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はじめに 日本語指導に携わる皆様は 中国人学習者には ほぼ共通した発音の誤りがあることにお気づきと思う 両国は 漢字を共有するため ややもすれば発音も似通っていると誤解されがちである しかし 母音 子音の発音上の違いを主な原因として 清濁 特殊音素の拍のずれ そしてアクセント等 両言語には根本的に隔

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中国人日本語学習者への発音指導のポイント

      

          2017年8月 

 

      

に ほ ん ご 学 習 会

 嶋野 篤男

       目    次    

      

はじめに

      1.母音の問題

      2.特殊音素の問題

      3.清濁の問題

      4.北京笈川塾長 笈川幸司氏の指導法

      5.発音関係ツール紹介

      おわりに

      参考文献

       

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 はじめに

 

日本語指導に携わる皆様は、中国人学習者には、ほぼ共通した発音の誤りがあることにお気づきと 思う。両国は、漢字を共有するため、ややもすれば発音も似通っていると誤解されがちである。  しかし、母音、子音の発音上の違いを主な原因として、清濁、特殊音素の拍のずれ、そしてアクセ ント等、両言語には根本的に隔たりがある。いわゆる母語干渉の問題である。  更に、中国は対日本比、国土 26倍、人口10倍強、民族数 56等から容易に想像されるように、 地域、民族によって言語が著しく異なっている。ここ、千葉市美浜地域に在住する中国人学習者の多 くが河南省以北、特に東北三省出身であることから、この地域出身者の母語における中国語発音を比 較対象として論を進めたい。 1.アルファベット、またカナのような表音文字をもたない中国語では、漢字の読みを表す方法が   必要で、古くは漢の時代から母音と子音をもつ漢字の組み合わせ(反切 はんせつ)が発音の指標   として使用されていた。   その後、時代を下り、中華民国時代の注音符号を経て、中華人民共和国成立後の1958年に   漢字の音をアルファベットで表記する漢字併音(ピンイン)方案が制定された。 2.ピンインは日本語のカナと同じ機能を持ち、漢字を読むために中国では小学校で教えられている。   中国人日本語学習者はこのピンインを拠り所として日本語のカナの発音を習得する。   ところが、アルファベットeで表記される「え」の音は、彼我で全く異なる。   日本語学習初期にヒアリングのみで、発音を繰り返し練習すれば「え」を耳からの情報で捉えて   習得できるかもしれない。しかし、通常はヒアリングだけでなく、「え」にeと書かれた目から   の情報と合わせて学習する。ここで、すれ違いが起こってしまう。全く異なる中国語のeを   「え」に当てはめて発音してしまうのである。日本人が英語のlとr、hとfで経験する場合を   考えれば、理解しやすいと思う。 3.発音はヒアリングとも深い関係があり、自分で発音できない音はヒアリングも困難となる。   例えば、日本語能力試験1級を取得している中、上級レベル学習者においても同様である。   日本語学校は別として、ボランティア教室では、学習初期の段階で発音に余り時間を割くこと   なく、ややもすれば、テキストの文法指導に偏りがちになると思う。誤った発音に気づく度に   場当たり的に矯正を試みても、その原因を説明できなければ、学習者の矯正改善は望めない。   本稿の中国語話者特有の母語干渉、原因解説とその矯正方法をご理解いただいた上での発音指導   により、学習者の発音改善に資する点があれば、幸甚である。    では、以下に誤りが多く見られる発音について、問題点ごとに、日本語と中国語の発音の相違点を  概略解説し、具体的に矯正方法を示していく。

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まず、理解への参考に、両者の「母音の違い」を簡単に理解してから論を進めたい。     もちろん、子音にも違いは多いが、ここでは、殆ど全ての問題点に関わる母音のみを取り上げている。 右の図は、比較のために表示した日本語の母音発音で ある。 『中国語の母音』は日本人の中国語学習者向けに 「日本語にない」、「日本語より」と書かれていると おり、同じローマ字でも両者の発音構造は全く異なっ ている。 特に、「e え」は日本語にない母音と書かれているこ とに注意願いたい。  もう一点は「拍」、例えば、桜はサ・ク・ラ、3拍である。 金田一春彦氏によれば、日本語の拍 数は112、対して北京語は411、何と彼我の差は3.5倍以上。しかし、北京語は中国語のうち でも拍が少ない方だ。  上記の単母音でも日5:中6と差がある。日本語の母音は他には半母音が4種のみ、対して中国語 には、そり舌母音1、複合母音29(2つ、3つの母音の組み合わせ、-n、-ngのつく母音)も ある。)  411拍のなかに、日本語の112拍が包含されていれば問題は簡単だが、411からはみ出した 日本語の拍、即ち、日本語にはあるが中国語にない拍が母語干渉を惹起する。つまり中国人学習者が 母国で触れたことのない発音が存在する。これから解説する母音、濁音、特殊音素などに学習者が苦 労する所以である。

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1.母音の問題

 

日本語は撥音と母音が無声化する場合以外は、全て母音で終わる。従って、登場する回数が多い  母音が誤っていると、日本語らしい日本語が発音できないことになる。  先に挙げたように、日中両国語の母音は同じアルファベットで表示されていても似て非なるもの  である。  中国人学習者が中国語の母音発音に傾いてしまうのは無理からぬことだが、彼我の相違点を理解  して指導に役立てて頂きたい。 a)「う」と「う」段音  発音記号では、日本語は「ɯ」非円唇、中国語は「u」円唇と異なる音である。日本語「う」は口を  やや開いた自然の状態であるが、中国語「u」は唇を突き出して丸くして発音する。  この違いを理解して発音できたら、「う段」は子音をつければ全て正しい発音になるはずである。  しかし、両国の子音の違いから、発音に誤りの多い「ふ」「る」は説明を要する。 「ふ」音は、中国語〔fu〕、日本語〔ɸɯ〕である。現代東京語に上の歯と下唇の摩擦音である 〔f〕はない。〔ɸ〕は無声両唇摩擦音である。両者は、火のついたろうそくに向かって発音すると、 〔f〕は息が下向きになって消えないが、〔ɸ〕は両唇の隙間から出るため消えることで判別がつく。 「る」音については、「ら行」全般に通じる問題として、更に「な行」と「ら行」、および「ら行」  と「だ行」の区別が困難な点も含めて、中国南方と台湾出身者に顕著な問題であり本稿では省略す  る。 b)「え」音  先にあげた中国母音「e」の口の図の説明に『日本語の「え」の口で「お」と発音する』とある。 他の中国語学習用テキストには『「あー」と「おー」の中間音である』とも書かれている。つまり、  日本語の「え」との共通点はローマ字のみ、全く異なる音である。両者を比べると、中国語のほう  がかなり狭い(口の開き)音であり、言ってみれば”つぶれたような”音である。  中国語の「e」は舌の位置が奥によりすぎる。また舌の位置が安定しないので重母音的になりや  すいようである。この点、特に注意して指導頂きたい。  日本語の「え」音が母国語にないため、「い」のような狭い音か、「あ」の広い音で代用してし  まう傾向にあり、正しい「え」音を発するのはかなり難しいようである。  筆者も、多くの学習者でこの問題を経験してきた。カバンがどう聞いてもカベンに聞こえてしまう。  口の形の説明、発音してみせて復唱させたり、あき(秋)-えき(駅)などのミニマムペアの練習  等いろいろな方法で矯正を試みているが、上記のとおり、学習者個々に代用する音の違い、つまり  癖があり、指導矯正は、かなり困難である。  後項で紹介する国語国立研究所の「中国人学習者のための例文100」には、最初の項目に、この 「え」音の発音文例がある。ぜひ、発音問題のある学習者に紹介し、聞き取りからも矯正アプローチ  されたい。  誤りの傾向として、「あ」-「え」特にiの前、nの後/「い」-「え」特にk、hの後、nの前  が顕著であり、注意が必要である。 c)「お」音  中国語で「お」音に近似している音は「ao」、二重母音である。つまり、短母音である「お」は  発音時に口の形に変化は生じない。対して、「ao」は唇が平らから丸へ移っていく。「おとこ」  は「おうたうかう」、「その」は「さうなう」のごとくである。  この原因を説明することによって、比較的、短期間で矯正ができる。

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2.特殊音素の問題

 

 

確かに発音上、問題は多いが、日本語の拍はほぼ同じ長さであること、すなわち「拍」の感覚を理  解させれば、矯正はそれほど難しくはない。「-」「っ」「ん」が他の音素と同様に、それぞれが  1拍であることの指導から始めることになる。拍の例外である拗音も含めて解説したい。  更に、前述の母音の問題にも通じることだが、拍にかんしては、洋の東西を問わず学習者は母音が  連続すると2つの母音をまとめて二重母音的に、一拍目を強く、二拍目を弱く発音する傾向にある。 「か・い・わ」と3拍でなく「kai-wa」のごとくに発音してしまう。 前述した複合母音の二重、三重母音は正にこの発音構造を持っている。  母音の問題でもあるが、拍と関係するため、合わせて本項で解説したい。 a)長音  長音が長音らしく聞こえない(この音のそい〈相違〉は)のように「そうい」と伸ばしきれない。  指導は手を打って拍(リズム/ビート感覚)を目と耳で確認させたり、ミニマムペアで聞き取り  練習、CD音声を聴かせて長音を探させるなどによって容易に矯正できると思う。以下に述べる  音素にも共通する点として、ミニマムペアは有効な矯正方法ではあるが、単に語彙の対比だけでは  発音が直っても文中では間違ってしまう場合があるので注意されたい。  後述の北京のカリスマ日本語教師 笈川氏は、拍感覚を身につけさせる方法として次のような指導  を提唱している。「高校生は」→こなこなせなは(3回発音)→「こーこーせーは」で正しい発音  に導く。  もちろん、長音をかなで書く現代仮名遣いの指導も忘れてはならない。 b)撥音  前項と同様に、拍を正確にとることが土台となる。次の問題として聞き取りで、「本を」が「ほ  の」になるケース「hon-o」が「hono」に「ん」の後に母音、半母音が来たときに誤りが  生じやすい。 この点は、その都度、注意喚起が欠かせない。  耳の良い学習者は、「ん」の発音は「n」か「m」か、で混乱する場合がある。日本人は意識する  ことがないが、例えば「m」は「b.p.m」の前で現れる。「散歩/sampo」「サンマ/  samma」などがあり、ほかに「ん」は「ɧ」「n」「N」と合わせて4種の発音記号で表記さ  れる。  更に、母音の項でも触れたが、母語干渉から「オ」段の撥音〔on〕音節を中国語の似た発音の 〔en〕〔uɧ〕にすり替える場合がある。例を挙げれば、よんじゅう(四十)がゆんじゅうと聞こ  えたことがないだろうか。  同様に、「エ」段撥音〔en〕は中国語になく、似た音は〔ɘ n〕〔ian〕である。同じく、  てんき(天気)がてぃえんきとなったり、しんねん(新年)がしんにぇんとなることがある。 「ウ」段も同様、発音記号は省くが、しんぶん(新聞)がしんべん、いっぷん(一分)がいっぺん  になる。  以上をまとめると、「えん」「うん」「おん」を聞くと、中国語の近い音「en」「un」 「on」を代用してしまい、撥音の拍が短くなったり「え」「う」「お」が奥舌になって、結果、  日本人は違和感を感じる撥音もどきになるのである。

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 撥音はいずれも逆行同化現象であり、上記全てに通じることとして、後ろの調音点と同じところで  鼻音を作って、「ん」の発音に1拍をとるよう指導すれば解決できる。  具体的には、「オ」段では、鍵となる〔o〕音を大げさなほどはっきりと伸ばして発音する練習、 「こーおーんど」のように。〔o〕音が改善するに従い徐々に縮める。「エ、ウ」段も同様に指導  されたい。  前出の笈川氏は、長音同様に「な行」を使って、こなにちは、こににちは、こぬにちは、こねにち は、このにちは→こんにちは。アンパンマンは→アナパナマナは(3回)→アンパンマンは。で効果 をあげているそうである。 c)促音  この項も拍が中心となる。次の音の準備をして1拍分の長さを置くことを指導して頭で理解させて  もこの1拍分が1拍に満たなかったり、「がっこう」が「が こう」「がーこう」とする誤りが  多い。特に中国北方人は始めはなかなか慣れない。  繰り返しになるが、拍の確認を理解させたうえで、反復練習して慣れれば、そう難しい項目では  ない。中級以降になれば、摩擦音の「さ行」、破裂音の「ぱ、た、か行」それぞれに、逆行同化  現象を理解させて指導されたい。  笈川氏は、やはり拍を取らせる目的で、おおきな「つ」を使う練習を進めている。  どっちのバッグ→どつちのバツグ(3回)→どっちのバッグ の練習である。 注:原文では  『グッチ』だが、グッチが分からない学習者もいるかも知れないため、語彙を『どっち』に変更している。 d)拗音  本稿は上記3項との比較上、問題は大きくなく、問題点として挙げていない資料もある。  拍の例外、「ゃ、ゅ、ょ」は前の音と一体で1拍を指導することになる。キューコー(急行)ー  クーコー(空港)などのミニマムペアの練習、拗音が直音化(客 きゃくと規約きやくなど)され  ないよう、また渡り音が強すぎないよう注意を促したい。  中国人学習者は、「ぎゃ、ぎゅ、ぎょ、ひゃ」が苦手のようである。 e)二重母音化  多くの外国人は、母音が続くと2つの母音を結合させて、後ろを弱くする傾向がある。  3拍である「か・い・わ」が「kaiーwa」のごとくである。  中国人も例外ではない。最初に述べたように、中国語の母音数は多いが、ここで関連してくるのは  複合母音のうちの2つの母音の組み合わせであり、ai、ei、ouなど9種類ある。  中国語は高低と強弱両方のアクセントを持っている。四声の上げ下げ、つまり高低が際立っている  が、確かに強弱も存在する。この2つの母音が結合した場合は、はじめの母音は強、次は弱になる。  中国語テキストには、「ai」について「a」ははっきり、「i」は添える程度と解説がある。  反対に、日本語の母音は「はっきり、短く、歯切れよく」が発音のポイントであることを説明さ  れたい。  水谷信子氏は、後ろの母音を弱める悪習慣を払拭するための練習方法として、母音の連続発音  練習で拍目にアクセントをつけて2つの母音を区切りやすくする方法を紹介している。   a「-iーa-u     o「-i-i-e    e「-i-u-o   ma「-i-ma-u   mo「-iーmi-e  me「-i-mu-o

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3.清濁の問題

 中国人学習者の発音で、まず気がつくのはこの問題ではないか。かんこく(韓国)-かんごく (監獄)。そして、最も矯正が困難な問題でもある。原因は、両者の発音の根本的な相違、母語  干渉の典型である。そして、これはアジア系学習者にほぼ共通する問題である。  ここでは、音声学的理解を要するため、解説が長くなってしまう点、お許し願いたい。 破裂音=声道内の一時閉鎖→瞬間的持続     →破裂(日本語ではカ、ガ、バ、       ハ行 タテトダデドの子音) 有気音=強い息を伴って発せられる音。     破裂が強い。 無気音=息がハッキリ流れない音。     破裂が弱い。  中国語は本来澄んだ音しかなく、中国語の美しさは濁音がないことも一因である。『よくわかる中国語』  濁音がないのだから、有声音は日本語学習で初めて耳にするわけである。  逆に、日本語の無声破裂音は強い息なしに発音されるが、強い息でも意味上の差はなく音素的に  対立しない。言い換えると、日本人は強い息を伴って発せられる有気音を意識せず、殆ど無気音と  捉えていることになる。よって、日本人が中国語を学ぶ場合、この音の違いの壁に当たり99%は  正しい発音に行き着けない。  さて、本題に戻って、有気、無気の対立が語の識別に関係する話者(多くのアジア系学習者)は、  日本語の無声破裂音は、有気音でないために有声音として受けとってしまう。例を挙げれば、 「金貨」「銀貨」「銀河」がアクセントが同じで文脈からも判断できないこともあって、発音のみに  限らず、聴解力も伸び悩んで、長く学んでいても問題が残存して、進歩の壁となってしまう。  特に、中国の北方人は有声音の発音に慣れておらず、無気音(上図で、双方bdg)で間に合わせ  てしまう。そのため、「同窓(どうそう)」が「闘争(とうそう」に近似してしまう。  では、どう矯正するのか。  中国人の「みじかい」「---だ」「---で」などの有声音の発音が無声音「みちかい」「た」「て」の  ように聞こえたり、無声音の発音が息が強すぎて、耳障りに感じた経験があると思う。  有声子音の発音では、声帯が振動(喉仏に手を当て、声帯の振動が手に伝わるのを確認)すること  を自覚させる。  無声子音は、息を控えめにすることで解決する。聞き取り練習も併せて行う必要がある。  単語の書き取り、つまり視覚から、濁点の有無の表記を身につけていくことも解決の一助であろう。  初級学習者に上記の論理を説明して理解させるのは現実的でない。何度も有声、無声単音の聞き分  け練習をして、次に単語で練習すれば、時間はかかるが分かるようになる。学習が進んで、説明が  理解できる段階になれば、論理的な説明をして、理解を求めればよい。 日本 中国 破裂音 b・d・g p・t・k p・t・k b・d・g 対立要素 有声音 無声音 有気音 無気音 判別指標 声帯の振動 気流(吐く息) 有 無 有 無

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4.北京笈川塾長 笈川幸司氏の指導法

 

熱血カリスマ日本語教師と呼ばれる笈川氏をご存知だろうか。上記1~3でも同氏の矯正方法をい  くつか紹介した。  笈川氏は議員秘書、お笑い芸人を経たのち、2001年、北京に渡って、経験ゼロから日本語教師  を始めた人物である。北京の語学学校講師を皮切りに、清華、北京大学など一流大学の講師を歴任、  2012年から中国の45都市540大学を回って延べ11万人に講演する「日本語講演マラソ  ン」を展開した。 (『月刊日本語2011年12月号』アルクより)  笈川氏に指導を受けた学習者は、中国で開催される日本語スピーチコンテストを総なめするほどで、 その後、来日して活躍している若者も大勢いる。私も機会があって東大大学院工学系研究科が企画  した「中国人学習者を対象とした効果的な音声指導の実践」に参加した。  同氏に教えを受けたのちに来日中の学習者等40名ほどへの授業実践を拝聴した。時間の制約もあ  り、全貌を把握するには至らなかったが、熱血講義と、それに引き込まれる学習者の様子を実感で  きた。また、質疑の時間では音声学の専門家や言語学者が、笈川氏の独自開発指導法を興味津々の  様子で質問していた。  さて、1~3で紹介した以外の同氏の発音指導を、以下に列記してみる。     参考にして、学習者指導に役立てて頂きたい。 ☆口の形を確かめよう---学生「日本語を話す時、舌の位置がわかりません」       →「安心してください。日本人だってわかりません。舌の位置を気にするより、口の         形を気にしてください」        「「あ・い・う・え・お」全て、微笑むときのような「い」の口で発音してください。         鏡でチェックしてください。中国人は口を開けすぎです。」 ☆中国人の話す日本語は平板---学生「わたしが話すと、聞き手がつまらなそうな顔をします」       →「じゃ、リズムを変えてください。同じスピードで話すと聞き手は眠くなりますから。         それに、同じ表情で話すのはやめましょう。声の大きさを変えましょう。時には         大きな声で、時には小さな声で」 --中国人学習者に日本語を教える日本語教師がよく気づく点として以下をあげている。 ☆「あ」の発音で口が大きすぎる。アクセントは正しいのに日本語らしく聞こえない       →口をできるだけ開けずに話す練習をしてみてください。(腹話術のいっこく堂を例に) ☆一拍目と助詞が長い       →学生「どのくらい短くしますか」→「中国語の軽声くらい短く発音してください」       →〃 「短くするのは難しいです」→「じゃ一拍目は発音しない練習をしてください          (はようございます、ろしくおねがいします。など)。それと、助詞が長すぎ           ます。(日本語の~~、助詞は~~)意識すれば、みな直せますよ。」   注:中国語では、各音節ごとに上げ、下げ、高、低の調子があって北京語では4種の声調がある。「軽声」は、      この声調を失って軽く短く発音される音節である。日本語に比べて強い発声となりがちな中国語からの      干渉矯正に、中国人なら、みな知っている軽声の概念を導入している。 ☆中国人の日本語発音は うるさい!      「アクセントは、中国語で「重音」といいますが、強く、高く発音しないで!特に、      「か、た行」はもっとやさしく発音して!それと、低く発音するよう意識して下さい!」       →学生「あの、少し難しいです---。」       →「そうですね。歌のようにリズムよく、だんだん低くする感じで発音してみて」

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5.発音関係ツール紹介

「オンライン日本語アクセント辞書」

  Online Accent Japanese dictionary =OJAD

 先に触れた東大大学院工学系研究科が開発して、各国に紹介している日本語の韻律教育支援イン  フラで、既に10ヶ国語に翻訳されて、世界中の教育機関で使われてる。  代表的な日本語教科書(「みんなの日本語」も)を対象に、用言の基本活用時のアクセントや名詞  のアクセントを調べることができるし、任意のテキストに対して、適切なアクセント、イントネー  ション、無声化モーラを視覚表示し、そのとおりに読み上げる機能まで装備されている。  無償公開されているので、”OJAD”で検索して、活用して頂きたい。  スマホアプリはまだできていないようである。 「中国人学習者のための例文100(国立国語研所)」   https://www.ninjal.ac.jp/archives/oral100/chinese/  e-japan戦略対応事業の一環で作成したものとある。  中国人学習者のため、母音の誤りの多い項目ごとに、男女毎の音声が聴取できるようになっており  聞き取りによる矯正に有効である。 「東京外国語大学言語モジュール」   http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/  日本語を含めて27の言語に対応、各国語に関して、発音・会話・文法・語彙の4モジュールで  構成されている。  日本語発音モジュールは実践編と理論編があって、誤りの起こりやすい音素ごとに解説があり、  実践編は「解説」と「練習」で構成されていて、学習者は、目と耳の双方からアプローチができる。

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おわりに

 中国人学習者に学習目標を尋ねると、「日常会話に不自由しない程度に」、「日本人と同じよう に」、「日本人と間違えられるほど」など”話す”ことに最大の関心があるようだ。  ところが、日本語習得の最良の環境に身をおきながら、中国人だけの職場、家庭は単身、または中 国人配偶者と子女で、日本語を話す機会はスーパーの買い物のみ、その買い物も黙ってレジに並べば 済んでしまう。一週間に一度、2時間の授業が唯一の日本語発語機会という学習者が大半である。  慣れない異国で、仕事や家事に追われながら、貴重な余暇時間を日本語教室に通っている学習意欲 のある若者にしてこの程度で、真に残念である。せっかく日本に来たのだから、日本人の環境にもっ と飛び込んでほしい、そして帰国してから周りの人たちに日本での体験を話してほしい。  筆者の教室がある千葉市美浜区では、古くは、残留孤児とその家族が祖国に戻って居を構えた過程 がある。それから時代を下って、彼らの知り合いの中国人が徐々に移り住んできて、近年に至っては、 特にIT関連企業に勤める若者とその家族が増えてきている。彼らが住んでいる団地学区の小学校で は、中国人子弟が1/3を占めるクラスまである。  千葉市の統計(2017.5現在)によれば、区内の外国人は6,533人で4.4%を占めている。 うち、中国人は4,514人、短期在留で在留届未提出の中国人も多く実数は統計より更に多い。  筆者の私事陳述を許してもらえるなら、中国の北京と青島の二度の赴任で都合7年間、業務に携 わってきた。当時の業種の環境として、単独で中国人相手に現地の言葉で折衝せねばならず、中国語 習得は必須であった。そしりを恐れずに言えば、勤務都市の日本人の内で数本の指に数えられる程度 までに中国語を駆使したと自負している。が、接する中国人からは、いつまで経っても「南方の出身 ですか。」と言われる域を出なかった。私より熟達した方々も同様だった。これは、北方の中国人が 声帯を振動させる有声子音に慣れておらず、この音を聞くと、自分たちとは違った出身地だと思うか ららしい。即ち、母語干渉の壁は斯くも険しいものである。  ギクシャクした日中関係下でありながら、異国で世話を焼いてくれた方達との縁分(縁、ゆかり、 えにし)を大切にしたい気持ちから、全くスキルがないままに、近隣のボランティア教室に加えても らって、日本語指導の道程が始まった。これからも健康に留意して、近隣で需要のある限り”恩返 し”を続けていきたいと考えている。  もとより拙文のうえに、中国語の発音や音声学の知識が必要な部分もあって、読みにくい点が多々 あったと思う。筆者の浅学の致すところで、ご容赦願いたい。  最後に、拙文が、日々学習者に向き合っておられる皆さまの指導に少しでもお役に立つ点があれば、 望外の喜びである。  参考文献 今田滋子(1989)  『発音 改訂版』国際交流基金 日本語国際センター 劉 淑媛(1983)  「中国人学習者によく見られる発音上の誤りとその矯正方法」        『日本語教育』53号 坂本 恵(2002)  「中国人学習者のための発音指導について」        『東京外大留学生日本語教育センター論集』29号  張 若星(2015)  「中国人日本語学習者の発音の評価」        『大阪大学 言語文化共同研究プロジェクト』 笈川幸司(2014)  「中国人学習者向け発音の指導」(北京笈川塾) 楼 志娟(1999)  『中国語がびっくりするほど身につく本』あさ出版 佐々木 瑞枝(1994) 『外国語としての日本語』講談社 金田一 春彦(1991) 『日本語の特質』日本放送出版協会 水谷 信子(ネット配信) 「日本語の教え方相談室」アルク

参照

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