*正会員 中央大学研究開発機構(Research and Development Initiative, Chuo Univ.)
**非会員 四川大学災後重建及び管理学院 安全科学及び減災学科(Sichuan University-Institute for Disaster Management and Reconstruction Safety Science and Disaster Reduction)
1.背景と目的 中国四川省都江堰市は、チベット高原へと連なる龍門山 脈を南下した岷江が、成都平原へと開ける扇状地の頂部に 位置する都市であり、紀元前 256 年に構築された古代水利 工、道教発祥の地である青城山、ジャイアント・パンダの 生息する自然遺産と、3つの世界遺産を有している。 2008 年 5 月 12 日、四川省汶川県附近を震源とするマグ ニチュード 8.0 の「四川汶川大地震」が発生し、死者・行方 不明者は、87,000 人にのぼった。復興にあたっては、中国 各地の大都市(北京、上海等)が、被災地の特定の都市を 支援するという「対口支援」(ペアリング支援)方式が採用 され、また、中国政府が国際社会に支援を要請した結果、 世界各国からの支援が寄せられ、中心市街地に関しては、 2011 年 5 月までに迅速に復興が実現に移された1)。 しかしながら、農村地帯は、いまだ復興の途上にあり、 農村からの人口流出、高齢化の進展、空洞化、農地の荒廃 等の問題が顕在化している。当該区域には、古代水利工に より育まれた豊かな水田地帯に、「林盤」という集落が無数 に存在しており、人間と自然の協働作業により構築された 「文化的景観」2)として位置づけられている3) .。一方で、 高速道路、新幹線等の整備に伴い地域構造が変容しており 農村地域の将来ヴィジョンは大きな転換が求められている。 本研究は、こうした背景を踏まえて、2008 年の四川汶川 大地震復興計画における緑地計画を踏まえ、約 10 年後の 変化と課題について分析を行ない、歴史的に継承されてき た「林盤」の持続的維持を目標とする今後の農村地帯の保 全・再生に向けた基礎的研究を行い、自然環境を生かした 社会的共通資本であるグリーン・インフラストラクチャー (グリーンインフラ)について考察することを目的とする。 本研究に関わる計画・調査内容は、以下の通りである。 2008 年 6~7 月、中国政府からの震災復興グランド・デザ イン策定の公募に応じ、世界 10 ヵ国からの支援チームの 内、日本からのチームとして主として緑地計画と農村復興 に焦点をあてグランド・デザインの策定を行った4)。これ を踏まえて、農村集落における「林盤」の詳細調査を、都 江堰市聚源鎮を対象とし、2008 年 12 月、2009 年 8 月に実 施しデータベースを作成した5)。この後、震災復興の重点 は既存市街地の再生及び復興住宅建設であったため、農村 地域の復興は遅々として進展しなかった。2017 年 3 月、農 村地域の保全・活性化が国家の基本目標となり、当該区域 の林盤が着目されることとなった。執筆者等は、2017 年 5、 9 月に独自に再調査を実施し、都江堰市に基本方針の提示 を行った6)。これを踏まえて都江堰市では林盤の保全・再 生施策が動き出し、林盤保全研究所が開設された。2019 年 3~9 月には、四川大学と協働で詳細調査を再度、実施し現 段階での詳細な分析を行なった。 中国都江堰・四川汶川大地震復興における緑地計画と農村部における林盤の保全・再生に関する研究 A Study on Green Space Planning after the Great Sichuan Earthquake, and Restoration of Linpan in Agricultural Area of Dujiangyan, Sichuan Province, China
石川 幹子*・カビリジャン ウメル**・黎 秋杉**・横山 紗英*** Mikiko Ishikawa*, Kabillijyan Umel**, Li Qiushan**, Sae Yokoyama*** The purpose of this paper is to clarify the concept of green space planning after the Great Sichuan Earthquake in Dujiangyan, and considers the meaning of Green Infrastructure by analyzing ten years’ transformations of Linpan as Cultural Landscape. The concept of the restoration planning was to renovate the World Heritage City. 7 types of transformations have clarified, however the traditional Linpan system has survived within 58% areas of Linpan. The establishment of Green Belt took important roles on the preservation. It is essential to create the methodology for the sustainable development of Linpan, based on precise studies about the historical accumulation of Green Infrastructure and excavate the network system of ecological planning.
Keywords: Linpan, Green Infrastructure, Green Space Planning, Restoration Planning after Great Earthquake, Social-overhead Capital
林盤、グリーン・インフラストラクチャー、緑地計画、震災復興計画、社会的共通資本
林盤に関する既往研究は、次の通りである。樊砚之7)は、 成都平原川西地方における林盤の特性について、黎秋杉8) は、都江堰市の林盤の空間的特色について、石鼎9)は、都 江堰市の田園風光帯における文化的景観について、石川等 10)は、聚源鎮金鶏村の林盤について、森田明11)は、清代 水利史について研究を行っている。 2.古代水利工と林盤 都江堰の古代水利工は、紀元前 256 年、秦国蜀郡太守の 李冰父子により建設された。その目的は、氾濫を繰り返し ていた岷江を治め、成都平原を豊かな穀倉地帯にすること にあった。写真―1は全景、図―2は取水堰の仕組みを示 したものである。龍門山脈を南下してきた岷江は、まず、 魚嘴により内江と外江に分離される。内江は、隣接する岩 盤の山を切り崩して開かれたものであり、外江より水深が 深く設計されており約 60%の水量が流れる。大量の土砂を 含んだ河流は、次の水利工である飛砂堰により土砂の沈澱、 排除が行われ宝瓶口に導かれる。ボトルネックの形状を有 する宝瓶口で、更に土砂の排除が行われ、網の目のような 灌漑水路網が、宝瓶口を起点として整備され、今日なお、 5300 ㎢に及ぶ成都平原を潤している。かつて、諸葛孔明は、 この地を「沃野千里、天府の地」と讃えた。 成都平原が「天府の地」と称されるに至ったのは、古代 水利工の恩恵を享受する農村全体に、自然環境を活かした インフラが創出されたからに他ならない。これが、「林盤」 と呼ばれるシステムである。田園の中に緑の孤島のように 点在する風景は、すでに唐代の杜甫によりうたわれている。 文献に「林盤」という用語が登場するのは、清朝時代の王 培荀12)によるものが、現時点では最も古い文献であると言 われている。「林」という自然環境と「盤」すなわち基盤と なる構造を統合した用語である。図―3は、2017 年におけ る林盤の分布状況を示したもので、世界遺産を有する国際 都市であると同時に、農業が主力産業となっている。表― 1は、都江堰市における 12 の鎮における林盤に居住する 人口・箇所数・面積を取りまとめたものである。林盤に居 住する人口は 250,790 人、戸数は 72,954 戸、箇所数は 3,824 ヵ所、面積は 5620.93 ㏊である。2017 年の都江堰市の人口 は、690,900 人であり、約 36%の人々が林盤に居住している ことがわかる。(2019 年の人口は 702,800 人である)13)。 表―1 都江堰市における林盤人口・箇所数・面積 都江堰市提供(2017 年) 図―3 林盤の分布状況(2017 年) 都江堰市提供 図―2 古代水利工都江堰 都江堰市水利管理局提供 写真―1 都江堰全景
3.四川汶川大地震復興における緑地計画の特色 都江堰市における震災復興計画策定のプロセスは、前述 したように 2008 年6~7 月にかけて、世界 10 ヵ国からの グランド・デザインを募り、多様なアイディアを自由に展 開することからスタートした。第二段階として、上海同済 大学計画研究院が、成都市及び都江堰市からの委託を受け、 提示された多様なアイディアを、一つのマスタープランに 収斂させる作業を行った。その結果、2008 年 12 月に、都 江堰市が、「都江堰市震災復興マスタープラン」の決定を行 った。図―4が、総括図である14)。 復興計画における緑地計画の基本方針は、「世界遺産・生 態都市」であり、北西部のジャイアント・パンダ生息地の 自然遺産の保護をベースとし、古代水利工により発達した 水路網沿いの緑化を行い、合わせて成都市へと連続するグ リーンウェイを整備し、生態系の回廊とし、農村地帯にお いては、林盤の保護を重要施策として掲げた。 復興緑地計画は、地域により大きく異なり、旧市街地、 被災者のための安居住宅(1)建設地域、農村地帯に分けられ た。旧市街地においては、歴史的町並みの再生が最重要目 標として掲げられ、都江堰公園・天府源大橋周辺の整備が 第一に行われた。旧市街地の街区は、四合院の庭の保全・ 再生が行われ、細街路と水路を結ぶ視線の抜ける軸線(ヴ ューコリダー)の確保が、歴史的街区再生の基本原則とし て導入された。史実を踏まえて旧市街地の城壁の再生が行 われ、頂部は遊歩道として開放され、灌漑用水路沿いは行 き止まりのない緑道として整備された。 被災者のための安居住宅は、旧市街地を環状に取り囲み 中高層建築によりクラスター状に整備され、灌漑用水網と のネットワークを基本として住区基幹公園の整備が行われ た。 林盤の保全・再生については、大震災後の 2011 年 7 月に 都江堰城郷計画院より、「都江堰市域林盤保全及び利用計 画 」15)が発表されており以下のような方針が示された。す なわち、林盤は、当該地域に歴史的に形成されてきたもの であり、大小の林盤が田園の中に埋め込まれていることに より、「青山緑水」の伝統的景観を形成している。「歴史文 化と現代文明が相交わり、互いに輝き合う」地域であり、 「世界現代田園城市」を創り出すことが目標とされた。 この考え方を、将来の都市構造に反映させたものが、グ リーンベルトとしての「田園風光帯」の導入であった(図 ―4)。復興計画策定において、大きな争点となったものが、 都市構造を「拡大型」とするか、「コンパクト・シティ型」 とするかにあった。10 ヵ国の提案も両者に分かれ、「拡大 型」の提案は、マレーシア、アメリカ、イギリス、スイス、 北京等、「コンパクト・シティ型」は、日本、上海、台湾で あった。都江堰市においては、林盤の文化的景観を維持・ 継承していくという基本方針を踏まえて、「コンパクト・シ ティ型」の都市構造が選択された。新規の市街地は、図― 4の南部に 1 ヵ所、計画され、既存市街地の間には、天府 源地区と名付けられた林盤の保全を目標とする地区が、田 園風光帯の枢要部として選定された。この提案は、日本チ ームの現地調査に基づくものであり、多数の林盤が維持・ 継承されていることが、選定の大きな要因であった。 生態都市形成の方法論については、日本チームが詳細な グランド・デザインを提示していたため、その考え方が基 本として採用された。「都江堰復興重建概念計画理想空間」 4)を踏まえ、都江堰市全体の生態系区分が行われ、森林、 水域、農村、住宅地ごとに、生態系の類型化が行われ、保 全・回復していくべき目標像が提示された。なかでも、森 林地帯・市街地・農村を結ぶ、古代水利工による生態系の 回廊の形成が最も重要な課題として位置づけらた。 しかしながら、震災から 12 年が経過し、農村地帯の整備 は途上にある。復興に伴う新幹線の開業、高速道路の整備、 都市基幹道路の建設などにより、マスタープラン策定時と 地域構造は大きな変化を遂げており、林盤の状況にも大き な変化が生じている。次章では、「田園風光帯」の核となる、 天府源地区に焦点を絞り、詳細な現地調査とヒアリングを 踏まえて、変化したものと維持・継承されているものを明 らかにし、保全・再生に向けた考え方の基礎となる分析を 行なっていく。調査期間は、2019 年 3 月~9 月であった。 図―4 都江堰市震災復興マスタープラン 2008 年 12 月 写真-2 旧市街地 2008 年 7 月 写真-3 2019 年 9 月 (同じ場所。水路へのヴューコリダーの確保)
4.天府源地区における林盤の構造と変化の分析 (1)位置 震災復興マスタープラン(2008 年)において位置づけら れた天府源地区は、都江堰市聚源鎮に位置する約 600 ㏊の 面積を占める地区である。北東部には幹線用水路の走馬河、 南西部には岷江から分岐した江安河、北西部には高速道路、 南東部は、聚源鎮の主要な公共施設(小・中学校等)の街 区に隣接している。 (2)林盤の特色 図―10は、林盤の分布図であり、2008 年の時点では、 154 の林盤が分布していた。規模は、平均値が 10,499 ㎡で あり、5,000 ㎡未満の小規模な林盤は 31 ヵ所、5,000 ㎡以上 10,000 ㎡未満の林盤は 58 ヵ所,10,000 ㎡以上 20,000 ㎡未 満の林盤は 50 ヵ所,20,000 ㎡以上の大規模な林盤は 15 ヵ 所となっていた10)。林盤の間隔は、約 300m であり、水田 耕作を主要な収入源としているが、都市近郊の立地特性を 生かし、花卉園芸、緑化樹木、果樹の栽培など換金性の高 い樹木の栽培が行なわれている。林床では、家畜が飼われ、 菜園が営まれており、外周部には、防風林としての機能と 建築資材の用途を併せ持つ、竹林、クスノキ、カシ等が植 樹され、メタセコイア、シナサワグルミ等の高木がスカイ ラインを形成し、視認性の高い集落景観を創り出している。 (3)水路システム 図―5は、水路システムであり、2300 年の歴史を有する 階層的構造を有している。宝瓶口を起点とする灌漑用水路 は、8 つの幹線水路に分岐され、斗渠、支渠、農渠、網渠の オーダーで整備されている。斗渠は、地域の幹線水路であ り、都江堰市水利管理局が管理を行っている。支渠は地区 幹線水路であり、農渠は支渠から分岐され、農村コミュニ ティの原単位である社区により管理されている。網渠は、 各戸の農民が管理を行なっている。天府源地区における斗 渠の特色は、直線のルートとなっているが、これは 1960 年 代以降に整備されたものである。旧来の斗渠は、旧水路、 湿地等として残存しており、農村コミュニティの原単位と なる「組」は基本的に旧水路に添って形成されている。 (4)道路システム 図―6は、当該地域における交通網を示したものである。 震災復興後、地域の中央に広幅員街路である天府源大道が 建設され、沿道一帯の林盤では、「農家楽」という農民が経 営するレストランが、数多く建設されている。また、北部 は高速道路となり、南部は、聚源鎮の公共施設(学校等) が整備された地区に隣接している。これらの交通網の整備 は、林盤の構造の変化に大きな影響を与えている。 (5)林盤の詳細調査 震災後 12 年を経た現状を明らかにするために、全域の 林盤、108 ヵ所の調査を、2019 年 3~4 月に実施した。これ を踏まえて伝統的林盤経営(農業・林業・園芸・菜園・畜 産等の複合的利用)を包含する地域で、調査への合意が得 られた地区を対象として、居住形態・水路・毎木調査・産 業・水路管理システムの協働作業等について調査を行った。 図―6 聚源鎮天府源地区における交通網 写真―4 支渠 写真―5 斗渠 写真―6 農渠 写真―7 網渠 図―5 聚源鎮天府源地区における水路システム
対象地は、金鶏村の 4 つの林盤であり、2019 年 5 月、9 月 の 2 期に分け調査を実施した(図―7)。 ①大党家院子(No.34) 南面に斗渠が流れ、3棟の三合院と、 1棟の丁字式、1棟の一字式建築(2)から構成されている(図 ―7,8)。2008年以降の変化としては一字式建築が空き家 となっている他は持続されている。斗渠の管理は、上下流 の住民が協働で、清掃・草刈り等を行っている。北部を流 れるのは農渠であるが、水量は豊かであり、住民がクルミ を洗うなど生活に根付いた利用が行われていた(写真―6)。 泉水へ続く水路も良好に保たれている。林盤の主木は、メ タセコイア、シナサワグルミ等であり(図―8)、2009年の 調査時と同じく維持・継承されていることがわかった。変 化したものは菜園と網渠である。菜園の一部は苗木畑とな り、空き家となったエリアでは網渠が埋没し失われていた。 ②宗家院子(No.32) 水田地帯の中央に緑の孤島のように 浮かんでいる林盤である。三合院(1棟)、丁字式(2棟)、 一字式(6棟)から構成されている。このうち、南面に面 した2棟と、北西部の3棟が空き家となっており、林盤の荒 廃が進展している。隣接する林盤から続く北西部の農渠は 水量も多く、良好に維持されているが、空き家となった南 面のエリアでは、2009年と比較し菜園が消滅し、キーウィ 畑となり、農渠及び網渠は失われていた。 ③楊家院子(No.30) 林盤の北部に支渠が流れており、水路 の管理は、良好に行われている。丁字式(2棟)、一字式(6 棟)の建築から構成されており、このうち一字式の1棟が空 き家となっている。林盤を構成するメタセコイアやイチョ ウの大木は、維持・継承されているが、南面の菜園が苗木 畑にかわり、網渠は埋もれていた。 ④小党家院子 南面に農渠が流れており、大党家院子と連 続し、水路の管理が良好に行われている。4棟の丁子式建築 からなり、持続的な農業経営が行われている。 ⑤泉水 中央に、「泉水」と呼ば れる泉があり、コミュニティの 共有財産として、水路の管理、 樹林帯の保全、草刈りなどが協 働で行われている。 図―9は、4つの林盤に出現した樹木の合計であり、メタ セコイアが群を抜いて多いことがわかる。 図―8 毎木調査図(金鶏村大党家院子 No.34) 図―9 林盤内樹木の出現種数と本数(4 林盤の合計) 図―7 詳細調査の対象林盤の位置・建築・水路網 写真―8 泉水 表―2 詳細調査対象地の概要
5.林盤の社会的構造と変化 (1)都市化の進展を踏まえた分析の視点 中国における行政単位は、3 段階の構造となっており、 省・县・鎮から構成されている。当該区域においては、成 都市―都江堰市―聚源鎮となっている。鎮は、複数の「社 区」から構成されており、「社区」の中に、コミュニティの 原単位となる「組」が存在している。図―10は、聚源鎮 天府源地区における「社区」と「組」の状況を示したもの である。「社区」としては金鶏社区、迎祥社区、大合社区の 一部が包含されている。「社区」は複数の「組」から構成さ れており、「組」は林盤の集合体となっている。図中の東西 の番号のみが記載されている林盤(14~28、68、72~89、 144~154)は、この間の開発により失われたものである。表 ―3は、残存している林盤の状況を、現地調査に基づきま とめたものであり、①規模、②立地特性(幹線道路との接 続・水路との関係性)、③2008 年以降の変容と特質の 3 項 目の設定を行い都市化の進展に伴い生じている「林盤の持 続的維持に向けた脆弱性」という視点から類型化を行った。 (2)分析の結果 表―3に基づき、当該区域の林盤は、以下の7つの類型 に分類された。 A-1:小~中規模な林盤で、幹線街路の整備により農村コミ ュニティとしての基盤が失われたもの(9 ヵ所)。 農村コミュニティの維持は困難であり、生態系の回廊 を形づくる林盤として維持していくことが望ましい。 A-2:中~大規模な林盤(0.7~2.5㏊以上)で、幹線街路に 隣接し、観光化が進展しているもの(6ヵ所)。 交通のアクセスが便利であることから、「農家楽」等の立 地が加速している。景観誘導を行なう必要がある。 A-3:中~大規模な林盤(0.7~2.5㏊以上)で、幹線街路に 隣接するため、苗木畑として特化しているもの(7ヵ所)。 B-1:小規模な林盤で、支渠・農渠に隣接するが、高齢化、 若年層の流出により空洞化が進展しているもの(3ヵ所)。 居住空間としての維持は困難であり、生態系の回廊を 形づくる林盤として維持していくことが望ましい. B-2:中~大規模な林盤で支渠・農渠に隣接し、伝統的林盤 経営が持続しているもの(30ヵ所)。 林盤の中で、C-2と並び、最も多い類型である。再生の要 となる林盤。(詳細調査対象:No.30,34が該当)。 C-1:小規模な林盤で田園の中に存在し、伝統的林盤経営は 持続しているが、高齢化、若年層の流出で空洞化が進んで いるもの(20ヵ所)。 小規模ではあるが農業地域の中核を構成するエリアに立 地しており、ネットワークの中で持続する仕組みを生 み出していくべき林盤。(詳細調査対象:No,32,33が該当)。 C-2:中~大規模な田園の中に存在し支渠には隣接してい ないが、伝統的農業経営が継続されている林盤(33ヵ所)。 林盤の中で、B-2と並び、最も多い類型である。再生の要 となる林盤。 以上、林盤は、大きく生態系林盤として保全していく ものと、農村文化を継承し、新たな機能を導入し、ネッ トワークの中で活路を見出していくものに分けれらた。 図―10 聚源鎮天府源地区における社区と組
表―3 天府源地区における林盤の分析 変化 ~0.7ha 0.7~1.5ha 1.5~2.5ha 2.5ha~ 幹線道路に隣接 河川・支渠・斗渠に隣接 2008~2019年
大合村十組 1 ● ● a A-1 大合村十組 2 ● ● a A-1 金鶏村四組 3 ● ● a A-1 金鶏村四組 4 ● ● a A-1 金鶏村六組 5 ● ● a A-1 金鶏村四組 6 ● e C-2 金鶏村四組 7 ● ● e B-2 金鶏村四組 8 ● d C-1 金鶏村八組 9 ● ● b A-2 金鶏村八組 10 ● e C-2 金鶏村七組 11 ● ● e B-2 金鶏村七組 12 ● ● e B-2 迎祥村十七組 29 ● ● e B-2 金鶏村八組 30 ● ● e B-2 金鶏村八組 31 ● d C-1 金鶏村八組 32 ● d C-1 金鶏村十一組 33 ● d C-1 金鶏村十一組 34 ● ● e B-2 金鶏村八組 35 ● ● e B-2 金鶏村一組 36 ● ● e B-2 金鶏村一組 37 ● ● a A-1 金鶏村三組 38 ● ● a A-1 金鶏村三組 39 ● ● b A-2 金鶏村一組 40 ● ● e B-2 金鶏村二組 41 ● ● a A-1 金鶏村二組 42 ● ● e B-2 金鶏村二組 43 ● e C-2 金鶏村四組 44 ● e C-1 金鶏村四組 45 ● e C-1 金鶏村四組 46 ● ● e B-1 大合村十組 47 ● e C-2 大合村十組 48 ● ● e B-2 大合村十一組 49 ● ● d B-1 大合村十一組 50 ● d C-1 大合村十一組 51 ● e C-2 金鶏村二組 52 ● e C-1 金鶏村二組 53 ● e C-2 大合村十一組 54 ● ● e B-2 大合村十一組 55 ● e C-2 大合村十一組 56 ● e C-2 金鶏村二組 57 ● e C-2 金鶏村二組 58 ● e C-2 金鶏村二組 59 ● ● e B-2 大合村五組 60 ● e C-2 金鶏村一組 61 ● ● e B-2 金鶏村一組 62 ● e C-2 迎祥村十六組 63 ● ● ● b A-2 迎祥村十六組 64 ● e C-2 迎祥村十六組 65 ● e C-2 迎祥村十六組 66 ● e C-2 迎祥村十六組 67 ● ● e B-2 迎祥村十四組 69 ● ● e B-2 迎祥村十四組 70 ● ● e B-2 大きさ 林盤 村 類型 立地特性 変化
~0.7ha 0.7~1.5ha 1.5~2.5ha 2.5ha~ 幹線道路に隣接 河川・支渠・斗渠に隣接 2008~2019年
迎祥村十四組 71 ● ● e B-2 迎祥村十二組 90 ● d C-1 迎祥村十二組 91 ● e C-2 迎祥村十二組 92 ● ● e B-2 迎祥村十二組 93 ● ● e B-2 迎祥村十五組 94 ● e C-2 迎祥村十三組 95 ● e C-2 迎祥村十五組 96 ● ● e B-2 迎祥村十三組 97 ● ● b A-2 迎祥村十三組 98 ● e C-2 迎祥村十三組 99 ● e C-2 迎祥村十三組 100 ● d C-1 迎祥村十三組 101 ● ● b A-2 大合村八組 102 ● ● a A-1 大合村七組 103 ● ● b A-2 大合村七組 104 ● ● e C-2 大合村七組 105 ● e C-2 大合村七組 106 ● e C-2 大合村七組 107 ● e C-1 大合村六組 108 ● e C-2 大合村七組 109 ● e C-1 大合村六組 110 ● ● e B-2 大合村七組 111 ● e C-1 大合村八組 112 ● ● c A-3 大合村六組 113 ● ● e B-2 大合村三組 114 ● ● e B-2 大合村三組 115 ● ● c A-3 大合村六組 116 ● d C-1 大合村六組 117 ● e C-2 大合村六組 118 ● e C-2 大合村四組 119 ● d C-1 大合村四組 120 ● e C-2 大合村五組 121 ● e C-2 大合村四組 122 ● e C-2 大合村四組 123 ● e C-2 大合村三組 124 ● ● c A-3 大合村十一組 125 ● e C-2 大合村十一組 126 ● d C-1 大合村四組 127 ● ● e B-2 大合村四組 128 ● d C-1 大合村四組 129 ● d C-1 大合村四組 130 ● e C-2 大合村四組 131 ● e C-2 大合村四組 132 ● d C-1 大合村四組 133 ● d C-1 大合村三組 134 ● ● c A-3 大合村三組 135 ● c A-3 大合村十二組 136 ● ● d B-1 大合村十三組 137 ● ● e B-2 大合村十三組 138 ● ● c A-3 大合村十三組 139 ● ● c A-3 大合村十三組 140 ● ● e B-2 大合村十三組 141 ● ● e B-2 大合村十三組 142 ● ● e B-2 大合村十三組 143 ● ● e B-2 村 林盤 大きさ 立地特性 類型
6.考察 本論文では、2008年5月12日に発生した四川汶川大地震の 復興緑地計画の特色について明らかにし、林盤の震災後12 年間の変化を分析した。以下の点が明らかとなった。 第一に、四川汶川大地震により、建築物は破壊されたが、 農村地帯の林盤の被害は少なかった。震災後の変化は、7つ の類型に分類された。幹線道路の建設に伴う農村コミュニ ティの消失(A-1)、観光化の進展(A-2) 、苗圃への特化(A-3)が顕在化しており全体の20%となっている。高齢化、若 年層の流出により、小規模な林盤では空洞化、農地の荒廃 が進展しており(B-1,C-1)、約22%を占めている。伝統的林 盤経営は、約58%の林盤で維持・継承されている(B-2,C-2)。 第二に、詳細調査の結果、林盤の構成要素には、変化し なかったものと、変化を遂げたものの、2つが存在すること が分かった。前者は幹線水路システムと林盤を構成する主 要な樹木である。後者は、土地利用の変化(苗圃の増大、 菜園の減少、農地の荒廃)、及び、農渠の分断、各農家が管 理する網渠の埋没等であった。 第三に、脆弱性という観点からは小規模林盤(C-1)の動 向が大きな課題であることがわかった。詳細調査で明らか にしたように、小規模林盤では、空洞化に伴い水路のネッ トワークが分断されたものと、協働によりネットワークを 維持し林盤経営が持続されている林盤の双方がみられた。 保全・再生施策の展開においては、群としてのネットワー クに関する評価軸の構築が重要になると考える。 第四に、林盤は視認性の高い高木層に囲繞されて存在し ており、泉水の保全等、コミュニティの共有資産であると のコンセンサスが成立していることが分かった。 2300年の歳月を費やし、古代水利工により形成された林 盤は、「自然環境を生かして創り出されてきた社会的共通資 本(グリーンインフラ)」16)の一つであり、特質と課題を、 本調査を踏まえてまとめると、次の通りとなる。 ①林盤は、地域の人々の安全・安心な暮らしを支えるため に、戦略的計画と技術により歴史的に継承されてきた社 会的共通資本であり、災害や時代の変化に対して、変動 しない構成要素と、変化に柔軟に対応する構成要素の二 つにより構成されている。この構造は大災害の発生時に も人々に恩恵を与えるレジリエントな特質を有している。 ②林盤は、階層的構造を有し(広域・都市農村・コミュニ ティ)、ネットワークにより有効に機能している。持続的 維持に向けては、ネットワーク上の課題を詳細な調査に より明らかにし、柔軟なシステムを創り出していく必要 がある。 ③林盤は、自然と人間の協働作業により形づくられてきた 資産であるとのコンセンサスが共有されており、その持 続的維持に向けては、土地所有や公民の枠を超えた協働 の取り組みが重要である。 以上、林盤を事例とし、2300年の歴史を有するグリーン インフラについて考察を行った。地球環境問題の顕在化に 伴い、生物多様性の向上、水循環の回復等は実現に移して いかなければならない重要な課題である。林盤の有する地 縁・血縁に基づく従来のコミュニティに特化した概念を超 え、新たな仕組みの導入の検討が必要であると考える。 補注 (1) 震災復興住宅は、建設の手法により、政府主導型と被災者住民主導型に 分けられる。安居住宅は政府主導型で、資金調達を都江堰市が行ったもので あり、今回の復興では、再建住宅の約80%が、この類型であった。 (2) 三合院建築様式は、中央に堂屋と臥室があり、左右に厨房・臥室を配し 建築に囲繞された中央部が、インバという農作業用の広場となっている建 築様式である。丁字型は鍵型で堂屋と臥室があり、一字型は一棟のみの長方 形横長の建築である。 参考・引用文献 1) カビリジャン・ウメル(2016), 『震災復興計画政策の研究―ブンセン地 震を事例としてー』,四川大学出版社.
2) Nora Mitchell, Mechtild Rössler, Pierre-Marie Tricaud (2009),World Heritage Cultural Landscapes – A Handbook for Conservation and Management (World Heritage Paper Series vol.26). 3) 都江堰城郷計画院(2011),「都江堰市域林盤保全及び利用計画」. 4) 成都市人民政府(2008):都江堰復興重建概念計画理想空間 30 巻, 同済 大学出版社. 5) 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻環境デザイン研究室(2009), 「都江堰市・天府源公園林盤データ・シート」. 6) 四川大学灾后重建与管理学院, 中央大学研究開発機構(2017), 「天府源 農耕文明遺産地概念方案」. 7)樊砚之(2009),「川西林盘环境景观保护性规划设计研究」, 四川農業大学. 8) Qiushan Li 1 , Kabilijiang Wumaier 1, and Mikiko Ishikawa(2019), The Spatial Analysis and Sustainability of Rural Cultural Landscapes: Linpan Settlements in China’s Chengdu Plain, Sustaibabiliy, doi:10.3390/su11164431 9) 石鼎, 石川幹子(2012), 「中国四川省都江堰市のグリーンベルトにおけ る農村地域の文化的景観に関する研究」, 都市計画論文集 Vol.47 No.3, pp.1009 -1014. 10) 石川幹子, カビリジャン・ウメル, 大澤啓志, 高取千佳, 村山健二(2011), 「中国四川省都江堰市農村部における林盤に関する研究」,ランドスケープ 研究 74(5), pp.779 -782. 11) 森田明(1974),『清代水利史研究』,亜紀書房,pp207-246. 12) 王培荀(1846),『听雨楼随笔』, 道光年间. 13) 都江堰市統計局,「2019 年都江堰市人口基本情報」, http://www.djy.gov.cn/dyjgb_rmzfwz/c129460/2020-04/17/content_0fc95e1c444f4c7e853c7dbc30c0f35c.shtml(最終閲覧:2020 年8 月14 日). 14) 都江堰市(2008),「都江堰市震災復興マスタープラン」 15) 都江堰城郷計画院(2011),前掲. 16) 宇沢弘文(2000),『社会的共通資本』,岩波新書,pp.4-6. 図―11 林盤の類型別箇所数