Masanobu E
ndoh*要 旨 コインを入れて楽しむ電源系娯楽機は 19 世紀末に生まれた.その後,機械やアナログ回路を用いた娯楽機が発展し, 1960年代には CRT が表示装置として使われるようになった.1970 年代後半には,コンピュータを利用したテレビゲーム (ビデオゲーム)が世界的にヒットし,リアルタイム CG を牽引する形で,画像技術が応用され続けている.
Abstract Coin operated electrical amusement machine was born at the end of the 19th century. Then, it developed using analog circuits
and mechanical devices, CRT is used as a display device in the 1960s. In the late 1970s, computer video games were hit worldwide, leading the real-time CG, imaging technology will continue to be applied.
キーワード: コンピュータゲーム,テレビゲーム,リアルタイム CG,表示方式
Key words: Digital game, Video game, Real-time CG, Display type
1. ビデオゲーム前史
1.1 ゲームセンター(アーケード)の成立 硬貨使用の自動販売機は紀元前からあり,19 世紀には占 いが書かれた紙に結果をプリントする機械式の体重計など が,硬貨利用の自動サービス提供機として普及していた.19 世紀末にエジソン*1が「フォノグラフ」(Fig. 1)という, 録音した音源を聴かせる装置を作ったのが,硬貨使用電気娯 楽機の最初と言われている.20 世紀に入り「ペニーアーケー ド*2」と呼ばれる,いわゆるゲームセンターが生まれ,1930 年代にはピンボール*3やビンゴ*4などが登場し 70 年代に かけて発展した.これらの機器には電飾が多用され,プレイ フィールドやスコアパネルのガラスに遮光層を含むシルクス クリーン印刷が施されている.1.2 CRT(陰極線管 Cathode Ray Tube)*5の使用
1958年にヒギンボーサム*6によって「Tennis for two」と
平成 26 年 7 月 24 日受付・受理 Received and accepted 24th, July 2014 *東京工芸大学芸術学部ゲーム学科 〒164-8678 東京都中野区本町 2-9-5
Tokyo Polytechnic University, 2-9-5, Honcho Nakano-ku Tokyo 164-8678, Japan
*1エジソン Thomas Edison:19 世紀の発明王エジソン.後に映画ビュワーのような娯楽機も作る. *2ペニーアーケード Penny Arcade:1 セント硬貨を使ったゲームを中心に,機械式娯楽機を多数並べた様子からそう呼ばれた.東京ディズニー ランド内にも同名の当時を模したアトラクションがある. *3ピンボール Flipper Pinball:金属球を使ったパチンコを寝かせたような大型のゲーム.台の左右にあるボタンを押すとフィールドのフリッパー で球を上に打ち戻すことができる. *4ビンゴ Bingo Pinball:25 個の番号付ホールを持ったフィールドに 5 個の金属球を打ち出し,ホールの番号によって 5×5 のビンゴボードのラ ンプが点灯するゲーム.同一ライン上あるいは同一エリア内に 3 個以上最大 5 個のランプが点灯すれば,得点がコインやクレジットで払い 戻される. *5 CRT:電子ビームを蛍光面に当てて発光させ,ビームの向きを変えることで画像を表示する真空管.ブラウン管はこの一種. *6ヒギンボーサム William Higinbotham:1910 ∼ 1994 アメリカの物理学者.第 2 次世界大戦中は原爆の電子制御装置開発チームに所属し,戦後 は核兵器拡散防止活動に尽力した. Fig. 1 エジソンフォノグラフ
いう測定器であるオシロスコープの CRT を利用したゲーム が作られた.これは娯楽用ではなくアナログコンピュータの 機能を説明するための展示品だったが,プレイ待ちの行列が できるほどの好評を博した.内容はテニスコートの長辺側断 面が表示され,重力計算されたボールを二人のプレイヤーが 打ち合う物で,ボリュームによって打ち出し角度を決めボタ ンを押して打ち返す. 1962年にラッセル*7によって「Spacewar」という宇宙船 同士が撃ち合うゲームが作られ,CRT を使うビデオゲーム の技術が確立された.1972 年にはブッシュネル*8によって 「PONG」(Fig. 2)という,二人のプレイヤーがボリューム でラケットを上下に動かし,左右へボールを打ち合うピンポ ンのような業務用ゲームが作られ,アーケードにビデオゲー ムが定着した.しかし 70 年代中盤までは,ミニチュアをス クリーンに投影する表現も進歩し,各種投影方式やハーフミ ラーで映像とミニチュアを合成するなど,機械式ゲームも広 く遊ばれていた.
2. 「2D ビデオゲーム」の描画
2.1 走査方式 CRTは偏向コイルで電子ビームの向きを操作し,蛍光面 に描画する.ビームの強度を操作することで階調が表現され, 蛍光面の発光の残像が消える前にビームを照射することで継 続的に描画できる.ビデオゲームでは 1 秒間に 60 回の全画 面ビーム走査を行っており,2 つの走査方式がある. 2.1.1 ベクタースキャン 描画が必要な部分だけ一筆書きのようにビームを走査する 方式(Fig. 3).直線で構成された線画で自由な形を描くこと ができ,描画座標のスケールを変えることで形を変えずに無 段階に拡大縮小が可能なため,三次元的表現が得意.欠点は 黒バックで暗い印象を受けることと,塗り潰しが困難なため ワイヤーフレーム*9状の描画となることで,FPS*10など一 部の分野を除きほとんど使われていない. 2.1.2 ラスター*11スキャン 1/60秒ごとに描画の有無に関わらず,全画面を切り刻むよ うに走査する方式(Fig. 4).横方向に一度走査した描画ライ ンを走査線(scan line)と呼び,日本のアナログ放送では一 画面が 525 本の走査線で構成されていた.同一方向に走査す るため,ビームを出さずに向きだけを移動させる「戻りビー ム」を行い効率が悪いが,塗り潰しに適しており,画面が華 やかで演出が容易であり広く使われた. 2.2 描画方式 コンピュータを利用してラスタースキャンの映像を出力す る場合,画面を小さな格子状のピクセル*12に分割し,そこ にどのようにデータを書き込むかの違いが描画方式となる. 2.2.1 アルファニューメリック*13 ピクセル面を原稿用紙のようにブロック化し,そこに予め 決められた 1 ブロック分の画像データをハードウェアが書き Fig. 2 1972 アタリ「PONG」アーケードのイメージ Fig. 3 ベクタースキャンのビームの動き*9 ワイヤーフレーム Wireframe:立体図形を各面の稜線と,各面を 格子状に分割したメッシュで表すもの.
*10 FPS First Person Shooter:一人称視点のシューティングゲーム. *11 ラスター Raster:本来は熊手の意味で,走査線の動きを示して いたが,転じて走査線という意味でも使われる. *12 ピクセル Pixel:画素. *13 アルファニューメリック alphanumeric:英字と数字のこと.記号 を加えてもコードの数が 8 ビット(256 種類)以内に収まる. *7 ラッセル Steve Russell:1937 ∼ アメリカのコンピュータ・サイ
エンティスト.Spacewar は MIT 在学中に DEC 社のデジタルミ ニコン PDP-1 で開発された. *8 ブッシュネル Nolan Bushnell:1943 ∼ アメリカのゲームデザイ ナー,実業家.アタリ社の創業者であり「ビデオゲームの父」 と呼ばれる. Fig. 4 ラスタースキャンのビームの動き 点線部分はビームを発射せずにビームの向きだけを動かしている.
込む方式(Fig. 5).ブロックの場所に対応したアドレス *14に, 画像データのコードを書き込むだけで描画され,文章の表示 に優れ処理も軽い.また「ドラゴンクエスト*15」のマップの ように,シンボル化されたユニットを敷き詰めて表示(Fig. 6) するのにも適する.欠点は書き込み位置がブロック単位とな るため自由度が低く,ブロックにまたがる描写を行いたい場 合は,ずらした画像データ(Fig. 7)を複数持たなければな らないこと. 2.2.2 フルグラフィック ピクセル単位のデータをソフトウェアで書き込む方式 (Fig. 8).理論上いかなる画像も表示することが可能だが, 直接画像データを使用するとデータ量が膨大過ぎるため,プ ログラムで描画するのが一般的.画面上の 2 点を結ぶ直線を 描画する「LINE」,閉じた領域を指定色で埋める「PAINT」 などを基本に,幾何学模様の組み合わせで大まかな部分を描 き,細部だけ画像データを用意して描画する.欠点は大きな 面積の描画処理が極めて重くアクションゲームなどには向か ないことで,リアルタイム性の低いアドベンチャーゲームな どに適しているため,業務用よりもパソコンゲームで発達した. 2.2.3 オブジェクト*16(スプライト) 予め決められた 1 ブロックの画像データを任意に設定され た位置にハードウェアで書き込む方式(Fig. 9).表示する画 像のコードと,表示させる画面上の XY 座標という数バイト の処理だけで軽く,数種類の画像データをコード書き換えで 切り換えることによりアニメーションさせることも容易であ る.キャラクターを動かすような表現に向いており,アクショ ンゲームに適している.欠点は走査線方向に並べて表示でき るスプライトの個数にハードウェア的な制限があることで, *14 アドレス Address:メモリの位置. *15 ドラゴンクエスト Dragon Quest:1986 年エニックス社発売のファ ミコン用ロールプレイングゲーム(RPG).日本で最も売れてい る RPG のシリーズ. Fig. 5 アルファニューメリック方式 Fig. 6 1986エニックス「ドラゴンクエスト」ファミコン アルファニューメリック方式だが,「田」型に 4 つのキャラクターデー タをまとめ,16×16 ピクセルのマップチップと呼ばれるデータを敷 き詰める形で地図を表現している. 株 式 会 社スクウェア・エニックスのご厚 意による.©1986 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/CHUNSOFT/SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
*16 オブジェクト object:最初に実装したアタリ社では,この回路を オブジェクトと呼んでいたが,後にスプライト sprite の呼称が 一般化した. Fig. 9 オブジェクト(スプライト)方式 Fig. 8 フルグラフィック方式 画像データを任意の位置に任意の向きで描画したり,線を引い たりはもちろん,不規則な形状も描画できる.
次の走査線で描画する情報をバッファメモリ*17に書き込む 処理をしている.全画面は 1/60 秒ごとに書き換えられ,走 査線は数百本以上で構成されているため,1 つの走査線デー タを書き込む時間的余裕は 0.05 ミリ秒程度しかない.下の 層から描画されるスプライトのデータを書き込んで行くと, 書き終える前に描画される時間になってしまうため,そこよ り上の層のスプライトを書き込むことなく次の走査線の処理 へ移ってしまい,結果として描画されるべきスプライトが表 示されなくなる.これを緩和するために,ソフトウェアでバッ ファへ書き込む順番を 1/60 毎に入れ替える処理を行い,チ ラツキが生じるが時分割的に全てのスプライトを表示する対 処法が取られた. 70年代末には,業務用ビデオゲームのスタンダードなハー ドウェアとして,アルファニューメリックにスプライトを重 ね合わせた方式が一般的になり,背景となるアルファニュー メリック画面のことを BG(Background)と呼ぶようになっ た.1983 年に発売されたファミリーコンピュータも,BG 画 面 1 枚とスプライト(走査線方向最大 4 つ)の組み合わせで 構成されている. 2.3 表現方法の発達 80年代のコンピュータ技術の進歩に従って,基本的なハー ドウェア構成は変わらないものの,デバイスの高速化や大容 量化,新たなソフトウェア・アーキテクチャがビデオゲーム の表現を豊かにした. 2.3.1 描画色の増加 70年代初頭のビデオゲームはモノクロ CRT を使ったもの で,白黒 2 色が 1 ピクセルあたり 1 ビット*18で扱われていた. カラー CRT の登場によって色の表現が可能になると,1 ピ クセルあたりのデータ量が徐々に増えている.カラー化当初 は色光三原色の RGB(Red, Green, Blue)に 1 ビットずつを 割り振った 3 ビットで,白,赤,緑,青,黄,シアン,マゼ ンタ,黒の 8 色が階調なしで表示された.次にハードウェア 的なメモリの効率的利用の見地から,8 ビット(1 バイト) の色深度*19表現がされたが,これは RGB の赤緑にだけ 3 ビットの階調を持たせ,輝度の低い青については 2 ビットし か与えない形で実装されている.256 色の表現ができるが色 彩的にはバランスが悪く,グレイの階調表現が難しかった. 一方,RGB 各 3 ビット以上のデータにしながらも,ピク セルあたりのデータを 8 ビットに抑えて効率を図る方法とし て,パレット(インデックス)が利用された.これは RGB 合計 8 ビット以上の色深度を持ったデータから,使用する色 を 256 以下に絞って色コードを与え,各ピクセルデータには コードだけがソフトウェアで書き込まれ,ハードウェアがパ レットを参照して実際の色で描画する.80 年代前半では RGB各 4 ビットの 4,096 色から,16 色あるいは 256 色を選 んで使うパレット方式が,業務用ゲームだけでなくパソコン などでも利用された. ピクセル当たりのデータ量(Fig. 10)が 2 バイト(16 ビッ ト)まで拡大されると,パレットを使わずに色深度は RGB 各 5 ビットとなった.いわゆるハイカラーと呼ばれる色数 32,768色で,合計 15 ビットとなって余った 1 ビットは,描 画の有無を示す透明データとしてオーバーレイ*20の際に利 用される. 現在では RGB 各 8 ビットのフルカラー 16,777,216 色が使 われるが,色情報だけの 24 ビットか透明度を示すアルファ チャンネル*21 8ビットを追加した 32 ビットが,各ピクセル に割り振られている. 2.3.2 スクロール*22 画面より大きなフィールドを描画する方法として,BG 画 面全体をスライドするのがスクロールである.これは BG 画 面の描画位置を任意に設定できる機能を利用し,進行方向の 画面データを追加書き込みしながら行う.それまで固定され た画面だけであったアクション系のゲームに,スクロール シューティングやスクロールアクションが加わり,「ゼビウ ス*23」や「スーパーマリオブラザーズ*24」など,ビデオゲー ムの社会的価値を変えるような大ヒット作が生まれている. スクロールは,プレイヤーの操作に追従するもの,操作に *20 オーバーレイ overlay:画像を重ねて階層化すること.上層が透 明の場合下層が描画される. *21 アルファチャンネル alpha(a)channel:ピクセルに対し色データ とは別に持たせた不透明度で,数値が大きいと不透明となる. *22 スクロール scroll:本来は巻き物の意味.実画面より一回り大き い仮想画面を持ち,上下左右が連続して繰り返し動くようになっ ている. *23 ゼビウス Xevious:1983 年ナムコ社発売の業務用縦方向スクロー ルシューティングゲーム.
*24 スーパーマリオブラザーズ Super Mario Bros.:1985 年任天堂発 売のファミリーコンピュータ用横スクロールアクションゲーム. *17 バッファメモリ buffer memory:走査線 1 本分の容量を持った高速 のメモリ.80 年代初期では,デュアルラインバッファと呼ばれ る方法で,2 つのバッファメモリを交互に描画に用い,使ってい ない方に次の走査線用のデータを書き込んでいた. *18 ビット bit:データの単位.1 つのビットに対し「0」「1」2 つの 状態があり,ビット数が増えると 2 のビット数乗のデータを持 つことができる. *19 色深度:CG で表現できる色数で,1 ピクセルあたりのビット数 のこと. Fig. 10 色深度とデータ量
追従はするが逆行はできないもの,ゲーム進行に従って強制 的に動くものがあり,縦方向,横方向,全方向などの向き, 動き出しや停止に慣性が働くなどのバリエーションが豊富に 作り出された.スクロール画面自体を複数重ねて下層の面よ り上層の面を速く動かすことで,動的立体感*25を感じさせ るものもある. 2.3.3 アニメーション手法 足を閉じたものと開いたものの 2 種類のデータを用意し, 動かしながら書き換えるような方法や,色々な向きのデータ を用意し,常に進行方向に向くよう旋回させる方法など,簡 単なアニメーションは 70 年代から使われていた.80 年代に 入って「4 枚回し*26」と言われる巡回アニメーション(Fig. 11) や,1 つのキャラクターを表現するのに,例えば頭,胴体, 手足といったように,いくつかのパートに分けたスプライト を重ねて表示し,それぞれのパートを組織だって動かすこと で多彩なアニメーションが行われるようになった. さらにスプライトの表示限界が技術の進歩で緩和される と,ムチのように動く尾や,龍のような長くウネるキャラク ターの表現を,方向性のないパーツを並べ先頭部分の軌跡を なぞるような形や,連結されたパーツの距離だけを一定に保 ち角度を操作して動かす,「多関節キャラクター」(Fig. 12) が登場した.また,操作をしていないキャラクターの各部を, 呼吸をしているようにリズミカルにわずかに動かす「アイド リング*27」という待機アニメーションが,キャラクターア クションや格闘などで利用されている. 2.3.4 ラスタースクロール ラスタースクロールは,画面全体を動かすスクロールに対 し,特定の走査線について 1 ラインごとにスクロールさせる 技術で,80 年代のドライブゲーム(Fig. 13)に多用されて いる.横画面の上側に遠景と背景を,下側に台形状のコース を表示し,コース部分はスピードに従って向こうから等比的 に下に流れる描画を行う.この状態で直線コースを走ってい る表現になり,カーブを曲がる際は背景となる上側の左右ス クロールに合わせて,下側は段階的に左右スクロールさせて 追従する.すると擬似的に道がカーブしているように見える が,平面的なコースデータから曲率を決定しているのではな く,コースの長さに見合った曲率データを持っているだけな ので,実際には存在しない右カーブだけしかないコースなど も作ることができた. 2.3.5 拡縮スプライト 擬似 3D 的な奥行き方向の描写において,構造物をスプラ イトで表現すると,その距離によって描画される大きさが変 化するため,何段階かの大きさを持ったデータを用意する必 要があった.そこでスプライト自体を拡縮表示することで, 画像データの必要量を減らし,滑らかな奥行き方向移動表現 を実現した.この技術は 3D 表現に至る過渡的技術で,拡縮 スプライトのみでコースを構成したドライブゲーム(Fig. 14)なども作られている. *25 動的立体感:車窓から見た景色は近景が速く動き,遠景はゆっ くり動く.これが経験則として認識されているので,重ねた画 面の前景を速く背景をゆっくり動かすことにより,立体感を感 じてしまう. *26 4枚回し:1 枚目から 4 枚目まで連続する動画の,4 枚目から 1 枚目も動画として繋げたエンドレスの動画表現. *27 アイドリング:ストリートファイター II(1991・カプコン)な どがある. Fig. 11 4枚回しによる歩行パターン 四足歩行戦車を上から見たところで,矢印の順に上に動かし ながら描画すると歩いているように見える. Fig. 12 1987アイレム「R-TYPE」アーケード 敵のボスに多関節キャラクターが多用された最初の作品で,こ の敵の場合は尾の部分が丸いパーツを並べた多関節表現で自 在に動く. アイレムソフトウェアエンジニアリング株式会社のご厚意による. ©IREM SOFTWARE ENGINEERING INC. All rights reserved.
Fig. 13 1982ナムコ「ポールポジション」アーケード
左側が直線を進むところ,そこから滑らかに右側のコーナー に変化していく.背景はコーナーに入るとそれに合わせて左右 にスクロールする.
株式会社バンダイナムコゲームスのご厚意による. ©BANDAI NAMCO Games Inc.
2.3.6 回転表示 1990年に発売されたスーパーファミコンには,画像データ を回転させる機能が盛り込まれていた.ただし本来 4 枚表示 可能である BG 画面を,1 枚だけしか使わない場合のみに有 効で,観覧車を横から見たような表現をする場合は背景はベ タで,その他の構造物を全てスプライトで作らなくてはなら ない.また回転方向は任意に設定できたため,画面上部を向 こう側に倒す俯瞰視点を用いて,コース自体が回転し実際に 周回可能なレースゲーム(Fig. 15)が作られている.
3. 「3D ビデオゲーム」の描画
80年代中盤にはメモリの大容量化が進み,より多くの画 像データを持つことが可能になった.そのため画像は大型化 し,アニメーションパターンが増加,その全てをグラフィッ クデザイナーが手作業で用意するため,画像データ作成のた めの人件費がゲーム製作費を圧迫し始めていた.技術の進歩 と共に,その解決策にもなっていったのがリアルタイム 3DCGへの発展である. 3.1 ポリゴナイザー*28 必要な部分だけ線で描画するベクタースキャンのコンセプ トを進めた形として,塗り潰した三角形を描画するハード ウェアが考案された.こうして描画された三角形を組み合わ せることによって,あらゆる多角形(ポリゴン)が表現でき るため,ポリゴナイザーと呼ばれた.1983 年の「I, Robot」 に実装されている.一方,スプライトの描画技術の発展とし て,画像データの四頂点を任意の画面上位置に指定して表示 する,変形スプライト*29を使って同様な表現が可能になっ ている. 3.1.1 シェーディング ポリゴンを単色で塗り潰す際,光源の向きとポリゴン平面 の法線からその輝度を表現する方法がフラットシェーディン グで,ポリゴンの形状がハッキリわかるものの立体的な表現 となる.それに対し頂点の輝度を決定し,頂点間やポリゴン 平面の輝度を段階的に描画する方法がグーロー*30シェー ディングである.フラットシェーディングではモデルは多面 体の印象が強く,それを緩和するにはモデルを細分化して構 成するポリゴンの数を増やす必要があった.対して,モデル として連続するポリゴンが作る頂点の法線を求め,そこから 関わるポリゴン全ての頂点を同じ輝度で表現するグーロー シェーディングを使うと,少ないポリゴンで丸い印象のモデ ルが表示される.描画処理が軽いため,アクションゲーム (Fig. 16)などで利用されている. 3.1.2 テクスチャ ポリゴンだけで細かな描画をするにはモデルのポリゴン数 を増やす必要がある.それに対しポリゴン面に画像データを Fig. 14 1988セガ「パワードリフト」アーケード インフォメーション以外は拡縮スプライトで描画されている. コースは立体的に整合が取れているが,スプライトには向きが ないため回り込んでも大きさが変わるだけで側面は見えない. 株式会社セガのご厚意による. Fig. 15 1990任天堂「F-ZERO」スーパーファミコン 俯瞰されたコースは任意に向きや位置が変えられ,平面的に 完結した矛盾のないコースとなる. 出典 http://satoushoutenn.blog.fc2.com/blog-entry-13.html *28 ポリゴナイザー Polygonizer:多角形の頂点データと塗り潰し色を セットすると,勝手に三角形に分割して描画するハードウェア. *29 変形スプライト:同一平面上に頂点がない四角形を表示する場合, ポリゴンだと 2 つの三角形に分割され,四角形を折った表現にな るが,変形スプライトではねじれているように表示される. *30 グーロー Henri Gouraud:フランス人コンピュータ科学者. Fig. 16 1996任天堂「スーパーマリオ 64」Nintendo64 マリオの帽子など少ないポリゴンにグーローシェーディングを適 用し,丸く見せている. 出典 http://ggsoku.com/wp-content/uploads/super-mario-64.jpg貼り付けることによって,細かな表現を狙ったのがテクス チャ(Fig. 17)である.テクスチャはモデルに対してある方 向から投影する方法,モデルを包み込むように貼る方法など がある.また輝度変化を含めたテクスチャを利用することで, シェーディングを行わないなどの処理軽減もできる.顔の表 情の変化などはモデルを変形させるのではなく,テクスチャ 画像データのアニメーション表現で行うこともできる. 3.1.3 カメラワーク 3DCGでは描画のためのカメラ設定が必要で,画角やフ レームの決定だけでなく,ズームやパンなども写真や映画の 撮影と同様の配慮がいる.特に問題となるのが「3D 酔い」 と呼ばれる現象で,プレイヤーの操作に追従するカメラの動 きが急激な場合などで,乗り物酔いと同様の状態となる.カ メラ自体をプレイヤーが操作できるゲームも多いが,日本の アクションゲームの多くが TP 視点*31を取っているため, 不快感を軽減するカメラワークが求められている. 3.2 3DCG の演出技法 ゲームは映画などの CG と異なり,リアルタイム処理で生 成されるため,物理シミュレーションを利用した表現や,既 存体験に似せて,それっぽく見せるための擬似表現などが行 われる. 3.2.1 IK(Inverse Kinematics インバース・キネマティクス) 逆運動学と訳されるが,通常 IK と呼ばれる.マントやお さげ髪のように,本体に連れて動く物の動きを物理計算に よって再現すること.対戦格闘ゲームで使われるようになり, キャラクターの動きを自然に見せることに効果があるため, キャラクター表現に重きをおいた RPG などでも利用されて いる.また商業的に重要な IK の例として,いわゆる「乳揺れ」 と呼ばれる女性の胸が揺れる表現がある.これは流体表現な どと同様の手法も取り入れられており,中には好みの揺れ方 にパラメータが調節できるようなタイトルもある. 3.2.2 レンズフレア,ゴースト 飛行機の操縦をテーマとしたフライトシミュレーターなど では,画面全体に空が表示され,動きが知覚できない場合が ある.このような場面で使われるようになったのが,実際の 光学系で極めて明るい光源がフレーム内にあった時に生じる レンズフレアやゴーストだ.CG ではこのような現象は起こ らないが,経験則としてフレアの動きからカメラの動きが直 観的にわかるため,擬似表現として利用されている.リアル なグラフィックでの逆光シーンなどでも,光源が明るいこと や空気の澄んだイメージ表現に使われる. 3.2.3 フォグ効果 遠景と近景の対比のために,遠景を霞んでいるように見せ る表現(Fig. 18)で,大規模な構造物など巨大な物を描画す る際に遠近感を感じさせる効果がある.背景を明るい灰色な どにして,遠いものほど背景とブレンドしていく方法が基本 だが,最近は背景と同化させるだけでなく,遠景ほどコント ラストや彩度を下げる効果を,ゲームプログラムとは関係な くシステムが描画時に行う.使い方によって独特の表現とな るため,印象が体験として強く残る場合,逆に行っているも のの自然な表現で印象に残らない場合がある. 3.2.4 トゥーンレンダリング セルアニメの特徴である輪郭線の描写と単色による塗り潰 しを応用して,セルアニメ風の表現をするレンダリング手法 (Fig. 19).モデルの輪郭に黒線を追加し,ポリゴンのシェー ディングを行わずに描画する.さらにモデルの構造を考え, キャラクターの腕や顎など,前後に重なっている部分まで輪 郭線を拡張することで自然なアニメ絵表現になる.また「色 トレース」と呼ばれる,同色の塗り潰しを明暗 2 色で塗り分 ける手法も,グーローシェーディングの描画色を 2 階調にポ スタリゼーション*32することで実装している.他にも髪の 毛より上に眉毛を描写するなど,アニメにありがちな特殊表 現が使える描画エンジンもある. Fig. 17 1993ナムコ「リッジレーサー」アーケード 山肌などに写真を加工したテクスチャを使い,リアルな表現を している.株式会社バンダイナムコゲームスのご厚意による. ©BANDAI NAMCO Games Inc.
*31 TP視点:Third Person(三人称)視点.ゲーム内キャラクターの 実視界で表現する FP(一人称)視点に対し,プレイしているキャ ラクターの姿を後方から俯瞰する視点のこと. Fig. 18 2011ソニー・コンピュータエンタテインメント「ワンダと巨像」 プレイステーション 3,人間と巨大な相手や構造物との対比に, フォグ効果が使われている. 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントのご厚意による. *32 ポスタリゼーション posterization:階調を数段階に絞って,連続 階調を段階的な塗り潰しにする手法.
3.2.5 パースペクティブ強調 日本アニメに特徴的な表現として,いわゆる「金田*33パー ス」と呼ばれるパースペクティブ強調表現(Fig. 20)がある. 手描き独特の表現で,通常の 3DCG では整合性が取れない のだが,複数のカメラによるレンダリング結果を合成し,結 合部分を滑らかに補間することでリアルタイム描画を実現し ている.キャラクターの指先や持っている武器の先端近くに サブカメラを置き,同じ角度の遠い位置にあるメインカメラ で全身をとらえ,サブカメラの画像を強調部分に使いメイン カメラの画像と重ねるが,リアルタイムに実装されヒットし た作品の例はない. 3.2.6 被写界深度 写真や映画の表現では古典的だが,3DCG ではフォトリア ルな動画が作られるようになってから,前後のあるシーンで 使われるようになった.とはいえ,ゲーム操作中ではプレイ ヤーが画面のどこに注視しているのかが分からないため,注 視点が分かりやすいスコープを覗いているような場合に,注 視点が前後しフォーカスが移動したら,フォーカス距離でな い部分をボカすレンダリングを行うなどに限定される.イベ ント*34の CG アニメーションムービーのように,見せるだ けの場合は前景と背景の対比として自由に演出できる. 3.2.7 プロシージャル*35モデリング 地形や構造物の描画において,用意するモデルは通常の物 だけだが,気候などをパラメータとしてセットすることによ り,自動的にモデルを再構築して表示するシステム.例えば 積雪など,積雪量をセットすることにより,構造物の上に降 雪させた雪が積もったように新たなモデルを作って表示す る.この雪の上を歩くアクションを行った場合,本来の構造 物まで雪を踏み締めた状態にさらにモデルを変形させ,雪に 足跡を残すなども行うことができる. 3.2.8 ノンリニア破壊 3Dモデルの構築物をリアルタイムに破壊描写する場合, 予め壊れるパターンを用意しておき,それに従ってアニメー ションさせる手法「リニア破壊」に対し,加えられた応力か ら物体がどう破壊されるかを物理計算し,それに従ってモデ ルを再構築しながらアニメーションさせる手法を言う.特に 戦争モノなどにおいて,リアルタイムに操作が行われた場合, 破壊のパターンは無限に存在する.それをリニア破壊で対応 していると,行動の結果として生じる破壊が一様で,なおか つ衝撃の大小が破壊され具合に反映されず違和感が生じる. ノンリニア破壊では構築物の素材なども含めて構造をシミュ レートし,材質に見合った破壊表現を行う.また「メタルギ アライジングリベンジェンス*36」のように,刀で一刀両断 した目標物が,切断面で分断されるなどの表現もこの技術の 応用である.
4. 画像技術の応用
画像技術は CG の描画だけではなく,ディスプレイハード ウェアやセンシング方面でも広く活用されている.新たなデ バイスの登場によって新しい表現が可能になると,必ずそれ を利用した新たな体験を提供するゲームが作られる.デジタ ルゲームはコンテンツとしての作品性だけでなく,新技術を 広く普及させる工業的な原動力にもなっている. 4.1 ステレオ画像 両眼視差立体視を利用したデバイスやコンテンツは, 3DCGの利用によって 2000 年代に入ってから 3 度目のブー ム*37到来と言われた.大型の液晶テレビには基本性能としFig. 19 2005ナムコ「THE IDOLM@STER」アーケード
3Dモデルの輪郭を抽出して輪郭線を描画し,内部を塗り潰す. ここでは明暗 2 階調の色トレース表現,髪の毛のハイライトに よる毛髪表現なども行われている.
株式会社バンダイナムコゲームスのご厚意による. ©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Games Inc.
Fig. 20 2011テレビ朝日系列アニメ「スイートプリキュア」エンディングより プリキュアシリーズは 2009 年よりエンディングを CG を使った ダンスで表現している.このシーンでは誇張されたパース表現 が使われているが,これはリアルタイムレンダリングではないの で,モデルやパラメータをカスタマイズして実現している. 東映アニメーション株式会社のご厚意による ©ABC・東映ア ニメーションAll rights reserved.
*33 金田伊功 かなだよしのり:1952 ∼ 2009 日本のアニメーター.独 創的なアニメーション手法を生み出した,日本アニメの変革者. *34 イベント event:ゲームの流れの中で,一般にはプレイヤーが操 作できない状態で進む出来事.最近では動画表現が用いられる ことが多い. *35 プロシージャル procedural:一定のルールで自動に行われる手続き.
*36 メタルギアライジングリベンジェンス Metal Gear Rising Revengence:2013 年コナミ発売のアクションゲーム.
*37 3度目のブーム:赤青メガネを使ったアナグリフ方式の ’50 年代, 現在でも使われている立体視技術が確立された ’80 年代という 2 度のブームが過去にあった.
4.2 画像認識 フォトセンサーで撮り込んだ画像を解析し,そこから得ら れた情報を使ってゲームに利用するものも多々ある.セン サーの高解像度化及び画像処理能力の向上により利用方法は 増えているが,必然性があって使っているタイトルが少なく, 今後の発展が期待されている. 4.2.1 モーションコントローラー 2000年代前半に,携帯電話のフォトセンサーを利用して, その画像の変化から端末の角度や位置を割り出す技術が生ま れ,’07 年にはドコモが直感ゲームと称して多くの端末に実 装した.ただ,端末を振り回している間は端末のディスプレ イが見えないという不都合があり,広く普及はしなかった. ’10年にマイクロソフトが Xbox360*42のジェスチャー + 音声認識コントローラーとして「Kinect*43」を発売し,ゲー ムのみならず環境把握の手段として広く使われるようになっ た.カメラ画像から人間を割り出し,姿勢を骨格モデル*44 として認識し,それぞれの関節の位置や角度の変化などから モーションを判断する.ゲームではダンスなどの評価が可能に なったり,特殊な詠唱ポーズを取るとゲーム内で呪文が発動す るなど,能動的に体を動かすインターフェイスに向いている. ス方式である.また周囲の構造をモデルとして持ち,それを 参照しながら座標データを得ることができれば,移動も含め て滑らかな重ね合わせができる. ARの伝説的成功例として,’10 年に「ラブプラス+」が行っ た熱海市とのコラボイベントが挙げられる.これは恋愛シ ミュレーションゲーム上の彼女と共に熱海に一泊旅行すると いうイベントで,AR 技術を使って各所で記念写真が撮れた り,宿の部屋には布団が 2 つ並べて敷いてあり,そこに浴衣 姿の彼女が AR で待っていたりという内容で,尋常ではない ために他のコンテンツにフォローされてはいないが,特定地 域における AR の可能性を示してくれた. 4.2.3 各種センサーとの連携
’13年に米国で発売された Xbox one*45の新しい kinect に
は,体温や心拍数を計るセンサーが実装され,健康管理など に利用されている.これがゲームにどのように活かされるか は今後の課題だが,その他にもプレイヤーの緊張を知る筋電 計,興奮や沈静を知る脳波計,視線の動きを知るアイカメラ など,画像解析技術や可視化のための描画技術の応用が待た れる. 4.3 特殊ディスプレイと UI 一般にテレビに類するディスプレイ以外にも,様々な表現 の可能性がある.視覚的な物としてはプラズマを利用した空 間立体ディスプレイも,インタラクティブアートと並んで ゲームへの応用が期待される.また擬似的に作り出した触覚 を伝える触覚ディスプレイも同様で,これら新たなディスプ レイを駆動するための信号生成は,音や画像を伝える技術の 発展と考えられる.また入力となる UI にも,両眼視差立体 視に対してはロボット医療が先行している力触覚伝達技術が 適切であるように,他分野技術の取り込みも重要となる.