産学連携による家具の技術開発の取り組み
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.27-1 No.101. 使用されている、軟質ポリウレタンフォーム(軟・中・硬)と、中空ポリエ チレン樹脂ウェーブクッション(以下ウェーブクッション) (軟・中・硬) の6種類の試験体を準備した。試験体サイズは w500× d450× h100mm に統 一した。試験方法はクッション材を床より420mm に固定し、同一の張地を かけた。被験者は30名で、評価項目はクッション材に求められる、①柔らか さ,②硬さ,③跳ね返り,④冷たさ,⑤蒸れ,⑥姿勢の安定,⑦立ちやす さ,⑧座りやすさ,⑨動きやすさの9項目で、評価方法は評定尺度法を用 い、−2から+2の5段階評価をおこなった。 ⑵ 結果と考察 評価結果から、ウレタンフォームの3種類は「柔らかさと硬さ」の違いが はっきり表れ、総合的に見て優れたクッション材といえる。ウェーブクッ ションは「硬さ・跳ね返り・立ちやすさ・動きやすさ」に評価が高く、「蒸 れ」については最も少ない評価となった。一方、 「柔らかさ」に対する評価 は低い結果となった。これはウレタンフォームが独立気泡体の構造のため、 荷重の加わったところだけ沈み込むのに対し、ウェーブクッションはチュー 図4 ウェーブクッションの部分写真. ブが繋がっている構造のため、表層面全体で沈み込むことから、柔らかさの 評価が低い結果になったことが示唆された。 また、今回の試験体ではウレタンフォームは三層構造で下層・中層・表層 と順に柔らかく積層する構造に対し、ウェーブクッションは一層構造なの で、表層の柔らかさの評価が得られなかったことも示唆された。 ⑶ 変形・汚損・熱加工実験 設計にあたり事前実験として、ウェーブクッションの変形・汚損・熱加工 の実験を行った。クッション材の変形の比較実験では、上記の試験体に荷重 50kg・直径210mm のウエイトをクッション材端部に載せ、各材の変形の相. 図5 ウェーブクッションの拡大写真(資 料:アイン㈱). 違を確認した。ウレタンフォーム(中・軟)の変形量が大きいことに対し、 ウェーブクッションの変形の少ない結果となった。 また、部位による変形の相違では、ウェーブクッションは押出成形機で押 し出されたものを切断加工するため、必ず「成形面」と「切断面」がでてく る。この2つの加工面の変形の相違を確認した。成形面は中央部より強い弾 性が得られるが、切断面はチューブの繋がりが無いため、変形量が大きい結 果となった。また、 「切断面」は強度および経年変化による型崩れが予想さ. 図6 ウェーブクッションの概念図. れ、端部の処理の課題が残った。 汚損実験では、ウェーブクッションに布地を張り、鉛筆粉による擬似的な 汚れ状況の確認をした。ウェーブクッション材は繊維単体の素材が硬いた め、張地にチューブイメージが現れる結果となった、張地をかけることは難 しいと判断した(図4・図5)。 熱加工実験では、ウェーブクッションの切断面の処理として、ヒーティン グガンによる二次加工実験をおこなった。加熱による変形と熔着は可能で あったが、中空構造そのものが変形する結果となった。また、熔着部は弾力 性が著しく低下する結果となった。熱加工は技術的な問題が残った。 ⑷ 設計および製作 設計は3人用ベンチを製作した。オリジナルクッションの押出成形断面は. w600× t65mm とし、表面・裏面・側面は高密度成形とし、表面材としての 緻密性をだした。一方、中央部は密度を粗にすることで、クッションの「柔 らかさ」を追及した。また、切断端部も型崩れ防止のため押出成型時に約 70mm を高密度成形した後に切断加工した(図6)。. 85.
(3) 86. 特集:家具のデザインと技術. 固定方法は日常のクリーニングを考慮し、容易に取り外しが出来ること と、切断部の納まりを考え、両サイドの脚部に落とし込むデザインとした。 ズレ止めとしてはクッション材の裏面中央に、幅3mm 深さ10mm の溝彫り を施し、底板にズレ止め鋼板金物を4箇所設置した。 ⑸ まとめ ウェーブクッションは切断面の強度が著しく低下する。そこで今回の製作 では、オリジナルの成形加工をおこなったが、独自の金型が必要となりコス ト高となった。切断面の良い加工処理方法があれば、ウレタンフォームのよ うなカット素材としての使用が可能であり汎用性が広がると考えられる。 また、張地仕上げを想定した場合は、中空チューブ単体の硬さが問題とな り、一般的な張地では汚れでチューブイメージが表に出る結果となる。下地 材としての使用については、中空チューブ単体の太さや硬さの改良が必要と 考えられる。屋外使用に関しては変色が確認されたが、クッション性の劣化 はなかった。屋外で使用できるクッション材として、耐水性・耐候性のある 図7 完成写真(意匠登録 第1287405号). 素材が他にないため、今後の利用が期待される[注1]。 ⑹ 作品データ サイズ:w2,200× d610× sh425mm,クッション材:中空ポリエチレン樹 脂ウェーブクッション t65mm,甲板:t15mm ナラ集成材,脚部:t15mm 成 形合板,木部:着色ポリウレタン塗装,アジャスター:φ22mm ポリエチレ ン製6箇所,家具製作:愛知㈱,クッション製造:㈱シーエンジ,価格: 180,000円,納品先:椙山女学園大学14脚(2005)。. 2.2. 高弾性ポリエステル繊維を使用したスタッキングチェア 図8 クッション材の拡大写真(資料:㈱ 住江織物). 本研究は、鉄道車両のクッション材として開発された「エルク:高弾性ポ リエステル繊維」に着目した。鉄道車両の分野では、車両材料燃焼試験があ り、ウレタンフォームはシアン化ガスを発生することから使用が難しくなった。 一方、JR 東日本は1993年から、いち早くこの問題に取り組み、繊維状の エルクを加熱成形によって置型クッションに成形し、張地は裏側にマジック テープの雄側を一体加工した布地で、エルクに密着させる方式を採用し、ウ レタンフォームからの脱却に取り組んでいる。 本設計では、エルクを皿張りクッション材としてシート状にし、成形合板 に直張りする製作方法を採用した。ウレタンフォーム同等のクッション性が 得られるか複数の試作を用いて研究をおこなった(図7∼図9)。 ⑴ 評価実験の方法. 図9 三面図と部分詳細図(作図:愛知㈱). 皿張りクッションの試験体として、座面サイズ400×370mm の成形合板に ウレタンフォーム厚20mm と、エルク厚20mm,15mm,10mm を、それぞれ の密度を変え6種類の試験体を準備した(エルク硬:比重0.045g/ ㎤,エル ク軟:比重0.035g/ ㎤)。これらのクッション材に同一の布地を張り、座高 440mm の実験椅子に設置した。被験者44名をもちいてクッション材に求め られる、①柔らかさ,②硬さ,③跳ね返り,④冷たさ,⑤蒸れ,⑥姿勢の安 定,⑦底づき感,⑧動きやすさの8項目で、評価方法は評定尺度法を用い、 −2から+2の5段階評価をおこなった。 ⑵ 結果と考察 評価結果から、エルク厚10mm は繊維密度に関係なく「硬さ」が感じられ. 1)滝本成人:中空ポリエチレン樹脂ウェーブクッション を使用した家具のデザイン開発,デザイン学研究作品 集,14,2-5,2008. 「柔らかさ」の評価が低く、クッション性として低い評価となった。ウレタ ンフォーム厚20mm と同等のクッション性を求めた場合、エルク厚15mm 以.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.27-1 No.101. 上が必要であることが明らかになった。次に「蒸れ」の評価に関しては、エ ルクは繊維密度と厚みに関係なく評価は高く、ウレタンフォームが一番低い 評価となった。また、エルクは「底づき感」の評価は一様に高かった。これ 図10 ㈱川島織物セルコンのリーフレット から抜粋. らを総合的に判断し、エルクはクッション材の厚みが15mm 以上であれば、 皿張りクッション材として使用が可能であることが明らかになった。 ⑶ 設計と強度試験 椅子の座位姿勢は軽休息用(プロトタイプⅢ型)とし、原寸図を描き詳細 設計をおこなった。採用したクッション材は、座面をエルク厚20mm,背も たれをエルク厚10mm,比重は0.035g/㎤とし、4.5mm 厚のラワン成形合板に クロロプレンゴム系接着剤で固定した。張地はアクリル布地を合板にタッ カー止めとした。フレームの強度試験では、JIS 規格に則り「繰返し荷重試 験(重量55kg,落下高さ50mm,繰返し回数8,000回)」と「背荷重試験(荷 重60kg,繰返し回数30回)」を実施した。その結果、荷重に耐え変形ゆるみ の無いことを確認した。 ⑷ まとめ 納品先として、椙山女学園大学166脚(2005) ,川崎医科大学204脚(2007), 大阪国際大学60脚(2008)の納品実績があり、クッション材の経年変化につ いては追跡調査を行っている。2019年の時点でへたりの状況は確認されてい. 図11 ㈱川島織物セルコンのリーフレット から抜粋. るが、クッション材の張替えまでには至っていない[注2]。 ⑸ 作品データ 本体寸法:w585× d535× h785× sh440mm,フレーム:φ19.1× t1.6mm 鋼 管クロームメッキ仕上げ,背・座:t11mm ブナ成形合板ポリウレタンクリ ア塗装,背パット:t10mm エルク比重0.035g/ ㎤,座パット:t20mm エルク 比重0.035g/ ㎤,接着剤:クロロプレンゴム系溶剤形接着剤,張地:アクリ ル布地,家具製作:愛知㈱,エルククッション材:㈱住江織物。. 2.3. ㈱川島織物セルコン「クッションラボ」 本研究は、平成26年度に㈱川島織物セルコンから受託研究を受け、新しい シートクッション開発のための実用化研究である。ダイニングチェアの座り 心地を改善するためシートクッションがしばしば用いられる。しかし、これ らの仕様は設計者や職人らの経験を頼りにその条件が決められてきた。 そこで本研究は、シートクッションの材料の違いと仕様の違いを条件とし て、体圧分布と心理評価の両方を用いて、座り心地評価の指標を明らかにす ることを目的とした(図10∼図12)。 ⑴ 試験体 実験に用いたシートクッションの材料リストを表1に示す。既に流通品で ある A 社仕様のウレタンフォーム皿張り20mm 厚,㈱川島織物セルコン仕様 の硬綿30mm 厚とソフトレス30mm 厚,T 社仕様のウレタンフォーム綿巻 50mm 厚の計4種(B∼E)を準備した。次に今回オリジナルシートクッショ ン材として、テイジン㈱のⅤ -Lap10mm 厚と20mm 厚、東洋紡㈱のブレスエ 図12 朝日新聞掲載2015.10.6. ア30mm 厚で、密度の異なる4種のブレスエアと、内張材としてニット地と、 中間材としてフェルトを準備し、3タイプ12種の複層クッション材(F∼Q) を準備した。また各実験の比較要素としてクッション無(A:成形合板のみ) も試験体に加え、合計17種の試験体を準備した。. 2)滝本成人:高弾性ポリエステル繊維を使用した家具の デザイン開発,日本インテリア学会研究発表梗概集, 87-88,2007. ⑵ 心理評価実験(短時間測定) はじめに、実験椅子として座高400mm の成形合板座面の椅子を準備し、. 87.
(5) 88. 特集:家具のデザインと技術. 表1 実験に用いたクッション材リスト 記号. 上層. 厚さ (mm). 中層. 厚さ (mm). 下層. ─. ─. ─. ─. A. クッション無 (成形合板のみ). B. ウレタンフォーム. 厚さ 総厚 (mm)(mm) ─. ─. 20. ─. ─. ─. ─. 20. 30. ─. ─. ─. ─. 30. ウレタンフォー ム綿巻. 50. ─. ─. ─. ─. 50. E. ソフトレス. 30. ─. ─. ─. ─. 30. F. V-Lap. 20. ブレスエア40. 30. ─. ─. 50. C 硬綿 D. その上に16種類の試験体を設置し、置型シートクッションの形式とした。今 回の実験は座面の評価を目的としたため、背凭れの評価は行わなかった。被 験者は21∼55歳までの健康な男女の計20名(男9名・女11名)とした。実験 手順として、被験者はランダムな順序で試験体に約3分間座った。その着座 直後から着座中を通して心理評価設問項目の順に答えた。評価項目は、①座 りやすさ,②着座時の柔らかさ,③着座時の安定感,④底付き感,⑤弾力. G V-Lap. 20. ブレスエア50. 30. ─. ─. 50. H V-Lap. 20. ブレスエア60. 30. ─. ─. 50. I. V-Lap. 20. ブレスエア70. 30. ─. J. ニット地+ V-Lap. 10. ブレスエア40. 30. V-Lap +ニット地. 10. 50. K. ニット地+ V-Lap. 10. ブレスエア50. 30. V-Lap +ニット地. 10. 50. L. ニット地+ V-Lap. 10. ブレスエア60. 30. V-Lap +ニット地. 10. 50. M ニット地+ V-Lap. 10. ブレスエア70. 30. V-Lap +ニット地. 10. 50. N. ニット地+ V-Lap +フェルト. 11. ブレスエア40. 30. V-Lap +ニット地. 10. 51. O. ニット地+ V-Lap +フェルト. 11. ブレスエア50. 30. V-Lap +ニット地. 10. 51. いる用語に対して、直感的に答えるように促した。尚、今回の実験は短時間. P. ニット地+ V-Lap +フェルト. 11. ブレスエア60. 30. V-Lap +ニット地. 10. 51. 測定と位置付けている。したがって、長時間座った時に起こる、蒸れ感など. Q. ニット地+ V-Lap +フェルト. 11. ブレスエア70. 30. V-Lap +ニット地. 10. 51. の温熱生理の評価は今回の実験には含まず設問項目を設定した。. 性,⑥座面の高さ,⑦安定性,⑧心地良さ,⑨安定後の柔らかさ,⑩立ちや. 50. すさ,⑪総合的評価の11項目で、評価方法は評定尺度法を用い、−2から +2の5段階評価を行った。 心理評価に用いた用語は事前の教示は行わず、被験者が日常的に使用して. ⑶ 体圧分布測定 実測機器として、Force Sensitive Application/VERG 社製の圧力分布測定装 置:S11エキスパート(センサマットの仕様:測定範囲サイズ530×530mm, センサ総数1,024個)を使用した。測定方法は心理評価実験と同じ条件でクッ ション材を設置し、被験者とクッション材の間にセンサマットを設置した。 被験者は男女の計6名(男2名・女4名)とした。 衣類による測定結果のばらつきをなくすため、被験者はジャージズボンで 統一した。身長の低い被験者は足台を使用し、座面前縁に体圧が集中しない ように調整した。体圧分布測定は測定域を20mmHg 毎の帯域に設定し、そ れぞれのクッション材の全体面積・最大圧力・平均圧力および各帯域面積を 測定した。クッション材の違いと体圧分布測定の結果を図13に示す。 次に例として、クッション材 N の20mmHg 毎の帯域面積の平均値と標準 誤 差 を 図14に 示 す。 こ こ に 示 し た 以 外 の ク ッ シ ョ ン 材 に お い て も 0 ∼ 20mmHg の帯域面積が最も大きく、高圧力帯に向かって徐々に接触面積が小 さくなる結果となった。このことは体重の重い人は低圧力帯から高圧力帯ま 図13 被験者 A の体圧分布図. での全帯域で体を支え、体重が軽い人は低圧力帯から中圧力帯で体を支えて いることが読み取れる。また、中圧力帯から低圧力帯に行くに従い標準誤差 が極めて小さいことから、各帯域面積がクッション材固有の特性値といえる。 ⑷ 指標化の試み はじめに、11項目の心理評価の各クッション材に対する評定平均値と、体 圧分布の総量との関係を求めるため、評価項目を目的変数とし、合計面積・. 図14 クッション材Nの20mmHg 毎の帯域面 積(㎠)の結果(平均値+標準誤差). 最大圧力・平均圧力を説明変数として、重回帰式を導出した。次に体圧分布 を10段階の帯域毎に捉え、評価項目を目的変数とし、20mmHg 毎の各帯域 面積の値を説明変数として重回帰式を導出した。データ解析は㈱社会情報 サービス「エクセル統計2010」を使用した。 ⑸ 単回帰分析より区分基準の結果と考察 相関係数が高かった評価項目①,②,④,⑤,⑧,⑨,⑪の7項目におい て、評価項目を目的変数とし、0∼60mmHg までの接触面積を説明変数と し単回帰式を求め、図15に示す座標軸を作ることにより、心理評価の評点の 境目を求めた。次に商品化したクッション材の測定値を示し可視化した。分. 図15 区分基準の結果と開発商品の測定値. 析結果の詳細は筆者別稿[注3]を参照のこと。 この結果から、着座時の人体支持は座骨結節点だけでなく、接触面全体で 支えていることが推測でき、特に圧力の低いところが心理評価に影響を及ぼ.
(6) デザイン学研究特集号 Vol.27-1 No.101. していることが明らかとなった。このことは日常生活に例えると、ムートン などを座面に置いた場合に柔らかいと感ずるのは、低圧力帯域の接触面積が 増えている結果として説明ができる。 ⑹ 複層クッション材の考察 今回の実験で、シートクッションに求められる性能として、座骨結節点に 図16 後アルマイト処理の工程概念図. 受ける「底付き感」の軽減と、クッション材としての「柔らかさ」に着目し た。残念ながらこの相反する特性を、一つの素材で補うことは現時点では出 来なかった。そこで本研究では、弾力性の強い三次元スプリング構造体の 「ブレスエア30mm」を芯材として、柔らかさを追求した縦方向の繊維層の 「V-Lap10mm」で包み込む、複層構造のクッションを試みた。性質の異なる 二つの素材を組み合わせることで、クッション材のそれぞれの役割をはっき りさせた。特にブレスエアの密度は心理評価に大きく影響を与えた。 ⑺ まとめ 本研究では、近年ニーズが高いシートクッションの材料の違いと、複層材 の組み合わせを替えた場合の、座り心地評価に関する指標化を試みた。試験 体として、16種類の物理的特性の異なるクッション材を対象とした。心理評 価実験より、体圧分布の合計面積・最大圧力・平均圧力・および各帯域面積 のいずれも座り心地に関係することが示された。 心理評価のうち、①座りやすさ,②着座時の柔らかさ,④底つき感,⑤弾 力性,⑧心地良さ,⑨安定後の柔らかさ,⑪総合的評価の7項目と、体圧分 布との間に強い相関関係があることが明らかとなった。重回帰分析により. 図17 完成写真. クッション材の帯域毎の接触面積から、座り心地の予測のための重回帰式を 導出し、心理評価の区分基準と体圧分布の関係が明らかになった。 ⑻ 作品データ 商品名:「クッションラボ」角形(サイズ:420×420×50mm)・丸形・馬 蹄形の計3タイプ(定価8,400∼9,400円) ,製造:㈱川島織物セルコン,販 売:高島屋・松坂屋・名鉄百貨店他,発売日:2015年3月。. 3.新しいアルミハニカム技術の取り組み アルミハニカムパネルは、軽量で再利用が可能な素材として注目され、家 具の領域でも使用されている。しかし、その造形は㈱カッシーナ・イクス シーの「エアフレーム」に代表されるように、角型のパネル形状が基本で あった。これは、枠材としてアルミの押出成形材を使用し、事前に材料・部 品の段階でアルマイト処理を行い、その後に切断し接着剤で固定していた。 そのため曲線がある形状のパネル製作は基本的にできなかった。 図18 部品図(作図:モリシン工業㈱). 本研究は、モリシン工業㈱との共同研究で「後アルマイト処理」といった 新しい技術を試みた。これは表面材と枠材を生材の段階で接着し、接着後に 切削加工を行い、パネルの状態でアルマイト処理を行う製作工程で、従来の 技術ではできなかった新しいスタイリングを試みた(図16)。次に㈱ホウト クから受託研究を受け商品化した「アルバート」について報告する。. 3.1. アルミ製フォールディングテーブルの試作 本研究は「後アルマイト処理」技術の実用化に向けた基礎研究のため、 フォールディングテーブルの試作製作を行い、従来の技術では出来なかった 3)滝本成人,他:心理評価と体圧分布を用いたシート クッションの座り心地評価に関する指標化の試み,日 本インテリア学会論文報告集,28,5-13,2019. 新しいディテールの提案と、技術的な問題点の抽出を目的とした(図17)。. 89.
(7) 90. 特集:家具のデザインと技術. ⑴ 条件設定 ・用途:フォールディングテーブル,サイズ:w1,500× d600× h700mm ・収納時の厚みを市販品の最少寸法以下とする(平成21年の時点で市販品最 少の厚みは㈱ホウトク商品のアルテルで収納時厚が52.3mm) ⑵ 設計 図19 テーブル端部のデザイン. 基本構造は、天板・幕板・脚部の4点のパーツで構成されている。脚部は 「コの字」のデザインで、天板と床面の接する長さを増やし、家具としての 安定性を考慮した。また、利用者側の脚部を欠き取ることで膝まわりを広く した。幕板は前面のみとし、天板下の有効寸法を高くした。デザイン的には 折り畳んだ状態で、脚部が幕板の一部を欠き取ったデザインとし、この幕板 の形状を使用時の正面のデザインキャラクターとして表現した。原寸図を作. 図20 枠材切削の概念図. 成し各部品の詳細寸法と可動部の軌跡を検証した。 ⑶ 部分試作と詳細設計 幕板・脚部の部分試作を原寸大で作製し、開閉機構と固定方法の検証をお こなった。今回の試作では専用の金物の設計までは行っていない。開閉部は ステンレス平丁番を流用した。このためパネル厚は14mm が必要寸法になっ た。この部分試作を使用して可動部のクリアランスの検証をおこなった。. 図21 アルミ板とアルミ枠(金具の補強材). 次に製作図によって、部材寸法とフラットバーの配置、金物の取り付けビ ス位置の最終確認をおこなった。本製作においてはコンピュータ制御による. NC 加工機(Numerical Control machining)を採用した為、ここでのデータが そのまま部材加工に使用されている(図18)。 今回のテーマである「後アルマイト処理」の特性を出すため、部材間の 「接着線の処理」を考案した。まず、枠材として12×18mm の生地のアルミ 図22 ハニカムコア材の切断と仮組み. フラットバーを留継ぎにし、接着線を天板の角部に45度に納めた。次に表面 材として1mm 厚の生材のアルミ板を接着する。この後、パネルの状態で切 削加工を行い、角アール内に接着線が現れるようにした。「部材間の接着線」 を積極的にディテールの意匠に取り入れたことで、従来のパネル技術ではで きかった、新しいディテールが可能になった(図19・図20)。. 図23 接着工程とプレス工程. ⑷ パネル組み立て・接着加工・後アルマイト処理 パネル組み立ては、表面材として1mm 厚のアルミ板を切り抜く(図21 左)。次に枠材として12×18mm のアルミフラットバーを切断加工し、エポ キシ樹脂系接着剤で組み立てる。この時、金物の取付け用の補強材も接着す る(図21右)。枠材と表面材の加工は NC 加工機でおこなった。そのため、 部品精度は極めて高いものとなった。一方、コア材は形状が安定していない. 図24 パネルの固定とアルマイト処理槽. ため、手作業による切断加工で、ハサミによる微調整が必要となった(図 22)。 接着加工は、表面材と枠材にエポキシ樹脂系接着剤を塗布し、プレス加圧 により圧着し、24時間の硬化後に離型する(図23)。 後アルマイト処理は、完成したパネルの状態で処理槽に入れる為、新たな 問題として陽極側の吊り下げ固定金具まわりの仕上がり斑の発生があった。. 図25 折りたたみの状態(幕板の切込み). これに対しては、枠材にあらかじめ加工した金物取付け用の雌ネジ部を流用 することにより、固定箇所の仕上がり斑を抑えることができた(図24)。 ⑸ まとめ 今回の試作で、収納時の厚みは35mm となり、市販品最少サイズ(52.3mm) より17.3mm 薄くすることができた(図25) 。枠に使用したフラットバーは、 切削加工による欠損断面を考慮し12×18mm の枠材を使用した。しかし、そ.
(8) デザイン学研究特集号 Vol.27-1 No.101. れ以外の切削加工を行わないところも、材料の歩留まりの関係で全て同寸の 枠材を使用した。このため総重量が16.4㎏と重くなり、構造的にも過剰な仕 様となった。各部の枠材をサイズ調整し小型化にすることで、大幅な軽量化 が可能と考えられる[注4]。 ⑹ 作品データ 本体寸法:w1,500× d600× h700mm(収納時厚35mm),重量:16.4㎏,天 板・幕板・脚部:t14mm アルミハニカムパネル,アジャスター:φ16mm ポ 図26 完成写真(写真はプロトタイプ). リエチレン製4箇所,パネル製作:モリシン工業㈱,アルマイト処理:太洋 軽金属㈱。 本研究は2008年度椙山女学園大学学園研究費助成金 C を受けている。. 3.2. ㈱ホウトク「アルバート」 本研究は、平成15年度に㈱ホウトクから受託研究を受け、3人掛けベンチ 図27 部分写真(角アールと内アール). と他に2タイプのカウチの商品開発を行った。「後アルマイト処理」の量産 型商品としては、家具業界初の試みであった。用途はオフィスや公共建築の ロビー空間を想定したベンチである。一見不安定に見える G 型フレームと、 座面と背凭れだけの構成で、極めてシンプルで軽快なデザインとすること で、洗練された建築空間の適応を考慮した(図26∼図29)。 ⑴ フレームデザイン 基本フレームは、G 型の脚部アルミハニカムパネルと3箇所の貫材で構成 されている。脚パネルは枠材としてアルミフラットバーを全周に回し、これ. 図28 三面図(作図:㈱ホウトク). を縦軸の構造体と考えた。横軸の貫材は I 型のアルミ押出成形材をつくり、 脚パネルとはコネクトピン接合を考えた。脚パネル間の間口寸法を1,800mm まで広げることを目標とした。各部の詳細については原寸図によって検証を おこなった。 ⑵ 部分試作と詳細設計 切削実験として、はじめにパネル表面材のアルミ板1mm と、枠材のアル ミフラットバー12×18mm を接着し、パネルの状態で切削加工の実験をおこ なった。部材間の接着に必ず現れるジョイント線を、二次加工の面内におさ めることにより、一見無垢板のようなパネル表現が可能となった(図30左)。 このデザイン手法を踏襲し、パネル外周部は R2mm の面取り仕様とし、 出隅・入隅は R6mm の切削仕様とした(図27)。また、脚パネルと貫材の取 付け部は3mm のチリを取った。 ⑶ パネル加工試作(試作Ⅰ) 表面材として1mm 厚のアルミ板を切り抜く。次に枠材としてアルミフ ラットバーを切断加工し、エポキシ樹脂系接着剤で組み立てる。この時、コ. 図29 2010年カタログの表紙に掲載. ネクトピン取り付け用の補強材も接着する(図30右)。表面材と枠材の加工 は NC 加工機でおこなった。そのため、部品精度は極めて高いものとなった。 ⑷ 落下衝撃試験(試作Ⅱ) ㈱ホウトク品質保証室にて、座面の落下衝撃試験を行った。3人掛け中央 に45Kg の重りを100mm の高さから落下させ、社内基準4,000回の試験と、3 人掛け端の席に同様の試験を行い、合計8,000回の落下衝撃試験を行った。 3人掛け中央部の試験においては、異常は認められなかった。次に3人掛 け端の席の実験では、貫材の取付け止めネジ(六角穴付きとがり先止めネ. 4)滝本成人:アルミ製フォールディングテーブルの試 作,平成21年度デザイン学研究作品集,15,84-87, 2009. ジ)の脱落と、座面合板取付け用の皿タッピングビスの緩みが確認された。 貫材の接合部には黒いアルミ粉状のものが散見された。また、張地において. 91.
(9) 92. 特集:家具のデザインと技術. は表面張り材を1枚で縫製したため、試験後の伸びが確認された。貫材取付 けと座面合板取付け、及び張地の縫製に改良の課題が残った。 ⑸ アルミ押出成形材の設計 貫材・座受け材の専用パーツとして、14×119mm のアルミ押出成形材を 図30 枠材切削の試作と背凭れ部の芯材. 設計した。コネクトピンの取付け溝を4箇所作ることにより、脚パネルとの 固定及び、押出成形材同士の L 型の組み合せを可能にした。中央部には14.1 ×1mm の溝を作る事により、押出成形材同士を T 型・H 型に組むことを可 能としている。また、中央の無垢材部分は強度目的と、コネクトピン取付け のための雌ネジ加工部とした(図31・図32)。 ⑹ フレーム組立手順の再検討 試作Ⅰで貫材の取付け手間が問題となったことで、フレーム組立手順の見 直しとして、あらかじめ座面フレームを枠状に組み、次に脚パネルに取付け る方針に変更した。この結果、現場での組立時間を大幅に短縮することが可. 図31 アルミ押出成形材の初期スケッチ. 能となった(図33)。アルミハニカムパネルと押出成形材を組み合わせるこ とで、細部の仕様は極めて精度の高い仕上がりとなった。 ⑺ まとめ アルミハニカムパネルの「後アルマイト処理」により、従来のパネル技術 では出来なかったスタイリングとディテールが可能となった。しかし、パネ ル製作時の工程数が増えることにより、商品のコスト高につながる結果と なった。 アルミ押出成形材は、金型製作費の初期投資が必要であったが、カット材 として使用できるため、製作上のメリットは大きかった。また、この押出成. 図32 完成したアルミ押出成形材. 形材は、今後の商品展開を視野に入れ、他の商品への応用を試みている。 組立工程においては、コネクトピンジョイントを採用したことにより、現 場ではマイナスドライバーと六角レンチのみで組み立てが可能となった。現 場組立を採用したことにより輸送費の削減に繋がった[注5]。 ⑻ 作品データ 商品名:「アルバート」 ,本体:w1,800× d680× h700× sh420mm(他2タ. 図33 コネクトピン配置と組立風景. イプ),脚パネル:t14mm アルミハニカムパネル,貫材・座受け材:14× 119mm アルミ押出成形材(特注仕様),表面処理:アルマイト処理,クッ ション材:ポリウレタンフォーム(芯材はラワン合板),張地:レザー・布, アジャスターφ14mm ポリエチレン製4箇所,価格:306,000円,製作・販 売:㈱ホウトク,アルミフレーム設計製作担当:モリシン工業㈱,発売日: 2009年12月。. 4.おわりに 家具のデザイン史を振り返ると、大きな飛躍期が二度存在した。一度目は 1920年代から1930年代にかけて、マルセル・ブロイヤーのワイリーチェア (1925),チェスカチェア(1928),ル・コルビジェのシェーズロング(1928), ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェア(1929)など、金属製フ レームの椅子が出現し、木製フレームではアルヴァ・アアルトのアアルト レッグ(1930)の技法が開発された時代である。この時代は建築家が新しい 建築思想を具現化し、自らの建築空間には従来にない、新しい家具デザイン を必要とした時代でもある。 5)滝本成人:アルミ製ベンチのデザイン開発,日本デザ イン学会研究発表梗概集,162-163,2010. 次に二度目の飛躍期は1940年代後半から1960年代にかけて、チャールズ・ イームズのプライウッドチェア LCW(1946),プラスチックチェア DSS.
(10) デザイン学研究特集号 Vol.27-1 No.101. (1950),アルミナムグループ(1958)が量産化し、アルネ・ヤコブセンのア ントチェア(1952),エッグチェア(1958),エーロ・サーリネンのチュー リップチェア(1956)など、現代でも通用するシリーズ化された家具デザイ ンが展開された時代である[注6]。また、筆者が注目するのは、1958年の ウレタンフォームの市場導入である。従来の詰め物のクッション材から、下 張りへシャンクロスの工程が省略でき、家具デザインの自由度が飛躍的に拡 大した時代である。ここでも生産技術の発達とデザインの飛躍が読み取れる。 ではなぜ、この二度の飛躍期が存在したのか、当然のことながら二度の世 界大戦後の産業の発展期であり、戦争で生まれた新しい技術開発が、平和利 用されたことが示唆される。戦争負傷者の添木技術が成形合板の椅子にな り、戦闘機の燃料タンク技術がプラスチック家具となった。我が国でも「木 製おとり飛行機」を作る技術が、山形県天童市の木工産業の技術を高め、の ちに㈱天童木工の成形合板と木工家具へと発展した。剣持勇・柳宗理らデザ イナーの活躍の場ともなり、日本の木製家具の生産技術を牽引してきた。 1945年以降の我が国は、幸いにして長きにわたり戦争はなく、世界にも類 図34 「知の拠点あいち」プロジェクトで簡 易型血管機能計測装置の開発に地元 家具メーカーの協力を得た。. を見ない経済発展と、ものづくりにおいては高い技術水準を誇ってきた。し かし、1990年代のバブル崩壊と、その後のデフレの波は家具産業も例外では なく、特に一般消費者向けには、見た目だけを重視した安売り家具がもては やされる時代となってしまった。今後、高度なデザイン教育を受けた優秀な 学生が、家具デザインの領域に進むであろうかが危惧される。 一方、愛知県と名古屋市の行政の動きでは、自動車産業などで培われた高 い技術力を持った下請け産業と、異業者を結びつける活発な動きがある。あ いち健康長寿産業クラスター推進協議会(愛知県産業労働部産業振興課次世 代産業室 平成28年∼),医療福祉ものづくり研究会(名古屋産業振興公社 平 成28年∼),ものづくりデザインプラットホーム(名古屋産業振興公社 平成 28年∼)などがあり、現在も進められている。 また、平成27年度に終了した「知の拠点あいち」超早期診断技術開発プロ ジェクトでは、筆者がデザインを担当した簡易型血管機能計測装置の開発 に、地元の家具メーカー愛知㈱の協力を加えて実用化研究を行った(図34) 。 プロジェクトの中間審査では外部審査委員会から唯一 S 評価を受け、計測装 置の有意性に加え、実用化研究においてデザインの重要性を示すことができ た。今後も異業者連携事業の活発な働きを期待したい[注7]。 本特集号の「家具のデザインと技術 ∼モノのデザインのこれまでとこれ から∼」のテーマに対して、筆者の産学連携の取り組みを紹介した。デザイ ナーが「新しい材料・新しい技術」に取り組み、従来の技術では出来なかっ た「新しいデザイン」を追求することは、デザイナーの社会的責任と役割で あり、これを怠ればデザインが単なる「形のバリエーション」となる(図1) 。 最近ではデザインが、しばし「コト」で語られ、「モノ」を深く追求して いない風潮もあるが、筆者は常に「技術開発の先のデザイン開発」を訴え、 本学会[注8] ・中部デザイン協会・日本インダストリアルデザイナー協会 中部ブロック・教育の場で発信し、デザイナーの立場で産業界に貢献するこ とを説き、デザイナーの社会的役割を一歩前進させることに努めている。. 6)平田翰那:建築家の椅子111,鹿島出版社,1997 7)滝本成人,他:簡易型血管機能計測装置のデザイン開 発,デザイン学研究作品集,23,2-5,2017 8)滝本成人:技術開発の先のデザイン開発,日本デザイ ン学会第3支部研究発表会概要集 / 報告集,3-8,2017. 93.
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