C A N C E R 19 (2010), p. 57-59
クシノハクダヒゲ工ビ( 根鯨聖目: クダヒゲ工ビ科) の駿河湾からの初記録
奥野淳児 ・中野誠志
は じ め に 根 間 亜 目 ク ダ ヒ ゲ エ ピ 科 ク ダ ヒ ゲ エ ビ属Solenocera
Lucus, 1849 の 1 種 で あ る ク シ ノ ハ ク ダ ヒ ゲ エ ピSolenocera pectinulata
K u b o, 1949 は,熊野灘の水深350m
で採集された雄1 個体 に基づ いて新種として記載され (K u b o,1949), その後,圏内 で は 西 日 本 太 平 洋岸 の各地 (林, 1992) ,海外ではインド洋, インドネシア,フ ィ リピン,中国,オーストラリアから報告されて し、る (Crosnier,1978; Liu & Zhong, 1986; Perez Farfante & K ensley, 1997; Dall, 1999).2008年2 月,静 岡県沼津市 大瀬 │崎のダイビン グガイドである鈴木僚太郎氏は,同地先の浅海 における夜間潜水中に,囲内で刊行されているダ イパ一向けの甲殻類ガイドブ ックには紹介されて いないエピを発見 ・撮影した . その後,2010年 2 月に,同じダイビングポイントで著者のひとり中 野が勤務するダイビングサービスのゲストである 山本竜也氏によ って同種と思われるエビが再発見 され,中野がこれを撮影した (図1 ). 後日 , そ の種の雌1 個体が採集され,これを精査したとこ ろ,クシノハクダヒゲエビに同定された 本穫の 駿河湾からの記録はこれが初めてとなり,分布の 北限が更新されたため,ここに報告する また, 本種の生時の様子が水中写真 によ って学術刊行物 に公表 されるのは,今回が初めてである . 材料と方法 調査した標本の大き さは,頭胸甲 長で示した . 標本は,以下のとおり千葉県立中央博物館分館
Junji O KUNO & Seishi N AKANO: First record of a solenocerid shrimp,
Solenocera pectinulata
K u b o,1949 (Dendrobranchiata: Solenoceridae) from Suruga Bay 海の博物館甲殻類資料 (C M N H - Z C) として 登録 ・ 保管されている. ク シ ノ ハ ク ダ ヒ ゲ エ ビ
Solenocera pectinul
αta
K ubo, 1949. C M N H - Z C 02396,雌1個体,頭胸甲長 8.1 m m,静岡県沼津市大瀬崎地先,水深 30 m , 2010年2 月10 日,中野誠志採集 結果と考察 この度調査した標本は雌であるが,以下に挙 げた形態的特徴において,クシノハクダヒゲエ ピSolenocera pectinulata
に同定される : 頭胸甲に は眼禽後林,月干秘,触角上赫, 胃上赫を有するが 前側角糠を欠く (図2 A); 頭胸甲の背中隆起は頚 溝より前では顕著だが,それより後方では不明瞭 (図2 A); 頭胸甲の肝隆起の前方は鈍角の突起と なり ,頭胸甲前縁の手前に達する (図2 A); 額角 は短く,ま っすぐで,背縁 には眼商より前方に4 本,それよ り後方に2 本の歯を備える (図 2 A ); 第3腹節の背中線上には,後方3分の2に背隆起 があり (図2 B ),この隆起は第 6 腹節まで続い ている; 第1 触角下鞭の鞭状部は短く ,頭胸甲の 約1 .2倍で, 43I i 行からなる . 本種は 三重県尾 鷲沖の熊野灘産の雄1 個体に 基づき新種として記載され (K u b o,1949),国内 では 他 に紀伊半島の串本 (野村 ,1991),紀伊半 島沖 (K u b o,1951,キイクダヒゲエピSolenocera
utinomii
K u b o, 1951 として; 林, 1992), 土 佐 湾 (林, 1986),豊後水道 (林, 1992) から報告が ある. また,r
毎外ではケニア (Crosnier,1978), モーリシャス (Crosnier,1978), マ ダ ガ ス カ ル (Crosnier, 1978),インドのコーチン 沖 (Crosnier, 1978) ,インドネシア (Crosnier,1978, 1985),フィリピン (Motoh
&
Buri, 1984; Crosnier, 1989),中 国の南シナ海沿岸 (Liu & Zhong, 1986),ならび にオーストラリア北東部 (Dall,1999) か ら知ら58
クシノハクダヒゲエビ (根鯨亜日: クダヒゲエピ科) の駿河湾からの初記録 れている. 従って,この度の採集地点である駿河 湾は ,これまでに知 られている本径の分布の北限 350 m とやや深く (Crosnier,1989; Dall, 1999), この度の標本が採集された水深は ,従来の報告 と比べて浅いといえる . 大i
頼崎では,通常深所に 棲息するエビ類が冬期にはダイパーの潜水可能な 水深帯で、観察で、きる (奥野 ・峯水,1998; Okuno & Yanagisawa, 2001) . こ のことは駿河湾の急岐に深 くなる地形と冬期の水温低下に由来するものと考 えられ,クシノハクダヒゲエピの場合もその事例 のひとつとなると推察される . 著者のひとり中野 は,水温13t の 海 底 で 本 種 の 動 き を 観 察 し た 本 種は腹肢を使って素早く泳ぐのではなく,海底を 緩慢に照行し ,危険を感じると海底に対して垂直 の向きにゆっくりと砂中に潜 ってい った これまでにクシノハクダヒゲエビの色彩を図 示した文献として,次のふたつが挙げられる . ま ず,土佐湾産の個体が林 (1986)によ ってカラー で図示された . この個体では ,頭胸甲,腹節,胸 ) 仰はピンク色を 帯 びた白色で,各腹節の後縁上に 赤い線が横走し ,各腹肢の基節は黄色を 呈 してお り,全体的に赤褐色や鮮赤色である日本産同属他 種とは明らかに異なっていることがわかる. しか しながら,生時の詳細な斑紋パターンは消失して しま っている. 次に ,野村 (1991)によ って図示 された紀伊半島串本産の個体の写真は,白黒で印 刷されているものの,生時の斑紋パターンの詳細 を知ることができる唯一の情報源である. 本研究 では,串本海中公園センターの野村恵一氏のご厚 意により , この写真 をカラーの状態で確認させて いただいたところ,タイプ産地に近い串本産の個 体の色彩は,駿河湾産のもの (図1
) とよく 一致 した. 本種は,野村 (1991) が指摘しているよう に,生時には頭胸甲の心域や偲域,腹節の背板, 各腹肢の基節が鮮黄色を 呈 し,頭胸甲の肝域や腹 節の側面に濃赤色の紋や短い線を備える特徴的な 色彩によ って,少なくともこれまでに生時の色彩 が知られている同属他種からの識別が容易で、ある なお, クシノハク夕、ヒゲエピに生時の色彩が 酷似したエピの水中写真を Solenoceraj加oni D e M a n, 1907 として報告している水中 写 真 集が見 られる. D ebelius (1999)に 掲 載 さ れ た 2 点 の うちの1 点はパプアニューギニアで撮影され, D ebelius (1999) のもう 1 点 の 写 真 と Kuiter& D ebelius (2∞
9) のものは同じカ ッ トであるが,図 1 クシノハクダヒゲエビ Solenoceraρectinulata Kubo. 1 9 4 9.静岡県沼津市大瀬崎地先における 生態写真 (撮影 . 中野誠志)ー
奥野淳児 ・中野誠志
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図2 クシノハクタヒゲエビ S olenocera pectinulata Kubo, 1 9 4 9. 静岡県沼津市大瀬崎地先産,雌, C M N H - Z C 02396. A ,頭胸甲と左側頭部付属肢,側面; B ,第3 ,4腹節,背面 インドネシアのパリ島の浅海で撮影されている. これらは標本に基づいた同定ではないため ( デベ リウス氏,私信),分類学的位置付けを明確にする ためには今後標本を採集した上での精査が必要で、 あるが,色彩だけから判断すると,クシノハクダ ヒゲエピに同定される可能性が高いものと思われ る. 謝 辞 大瀬崎で、最初にクシ ノハ ク ダ ヒ ゲ エ ビ を 発 見 し , そ の 情 報 を 提 供 し て 下 さ っ た 大 瀬 館 マ リ ン サ ー ビ ス の 鈴 木 僚 太 郎 氏 ならびに同地での本種 の再発見にご協力いただいたはごろもマリンサー ビ ス 大 瀬 崎 の ゲ ス ト で あ る 山 本 竜 也 氏 に 感 謝 す る. クシノハクダヒゲエビの生時の色彩に関する 貴 重 な 情 報 を 下 さ っ た 串 本 海中公 園 セ ン タ ー の 野 村 恵一氏に記して深甚の謝意を表する. ドイツの ヘルムート ・デベ リウス氏には ,パ プ ア ニ ュ ー ギ ニアとインドネシアで撮影された同属工ピ類の写 真につい ての情報を提供していただいた. 心より 御礼申し上げる . 文 献
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(奥野淳児: 千葉県立 中 央 博 物 館 分 館 海 の 博 物 館 中野誠志: はごろもマリンサービス大瀬崎)