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連載 世界で一番自転車にやさしい都市
第 4 回
ライバルはアムステルダムです
取材・熊倉次郎 株式会社リベラルアーツ総合研究所 代表 自転車とクルマ、そして歩行者がともに安心して移動できる 道路空間はいかにして可能か。この連載では、「世界一のサイ クリング都市」をめざす北欧の街・コペンハーゲンの取り組 みについてレポートしています。コペンハーゲン市の自転車戦略
市民の移動が比較的に容易なEU圏内では、ビジネスの活気があり、安全で 暮らしやすい都市に、有能な人材が集まります。このためEU圏内では主要 な都市の間で、魅力ある街づくりの競争があります。 コペンハーゲンの戦略は、環境に配慮し、健康的で快適な都市として魅力を 高めること。そしてそのための具体的な方策として、世界一の自転車都市へ の取り組みがあります。 コペンハーゲン市が発行しているパンフレットがあります。『Good, Better, Best コペンハーゲン市の自転車戦略 2011-2025』と題された小冊子で、自 転車の街づくりについて読みやすくまとめています。 その表紙には、日差しを浴びて自転車で颯爽と専用道を走るコペンハーゲン 市民の姿があります。 表紙写真のなかで、先頭を走っているのは、ファッショナブルな女性。勤務 先に向かっているのでしょうか。サンダル履きで走る彼女の自転車のカゴに『Good, Better, Best コペンハーゲン市 の自転車戦略 2011-2025』(コペンハ ーゲン市発行)の表紙。明るく健康的で ファッショナブルな自転車通勤のイメ ージを強調。
2 はルイ・ヴィトンのバッグがのぞいています。 自転車政策を通じて、さらに魅力のある都市をめざすコペンハーゲン市の 「PR 用イメージ」を写真にあらわすと、まさにこんな風景になるのでしょ う。 この冊子の冒頭に、発行責任者であるコペンハーゲン市のアイファー・バイ カ ル 氏 ( Ayfer Baykal, Mayor of Technical and Environmental Administration)によるメッセージが掲載されています。
「コペンハーゲンは世界一の自転車シティになる。この目標は『環境首都』 をめざすコペンハーゲン市のヴィジョンの一環として位置づけられていま す。
サイクリングのためによいコンディションをつくるという仕事は、この都市 にとってのふたつの重要なゴール、すなわち、良い都市生活(a good city life)を実現するということ、そして 2025 年までにカーボン・ニュートラ ルを達成するという目標のための、ひとつの重要な要素なのです。 またサイクリングに適した環境づくりは、市の健康政策の一部分でもありま す。
言い換えればサイクリング自体がゴールなのではなく、むしろ暮らしやすい 都市(a more liveable city)を創造するための政治的なツールであるとい うことです」(『Good, Better, Best コペンハーゲン市の自転車戦略 2011-2025』より)
このように、市では環境首都というヴィジョンを実現するためのツールとし て自転車をめぐる行政があるということを市民にアピールしています。
また、「もっと自転車に乗りやすい都市、もっと暮らしやすい都市(A Better Bicycle City, a More Liveable City)」という見出しのページでも自転車 シティのイメージを伝えています。
「自転車にやさしい都市(a bicycle-friendly city)、それは空間にゆとり があり、騒音が少なく、空気がキレイで、健康的な市民と経済に活気がある 都市です。」(前掲書より) 実際、自転車はクルマに較べれば場所をとらないので空間にゆとりがうまれ コペンハーゲンの海岸から 2~ 3km、水深 4~8m の浅瀬に設置 されたミドルグリン海上風力発 電所。環境都市コペンハーゲン のシンボル的存在。風車は20 機あり、市の消費電力の3%を まかなうという。
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ます。また、騒音が少なくて空気も汚れないというところも理解できます。 もちろん健康的です。しかし経済に良い(a better economy)とはどういう ことなのでしょうか。自転車にはどんな経済的な効果があるのでしょうか。
自転車シティの経済効果
たとえば私たちは「経済効果」というとき、何とはなしに、そこに新しくお 金が付け加わる、雇用や売り上げが伸びる、ということを考えがちです。 つまりより多くの稼ぎが生じることが「経済効果」である、と。 確かにそれはそうなのですが、しかし一方で、無駄なお金を使わずに済んだ のでメリットが生まれた、財政的にも健全になった、という「経済効果」も あります。 前者が足し算的な経済効果であるならば、後者は引き算的な経済効果といえ ます。 コペンハーゲン市では自転車通勤の利用が増えたことによって人々がより 健康になり、年間の医療支出がどれだけ減少したか、あるいは自転車専用の 橋を架けたことによって、朝夕の通勤時間がどれだけ短縮されたかを報告書 で述べています。 医療支出の減少、市民の移動時間の短縮、これらは引き算の効果として、コ ペンハーゲン市の財政と経済に貢献しています。 「どのような交通手段を利用するのであれ、移動時間(travel times)は都 市の競争力にとって中心的な因子(parameter)です」(『Good, Better, Best コ ペンハーゲン市の自転車戦略 2011-2025』より)通勤・通学、その他さまざまな用事のために、私たちは都市のなかを毎日移 動しています。
電車や地下鉄、バスを利用するのであれ、短い移動時間で行きたい場所にす みやかに移動できることこそ都市に暮らすことの大きなメリットです。
4 以前取材した南米ブラジルの環境都市クリチバ市では公共バスの効率的な ネットワークを市内に張り巡らすことで移動時間の短縮に力を注いでいま した。 クリチバ市では地下鉄に匹敵する移動速度を実現するために、停留所に改札 を設置したり、24時間バス専用の車線を走らせたりしています。その結果、 クリチバ市の公共バスの平均速度は時速 22km。東京都内を走る都バス(平 均時速 11km)の2倍のスピードで移動することができます。 運行本数も多く、通勤の時間帯には数珠つなぎで新しいバスがやってきます。 均一料金で乗れ、深夜まで走っているバスがあるために、多くの市民がバス を利用しています。 そしてそのために、170万人が暮らす都市であるにもかかわらず、クルマ はそれほど多くありません。 激しい渋滞に悩まされるサンパウロからクリチバに移動すると、同じ国とは 思えないくらいスムーズな交通事情に驚かされます。 このように環境に配慮し、市民の移動時間を短くするという点では、南米の クリチバ市と北欧のコペンハーゲンは同じ発想点を持っているといえます。 ただクリチバ市では公共バスにフォーカスをあわせ、コペンハーゲン市では 自転車に重点をおいたところが違っていました。 しかし両者ともに着実に成果をあげています。両者に共通しているのは、交 通手段のなかで何を優先するかというプライオリティが明確になっている ことです。 クルマにもバスにも、自転車にも走りやすい都市は理想ですが、現実の都市 には空間上の厳しい制約があります。いずれかにプライオリティを持たせる ことが、移動時間の短縮化をデザインするために必要です。 コペンハーゲン市環境局のハンセン氏へのインタビューでも「プライオリテ ィ」という言葉が何度もでてきました。 クリチバ市のバス停。車両を3 連結したバスが地下鉄に匹敵す る輸送量とスピードを誇る。
5 「クルマよりも自転車にプライオリティを置く。雪が降ればまず自転車道を 除雪する。どの自転車道から雪を取り除き、塩を撒くのか、コースごとにプ ライオリティを決めています。」(ハンセン氏) コペンハーゲン市は 2025 年までにカーボン・ニュートラルを達成し、世界 で最も健康的なライフスタイルの都市を実現すると謳(うた)っています。 その大きなチャレンジのために、クルマよりも自転車を優先するという非常 に分かりやすいロジックがあり、そのロジックに沿って行政が機能していま す。 市民ひとりひとりの移動の自由に関わることだけに、市民を巻き込むには、 大きなヴィジョンと単純明快なロジックが必要なのだと思います。
ライバルはアムステルダムです
こうした自転車にやさしい街づくりで都市の魅力を高めようというアプロ ーチはコペンハーゲンの専売特許ではありません。 ハンセン氏によればコペンハーゲンのライバルはアムステルダムだといい ます。 アムステルダムを首都とするオランダは自転車大国として知られています。Andreas Thor Hansen
Cycle Programme
CITY OF COPENHAGEN The Technical and Environmental Administration Department of Traffic 自転車が快走するアムステルダ ム市内の風景。 © Jorge Royan http://www.royan.com.ar
6 平坦で標高の低い国土はサイクリングに向いています。コペンハーゲンと同 様にアムステルダムでも自転車専用道の充実に力をいれています。 「ライバルがいるのはいいことです」(ハンセン氏) しかしライバルはアムステルダムだけではありません。 ドイツでもミュンスターをはじめ、自転車利用に焦点をあてた街づくりが進 んでいますし、ロンドン市内でも自転車のシェアリングが 2010 年に始動し ました。 今日、バルセロナやパリ、ミラノ、ローマでもシェア自転車が走っています。 いま、EU の主要都市は、健康的で暮らしやすく、移動時間の短い都市を実 現するためのツールとして自転車に注目しています。 自転車で都市の競争力が高まるなんて、大袈裟なようですが、ひとつの大き なトレンドであることは間違いないように思われます。 (つづく) 世界で一番自転車にやさしい都市 取材・構成:熊倉次郎 リベラルアーツ総合研究所代表 配信:公益財団法人ハイライフ研究所 http://www.hilife.or.jp ロンドン・カムデン地区付近の バイクシェアリング。現在ロン ドン市内には 6,000 台のシェア 用自転車が設置されている。 © PAUL FARMER http://bit.ly/MKhHfb