論をもたらした46)。実務では、先取り相続に よる土地の譲渡の際になされるが、様々な理由から配偶者間の出捐の際にもまた再取 得権が合意される。契約上の再取得権は、譲渡人あるいは贈与者を、望まれない処分、
意図しない承継もしくは譲受人の過誤から保護し、または、単に譲渡人に譲渡の決断 をしやすくさせるものである。差押制限のある再取得条項に関する議論は、現在なお 展開されている。多数の論者は、配偶者間の出捐において、婚姻が解消されたと き47)、取得者が先死したとき48)、望まれない処分がされたとき49)、または出捐者に対 する重大な過誤が肯定されるとき50)について、差押制限のある再取得権を認める合 意を可能であるとする。これらの問題においても、次のように考えられるだろう。す なわち、こうした議論から明らかとなるのは、家族の結び付きは、事案の類型ごとに、
45) BGHZ 154, 64, 70 = NJW 2003, 1858, 1860.
46) Koch/Mayer ZEV 2007, 55.
47) Münch FamRZ 2004, 1329, 1332; Langenfeld ZEV 2003, 295; Berringer DNotZ 2004, 245, 258.
48) Münch FamRZ 2004, 1329, 1333; Oertel RNotZ 2003, 391, 395; Baldringer/Jordans FPR 2004, 1, 8.
49) Münch FamRZ 2004, 1329, 1333; Oertel RNotZ 2003, 391, 395; Baldringer/Jordans FPR 2004, 1, 8.
50) Oertel RNotZ 2003, 391, 395; Baldringer/Jordans FPR 2004, 1, 8.
債権者の利益を保護すべきか、債務者の利益を保護すべきかを決定する適切な基準と はなっておらず、さらに解釈論上、苛酷な場合において必要とされる修正をすべて排 除するものである。初めに述べたフランス法の解決方法は、より一層説得的である。
【参照条文】
・倒産法
<§83: Erbschaft. Fortgesetzte Gütergemeinschaft>
(1)
Ist dem Schuldner vor der Eröffnung des Insolvenzverfahrens eine Erbschaft oder ein Vermächtnis angefallen oder geschieht dies während des Verfahrens, so steht die Annahme oder Ausschlagung nur dem Schuldner zu
.Gleiches gilt von der Ablehnung der fortgesetzten G
ütergemeinschaft
.(2)
Ist der Schuldner Vorerbe, so darf der Insolvenzverwalter über die Gegenst
ände der Erbschaft nicht verf
ügen
,wenn die Verf
ügung im Falle des Eintritts der Nacherbfolge nach
§ 2115des B
ürgerlichen Gesetzbuchs dem Nacherben gegen
über unwirksam ist
.倒産法第83条【相続・継続的夫婦財産共同制】
(1) 債務者に、倒産手続きの開始前に相続若しくは遺贈が生じたとき、又は手続係 属中にこれが生じたときは、承認又は放棄は、債務者のみがすることができる。
継続的夫婦財産共同制の拒絶も同様とする。
(2) 債務者が先位相続人である場合において、後位相続が発生した場合に、民法典 第2115条に基づいて後位相続人に対して処分の効力を生じないときは、倒産管 財人は、相続財産の目的物を処分してはならない。
※参考:吉野正三郎『ドイツ倒産法入門』(成文堂・2007年)108頁
・民事訴訟法
<§852 :Beschränkt pfändbare Forderungen>
(1)
Der Pflichtteilsanspruch ist der Pfändung nur unterworfen, wenn er durch Vertrag anerkannt oder rechtsh
ängig geworden ist
.(2)
Das Gleiche gilt für den nach § 528 des Bürgerlichen Gesetzbuchs dem
Schenker zustehenden Anspruch auf Herausgabe des Geschenkes sowie f
ür
den Anspruch eines Ehegatten oder Lebenspartners auf den Ausgleich des
Zugewinns
.民事訴訟法第852条【制限的差押債権】
(1) 遺留分請求権は、それが契約により承認されたとき又は訴訟が係属したときに 限り、差し押さえることができる。
(2) 民法第528条に従い贈与者に帰属する贈与目的物の引渡しを求める請求権並びに 付加利得の清算を求める配偶者又は生活パートナーの請求権についても同様と する。
※参考: 法務大臣官房司法法制部編『ドイツ民事訴訟法典―2011年12月22日現 在―』 (法曹会・2012年)257頁