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中国の長期的経済発展に関する研究

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4、中国の人口高齢化進行の趨勢 人口ベースと変動パラメーターの予測は、人口予測の質を決める重要な要 素である。国内外の各種機関は、これまで何回も中国の人口予測を展開して おり、そのうち人口高齢化に関する研究も行われているが、比較的信頼でき るものとして『国家人口発展戦略の研究報告』が行った人口予測がある。こ の報告書において、数名の学者が異なった研究方法を用いて人口及び人口高 齢化の予測を行っているが、そのうち、特に郭志剛の関連研究、予測結果が 広く引用されている。その研究方法と研究結果の主な部分は、下図、下表に 示されている。 『国家人口発展戦略の研究報告』は、中国全土に小康社会を建設する際に 直面する人口の情勢と厳しいチャレンジを深く分析し、人口規模と人口高齢 化について次のような予測結果を出している。 第一に、人口規模の継続的増加は、中国全土での小康社会の建設という 目標の实現に支障となる。中国の人口(香港、マカオ特別行政区と台湾省を 含まない。以下同じ)は、今後30 年間で 2 億人新たに増加し、総人口は 2010 年、2020 年にそれぞれ 13.6 億人、14.5 億人に達し、2033 年前後にピーク値 の15 億人の大台に達する。15-64 歳の生産年齢人口は、2016 年にピークの 10.1 億に達すると考えられる。 第二に、高齢化プロセスが加速する。2020 年に 60 歳以上の高齢人口は 2.34 億に達し、ウエイトが16.0%に達する。また、2040 年代後期に高齢人口がピ ークを迎え、60 歳以上の高齢人口は、4.3 億となり、ウエイトが 30%に達す ると考えられる。出産人口の性別比は、引き続き男性の割合が上昇し、2020 年に20-45 歳の男性の数は女性より 3000 万人ほど上回る。人口の地域間、 産業間における分布が合理的でない状況が続く。

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1-19 『国家人口発展戦略の研究報告』における各シナリオの比較 プロジェクト責任者 郭志刚

田雪原

曾毅

予測方法 年齢別産歴パリティー拡大モデル(Parity Progression Model): 大まかな構想: 第一、出産女性の出産プロセスを細分化。当方法は、 出産年齢女性の現在年齢と年齢別産歴構造状態によっ て次回の出産の確率を計算。出産予測を完成した後、さ らに各クロス類型出産年齢女性の出産数に基づき、出産 年齢女性の産歴類型の分布を更新すると同時に、女性の 出産産歴属性を記録することもできる。 第二、死亡人口と存続人口の予測は伝統的予測方法と 同様。 第三、死亡と出産予測は、非農業人口と農業人口に分 けて予測し、十分に時間の推移によって生じる非農業人 口のウエイトの変化を考慮している。 要 素 別 人 口 予 測 方 法 ( Demographic Component Forecasting Method) 大まかな構想: 人口を性別、年齢によってグル ープ分けし、年齢別死亡率と存続 率によって将来の死亡人数と各 世代の存続人数を計算する。と同 時に、将来各世代の女性人数と年 齢別出産率によって各世代の出 生人数を計算(人口移動など予測 を影響する要素を考慮しない) 多 世 帯 人 口 予 測 モ デ ル ( ProFamy Methods of

Family Households & Living Arrangements Forecasting) 大まかな構想: 通常の人口事件発生率を 直 接 的 に 人 口 個 体 に 応 用 し、人口個体の家庭状態特 徴から世帯数及びその規模 と構造分布を計算する。予 測起点を及び今後予測年次 の人口個体は、以下の状態 によって弁別し分類する。 つまり年齢、性別、婚姻状 態、産児数、同居子女数、 両親と同居するか否か、都 市農村別の居住類型など。 2000 年ベースデータ に対する修正 三段階に分けて調整した。 ① 20 世紀 90 年代の各年の出生数に基づいて、2000 年 年末のベースデータについて補充的調整をした。調整後 の2000 年の年末ベース人口には三つのシナリオがある。 つまり12.724 億、12.708 億と 12.693 億人であるが、ど れも、2000 年の国勢調査が公布した中国大陸総人口の 2000 年ベースデータである出産 率などの指標を一定程度調整。 不詳

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12.675 億より高い。②2000 年の年末の出産年齢女性の産 歴パリティー構造を一定程度調整した。③1990 年国勢調 査のサンプリングデータに基づいて 1990 年 0-14 歳各年 齢グループの一人っ子性別比率を試験的に計算した後、 20 世紀 90 年代のパリティ拡大率をシミュレートし、2000 年年末時の幼尐人口中の一人っ子の数量と比率を追跡 し、調整した。 主なパラメーターと データ 第一, 非農業人口、農業人口別、各性別の合計パリテ ィ拡大率 第二, 非農業人口、農業人口別、各性別の平均余命 第三, 非農業人口の比率パラメーター 第四, 計画出産政策の調整 第一,合計特殊出生率 第二,平均余命 第一, 合計特殊出生率 第二, 平均余命 第三, 各婚姻状態の確率 第四, 純門出確率 第五, 出産回数と婚姻状態 別の出産確率 第六, 都市と農村の純移転 確率 予測期 2000-2050 年 2010-2100 年 不詳 結果 第一, ベース期間人口の最高水準シナリオ、即ち固定 合計出生率が1.9 であれば、ピーク人口はすべて 14.75 億以下と予測するが、二人目の出産を許す 政策緩和を考慮に入れていない。 第二, 非農業人口化のプロセスを考慮するか否かに関 係なく、「夫婦とも一人っ子」の出産制限を緩和 しても、人口のピーク値は14.7 億を下回り、「夫 婦片方一人っ子」、「夫婦とも一人っ子」を同時 に緩和しても、人口のピーク値は14.8 億を下回 る。 第一, 低水準シナリオ:TFR は 2000-2005 年は平均 1.65、 2005-2010 年 は 1.56 、 2010-2020 年 は 1.44 、 2020-2050 は 1.3 に設定す る場合、2021 年にピーク 値の13.87 億に達し、2050 年には、11.92 億まで減 尐。その後 TFR が 1.32 を維持できれば、2100 年 予測結果は不詳。 以下は、曾毅らが1998 年に PROFAMY ソフトを用いて 予測した高齢者の規模であ る。即ち、低死亡率が实現 できれば、次の世紀の半ば ごろに、中国農村、都市の 65 歳以上高齢人口比率はそ れぞれ29.9 %と 24.0 %に達

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第三, 二人目の出産を認め、二児の合計パリティ拡大 率PTFR(2)が 0.95 を上回れば、民族政策、子 どもの夭折による再出産許可、再婚家庭の出産 など特殊の原因による三人目の出産または三人 以上出産を考えると、2005 年に全面的に二人目 出産を許可しても、非農業人口化のプロセスと は関係なしに、全国人口が2050 年までに正の増 加からマイナス増加に転じるが、ピーク値はい ずれも15.6 億以上、あるいは 16 億、17 億を超 える可能性もある。 第四, 高齢人口の予測結果は付録を参照。 には5.56 億まで減尐。 第二, 中水準シナリオ:TFR は 2000-2005 年は平均 1.75、 2005-2010 年 は 1.80 、 2010-2020 年 は 1.83 、 2020-2050 年は 1.8 に設定 する場合、2030 年にピー ク値の 14.65 億に達し、 2050 年には、14.02 億ま で減尐。その後TFR が 1.8 を維持できれば、2100 年 には10.24 億まで減尐。 第三, 高水準シナリオ:TFR は 2000-2005 年は平均 1.90、 2005-2010 年 は 2 、 2010-2020 年 は 2.13 、 2020-2050 年は 2.15 に設 定する場合、2050 年にピ ーク値の 16.05 億に達す る。その後 TFR が 2.15 を維持できれば 2100 年 には16 億まで減尐。 し、そのうち農村には 3100 万(農村総人口の6.5 %を占 める),都市には6 500 万(都 市 総 人 口 の 5.9 % を 占 め る。)は 65 歳以上の一人暮 らしの高齢者。全国の一人 暮らしの高齢者は、9600 万 人。さらにこの 1 億人近く の一人暮らしの高齢者のう ち、3400 万人が 85 歳以上 の オ ー ル ド オ ー ル ド で あ る。 メリット 出産レベルを出産回数の状況に合わせて細分化し、合計 特殊出生率法の人口予測と合計特殊出生率測定時の発 育レベルの内在的欠陥を克服した。 データを入手し易い 一度に世帯と人口規模、構 造、特徴及び分布を予測で きる。また、人口事件(結 婚、離婚、再婚、子どもの

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独立等)の発生における男 性人口と女性人口の一貫性 及び父母の世帯と子ども世 帯の一貫性を保証できる。 難点又はデメリット 第一, 2000 年基準期間データの修正が難しい。 第二, 2000 年の国勢調査に報告漏れが存在したため、 予測時に使用した基準期間データが人口基数を 上回った。従って、高齢化程度の推定が不十分 になる可能性がある。 第一, 基準期間データ研究の正 確さに改善の余地あり。 第二, 予測パラメーターの正確 性に改善の余地あり。 世帯人口予測に必要なデー タとモデルはもっと複雑で ある。 成果の最終応用 最終的に『国家人口発展戦略』プロジェクトに 採用された。 『国家人口発展戦略』に参考を提 供する 不詳。『国家人口発展戦略の 研究報告』において全文の 形で掲載されていない。 第六回国勢調査データの 利活用 第六回国勢調査データを用いてベースデータに対して 検証、比較することができ、最終予測結果を微調整する ことができる。 参考にとどまる 国内年齢別の関連パラメー ターが入手しにくい。

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1-14 将来の中国総人口、生産年齢人口及び従属人口指数の予測 データ出所:『国家人口発展戦略研究・人口発展予測』プロジェクト。 図1-15 『国家人口発展戦略』プロジェクトによる人口高齢化の予測結果 60歳以上人口(億人) 65歳以上人口(億人) 60 歳以上の人口の割合(%) 60 歳以上の人口の割合(%) 億人 亿人 年 総人口(億人) 扶養より人口(%) 15-64 歳人口(億人) 億 人

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1-16 郭志剛プロジェクトチームによる各中レベルシナリオにおける 65 歳以上の高齢人口比率 注:2.化_单双:シナリオ 2―2000 年から 2050 年までの「非農業人口化」期間中、2005 年から夫婦片方一人っ子の場合、二人目の子供の出産を認める。 11.无_单双:シナリオ 11―「非農業人口化」を考慮しない場合、2005 年から夫婦片 方一人っ子の場合、二人目の子供の出産を認める。 5.化_双独:シナリオ 5―2000 年から 2050 年までの「非農業人口化」期間中、2005 年から夫婦とも一人っ子の場合、二人目の子供の出産を認める。 14.无_双独:シナリオ 14―「非農業人口化」を考慮しない場合、2005 年から夫婦と も一人っ子の場合、二人目の子供の出産を認める。 8.化_全面:シナリオ 8―2000 年から 2050 年までの「非農業人口化」期間中、2005 年から夫婦とも一人っ子でも夫婦片方一人っ子でも、二人目の子供の出産を認める。 17.无_全面:シナリオ 17―「非農業人口化」を考慮しない場合、2005 年から夫婦と も一人っ子でも夫婦片方一人っ子でも、二人目の子供の出産を認める。 1-20 郭志剛プロジェクトチームによる 25 のシナリオが予測した 65 歳以上の高齢人口規模 シナリオ 2050 年総人口 (億) 65 歳以上の高齢人口の ウエイト(%) 65 歳以上の高齢人口の 規模(億) シナリオ1 13.927 23.91 3.330 シナリオ2 13.594 24.49 3.329 シナリオ3 13.267 25.08 3.327 シナリオ4 13.662 24.4 3.334 シナリオ5 13.319 25.02 3.332 シナリオ6 12.981 25.66 3.331 シナリオ7 15.889 20.86 3.314 シナリオ8 15.825 20.94 3.314 シナリオ9 15.688 21.12 3.313 シナリオ10 14.365 22.05 3.167 シナリオ11 13.954 22.7 3.168 シナリオ12 13.588 23.31 3.167 シナリオ13 14.178 22.34 3.167 シナリオ14 13.753 23.03 3.167 シナリオ15 13.374 23.68 3.167 シナリオ16 15.831 20.01 3.168 シナリオ17 15.755 20.1 3.167 シナリオ18 15.608 20.29 3.167 シナリオ19 13.519 23.43 3.168 シナリオ20 13.472 23.51 3.167 シナリオ21 13.424 23.59 3.167 シナリオ22 14.116 22.44 3.168 シナリオ23 14.069 22.51 3.167 シナリオ24 14.021 22.59 3.167 シナリオ25 14.735 21.5 3.168

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注:各シナリオが予測した65 歳以上の高齢人口規模に差が小さく、3.167 億-3.334 億内 に収まる。 表1-21 中国高齢人口予測 年次 60 歳以上の人口 65 歳以上の人口 万人 総人口における ウエイト 万人 総人口における ウエイト 2010 16649.3 12.3 11143.2 8.2 2015 20657.3 14.8 13190.1 9.4 2020 23940.4 16.7 16685.1 11.7 2025 28498.4 19.6 19418.6 13.4 2030 34232.3 23.4 23265.8 15.9 2035 38639.8 26.4 28132.5 19.2 2040 40006.5 27.5 31662.7 21.8 2045 41331.1 28.7 32320.2 22.4 2050 44043.9 31.1 33057.9 23.3 データ出所:Population Division of the Department of Economic and Social Affairs of the United Nations Secretariat, World Population Prospects: The 2008 Revision, http://esa.un.org/unpp, Tuesday, July 27, 2010; 4:12:12 AM. 二、人口高齢化の経済への影響メカニズムに対する検討及び文献研究 1、影響メカニズムの理論的検討 経済学理論から見て、経済の産出水準は、主に二つの要素から影響を受け る。一つは生産能力で、もう一つは需給関係である。まず、長期の発展から 見ると、経済成長の長期的な経路は主として生産能力によって決まり、資本、 労働、技術などの生産要素は、生産能力を決める基本的要素であり、経済の 長期にわたる成長の潜在力を決める主な要素である。通常は、「総生産規模」 を綜合的国力で測る重要な指標とする。経済成長パターンがコブ・ダグラス 生産関数(Cobb-Douglas production function)に合致し、且つ規模に関する収 穫が不変の場合、その国の総生産Y(GDP)は以下のように表現できる。 ) ( ) ( ) ( ) ( 1 t K t L t A t Y      そのうち、L と K はそれぞれ労働と資本の投入量であるが、A は全要素生 産性で、生産活動の一定時間における効率を表し、単位総投入によって形成 する総生産高を計る生産率指標である。即ち総生産高と、労働や資本投入量 との比率である。全要素生産性は、技術進歩や、組織のイノベーション、専

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門化や生産のイノベーションなど多岐にわたっている。 次に、短期的変動からみると、需給関係の変動は、主に経済成長の短期的 変動性を決定する。価格、コスト、制度、予測など需給関係を決定する基本 的要素は、短期経済成長とその変動を決定する重要な要素でもある。 人口高齢化の経済への影響を研究する前に、次の二つを説明しておきた い。 一つ目は、人口高齢化と経済成長の潜在力との相関関係を分析するにあ たり、経済成長の長期的経路からのアプローチがほとんどであるが、本研究 は重点的に資本、労働、技術などの生産要素から人口高齢化の中国経済への 影響を研究する。 二つ目は、人口高齢化の経済への影響は極めて複雑なフィードバックプ ロセスであることから、一方では、人口高齢化は労働力の供給、資本形成及 び全要素生産性などの要素に影響することで、経済成長や産業構造に影響を 与えるが、また一方では、経済成長が出産に対する考え方や行動、医療技術 と平均余命、都市化などさまざまな要素を通して逆に人口の高齢化の度合い にも影響を与える。よって、本研究は、人口高齢化の経済への影響のみを研 究し、その上で人口高齢化の中国経済に与える影響を次のように提起し、前 者の後者に影響を与えるメカニズムを次の図のように示す。

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2-1 閉鎖系における人口高齢化の経済に及ぼす影響の見取り図 (1)労働力供給への影響 労働力供給の角度から見て、人口高齢化は、労働年齢人口の絶対的数量の 低下を引き起こすのみでなく、人口年齢構造の高齢化と労働参加率の変化を 引き起こし、それによって労働力の供給に影響を与える可能性がある。労働 力量は、労働年齢人口、労働参加率と失業率との関数で、以下の公式で現せ る。

   b a i i i pr P L (式 1-5) そのうち、Piは i 歳の労働適齢人口、priは i 歳の労働参加率である。経済 活動人口(雇用者と失業者を含む)の労働年齢人口に占める比率を現し、経 済活動に参加する状況を図る指標である。 労働力量 国内投資 全要素労働力 の貢献率 生産年齢人口 総数 人 口 の 高 齢 化 資本形成 全要素 生産力 経済 成長 産業 構造 労働参加率 (を含む老年 人口) 社会保障制度の手配 金融市場 …… 国民貯蓄 消費 40-49 歳人口の 総数と割合 労働力の供給 養老を要する総 人口

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① 労働適齢人口への影響 通常的には、人口高齢化は労働適齢人口規模に大きく影響し、労働力不足 や高齢化をもたらす。労働力不足は、賃金水準を押し上げ、インフレーショ ンを引き起こす。と同時に、企業は柔軟的な労働時間制度を取り入れ、より 多くの労働力供給をはかったりする。 中国の現状から見て、相当長い時期中国が直面するのは労働力の過剰であ り、労働力の不足ではない。1953 年、中国の 15-64 歳の人口比率は、59.3% であるが、2010 年になると、その比率は急速に 74.53%にまで上昇した。中国 は21 世紀半ばまでに豊かな労働力資源を保持できるが、労働力人口の年齢構 造に変化が生じており、しかもその変化は加速傾向を見せている。例えば、 生産年齢人口のうち 45 歳以上のウエイトは、1990 年の 19%から 1999 年の 24%に上昇した。予測では、2040 年にその比率が 37%ほどに上昇し、労働力 資源の主要な構成部分となる。26 59.3 55.7 61.5 66.7 70 72 74.53 50 55 60 65 70 75 80 1953年 1964年 1982年 1990年 2000年 2005年 2010年 % 図2-2 1953-2010 年中国 15-64 歳の人口比率の変化 データ出所来:これまでの各回国勢調査及び1%人口サンプリング調査資料。 生産年齢人口の労働参加率への影響 マクロ的レベルから見れば、労働参加率は年齢構造、産業構造、社会福祉 26張本波、「我が国人口高齢化の経済社会結果分析及び政策選択」『マクロ経済研究』2002 年第 3 期)。

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水準と労働市場の状況などの社会的要素に影響されるが、ミクロ的なレベ ルから見れば、労働参加率は年齢、性別、教育程度、個人可処分所得や賃 金などの個人的要素の総合的影響による結果である。これまでの研究を見 てみると、65 歳以下の男性の労働参加率は、比較的安定しているが、人 口高齢化のプロセスにおいて、出生率が低下するのにしたがい、女性の出 産または育児時間が減尐すれば、ある程度労働適齢女性の労働参加率が上 昇すると思われる。 しかし、中国の現状での出生率の下、2000 年以後、幼尐年齢人口と女性人 口の教育機会は増えているが、労働参加率が絶えず低下している。これに対 し、高年齢人口の労働力参加率は比較的安定している。人口高齢化が急速に 進行する情勢の下、中国の生産年齢人口の高齢化はいっそう際だち、それに よって中国の労働参加率は絶えず低下し、その結果、労働力の有効供給の低 下が現れている。27 高齢人口の労働参加率への影響 高齢化の程度は人的資源供給(雇用)と養老年金との総量均衡に大きな影 響を与えている。その影響は動態的で常に変化するものであるし、異なる国 と異なる時期によって大きな差異が存在する。OECD14 ヵ国のデータ分析結 果が明らかに示すように、1960 年に、男性の予期可能な勤続年数は 46 年で、 定年後の余命年数は1 年余であったが、1995 年には、予期可能な勤続年数は 37 年にさがり、定年後の余命年数は 12 年に上昇している。2000 年のイタリ ア男性に対する推測によれば、定年年齢の中央値は59 歳足らずで、实際定年 後の生活年数は約21 年に達している。このような大きな変化の幅はこれらの 国の人的資源供給と養老年金体制の策定に大きな影響をもたらした28。 人口高齢化は、国家レベルの社会保障制度に影響を与え、さらに高齢者の 労働参加の度合い及び消費状況に影響を与える。1974 年に、アメリカの著名 な経済学者フェルドスタイン(Feldstein)が「定年効果」と「資産代替効果」 27張世偉・郭鳳鳴、「東北城住民労働力供給行為分析」『北東アジアフォーラム』2010 年第 4 期)。 28 OECD 各国の平均予期寿命は 1960 年は 68.5 歳であり(www.oecdchina.org/OECDpdf/35645252.pdf 2008-8-27)、1980 年は 72.6 歳であり、2002 年は 77.7 歳である(www.chinareform.org.cn/2008/rlfzbg/5.pdf 2008-11-20)。イタリアにおいて 2000 年の平均予期寿命は 79.4 歳であり、その内男性は 76.4 歳である (http://apps.who.int/ghodata/?vid=60800#)。

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の二つの概念を提起した。年金または退職金の額が増加し、高齢者のレジャ ー嗜好が向上すると、高齢者は現役から身を退き、高齢者の労働供給が抑制 される。年金や社会保険の充实は、定年の繰り上げを誘発する可能性があり、 それによって勤続年数が短縮し、定年後の余命年数が延びることになる。ま た、十分な貯蓄がなければ、養老の需要が満たされないため、定年前の現役 世代の貯蓄率が高くなる。これがいわゆる「定年効果」である29。NIA のサ ポートによる11 の工業化国家(ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタ リア、日本、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ)に 関する研究が明らかにしたところ、ほとんどの国で、国民年金は高齢者の労 働参加の度合いにマイナスの影響を与え、定年の繰上げを促進してしまう。 同研究は、国家間に文化の差異があるにもかかわらず、高齢者の労働参加の 度合いと社会保障制度の福祉とは重要な関係にあることを示している。 一方、代替率(労働者が定年後に受領する年金と定年前賃金水準との比率) の高い年金制度を広く实施すると、貯蓄率の押し下げ効果が働く。年金制度 が個人に有利であればあるほど貯蓄率への押し下げ効果が明らかで、これが いわゆる「資産代替効果」である30。高齢時に年金保障があると認識した場 合、現在の消費を重視するため、養老のための貯蓄が下がる。中国は現在、 低代替率の養老保険制度を实施しているため、現役の労働者の貯蓄増加につ ながると考えられる。図 2-3 からわかるように、65 歳以上の人口比率が 7% を超過するとき、中国の貯蓄率(国内貯蓄残高のGDP に占める割合)は明ら かな正の相関関係を示している。即ち、人口高齢化の度合いが高いほど、貯 蓄率が高くなり、これは我が国の社会保障制度と緊密に関連している。 表2-1 1982-2010 年中国人口高齢化と貯蓄率の変化(単位:%) 65+高齢比率 貯蓄率 1982 年 4.9 36 1995 年 6.2 44 1996 年 6.4 42

29 Feldstein,Martin. Social Security, Induced Retirement and Aggregate Capital Formation, Journal of Political

Economy, Vol. 82, no. 5 (September/October), 905-926, 1974.

30 Feldstein,Martin. Social Security, Induced Retirement and Aggregate Capital Formation, Journal of Political

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1997 年 6.5 42 1998 年 6.7 41 1999 年 6.9 39 2000 年 7 38 2001 年 7.1 38 2002 年 7.3 40 2003 年 7.5 43 2004 年 7.6 46 2005 年 7.7 48 2006 年 7.9 51 2007 年 8.1 51 2008 年 8.3 52 2009 年 8.5 53 2010 年 8.9 52 データ出所:世界銀行ウェブサイトhttp://data.worldbank.org.cn/indicator/NY.GDS.TOTL.ZS?page=4 注:貯蓄率は、国内貯蓄残高のGDP にしめるパーセンテージ。 30 35 40 45 50 55 4 5 6 7 8 9 10 65+老年人口比例(%) 储蓄率(% ) 1982年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 図2-3 1982-2010 年中国人口高齢化と貯蓄率との関連図 データ出所:世界銀行ウェブサイトhttp://data.worldbank.org.cn/indicator/NY.GDS.TOTL.ZS?page=4 注:貯蓄率は、国内貯蓄残高のGDP にしめるパーセンテージ。 储蓄率:貯蓄率。 65+老年人口比例:65 歳以上の高齢者人口の割合。 (2)資本形成への影響 人口従属人口指数の貯蓄に与える影響 フランコ・モディリアーニ(Franco Modigliani)のライフサイクル仮説によ

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ると、人間は誰もが一生の間に得られる全収入に基づいて消費や貯蓄の割合 を計画し、人生の異なる段階で異なる貯蓄傾向を示すという。人々は、普通 は現役時代に貯金するが、平均余命が延びるに従い、貯蓄額を増やしていく。 それに対し定年後の貯蓄は往々にして減る傾向にある。社会全体から見ると、 一定時期における人口総負担係数が低いとき、即ち現役人口の総人口に占め る比率が大きい場合、社会全体の貯蓄規模は相当なものとなる。逆に、人口 の総負担係数が比較的高く、特に定年後の人口が全人口に占める比率が増加 する場合、貯蓄規模は絶えず縮小する。Masson と Tryon が 1990 年に提出しIMF の研究報告によると、先進工業国の人口高齢化が貯蓄率に与える影響 を分析した結果、高齢化は社会貯蓄率の低下をもたらし、従属率が 1%上昇 すれば貯蓄率は1.1%低下するという。 中国の現状からすると、中国の現役労働者が扶養する高齢者の人数は絶え ず増えつつあり、高齢者従属人口指数が1964 年の 6.4%から 2010 年の 11.9% に上昇し、現役労働者の養老負担が重くなる一方である。また、1978 年に定 年退職した労働者数と現役労働者数の比率は1:30.3 であったが、1990 年に は 1:6.4 となり、1999 年にはさらに 1:3.7 となった。現在の定年年齢を維 持すれば、2030 年には定年退職した労働者数と現役労働者数の比率は 1:2.4 となり、2050 年には 1:1.8 に達すると予測されている。中国高齢化の深刻化 により、将来の中国の年齢構造は根本的に変わり、従属人口指数の増加が中 国の貯蓄率(まずは家計の貯蓄率)に与える影響もますます顕在化してくる こととなろう。

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8 8.3 8.3 9.2 9.5 9.7 9.910.29.910.1 10.410.710.710.7 11 11.111.3 11.611.9 7 8 9 10 11 12 13 1982年 1987年 1990年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 % 図2-4 1982 年-2010 年中国高齢者従属人口指数:高齢人口と労働力人口の比率 ② 社会保障支出の貯蓄への影響 日増しに肥大化する年金支出に対応するために、より多くの国々が養老社 会保障の持続可能性を検討し始めている。2003 年に、EU25 カ国は、GDP の 八分の一を養老保障に費やしている。高齢人口は、就業の継続による所得、 社会保険制度、職業年金、個人貯蓄などの収入源に複合的に頼るしかないが、 人口高齢化によって政府は社会支出を増大させ、融資需要を増大させるので、 貯蓄も減尐していくことが予想される。 中国の現状から見ると、今後ベビーブーム世代の大量退職により、社会保 障を必要とする人口が急速に増え、膨大な社会保険支出が必要になると思わ れる。定年退職者が急速に増大することによるコストは国の財政に大きなチ ャレンジをもたらし、社会保障制度にも大きな圧力をかけることになる。中 国の巨額な公的養老年金支出に関して、養老年金口座の巨額な資金不足が懸 念されている。2005 年に、中国の高齢従属人口指数(100 人の生産年齢人口 に従属する高齢者数)は 16%に過ぎなかったが、2025 年には、これが 32% まで倍増し、2050 年になるとさらに倍増し 61%まで上昇すると予想されてい る。現役労働者の負担も 3 倍増えることになる31。1980 年代以来、中国養老 年金保険の増加スピードは比較的速かった。1979 年に全国で定年退職した労 31徐勤、『人口高齢化:21 世紀の挑戦』(『指導者の友』、2011 年第 3 期)。

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働者は596 万人であったが、1989 年にそれが 2205 万人と、10 年間で 2.7 倍 も増加し、各種支出も 32.5 億元から 382.6 億元にまで膨らみ、10.8 倍増と なっている。予測では、2050 年には定年退職した労働者数は 1 億を越え、毎 年支払われる年金額が18 兆人民元と、1993 年の 20 数倍となる32。社会保障 支出の増加により、社会の拡大再生産が抑制される。世界銀行の予測では、 現行の養老保険計画の下、中国の基本養老基金は 2032 年ごろから赤字に転 じるという33。目下、我が国の社会養老保険制度は、部分的基金積み立て制 度に転換している。その目標は、しだいに基金積み立て制度を主要形式とし た、例えば公共養老保険基金、企業年金と個人貯蓄養老基金などを含めた多 元的養老保険基金システムの構築にある。 社会基本养老保险支出(亿元) 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 図2-5 中国の社会基本養老保険支出 データ出所:『2009 中国統計年鑑』。 注:社会基本养老保险支出(亿元):社会の基本養老保険支出(億元)。 表2-2 2000 年~2009 年都市定年労働者の年金水準分析(単位:元、%) 年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 1人当たりの年間の平均年金 6674 6866 7880 8088 8536 9251 10564 12041 13933 15512 労働者平均賃金 9333 10834 12373 13969 15920 18200 20856 24721 29229 世帯1人当たり可処分所得 6280 6860 7703 8472 9422 10493 11760 13786 15781 17175 世帯1人当たり消費支出 4998 5309 6030 6511 7182 7943 8697 9997 32祁峰、『人口高齢化の我が国経済社会発展への影響と対策』『生産力研究』2010 年第 7 期)。 33張本波、『我が国人口高齢化の経済社会結果分析及び政策選択』『マクロ経済研究』2002 年第 3 期)。

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年金の平均賃金に占める比率 72 63 64 58 54 51 51 49 48 年金の世帯1人当たり可処分所得 にしめる比率 106 100 102 95 91 88 90 87 88 90 年金の世帯1人当たり消費支出に しめる比率 134 129 131 124 119 116 121 120 ③ 金融市場の貯蓄率への影響 人口高齢化はさらに金融市場と金融政策に影響を与え、そして貯蓄率の変 動に影響を及ぼす。金融規制の緩和や金融商品価格の変動なども、貯蓄率に 大きな影響を与える。企業と家庭が資本市場から簡単に融資を受け投資する ことができ、かつ資産効果が明らかな場合には、人々は可処分所得を労働報 酬だけでなく、定年後も資本市場から得られるので、貯蓄率は著しく低下す るであろう。他方、資産需要のライフサイクルの変化に基づき、人口の高齢 化が急速に進んだ場合、高齢者は消費を確保するために、集中して手持ちの 金融資産を売って現金に替えることになるが、一方的な売りは、必ずや金融 資産価格の低下を引き起こす。また、長期に及ぶ一方的な売り注文によって 起きる心理的要素が金融市場の崩壊を引き起こし、さらには財務危機や資本 危機を引き起こし、経済成長に影響を与えることもありうる。 ④ 貯蓄の投資への影響 閉鎖経済において、貯蓄が投資によって資本を形成する唯一の方法である。 言い換えれば、国民貯蓄がイコール国内投資だといえる。貯蓄のライフサイ クル仮説に従えば、人口高齢化、すなわち労働力供給の減尐は貯蓄の減尐を 意味する。投資規模もそれに合わせて縮小し、その他の要素が変わらなけれ ば、総生産も減尐することになる。さらに、労働力供給減尐の速度が貯蓄減 尐の速度より遅ければ、投資―労働比率の低下を引き起こし、それは資本形 成の不足を意味し、1人当たりの総生産水準の低下をきたすことになる。 (3)全要素生産性への影響 人口高齢化は、全要素生産性に大きな影響を与える。2007 年、フェイラー

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(Feyrer)が人的資本の拡張成長モデルを構築し、87 カ国の 1960-1990 年に おける人口と経済データの量的分析を行った結果、異なる年齢の労働力の全 要素生産性への寄与率は、逆の U 字型構造を呈し、40-49 歳の年齢層の労働 力の全要素生産性への寄与率が最も大きいことを発見した34。この発見は、 40-49 歳の年齢層の労働力の労働力全体に占める比率が上昇すれば、全要素生 産性が向上し、労働年齢人口が高齢化すれば、つまりより多くの労働力の年 齢が50 歳を超えた場合、全要素生産性が明らかに低下することを意味してい る。人口高齢化は、高齢人口比率の上昇を意味するばかりでなく、労働力の 年齢構造の高齢化を意味し、言い換えれば労働力全体の平均年齢が上昇し、 特に50 歳以上労働力の労働力全体に占める比率が上昇し、最終的に全要素生 産性に不利な影響を与えることとなる。 中国について言えば、40-49 歳の人口比率は 1950 年の 11.22%から 2010 年 の16.13%に上昇したが、40-49 歳労働力の増加率は、1990 年以後に変動幅が 大きくなり、明らかに周期的な低下傾向を見せている。1990-1995 年における 40-49 歳労働力の年平均増加率は 5.37%に達したこともあったが、その後徐々 に低下しはじめ、後にまた上昇に転じ、増加率がゼロを下回る年はなかった。 2000-2005 年の増加率は再び高い数値を見せるが、それにしても 3.94%でしか なかった。2005 年以後の 40-49 歳労働力の増加率は大幅に低下する傾向にあ り 、2015-2020 年における年平均増加率は-2.71%になると予測される。 2025-2030 年において、増加率は再びプラスに転じるかもしれないが、大きな 流れを変えることができず、40-49 歳労働力の年平均増加率のマイナス圏にお ける低迷は避けることができない(図 2-6)。これは、2015 年以後、その他の 要素を考慮に入れないことを前提に、中国の全要素生産性が大きく弱体化し、 経済成長もますます鈍化すると思われる。郭慶旺、贾俊雪の計算では、1978 年以来、中国の全要素生産性の経済成長への寄与度は全体的に低下傾向にあ るという。1978-1993 において、全要素生産性の経済成長に与える寄与度は 1/2 を超えていたが、1994-2004 において全要素生産性の経済成長への寄与度

34Martin Werding, Aging and Productivity Growth: Are There Macro-Level Cohort Effects of Human Capital?

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は1/3 にまでに下がっている。35 40-49歳労働力の増加率がある程度低下したことも、労働生産性に重要な影 響を与えている。中国統計年鑑の関連データに基づいて計算したところ、1978- 2006年において、中国労働生産性の年平均増加率は7.7%に達している。中国人 口高齢化が急速に進行する中で、労働力の高齢化問題が日増しに際立ち、従属 人口指数も絶えず上昇しているため、1人当たり生産高の長期的な増加速度が 緩やかになり、さらに中国経済の成長にマイナス的影響をもたらし、社会総生 産の伸びは絶えず低下するだろう362-3 1950-2010 年中国 40-49 歳人口数及び比率(単位:千人,%) 40-49 歳人口数 総人口に占める比率 1950 年 61822 11.22 1955 年 63322 10.41 1960 年 67126 10.20 1965 年 68686 9.67 1970 年 75256 9.24 1975 年 85642 9.36 1980 年 92931 9.45 1985 年 97015 9.18 1990 年 112750 9.85 1995 年 149409 12.31 2000 年 169463 13.35 2005 年 178424 13.65 2010 年 216400 16.13

データ出所:UN, World Population Prospects 2008。

35郭慶旺、贾俊雪、『中国全要素生産性の試算:1979—2004』『経済研究』、2005 年第 6 期) 36張桂蓮、王永蓮、『中国人口高齢化の経済発展への影響』『人口学刊』、2010 年第 5 期)

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0 50000 100000 150000 200000 250000 1950年 1955年 1960年 1965年 1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 千人 0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00 14.00 16.00 18.00 % 40-49岁人口数 占总人口比例 図2-6 1950-2010 年中国 40-49 歳人口数及び総人口における割合

データ出所:UN, World Population Prospects 2008。 注:40-49 岁人口数:40~49歳の人口数 占总人口比例:総人口に占める割合 2、人口高齢化の経済的効果に関する文献総括 ここ近年、中国国内の学者は、人口高齢化によってもたらされる社会的経済 的影響により注目するようになり、多くの専門家と学者が理論と实践の双方か ら人口高齢化の社会と経済に与える影響について研究している。 理論の面においては、李軍が人口高齢化要素(高齢従属人口指数)の変量を ソロー成長モデルに導入し、人口高齢化要素の変量を含めた経済均衡成長経路 の方程式を構築し、人口高齢化要素の経済均衡成長経路に与える影響と効果を 分析し、理論的に人口高齢化要素の経済成長に対する正、負、ゼロの三効果が あることを証明した(李軍、2003)。賀菊煌が、技術成長率を固定し、人的資 本を考慮しない前提のもと、幼尐と高齢従属人口指数の四期世代重複モデルを 導入して、人口変動の貯蓄に与える影響を研究し、以下の結論を出している。 急速な出生率の低下は貯蓄率に大きな正の影響は与えないが、高齢従属人口指 数の変動は幼尐従属人口指数の変動より貯蓄率に大きな影響を与える。急速な 出生率の低下により資産収益率が人口転換の中後期において低下し、賃金増加

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率(労働力コスト)は人口転換の中後期から上昇するが、約20年のタイムラグ がある。出生率の低下、労働力増加率の低下は経済成長率の低下を引き起こす。 迅速な出生率低下は、1人当たりの消費を恒久的に向上させる。(賀菊煌、2006)。 劉永平が『人口高齢化、家庭養老と経済成長』の博士論文で、家庭養老と計画 出産の拘束のもと、世代重複モデルにもとづき、人口高齢化の経済成長への影 響を研究した。その結論としては、以下のようなものである。家庭養老のメカ ニズムのもと、高齢化の経済に与える影響ははっきりせず、人口高齢化の度合 いの深まりにつれ、一方では家庭の次の世代に対する教育投入が増えるため、 人的資本ストックが促進されるが、もう一方では、家庭貯蓄が低下し、社会に おける投資能力が減尐する(劉永平、2007)。また、劉永平と陸銘進が、さら に人口高齢化の下における家庭消費、貯蓄、教育投資と経済成長の相互関係を 研究し、高齢化の経済に与える影響は、高齢化の度合い、資本の生産弾力性、 教育部門資本投入の生産弾力性などのパラメーターによるといった結論を出 している(劉永平、陸銘進2008b)。許非と陳瑣が、反復モデル(iterative model) に基づき、人口転換プロセスにおいて、平均余命の伸びが中国経済成長に与え る影響を研究した。結論は次の通りである。貯蓄率、人的資本投資率と経済成 長率は、平均余命の伸びに従い、逆の「U」字型を呈す(許非と陳瑣、2008)。 巩勲洲等は、ライフサイクル仮説に基づき、消費者が高齢化の過程において、 いかに富を蓄積するかを研究し、資本、労働力等の要素変化を総合的に考慮し て、人口高齢化は必ずしも経済成長速度を妨げるものではないとの結論を出し ている(巩勲洲等、2008)。 实証研究においては、彭秀健が計算可能な一般均衡モデルを用いて、中国高 齢化のマクロ経済効果に対し量的分析を行った。彭秀健は主に次のような結論 を出している。1.人口高齢化は、労働力の増加率低下及びその後の減尐を通 じて、物的資本の低成長をもたらし、中国の経済成長を減速させる。2.総人 口の減尐は、人口高齢化の1人あたりGDPに与えるマイナスの影響を緩める。 3.貯蓄率の変化はライフサイクル仮説に従う。4.人口高齢化は国内の投資 需要を引き下げる。5.人口高齢化によって起こる貯蓄率の低下は、平均消費 性向の不断な上昇をもたらす。6.人口高齢化の状況のもと、1人当たりの物

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的生活水準は絶えず向上するが、向上の速度は絶えず低下する。7.人口高齢 化の経済成長に与えるマイナスの影響は、主に労働供給のマイナス成長及びそ れによって起きる物的資本の低成長に起因する。8.人口高齢化の状況の下、 技術進歩と生産性の不断な上昇こそ、中国経済の持続可能な成長を維持する主 な源泉である(彭秀健,2006)。彭秀健は予測データを用いて人口高齢化の将 来に与える影響を研究したが、この研究方法において、予測データの正確度が 研究の結論に決定的な影響を持つ。しかし、中国の経済発展は極めて迅速であ るため、将来四、五十年の関連経済データを予測することは極めて難しい。邢 慧民がMankiw-Romer- Weilの实物資本や人的資本と経済成長の関係を検討す るモデルに、労働力の高齢化要素を導入した結果、労働力の高齢化が存在する ときに、経済成長が必要とする1人当たりの物的資本と1人当たりの人的資本が 大きくなり、社会と経済への負担が大きくなることを発見した(邢慧民,2009)。 田雪原は、人口――経済ダイナミックモデルで、将来異なる人口年齢構造にお ける経済成長をシミュレートした結果、高齢化の度合いが高く、上昇速度が速 ければ、経済成長に与えるネガティブな影響も大きくなり、経済成長の速度が 遅くなる。人口高齢化は消費に影響を与えることで間接的に経済成長に影響す る(田雪原、2005)。周晨等が、SOLOWモデルの簡単な拡充によって、高齢 化の度合いのパラメータを導入し、高齢化の中国経済に与える影響を研究した 結果、高齢化の進行は、中国経済にマイナスの影響を与え、高齢化の度合いが 高いほど経済成長を阻むとの結論を出している(周晨等、2007)。 人口高齢化の経済的影響についての理論研究をまとめてみると、前述の理論 モデル研究で、李軍のモデルを除けば、その他の学者のモデルは、みなある視 点から人口高齢化の経済成長に与える影響を研究したことがわかる。 以上の数々の研究が示すように、人口高齢化が社会と経済の発展に与える影 響について、学術界は大きな实績を上げている。いずれも人口高齢化の経済へ の影響について、単純にマイナスの影響あるいはプラスの影響と言えるもので はなく、総合的に捉えるべき問題であり、多元的且つ複雑さを極めていて、一 筋縄では行かないことを認識しているといえよう。 しかし、さまざまな具体的な要素をめぐってまだ論争があり、更なる研究が

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期待される。また、研究の現状から見ると、国内の関連研究は主に全国高齢化 データを用いて経済への影響を全体的な、大まかな分析をしているに過ぎない。 ただし、中国は、地域間格差が大きく、経済成長は主に中央政府の財政と尐数 の経済的に強い省に頼っている37。例えば2010年の北京、上海、江蘇、浙江、 山東、広東の6省(市)の一般会計予算の歳入は地方政府総収入の47.23%を占 め、6省(市)の税収は、全国税収の51.04%を占める。また、6省(市)の地 域総生産の全国の地域総生産の42.47%を占め、6省(市)の65歳以上人口の全 国65歳以上の人口総数の28.46%を占めている。したがって、人口高齢化と経済 寄与度の地域的差異から見ると、6省(市)の人口高齢化の進行を遅らせられ れば、人口ボーナスをより長く維持でき、中国の産業構造調整、社会保障強化 により多くの時間と、より大きな調整の余地をもたらし、中国経済の将来への マイナスの影響をさらに減尐できる。このような考えのもと、次は重点的に6 省(市)の人口高齢化と1人当たりGDP及び成長率との相関関係を分析し、他 の国の経験に鑑みて、中国将来の人口高齢化が経済発展に与える重要な影響を 検討していきたい。 三、中国高齢化の省別差異及び経済発展への影響 1、中国高齢化の省別差異及びその分類 1)中国高齢化の省別差異 中国では、異なる地域、また都市農村間の社会的経済的発展水準が異なるた め、人口高齢化の進行も明らかに地域的不均衡を見せている。即ち、中国の高 齢化は生産性上昇の水準と一致性を有し、西から東へと段階的な上昇を示して いる。人口高齢化に突入した時間からみると、東部、中部、西部三大地域に大 きなギャップが存在することを確認できる。東部地域は早くも1992年に人口高 齢化社会に突入し、高齢化の度合いも最も高く、2006年の高齢人口係数は平均 で10%に達している。中部地域は2002年に高齢化社会に突入したが、中西部地 域が最も遅く、2004年にやっと7.02%のレベルで人口高齢化社会に突入した。 37 省クラスの行政地域を指す。この六つの行政地域は我が国 1 人当たり GDP の上位の省でもある。

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10.18 9.84 9.34 9.09 8.75 8.53 8.38 8.32 8.23 7.8 7.6 7.56 6.75 6.3 5.09 6.19 6.41 7.58 7.63 7.89 8.24 8.36 8.52 8.71 11.56 10.95 10.89 10.31 10.12 9.78 9.24 8.87 0 2 4 6 8 10 12 14 重庆 四川 江苏 辽宁 安徽 上海 山东 湖南 浙江 广西 湖北 全国 贵州 北京 陕西 天津 吉林 河南 黑龙江 河北 甘肃 福建 海南 云南 江西 山西 内蒙古 广东 宁夏 青海 新疆 西藏 % 図3-1 2010 中国各地域における 65 歳以上の人口ウエイト(%) 2)中国高齢化地域の類型区分 中国の省別人口高齢化類型を見てみると、2010年中国各地域の人口高齢化水 準を横軸とし、それぞれ1990-2010年もしくは2000-2010年における人口高齢化 水準の増加値を縦軸とし、二項目の指標の全国平均値を原点とすれば、各地域 の人口高齢化状況を「ハイ・ファスト型」(度合いが高く急速に上昇)、「ハイ・ スロー型」(度合いが高く緩やかに上昇)、「ロー・ファスト型」(度合いが低く 急速に上昇)、「ロー・スロー型」(度合いが低く緩やかに上昇)の4類型に分け ることができる(図3-2、図3-3を参照)。統計データによると、2010年、重慶 と上海の65歳以上の人口ウエイトはそれぞれ11.56%と10.12%に達している。 予測では、寧夏は2011年ごろ、チベットは2018年ごろにそれぞれ高齢化社会に 突入するというが、上海は既に1979年に高齢化社会に突入しており、中国の人 口高齢化の省別差異には40年間の広がりがある。このように中国では人口高齢 化に明らかな省別差異が存在している。

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辽宁 上海 江苏 浙江 广东 安徽 湖北 湖南 四川 青海宁夏 新疆 内蒙古 广西 西藏 北京 天津 河北 福建 海南 山西 吉林 黑龙江 江西 河南 重庆 贵州 云南 陕西 甘肃 山东 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 図3-2 2000-2010 年中国各地域人口高齢化の四つの類型(単位:%) データ出所:2000 年と 2010 年全国国勢調査データ資料。 注:原点は各項目指標の全国平均値。 辽宁 上海 江苏 浙江 广东 安徽 湖北 湖南 四川 青海 宁夏 新疆 内蒙古 广西 西藏 北京 天津河北 福建 海南 山西 吉林 黑龙江 江西 河南 贵州 云南 陕西 甘肃 山东 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 5 6 7 8 9 10 11 12 図3-3 1990-2010 年中国各地域人口高齢化の四つの類型(重慶抜き)(単位:%) データ出所:19900 年と 2010 年全国国勢調査データ資料。 注:原点は各項目指標の全国平均値。 全国31 の省のうち、北京、上海など 6 省(市)の中国経済への寄与度が大 2010 年 65+人口の割合 2000-2010 年 65 歳や人口の割合の増加値 高/速 型 高/遅 型 低/速 型 低/遅 型 2010 年 65+人口の割合 1990-2010 年 65 歳や人口の割合の増加値 高/速 型/遅 型 /速 型 /遅 型

表 1-19    『国家人口発展戦略の研究報告』における各シナリオの比較 プロジェクト責任者 郭志刚 田雪原 曾毅 予測方法     年齢別産歴パリティー拡大モデル( Parity  Progression Model):大まかな構想:第一、出産女性の出産プロセスを細分化。当方法は、出産年齢女性の現在年齢と年齢別産歴構造状態によって次回の出産の確率を計算。出産予測を完成した後、さ らに各クロス類型出産年齢女性の出産数に基づき、出産 年齢女性の産歴類型の分布を更新すると同時に、女性の 出産産歴属性を記録する
図 1-14    将来の中国総人口、生産年齢人口及び従属人口指数の予測 データ出所:『国家人口発展戦略研究・人口発展予測』プロジェクト。 図 1-15    『国家人口発展戦略』プロジェクトによる人口高齢化の予測結果60歳以上人口(億人) 65歳以上人口(億人) 60歳以上の人口の割合(%)60歳以上の人口の割合(%) 億人亿人 年 総人口(億人)扶養より人口(%)15-64歳人口(億人)億人
図 1-16    郭志剛プロジェクトチームによる各中レベルシナリオにおける 65 歳以上の高齢人口比率 注: 2. 化 _ 单双:シナリオ 2 ― 2000 年から 2050 年までの「非農業人口化」期間中、 2005 年から夫婦片方一人っ子の場合、二人目の子供の出産を認める。 11
図 2-1    閉鎖系における人口高齢化の経済に及ぼす影響の見取り図 ( 1 )労働力供給への影響 労働力供給の角度から見て、人口高齢化は、労働年齢人口の絶対的数量の 低下を引き起こすのみでなく、人口年齢構造の高齢化と労働参加率の変化を 引き起こし、それによって労働力の供給に影響を与える可能性がある。労働 力量は、労働年齢人口、労働参加率と失業率との関数で、以下の公式で現せ る。   bai iiprPL                                             (式

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