2019 年、欧州大荒れ注意報
先日たまたまニュースを調べていたら、あるアメリカ人の年金運用者の方の Tweet が目に 飛び込んできました。そこには株・債券・キャッシュ・商品・不動産など 15 種類の ETF (Exchange Traded Funds 上場投資信託)のリターンをまとめた表が載っていました。驚い たことに、「現金」以外全てがマイナスでした。リーマンショックが引き金となり世界的金融 危機が発覚した 2008 年でさえ、15 種類のうち 4 種類はプラスでしたので、今年は 2018 年 以下ということになります。 最近ずっと Brexit 関連のコラム記事が続きましたので、今回は久々にヨーロッパについて 書いてみようと思います。
イタリア予算案、最悪の事態は回避か?
日本でも報道されておりますが、イタリアの 2019 年度予算案が EU の財政規律を満たして いないことを受け、書き直しを命じた欧州委員会。しかしイタリア政府は、全く我関せずの 姿勢。そこで、11 月 29 日午後に EU 加盟各国の財務省代表者が電話会議を行い、イタリ アの予算案内容は財政規律を満たしていないという欧州委員会の見解を支持すると発表。 これを受け欧州委員会は、「過剰財政赤字是正手続き Excessive deficit procedure (EDP)」 の手続きに入るとイタリア政府に言い渡しました。 EDP の恐いところは、最悪の場合、イタリア政府は GDP の 0.5%に当たる 90 億ユーロ(1 兆 1500 億円相当)の罰金支払いを命じられるかもしれず、ますます財政が火の車になり かねない点です。 これに慌てたイタリアのコンテ首相は副首相たちと相談し、内容変更を発表しました。この 決定の裏では、マッテレッラ大統領が精力的にレフリー役として動いたと伝えられています。 欧州委員会もこの動きを好感し、EDP 発動の危機は一旦収まったようです。これを受け、 イタリア国債利回りも大きく低下(国債価格上昇)しています。GDP、赤字幅ともにカット
イタリア政府と欧州委員会の間で合意した内容は以下の通りで、財政赤字対 GDP 比だけ でなく、GDP 予想もともに下方修正となっています。GDP と赤字幅ともに縮小というのは、非常に理解しにくい内容ですが、コンテ首相は赤字 削減に向け、公共投資の減額や、ゲームや賭けへの課税率の強化を検討しているようで す。それに加え、欧州委員会はイタリアに対し、20 億ユーロの歳出を凍結し、その資金を 「準備金」として別枠で確保し、いざという時のために備えるよう指示しています。 変更後も、年金受給年齢の引き下げ(同盟の選挙公約)と、ベーシックインカム制度の導入 (5 つ星運動の選挙公約)は実現しますが、当初の規模よりは小さくなるようです。 イタリアの動きは、短期的にはマーケットにポジティブですが、GDP が予想以上に伸びなか った場合、赤字を埋め合わせる財源は VAT 税(付加価値税)の引き上げ以外ないとも言 われています。
同盟:サルビーニ副首相、来年にも総選挙を企む?
先週出た噂ですが、サルビーニ副首相が来年 3 月 10 日前後に解散・総選挙を企てている という話しです。 その発端となったのは、サルビーニさんが党首を務める「同盟」が、もう少し中道色を強くし たいと、発表したことから始まりました。同盟は極右政党ですが、ほんの少し中道寄りにし、 弱体化した(ベルルスコーニ元首相率いる)フォルツァ・イタリアの支持者を奪ってしまお う!と考えているのかもしれません。それに加え、同盟が今よりも中道寄りになれば、どの 党に投票してよいかわからない有権者の取り込みも出来るでしょう。 下のチャートは、今年 3 月 4 日に実施されたイタリア総選挙から最近までの 5 つ星運動と 同盟それぞれの支持率を表わしたものです。同盟がどんどん支持率を高めているのがわ かります。同盟が「中道寄りの極右?」に変身することに成功し、噂通りに 3 月総選挙となれば、同盟 の得票率は 40%近くまで跳ね上がるという予想も出てきています。いろいろな意味で、来 年もサルビーニさんからは目が離せません。 データ: 数々の報道
マクロン仏大統領を取り巻く状況の変化
39 歳という若さで第 25 代フランス大統領に就任したマクロン大統領。 若さだけでなく、経歴も 1 つの汚点もない素晴らしさです。フランスの最高学府を卒業し、そ のまま大学院へ。そして、投資銀行で金融を勉強したあと、オランド前大統領の側近として 働き、政治のいろはを勉強しました。2014 年にはじめて閣僚となり、その 2 年後には既に 自分の政治グループ「前進!」を立ち上げ、2017 年に大統領就任です。 1965 年から続いた伝統的 2 大政党による大統領職をはじめて奪い取った方でした。フラン スでは若きグローバル・リーダーとしてもてはやされ、昨年の年初には、「2018 年はフラン スのルネサンス元年」と位置づけ、特に経済面の改善を国民に呼びかけました。しかし、時 間が経つにつれ、左派を支持する国民からは、「お金持ちのための大統領」と比喩され、 徐々に求心力をなくしていったのです。 今年に入り、さらにマクロンさんを取り巻く環境が悪化していきました。3 月のイタリア総選挙では、ポピュリズムの 5 つ星運動と欧州懐疑派の同盟による政権が誕生。同盟は反難 民を支持するハンガリーと早速手を組みました。これと同じ時期に、マクロン政権の閣僚辞 任があいつぎ、10 月には共にヨーロッパを引っ張っていくはずのメルケル独首相の引退の ニュース。イタリアとハンガリーによる「欧州懐疑派」と真正面から戦うと宣戦布告をしたマ クロンさんにとって、メルケルさんの引退はボディーブローのように効いたはずです。 その後、「黄色いベスト」がフランスの状況を一変させました。事の始まりは、車で遠距離通 勤をする人たちによる抗議デモでしたがどんどん規模が大きくなり、デモの参加者のうち、 80%以上が労働者階級出身と言われています。 マクロン仏大統領は慌てて 13 分に渡るテレビ演説をし、燃料税引き上げの廃止、最低賃 金の引き上げと、残業代に対する課税を中止することを発表。しかし「黄色いベスト」のデ モは終わらず、クリスマスを迎えようとしています。 今回の演説を受け浮上してきたのが、イタリアに代わり今度は「フランスの財政赤字問題」 でした。大統領のテレビ演説が終わるとすぐに、欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財 務・税制担当)が、「欧州委員会は今回の発表を受け、フランスの財政状態がどのように変 化するのか、注視している」と発表(ちなみに、モスコビシさんご自身もフランス人)。そして 12 月 17 日にフィリップ仏首相は、今回の措置により 2019 年度財政赤字対 GDP 比は、 3.2%まで増大する可能性があると認めています。 さしあたり、欧州委員会は来年第 2 四半期に 2018 年マクロ経済指標が確定した時点で、 フランスの予算案内容の再確認を実施すると発表しています。
ベルギー首相、辞表を提出
ベルギーのミシェル首相が、12 月 20 日にフィリップ国王に「辞表」を提出しました。 この国ではオランダ語(フレミッシュ)とフランス語が話され、それぞれの基盤の政党が多数 存在します。2014 年総選挙で第一党となったのが、オランダ語基盤の政党:N-VA 党でし た。首相のミシェルさんが所属しているのは、フランス語基盤の MR 党です。この第一党の N-VA 党は、国連の難民移民移動協定に大反対し、連立政権を離脱しました。 ミシェル首相はその後も少数派政権を維持していたおりましたが、今週に入り野党から内 閣不信任案決議が提出されることになり、その前に辞任の意を示しました。 首相から辞表を受け取ったフィリップ国王は、一時預かりとし、各党との調整を行なってい るところです。もしこの調整がうまく行かずに、首相の辞任が決定されれば、解散・総選挙 となります。 もともとベルギーは来年 5 月の欧州議会選挙にあわせ、総選挙が予定されています。そ のため、早期解散総選挙を行なうと、その数ヵ月後に欧州議会選挙が続き、国民が選挙疲 れすることとなるため、国王はケアテイカー内閣として、ミシェル首相に継続してもらい、晴 れて 5 月に総選挙と欧州議会選挙に持っていくのではないか?という予想です。最後になりますが、ベルギーという国は連立樹立に途方もない時間がかかる国で、2010 年には連 立交渉に 535 日もかかりました。そのため、来年の総選挙後にすんなりと新政権誕生とな るかについては、疑問です。
2019 年、欧州における注意点
私はクリスマスが終わると、1 週間ほどずっと翌年の相場展開について考える習慣があり ますので、今回の注意点は完成品ではありません。あくまでも現在私が考える注意点であ ること、予めご了承ください。 ① 財政 (予算案) リスク 上述の通り、イタリアは EDP(過剰財政赤字是正手続き)を回避できましたが、議会で承認 されるのか?来年の GDP が予想以上に落ち込んだ場合、本当に VAT 税引き上げに動け るのか?いろいろ問題は山積みです。 フランスも要注意ですね。 ② 政治リスク 2019 年 5 月 23~26 日に、欧州議会選挙が予定されています。それ以外でも、EU 加盟各 国で国政選挙の実施が続きます。 特に欧州議会選挙で、欧州懐疑派やポピュリズム政党が議席を伸ばした場合、ここからの 欧州統一に向けた進行スピードの変更を余儀なくされることも考えられるため、要注意でし ょう。③ 景気後退懸念 世界的に景気後退リスクが台頭してきています。当然ヨーロッパも例外ではありませんが、 果たしてヨーロッパ景気は、一旦踊り場状態なのか?それとも、このままずるずると低迷し てしまうのか?先日の欧州中銀(ECB)理事会で発表された 3 ヶ月に一度のマクロ経済予 想(スタッフ予想)によれば、一旦踊り場状態と受け取れる見解でした。 英国の EU 離脱(Brexit)の影響でイギリスの景気後退も心配ですが、英国の輸入のうち、 44%が EU 各国からです。つまり、Brexit の影響は EU 加盟国でも顕著となるリスクは高そ うです。 英国の貿易について(英議会ホームページ) https://researchbriefings.parliament.uk/ResearchBriefing/Summary/CBP-7851