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内生的貨幣供給と総需要

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(1)

内生的貨幣供給と総需要

著者 植田 宏文

雑誌名 同志社商学

巻 57

号 5

ページ 117‑137

発行年 2006‑03‑10

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007335

(2)

内生的貨幣供給と総需要

植 田 宏 文

1 信用創造の内生化 2 金融不安定性と政策効果 3 金融自由化と不安定性 4 特徴と問題点

Minsky

は,資本主義の経済過程の循環的性格,および投資と金融の密接な関係を幅

広く考察している。とりわけ銀行を中心とした金融仲介機関を通じての企業貸出行動を 明示的に分析し,信用の拡張や収縮がマクロ経済活動を加速させることを多角的に論じ ている。彼は,ミクロ的な金融要因を考慮した不確実性下での投資理論を提示し,投資 と資金調達の関係,金融市場と実物市場の相互連関性を組み合わせた内生的な景気循環 理論を導出し,その上で経済は結果的に不安定になる可能性が大きくなることを論じ た。

具体的に,企業が投資に必要な資金をどれだけ調達できるかは,金融仲介機関の貸出 態度に依存する。銀行にとって,企業の金融構造が健全であれば,貸出資金が返済され る可能性は高くなり,資金を貸出すことのコスト(貸し手コスト)が低下し貸出は増加 する。反対に企業の金融構造が脆弱であれば,貸し手コストが上昇し貸出は減少する。

金融構造の健全性を決定する主要因は将来のキャッシュ・フローであり,これは将来期 待に依存するため本来不安定的な傾向を有している。企業の金融構造が脆弱になるほ ど,企業と金融仲介機関の双方の行動が将来期待に過敏に反応するようになり,大幅な 経済活動の変動をもたらす要因となる。

たとえば,投資拡大に伴い借入が増加すれば外部資金への依存度が高まり,企業のレ バレッジ比率は上昇する。利払いに対するキャッシュ・フローの比率が減少していけば 財務状態は悪化し,投資プロジェクトを実行することのリスクは高まる。すなわち金融 構造が脆弱になるほど資金を借りることのコスト(借り手コスト)が上昇し,不確実性 下での投資決定に影響を及ぼし投資水準の減少を招くことになる。このようなことから も,企業の金融構造と資金を供給する金融仲介機関の行動が,マクロ経済活動に対して 重要な役割を有していることがわかる。

本論では,家計の資産選択行動における相対的危険回避度を組み入れたモデルに,金 融仲介機関の存在を新たに加えたモデルへと発展させ,金融不安定性理論をさらに展開

333)1

(3)

させる。具体的に第

1

節では,基本モデルを与え,企業の金融構造と金融仲介機関の貸 出行動がマクロ経済に与える影響について検討する。経済活動の成長(不況)期には,

金融仲介機関による貸出も増加(減少)するため,経済成長(不況)期に金利が低下

(上昇)し,さらに経済活動を拡大(収縮)させる動きがはたらくことを明らかにす る。第

2

節では,上述した金融の不安定性が生じている場合,金融政策の有効性につい て分析する。第

3

節では,金融の自由化を反映したモデルを構築し,理論的側面の応用 を試みる。ここでは,現実的な現象としてもみられる,景気の動向と銀行の利鞘の変動 が密接な関係にあることが確認される。

第 1 節 信用創造の内生化

(1)基本モデル

本モデル分析における各経済主体のバランスシートが,以下の第

1

表で示されてい る。

市中銀行のバランスシートは,資産として中央銀行への預け金である銀行準備と,企 業への融資すなわち銀行貸出から構成され,一方負債として家計からの預金がある。企 業の資金調達は,大別すると銀行借入

L

BS,社債

L

Pの発行,および株式発行

PeE

であ る。本論では,銀行貸出(借入)のマクロ経済に対する影響を明確にするため,株式の 発行は既存発行のみであり新規発行を行わないとする。社債は,すべて家計向けに発行 されるとする。したがって家計の資産は,預金・社債・株式から構成される。なお,r は現行利潤率,i は貸出利子率,e は将来期待を表している。

(2)財市場の均衡

現行の利潤率

r

は,以下の通りである。

r= PY

−wN

PK

(1)

1 各経済主体のバランスシート

中央銀行 市中銀行

H R

LBS

D (r+e)PK i

LBd LP PeE

D LP PeE

W

H:ハイパワードマネー LP:社債(家計向け)

R:銀行準備 Pe:株価 LB:銀行貸出 E:株式発行数

D:預金 W:総資産

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

8(334

(4)

Y

は 産 出 水 準(所 得),P は 消 費 財 と 投 資 財 の 共 通 価 格(Taylor & O’Connell

(1985))同様に,マーク・アップ原理にしたがって決定される),K は資本ストック,

w

は賃金率,N は雇用量である。

投資

I

からの予想収益の流列を

Q

(j=1, 2…n)とする。ここで議論の簡単化のためj

に,足立(1993)と同様に次式をみたす

Q

が存在すると仮定する。したがって,現在 割引価値は,

!

j=1

Q

j

! 1+i

ρ

(L

"

j

Q

i+ ρ

(L) (2)

となる。Q は,予想収益の流列

Q

jの加重平均値であり,一期当たりの平均予想収益で ある。

ρ

は,Minskyの主張する「貸し手リスク」に相当するものであり,企業の主観的判 断で変化する。貸し手リスク

ρ

は,既存の銀行借入(L)の水準に依存し,さらに既 存の銀行借入が増加するほど貸し手リスク

ρ

は危険プレミアムを反映して上昇すると 仮定する(ρ の一階微分と二階微分はともに正)。Q は,投資

I

,現行利潤率

r,将来

期待

e

に対して次のように依存しているとする。

Q

=Q(I, r, e)

Q

I>0,

Q

II<0,

Q

r>0,

Q

Ir>0,

Q

e>0,

Q

Ie>0 (3)

(1)〜(3)式より投資は,

Q

i

ρ

(L)−PI=

Q

(I, r, e)

i+ ρ

(L)−PI (4)

を,最大にするように決定される。(4)式を

I

について解けば,次の投資関数を得る。

I

=I(

r

, e

, i

,

L

) (5)

次に,貯蓄

S

は次のようになる。なお,家計の貯蓄性向

s

と企業の内部留保率

h

は 一定とする(但し,h>s)。

S

=s

!PY

−h(rPK−i−1

L "

+h(rPK−i−1

L

(6)

内生的貨幣供給と総需要(植田) 335)1

(5)

上式を簡単に表せば,貯蓄関数は次のようにまとめられる。

S

=S(r, L),Sr>0,

S

L<0 (7)

以上の体系より,財市場の均衡条件式は(5)式と(7)式より,

I

r

, e

, i

,

L

)=S(

r

, L

) (8)

となる。なお,財市場における安定条件として,Ir<Srが満たされているとする。ここ で,財市場の均衡を表す

r

i

の関係を

CM

曲線とよぶ。CM は,右下がりの曲線で ある。企業の既存借入

L

が増加すれば,企業の新規投資は減少するので

CM

曲線は下 方シフトする。

(3)家計の資産選択

家計は内田(1988)と同様に,資産として銀行預金,社債,株式を次のように保有す る。

A

(W)

α

(i, r+e, z)

W

=M (9)

B

(W)

β

(i, r+e, z)

W

=LP (10)

C

(W)

γ

(i, r+e, z)

W

=PeE (11)

W

=M+LP+PeE (12)

また,3資産は粗代替の関係にあり,ある資産の収益率の上昇はそれ自身への需要を 増加させるが,他の資産への需要を減少させる。したがって,以下の不等式が成り立っ ている。

α

i<0,

β

i>0,

γ

i<0

α

r<0,

β

r<0,

γ

r>0

α

e<0,

β

e<0,

γ

e>0

α

z<0,

β

z>0,

γ

z>0 資産制約式より,

A′

(W)

α W

+A

α

+B(W′ )

β W

+B

β

+C(W′ )

γ W

+C

γ

=1 (13)

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

0(336

(6)

を得る。通常の金融資産の需要式と異なるところは,中央銀行の政策態度を表す

z

を 付け加えていることである。zは,質的金融政策の一つであり,信用取引規制や担保掛 け目の変化等を示してい

1

る。ここで

z

の上昇は,社債や株式への投資をより進めるよ うな政策変数とする。つまり

z

の上昇は,信用取引規制の緩和,担保掛け目の上昇に 対応している。また,本資産需要関数では,内田(1988)で詳しく分析されている通 り,相対的危険回避度が明示されているモデルとなっている。

(4)銀行行動

銀行の準備は,最低必要準備(v:法定預金準備率)と超過準備で構成される。その 関数形は,次のように仮定する。なお

ε

は,預金に対する必要準備を控除した後の預 金残高に占める超過準備率である。

R

=vD+ε(

r

, e

, L

, z

)(1−v)

D

(14)

現行利潤率

r

と将来期待

e

の上昇は,企業への貸出に伴う危険を減少させるため,

企業貸出を増加させ,超過準備を減少させる。また,質的金融政策の

1

つである

z

の 上昇は,同様の効果を持つ。反対に,企業の既存負債

L

が上昇すると,貸出に伴う危 険が増加するため超過準備を増加させる。つまり

r, e, z

の上昇は,Minskyの主張する 貸し手リスクを減少させ,反対に

L

の増加は貸し手リスクを上昇させる。(14)式よ

り,貨幣供給(現金はゼロであるので預金のみが対象となる)を銀行準備の信用乗数倍 として,次のように表すことができる。

M

=φ(

r

, e

,

L

, z

, v

R

(15)

φ

は信用乗数関数であり,銀行部門を考慮した本モデルにおいて内生的に変化す る。この信用乗数

φ

は,後の理論分析において重要な役割を果たす。また各変数の

φ

に対する偏微係数の大きさが,FM 曲線の傾きとシフトの大小を決定す

2

る。

企業への銀行貸出は,(14)〜(15)式とおよびランスシートの制約式より次のように

────────────

特に1985年以後,株価の乱高下に対して中央銀行が頻繁に使う政策である。例えば,19908−9月の

40% にもわたる株価の低下時において,株式市場の立て直しのため,信用取引取引規制を自己資本の3

倍から5倍へ緩和し,生保による株式投資上限を5% から7% へ拡大した。また,企業の銀行借入負担 を軽減させるために,担保掛目を7割から8割へ上昇させた。これらの諸規制の緩和は,企業への信頼 度を高める効果をもたらし,株価底上げに貢献したものと考えられている。

Tobinは,現金預金比率C/Dの値は,家計や銀行のポートフォリオの調整によってvolatileに変動す

るために,銀行信用乗数は決して安定的とはいえないと主張している。このことからも信用乗数は,決 して外生変数として一定ではなく,本モデル分析と同様に経済状況に応じて内生的に変化するものと思 われる。

内生的貨幣供給と総需要(植田) 337)1

(7)

導出される。

L

BS=LBS

r

, e

,

L

, z

)(1−v)

D

(16)

企業への総貸出(企業の負債)は,銀行による企業への貸出と家計による社債購入を 合計したものである(Ls=LBS+LP)。現行利潤率

r

と将来

e

については,銀行の貸出供 給の大きさの方が,家計のそれを大きく上回ると仮定すれば,貸出供給関数は次のよう にな

3

る。

L

S=L(S

r

, e

,

L

, z

, v

) (17)

企業の既存借入水準

L

が増大すれば,銀行の貸し手リスクも上昇するため,企業へ

の銀行貸出は減少する。

一方,企業の借入需要は,次のように仮定する。

L

d=L(d

i

, r

, e

,

L

) (18)

利子率

i

の上昇は企業の利払い負担を増加させ,また既存借入額

L

の増加は借り手

リスクを増大させるため,企業は借入を減少させようとする。反対に,現行利潤率

r

と将来期待

e

の上昇は,投資の現在割引価値を増加させるため,投資需要が増加し,

それに比例して借入を増加させる。

(5)金融市場の均衡

以上の枠組みの下で,各金融市場の需給均衡式をまとめると以下のようになる。

(A)預金市場需給均衡条件

A

(W)

α

(i, r+e, z)

W

=φ(r, e, z, L, v)

R

(19)

────────────

re が上昇すれば,家計に関してはポートフォリオ行動より株式需要を増加させ,企業向貸出を減ら す要因となる。しかし,バランスシートより銀行は株式保有をしない分,reが上昇すれば企業向貸 出を大きく増加させる結果,家計のマイナス分を上回るとするものであり,これは現実的であると思わ れる。

また,(17)式の銀行の貸出供給関数には,貸出利子率が入っていない。通常,貸出利子率の上昇 は,銀行の貸出供給を増加させるはずである。しかし,この点を考慮しても本節の議論において本質的 な影響は受けない。但し,貸出利子率を導入したケースを次節で分析している。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

2(338

(8)

(B)貸出市場均衡条件

L

(i, r, e, Ld )=L(r, e, L, z, v)S (20)

(C)株式市場均衡条件

C

(W)

γ

(i, r+e, z)

W

=PeE (21)

金融市場では,利子率

i

と株価

Pe

が調整変数としてはたらく。上の

3

つの金融市場 の中で,1つは独立ではないため(20)式の貸出市場式を捨象して分析する。ここで,

(12)式を(21)式に代入して

Pe

を消去し,W について解くと次のようになる。

W

BD=WBD

i

, r

, e

, z

, v

,

L

, R

) (22)

但し,右上添字

B

は銀行部門が存在する場合を示している。したがって,添字

BD

は,銀行部門が存在し,家計は資産選択行動において相対的危険回避度が減少である場 合を示している。各変数に対する偏微係数は以下の通りである(右下の添え字が,編微 分した変数を示している)。

W

iBD

=C(W)

γ

i

W

/∆1<0

W

rBD

=C(W)

γ

r

W

+φr

R

/∆1>0

W

eBD

=C(W)

γ

e

W

+φe

R

/∆1>0

W

zBD

=C(W)

γ

z

W

+φz

R

/∆1>0

W

vBD=φv

R

/∆1<0

W

BDL =φL

R

/∆1<0

1=1−C(W′ )

γ W

−C(W)

γ

利子率

i

の上昇は,株価の低下を通じて資産

W

を減少させる。現行利潤率

r

と将来 期待

e

が変化したときの

W

に対する影響は,分子に

φ

r

φ

e が示されているように,

預金の信用創造の効果が加わるため,銀行部門が存在しないときよりも大きくなること が明らかである。したがって,|

W

rBD

|>|

W

rD

|と|

W

eBD

|>|

W

eD

|が成立している。z ま たは

R

が上昇すれば,銀行の貨幣供給が増加するため,家計の資産は増加する。v ま たは

L

の上昇は,銀行の貸出意欲を低下させるため貨幣供給は低下し,結果的に家計 の資産にとってもマイナス要因となる。

内生的貨幣供給と総需要(植田) 339)1

(9)

(22)式を(19)式に代入すれば,銀行部門を含む預金市場(貨幣市場)の均衡条件 式を次のように書き換えることができる。

A !W

BD)(i, r, e, z, v, L, R)

" α

(i, r+e, z)

W

BD(i, r, e, z, v, L, R)=φ(r, e, z, L, v)

R

(23)

上式を用いることによって,信用創造を行う銀行部門の存在する場合と存在しない場 合に分けて,各々の金融市場における現行利潤率

r

に対する利子率

i

の反応の大きさ を示し,その差を以下のように導出することができる。これにより,FM 曲線の傾きの 格差をみることができる(添字

BD

は,銀行部門が存在し,家計は相対的危険回避度 減少の資産選択をする場合である。添字

D

は,銀行部門はなく,家計は相対的危険回 避度減少のもとで資産選択を行う場合を示す。)

di

BD

dr

di

D

dr

=−

A′

(W)

W

r

BD

α W

+A(W)(αr

W

+α

W

r

BD)−φr

R A

(W)

α

i

W

+Wi

BD

!A

(W′ )

α W

+A(W)

α "

A

(W′ )

W

r

D

α W

+A(W)(αr

W

+α

W

r

D

A

(W)

α

i

W

+Wi

D

!A

(W′ )

α W

+A(W)

α "

=φr

R !A

(W′ )

α W

+A(W)

α

+C(W′ )

γ W

+C(W)

γ

−1

"

/[A(W)

α

i

W

W

iBD

!A

(W′ )

α W

+A(W)

α "

][A(W)

α

i

W

+WiD

!A

(W′ )

α W

+A(W)

α "

[C(W′ )

γ W

+C(W)

γ

−1]<0 (24)

同様に,相対的危険回避度を考慮し銀行部門の存在する場合(添字

BD

)と,相対的 危険回避度を考慮し銀行部門の存在しない場合(添字

D

),および銀行部門が存在せず 相対的危険回避度一定のいわゆる

Taylor & O’Connell

モデル(添字

C

)の

3

つのケー スを同時に比較することができ,

│ │ di

BD

dr

│ │

│ │ di

D

dr

│ │

│ │ di

C

dr

│ │

(25)

を得

4

る。

また家計の相対的危険回避度の程度が変化した場合,FM 曲線の傾きに対する影響 は,

────────────

銀行の信用創造関数において貸出利子率iを用いても3つのケース(Taylor & O’Connellモデル,相対 的危険回避度を明示的に導入し金融仲介機関を含むモデル,同じく金融仲介機関を含まないモデル)に おけるirに対する傾きの絶対値と,eに対するシフトの絶対値の大小関係は変わらない。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

4(340

(10)

i

r FM I FM BI

FM D

FM BD

∂(diB/dr)

A′

(W)>0 (26)

となる。上式は,ある相対的危険回避度(減少,一定,増加)の下で金融仲介機関の存 在を考慮している場合,A′(W)が変化したときに

FM

曲線の傾きがどのように変化す るのかを求めたものである。相対的危険回避度が,減少するほど

FM

曲線の傾きは急 になることが明らかである。

上記(25)式と(26)式は,銀行部門を考慮した本理論分析において重要な意味を有 している。同じ相対的危険回避度の下で,信用創造を内生化させる金融仲介機関の導入 は,現行利潤率

r

が上昇すると貨幣供給が増加するため,利子率をより低くする効果 を持ち,FM 曲線の傾きをより急にする。換言すれば,FM 曲線が右下がりになる可能 性を高める要因となる。さらに,金融仲介機関の存在を考慮している場合に相対的危険 回避度が,一段と減少すれば貨幣市場の超過供給の程度を大きくする。したがって利子 率はさらに低下し,FM 曲線の傾きが急になる。

次に,相対的危険回避度が増加の場合で,銀行が存在する場合としない場合において 曲線の傾きの大小を求める。相対的危険回避度が増加の場合,FM 曲線が右上がりにな るときがあるが,ここでは右下がりになっている場合を考察対象とす

5

る。家計の相対的 危険回避度が増加の場合,A′(W)>0,

B

(W′ )<0,

C

(W′ )<0となる。このとき,

│ │ di

BI

dr

│ │

│ │ di

I

dr

│ │

(27)

────────────

FM 曲線が右上がりの場合でも,金融仲介機関の存在が利子率を低くさせる要因になっている。

1 LM曲線の傾きの相違

内生的貨幣供給と総需要(植田) 341)1

(11)

を得る。上記(25)式と(27)式を図示すると,第

1

図のようになる(添字

BI

は,銀 行部門が存在し,家計は相対的危険回避度増加の資産選択行動をする場合を示してい る)。

FM

曲線の傾きがより急になるのは,金融不安定性を引き起こす可能性を高めること を意味し,銀行部門の存在はそれだけ,マクロ経済に与える影響を増加させるものとし て位置づけることができる(但し,FMD

FM

BIの傾きの大小関係は一意的ではな い)。

第 2 節 金融不安定性と政策効果

(1)FM 曲線のシフト

前節のマクロ経済モデルにおいて,将来期待

e

が変化したときの

FM

曲線のシフト の大小関係は,

│ │ di

BD

de

│ │

│ │ di

D

de

│ │

(28)

となる。さらに,先の

3

つ場合において将来期待

e

が,各々の利子率

i

へ与える影響 の違いを次のようにまとめることができる。

│ │ di

BD

de

│ │

│ │ di

D

de

│ │

│ │ di

C

de

│ │

(29)

また,相対的危険回避度が減少するほど

FM

曲線の下方シフトの幅は,次のように 大きくなる。

∂(diB/de)

A

(W′ )>0 (30)

以上の(28)式と(30)式を図示すれば,第

2

図のようになる。将来期待

e

が上昇 すれば,FM 曲線は下方シフトする。銀行部門が存在すれば,e の上昇は同じく下方へ シフトさせるが,貨幣供給が増加するため利子率をより低くさせる。したがって,貨幣 市場の均衡のために

FM

曲線は,銀行部門の存在しない場合よりも大きく下方へシフ トしなければなら

6

い。

この結果,将来期待が上昇した場合のマクロ経済に与える影響は,第

2

図を用いるこ とによって鮮明に理解することができる。相対的危険回避度が減少し,銀行部門が存在

────────────

このときCM 曲線は,右方シフトする。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

6(342

(12)

i

r FM C

FM D

FM BD

する場合,eが上昇すると現行利潤率は大きく上昇し,他の場合よりも,景気変動の幅 が大きくなる。金融仲介機関の存在が,実物経済の変動幅を拡大させる要因になってい ることが確認できる。

次に,企業の既存の借入が上昇したときのマクロ経済に与える影響を考察する。既存 借入

L

の上昇は,CM 曲線を下方シフトさせる。

FM

曲線への影響は,(23)式より,

di dL

φ

L

R

A

(W)

α

i

W

>0 (31)

となる(但し,ここでは簡単化のため

A′

(W)

α W

+A(W)

α

=0としてい

7

る)。

企業の既存借入

L

の増加は,銀行にとって企業への貸出に伴う貸し手リスクが上昇

するため,銀行貸出は減少する。この結果,貨幣供給は減少し,貨幣市場は超過需要の 状態になる。このとき金融市場の均衡のためには貨幣需要が減少するように利子率は上 昇しなければならない。したがって,FM 曲線は上方にシフトする。

以上より,L の増加は利子率

i

を上昇させ利潤率

r

を低下させる要因となる。利子

率の上昇は,企業の負担を一層重いものとし,有効需要を減少させる。さらに

r

の減 少は,銀行の貸し手リスクを上昇させ,貸出を減少させるためにマクロ経済活動を一段 と収縮させる(第

3

図)。

────────────

A′(WαW+A(Wα=0の仮定をおかなくても制約条件を付け加えることにより,同様の符号を導く ことができる。

2 将来期待eの上昇

内生的貨幣供給と総需要(植田) 343)1

(13)

i

r FM

CM

i

r FM

CM

(2)質的・量的金融政策の効果

上の分析において,将来期待

e

の上昇が,利子率の低下と利潤率の上昇をもたらし 経済を加熱させる要因となったように,行き過ぎた景気変動に対しては中央銀行の最後 の貸し手としての適切な介入が必要となる。ここでは,前節で示した金融不安定性が生 じている場合の金融政策の有効性について検討する。すなわち,金融市場のモデルが前 節で展開されたような一般均衡体系で示される場合,有効需要に対する金融政策の効果 はどのようになるかを分析する。

本節では,新たに質的金融政策である投資規制の変化

z

と最低必要準備率の変化

v

の効果を分析する。また本節モデルでは,中央銀行が経済全体の貨幣量を直接変化させ ることはできない。中央銀行はハイパワードマネーを供給し,そして信用乗数関数を通 じて貨幣供給量は内生的に求められる。以下,金融政策の有効性を順に分析する(本節 では,簡単化のために,A′(W)

α W

+A(W)

α

=0が成立しているとする)。

・投資規制の変化(投資緩和政策)

(23)式より,z の上昇による利子率

i

に対する効果は次の通りである。

di

dz

φ

z

R

−A(W)

α

z

W

A

(W)

α

i

W

<0 (32)

z

の上昇は,銀行の貸出増を通じて貨幣供給を増加させ,家計の貨幣需要を減少させ るために,貨幣市場は超過供給になる。そのため金融市場均衡化のためには,利子率は 下落しなければならない。したがって

FM

曲線は,第

4

図のように下方シフトする。

この結果,経済の低迷期において質的な金融緩和政策を意味する

z

を上昇させれば,

利子率の低下を通じて利潤率を上昇させ景気を回復させることができる。

反対に,景気加熱期には

z

を減少させることにより,経済活動の引き締めに資する ことができる。

3 Lの増加 4 zの上昇 同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

8(344

(14)

・最低必要準備率の変化

(23)式より,最低必要準備率

v

の変化による利子率

i

への影響は次の通りである。

di

dv

φ

v

R

A

(W)

α

i

W

>0 (33)

最低必要準備率

v

の上昇は,信用乗数関数を通じて貨幣供給を減少させる。貨幣市 場は,超過需要となり,均衡のためには利子率は上昇しなければならない。したがっ て,FM 曲線は上方シフトする。このことから景気加熱期に,最低必要準備率を上昇さ せることにより,景気過熱感を抑えることができる。

投資規制効果と同様に

v

上昇という質的金融政策は,十分にマクロ経済に対して影 響を及ぼすことが明らかである。

・ハイパワードマネーの変化

現金を考慮していないので,ハイパワードマネーは銀行準備

R

に等しい。(23)式よ り,R が変化した場合の利子率

i

への影響は次の通りである。

di

dR

φ

A

(W)

α

i

W

<0 (34)

R

(=H)の増加は,貨幣供給を増加させるため貨幣市場は超過供給となる。金融市 場均衡のためには,利子率は低下しなければならず

FM

曲線は下方シフトする。した がって,R の上昇は,投資規制緩和策と最低必要準備率の引き下げと同じ効果を有 し,経済活動の拡大に貢献することができる。

第 3 節 金融自由化と不安定性

前節まででは,預金利子率は一定であり,明示的に取り上げてはいなかった。この仮 定は,金融自由化の進んでいない段階に対応している。しかし,米国では,1980年代 にスーパー

NOW

勘定と

MMDA(短期金融市場預金勘定)の新金融商品が開発された

後,預金金利は連邦準備局によって固定されるのではなく,市場で均衡するように決定 されるようになった。わが国でも,1989年の新金融調節法の導入後,市場実勢に合わ せて預金金利が決定されるメカニズムが構築された。本節の目的は,最近のこのような 金融自由化の進展を反映させて,金融不安定性理論の発展を試みるものである。同時に この分析によって,銀行の利鞘と実物経済の動向に密接な関係があることが確認され る。

内生的貨幣供給と総需要(植田) 345)1

(15)

(1)家計の資産選択

家計は,以下のように資産選択を行うものとする。

A

(W)

α

(id

, i, r+e, z

W

=M (35)

B

(W)

β

(id

, i, r+e, z) W

=LP (36)

C

(W)

γ

(id

, i, r+e, z) W

=PeE (37)

W

=M+LP+PeE (38)

各金融資産間での粗代替の仮定より,

α

id>0,

β

id<0,

γ

id<0

α

i<0,

β

i>0,

γ

i<0

α

r<0,

β

r<0,

γ

r>0

α

e<0,

β

e<0,

γ

e>0

α

z<0,

β

z>0,

γ

z>0

と表すことができる。本節の分析では,預金利子率

i

dが新たに加わり,それがハイパ ワードマネーの需給を均衡させるように内生的に決定される。これによって,後の分析 では金融自由化の影響を理論的にとらえることができる。預金利子率の上昇は,預金需 要を高め(αid>0),他の資産の需要を低める(βid<0,

γ

id<0)。

(2)銀行行動(ハイパワードマネー市場を含む)

ハイパワードマネー需要=最低必要準備+超過準備より,

R

=vD+ε(

i

d

, i

, r

, e

,

L

, z

)(1−v)

D

(39)

を得

8

る。ここで,|

ε

r|>|

ε

id|とする。(39)式より,信用乗数を通じる貨幣供給式が

────────────

εid>0の符号条件については,以下の銀行による利潤最大化行動から導出することができる。銀行の収 益を次のように仮定する。

π=iLBS−id−δB D

, LBS

, r

, e

, L

とする。δBを預金獲得や企業向貸出にともなう諸費用とする(ここで,δLBLB>0と仮定する)。バラン スシート制約式よりπ を次のように書き換えることができる。

π!(i−idlS−id−δ(lB S, r, e, l"R

ここでは,lS=LBS/R と置き換えている。銀行の利潤最大化行動より,一階条件は次の通りである。

π

lS=i−id−δl(lBS S, r, e, i)=0 !

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

0(346

(16)

次のように得られる。

M

=φ(

i

d

, r

, e

,

L

, z

, v

R

(40)

i

dの上昇は,超過準備を増加させるため貨幣供給を減少させる要因となる。一方,i の上昇は,銀行の収益を上昇させるため貸出を増加させる。他の偏微分係数の符号につ いては前節と同様であ

9

る。

経済全体の企業への貸出供給は,LS=LBS+LPであり,次のように表される。

L

S=L(S

i

d

, i

, r

, e

,

L

, v

) (41)

本論では,銀行の貸出供給意欲が強い場合を分析しているので,LrS>0,

L

iS>0と仮定 する。

一方,企業の借入需要は,前節と同様に,

L

d=L(d

i

, r

, e

,

L

) (42)

である。

(3)資産市場の一般均衡条件

以上の(35)式〜(42)式より,各金融市場の需給均衡条件を以下のようにまとめる ことができる。

(A)ハイパワードマネーの需給均衡条件

────────────

! 上式より,預金利子率と貸出利子率が変化した場合,貸出供給に与える影響は以下の通りである(他 の変数については省略する)

dlS/di>0, dlS/did<0

預金金利の上昇は,利潤マージンを低下させるため貸出供給を減少させ,超過準備を増加させること がわかる。このとき,|εid|=|εi|が成り立っている。

9 (39)式より信用創造の他の変数に関する偏微分係数は以下の通りである。

φr=ε(v−1)r /∆3 φi=ε(v−1)i /∆3

φid=ε(vid −1)/∆3

φz=ε(v−)z /∆3

φv=ε(v−1)/∆3

φL=ε(v−1)L /∆3

3!v+ε(1−v)"2

内生的貨幣供給と総需要(植田) 347)1

(17)

vD

+ε(id

, i, r, e,

L, z)

(1−v)

D

=H (43)

(B)貸出市場の需給均衡条件

L

(i, r, e, Ld )=L(iS d

, i, r, e, L, z, v)

(44)

(C)預金市場の需給均衡条件

A

(W)

α

(id

, i, r+e, z

W

=φ(id

, i, r, e, L, v)

R

(45)

(D)株式市場の需給均衡条件

C

(W)

γ

(id

, i, r+e, z) W

=PeE (46)

金融市場では,id

, i, Pe

が調整変数としてはたらく。上述の

4

式の中で,1式は独立 でないため(44)式の貸出市場を捨象する。(38)式を(46)式に代入して,Pe を消去 し

W

について解くと次のようになる。

W

=W(

i

d

, i

, r

, e

, v

, z

) (47)

預金利子率

i

dの上昇は銀行の貸出意欲を減少させ,社会全体の貨幣供給が減少する ため,家計の資産にとってマイナス要因とな

10

る。

(47)式を(45)式に代入すれば,金融市場全体を次の

2

つの需給式に集約でき,預 金利子率

i

dと貸出利子率

i

が内生的に決定される。

A !W

(id

, i, r, e, z, v)

(id

, i, r+e, z) W

(id

, i, r, e, v, z)

=φ(id

, i, r, e, z, L, v)

R

(48)

vD

+ε(id

, i, r, e, z)

(1−v)

D

=H (49)

以上より,預金利子率が内生性的に決定される場合,金融市場の均衡を示す

FM

曲 線の傾きは次のようになる(但し,A′(W)

α W

+A(W)

α

=0とす

11

る)。

────────────

Wiについての符号は未確定であるが,W が十分に大きく,φiR が大きすぎない限りマイナスとな る。この仮定は,あくまでも前節までの符号条件と等しくするためであるが,Wi>0としても以下の比 較静学に本質的な影響はない。

1 脚注9の偏微分係数より, !

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

2(348

(18)

di

dr

=(εr

α

id−εid

α

r)/∆2<0 (50)

2=αi

ε

id−εi

α

id

現行利潤率

r

が上昇すれば,銀行は貸出に伴う危険が減少するため超過準備を増や し貸出供給を増加させる。この銀行貸出を通じた貨幣供給が十分大きいので,r が上昇 すれば

i

が下落するという右下がりの

FM

曲線を導出することができる。

一方,idに与える影響は,

di

d

dr

=(εi

α

r−εr

α

i)/∆2

0

(51)

となる。預金利子率

i

dに対する影響は未確定であるが,プラスとなる場合は,次の要 因が成り立つときである。現行利潤率

r

の上昇は,株式需要を高めるため預金需要は 低下し,さらに貨幣供給は増加するので預金市場は超過供給になる。したがって,預金 市場の均衡のためには,idは上昇しなければならない。r が上昇したとき,銀行は貨幣 供給を増やそうとするため,多くの預金を獲得しようとする。このとき,多くの預金を 獲得するために,高い預金利子率を提供しなければならない。したがって,貸出利子率

i

と預金利子率

i

dは,r に対して逆に反応(利鞘の縮小)することがわかる。これは,

通常の

IS

=LM 分析とは異なり,i が

r

に対して減少関数となっている点に要因があ る。

預金利子率

i

dと貸出利子率

i

r

に対する逆関係は,金融自由化の進展しているわ が国において実際に生じている現象であり,上述のような理論的分析はさらに発展させ ていく必要性がある。特に

1990

年代以降,金融機関の間の競争が激烈になるにつれ て,新規貸出先の獲得のためには,他行よりも条件の良い低金利で提供して貸出を増加 させようとしている。一方,預金獲得のためには預金金利を上昇させようとする。この 結果,銀行の利潤マージンは減少することになる。1970年の都市銀行の利鞘が約

1%

であったのに対し,1990年代は

0.1% まで低下したという事実が本理論の妥当性を裏づ

けているものと思われる。今後,ますます金融自由化が進展していけば企業の資金調達 手段が増え,銀行に多大に頼ることなく投資を行っていくことが可能となる。このよう

────────────

! φiεr−φrεi=0 φrεid−φidεr=0 φidεi−φiεid=0 φzεid−φidεz=0 φiεz−φzεi=0

が成立している。さらに,A(W) αW+A(Wα=0の仮定から,本節の比較静学の結果は,(52)

(53)式のように簡単化することができる。

内生的貨幣供給と総需要(植田) 349)1

(19)

な局面に対して銀行はさらに利潤マージンの縮小を余儀なくされると考えられる。

将来期待

e

による反応については,次の通りである。

di

de

=(εe

α

id−εid

α

e)/∆2<0 (52)

di

d

de

=εi

α

e−εe

α

i/∆2

0

(53)

将来期待

e

の上昇は,利子率

i

を低下させる効果がある。これは,e の上昇は銀行 の貸出意欲を増加させるため貨幣供給量が内生的に増加するためである。したがって,

このとき

FM

曲線は下方シフトする。預金利子率

i

dに対しては,先の

r

の場合と同様 に符号は一意的ではない。しかし,銀行の貸出意欲が十分に強い場合は,預金利子率を 上昇させて預金を獲得しようとする。したがって,e が上昇したとき銀行の利鞘は縮小 する。金融の不安定性が生じている中で,景気の活況(後退期)に利鞘が縮小(拡大)

することになる。

(4)質的金融政策の効果について

次に,最低必要準備率

v

と質的金融政策である

z

についての効果を検討する。はじ めに,最低必要準備率の変化に対する反応は,

di

dv

=α(1−εid )/(1−v)

2>0 (54)

di

d

dv

=α(εi −1)/(1−v)

2>0 (55)

となる。最低必要準備率

v

の引き上げは金融引締めの効果をもたらし,貸出利子率と 預金利子率を上昇させる。

次に

z

の変化による反応については,|εz|が十分に大きいという仮定の下では,次 のようになる。

di

dz

=(εi

α

z−εz

α

i)/(1−v)

2<0 (56)

di

d

dz

=(εz

α

id−εid

α

z)/(1−v)

2<0 (57)

質的金融政策による投資規制の緩和は,金融緩和を意味し両利子率を低下させる効果 がある。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

4(350

(20)

第 4 節 特徴と問題点

以上より,本論では金融仲介機関の行動を考察することによって金融不安定性の生じ る要因を分析し,マクロ経済に与える影響とその特徴を論じてきた。ここでの結論は以 下のようにまとめることができる。

ある一定の相対的危険回避度の下で,現行利潤率が上昇すれば,銀行の貸出意欲が強 い場合,経済全体の貨幣供給量は銀行部門の存在しない場合よりも増加する。したがっ て,利子率を一段と低下させることになるため

FM

曲線の勾配を急にする。また将来 期待の上昇は,同様に,銀行の貸出意欲を高めるため,銀行部門の存在しないときより も利子率をより低くさせる。したがって,FM 曲線はさらに大きく下方シフトする。こ のため金融仲介機関の存在は,景気の変動幅を大きくするという金融不安定性を引き起 こす可能性を高めることが明らかになった。つまり,経済変動の幅を大きくするという 点で,マクロ経済に対して強いインパクトを持っていると主張することができる。さら に最近の金融自由化の進んだ世界でも同様の結論を導出できることが明らかとなった。

また金融不安定性が生じる過程で,銀行の貸出意欲が十分に大きい時,銀行の利鞘が縮 小する可能性のあることが確認された。これは,急速に自由化の進展する現代の金融環 境にとって大変興味深い結果である。

また銀行部門が存在しても,家計資産選択行動において相対的危険回避度減少の程度 が大きくなるほど,FM 曲線の傾きは急になる。なぜなら貨幣(ここでは預金)の保有 割合が減少していくため,金融市場の均衡のためには,貨幣需要を増やすように利子率 は低下しなければならないためである。資産選択において,代替効果と相対的危険回避 効果を通じて,資産間の切り替えの程度が大きくなり,利子率が大きく変動するため経 済変動の幅も大きくなる。右下がりの

FM

曲線の傾きと将来期待

e

の上昇に伴う

FM

曲線の下方シフトの大きさが,Minskyの主張する将来期待等に過敏に反応する不安定 な経済の体質を決定することになっている。

さらに,このような行き過ぎた景気の加熱,低迷には,最後の貸し手としての中央銀 行の適切な政策が,マクロ経済に対して効力を持つことを確認した。その際,家計がど のような相対的危険回避行動をとっているかが重要な要因となっている。

一方で,今後残されている課題として以下の点が挙げられる。

第一に,期待形成についての検討である。銀行の将来に対する期待形成は,信用の拡 張・収縮を通じて経済全体へ影響を及ぼすという意味できわめて重要な役割を発揮す る。銀行がどのように期待形成をするかというミクロ的分析(発散的期待,回帰的期待 等)を行い,それに基づいて金融不安定性の観点から応用する必要がある。

内生的貨幣供給と総需要(植田) 351)1

参照

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