• 検索結果がありません。

Lawyer's Newsletter DAIMONJI 1

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Lawyer's Newsletter DAIMONJI 1"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Vol.

33

2010 Summer ¡ロンドン留学記 ¡隣近所との付き合い方 ¡法律相談に接しての「心のつぶやき」 ¡建築専門家の不法行為責任について ¡中学生に伝えられること ¡抵当権に基づく賃料への物上代位について ¡相続分の譲渡

(2)

弁 護 士 法 人

み や こ 法律事務所

弁護士

藤 田  昌 徳  

弁護士

大 槻  純 生  

弁護士

橋 本  皇 玄

弁護士

長 尾  治 助  

弁護士

小 田  宏 之  

弁護士

後 藤  隆 志

弁護士

金 井  健 作  

弁護士

片 山  美 紀

16

調

使

(3)

N はじめに  2009 年(平成 21年)11 月 12日開催の京都 弁護士会臨時総会後の慶祝式で、私は喜寿(77 歳)のお祝を賜わり、未来に向けてさらに生き ぬく念を強くした。それと同時に身体に限り がある以上、今ある私にとって大きな出来事 は何であったのか、を探るということも至極 当然のことである。本稿の執筆はそれが動機 となっている。留学生活は、海外から日本の 社会・文化を考える貴重な体験をさせてくれる。 私の場合、今を遡ること 38 年も前のロンドン での在外研究生活であり、それを抜きにして 今ある私を語ることはできないと思う。 N 留学の準備のこと ■私は、1972 年(昭和 47 年)3月から1年間、 文部省在外研究員としてロンドン大学ユニバー シティ・カレッジ、同高等法学研究所において 消費者法を研究していた。しかしはじめから 消費者法を研究対象としていたわけではない。 消費者法は、当時、日本の大学の社会系学部 では講義や演習の科目として取扱われること が殆んどなかったし、研究者の消費者法に対 する関心も今日のように強く、また、広がり を持つものではなかった。そのようなこともあっ て、大学で民法を担当していた私としては、 以前、文部省内地研究員として師事した星野 英一先生から頂いたことのあるテーマ「契約 責任」(法学協会雑誌 86 巻 3 号所収)を在外研 究の対象として予定していたのであった。そ れは、日本での研究デスクを海外においても そのまま研究デスクとすること、いいかえれば、 外国に行ってからテーマを選んでいてはロス が多いという砂田卓士先生の助言に従ったこ とによる。もっとも、民法の契約責任というテー マと消費者法とは垣根で隔てられた別々の課 題ではなく、密接不可分な関係にあるのだから、 資料収集や報告検討をする上での障害らしい 事柄が生ずることはなかったのである。なお、 砂田教授は右の助言のほかロンドン大学の教 授に私を紹介される労を惜しまれなかった。 ちなみに、海外生活での外国人との接触には、 知人からの紹介が良い結果をもたらすであろ うから、紹介状を得ておくことは在外研究の さいの準備の一つといえよう。 ■ところで、海外での生活が長期に亘る場合に、 その滞在費用は日本から送金されるのが普通 であろう。ところが現地通貨と円との換算レー トは 時に大いに変動することがある。昭和 47 年3月時点で英ポンドは、1ポンドが 800 円 とみられていたのに1年後には 650 円が相場 とされた(今日では 136 円)。今日の E U 通貨 と円のレートの変動も海外生活者の最大の関 心事であろうことには変わりがなく、とりわけ、 外国為替の動向に疎い家族づれの在外研究者 らは、滞在の後半時において換算の時期を失し、 切り詰めた経済生活を余儀なくされることもあっ たようである。レートの変動に迅速に対応で きるよう世界の経済動向についての情報提供 先を確保しておくことと、日本での取引銀行 から現地の支店責任者を紹介してもらってお くことも、海外長期滞在者として留意すべき 事柄の一つであろう。 N 消費者法への取り組み  ■海外での研究目的の一つは、国際的な法思 潮の中で、日本の実定法を解析するというこ とである。 日本では既に昭和 43 年5月 30 日 から消費者保護基本法(現在の消費者基本法) が施行されていたというものの、同法はいわば、 形造って魂入れずの仏像を想わせるような法 律であった。それにひきかえ、ロンドンの新 聞は頻繁に消費者の契約被害を報じており、 政府刊行物販売店に行けば、判例法国といわ れている国でありながら、成文の実定法とし て成立する前の、準備段階における消費者の 被害救済を審議、検討した立法関係資料を、 容易に入手することができた。さすがに、大 衆民主主義社会における市民へのサービス提 供はよく行き届いたものである。こうして私 は日本では、多々、空白のままに残されてい る法領域に関するその当時における英国の立 法動向を知ることになった。その中の資料の 多くは、契約における事業者の責任に関する もの、消費者被害の救済に関するものであった。 これらは、人間が消費者である限り、いずこ の国においても法的解決が求められる課題で ある。それから後の研究時間は、自然、消費 者の権利の観点と国際的な法思潮の視座から、 日本法、とくに日本民法の空白部分や未開拓な 部分を指摘していくことに費やされたのであった。 ■最後に、義に飢えかわき義のために迫害を 忍ぶ程に、社会に対する任務を負う弁護士らが、 世界各地におられることを指摘しておく。か れらは、弱者の権利擁護団体に参加し、事業 企画の立案、事業運営、法曹活動等に亘り、 国際的連携を保ちつつ、各国々でその目的遂 行に日々尽力していることを指摘しておく。 そうした努力こそ法創造の一つの源泉である と考えられるからである。  さて、どうやら紙面が尽きるようだ。はじ めに述べたように、本稿執筆の動機づけであ る慶祝を賜われた京都弁護士会に感謝しつつ、 ここで私は筆を擱く次第である。

弁護士

ロンドン留学記

長 尾  治 助

1 1 2 2

(4)

稿

はじめに

生活騒音問題

境界不明確問題

新築家屋に関する問題

雨水等の注入問題

 日頃の法律相談業務において、隣人(隣 家)とのトラブル事案に関するご相談は、 少なくありません。  隣人(隣家)との間に問題があっても「関 係が険悪になっても困る」とか「お互い様」 といった意識から我慢しがちですが、近 隣問題は往々にして継続性のある「いつ まで経っても解決しない」問題であるこ とが多いと言えます。また、隣地に新し く家が建つ場合なども、日照やプライバシー 等に影響が生じないか不安が生じます。  そこで、本稿では、ご相談の比較的多 い問題のうち若干のものについて考察し てみたいと思います。  隣家(隣室)から聞こえる生活音には様々 なものがあります。テレビやステレオな どの音、エアコン等の室外機の音、子供 が走り回る音、ペットの鳴き声、楽器の音、 談笑放歌する声等々、これら生活音が隣 人にとっては耐え難い「騒音」としてトラ ブルになることも少なくありません。  このような生活騒音については、工場 や建築現場から生じる騒音とは異なり、 それを直接的に規制する法律はありません。 しかし、生活騒音といえども社会通念上 受忍すべき限度を超えた音であれば「違法」 と評価されますし、騒音を出している側は、 裁判所から、損害賠償金の支払や、騒音 を発生させないよう命じられることも有 り得ます。  ただし、生活騒音に対する感じ方や受 け止め方は主観的なものであり個人差が あることから、どの程度を越えれば「社 会通念上受忍限度を超えた」と評価でき るのかが曖昧です。騒音を受けている側 は「耐え難い!」と抗議をするのに対し騒 音を出している側は「この程度の音を問題 にするのは隣人が音に過敏なだけであり、 言い掛かりです!」と真っ向から対立する ことはしばしばです。  また、騒音を受けている側は生活騒音 の音量や頻度等を立証する必要がありま すが、これらの立証は意外と困難なもの です。  このように、生活騒音を法的に解決す ることはそれほど容易なものではありま せんので、生活騒音を受けている側とし ては、まずは簡易裁判所における民事調 停手続(裁判所が間に入って行う話し合い 手続)を利用して解決を試みるべきと言え ます。  なお、生活騒音を受けている側としては、 生活騒音の発生日時や音量等について日 記的に記録する等して「被害」の実情を第 三者に分かって貰うような準備(材料作り) を日頃から行っておくことが重要です。  雨が強く降ると隣家の屋根から自宅敷 地に直接雨水が注水し不具合が生じると いう場合、法律上どのような対処が可能 でしょうか。  これについて、民法218条において「土 地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ 構造の屋根等を設けてはならない。」と定 められています。  すなわち、雨水が隣地へ直接注水する と隣地の利用が阻害されることから、民 法は、このような構造物の設置を禁止し、ある いは直接注水しないような雨樋等を設置するよ う要求しているのです。  よって、このような問題状況がある場合には、 隣人に雨樋等を設置等して貰うよう要求するこ とで、解決が可能です。  なお、屋根等の構造物から直接注水するので なければ、土地所有者は隣地から水が自然に流 れてくることを妨げてはならない(すなわち受 忍しなければならない)ものとされています(民 法214 条)。  隣地との間に境界標等が存在せず、どこが隣 地との境界(所有権界)か不明であることも少 なくありません。  このような場合、かかる境界(所有権界)が どこであるかを判断する材料としては、境界標、 当事者間の合意文書、地図(公図)、占有状態、 自然地形、面積(公簿・実測)などを手がかり として、確認していくことになりますが、互い に「決め手」となる上記証拠等が無い場合、境 界(所有権界)に関する主張はいつまでも平行 線を辿り、解決しないことになります。  そのため、当事者間における境界(所有権界) の問題を解決するためには、法務局による筆界 特定手続や裁判所における所有権確認訴訟(境 界確定訴訟)によって、解決するほかありません。  この問題は、後の世代になっても解消されな い問題ですので、ご自身の代で解決を図られる ことが大切です。  なお、「境界」と「所有権界」とは異なる概念 であり、皆様が「自分の土地の範囲はどこまでか」 と議論される場合は、通常、後者の「所有権界」 (自分の土地所有権が及ぶ範囲の境目)を指すこ とになります。 ■ ■接境建築の問題  隣地で新築工事が始まったところ、当該新築 家屋が隣地境界線のぎりぎり一杯に建てられる ことが判明しました。もし、隣家が境界に接し てぎりぎり一杯まで建ってしまうと、自家の通 風や採光が阻害されたり、自家壁面等の修繕作 業が物理的に実施困難になるなど、様々な弊害 が生じます。  そこで、民法234 条は、建物を築造するには 境界線から50 センチメートル以上の距離を保 たなければならない(離して建築しなければな らない)と定め、これに違反する建築について は当該建築の中止変更及び損害賠償請求を行う ことができると規定しています。  しかし、この規制には2 つの例外があります。 一つ目は、当該地域に接境建築を行う慣習があ る場合です(民法236 条)。二つ目は、防火地 域又は準防火地域内に建築する場合で当該建築 物の外壁が耐火構造のものについては、その外 壁を隣地境界線に接して建てることができると されています(建築基準法65 条)。特に後者の 例外を認めることには批判も強いところですが、 最高裁判所もかかる例外を認めることについて 是としており、現時点では例外として許容され ています。  なお、家屋新築等による隣家の日照確保等の ため、建築基準法等の関連法令において斜線規 制や日影規制などを設け、家屋新築等に一定の 制限を加えています。 ■目隠し設置について  隣地の平家住宅が取り壊された後にマンション が新築され、そのマンションの居室窓から、自 宅のリビングや浴室さえも見通されるおそれが 生じた場合、どうすればよいでしょうか。  このような場合、民法235 条では「境界線か 1 2 論稿 隣近所との付き合い方 弁護士 小 田 宏 之

(5)

ら1 メートル未満の距離において他人の宅地を 見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。) を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」 と定め、建物所有者に「目隠し設置義務」を課 しています。  ただし、隣地マンション等の窓等が土地境界 線から1 メートル以上離れている場合には、建 物所有者に目隠し設置義務はありませんので、 この場合には、当事者間の折衝や民事調停手続 を利用して協議解決を図ることになります。  以上のように、隣人(隣家)との間で生じる 問題は様々でありますが、法的に解決困難であっ たり、法律上解決したとしても感情的な「しこり」 が残ることも、少なくありません。  そこで、このような隣人(隣家)トラブルが 険悪かつ解決困難な方向に発展しないためには、 挨拶等隣人との日頃のコミュニケーションを通 じて「顔の見える」関係の形成を心掛けること が大切ではないかと考えます。

まとめ

弁護士

法律相談に接しての

「心のつぶやき」

橋 本  皇 玄

■前々回の大文字で「徒然なる心のつぶやき」 と題するテーマで、何を言っているのかよく 分からないことを書いてしまった。今回も、 大文字編集担当者が「早く原稿を書いて下さい。」 と、うるさく催促するので、テーマも決めな いまま慌てて書き下ろしてしまった。 ■弁護士になりたての若い頃は、机の上での 理解を前提とするしかなかった司法試験の合 格では欠けている実務処理を早く習得するこ とで頭がいっぱいであった。そして、経験を 積むと実務処理の方法や要領については、多 少とも理解と自信はついてくるものであった。  もっとも、昨今、特に、法律の改正のテン ポは早く、新たな社会問題が日々生じてくる ので、これに対応した法的処理に関し、未だに、 勉強しても勉強しても追い着かない。 ■しかし、そんな中でも、このごろ、事件の 依頼人や相手方の背後に存在している解決で きない情実的な様々な問題に思いを致すこと が多くなってきた。例えば、よくある例として、 相談者と若手弁護士とのやり取りをシミュレー ションしてみる。多重債務で悩み抜いて弁護 士へ相談にきた例である。そして、相談者は、 多くの借金を抱えてアレコレ悩み、整理も出 来ず、人生にも失望を感じている。 弁護士「自己破産の手続きをして、裁判所か ら免責決定を受ければ全ての借金はチャ ラになりますので問題は簡単です。 楽になりますよ。」 相談者「友人や親類に無理を言って保証人になっ てもらっています。絶対大丈夫、迷 惑はかけないと約束したので、彼ら には迷惑はかけられないのです。」 弁護士「しかし、そんなことを言っていれば、 貴方は借金地獄から抜けられませんよ。」 相談者「保証人に迷惑をかけないで破産する わけにはいきませんか?そんな方法 はありませんか。保証人の付いている 借金だけでも、今、かき集めてきた 現金を保証人に渡すか、その債権者に 支払うとか etc ……」 弁護士「そんなことはダメです。破産手続は 公平に進めていかなくてはならない もので、一部の債権者や保証人に弁 済することは許されません。後で、 破産管財人が弁済を受けた人に対し て返還請求してきます。また、貴方 自身の免責も受けられないことにも なります。」 相談者「でも、もし保証人に債権者から督促 がきたら……。破産のことが分かっ たら……。」 弁護士「どうしてもということであれば、私 1 2 3 論稿 隣近所との付き合い方 弁護士 小 田 宏 之

(6)

あとは××しておいて下さい。」といった紋切 り型の説明をされる場合がある。この様な場合、 何かとても不安を感じる。医師にはインフォー ムドコンセントといって説明義務があるのに、 と思うこともある(キチンと説明されている医 師も多いです。念のために。)。法律事務所に 来た相談者にも同じ目に遭わせているかもし れない。聞いても仕方のないことでも「フンフン」 といってうなずいているだけでも、少しは相 談者の気持ちが安らぐのであろう。 ■ ■そんなことをボーっと考えながら仕事をし ている。書き終えて、今回は、前々回の大文 字での「徒然なる心のつぶやき」よりも、一層、 何をいおうとしているのか分からない「心の つぶやき」になってしまった。お許し下さい。 9 としては自己破産の手続を受任する わけにはいきません。破産手続とい うものは、たくさんの債権者の犠牲 が前提で迷惑がかかるものですから、 身内の人だけを被害から守るという 都合のよいことは出来ません。多少 の犠牲はやむを得ないのです。よく 考えて、また、ご返事して下さい。」  といった流れが多いと思う。悪く言えば、 自己破産するかどうかの判断につき、保証人 との人間関係のリスクも含めて、依頼者に下 駄を預けてしまっている。もっとも、この弁 護士のいうことも筋は通っていると考える。 ■ところで、この保証人と相談者との間にど の様な人間関係が築かれて(昔から良き人間関 係であった?)、どの様な経緯で保証人になっ てもらったのか。もし、保証人が債権者から 全ての支払いを求められたとき、保証人はどう いう反応を示し、以降、相談者とはどういう 関係に陥るのか。絶対迷惑をかけないといっ て相当無理をして保証人になってもらったと のこと。築き上げてきた良き人間関係は崩れ 石を投げられる様な関係になる。特に、保証 人も資力に乏しく自分の生活で一杯という状 態であれば、保証の額によっては、保証人と その家族の生活までも奪ってしまうことになる。 そんなことを考えながら、相談者は、借金地 獄を延々続けながら生活するか破産するかの 選択を迫られていることになる。相談者に対 する精神的ケアも必要となろう。従って、保 証人との関係や苦労話くらい聞いてあげても よかったのであろう。ただ、聞いてあげても どうにかなる問題ではない。 ■借金を踏み倒して平気な人もいる。その様 な人は、自己破産といっても、さほど気にし ないのかもしれない。しかし、真面目な人に限っ て、悩みまくるわけである。  弁護士としては、どれだけケアできるかは 疑問であり、多数の事件を同時にかかえて、 毎日の電話や FAX、郵便物の処理や裁判の準 備・遂行、示談の処理といった日常の業務を こなすのが手一杯という外ない。 ■その他、事故に遭って寝たきりになった人 の場合、裁判等で賠償金の処理が解決したと しても、この先どんな思いで生活を続けてい かざるを得ないのかと思うとやりきれない。 また、たかが離婚事件といっても、先般、弁 護士が刺された事件があったが、夫婦関係が これほどの憎悪を生み出す程こじれていたと いうことであろう。男女間の痴情怨恨は悲惨 であって、殺傷方法も通常の殺人の比ではない。 若い弁護士には、男女間の痴情怨恨の事件は、 依頼者も相手方も訳が分からなくなるときも あるから気を付けるようにと言っている。更に、 痴漢をしたので逮捕された、少年が喧嘩して 相手を死に致らせてしまった等の事件もこれ らの行為をした者を責めるのは簡単であるが、 その家族らのことを考えるとやるせない気に もなる。そういった割り切れない自分に疲れ る今日この頃である。 ■割り切れない事件のときは、せっかく法律 的に成果が出ても心から喜んでもらえない場 合が多い。弁護士の多くは、とにかく依頼者 に心から喜んでもらえれば報酬よりも本当に うれしいものである。 ■自分の身体が心配で、病院に行ったとき、 長い時間待たされてやっと医師の診察を受ける。 患者からあれやこれやをいいつつも、医師か ら「検査では○○の結果が出てますし、○○です。 △ △ の点は、もう年ですから仕方ないです。 4 5 6 7 8

(7)

稿

最判平成

15年11月14日

(第二小法廷)について

最判平成

19年 7 月 6 日(第二小法廷)

について

平成

19年最判以前の設計・施工者等の

不法行為責任に関する議論

平成

15年最判の意義・残した課題

 平成17 年に発覚したいわゆる耐震偽装 問題は、建築専門家の法的責任のあり方 を見直す1 つの契機となり「特定住宅瑕疵 担保責任の履行の確保等に関する法律」 等の居住者保護のための重要な立法を生 む一方で、建築の専門家が負うべき責任 を正面から論じた幾つかの重要判決を生 むことにもなった。  最高裁平成15 年 11 月14 日第二小法廷 判決(以下「平成15 年最判」)は、いわゆ る「名義貸し」の事例※1について、建築士 が負うべき注意義務を示した。  名義貸しによる欠陥住宅事例をめぐっ ては、それまでの下級審の裁判例は、名 貸し建築士の不法行為責任を肯定するも のと、否定するものとに分かれており、 両者はほぼ拮抗していた。※2  平成15年最判は、① 建築士は、その業 務を行うに当たり、建築物を購入しよう とする者に対する関係において、建築士法 3 条から 3 条の 3 まで及び建築基準法(平 成10 年法律第100号による改正前のもの) 5 条の 2 の各規定等による規制の潜脱を容 易にする行為等、その規制の実効性を失 わせるような行為をしてはならない法的 義務があり、故意又は過失によりこれに 違反する行為をした場合には、その行為 により損害を被った建築物の購入者に対し、 不法行為に基づく賠償責任を負う。②(名 義貸しの事案について)当該一級建築士が、 建築主の求めに応じて建築確認申請書に 自己が工事監理を行う旨の実体に沿わな い記載をし、工事監理を行わないことが 明確になった段階でも、建築主に工事監 理者の変更の届出をさせる等の適切な措 置を執らずに放置したこと、そのため、 実質上、工事監理者がいない状態で建築 された当該建物が重大な瑕疵のある建築 物となったことなど判示の事情の下にお いては、当該一級建築士の上記行為は、 建築士法3 条の 2 及び建築基準法 5 条の 2 の各規定等による規制の実効性を失わせ る行為をしたものとして当該建物を購入 した者に対する不法行為となる、と判示 した。  平成15年最判は、前記判示の理由として、 「建築物を建築し、又は購入しようとする 者に対して建築基準関係規定に適合し、 安全性等が確保された建築物を提供する こと等のために、建築士には建築物の設 計及び工事監理等の専門家としての特別 の地位が与えられていることに鑑みると」 と説示しており、建築士の専門家として の責任を強く意識した内容となっている。  その意味で、同判決の理論構成の柱は、 建築士の専門家としての特別な地位と、 建築士による工事監理の実践を要求する 建築基準関係規定の規制の趣旨・目的にあると 考えることができる。※3したがって、同判決で指 摘された一般的な注意義務の理念は、名義貸し の事案にとどまらず、建築士が実際に設計や工 事監理を行ったがその当否が問題となっている 事案にも妥当すると考えられ、単に名義貸しの 事案にとどまらず、建築士の責任全般に影響を 与えるものであるといえる。※4  もっとも、平成15 年最判は、当該建物に生 じた瑕疵との関連において建築士が負うべき義 務の内容を具体的に説示しているわけではない ため、建築士を含めた設計・施工者等が第三者に 対して不法行為上どのような内容の注意義務を 負うのか、あるいはどのような瑕疵を生じさせて はならない義務を負うのかといった具体的・実 際的な問題は、なお未解決なまま残されてい た。※5  平成15 年最判を踏まえて登場したのが、最 高裁平成19 年 7 月 6 日第二小法廷判決(以下「平 成19 年最判」)である。  事案の概要は、Y1 が建築の設計及び工事監 理をし、Y2 が施工をした 9 階建ての共同住宅・ 店舗及びその敷地を購入したXらが、当該建物 にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵がある と主張して、Y1 に対しては不法行為による損 害賠償を、Y2 に対しては瑕疵担保責任に基づ く瑕疵修補費用の支払い若しくは損害賠償又は 不法行為に基づく損害賠償を、それぞれ請求し たものである。  平成19 年最判は、建物の建築に携わる設計者、 施工者及び工事監理者(以下「設計・施工者等」) は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住 者を含む建物利用者、隣人、通行人等に対する 関係でも、当該建物に建物としての基本的な安 全性が欠けることがないように配慮すべき注意 義務を負い、これを怠ったために建築された建 物に上記安全性を損なう瑕疵があり、それによ り居住者等の生命、身体又は財産が侵害された 場合には、設計・施工者等は、特段の事情がな い限り、これによって生じた損害について不法 行為による賠償責任を負う旨を判示する。  瑕疵がある建物の建築に関与した設計・施工 者等は、不法行為上、施主以外の第三者に対し ていかなる内容の注意義務を負うのか、あるい はどのような瑕疵を生じさせてはならない義務 を負うのかについて、これまで具体的に示した 最高裁判例はなく、下級審の裁判例においても、 必ずしも一致した判断が示されているわけでは なかった。  特に、平成19 年最判の原審※6が、本来瑕疵 担保責任の範疇で律せられるべき分野において 安易に不法行為責任を認めることは、法が瑕疵 担保責任を認めた趣旨を没却し(民法637 条、 638 条参照)、責任を負担する相手方の範囲も 無限定に広がりかねないとして、「違法性が強 度である場合」※7に限って不法行為責任が成立 ※ 1 工事監理について委託を受けていないのに建築確認申請書に工事監理者として記載することを承諾する場合をいう。大阪市で は、建築主に対し建築確認申請段階で工事監理者を定めてこれを申請書に記載すべきことを指導していたことから、大阪を中 心に一部で行われていたようであり、建築瑕疵を巡る紛争の当事者として「名義貸し」建築士が登場する事例が少なくなかった。 ※ 2 【責任否定例】大阪地判昭 62.2.18 及びその控訴審である大阪高判平元 .2.17(判例時報 1323 号 68 頁)、大阪地判平 10.12.18(欠陥住宅判例第1集 84 頁)、大阪地判平 12.9.27(判例タイムズ 1053 号 137 頁、大阪地判平 13 年 2 月 15 日 (欠陥住宅判例第 2 集 366 頁)など。【責任肯定例】大阪地判平 10.7.29(金判 1052 号 40 頁)、大阪地判平 12.6.30(ジュ リスト 1192 号 216 頁)、大阪高判平 12.6.30(判例タイムズ 1047 号 221 頁、上記平成 15 最判の原審)など。 ※ 3 宮坂昌利・平成 15 年最判解説(民)(下)690 頁 ※ 4 谷村武則「建築士の法的責任とその範囲」判例タイムズ 1244 号 42 頁 ※ 5  橋譲・平成 19 年最判解説(民)62 巻 5 号 1364 頁 ※ 6 福岡高判平 16 年 12 月 16 日、判例タイムズ 1180 号 209 頁 ※ 7 例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を製作した場合や、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯び る場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等。 論稿 建築専門家の不法行為責任について 弁護士 後 藤 隆 志

(8)

平成

19年最判の意義

平成

19年最判が残した課題 ①

平成

19年最判が残した課題 ②

平成

19年最判以後の下級審裁判例

する余地が出てくると判示したように、設計・ 施工者等の不法行為責任を認めるにあたって特 別な要件が付加されるべきではないかについては、 下級審の判断が分かれていた。※8  平成19年最判は、建物の居住者等に建物の基 本的な安全性の確保によって守られるべき一般 的な保護法益が存在することを承認し、そこか ら建物の設計・施工者等が居住者等の第三者に 対して負うべき注意義務を導き出したものと理 解される。そして、不法行為における違法性の 根拠をこの基本的な安全性の確保に配慮すべき 注意義務に違反することに求めたものというこ とができる。  したがって、「強度の違法性」を要求する原審 の考え方や、建築士法又は建設業法等の規定違 反あるいは建築基準法の規定違反そのものに違 法性の根拠を求める考え方とは異なるものと理 解される。※9  また、平成19 年最判が、責任主体について「建 物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者」 と幅広い概念を用いていることに鑑みれば、同 判決は、建築士、施工業者等の個別の建築関与 者ごとに注意義務を根拠付けるのではなく、よ り包括的なアプローチを取ったものと理解される。  つまり、平成19年最判は、「居住者等の一般 的な保護法益」という大きな視点から、「当該建 物に生じた瑕疵との関連」において、「建物の建 築に携わる」専門家が負うべき注意義務を全体 的に示した非常な意義を有する。  平成19年最判が残した課題としては、第 1 に 射程範囲の問題である。つまり、平成19年最判 は、当該建物の購入者との関係で、設計・施工 者の不法行為責任の有無が争われた事案であり、 施主(契約当事者)との間で建物に関する不法 行為責任が争われた場合の法律関係については、 直接に判示しているわけではない。  もっとも、同判決がいう「建物としての基本 的な安全性が欠けることがないように配慮すべ き注意義務」については、契約関係が存在する か否かで基準を異にする合理的理由も見受けら れないので、設計・施工者等と施主との関係に おいても妥当する規範となると考えられる。※10  第2 に、平成19年最判によって示された「基 本的な安全性」という概念は、一定の幅を持ち 得るものであるだけに、具体的な瑕疵が基本的 な安全性を損なうものであるかどうかという点 については、今後の裁判例に委ねられる部分が 残されたものと評価できる。  この点、平成19年最判は、「例えば、バルコニー の手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等 が通常の使用をしている際に転落するという、 生命又は身体を危険にさらすようなものもあり 得るのであり、そのような瑕疵があればその建 物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕 疵があるというべきであって、建物の基礎や構 造く体に瑕疵がある場合に限って不法行為責任 が認められると解すべき理由もない。」と判示し、 一定の示唆を与えている。  しかし、これについては、より根本的に不法 行為責任の一般的要件としての権利侵害という 観点から理解することが必要と思われる。  つまり、平成19 年最判は、「建物としての基 本的な安全性を損なう瑕疵」という概念を用いて、 これによって「居住者等の生命、身体又は財産 が侵害された場合(つまり一般的な保護法益の 侵害≒拡大損害の発生といえる。)」に不法行為 が成立するとしている。しかし、同最判の事例 は他の多くの欠陥住宅事例と同様、建物倒壊等 の事故が発生した(拡大損害が生じた)わけで はない。他方で、平成19 年最判が差戻審に対 して瑕疵や損害の有無について審理を求めてい る以上、拡大損害が発生していない場合であっ ても何らかの不法行為上の権利侵害の可能性を 認めたものと考えざるを得ない。  そうすると、「建物の基本的な安全性を損な う瑕疵」を侵害事実とする法益が一体何なのかを、 「居住者等の生命、身体又は財産が侵害された 場合」という文言を頼りに、具体的に探求して いく作業が必要とされるであろう。※11この点は、 平成19 年最判が残した最も大きな課題といえ る。  平成19 年最判の差戻審である福岡高判平成 21 年 2 月 6 日※12は、「建物としての基本的な安 全性を損なう瑕疵」とは、瑕疵の中でも、「居住 者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危 険性を生じさせる瑕疵」をいい、一審原告が建 築基準法やその関連法令に違反する瑕疵である と主張したのを排斥した。そのうえで、一審原 告が主張する「瑕疵」について、一審原告が売却 してから6 年以上経過しても当該建物で事故が 生じていないことなどの事情を考慮すると、前 記の「現実的な危険性」は生じていたとは認め られないとして、一審原告の請求を棄却している。  また、東京地判平成20 年1月25日※13は、「建 物としての基本的な安全性を欠くか」という平 成19 年最判の規範を基準にして不法行為責任 の成否を検討し、タイルのひび割れ、漏水、蟻 の発生等の被害が生じている建物に関して、構 造的欠陥の瑕疵は建物の倒壊の可能性を生じさ せること、防水工事不良による瑕疵は漏水によ る水損を生じさせること、防蟻処理不良による 瑕疵は蟻被害により構造部分の朽廃を進行させ 建物の倒壊の可能性を生じさせることから、こ れらの瑕疵については原則として不法行為責任 が発生すると判示した上で、更に各個別の瑕疵 について不法行為の成否を検討している。  これらの下級審裁判例が、平成19年最判の趣 旨を正確に理解したものかどうかは見解が分か れるところである。いずれにせよ、平成19年最 判は、建築の専門家の不法行為責任について、 一般的な規範(物差し)を提供したに過ぎず、 その具体的な適用については裁判例の集積が待 たれるところである。  そして、その適用場面においては、瑕疵の程度、 欠陥建物の建築に関与した度合い、建物完成か ら提訴に至るまでの経緯などの個別的具体的な 事情に照らし、冒頭で述べた社会的情勢を踏ま えつつも、損害の公平な配分という不法行為法 の根本理念からはみ出すことなく判断するバラ ンス感覚こそが肝要と思われる。 ※ 8 強度の違法性を要求するものとして神戸地判平 9.9.27 判例タイムズ 974 号 150 頁、大阪地判平 12.9.27 判例タイムズ 1053 号 138 頁な ど。特別な要件を付加することなく不法行為責任を肯定した事例として横浜地判昭 60.2.27 判例タイムズ 554 号 238 頁、大阪地判平 3.6.28 判例タイムズ 774 号 225 頁、大阪地判平 10.7.29 など。 ※ 9  橋譲・前記平成 19 年最判解説 ※10 平成 19 年最判以後の下級審裁判例として、東京地判平 20.1.25(判例タイムズ 1268 号 220 頁)は、契約関係がある施主と設計監理者との 間においても、平成 19 年判決と同じ判断枠組みを採用している。 ※11 笠井修「建物の施工者等が建物の瑕疵に基づき居住者等の第三者に対して負うべき不法行為責任と『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』」 (判例時報 2072 号 192 頁)、石橋秀起「建築士及び建築施工者の不法行為責任」(立命館法学 2009 年 2 巻 350 頁)参照。 ※12 判例タイムズ 1303 号 205 頁 ※13 判例タイムズ 1268 号 220 頁 論稿 建築専門家の不法行為責任について 弁護士 後 藤 隆 志

(9)

 「年収どのくらいなん?」「あなた方のお父 さんよりすこし少ない程度です。」「ウソや∼ん。」 (いやホンマやで)…。  中学 3 年生との一コマである。  私が京都弁護士会・法教育委員会に所属し ていることは以前この大文字で紹介させて頂 いた。本年、京都府下の私立中学校から貴重 な機会を頂き、同委員会の複数のメンバーと ともに、特別授業を担当させて頂いている。  私自身、これまで何度か、就職間際の高校  3 年生に対する借金の弊害やマルチ商法等消 費者被害に関する講義を担当したり、大学の 新入生に対して同様の講義を担当したことが ある。これらの講義の狙いはハッキリしていて、 自己責任社会へと放り込まれるまさにその時に、 生活の中で出会うトラブルに対処するための少々 の法的知識を得て貰う点にある。  講義の上手下手は別として、かような講義は、 ある程度体系的な法律知識がありさえすれば 出来るたぐいのものであろう。学校側のニー ズとの擦り合わせでポイントが絞られ、既存 の知識を整理しいくつかの文献に当たれば、 前日に深酒さえしなければなんとかなる。    これに対して、中学生に対する講義は今回 が初めてであったが、あまり深く考えず、こ れまで経験した講義と同じ方向で、基本的な 法律知識を「セツメイ」する内容を準備した。  契約の拘束力とその修正、つまり契約に縛 られるのは自らの意思で決定したからであり、 そうであれば、一応は契約を結んだとしても 自らの意思で決定したと言えない場合には拘 束力から免れることができる、このような流 れを説明しようと準備を重ねた。  50 分間の授業で準備した内容を説明するに は駆け足になってしまうことを危惧しつつ、 授業に臨んだ。  授業は掴みだというのは私なりに心得ており、 『行列のできる法律相談所』への出演を打診さ れた話で、生徒さんの興味を引けたようだっ た(多くの同期にも全く同様に出演の打診がな されていた、というオチが付く)。  ここから生徒さんの質問攻めが始まった。  年収はいくら、最近扱った大きな事件は何、 何回試験を受けたかといった質問である。講 義で題材にしたゲームソフトの売買契約につ いて、想定していなかった転得者への拘束力 にまで質問が及んだ。  生徒さんの質問に答えていると説明に充て る時間のほとんどが吹っ飛んでしまい、扱っ た事件の紹介の中で、民事事件と刑事事件の 違い、そして民事事件の内容として契約の拘 束力の発生とそれが生じない場合とを、僅か ながら紹介できた程度であった。  後日、担任の先生と授業を振り返る機会を 頂き、順序立てて説明しようと思っていたが 予定していた半分も出来ずこの点が反省点だ と伝えると、まるで予期しなかった発言を頂 いた。  私達が講義の中で「約束=契約は守らなけれ ばならない。」と断言したことについて、教員 ではそれを言い切ることが出来ない、この点 が印象的であったと仰られた。生徒さんの方 でも、この点に強い印象を持ったようだとも。  このお答えとともに、講義のやり方について、 狙いは一つに絞ってもらって良い、その一つ をいかに伝えるかに意を注ぐのが良いのでは ないか、との助言を頂いた。  この発言を頂いて、自分たちが意識を置い ていないところに注目・着目されていたこと に驚きを感じるとともに、ある種の感動を覚 えた。  私達は、常日頃の仕事として、契約の拘束 力を主張する側に立つ事件では、契約内容を いかに有利に解釈するかに心を砕き、拘束力 を否定する側に立つ事件では、細かな事実関 係を拾い上げていかに拘束力を否定するかに 心を砕いている。  かような私達であるからこそ、契約は守ら なければならず、したがってその締結には慎 重でなければならないことを、いわば経験に 基づく気迫を持って伝えられたのではないだ ろうかと感じたのである。  授業の盛り上げ方や、人に教えるという観 点からの知識の整理の技術において、プロで ある学校の先生に勝ることは難しいだろうし、 これを期待されるものでもないだろう。  真摯に事件に向き合っている日々が、例え ば中学生を前にしても、ある種の気迫となっ て現れる。このような姿勢を持った弁護士で あり続けられるかどうか、これが課題であり、 また求められている点であろうと思う。  もうすぐ丸 5 年の私の弁護士ライフ、時に はかような自問自答をしつつ取り組んで行か なければと気付かされる、大変貴重な機会を 頂きました。どうもありがとうございました。

弁護士

中学生に伝えられること

金 井  健 作

(10)

稿

はじめに

物上代位の特徴

担保不動産収益執行との比較

実務上の問題点

 抵当権に基づく物上代位としての賃料 債権差押は、不動産を対象とした強制執 行のうち、担保権の実行としての債権差 押命令申立手続で最も典型的かつ多用さ れている手続の一つといえる。  そもそも物上代位とは、担保物権の本 来の目的物が売却・賃貸・滅失・毀損など によって目的物所有者が得る金銭などに 対しても、担保権者は優先弁済を受ける 権利を行使できるとする制度である。  従来、抵当不動産の賃料債権に対して 物上代位権を行使しうるか否かについて は抵当権の本質にも関連して争いがあっ たが、最高裁判決平成元年10 月 27日が 民法372 条が準用する先取特権による物 上代位規定(民法304 条)の趣旨に基づき これを肯定して以降、物上代位に基づく 賃料債権に対する差押えが目的不動産に 対する担保不動産競売と並ぶ実行方法と して定着した。  そして、平成15 年民法改正により、債 務者が被担保債権につき債務不履行に陥っ た後の果実つまり賃料債権についても抵 当権が及ぶとして、これまで判例上認め られてきた抵当不動産の賃料債権に対す る物上代位の根拠が明示されるようになっ た(民法371条)。  この賃料債権に対する物上代位権は、 債務名義を取得することなく抵当権の存 在を証明するだけで行使可能であり、手 続自体は比較的簡易であり迅速に債権の 回収がはかれるという点で効果的な債権 回収方法であるといえる。  しかし、賃料債権の差押えには、第三 債務者たる賃借人の特定が必要であると ころ賃借人の特定ができない場合には差 押えが困難となることや、個別の賃料差 押えであるため賃借人が多数かつ賃料が 低額である場合、相当な労力を要すること、 物件自体の管理はできないため物件が荒 廃するおそれがあり、また賃借人に変更 が生じた場合は新たな賃借人を当事者と して差押えをし直さなければならない等 の問題点があげられる。  この点、抵当権者が抵当不動産及び収 益を差し押さえた上、執行裁判所が選任 する管理人において収益を収取し、これ を収益執行を申し立てた抵当権者等に配 当する手続である担保不動産収益執行で あれば、上記物上代位のデメリットを回 避できる。  とはいえ、担保不動産収益執行では管 理費用や管理人の報酬等が必要となり、 賃料額が低額である小規模不動産の場合 には適した制度とはいえず、手続が簡便 な物上代位によるべきといえる。 ■ ■転貸借と物上代位に基づく債権差押  上記のとおり、抵当権に基づき賃料債 権に対し物上代位しうることは民法改正 により決着をつけたが、転貸賃料にまで 物上代位しうるのかが明文上明らかでな く問題となっていた。その背景としては、 物上代位権の行使を逃れるための執行妨害と思 われる転貸借関係が設定されるような事案がみ られるようになったことにあるが、要するに正 常な取引と執行妨害目的のものをいかに線引き するかという問題である。  この点につき、最高裁平成12 年 4 月14 日決 定は、民法304 条 1 項に規定する「債務者」に は原則として抵当不動産の賃借人(転貸人)は 含まれないとした上で、執行妨害事案に対処す るため、「所有者の取得すべき賃料を減少させ、 又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫 用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係 を作出した者であるなど、抵当不動産の賃借人 を所有者と同視することを相当とする場合を除き、 右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物 上代位権を行使することができない」とした。 この理論的構成は明らかではないが、信義則に 求めるのが相当と思われる。また、この基準に よれば正常な取引としてサブリース契約等が行 われていても阻害されることはなく、執行妨害 事案への対処としても債権者に一定の立証の負 担(現地調査、所有者と賃借人との関係の立証等) をかけることにはなるが過度のものではないと いえる。  本最高裁決定を前提として、現在ではいくつ かの判例が積み重ねられてきているが(東京高 裁平成21年 7 月 8 日等)、今後は本最高裁決定 の示した例外の基準の具体化に焦点が移ってい くことと思われる。 ■賃借人の敷金返還請求権による相殺の可否  賃貸借契約では賃借人は賃貸人に対して担保 として差し入れた敷金返還請求権を有する場合 が多い。また、賃貸人が賃料差押えを受ける場 合には賃貸人の財務状況は悪化している場合が ほとんどである。そこで、抵当権に基づく物上 代位としての賃料債権差押に対して、第三債務 者たる賃借人が債務者たる賃貸人に対する敷金 返還請求権を自働債権、差押えにかかる賃料債 権を受働債権とする相殺をもって抵当権者に対 抗することができるかが問題となるが、最高裁 平成14 年 3 月28日判決は相殺の問題としてで はなく、敷金の性質(停止条件付債権:明渡時 に未払い賃料等の被担保債権を控除してなお残 額があることを条件として発生する債権)から 目的物の返還時に存在する未払賃料債権は敷金 が存在する限度において当然に消滅するもので あるとして、これは物上代位の行使によっても 妨げられないことを明らかにした。つまり目的 物返還時における敷金の充当による未払賃料の 消滅は敷金契約から当然に発生する効果であり 相殺のように当事者の意思表示を必要とするも のではないとの判断である。  この判決の結論自体は妥当であるといえるが、 理論構成につき様々な意見がなされており、例 えば「敷金」ではなく「保証金」が授受されてい た場合、その全部又は一部が敷金の性質を有す るものとされることが多いが、「敷金」の範囲の 認定が困難である等の問題もある。また、敷金 ではなく貸金等の一般債権を賃借人が賃貸人に 対し有する場合、当該一般債権が抵当権設定登 記後に取得したものであれば相殺を抵当権者に 対抗できないとの最高裁平成13 年 3 月13日判 例があるが、上記の通り、「敷金」か否かにより 物上代位による差押えとの優劣関係が異なると するのは実務上も混乱を招きかねない。  以上のとおり、物上代位による賃料差押えに は様々な問題があり、今後の判例、実務の運用 に委ねられる領域の多い制度といえるが、いず れにせよ簡易迅速な債権回収のひとつであるこ とは間違いない。 1 2 論稿 抵当権に基づく賃料への物上代位について 弁護士 片 山 美 紀

(11)

稿

■ ■弁護 士 に と っ て ど ん な 種 類 の 事 件 が 難 し い か ? と 尋 ね ら れ る こ と が あ る。 そ ん な 時 は 決 ま っ て 遺 産 分 割 事 件 だ と 答えることにしている。難しいから時間 がかかるのか、時間がかかるから難しい のか、どちらかわからないが、とにかく 解 決 ま で の 時 間 や 手 間 は 他 事 件 の 倍 は かかる。2 ∼3 年かかるのはざらにあり、 10年近くかかったこともある。  遺産分割をするためには共同相続人間 に協議が成立しなければならない。この 協議に時間がかかる。協議を始めても互 いに譲らず感情的な言葉も飛び交い話し は進まない。そこで申立により家庭裁判 所の調停手続となるが、共同相続人の一 人でも反対すれば調停は成立しない。調 停不調となると審判手続に移行し裁判所 の決定によって遺産分割方法が定められ ることになるが、共同相続人間に遺産の 範囲につき争いがあれば訴訟で解決しな ければならないから審判手続は止まって しまう。時間だけが過ぎてゆき、多くを 求めず早く解決したいと考えている共同 相続人も、いつまでも遺産を取得できな いまま、長々と遺産分割手続に付き合う 羽目となる。 ■時間と手間のかかる遺産分割手続から 早く抜け出る方法がある。それは相続分の 譲渡。当事者には相続分を処分する自由 があるから譲渡も可能。ただ民法上は第 三者に譲渡された場合の取戻権の規定(905 条)があるだけで、その内容や効力など必 ずしも定まっているわけではない。その ためか法律実務家の間でも余り利用され ていないが、利用の仕方によっては使い 勝手のある制度ではある。相続分の譲渡に より遺産分割をした2 例について見よう。 ■ 1 例目。父が死に、法定相続人は父の 妻である母と息子4 人。末弟は、40 才を 超えるが定職無く長年生活費は父に依存 してきた。父の死後は母に生活費を無心 する一方、遺産分割協議においては、兄 達が父の財産を隠しているのではないか と疑った。次から次とありようのない資 料まで開示せよと執拗に要求し銀行など 関係先にも形振り構わず立ち回った。協 議にならず、兄達の依頼により調停を申し 立てたが、調停委員にも些末なことで食っ てかかるなど肝心の分割内容まで話が及 ばず調停委員もお手上げとなった。やむ なく調停不調となり遺産分割事件は審判 手続に移行した。 ■ところで、母は配偶者として父の遺産 につき2分の1の法定相続分を有するから、 審判が下れば母は父の遺産の半分相当の 具体的財産を取得することとなる。しかし、 母が大きな財産を取得すれば母の元には それ以上の大きな心配が残ってしまう。 母が取得した具体的財産を目当てに末弟 は審判後も母から無心を続けるであろうし、 母の死後においては母の遺産を巡り兄達と の間で激しい争いとなるのは必至である。 だから、母や兄達は、先行きの大きな心 配を残さないようにしたいと切に願った。 そこで、相続分の譲渡、即ち、母の相続 分を息子4 人に譲渡し母のもとに遺産が 残らないようにすることによってこの問 題の解決を図ることになった。 ■相続分の譲渡において譲渡対象となる 相続分は、相続財産全体に対し各共同相 続人がもつ割合のことであり、個々の財 産の持分ではない。本例では、共同相続 人は妻と息子4 人であるから、妻たる母 は相続財産全体につき2 分の 1、息子 4 人は相 続財産全体につき各8 分の 1 の相続分を有する。  そして、相続分の譲渡は、共同相続人の一人 が自己の有する相続分を遺産分割前に譲渡する ことであり、譲渡の相手は、同じ共同相続人で も第三者でも構わない。共同相続人が相手なら、 譲渡を受けた相続人の相続分がその分増加する だけであり、第三者が相手なら、他の共同相続 人の相続分には影響しないが、譲受人となった 第三者がいわば共同相続人の一員として遺産分 割協議に参加することになる。譲渡した相続人は、 相続分を失い遺産分割手続から抜け出ることと なる。煩わしい遺産分割事件から解放されたい なら相続分の譲渡をすれば良い。 ■相続分の譲渡は有償でも無償でもよい。本例 では、母の下に財産を残さないために行うのだか ら、有償ではなく無償譲渡することにした。無償 であるから贈与税が気になるが、心配はいらない。 税理士に確認していただきたいが、相続分の譲渡 をしても、実質的には譲渡を受ける共同相続人の 相続分がその分増加するだけであるから相続税 課税となり、贈与税は課税されない。よって母の 相続分(2 分の1)を共同相続人である息子 4 人 に平等に8 分の 1 ずつ無償譲渡することになった。  ところが、兄達3 人は母の相続分を譲り受け ることに同意したが、末弟は、相続分譲渡にも 疑心暗鬼となったのか同意しなかった。相続分 の譲渡も契約であるから、譲受人が同意しなけ れば成立しない。結局、末弟との間では相続分 の譲渡のないまま、譲渡予定だった相続分8 分 の1 は母に残され審判が下された。小さな心配 は残されたが、父の死後3 年目にして遺産分割 手続は終了した。 ■ 2 例目。父が死に、法定相続人は、父の妻たる 母と子である姉と弟。法定相続分は母が2 分の 1、 姉弟は各4 分の 1。  遺産は父名義の自宅不動産。長年にわたり父 母と同居してきた姉は自宅不動産取得を希望し 弟にはその法定相続分に相応する代償金を支払 う遺産分割を考えた。弟は、母が高齢で遺産の 取得を求めていないから姉弟の2 人で遺産を分 けようと、父の遺産の半分に相当する代償金を 求めた。姉妹の間で倍も異なる代償金額で折り 合うはずもなく、弟から母と姉を相手に調停申 立てがなされた。  しかし、調停手続中に母の認知症が進行しそ の判断能力が相当低下していることがわかった。 判断能力の低下した母には成年後見人等が就か なければ、母を相手に遺産分割協議もできず調 停手続きを進めることもできない。共同相続人 の1 人である母が参加しなければ調停による遺 産分割もできない。 ■やむなく姉弟は調停での遺産分割をすること を諦め、母の相続分には触れず、姉弟間で弟の 相続分(4分の1)を姉に有償譲渡することを考 えた。弟の相続分だけの対価としてなら譲渡代 金も相応のものとなり合意の見込みもある。そ こで、弟は母に対する調停申立を取り下げる一方、 姉に対する調停を残し譲渡代金について協議した。 結果、代金額につき合意し、調停最終期日、姉 と弟の間で、弟の法定相続分を姉に有償譲渡す る旨の調停が成立した。  姉妹間の相続分の譲渡により、姉は、弟の相 続分を加えた合計2 分の 1 の相続分を有するこ とになって自宅不動産の共有持分の半分を確保し、 自宅不動産確保の先行きの道筋も見えた。弟は、 母の認知症の進行により更に長期化したであろ う遺産分割手続から抜け出すことにより、それ が終結するまで手にすることができなかったで あろう遺産を相応の代金の形で手にした。 ■気になるのは税金と不動産登記。弁護士には 専門外のこと、税金は税理士、登記は司法書士 1 2 4 6 7 8 9 3 5 論稿 相続分の譲渡 弁護士 藤 田 昌 徳

(12)

に尋ねていただきたいが、調べたところ次のと おり。弟は姉から相続分の代金を受け取ること となったが、実質的には代償金と同じである。 だから代償分割と同様に相続税課税となり譲渡 所得税課税は行なわれない。姉が父名義の自宅 不動産の共有持分(2分1)登記をしようとすれば、 共同相続登記が未了であるから、「相続」を原因 とする姉と母の各2 分の 1 の所有権移転登記が 可能となる。相続分を譲渡した弟は相続人の地 位を失い登記の申請人とならないから、姉は登 記のため弟に実印を押捺してもらったり印鑑証 明書を取り付ける必要もない。相続分の譲渡は 家庭裁判所の調停調書で明らかであるから、相 続分譲渡証書は不要であり弟の実印も印鑑証明 もいらない。かくして相続分を譲渡した弟は不 動産登記手続からも解放された。 論稿 相続分の譲渡 弁護士 藤 田 昌 徳

(13)

URL:http : //www. miyako-law. gr. jp/

〒604-8106 京都市中京区堺町通御池下る 吉岡御池ビル8階 TEL ( 0 7 5 )2 1 1 − 4 4 3 3(代表)  FAX ( 0 7 5 )2 2 1 − 2 0 0 4

事務所報『大文字

(だいもんじ)

』 2010年夏号

(第33号)

2010年8月1日 発行 発行元:弁護士法人

みやこ法律事務所

弁護士 藤 田  昌 徳 /弁護士 大 槻  純 生 /弁護士 橋 本  皇 玄 /弁護士 長 尾  治 助 弁護士 小 田  宏 之 /弁護士 後 藤  隆 志 /弁護士 金 井  健 作 /弁護士 片 山  美 紀 〒690-0884 松江市南田町62 - 6 パラディーゾビル3階 TEL ( 0 8 5 2 )2 3 − 4 3 0 0  FAX ( 0 8 5 2 )3 2 − 4 8 1 1 弁護士法人

山陰リーガルクリニック

弁護士 國 弘  正 樹 /弁護士 和 久 本  光 /弁護士 中 井  洋 輔 弁護士 中 川  修 一 /弁護士 原      市

参照

関連したドキュメント

施設 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 10年比 松島海岸 㻟㻘㻠㻝㻥㻘㻜㻜㻜

( 2 ) 輸入は輸入許可の日(蔵入貨物、移入貨物、総保入貨物及び輸入許可前引取 貨物は、それぞれ当該貨物の蔵入、移入、総保入、輸入許可前引取の承認の日) 。 ( 3 )

札幌、千歳、旭川空港、釧路、網走、紋別、十勝、根室、稚内、青森、青森空港、八

札幌、千歳、 (旭川空港、

札幌、千歳、釧路、網走、紋別、十勝、根室、稚内、青森、青森空港、八戸、宮古、大

札幌、千歳、釧路、網走、紋別、十勝、根室、稚内、青森、青森空港、八戸、宮古、大

平成 19 年度において最も多く赤潮の優占種となったプランクトンは、 Skeletonema costatum (珪 藻類) 及び Thalassiosira

※短期:平成 30 年度~平成 32 年度 中期:平成 33 年度~平成 37 年度 長期:平成 38 年度以降. ②