• 検索結果がありません。

41 Ⅲ 公開会社の会計帳簿閲覧請求権の考え方 ( 特に競争者による閲覧請求の場合 ) 1 競業者による会計帳簿の閲覧と会社秘密情報の扱い TBS Research supported by The Program for Professor of Special Appointment (East

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "41 Ⅲ 公開会社の会計帳簿閲覧請求権の考え方 ( 特に競争者による閲覧請求の場合 ) 1 競業者による会計帳簿の閲覧と会社秘密情報の扱い TBS Research supported by The Program for Professor of Special Appointment (East"

Copied!
37
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Kobe University Repository : Kernel

タイトル

Title

取締役責任追究目的による株主会社資料閲覧権について : デラウェア

州会社法を中心として(2・完)(Some Problem Concerning the

Shareholder's Rights to Inspect Corporate Books and Records which

could be used for Pursuing Director's Liability in The state of

Delaware(2))

著者

Author(s)

梁, 爽

掲載誌・巻号・ページ

Citation

六甲台論集. 法学政治学篇,63(1):41-76

刊行日

Issue date

2016-09

資源タイプ

Resource Type

Departmental Bulletin Paper / 紀要論文

版区分

Resource Version

publisher

権利

Rights

DOI

JaLCDOI

10.24546/81009521

URL

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009521

PDF issue: 2018-12-24

(2)

Ⅲ 公開会社の会計帳簿閲覧請求権の考え方(特に競争者による閲覧請求の場合) 1 競業者による会計帳簿の閲覧と会社秘密情報の扱い 前記第五節(二)においても述べたように、株主が帳簿閲覧の適正な目的とは、①持ち株 の価額を評価する目的、②利益減少の原因を探る目的、③経営の過誤や警戒すべき取引があっ たか否かを確認する目的も同じく適正なものである。これに対して、不適正な目的とは、隠 れた(悪意の)動機というが、例えば、経営陣全体に対して嫌がらせを行うため又は競争者 のために企業秘密を入手するための閲覧権の行使である。ここで、もし会社会計帳簿閲覧の 請求者株主が、会社の競業者である場合、会社がいかに対応すべきかについて、検討に値する。 日本現行会社法第433条2項では、会社の拒絶事由について、「請求者が…実質的に競争関 係にある事業を営み、又はこれに従事するとき」。さらに、楽天対TBS(東京放送)会計帳 簿等閲覧謄写却下決定で(2)、東京高裁は、「現に競争関係にある場合のほか、近い将来におい て競争関係に立つ蓋然性が高い者からの請求の場合をも含むと解するのが当然である」と解 釈している。

(1) 華東政法大学國際金融法律学院特別研究員、Research supported by The Program for Professor of

Special Appointment (Eastern Scholar) at Shanghai Institutions of Higher Learning「青 年 東 方 学 者」

NO.QD2015048;Innovation Program of Shanghai Municipal Education Commission NO.14YS083;

In-novation Program of Eastchina University of Political Science and Law NO. A-3101-14-144514 and「上

海高校青年教师培养资助计划」NO.ZZHZ13026、2015 年度上海市「社会科学基金青年課題」「公司法 与民事部門法交錯問題研究」、[中国博士後科学基金資助」NO.2015M571525。 (2) 東京高決平成19.年6月.27日、金融商事判例1270号40頁。

取締役責任追究目的による

株主会社資料閲覧権について:

デラウェア州会社法を中心として(2・完)

梁   爽

(1)

(3)

これに疑問を提示する日本学者がすでに現れている。その多くは、企業買収の活発化を背 景に、会社の取締役がその会社の株主から株式(支配権)を取得する取引(MBO)が増加 傾向にある。しかし、通常、売主よりも、会社側が多くの情報を有している(これは、情報 の非対称性とも言われる)。特にMBO においては、この情報の非対称性を利用し、取締役 が株主の利益の最大化を図ることなく、むしろ株主の犠牲の下に自己に有利なタイミング及 び条件で取引を行う可能性が類型的に存する。従って、株主にとって企業価値を評価すると きに、会計帳簿の利用が必要不可欠であると考えられる(3)。また、敵対的買収に関して、資 金力があるにもかかわらず、防衛策に阻まれて支配権取得ができない企業買収者は、まず、 委任状勧誘で防衛策の撤回をはかり、あるいは株主の総意を具体的な経営案件に反映させる 手段として委任状勧誘が期待されている(4)、委任状勧誘に関して、アメリカでも経営効率に 乏しい会社の支配権移転や経営者に対する規律付といった効果は、あまり望めないとする評 価が多いという(5)。規模の経済を狙った争奪戦が増えてきている中で、経営者が選んだ相手 とは、買収監査にも、帳簿閲覧にも応じながら、取引保護条項を活用し、他方で、敵対的な 大規模買付者には、拒絶事由を理由にして、情報の提供を控えるようでは、公正な競売が行 われることができないとする主張が既に存する(6) 本稿日本法編で述べたように、情報開示と会社秘密保持というジレンマ問題の解決を図る ため、日本では、株主による閲覧権の濫用のおそれと会社の秘密が漏洩する恐れがあること を理由に、株主の帳簿閲覧権廃止論も提示されている(本稿日本法編参照)。 そして、アメリカ模範事業会社法MBCA§16.04(d)は、提供された情報の使用・配布 に制限を加えるという方法を是認する。そのような方法は、会社の情報を分類して、会社に とって何が機密情報であるか、そして情報機密性のレベルに相応して、請求者株主に提供さ れた情報の使用・配布に制限を加えるという方法によって、上記問題の解決策を提供してく (3) もちろん、買収価格の適正性を担保する客観的状況の確保のために、公開買い付け期間を比較的 長期間に設定するとともに、対抗者が現れた場合に、当該対抗者が対象会社との間で接触等を行う ことを過度に制限するような内容の取引保護条項を、行わないことなども重要と指摘されている(石 綿学12頁)。 (4) 酒井太郎「委任状勧誘」ジュリスト1346号45頁(2007年)。 (5) 前掲注(4)酒井 45 頁。参考書類を通じて被勧誘株主に提供されるのは、議案の当否を判断するた めの材料であって、議案の承認が会社(株主)にとり有益であることの証拠ないし証明は必ずしも ない。なお、株主は分散投資を通常行っており、彼らの大半は、手元の参考書類よりもはるかに多 い情報を元に形成された株価を参考にして、決議に参加することなく、いわゆるウォールストリー トルールに従い行動することが多いという。 (6) 中東正文「会計帳簿閲覧等の拒絶事由は、拒絶の自由を認めるものか?」金融商事法務 1276 号 1 頁(2007年)。

(4)

れている。 2 判例紹介

(1)Schoon v. Troy Corp(7)事件では、原告は、自分の所持する株式を第三者に譲渡する際に、

会社の情報開示が要求されるので、デラウェア州会社法 220 条を根拠に、被告側会社の会計 帳簿及び記録の閲覧を要求したが、会社がこれを拒否した。これを受け、原告は裁判所に提 訴した。 そして、裁判所は、情報開示の第三者(相手方)が訴訟の当事者でない場合に、会社情報 の開示を以下のように分類する。すなわち、①会社の基本情報、②証券法上の会社情報、③ 追加的情報、④高度な機密情報、等である。そして、裁判所は、会社の各種の情報について、 以下のように分析する。すなわち、①の基本情報は、経済的記述が含まれなければ、一般的 に、これを第 2 級の訴訟当事者に開示してよい情報であるが、②と③の情報は、機密保守契 約の締結及び経済顧問の審査を受けるという前提の下で、開示してよい情報である。これら に対して、高度機密情報に関しては、一部の情報は開示してよいが、その情報とは、本質的 に、提訴者の能力に応じて、経済顧問による意見を採り、リスク評価をし、会社株を購入す るため、すなわち、証券投資に当たっての重要な情報である。 そして、そのような情報が株主に閲覧させた後、株主がこれらの情報の扱いに当たって、 裁判所は、以下のように判示する。すなわち、第三者(購買者)に開示する少なくとも休日 を含まない五日間前までに、①情報が第三者に開示されること、②第三者(購買者)は、株 式購買の潜在的能力を有することを確認、証明すること、④第三者(購買者)の競争者の種 類を確認すること、④会社に対して、情報はいつ開示されるかを通知すること、⑤第三者と の機密保守契約を会社に提出すること、以上の全ての手続きを踏まえた上で、情報を第三者 に提示しなければならない。 以上のような条件を受け入れることを前提に、裁判所は、株主による会社情報の閲覧を認 めた。

(2)Master in ChanceryFebruary 22, 2005, Submitted June 2, 2005, Decided 事件 では(8)、裁判

所は、会社には秘密の情報を保護するための権利及び義務を有し、特定の非公開文書の閲 覧提示から生じる会社への損害を懸念し、そして、株主による 220 条の行使を制約する点で、 会社の機密情報、知的財産に関する情報、商業的、あるいは秘密の個人情報を構成する情報

(7) Schoon v. Troy Corp., 2006 Del. Ch.

(5)

は、秘密情報としての保護を受けるべきとする判断をしている。結局、裁判所は、会社に秘 密の処置を受けるべき文書を(当事者の同意に基づいて)定めて、第三者より助言を得て、 裁判所の決定と一致する適切な範囲内の文書を準備するよう求めた。 このように、デラウェア州裁判所は、情報の分類に試み、そして開示情報のその後の利用 に注意しながら工夫し、会社情報扱いにおける慎重さを見せてくれており、かかるような対 応の下で、会社情報が(競業)株主に提供されることも十分考えられよう。

第7節 株主によるその他会社資料、記録の閲覧請求権

Ⅰ その他会社資料の閲覧請求権 日本では、会社の会計帳簿、株主名簿以外に、取締役会議事録も株主の閲覧請求対象となっ ている。子会社の設立、長期経営方針、事業方針、重要な人事、財産、新株発行、企業経営 における重要な事項の検討は取締役会の決議事項となっているので、取締役会で決定した重 要な業務執行内容を議事録に具体的に詳しく記載することには、会社経営上大変難しい問題 を含んでいる。また、取締役会議事録には取締役にとって不都合な事項(競業避止義務違反・ 自己取引に関する違反等)の記載は期待できないし(9)、業務執行に重要な事項は非公式の任 意機関である常務会で実質的に決定し、取締役会は常務会の決定事項を単に形式的に事後承 認するだけで議事録も全く無内容なものになる(10)。よって、株主がそのような議事録の閲覧 に通じて把握できる会社の情報は限られたものと考えられる。 これに対して、アメリカ模範事業会社法は、株主の会社資料閲覧権について、株主の記 録に加えて、会議決議の記録、及び適正な会計記録(appropriate accounting records)をも

含むと規定している(11)。そして、デラウェア会社法 220 条(b)は、「株主は、自らまたは弁 護士若しくはその他代理人により、その目的を示す宣誓した書面による請求に基づき、通常 の営業時間の間、正当な目的のために、会社の株式原簿(取引元帳)、株主名簿、並びにそ の他の帳簿及び記録を閲覧し、かつその謄本または抄本を作成する権利を有する」と規定す る(12)。ここで、「その他の記録」について、適正なものであると判断されれば、会社の契約 や最高経営責任者の交信類であっても調査の対象となる(13)。なので、デラウェア州会社法の 下で、閲覧権は一般的に、株主が合法的な利害関係を有する会社の事項に関して株主への情 (9) 上柳克郎ほか『新版注釈会社法(6)株式会社の機関(2)』125頁堀口亘執筆有斐閣(1987年)。 (10)稲葉威雄『改正会社法』243頁金融財政事情研究会(1982年)。 (11) MBCA§16.01 (a)、(b). (12)北沢正啓・浜田道代共訳『デラウェア会社法』80∼81頁商事法務研究会(1988年)。 (13)ロバード・W・ハミルトン著・山本光太郎訳『アメリカ会社法』366頁木鐸社(2001年)。

(6)

報提供に必要なすべての関連資料に及ぶ。 Ⅱ 判例紹介

事件 1、LOUISIANA MUNICIPAL POLICE EMPLOYEES RETIREMENT SYSTEM v. MORGAN STANLEY & CO., INC., 2011 Del. Ch. February 17, 2011, Submitted March 4, 2011, Decided (1)事実の概要 原告年金基金は、被告側会社を以下の理由で、会社の会計帳簿及び記録の閲覧を請求し、 訴えた。その理由は、株主からの特定の役員と取締役を対象とする(証券不法行為に関係す る)提訴の要求が会社に不当に拒絶されたことである。これと同時に、ニューヨーク南部 地区の連邦裁判所で、本件事件と関連性を有する派生訴訟も同時に行われている、2008 年 8 月 11 日、ニューヨーク弁護士総長(New York Attorney General(“NYAG”))が、Morgan Stanley 社のマーケティング及び証券取引活動に関して、調査活動を行っていると発表し、 同年の 8 月 14 日に、NYAG とモルガン社との間に、和解が発表された。その後、2008 年 8 月 27 日から、この和解案をめぐり、株主代表訴訟(派生訴訟)が続々と提起されていった。 これらを受け、会社は、これらの事実に関与したと見られる取締役らを解雇した。 そして原告年金基金が求める書類は以下のようなものである。すなわち、①監査委員会に おいて提訴決定がなされる会議の記録、②かかる不提訴決定を裏付ける報告書、③弁護士事 務所が委員会に提出した文書、④もう一つの弁護士事務所が提出した、会社の証券経営活動 (auction rate securities、「定期的な入札により金利を決定する仕組債」)に関する報告書、⑤ 会社自身による調査、審査の材料、⑥会社と前記二つの弁護士事務所との間に結ばれた留保 協議書、である。 これに対して会社側が、原告が「取締役会による不提訴の結論は、利己的で十分な考察を しなかった条件の下で出来たものと信用できる証拠」を示さなかったと反論し、さらに、会 社側が株主の閲覧を拒絶する通知の中では、取締役会での判断プロセスが既に記述されてお り、原告の主張は支持されるべきものではないと主張した。 (2)裁判所の判断 被告側会社の反論を受け、デラウェア州最高裁判所は、「請求者株主は取締役会の独立、 或いは利害関係を有しないことを素直に認めないことは、提訴要求が拒絶されたことに由来 し、取締役会による株主からの会社資料の閲覧請求を拒絶することについて、会社が善良で 誠実に行われるビジネス判断であるかいなかを確認するための文書調査は、株主にとり、適 切な目的であり、その拒絶に関する調査が妥当であると考えられ」、「委員会の行動に関し て、誠意をもってその信託された業務を遂行するか、その調査する権利も株主にあり、株主

(7)

に、デラウェア会社法 220 条を利用し、取締役の拒絶がある程度の調査後に誠実になさった 決定であるか、或いは取締役らに隠れた動機が別に有るかどうかを調査する権利が与えられ る」と明言した。 デラウェア州最高裁判所は、判断の枠組みを提示してくれている、「とにかく、取締役会 は誠実に株主の正当な目的による関係書類及び記録の要求に応じるべきで、そして事件後に 直ちに、取締役の解雇に乗り出すべきではない」…「もし取締役が辞表を提出し、取締役会 がその辞表の引き受けを拒否した場合、その拒否決定の根拠となる文書及び記録も、株主は これを閲覧でき」…「会社はこのような株主による閲覧請求権の行使を容易にしなければな らない立場にある」…なお、「会社の委員会による提出された拒絶通知書には、委員会の決 定に対する実質的な洞察を可能にする材料を提供しておらず、また、そのような拒絶通知書 だけで、株主の権利行使を拒絶できるものとすれば、会社決定を調査するために 220 条を利 用する権利を実質的に否定することになる」、「株主による閲覧の要求には、弁護士事務所の 報告書があり、そこには、株主による調査目的と無関係な会社情報が含まれる可能性があり、 それを閲覧は認められない」。 なお裁判所は、以下のように明言している。すなわち、「取締役会による提訴拒絶の通知は、 原告の 220 条を利用する権利を阻止できるものではない」、「原告年金基金に取締役の決定を 洞察する必要な能力がなく、だから原告は、取締役会・委員会の不提訴評価に関する情報だ けを請求しており、その他の資料請求をしていない」ことから、裁判所は、対象書類は原告 の目的と緊密な関連を有し、閲覧請求の正当性を是認した。 従って、被告側会社による原告基金が適切な目的が欠如していると主張した範囲で(弁護 士事務所の報告書があり、そこには、株主による調査目的と無関係な会社情報が含まれる可 能性があり)、その一部についての閲覧請求が認められなかったが、取締役会による提訴の 拒絶が不当であるか否かを調査する範囲での閲覧が認められた。 (3)分析 本件のように、株主から取締役を対象とする訴訟提起の要求が拒絶され、その不提訴決定 の根拠を探るために、220条を利用して会社資料の閲覧が認められる先例が既に存在する(14) 日本においては、平成15年の会社法改正で、株主代表訴訟の制度についても改正を加えた。 つまり、日本会社法 847 条 4 項によれば、もし株主から提訴請求がなされた後 60 日以内に取 締役の責任を追及する訴訟を提起しない場合には、監査役は株主や取締役の請求に応じて提

(14) Grimes v. Donald (Grimes I), 673 A.2d 1207 (Del. 1996); Grimes v. DSC Commc'ns Corp. (Grimes II),

(8)

訴しなかった理由を通知しなければならないことになっている。この通知は「不提訴理由 書」とも呼ばれ、その通知方法について、会社法施行規則 218 条に規定されている(15)。これ について、少なくとも、以下の問題点が指摘され得る。すなわち、①不提訴理由書の作成に あたって、その項目について、どこまで詳細かつ具体的に開示をするかという問題(16)、②提 訴請求に係る調査については、提訴請求対象者と調査者の馴れ合いを防止する観点から、場 合によっては、具体的調査を弁護士、公認会計士等の外部の中立的第三者に委ねる等の措置 が採られる場合の問題、③不提訴理由書そのものは、あくまで法が、提訴をするか否かの一 次的な判断と責任を会社に委ねたもので、その作成者である会社が提訴される場合、裁判官 は「中立的な立場」に立ち、不提訴理由書を検証しなければならないという点、である。 本来、提訴請求を行った株主に対して、株主代表訴訟を提起するか否かの判断材料を提供 するという不提訴理由書の趣旨に照らせば、開示の充実が期待されるが、しかし、たとえば、 会社の内部統制システムの構築義務違反が問題とされる場合、不提訴理由書には、取締役ら に責任が認められないことと、内部統制システムの整備に関する検証事実の記載がなされる と考えられる。しかし、運用に関する検証事実、リスク評価に関する事項について、どこま での記載が必要になるかは問題になりうる(17)。そして監査役が第三者機関に委ねて、意見書 や報告書を作成してもらう場合も、その内容が完全に株主に提供されるわけでもない。会社 にとり、文書提出命令によって資料が開示されることは常に回避したがることで、しかし、 この不提訴理由通知制度と内部統制システムとの関係を考えると、ある程度の資料の存在が 当然であり、そもそも資料が存在しないこと自体が、内部統制システムの構築義務違反(運 用評価義務違反)となる可能性が高いのではないかと思われる。 以上、日本法における不提訴理由通知制度は、形式的には会社の調査結果や訴えを提起し ない理由を通知する手続を定めたものであり、株主による不提訴理由書の根拠を探るために 会社資料の閲覧が求められる場合、裁判所が如何なる判断を下すかは、株主代表訴訟の結果 (15)同条では、不提訴理由書には、以下の事項を記載するものとされている。すなわち、会社が行っ た調査の内容、提訴請求対象者の責任又は義務の有無についての判断、提訴請求対象者に責任又は 義務があると判断した場合において、責任追及等の訴えを提起しないときはその理由などの項目で ある。 (16)調査した資料のうち当該役員の責任の有無、提訴の当否等についての判断の基礎となった資料の みを記載すれば足り、調査した資料すべてを記載する必要はないとされる(企業会計 2006 年 4 月号 24頁、法務省大臣官房参事官相澤哲「省令の概要と株式・機関関係」参照)。 (17)会社法において体制整備に関する決議規定などが明文化された以後においても、このような問題 はありうると考える。つまり、所定事項についての基本となる事項はすべて記載されるが、具体的 な運用、特にリスク評価に関するものについての記載はどこまで必要となるのかは問題である。

(9)

にもつながる重要な問題である(18)。なお、以上の問題点に鑑みれば、株主並びに会社全体の

利益のため、株主の閲覧請求権を有効なものにするためには、前記LOUISIANA

MUNICI-PAL POLICE EMPLOYEES RETIREMENT SYSTEM, Plaintiff, v. MORGAN STANLEY & CO., INC. 事件でデラウェア州最高裁が下した判断のように、不提訴理由書の根拠となる資 料の閲覧請求は、会社の機密情報及び株主の閲覧請求目的と無関係な会社情報を除いて、基 本的に株主に認めるべきであるといえよう。

LOUISIANA MUNICIPAL POLICE EMPLOYEES RETIREMENT SYSTEM, Plaintiff, v. MORGAN STANLEY & CO., INC. 事件では、デラウェア州最高裁は、当事者らが争いを終 結できない場合、60 日以内に日程を協商し、最終決定に臨まなければならないと命じてい るが、つまり、60 日以内に、会社が調査したり、会社機密情報の範囲を画定させることが できる。

事件 2、ERNESTO ESPINOZA, Plaintiff-Below, Appellant, v. HEWLETT-PACKARD COM-PANY, Defendant-Below, Appellee.No. 208, 2011 Del. October 12, 2011, Submitted November 21, 2011, Decided (1)事実の概要 アーネスト・エスピノザ(「エスピノザ」)、上訴人、原告はデラウェア州会社法 220 条を 利用して、ヒューレット・パッカード社(「HP」)に、会社資料の閲覧を請求したが、その 請求が会社に拒否された。請求資料は、外部者による作成した一つの報告書(Covington Report、C報告書)である。その報告書には、HP社の元CEOのMark V. Hurd氏(ハード氏) に関係するセクシャルハラスメントの内容が含まれた。しかし、かかる報告書は、あくま で会社の内部調査に関連して準備されたもので、なお、かかる報告書には、「弁護士・依頼 (18)月刊監査役 501 号 3 頁、江頭憲治郎「新会社法における不提訴理由書制度の導入」参照、不提訴理 由書の内容が、会社による杜撰な調査を示すものであった場合には、その後の株主代表訴訟におい ても取締役等に対する監視体制が不十分であるとの印象を裁判所に与え、その結果、実体判断にお いて被告である取締役等に不利に働く可能性があるという指摘が存する。

(10)

者間の秘匿特権」(19)及び「職務活動成果の法理」(20)がかかっていて、これらをすべて破って、 C 報告書を徹底的に調べる必要を示さなかったことを理由に、裁判所は、原告の請求を否定 した。 HP 社は、パソコン、プリンター及びその他応用技術をグローバル的に販売することを業 とするデラウェア州に設立された会社である。そして、HP 社の株は、ニューヨーク株式取 引所で公的に取引されている。2010 年 8 月 6 日まで、ハード氏は会社の取締役会会長兼CEO であったが、HP 社の取締役会は、ハード氏及び 10 人の非常勤役員(外部役員)によって構 成されていた。 2010 年 6 月 29 日に、ハード氏は、代理人弁護士から一通の手紙を受け取った。手紙は Gloria Allred, Esquire(アルレッド氏)によって発されたものである。そして、手紙の内容は、 彼女の依頼人・Jodie Fisher(フィッシャー氏)は、会社で仕事をしていた 2 年間の期間内に、 ハードよりセクシャルハラスメントを受けたので、ハード氏及びHP を対象に法的措置をと ると通告するものであったが、手紙の中では、秘密に私人間の和解によって解決する可能性 も示された。 これを受け、会社は内部調査を開始し、そしてC 報告書は、2010 年 7 月 28 日会社の委員 会に提出された。およそ1週間後の2010年8月5日、ハード氏とフィッシャー氏と和解した。 その翌日、HP 社は、ハード氏の会社からの脱退を発表し、発表に当たって、会社は内部調 査におけるハード氏のセクシャルハラスメントに関しては一切触れなかったが、ただビジネ (19) attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)について説明しておくと、アメリカの民 事訴訟にはdiscoveryという証拠開示の手続があり、手元の資料は原則として全て相手方に開示しな ければならないことになっているが、このような全部開示の原則に対する例外の 1 つが attorney-cli-ent privilegeというものである。この特権は文字通り、弁護士と依頼者の間のコミュニケーションの 内容を秘密とするものである。これは米国弁護士倫理規定の要求であり、それが認められる要件と して、①弁護士と依頼者(法人間)の間の、②法的助言を得るためになされた、③秘密の(かつ秘 密にする意図でなされた)、④コミュニケーションであること、などである。「公司法律部(第三版)」 [美]卡罗尔・巴斯里[美]欧文・卡根著本书译委会译(Corporate Legal Departments 3rd Edition)

法律出版社(2011年3月)126∼136頁。

(20)弁護士・依頼者の秘匿特権と似ているものにwork-product doctrine(職務活動の成果の法理)と

いうのがあり、work productに該当する場合には証拠開示手続で開示することを拒否できます。弁

護士が自分の法的意見や分析を相手方当事者に開示しなければならないとすると充分な弁護活動が できないから、というのが、この法理が認められる元々の理由である。Attorney-client privilegeと

Work-product doctrineは同時に主張されることも多いであるが、一般的にはWork-productのほうが

適用範囲は広いが絶対的な保護ではないし、Work-productとしては保護されないけど秘匿特権とし

ては保護されることもあり得るからである。[美]卡罗尔・巴斯里[美]欧文・卡根著本书译委会译

(11)

スの管理のスタンダードを破ったと説明している。その後、会社の電話会議で、HP 社の顧 問は、ハードの不正行為に関する詳細な報告をし、そして「合法的なビジネス目的が存しな いところで」、「不正確な出費」がなされていたなどと報告された。とはいえ、会社の取締役 会は、「ある理由に基づいて」(for cause)ハード氏を解雇したのでなく、代わりに、会社側 は、3000 万ドルに相当する利益を退職金としてハード氏に支払うことを条件に、両者間の 分離合意を承認した。 そして 2010年8月17日に、Espinoza氏(E)のカリフォルニアの代理人(本件と関連する 一連の提訴について、その 8 つがカリフォルニア州にて、1 つがデラウェア州にて、夫々提 起されていた)がHP に手紙を送り出して、ハード氏の辞任に関する会社の特定の記録の調 査を求めた。その主な目的とは次の通りである。①ハード氏の辞任に関連する、所謂「正し くないビジネス管理スタンダード」とは、どのようなものであるかを調査する目的、②ハー ド氏は信任義務を履行しなかったにもかかわらず、取締役会では、彼にとって有利な分離合 意をすることについて、全員一致で決議されたことの理由はいかなるものであるかを調査す る目的、である。 これに対して、2010年9月2日に、HP社のカリフォルニアの代理人(Steven M. Schatz氏) は、「カリフォルニア州では、すでに派生訴訟が起こされ」、そしてたとえE の目的が適切な ものであるとしても、彼の要求する資料の範囲は、「広すぎて」、「秘密の個人情報も含んで いる」との声明を発し、にもかかわらず、HP 社はハードの離脱に関する文書を提供するこ とにした。その文書情報は、機密保持契約にも属するものであり、すなわち、それは①アル レッド氏からの手紙、②会社出費の報告、③取締役会議事録、④会社出費返済(損失補填) のガイドライン、⑤会社が把握しているフィッシャー氏とハード氏との、イベント、食事及 び会談の記録、などを含む情報である。 ただし、HP社は、C報告書の提供を拒否した。その拒否理由とは、C報告書は「弁護士・ 依頼人間の秘匿特権」および「職務活動成果の法理」によって保護されていることである。 これに関して、E は、「取締役会がかかる決定をする際に、いかなる情報を根拠にしてい るか、その肝心な情報が報告書に含まれ、また、報告書自体は、取締役の審議プロセスに関 して、理解或いは評価することに必要である」と主張した。 (2)裁判所の判断 2011 年 3 月 25 日、衡平法裁判所は、E の要求を拒否した。副裁判長は以下のように述べ た、「なぜなら、私はC 報告書に、「弁護士・依頼者間の秘匿特権」及び「職務活動成果の法 理」がかかっていることに気がつき、そして原告による目的も必要不可欠であり、そして私 にとって、(前者が果たされないままという状況の中)制定法の論点を掴むことが不可能で ある。」

(12)

そして裁判所は、以下のように判断している。、すなわち、「裁判所が考察する限り、C 報 告書は、ハード氏を「ある理由」に基づいて、解雇することを決定しない思惑、或いはその プロセスを包含しておらず」、「もちろん、報告書そのものは、取締役会がその決定をすると きに参考になる情報をも一部含んでいて、原告にとって有益であるかもしれない、しかし、 このことは、裁判所の考えを改めることができず、即ち、C 報告書は、原告による取締役会 がハード氏を解雇する決定をしなかった、その決定のプロセスを調査するに、必要不可欠な ものではない」。 (3)分析 このように、裁判所は、当事者による請求を拒絶するとき、「秘匿特権」と「職務活動成 果の法理」を強調することと逆のアプローチを取っているようにも見える。すなわち、衡平 法裁判所は、事実裁判所の判断を支持したものの、C 報告書は、「秘匿特権」と「職務活動 成果の法理」によって保護されているとはいえ、(そのような法理はコモンローの産物であ り)、E氏の220条に基づく閲覧主張を決定することに制定法的(州法の)分析も必要である。 そして株主による州法 220 条に基づく請求がなされた場合、裁判所が審査するのは、原告 の主張する目的と原告が調査しようとする会社帳簿及び記録との間における「必要性」、言 い換えれば「緊密な関係を有するか否か」という点である。つまり、対象となる文書が請求 者株主の目的の実現と緊密な関係であれば、かかる「秘匿特権」と「職務活動成果の法理」 も適用されない可能性を示唆している。本件でいえば、原告の目的と請求対象となる会社資 料の重要な関連性及び必要性、言い換えれば、C 報告書が、会社とハード氏の分離協議の達 成に重要であるとの立証が重要であるが、原告は、かかる立証に成功できず、衡平法裁判所 は、「原告は、ただC 報告書の内容に興味があり、そして自分勝手な憶測で、報告書は取締 役会のハード氏を解雇しない決定に重要であると主張している」を理由に、C 報告書の閲覧 を認めなかった。 私見としては、そもそも、判決を考察することに、衡平法裁判所は、報告書そのものの原 告にとっての有用性を一律に否定していなく、ただし、取締役会がハード氏との協議及び会 の決定に関して、そのプロセスを証明するいろいろな資料を原告に提供すると約束している 以上、C報告書だけに執着する株主による、「閲覧目的」と「特定書類の閲覧」との「必要性」 に関する立証責任がより加重されるものと考えられる。

第8節 米国法編のまとめ

従って、同じルールを普遍的に適用することが不適切なことがある。そこで、本稿日本法 編で指摘した日本法における株主閲覧権に関する法規定及び裁判の問題を米国法と比べ、株

(13)

主閲覧権そのものを株主の権利保護ひいては会社全体の利益保護のために、常に弾力的運用 を探ることも重要である。 アメリカ法では、日本法にある監査役制度がなく、さらに裁判所の選任する検査役による 調査も必ずしも一般的には認められていないので、株主自身が行う帳簿閲覧権に対する期待 が大きいといえる。これに対して、日本法では、閲覧請求権は、常時会計監査を行う監査役 制度のもので、業務執行に関する不正行為や違法行為を疑う場合には業務・財政の状況を調 査するために少数株主は検査役の調査を請求する権利も株主に認めている。そこで、立法論 としては、検査役のような、中立的・公的な機関に帳簿・書類を調査させ、その結果を株主 に報告させる方法を採用することが、帳簿・書類閲覧権を株主に認めるよりも妥当であると する見解も主張されている(21)。しかし、このような公的機関に帳簿・書類を調査してもらう べきかどうかの決定自体、会社の業務状況が定かでなければ困難であるし、会社の業務執行 とは直接に関係のない株主名簿等の書類についてまで、このような立法論を主張することが できないことから、アメリカ法におけるかかる株主閲覧請求権制度のように、株主が自ら自 主的かつ個別・具体的に会社の帳簿・書類を閲覧し、機動的に監督是正権等の株主権を行使 できる環境を整えるべきとする説がある(22)。これに対して、アメリカの制度の導入であった としても、その文化的土壌の差異は当然あるし(23)、そのまま日本法に導入する必要はないと の反論があり得るが、ただし、アメリカ法から受け継いだ法制度を大陸法的枠組みで理解す れば歪みや無理が生じるので、アメリカ法の考えに忠実に理解することが必要不可欠と考え る。 そして、両国の株主閲覧権制度を比較すれば、少なくとも以下の点が重要と考えられる。 第一、アメリカにおいては、例外は一部あるものの(24)、帳簿閲覧権は投資家たる個々の株 主が投資判断の資料を入手するための重要な手段であると考えられており、また、株主は会 社財産の所有者であり、会社の帳簿・記録は株主の共有財産であるとの考えもあるので、基 (21)大隅健一郎=今井宏『新版会社法論(中Ⅱ)』492 頁(1983 年)、藤井俊雄『帳簿閲覧権』演習商法 230頁(1983年)、和座一清『新版注釈会社法(9)』204頁(1988年)。 (22)久保田光昭「帳簿・書類閲覧権に関する立法論的考察」吉川・出口編集『石田満先生還暦記念論 文集・商法・保険法の現代的課題』196頁文真堂(1992年)。 (23)河本一郎=龍田節=前田重行=神田秀樹「系列」をめぐる法律問題(上)商事法務 1258 号(龍田 発言)23頁(2003年)。 (24)1969 年模範会社法 §52 の規定は、制定法上の閲覧権を①請求の最低 6 ヶ月前から名簿上の株主で あった者、または②会社の社外株式の最低 5 %を所有する株主に拡張している。ロバード・W・ハミ ルトン著・山本光太郎訳『アメリカ会社法』364頁木鐸社(2001年)。

(14)

本的に、単独株主権とされている(25)。これに対して、日本では少数株主権とされている。 第二、アメリカの会社法では、会社の記録の閲覧に関する条文はそれほど多くなく、運用 の詳細は判例に委ねている(26)。これに対して、日本では、株主の閲覧請求対象となる会社資 料を、会計帳簿、株主名簿、取締役会議事録などに分けて、夫々の違う条文で規定されてい る(27) 第三、デラウェア州会社法では、株主による株主名簿閲覧請求権は、会社が株主の調査目 的が無益(会社の利益と全く関係しない政治的目的)で個人の好奇心を満足させるためであ ること、あるいは、不適切で不法な目的によるものであること、まったく独特で決して会社 と株主との関係に連携しないものであることを示さない限り、デラウェア州制定法の下にお いては、絶対的な権利と考えられる。また、COMPAQ COMPUTER CORP. v. HORTON 事 件で、最高裁が示しているように、デラウェア州法の規定の下で、もしも株主が株式取引の 記録或いは株主名簿の閲覧を求める場合、会社側が株主による閲覧請求が不適切な目的によ るものという立証責任を負うことになるが、会社が委任状合戦に直面している場合や、株主 が会社の利益及び事業運営につながる具体的な事項について、コミュニケーションを取るた めの場合においては、株主名簿の閲覧が認められる確率が高いといえる。そしてクラスアク ションの分野において、デラウェア州最高裁判所は、①非派生訴訟の原告が増えることによっ て、会社に与えるダメージが大きくなる恐れがあっても、それが当然ながら「不当な目的」 と評価できないこと、②自ら参加者募集をする株主による提訴は、必ずしもクラスアクショ ンと同じように、会社に大きな打撃を与えるものとは限らないこと、③会社が管理の面で免 責条項を見つけることによって、潜在的なダメージを減らすことが出来ること、という見解 を示している。したがって、デラウェア州は、株主名簿の閲覧請求に基本的に寛大な見方を とってるものと理解することができる。これに対して、日本では、株主による株主名簿の閲 覧請求権がより制限されたものと評価できる。(本稿日本法編を参照)。これについて、一部 議論が残るものの(本稿日本法編まとめを参照)、日本では、クラスアクションなどが認め られないこと、日本では、金商法の推定額に基づき、情報公表者が一定の賠償責任を負うこ とが法定され、個人の利益が一部補償されることにかんがみ、更なる議論が必要と考える。 (25)デラウェア州一般会社法 220 条、アメリカ模範事業会社法 16.602 条以下」(新山雄三『株式会社 法の立法と解釈』98 頁日本評論社(1993 年)、アメリカ法の状況については、青木英夫「判批」ピケ ンズ対小糸製作所事件 金商判例 837 号 45 頁。(大森忠夫「株主地位の強化とアメリカ法」『英米会 社法研究』(有斐閣昭和25年)189頁、190∼191頁))。 (26)神田秀樹「会計帳簿等の閲覧謄写請求権」ジュリスト1027号24∼26頁。 (27)和座一清「アメリカ法における株主の帳簿閲覧権(1.2)」金沢法学1巻1号60頁、1巻2号181頁; 久保田光昭上智法学論集32巻2・3合併号245頁以下、和座一清『新版注釈会社法(9)』202頁。

(15)

第四、帳簿と記録の閲覧は、秘密情報を含む場合があるので、デラウェア州会社法制定法 220 条及びデラウェア州の裁判所は、株主名簿閲覧と会社帳簿及び記録の閲覧とを互いに区 別して、前記 3 で述べた株主名簿を求める場合、不適切な目的の証明責任は被告の会社側に あるという設計に対して、帳簿と記録の閲覧請求に関しては、原告株主が適切な目的に関す る証明責任を負うことになっている。 そして会社会計帳簿及び記録の閲覧を請求する株主は、会社不正の蓋然性についての信頼 できる証拠の提供責任と、(特に会社が株主の閲覧目的と特定の書類との関連性について指 摘した場合)特定の記録を閲覧する場合における株主がかかる特定の書類が自分の目的とは 必要不可欠な関係にあることを示す責任を負うことになる。アメリカ法の判例で見てきたよ うに、株主の自分勝手な憶測で、閲覧対象書類が重要であるとの主張は、裁判所の支持を得 られないので、その結果、そのような立証がかなり困難なものになってきている。これは、 日本法での判断の枠組みと類似する点があると考える。 第五、日本法と違い、アメリカ法は、株主が競業者、あるいは、実質的競業者であること を株主による会社資料閲覧請求の拒絶要件としていない。 しかし、アメリカ模範事業会社法MBCA§16.04(d)は、提供された情報の使用・配布 に制限を加えるという方法を是認するので、裁判所も会社の情報の分類を試み(前記第五節

四ⅢSchoon v. Troy Corp(28)事件参照)、会社にとって何が機密情報であるか、そして情報機

密性のレベルに相応して、請求者株主に提供された情報の使用・配布に制限を加えるという 方法を作り出している。上記事例では、第三者に会社情報の公開を制限することを条件とし ているが、ただし、このような方策で、競業株主が閲覧によって得られた情報を競業に利用 しないという確証が得られたとはいえず、更なる検討が必要である。 第六、デラウェア州会社法 220 条は、株主名簿、帳簿、会議記録以外に、会社のあらゆる 資料を、株主による適切な目的の下で、株主の閲覧に供している。特に、多くの場合取締役 会議事録には取締役にとって不都合な事項(競業避止義務違反・自己取引に関する違反等) の記載は期待されなく(29)、そこで、株主並びに会社全体の利益のため、株主の閲覧請求権

を有効なものにするためには、前記LOUISIANA MUNICIPAL POLICE EMPLOYEES

RE-TIREMENT SYSTEM, Plaintiff, v. MORGAN STANLEY & CO., INC. 事件でデラウェア州最 高裁が下した判断のように、不提訴理由書の根拠となる資料の閲覧請求は、会社の機密情報 及び株主の閲覧請求目的と無関係な会社情報を除いて、基本的に株主に認めるとする判決は、 2005年に初めて株主代表訴訟の制度を導入した中国法に対して、示唆が大きいと考える。

(28) Schoon v. Troy Corp., 2006 Del. Ch.

(16)

第4章――比較法の観点から得られた成果

Ⅰ 総括 会社法は、その主要な部分は株式会社に係る各種の利害関係者の間の利害を調整する私法 的ルールであって、健全で円滑かつ効率的な企業活動を可能とすることが、その規制の目的 である。そこで、会社の実質的所有者である「株主」に、会社側からどの情報を開示すべき か、株主側において、どの情報を入手することが許されるかという問題を考えるときに、会 社の不利益、および株主の利益のバランスをいかにはかるかという問題を考えなければなら ない(30) そして世界最大の市場を擁するアメリカの会社法は、依然として国際的に強い影響力を 持っており、同盟国で世界経済三位の日本及び新興国の代表、世界経済二位の中国の会社法 に重要な影響を与え続けている。各国の会社法は、相似する内容に収斂していく傾向が見ら れ、そして各国の会社法がアメリカ型の株主指向型(shareholder-oriented)に収斂していく ともいわれているが(31)、これについて、本稿は、3 カ国の会社法における株主閲覧権制度を 比較することに通じて、次の結論を得ることができた。 Ⅱ 株主閲覧権の必要性について 1 会社法の視点から 3 カ国の会社法における株主による会社資料閲覧請求権は、株主の権利行使に欠かせない ものと考えるが、理由は以下のとおりである: 3 カ国では、株主による帳簿等を含む会社資料の閲覧権は、会社経営への参加、経営陣へ の監視監督、そして株主の財産権を擁護するため、株主にとって必要な権利と認識され、中 国では、この権利が株主の固有権と認識されて、会社の定款或いは株主間の個別的協議に よって会社書類の閲覧を制限する行為が無効と認識されている。また、中国会社法学界の通 説によれば、株主による会社情報を知る権利は会社から経済的利益を得るため、或いは会社 の経営及び管理への参加のため、会社の情報を取得する権利と認識されていることから(32) 配当がない場合には、株主が無配の事実に基づく帳簿閲覧請求等をすれば、裁判所がこれを

(30) Douglas M.Branson, CORPRATE GOVERNANCE (1993); Arthur R.Pinto,Corporate

Governance:-Monitoring the Board of Directors in American Corporations, 46 Am.J.Comp.L.317 (supp.1998).

(31) Henry Hansmann and Reinier Kraakman, The End of History for Corporate Law, 89 Geo.L.J.439 (2001).

(32)中国現行会社法4条:「会社の株主は、…」出資財産を対価とする特殊の民事権利、株主が会社法・

証券法等商事法律に基づいて享有する権利劉俊海「股分有限公司股東権的保護」、法律出版社、2005 年、46頁。

(17)

認めることになる。 そして、この情報を知る権利の現実的意義について、3 カ国において、共に中小規模の閉 鎖会社が圧倒的に多いことが現状であり(33)、これらの中小会社では、特に株主総会や取締役 会(日本、中国の場合は監査役を含む)などに関する厳格な諸規定を守ることができないこ と、内部統制システムの構築や、独立役員の設置が行われることが少ないこと、そして日本 における小規模閉鎖会社では、決算公告は専門家による会計監査が強制されていない一方で、 中国会社法 165 条では、「会社は、毎会計年度終了時に、財務会計報告書を作成し、法によ り会計士事務所の監査を受けなければならない」と規定されているが、問題点は、会計士が 会社会計報告書作成にあたっては、会社の伝票などを根拠にして検査をしているが、伝票の 内容(伝票に記載される出費はありうるかいなか、会社の出費として合理的か否か)及び真 偽についての審査は行わない点である。なお、会計士に関しても、その収益の多くは、監査 業務ではなくコンサルティング業務から得ており、経営者の圧力に抵抗しにくいという事情 がある。従って、帳簿閲覧請求権が少数株主権の保護にとり現実的な意義を有するといえ る(34) 2 会社のコーポレートガバナンス及び自主的情報開示制度の視点から 3 カ国の会社のコーポレートガバナンス及び自主的情報開示制度を考察するとき、以下の 問題点が存する、 (1)日本における会社取締役の大半が従業員出身であり、代表取締役を監督すべき取締役会 もその機能を果たすことが事実上困難となる。これに対して中国では、国有企業制度の「工 場長責任制」から生まれる「一人王様」の制度の影響で、大規模会社の経営陣への監督シス テムが十分に機能していない。 (2)日本法おいて、会社の業務、財産等を調査せしめる「検査役」という制度が有るが、中 国法編ですでに述べたように、近代中国会社法においても、検査役の選任制度が存在した。 (33)森淳二郎・上村達男編『会社法における主要論点の評価』西山芳喜 227 ∼ 228 頁中央経済社(2007 年)。 (34)これに対して、米国のS О Xは、公認会計士以外の者が委員の過半数を占める公開企業会計監督委

員会(Public Company Accounting Oversight Board,PCAOB)を創設し、会計事務所が発行者に対し

監査業務と非監査業務を同時提供することを禁止し(取引所法 10A条(g)項)、そして最低 5 年ごと

に会計事務所の当該企業担当パートナーを交替させることにしている(取引所法 10A条(j)項)、た

だし、非監査業務の制限については、会計事務所の監査対象会社の情報へのアクセスが制限されて しまい、実効的な監査の妨げになる、監査サービスの対価が高まり監査の質が低下する等の批判も ある。

(18)

そこから日本法の経験を学び、検査役制度の再び復活させることが中国 2005 年会社法の改 正前と改正後にわたって検討されている(35)。これについて、日本会社法における検査役の選 任は、会社の(財産に直接的な影響のある)業務執行に関し不正の行為または法令もしくは 定款に違反する重大な事実のあることを疑うべき事由がある場合に限られるが、理論上、業 務執行の違法が会社財産に直接の影響を及ぼしていない場合も含まれることや(36)、実際、裁 判所がこれまで株主からの検査役選任の申し立てを認めてこなかったこと(37)等から、日本 法における研究の成果及び教訓を吸収していく必要があろう。 (3)日本と中国においては、アメリカ法にない「監査役」制度が存在している。そして、監 査役に多くの権限が付されている(38)。この制度には、次の問題点が存在する、①取締役の地 位から排除されたものとして、日常より会社の経営に携わらず、会社経営の中身を把握でき ないという問題、②監査役には、適切に努力するためのインセンティブが十分には与えられ ていない問題、③監査役には、取締役の選任、解任の権限、会計監査人の選任議案及び報酬 の決定権がない問題(39)、④そして中国企業では、従業員が独立した立場から監督ができるか 否かの問題。などである。特に、中国国有企業においては、従業員代表が従業員組合(職工 大会)の主席の影響を受けかねないことや、職工大会の主席の収入もまた社長或いは取締役 (35)褚红军主编俞宏雷副主编『公司诉讼原理与实务』365 頁人民法院出版社(2007 年)、王燕莉「論股 東知情権的法律保護」『四川教育学院学報』2003年1号。 (36)末永敏和会社判例百選第5版165頁(1992年)。 (37)江頭憲治郎『株式会社法(第3版)』520頁(2011年)。 (38)日本法における監査役の権限として、取締役の業務執行に関し、取締役への報告請求、業務財産 調査権があるほか(会社法 381 条 2 項)、取締役は一定の事実(会社に著しい損害を及ぼす恐れのあ る事実を発見したとき)につき監査役(会)宛報告義務が課せられる(会社法 357 条)。また、日本 法上の監査役は取締役の行為を差し止めたり、代表訴訟を提起したりすることが出来る(取締役会 に出席し意見陳述をするが、取締役会での議決権を有しない(会社法 383 条 1 項、369 条)。そして中 国会社法も、監査役に多くの権限を付与している、すなわち、中国会社法 54 条では、「監事会又は監 事会を設けない会社の監事は、次に掲げる職権を行使する。(1)会社の財務の検査、(2)董事、高 級管理職員の会社職務執行時に対する監督、並びに法律、行政法規、会社定款又は株主会の決議に 違反する董事、高級管理職員に関する罷免意見の提出、(3)董事及び高級管理職員の行為が会社の 利益に損害を与える場合における、董事と高級管理職員に対する是正の要求、(4)臨時株主会会議 招集の提案、董事会が本法に定める株主会会議の招集及び主宰の職責を履行しない場合の株主会会 議の招集及び主宰、(5)株主会に対する意見の提出、(6)本法第 152 条の規定に基づく、董事、高級 管理職に対する訴訟の提起、(7)会社定款に定めるその他の職権」と定められている。これらの権 限について、株式会社と有限会社においては同様である(中国会社法119条)。 (39)法務省「企業統治のあり方についての最近における主な指摘」、8 ∼ 17 の項目で「監査役の監査機 能等」が指摘されている。

(19)

会が決めることが多いこと等から、従業員監査役の独立性は疑われる。 (4)独立取締役に関して、NYSE が定める独立取締役の要件は、①現在および過去 3 年間、 会社との雇用関係がないこと、②現在および過去3年間、本人または家族が会社から10万ド ル以上の報酬を受け取っていないこと、③本人および家族が会社の監査関係者ではないこと、 ④会社の売上の 2 %または 100 万ドル以上の大口取引先の従業員ではないこと、であるのに 対して、日本会社法 373 条 1 項 2 号では、社外取締役の要件について、①現在、その会社ま たは子会社の業務執行取締役・執行役・使用人でなく、かつ、②過去に、その会社または子 会社の業務執行取締役・執行役・使用人となったことがないこと、が規定されている。 従って、米国法上の独立取締役について、取引関係者、外部アドバイザー、親族関係者 は独立とみなされない点で日本の社外取締役の概念より厳しいが、過去に会社と雇用関係 にあった者のうち、離職後 3 年経過して金銭的関係がない者の場合は独立の概念に合致する とされている点は日本の社外の概念よりも広い(40)。そして日本では、親会社の役員等が子会 社の取締役、監査役になった場合、その人は「社外」という要件を満たし得ることになるが、 この点、アメリカ法でいう「独立性」がより厳しいものになっている。 そして中国における独立取締役の定義について、「上場会社における独立董事制度の構築 に関する指導意見」(2001 年)では、次のような規定が置かれている、すなわち、独立取締 役に就任する条件として、①証券取引所が発行する資格証書を取得すること、②独立取締役 は、人格、経済的利益、選任の手続き、権利行使の各面において、支配株主及び会社経営陣 による制限を受けてはならないこと、③ 5 年以上法律、経済或いはその他の仕事をし、独立 取締役の職務執行に必要な経験を有すること、それに社外取締役に適しない場合もあげられ ている、すなわち、①上場会社或いはその付属企業で就職した人員、及びその直系親族、② 直接または間接的に上場会社の発行済み株式総数の 1 %以上を有する、或いは上場会社の上 位 10 位の株主(自然人)及びその直系親族、③直接または間接的に上場会社の発行済み株 式総数の 5 %以上を有する法人株主、或いは法人株主で勤務する人員及びその直系親族、④ 1年以内に、前掲各号事項に該当する人員、(5)上場会社或いはその付属企業に対して、財務、 法律、コンサルティング等の業務を提供する人員などが独立取締役になれないとされる。 上記指導意見の規定は、日本会社法が定める「社外」性と、アメリカで発達した「独立」 性の概念と重なる部分はあるが、つまり、アメリカ法の基準と類似して厳しい概念が捉えて いるが、離職 1 年後経ていれば、独立の概念に合致するとされる点で、アメリカと日本より も広い概念になっている。しかし、今日に至っても、上記の指導意見は行政指導に留まり、 会社法或いは証券法または証券取引所の上場規則に移行されておらず、独立取締役に関する (40)「平成17年5月27日付け企業価値報告書」94頁。

(20)

法制度が整備されたとはいえない(41) (5)会社による自主的情報開示に関しては、日本法上の総会開催に先立ち、参考書類等の送 付制度は中国法の参考になる。しかし、会社による資料の開示の有用性に限界があり、3 カ 国法においては、計算書類等の開示が定時株主総会の開催に随伴してなされるから、情報提 供の適時性に欠けることが懸念される。 上場会社に関しては、中国はすでに米国、日本の制度を参考にし、年次報告、半期報告、 四半期報告等の提出、公表義務を上場会社に負わせている。本稿米国法編ですでに述べたよ うに、公開会社の強制的情報開示の必要性、投資家判断のための必要性について、一部疑問 が残るものの、私見としては、機関投資家や証券アナリスト等が大量に存在する中、効率的 市場説が機能できると考える。特に中国では、公開会社情報開示義務(会社法及び証券法上 の)及びこの情報開示への金融監督をも、株主による会社情報を知る権利の内容として理解 されている。しかし、金融管理システムの合理化、つまり、地方の証券監督管理機構の監視 報告を義務化することと、証券監督管理機構の行政責任を明文化することが必要である。ま た、証券監督委員会の人事権改革を通じて、その自律性を高めることも重要と考える。なお、 中国法編とアメリカ法編で述べた上場会社の情報開示の要求を比べれば、中国の現行規定の あり方は米国と類似しているといえる。その点、情報開示に関するSEC の工夫、特に、本 稿米国法編で述べたStaffin 事件並びに Basic 事件で裁判所がなされた重要な事実、実質的事 実に関する判断の枠組み、注意表示の法理等を参考することが重要と考える。 (6)コーポレートガバナンスの面で、まず、内部統制システムの合理化によって取締役の経 営リスクの回避、つまり、取締役の内部統制システム構築においての責任を義務化すること が必要不可欠と考えるが、特に国有企業人事の評価基準を変えること、つまり、企業の「業 績」を人事評価の基準とするほか、「一般投資家の保護」についての評価も国有上場企業の 人事評価における重要な基準にすることが重要と考える。これに関して、日本では、取締役 らの内部統制システム構築義務違反を認める判例がそれほど多くないといえる。本稿日本法 編で例に挙げた日本システム技術事件では、最高裁判所が示した「職務分担、職務分掌」に ついて、形式的にされているかどうかによって判断されることでなく、会社人事を含めた内 部統制システムにおけるリスク評価に関して、考察が必要と考える。これについては、前述 したように、人事権が集中し、「一人王様」の制度の影響を受けつつある国有企業にとって、 特殊的な意義を有すると考える。なお、中国のA株市場で取引される株の大部分を発行して (41)日本では未だ独立取締役市場が充実しておらず、会社と利害関係を有しないいわば部外者が会社 に入ってくることを好まない風土も残っているが、中国でも、「株主利益の最大化は、経営陣を有効 に監視できる外部の第三者でなければ実現できない」とするアメリカ型の発想が日中学者に受け入 れられていないことは、独立取締役要件の法律化の障害物になっている。

(21)

いるのは国有企業であることに鑑み、株主保護、投資家保護のためには、日本を含む先進国 の経験を活かすことが重要であると考える。それ以外に、本稿中国法編で述べた、日本と米 国と異なるが、中国には取締役会秘書制度がある。取締役会秘書に関しては、責任条文の合 理化、つまり、取締役会秘書に情報開示に関して、独立した責任を負わせるためには、その 責任と義務(不正開示や会社の不法行為が発覚したときの証券取引所や証券監督管理機構に 直接報告する義務)、並びにそれは無過失責任の形で認めるか、もしくは過失責任の形で規 定するかをすべて、証券取引所の上場規則ではなく、証券法の明文規定にする必要があると 考える(42) Ⅲ 日、米、中3カ国法における株主閲覧権に関する規定と運用及び中国法への示唆 1 立法論における示唆 中国会社法における株主による情報閲覧請求権の規定には、以下の問題点が存する: (1)有限会社の株主による名簿閲覧請求権の明文規定が存在しないこと。本稿中国法編です でに述べたように、工商局での会社登記情報の閲覧が出来るとしても、工商届出登記は株主 譲渡の発効要件ではなく、ただの第三者に対する対抗力を持つ手続きであり、また、情報開 示するか否かは行政の判断に委ねられることとなり、株主の権利行使に支障をもたらす可能 性が否定できない。なお、現行中国会社法の条文によれば、有限会社の株主は、会社の定款 を閲覧することが出来る、そこから会社株主の情報をある程度入手できるものの、定款と株 主名簿に記載される情報が違うことから、前者の閲覧は後者の閲覧に代替できると評価でき ないところ、アメリカ法、日本法を参考にし、有限会社株主名簿閲覧権の明文化が必要であ ると言わねばならない。 (2)中国現行会社法の下で、株式会社の株主名簿は、株主がほぼ無条件に閲覧できることに なっている。本稿日本法編及びアメリカ法編においてすでに述べたが、株主による閲覧請求 が会社経営、或いは株主全体の利益と全く無関係な目的、例えば、嫌がらせ、個人の政治的、 或いは会社経営と関係しない個人ビジネスの主張、また株主名簿売却等の目的によるもので あれば、会社がこれを拒否しえると規定、或いは運用されている日本法とアメリカ法とは、 (42)本稿中国法編で述べたように、中国における多くの規定、指引(日本の手引きに相当)の法的適 用性に問題があり、上海証券取引所の《上海证券交易所上市公司内部控制指引》もまた、会社法の 規定でなく、実際の訴訟で使えない場面がある。これに関しては、中国上場会社のコーポレートガ バナンスに関するもの、例えば、公衆株主の保護に関するものや、独立取締役の資格に関するものや、 取締役会秘書に関するもの等、そのすべては「法律」ではなく、行政指導(違反がされても責任は 問われにくいもの)レベルに留まることは、上場会社に関する規則の共通点になっている。

(22)

明らかに異なる。会社による開示のコストを考慮することに、また、会社の日常経営に支障 をもたらさないように、株主の正当な目的による請求でなければ、会社がこれを拒絶できる とする法設計が必要になる。 (3)日本法もアメリカ法も、株主による帳簿・記録閲覧請求を不当に拒絶した会社またはそ の役員若しくは代理人は株主に対して、法律によって課せられたその他の損害賠償責任など に加えて、会社法あるいは関係法律上の賠償責任、または過料の規定を設けているが(43)、中 国法上、このような規定はまだ存在しない。株主による正当な目的による閲覧請求が安易に 否定されることがないように会社に圧力をかけるための策として、中国法においても、この ような規定を取り込むことが必要と考える。 (4)中国会社法の下で、有限会社並びに株式会社の株主は、無条件で董事会決議の閲覧がで きることになっている。本稿日本法編及びアメリカ法編においてすでに述べたが、子会社の 設立、長期経営方針、事業方針、重要な人事、財産、新株発行、企業経営における重要な事 項の検討が取締役会の決議事項となっているので、したがって、取締役会で決定した重要な 業務執行内容を議事録に具体的に詳しく記載することには、会社経営上大変難しい問題を含 んでいるものの、上記情報の一部が会社の秘密と絡み合って、議事録に反映されることは否 定できない。そこで、前述した②と同じく、株主による取締役議事録の閲覧請求権が正当な 目的基づくものでない場合、会社が拒絶できるとする法設計が必要になる。 (5)上記(4)で述べたように、取締役会議事録には取締役にとって不都合な事項(競業避 止義務違反・自己取引に関する違反等)の記載は期待されない (44)。そこで、株主並びに会社 全体の利益のため、株主の閲覧請求権制度を有効なものにし、株主による経営陣への監督の 効果を高めるためには、取締役会の決議の根拠となる情報の閲覧請求権をも認める必要性 が生じてくる。中国会社法には、2005 年に株主代表訴訟制度が導入されたが、同年日本会 社法の改正で、株主代表訴訟制度に関して、不提訴理由書の提出が要求されるようになっ

た。そこで、アメリカ法編で例に挙げたLOUISIANA MUNICIPAL POLICE EMPLOYEES

RETIREMENT SYSTEM, Plaintiff, v. MORGAN STANLEY & CO., INC. 事件でデラウェア

(43)たとえば、米国模範事業会社法では、不当拒絶者に「株主が所有する株式の価格の 10 %の違約金

(penalty)を支払う責任」を負わせている。(1969 度模範事業会社法 52 条三段)これについて、正当

な目的による閲覧請求が安易に否定されることがないように会社に圧力をかけるための策であると 説明されている、2 Model Business Corporation Act Annotated522,at 129~130(2d ed.1971)を参照。

参照

関連したドキュメント

北陸 3 県の実験動物研究者,技術者,実験動物取り扱い企業の情報交換の場として年 2〜3 回開

3 当社は、当社に登録された会員 ID 及びパスワードとの同一性を確認した場合、会員に

「系統情報の公開」に関する留意事項

何日受付第何号の登記識別情報に関する証明の請求については,請求人は,請求人

出典: ランドブレイン株式会社HP「漁村の元気は日本元気」, http://www.landbrains.co.jp/gyoson/approach/toshigyoson_h21_mie.html,

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化

欄は、具体的な書類の名称を記載する。この場合、自己が開発したプログラ

は,コンフォート・レターや銀行持株会社に対する改善計画の提出の求め等のよう