シリーズ教育講座「めまい平衡医学領域の生理機能検査:そのとりかた,よみかた,ピットフォール」
1.聴性誘発電位
青柳
優
Auditory Evoked Potentials
Masaru Aoyagi
Department of Otolaryngology, Yamagata University School of Medicine
This article describes the basic elements of auditory evoked potentials, including
stimulus tone and recording condition, and clinical applications of auditory evoked
tials, such as ECochG, ABR and ASSR. The clinical applications of auditory evoked
poten-tials are roughly classified into (1) objective audiometry and (2) neurological examination.
ECochG is applied to the diagnosis of endolymphatic hydrops and inner ear hearing loss.
ABR is still an important examination in the diagnosis of acoustic neurinoma, though the
prevalence of MRI has reduced its importance. The elongation of the I―V inter-peak
la-tency (I―V IPL) of ABR in lower brainstem lesion is mainly due to I―III IPL elongation,
whereas I―V IPL elongation is mainly due to III―V IPL elongation in upper brainstem
le-sions. Recruitment and conductive hearing loss can be estimated by the finding of the
latency-intensity curve of wave V. Although ABR is the most popular device in objective
audiometry, the prediction of hearing levels in the lower frequency range using ABR
evoked by clicks is less accurate. The most important benefit of ASSR is to provide an
ac-curate assessment of hearing at different frequencies in a frequency specific manner, if
stimulation consists of a sinusoidally amplitude-modulated tone. However, ASSR is not
ap-propriate to use as a diagnostic tool in neurological examinations, because the waveforms
of ASSR consist of the interference of different wave components. Power spectrum analysis
and phase coherence using fast Fourier transformation are useful for the automatic
detec-tion of ASSR, because of its sinusoidal waveform configuradetec-tion. Because the detectability of
ASSR changes under different arousal states, 40―Hz ASSR is suitable for waking adults and
80―Hz ASSR for sleeping children in the assessment of hearing. Its advantage is that the
thresholds at 4 different frequencies in both ears can be predicted more rapidly than ABR
using the multiple simultaneous stimulation technique.
Key words: auditory evoked potential; electrocochleography (or ECochG); auditory
brain-stem response (or ABR); auditory steady-state response (or ASSR)
1.はじめに めまい疾患の診断においては各種聴覚検査法が 重要な役割を担うことも多い。メニエール病にお いては聴力像や補充現象の有無のほかに蝸電図所 見も診断の参考になり,前庭神経炎においては聴 覚障害の無いことが診断の条件となる。MRI の 普及した今日ではそれ程でもないが,かつては ABR所見が聴神経腫瘍診断のきっかけとなるこ とも多かった。本稿では,めまいの診断を念頭に おいて聴性誘発電位の基礎的事項と臨床応用につ いて概説する。 2.聴性誘発電位 !聴性誘発電位の起源 聴性誘発電位とは,音刺激を与えて頭皮上や鼓 室,外耳道などから記録される誘発電位をいう (表1,図1)。音刺激により内耳有毛細胞に発生 した興奮は蝸牛神経核,上オリーブ核,下丘,内 側膝状体など中枢聴覚路を上行して聴皮質に伝達 される。感覚細胞の興奮は,蝸電図(electrocochle- ography:ECochG)において加重電位(summat-ing potential:SP)や蝸 牛 マ イ ク ロ フ ォ ン 電 位 (cochlear microphonics:CM)として記録され, 蝸牛神経活動は action potential(AP)として記 録される。興奮は聴皮質に到達するまでに途中で 幾つかニューロンを代えるが,その際に生じる興 奮性後シナプス電位(excitatory postsynaptic po-tential:EPSP)が聴性脳幹反応(auditory brain-stem response:ABR),聴性中間潜時反応(mid-dle latency response:MLR),聴性緩反応(slow vertex response:SVR)など聴性誘発電位の主な 起源と考えられている。
これらの電位は,動物実験では神経核など電源 付近に電極を刺入すれば大きな電位として記録 (near field potential)で き る が,頭 皮 上 で 記 録 (far field potential)しようとすると電位が小さい ため背景脳波(雑音)に隠れてしまい判別できな い。しかし,同一刺激を何回も繰り返し,これを トリガーとして脳波を平均加算することにより頭 皮上からでも記録できる。 "聴性誘発電位の歴史 音刺激によって脳波に変化が起こることは, Berger(1929)がヒトの脳波に関する最初の論 文 を 発 表 し た 翌 年 に 報 告 さ れ て い る。Davis (1939)は音刺激に伴う一過性の電位変動を見出 し V-potential と呼んだが,自発脳波との判別が 難しかったため臨床応用は不可能と考えられた。 Dawson(1947)の重ね合わせ法は誘発反応検出 法の嚆矢と言えるが,1950年代になるとコンピュ ー タ を 用 い た 平 均 加 算 法 が 開 発 さ れ,Geisler (1958)により MLR が記録された1) 。 1960年代に入ると平均加算装置の普及とともに SVRや MLR など聴性誘発反応の聴力検査への応 用 が 盛 ん に 検 討 さ れ,ERA(evoked response audiometry)という言葉が使われるようになった が,睡眠時幼児の場合には反応の出現性が悪く信 頼性に乏しかった。この問題を払拭したのが,1970 年に Jewett らと Sohmer & Feinmesser により発 見された ABR である。また,ほぼ同時代に蝸電 図の臨床応用が始まった1) 。 蝸電図は電極の装着の点で問題があるため,幼 児に対する他覚的聴力検査法としてはもっぱら ABRが用いられているが,クリックによる ABR は周波数特異性と低音域の聴力レベル推定に難点 があった。しかし,この点は1980年代以降臨床応 用が行われるようになった聴性定常反応(audi-tory steady-state response:ASSR)によってある 程度解決された。 #聴性誘発電位の分類 聴性誘発電位には表1の様なものがある。蝸電 図と頭頂部反応に大別され,頭頂部反応は反応時 間により速反応,中間反応,緩反応,後反応に分 かれるが,各反応の起源は表1や図1の様に考え られている。現在,臨床的に汎用されている反応 は蝸電図と ABR であるが,最近,オージオグラ ムを比較的正確に推定できる検査法として ASSR が臨床的に応用されるようになってきた。 ABR,MLR,SVR は一見別々な反応のように 見えるが,市川ら(1983)2) によれば時間軸を対 数表示にしてみると一連の反応として捉えること が出来るという。 $検査目的と対象 検査の目的は,①聴力検査と②神経耳科学を含 む神経学的診断に大別される。聴力検査について は,①聴覚スクリーニングや②聴力レベルの判定 のほか,③伝音難聴と感音難聴の鑑別,④内耳機 能の評価(補充現象や内リンパ水腫の診断,蝸牛 基底板進行波速度の測定3) )にも用いられる。神 経学的診断ついては,①中枢性疾患の補助診断,
⡬⊹⾰ ౝ⤒⁁ ਅਐ ᄖᲫᏪ ࠝࡉᩭ ⲕ‐⚻ᩭ ⲕ‐⚻ Ძ⚦⢩ SVR MLR ABR ECochG 500 ms 10PV 0.5PV 5 ms 10 ms 100 ms 0.5PV 10PV ②意識障害程度や脳死の判定,③術中モニタリン グに用いられる(表2)。 検査対象は,他覚的聴力検査に関しては①新生 児,②乳幼児,③精神発達遅滞児,④機能性難聴, ⑤詐聴であるが,蝸電図はメニエール病,突発性 難聴などが対象となる。神経学的診断に関しては 主として ABR が用いられるが,聴神経腫瘍,脳 幹の腫瘍や血管障害,変性疾患,髄膜炎など聴神 経,及び脳幹障害例が検査対象となる。 幼児において聴力検査法として用いる場合は, 体動によるアーチファクトが記録に混入するのを 避けるために睡眠時に検査しなければならないの で,睡眠時にも反 応 の 得 ら れ る ABR や 一 部 の ASSR(80 Hz ASSR)が用いられる。睡眠時に反 応の出現性が悪くなる MLR や SVR は,幼児に対 しては一般的には適用されない。蝸電図も電極の 装着・固定の点で問題があるため一般的には幼児 には用いられないが,全身麻酔をかけて寝返りな どの体動を抑えれば,針電極を鼓室に刺入して行 う蝸電図も臨床応用は可能である。 !誘発反応聴力検査の目標 誘発反応聴力検査の当面の最終目標は,周波数 ごとの聴力レベルの推定にあるといえる。即ち, 聴性誘発電位の検査結果によってオージオグラム のような「聴力図」を作成することにある。ABR は一般的にクリックなど周波数特異性の低い(パ ワースペクトルの幅の広い)刺激音を用いるが, この場合 ABR 閾値は 4∼8 kHz の聴力しか反映せ ず,低音域の聴力は判定できない。クリックより 高い周波数特異性を有するトーンピップを用いれ ばこの問題はある程度解決されるが,トーンピッ プの周波数特異性も低音域においては必ずしも十 分に高いものではない。即ち,トーンピップのパ ワースペクトルの幅は,純音のそれと比較して広 いものとなる。従って,隣り合う周波数の聴力レ ベルが極端に違う場合には,検査しようとする周 波数を担当するコルチ器の感覚細胞のみならず, 隣の周波数領域を担当する感覚細胞も同時に刺激 してしまうため正確な閾値が得られず,やはり正 確な「聴力図」が描けない。 もっとも,トーンピップによる ABR で 500 Hz 以下の低音域において正確な聴力レベルの推定が 図1 聴性誘発電位とその起源。各反応で刺激音, 刺激間隔,記録時間,フィルタ設定などは異 なっている。 表1 聴性誘発反応の分類 名 称 略語 反応時間 起 源 蝸電図 蝸牛マイクロフォン電位 加重電位 蝸牛神経活動電位 CM SP AP 1―6 ms 内有毛細胞 コルチ器 蝸牛神経 頭 頂 部 反 応 速反応 聴性脳幹反応 周波数追随反応 ABR FFR 1―12 ms 6 ms 蝸牛神経+脳幹 脳幹 中間反応 聴性中間潜時反応後耳介筋反応 MLR PAR 12―70 ms 10―25 ms 脳幹+聴皮質 後耳介筋 緩反応 頭頂部緩反応 SVR 50―800 ms 聴皮質 後反応 後期陽性反応期待陰性波 P 300 CNV 300―450 ms 大脳皮質連合野 聴性定常反応 ASSR ― 脳幹,聴皮質
出来ない主な理由は「聴覚フィルタ」の存在にあ る。聴覚フィルタとは,蝸牛の周波数分析機構の 特徴について説明するために考えられた仮想のフ ィルタである。即ち,蝸牛の周波数分析機構は周 波数軸上に重なり合って並んだ一連の帯域通過フ ィルタを想定することによって,近似的に記述さ れ う る と 言 う。聴 覚 フ ィ ル タ の 等 価 方 形 幅 (equivalent rectangular bandwidth : ERB )4)は
24.7×(4.37 F+1)[Fの単位は kHz]という式で 計算されるので,500 Hz では幅 78.7 Hz,1000 Hz では幅 132.6 Hz の帯域通過フィルタが刺激音に かかった状態となる。従って,純音より周波数特 異性の低いトーンピップのパワーの一部にはフィ ルタが掛かってしまい,十分な刺激量とならな い。このため低音域ではトーンピップによる ABR の反応出現性が低下するのだと考えられる5) 。 隣接する周波数の聴力の影響を排除するために は derived ABR 法や notched noise 法なども用い られたが,最近では周波数特異性の高い刺激音を 用いた ASSR が一般的になりつつある。
補聴器装用のためには補充現象や語音明瞭度の 診断も重要となる。ABR の latency-intensity curve によっても補充現象の証明はある程度出来るが, 最近では ASSR を用いて補充現象の程度を判定す る試み6) がなされている。また,語音による ASSR の研究7) も始まっているが,本稿では誌面の関係 で省略する。 #検査装置 検査装置には平均加算装置が必須となる。一般 的には,ABR・蝸電図・筋電図などを記録するこ とのできる汎用装置が用いられるが,最近では, 聴覚スクリーニング検査専用の自動 ABR 検査装 置 や ABR・蝸 電 図・誘 発 耳 音 響 放 射 の ほ か, ASSRにも用いることのできる装置も市販されて いる。 3.蝸電図 !波形とその起源 蝸電図は外耳道や鼓室内より誘導される電位 で,音刺激から 1∼7 msec の間に記録され AP, SP,CM からなる(図2)。AP は蝸牛 神 経 活 動 電位で,1∼2の陰性波(N1,N2)からなり,N1 は ABR のⅠ波に相当する。SP と CM は感覚細 胞由来であり,SP は刺激音の包絡線に一致する 直流成分で,CM は刺激音と同じ形状で同じ位相 を呈する交流成分である。 "検査 検査室は防音室であることが望ましい。電気的 シールドについては,最近の検査装置では必ずし も必要はないとされるが,シールドはしてある方 が良い。 表2 聴性誘発反応の臨床応用 蝸電図 内耳機能評価 内リンパ水腫の証明,有毛細胞の機能評価 聴力検査 他覚的聴力検査 ABR 神経学的診断 小脳橋角部腫瘍,脳幹腫瘍,脳血管障害,多発性硬化症 脊髄小脳変性症,汎発性脳硬化症,急性散在性脳脊髄炎 髄膜炎,精神運動発達遅滞,胎児仮死,脳性麻痺,水頭症 自閉症,ダウン症,乳児突然死症候群,点頭てんかん 意識障害程度の判定,脳死の判定 術中モニタリング 内耳機能評価 蝸牛基底板進行波速度の測定 聴力検査 新生児聴覚スクリーニング(自動 ABR) 他覚的聴力検査法:幼児聴力検査 詐聴・心因性難聴の診断 伝音難聴と感音難聴の鑑別 補充現象の診断 ASSR 聴力検査 他覚的聴力検査法
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10PV 記録法には,鼓室外誘導法と鼓室内誘導法があ る。記録電極としては鼓室外誘導では銀ボール電 極,鼓室内誘導では針電極を用いるが,鼓室内誘 導では鼓室外誘導の10∼20倍の大きさの電位が記 録できる。CM の記録には鼓室内誘導が必要とな る。銀ボール電極は電極糊を付けて外耳道深部の 後壁に置く。針電極は鼓膜麻酔を施した後に正円 窓と卵円窓の中間を狙って刺入し先端を鼓室岬角 に置く。不関電極は耳垂か乳様突起部に置く。 鼓室外誘導の場合,音刺激はヘッドフォンによ り呈示するが,鼓室内誘導の場合,針電極を固定 し,かつヘッドフォンで針電極を押さないように 工夫された特殊なアタッチメント付きヘッドフォ ンを用いるか,あるいはスピーカーで音を呈示し なければならない。スピーカーで刺激音を呈示す る場合には音圧の較正のほか,反応潜時の補正が 必要となる。フィルタ帯域は通常 0.3∼3000 Hz, 加算回数は250∼1000回とする。 記録波形には AP,SP,CM が混在しているの で,SP+AP 波形と CM を分離するために記録法 に工夫が必要となる。AP と SP は刺激音の位相 が変わっても反応波形の位相は変化しないが, CMは刺激音の位相変化に伴って反応波形の位相 が変化するので,これを利用して AP+SP の波形 と CM を分離することができる。1回ごとに刺 激音の位相を180°逆転させて呈示し,各々の反応 波形を別々に加算する。2つの加算波形をそのま ま加算すれば CM が相殺されて AP+SP 波形が 得られ,一方の加算波形の位相を180°逆転させて から加算すれば AP+SP 波形が相殺されて CM が得られる(図2)。 刺激音としてはクリックを用いることが多い が,目的に応じてトーンピップや短音も用いら れる。刺激間隔(inter-stimulus interval:ISI)は 100∼125 msec(刺激頻度 8∼10 Hz)程度が適当 である。クリックを用いた場合,−SP は AP の 上行脚に notch として現れる。SP か否か不明で ある場合には,刺激頻度を上げると AP の振幅は 小さくなり潜時も遅れるが,SP の振幅は変化せ ず潜時も変化しないので鑑別できる(図3右図)。 また,短音の持続時間を変化させても,SP であ ることを証明することができる(図3左図)。 "波形の判定 SPには−SP と+SP があるが,+SP が記録さ れることは比較的少ない。−SP 振幅は内リンパ 水腫の診断に用いられるが,記録条件によっても 振幅の絶対値は変化するので−SP/AP 比により 判定する。一般的に−SP/AP 比が0.4以上であれ ば異常と判定する(図4)。−SP/AP 比増大現象 はメニエール病などの内リンパ水腫のほか聴神経 腫瘍でも見られ,−SP/AP 比の減少や SP の消失 は高音障害型内耳性難聴で見られる。CM は有毛 細胞機能の診断指標となるが,アーチファクトの 除去が困難なこともあり,これを臨床応用してい る施設は少ない。 4.聴性脳幹反応 !波形とその起源 十 分 な 音 圧 で は 音 刺 激 を 与 え て か ら 1∼10 msecに出現する5∼7の速波成分(Ⅰ∼Ⅶ波) と 5∼6 msec にピークを有する緩徐波成分よりな る(図5A―R,B―R)。Ⅱ波,Ⅳ波は正常者で も記録されないことがある。Ⅰ波は蝸牛神経活動 電位,Ⅴ波は下丘,その他も脳幹部中枢聴覚路に 起源を有する反応である。音圧を下げると各波潜 時は延長し,Ⅱ・Ⅳ波→Ⅲ・Ⅵ・Ⅶ波→Ⅰ波の順 でなくなり,Ⅴ波が最後に残る(図6)。聴力検 査として用いる場合にはⅤ波が指標となるが,神 経学的診断では各波の潜時や各波間潜時(inter-図2 AP+SP と CM の分離法。刺激音(a,b) の位相を1回ごとに180°反転して呈示し, 各々の加算波形(A,B)を求める。AとB の記録波形をそのまま加算(A+B)すれば, CMが 除 去 さ れ て SP+AP の 波 形 が 得 ら れ る。記録波形Bのみ位相を逆転して加算(A −B)す れ ば,SP と AP が 除 去 さ れ て CM 波形が得られる。AP
-SP
AP
-SP
- SP/AP = 0.13
- SP/AP = 0.61
1 msᱜᏱ⠪
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5PV2
6
8
10
20
30
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PV
50 ms
5
PV
10 ms
75
35
15
5
SP
AP
Duration
ISI
ms
ms
peak latency:IPL),各波の消失などが指標とな る(図7)。 !検査 検査は聴力検査であれば防音室内で行う方が良 いが,神経学的応用であれば防音室内である必要 はない。しかし,病室や手術室などで検査を施行 する場合には,各種医療機器が近くにあると交流 などの雑音が混入するため記録波形に影響が現れ ることがあるので,アースをしっかりとらなけれ ばならない。 また,幼児では体動による筋電図がアーチファ クトとして混入するので,これを抑えるために睡 眠中に検査する必要がある。睡眠導入には,リン 酸トリクロルエチルナトリウム,またはジアゼパ ムの経口投与や抱水クロラール坐薬などが用いら れる。 記録電極には皿電極が用いられる。頭頂部を関 電極,耳垂または乳突部に不関電極,前額部また は項部にアース電極を置く。フィルタ帯域は一般 に 30∼3,000 Hz を用いるが,緩徐波成分のみの 記 録 の 場 合 は 2∼200 Hz で よ い。加 算 回 数 は 1000∼2000回必要である。ISI を短くすれば検査 時間は短くてすむが,ISI は 50 msec 以上が望ま しい。 刺激音としては,神経学的診断とスクリーニン グ用にはクリックが用いられるが,トーンピップ でも反応が得られ,ABR 閾値と聴力レベルとの 相関は比較的良いとされる。しかし,低音域では 聴力レベルとの相関は必ずしも良好ではなく,ま た隣り合う周波数の聴力レベルが極端に違う場合 には推定を誤る危険性もある。 ABR波 形 の 潜 時 に 影 響 す る 因 子 を 表3に 示 す。難聴や中枢聴覚路の障害はもちろん潜時に影 響するが,性差もあり男性ではⅤ波は女性より約 0.2 msec遅れる。これは頭の大きさ(おそらく中 枢聴覚路の長さ)の違いに起因すると考えられ 図4 正常者とメニエール病の−SP/AP 比。刺激 音はいずれもクリックで,記録波形は nega-tive upで表示している。 図3 SP の証明法。SP は刺激音の包絡線に類似の波形を示す直流成分な ので,短音の持続時間を変化させれば,電位変化の持続時間もこれ につれて変化する(左図)。蝸牛神経由来の AP(▼)は ISI を短く すれば,潜時の延長と振幅の低下を認めるが,感覚細胞由来である SPでは潜時延長,振幅低下ともに認めない(右図)。120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 dB 125 250 500 1000 2000 4000 8000 Hz 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 dB 125 250 500 1000 2000 4000 8000 Hz 0.2Pv
R
L
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L
10 ms 0.2Pv ᵄᢙ䋨㪟㫑䋩 ⡬ജ䊧 䊔 䊦 义 㪻 㪙 乊 ᵄᢙ䋨㪟㫑䋩 ⡬ജ䊧 䊔 䊦 义 㪻 㪙 乊A
B
I-III
I-V IPL
I-V
I
II
III
V
VI
VII
I-V
III-V
10 ms る。刺激音圧が低いほどⅤ波潜時は延びるが,短 音の場合立ち上がり時間が長いほどⅤ波潜時は延 長し,周波数が低いほど,また,刺激頻度が高い ほど潜時は延長する8) 。一方,短音の持続時間を 変化させてもⅤ波潜時は変化しない。 一側性難聴において患側を検査する場合,良聴 耳に適度なマスキングをかけないと shadow re-sponseのため見かけ上Ⅴ波潜時の短縮をみるの で注意が必要である。フィルタによっても潜時は 変化する。低域遮断周波数を上げると潜時は短縮 し,高域遮断周波数を下げると潜時は短縮する。 この様に刺激条件や記録条件によって潜時は異 なってくるので,聴性誘発反応を臨床応用する場 合には,施設ごとに検査条件を一定にした上で正 常値を設定して波形判定を行わなければならな い。 !波形の判定 反応波形が明らかな場合は別として,1音圧に つき少なくとも2度反応波形を記録して重ね書き すべきである。例えば,Ⅴ波と思われる波形の潜 時が二つの記録で極端に違う場合には,それらを Ⅴ波と判定してはならない。その場合には同じ音 圧でさらに記録を繰り返して判定すべきである。 神経学的診断に応用する場合には,刺激音とし ては 90 dB 程度のクリックのみでよい。Ⅰ,Ⅲ, Ⅴ波の潜時とその左右差,およびⅠ―Ⅴ波間潜時 差(I―V IPL),I―III IPL,III―V IPL とその左右差 がパラメータとなる(図5)。 脳幹障害例では各波の延長,特に I―V IPL の延 長,あるいは各波の消失がみられる。下位脳幹障 図5 左聴神経腫瘍症例(A)と左側橋梗塞症例(B)の オージオグラムと ABR 所見。 表3 ABR の潜時に影響する因子 被検者 聴力像(難聴),中枢聴覚路障害,体温, 年齢,性,性周期(女性),頭の大きさ 刺激音 音圧,立ち上がり時間,周波数, 刺激頻度,マスキング 記録系 フィルタ 薬剤 麻酔薬,中枢神経系薬剤90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
dB
5
10
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20 ms
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害例では I―V IPL の延長は主として I―III IPL の 延長により起こり,波形消失の場合,Ⅱ波,また はⅢ波以降の波が消失する(図7)。聴神経腫瘍 でしばしば典型的な ABR 所見がみられる(図5― A)。一方,上位脳幹障害例では I―V IPL の延長 は主として III―V IPL の延長により起こり(図5― B),波形消失の場合,Ⅳ波以降の波が消失する 形となる(図7)。 他覚的聴力検査法として応用する場合には反応 閾値により聴力レベルを推定するが,反応閾値の 判定にはⅤ波が指標となる。まず最大出力で反応 を記録し,10 dB ステップで音圧を下げてゆく。 Ⅴ波潜時は音圧が弱くなるに従って徐々に延びる ので判定しやすい(図6)。 一般的に,ABR 閾値は聴力レベルより平均 10 dBほど大きい。反応閾値を決めるだけなら音圧 ごとのⅤ波潜時の変化は問題にならないが,Ⅴ波 潜時入出力曲線により伝音難聴と感音難聴の鑑別 もある程度は可能である。図8にⅤ波潜時の正常 範囲(平均±2 SD),および伝音難聴と感音難聴 におけるⅤ波潜時の変化の違いを示す。伝音難聴 症例では 90 dB から潜時延長が見られ,入出力曲 図6 正常聴力児(3歳7ヶ月,女児,単純性言語 発達遅滞)の ABR 波形。刺激は右耳,刺激 音はクリック音で ISI=53 msec。▼はⅤ波を 示す。 図7 脳幹病変部位による ABR 所見の相違。
100
50
dB
0
15 ms
5
10
線は正常範囲から平行移動した形になっている が,感音難聴症例では閾値付近で潜時延長が著明 であるものの,70 dB 以上ではⅤ波潜時は正常範 囲内に入っている。このように伝音難聴では強い 音圧でもⅤ波潜時は正常範囲には入ってこない が,感音難聴では閾値付近でⅤ波潜時が延長して いても,十分に強い音圧では正常範囲に入ってく ることが多い。このⅤ波潜時変化は補充現象の証 明になると考えられている。また,伝音難聴では 強い音圧でもⅤ波潜時のみならずⅠ波潜時の延長 もみられる。 ABRによる聴力レベル判定の精度は必ずしも 100%ではない。耳音響放射ではほぼ正常な反応 を呈するにもかかわらず,ABR が無反応を呈す る症例もまれにある。このような症例は auditory neuropathyと呼ばれるが,聴力判定に際してこ のことは常に念頭に置いておかなければならな い。 #自動 ABR 先天性高度難聴はできるだけ早く診断して,補 聴器や人工内耳の装用,聾教育など適当な措置を とらなければならないが,最近 ABR を自動判定 する簡便な検査装置(automated ABR:AABR) が Thornton(1984)9) により開発され,これを用 いた新生児聴覚スクリーニングが盛んになってき た。 この検査装置の解析法は平均加算した反応電 位のうち決められた9つのサンプリング点の電 位 に つ い て 新 生 児 ABR の template と の 間 で 「weighted-binary template-matching」というアル ゴリズムにより統計処理して反応の有無を判定す るものである。装置の画面上には反応波形は表示 されず,「pass(合格)」か,「refer(要検査)」か, だけが表示される。この装置にはディスポーザブ ルの電極やヘッドフォンなどが付属しており,新 生児聴覚スクリーニングに便利なように出来てい る。しかし,聴覚スクリーニングに特化したもの であり,刺激音は 35 dB,または 70 dB に固定と なっているため聴力レベルは判定できないので, 正確な聴力判定のためには通常の ABR や ASSR を行う必要がある。 5.聴性定常反応 !定常反応の定義 定常(状態誘発)反応(steady-state response; SSR)とは,繰り返し頻度の高い刺激に対する誘 発反応であり,各反応波形が干渉し合って正弦波 状を呈するもので,視覚誘発電位に用いられたの が最初である。刺激が音である場合に ASSR と呼 ばれる。臨床的には Galambos ら(1981)10) が 40 Hz ERP(event related potential)として報告し たのが最初である。しかし,ERP は精神作業的 負荷などによって発現する長潜時誘発電位に対し て用いられることから,最近では 40 Hz ASSR と 呼ばれている。 ASSRは各反応波形が干渉し合って一定振幅の 正弦波状を呈することから,反応閾値の自動判定 には適しており聴力検査法としては有用である が,各反応波形の振幅や潜時について分析するこ とは出来ないため神経学的応用には適しておら ず,めまい疾患の診断法として応用するには不向 きである。 "正弦波的振幅変調音による ASSR Galambosは刺激音としてトーンピップを用い たが,Kuwada ら(1986)11) は正弦波的振幅変調 音 ( sinusoidally amplitude-modulated tone; SAM)による ASSR について報告し,変調周波 数 追 随 反 応(amplitude-modulation following re-sponse:AMFR)と呼んだ。 SAMは純音(搬送波)に正弦波的振幅変調を かけて作られる音で,周波数特異性が極めて高 い。搬 送 周 波 数(CF)を fc Hz,変 調 周 波 数 (MF)を fm Hz とすると,そのパワースペクト ルは,fc−fm,fc,fc+fm Hz に極めて急峻なパ 図8 ABR のⅤ波潜時の正常範囲(斜線部),およ び伝音難聴症例(●)と感音難聴症例(⃝) のⅤ波潜時入出力曲線。-20 dB -100 MAG LOG
A
0 1 2 3 4 100 5 -200
50
100 ms
Frequency (kHz) -20 dB MAG LOGB
0 1 2 3 4 -100 LOGB
5100 ms
50
0
F (kH )0
50
100 ms
-20 dBf
cf
c+f
mf
c-f
mC
Frequency (kHz) dB MAG LOGf
c+f
mf
cf
mC
0 1 2 -10050
100 ms
0
Frequency (kHz) 0 50 100 150 ms30 Hz
40 Hz
50 Hz
200MF
ワーを示す(図9)。従って,SAM では MF が低 いほど周波数特異性の高い音となり,MF=40 Hz の SAM はトーンピップと比較して周波数特異性 が高くなる。MF=80 Hz の SAM でもトーンピッ プより高い周波数特異性となるため AMFR は周 波数特異性の高い反応であり,隣接する周波数の 聴力レベルが極端に違う場合でも周波数ごとの聴 力を正確に判定できる。 ASSRの刺激音としては,SAM のほかにクリ ックやトーンピップも用いられる。また,市販の ASSR検査装置では,反応の出現性を良くするた め に 振 幅 変 調 を2度 か け た AM2 (Navigator ProⓇ )や振幅変調に同期させて周波数変調をか け た mixed modulation(MM)(AuderaⓇ )な ど が用いられている。反応の振幅はクリックによる ASSRを100とするとトーンピップでは60,MM では49,AM2 では40,SAM では39程度であると 言われており,反応の出現性はクリック>トーン ピップ>MM>AM2 >SAM の順 で あ る が,刺 激 音の周波数特異性はこの逆の順となる。 !40Hz ASSR と80Hz ASSR AMFR(SAM による ASSR)は,トーンピップ による ASSR と同様に MF に一致する周波数の正 弦波状の反 応 波 形 を 呈 す る(図10)。Galambos 図9 トーンピップ(A)と SAM(B,C)のパワースペクトル(右) と波形(左)。 いずれも周波数(SAM では CF)は 1000 Hz である。Bは MF=40 Hz,Cは MF=60 Hz。 図10 ASSR 波 形(各 上 段) と SAM 波 形(各 下 段)。ASSR 波形は SAM の MF に一致した正 弦 波 状 を 呈 す る。各 SAM の CF は 1000 Hz である。MF(Hz) 20 40 60 80 100 120 ms 0 50 100 150 A 200 B 50 100 150 200 0 C 50 100 150 200 * * * * 0 *
0
50
100 ms
0
50
100 Hz
180䉙 270䉙 90䉙 0䉙40 Hz
45 Hz
B
phase delay
A
D-a
C
270䉙 90䉙 0䉙D-b
CF=1000 Hz
MF= 40 Hz
らの報告した 40 Hz ASSR と同様に覚醒時の成人 におい て は MF が 40 Hz の 場 合(40 Hz ASSR) に最も良好な反応が得られるが,40 Hz ASSR は 睡眠時の幼児では反応の出現性が低下するために 幼児に対する他覚的聴力検査として有用とはいえ ない。これに対して MF を 80∼100 Hz とした場 合(80 Hz ASSR)には,成人よりむしろ幼児の 睡眠時に反応の出現性が良好であり,幼児に対す る 他 覚 的 聴 覚 検 査 法 と し て 有 用 で あ る12) (図 11)。従って,40 Hz ASSR は覚醒時の成人に適用 され,80 Hz ASSR は睡眠時の幼児に対して適用 されるが,前者は low frequency ASSR,後者は high frequency ASSRとも呼ばれる。これらの反 応 の 起 源 に つ い て は 一 般 的 に は40Hz ASSR は MLRの steady-state version であり,80 Hz ASSR は ABR の steady-state version であると理解され ている。!波形の判定
ASSRは正弦波状を呈することから,高速フー リエ変換(fast Fourier transform;FFT)を用い た自動解析に適しており,パワースペクトル解析 や位相スペクトル解析により自動判定されること が多い(図12)。最近では F test などの統計学的 手法によりパワースペクトルを判定し反応閾値を 自動解析する装置(Navigator ProⓇ)も市販され 図11 成人覚醒時(A),成人睡眠時(B),及び幼 児 睡 眠 時(C)に お い て MF を 20∼120 Hz に変化させたときの ASSR 波形の変化。CF は 1000 Hz,音圧は 50 dBnHL に固定した。 幼児覚醒時については体動によるアーチファ クトの混入があるため施行していない。*で は反応波形が認められる。即ち,MF 40 Hz では8波,MF 60 Hz では12波,MF 80 Hz で は16波,MF 100 Hz では20波,MF 120 Hz で は24波の正弦波状の反応波形が認められる。 図12 FFT による ASSR の解析法。A:刺激音(SAM:CF=500 Hz,MF=40 Hz),B:反応波 形(加算波形),C:パワースペクトル解析,D:位相スペクトル解析(phase coherence 法)。パワースペクトル解析ではBに示す2本の波形の ground average 波形を用いて解析 しているが,40 Hz の周波数成分のみ大きなパワーを示している。位相スペクトル解析で は加算前の波形の各々について位相の遅れ(phase delay)を解析している。40 Hz の周波 数成分(反応成分)の位相(D―a)は10∼100°にまとまっているが,45 Hz の周波数成分 (雑音成分)の位相(D―b)は0∼360°にばらついている。(Picton TW より提供の図を改 変。)
0 50 100 ms 500 Hz 1000 Hz 2000 Hz 㪚㪝 .25 .5 1 2 4 8 kHz dB 100 0 20 40 60 80 .25 .5 1 2 4 8 .25 .5 1 2 4 8 .25 .5 1 2 4 8 .25 .5 1 2 4 8 dB 100 0 20 40 60 80 dB 100 0 20 40 60 80 dB 100 0 20 40 60 80 120 .25 .5 1 2 4 8 .25 .5 1 2 4 8 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 ている。我々は,位相スペクトル解析の一つであ る phase coherence 法により閾値を自動判定する 装置を独自に開発し13) ,臨床に供してきた。自動 解析により客観的な閾値判定ができるばかりでな く,肉眼的判定より感度が高いので加算回数が少 なくて済み,検査時間が短縮される。解析法の詳 細については他の文献5)14) を参照して戴きたい が,Valdez(1997)15) によれば,いずれの解析方 法も精度において大差はないという。 !臨床応用 CFを変えて(図13)ASSR 閾値を求めれば, その周波数の聴力レベルが推定できる。反応閾値 と聴力レベルの差は ABR とほぼ同じと考えてよ い。図14に様々な聴力型を呈する難聴幼児のオー ジオグラムと睡眠時に記録した 80 Hz ASSR の閾 値の比較を示す。どの聴力型においても 80 Hz ASSR閾値はオージオグラムに良く一致してお り,80 Hz ASSR が十分に高い周波数特異性を有 していることが判る。ここに示した症例は遊戯聴 力検査,または純音聴力検査が施行できた者のみ であり,比較的年 齢 の 高 い 児 で あ る が,80 Hz ASSRは新生児にも十分適用できるという。
"Multiple simultaneous stimulation technique ASSRの欠点は検査時間の長いことにある。ト ーンピップによる ABR でも4つの周波数におけ る閾値を求めるとなるとかなり長時間の検査にな るが,ASSR では約2時間を要する。そこで,4 つの周波数の閾値を同時に求める MASTER(mul-tiple auditory steady-state responseの略)と呼ば れる方法が,Picton,Lins ら(1994)16) によ り 考 案された。 刺 激 音 は500,1000,2000,4000 Hz の4つ の 図13 CF=500 Hz,1000 Hz,2000 Hz の SAM の 波 形。い ず れ も MF は 40 Hz。CF=500 Hz の SAM で検査すれば 500 Hz の聴力を 測 定 で き,CF=1000 Hz の SAM で 検 査 す れ ば 1000 Hzの聴力レベルを測定できる。 図14 各症例(幼児)のオージオグラムと 80 Hz ASSR 閾値(■)の比較。80 Hz ASSR は睡眠時 に検査した。いずれの症例でも ASSR 閾値は聴力像と比較的良く一致しているが,中には 聴力レベルとかけ離れた閾値を示す症例も認められる。
4000 Hz 2000 Hz 1000 Hz 500 Hz
C
0 50 100 150 200 HzA
500 Hz 77 Hz 1000 Hz 85 Hz 2000 Hz 93 Hz 4000 Hz 101 Hz 500 Hz 81 Hz 1000 Hz 89 Hz 2000 Hz 97 Hz 4000 Hz 105 Hz CF MF CF MF ฝ⡊ Ꮐ⡊D
B
CFを 用 い,こ れ ら を 70∼110 Hz の4つ の MF によって振幅変調して複合 SAM を作成する。左 右に与える複合 SAM の MF は少しずつ変えるの で,MF は左右で8つの周波数が用いられる。4 つの CF と4つの MF からなる複合 SAM を左右 同時に被検者に与える。左右の耳の蝸牛基底板上 では,各々4つの CF に関係する部位が刺激され るが,頭皮上より記録される誘発電位のパワース ペクトルは8つの MF に相当する周波数成分の パワーが大きくなる(図15)。 刺激音圧を変化させると,この8つの周波数成 分のパワーは両耳の聴力型に応じて出現すること になるので,F test を用いて反応の有無を判定す る。難聴幼児を対象とした検討では,CF 500∼ 4000 Hzの AMFR 閾値と聴力レベルの間の相関 係数は0.70∼0.91であったという。検査は平均 30∼60分で終了し,一度に両耳の 500∼4000 Hz の反応閾値が得られるという。 6.おわりに MRIが普及した現在,聴神経腫瘍の診断など 神経学的応用に関して ABR の診断学的意義は低 くなったが,形態と機能は表裏一体のものであ り,ABR の聴神経機能検査法,あるいは脳幹機 能検査法としての意義が無くなることはないと考 える。 新生児聴覚スクリーニング法として AABR は 今後更に普及すると考えられるが,スクリーニン グ後の精密検査において聴力の推定に当たっては ABRによる診断が100%正確な訳ではないことを 肝に銘じておかなければならない。ASSR は低音 域の聴力推定や聴力像の判定には有用ではある が,基本的には ABR と同様の問題(auditory neu-ropathy)がある。複合 SAM を用いた ASSR 検査 装置や MM を用いた ASSR 検査装置が,我が国 でも既に市販されているが,現在でも30分以上の 検査時間を要しているのが現状である。今後は, 解析法などの検討により,さらに短時間で正確に オージオグラムを推定できる様な検査装置の開発 が期待される。 文 献 1)鈴木篤郎:聴性脳幹反応への道程.舩坂宗太 郎,大西信治郎 編.聴性脳幹反応―その基 礎と臨床.1―6頁,メジカルビュー社,東 京,1985 2)市川銀一郎,河村正三,原田克己,他:聴性 誘発反応の対数時間軸表示法.Audiol Jpn 26: 735―739, 1983 3)青柳 優,金 慶訓,小池吉郎:メニエール 病における蝸牛基底板進行波速度の検討.― Derived ABRの手法を用いた測定― Equi-librium Res 52: 315―321, 19934)Glasberg BR, Moore BCJ: Derivation of audi-tory filter shapes from notched―noise data. Hearing Res 47: 103―138, 1990
5)青柳 優:聴性定常反応の臨床応用.耳鼻展 望 52:426―439,2009
6)Picton TW, John MS, Dimitrijevic A, et al.: Human auditory steady―state responses. In-ternational J Audiol 42: 177―219, 2003 7)Aiken SJ, Picton TW: Envelope following
re-sponses to natural vowels. Audiol Neurootol 11: 213―232, 2006
8)青柳 優:聴性脳幹反応.21世紀耳鼻咽喉科 領域の臨床(CLIENT 21)10巻 感覚器,本 庄 巌 担 当 編 集.110―119頁,中 山 書 店,東 図15 Multiple simultaneous stimulation technique
の解説。A:刺激音(複合 SAM),B:複合 SAMの CF と MF,C:蝸牛基底板,D:反 応波形のパワースペクトル。刺激音 の MF は左右で微妙に変えてある。基底板では各々 CFに相当する箇所が刺激されるが,反応を 認める場合,それらによる反応波形は各々の MFに相当する周波数のパワーが大きくな る。
京,2000
9)Thornton AR: Technical consideration in re-cording the ABR. In Starr A, Rosenberg C, Don M, Davis H (eds), Sensory evoked po-tentials 1. An international conference on standards for auditory brainstem response ( ABR ) testing. Milan : Centro Ricerche e Studi Amplifon, 183―184, 1984
10)Galambos R, Makeig S, Talmachoff PJ: A 40― Hz auditory potential recorded from the hu-man scalp. Proc Natl Acad Sci USA 78: 2643― 2647, 1981
11)Kuwada S, Batra R, Maher VL: Scalp poten-tials of normal and hearing―impaired subjects in response to sinusoidally amplitude―modu-lated tones. Hearing Res 21: 179―192, 1986 12)Aoyagi M, Kiren T, Kim Y, et al.: Optimal
modulation frequency for amplitude―modula-tion following response in young children
during sleep. Hearing Res 65: 253―261, 1993 13)Aoyagi M, Fuse T, Suzuki T, et al.: An
appli-cation of phase spectral analysis to ampli-tude― modulation following response. Acta Otolaryngol Suppl. 504: 82―88, 1993
14)青柳 優:聴性定常反応聴力検査.耳鼻臨床 101:159―174,2008
15)Valdez JL, Perez―Abalo MC, Martin V, et al.: Comparison of statistical indicators for the automatic detection of 80 Hz auditory steady― state response. Ear & Hearing 18: 420―429, 1997
16)Lins OG, Picton TW, Picton PP, et al.: Brain-stem auditory steady―state response to multi-ple simultaneous stimuli. J Acoust Soc Am 95: 2842―2843, 1994