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娘の産後里帰りを引き受けた実母の体験

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Academic year: 2021

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日本赤十字広島看護大学(Japanese Red Cross Hiroshima College of Nursing)

2013年12月24日受付 2014年9月9日採用

資  料

娘の産後里帰りを引き受けた実母の体験

Experience of grandmothers whose daughters return home

for assistance with postpartum child care

中 村 敦 子(Atsuko NAKAMURA)

* 抄  録 目 的  本研究の目的は,実母が娘の産後の里帰りを引き受けた体験に,実母の人生においてどのような意味 があるかを明らかにすることである。 対象と方法  自然分娩した初産の娘の産後の里帰りを4∼6週間引き受け,その後の経過が2ヶ月以内の実母5名に 半構造化インタビューを行い,質的帰納的に分析した。 結 果  実母の人生において娘の産後里帰りを引き受けた体験の持つ意味として,【母親としての潜在的能力 の発揮】【娘と孫から得られた幸福】【自己成長への気づき】【人生の新たな方向性への気づき】の4つのコ アカテゴリーが抽出された。コアカテゴリーの【母親としての潜在的能力の発揮】は《娘の母親,妻,人 としての成長過程への見守り》《娘夫婦の幸福への力添え》のカテゴリーから,コアカテゴリーの【娘と 孫から得られた幸福】は《娘の成長への喜びと愛着の深まり》《孫から得た癒しと感動》のカテゴリーから, コアカテゴリーの【自己成長への気づき】は《娘を育てたことの自負心》《疲労感と自己犠牲の受容》《寛 容で大らかな自分への気づき》のカテゴリーから,コアカテゴリーの【人生の新たな方向性への気づき】 は《娘との新たな関係の構築》《娘の役に立てた喜び》《今後の自分らしい生き方の方向性》のカテゴリー から構成された。 結 論  実母の立場から娘の産後里帰りを引き受けた体験には,単なる育児支援ではなく,以下の意味がある ことが明らかになった。娘の母親である喜びとして,娘の母,妻,人としての成長への喜びと愛着,親 密性を深める。娘夫婦の良好な関係性を見守り娘夫婦の幸福に力添えし,娘の夫との関係性を形成する。 娘の子どもの祖母である幸福として,親密性と愛着を深め癒しを得,孫の成長に感動し活力を得る。自 己成長する自分に気づき,娘との新たな関係性を構築し,家族を大切にしながら個としての自分の人生 を大切にするという生き方の新たな方向性を見出し,発達し続ける自己に気づく意味がある。 キーワード:里帰り,育児支援,中高年女性,生涯発達

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Abstract Purpose

The purpose of this study was to find out the significance of a grandmother's life in experiencing her daughter's return home for postpartum assistance.

Subjects and Methods

Semi-structured interviews were conducted with five grandmothers who had provided postpartum assistance to their daughters, all of whom had returned home for 4 to 6 weeks in the 2 months prior to the study. All daughters were first-time mothers who had given birth naturally, and all data were analyzed by qualitative inductive analysis. Results

The following four core categories emerged when the significance to a grandmother's life in experiencing her daughter's return home for postpartum assistance was investigated: a) demonstrated latent abilities as a mother; b) gained happiness from daughter and grandchild; c) discovered personal growth; and d) discovered a new direction in life. The core category "demonstrated latent abilities as a mother" included the following categories: i) tracking the growth of the daughter as a mother, wife, and person; and ii) helping to bring happiness to her daughter and son-in-law. The core category "gained happiness from daughter and grandchild" included the following categories: i) happiness towards her daughter's growth and deepened affection; and ii) comfort and awe from the grandchild. The core category "discovered personal growth" included the following categories: i) pride in having raised her daughter; ii) acceptance of fatigue and self-sacrifice; and iii) discovered a tolerant and generous side of one's self. The core category "discovered a new direction in life" included the following categories: i) built a new relationship with the daughter; ii) happy to have been helpful to her daughter; and iii) a new direction to live the life one wants to live in the future.

Conclusions

The significance to grandmothers in accepting and providing postpartum assistance to daughters when they return home was not merely about providing childcare support; moreover, the following points were identified. Concerning a mother's happiness, it brings joy to watch one's daughter's growth as a mother, as a wife, as a person and deepens the affection and intimacy. It also enables her to watch over the amicable marital relationship between the daughter and the son-in-law, helps to bring happiness to the couple, and helps to foster relationships with the son-in-laws. Concerning a grandmother's happiness to their daughter's child, it deepens the sense of intimacy and affection and helps them gain a peace of mind. Watching the grandchildren grow provides them with inspiration and vitality. The experience helps them discover their self-growth and fosters new relationships with the daughters. It also aids in discovering a new direction in life that values individual life while treasuring one's family and noticing one's continuous self-growth.

Keywords: return home, childcare support, middle-aged women, lifelong development

Ⅰ.緒   言

 我が国では,出産後の女性への支援に他の先進国に は見られない産前産後に実家に帰って過ごす里帰りが ある。里帰りは,労働力として期待できないとされる 出産前後の数ヶ月間,実家で休むことを許されてい たといわれ,江戸時代には定着していた(小林・陳, 2008, pp.120-121)。  2005年の全国の出産施設454箇所の1ヶ月健診に来 所した母親を対象とした調査では,出産後の退院先 は60%が実家であり,1999年の調査と比較すると,産 後の家事育児を手伝う夫が減り,親の割合が増加し た(島田・杉本・縣他, 2006, p.752)。また,里帰り先 は妻方生家が97.3%であると報告されている(森田, 2002, p.20)。その他,里帰り分娩の実態とソーシャル サポートの検討を行った渡部・門脇・藤原他(2009, p.108)によると,支援者は実母が最も多く,96.6%で あった。現代においてもなお実家に帰る里帰りは多く みられ,その主な支援は,出産をした女性の実母によ って支えられていることが伺える。  実母側から見た里帰りの問題点に,今時の育児に自 信がないことや,娘の子育てへの助言をしたいにも関 わらず,実際には家事支援が多いことが報告されて いる(滝・森・大野他, 2010, p.72)。一方娘側からは, 実母との育児観の時代的相違と実母の過干渉(井関 ・白井, 2010, pp.676-677;白井・井関・久保他, 2006, p.34;前原・大月・林他, 2007, p.14),プライバシー が保たれない,産後の実母の支援が途切れることによ る不安,親子関係の葛藤の想起といった問題点が報告 されている(小林, 2010, p.35)。しかしながら,里帰り

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中の実母による支援は,娘が実母に対して,その育児 能力や人格と行動を承認し絶対的な信頼を持つと,娘 はストレスが緩和されることが示されている(井関・ 白井, 2010, p.676)。出産した女性にとって,出産後約 1ヶ月頃までは,援助者を忠実に模倣し適用しようと 試みながら母親役割を獲得していく時期であり(新道 ・和田, 2000, p.110),入院中に比べ産後1ヶ月時の母 親は否定的な気分が上昇し,産後18ヶ月にまで及ぶ (武田, 2009, p.205)ことを考えると,出産後1ヶ月頃 までは母親への支援のあり方が問われる重要な時期で あるといえる。  里帰り中の娘にとって実母は最も力強いモデルであ り(Rubin, 1984/2007, p49),実母から精神的な支えを 受け,実母を育児の経験者として師匠として見習う (小林, 2010, p.34)ことから,実母の支援は重要な子育 て資源であり(陳, 2000, p.16),今尚,現代日本におい て,多くが実母によって行われているといえる。  里帰りを引き受ける実母の年代である50歳代を超 えた女性は,少子化と長寿化により子育て後の期間が 長くなり,母親役割以外の個人としての人生が重要な 意味を持つようになった(柏木, 2004, p.32)。この年代 の女性は,自らの子育てを終了し,女性をとりまく対 象との関係が大きく変化し,個人としての生き方を問 い直す時期にあり(岡本, 2001, p.15),1人の女性とし て家庭や子供に縛られない自己の人生を生きるといっ た価値観の転換が見られ高い就業率にある(久保・刀 根・及川他, 2008, p.303)。そのような年代にある女性 による里帰り中の支援が当然のように慣例的に行われ ることは,実母にとって,受動的であり負担感に繋が りかねない。慣例的に行われていることを,実母の個 としての人生をどう生きるかという視点から問い直す 必要があると考える。  里帰り期間に限らず小学校低学年頃までの孫を持つ 実母を対象とした研究では,祖母になることには必要 とされる喜びがあること(久保・刀根・及川他, 2008, pp.305-307),孫の世話や孫との遊びには生きがいがあ るという報告が見られた(宮中・松岡・岩脇他, 1996, p.84)。現代においてもなお実家に帰る里帰りは多く みられ,その主な支援者が実母であることを考えると, 個人としての生き方に生きがいを見出す年代において, 妊娠・出産・育児体験を持つ女性が,娘の産後の里帰 りを引き受ける体験には意味があるのではないかと考 えられた。その意味を明らかにすることにより,実母 の体験が,単なる育児支援者としての負担感だけで終 えることなく,実母の生涯発達において意味あること と位置づけることができる。本研究の目的は娘の産後 の里帰りを引き受けた体験が,実母の人生においてど のような意味があるかを明らかにすることである。 [用語の操作的定義] 里帰り:他家に嫁いだ娘が出産を機に,実母宅に娘の 子どもや娘の夫と共に一時的に帰ること。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン 質的記述的研究  里帰りに関する先行研究では,娘を対象とした育児 不安や,育児支援についての研究が数多く見られたが, 実母の視点から里帰りを引き受けた体験のもつ意味を 研究した文献は検索できなかった。本研究では,実母 の体験にどのような意味があるかを明らかにすること を目的としている。したがって,実母自身の言葉を用 いて体験を記述し,その文脈から重要な意味を明らか にする質的記述的研究方法を用いた。 2.研究参加者  初産で自然分娩後の褥婦である娘と孫の1ヶ月健診 に付き添い来院した実母を,病棟師長から紹介を得た。 娘の産後の里帰りを自宅で4∼6週間引き受け,娘の 里帰り期間を終えその後の経過が2ヶ月以内で,娘の 里帰り期間中の体験が記憶に新しい,いずれも,研究 参加に承諾を得られた実母5名。 3.データ収集期間  2012年3月∼7月 4.データ収集方法  半構造化インタビューを選択した。研究参加者の要 件項目である娘の初経別,分娩様式,里帰り先と期間, 里帰り終了後からインタビュー実施までの期間を確認 した。研究参加者の背景把握として,年齢,健康状態, 就労,家族構成,娘の年齢,里帰りを引き受けた体験 回数,娘と孫の妊娠から産褥,新生児期の異常の有 無を聞いた。インタビューの具体的な内容は,里帰り を引き受けた動機,里帰り中に行ったこと,新たに気 づいた里帰り中の娘との関係,里帰り中の喜びや大変 なこと,里帰りを終了し気づいた自分自身の変化,里 帰りを引き受けた体験が実母自身にとってどのような

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意味があったと思うかである。1人当たりのインタビ ューは58分から135分であり,各々1回実施した。 5.分析方法  研究参加者の語りを逐語録にし,繰り返し読み全体 像を把握した。記述されたデータを,意味のあるまと まりにし解釈した。そこから重要なキーワードを抽 出しコードとした。コードを,相違点,共通点につい て比較することによって分類し,同じ意味を持つ複数 のコードを集め名前を付けサブカテゴリーとした。同 様にカテゴリー,コアカテゴリーへと抽象度を上げた。 コアカテゴリー間の関連を検討し,構造化した。 6.研究の信頼性・妥当性  本研究に先立ち,実母4名に対しインタビューを行 い,研究参加者が研究者に影響されずに自由に語るこ とができているか,研究者が研究目的に沿った内容が 聞けているかを,研究指導教員2名のスーパーバイズ を受け確認し,信頼性の確保に努めた。データは厳密 に逐語録に起こし記録した。研究の全過程において, 研究指導教員2名のスーパーバイズを受けた。全参加 者に,分析結果を説明し,納得できる結果であること を確認した。 7.倫理的配慮  本研究に先立ち筆者の所属する大学の研究倫理審査 委員会の承認(M-1107 )を得た。研究協力施設の責任 者と研究参加者とその娘に,研究の概要,研究参加へ の自己決定の権利と中止の自由,研究参加を途中で辞 退しても不利益を生じないこと,プライバシーと匿名 性の保持について文書を用いて説明し,研究参加の同 意を得た。得られたデータは研究目的以外では使用し ないこと,研究終了まで厳重に管理し,研究が終了後, 速やかに破棄することを保証することおよび結果の公 表方法について説明した。

Ⅲ.結   果

1.研究参加者の背景  研究参加者の背景を表1に示す。娘と孫の出産後の 経過は順調であった。娘の自宅は実母宅と近距離にあ り,里帰り中に娘の夫が実母宅に同居するか若しくは 頻回に訪れていた。 2.分析結果  実母の人生において娘の里帰りを引き受けた体験 の意味として,492のコード,30のサブカテゴリー,10 のカテゴリー,4つのコアカテゴリーが抽出された(表 2)。コアカテゴリーを【 】で,カテゴリーを《 》で, サブカテゴリーを『 』で,コードは〈 〉で表す。研究 参加者の語りを「 」で表す。語りの意味を明確にする ための補足は( )で記した。研究参加者は〔 〕で示す。 1 ) 母親としての潜在的能力の発揮  【母親としての潜在的能力の発揮】は,実母がこれ までの育児体験や母親としての人生において培われた ケアするものとしての能力を,娘の成長や娘夫婦の幸 福のために発揮させていたことである。  実母は,里帰りを引き受けることを,「私もそうで した。日本の伝統というか当然のように思っていまし た」〔A〕と捉えていた。「さぁ,私の出番という感じで」 〔B〕と,『精一杯取組み』,「他の事はせずに,赤ちゃん にだけ集中していれば良いから」〔E〕,「(娘が)好き勝 手に何が食べたいと言って。昔はこうだったと言わな いようにと思いました」〔D〕と,娘の甘えを聞き入れ ながら『家事全般において支援し,娘の心身の安定を 図り育児だけに専念できる』よう助けていた。「以前の 私だったら,娘の方がこうしてくれと言うのに対して 言い返していましたが,なるほど娘には娘なりの気持 表1 研究参加者の背景 研究参加者 A B C D E 年 齢 50歳代後半 60歳代前半 60歳代前半 40歳代後半 60歳代前半 職 業 自営業 主婦 主婦 主婦 フルタイム勤務 健康状態 良好 良好 良好 良好 良好 里帰り中の娘夫婦と孫を含む同居者数 4 7 4 4 4 娘の年齢 20歳代後半 30歳代後半 30歳代後半 20歳代後半 30歳代前半 里帰り期間 産前1か月∼  産後1カ月 産前2カ月∼  産後1カ月 産後1カ月半 産後1カ月半 産後2カ月 娘の分娩様式 自然分娩 自然分娩 自然分娩 自然分娩 自然分娩

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ちでと私の方が引くようになりました」〔A〕と『娘の育 児方法を尊重し見守り』,「娘は極力自分でしようとし ていましたから」〔D〕と,『自立する過程を見届けて』 いた。「子どもは親を鍛えているから。育児っていう のはそういうものだよ」〔D〕と励まし,経験を基に『育 児の奥義を伝授して』いた。「家と家の関係で嫌な思い や,色々ありますでしょ。義理のお母さんが言ったと おりにしなさいと,失敗しないよう娘に伝えました」 〔C〕と,『義母と良好な関係を築けるよう助言』し,《娘 の母親,妻,人としての成長過程への見守》っていた。  実母は,里帰り中の娘夫婦の別居に対し,「(娘の夫 に)一緒に住むように勧め面倒見て,私が支えていか ないと,(娘の夫に)沐浴とか色々教えて,それはもう 娘の為です」〔B〕「(娘に)はいはいと言っている婿さ んを見て,上手くいっているんだそれに越したことは ない,育児は旦那さんと娘の2人で乗り切るものだと いう思いと,もしもの時には助けないという思いと」 〔D〕と,『娘の夫の父親としての成長と娘夫婦の関係 性の発達を見守って』いた。その結果,「息子(娘の夫) ができたという喜びもあったし,言い合えるようにな って良かったって」〔B〕と,『娘の夫との関係性を形成 し』,喜びを感じていた。このように,実母は《娘夫 婦の幸福に力添え》をしていた。 2 ) 娘と孫から得られた幸福  【娘と孫から得られた幸福】は,実母が,娘の育児 を通した母親,妻,人として成長する様子に喜びを得, 娘と孫への愛着を深め,孫から癒しや感動を得ていた ことである。  実母は,「泣いていても,大丈夫よ,しっかり泣い ておきなさいと孫に話している娘の姿が母親らしい」 〔A〕と,〈子どものあるがままを受容する娘に気づいて いた〉。「娘が(孫に)話しながら沐浴する姿を傍らで見 表2 里帰りを引き受けた体験から導き出された実母の人生における意味 コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー 母親としての潜 在的能力の発揮 娘の母親,妻,人 としての成長過程 への見守り 親として当然であると精一杯取り組む 家事全般において支援し育児だけに専念できる心身の安定を図る 娘の育児方法を尊重し見守り自立する過程を見届ける 子育ての奥義を伝授する 娘が義理の両親と良好な関係を築ける為の助言 娘夫婦の幸福への 力添え 娘の夫の父親としての成長と娘夫婦の関係性の発達への見守り 娘の夫との関係性を形成する 娘と孫から得ら れた幸福 娘の成長への喜び と愛着の深まり 娘の母親として妻として人としての成長から得た喜び 娘との親密なコミュニケーションの深まり 一緒に過ごすことで深まった娘への愛着 孫から得た癒しと 感動 孫と自由に多く触れ合えることによる親密性と愛着の深まり 日々変化する孫の成長から得た感動と喜び 孫から感じた血縁の繋がり 自己成長への気 づき 娘を育てたことの 自負心 娘を通じて自分の子育てに間違いがなかったと振り返る 母親としての役割が果たせたと実感する 自分の育児が娘の育児に投影されていると感じる 疲労感と自己犠牲 の受容 里帰りを引き受けたことで生じる多少の犠牲を受容する 娘の夫との関係性から生じた疲労感の克服 寛容で大らかな自 分への気づき 里帰り中の娘や娘の夫との相互作用による寛容な自分への気づき 常に前向きな物事の捉えかたをする自分への気づき 自分の母の偉大さに気づき温かさを想起する 人生の新たな方 向性への気づき 娘との新たな関係 の構築 娘が親離れしたことへの実感 何気ない世間話が出来る娘との新たな関係を築く 娘の母親への過度な依存を切り離す 娘の役に立てた喜 び 無我夢中で里帰りの支援を行ったことにより得た充実感娘の支援を通して感じた楽しさ 今後の自分らしい 生き方の方向性 母親としての役割を発揮したいと願う 孫を中心に家族が団欒を得,育児教育の機会を持ち,家族全員の関係調整を行う 家族を大切にしながら自分の個としての人生を大切にするという人生のスタイルを明確にする 自分の老後の為に娘夫婦との良好な関係を作る

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ることは私の幸せかな」〔A〕「良く面倒を見ていてお母 さんになったと思います。嬉しいです」〔B〕「辛抱強く 起きてお乳をあげていて,こんなに辛抱強かったかな って」〔D〕と母親らしく成長する娘を見る喜びを感じ ていた。実母は,娘の夫から妻としての娘の様子を聞 き「初めて娘のわからなかった部分が見えて,非常に 成長してきたと思いました。どちらかというと愛おし いという感じです」〔A〕「(里帰りを)当たり前だと思っ ていたのですが,娘は感謝していて,母親になるとあ んなに変われるのでしょうか」〔C〕と驚き感心してい た。「娘さんから大きな人間として成長していると思 いました。(娘の変化を)見れた事は喜びです。温かい ものが込み上げてきます」〔E〕と,娘が『人として大 きく成長したことへの喜び』を感じていた。それらは, 「ずっと一緒にいたから見えた」〔B〕と語った。実母は, 「娘とはいろんな話が出来て,結婚生活も垣間見えて きました」〔A〕「娘が独身だった頃よりも良く話しが出 来ました」〔E〕と,『娘との親密なコミュニケーション の深まり』を語った。「私自身の大変さ以上に,娘に対 する愛おしさというか」〔A〕と,《娘の成長への喜びと 愛着の深まり》を語った。  実母は,「娘の子は遠慮なく自由に抱っこできるん です」〔A〕「(長く一緒にいる事で)孫の表情を見れた 喜びっていいましょうか」〔B〕「1カ月いたらやはり可 愛いですよ」〔C〕「楽しいところだけ参加すればいいっ て感じで,これがおばあちゃんの醍醐味かと思って」 〔D〕と,小さな子どもの持つ特徴的な可愛らしさに触 れ癒されたことを語った。「(孫に)ちょっと笑顔が出 たりすると,すごく気持ちがリラックスでき元気をも らうというか。元気を与えられる赤ちゃんというのは, そういう意味ではすごいなぁと思いました」〔A〕「少し ずつ表情が豊かになっていくところとか,鳥のような 足からどんどん大きくなるのには驚きました。自分の 中でうきうき,楽しみって感じです」〔D〕と,日々変 化する孫の表情や体重が増える成長に,《癒しと感動 を得られて》いた。 3 ) 自己成長への気づき  【自己成長への気づき】は,実母が,自分の娘の育 て方に間違いがなかったと自負心を抱き,里帰りによ って生じた疲労感を克服し,育児に対して寛容で大ら かである自分の長所に気づいていたことである。  実母は,「娘が,母親として子供を大事に接して いる姿をみると,娘を育ててきて間違いがなかった と,自分に振り返ってみてすごく感じています」〔A〕 と,『自分の育児が娘の育児に投影されていると感じ て』いた。「頑張っているのを目で確認できて,一人前 になって,親の責任っていうか,もうしてやる必要が 無くなってきているって感じ」〔D〕と『母親としての 役割が果たせたことを実感』し《娘を育てたことの自 負心》を抱いていた。  実母は,「身体的に大変な以上に,娘と再び一緒に 過ごせるのはありがたいなというのが大きい」〔A〕「里 帰りを引き受ける前には,好きな習い事も辞めて。(こ れ以上続けば)もう駄目かも解りません。婿さんはマ イペースで駄目だわと思って気苦労を抱えましたが, 私の我儘かもわかりません。それもいいかと思えるよ うになりました」〔C〕と,里帰り期間の支援を途中で 投げ出すことなくやり遂げ,《疲労感と自己犠牲を受 容》できたことを明かした。  実母は,「いろんな方法や思いを受け入れられると いうか,見方,幅が広がったかな」〔A〕「ああいう人(娘 の夫)もいるのだと,寛容な気持ちで見なくてはと大 分思えるようになりました」〔C〕実母は「いろんな面で 割に細かいことは娘に言わないようになりました。ど ちらかといえば,こうあらねばと思っていたのですけ れど,色々な考えがあり,自分がやりたいようにやっ ていけばいいと思います」〔E〕と,《寛容で大らかな自 分に気づいて》いた。 4 ) 人生の新たな方向性への気づき  【人生の新たな方向性への気づき】は,娘とこれま でとは異なる新たな関係を構築し,家族にとって役に 立てる自分でありたいと思いつつ,個としての生き方 も大切にするという自分らしい生き方の方向性を見出 していたことである。  実母は,「ショックであり嬉しかったのが,(娘が) お母さんに頼むよりは旦那の方が頼み易いって言った んです。嫁に出した時にはそんなにショックはなかっ たのですが,手が離れたんだと。本当に独り立ちした のだという実感です」〔D〕と,『娘の親離れを実感し』 〈寂しさと嬉しさの両価的な感情を抱いた〉ことを語 った。実母は,「娘はいつまでたっても娘ですが,こ ういう関係(縦)だったのが,少し横になったのでし ょうか。同じ母親としてのあれが出てきたかな」〔E〕 と,以前とは異なる娘との関係性を感じていた。「娘 ともいろんな話もして,そんなことはこれからないで しょ。貴重な時間でした」〔C〕と,語った。実母は,「私 もとりあえず暇な時間ではあるのだけれど,縛られる のはいやだから」〔D〕と,娘に〈頼られ過ぎないよう

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に伝え〉,『娘の母親への過度な依存を切り離そう』と し,《娘との新たな関係を構築》していた。  実母は,「娘が帰ってきている間,元気が出て,親 にとっても楽しみでもありました。大事な時間だと思 っていますので,人には託せません」〔A〕「する前には 解りませんよね。娘の為に何かしてやれることが出来 たという事で嬉しいです」〔E〕と,母親として《娘に役 立てたことは喜び》であったことを語った。  実母は里帰りを通して,「娘が我儘言えるのは母親 の私でないと。私は子どもにとって精神安定剤であり たい」〔A〕と,〈自分は娘が気を使わずに過ごせる無二 の存在〉であると認識し,娘に「これから先いろんな 事があった時でも,夜間の大変な授乳を我慢できたか ら今度も大丈夫よと娘に言ってやれる。いつまで経っ ても娘の親ですから。娘の為にといいつつ,自分がそ の喜びを得る為にやっている」〔E〕と,今後も『母親と しての役割を発揮したいと願って』いた。  実母は,「何か人に喜んでもらうのが自分の喜びで はないかと,ボランティアも誰かの為にではなく自分 の為ですよね。それによって,自分が満足するんです」 〔A〕と語った。「娘にあてにされ過ぎても嫌なので先手 打って,保育料は1回3000円よと言ってあります。定 年後どうするかって主人と話して,自分も出来る事を 見つけなければと思います。それを探さなければいけ ません」〔D〕と,『家族を大切にしながら自分の個とし ての人生を大切にするという人生のスタイルを明確』 にし,《人生の新たな方向性に気づい》ていた。 3.娘の産後里帰りを引き受けた体験から導き出され た実母の人生における意味の構造  娘の産後里帰りを引き受けた実母の体験の持つ意味 から導き出された実母の人生における意味を構造化 した(図1)。実母は,【母親としての潜在的な能力を発 揮】させながら娘を支援していた。その支援をとおし て,【娘と孫から幸福感を得】られていた。さらにそれ らの体験から,実母は【自己の成長に気づき】,実母 自身の今後の【人生の新たな方向性に気づいて】いった。 《娘の役に立てた   喜び》 《今後の自分らしい 生き方の方向性》 《娘の成長への喜び と愛着の深まり》 《娘の母親,妻,人としての 成長過程への見守り》 《疲労感と自己犠牲の受容》 《孫から得た癒しと感動》 《娘を育てたことの自負心》 《娘夫婦の幸福への力添え》 《寛容で大らかな自分への気づき》 【母親としての 潜在的能力の発揮】 【自己成長への気づき】 【娘と孫から 得られた幸福】 《娘との新たな関係    の構築》 【人生の新たな 方向性への気づき】 図1 「里帰りを引き受けた体験から導き出された実母の人生における意味」の構造図

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Ⅳ.考   察

 実母が産後の娘の里帰りを引き受けた体験には,娘 の母親として,娘の子どもの祖母として,また,娘の 夫や自分の子どもを含めた家族の母親としての体験が あった。実母の生涯発達の視点から,それらの体験の 中で見出された意味について考察する。 1.実母の人生において娘の産後里帰りを引き受ける 体験の意味 1 ) 母親としての潜在的能力の発揮と娘夫婦との関係 性から見いだされた意味  実母の食事は愛情と温かさの贈り物となり(Rubin, 1984/1997, p.80),実母は,住み慣れた実家で食事し 育児に専念できる環境を娘に提供していた。その結果, 娘親子の母子相互作用を見守ることができたと考えら れた。娘の育児を目の前にした時,実母も娘に対して 母親役に戻る傾向があり,実母が熱心に世話するほど, 娘が母親になることを妨害してしまうという落とし穴 がある(陳, 2000, p.17)。実母は,育児の主体を娘に おき,母親としての成長を妨げないよう娘の育児方法 を尊重し温かく見守っていた。Erikson, H.E., Erikson, M.J., kivnick, Q.H.,(1986/1997, p.60)が,親たちの英 知や判断力は尊重する資質であると述べるように,中 高年期であるからこそできた娘の成長過程への見守り は,実母が持つ潜在的な能力の1つといえる。それに より娘は自信を持ち次第に育児方法を確立(新道・和 田, 2000, p.120)出来たと考える。母親らしい娘の成長 や,夫婦で育児を協力する姿,実母が当然だと思う手 助けに対し,感謝する娘の姿を見ることは,実母に幸 福感をもたらしたと考える。  実母は,娘と共に過し娘の成長を実感できたと語ら れたことから,娘宅に通う場合とは異なることが推測 された。実母は,時間的制約がない中,娘を育てあげ る責任を負っていたときとは異なる立場で,普段話せ なかった親密な会話が出来た。娘との会話は楽しい時 間であったと語られたように,娘との親密性を深め, 娘の母親としての喜びを得られていたと考えられた。  実母は娘の成長過程への見守りと同時に,娘夫婦の 幸福への力添えを行っていた。里帰り中の娘夫婦の別 居は,父性や夫婦愛や家庭を確立させにくいという問 題が生じる(森田, 2002, p.15)。夫の父親役割取得過程 の遅れは,母親へと成長する娘とその夫との間にギャ ップを感じ,娘の憂鬱な気分を助長する(新道・和田, 2000, p.120)。実母は,娘夫婦が共に多くの時間を過 ごし協力して育児できるように努め,それにより,娘 夫婦がより良好な関係へと発達出来たと考える。また, 必要に応じて娘の夫に育児方法を助言していた。配偶 者である父親を主たる相談相手にしない母親は育児困 難スコアが高いとされる(武市・小野・小倉他, 2005, pp.547-548)が,娘の育児困難感への配慮が推察され た。実母は次第に娘の夫を息子のように感じられたと 語った。里帰り期間中の,娘の夫の父親として成長へ の見守りや,娘夫婦の良好な関係性に配慮すること, 実母と娘の夫との関係性が形成されることは先行研究 では見当たらなかった。 2 ) 娘の子どもである孫から得られた祖母としての幸 福  実母にとって孫は,無条件に可愛いと思える存在で ある(樋口, 2008, p.56;氏家・高濱, 2011, p.122)。実 母は娘の子どもには遠慮なく接することができ,祖母 の立場で育児の楽しいところだけに関わり,身近で新 生児の持つ特徴的な可愛らしさに触れた楽しみを繰り 返し語られたことから,孫から癒されたことが伺えた。 あやすと微笑み返し柔らかな声を発する孫との相互作 用によって愛着を深めたと考えられる。これこそが祖 母の醍醐味であると語られたように,幸福感をもたら す体験であったといえる。  実母にとって孫は,無制限に未来に伸びる自分自身 の延長と考え,気持ちの安定を取り戻す要因である (Erikson, H.E., Erikson, M.J., kivnick, Q.H., 1986/1997,

pp.177-178)。人に活力を与える孫の存在への感動の語 りから,共に過ごし目の当たりにした孫の著しい成長 は,実母に感動を与えていたといえる。  久保・刀根・及川(2008, pp.306-308)の研究による と祖母には孫と接する疲労感や重荷があることが明ら かにされているが,本研究では孫から幸福感のみを得 ていた。1∼2カ月の産後里帰りでは,孫への躾や離乳 食といった問題は生じにくく,身体的な疲労感の問題 が表面化されなかったと考える。 3 ) 発達し続ける自己への気づき  服部(2010, p.163)は,子どもを生み育てることを中 心においてきた中高年女性の生涯発達における課題の 1つに,自分の育児を喜びと自信をもって意味づける ことをあげている。本研究において実母が娘の育児姿 を見ることは,実母自身の育児を振り返る体験となっ ていた。娘を通じて,自分の育児に間違いがなかった と自負心を持つことができていた。  岡本(2010, p.103)は,重要な他者との関係において,

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同じ危機を経験しても,そのことが自分自身の人生に とって意味あることと捉えられるか否かが重要である と述べている。実母にとって娘の夫は価値観が異なり, 衣食を共にすることで疲労があったが,途中で投げ出 さずに里帰り期間の支援をやり遂げた。実母は自分と 異なる娘の育児に対し,娘の考えを受容し寛容さを持 てる自分に気づいていたことから,自己の成長に気づ く体験であったといえる。しかし,里帰り期間が延長 された場合は疲労を克服することが困難であったと語 られたことから,里帰り期間は1∼2ヶ月が適当な期 間ではないかと考えられた。  服部(2010, pp.163-165)は,子どもを生み育てるこ とを中心としてきた実母年代女性の生涯発達において は2つの課題を持つとし,1つには「自分が何者である か」という命題に答え,独立した子どもたちが保護や 非難を求めて戻ってきたときに母港となる役割を持つ こと,もう1つには「これから先どう生きるべきか」と いう命題に答え,自分は子どもを生み育てるという事 業を長い年月においてなしたことを喜びと自信をもっ て意味づけ,個として生きる道を模索し,今後の人生 をどう生きるのかを真剣に考えることであると述べて いる。  実母は,娘への手助けは母親の自分にしか出来ない と実感していた。今の自分がまだ娘に役に立てたこと が嬉しかったと語られたように,1つ目の命題である 「自分が何者であるか」に対し,娘の成長を支えられ る無二の存在として,いつまでも自分は娘の母親であ るという答えを見出したと考える。  岡山(2006, p.461)によると,初妊婦の実母との心理 的な結びつきについて,実母との親密性や依存性は高 まるが,対等な関係性への変化は認められなかったと された。米国においては,初妊婦は妊娠を契機に,実 母との対等な関係性へと変化することが明らかにさ れ(Martell, L.K., 1990, pp.49-50),日米間の相違は日 本の特徴的な母子関係によると述べられている(岡山, 2006, p.461)。本研究では,産褥期の初産の実母との 関係性において,実母からは,「母娘の縦の関係から 同じ母親としての横並びの関係になった」と母,妻と しての同じ立場でお互いに相談できる関係に感じられ ていたことが明らかとなった。娘の成長する姿を見る ことで,縦の関係から横の関係へと変化したと推察さ れた。娘が結婚を機に独立した所帯を持つことは,家 族形態の変化という形上での親離れである。里帰り中 は,娘の重要他者が実母から娘の夫へと変化したと感 じられ,初めて娘の親離れを実感し,寂しさと喜びの 両価的な感情を語った。娘の心理的な親離れへの実感 は,形上にとどまらず,心理的にも娘がひとつの家族 を形成したことへの安堵と喜びであったと考えられた。 実母は,娘の重要他者は娘の夫であると認識し,娘夫 婦の関係性を優先し,実母が子離れすることで娘が親 離れし,実母への過度な依存を断ち切ることが出来た のではないだろうか。実母年代女性の2つ目の命題で ある「これから先どう生きるべきか」に対し,実母は 娘の親離れを実感し,娘の成長を見て娘を育てた自負 心を得られていた。娘の母親としての役割が果たせた 思いは,母親役割を抜きにした自分の人生を考えると いう心理的変化をもたらしたと考える。実母は,娘と の新たな関係を構築し娘の過度な依存を切り離し,個 としての人生を大切にするという,新たな方向性を見 出したと推察される。子育て後の期間が長くなった現 代において,個としての人生を充実させた生き方は重 要であり,里帰りを引き受けた体験を機会に個として の生き方を意識化したことは意義深いと考える。  岡本(2010, p.50)は,中高年期における女性は,他 者をケアし支える自分と,個としての自分の生き方の バランスをとっていくことが重要であるとしている。 実母において娘の産後里帰りを引き受けた体験は,こ れまで家族を優先してきた人生から,母親の役割を 発揮する自分と,個としての自分の両方をバランス 良く取る生き方という新たな方向性を見出す体験であ ったといえる。このように,里帰りを引き受けた体験 は,実母にとって娘の母親であることの総仕上げ(陳, 2000, p.17)として,自己成長と人生の新たな方向性に 気づき,発達し続ける自己に気づく意味があったと考 える。  実母は,娘の里帰りを引き受ける動機を,日本の伝 統であり当然行うこととして引き受けていた。このこ とは柳川(2002, pp.51-52)の研究と一致していた。し かし,里帰り終了後には,娘の支援は他の誰にも代わ れない代わりたくない,支援したというよりはむしろ 貰うことが多かったと感じていた。実母自身にとって 幸福な貴重な体験へと変化していたと考えられる。 4 ) 里帰りを引き受けた体験から導き出された実母の 人生における意味の構造  実母の「支援する前は解らなかった」という語りか ら,里帰りを引き受けた時は,娘を支援するという 姿勢で取り組んでいたと推察された。しかし,【潜在 的能力を発揮させる】うちに,【娘と孫から幸福感を得

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られた】と考える。また,語ることは,経験を意味づ けることに役立つ(Richardson, 1990)といわれている。 インタビューによって,潜在していた【自己成長】や 【人生の新たな方向性に気づく】という体験の意味が 顕在化し,体験の意味が拡大していったと考えられた。 2.研究の限界と課題  本研究における研究参加者は5名であり,40歳代後 半∼60歳代前半の健康な人であったこと,また,娘 の夫が実母の家に通える距離に居住していたことから, 本研究結果を他の娘の産後里帰りを引き受けた実母の 集団にそのまま適用するには限界がある。  今後は,研究参加者を増やすこと,幅広い年齢層お よび娘との居住の距離が遠方に住む人も対象とするこ とが課題である。助産師が実母の体験から導き出され た意味を意識化し,産後の里帰りにおける看護支援の 具体的な方法を考案することに役立てることも今後の 課題である。

Ⅴ.結   論

 娘の産後里帰りを引き受けた実母の体験には,単な る娘夫婦の家事や育児支援ではなく,以下の意味があ ることが明らかになった。 1.娘の母親としての喜びを得る意味。娘の成長過程 を見守り,その成長に喜びを感じ愛着を深め,日々 娘と共に過ごすことで娘との親密なコミュニケーシ ョンが回復し親密性を深める意味がある。 2.娘夫婦が幸福になる為の力添えをする意味。娘夫 婦が協力し合う育児と娘の夫の父親としての成長を 見守り,娘夫婦が良好な関係性へと発達するように 力添えし,その力添えから娘の夫との関係性を形成 する意味がある。 3.孫から祖母としての幸福を得る意味。孫に遠慮な く触れ,孫との親密性と愛着を深め癒しを得,日々 孫の著しい成長過程を見ることから感動と活力を得 るという意味がある。 4.実母自身が発達し続ける自己に気づく意味。疲労 感を克服し寛容で大らかな自分自身に気づく意味が ある。娘を育てたことの自負心を抱き,娘の親離れ を実感し,親子という縦の関係から同じ母親として の横の新たな関係性を構築し,母親としての役割を 発揮することを大切にしながら個としての自分の人 生も大切にするという,人生の新たな方向性への気 づく意味がある。 謝 辞  本研究にご協力を賜りました皆様に心より感謝申し 上げます。本研究は日本赤十字広島看護大学修士論文 の一部である。ご指導くださいました名誉教授新道幸 惠先生,教授鈴木美恵子先生に心から深く感謝いたし ます。尚,内容の一部を第30回ICMプラハ大会で発 表した。 引用文献

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参照

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