• 検索結果がありません。

イボイボナメクジ Granulilimax fuscicornis Minato, 1989の分類・生態的特徴-香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "イボイボナメクジ Granulilimax fuscicornis Minato, 1989の分類・生態的特徴-香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

イボイボナメクジ

G

r

a

n

u

l

i

l

i

m

ω

f

u

s

c

i

c

o

r

n

i

s

Minato

1

9

8

9

の分類@生態的特徴

多 国 昭 〒769-2601 香川県東かがわ市三本松 1766-2 矢 野 重 文 干768-0068 香川県観音寺市天神町 1- 1 -15 香川県立観音寺中央高等学校

Some new d

e

s

c

r

i

p

t

i

o

n

s

on taxonomy

morphology a

n

d

e

c

o

l

o

g

y

i

n

G

r

a

n

u

l

i

l

i

m

a

x

f

u

s

c

i

c

o

r

n

i

s

M

i

n

a

t

o

1

9

8

9

Akira Tada, 1766-2, Sanbonmatsu, Higashikagawa City, Kagawa, 769-2601, Japan. Sigehumi Yano, Kanoriji CenterHigh School, KanonjiCity, Kagawa 768θ068, Japan.

は じ め に ナメクジ科 Philomycidae に位置する小形の ナメクジ類イボイボナメクジ Granulilim似 fus -cicornisは新属新種として,湊(1989)によっ て記載された。湊 (2000)ではイボイボナメ クジを記載時のナメクジ科とは全く系統の異 な る 収 柄 眼 目 の ホ ソ ア シ ヒ ダ ナ メ ク ジ 科 Rathouisiidaeに所属させている。しかし,こ の報告においても,湊(1989)の記載論文中 での本科の特徴とは大きく異なる解剖結果に 対する訂正報告がなされておらず,現時点に おいても本種の分類学上の位置変更に関する 正 式 な 報 告 が な さ れ て い な い 。 ま た , 湊 (1989)の記載論文では完模式標本の産地と 指定した模式産地が異なり,分類学的にも生 態学的にも問題点が残っている種である。そ こで,現時点における本種の分類学的特徴と あわせて食性や生息場所に関する報告を行い たい。 完模式標本産地 湊(1989)のイボイボナメクジ Granuli/imαx itscicornisの記載論文中には,模式産地を徳島 県高越山と指定した。その際に,完模式標本 (標本番号NSMT一Mo65844)の産地は香川県 綾歌郡綾歌町富熊大原とし,副模式標本(標 本番号NSMT-Mo64845) の産地を徳島県高越 山とした。 即ち,湊(1989)では,指定した模式産地に 完模式標本の産地をあげずに,副模式標本の 産地徳島県高越山を模式産地として指定した こ と に な り 模 式 産 地j という意味が不明確 になった論文となっている。 湊(1989 )が副模式標本(標本番号NSMT-Mo65845)に用いた標本産地は徳島県高越山で η t n t υ

(2)

あり,この標本は.1982年9月18日,阿部近 産地である香川県綾歌町(現・丸亀市)富熊 一(徳島県)によって徳島県山川町(現・吉野 川市)高越山で採集され,岡部によって湊に 送付された。湊(1987)はそのナメクジ類を研 究し,ツブツブナメクジ(仮称) Meghimatium sp. として報告したので,一躍貝類研究者にこ のナメクジが知られるようになった。 ところが,完模式標本に用いた標本産地 は、湊(1989)に書かれているような徳島県高 越山ではないことが分かった。模式産地が完 模式標本の採集産地である香川県綾歌郡綾歌 町富熊大原ではなく,副模式標本の採集産地 である徳島県高越山の個体となっていること について著者の

1

人多田がたずねたところ, 湊から多国への私信ではつぎのような返答が 得られた (2010年2月16日付け消印) :“阿部採 集の高越山産の個体を模式標本に指定して原 稿を提出したが,原稿編集の段階で高越山産 は体長

1

1.

5

阻と小型であったので,香川県綾 歌町産の体長

2

4

m

m

の大型個体を模式標本に指 定した方が得策とのアドバイスがあって標本 の指定を変更した。しかし,その際に模式産 地・徳島県高越山を訂正できていなかった"。 したがって,イボイボナメクジ Granulilimax ルscicornisの模式産地は徳島県高越山ではなく て完模式標本(標本番号NSMT-Mo65844)の 図1.観音寺市大野原町豊陀峠産(2000年4月) (線分の長さはl皿) 大原とするのが正しい。 形 態 イボイボナメクジは這っている時の長さは 大きい個体で約

3

5

m

m

であるが,測定はその時 の状態によって異なり,雨上がりなどで樹上 を這っているときは軟体部を精一杯伸ばし, より細く長くなっているが,同じ個体でも静 止時には短くなるなど,正確な長さを表すこ とが難しい。アルコール液浸標本では約20皿 である。また,成熟しているのか幼体である のかということも解剖してみないと判断が出 来ない。背面は頼粒に覆われ,肉眼でもその 状態が観察できる(図 1・2)。 香川県および他県での新産地 著者の

1

人多国が香川県内でイボイボナメ クジを採集した場所は以下の

5

地点であり, 数字は年.月. 日と(採集者名)である。 1.観音寺市大野原町豊陀峠:2000. 04. 22 図

2

.

1

の個体の後部側面拡大図

(3)

(多国)

2

.

丸亀市綾歌町富熊竜王山:

2

0

0

4

.

0

6

.

0

9

(多田)

3

.

高松市亀水町大槌島:

2

0

0

2

.

0

3

.

1

6

(多田) 4.高松市塩江町上西:

2

0

0

9

.

0

5

.

2

6

(多田)

5

.

小豆郡小豆島町洞雲山:

2

0

0

2

.

0

9

.

1

0

(多田) 著者のl人多国が徳島県内で確認した地点 は以下の

2

地点である。 1.徳島県美馬市木屋平川原:

2

0

0

6

.

0

7

.

0

7

(多田)

2

.

徳島県那賀町日真:

2

0

0

1.

0

6

.

0

8

.

(多国) 著者の l人多国が鳥取県で採集した地点は 以下の l地点である。 1.鳥取県東伯郡東伯町大山滝付近:

2

0

0

4

.

1

0

.

2

7

(多田) 食性および生患状況 四国においてイボイボナメクジが陸産貝類 を捕食している場面は筆者らの

1

人矢野が

2

0

0

0

年6月

1

8

日,徳島県那賀郡那賀町(旧:木沢 村)において発見,同行した多国や湊宏(和 歌山県),石川裕(宇和島市),川口貞雄(岡 山県)も確認している。それはキヌツヤベッ コウ Nipponochlamys semisericata (Pilsbry,

1

9

0

2

)

の殻口に頭を突っ込んで軟体部を食べて おり,キヌツヤベッコウの殻は,イボイボナ メクジの粘液で覆われていた。 また,筆者の

l

人多田は,

2

0

0

2

3

月,高 松市大槌島で偶然にもイボイボナメクジがセ トウチマイマイ Euhadl'asubnimbosa(Kobelt,

1

8

9

4

)

の幼貝を食べているところを目撃して いる(図3)。大槌島の南東面の頂上に近い樹 林下の草地で発見。写真撮影のあと採集し た。 即ちイボイボナメクジは肉食性のナメクジ であることがほぼ分かった。生息環境として は,乾燥時には落葉下などの湿ったところに 収縮した状態で隠れていて,地表では見かけ る事は少ない。 図3.セトウチマイマイの幼貝を食べているイボイボナメクジ(写真中央部)

- 3

9

(4)

-筆者らの

1

人多国は丸亀市綾歌町富熊竜王 山で春 秋の雨降り後など湿度の高い日には 樹上を這っているところを観察した。香川県 では,全ての確認地が磯の重なるガレ場付近 の落葉下や草の下であることから,真夏の暑 い時や冬の寒い時には,ガレ場の磯下に隠れ ているようである。 考 察 本 種 は 記 載 時 に 徳 島 県 , 香 川 県 , 和 歌 山 県,静岡県,山梨県の5県(13産地)で知ら れていた(湊, 1989)。そのうち香川県内の下 記の9地点のうち湊が採集したまんのう町多 治川(地点番号4),および増田が採集した塩 江町大滝山(地点番号

9

)

以外は全て,筆者の

1

人矢野が以下の地点で採集したものである (湊, 1989)

本種の記載に至るまでに湊 (1989)が触れて

y

o

A

V

V

~ いない記録を留めておけば, 1987年3月21 日,論文筆者らの

1

人矢野が,湊を案内して ヤノムシオイガイ Chamalycaeusyanosh伝ehu -miiMinato, 1987の模式産地である香川県仲多 度郡仲南町(現,まんのう町)多治川へ採集 に出かけた時,湊がその後湊(1989)として 新種記載したイボイボナメクジを採集し香川 県初記録とした(湊, 1987)。同年4月25臼, 今度は矢野が和歌山県西牟婁郡白浜町で調査 を行った際,和歌山県初記録となるイボイボ ナメクジを採集した(湊, 1987)。これを契機 にして,矢野は香川県を中心にさらに詳細な 調査を行ない次々に産地を見つけ6ヶ所から の資料を収集,湊に送付し,それらが記載時 の研究に使用された。それらの地点(湊, 1987, 1989)をここで再掲載すると以下のよ うになる。数字は年.月.日と(採集者名) である。

も?と〉

隆 図

4

.

イボイボナメクジの分布図

(5)

1.観音寺市大野原町池ノ内上:1989. 05. 28 (矢野) 2.観音寺市大野原町内野々の右奥:1994. 04. 26(矢野) 3.観音寺市大野原町内野々川上流:1994. 04. 26(矢野) 4.仲多度郡まんのう町多治川:1987.03.21 (湊宏) 5.小豆郡小豆島町寒霞渓(小豆島): 1987. 10.11 (矢野) 6. 善通寺市我拝師山東面:1988. 07.11 (矢野) 7.丸亀市綾歌町富熊大原:1988.1

1

.

05 (矢野) 8.丸亀市広島町茂浦正福寺(広島): 1989. 0

1

.

15(矢野) 9.高松市塩江町大滝山:1989.04.02 (増田修) 10.高松市塩江町大滝山:1995. 10. 14 (矢野) 矢野 (2003,2007)は「香川県では讃岐山脈 から里山まで,さらに離島においても生息し ているが,各地における生息個体数は少な しりと述べている。今回新たに香川県内で発 見された5地点を加えて計15地点の分布地図 を作成した(図的。既知産地に小豆島の南部 に lヶ所,島棋部として大槌島が加わり,県 全域に広く生息していることがわかる。 湊 (1989)以降,上記 51果の他に,愛知 県,兵庫県,奈良県,愛媛県,高知県,屋久 島を含む鹿児島県を加え11県に広がった(湊 ほか, 1996)。さらに,鹿児島県奄美大島,徳 之島,沖縄県与那国島(増田ほか, 1996),岐 阜県(湊, 2000),鹿児島県宇治群島家島(行 田, 2002),石川県(野村・高橋, 2009),島 根県(高井, 2009)および鳥取県(本報告) で発見されているので,現在では16県にまで 分布が確認されていることになる。 湊(1999)によれば,軟体の色は黄褐色で 真上からみてその輪郭に沿って内側に黒褐色 の楕円形の色帯が走る。筆者らの確認できた 個体は全て同様な特徴を持っており,外部形 態では差異を認めることはできなかった。 ただし,実際には,上記の本種とされる記録 は単一種ではないことが推測される。例え ば,外部形態や色彩では区別できない別種 (同胞種)が存在することが三重県(神島) の例(早瀬ほか, 2008)で知られており,少 なくとも四国以外のイボイボナメクジに同定 された情報のなかには外見では区別できない 多くの種が含まれているものと考えられるの で,正確には,同胞種群であるイボイボナメ クジ類として表記すべきかも知れない。 今回観察されたような,湿度の高い日には 樹上を這っていることがある事例は湊ほか (1996)の2例だけである。また,通常,日 本産の柄眼目のナメクジ類は倒木下など湿っ た環境に生息して,植物性のものを餌料とし ている(藤田, 1958)。しかし,今回の大槌島 のセトウチマイマイの幼貝を食べている瞬間 をとらえた写真(図 3) は肉食性を立証付け る貴重な資料である。大崎 (1996)および早 瀬 (2002)は,イボイボナメクジは朗育実験 の中で肉食性であることを確かめている。室 内実験によるイボイボナメクジの食性行動の 報告では(大崎, 1996),

r

陸産貝類の這い跡 をなぞりながら後方より近づき貝殻に取り付 き,殻口部より消化液を注入。軟体部を溶解 させ,ナメクジは吻状の器官を伸ばして溶解 した軟体部を吸い取るように捕食する。J とあ り「殻の中の軟体部に潜り込んで,口から肉 を食べるのではない。」といっている。また, 早瀬 (2002)では,イボイボナメクジは吻を きわめて細長い組状に伸ばし,その先端部で は,細かく前後に歯舌を動かしているところ を,殻の外側から光を透過して観察してい る。 また,最近では,沖縄島において殻表に穿 孔痕をもっ微小陸産貝類の死殻が見つかり, 早瀬 (2002)の捕食実験後の微小陸具に見ら 41

(6)

-れた穿孔痕から推則して,その穿孔痕(穿孔 して貝殻内部の体を食した)を残した生き物 はイボイボナメクジ類ではないかという報告 がなされた(湊, 2009)。 今後,機会があればフィールドでの食性行 動などをじっくり観察したいと思っている。 謝 辞 本稿をまとめるに当たって,多くの有益な 助言をいただいた香川大学・金子之史名誉教 授,貴重な私信をいただくとともに,原稿を ご校聞いただいた湊 宏氏(和歌山県),早瀬 善正氏(静岡県),また,本誌への投稿を勧め ていただいた香川大学・末広喜代一教授,そ して生態写真を撮っていただいた久米 修氏 に御礼申し上げます。 引 用 文 献 大崎 晃. 1996.飼育下でのイボイボナメク ジの食性行動.かいなかま, 30(4) : 5-7. 高井裕美.2009.島根県出雲市においてイボ イ ボ ナ メ ク ジ を 確 認 . ち り ぼ た ん , 40 (1) : 52-52. 野村卓之・高橋 久.2009.石川県の陸・淡 水産員類

2

.

しぶきつぽ, 30: 23-30. 早瀬善正.2002.ホソアシヒダナメクジ科2種 の捕食行動.かきっぱた, (28): 6-12. 早瀬善正・木村昭一・河辺司iI受.2008.三重 県鳥羽市神島における陸・淡水産貝類相調 査.かきっぱた, (33): 10-16. 藤田 卓. 1958.関西地方のナメクジ(I). Nature Study, 4 (7

8): 7. 増田 修・宇野 明・早瀬善正. 1996.イボ イボナメクジとヒラコウラベッコウガイの 新分布地.かいなかま, 30 (4) : 1-3. 湊 宏.1987.珍奇な日本産ナメクジ類2 種.ちりぼたん, 18(3・4) : 115-117. 湊 宏.1989.日本産ナメクジ科の新属・ 新種,イボイボナメクジの記載, Venus, 48 (4) : 255-258. 湊 宏. 1999.軟体動物門, 41-99pp.,巻 頭口絵写真 In青木淳一編著:日本産土壌 動物,分類のための図解検索.1076pp.東 海大学出版会,東京. 湊 宏.2000.京都大学瀬戸臨海実験所構 内の陸産貝類.南紀生物, 42 (2) : 89-92. 湊 宏.2009.殻表に穿孔痕をもっクニガ ミゴマガイの謎.ちりぼたん, 39 (2) : 96 -100. 湊 宏 ・ 増 田 修 ・ 矢 野 重 文 . 1996.イボ イボナメクジの新分布記録.ちりぼたん, 26 (3・4): 100-10

1

.

矢野重文.2004.イボイボナメクジ.In香川 県レッドデータブックー香川県の希少野生 生物一,香川県希少野生生物保護対策検討 委員会(編).P.384.香川県環境森林部環 境・水政策課,香川県. 矢野重文.2007.香川県の陸産貝類.In香川 の生物,香川県高等学校生地部会編.163 -178. 行田義三.2002.家島の陸・淡水産員類相.In 宇治群島家島の自然環境概要報告.19-25. 鹿児島県立博物館.

参照

関連したドキュメント

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

200 インチのハイビジョンシステムを備えたハ イビジョン映像シアターやイベントホール,会 議室など用途に合わせて様々に活用できる施設

  中川翔太 (経済学科 4 年生) ・昼間雅貴 (経済学科 4 年生) ・鈴木友香 (経済 学科 4 年生) ・野口佳純 (経済学科 4 年生)

関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授 小宮山 庄一 危機管理室⻑. 岩田 直子