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木材利用による持続可能なまちづくりの方向性 利用統計は来月からご利用いただけます

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木材利用による持続可能なまちづくりの方向性

著者

松永 光雄

著者別名

Mitsuo MATSUNAGA

雑誌名

観光学研究

20

ページ

39-47

発行年

2021-03

URL

http://doi.org/10.34428/00012637

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

木材利用による持続可能なまちづくりの方向性

Directionality of the sustainable town planning by the use of wood

松 永 光 雄

Mitsuo MATSUNAGA

1.はじめに

国土の約 7 割を森林が占める我が国において、木材利用は生産、流通、消費の分野はもちろん、 生活環境、生態系、そして地域経済にも大きな影響力を有している。特に 2015 年以降、世界的に SDGs(持続可能な開発目標)を達成するための取組みの観点から、林業や木材産業の潜在力を活 用することが期待されている。 SDGs 時代の木材産業においては、木質資源の適正な利用を通じて、地球温暖化対策、地域経済 振興の観点から、持続可能な循環型社会構築に向けた SDGs 目標達成に貢献することが模索されて きた。 しかし、林業、木材産業の多くは非上場の中小零細企業であり、経営者においては、SDGs 及び それを実現するための ESG 投資1についての知識が乏しく、意識が低いことが指摘されている。 SDGs や ESG 投資は上場企業だけの問題ではなく、木材産業のサプライチェーン全体に関連する 問題である。木材産業及びその関係者には、SDGs を意識しつつ、森林や木材産業を取り巻く地域 社会全体を活性化させ、持続可能なまちづくりに繋げることが求められている。 また、木材は、生活環境に「癒し」の効果を与えることが指摘されている。特に、感受性が養わ れる幼少期において、木材製品に接することで感受性豊かな人格形成が期待できる。幼児・児童が 木材製品に触れ合う生活環境を整備することは、木材利用を通じて地域の将来を支える彼らを持続 可能なまちづくりに参加する情操を育むことが期待できる。 そこで本論文では、木材産業振興のための木材利用として、「木製フェンス」と「木製遊具」に 焦点を当てる。これらの木製品の製造、普及を通じて、木材需要を拡大することで、森林を取り巻 く環境保護、地域の木材産業振興に加えて、都市部における木と共生した持続可能なまちづくりの 方向性を検討する。 まず、木材産業の現状と課題について確認する。次に、SDGs 時代の木材産業のあるべき姿として、 森林の多面的機能に加え、木材産業の新たな価値創造への取組みの必要性を指摘する。その取組み の方向性として、木材利用による持続可能なまちづくりへの貢献が挙げられる。そして、木材利用 による持続可能なまちづくりの具体的方向性として、木製フェンスと木製公園遊具の普及を通じた 持続可能なまちづくりの取組みを提案する。

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観光学研究 第 20 号 2021 年 3 月 40

2.木材産業の現状と課題

(1)木材産業の現状

日本の木材自給率は 2002 年に 18.8%と過去最低を記録したが、その後輸入材が減少する一方で、 国内生産が増加したことで上昇に転じつつある。国内生産の増加の理由は、合板用素材生産量の増 加にあり、合板材料の原料として輸入してきた北洋材に対する輸出税の急上昇、燃料価格の上昇、 為替相場の不安定化等の要因により国内生産が増加したためである。 林野庁は、2009(平成 21)年 12 月に森林・林業基本政策委員会による「森林・林業の再生に向 けた改革の姿」で「森林・林業再生プラン」を策定し、10 年後に木材自給率 50%以上を目指すこ とを示した。これを受けて、その推進のため 2010(平成 22)年 12 月に、「公共建築物等における 木材の利用の促進に関する法律(以下「木材利用促進法」)」が施行された。その結果、2018(平成 30)年に木材自給率は 36.6%の上昇に転じた。今後も、国内産木材は国内消費を増やしつつ、自給 率を高める方向にある。

(2)木材産業の今後の課題 

日本の林業は、木材自給率を高めつつ、木材消費を拡大することが求められている。これに加え て、林業・木材産業を取り巻く問題として、林業従事者の高齢化、若年林業従事者の確保が課題と なっている。また、木材価格について、スギの場合、1m2あたり 3,000 円前後で取引されており、 育材費用や再造林費用等を捻出できない状況にある2。こうした課題は、森林整備を不十分なもの とし、森林の多面的機能とされる CO2の削減や水資源の涵養、生物多様性の維持、生態系保護に 支障をきたす恐れがある。それは、更に、林業・木材産業が所在する地域社会及び経済を疲弊させ ることにつながる。

(3)木材利用拡大のための要件

木材自給率を高めつつ木材利用を拡大するためには、①未開拓分野の木材利用を拡大すること、 ②木材利用促進のための企業の資金調達をサポートするシステムを構築することが求められる。 まず、①については、2010(平成 22)年に木材利用促進法が施行されて、特に公共施設を中心 に従来木造とされてこなかった高層建築物やその内装に対して、木材を利用することが推進されつ つある。この点について、さらに非木製の非建築物についても、木製に代替できる物に利用範囲を 拡大すべきである。具体的には、各自治体が管理する公園、幼稚園、保育施設、小学校に設置され ている遊具について、木製の遊具に代替させることを検討すべきである。 次に、②については、木材の利用拡大促進のために、企業を経済面から支援する制度が必要とな る。この点について、政府は森林の公益的機能を発揮させ、森林整備、木材利用を促進するために、 2024 年以降森林環境税を課税することとした。この税収入を木材の利用拡大に必要な資金調達の 財源として利用することが可能である。

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3.SDGs 時代の木材産業のあるべき姿

(1)SDGs 時代の木材産業の方向性

木材産業のその多くは中小零細の非上場企業であるため、上場企業に比べて、経営者の SDGs 課 題の組みに対する意識は希薄であり、SDGs に関する活動が企業評価の要素であることが認識され ていない。むしろ、SDGs 課題の取組みや ESG 投資は、上場企業の社会的責任であり、投資家か らの企業評価の取組みにすぎないものと認識している。 しかし、非上場企業であっても、木材産業及びそれに関連するサプライチェーンを構成する立場 であれば、上場企業の関連企業として、また木材産業の構成企業として SDGs 目標への取組みは評 価対象となり、人類共通の目標に参加協力する責任が生じる。例えば、関連する上場企業が投資家 向けの非財務データとして統合報告書を作成する場合、関連企業、サプライチェーンの取組みとし て違法伐採でない証明や持続可能な森林管理、そして関連企業の社会的取組について、非上場企業 であっても情報提供が求められることがある。また、非上場企業であっても、金融機関から融資を 受けるような資金調達の際や企業買収、合併の際に金融機関の企業評価において、SDGs の取組み が考慮されることがある。 多くの非上場企業で構成される木材産業においても、SDGs の視点に立った木材産業の価値を高 める経営が求められている。

(2)森林の多面的機能からみた取組み

森林は単なる木材の供給源ではなく、公益的な機能を多面的に提供することが指摘されてきた。 森林の多面的機能とは、例えば、生物多様性の保全、土砂災害の防止、水源のかん養、保健休養の 場の提供等である3 こうした森林の多面的機能を維持するためには、林業・木材産業において、無秩序で違法な山林 の伐採を禁止して山林周辺の環境を維持しつつ、木材収穫後の草地化した伐採跡地において適切な 再造林を行うことが求められる4。これにより、伐採後の生態系の変化を防止し、土壌を保護して 土砂災害を防ぎ、降雨を貯留して河川へ流れ込む水の量を安定させて水質を浄化し、レジャー、観 光地としての景観を維持する取組みとして評価される。

(3)新たな価値創造への取組み

木材産業においては、従来の森林の多面的機能に加えて、SDGs の視点に立った木材産業の新た な価値を創造する取組みが求められる。 林業・木材産業に関連する SDGs 目標は、持続可能な森林経営を目指す目標 15 である。特に山 間部、中山間部の地域社会の林業・木材産業においては、木材の違法伐採や違法取引を防止するこ とで適切な森林管理及び経営によって、森林の生態系の保護、回復、持続可能な管理、森林破壊の 防止が期待されてきた。 これに加えて、木材産業による都市部における持続可能性に貢献する新たな価値創造を目指すに は、持続可能な都市の住居環境の実現を目指す目標 11 に関連した貢献が求められる。木材産業は

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観光学研究 第 20 号 2021 年 3 月 42 山間部、中山間地域といった都市部から離れた場所を拠点とするため都市化への直接的関連が見出 せないように思われがちであるが、持続可能な都市化への取組みへの貢献は可能である。 例えば、木材を使用した建築物や建造物を都市空間に配置し、また建築物の内装や外観に木材を 使用することで居住空間に木材を取り込む取組みである。これにより、都市部において木材文化の 定着を図り、自然と共生する完成を育むことに役立つ。木材が単なる建築構造部材の一部としてで はなく、持続可能な街並みを演出する機能を有しているからである。

4.木材利用による持続可能なまちづくり

(1)新たな企業価値としての木材利用

木材産業が企業価値を高めるためには、持続可能性に貢献する新たな価値創造のための取組みが 求められる。その企業価値とは、企業が行う事業によって将来に渡り生み出す売り上げや動産、不 動産等の資産といった経済的価値として有形的な資産と共に無形的資産も含まれる。 SDGs 時代の企業において、持続可能な社会を形成する上で求められるものは、企業の経常利益 を上げることだけではなく、むしろ企業の社会的責任(CSR)と評価される社会貢献度が重要な評 価要素となる。特に、それは上場企業において、投資家の投資判断材料の 1 つとなり得る。また、 非上場企業においても、先述のとおり関連企業の情報提供や経営資金調達の際の企業評価において 求められる要素である。SDGs 時代において、SDGs 目標の達成に貢献することは、企業の社会貢 献という無形的資産としての評価となる。

(2)木と共生する空間の演出

木材産業における無形的資産は、先述のとおり、持続可能な森林経営や生態系保護に貢献する SDGs 目標 15 に加えて、都市部における木材産業の貢献として目標 11 に示される持続可能な都市 の居住環境を実現するための取組みが、企業価値を高めることにつながる。 持続可能な都市の住居環境を作り出すために木材産業は、①木材需要を拡大することで地域経済 へ貢献しつつ、更に、②木材利用によって都市部の住環境に快適な住・都市環境を提供するもので なければならない。そこで、都市部の非木造の建築物、建造物を木造化することで温室効果ガス排 出量や炭素排出量を減らし、同時に木のぬくもりを感じながら木に育まれる空間をつくる取組みが 求められる。木材産業は、都市部において木と共生する空間を演出する役割を果たすことが可能で ある。 具体的には、都市部に設置されているブロック塀と非木製遊具を「木製フェンス」と「木製遊具」 に代替する取組みを通じて、都市住民のよる木と共生するまちづくりを提案するものである。

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5.木製フェンスによる木で囲まれた街

(1)非木材製品の木材製品への代替効果

都市部における非木材製品を木材製品に代替することで、温室効果ガス排出量の削減が指摘され ている。セメントを木材に 1t 代替するにあたり、材料製造時の温室効果ガス排出量を 2tCO2e 削 減できるとされている5。市街地の一般家庭のエクステリアや小学校等の外壁として街並みを構成 しているものとしてセメントでできたブロック塀がある。これを木製フェンスに代替し普及拡大す ることは、温室効果ガス排出量の削減に寄与する。そしてそれは、更に、都市部の地域社会におい て①安全・安心な居住空間を提供し、②木と共生することによる心の安らぎを提供する効果を有し ている。 木材産業が、木製フェンスを普及させることで、木で囲まれたまちづくりに貢献できる。

(2)ブロック塀の危険性と木製フェンスへの代替の必要性

家屋のエクステリアや学校施設の外壁を構成するブロック塀は、私たちにとって重要な外構構造 物として設置され、プライバシーの確保、防犯や防火などに役立っている。 しかし、通学路、避難路、及び不特定または多数の人々が通行する道路に面するブロック塀が倒 壊した場合、通行人に危害を及ぼし、災害時において避難・救援活動の妨げになる可能性がある。 実際、東日本大震災や大阪の震災において、ブロック塀の倒壊による身体・生命に対する直接的な 被害や倒壊したブロック塀による通行困難を原因とする避難・救助の遅れにより生命を落とす事件 も起きている。 ブロック塀のような私的財産は、所有者の責任において管理するのが基本であるが、実態として は、ブロック塀所有者はブロック塀の経年劣化等にともなうメンテナンス等の義務を怠り管理責任 を果していない。 また、ブロック塀の設置・施工において、施工業者の手抜き工事等も常態化している。こうした、 震災に弱く人の生命・身体に対するリスクとなっている既存のブロック塀について、木製フェンス に代替することは、都市部の地域住民に対し、塀の倒壊による生命・身体へのリスクを軽減し社会 の安全・安心を確保するとともに、無味乾燥なイメージのコンクリートから木の温もりと心のやす らぎを与える演出が可能となる。

(3)木製フェンスの特徴

木製フェンス(以下、「スーパーフェンス6」)とは、間伐材を利用したブロック塀代替の木製パ ネル組立塀である。具体的には、縦 10cm~20cm、横 180cm、幅 2.0cm~2.5cm の木製パネルを、 基礎部分に取り付けたアルミ押出し形材の支柱の溝に差し込み重ねることによって、ブロック塀と 同様の高さである 1.2m~3m 程度の外構を形成するものである。 木製の塀は、薄手の板塀による陳腐なものが昭和 30 年代以前においても存在していた。しかし、 スーパーフェンスは、防腐・防虫処理加工7をしているため耐久性に優れ、耐震のための構造計算 された基礎に鉄製の枠組みを採用することで耐震性を高め、そして地域の自然環境と調和した木材

(7)

観光学研究 第 20 号 2021 年 3 月 44 特有の意匠性に優れている点が従来の木製の塀とは全く異なる性質を有している。また、スーパー フェンスのパネル材には、設置地域で産出される檜や杉のうち間伐材として伐採された利用価値の 低いものを積極的に利用することで、地産地消による地域林業振興、間伐による森林保護に資する ことになる。

(4)木製フェンス設置によるまちづくりの効果

スーパーフェンスは、コンクリートブロック塀に比べて、①安全性、②利便性、③意匠性、そし て④地域経済効果の点で優れていることから、ブロック塀に代替し得る特性を有している。また、 代替した場合には、震災時の安全対策に加え、コンクリートに囲まれた生活を送る都市住民に対し て木の温もりや森林文化を体現する効果を有している。 ブロック塀からスーパーフェンスへ代替することで、街全体を「木で囲まれた街並み」を構築す ることができる。これにより、木材を利用した自然と調和した持続可能性のある街(エコタウン) を創造することが可能となる。木材産業は、コンクリート等の非木材製品を木材製品に代替する取 組みを通じて SDGs 目標の、持続可能な都市の住居環境を実現することに貢献することができる。

6.木製公園遊具による木で育まれる街

(1)公園の遊具等の現状

2015(平成 27)年 3 月に発表された「都市公園における遊具等の安全管理に関する調査」では、 公園遊具は 2011(平成 22)年において全体で 463,933 基あり前回調査より 1.1%増加している。そ のうち、木製遊具は 8,477 基であった。その一方で、木製遊具は設置数の減少割合が高く、前回調 査より 15.8%の減少であった8 国内の公園に設置されている遊具等には、鋼製のもののほか FRP 素材のものが主流である。 スーパーフェンスのイメージ図

(8)

FRP(Fiber-Reinforced Plastics)とは、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維をプラスチックの中に 入れて強度を向上させた繊維強化プラスチックである。特に FRP は、遊具を造形しやすく、耐久 性にすぐれていることから公園遊具に採用されている。しかし、材料製造時に排出される温室効果 ガスを削減することが世界的に求められている時代において、鋼製やプラスチックである FRP 製 の遊具は減らす方向が好ましい。その代替物として、木製遊具を普及促進することが求められる。

(2)木製遊具の普及に向けた改善点

先述のとおり、全国の公園遊具等においては、全体として増加傾向にあるものの、木製遊具等に ついては減少傾向にある。これは、他の遊具部材に比べて、木製遊具の耐久性やメンテナンス性の 低さが要因であることが指摘されている9。木製遊具設置を普及させるには、耐久性を強化しメン テナンスの容易性を図ることが必要となる。 木材の耐久性向上には、耐久性の高い樹種を用いること、そして適切な防腐処理を行うことが一 般的である。しかし、樹種によっては防腐薬剤の注入性の悪い樹種がある。樹種にとらわれず、耐 久性を強化しつつメンテナンスもしやすくするためには、遊具の構造や接合方法を見直して、接合 部分には金具等を併用した改善が検討されている。 鎌倉中央公園の木製遊具 、•;

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観光学研究 第 20 号 2021 年 3 月 46 具体的には、地面に接触した部分から腐朽菌が侵入して腐朽するため、支柱の劣化は地際部付近に ついては、木製支柱脚部を地面に接触させずに、地面より上の位置で基礎と柱を金属で固定する10 柱頭部については、木口面から雨水等の水分が浸透するため、柱頭部にプラスティックカバーによる 保護措置をとることで対応できる11

(3)木製公園遊具設置によるまちづくりの効果

鋼材や FRP 製の非木製の公園遊具は、従来、耐久性やメンテナンス性の点から木製遊具に比べ て優位性を有していた。しかし、先述のとおり、木製遊具について耐久性補強をするとともにメン テナンスに配慮した構造とすることで、非木製遊具と同等の耐久性、メンテナンス性を確保するこ とが可能となっている。これに加えて、①木製遊具は、「温かみ」、「柔らかさ」、「手触りの良さ」 という木製素材の感触や②自然の多い公園の中の遊具として木材の親和性が評価され12、さらに、 ③木材の感触や森林文化を体感することによる子供の情操教育にも良い影響を及ぼすことが期待さ れる。 公園や幼稚園・保育園で木製遊具での遊びを通して、子供たちは木材の感触と森林文化を体感す ることで情操を育むことになる。木材産業は、都市部の公園、幼稚園、保育園の非木製遊具を木製 遊具に代替する取組みをすることで、自然と共生する持続可能な都市空間の演出に貢献すべきであ る。

7.おわりに

非上場の中小零細企業が多い木材産業では、SDGs に対する意識は乏しく、自らの業務を SDGs に紐づけて取組む意欲に欠けている。しかし、企業が生き残りをかけて戦う時代において、新たな 企業価値を見出して事業に取り組まなければ淘汰される運命にある。そうした木材産業が、生き残 りを賭け、更に発展をするために求められる企業価値を生み出すのが、SDGs 目標に紐づけられた 方向性での取組みである。 持続可能な社会を構築するための企業貢献として、森林資源を取り扱う木材産業は生態系保護、 自然環境保護に直結するビジネスである。更に、木材製品を供給する際の取組みにおいては、都市 部の住環境を木材製品の提供を通じて、都市生活の安全・安心と木材・森林文化による癒しと育み を提供することに貢献できる産業である。 本論文で取り上げた、木材利用の産物である「木製フェンス」がコンクリートブロック塀に代替 することで地域社会に「安全・安心」を提供することになる。また、幼稚園、保育園、小学校、そ して公園の非木製遊具が「木製遊具」に代替し普及することで、それに触れあい育った子供たちが 木材利用を促進し持続可能な地域社会を築く感受性豊かな人材に成長することが期待できる。 木材製品の利用促進が、森林を取り巻く環境保護、産地の木材産業振興に加えて、都市部におい て人に対する安全・安心な環境と癒しの空間を作り出すことによって、木と共生した持続可能なま ちづくりが方向づけられるのである。

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1  環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の 3 つの要素を十分考慮している企業への 投資。 2 井上・長坂・安藤『SDGs 時代の木材産業 ESG 課題を経営戦略にどう組み込むか?』59 頁 3  林野庁「森林の有する多面的機能」(林野庁ホームページ) https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/con_1.html(2020.11.22 取得) 4 井上・長坂・安藤、前掲 83 頁 5 井上・長坂・安藤、前掲 83 頁 6 港製器株式会社が開発した、間伐材を利用したブロック塀代替の組立塀。

7  ヒ素やクロムを含まない JIS 及び JAS 規格の安全な防腐・防虫剤による ACQ 加圧注入加工により、木材内 部に薬剤が浸透し、効果が長持ちし、揮発や流出による汚染の危険性がない加工方法。 8  国土交通省ホームページ「都市公園における遊具の安全管理に関する調査の集計概要について」 https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi10_hh_000095.html(2020.11.23 取得) 9 小林「木製遊具の耐久性向上のための技術開発」105 頁。 10 小林、前掲 106 頁。 11 小林、前掲 109 頁。 12 小林、前掲 105 頁。 [参考文献] 井上雅文・長坂健司・安藤範親『SDGs 時代の木材産業 ESG 課題を経営戦略にどう組み込むか?』J-FIC(2020) 小林裕昇「木製遊具の耐久性向上のための技術開発」地方独立行政法人北海道立総合研究機構森林研究本部林産 試験場『木材保存』Vol.40-3(2014)105 頁~114 頁 末松広行・池渕雅和『逐条解説 公共建築物等木材利用促進法』大成出版社(2011) 沖大幹・小野田真二・黒田かをり・笹谷秀光・佐藤真久・吉田哲郎『SDGs の基礎』事業構想大学院大学出版部(2019) 松永光雄「エコツーリズムによる地域再生―木で囲まれた安全・安心で豊かなまちづくり―」日本法政学会「法 政論叢」第 51 巻第 2 号(2015)1 課~13 頁

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