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論 文 題 目:マイクロバブルの生成と物理的性質及びその利用に関する研究
著 者:山田 哲史
研 究 科 ・ 専 攻 名:工学研究科 機械システム工学専攻
学 位 記 番 号:工課 第三号
博士号授与年月日:2006(平成 18)年 3 月 23 日
近年の生成技術の成熟によりさまざまな分野で注目を浴び始めたマイクロバブルの主な生成方法には,
せん断方式や加圧溶解方式がある.そのほかにもいろいろなマイクロバブル生成方法が考案されてきてい
るが,その中でも本研究では,これらのせん断方式及び加圧溶解方式の二方式に注目し,これらの生成方
法に基づいたマイクロバブル発生装置が発生させる気泡群における,主に生成気泡群の気泡分布形特性と
空気中に存在する酸素の液相への溶解による供給効果に着目した特性について,実験的に検討した.また,
マイクロバブルの溶解特性を利用した大深度水域への空気泡による酸素供給効果を,大深度水域を模擬し
た装置により実験的に検討し,さらには気泡の圧縮・溶解をモデル化して,大深度水域における酸素供給
効果を計算にて推定した.加えて,種々の液相を主体とした流動計測に用いられているトレーサ粒子や反
射体の代用としてマイクロバブルを用いることを目標に,従来から用いられている微細な固体粒子で静止
水中を上昇する単一大気泡周囲の液相流れ場測定を行い,その流動特性を得たうえで,マイクロバブル群
による流れ場測定結果を比較した.以下に,その概要を述べる.
機構部分の形状をいくつか変更できるようにした急拡大流路によるせん断方式を採用したマイクロバ
ブル発生装置を製作し,その機構形状条件に加えて流動条件を変えることで,各種条件と生成した気泡群
の分布形特性及び吸い込み圧力特性を得た.この結果,本条件範囲において急拡大流路の段差が小さい条
件でかつ空気の吸い込み圧が大きい条件であるほど,より小さな気泡群が発生する傾向にあることがわか
った.また,気泡群の平均径と気泡群の径のばらつきとの間には非常に強い相関関係があることも明らか
にした.
昨今の水環境の悪化により,水環境改善は必要かつ緊急を要するといえる.そこで,せん断方式による
マイクロバブル発生装置を用いて,「自吸引させた空気による気泡群を水噴流とともに気液混合流体の形
態で搬送する方法」を確立するためにその基礎研究として,大気圧条件下におけるせん断方式のマイクロ
バブル発生装置によって生成される気泡群の分布形とその酸素供給効果を検討した.その結果,従来一般
的に用いられてきた大きな径を持つ気泡群に比べ,マイクロバブルによる気泡群は,約 10 倍程度の物質
移動容量係数をもつことがわかった.また内容積が約2m3
である水槽において,無酸素状態からの空気に
よる酸素供給を行ったと推定した場合,飽和酸素濃度へ至るまでに要する時間は,マイクロバブル群では
約2~3 時間,従来から用いられてきた大きな径を持つ気泡群では約 24 時間,水面での気液接触のみで積
極的な空気による酸素供給を行わなかった場合では約10 日間であった.物質移動の効果は,100μm径程
度以上の気泡においては,気泡の界面積の大きさと気泡の上昇速度すなわち水中への滞在時間が最も支配
的な要素であることが確認された.
水環境悪化の影響の一つに「水底付近における溶存酸素濃度の不足」というものがあると言われている.
だからこそ,水環境改善は必要かつ緊急を要するといえるのであるが,その経済的な解決方法はいまだ示
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されていない.そこで,微細な気泡を大量に生成し,その気泡群を水噴流とともに大深度水域へ搬送し,
搬送中の水や大深度水域に滞留する水に空気を溶け込ませることで水中溶存酸素濃度の増加させること
を提案した.そこで高低差約60m・延長約 180m(斜度 1:2.8)の農業用水ダムの法面に模擬実験装置を設営
して,まずこの提案が実現可能かを確認するための試験を行った.その結果,系内唯一の駆動力である汎
用ポンプは順調に動作し,循環配管系に気泡を含んだ水を搬送することができた.このことから,水噴流
とともに,気泡群を大深度まで搬送することが可能であることを示した.これを踏まえ,高低差約15m の
大深度模擬装置を製作してより詳しいデータの採取を試みた.確認実験と同様,マイクロバブル発生装置
によって自吸引された空気による気泡群を用いて酸素供給を行い,流動条件とそのときの気泡群の分布形
及び溶存酸素濃度の変化を実験により得,その効果について検討した.さらには実験結果から,単純な管
内に気泡を含んだ水噴流を流下させて大深度水域へ搬送するときの,管内溶存酸素濃度の変化を気泡の圧
縮と溶解からモデル化し,実験結果と近い値を得た.加えて,単純鉛直管を模擬した配管系における溶存
酸素濃度変化のモデル計算を行い,空気流量や気泡径が溶存酸素濃度増加に大きな影響を与えていること
を改めて示し,深さ方向への溶存酸素濃度の増加を比較的単純な式で示した.
以上は,せん断方式によるマイクロバブル発生装置を用いた研究であったが,他のマイクロバブル生成
方法による研究として,加圧溶解方式のマイクロバブル発生装置を用いて,生成される気泡群の分布形と
その酸素供給効果について検討した.その結果,非常に平均気泡径のそろった気泡群が生成され,そのた
めに酸素供給効果はほぼ空気流量にのみ依存し,また水流量や吐出圧力に対する影響はほとんど見られな
いことが確認された.さらに,せん断方式と加圧溶解方式によるマイクロバブル発生装置及びブロワーの
各方式による気泡生成と酸素供給効果について検討した.せん断方式と比較して加圧溶解方式は,同じ空
気流量を有する条件としては優位であり,加圧溶解方式と比較してせん断方式は,同じ気液界面積を有す
る条件としては優位である.理論上必要となる動力は,ブロワーを用いた方式では浅い水域では優位性が
あるものの,水深がある程度以上深くなるとせん断方式や加圧溶解方式のほうが優位になることを示した.
マイクロバブルを流速分布計測の反射体として利用するための基礎研究として,超音波流速分布計を用
いて空気-水系の静止水中単一大気泡周囲液相の平均速度場を,大気泡上部から周囲液膜内・ウェイク部
及び液体スラグ部に至る大気泡周囲全体にわたって測定した.また,大気泡長さをパラメータに取り,数
種類の条件を設定し,その影響を検討することとした.その結果,大気泡周りの平均的な流れ場を明らか
にし,大気泡長さの影響は大気泡先端周囲の速度場に対しては本質的に見られないことも明らかにした.
また,大気泡周囲の液相内速度場での速度分布は,大気泡先端からの無次元距離z / Dが液膜の落下速度
分布に対して支配的な因子であることを示した.さらに,大気泡下方のウェイク部では,管壁付近の強い
下向きの流れと管軸付近の上向きの流れに起因する渦が生じていることが確認され,ウェイク部の管軸に
おける鉛直上向き速度は,Tomiyama らによる推算値と定性的にも定量的にもよく一致した.加えて,従
来から液相速度場測定に用いている低密度ポリエチレン粒子に代えて加圧溶解方式で発生させたマイク
ロバブル群を超音波反射体として利用し,同様の流れ場の測定を行い,それぞれの反射体によるベクトル
図を示して比較した.その結果,マイクロバブル群を反射体として用いた場合においても,低密度ポリエ
チレン粒子を用いた場合と同様に,流れ場をよく捉えられており,マイクロバブル群が流れ場測定の反射
体として利用できる可能性がじゅうぶんにあることを示唆した.