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道州制と広域行政-香川大学学術情報リポジトリ

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I ふノ

ヽ│制と広域行政

村  上

 そもそも道州制導入を現時点においてどこまで本気で考えなければなら ないか,という問題がある。なぜなら道州制は,1964年の臨時行政調査 会の「広域行政の改革に関する意見」を始めとする当時の広域行政の問題 が,「戦前・戦中の道州制論の現代版」といわれたように,1927年・の田中 政友会内閣が設置した行政審議会の幹事会案として作成された,日本にお ける最初の道州制構想といわれる「州庁設置に関する案」から今日まで何       (1) 回も提起されながら,一度も実現したことがないからである。そこで道州 制という問題を検討の対象とレて議論するか否かは,考えざるを得ないテ ーマである。現に,2008年・4月の段階で,「いざ道州制の実現となると。        (2) 依然,未知数だ」といわれている。  しかし,昨年の参議院選挙で民主党が大勝利したこともあって,日本経 済団体連合会(,以下「日本経団連」という。)が優先政策課題で政党の政 策評価をし始め,民主党に対して非常に厳しい立,場で臨んでいる。その中 で,2009年・までに道州制の推進計圓を立て,工程表を含めて広く国民に 五 提示をする形で,かなり本腰を入れてやろうとしている。経済界がやろう  ノx としても,政治の世界が混乱していることから,政治の世界に道州制が登 場するかどうかは不確定であるが,日本経団連はかなり本気で取り組んで 一 1 − 2872−364(香法2008)

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一五五 道州制と広域行政(村上) いる。自由民主党(以下「自民党」という。)も,2007年・9月7日,政務 調査会の一機関であった「道州制調査会」を発展的に解消し,総鉄直属機 関(自民党党則79条)としての道州制推進本部に格上げレている。この 道州制推進本部については,重委性が高いとの判断から,役員会での丁 承,役員連絡会での説明,党大会に代わる党の方針の決定機関である総務 会の決定という手続きが踏まれている。本部長には政務調査会長が就任 し,党の最高幹部,最高顧問等,歴代幹事長・政調会長が推進本部の最高          (3) 役員に加わっている。さらに都道府県を廃止して全国に10程度の道・州 を設置し,市町村合俳を今後も進めて700∼1,000の基礎自治体に再編す ることを内容とする「道州制のあり方に関する第3次中間報告」をまとめ る予定になっている。政府も,歴代内閣では初めて特命担当大臣(道州制 担当)を2006年・9月に置き,その下に,道州制の導入に関する基本的事 項を議論し,道州制ビジョンの策定に資するために,内閣官房を事務局と する道州制ビジョン懇談会を2007年・1月26日に設置し,後に検討するよ うに2008年,3月24日には中間報告をまとめ,2009年・度中に最終報告を 予定している。このような日本経団連,自民党,政府の勤きを見れば,道 州制の問題を本気で考えてもいいのではないか,と思う。  このように本気で考えなければならない根拠は,日本経団連が提唱する

「MADE “IN” ,JAPAN」路線から「MADE “BY”,JAPAN」路線へ,という

多国籍企業型の日本の経営にふさわしい統治構造を作ろうとしていること

の中にある。日本経団連の報告書によれば,「MADE “IN” JAPAN」とい

う言葉は,日本人が日本国内においてつくり上計Iた製品を指し示したもの

である。しかし21世怖己の競争力はグローバルな活動を通して高まり,グ

ロ・-バルな活動によってしか日本企業の国際競争力は高まらない。このた

め,国境という概念を積極的に打ち消し,オープンな環境のなかで日本企

業の活力を高めることが犬切となる。「MADE “BY” JAPAN」は,世・界の

力を活用して日本が加える価値を意昧するが,技術革新のダイナミズムを

       (4) 高め,この価俑,を最大化することが求められる,と。

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 そこで,道州制の導入によって廃止,される都道府県の利害を代表する全 国知事・会の会長である麻生渡氏すら,「道州制は,グロー・バル時代に対応 するための国の統治機構の大改革ととらえるぺきである」,と述べてい  ㈲ る。したがっていろいろな困難な課題があっても,道州制は導入せざるを 得ないと考えられているのではないか,と思われる。  つぎに,道州制をどのような視角から検討するかということが問題とな る。何人かの論者は,中央省庁の再編問題と関連付けて道州制論を議論し ており,総務省論とのかかわりで道州制論を検討するという有力な議論が       (6) 存在している。これはかなり有効な分析の視角であろう。しかしこれまで 道州制論は広域行政という視角から検討されてきていることから,本稿で は,広域行政という視角から道州制を検討することにすることが,道州制        (ln 論の本質に迫れるのかという問題も含めて以下分析することにする。 1

東アジア共同体構想

 まず,道州制論の経済的背景について検討することにする。今日,まさ にアジア全体が「世界の経済成長センター」といわれるような状況になり, 日本の企業の今後の成長にとって,束アジアが不可欠の恬動場面として確 保されなければならない,との認識が広がっている。 2005年末の統誹で は,束北アジア地域全体のGDPは約8.7兆ドルに達し,購買力平価(PPP) の換算では10兆米ドルを温かに超え,NAFTAやEUに匹敵し,今後もこ の高度成長の勢いは続くと予想されている。 1997年・にタイで始まったア ジア通貨危機以後,「ASEAN(束南アジア諸国逓合)十3(日本,中国およ び韓国)」の首脳会議が定例化するなど,地域協力の動きが急展開レてい る。この首脳会議で合意され設置lされた東アジア・ビジョン・グループに よって2001年,11月の同首脳会議に提出された報告書には,「東アジア共 同体に向けて」という興昧深いタイトルが付されている。 2005年・12月か らは「束アジア首脳会議」の開催も実現している。 2005年の首脳会議の 共同宣言は,ASEAN十3が「東アジア共同体」形威に主,導的役割を果た 一 3 28−2−362(香法20㈲ 一五四

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︸五三 道州削と広域行政(村上、) すことを明記している。そこでFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携 協定)の促進を通じたASEAN十3または「ASEAN十6(日本,韓国,中 国,インド,豪州およびニュージ・-ランド)」といった「アジア自由貿易 圈」揖想,さらには「東アジア共同体」をめざす将来構想をめぐる議論が 盛んになっている。実際これまでに日本が結んだ経済連携協定は,シンガ ポールと2002年討1月ごマレーシアとは2006年7月,タイとは2007年・ 11月にそれぞれ発効し,フィリピンとは2006年,9月,ブルネイとは2007 年6月,インドネシアとは2007年・8月にそれぞれ屠名済みであり,あら       (8)たに2008年・4月14日,ASEANとの署名手続が終わっている。  このような状況の中で,「少なくとも現時点では」と慎置に断ったうえ ではあるが,「束アジア共同体」構想が日本の地方自治削度の改革論議に       (9) 直接大きな彭響を及ぼすことにはなっていない,という評価もあるが,以 下にみるように,束アジア共同体構想が道州制論に影響を与えているとみ るべきであろう。  日本経団巡『希望の国,日本∼ビジョン2007』(2007年,1月1日)は, 「第3章『希望の国』の実現に向けた優先課題」の「2.アジアとともに 世界を支える」において,つぎのように述ぺる。日本の成長と繁栄は,ア ジアのダイナミズムを取り込み,それをさらにグローバルな成長につなげ ていくことで実現される。近年。アジア域内では,事奥上の広域経済圈を 踏まえ,制度面でも統合をめざす気運が盛り上がりをみせている。アジア がさらなるダイナミズムを発揮するため,「束アジア共同体」を形成して いくことが望まれる。日本はまず,EPAの締結を急がなければならない。 EPAは実態先行の統合の脆弱性を克服し,将来にわたり,経済活動に関 わる多様な分野におけるルールを明確化するとともに,ヒト,モノ,カネ のさらなる移動の自由化を可能とするシームレスな経済環境を実現するた めに不可欠である。 ASEANとのEPAを・早期に締結した上で,2011年・ま でに広く束アジア全域におよぶEPAの成立をめざすべきである,と。  このビジョンの具体的なフォローアップとして,日本経団連は,「対外 28−2−361(香法2008) 4 −

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経済戦略の構築と推進を求める∼ァジァとともに歩む貿易・投貴立掴を目 指して∼」(2007年,10月16日)において,今後推進すぺきわが国の対外 経済戦略とその推進のあり方について提言レている。具体的には,「東ァ ジァ(経済)共同体」の具体像について真剣に議論すぺき時期が到来レて いるとして,「東ァジァ共同体憲章」の策定の是非および,2010年・を目途 に,地域統合に向けた議論を軌道に兪せるため,「束ァジァ(経済)共同 体」の具体像の検討の場として,関心を有する国の政府および経済界を主 体とする「束ァジァ官民合同会議」の設立,を提言している。  政府のレベルにおいては,経済巡携促進関係閣僚会議が,2004年・3月 30日,「他国・地域との間の経済連携に係る包括的な取,組を,政府全体と しての緊密な連絡・調整」の下に進めていくために設置された。同年,12 月21日の経済連携促進関係閣僚会議では,「今後の経済連携協定の推進に ついての基本方針」が決定された。具体的には,「EPAは,束ァジァ共同 体の構築を促す等,政治・外交戦賂上,,我が国にとってより有益な国際環 境を形成することに貴する」とされている。しかし日本政府の考える「束 ァジァ共同体」は,世界政治経済の新たな三。局的秩序形成の抑制を意図と したものであり,実際には「束ァジァ」でも,「共同体レでもなく,日本 の巨大企業の利害を反映するような「東ァジァビジネス圈」を冲核とした        帥ものであろう,と評価されている。また現在の地域主,義の動きは,「市民 社会」などを無視あるいは軽視した国家主導のグローバリゼーションに適 応する「資本の共同体」に向かうもので,グローバル資本主義の一・環をな          (H) す,といわれている。このような経済の論理が,道州制論,その基礎にな る「この国のかたち」論を貫いていることを以下検討することにする。 2 広域行政 4  つぎに,道州制論の検討視角である「広域行政」について検討すること こする.広域行政と広域行政論の区別と関連については,すでに別稿で論       UI(‥‥  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥_.,.._ . _. 述したことがある。基本的には市町村だとか都道府県を前提にして,それ 一 5 − 28−2−360(香法2008) 一 ¥ 五コ

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一 1 五 、 一 1 道州制と広域行政(村上) ぞれの自治体の行政区域・・区圓を超える行政サービス・事・務を広域行政と 捉え,その自治体の区域を超えている事務をどういう手法で提供していく のか,実現するのかということを広域行絞論という形で議論をする。した がって広域行政と広域行政論は区,別されなければならない。そして日本の 広域行政論は,基本的には市町村や都道府県をそのまま温存するのではな く 新しい行政体を作り出して広域行政を提供していく,すなわち広域行 政論=自治体合併論であるという特徴を有レている。なお,後に検剖する 「道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律」では,「広域行政」 という言葉が法律の名称に使われている。この言葉の定義に関しては, 「『広域行政』とは,特定広域団体により実施されることが適当と認められ る広域にわたる施策(以下「広域的施策」という。)に関する行絞をいう」 (2粂2項,)と定められている。この定義は,特定広域団体の行政サービ スを広域行政と捉えており,これまで学問的に使ってきた広域行政概念と は全く違う,といえよう。  これまでの道州制論は,広域行絞論との関係では,都道府県・の区域を超 える開発行絞(公共事業)という広域行政に基づく広域行政区丿或論とレて 展開され,一貫して都道府県制度を廃止することが議論の中心になってき たところに大きな特徴がある。たとえば1957年・10月の第4次地方制度調 査会の「府県制度を中心とする地方制度の根本改革についての答中」は, 国土,の開発利用・・各穏産業立,地条件の整備等のための広域的な地方行政組 織の確立薄地域開発への広域的な対応の必要性から,現行府県を廃止士, 地方団体としての性格と国家的性格とを併せもつ「地方」制案を提案した が,「府県合併案」という少数意見が併記されたものであった。なお,1927 年ヽの田中政友会内閣が設置した行政制度審議会の幹事会案として作成され た「州庁設置に関する案」は,「府県においては国の行政区,圓と地方白治 体の区域が合−であることを廃止し,両者を分離して前者の区圓だけを拡        叫大しようとするもの」であり,明治憲法下において府県の自治を拡大しよ うとした構想であるご。とから,前述の道州制論の特徴とは異なるものであ 28−2−359(香法2008) 6 −

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ることに注意する必要がある。  今回の道州制論は,広域行政ではなく,広域行政論の華々しい展開が特 徴である,と言われている。たとえば「都道府県の区域を超えて何か具体 的な広域ニ。-・ズがないので,道州制の必要盤について納得できる内容が道       図 州制論議には見当たらない」と。また「県哉を越えた広域行政のニーズが あるところはどこかというと,首都圈のような大都市圈なのです。農山村 圈なんかには広域行政ニ,−ズはほとんどないのです。ところが,大都市回 で大くくりにまとまって州を作ると,道州制全体の均衡が崩れてしまいま す。‥‥‥束京問題に解決策が出されない限りは道州制を導入できません」         (珀 とも言われている。たしかに,今回の道州制論は,分権化のための受け皿 づくりという広域行政論としでの特徴をもっている,といえよう。しかし 本当に「広域行政」がないのであろうか。広域行政がどのように捉えられ ているのか,道州制についてもっとも詳細に答申している第28次地方制 度調査会の答申の内容を以下検割することにする。  3 第28次地方制度調査会答申  第28次地方制度調査会が道州制について答申した経緯は,西尾勝氏に    叫 よると,「地方制度調査会の委員みんなが,今度は道州制を議論すべきだ と思ったわけではない。事務局を務めていた総務省,旧自治省が今度は道 州制だと思ったわけでもない。総理大臣から検討しろと言われたから始め たということ」である。小泉総理大臣からの諮問事項の「筆頭に道州制の あり方と掲げて諮問されましたから,今回は大真面目に道州制を議論し て,答案を総理大臣に提出しなきゃならないということで」,2006年2月        (功 28日に「道州制のあり方に関する答申」が出された。  この政治の意思に基づく答中の「第1 都道府県制度についての考え方」 の「1 市町村合併の進展等による影響」において,「市町村合併の進展 は,都道府県から市町村への大帽な権限移譲を可能にし,都道府県の役割 や位置づけの再検討を迫ることとなる」と,道州制導入を適当とする理由 7 − 28−2一358(香法2008) 一五〇

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一四九 道州制と広域行政(村上) を述ぺている。しかし「平・成の市町村合併」の結果,なお北海道,長野県。 福島県。奈良県。高知県及び沖縄県の1道県内の半数前後が1万人未満の 自治体という現実を直視すると,この指摘は合併後の現状認識を間違って いる,と言わざる得ない。またかりに2,500以上あった町村数が約1,000 と4割に激減した事・実を踏まえても,県を廃止恚て道州制を導入すること       叫を根拠付けるには論理的飛躍がある,といえよう。  つぎに「2 都道府県・の区域を超える広域行政課題の増大」において言 まず以下のように広域行政が存在することを説明をし,それを踏まえて 「都道府県の区域を越える広域行政課題に適切に対処し得る主体の在り方 について,検討が求められる」ということで,日本の広域行政論の特徴で ある広域行政体をどう作るかという議論を展開している。  具体的に,広域行政については5つ位のことが書いてある。①近年。複 数の都道府県で巡携して対応する取組がみられるようになっている「環境 規制や交通基盤整備,観光振興等の課題」,②将来を見通して「我が国に おける都市化と過疎化の同時進行や人口減少等に起因する課題で,広域的 な対応が求められることとなるもの」,②財政的制約の増大等から,これ までのように都道府県を単位とすることが難しくなっていくものと見込ま れる「公共施設等を整備し,維持更新していくこと」,④「都道府県の区 域を越えて企業や大学,研究機関等が密接なネットワークを形成し,地域 の個性や優位雅を活かした産業の創造や発展を目指す取組」,及び⑤「近 年のアジア諸国の経済的な台頭を受けて,我が国の圈域が海外の諸地域と 直接結びつく」ことである。このうち①から③の課題については,拍象的 には考えられる項目であるが,実際上,,どのような行政需要として具体的 に存在するのかが検討されなければならない。また仮に広域行政として存 在するとしても,「都道府県の区域を越える広域の圈域を単位として,広 域的に分散する機能や支援の相互瀧完的な活用を促進する施策を講じるこ とによって対処するこ。とが必要である」と答申は述ぺている。したがって ①から③は,道州制を導人する根拠としての広域行政という観点からは, 28−2−357(香法20㈲ 一 8

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必ずしも遁委なものではないであろう。④及び⑤の課題については,「個々 の都道府県が連携して行うという手法では,推進力や機動力に欠け,また 海外に対するプレゼンスが弱いという指摘」を紹介している。したがって ④は,研究開発をするために大学の再編をさせるという意昧で,一定程度 道州制を導人する理由になっている。たとえば,荒牧軍洽氏は,九州大学 及びもう1つくらいの大学以外の国立犬学法人は,県境が取り払われた九 州府の設立。を念頭に置いてノアジアとの共栄と自立,を目指す九州にとって 有為な人材を育成し,九州あるいは地域にこだわり続けた研究を行う九州        ㈲ 州立犬学に制度変換することを模索すべき,と提案している。  一番薗妻と思われるのは⑤である。結局,道州制を導入するということ は,「MADE“BY”,JAPAN」の発想に基づいている,と思われる。アジア 地域の経済の力を日本の経済発展にどうつなげていくかという観点から, 広域行政を設定し,それにふさわしい統治機構を作らなければならないと いう議論が,道州制論の基本的な考え方ではないか,と思われる。この点 は,第28次地制調答申の具体的な事務配分論のところには載っていな い。なぜなら,答申によれば,道州制の導入は「広域自治体改革を通じて 国と地方の双方の政府のあり方を再構築し,……新しい政府像を確立する ことである」ことから,道州制の具体化は,「地方制度に関する重粟事・項 を調査審議する」(地方制度調査会設置法2条)ことを所掌塵務とする地 方制度調査会の調査審議の範囲をはるかに超えるからである。そこでつぎI の国土審議会答申のところで,この問題を検討することにする。  なお,「第3 道州制の基本的な制度設計 3 道州への移行方法」に 関しては,全国同時に道州へ移行するが,「ただし,関係都道府県と国の 協議が整ったときには,先行して道州に移行できるものとする」と含みを 残している。このただし書きが,後に検討する関西広域連合,九州府との 関連で,今後意昧を持ってくる,と思われる。 一 9 28−2−356(香法2008) 一 1 四八

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一四七 道川制と広域行政(村上)  4 広域行政の具体的な検証∼国土審議会答申を素材として∼  国と地方公共団との役割分担論に関する地制調答申の中には細かい内容 が書かれていないので,広域行政を具体的に検証するために,国土,形成計 圓法(全国計圓)に関する国土瀋議会答申(2008年,2月13田において 広域行政がどのように扱われているかを検討することにする。なるほど道 州制との関係について,国土審議会は,「広域地力計圓」は現行の都道府 県制度を前提に10∼15年・程度を想定した広域的課題に対応した国土。政策 の実施を狙いとしているのに対し,「道州制」は,今後の長期を見据えた 政府のあり方や地方自治制度の根幹を構築するものであることから,道州 制とは無関係である,と強調している。しかし,別稿においてすでに言及      叫 したように,2003年・n月13日の第27次地方制度調査会の最終答申から は落とされたが,その中間答申にはあった「この道州制の導人は,今後さ らに加速されると見込まれる経済活動の広域化に対応したインフラの高度 化や産業の活性化を,より効果的に行っていく意義がある」という文章を 具体化したものが,国土,審議会の答申である,といえよう。さらに進ん で,広域地方計圃が拡充・充実されれば,その区域がそのまま道州制に “昇格”することも想定される。国土,形成計圓の広域地方計圓も,成り行 きによっては,新たな基礎自治体再編論に火。を付ける可能性を秘めてい          叫 る,といわれている。  これに関連レて荒牧軍,治氏も,「今回の国土形成計圓の九什I地域版策定 に当たっても,九州州政府の創設を視野に入れたマネー・ジメント組織を設 置レて,計圓策定及び策定された計圓の実施,評価・検証に当たるべき」       勁`と述べている。また自民党道州制推進本部役員会が2008年,3月13日に提 出した「道州制に関する第3次中間報告に向けて(たたき白)」の「4『第 2次中間報告』で残された検討課題についての考え力(1)道州の区割りの あり方・道州の汁│都のあり方」においても,「区崖り,州都のあり力につ いては,……国民的な議論を喚起する観点からは道州制推進本部としての 28−2−355(香法2008) 1 0

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考え方を示すことが望ましいと考える」。選択肢は,第28次地方制度調査 会の3つの区,域例,国土,形成計圓法第9条の広域地方計園区域(8ブロッ 列,衆議院(比例代表選出)議員の選挙区言11ブロッ列,とされてい る。さらに,1963年の臨時行政調査会の第2専・門部会の「地方庁」案で は,広域行政の需要に対応するために,国土総合開発法の地方計圓区,域に       叫 地方庁を設けることが提案されていたことが,この際思い出されてよいで あろう。  国土瀋議会答中には,以下の3つ位,のことが書いてある。 1番目が「計 圓の空間的視野を東アジアにまで広げる」ということでレアジアの繁栄を 各地方に内部化する議論が展開されている。この点については,城所哲夫 氏が,「アジア地域におけるグローバルな都市地域圈の形成」という議論        糾を展開レている。ヨーロッパでもEUなんかでもこういう都市地域回形成 が行われており,日本でもレアジア地域を射程に置いたグローバルな都市 地域圈を形成するという観点から議論されている,と。都市地域圏という のは,「地域発展の牽引車。とレての地域圈の中心都市の役割重視」という ことであり,道州制に絡めて言うと,州を非常に重,視した形で都布地域圈 をつくっていく。その都市地域圈は,単に日本の中の都市地域圈ではな く,グローバルな都市地域圈であり,日本の国土,を超えた都市地域圈の連 拒として経済政策を展開レていくという意昧で,日本の場合は,アジア地 域がグローバルに設定されている,ということであろう。2番目は,「国 際競争力を都道府県から広域ブロック単位に拡大して構成する」というこ とである。各ブロックにおいては,束アジアの近隣諸国との競争や巡携を 通じて地域の国際競争力を高め得る潜在力と地域のアイデンティティーを 有していることが求められ,経済活動の広域化に対応するための国際物 流・高速交通体系等の戦略的整備,ということが言われている。3番目 は,「人口減少下での都市的サービスの向上を市町村から広域の生活圈で 高める」ということであり,これは1つの県のレペルでサービスを供給す るのではなく,道州まで広げで,その中で都市サー・ビスを行わせる,とい 一 n一 28−2−354(香法20㈲ 四 1 四 六

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一四五 道川制と広域行政(村上) うものである。したがってここで言われている新しい国土蘆は,「多様な 広域ブロックが自立,的に発展する国土」であり,新たな広域行政スキ・−ム として広域地方計圓制度が大きなウエートを占めるだろう,といわれてい る。  前述の議論は,「MADE“BY勺APAN」の路線と非常にうまく結び付く が,付け足したように,アフターリスクの問題が報告書には書いてある。 「県頻地域に多く有右する過疎・ヽ山間地域の対策など,都道府県の区域を 超えた広域的な対応が必要・な課題が増犬レて」おり,ここにも広域ブロッ クが必要だ,といっている。そこで国土交通省は,行政だけでは対応が難 しい高齢化が進んだ過疎地の集落維持や耕作放棄地の管理を目的として, 農協など地域の団体やNP0,企業,犬学などを新たな地域づくりの担い        叫 手とレて育成するモデル事業を今年度から始める。これは,「新たな公」と 呼ぶべき考え方で地域づくりに取り組む,ということである。これは,総 務省が以荊から言っていた考え方と同じだと思われるが,限界集落の維持 などに向けた地域づくりの担い手として,NPOなど新たな公の役割に期 待をする,ということである。限界集落等については道州とか自治体は手 を引き,NPO等に完全に任せる,ということだと思われる。  5 道州制に関する自由民主党の構想  これまで,第28次地制調答申を踏まえて検討してきたが,ここでは, 道州制に関する政権致党である白民党の提案も視野に入れて,道州制論の 本質に迫ることにする。自民党道州制推進本部は3月13日に「道州制に       匈 関する第3次中聞報告に向けて(たたき台)」をまとめた。まず前文にお いて,2015年・から2017年を目途に道州制を導入するとの方針を示してい る。「1.道州制導入の理念・目的」では,「道州制で達成すぺき目的は, ……③国家戦略,危機管理に強い中央政府と,国際競争力を持つ地域経営 主体としての道州政府を創出,④国・地方の政府の徹底的効率化」であ る。「2.道州制導入のメリット」は,「①……インフラ整備・サ・-ピIス供 28−2−353(香法2008) 12

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給におけるスケールメリットが生じる,・・・・・…③道州は海外諸国と直接経済 交流・競争力を持つ規模になる,④東京以外にも成長の核になる都市が育 つ」ことである。「3。導入すべき道州制の骨格」は,「達邦制(憲法にお いて,行政権のみならず立,法権(又は立。法権及び司法権)が国と州との間 で明確に分割されている国家形態)に限りなく近い道州制の導入を目指す」 ことである。具体的には,①都道府県を廃止し,これに代えて全国に10 程度の道・州を設置する,②道州は選挙により選出される議会と首長を有 し,自治権を有する団体,③権限・財源・人間は基礎自治体優先で再配分 し,中央政府・道州政府は「小さな政府」を志向する,と。「4.『第2次 中間報告』で残された検肘課題についての考え方(1)道州の区割りのあり 方・道州の州都のあり方」では,区割りの選択肢は,第28次地方制度調 査会の3区ン域例,国土形成計画法9条の広域地方計画区。域(10ブロッ ク),衆議院(比例代表選出)議員の選挙区(11ブロック)である。「(3) 道州と国の役割分担・道州に対する国の関与のあり方・道州制下における 中央省庁体制のあり方」では,「中央省庁の再編については,‥‥‥・・国家戦 略に関わり必要・な機能を洗い出し,この機能を充分に発揮しうる組織のあ り方をゼロ・ベ・-・スから構築して抜本・的な再・編を行うべきである」,「公共 投資については,‥j.ふ‥国は国家規模でネット・ワーク形成を図る必要・がある 事癌を重,点的に担う」と。「(5)道州議会のあり方・道州と国会のあり方」で は,「現在の都道府県と同様にニ。元代表制を基本とすべきではないか。 ……憲法改正。も視野に入れて首長を議会が選出する議院内閣制も可能とす るか」と。「(8)道州の税財政制度」については,「中央政府への依存を廃し, 道州の財政需要全てを自らの税収で賄えるよう,国からの財源に依存しな い自立,的で安定し偏在性の少ない地方税を中心とした体系を描くべきであ る」とした。「(9)道州制導入のプロセス(道州制基本法,北海道特区法を 含む)」では,「北海道におけるモデル的,先行的取組をさらに推進するこ とに加え,九州や関西などにおける取組を党としてもバックアップ」す る,と。その後の4月3日の推進本部では,次の総選挙の党公約に「道州 13 − 28−2−352(香法2008) 一四四

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一四三 道州制と広域行政(村上)       如 制の導入」をはっきり入れて国民的議論をすることが,提案されている。  前述の国家戦略に強い中央政府の創設という道州制導入の目的との関係 で注目されるのが,2008年・4月24日の自民党の国家戦略本部で示された 「国家ビジョン策定委員会・政治体制改革プロジェクトチーム」の改革案    叫 である。国家戦略本部は,明治維新,戦後改革に続く歴史的な変革期を迎 えた21世紀の日本の進むぺき方向である国家目標の設定,国家のあるペ きかたちについての理想・理念を明確にするために,小泉総裁時代に総裁 直属機関として2001年,6月に設けられた。その下にある国家ビジョン策 定委員会は,日本の中長期ビジョンを描くために設置された委員会であ る。この改革案は,憲法改正,国民投票法の規定により2010年・には改憲発 議が可能になることを踏まえ,2005年の自民党新憲法草案をベースに議 論が進められている「宮主導から政治主導,中央集権から地域主権へ」を・ 目標とする政治,行政,財政に関する改革案である。この内容は,つぎの ようなものである。今後10年・から15年で,全国に10程度の「州政府」を 作り,消費税を州政府に税源移譲する。この道州制に移行することに合わ せて,衆議院議員定数を現行の480から200の小選挙区制に,参議院議員 定数を現行の242から50の全国区制へと削減する。衆議院の優越を強化 し,衆議院再可決の要件を現行の3分の2から「過半数」に引き下げ,「み なし拒否」も60日から30日に変更することを要京している。参議院は党 議拘束を受けない「賢人の府」という諮問機関とする。国と地方の公務員 数を現在の計約170万人から45万人に削減する,と。  とりわけ注目されるのが,中央省庁改革である。国の役割は,外交や安 全保障ノマクロ経済など「国家意思として必要なもの」に限定し,公共事 業や産業振興などは地方へ権限移譲する。その結果,中央省庁について は,現在の1府11省を内閣府と,大蔵,環境,内務,法務,外務および 国防各省という1府6省体制に再編する,と。戦前,中央集権的な地方統 制を担った内務省が復活し,防衛省を国防省にする,という日本の平和的 な再建を定めた現行憲法が規定する国家像とはまったく対立する「この国 28−2−35∩香法2008) - 14

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のかたち」である。この改革案がそのまま実現するとは思われないが,も し道州制が,このような国家構想を具体化するための統治機構づくりであ るとするならば,現行憲法の地方自治を充実させる地方分権とは縁もゆか りもないものである。  6 道州制特区推進法  道州制特区推進法が,今後道州制と関係レてくる可能性がでてきたの で,ここで簡単に検尉することにする。 2006年,12月20日に公布された 「道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律」(以下「道州制特 区推進法」という。)は,現行の都道府県制度を前提とし,道州制そのも のを目指さないことから,道州制とは異なる制度として,道州制特別区,域      纒 を導入した。法案の段階の評価ではあるが,第28次地制調専,門小委員会 委員長であった桧本英昭氏は,「地力制度調査会が答申したような道州制 のモデル的,試行的,先導的なものであるとまでは,現在のところ言い難          帥 い」と評価している。しかし政府の道州制懇談会答申にみるように,道州 制との関逓で道州制特区推進法が議論される余地があり,政府は施行後8 年を経過したときに,法律の施行状況等の検討の結果に基づいて所要の措 置を講ずることになっているからである(附則3条)。  この法律`は,憲法95条の住民投票を避けるために,北海道地方だけで なく,「自然,経済,社会,文化等において密接な関係が相当程度認めら れる地域を一体とした地力(三。以上,の都府県の区域‥……の全部をその区域 に含むものに限る。)のいずれかの地方の区域の全部をその区域に含む都 道府県であって政令で定めるもの(以下「特定広域団体」という。)の区 域」を道州制特別区域と定義している(2条1項)。そこで,この特定広 域団体となる場合の手飛は,北海道以外の地域については明確には定めら れておらず,一殺的には3つ以上の府県の合併が念頭に置かれているが。       叫 広域連合の位置づけが問題となろう。  この広域連合につき,道州制担,当相の私的懇談会である道州制ビジョン 一 15 28−2−350(香法2008) 一四コ

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︸三九 道州削と広域行政(村上) 圈の国道・高規格幹線道路の計圓・・整備・・管理,大阪湾内諸港をはじめ港 湾の一体的な運営管理および北陸・中央新幹線の整備,③大規模災害に強 い地域づくりとしては,東南海・・南海地震対策を中心とする広域連携防災 計圃の策定ならびに災害応急時及び復興時の広域連携体制の構築(共同備 蓄など),①産業競争力の強化と雇用の創出とレては,関西の産業・・科学 技術振興戦略の策定,産業・科学技術クラスターの形成と交流の促進およ び関西全体で支える関西文化学術研究都市の新たな展開,⑤国際観光振興 による地域活性化としては,関西の観光プロモーション・共同事業の実 施,および⑥豊かな自然環境の保全と活用としては,自然環境保全活動「モ デルフォレスト」の推進である。  さらに,前述の自民党の「道州制に関する第3次中間報告に向けて(た たき白)」においても,関西と並んで,九州における取組も注目されてい       叫たので,九州の動きについて検討する。九州市長会も,2006年10月12 日の『「九州府」構想∼10年毎めどに道州制実現をめざす,・報告沓』で, 「九州府」という道州制の九州モデルを提案している。「第1章 創造への 変革…今,なぜ道州制が必要なのか」の理由の1つとして,「3 アジア 諸国との結びつきの強化」が挙げられている。具体的には,「(1)アジア諸 国のめざましい経済発展を背景とした,国内圈域を越える海外との達携促 進」,(2)アジア諸国の経済発展に同調していくためには,インフラ整備や 産業振興策などの実現に到る意思決定の迅速化と経費・時間の削減を図る 必要。(3)「アジア諸国との経済的な結びつきが活発化している中で,都道 府県の区域を越えて,行政,企業,大学,研究機関等が密接なネットワー クを形成すること」が指摘されている。「第6章 アジアにおける九州の 躍進と戦略」では,「今ヤEU(欧州連合)やNA阿A(北米自由貿易協定) と並。び,世界経済の三極体制の一角に躍り出た東アジア地域において,九 州が一つになって国際競争力を高め,リーダー・シデプを発揮しながら,東 アジア地域の持続的発展に貢獣することが重要である」と位置づけられて いる。そごで,「第2章: 全国に先駆けた道州制の九州モデルの実現をめ 28−2−347(香法2008) 一 18

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ざす 3 全国に先駆けて道州制を導人するメリットと予測される課題 田先行導入のメリット」の1つとして,「各県単位で異なっている人的情 報とネットワークの共有化,品質や生産方法に関する規格や制度等を他の 地域に先行して統一できれば,アジア諸国からの企業誘致と雇用拡大がさ らに期待できる。」が挙げられている。  九州地域戦略会議に2005年・10月設置された道州制検討委員会も,2006 年10月24日に答申した「道州制に関する答申」では,「今・なぜ道州制が 必要か」という6つの理由の内の1つとして,「九州が一体となり束アジ アの拠点として繁栄する」ことが挙げられている。具体的には,「経済の グロ・−バル化の進展により,九州は東アジアの都市・地域との厳しい競争 に直面レている。………九州を企業活動の舞台とレてアジア・・世界に提供 し,アジア諸国の人々にとって『九州に行けば豊かになるチャンスがある』 という夢のある地域にするためには,……・洛県単位ではなく九州が一体と なって魅力あるマーケットを形成し,海外にアピールすることが極めて重 要である。」「九州のことは九州で決め,独自のLocal to Loca1 の国際交流 を展開して九州が東アジアの拠点として繁栄するためには,道升l制の導入 によって地域の創意工夫を活かすことができるシステムの構築が必要不可 欠である」とするものである。  つぎに,「道州制によって目指す九州の姿」を実現するための基本的な 視点の「①」として,九州のポテンシャルを最大限に活かし,「束涼より もむしろ近隣アジア諸国を向いた政策を展開する視点が重要である」とさ れている。具体的項目の1つは,アジアとの物流網が緊密化・高速化する なかでその優位性が顕在化しつつある「九州と中国,韓国などアジア諸国 との地理的近接性」である。もう1つの視点は「道州制の特性を最大限に 活かす」ことである。具尊的頂目の1つは,「九州が近隣アジア諸国の都 市や地域と対等に交流するには各県単位では規模が小さすぎる。九州各県 がひとつになれば,………?毎外に対して魅力のあるマー・ケットをアピールす ることができる」ということである。 一 19 − 28−2−346(香法2008) 一 一 一 1 八

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コ二七 道州制と広域行政(村上)  さらに,九州州の7つのビジョンの1つとして,「東アジアの拠点とし て繁栄する自立翁済圈九州を実現する」ことが挙げられ,このビジョンを 実現する制度の構築が提起されている。ビジョンの具体例は,「中国市場 など近隣アジア諸国との連携を重視した産業政策の展開」,「一国に匹敵す る経済規模を有する九州のポテンシャルを活かし,東アジアの拠点として 繁栄する自立。経済圈九州の実現」,「九州と近隣諸国とのFTA,EPA等の 実現を通じた東アジア経済圈の形成と真の信頼関係の構築」,「九州の国際 的な競争力を高めるため,循環型高速交通網を整備し,域内の空港,港湾 と逓結することによる交通基盤の一体的・総合的な整備の実現」等である。  これらが道州制特区に認定されれば,大胆な権限・財源の移譲を国に突 きつけることが可能となる。たとえば,道州制ビジョン懇談会委員の金子 仁洋氏は,九州ブロック「道州制シンポジウム」(2007年・8月2日∼3日) において,各県の広域部門だけを統合して,これを「九州府推進機構」と        叫 いう名称で道州制特区に申請することを提案している。広域逓合の道州制 特区が実現すれば,事奥上の地方分権特区,として,大胆な分権改革を実現       叫 させる新たな「脇道」となることも期待されている。  おわりに  道州制の導入に関連して,最近,国の出先機関の改革が集中的に議論さ れている。たとえば仝国知事会は,道州制論議の結論を待たず,先行的に 実施されるぺきであることを強調し,「国の地方支分部局(出先機関)の 見直しの具体的方策∼今こそ,“地方が主役”の行政体制への転換を∼(提 言)」(2008年・2月8日)を出している。地方分権推進委員会で仏第38 回の会議(2008年3月18日)において,西尾勝氏の「国の出先機関の見 直しについて」という報告が行われている。さらに政府の経済財政諮問会 議においても,2008年,4月15日,民間議員提出の「ムダ・ゼロ」の「提 案」は,ニ瀧行政の排除として,「知事合の提案を基に出先機関を地方団 体に移譲する」としている。そこで場合によっては,「道什│」は現在のブ 28−2−345(香法2008) 2 0

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ロック出先機関の「看板の書換え」で決着することも予想される。その際, 現在の都道府県の権限も骨抜きになるとの「悪夢」も,あながち冗談とも        卸 いえそうにない,という最悪の事・態も予想されている。  しかし,つぎのことは改めて確認されなければならないであろう。日本 経団連の文書の中で広域行絞としで考えられているものは「国際的にも魅 力ある広域経済圈の確立」であり,「経済活動の広域化に対応したインフ ラの高度化や産業の活性化,緊急度の高い産業・物流インフラから戦略 的・重点的に整備をしていく」と書かれている。関西においても,九州に おいても,荊述したように同じことが考えられている。これらにつき,行 方久生氏も,「現在進行している『地方分権』が日本経済の本格的なグロ ・-バル化に直面し,国際的な視野を持った『地方間競争』『都市間競争』に 打ち勝つための国家再編=グローバル企業支援の国家システムヘの転換に       個 対応している」と指摘する。したがって広域行政は,「住民の利害を超え た貴本のためのもの」として位蘆付けられており,「地上にいる住民の視       ㈲ 線がない」といえよう。地域づくりの活動主,体は,「住,民の生活領域とし ての地域」と「資本の活動領域としての地域」のニ,重性に規定されるが, 道州制論は「資本の活勁領域」にふさわしい地域改造として進められよう      帥 としている。そこで,この道州制論と対抗する,主権者としての「住民の 生活領域」にふさわしい広域行政に基づく,人権と民主主義のための広域        ㈲ 行政論が求められている。 (1)高木鉦作「広域行政論の再検討∼昭和10年代の道州制問題を中心に∼」辻清明編  『現代行政の理論と現実』勁草書房,1965年。159頁および174貝注10,室井・力「道  州制‥府県合併と地方自治」同『現代行政法の原理』勁草害房,1973年,182頁,以  下参照。 (2)無署名記事「逓合の道州制特区に活路も?∼実現なお未知数ヽ月自治日報3422号,  2008年,3面参照。 (3)久世公胞「自由民主党道州制推進本部の設置と発足」自治実務セミナ・-・47巻1号,  2008年,44頁以下参照。 - 21 − 28−2−344(香法2008) − W k 一 1 -- k ノ ` ヽ

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一三五 道川制と広域行政(村上) (4)日本経済団体連合会編「活力と魅力溢れる日本をめざして∼日本経済団体達合会  新ビジョン」日本経団連出版,2003年。28頁以下参照。 (5)麻生渡「第6回東富士夏季フォ・-ラム第4セッション「道州制導入と地域経済圏  の確立。」問題提起Jhttp://www.eidanrenolj詞apanes明ournal/timesノ2007/0809/06 b.html  参照。 (6)白藤博行「地方白治制度をめぐる「改革」の論理と憲法の原理」白藤・・山田・・加  茂編「地方自治制度改革論∼自治体再編と自治権保障∼」白治体研究社,2004年,29  頁以下,今村都南雄「省I庁再編構想の屈折∼「内閣府・・総務省体割」を中心に」法  学新報107巻1・・2号,2000年,1頁以下参照。 (・7)佐藤俊−・『日本広域行政の研究∼理論・・歴史・・実態ヽ』成文堂,2006年。拙稿「現  代日本の広域行政と道州制」自治労連・・地方白治問題研究機構‥インフォメーショ  ン・・サ・-ピス82号,2008年参照。 (8)嶋田巧「束アジア地域主義と日本・・中国∼ASEAN+3から東アジア共同体構想  へ∼」布留川正。博編「グローバリゼーションとアジアヽ21世・紀におけるアジアの胎  動」ミ。ネルヴァ沓房,2007年,3頁以下,李鋼哲「東アジアのパラダイム転換∼地  域経済統合の可能性∼」平川・・石川・小原・・小林編『東アジアのグロー・バル化と地  域統合』ミネルヴァ書房,2007年,314頁以下,「特集アジア地域統合の新段階」の  論文,日本の科学者43巻3号,2008年参照。 (9)川崎信文「レジオナリズムと道州制:比軟上の留意点についての素描」広島法学  31巻2号,2007年。314頁参照。 (1(1 嶋田,前掲胎文(註8)25頁参照。 叫 同26頁参照。 叫 椙稿「広域行政と市町村合併」自治と分権2号,2001年。54頁参照。 (瑞 高木,前掲論文(註1)172頁参照。 ㈲ 大森弥「自治体再編をめぐる今後の焦点∼小規模自治体と道州制の行方ヽ」自治  労連・・地方自治研究機構・・インフォメーション・・サー・ビス80号,2007年参照。 (1匈 大森「第ニ。次分権改革と白治体政府の制度設計丿辻山幸宣・・三。野靖編『自治体の  政治と代表システム』公人社,2008年。29頁参照。 叫 西尾勝・・新藤宗幸『いま,なぜ地方分権なのか』実務教育出版,2007年。128頁  参照。 (17)第28次地方制度調査会答申については,渡名喜・庸安「道州制(導入)論の新たな  展開」大阪自治体問題研究所編『道州制と府県・』自治体研究社,2007年,8頁以下,  同「道州制の構想と法制度的課題」白治と分権29号,2007年。65頁以下参照。 (哨 片木淳可『分権型コンパクト道州制jの実現を!JwASEDA,COM2007年10月21  日参照。 叫 荒牧軍治「九州圏広域地方計圓への提言」2007年。wwwqsr。mlit,go jp/suishin/cgi/ 28−2−343(香法2008) 一 22

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 070516/02 aramaki pdf 3 頁参照。 匈 椙稿「第27次地削調『最終答申』の次にくるもの∼いまなぜ道州制論議か∼」国  公労調査時報501号,2004年。4頁以下参照。 叫 井田正夫「多様な広域ブロックが白立的に発展する国土を構築∼国土審議会が「国  土形成計画」(全国計面)を答申∼」町村週報2634号,2008年。4頁参照。 叫 荒牧,前掲論文(註19)1頁参照。 叫 小森治夫『府県制と道州制』高菅出版,2007年。88頁以下参照。 叫 城所哲夫「諸外国の動向からみたわが国の広域地域計■の将来展望」計面行政30  巻3号,2007年。43頁以下参照。 凶 http://www.mlit.,go,jp/common/0000/9390。pdf 叫 自治総研354号,2008年,100頁以下,白治日報3420号,2008年,3面参照。 匈 自治日報3423号,2008年,3面参照。 叫 読売新聞2008年・4月18日,白治日報3426 ・・ 7号,2008年,4面参照。 叫 倉田保雄「道州制の先行的取組のシステムを構築͡一道州刎特区。法案∼」立法と調  査260号,2006年。4頁参照。 叫 松本英昭「道州制について∼地方制度調査会の答申に関遮して∼(四・完)」白治  研究82巻8号,2006年,25頁。 叫 佐藤克廣・・辻道雅宣「道州制特別区域法案の課題」白治総研338号,2006年,1  頁以下参照。 叫 江口克彦「地域主。権型道州制∼日本の新しい「国のかたち」JPHP新書,2007年参照。 叫 無署名記事・「連合の道州制特区。に活路も?」自治日報3422号,2008年,3面参照。  なお,関西広域機構分権改革推進本部の副本部長である井戸・・兵庫県知事は,「広域連  合は道州制をつぶす道具」であり,「広域達合で広城的諜題に対応できれば道州制は  要らなくなる」という持論を語っている。自治日報3441 ・・ 2号,2008年,2面参照。 叫 桑原隆広「道州制構想と九州」アドミニストレ・-ション14巻3‥4合併号,2008  年4 91頁参照。 叫「九州ブロック『道州制シンポジウムj開催結果について』2007年8月30日,www。  eaS gOjp/SeiSakU/dOUShUU/da 9/kyUSyU。pdfl 2 頁参照。

叫 無署名記事,前掲論文(IE33)参照。 叫 同参照。 叫 行方久生「道州制をめぐる『政治』情勢と「地域間格差」論」白治と分権29号,2007  年,80頁参照。 叫 松本克夫「道州制ビジョン④ 住民の視線を欠いた独断論」自治日報3426 ・・ 7号,  2008年,1面参照。。 帥 岡田知弘『地域づくりの経済学入門丿自治体研究社,2005年,27頁以下参照。 闘盧井,前掲論文(註。1)192頁参照。 - 23 28−2−342(香法2008) 一三四

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