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改正育児・介護休業法への
実務対応
松田由員
相談部 東京相談室
木本 泉
相談部 大阪相談室
改正育児・介護休業法が6月30日から全面施行されました。今回の改正では少子化対策
の観点から、喫緊の課題となっている仕事と子育ての両立支援等を一層推進するため、
男女ともに子育てをしながら働き続けることができるよう雇用環境を整備することを
目的としています。
今回は、就業規則の整備を中心に、実務上留意すべき対応上のポイントを解説します。
今回の改正概要
以下のイメージ図、網かけ部分が改正点です。
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出生 1 歳 3 歳 就学
育児休業は従来 1 歳まで(保育所に入所できない等一定の場合
は、1 歳半まで)ですが、更に両親ともに育児休業を取得
した場合は 1 歳 2 ヶ月となります。【2-(1)(2)ご参照】
努力義務(点線内)
③フレックスタイム、④始業・終業時刻の繰り上げ、繰り下げ、
⑤託児施設の設置・運営、⑥左記⑤に準じた便宜の供与、⑦育児
休業に準ずる措置
【代替措置】
ただし、左記①(短時間勤務制度の義
務化)のうち、業務の性質等に照らし
て適用除外となる労働者については、
代替措置として、左記措置の③~⑦ま
でのいずれかの措置を、子が 3 歳にな
るまで義務付けられます。
育児分野
育児休業
パパ・ママ育児プラス
①短時間勤務制度の義務化【1-(1)ご参照】
②所定外労働の免除の義務化【1-(2)ご参照】
介護分野
介護休業(対象家族 1 人につき 93 日まで)
勤務時間短縮等の措置(介護休業とあわせて 93 日まで)
介護休暇(対象家族 1 人年 5 日まで、年 10 日を上限)【3 ご参照】
子の看護休暇( 子 1 人につき年 5 日まで、年 10 日を上限【1-(3)ご参照】)
法定時間外労働の制限(月 24 時間、年 150 時間まで)、深夜業の免除
厚生労働省ホームページより抜粋・加筆
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ただし、平成22年6月30日時点で、常時100人以下の労働者を雇用する事業主については、公布日
から3年後に当たる平成24年6月30日(予定)までの間、<短時間勤務制度の義務化><所定外労働
の免除の義務化><介護休暇>について、改正規定の適用が猶予されます。
1. 子育て期間中の働き方の見直し
[1] 子育て期間中の短時間勤務制度の義務化
概要 事業主は、次頁の適用対象となる労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けるこ
とが義務付けられました。この短時間勤務制度とは、業務の性質から短時間勤務制度の適用が困難
な労働者を除き、3歳に満たない子を養育する労働者に対し1日の所定労働時間を原則として6時間を
超えない定めを含む規程としなければなりません。
実務対応 ポイント☞ 短時間分の賃金減額は可能です。賞与の査定においても同様です。
適用対象:以下の全ての要件を満たすこと
・3 歳に満たない子を養育する労働者であること
・1 日の労働時間が 6 時間以下でないこと
・日々雇用される者でないこと
・労使協定で以下の適用除外者とされた労働者でないこと
①雇用期間が 1 年未満の労働者
②1 週間の所定労働日数が 2 日以下の労働者
③業務の性質等から短時間勤務制度を講ずることが困難な労働者※
※ 企業、事業所の実態を踏まえて労使間で協定を定めることになりますが、短時間制度の代替措置として、
①フレックスタイム、②始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、③事業所内保育施設の設置運営、④左記③に準
ずる便宜の供与、⑤育児休業に準ずる措置――のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。
就業規則例:(育児短時間勤務)
1.3 歳に満たない子を養育する従業員は、所定の申請書により、1 ヶ月前までに会社に申し出ること
によって、就業規則第○○条に定める所定労働時間について、午前 9 時~午後 4 時まで(休憩時間
は規定どおり 12 時~午後 1 時)の 6 時間に変更できる。
2.次のいずれかの従業員は、短時間勤務は請求できない。
(1)日雇従業員
(2)1 日の所定労働時間が 6 時間以下である従業員
(3)労使協定により適用除外とされた次の従業員
①雇用期間が 1 年未満の者
②1 週間の所定労働日数が 2 日以下の従業員
③業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難な従業員
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[2] 所定外労働の免除
概要 以下の適用対象に該当する労働者が、3歳に満たない子を養育するために請求した場合、事業
主は所定労働時間を超えて労働させることができません。但し、事業主が通常考えられる相当の努
力を尽くしても、なお事業の正常な運営を妨げる場合は除かれます。
実務対応 ポイント①☞この免除は法定労働時間外の免除ではありません。従って、所定労働時間
が 7 時間であればそれ以降は時間外労働を命ずることはできません。
ポイント②☞前述の短時間勤務制度との併用が可能ですので、短時間勤務により 6 時間
労働となった者はそれ以降の時間外労働はできないこととなります。
3.前項の③に該当する従業員は、代替措置として所定の様式で会社に申し出ることによって、子が 3
歳に達するまでの間、育児休業を取得することができる。
4.本制度の適用を受ける従業員は、賃金規程に基づく基本給を時間換算した額を基本とした実労働時
間分の基本給と諸手当の全額を支給する。賞与については、その算定対象期間に本制度の適用を受
ける期間がある場合においては、短縮した時間に対応する賞与は支給しない。
5.定期昇給および退職金の算定には、本制度の適用期間は通常の勤務をしたものとみなす。
適用対象:以下の全てを満たすこと
・3 歳に満たない子を養育する労働者であること
・日々雇用される者でないこと
・労使協定で以下の適用除外者とされた労働者でないこと
(1)雇用期間が 1 年未満の労働者
(2)週間の所定労働日数が 2 日以下の労働者
就業規則例:(育児のための所定外労働時間の免除)
7.3 歳に満たない子を養育する従業員が、当該子を養育するために申し出た場合には、事業の正常な
運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させることはない。
8.次のいずれかに該当する者からの時間外労働の制限の申出を拒むことができる。
(1)日雇従業員
(2)労使協定により適用除外とされた従業員
9.前項 2 号に定める労使協定の締結により時間外労働の制限の対象から除外される従業員は次のいず
れかに該当する従業員である。
(3)雇用期間 1 年未満の従業員
(4)1 週間の所定労働日数が 2 日以下の従業員
10.請求する従業員は所定の様式に会社が求める証明書を添付し、1 ヵ月前までに会社に申し出なけれ
ばならない。
11.次の各号のいずれかの事由が生じた日に、免除期間は終了するものとする。
(ア)子の死亡等免除に係る子を養育しないこととなった日
(イ)当該従業員が産前産後休業、育児休業または介護休業が始まった日
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[3] 子の看護休暇制度の拡充
概要 労働者1人につき(父母がともに労働者ならば2人それぞれ)、その養育する小学校就学の始
期に達するまでの子が1人であれば5日間、2人以上であれば10日間(2人の場合、1人の子のために10
日全部取得することも可能です)の看護休暇を最低基準として保障しました。また、従来は「負傷
または疾病にかかったその子の世話」を行うための休暇でしたが、改正で「疾病の予防を図るため
に必要なものとして子に予防接種または健康診断を受けさせるための看護休暇」が認められるよう
になりました。
実務対応 ポイント☞ 予防接種や健康診断は事前の取得申請が可能ですので、日程を把握して
交代要員等の人員計画を立てておくことが必要でしょう。
2. 父親も子育てできる働き方の実現
[1] パパ・ママ育休プラス
概要 この制度は、原則として子が1歳まで(注1)の育児休業が、両親(父母)がともに取得する
場合には、1歳2ヶ月に達するまで延長される育児休業の特例制度です。(この2ヶ月分がプラスされ
たという意味でパパ・ママ育休プラスと呼びます)特例対象となるには、配偶者が子の1歳到達日以
前に育児休業をしていることが要件となります。ただし次頁の育児休業については特例の対象とな
りません。
・本人の育児休業開始予定日が、子の 1 歳到達日(注 2)の翌日後である場合
・本人の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業の初日前である場合
注 1:保育所に入所を希望しているが入所できない等、特段の事情がある場合には 1 歳 6 ヶ月までの休業が認められます。
注 2:「子の 1 歳到達日」とは、子の 1 歳誕生日の前日をいいます
就業規則例:(子の看護休暇)
1.小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員の請求に基づき、負傷または疾病にかかった
当該子の世話をするため、または予防接種、健康診断を受けさせるための看護休暇を与える。
2.看護休暇は、1 年間につき当該子が 1 人の場合は 5 労働日、2 人以上の場合は 10 労働日を限度とす
る。この 1 年とは 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日までの期間とする。
3.前項にかかわらず、労使協定の締結で看護休暇の対象から除外される取扱いと定められた次の従業
員は看護休暇を取得することはできない。
(1)雇用期間 6 ヶ月未満の従業員
(2)1 週間の所定労働日数が 2 日以下の従業員
4.取得を希望する従業員は、事前に会社に申し出るものとする。会社は確認のため、各種証明書の提
出を求めることがある。
5.看護休暇は無給とする。
6.賞与、定期昇給及び退職金の算定に当たっては、子の看護休暇中は通常の勤務をしたものとみなす。
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パパ・ママ育休プラスの場合、育児休業の対象となる子の年齢は 1 歳 2 ヶ月までに延長されます
が、父母それぞれの育児休業ができる期間は従来どおり1年間であり 1 年 2 ヶ月間に延長された
訳ではありません。
実務対応 ポイント☞ 母親が取得できる期間の上限は産休を含めて 1 年間であり、仮に、父親
が母親の産休終了から育児休業を取得したとしても、父親の取得期間の
上限も 1 年間であることを労働者に説明しておくことが必要です。
例(子の誕生日を 7 月 2 日とした場合):母親が子の 1 歳の誕生日前日(7 月 1 日)まで育児休業を取得し、
翌日(子の 1 歳の誕生日 7 月 2 日)から父親が、子が 1 歳 2 ヶ月に達するまで(9 月 1 日)育児休業を取得
する場合。(注:子の 1 歳の誕生日より後の日を開始日にすることはできません)
出生 8 週間 1 歳 1 歳 2 ヶ月
7月 2 日 7 月 1 日
7 月 2 日 9 月 1 日
母親:産休 母親:育児休業 父親:育児休業
また、以下のように父親の育児休業が母親の育児休業と重なることも可能です
父親:育児休業
[2] 出産後8週間以内の父親の育児休業取得の促進
概要 配偶者の出産後8週間以内の期間内に父親が育児休業を取得した場合には、特別な事情がな
くても再度の育児休業の取得が可能となります。
実務対応 ポイント☞ 以下例のように出産後8週間以内に父親の育児休業が終了していること
が必要です。
就業規則例:(育児休業の期間)
1.育児休業の期間は、原則として子が 1 歳(1 歳 6 ヶ月までの育児休業をする場合には、子が 1 歳 6 ヶ
月まで)に達するまでを限度として、育児休業のために申し出た期間とする。
2.従業員の養育する子において、原則として当該従業員の配偶者が当該子の 1 歳到達日以前のいずれか
の日において当該子を養育するために育児休業をしている場合、当該従業員の育児休業の期間は 1 歳
2 ヶ月に達するまでを限度として申し出ることができる。ただし、次の各号に定める従業員に該当す
る場合は、適用しない。
(1)当該従業員の育児休業開始予定日が、子の 1 歳到達日の翌日後である場合。
(2)当該従業員の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業の初日前である場合。
3.前項の規定にかかわらず、育児休業が取得できる期間(女性の場合は、出生日以後の産前、産後休業
期間を含む。)は、原則として 1 年間を限度とする。
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例:母親が出産後 8 週間以内に父親が 1 回目の育児休業を取得し、間を空けて、子の 1 歳の誕生日
より前に父親が 2 回目の育児休業を取得する場合。
出生 8 週間 1 歳 1 歳 2 ヶ月
母親:産休 母親:育児休業
父親:育児休業 父親:育児休業再取得
(1 回目) (2 回目)
[3] 労使協定による専業主婦(夫)除外規定の廃止
概要 労使協定の定めで、配偶者の専業主婦(夫)や育児休業中である場合等の労働者からの育児
休業申し出を拒める制度を廃止し、専業主婦(夫)がいる家庭の夫(妻)でも育児休暇を取得できる
ようになりました。
実務対応 ポイント☞ 専業主婦(夫)の適用除外の規定がある場合は変更が必要です。
3. 介護休暇の新設
概要 仕事と介護の両立を支援するため、要介護状態にある家族(注)の介護その他の世話をする労
働者(日雇従業員を除く)は、労働者の申し出により要介護状態の対象家族が1人あれば年5日間、2
人以上であれば年10日間の介護休暇が取得できます。なお、以下の労働者は労使協定で対象外とで
きます。
注:要介護状態にある家族とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2 週間以上の期間にわたり、
常時介護を必要とする状態にある次の者をいいます。
①配偶者/②父母/③子/④配偶者の父母/⑤祖父母、兄弟姉妹または孫であって従業員が同居し、か
つ扶養している者/⑥その他の家族で会社が認めた者
就業規則例:(育児休業再取得)
1.育児休業に係る子の出生の日から起算して 8 週間を経過する日の翌日までの期間内に、従業員が当
該子を養育するためにした最初の申し出により育児休業をした場合は、当該育児休業を開始した日
に養育していた子については、特別な事情がない場合でも、再度育児休業を申し出ることができる。
2.前項にかかわらず、出産後 8 週間を経過する日の翌日までに育児休業が終了していない従業員は、
再度の育児休業の申し出をすることができない。
・当該事業主に引続き雇用された期間が 6 ヶ月を満たさない労働者
・1 週間の所定労働日数が 2 日以下の労働者
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本情報は、法律、会計、税務等の一般的なご説明をしたものです。個別具体的な法律上、会計上税務上等の判断や対策などについては
専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法
上での例外を除き、禁じられています。
実務対応 ポイント☞ 対象となる家族が 2 人以上いる場合には、1 人の家族のために 10 日全部
を取得することも可能であり、看護休暇と同様の取扱いです。ただし、
要介護状態にある家族が対象となるため、例えば日常的に元気な祖父母
が風邪などの病気になり、通院のために付き添いをするような場合は該
当しません。
●本法律改定の詳細は厚生労働省ホームページ「改正育児・介護休業法のあらまし」等でご確
認ください。
みずほ総合研究所 相談部 東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/
就業規則例:(介護休暇)
1.要介護状態にある対象家族を介護している従業員の請求に基づき、年次有給休暇とは別に、その
家族を世話するための介護休暇を与える。
2.介護休暇の日数は 1 年度(4 月 1 日から翌年 3 月 31 日まで)につき、要介護状態にある対象家
族 1 人の場合には 5 労働日、2 人以上の場合には 10 労働日を限度とする。
3.介護休暇は、翌年度に繰り越すことはできない。
4.前項にかかわらず、労使協定の締結により、介護休暇の対象から除外される次の従業員は介護休
暇を取得することはできない。
(1)雇用期間 6 ヶ月未満の従業員
(2)1 週間の所定労働日数が 2 日以下の従業員
5.介護休暇は、半日単位または時間単位で請求することができる。
6.介護休暇は無給とする。
7.従業員は、介護休暇を取得するときは、前日までに会社に届け出ることとする。ただし、やむを
得ない事情により事前に届け出ることができないときは、事後速やかに届出なければならない。
8.賞与、定期昇給及び退職金の算定に当たっては、介護休暇中は通常の勤務をしたものとみなす。
内容は2010年7月1日時点の情報に基づいて作成されたものです。