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広島工業大学紀要教育編第 ₁₅ 巻 (₂₀₁₆)1 10 論文 同期型 CSCL を使った国際協調的外国語学習の実践 ツールの違いにおける社会的存在感と満足度との関係性 安部由美子 * 益子行弘 ** ( 平成 ₂₇ 年 ₁₀ 月 ₂₇ 日受付 ) International Collaborati

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論 文

1 .はじめに

1.1 研究背景  大学のカリキュラムの中にも映像通信が取り入れられる ようになり,外国語コミュニケーション学習においても, 集合講義から e ラーニングへ,さらに,CMC (Computer-Mediated Communication) を 活 用 し た 協 調 学 習 の 支 援 (CSCL: Computer-Supported Collaborative Learning)へと

ネットワーク技術が使用される機会が増えている。  CMC には,文字によるテキストベースと音声・画像を 伴うビデオベースがある。テキスト・チャットや非言語的 なコミュニケーションの手がかりが利用可能なビデオ・ チャットなどの同期型 CMC ツールは,日常的なコミュニ  * 広島工業大学工学部 ** 浦和大学

同期型 CSCL を使った国際協調的外国語学習の実践

――

ツールの違いにおける社会的存在感と満足度との関係性――

安部 由美子*・益子 行弘**

(平成₂₇年₁₀月₂₇日受付)

International Collaborative Learning in a Foreign Language: Social Presence and

Satisfaction within Two Modes of Discussion

Yumiko ABE and Yukihiro MASHIKO

(Received Oct. 27, 2015)

Abstract

With international collaborative learning and the use of synchronized CSCL (SCSL) tools increasing,

the best educational use of these tools is being considered. When designing a learning support system

for foreign language learning, it is necessary to know how social presence, the cultural context of

learners, their satisfaction, and learning outcomes interact and inform design choices. In this study, we

investigated the relationships among two modes of interaction (text chat or video chat), social

pres-ence, ethnicity, and satisfaction. We found that group consciousness and comfort in conversing were

raised higher in text chat than in video chat and that text chat groups reported a higher level of

per-ceived social presence than video chat groups.

Key Words: synchronized CSCL, social presence, a foreign language education, international

collab-orative learning

ケーションツールとして言語学習の分野で利用者が増加し ている。

 CMC は,ヴ ィ ゴ ツ キ ー(Lev Semenovich Vygotsky, ₁₈₉₆–₁₉₃₄)に代表される,社会的構成主義の学習理論を 理念とする。社会的構成主義では,知識は社会的な営みの 中で構成するものと考える。ヴィゴツキーによると,人は 他者との促進的相互作用の中で認知や知識を構成していく ものと考えられている₁︶。ヴィゴツキーは , より高い知識を 持つ他者の援助があれば到達できる領域を「発達の最近接 領域」(ZPD: Zone of Proximal Development)と呼び,こ の領域で,仲間や教師(大人)と協力して行う問題解決に よって,学習者の問題解決能力が,より高い発達水準に引

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が提唱した発達の最近接領域での支援,つまり「足場かけ (scaffolding)」₂︶による共同対話は,第二言語学習において, 重要な役割を果たすとされている₃︶。Storch (₂₀₀₂) らは, 共同対話が第二言語学習に与える効果に関する研究で,学 習者同士の足場かけは,ある特定のパターン,すなわち, 協 調 型(collaborative)か あ る い は,熟 達―見 習 い 型 (expert-novice)において生じることを報告している₄︶  また,CMC では,インタラクティブな言語学習を促す ことが,先行研究で示唆されてきた₅︶。とりわけ,同期型 CMCを利用した,英語の非母国者同士の異文化間のイン タラクションでは,英語力を向上させる効果があることが 指摘されている₆︶。例えば,アウトプット(メッセージを 誰かに伝えるために言葉を話したり,書いたりすること) や,理解できるインプット(背景知識の活性化によって新 しい言語項目の理解が可能になるインプット)に加え,互 いの発話の理解が困難な場合には理解を深めるために,意 味の交渉(確認や応答などの意味のやり取り)を行う₇︶ ど,対人的なインタラクションを促進することが可能であ る。  さらに,協調学習における支援システム CSCL では,知 識と技能の実践であり,CMC をベースにした様々な社会 的活動(social practice)の参加を通して行う,「状況的学 習」が可能であるといわれている₈︶。つまり,学習者が意 見交換や共同での問題解決など相互のインタラクションを 通した学びを促進することができると考えられている。し たがって,他者との関係性は,学習意欲を向上させ,学習 成果と結びつくこと₉︶からも,CSCL を利用した海外校と の連携による効果的な英語学習を構築するためには,メ ディアと学習者間との関係性が感情面に及ぼす影響を十分 に考慮した評価を行う必要がある。 1.2 社会的存在感

 社会的存在感とは,Short, Williams & Christie (₁₉₇₆) が 提唱したものである。Short ら (₁₉₇₆) は,それを他者との 相互作用における「相手の顕在性(the degree of salience)」 と定義し,メディアの特徴の比較に有効な手段となると提 言した₁₀︶。Short ら (₁₉₇₆) は,顔の表情や非言語的な視覚 的な情報を伝達するメディアの能力は,コミュニケーショ ンのメディアの社会的存在感の強さに影響することを主張 した₁₀︶  社会的存在感の定義については,様々な立場から論じら れており,Gunawardena, C. N (₁₉₉₅) は,参加者間の親密 さと応答の速さが,社会的存在感に関連していることを指 摘している₁₁︶。Polhemus ら (₂₀₀₀) は,「社会的存在感は, アクティブなコミュニティを作りだし,学習間のインタラ クションの頻度を増やし,その結果,コミュニカティブな 学習参加を促進する」としている₁₂︶  さらに,Garrison ら(₂₀₀₄)は,非同期のテキストによ る CMC ツールの協調学習に言及し,社会的存在感を「探 究の共同体(Community of Inquiry)において,社会的に, 情緒的に解決できる能力」とし,再定義した₁₃︶。社会的存 在感とは,メディアの特性だけでなく,対人的なインタラ クションの基礎を与えることで,学習のコミュニティの中 で,他者とつながる能力を反映するものと解釈した₁₄︶。Tu & McIssac (₂₀₀₂) は,社会的存在感と相互的なインタラク ションとの相互関係について注目し,「オンラインのインタ ラクションのレベルを向上するためには,社会的存在感の 程度を,高める必要がある」としている₁₅︶。また,コミュ ニティの形成には,参加者間で社会的存在感が必要であ り₉︶,社会的存在感は,学習の満足感を支援することが示 唆されている₁₆︶  山田ら(₂₀₀₉)が行った同期型 CMC の有効性について の先行研究では,ビデオ・カンファレンスは,手振り,身 振りなどの社会的手がかりが使用することができ,テキス ト・チャットと比べて感情の伝達ができ,発話するタイミ ングが対面と近い₁₇︶。そのため,社会的存在感を高めるこ とが容易であり,学習の感情面に対する支援効果あったと 報告されている₁₇︶。一方,杉谷(₂₀₀₉)が行った CMC コ ミュニケーションに関する調査では,メッセージの解釈に おける非言語的な手がかりの効果について,視覚的手がか りがなくても,伝達感,伝達度は変わらなかった₁₈︶ことが 報告されている。杉谷(₂₀₀₉)は,道具的メッセージの場 合,即時的な反応がなかったほうが,メッセージが伝わり やすいことを指摘している₁₈︶。しかし,これらの結果は, 実際のコミュニケーションの場での比較ではないため,外 国語コミュニケーション学習における即時的な反応や社会 的手がかりが,学習者間の感情面や伝達度にどのように影 響を及ぼすのかについては,まだ明らかにされていない。  したがって,異なるメディアにおける学習者間の相互作 用や,社会的存在感の理論とその研究は,CSCL ツールの 利用による国際協調的外国語コミュニケーション学習にお いて,社会的な実践(social practice)と学習プロセスが, どのように生じているのかを説明するのに役立つだろう。

2 .目的と方法

2.1 研究目的  以上の先行文献に基づいて,英語コミュニケーション学 習として同期型 CSCL の ₂ つのツールであるテキストとビ デオの違いに着目し,これらが英語の非母国語者間の国際 的協調学習における「社会的存在感」や「満足感」に与え る影響を検討することを目的とした。

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2.2 研究計画・方法  フィリピン大学のフィリピン人学生(英語学習上級レベ ル)と日本人大学生(英語中級レベル学習者)を対象に, 同期型 CSCL のツール,ビデオとテキスト・チャットの ₂ 群間で,以下にあげる諸側面に,どういう差異がみられる かを検討する。  フィリピンは,日本との時差が ₁ 時間ほどであり,同期 的ツールを用いた被験者間のやりとりをより円滑に行うこ とが可能である。また,フィリピンは,アジア諸国の中で, 英語を使用する英語公用語国であり,英語非母国語者の中 でも,比較的英語力があり,発音は日本人にとっては聞き やすくゆっくりした発音であるため,対象国として選定し た。  まず, ₁ )社会的存在感および ₂ )同期型 CSCL に対す る満足度,学習者の活動意識について,両メディア間(画 像・文字によるテキストのメディアの間)と国別(日本人 大学生とフィリピン人大学生)にどのような違いがみられ るかを調査し,同期型 CSCL ツールに関して,社会的存在 感を高める特性とその学習効果,及び学習が行われた相互 作用を明らかにし,さらにメディアの違いが,社会的存在 感や満足度にどのような影響を及ぼすのか,受講者の意識 調査を行った。  ₃₇名の広島県在住の日本人大学生,低―中級英語学習者 (TOEIC 得点で₃₈₀から₅₅₀)と₃₉名のフィリピンの大学生 からなるボランティアグループ(TOEIC 得点で₈₀₀から ₉₀₀),計₇₆人を調査協力者とした。スカイプを利用したビ デオ・チャットとテキスト・チャットによる英語でのやり 取りを PC 室にて,各教員 ₁ 名と ₄ - ₅ 名のスチューデン ト・アシスタント(SA)によって,₂₀₁₃年₁₀月から ₄ 週間 にわたって行われた。教員間は,事前に指導内容や方法, 注意点などを共有し,SA は,交流中,学習者にテクニカル な問題が発生した場合に対応した。  毎週のテーマについては,議論が活発化するように,あ らかじめテーマに関する質問項目をいくつかおいた。事前 学習として,日本人学習者に対して,毎週のテーマについ て質問と自分なりの考えや意見を用意しておくように指導 した。  事前調査として,調査協力者の属性として,学習者の特徴 (国籍・性別),コンピュータの所有状況・PC 利用状況, PC能力,タイプ能力などについて集計を行った。PC 能力と タイプ能力の項目に関しては, ₅ 件法( ₁ .非常に悪い― ₃ .どちらでもない― ₅ .非常に良い)で評定を定めた。 必要に応じて適宜自由記述項目を追加した。フィリピンの 大学生と日本人学習者とペアをランダムに組んでもらい, テーマについて議論を行った。事後調査に,社会的存在感, 満足度の各アンケートを実施し,集計を行った。  CSCL 研究の前提条件となる要件を満たすための仕組み として,Moodle を使用した e ラーニング型学習管理シス テム(Learning Management System: LMS)を構築し,相 手グループのデータに対してアクセス制限を設定した。ま ず,調査協力者には,PC またはタブレット PC から Web ブラウザ経由でインターネット上に公開されている LMS に ログインしてもらい,他国の学生とペアを組み,毎回与え られるテーマについて,コンピュータ上で₃₀分間,スカイ プを使って, ₁ 対 ₁ のペアごとにそれぞれテキスト・ チャットおよびビデオ・チャットに分かれて議論を行った。 実施したチャット内容が保存されたテキストデータおよび 動画データは LMS 上で管理された。  チャットの後,調査協力者の属性として,アンケート A (PC の所有の有無,所有年数と使用頻度),社会的存在感 (アンケート B および C),満足度について,「とても賛成 する」を ₁ ,「賛成する」を ₂ ,「どちらでもない」を ₃ , 「反対する」を ₄ ,「とても反対する」を ₅ とした, ₅ 段階 のリッカート法によるオンライン・アンケートを行った。  アンケート B は,満足度は,存在感と結びつきが強いと いう先行研究をした,Gunawardena and Zittle (₁₉₉₇) が使 用した評価指標から,社会的存在感に関する「他者との相 互関係」,「親密性」「即時性」などを測る質問項目を選定し た。Gunawardena and Zittle (₁₉₉₇) は,テキスト・チャッ トによるカンファランス,GlobalEd といった CMC におけ る実践を対象に作成した指標であったため,今回の実践で は,CSCL 環境における学習者間の協調学習について調べ るために,「モデレーターの役割」に関する項目は削除し た。  アンケート C は,「所属感」,「協調感」など「他者とつ ながる能力」を検討するため Arbaugh(₂₀₀₇)が開発した 「探求の共同体」尺度₁₉︶の社会的存在感の質問項目とした。

 アンケート D は,Gunawardena and Zittle (₁₉₉₇) が使用 した「満足度に関する質問項目」を用いた。各アンケート は,先行文献の原語(英語),及び日本語に翻訳した項目を 用いた。

3 .結 果

3.1 学習者の特徴  まず,今回の調査協力者の属性(アンケート A)につい て集計を行った(表 ₁-₁から₁-₄)。対象学習者₇₆人のうち, 日本人は,₈₉.₁%フィリピン人は,₉₇.₄%がコンピュータ を所有し(表 ₁-₂),インターネットを利用していた。 コ ンピュータおよびインターネットの一日当たりの利用時間 については,日本人が,₁.₆₁時間,フィリピン人が,₄.₈₂ 時間で,使用時間が長かった(表 ₁-₂),フィリピン人の使 用時間が長かった。コンピュータの使用目的については,

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表1-1 今回の調査協力者の属性(国籍・群) 国 籍 群 日本人 ₃₇ テキスト ₁₈ ビ デ オ ₁₉ フィリピン人 ₃₉ テキスト ₂₁ ビ デ オ ₁₈ 表1-2 今回の調査協力者の属性(コンピュータの所有の有無, 所有年数と使用頻度の平均値) PC有無 所有年数(年) 一日の使用頻度(時間数) 日 本 人 所有 ₃₃ ₅.₀₆ ₁.₆₁ 無し ₄ フィリピン人 所有 ₃₈ ₁₀.₁₈ ₄.₈₂ 無し ₁ 表1-3 今回の調査協力者の属性(コンピュータの目的別使用頻 度の平均値) テキスト ビデオ メール ネット 日 本 人 ₂.₇₀ ₂.₈₄ ₂.₂₄ ₁.₆₂ フィリピン人 ₁.₃₈ ₂.₁₀ ₁.₄₁ ₁.₁₃ 表1-4 今回の調査協力者の属性(タイプ能力と PC 知識の平均値) タイプ能力 PC知識 テキスト ₃.₀₀ ₂.₉₇ ビ デ オ ₃.₁₄ ₃.₀₈ テキスト・チャットの ₁ 日当たりの使用頻度が,日本人は, ₂.₇₀時間,フィリピン人では,₁.₃₈時間で,ビデオ・ チャット使用頻度は,日本人が₂.₈₄時間,フィリピン人で は,₂.₁₀時間 (表 ₁-₃)で,どちらも日本人のほうが,使 用頻度が高かった。タイプ能力と PC 知識については,両 群(テキスト・チャット群・ビデオ・チャット群)とも, 中庸値(₃.₀)より平均値が高い(表 ₁-₄)ことがわかっ た。 3.2 国別の社会的存在感  まず,社会的存在感について,両国間に差があるか検証 した。表 ₂ は社会的存在感 B(アンケート B)における国 籍別による評定平均値である。表 ₂ から,質問 ₁ ,質問 ₂ , 質問 ₉ 以外の項目で日本人学習者とフィリピン人学習者で 差異がみられ,いずれもフィリピン人学習者ほうが平均値 が低い結果となった。とくに,逆転項目である質問 ₃ 「コ ミュニケーション媒体を通じて会話を行うことは苦ではな い」,質問 ₄ 「オンラインにおいて自己紹介を行うことは苦 ではなかった」,質問 ₅ 「オンラインにおける議論に参加す るのは苦ではなかった」において評定平均値が ₁ 点台と低 く,フィリピン人学習者は日本人学習者に比べ,CMC に おけるコミュニケーションに苦手意識を感じていなかった。  日本人学習者において最も平均値が低かったのは質問 ₂ 「社会的に対話をするためにコンピュータを介するコミュニ ケーションは優れている」と質問 ₉ 「他の参加者に自分の 意見や観点は受け入れられたと感じた」であった(どちら も₂.₃₀)が,フィリピン人学習者と差はみられなかった。 フィリピン人学習者において最も平均値が低かったのは質 問 ₅ 「オンラインにおける議論に参加するのは苦ではな かった」であり(₁.₇₉),日本人学習者と差がみられた (t=₄.₂₉, p=.₀₀₁)。  一方,最も平均値が高かったのは,日本人学習者,フィ リピン人学習者ともに質問 ₁ 「オンラインにおけるチャッ トメッセージは,人間味(暖かみ)がなかった」であり, 日本人学習者が₂.₉₅,フィリピン人学習者が₂.₉₇とほぼ中 庸であった。つぎに,社会的存在感 C(アンケート C)に おける国籍別の評定平均値を表 ₃ に示す。  表 ₃ から,質問 ₄ 「他のメディアを通して,会話をする ことは心地よかった」,質問 ₅ 「このコースで,ディスカッ ションに参加することは心地よかった」の項目で日本人学 習者とフィリピン人学習者で差異がみられ,いずれもフィ リピン人学習者のほうが平均値は低く,心地よいと評価し ていることがわかった。日本人学習者において最も平均値 が高かったのは質問 ₉ 「オンラインディスカッションは, 協調性を身につけるのに役立つ」であり(₁.₈₄),協調性を 身につけるのに役立つと評価していることがわかったが, フィリピン人学習者との差はみられなかった。最も平均値 が高かったのは質問 ₂ 「他の参加者に明瞭に印象づけるこ とができた」で(₂.₄₄),やや中庸寄りに「印象づけること ができた」と評していたが,フィリピン人学習者と差はみ られなかった。  フィリピン人学習者において最も平均値が低かったのは 質問 ₄ 「他のメディアを通して,会話をすることは心地よ かった」であり(₁.₈₈),今回のメディアを通しての会話が 心地よかったと評価されていたが,日本人学習者と差がみ られた(t=₂.₄₅,p=.₀₁₄)。一方,最も平均値が高かった のは質問 ₇ 「信頼感を維持しながら,他の参加者(対話相 手)によって,認められたと感じた」であり(₂.₅₅),中庸 よりやや他の参加者に認められたと感じたと評価していた が,日本人学習者と差はみられなかった。 3.3 ツールの違いと社会的存在感  次に,社会的存在感に関する質問項目(アンケート B) について,まず,アンケート B における,テキスト・

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表 2  社会的存在感 B(アンケート B)における国籍別の評定平均値と SD および t 検定結果(日本人 n=₃₇,フィリピン人 n=₃₉) 質 問 項 目 日 本 人 フィリピン人 t値 ₁  オンラインにおけるチャットメッセージは,人間味(温かみ)がなかった。 ₂.₉₅(₁.₂₄) ₂.₉₇(₀.₉₅) n.s ₂  社会的に対話をするためにコンピューターを介するコミュニケーションは優れている。 ₂.₃₀(₀.₉₁) ₂.₃₆(₀.₇₄) n.s ₃  テキストチャットベース/ビデオチャットベースのためのコミュニケーション媒体を通じ て,会話を行うのは苦ではない。 ₂.₅₈(₁.₁₀) ₁.₉₁(₀.₆₃) ₃.₂₇ ** ₄  オンラインにおいて自己紹介するのは苦ではなかった。 ₂.₆₀(₁.₁₀) ₁.₈₅(₀.₇₁) ₃.₅₁ ** ₅  オンラインにおける議論に参加するのは苦ではなかった。 ₂.₆₈(₁.₁₀) ₁.₇₉(₀.₆₅) ₄.₂₉ ** ₆  コンピューターを介するコミュニケーションを用いた議論は,対面の議論より人間味(温 かみ)がない。 ₂.₇₃(₀.₉₆) ₂.₃₀(₀.₈₈) ₁.₉₄ † ₇  コンピューターを介するコミュニケーションを用いた議論は音声会議の議論より人間味(温 かみ)がない。 ₂.₉₀(₀.₈₇) ₂.₅₅(₀.₈₆) ₁.₇₃ † ₈  オンラインで,他者(対話相手)と対話するのは苦ではなかった。 ₂.₆₃(₀.₉₈) ₂.₀₀(₀.₆₆) ₃.₂₄ ** ₉  オンラインチャットに参加している他の参加者に(対話相手)自分の意見や観点は受け入 れられたと感じた。 ₂.₃₀(₀.₈₈) ₂.₁₂(₀.₈₂) n.s ₁₀ たとえばテキストベース・ビデオチャットの CMC ツールであっても,私は自分の個性を 他の参加者(対話相手)に表現することができた。 ₂.₅₅(₀.₈₈) ₂.₁₅(₀.₇₁) ₂.₁₄ * **p<.₀₁, *p<.₀₅, †p<.₁₀ 表 3  社会的存在感 C(アンケート C)における国籍別の評定平均値と SD および t 検定結果(日本人 n=₃₇,フィリピン人 n=₃₉) 質 問 項 目 日 本 人 フィリピン人 t値 ₁  対話の相手を知るようになることは,このコースの所属感を与えた。 ₂.₀₇(₀.₄₆) ₁.₉₁(₀.₆₈) n.s ₂  他の参加者に明瞭に印象をづけることができた。 ₂.₄₄(₀.₈₈) ₂.₂₇(₀.₇₆) n.s ₃  オンラインあるいは,ウェブベースの教育はこの活動が示しているように,社会的なイン ターラクションにとって素晴らしい手段である。 ₂.₁₂(₀.₇₉) ₂.₀₆(₀.₇₀) n.s ₄  他のメディアを通して,会話をすることは心地よかった。 ₂.₃₅(₀.₉₇) ₁.₈₈(₀.₇₀) ₂.₄₅ * ₅  このコースで,ディスカッションに参加することは心地よかった。 ₂.₂₆(₀.₈₈) ₁.₉₁(₀.₇₂) ₁.₈₄ † ₆  他の参加者(対話相手)と交流することは心地よかった。 ₂.₀₂(₀.₇₄) ₁.₉₁(₀.₆₈) n.s ₇  信頼感を維持しながら,他の参加者と異なる意見を述べるのは心地よかった。 ₂.₃₃(₀.₇₁) ₂.₅₅(₀.₇₅) n.s ₈  自分の考えが,他の参加者(対話相手)によって,認められたと感じた。 ₂.₃₇(₀.₉₃) ₂.₁₈(₀.₈₅) n.s ₉  オンラインディスカッションは,協調性を身につけるのに役に立つ。 ₁.₈₄(₀.₇₅) ₁.₉₄(₀.₆₈) n.s **p<.₀₁, *p<.₀₅,†p<.₁₀ 表 4  社会的存在感 B(アンケート B)における各群の評定平均値と SD および t 検定結果(テキスト群 n=₃₉,ビデオ群 n=₃₇) 質 問 項 目 チャット群テキスト チャット群ビデオ t値 ₁  オンラインにおけるチャットメッセージは,人間味(温かみ)がなかった。 ₂.₈₅(₁.₁₈) ₃.₀₉(₁.₀₃) n.s ₂  対人的な対話をするためにコンピューターを介するコミュニケーションは優れている。 ₂.₁₈(₀.₇₉) ₂.₅₀(₀.₈₆) n.s ₃  テキストチャットベース/ビデオチャットベースのためのコミュニケーション媒体を通じ て,会話を行うのは苦ではない。 ₂.₁₈(₀.₉₆) ₂.₃₈(₀.₉₅) n.s ₄  オンラインにおいて自己紹介するのは苦ではなかった。 ₂.₁₈(₀.₉₉) ₂.₃₅(₁.₀₄) n.s ₅  オンラインにおける議論に参加するのは苦ではなかった。 ₂.₀₈(₀.₈₃) ₂.₅₀(₁.₁₆) ₁.₇₆ † ₆  コンピューターを介するコミュニケーションを用いた議論は,対面の議論より人間味(温 かみ)がない。 ₂.₄₄(₀.₉₉) ₂.₆₅(₀.₈₈) n.s ₇  コンピューターを介するコミュニケーションを用いた議論は音声会議の議論より人間味(温 かみ)がない。 ₂.₂₈(₀.₇₅) ₃.₂₆(₀.₇₁) ₅.₆₉ ** ₈  オンラインで,他者(対話相手)と対話するのは苦ではなかった。 ₂.₀₅(₀.₇₂) ₂.₆₈(₀.₉₇) ₃.₀₇ ** ₉  オンラインチャットに参加している他の参加者に(対話相手)自分の意見や観点は受け入 れられたと感じた。 ₂.₀₅(₀.₇₅) ₂.₄₁(₀.₉₂) ₁.₈₀ † ₁₀ たとえばテキストベース・ビデオチャットの CMC ツールであっても,私は自分の個性を 他の参加者(対話相手)に表現することができた。 ₂.₄₁(₀.₈₈) ₂.₃₂(₀.₇₆) n.s **p<.₀₁, *p<.₀₅,†p<.₁₀

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チャット群とビデオ・チャット群の評定平均値と SD およ び t 検定の結果を表 ₄ に示す。  質問 ₇ 「コンピュータを介するコミュニケーションを用 いた議論は,音声会議より人間味(温かみ)がない」のテ キスト・チャット群の平均値は₂.₂₈,ビデオ・チャット群 の平均値は₃.₂₆で差がみられ(t=₅.₆₉, p=.₀₀₁),ビデ オ・チャットのほうがコミュニケーションとしての温かみ を感じていたといえる。また,質問 ₈ 「オンラインで,他 者(対話相手)と対話するのは苦ではなかったにおいても, テキスト・チャット群の平均値は₂.₀₅,ビデオ・チャット 群の平均値は₂.₆₈で差がみられた(t=₃.₀₇, p=.₀₀₃)。さ らに,質問 ₅ 「オンラインにおける議論に参加するのは苦 ではなかった」および質問 ₉ 「オンライン・チャットに参 加している他の参加者に(対話相手)自分の意見や観点は 受け入れられたと感じた」においては,ビデオ・チャット 群よりもテキスト・チャット群のほうが評定平均値が高く, 有意傾向がみられた。  アンケート C における,テキスト・チャット群とビデ オ・チャット群の評定平均値と SD および t 検定の結果を 表 ₅ に示す。質問 ₁ 「対話の相手を知るようになることは, このコースの所属感を与えた」において,テキスト・ チャット群の平均値は₁.₈₈,ビデオ・チャット群の平均値 は₂.₁₄で差がみられた(t=₂.₀₈, p=.₀₄₁)。また,質問 ₄ 「他のメディアを通して,会話をすることは心地よかった」 においても,テキスト・チャット群の平均値は₁.₉₀,ビデ オ・チャット群の平均値は₂.₄₂で差がみられた(t=₂.₅₉, p=.₀₁₂)。所属感や心地よさはテキスト群のほうが高評価 だった。さらに,質問 ₃ 「オンラインあるいは,ウェブ ベースの教育はこの活動が示しているように,社会的なイ ンタラクションにとって素晴らしい手段である」および質 問 ₅ 「このコースで,ディスカッションに参加することは 心地よかった」においては,ビデオ・チャット群よりもテ キスト・チャット群のほうが評定平均値は低く,「心地よ かった」と評定され,有意傾向がみられた。 3.4 学習の満足度  同期型 CSCL に対する満足度に関する質問項目(アン ケート D)における,テキスト・チャット群とビデオ・ 表 ₅  社会的存在感 C(アンケート C)における各群評定平均値と SD および t 検定結果(テキスト群 n=₃₉,ビデオ群 n=₃₇) 質 問 項 目 チャット群テキスト チャット群ビデオ t値 ₁  対話の相手を知るようになることは,このコースの所属感を与えた。 ₁.₈₈(₀.₅₆) ₂.₁₄(₀.₅₄) ₂.₀₈ * ₂  他の参加者に明瞭に印象をづけることができた。 ₂.₂₅(₀.₈₄) ₂.₅₀(₀.₈₁) n.s ₃  オンラインあるいは,ウェブベースの教育はこの活動が示しているように,社会的なイン ターラクションにとって素晴らしい手段である。 ₁.₉₅(₀.₆₈) ₂.₂₅(₀.₈₁) ₁.₇₆ † ₄  他のメディアを通して,会話をすることは心地よかった。 ₁.₉₀(₀.₇₄) ₂.₄₂(₀.₉₇) ₂.₅₉ * ₅  このコースで,ディスカッションに参加することは心地よかった。 ₁.₉₅(₀.₇₈) ₂.₂₈(₀.₈₅) ₁.₇₅ † ₆  他の参加者(対話相手)と交流することは心地よかった。 ₁.₉₃(₀.₇₆) ₂.₀₃(₀.₆₅) n.s ₇  信頼感を維持しながら,他の参加者と異なる意見を述べるのは心地よかった。 ₂.₃₀(₀.₇₉) ₂.₅₆(₀.₆₅) n.s ₈  自分の考えが,他の参加者(対話相手)によって,認められたと感じた。 ₂.₁₅(₀.₇₄) ₂.₄₄(₁.₀₃) n.s ₉  オンラインディスカッションは,協調性を身につけるのに役に立つ。 ₁.₈₈(₀.₇₂) ₁.₈₉(₀.₇₁) n.s **p<.₀₁, *p<.₀₅, †p<.₁₀ 表 ₆  満足度(アンケート D)における各群の評定平均値と SD および t 検定結果(テキスト群 n=₃₉,ビデオ群 n=₃₇) 質 問 項 目 チャット群テキスト チャット群ビデオ t値 ₁  私は,コンピューターを介するコミュニケーションのメディアによって学習することができた。 ₁.₈₀(₀.₄₆) ₁.₇₅(₀.₅₁) n.s ₂  私は,オンラインディスカッションから学習することができた。 ₁.₈₃(₀.₅₀) ₁.₈₈(₀.₄₉) n.s ₃  私は,オンラインコースでディスカッションされたトピックについて追加的に読み物を読 む刺激を受けた。 ₂.₂₉(₀.₇₂) ₂.₅₉(₁.₁₀) n.s ₄  私は,他者の考え方を重んじることを学んだ。 ₁.₇₃(₀.₆₃) ₂.₀₆(₀.₆₂) ₂.₂₄ * ₅  オンラインについての経験の結果として,将来,ほかのオンラインコースにも参加してみたい。 ₂.₂₂(₀.₈₅) ₂.₂₈(₁.₀₂) n.s ₆  オンラインは,役に立つ学習体験だった。 ₁.₈₀(₀.₅₁) ₁.₈₄(₀.₇₂) n.s ₇  オンラインに参加した結果,ネット上で,他の国の人と知り合いになれた。 ₁.₇₈(₀.₆₉) ₂.₀₀(₀.₆₂) n.s ₈  オンラインでの様々なトピックが,ディスカッションに参加するのを手助けとなった。 ₂.₀₀(₀.₇₄) ₁.₉₁(₀.₅₉) n.s ₉  オンラインに参加するコンピューターを介するコミュニケーションシステムを学ぶ努力を 大いにした。 ₂.₀₀(₀.₇₁) ₁.₈₄(₀.₆₈) n.s **p<.₀₁,*p<.₀₅,†p<.₁₀

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チャット群の評定平均値と SD および t 検定の結果を表 ₆ に示す。表 ₆ から,全体的に評定値は ₁ から ₂ 点台であり, 満足度が高かったことが示された。テキスト・チャット群 は,質問 ₁ ,質問 ₂ ,質問 ₄ ,質問 ₆ ,質問 ₇ の「学習す ることができた」「知り合いになれた」「他者の考え方を重 んじることを学んだ」などにおいて,評定平均値が ₁ 点台 と高い満足度を示した。最も平均値が低かった(同意度が 高かった)のは質問 ₄ 「私は,他者の考え方を重んじるこ とを学んだ」で,ビデオ・チャット群と差がみられた(t= ₂.₂₄, p=.₀₂₈)。ビデオ・チャット群においては,質問 ₁ , 質問 ₂ ,質問 ₆ ,質問 ₇ ,質問 ₉ の「学習することができ た」「知り合いになれた」「システムを学ぶ努力をした」に 関する項目が,評定平均値が ₁ 点台で満足度が高かった。 3.₅ チャット・ツールの違いと社会的存在感,満足度の関 連性  今回の調査でテキスト・チャットとビデオ・チャットの ツールの違いによって,社会的存在感や満足度の評価に差 異があることが明らかになった。それでは社会的存在感や 満足度は,チャット・ツールの違いにどの程度影響を受け ているのだろうか?チャット・ツールの違いが社会的存在 感や満足度に与える影響について,変数としての個々の質 問項目への影響ではなく,社会的存在感や満足度という全 体的な指標を用いて検討を行った。  図 ₁ は,社会的存在感と満足度に影響を与える,調査協 力者の属性との因果を示したモデルである。分析には Amos ₁₉.₀を利用した。属性については,性別,国籍,「群」(テ キスト・チャットもしくはビデオ・チャット)の ₃ つでモ デルを検討したが,全体的なまとまりが悪く,組み合わせ を変えるなどして複数のモデルを検討した結果,群(ツー ル)のみを用いた本モデルを採用した。モデル全体の評価 基準としては,GFI(適合度指標),AGFI(自由度調整済み 適合度指標)および RMSEA(平均二乗誤差平方根)を用 いた。GFI ならびに AGFI は₀.₅以上で ₁ に近いほどモデル の説明率が高く,良いモデルであると判断できる。一方, RMSEAは₀.₁₀以上であれば適合度は低いとされ,モデル は採用しない。本モデルは,GFI=₀.₉₀₈,AGFI=₀.₉₂₂, RMSEA=₀.₀₀₁であった。説明率が高く,適合度が非常に 高いモデルであるといえる。今回調査した「社会的存在感」 「満足度」については,国籍よりも用いたツールの差のほう が影響を与えていたものと考えられる。チャット・ツール の違いを示す「群」(テキスト・チャットもしくはビデオ・ チャット)と満足度を示す「満足度」の関係をみると,群 が「満足度」に与える影響が大きく,因果係数(標準化係 数)は₁.₂₁₃となっており,比較的強い影響を与えていると 判断できた。また,群は,他者との相互作用の認識を示す 「社会的存在感 C」に対しても因果係数₀.₈₁₅と比較的強い 影響を与えていることも確認できた。すなわち,CSCL に おけるツールの違いは満足度と他者との相互作用の認識に 大きく影響を与えていることが示唆された。  他者との相互作用の認識を示す社会的存在感 C(アン ケート C)においては,観測変数では質問 ₆ 「他の参加者 (対話相手)と交流することは心地よかった」の因果係数が 最も高く(.₈₁₄),次いで質問 ₇ 「信頼感を維持しながら , 他の参加者と異なる意見を述べるのは心地よかった」の因 果係数が高かった(.₇₉₂)。  アンケート C の群別比較(表 ₅ )をみると,質問 ₆ 「他 の参加者(対話相手)と交流することは心地よかった」も 質問 ₇ 「信頼感を維持しながら , 他の参加者と異なる意見 を述べるのは心地よかった」も,テキスト・チャット群と ビデオ・チャット群で有意差はみられなかった。したがっ て,今回の実験において,「異論を述べる」ことについて は,使用するチャット・ツールによる差はなく,テキスト でもビデオでも影響があったといえる。  また,他の参加者に印象付けることも同様に,チャッ ト・ツールによる差はなく,テキストでもビデオでも影響 があったと考えられる。 図 1  チャット・ツールの違いが社会的存在感と満足度に与える 影響の関連モデル(GFI=.₉₀₈ AGFI=.₉₂₂ RMSEA= .₀₀₁ 有意なパスのみ表示)

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4 .考察と結論

 本研究では,同期型 CSCL の ₂ つの学習支援ツールを活 用した国際協調的外国語学習において,テキストとビデオ というツールの違いに着目し,これらが協調学習における 「社会的存在感」や「満足感」に与える影響を検討した。  まず,社会的存在感における国別比較については,日本 人学習者よりもフィリピン人学習者のほうがより会話や ディスカッション参加での心地よさを認識していたことが 示された。さらに,フィリピン学習者は日本人学習者に比 べ,オンラインによる自己紹介を行うことや議論に参加す ることに,苦手意識を感じていなかった。英語が公用語で あるフィリピン人学習者のほうが,日本人学習者より,英 語によるコミュニケーションがより容易に行われたことで, 国別の差異が生じたと考えられる。  次に,ツールとの比較で,他者の存在感の認識を問う社 会的存在感B(アンケートB)においては,ビデオ・チャッ トのほうがコミュニケーションとしての温かみを感じてい たといえる。ビデオ・チャット群では,実験後の内観報告 において,「身振りやチャットなど用いて一生懸命に相手を してくれた」などの意見が多かったことからも,身ぶりや 表情など社会的てがかりの効果によって,非言語的なコ ミュニケーションが行われたことによって,相手への人間 味(温かみ)が増したのではないかと考えられる。しかし, 一方,テキスト・チャット群のほうが,「議論に参加するの は苦ではなかった」,「自分の意見や観点は受け入れられた」 と認識していることがわかった。この点については,日本 人学習者にとっては,文字による(テキスト)ほうが可視 化されるため,相手の意見を理解しやすかったのではない かと考えられる。これは,Park (₂₀₀₁) らの先行文献で指 摘されているように,理解できるインプットにより,対人 的なインタラクションが促進されること₆︶,また,即時的 な反応がなかったほうが,記憶量が多くなり,メッセージ が伝わりやすかった₁₈︶ことが考えられる。また,実際の相 互作用状態に対する認識を問う社会的存在感 C では,テキ スト・チャット群はビデオ・チャット群に比べ,インタラ クションにとって素晴らしい手段であると認識されており, コースの所属感や会話の心地よさを感じていることが示唆 された。「素晴らしい手段である」,「議論に参加するのは苦 ではなかった」と認識している点からも,テキスト・ チャット群の実験協力者のタイプ能力が比較的高かったた め,コミュニケーションを取る上で,支障にならなかった のではないかと考えられる。  伝達のしやすさについて内観報告において,テキスト・ チャット群では,「相手のいうことや自分の言うことが相手 に分かったので楽しかった」「絵文字を使うことによって気 持ちをうまく表現できた」「自分でよく考えて単語を取捨選 択することができた」,「My partner was very polite.(相手 が,礼儀正しかった)」「It was an effective way to learn more about my partner.(相手をもっとよく知るのに効果的 な方法だ)」といった意見が多かった。一方で,「文法を意 識しすぎて,回答に時間がかかってしまった」などの意見 もあった。ビデオ・チャット群では,「聞き取れなかったこ ともあるが,生の英語を話せてよかった」「Very interactive, and fun.(インタラクティブで,面白かった)」など肯定的 な意見が多かったが,一方,否定的な意見として,「とても 緊張した」「音が聞きづらかった」などがあった。  したがって,コースの所属感や会話の心地よさを認識し ている点については,内観報告にあったように,文字のほ うが,相手の意図を理解しやすいため,自己開示が促進さ れ,所属感が高まったのではないかと考えられる。一方, ビデオ・チャット群では,緊張感を感じやすかったとも解 釈できる。また,フィリピン人学習者から「質問と返答の 間に微妙な間ができた」など日本人学習者側の聞き取りの 困難さについての指摘があったことなどを考えると,音質 面での問題が「会話の心地よさ」に影響を与えた可能性が ある。  「信頼感」「協調性」については,社会的存在感C(表 ₃ ) で両群とも平均値が高かったことから,CSCL 環境におけ る協同学習において,学習者間の対話を媒介とする足場か けによって,お互いの信頼感が増し,協調的な学びにつな がったと考えられる。この点については,学習者同士の足 場かけが,熟達―見習い型(expert-novice)において生 じるという Storch (₂₀₀₂) の主張を支持している。  同期型 CSCL に対する満足度では,両メディアにおいて 満足度が高かったが,ビデオ・チャット群に比べ,テキス ト・チャット群のほうが他者を尊重する傾向があることが 示された。テキスト・チャット群では,相手の問いかけが, 文字による理解できるインプットにより,受け取った知識 を 具 体 的 な 行 為 と し て 実 践 で き る レ ベ ル ま で 内 面 化 (internalization)されたことで,社会文化的場面における 言語表現の持つ意味機能を適切に使うことができ,語用論 的適切性(appropriateness)のある言語使用を行ったから ではないかと考えられる。そのことは,ビデオ・チャット 群と比べ,テキスト・チャット群では,ひとつのテーマに ついて深く考え,議論する(on-topic)様子が多く見られた ことからもいえるだろう。また,文字によるコミュニケー ションの場合,即時性が求められないため,より適切な語 彙選択が可能であったこと,相手が入力中を示すアニメー ションが表示されることにより,発話交代(turn-taking) がうまく行われたこと,絵文字の使用によって,感情表現 を伝えられたことから,「尊重している」の項目に影響を与

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えたと考えられる。  さらに社会的存在感と満足度との関連性について検討を 行ったところ,共分散構造分析において社会的存在感と満 足度の相互に有意なパスが認められ,ツールの違いによっ て社会的存在感の意識も満足度も差がみられる項目もあっ たが,それ以外の項目においても相関はみられた。この点 については,同じメディアでも,満足度によって,社会的 存在感の受容の強さは変わることは,CMC における先行 研究により指摘されている₁₆︶  続いて「調査協力者属性」と「社会的存在感 B」の関係 をみると,群(テキスト・チャットもしくはビデオ・ チャット)が「社会的存在感 B」に与える影響が大きいこ とが認められ,「会話苦でない」「紹介苦でない」の数値が 最も高かった。しかし,ツール群での結果(表 ₄ )から, 差が見られた項目もあったが(項目の ₇ と ₈ ),ほとんどの 項目で,テキストとビデオの差異は見られなかった。した がって,ツールの違いは社会的存在感に影響を及ぼすもの の社会的存在感に大きな影響を与える要因とはならないこ とが示唆された。この点は,視覚的手がかりがなくても, 伝達度は変わらない₁₈︶という杉谷(₂₀₀₉)の先行研究を支 持している。  ツール(群)は,「調査協力者属性」の中でも「社会的存 在感 C」に対して,最も強く影響を与えていることも確認 でき,「所属感」「印象付け」の数値が高かった。 同期型 CSCLの日本人学習者とフィリピン人学習者との国際協調 的外国語学習においては,テキスト・チャットのほうが, ビデオ・チャットよりもコースの所属意識を高める作用が あり,それが結果的に社会的存在感の向上につながったと いうことがいえる。Garrison ら(₂₀₀₄)の先行文献で示さ れているように,その結果,社会的存在感が向上につな がったのではないかと考えられる。  山田ほか(₂₀₀₉)の先行研究と異なっていた点について は,外国語コミュニケーション学習において,社会的手が かりによって高められる社会的存在感が有効でないことが 考えられる。しかしながら,ビデオ・チャット群において, 動作の遅さなど,双方でシステムの改善を求める意見が あったことからも,ビデオ・チャットにおいて,音声が聴 覚的な手がかりとして十分に機能しなかった可能性もある。  以上のように,同期型 CSCL の ₂ つの学習支援ツールを 活用した日本人学習者(novice)とフィリピン人学習者 (expert)との国際協調的外国語学習において,両メディア において満足度が高く,全般的に,テキスト群のほうが, 社会的存在感が高く,コミュニケーションが積極的だった。 その因果関係がある可能性は先行研究で示されている₁₆︶ うに,学習の存在感の受容を高めることで学習動機や満足 度といった学習の感情面を支援する効果により,テキス ト・チャット群のほうがビデオ・チャット群より積極的な コミュニケーションを促すことが確認された。

₅ .今後の課題

 同期型 CSCL の有効性については,学習者の語学習得レ ベルや学習者のコンピュータ利用環境など配慮するべき点 があるため,国際協調的学習において,テキスト・チャッ ト群が外国語コミュニケーション学習において適している とは結論付けられず,ネットワーク環境や学習者の特徴な どを考慮した上で,使用するコミュニケーション媒体を慎 重に選択していくのが必要であると思われる。  今後,ネットワークの環境やツールの改善なども行い, 研究協力者を増やしながら,これらの結果について,さら に検証していく必要がある。

謝  辞

 本研究は科研費 基盤研究 C(課題番号₂₅₃₇₀₆₇₄)の助 成を受けたものである。協力していただいたフィリピン大 学の先生に感謝をする。

文  献

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表 2  社会的存在感 B(アンケート B)における国籍別の評定平均値と SD および t 検定結果(日本人 n=₃₇,フィリピン人 n=₃₉) 質 問 項 目 日 本 人 フィリピン人 t 値 ₁  オンラインにおけるチャットメッセージは,人間味(温かみ)がなかった。 ₂.₉₅(₁.₂₄) ₂.₉₇(₀.₉₅) n.s ₂  社会的に対話をするためにコンピューターを介するコミュニケーションは優れている。 ₂.₃₀(₀.₉₁) ₂.₃₆(₀.₇₄) n.s ₃  テキストチャットベース/ビデオチャットベース

参照

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