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No.6
滋賀大学保健管理センター〔 2004 . 11 〕鳥インフルエンザについて
鳥インフルエンザは、家禽の A 型インフル エンザウイルス感染症のことで、家禽・家畜・ 野生鳥獣・ヒトの A 型インフルエンザウイル ス遺伝子は、全てがその腸内ウイルスに由来 しています。つまり、インフルエンザは典型 的な人獣共通感染症であり、水禽特にカモや アヒルがその自然宿主です。そのため、当面 このウイルスを根絶することはできません。 家禽の感染を早期に発見して被害を最小限に 食い止めるとともに、ヒトの健康と食を守る ことが、鳥インフルエンザ対策の基本となり ます。A 型インフルエンザには様々な亜型が あり、赤血球凝集素(H)1-15 とノイラミニ ダーゼという酵素蛋白(N)1-9 の組み合わ せで表現されます。ウイルスがニワトリ集団 に侵入し、ニワトリからニワトリへ数ヶ月に 亘って感染を繰り返すと、病原性を獲得する ことが経験的にわかっています。現在問題に なっている高病原性鳥インフルエンザの HA 亜型はH5 または H7 に限られています。 日本では、高病原性鳥インフルエンザは、 1924 年に千葉県で発生して以来、2003 年まで 発生はありませんでした。ところがアジアで 鳥インフルエンザが拡がるに伴って、2004 年1 月から、山口県、大分県、京都府で H5N1 ウイルスの感染による高病原性鳥インフルエ ンザが集団発生しました。国と各自治体の適 切な対応により、4 月にはこのウイルスは日 本の家禽から姿を消しています。この一連の 集団発生は、感染症に国境がないこと、日本 の家禽にも本症発症のリスクがあること、家 禽のモニタリングを通年的に実施し、ウイル スの侵入をいち早く検出する必要性を示して います。アジアでは現在も高病原性鳥インフ ルエンザによる家禽の被害が断続的に発生し ており、これが日本に飛び火する可能性は通 年的に存在すると考えられます。 過去数十年間ヒトが経験していない亜型の A 型インフルエンザが、ヒトに伝播する性質 を獲得すると、人々にはその亜型に対する免 疫がないため、インフルエンザの大流行がお こります。これを新型インフルエンザと呼び、 20 世紀中に 3 回の大流行があり多くの人命が 失われ、社会の機能が麻痺しました。スペイ ンかぜでは、世界中で少なくとも 2000 万人 (一説には 5000 万人以上)が死亡したとされ ています。また、アジアかぜと香港かぜでは、 その発生原因として、家禽のウイルスとヒト インフルエンザウイルスとがおそらくブタに 共感染し、遺伝子交換と再集合により生じた 新型ウイルスによって惹き起こされたと考え られています。このようなことから、高病原 性鳥インフルエンザが脅威とされるわけです。 高病原性鳥インフルエンザの、鳥からヒト への感染は、これまでにいくつかの事例が報 告されています。1997 年香港において高病原 性鳥インフルエンザが大流行し、12 月までに ヒト18 名が感染し、6 名が死亡しました。ま た、2003 年 2 月オランダで H7N7 が流行し、 ヒト89 人で感染が確認され、78 人が結膜炎 を、2 人がインフルエンザ様症状を、5 人が その両方の症状を示し、獣医師1 名が死亡し ました(その後の調査で、ヒト 1000 人以上 に感染が拡大しており、鳥に直接接触しない 家族にも感染していたことが、最近報告され、 この型のインフルエンザはヒトからヒトへの 感染がおこる可能性が推測されています)。 2003 年 12 月から、アジアの広い範囲で鳥インフルエンザウイルス H5N1 および H5N2 型が流行しました。ヒトへの感染は、ベトナ ムで22 名、タイで 12 名(2004 年 3 月 31 日現在)の発症者が報告され、それぞれ 15 名と8 名が死亡しており、その後も散発的に 感染・死亡例が報告されています。東南アジ アのH5N1 の事例では、発熱・咳などヒトイ ンフルエンザと同様の症状から、多臓器不全 に至る重症例がみられ、主な死因は肺炎でし た。但し、報告された症例は、H5N1 の感染 が確認されたごく一部の重症例であり、上記 の地域で多数のヒトを対象に実施された鳥イ ンフルエンザに関する検査の結果が待たれて います。 これまで、香港では生きた鶏の小売り、ベ トナムやタイでは日常的な飼育鳥との接触、 オランダでは病鳥の防疫業務に携わったこと など、日常的あるいは濃密な感染鳥への接触 が感染の原因と考えられています。すなわち、 ヒトが鳥インフルエンザウイルスの感染を受 けるのは、病鳥と近距離で接触した場合、ま たはそれらの内臓や排泄物に接触するなどし た場合が多いと考えられており、鶏肉や鶏卵 からの感染の報告はありません。しかしなが ら、これだけ鳥インフルエンザが蔓延した状 況では、鳥インフルエンザの制圧と最終的な 根絶の最良の方法であるとされる、感染動物 の処分がなされても、その制圧はなかなか困 難で、ヒトへの感染のリスクは一年を通して 存在することになります。 現在までのところ、高病原性鳥インフルエ ンザのヒトからヒトへの感染は、オランダの 例を除いて非常に限定的です。しかしながら、 上記のように、ブタはヒト型と鳥型インフル エンザの両方の受容体を持ち、ブタの体内で、 両方のインフルエンザが DNA の再集合(遺 伝子の一部が入れ替わること)を起こしたり、 ヒトや家禽・ブタなどに感染を繰り返すうち に、突然変異を起こして、新型のA 型インフ ルエンザ出現に繋がる可能性も考えられます。 このことは、高病原性鳥インフルエンザから、 ヒトに対する高い病原性と、ヒトからヒトへ 感染する能力とを持つウイルスが出現する可 能性があることを意味しています。実際、過 去の大流行の原因となったインフルエンザも 鳥インフルエンザ由来とされています。 大流行が起こった際の健康被害の拡大、社 会的混乱、経済的被害の甚大さを考えると、 早急な対応が望まれます。鳥インフルエンザ に有効なワクチンの開発、カモ・アヒルなど 自然宿主と考えられる鳥やブタ(最近ネコも 鳥インフルエンザに感受性が高いとの報告が あります)におけるインフルエンザウイルス 亜型の監視などと共に、SARS の教訓を生か して、鳥インフルエンザのための医療現場の 着実なインフラ整備が継続的に行われること が重要と考えられます。 現在のところ有効な予防法はありません。 集団発生が起こっている時期に、病鳥との不 要な接触を避けることが大切です。もし鳥イ ンフルエンザの流行が起こっている地域など に出かけなければならない時には、感染を避 けるために、医療用マスク、うがい・手洗い の励行などの、基本的な感染予防対策が必要 です。さらに、日々更新される情報に十分注 意を払うことが望まれます。平成 16 年 8 月、 厚生労働省から出された「新型インフルエン ザ対策に関する検討小委員会報告書」は下記 の URL に記載されています。 http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09 /tp0903-1.html 最後になりますが、現在医療機関では、ヒ トインフルエンザワクチン接種が行われてい ます。健康被害を少なくし、また、インフル エンザ様症状が出現した際の鑑別診断のため にも、比較的副反応が少ないとされるヒトイ ンフルエンザワクチンの接種が奨められます。