日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 23, No. 1, 48-58, 2009
*大阪大学大学院医学系研究科(Osaka University Graduate School of Medicine)
2008年11月5日受付 2009年5月11日採用
原 著
現代の妊婦のマイナートラブルの種類,発症率
及び発症頻度に関する実態調査
A survey of the variety, incidence rate, and frequency of minor
symptoms currently experienced by expectant mothers
新 川 治 子(Haruko SHINKAWA)
*島 田 三恵子(Mieko SHIMADA)
*早 瀬 麻 子(Mako HAYASE)
*乾 つぶら(Tsubura INUI)
* 抄 録 目 的 本研究は最近の妊婦におけるマイナートラブル(以下MSとする)の種類,発症時期,発症率,及び発 症頻度を明らかにすることを目的とした。 対象と方法 全国から抽出した11医療機関に通院中の623名(初期56名,中期201名,末期366名,平均28.1 8.0週) の妊婦を対象に質問紙調査を行った。調査票は先行研究,MSに関連する症状,及び妊産褥婦から聞き 取った症状から95の不快症状に関する質問項目で作成した。 結 果 50%以上の妊婦に発症している症状が95の不快症状のうち45症状あった。発症率が高い(50%以上), または発症頻度の高い(「たびたびある」から「いつもある」)47症状をMSとして抽出した。易疲労感,頻尿, 全身倦怠感は,妊娠全期間を通じて90%以上の妊婦に発症するMSであり,有症者における発症頻度も 高かった。妊婦1人あたりのMS発症数は2から46症状で,平均27.0( 10.4)症状であった。初経産別で の1人あたりのMS発症数に有意差はなかった。未就労妊婦の方が就労妊婦より1人あたりのMS発症数 が有意に多く,特に未就労初産婦の発症数が多かった。妊娠時期により1人あたりのMS発症数に有意 差はないが,発症率の高い症状は異なっていた。 因子分析により「胎児の発育に関連する筋関節症状群」,「上部消化器症状群」,「睡眠関連症状群」,「便 秘関連症状群」,「ネガティブな精神症状群」の5症状群が抽出された。 結 論 MSに関する実態調査を行った結果,妊婦の生活習慣や環境の変化,就業状況の変化に伴って,従前 のMSに無い症状や発症率の異なる症状が明らかとなった。対象の属性や妊娠時期により好発症状にも 違いがあることから,適切な時期に妊婦の状況にあった助言することが重要である。 キーワード:マイナートラブル,妊娠,不快症状,就労妊婦Abstract Objective
This research sought to clarify the variety, manifestation period, incidence rate, and frequency of minor symp-toms (hereafter, MS) currently experienced by expectant mothers.
Method:
Questionnaires were distributed to 623 expectant mothers (56 first trimester, 201 second trimester, 366 third trimester; 28.1±8.0 mean gestational weeks) who were present for medical examinations in Obstetrics and Gynecol-ogy Outpatient Departments of 11 hospitals throughout Japan. The questionnaire inquired about 95 symptoms gath-ered from previous research, studies related to MS, and interviews with expectant mothers and puerperal women asking about symptoms during pregnancy.
Results
Of participants who exhibited symptoms more than 50% experienced 45 of the 95 symptoms. Forty-seven symp-toms with high incident rates (more than 50%) or high frequency rates (from "often present" to "always present") were designated as MS for this study. Fatigue, increased urinary frequency, and general malaise were experienced at a high frequency by more than 90% of participants. Each participant experienced from 2 to 46 MS. The average number of MS per participant was 27.0 (±10.4). There was no significant difference in the number of MS by par-ity. Not-employed participants experienced more MS than employed participants, and in particular, not-employed primipara experienced a higher number of MS. When comparing first, second, and third trimester participants, no significant difference was found in the number of MS, however, high incidence MS did differ. After factor analysis of the 47 MS the following five groups of symptoms were extracted: "muscle and joint pain related to fetal develop-ment", "upper gastrointestinal", "sleep related", "constipation related", and "negative psychological".
Conclusion
The results of this study identified MS not found in previous research and changes in the incidence rate of MS, which may be attributed to alterations in the expectant mother's lifestyle, environment, and employment status. Because the appearance of MS with high incidence rates differ according to trimester or individual attributes this study suggests the importance of providing expectant mothers with timely health care advice and education that is appropriate to their condition.
Key words: Minor symptoms, pregnancy, uncomfortable symptoms, pregnant employee
Ⅰ.緒 言
妊娠中の女性が自覚する不快症状をマイナートラブ ル(minor symptoms,以下MSとする)と呼んでいるが, 臨床家によってそれに含まれる症状には違いがある。 教科書等(青木ら,1996;氏家,2002;我部山,2006) では竹中(1989)による妊婦33名の聞き取り調査が引 用されており,その後20年余りMSの代表的な調査は 行われていない。MSが研究対象とされてこなかった 背景には,妊娠によるホルモン環境の変化,胎児の発 育による生理的変化,及びそれらに伴う精神的変化が MSの原因となっている場合が多く,「医学的に母児へ の影響が少ない」と定義されていることがある。また 種類が多いにもかかわらず自然に軽快していくことが 多いことから,妊婦のセルフケアに任されている部分 が大きいことがある。しかし,この20年間に,女性 の平均婚姻年齢や第1子出産年齢は遅くなり,平均出 産年齢は30歳を超えた(厚生労働省,2008)。また,パ ソコン,携帯電話を含めた家電の普及によりライフス タイルも大きく変化した。このことから,MSの種類 や発症率もこの20年間で変化してきていることが考 えられる。そのため,妊婦がセルフケアをして生活の 質を維持・向上させ,胎児の順調な発育を促し,分娩 や育児にスムースに取り組めるようにするために,現 代の妊婦のMSの状況を把握する必要がある。 そこで,本研究は最近の妊婦におけるMSの種類, その発症時期,発症率,及び頻度を明らかにすること を目的にした。Ⅱ.用語の定義
本研究では,MSを女性の不快症状及び微症状のう ち妊娠によって非妊時よりも好発し,医学的には問題 が少なく,母児への影響は少ないとされているものと する。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究対象者 2007年9月から11月の秋季,2008年3月から5月の 春季に,妊婦健康診査を受診した1460名に調査票を 配布し,郵送で634名分(回収率43.4%)を回収した。 このうち未回答数の多いものや妊娠週数の不明な回 答を除き623名分(42.7%,平均28.1 8.0週)を有効回 答とした。その他の属性は表1に示した。調査施設は Web上で全国の医療機関から年間分娩数が200件を越 える施設を検索し,無作為に抽出した55施設(8地方) のうち承諾の得られた11箇所である。 2.データ収集方法 各医療機関の看護者または医師が妊婦健診あるいは 妊婦教室で妊婦に調査票を協力依頼の文書と共に配布 した。調査票は妊婦が自宅で記載し,無記名で郵送に て回収した。調査票は対象の属性及び背景,不快症状 に関する質問で構成した。本研究は大阪大学医学部保 健学倫理委員会の承認を得た。 不快症状に関する質問票は,以下の手続きにより 作成した。同一対象に最近1週間と,今回の妊娠の一 年前の非妊時の発症頻度を後方視的に尋ねた。症状 の発症頻度は「5点:いつもある」,「4点:ほとんどい つもある」,「3点:たびたびある」,「2点:時々ある」, 「1点:まれにある」,「0点:ぜんぜんない」の6段階の リッカートスケールで尋ねた。 1 )2007年4月 に 医 学 中 央 雑 誌Web版(1983年 か ら 2007年)とPubMedで関連文献を抽出した。その際の キーワードは,「マイナートラブル」及び「不快症状」 に「妊娠/妊婦」を掛け合わせ抽出された74症状と, 「minor symptoms + pregnancy」,「minor disturbance +pregnancy」,「common complaints + pregnancy」を 用 いた。そして,その中で扱われているすべての症状 を抽出した。また,従来MSとして取り上げられてこ なかった症状を見出すことを目的に,妊娠中のMSに 関連または類似する症状を問う「妊娠悪阻指数」(薄井, 1983),「EIスコア(つわり指数)」(石野ら,1994),「日 本語版便秘評価尺度」(深井ら,1995),「簡略化更年期 指数」(小山,1993),「月経関連症状尺度日本語版」(茅 島ら,1984),「自覚症状調べ30項目版」(日本産業衛 生協会産業疲労研究会,1970),「歯周疾患を疑う自覚 症状群」(良村&川合,1990)で使用されている症状と, 妊婦及び出産経験者から聞き取った症状を加え,合計 129症状を抽出した。 2 )MSの定義に従い,研究者によって129症状の中か ら医学的に母児への影響が大きいと考えられる症状及 び疾患を削除した。また,表現は異なるが類似してい る症状については,原因や対処方法が異なる場合には 分けることを原則に整理した。これを産科専門医1名, 助産師4名,一般の出産経験者と未経験者それぞれ1 名に依頼し内容妥当性を確認した。 3 )上記の作業によって抽出された118症状を用いて, 妊婦を対象にプレテストを行い(1回目5名,2回64名), 妊娠時,非妊時ともに該当者がいなかった症状を削除 した。 4 )次に,2回目のプレテストの回答を用いて因子分析 と相関分析を行った。因子分析(主因子法,プロマッ クス回転)は,便宜的に118症状を以下の7領域に分け て行った。因子負荷量が0.35以下,共通性が0.16未満 を削除の基準にした。また,相関分析では相関係数0.50 以上を基準にし,研究者間で話し合い全体の整合性を 図った。最終的に消化器系症状18症状,泌尿器・生殖 器系症状10症状,関節・運動器系症状14症状,全身 性・精神神経系症状17症状,血管運動神経系症状10症 状,循環・呼吸器系症状9症状,皮膚・口腔・感覚器系 症状17症状,合計7領域で95症状を不快症状として採 用した。この95症状には竹中(1989)の23症状が原因 や対処の違いにより31症状に分かれ含まれた。 本調査票の95症状の信頼性は,Cronbach α係数を 算出することにより内的整合性の検討を行った。各領 域のCronbach α係数は,消化器系症状0.773,泌尿器・ 生殖器系症状0.675,関節・運動器系症状0.813,全身 性・精神神経系症状0.895,血管運動神経系症状0.713, 表1 属性 人数(%)(標準偏差)平均 年齢(歳) 623 31.1(4.8) 初経産の別 初産婦 経産婦 不明 342(54.9) 276(44.3) 5( 0.8) 妊娠週数(週) 初期 中期 末期 56( 9.0) 201(32.3) 366(58.7) 13.0(1.7) 21.7(3.6) 33.8(3.5) 就労妊婦(フルタイム,パートタ イム,その他) 初期 中期 末期 162(26.0) 18(32.1) 67(33.3) 77(21.1)
循環・呼吸器系症状0.777,皮膚・口腔・感覚器系症状 0.743であった。泌尿器・生殖器系症状のα係数が0.700 を下回るが,その他の領域については内的整合性が確 認された。 3.分析方法 統計解析にはSPSS ver.16を使用した。発症頻度が「0 点:ぜんぜんない」を未発症,「1点:まれにある」か ら「5点:いつもある」を有症として,有症者の割合を 発症率とした。また,発症頻度には有症者における平 均値と中央値を用いた。 MSの選出は,まず95症状から妊娠各期(初期・中 期・末期)において発症頻度が著しく低い側に偏りの ある症状(平均値標準偏差<0,フロア効果)を削除 し,項目分析をした。これに項目分析で削除した症状 のうち発症率が50%以上の症状,または発症頻度の 中央値3「たびたびある」以上である症状を加えMSと した。 妊娠時期(妊娠初期・中期・末期)の違いによる比 較には一元配置分散分析を用い,各時期の比較には Tukeyの多重比較を用いた。1人あたりの発症数は初 経産別または就労の有無で,対応のないt検定を用い て比較した。また,妊娠時期による初経産別または就 労の有無で,二元配置分散分析を用いて比較した。さ らに,初経産の別と就労の有無を独立変数とし,1人 あたりの発症数を従属変数として二元配置分散分析を 行い,属性による検討をした。 妊娠中のMSの特徴を示す症状群を検索するために, 妊娠全期でフロア効果のある症状を削除した後,因 子分析(主因子法,斜交プロマックス回転)を行った。 その際,因子負荷量がいずれの因子においても0.4未 満である症状と,2つ以上の因子で0.4以上の負荷量を 示した症状を削除し,1つの因子で因子負荷量が0.4以 上となるまで因子分析を繰り返した。因子数は固有値 の減衰状況と解釈可能性から決定した。因子分析後の 合計得点と,因子分析前の合計得点との相関分析をピ アソンの積率相関係数で行い,因子分析により抽出さ れた症状によるMSの説明状況を確認した。MSの各 因子の信頼性は,Cronbach α係数を算出することに より内的整合性の検討を行った。構成概念の妥当性は, 発症頻度が異なると考えられる妊娠中と非妊時の各症 状群の項目平均値を,対応のあるt検定を用いて比較 検討した。
Ⅳ.結 果
1.MSの選定 不快症状95症状の妊娠全期の平均発症率は7.3%か ら94.5%であった。各症状の有症者の平均発症頻度は 1.5から3.6,中央値は1から3であった。 95症状から妊娠各期で発症頻度が著しく低い側に 偏っていた症状を削除した結果,妊娠初期は28症状, 中期は27症状,末期は30症状,のべ35症状が選出され, これをMSとした(発症率54.5∼94.5%,発症頻度の中 央値2以上)。次に残りの60症状から,発症率50%以 上の10症状を選出し,MSに加えた。これにより50% 以上の妊婦に発症していた45症状がMSとなった。さ らに,発症率50%未満でも発症頻度の中央値3(たび たびある)以上の2症状を選出し,MSに加えた。その 結果47症状がMSとなった。発症率と発症頻度を表2 に示した。 1 )消化器系症状 消化器系症状では腹部の締め付け感,口渇,排便困 難感の順に発症率が高かった。腹部の締め付け感は妊 娠全期を通じ88.0%から91.1%に見られ,発症頻度も 高かった。妊娠初期に発症率が高い傾向が見られたの は,便やガスによる腹部膨満感,嘔気であった。妊娠 末期では胃部圧迫感であった。食欲増進は最も発症率 の低い妊娠初期でも69.6%の妊婦に見られた。 2 )泌尿器・生殖器系症状 泌尿器・生殖器系症状では頻尿,帯下の増加,性 欲減退感の順に発症率が高かった。中でも頻尿は妊 娠全期を通じ90.9%から94.0%の妊婦に発症し,有症 者における発症頻度はMSの中で最も高かった。さら に,頻尿は妊娠経過と共に頻度が高くなっており(F (2, 576)=4.20, p=0.02),妊娠末期は中期より有意 に高かった(p=0.02)。尿漏れ及び残尿感は妊娠初期 からそれぞれ41.1%及び42.9%に発症し,中期以降は 57.2%以上及び51.2%以上に発症していた。乳房緊満 感は妊娠初期に高率に発症する傾向が見られ,発症頻 度(F(2, 404)=5.28, p=0.01)も妊娠初期は末期と比 べ有意に高かった(p=0.01)。妊娠末期には下腹部の 緊張や攣れが高率に発症する傾向が見られた。 3 )関節・運動器系症状 この群では肩こり,骨盤痛(仙腸関節部,鼠径部, 恥骨部,臀部などで発症する痛み),腰背部痛(前後 屈時の背部または腰部の痛み)の順に発症率が高かっ た。妊娠初期に発症率が高い傾向が見られたのは肩こ表 2 マイナートラブルの発症率と発症頻度 症 状 名 初期 (n=56) 中期 (n=201) 末期 (n=366) One-way ANO VA F 値 全体 (n=623) 発症率 発症頻度 発症率 発症頻度 発症率 発症頻度 発症率 発症頻度 名 % 平均値 中央値 名 % 平均値 中央値 名 % 平均値 中央値 名 % 平均値 中央値 消 化 器 系 症 状 腹 部 の 締 め 付 け 感 口 渇 排 便 困 難 感 胃 部 圧 迫 感 食 欲 増 進 便 や ガ ス に よ る 腹 部 膨 満 感 嘔 気 排 便 回 数 ・ 量 の 減 少 51 49 46 36 39 45 47 37 91 .1 87 .5 82 .1 64 .3 69 .6 80 .4 83 .9 66 .1 2. 8 2. 4 2. 8 2. 5 2. 7 2. 4 2. 3 2. 9 3 3 3 2 3 2 2 3 17 6 17 0 15 8 14 8 15 5 14 8 13 8 13 8 88 .0 84 .6 79 .0 74 .0 77 .5 74 .4 68 .7 69 .0 2. 9 2. 5 2. 9 2. 5 2. 7 2. 3 2. 0 2. 8 3 2 3 2 3 2 2 3 32 7 31 1 29 8 29 9 28 0 25 1 23 9 22 6 89 .3 85 .2 81 .4 82 .6 76 .9 68 .8 65 .3 61 .9 3. 1 2. 6 2. 6 2. 6 2. 6 2. 3 2. 1 2. 7 3 3 3 3 2 2 2 3 55 4 53 0 50 2 48 3 47 4 44 4 42 4 40 1 89 .1 85 .2 80 .7 78 .2 76 .5 71 .6 68 .1 64 .6 3. 0 2. 5 2. 7 2. 5 2. 6 2. 3 2. 1 2. 8 3 2 3 2 2 2 2 3 泌 尿 器 ・ 生 殖 器 系 症 状 頻 尿 帯 下 の 増 加 性 欲 減 退 感 下 腹 部 の 緊 張 や 攣 れ 乳 房 緊 満 感 尿 漏 れ 残 尿 感 陰 部 不 快 感 50 47 45 41 44 23 24 22 90 .9 83 .9 80 .4 73 .2 78 .6 41 .1 42 .9 39 .3 3. 5 2. 9 3. 3 1. 9 2. 7 2. 2 1. 8 2. 4 3 3 3 2 2 2 1.5 2 18 5 16 1 16 0 14 9 14 0 11 5 10 3 95 93 .0 80 .5 80 .4 75 .3 70 .4 57 .2 51 .2 47 .7 3. 5 3. 2 3. 1 2. 2 2. 4 2. 3 2. 1 2. 3 3 3 3 2 2 2 2 2 34 4 31 0 30 0 29 9 22 3 23 6 22 0 20 1 94 .0 84 .9 83 .6 82 .8 61 .4 64 .7 60 .1 54 .9 3. 8 3. 1 3. 1 2. 3 2. 1 2. 5 2. 1 2. 4 4 3 3 2 2 2 2 2 4 .2 0* 5 .2 8* * 57 9 51 8 50 5 48 9 40 7 37 4 34 7 31 8 93 .4 83 .4 82 .2 79 .5 65 .9 60 .1 55 .7 51 .2 3. 6 3. 1 3. 1 2. 2 2. 2 2. 4 2. 1 2. 3 4 3 3 2 2 2 2 2 関 器 節 系 運 症 動 状 肩 こ り 骨 盤 痛 腰 背 部 痛 下 肢 の だ る さ や 痛 み こ む ら 返 り 48 37 33 29 17 85 .7 66 .1 58 .9 51 .8 30 .4 2. 9 1. 9 2. 4 2. 1 2. 1 3 2 2 2 2 15 1 13 7 13 3 13 3 94 75 .1 68 .2 66 .5 66 .5 46 .8 2. 9 2. 5 2. 5 2. 4 2. 1 3 2 2 2 2 27 7 29 8 29 4 27 1 24 6 75 .7 81 .4 80 .5 74 .0 67 .4 2. 9 2. 8 2. 8 2. 5 2. 3 3 3 3 2 2 8 .4 5* ** 47 6 47 2 46 0 43 3 35 7 76 .4 75 .8 74 .1 69 .6 57 .4 2. 9 2. 6 2. 7 2. 4 2. 2 3 3 3 2 2 全 身 性 ・ 精 神 神 経 系 症 状 易 疲 労 感 全 身 倦 怠 感 強 い 眠 気 イ ラ イ ラ 感 熟 眠 困 難 感 抑 う つ 気 分 入 眠 困 難 感 ち ょ っ と し た こ と が 思 い 出 せ な い 物 事 が 気 に か か る 脱 力 感 52 52 51 44 39 38 35 36 30 36 92 .9 92 .9 91 .1 78 .6 69 .6 70 .4 62 .5 64 .3 53 .6 64 .3 3. 3 2. 9 2. 8 2. 6 2. 7 2. 0 2. 3 2. 0 1. 8 2. 2 3 3 3 2.5 3 2 2 2 2 2 19 1 18 4 17 4 16 1 13 4 13 9 12 4 10 5 10 5 98 95 .5 91 .5 86 .6 80 .1 66 .7 69 .5 61 .7 52 .2 52 .2 48 .8 3. 1 2. 9 2. 5 2. 3 2. 6 2. 0 2. 2 1. 9 2. 0 2. 2 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 34 5 33 8 30 8 29 5 28 6 25 0 25 9 19 8 19 7 17 9 94 .3 92 .6 84 .4 80 .6 78 .4 70 .8 70 .8 54 .2 54 .0 48 .9 3. 3 3. 2 2. 6 2. 4 3. 0 2. 1 2. 6 2. 1 2. 3 2. 3 3 3 2 2 3 2 2 2 2 2 3 .8 1* 58 8 57 4 53 3 50 0 45 9 42 7 41 8 33 9 33 2 31 3 94 .5 92 .3 85 .7 80 .3 73 .8 70 .3 67 .1 54 .5 53 .4 50 .2 3. 2 3. 1 2. 6 2. 4 2. 9 2. 1 2. 5 2. 0 2. 2 2. 2 3 3 2 2 3 2 2 2 2 2 循 動 環 神 器 経 ・ 系 血 症 管 状 運 動 悸 ・ 息 切 れ め ま い ・ 立 ち く ら み 下 肢 の む く み 下 肢 の 冷 え 多 汗 体 熱 感 38 37 24 38 31 27 67 .9 66 .1 42 .9 67 .9 55 .4 48 .2 2. 2 2. 2 2. 2 2. 5 1. 9 2. 3 2 2 2 2 1 2 12 3 13 2 10 7 12 3 10 2 10 5 61 .2 65 .7 53 .5 61 .5 50 .7 52 .2 2. 2 1. 8 2. 2 2. 5 2. 1 2. 1 2 2 2 2 2 2 26 1 21 5 24 3 20 1 21 9 22 0 71 .5 59 .1 66 .8 55 .2 60 .7 60 .4 2. 5 1. 9 2. 7 2. 4 3. 0 2. 5 2 2 2 2 3 2 5 .9 1* * 21 .3 7* ** 3 .6 8* 42 2 38 4 37 4 36 2 35 2 35 2 67 .8 61 .8 60 .3 58 .4 57 .0 56 .7 2. 4 1. 9 2. 5 2. 4 2. 6 2. 4 2 2 2 2 2 2 皮 膚 ・ 口 腔 ・ 感 覚 器 系 症 状 皮 膚 の 乾 燥 臭 い に 対 す る 過 剰 反 応 好 み や 味 覚 の 変 化 肝 斑 ・ 雀 斑 体 毛 の 増 加 口 腔 内 出 血 掻 痒 感 口 臭 に 対 す る 過 剰 反 応 嗜 好 品 欲 求 の 変 化 色 素 沈 着 49 43 40 30 29 27 34 25 30 15 89 .1 76 .8 72 .7 53 .6 51 .8 48 .2 60 .7 44 .6 53 .6 26 .8 3. 2 3. 0 3. 1 2. 5 2. 4 1. 8 2. 8 1. 8 3. 1 2. 1 3 3 3 2 2 2 3 1 3 2 16 3 15 7 14 6 10 5 10 5 11 6 11 3 10 9 10 4 7 2 81 .5 78 .1 72 .6 52 .5 52 .5 57 .7 56 .2 54 .5 51 .7 36 .2 2. 8 3. 1 2. 7 2. 6 2. 7 2. 2 2. 4 2. 2 2. 9 2. 8 3 3 3 2 2 2 2 2 3 3 26 8 25 6 23 4 23 5 21 0 20 2 19 6 18 5 17 3 18 6 74 .0 70 .3 63 .9 64 .6 58 .0 55 .3 53 .7 51 .0 47 .4 51 .1 2. 6 3. 2 2. 6 2. 6 2. 7 2. 3 2. 5 2. 2 3. 0 2. 9 2 3 2 2 2 2 2 2 3 3 4 .0 7* 48 0 45 6 42 0 37 0 34 4 34 5 34 3 31 9 30 7 27 3 77 .8 73 .4 67 .5 59 .7 55 .7 55 .5 55 .1 51 .5 49 .4 44 .1 2. 7 3. 2 2. 7 2. 6 2. 7 2. 2 2. 5 2. 2 3. 0 2. 8 3 3 2 2 2 2 2 2 3 3 発 症 率 :「 1点 : ま れ に あ る 」か ら「 5点 : い つ も あ る 」と 回 答 し た 数( 有 症 者 数 )と そ の 割 合 , 発 症 頻 度 : 有 症 者 に お け る 平 均 値 と 中 央 値 : 発 症 率 75 % 以 上 90 % 未 満 : 発 症 率 90 % 以 上 F 値 は 妊 娠 初 期 , 中 期 , 末 期 の 3群 間 の 一 元 配 置 分 散 分 析 , *p < 0. 05 , ** p< 0. 01 , ** *p < 0. 00 1
りであった。妊娠末期では,骨盤痛,腰背部痛,下肢 のだるさや痛み,こむらがえりの発症率が高い傾向が 見られた。骨盤痛は妊娠経過とともに発症頻度も高く なっており(F(2, 469)=8.45, p=0.000),末期は初期 と比べて有意に高かった(p=0.001)。 4 )全身性・精神神経系症状 この群では易疲労感,全身倦怠感,強い眠気の順 に発症率が高かった。妊娠全期を通じ,易疲労感は 92.9%から95.5%,全身倦怠感は91.5%から92.9%の 妊婦に発症し,有症者における発症頻度は中央値3(た びたびある)であった。強い眠気や脱力感の発症率は 妊娠初期に特に高い傾向が見られた。熟眠困難感と入 眠困難感は妊娠末期に発症率が高い傾向が見られた。 妊娠全期を通じ,イライラ感は78.6%から80.6%,抑 うつ気分は69.5%から70.8%,ちょっとしたことが思 い出せないは52.2%から64.3%,物事が気にかかるは 52.2%から54.0%の妊婦に発症していた。 5 )循環器・血管運動神経系症状 動悸・息切れ,めまい・立ちくらみ,下肢のむくみ の順に発症率が高かった。妊娠初期に発症率が高い傾 向が見られたのは下肢の冷えであった。妊娠末期に発 症率が高い傾向がみられたのは下肢のむくみ,多汗及 び体熱感であった。めまいや立ちくらみの頻度は妊娠 初期に高い傾向があり,妊娠初期は中期に比べて有意 に高かった(p=0.04)。下肢のむくみ(F(2, 371)=5.91, p=0.003),多汗(F(2, 349)=21.37, p=0.000),及び 体熱感(F(2, 349)=3.68, p=0.03)の発症頻度は妊娠 時期で差があり,妊娠末期の方が中期と比べて有意に 高かった(下肢のむくみp=0.003,多汗p=0.000,体 熱感p=0.02)。 6 )皮膚・感覚器系症状 発症率は皮膚の乾燥,臭いに対する過剰反応の順に 高かった。皮膚の乾燥は妊娠初期に好発する傾向があ り,発症頻度は妊娠時期で有意差があり(F(2, 477)= 4.07, p=0.02),妊娠初期は末期と比べて有意に高かっ た(p=0.02)。また,好みや味覚に対する変化は妊娠 初期72.7%,中期72.6%で時期による変化は見られな かった。 7 )その他 嗜好品欲求の変化(49.4%)と色素沈着(44.1%)の発 症率は50%未満であったが,有症者における発症頻 度は中央値3(たびたびある)であった。また,肝斑や 雀斑,体熱感,残尿感,体毛の増加,口腔内出血,掻 痒感,物事が気にかかる,口臭に対する過剰反応,陰 部不快感,脱力感の発症頻度は平均2.1から2.7(中央 値2ときどきある)であったが,50.2%から59.7%の妊 婦に発症していた。 竹中(1989)のMSのうち,発症率が50%未満で発症 頻度の中央値2(ときどきある)以下であった症状を表 3に示した。また,口腔症状のうち,う歯,歯肉の腫 脹・歯の動揺感及び歯痛の発症率は21.9%から25.2% で,発症頻度は平均1.7から2.0,中央値1(まれにある) から2(ときどきある)であった。 2.MSの発症数と上位10症状 妊娠全期における1人あたりのMS発症数は47症状 のうち,2から46症状で平均27.0( 10.4)症状であった。 属性による1人あたりのMS発症数は表4に示した通り で,有意な差ではないが初産婦の方が経産婦よりも多 かった。また,未就労妊婦の方が就労妊婦に比べ有意 に発症数が多かった(t(545)=2.70,p=0.007)。そこで, 1人あたりのMS発症数を初経産別と就労の有無との 4群間で比較したところ,交互作用が有意であった(F (1, 538)=9.07,p=0.003)。また,初産婦における就 労の有無(F(1, 538)=15.93,p=0.000)と,未就労妊 婦における初経産別(F(1, 538)=8.45,p=0.004)で 単純主効果が有意であった。すなわち,初経産別と就 労別との4群間において,未就労初産婦のMS発症数 が有意に多いことが示された。 表3 発症率及び発症頻度が高くない不快症状 症状名 妊娠全期(n=623) 発症率 発症頻度 名 % 平均値 中央値 嘔吐 むねやけ 痔(脱肛) 手根幹症候群 手指の感覚鈍麻 下肢の痺れ 下肢の感覚鈍麻 頭重感 後頭部痛 仰臥位低血圧症候群 呼吸困難感 静脈瘤 妊娠線 毛髪の減少 鼻出血 151 298 215 85 55 66 45 282 113 248 266 83 197 120 139 24.2 48.1 34.7 13.6 8.8 10.6 7.3 45.5 18.2 39.9 43.0 13.3 32.2 19.4 22.4 1.7 2.0 2.5 2.1 2.0 1.7 1.9 1.8 1.6 2.1 2.2 2.5 2.5 2.1 1.9 1 2 2 2 1 1 2 1 1 2 2 2 2 2 2 発症率:「1点:まれにある」から「5点:いつもある」と回 答した数(有症者数)とその割合 発症頻度:有症者における平均値と中央値
妊娠時期別では初期25.2( 10.8)症状,中期27.0( 9.7)症状,末期27.3( 10.8)症状であり,妊娠時期に よる差はなかった。また,妊娠時期による発症数は初 経産別または就労の有無で有意差はなかった。 初経産別または就労の有無別の発症率の上位10症 状を表5,6に示した。第10位までの症状は初産婦で は78.4%以上,経産婦では79.3%以上の妊婦に発症し, 易疲労感,頻尿,全身倦怠感,腹部の締め付け感が上 位を占めた。初産婦では口渇(5位)や排便困難感(7位), 下腹部の緊張や攣れ(10位)の発症順位が高く,経産 婦ではイライラ感(5位),骨盤痛(10位)の発症順位が 高かった。一方,就労妊婦と未就労妊婦における第1 位から10位を構成する症状は9症状が同じで,帯下の 増加と皮膚の乾燥のみが異なっていた。性欲減退感と 皮膚の乾燥を除くすべての症状の発症率は,未就労妊 婦の方が高い傾向が見られた。中でも,未就労妊婦で は強い眠気(5位),帯下の増加(7位),イライラ感(8位) の発症順位が高かった。 3.MSの特徴 妊娠全期でフロア効果のある症状を除いた29症状 を因子分析した結果,5因子(19症状)が抽出され,5つ の症状群が明らかとなった。第1因子は項目平均値が 妊娠経過と共に高くなっており,妊娠時期による有 意な差があった(F(2, 606)=10.77,p=0.000)ことか ら,「胎児の発育に関連する筋関節症状群」と命名した。 以下それぞれの症状群を構成する症状から,「上部消 化器症状群」,「便秘関連症状群」,「睡眠関連症状群」, 「ネガティブな精神症状群」と命名した(表7)。この19 症状の合計得点とMS47症状の合計得点との有意な強 い正の相関が見られた(r=0.93,n=536,p=0.000)。 各症状群のCronbach α係数は0.669から0.819であ り,「上部消化器症状群」だけがやや低いが,その他は 内的整合性が確認された。また,構成概念妥当性は, 各症状群の項目平均値を従属変数とし,妊娠中と非妊 時で比較し検討した。その結果,妊娠中は非妊時より もすべての項目平均値が有意に高いことが確認された (表8)。
Ⅴ.考 察
従来のMSに関する調査の多く(竹中,1989;木村ら, 1990;伊藤ら,1993)は1施設で行われていたが,本 研究は全国の11施設に通院している623名の妊婦を対 象とした初めての大規模調査である。また,現代の妊 婦のMSを明らかにするために,先行研究,MSに関 連のある症状,及び妊産褥婦から聞き取った症状か ら95症状を抽出し作成した質問紙を用いた。妊婦に 対する横断調査の結果から,発症率または発症頻度が 表4 1人あたりのMS発症数の属性による比較 全 体 初産婦 経産婦 全 体 (n=548)27.0 10.4 (n=309)27.5 10.4 (n=234)26.3 10.5 就 労 妊 婦 (n=141)25.0 10.2 23.8 10.6(n=90) (n=50)27.1 9.1 未就労妊婦 (n=406)27.7 10.4 (n=219)29.0 10.0 (n=183)26.0 10.8 1人あたりの発症数:47症状すべてに対し回答した妊婦に おける有症数の平均 †対応のないt検定,‡単純主効果の検定 *p<0.05,**p<0.01,***p<0.001 † ** ***‡ ‡,* 表5 妊娠全期の初経産別の発症率の上位10症状 症状名 初産婦 発症率(%) (n=342)(n=276)経産婦 (n=623)全 体 易疲労感 頻尿 全身倦怠感 腹部の締め付け感 強い眠気 口渇 帯下の増加 性欲減退感 排便困難感 イライラ感 下腹部の緊張や攣れ 骨盤痛 93.9 94.2 89.2 90.1 85.4 88.0 82.5 80.7 82.7 78.4 94.9 91.3 95.7 87.3 85.9 81.2 84.1 81.5 86.2 79.3 94.4 92.9 92.1 88.9 85.6 85.1 83.1 81.1 80.6 80.3 表6 妊娠全期の就労の有無別の発症率の上位10症状 症 状 名 就労妊婦発 症 率(%) (n=162)(n=460)未就労妊婦(n=623)全 体 易疲労感 頻尿 全身倦怠感 腹部の締め付け感 強い眠気 口渇 帯下の増加 性欲減退感 排便困難感 イライラ感 皮膚の乾燥 90.7 91.4 91.4 84.6 79.6 80.9 82.1 79.6 77.8 77.8 95.7 93.5 92.4 90.4 87.6 86.5 86.1 80.7 80.9 81.1 94.4 92.9 92.1 88.9 85.6 85.1 83.1 81.1 80.6 80.3高い症状を抽出し,47症状を最近のMSとした。この 47症状には竹中の16症状の他に,腹部の締め付け感, 排便困難感,尿漏れ,冷え,皮膚の乾燥,易疲労感や 全身倦怠感などの全身症状,臭いや口臭に対する過剰 反応や味覚の変化などの感覚器症状が新たに抽出され た。 1.MSの種類と発症状況 1 )消化器系症状 本調査では,先行研究で取り上げられてこなかった 腹部の締め付け感及び排便困難感が妊娠全期を通じて 表7 因子分析により抽出されたMS症状群 症 状 名 症 状 群 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅰ.胎児の発育に関連する筋関節症状群 α=0.819 骨盤痛 下肢のだるさや痛み 腰背部痛 下腹部の緊張や攣れ 動悸・息切れ 全身倦怠感 易疲労感 0.728 0.702 0.682 0.602 0.538 0.487 0.420 0.190 0.154 0.074 0.022 0.171 0.182 0.193 0.020 0.024 0.005 0.083 0.004 0.101 0.054 0.086 0.093 0.004 0.049 0.038 0.041 0.055 0.132 0.126 0.057 0.098 0.085 0.256 0.285 Ⅱ.上部消化管症状群 α=0.669 好みや味覚の変化 嘔気 臭いに対する過剰反応 口渇 腹部の締め付け感 0.123 0.172 0.049 0.050 0.264 0.650 0.589 0.572 0.535 0.412 0.002 0.004 0.041 0.026 0.083 0.082 0.084 0.004 0.035 0.012 0.006 0.005 0.025 0.083 0.086 Ⅲ.便秘関連症状群 α=0.790 排便困難感 排便回数や量の減少 便やガスによる腹部膨満感 0.026 0.056 0.108 0.083 0.020 0.157 0.934 0.763 0.504 0.003 0.017 0.004 0.065 0.005 0.014 Ⅳ.睡眠関連症状群 α=0.811 入眠困難感 熟眠困難感 0.0180.083 0.000 0.020 0.012 0.012 0.8650.707 0.022 0.071 Ⅴ.ネガティブな精神症状群 α=0.778 イライラ感 抑うつ気分 0.0260.103 0.0800.042 0.039 0.032 0.052 0.035 0.807 0.774 症 状 群 間 相 関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 1 0.56 0.25 0.47 0.60 0.56 1 0.28 0.34 0.65 0.25 0.28 1 0.24 0.24 0.47 0.34 0.24 1 0.47 0.60 0.65 0.24 0.47 1 因子分析(主因子法,プロマックス回転) 表8 妊娠中と非妊時におけるMSの項目平均値の比較 MS症状群 n 平均値 標準偏差 t値 胎児の発育に関連する筋関節症状群 妊娠中非妊時 603 2.120.60 1.050.56 40.65 *** 上部消化管症状群 妊娠中非妊時 607 2.080.40 1.030.49 40.72 *** 便秘関連症状群 妊娠中非妊時 613 1.880.90 1.351.01 17.33 *** 睡眠関連症状群 妊娠中非妊時 622 1.880.80 1.550.99 18.64 *** ネガティブな精神症状群 妊娠中非妊時 603 1.671.12 1.270.99 12.36 *** 対応のあるt検定,***p<0.001
高率に発症し,有症者の発症頻度も高かった。また, 70%前後の妊婦が妊娠初期より食欲の増進を感じてい るという新しい結果が得られた。 2 )泌尿器・生殖器系症状 泌尿器・生殖器系症状は発症率,発症頻度共に高く, 妊婦に不快な症状として自覚されやすいことが示され た。中でも,頻尿は妊娠子宮の膀胱圧迫による膀胱容 量の減少が原因であるために,妊娠初期・末期に多い といわれてきた(竹中,1989)。しかし,本調査によっ て妊娠初期から90%以上の妊婦に発症し,妊娠経過 と共に発症率が高くなることが明らかとなった。 また,尿失禁は1990年代後半から盛んに研究され るようになった症状で(坂口ら,1998;渡邉ら,1998), それ以前はMSとしては取り扱われていなかった。く しゃみや笑ったときに尿が漏れることから,骨盤底筋 群の弛緩による腹圧性尿失禁が原因にあると考えられ る。渡邉ら(1998)は中期以降の発症率を 52.2%と報 告しているが,本研究により初期から41.1%の妊婦に 見られ,妊娠経過と共に発症率が高くなり,末期には 65%に達することが示された。 3 )関節・運動器系症状 関節運動器系症状は,胎児の増大による骨格筋へ の負担や下腿静脈圧迫による循環不全の影響(正岡ら, 2002)により,発症率・頻度共に妊娠の進行に伴って 高くなっていた。 腰背部痛は発症率の高いMSの1つであり(竹中, 1989),寝返りを困難にし(村井ら,2005)睡眠を阻害 する(Skaggsら,2007)など日常生活に影響を及ぼす MSとしても知られている。本研究では,疼痛部位や 対処の違いで胎児の発育に伴う腰椎由来の腰背部痛と, リラキシンなどのホルモンにより結合組織が緩むこと に伴う骨盤関節由来の骨盤痛(Ostgaard & Andersson, 1994)に分けて調査を行った。その結果,骨盤痛と腰 背部痛は妊娠初期から約60%の妊婦に発症しており, 妊娠の経過と共に増え,末期にはそれぞれ80%を超 えることが示された。この結果は村井ら(2005)の調 査(初期20.0%,中期44.2%)と比べ非常に高率である。 さらに,骨盤痛は末期には有意に発症頻度が増し重症 化することが明らかとなった。 4 )全身性・精神神経系症状 易疲労感,全身倦怠感及び眠気は発症率,発症頻度 共に妊娠全期を通じ高いことが明らかとなった。また, イライラ感や抑うつ感は妊娠中のすべての時期に発症 率が高く,妊娠中の精神状態の特徴と考えられた。 妊娠中の注意力の低下に対する訴えは臨床的に観察 されるが,20年前の調査(合田ら,1990)における発症 率は初産婦12.0%,経産婦5%で他のMS症状と比べ て低いことが報告されている。しかし,本研究によっ てイライラ感,ちょっとしたことが思い出せない,物 事が気にかかるなど注意力の低下を示す症状は妊娠の どの時期にも50%以上の妊婦に見られることが明ら かとなり,妊娠による注意力の変化に対する周囲の理 解の重要性が示された。 5 )循環器・血管運動神経系症状 冷えは臨床的には妊娠末期に腹部増大による骨盤周 囲の血行不良が原因となって起こると考えられ,前期 破水や分娩遷延との関連が観察されている。しかし, 本調査における冷えの発症率はめまいや立ちくらみと 同様に初期が最も高く,自律神経の不安定さ(竹田& 安達,2006)の影響が考えられた。 6 )皮膚・口腔・感覚器系症状 (1)皮膚症状 妊娠中は脂腺等の機能亢進(原田,2002)により表皮 は潤うことが予測されたが,本調査では皮膚の乾燥は 妊娠全期で高率に見られ,特に妊娠初期に多く,発症 頻度も高いことが明らかとなった。一方,掻痒感は胆 道圧迫による胆汁うっ滞及び高濃度のエストロゲン (小澤&上原,2006),エクリン汗腺の機能亢進による 多汗及び汗疹(原田,2002)が原因であり,妊娠末期に 多いといわれている。しかし,本調査では掻痒感は妊 娠初期に高率に見られ,乾燥との関連が考えられた。 肝斑・雀斑及び色素沈着はメラノサイト,エスト ロゲン及びプロゲステロンが原因で起こり,70%から 90%以上の発症率(原田,2002)といわれている。本調 査における発症率は50%前後であった。 (2)口腔・感覚器系症状 口腔内出血や口臭に対する過剰反応は50%以上の妊 婦に見られ,良村ら(1990,出血15.8%,口臭10.1%) よりも高かった。また,歯肉の腫脹・動揺感(22.7%) についても,良村ら(腫脹感9.3%,動揺感1.6%)より も高かった。臭い,味覚及び嗜好品に対する感覚の変 化の発症率は,つわりの好発時期と同期することが予 測されたが,妊娠全期を通じ変化はないことが明らか となった。 2.好発症状と1人あたりのMS発症数 1人あたりの妊婦が発症するMS数は,初産婦の方 が経産婦よりも多い傾向が見られた。また,就労妊婦
よりも未就労妊婦の方が多く,中でも未就労初産婦の MS発症数が多いことが明らかとなった。石井ら(1988) は,妊娠前と比べ妊娠中は余暇時間中に休養時間が占 める割合は多く,余暇時間が長い妊婦ほど不快症状が 多いことを指摘している。また木村ら(1990)は,妊 婦水泳など妊婦同士の交流や適度な運動を行っている 未就労妊婦は,就労妊婦よりもMSの発症が少ないこ とを報告している。未就労初産婦は就労妊婦や未就労 経産婦と比べ,余暇時間をとりやすいと推測されるこ とから,MS発症数と余暇時間の長さやすごし方との 関連が推察された。 一方で,妊娠時期で1人あたりのMS発症数に違い はないこと,易疲労感,頻尿,全身倦怠感,腹部の締 め付け感,強い眠気,口渇,帯下の増加の7症状は妊 娠全期を通じて高率に発症するMSであることが明ら かとなった。また,初期は皮膚の乾燥,肩こり及び嘔 気,中期は皮膚の乾燥及びイライラ感,末期は胃部圧 迫感,下腹部の緊張と攣れが高率に発症することが明 らかとなった。これはMSが妊娠各期の生じる生理的 変化,胎盤などから分泌されるホルモンによる内分泌 的変動,及び自律神経症状が原因となって生じている ためである(堀口,1994)。このことは,妊娠のどの時 期においても妊婦に対しMSのセルフケアのための助 言が必要であることを示している。各症状の好発時期 を考慮して妊娠各期の健康診査や保健指導を行うこと が重要である。さらに,初経産別または就労の有無に よっても好発症状に違いがあることから,妊婦のセル フケアへの助言の際には対象の背景による好発症状の 違いにも配慮が必要である。 3.MSの特徴 因子分析を用いてMSの症状群の検索を試みたとこ ろ,胎児の発育に関連する症状,上部消化器系,便秘 関連,睡眠関連,ネガティブな精神症状の5つの症状 群の存在が本研究では明らかとなった。そのため,妊 娠全期で発症率の高い頻尿,帯下の増加及び性欲の減 退感は,他の症状とは関連なく発症していることが示 唆された。この因子分析により抽出された症状の合計 得点は47症状の合計得点との関連が強かった。また, 妊娠中と非妊時の比較により構成概念の妥当性も確認 された。しかし,この中には2症状で構成される症状 群があり,症状群を下位尺度として使用するためには, 妥当性を高めるための検討が必要である(石井,2005)。
Ⅵ.助産実践への示唆
今回の包括的な調査により現代妊婦のMSの実態が 明らかとなり,この20年間で種類,発症率及び発症 頻度が変化していることが本研究で明らかにされた。 また,新たにMSとして把握しておくべき症状も明ら かとなった。MSは妊婦により適切にセルフケアされ ることにより軽快できるものも多い(馬場ら,1989)。 対象の背景や妊娠時期により好発症状にも違いがある ことから,適切な時期に妊婦の状況にあった助言する ことが重要である。Ⅶ.本研究の限界と今後の課題
本研究は全国11箇所の医療機関の協力を得ること ができた。しかし,妊娠初期の対象数は56名で,中 期や末期と比べ少ない。これは妊婦健康診査及び母親 学級で調査票を配布したためである。妊娠初期は健診 間隔の長く対象となりにくいが,健診間隔が長いゆえ に妊婦によるセルフケアが必要な時期でもある。妊娠 初期の対象数を増やしてMSの発症率及び発症頻度を 確認し,臨床に応用できるMSのスクリーニング尺度 を開発することが今後の課題である。Ⅷ.結 論
MSに関連する先行研究,及び妊産褥婦に対するイ ンタビューから新たな質問票を作成し,全国の623名 の妊婦を対象に横断調査を行った。その結果,以下の ことが明らかにされた。 1 .最近のMS として,95の不快症状から発症率50% 以上,または発症頻度が「たびたびある」から「いつ もある」の47症状を抽出した。そのうち45症状は 50%以上の妊婦に発症している不快症状であった。 2 . 易疲労感,頻尿,及び全身倦怠感は,妊娠全期間 を通じて90%以上の妊婦に発症するMSであり,有 症者における発症頻度も高かった。 3 .1人あたりのMS発症数は2から46症状で平均27.0 ( 10.4)症状であり,初産婦の方が経産婦より多い が有意な差ではなかった。 4 .1人あたりのMS発症数は未就労妊婦の方が就労 妊婦より有意に多い。就労の有無と初経産との4群 間では未就労初産婦が有意に多かった。 5 .1人あたりのMS発症数は妊娠時期による差はなかった。妊娠時期により発症率の高い症状は異なる ことが明らかとなった。 6 .MSを代表する5症状群は「胎児の発育に関連する 筋関節症状群」,「上部消化器症状群」,「睡眠関連症 状群」,「便秘関連症状群」,「ネガティブな精神症状 群」であった。 謝 辞 本調査にご協力くださいました妊婦の皆様,調査施 設の医師及び看護職の皆様に深謝いたします。本研究 は平成20年度日本助産学会研究助成金(学術奨励研究) を受けて行った。また大阪大学大学院医学系研究科に 提出した博士論文の一部に加筆修正をしたものである。 引用文献 青木康子,加藤尚美,平澤美恵子編(1996).助産学大系 第2版,141,東京:日本看護協会出版会. 馬場幸子,成田みゆき,永岡美代子他(1989).生活環境 などからみた妊娠中のマイナートラブル̶その実態と 対応̶,助産婦雑誌,43(2),104-116. 深井喜代子,杉田明子,田中美穂(1995).日本語版便秘 評価尺度の検討,看護研究,28(3),201-207. 合田典子,白井喜代子,安達直子(1990).妊産婦の自覚 症状に関する継続調査̶妊娠中から産褥1か月まで̶, 母性衛生,31(3),344-351. 原田晴美(2002).妊娠中の皮膚の特徴と手入れ,1.妊娠 から産後へ̶楽しく過ごす工夫,周産期医学,32増刊 号,57-61. 堀口文(1994).マイナートラブルとは何か,助産婦雑誌, 48(9),711-719. 石井邦子,笠間道子,工藤アキ子他(1988).妊婦の生活 と不快症状に関する一考察,母性衛生,29(4),375. 石井秀宗(2005).統計分析のここが知りたい,108,東京: 文光堂. 石野智美,内野潤子,長瀬豊子他(1994).つわりと心理 的背景との関連,愛知母性衛生学会誌,12,25-32. 伊藤登美,蒲峰子,白井久美他(1993).マイナートラブ ルに対する意識調査̶快適な妊娠期間を目指して̶, 愛知母性衛生学会誌,11,26-29. 我部山キヨ子編(2006).臨床助産師必携 生命と文化を 踏まえた支援 第2版,194,東京:医学書院. 茅島江子,前原澄子,江守陽子(1984).性周期における 愁訴の分析,母性衛生,25(3),332-340. 木村好秀,古橋幸乃,渡部理佳他(1990).妊娠8ヶ月にお ける妊婦のマイナートラブル̶教職群と水泳群との比 較検討̶,産婦人科の実際,39(5),785-790. 厚生労働省 http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/data/010/ 2006/toukeihyou/0006067/t0134530/MB210000_001.html [2008.10.30] 小山嵩夫(1993).更年期̶閉経外来,更年期から老年期 の婦人の健康管理について,日本医師会雑誌,109, 259-264. 正岡直樹,早川康仁,山本樹生(2002).手のしびれ,足 のけいれん,周産期医学から出産・育児を考える,周 産期医学,32増刊号,18-21. 村井みどり,楠見由里子,伊東元(2005).妊婦及び褥婦 における腰背部痛の実態調査,茨城県立医療大学紀要, 10,47-53. 日本産業衛生協会産業疲労研究会(1970).産業疲労の「自 覚症状しらべ」についての報告,労働の科学,25(6), 12-33.
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