谷川岳周辺地域におけるエコツーリズムの導入意義と課題
中 岡 裕 章
*Significance of Introducing Ecotourism in Areas Surrounding Tanigawadake and Problems
Hiroaki NAKAOKA*
[Received 14 September, 2018; Accepted 16 November, 2019] Abstract
The significance of developing tourist destinations by promoting ecotourism in areas around Tanigawadake in Minakami, Gunma prefecture, Japan, are studied, along with related issues. The aim is to understand the rationale for introducing ecotourism, the reasons why it should be encouraged, and why tourists enjoy ecotourism. The town of Minakami has witnessed a decline in its tourism industry with a decrease in the number of tourists visiting hot springs and ski grounds. Meanwhile, a large concentration of tourists visits the area surrounding Tanigawadake for hiking and trekking. This imbalance is a cause for concern because it can adversely affect the natural environment. To address this, ecotourism has been introduced in the area around Tanigawadake in an attempt to balance environmental conservation with regional development. Ecotours have also been conducted by the Minakami Mountain Guide Association. As a result of the spread of information about the environment, awareness of environmental conservation can be seen in and around the area. It is also observed that tourism workers get a sense of satis-faction from exchanges with tourists and receive income. At the same time, these workers have different expectations about what should be achieved through ecotourism and the role it should play. In particular, a number of workers participating in ecotourism in this area also work in Minakami’s tourism industry. They tend to believe that rebuilding the tourism industry in the town is imperative for its growth. However, because the scope of ecotourism was limited to the area around Tanigawadake, efforts focused on this region, limiting the expansion of tourism in Minakami. This was in contrast to the expectations of the workers. Besides, ecotours are posi-tioned as niche travel products. To address this gap, it is important to achieve a balance between tourism and ecotourism by reconsidering local policies and practices, with due consideration given to the actual circumstances of the local tourism industry and the interests of tourism pro-fessionals.
Key words: ecotourism, tourist destination development, environmental conservation, tourism
promotion, Tanigawadake, Minakami town
キーワード:エコツーリズム,観光地づくり,環境保全,観光振興,谷川岳,みなかみ町
* 日本大学文理学部
* College of Humanities and Sciences, Nihon University, Tokyo, 156-8550, Japan
I.は じ め に 1)問題の所在と研究目的 エコツーリズムは,環境保全への関心が世界的 に高まるなかで誕生した(敷田, 2011a, p. 32)。 その定義については研究者や実務者のなかでも明 確な規定がなされているわけではない(例えばフ ンク, 2002)が,The International Ecotourism Society(2015)はエコツーリズムを,自然地域 (Natural areas)の環境を保全して,地域住民の 幸福を向上させる責任のある観光としている。 1980 年代からエコツーリズムを導入する地域が 世界各国で増加しており,その先進地であるオー ストラリアやニュージーランドでは,野生保護 区などを対象に,環境に配慮した旅行形態の提 供や,ガイドによって得られた利益を環境保全 費用にあてる取組みが活発化している(ビート ン, 2002)。アメリカ合衆国などでもマスツーリ ズムによる自然環境への悪影響が問題視されるな かで,国立公園や自然公園ではレンジャーによる 解説(Interpretation)を伴う自然観察を目的と したガイドツアーが多く実施されている(森重, 2008a, p. 4243)。このように,エコツーリズム 先進地では,自然地域を対象に,自然環境の保護・ 保全に重点の置かれたエコツーリズムが実践され ている傾向がある。 日本でも世界的な潮流を受け,1990 年ごろか ら原生的な自然が多く残存する小笠原諸島や屋久 島など,後に世界自然遺産に登録されるような地 域でエコツーリズムが導入された。1998 年には, 日本におけるエコツーリズムの普及促進を目的と したエコツーリズム推進協議会(現・日本エコツー リズム協会)が設立され,エコツーリズムは(1) 地域の自然・文化資源の保護・保全,(2)地域固 有の資源を生かした観光の設立と推進,(3)地域 経済の活性化,以上 3 点の融合を目指すもの(海 津・真板, 1999, p. 24)と考えられた。2000 年代 に入ると,環境保全や観光の持続性への関心が全 国的に高まるなかで,環境省を中心としたエコツー リズム推進の動きが活発化し,多くの地域でエコ ツーリズムの導入が進められるようになった。 旧来の観光地開発は,地域外のデベロッパーや プランナーの主導によるものが多く,自治体や地 域住民が開発に加わる余地は小さかった(玉置, 2007)。地域外の企業が,地域の生活や環境に責 任を負うことなく開発を進め,公害や自然破壊, 観光者の流入によるごみの増加など,地域社会に 負のインパクトがもたらされることも多かった(吉 田, 2006, p. 6993)。また,外来企業と地域産業 との連関がしにくく,一見して大きな経済効果を 生み出したようにみえても,地域経済への波及効 果に乏しく,さらに外来企業の縮小・撤退や経営 破綻などにより,雇用機会が失われることもあっ た(東, 2010)。これらのことから,全国各地で 住民と自治体との協働による地域主体の観光地づ くりが目指されており(大下, 2013),その一手 段として,地域環境を保全しつつ,地域経済の活 性化を目指すエコツーリズムに関心が寄せられて いる(佐々木, 2008, p. 124125)。そこで本稿で は,地域主体による観光地づくりの一手段として 導入されるエコツーリズムにどのような意義があ るのか,という点に注目したい。 エコツーリズムを地域主体による観光地づくり の一手段とした場合,その導入地域で取組みに関 わる地域住民や自治体,関係組織といった参画者 それぞれの意向を十分に把握した上で,エコツー リズムの導入意義を検証することが重要であると 考えられる。それは,地域主体の観光地づくりに はさまざまな立場や考え方をもつ者が関わるため, 観光の促進に向けた意思決定や合意形成を関係者 間で図ることが求められる(森重, 2016, p. 187 198)からである。ただし,自然・人文環境や産 業構造,地理的条件といった地域特性はエコツー リズム導入地域によって異なり,その違いはエコ ツーリズムに対する地域側の考え方や取組み方に 大きく反映される(古村, 2009)はずである。そ れゆえに,エコツーリズムの導入意義を参画者の 意向に着目して検証する場合,地域特性や取組み の特徴と関連付けた議論が不可欠である。 また,エコツーリズムが地域主体による観光地 づくりの切り札として期待されるなかで,その導 入の理想的条件については,観光の大衆化と旧来
の観光地開発に伴う弊害に鑑みて,地域主体の重 要性(敷田ほか, 2001; Tanaka et al., 2011)や 地域環境に対する地域内外の理解の促進(敷田・ 森重, 2003),地域文化への配慮(Long, 2011) などがはやくから指摘されてきた。しかし,エコ ツーリズムは地域固有の自然・人文環境に強く依 存するものであるため,全国各地でエコツーリズ ムの導入が目指されるなかで,これらの研究で提 示された理想的条件を,どのように達成するのか は,地域特性の差異を考慮して議論すべきである と考えられる。また,地域特性の違いに関心を払 うことは,画一的ではなく,より地域に根差した エコツーリズムを検討するためにも不可欠である。 先行研究ではおもに,エコツーリズム導入地域 における実践的な研究により,地域ごとの取組み が先進的なモデルとして報告されてきた。例えば 海津(2007)は,全国で 16 のエコツーリズム導 入地域を取り上げ,取組みに関わる地域住民の 活動に至る経緯や実践の内容を報告した。森重 (2008b)および宮本(2008)は,北海道の黒松 内町と登別市を事例に,基幹産業の衰退や人口減 少,高齢化といった問題を抱えるなかで,地域関 係者が主体となってエコツーリズムを推進し,自 然環境の保全と活用,そのためのルールづくりを 自律的に行うようになった過程を報告した。これ らのほか,自然遺産地域や島嶼地域,野生保護区 域といった特性の異なる地域を事例に,住民の地 域社会に対する考え方や,エコツーリズムへの思 いを取り上げ,環境保全のあり方と地域資源の活 用法も検証されてきた(寺山, 2011; 菊地, 2011; 敷田, 2011b; 西村, 2011; 愛甲・寺崎, 2011)。こ うした地域側の取組みに着目した研究の蓄積によ り,日本におけるエコツーリズムに係る取組みの 実態把握は着実に進められているが,いずれの研 究においても地域の主体性・自律性が重要視され ながら,主導的な立場にあるキーパーソンの意向 や実践内容の紹介に留まっている。もちろん,地 域個々に導入されるエコツーリズムの大まかな方 向性はキーパーソンの意向によるところが大き く,主要人物の情報は地域を理解するための手掛 かりとなるため,こうした研究の蓄積には大きな 意義がある。しかし前述した通り,地域主体によ る観光地づくりには,その取組みを支える多くの 住民や組織が存在し,それらの意向には地域が抱 える固有の問題が反映されているはずなので, キーパーソンの意向や実践の内容を把握するだけ では,エコツーリズムが果たすべき役割や,そこ に生じる課題が見落とされる可能性がある。 実際,参画者の意向を地域特性や取組みの特徴 と関連付けてエコツーリズムの意義と課題を検証 した研究をみると,Tran and Noma(2012)は, 長野県飯田市の第 3 セクターを中心とした農家 民泊プログラムについて,農産物の顧客への直接 的な提供・販売によって利益を得ている農家がい る一方,経済的な恩恵に乏しい農家の参加度が低 いことを指摘した。拙稿でも埼玉県飯能市を取り 上げ,おもに市街地に居住する住民が自身の幸福 感を追及し,利益を求めないエコツアーを多く開 催した結果,地域内外の交流は促進されたが,山 間部の住民は人口減少や高齢化の進行を背景に, 取組みによる経済的な効果による地域の活性化を 望むものの,それが実現できない現状にジレンマ を抱いていることを指摘した(中岡, 2018)。こ のように,エコツーリズム導入地域にはさまざま な利害や関心をもった参画者がおり,地域内の調 和や合意形成は容易ではない。このことは,地域 主体によるエコツーリズムの意義や課題を検証す るにあたり,キーパーソンのみならず,より多く の参画者の意向を把握し,地域特性や取組みの特 徴と関連付けて検証することの重要性を示唆す る。ただし,飯田市や飯能市は特筆すべき観光資 源に乏しく,既存の観光業の規模が小さい地域で ある。地域特性の違いがエコツーリズムに対する 地域側の考え方や取組み方に大きく反映されるな らば,既存の観光業が発展し,多くの観光者が来 訪する地域に導入されたエコツーリズムが果たす べき役割やそこに生じる課題は,農村や里地里山 とは異なると考えられる。 例えば,日本におけるエコツーリズムの先進地 である西表島は,希少な生態系を有するがゆえに, その鑑賞・観察を目的とした多くの観光者が来訪 する地域であり,エコツーリズムの導入によっ
て,島民が自ら地域の価値や魅力を見直し,地域 が主体的・自律的に環境保全と観光振興に取組 む成功事例として報告されている(海津・真板, 2001)。一方,島民への聞取り調査の結果,西表 島では,エコツーリズム導入後に発展した移住 者・長期滞在者によるカヌー産業(エコツアー) と地元の民宿観光との対立が生じたことが指摘さ れている(柳田, 2012)。また,世界自然遺産登 録に伴って観光産業が大きく発展した屋久島で は,観光業従事者に対するアンケート調査の結 果,エコツーリズムの導入による経済的な効果や 地域外との交流の拡大を高く評価する者が多い一 方,自然環境への悪影響を懸念する者も存在し, その認識の違いには出身地や開業年などが大きく 影響することが明らかにされている(Adewumi and Funck, 2016)。このように,既存の観光業 が発展した地域における住民のエコツーリズムに 対する意識には,地元の観光業への思いや関わり 方が大きく影響している。それゆえに,既存の観 光業が発展した地域に導入されたエコツーリズム の可能性を検証する際には,柳田(2012)が指 摘するように,「人々の実践の内容や固有な利害 関心,そしてその土地の観光業がいかなる技術的 や社会的,経済的などの条件のもとで成立してい るのか,という点に目を向けること」も重要とな る。しかし,地域特性の違いがエコツーリズムに 対する地域側の考え方や取組み方に大きく反映さ れることが古村(2009)などで指摘されながら, このような観点に立った研究の蓄積が十分になさ れてきたとはいい難い。また,全国各地でエコ ツーリズムの導入が進められ,既存の観光業が発 展した地域も多く参入しているにもかかわらず, こうした地域に導入されたエコツーリズムの詳細 な調査研究は,希少な生態系を有する島嶼地域な どを対象としたもの以外はほとんど行われていな い1)。それゆえに,既存の観光業が発展した地域 に導入されたエコツーリズムの実態把握も含めた 調査研究の蓄積が急務である。 他方,エコツーリズムは観光の一形態であり (敷田・森重, 2001),その成立には観光者の存在 が不可欠である(吉田, 2003,p. 37)。このため, エコツーリズムに係る取組みを検証するためには, 前述のような地域側への観点に加え,どのような 観光者がエコツーリズムを享受しているのかを把 握することも重要であると考えられるが,この点 についての調査研究もほとんどなされていない。 以上を踏まえ,本稿では,既存の観光業が発展 した地域に導入されたエコツーリズムを取り上 げ,そこに参画する者それぞれの意向について, 地域特性や地域で実践される取組みの特徴と関連 付けて分析し,観光者への観点も加えて,エコ ツーリズムを導入する意義と,そこに生じる課題 を実証的に検証する。 2)研究対象地域の選定と調査方法 前述の目的を達成するためには,地域主体によ るエコツーリズムを実践している地域を選定す る必要がある。そのための指標の一つとして, 2007 年 6 月に参議院本会議により成立したエコ ツーリズム推進法があげられる。 エコツーリズム推進法は,地域の関係者が主体 となって環境の保全と活用に取組み,観光を振興 して,地域経済の発展による地域振興に寄与する ことを目的としている(愛知・盛山, 2008, p. 6 7)。その目的に基づき,市町村は地域の関係者に よってエコツーリズム推進協議会を組織すること ができ,エコツーリズム推進のための全体構想の 作成とその実施体制の整備を条件に,環境省を中 心とする主務大臣2)に対して認定を申請できる。 認定された自治体(エコツーリズム推進協議会) は,地域環境の保全と活用に関する助言のほか, 地域で実践される取組みの広報,エコツーリズム を運営するための補助金といった支援を国から受 けることができる。 このように,地域主体のエコツーリズムを推進 することが法律に明記された。もちろん,時代の 変化によって観光者の嗜好や行動は変化するた め,それに伴う法律の改善は適宜求められるであ ろうが(ブストス・加藤, 2010),今後はエコツー リズム推進法を基軸としたエコツーリズムの導入 が進むと考えられる。実際,川﨑・三部(2015) の調査結果によれば,エコツーリズム推進法の成 立後にエコツーリズム推進協議会を設立する自治
体数が増加しており,同法に基づく認定を目指す 地域が増えているものと推察される。また,この 推進法は地域主体によるエコツーリズムの導入を 促すものであるため,同法に基づく認定を受けた 自治体は,地域主体によるエコツーリズムを実践 する先進地として捉えることができよう。 2018 年 9 月 14 日現在,27 の市町村(14 のエ コツーリズム推進協議会)が国より認定を受け ている。本稿では,2012 年 6 月 29 日に全国で 3 番目に認定された地域である群馬県みなかみ町 (以下,みなかみ町)を事例地域として選定した。 同町は,古くから温泉観光やアウトドアスポーツ が盛んであり,多くの観光者が来訪する地域であ るため,本研究の対象地域として適当であると考 えられる。 なお,冒頭でも述べたが,エコツーリズムの定 義については統一した規定がなされているわけで はない。とはいえ,日本ではエコツーリズム推進 法に則したエコツーリズムの導入が目指されてお り,みなかみ町はこの推進法による認定地域であ るため,本稿では,同法の目的に鑑み,エコツー リズムを「環境の保全と活用により観光を振興さ せ,地域経済の発展による地域振興を目指すも の」と定義し,議論を進めたい。 現地調査は,2015 ~ 2017 年にかけて,みな かみ町観光課自然観光グループ,谷川岳エコツー リズム推進協議会,水上温泉旅館協同組合,みな かみ山岳ガイド協会に加盟する山岳ガイドに対し て断続的に聞取りを行った。研究の目的に鑑みる と,より多くの参画者の意向を把握することが肝 要であると考えるため,みなかみ山岳ガイド協会 に加盟する山岳ガイドのなかで,現地調査で接触 できなかった者には,同協会を通じて聞取り調査 の内容と同様の調査用紙を配布した。また,どの ような観光者がエコツーリズムを享受しているの かを把握するために,2017 年 5 ~ 10 月にかけて, みなかみ山岳ガイド協会が実施するエコツアーの 参加者に対し,同協会を通じてアンケート調査を 実施した。 以下,II 章では,みなかみ町の地域特性とエ コツーリズムの特徴を概観する。III 章では,み なかみ山岳ガイド協会が実践するエコツアーの特 徴を示す。IV 章では,インタープリター3)個々 の意向とその関係性を把握する。V 章では,前 3 章の結果を踏まえ,みなかみ町における観光業の 再建を目指したエコツーリズムの果たすべき役割 と,そこに生じる課題を考察する。最後に,VI 章では,本稿で得られた知見を踏まえて結論を述 べる。 II. みなかみ町の地域特性と エコツーリズムの特徴 1)みなかみ町の地域特性 みなかみ町は群馬県北部に位置し,2005 年 10 月に新治村(現・新治地区),水上町(現・水上 地区),月夜野町(現・月夜野地区)の 3 町村 が合併して誕生した(図 1 )。東京都心部から約 120 km の距離にあり,上越新幹線の利用により 東京駅から約 1 時間 20 分,関越自動車道の利用 によって練馬 IC から約 2 時間で来訪できる。町 内には水上温泉や猿ヶ京温泉といった関東地方を 代表する温泉街があるほか,谷川岳を中心に,登 山やトレッキング,ラフティング,スキーなど, アウトドアスポーツも盛んである。年間の入り 込み客数は 400 万人に上り(図 2 ),みなかみ町 における観光業は重要な産業として位置づけられ る。しかし,バブル経済崩壊後の不況や,旅行者 の観光嗜好の変化に伴い,旧来の温泉を目的とし た観光者やスキー客は減少し,町内には経営破綻 した宿泊施設もみられる。町の人口も急速に減少 しており(図 3 ),観光業の再建が課題となって きた。一方,近年では,全国的な登山・トレッキ ングブームの影響もあり,谷川岳周辺地域に登山 者やトレッキング客が集中し,自然環境への悪影 響が懸念されてきた側面もある。 こうした問題を抱えるなかで,みなかみ町は地 域振興のための基本方針である「第 1 次みなかみ 町総合計画」と「エコタウンみなかみ」を 2008 年 3 月に策定し,地域が主体となって豊かな自 然を保全しながら活用し,地域内外の交流を促進 することを目標に掲げた。同年 9 月には,みな かみ町議会が「みなかみ・水・「環境力」宣言」
を発表し,町の自然環境を「まもる・いかす・ひ ろめる」ことを基本理念として,地域環境を保全 しつつ,観光業を再建して地域を活性化させるこ とが目指され,その具体策が模索されてきた。 2)エコツーリズムの導入過程 以上のように,みなかみ町では地域主体による 環境保全と地域振興の両立が目指されるなかで, その方針や理念と方向性を同じくするエコツーリ ズム推進法が 2008 年 4 月に施行されたことを契 機に,エコツーリズム導入の動きが活発化した。 同年 12 月には,エコツーリズムの推進範囲を谷 川岳周辺地域に定め(図 1 ),みなかみ町職員や 環境省の担当者,町の観光業従事者,地域住民の 代表者で構成される,谷川岳エコツーリズム推進 協議会準備会を設立した。その基本方針は,地域 が主体となって自然環境と生物の多様性を保全 し,それを効果的に活用することで魅力的な地域 を形成して,観光業の再建に結び付けることに あった。 みなかみ町の職員は,エコツーリズムの推進範 囲を谷川岳周辺地域に限定した理由として,おも に以下の点をあげている。(1)谷川岳は町を代 表する自然環境が豊かな地域資源であり,「エコ」 のイメージと結びつきやすいシンボル的な存在と 考えられた。(2)登山者・トレッキング客は谷 川岳周辺地域に集中しており,環境保全が急務で もあったため,エコツーリズムの対象とするにふ さわしい地域と考えられた。(3)当初,谷川岳 エコツーリズム推進協議会準備会メンバーのなか には,みなかみ町全域でエコツーリズムの導入を 検討していた者もいた。しかし,宿泊施設や温泉 施設といったハード面の観光地開発が進んだ水上 温泉や猿ヶ京温泉などの温泉街の関係者には,自 然や生物を連想する「エコ」のイメージが馴染ま 図 1 研究対象地域.資料:国土数値情報.
ず,みなかみ町と地域住民との合意形成も難航し たため,谷川岳周辺以外の地域を加えることが難 しいと考えられた。(4)みなかみ町はエコツー リズム推進法による認定を急いだが,町内にはエ コツーリズムに関する知識や経験を有する者がお らず,インタープリターとしてすぐに活動できる 者は,みなかみ山岳ガイド協会の山岳ガイドに限 られていると考えられた。以上 4 点の理由から, みなかみ町のエコツーリズムの推進範囲は谷川岳 周辺地域に限定された。なお,みなかみ町がエコ ツーリズム推進法による認定を急いだ理由とし て,前述の通り,「エコタウン」が目指されるな かで,エコツーリズムを導入することによって, そのイメージアップを図りたいという思惑もあっ たとのことであった。 エコツーリズムの運営方針や内容の策定には時 間を要したものの,2010 年 12 月には谷川岳エ コツーリズム推進協議会が正式に設立された。そ の方針や理念は準備会のものが踏襲され,官民協 働によるエコツーリズム全体構想案の作成に着手 した。2011 年 6 月には,環境省や国土交通省な どの関係省庁と谷川岳エコツーリズム推進協議会 との協議を開始し,谷川岳周辺地域でのモデルツ アーの実施や,自然環境のモニタリングが行われ た。その結果に基づき作成されたエコツーリズム の全体構想を,関係省庁に対して提出した。これ により,谷川岳エコツーリズム推進協議会は,飯 能市エコツーリズム推進協議会(埼玉県飯能市) と渡嘉敷村エコツーリズム推進協議会(沖縄県渡 嘉敷村)および座間味村エコツーリズム推進協議 会(沖縄県座間味村)に続き,全国で 3 番目と なるエコツーリズム推進法による認定を受けた。 3) 谷川岳エコツーリズム推進協議会の概要と 取組み 谷川岳エコツーリズム推進協議会は,年間 900 ~ 1,000 万円の資金で運営されている(2016 年 現在)。運営資金は,エコツーリズム推進法に基 づく環境省からの補助金 400 万円,JR 東日本お よび JR 東日本ウォータービジネスからの寄付金 がそれぞれ 200 万円4),みなかみ町の公共事業に よる支出金 100 ~ 200 万円からなる。谷川岳エ コツーリズム推進協議会は,エコツアーを中心と 図 2 みなかみ町における観光入込客数の推移.資料: 群馬県観光局観光物産課「観光客数・消費額調 査(推計)結果」.
Fig. 2 Changes in the number of tourists in Minakami town. Source: Gunma prefecture tourism bureau tourism product division (Number of tourists/ Results of consumption survey (estimate)).
図 3 みなかみ町における地区別人口の推移.資料: 国勢調査.2000 年以前の数値は合併前の人口を 示す.
Fig. 3 Changes in population by district in Minakami town. Source: Population census. Figures before 2000 indicate population before merger.
したエコツーリズムを目指しており,インタープ リターの養成やスキルアップを重視し,運営資金 はインタープリテーション講習の開催費にあてら れている。この講習は,谷川岳を中心として,み なかみ町の自然や歴史,文化の学習,参加者の救 急法,フィールドワークに基づく解説法の教授を 目的に行われるものである。講習の受講は,みな かみ町でインタープリターとして活動するための 必須条件であり,受講者は谷川岳エコツーリズム 推進協議会より認定を受けることができる。 運営資金は,インタープリテーション講習の開 催費のほか,エコツーリズムに関するパンフレッ トの作成やホームページの管理,谷川岳周辺地域 における案内看板やベンチの設置などに活用され ている。また,2014 年からは電気バス「いっちゃ ん」「倉ちゃん」5)の 2 台を運行しており,その費 用にもあてられている。 電気バスは,歩行が難しい子どもや高齢者,気 軽に一ノ倉沢を見学したい観光者向けに,谷川岳 ロープウェイ土合口駅と一ノ倉沢の区間で運行さ れている(図 4 )。その背景には,2013 年以前 の谷川岳では一ノ倉沢出合まで自家用車の乗り入 れが可能であり,交通渋滞の発生や排気ガスによ る自然環境への悪影響,通行人の安全性が危惧さ れてきたことがある。このため,2014 年より谷 川岳山岳資料館前から一ノ倉沢出合の区間で,一 般車両の通行を規制し,その代替手段として電 気バスの運行がはじまった。電気バスには,イ 図 4 みなかみ山岳ガイド協会が実施するエコツアーと電気バスのルート.資料:みなかみ山岳ガイド協会資料. Fig. 4 Routes of ecotours conducted by Minakami Mountain Guide Association and Electric bus. Source: Material of
ンタープリターとして認定を受けたガイド 2 名 が 2015 年より交替で乗車している。運賃は無料 であるが,ガイド料として片道 500 円を支払う ことで乗車でき,乗客は谷川岳の自然や歴史,文 化についての解説をガイドより受けることができ る。電気バスは 8 人乗り6)で 1 日 6 往復してお り,2015 年には運行回数が 960 往復,乗車人数 は 8,528 人に上った。その収益からは,電気バス ガイドへの謝礼金7)と電気バスの維持費が支出さ れ,残りは谷川岳エコツーリズム推進協議会の運 営費にあてられる。 以上のように,谷川岳エコツーリズム推進協議 会はエコツーリズムに係るハード・ソフト面の整 備や電気バスの運行を行う一方,エコツアーを中 心としたエコツーリズムを目指し,インタープリ ターの養成を進めてきた。実際にインタープリター として認定された者は 2016 年現在で 27 名おり, そのうちの 18 名をみなかみ山岳ガイド協会に所 属する山岳ガイドが占める。このため,谷川岳周 辺地域で実施されるエコツアーの大半は同協会が 主催するものである8)。以下では,みなかみ山岳 ガイド協会の実施するエコツアーの特徴を述べる。 III. みなかみ山岳ガイド協会による エコツアーの特徴 1) みなかみ山岳ガイド協会とエコツアーの概 要 みなかみ山岳ガイド協会は 1998 年に設立され, 水上地区の温泉街を取りまとめる水上温泉旅館協 同組合に属している。山岳ガイドが谷川岳を中心 に,尾瀬や武尊山といった山々を案内し,登山者 が楽しみながら安全に登頂できるようにするこ とを目的としている。2016 年現在では,登山技 術や救助方法を習得した山岳ガイドが 30 名所属 し,そのうち 18 名がインタープリターとして認 定を受け,エコツアーを実施している。 みなかみ山岳ガイド協会が実施するエコツアー は 3 種類9)である(図 4 )。その参加者数は,天 候などにも左右されるが,年間 400 ~ 600 人前 後で推移してきた。なかでも,もっとも参加者が 多いのは,「谷川岳一ノ倉沢エコハイキング」で ある(図 5 )。参加料金は 3,800 円であり,3 種 類のエコツアーのなかでもっとも低価格である。 その内容は,谷川岳山岳資料館と一ノ倉沢の間 を,舗装された国道 291 号に沿って散策するも のであり,所要時間も 3 時間程度であるため, 難易度も他のエコツアーに比べて相対的に低く, 子どもや高齢者,登山・トレッキングの経験に乏 しい者でも参加しやすい。次いで参加者が多いの は「谷川岳天神平自然散策ツアー」であり,参加 料金は 4,860 円10)である。これは,谷川岳ロー プウェイを利用して天神平駅に登り,天神尾根周 辺を散策しながら高山植物や透閃石,アスベスト の鑑賞・観察を行うものであり,所要時間が約 2 時間 30 分と 3 種類のエコツアーのなかでもっと も短い。「自然と歴史のトレッキング」は,谷川 岳を望みながら土合駅と一ノ倉沢の間を湯檜曽川 に沿って散策するもので,所要時間が 6 時間 30 分と他のエコツアーに比べて長時間であり,移動 距離も長く,参加料金も 5,300 円ともっとも高額 である。このため,みなかみ山岳ガイド協会は登 山・トレッキングの中級者向けと位置づけている。 以上のように,みなかみ山岳ガイド協会が実施 図 5 みなかみ山岳ガイド協会が実施するエコツアー 参加者数の推移.資料:みなかみ山岳ガイド協 会資料.
Fig. 5 Changes in the number of ecotour participants guided by Minakami Mountain Guide Associa-tion. Source: Material of Minakami Mountain Guide Association.
するエコツアーは,一ノ倉沢や天神平といった谷 川岳周辺の観光名所を巡るものとなっており,一 般の観光者や登山・トレッキング客も多く利用す る場所で行われている。 2016 年以前では,エコツアーを実施する山岳 ガイドに対し,1 ツアーにつき 15,000 円の謝礼 金が水上温泉旅館協同組合より支払われていた。 しかしながら,同組合によると,団体の申し込み が稀にはあるが,1 ツアーあたりの参加者数は少 なく,平均して 2 名程度で推移しており,エコ ツアーの実施が赤字となることも少なからずある とのことであった。エコツアーの収益は経年的に 減少しており,2017 年には山岳ガイドへの謝礼 金を 10,000 円に引き下げることで,かろうじて 運営が可能になっている。また,多様なニーズに 応えるために,エコツアーのコースや内容に多様 性をもたせることも検討しているが,谷川岳周辺 地域で行えることには限界があるとも回答してい る。他方,温泉旅館やホテルなどの宿泊施設との 提携によるエコツアーと宿泊をセットにしたプラ ンがあるものの,申し込みはほとんどなく,みな かみ町における観光業従事者のエコツーリズムへ の関心は低い現状もあるとしている。 2) みなかみ山岳ガイド協会のエコツアー参加 者の特徴 みなかみ山岳ガイド協会のエコツアーの特徴を より明確にするために,ここでは,エコツアー参 加者へのアンケート調査結果から,同協会のエコ ツアーを,どのような観光者が享受しているのか を明らかにする。エコツアー参加者へのアンケー トは,みなかみ山岳ガイド協会がエコツアーを実 施している 2017 年 5 月~ 11 月にかけて,同協 会を通じて配布し,年間の参加者 230 名11)のう ち,142 名(61.7%)の回答を得た。 表 1 にアンケート回答者の基本属性を示す。 年齢では,40 代以上の中高年の割合が相対的に 高く,若年層は少ない。性別では,女性の割合が 高く,居住地では,群馬県を中心として首都圏近 郊の居住者が多い。交通手段では,自家用車の利 用が多いが,鉄道やバスなどの公共交通機関の利 用者も少なくない。同行者では,配偶者や友人, 表 1 アンケート回答者の基本属性. Table 1 Basic attributes of questionnaire respondents. 年齢 20 代以下 30 代 40 代 50 代 60 代以上 NA 3.5% 10.6 20.4 31.7 32.4 1.4 性別 男 女 33.8 66.2 居住地 群馬県 東京都 埼玉県 千葉県 その他 40.8 19.7 15.5 9.9 14.1 交通手段* 自家用車 鉄道 バス 67.6 32.4 11.3 同行者 配偶者 友人 一人 親子 恋人 その他 40.1 35.9 10.6 9.2 0.7 3.5 参加目的* 登山・トレッキングが好き 自然環境に興味がある ガイドとの交流 友人・知人に誘われて 気軽そう 勉強のため 61.3 50.7 21.8 19.7 14.8 5.6 みなかみ町への 来訪経験 あり なし 83.8 16.2 エコツアーへの 参加回数 初めて 2 回目 3 回目 4 回目 94.4 3.5 0.7 1.4 またエコツアー に参加したいか 参加したい やや参加したい やや参加したくない 参加したくない 81.0 18.3 0.7 0.0 資料:アンケート調査により作成. NA は回答なし. * は複数回答のため合計しても 100%にならない. Source: Created by questionnaire survey. NA indicates no answer.
* Since it is multiple answers, it does not become 100% even if totaling.
親子などのグループが多い一方,一人で参加する 者もいる。エコツアーへの参加目的では,「登山・ トレッキングが好き」が全体の 60%を超え,「自 然環境に興味がある」も約半数を占める。みなか み町への来訪経験では,回答者の大半が「ある」 と回答する一方,エコツアーへの参加回数では, 「初めて」と回答した者が大半であり,新規客が 多い。また,今後もエコツアーに参加したいかに ついては,「参加したい」と「やや参加したい」 がほとんどであり,「参加したくない」と回答し た者はいない。 図 6 は,みなかみ町に宿泊するエコツアー参 加者の割合を居住地別に示したものである。これ によると,東京都と群馬県との間で,高速道路お よび鉄道によるアクセスのよい地域からの参加者 が多い。宿泊の有無をみると,日帰りの参加者 は,群馬県南部を中心として,東京都や埼玉県な どに多く認められる。日帰りの観光者は,東京都 心を中心に,居住地が位置する方面のセクターお よびそれを延長した地域に来訪地域を選択する傾 向にあることが指摘されており(落合, 1999; 中 岡, 2012),日帰りのエコツアー参加者もおおむ ね同様であった。宿泊を伴う参加者は,東京都や 埼玉県を中心として首都圏に広く分布する一方, 群馬県内ではあまりみられない。まち・ひと・ しごと創生本部が提供する地域経済分析システ ム RESAS によると,みなかみ町における 2016 年の宿泊客の居住地は,東京都 30.2%,埼玉県 22.3%,神奈川県 12.4%,千葉県 11.6%,群馬 県 8.6%と続いており,宿泊を伴うエコツアー参 加者と一般の宿泊客の居住地はおおむね同じ傾向 にあった。つまり,みなかみ山岳ガイド協会が実 施するエコツアーの参加者と一般の観光者では, 居住地と宿泊の有無との関係性の観点では大きな 差がないと考えられる。 このように,みなかみ山岳ガイド協会のエコツ 図 6 みなかみ町に宿泊をするエコツアー参加者の割合.資料:アンケート調査により作成. Fig. 6 Percentage of ecotour participants who stay in Minakami town. Source: Questionnaire survey.
アー参加者には,おもに登山やトレッキングを嗜 好し,群馬県や東京都を中心に,鉄道や高速道路 によるみなかみ町へのアクセスのよい地域に居住 する中高年の住民が多いといえる。とくに,エコ ツアー参加者の大半はこれまでにもみなかみ町を 来訪した経験があるため,程度の大小はあろう が,同町に魅力を感じている者が多いと考えられ る。また,今後もエコツアーに参加したいと回答 した者が多いことから,エコツアーの満足度も高 いと推察される。一方,現状では新規客が多く, リピーターの獲得には至っていない。この理由に ついては明確にできないが,水上温泉旅館協同組 合が述べるように,エコツアーのコースや内容が 類似し,旅行商品としての多様性に乏しい点が一 因として考えられる。 なお,みなかみ町が一般の来訪者 1,240 人を 対象に,2011 年 9 月から 2012 年 5 月にかけて 実施した「みなかみ来訪者調査」の報告書による と,来訪目的は「温泉」が 67.0%ともっとも高 く,「自然・景観観光」27.6%,「地元の食を味わ う」18.5%,「スキー・スノーボード」8.6%,「ラ フティング・キャニオニング」7.1%と続く。ま た,何らかのガイド付きツアーに参加した者は全 体の 23.4%であり,そのうちエコツアーは 0.7% に留まっている。この調査期間は,みなかみ町で はエコツーリズムの導入期にあたり,エコツーリ ズム推進法による認定を受けた後の割合とは必ず しも一致しないであろうが,そもそも同町におけ るガイド付きツアーの参加率は高くないし,エコ ツアーの参加者数も経年的に大きな変化はない。 これらのことを踏まえれば,エコツアーはニッチ な旅行商品として位置づけられる。 IV.インタープリターの属性と参画意識 以上では,みなかみ町や谷川岳エコツーリズム 推進協議会,水上温泉旅館協同組合,みなかみ山 岳ガイド協会の意向と,エコツーリズムに係るお もな取組みであるみなかみ山岳ガイド協会による エコツアーの特徴を明らかにできた。以下では, 聞取りおよびアンケートの結果から,実際に現場 で活動するインタープリターの参画意識を示す。 なお,本稿ではより多くのエコツーリズム関係者 の意向を把握することに重点を置いているため, みなかみ山岳ガイド協会の山岳ガイドのほか,電 気バスのガイドも対象とした。被調査者は,みな かみ山岳ガイド協会に所属する山岳ガイドが 12 名(そのうちアンケート 7 名),電気バスガイド が 2 名である(表 2 )。ただし,電気バスガイド の No. 13 はみなかみ山岳ガイド協会にも所属し, 同協会のエコツアーも実施している。 1)被調査者の属性 調 査 対 象 者 に は 60 歳 以 上 が 多 く, 全 体 の 57.0%を占める(表 2 )。全体の 71.0%がみなか み町内に居住し,そのうちの 60.0%は町外出身 者であるが,平均居住年数は 25.2 年と長期間に わたる。職業は,観光業従事者が全体の半数を占 めるほか,会社員(観光業以外),山岳ガイド, 農業,無職がいる。おもな収入のうち,「本業か らの給料」が 61.1%を占め,働きながらエコツー リズムに関わる者が多いが,「年金」と回答した 定年退職者や「配偶者の給料」で生活する専業主 婦も参画している。 活動場所をみると,全体の 66.7%が谷川岳周 辺地域のみで活動している。一方,みなかみ山岳 ガイド協会に所属する者には谷川岳以外で活動 する者もおり,そのすべてが尾瀬と回答してい る。年間の実施回数をみると,電気バスガイドの No. 13,14 が突出して多くなっているが,これ は III 章で示したように,電気バスが定期運行さ れていることによる。みなかみ山岳ガイド協会に 所属する者は,数の多少はあるものの,定期的に エコツアーを実施していることがわかる。 参画理由をみると,「生きがい・楽しみ」と 回答した者が 72.2%ともっとも高く,「環境教 育」50.0%,「地域振興」38.9%,「収入のため」 27.8%,「環境保全」22.2%と続く。 以上のように,インタープリターには所属や職 業といった属性の異なる者が関わっており,参画 理由にも差異が認められる。以下では,インター プリターそれぞれがエコツーリズムで達成したい ことを,環境保全と地域振興の両面から調査した 結果を示す。
まず,環境保全に必要なこととして,「地域環 境への理解を深める」が 78.6%ともっとも高く, 「ルールの周知」57.1%と続く。一方,「環境保全 費用の捻出」が 14.7%と低いことから,環境保 全についてはエコツーリズムを通じて谷川岳周辺 地域の理解に繋げたいと考える者が多い傾向にあ る。 次に,地域振興に必要なことでは,エコツアー による「経済効果」が 85.7%ともっとも高く, 「地域内外の交流の促進」71.4%,「観光業の再 建」64.3%,「賑わいの創出」35.7%と続く。こ のことから,地域振興についてはエコツーリズム を通じて町の観光振興に結び付けたいと考える傾 向にある。 これらエコツーリズムで達成したいことを踏ま え,その達成度についてみると,「環境保全・地 域振興ともに不十分」とした者が 44.4%ともっ とも高く,「環境保全には十分であるが地域振興 には不十分」27.8%,「環境保全・地域振興とも に十分」16.7%と続く。 以上のように,インタープリターのなかでは, エコツーリズムで達成したいことと,その達成度 に温度差が認められる。以下では,インタープリ ター個々の意向に基づき,この点を明確にする。 2)インタープリター個々の意向 みなかみ町のエコツーリズムについて,「環境 保全・地域振興ともに十分」とした者は,No. 6, 11,13 の 3 者である(表 2 )。No. 6 の 60 代女 性は,山や自然が好きで,年金で生活をしながら 楽しみのために山岳ガイドとして活動している。 エコツアーを通じて地域に賑わいをもたらし,地 域環境への理解を深めることにも繋がるとしてい る。そのため,今後も継続してエコツアーを実 施することが重要であると回答している。No. 11 の 70 代男性は登山が好きで,定年退職を契機 に,山岳ガイドとして活動するようになった。エ 表 2 インタープリターの属性. Table 2 Attributes of interpreter.
所属 No.(歳代) 性別 出身地 居住地年齢 居住歴(年) 職業 主な収入 参画理由 活動場所 実施回数 (年間) 環境保 全に必 要な事 地域振 興に必 要な事 達成度 環境 保全 地域振興 みなかみ山 岳ガイド協 会 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 30 40 40 50 60 60 60 60 60 60 70 70 男 男 女 男 男 女 男 男 男 男 男 男 町内 町内 町内 町外 町外 町外 町内 町内 町内 町内 町外 町内 外 水 水 水 水 月 水 水 外 外 月 月 22 10 17 50 69 66 24 36 45 60 70 50 cd a cd b d e c c a c e e ⅰ ⅰ ⅰ ⅰ ⅰ ⅱ ⅰ ⅰ ⅰ ⅱ ⅱ ⅱ (3)(4) (1)(2)(3) (1)(2)(4) (3)(5) (3)(4)(5) (3)(5) (4)(5)(6) (5)(6) (2)(5) (3)(4)(5) (3)(5) (5) 内 内外 内外 内 内外 内 内 内 内外 内外 内 内 10 回 8 回 多数 15 回 30 回 20 回 約 8 回 3 回 約 5 回 10 回 20 回 5 回 D BD ABCD BD D CD ABC BC D BD D BD FH EFGH EFG EFG EFGH EH FG FG F EFG EH EF 不 十 不 十 不 十 不 十 不 十 十 不 不 不 不 不 不 十 不 不 不 不 十 不 電気 13 40 女 町内 月 14 e ⅲ (1)(2)(5) 内外 130 回 B EH 十 十 バスガイド 14 50 女 町内 外 4 f ⅰ (1)(3)(5) 内 90 回 D FG 不 不 出身地の町内はみなかみ町内,町外はみなかみ町以外を示す.居住地の水は水上地区,月は月夜野地区,外はみなかみ町以外を示す. 職業の a は会社員(観光業),b は会社員(観光業以外),c は自営業(観光業),d は山岳ガイド,e は無職,f はその他を示す.主な 収入のⅰは本業からの給料,ⅱは年金,ⅲは配偶者の給料を示す.参画理由の(1)は環境保全,(2)は地域振興,(3)は環境教育,(4) は収入のため,(5)は生きがい・楽しみ,(6)は自身の勉強を示す.環境保全に必要な事の A は環境保全費用の捻出,B はルールの周 知,C はモニタリングの定期実施,D は地域環境への理解を深めるを示す.活動場所の内は谷川岳のみで活動,内外は谷川岳以外でも 活動を示す.地域振興に必要な事の E は地域内外の交流の促進,F は経済効果,G は観光業の再建,H は賑わいの創出を示す.達成 度の十は十分,不は不十分を示す.
コツアーによって地域内外の交流が盛んになれば 住民に活力が生まれ,環境を保全する重要性への 理解にも繋がると回答している。No. 13 の専業 主婦の 40 代女性は,エコツアー参加者や電気バ スの乗客との交流に生きがいを感じて活動してい る。この活動を通じ,観光者に谷川岳の魅力を伝 え,希少な生態系への配慮や登山マナーへの認識 を高めることに寄与したいと回答している。 このように,現行のエコツーリズムに係る取組 みが「環境保全・地域振興ともに十分」とした者 は定年退職者や専業主婦であり,自身の生きがい や楽しみといった幸福感を重視している。そして, 取組みを通じて地域内外の交流の促進によって賑 わいを創出し,来訪者への解説によって地域環境 への理解を深めたいと考える傾向にあることがわ かった。 「環境保全には十分であるが,地域振興には不 十分」とした者では,例えば No. 2 の 40 代男性 があげられる。彼は,みなかみ町内の会社員(観 光業)として勤務しながら山岳ガイドとしても活 動しており,来訪者に対して自然環境に配慮した 観光のあり方を伝えることで,谷川岳周辺地域の 適正利用に繋がるとしている。しかし,エコツ アーは単発にすぎず,町の観光業従事者の関心は 小さいとし,より多くの地域住民の参画を促すこ とが課題と回答している。No. 8 の 60 代男性は, みなかみ町内で自営業(観光業)を営んでおり, エコツアーを通じて自然環境との関わり方を参加 者に解説し,町を象徴する谷川岳が将来にわたっ て保全されることが重要であるとしている。一方, みなかみ町の発展には観光業の再建が肝要である が,エコツアーと町の観光業との繋がりは薄いと も回答している。No. 10 の 60 代男性は,みなか み町外で自営業(観光業)を営みながら,谷川岳 を中心として尾瀬や武尊山でも山岳ガイドを行っ ており,エコツアー参加者との交流に生きがいと 楽しみを感じて活動している。しかし,町の観光 業との接点に乏しい現行のエコツーリズムでは, 観光業従事者の多いみなかみ町において,多くの 地域住民の参画は望めないとも回答している。 このように,現行のエコツーリズムに係る取り 組みが,「環境保全には十分であるが,地域振興 には不十分」とした者では,環境保全については 来訪者への環境教育によって達成したいとする向 きがある。この点は,「環境保全・地域振興とも に十分」とした者と同様であった。一方,地域振 興については,エコツーリズムとみなかみ町の観 光業との連携を重視するが,これについては達成 できていないと考える傾向にあることがわかった。 「環境保全・地域振興ともに不十分」とした者 では,例えば No. 1 の 30 代男性は,みなかみ町 外で自営業(観光業)を営みながら,群馬県を中 心に山岳ガイドとして活動している。エコツアー の実施によって自身の勉強となり,わずかでも収 入に繋がっているとしている。しかし,エコツ アーはビジネスとしての需要に乏しく,雇用には 結びつかないため,活動に関わる者が限定的であ り,参加者も少ないことから,自然環境への理解 も一部の者にしか広まらないとも回答している。 No. 7 の 60 代男性は,みなかみ町内で自営業(観 光業)に従事しており,自身が地域の魅力を学習 し,それをエコツアー参加者に伝えることに生き がいを感じている。しかし,谷川岳のエコツアー が地域内外で広く認知されておらず,集客力に乏 しいとし,広報のあり方を検討するべきであると 回答している。No. 14 の 50 代女性は,現在はみ なかみ町外に居住しているが,かつては町内に居 住しながら旅館で勤務した経験がある。谷川岳周 辺の生態系への理解をエコツーリズム関係者と観 光者に広め,外来生物への関心を高めて,その駆 除に繋げたいと考えている。現状では,エコツー リズムの認知度は低く,みなかみ町の観光業との 接点も乏しいとし,今後はより多くの町民と観光 者に取組みを周知し,環境保全意識を深めること が課題であると回答している。 このように,現行のエコツーリズムに係る取り 組みが「環境保全・地域振興ともに不十分」とし た者は,観光業との連携を重視する点が「環境保 全には十分であるが,地域振興には不十分であ る」とした者と類似する。環境保全についても, 来訪者への環境教育によって達成したいとする向 きがあるが,エコツーリズムに係る取組みの認知
度不足を指摘する者が多くみられた。そのため, 環境保全と地域振興ともに達成出来ていないとす る傾向にあることがわかった。 以上のように,インタープリター個々では環境 保全や地域振興のあり方に対する認識に差異があ り,それには職業や経歴といった属性の違いが反 映していた。 V. みなかみ町におけるエコツーリズムの 役割と課題 エコツーリズムが地域主体による観光地づくり の切り札として期待されるなかで,その導入が全 国各地で進められてきた。みなかみ町の場合,旧 来の温泉を目的とした観光者やスキー客の減少な どにより,観光業の衰退が問題視されてきた。一 方,谷川岳の周辺地域に登山・トレッキング客が 集中することによって,自然環境への悪影響が懸 念されてきた。こうした地域的な問題を抱えるな かで,みなかみ町は地域が主体となって環境を保 全し,「エコ」を活かして観光業の再建を実現す るための一手段としてエコツーリズムを導入した。 みなかみ町とは特性の異なるエコツーリズム導 入地域をみると,例えば,農村の長野県飯田市は, 第 3 セクターを中心としながら地元農家が修学 旅行をはじめとする学校教育旅行を受け入れ,農 家民泊を促すことで農産物の顧客への直接的な 提供・販売に結びつけようと試みている(Tran and Noma, 2012)。また,里地里山の埼玉県飯能 市は「すべての地域と住民の参加」を目指した結 果,観光者との交流に幸福感や充実感を感じる多 くの住民が居住地域の環境に応じた多様なエコツ アーを開催している(中岡, 2018)。これらは観 光地として注目されてこなかった地域であり,地 域づくりに観光の要素であるエコツーリズムを新 たに組込むことで地域の活性化を目指しており, 双方ともにエコツーリズムが観光施策の中核に位 置付けられている。一方,みなかみ町におけるエ コツーリズムは重要な観光施策の一つであるが, 飯田市や飯能市のように観光施策の中核に位置付 けられてはいない。それは,みなかみ町はすでに 多くの観光者が訪れる地域であり,温泉観光やア ウトドアスポーツが主流な観光形態として確立さ れているからである。実際,谷川岳エコツーリズ ム推進協議会の基本方針は「地域が主体となって 自然環境と生物の多様性を保全し,それを効果的 に活用することで魅力的な地域を形成して,観光 業の再建に結び付けること」である。すなわち, みなかみ町におけるエコツーリズムの特徴として, 既存の観光業が発展した地域であるがゆえに,そ れを支える柱の一つとしてエコツーリズムが位置 づけられた点があげられる。 また,既存の観光業が発展した地域で危惧され るのは,例えば西表島のように,エコツーリズム の導入に伴って島内に普及した移住者・長期滞在 者によるカヌー産業(エコツアー)が地元の民宿 観光との競合を生み,地元住民と新興住民の対立 に繋がるケースである(柳田, 2012)。この点, II 章で述べたように,みなかみ町ではハード面 の観光開発が進んだ温泉街をはじめとする地域住 民との合意形成が難航したこともあり,エコツー リズムの推進範囲を谷川岳周辺地域に限定するこ とで,町の観光業との住み分けを図った。そして, 町内に既存する組織である,みなかみ山岳ガイド 協会を活用した。それゆえに,西表島のような対 立は生じなかったと解釈できる。 みなかみ町では谷川岳周辺地域にエコツーリズ ムを導入したことにより,みなかみ山岳ガイド協 会によるエコツアーを中心とした取組みが実践さ れるようになった。そして,登山者やトレッキン グ客が集中するこの地域において,山岳ガイドを 中心としたインタープリターによって,自然環境 や歴史,文化といった地域環境に関する解説が観 光者に施されるようになった。このことは,地 域主体の重要性(敷田ほか, 2001; Tanaka et al., 2011)や,地域環境に対する地域内外の理解の 促進(敷田・森重, 2003)が指摘されるなかで, みなかみ町のエコツーリズムは,同町を象徴する 谷川岳およびその周辺地域の保全意識を地域が主 体となって高める取組みとして評価できる。ま た,登山客やトレッキング客が集中する谷川岳周 辺地域において,エコツーリズムを通じた環境教 育を継続することで,Long(2011)が指摘する
地域文化への理解を深めることにも繋がる可能性 もある。それゆえに,谷川岳周辺地域に導入され たエコツーリズムについて,その地域が教育・学 習の場として活用されることには意義を見いだせ る12)。 また,みなかみ町の場合に特筆すべきは,エコ ツーリズムに参画する者の多くが町の観光業に関 わっている点である。インタープリターの一部も 述べているが,エコツーリズムに関わることで, 参画者自身も地域を学習したり,理解したりして いる。すなわち,エコツーリズムを通じ,観光者 に対して教育・学習の場を提供するだけではなく, 町の観光業に関わる参画者が,地域の環境を保全 することの重要性を認識する機会の創出に繋がっ ている。このため,みなかみ町における観光業の 拠点である温泉街などにも保全意識が普及・促進 されることが期待される。 さらに,観光者との交流によって生きがいや楽 しみといった幸福感を感じたり,わずかでも収入 に繋がったりしていると述べる者も多く,参画者 個々の立場でも社会・経済的な効果が認められる。 しかし,谷川岳周辺地域に導入されたエコツー リズムには,課題も残されている。みなかみ町の エコツーリズムは,その推進範囲が谷川岳周辺地 域に限定されているがゆえに,既存の観光業との 接点に乏しく,山岳ガイド以外の観光業従事者や 地域住民のエコツーリズムへの関心は低いと考え られる。実際,インタープリテーション講習の受 講者の多くはみなかみ山岳ガイド協会の山岳ガイ ドであるし,エコツーリズムに係る取組みも同協 会のエコツアーが大半である。また,みなかみ町 の主たる観光資源はエコツーリズムの推進範囲に 入っていない(図 1 )。それゆえに,エコツーリ ズムを享受する観光者も,おもに谷川岳周辺地域 における登山・トレッキングや自然環境を嗜好す る者の一部に限られ,III 章で述べたように,エ コツアーはニッチな旅行商品として位置づけられ るようになったと理解できる。これらのことは, エコツーリズムの認知度が地域内外で不足してい ることや観光業との連携が不十分であると指摘す る多くのインタープリターの意識とも結びついて いた。 VI.お わ り に 本稿の目的は,既存の観光業が発展した地域で あるみなかみ町の谷川岳周辺地域を事例に,同町 の地域特性や実践される取組みの特徴と,参画者 それぞれの意向とを関連づけて分析し,観光者へ の観点も加えて,エコツーリズムの導入意義とそ こに生じる課題を検証することであった。 ハード面の観光開発が進められたみなかみ町に おいて,自然環境が豊かに残存する谷川岳周辺地 域は,同町にとって欠かせない観光資源であり, 保全されるべき対象である。それは,みなかみ町 でエコツーリズムに参画する者が共通して認識し ている。エコツーリズムに係る取組みを通じ,参 画者自身が学習して地域を理解し,登山者やト レッキング客が集中する谷川岳周辺地域におい て,観光者への環境教育を施すことで,この地域 の保全のみならず,その意識を地域内外で着実に 広めてきた。またその過程では,参画者個々が観 光者との交流に幸福感を感じたり,ガイドによる 収入を得たりしている。つまり,エコツーリズム を導入する意義には,地域全体やエコツーリズム の推進範囲,参画者個々のレベルといった階層性 のあることが指摘できる。 一方,エコツーリズムの果たすべき役割やその 達成度についての考え方は一様ではなく,参画者 のなかで温度差がある。とくに,みなかみ町の参 画者には観光業従事者が多く,同町の地域振興に は観光業の再建が欠かせないとする向きがある。 みなかみ町や谷川岳エコツーリズム推進協議会の 方針にしても,エコツーリズムを地域主体による 観光地づくりの一手段として捉え,観光業の再建 に寄与させることにあった。しかし,エコツーリ ズムの推進範囲が谷川岳周辺地域に限定されたこ とで取組みの幅が狭まり,既存の観光業との接点 が乏しくなった結果,エコツアーはニッチな旅行 商品として位置づけられるようになった。このた め,エコツーリズムと町の観光業との連携を目指 す参画者の多くが,その実現には至っていないと し,現行のエコツーリズムに係る取組みでは不十