2013 年9月
はじめに
2013年7月12日、リゾート施設・旅館の運営会社である星野リゾートグループをスポンサーとする星野リゾート・リート投 資法人が東証に上場しました。従前より、CREマネジメント(企業不動産戦略)などを背景として、Jリートによるホテルなど のオペレーショナル・アセット1に対する投資実績やそれらへの投資に特化したリートも存在しています。しかし、星野リ ゾート・リート投資法人のように、施設の運営会社をスポンサーとするJリートの組成は、新たな試みの一つでもあるといえ、 マーケット関係者の注目を集めています。星野リゾートグループのJリート参入は、不動産を利用して事業活動を行う事業 会社一般によるJリート参入の可能性を示唆するものです。こうした動きは、監督官庁や業界団体などが取り組んでいる ヘルスケアリート設立やインフラアセットへの投資などJリートの投資対象資産の拡大・多様化の可能性を示すものかもし れません。 事業会社がスポンサーとなり J リートを組成する場合、事業会社は、保有不動産を J リートに譲渡し、当該不動産を リースバックする(セール・アンド・リースバック取引)ことが想定されます。今回は、従前より、資産流動化型スキームとして 活用されてきた特別目的会社2とJリートのエンティティとしての特性を比較し、そのうえで、このような取引に関連する会計 基準を整理し、その概要を解説します。特別目的会社と
J
リートの比較
特別目的会社を活用した不動産流動化は1990年代から行われていましたが、2000年の資産流動化法の改正・施行 以後に取引が増加し、バブル崩壊により動かなくなってしまった不動産を動かすための仕組みとして活用されてきました。 本社ビル、福利厚生施設、商業施設、工場など企業が保有する不動産について広くその取引対象とされ、その後、不動 産会社などが、特別目的会社を活用し自らのバランスシート外で不動産開発を行うという開発型証券化など利用目的も 多様化していきました。 他方、Jリートは2000年の投信法改正により誕生し、急成長後、リーマンショック、東日本大震災による低迷を経験しま したが、現在の不動産投資市場の活性化に寄与し、主要なプレーヤーとして存在感を高めています。Jリートは、投資口 を上場し一般投資家を含む多数の投資家から資金を集め、多数の収益不動産に投資を行います。投資家保護の観点 から、Jリートには厳格なディスクロージャー規制が適用されるため、ディスクロージャーの透明性、信頼性が高く、また、 要求されるガバナンスの水準も特別目的会社と比べ高くなっています。投資期間について、特別目的会社は、一般的に 1ホテル、商業施設、レジャー・アミューズメント施設、物流倉庫、データセンターなど不動産を使用してサービスを提供するという事 業的な要素が含まれる不動産のことをオペレーショナル・アセットと表現しています。 2資産の流動化に関する法律第2 条第 3 項に規定する特定目的会社及び事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体 をいいます。ファンドニュース
Jリートの多様化
~事業会社のJリート参入における会計上の論点
5年から7年程度で不動産を処分し投資家に資金を償還しますが、Jリートは、一般の事業会社と同様、半永久的に継続 することを前提とします。そのため、Jリートは、不動産投資市場における不動産の長期・安定的な保有者、資金の出し手 としての役割を期待されています。 図表1 特別目的会社とリートの特性の比較 J リート 特別目的会社 TMK GK-TK 根拠法令 投信法 資産流動化法 商法および会社法 投資対象 現物不動産 不動産信託受益権 現物不動産 不動産信託受益権 不動産信託受益権 資産の追加取得 可能 可能であるが柔軟性に欠ける 可能 投資家の属性 個人含む多数の投資家 少数のプロ投資家 少数のプロ投資家 投資持分の流動性 上場しているため随時換金可能 ほとんどない ほとんどない ローン形態 コーポレートローン ノンリコースローン ノンリコースローン 永続性 永続性あり 一定期間後(5年から7年程度)に 終了することが前提 一定期間後(5年から7年程 度)に終了することが前提 ガバナンス 特別目的会社に比べ、充実して いる 簡素 簡素 運営コスト 特別目的会社に比べ高い GK-TK より高い 低い エンティティレベルでの課税 ペイ・スルー 原則として課税は発生しない。 ペイ・スルー 原則として課税は発生しない パス・スルー 原則として課税は発生しな い ディスクロージャー規制 厳しいディスクロージャー規制が 課されている ディスクロージャー規制は緩やか ディスクロージャー規制は 緩やか (出所:PwC 作成)
不動産証券化における会計上の論点
事業会社が、特別目的会社またはJリートを活用して不動産証券化を行う場合、事業会社は、保有不動産を特別 目的会社またはJリートに譲渡し、当該不動産をリースバックする(セール・アンド・リースバック取引)ことが想定されま す。このような取引を行った後に、事業会社が、不動産の消滅を認識(オフバランス)することが出来るか否かが会計 上の論点となります。また、事業会社が、特別目的会社またはJリートに対する出資や投資口を保有する場合、特別 目的会社またはJリートを連結する必要があるか検討が必要となり、連結子会社に該当する場合、事業会社の連結 財務諸表で不動産がオフバランスされません。不動産証券化に関連する会計基準
(1) 不動産の売却取引に関連する会計基準 不動産の売却取引に関しては、現状、包括的な会計基準がなく、一般的な実現主義の原則(企業会計原則第 二 損益計算書原則三B)が適用されると解されています。ただし、判断基準を特に明示する要請のある特定の取 引については、売却の会計処理を行う時期等の具体的な判断について、以下のとおりその指針等が定められて います。3 z 「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い」(監査委員会報告第27号) z 「土地の信託に係る監査上の留意点について」(審理室情報No.6) z 「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)および「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業 会計基準適用指針第16号) z 「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告 第15号)及び同Q&A(会計制度委員会) z 「民都に売却した土地に係る留意事項」(日本公認会計士協会) z 「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」(監査・保証実務委員会) ここで、特別目的会社に対する譲渡とJリートに対する譲渡で適用される指針などが異なりますので以下におい て、それぞれ解説します。 ① 特別目的会社への譲渡 「特別目的会社を活用した不動産の流動化にかかわる譲渡人の会計処理に関する実務指針及び同Q&A」 (以下、不動産流動化実務指針とします)に基づき会計処理を行います。不動産流動化実務指針では、不動産 の売却の認識は、不動産が法的に譲渡されていることおよび資金が譲渡人に流入していることを前提に、譲渡 不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが、他の者に移転した場合に当該不動産の消滅を認識する方法、 すなわち、リスク・経済価値アプローチによって判断することが示されています。 特別目的会社を活用した不動産の流動化において、譲渡人が不動産の譲渡取引を売却取引として会計処 理するためには、不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されており、かつ、当該不動産にかかわるリスク と経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる必要 があるとしています。また、リスクと経済価値が他の者に移転していない可能性がある場合として、譲渡人の譲 渡不動産に対する継続的関与を挙げ、その内容の例示と取扱いを示しています。 セール・アンド・リースバック取引は、継続的関与の具体例に挙げられていますが、当該リースバック取引が オペレーティング・リース取引であって、譲渡人である借手が適正な賃借料を支払うことになっている場合には、 当該不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転して いると認められます。リースバック取引が、ファイナンス・リース取引の場合、売却処理は認められず金融取引と して会計処理することになります。対象となる不動産が特殊性を有し、かつ、なんらかの継続的関与がある場合 や特別目的会社が譲渡人の子会社に該当する場合なども売却処理を行うことができません。 3 その他、会計基準ではありませんが「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」平成 16 年 2 月 13 日が企業会計基準委員会か ら公表されています。また、継続的関与がある場合のリスクと経済価値の移転について具体的な判断基準を示しています。以下 の算式で算定されるリスク負担割合がおおむね5%の範囲内である場合には、リスクと経済価値のほとんどすべ てが他の者に移転しているものとし、売却処理が認められます。 リスク負担割合 = リスク負担の金額(流動化する不動産がその価値のすべてを失った場合に生ずる損失) 流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価) ここで、オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引であり、ファイナス・リー ス取引とは以下の2つの特性を有するリース取引です(リース取引に関する会計基準 第5項、6項)。 リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリー ス取引(ノンキャンセラブル条件) 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該 リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト条件) また、ファイナンス・リース取引に該当するか否かの具体的な判定基準としては以下の2つの基準があり、い ずれかに該当する場合、ファイナンス・リース取引と判定されます(リース取引に関する会計基準の適用指針 第 9項)。 現在価値基準 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で 購入するものと仮定した場合の合理的見積金額のおおむね90%以上であること 経済的耐用年数基準 解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上であること ② Jリートへの譲渡 特別目的会社への譲渡のように売却処理について特定の指針などは存在せず、収益認識の一般原則であ る実現主義が適用されると解されます。不動産流動化実務指針では、Jリートは、不動産流動化実務指針が適 用されないこと、譲渡人の会計処理については「関係会社間の取引にかかわる土地・設備等の売却益の計上 についての監査上の取扱い」に記載されているような留意事項に基づいて総合的に判断すべきものとされてい ます。 (関係会社間の取引にかかわる土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い 監査委員会報告第 27 号) 関係会社間の土地・設備などの取引について、会計上の利益が実現したかどうかの判定にあたっては、その譲渡価額に 客観的な妥当性があることのほか、次の諸観点より総合的に判断してなすものとする。 z 合理的な経営計画の一環として取引がなされていること z 買戻し条件付売買又は再売買予約付売買でないこと z 資産譲渡取引に関する法律的要件を備えていること z 譲受会社において、その資産の取得に合理性があり、かつ、その資産の運用につき、主体性があると認められること z 引渡しがなされていること、または、所有権移転の登記がなされていること z 代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収可能な債権であること z 売主が譲渡資産を引続き使用しているときは、それに合理性が認められること また、セール・アンド・リースバック取引について、売却先が特別目的会社の場合と、特別目的会社以外の場 合で取扱いが異なります。売却先が特別目的会社の場合、当該リースバック取引が、ファイナンス・リース取引 に該当すると、上述のとおり売却処理が認められず、譲渡人は、不動産の譲渡取引を金融取引として会計処理 することになりますが、売却先が特別目的会社でない場合、ファイナンス・リース取引に該当する場合であっても、
譲渡人は売却益を繰延べる必要があるものの不動産のオフバランスを行うことは認められます(リース取引に関 する会計基準の適用指針 第 49 項)。ただし、ファイナンス・リース取引の場合、譲渡人は原則として合意された リース料総額の割引現在価値と貸手の購入価額等(譲渡人から J リートへの売却価額)とのいずれか低い額を リース資産、リース債務として計上する必要があります(リース取引に関する会計基準の適用指針第 22 項)。 (2) 連結の範囲 子会社に該当するか否かの判断基準は、親会社が直接・間接的に議決権の過半数を有しているかどうかという 持株基準を基礎としますが、議決権の所有割合以外の要素も加味し、他の会社の意思決定機関を支配している かどうかという観点から、実質的な支配関係の有無に基づいて子会社の判定を行う支配力基準が採用されていま す。 ① 特別目的会社の場合 特別目的会社については、適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特別目的会社が発行する 証券の所有者に享受させることを目的として設立されており、当該特別目的会社の事業がその目的に従って 適切に遂行されているときには、当該特別目的会社に資産を譲渡した企業から独立しているものと認め、当該 特別目的会社に資産を譲渡した企業の子会社に該当しないものと推定するという連結子会社の範囲の例外的 な取扱いが規定されています(連結財務諸表に関する会計基準 第 7-2 項)。 ② Jリートの場合 連結子会社の範囲について、特別目的会社のような例外的取扱いはなく、Jリートの意思決定機関である投 資主総会における議決権保有割合をベースにその他の要素を考慮して実質的な支配関係の有無によって判 定されると考えます4。J リートが、連結子会社に該当する場合、譲渡人の連結財務諸表上、子会社の資産も合 算されるため、保有不動産はオフバランスされません。関連会社に該当する場合、連結財務諸表上、保有不 動産のオフバランスは行われますが、売却益のうち事業会社の持分相当額は消去されます。 図表2 譲渡人の連結財務諸表に与える影響(代表的な例) 譲渡人の J リートに対 する投資の保有区分 保有不動産の オフバランス 売却益 Jリートへの投資 の会計処理 リースバック取引の処理 子会社 × △ 全額消去・持分按 分負担 J リートの資本と 相殺消去される 内部取引として消去等が行わ れる 関連会社 ○ △ 未実現利益のうち 事業会社の持分相 当額は消去 持分法 J リートの当期純 利益のうち事業 会社の持分相当 額を損益計上 ファイナス・リース取引の場合、 リース資産、リース債務を計上 し売却益は繰延べ オペレーティング・リース取引の 場合、賃貸借処理 その他有価証券 ○ ○ 時価評価 ファイナス・リース取引の場合、 リース資産、リース債務を計上 し売却益は繰延べ オペレーティング・リース取引の 場合、賃貸借処理 (出所:PwC 作成) 4 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針についてのQ&A Q&A6
おわりに
事業会社がスポンサーとしてJリートの組成を検討する場合、事業会社とJリート双方の財務諸表に対する、事前の影 響分析が重要であると考えます。今回は、不動産証券化における会計上の論点、関連する会計基準を整理し、その概 要を解説しましたが、実際にそれぞれの会計基準等を適用する際には、形式的ではなく実質的な判断が求められます。 また、国際的な会計基準とのコンバージェンスを背景として、不動産の売却取引に係る現行の取扱い(不動産流動化 実務指針や「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い」など)やリース会計基 準、連結の範囲の取扱いなどが、将来的に見直される可能性がありますので、それらの動向について注視する必要があ ります。 文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。 あ ら た 監 査 法 人 第3金融部(資産運用) マネージャー 鈴木 伸也 あらた監査法人 第3金融部(資産運用) お問い合わせフォーム 本冊子は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナル からのアドバイスを受けることなく、本冊子の情報を基に判断し行動されないようお願いします。本冊子に含まれる情報は正確性または完全性を、 (明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本冊子に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされ たり、起こされなかったことによって発生した結果について、あらた監査法人、およびメンバーファーム、職員、代理人は、法律によって認められる範 囲においていかなる賠償責任、責任、義務も負いません。© 2013 PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. In this document, “PwC” refers to PricewaterhouseCoopers Aarata, which is a member firm of PricewaterhouseCoopers International Limited, each member firm of which is a separate legal entc 2013
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