「在宅療養者のウェルビーイング実現過程に見る効果的な訪問看護の導入に関する研究」
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(2) 1. 背景 在宅療養の意義の一つとして、療養者固有の生活の場においてその人らしい豊か な生活を送りながら療養を受けることができる点が挙げられる。疾病構造の変化により 自宅や地域で疾病や障害を抱えながら生活を送る人が増加していることが指摘され る中で(厚生労働省在宅医療連携拠点事業資料,2012)、疾病や障害を抱えつつ、 自らの生活空間において生活者として過ごすことができるよう援助する在宅医療の意 義は大きい。特に、看護実践は元来、病態・生活の両面から人にアプローチするとい う特性を備えており、在宅医療の中における看護実践への期待も高まっているといえ る。 在宅療養がめざす人の生活の豊かさとは、疾病や障害の別に関わらずその人らし い生活のありようを指向するものと言える。その水準は福祉(well-being)の観点から評 価を試みることができる。ここで言う福祉とは、人が実際に成就するもの、つまり、その 人の状態(being)がいかによい(well)ものであるか、に関わっている(Sen, 1985)。人 の生活のありようを看護実践上どのように捉えるかというテーマについては、1950~70 年代に理論的発展を見て、ニード・相互作用・アウトカムという観点が示されている (Meleis,2007)。中でも、ニードに関する概念は看護の役割と関連が深いという(同)。 基本的ニードの概念はHendersonとNite(1978)により提唱され、あらゆる人が”sick or well”を問わず有するものとして扱われている(Thorson & Halloran, 2005)。この点は、 基本的ニードがその人のその時点における状態・立場・環境を問わず普遍的に充足 されるもので、看護実践がその役割を果たすことを主張している。基本的ニードは社 会・経済的権利と関連する(Streeten, 1980)ものであり、公的社会保障の一部として看 護師が在宅療養者の基本的ニードの充足のための援助を行い、人の生活のありよう を向上させる=ウェル・ビーイングの実現の一翼を担うことの合理的根拠をなすと考え られる。 在宅療養者が看護師の援助によりウェル・ビーイングを実現できる背景として、看 護師は利用者の基本的ニードの充足程度を判断し、個々の利用者の価値観、生活 様式、疾患・療養上の制約の個別性に応じて援助を計画・実施・評価することができ る点が挙げられる。人が生涯に渡って健康的な生活を実現することは成熟した社会 の要請するところでもあり、効果的な訪問看護の利用を推進して在宅療養者がウェ ル・ビーイングを実現できるようにすることの社会的意義は大きい。 在宅療養者の生活のありように対する看護実践の役割やその効果を論ずるにあた って、在宅療養者の社会・経済的権利の擁護と基本的ニードの充足という観点に立 つ場合、在宅療養者における社会的公正に資するかどうかという点が看護実践の評 価の出発点として示唆されよう。社会的公正に関する評価は、生活の状況の水準と、 生活における機会の保障という2点から議論される(Commission in Social Justice, 1993)ものである。また前出のSenは人の生活のありようについて、達成されている生 2.
(3) 活水準と、どの程度の機会が保障されているかという福祉的自由という2点を挙げ、潜 在能力アプローチを展開している(Sen,1992)。このように、在宅療養者の生活のあり よう、ウェル・ビーイングの実現過程はこの2点から評価することができ、看護実践が在 宅療養者のウェル・ビーイング実現のためにどのように貢献しているかを明らかにする ためには、その2点からの評価が重要であると考えられる。 在宅療養者が訪問看護の導入を決定する経緯にはいくつかのパターンが存在す るが、導入経緯は訪問看護の効果を左右する条件の一つと考えられる。訪問看護の 導入は主治医の指示に基づくが、退院支援の一環、主治医による判断、利用者や家 族からの希望など、発端は様々である。何らかの限界に直面して訪問看護を導入す る場合もあれば、余裕のあるうちに導入を希望される場合もあろう。適切な時期に訪 問看護を導入しQOLを維持する例がある。一方で、著しくQOLが低下してから訪問看 護を導入し、適時に訪問看護を導入した場合と比較してQOLの低い状態・状況や身 体状態の悪化を療養者が体験せざるをえない例もある。このように訪問看護の導入 経緯は、利用者のQOL変化やウェル・ビーイング実現の過程に影響すると考えられ、 訪問看護の効果を検討する際に着眼することは意義深いと言える 本研究では、在宅療養者のウェル・ビーイング実現のために効果的な訪問看護の 導入のあり方について明らかにするため、訪問看護の導入経緯に着眼しつつ、訪問 看護利用者のウェル・ビーイング実現過程を探求するものである。先述のように、看護 実践が在宅療養者の生活に与える効果を検討する上では、達成されている生活の水 準と、福祉的自由という2点からの評価が求められる。前者の観点に基づく方法として は、健康関連QOLの測定が考えられる。健康関連QOLは、疾患や治療が患者の主 観的健康感(メンタルへルス,活力,痛みなど)や,毎日行っている仕事,家事,社会 活動にどのようなインパクトを与えているかを定量化するもの(福原,2002)であり、疾 病や障害を抱えながら毎日の生活を営む在宅療養者にも適応できる。健康関連 QOLに関する包括的尺度としてEQ-5Dがあり、日本語版も開発されている(Tsuchiya, Ikeda, Ikegamiら,2002)。また、後者に関する評価手法としてICECAP(Al-Janabi, Flynn, Coast,2012)があり、著者はCoastらの許可を得てICECAP日本語版の開発中 である。本研究では試みとして、EQ-5DおよびICECAP日本語暫定版を用いて、訪問 看護を利用する在宅療養者の生活のありようを探るものとする。. 2. 目的 訪問看護の導入経緯に着眼して訪問看護利用者のウェル・ビーイング実現過程を 調査し、在宅療養者のウェル・ビーイング実現のために効果的な訪問看護の導入の あり方について明らかにする。. 3.
(4) 3. 方法 1) 調査対象者 調査実施訪問看護ステーションにおいて、調査時点で1ヶ月以上にわたって訪問 看護を利用している18歳以上の利用者のうち、本人の意識が清明で質問内容の理 解と回答の意思表示ができ、本人が回答を自記可能か、家族または研究補助者が回 答を代理記入可能な人を調査対象とした。調査対象に該当すると訪問担当者が判断 した場合、調査の趣旨と倫理上の配慮について説明を行い、同意の得られた利用者 に研究協力を依頼した。 2) 調査実施期間 2012年8月~2013年1月 3) 調査方法 調査の趣旨と倫理上の配慮について説明を行い、同意の得られた利用者に対して、 説明書、調査票、回収用封筒を配布した。調査票は留め置きとし、1~2週間後に協 力者が訪問し、回収用封筒に密封された調査票を回収した。協力者の訪問ができな かった場合や訪問時に回収できなかった場合には、切手を貼付した返信用封筒を配 布し郵送による返送を依頼した。利用者本人が回答の意思表示ができるものの自記 不可能な場合は、家族に代理記入を依頼した。また、独居の場合や家族による代理 記入ができない場合には、個人情報保護を誓約した、事業所と関係のない第三者で ある協力者が訪問し、利用者本人の意思を確認して回答の代理記入を行った。 質問紙調査票には、EQ-5D日本語版(「移動の程度」、「身の回りの管理」、「ふだん の活動」、「痛み/不快感」、「不安/ふさぎ込み」の5項目)とICECAP日本語暫定版 (「安定・安心」、「愛情・友情」、「自立」、「達成感・成長」、「楽しみ・喜び」の5項目)を 用いた。 在宅療養を始めた契機として、病院退院時に在宅療養へ移行、介護施設から在宅 へ移行、介護施設入所待ち期間の在宅療養開始、病状悪化による在宅療養開始、 介護負担の高まりによる在宅療養開始、その他、のうち該当するものを問うた。また、 訪問看護サービス導入の経緯については、病院退院時の医師からの勧め、在宅療 養中の主治医からの勧め、ケアマネージャーからの勧め、知人からの勧め、本人・家 族の希望の中から該当するものの回答を得た。 4) 集計・分析方法 個人情報保護を誓約した、事業所に所属しない第三者である協力者が各回答者 のデータを匿名化の上でデータ入力を行った。EQ-5D全5項目に有効な回答をした 利用者の回答を分析対象とした。EQ-5Dはタイム・トレードオフ法により推定された日 4.
(5) 本語版バリューセット(Tsuchiya, Ikeda, Ikegamiら,2002)に基づいてEQ-5Dスコアへ の換算を行った(Drummond, Sculpher, Torranceら,2005)。5項目全てがよい状態の 回答であると1点(完全な健康状態)となり、各項目の回答に応じ、0点(死亡状態)~1 点のスコアが算出される(回答内容によりマイナス点もある)。ICECAP日本語暫定版 は各項目とも、4点(良い状態)~1点として得点化した。ICECAP日本語暫定版各項 目とEQ-5Dスコアの項目間相関を算出した。 在宅療養者の潜在能力向上に効果的な訪問看護の導入について検討するため、 ICECAP日本語暫定版各項目得点について、訪問看護サービス導入の経緯による 群間比較を行った。ただし、在宅利用者の健康度の多様性の影響を考慮するため、 EQ-5Dスコアの分布を見ながらEQ-5Dスコア高得点群・低得点群(以下、EQ-5D高ス コア群・低スコア群)に分け、それぞれの郡内において訪問看護導入の経緯による群 間比較を行った。カテゴリカル・データの群間比較にはピアソンの適合度統計量χ2 を 用いたカイ二乗検定を有意水準0.05にて行った(太郎丸,2005)。統計解析には SPSS 20.0J for Windowsを用いた。 5) 倫理的配慮 調査参加は利用者の自由意思に基づくものとし、調査の目的、内容、不参加や参 加中断によりサービス提供を受ける上で不都合は生じないことを文書で説明し、同意 が得られた場合のみ研究協力を依頼した。事業所職員は回答の代理記入は行わな かった。本人が回答の意思表示をできるものの本人・家族による記入ができない場合 には、第三者である研究補助者が個人情報保護の宣誓の上で代理記入をした。調 査票は利用者宅にて封をされて内容が職員の眼に触れぬままに個人情報保護を宣 誓した第三者によりデータ入力された。回答は匿名化の上で集計・分析し、個人が特 定される形での分析・結果公表はしないことを誓約した。調査内容・方法全般につい ては、調査実施事業所理事会の承認を得た。. 4. 結果 1) 調査回答者の属性 調査期間開始時に訪問看護ステーション1事業所にて訪問看護を利用し1ヶ月以 上経過している利用者は285名であった。このうち、18歳未満の4名、意識不清明な者 33名、入所や入院のため利用休止中の者15名、調査期間中に死亡した1名を除く 232名に調査回答を依頼した。その結果、203名から調査票を回収し、回収率は 87.5%であった。203名のうち、185名は利用者本人が回答・記入したか、利用者が回 答の意思表示をおこない家族が代理記入を行った。残る18名は独居か家族による記 入ができないため、第三者である研究補助者が利用者宅を訪問して回答の補助を行 5.
(6) った。EQ5Dの全項目に有効な回答のあった174名を有効回答者として分析を行った。 有効回答率は61.0%であった。(表1) 表1 利用者数、回収数、有効回答者数 調査日現在利用者. 285. 18歳未満. 4. 意識不清明、回答不可. 33. 入所、入院. 15. 調査期間中死亡. 1. 調査対象者数. 232. 回収数. 203. 回収率. 87.5%. うち 研究補助者による回答補助. 18. 有効回答者数. 178. 有効回答率. 62.4%. 調査回答者の属性を表2に示す。有効回答者174名のうち、54%が女性で、平均年 齢75.8(SD:15.1)歳、介護保険による利用者が90%、緊急対応加算利用者44%、介 護保険法・健康保険法の日常生活自立度(ADL)「J(自立)」は20%、「A(室内自立)」 は31%、「B(床上自立)」は31%、「C(寝たきり)」は17%であった。介護保険法による 要介護度認定は89%の利用者が受けており、要支援2:4%、要介護1:14%、要介護 2:25%、要介護3:17%、要介護4:14%、要介護5:18%であった。訪問看護指示書を 記載した主治医の所属する医療機関別では、自治体立や公的団体立の公立病院 17%、大学病院16%、その他病院(主に地域に所在する中小の民間病院など)17%、 診療所49%と、近隣地域に開業する診療所医師からの指示がほぼ半数であった。訪 問看護平均利用期間は3.3(SD:3.2)年であった。訪問看護利用時間・回数は、理学・ 作業・言語療法士による訪問を利用している利用者に対する観察・評価のため月1回 看護師が訪問するなどのリハビリ中心の利用者が34%、リハビリ利用の無い利用者に 対する月1~2回の訪問が9%、週1回の看護師訪問は、30分未満13%、30~60分未 満24%、60~90分未満5%、週2回の看護師訪問は、30~60分未満・60~90分未満合 わせて12%であった。30~60分未満・60~90分未満の週3回訪問は3件(2%)あり、週 3回以上の看護師訪問の利用者では30分未満の短時間訪問の利用はなかった。. 6.
(7) 表2 有効回答者の属性 性別 (n=174) 男性 女性. 80 94. 46% 54%. 24 19 45 61 25. (SD:15.1) 14% 11% 26% 35% 14%. 18 156. 10% 90%. 緊急加算の有無 (n=174) 緊急加算あり 緊急加算なし. 77 97. 44% 56%. 要介護度 (n=174) 認定なし 要支援2 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5. 15 7 24 43 29 24 32. 9% 4% 14% 25% 17% 14% 18%. 日常生活自立度(ADL) (n=167) J1,J2(自立) A1,A2(室内自立) B1,B2(床上自立) C1,C2(寝たきり). 34 52 52 29. 20% 31% 31% 17%. 主治医 (n=174) 公立病院 大学病院 その他病院 診療所. 30 28 30 86. 17% 16% 17% 49%. 訪問看護利用期間 (n=172) 1月以上1年未満 1年以上2年未満 2年以上3年未満 3年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上. 18 38 44 30 32 10. 10% 22% 26% 17% 19% 6%. 年齢 (n=174) 平均 18歳以上60歳未満 60歳以上70歳未満 70歳以上80歳未満 80歳以上90歳未満 90歳以上. 75.8歳. 保険種別 (n=174) 医療保険 介護保険. 7.
(8) 表2(続き) 回答者の属性 訪問看護利用時間・回数 (n=174) 30・60分未満 月1~2回 リハビリ訪問利用者の観察・評価 30・60分未満 月1~2回 リハビリ利用なし 30分未満 週1回 60分未満 週1回 90分未満 週1回 30分未満 週2回 60・90分未満 週2回 60・90分未満 週3回. 59. 34%. 15. 9%. 23 42 9 2 21 3. 13% 24% 5% 1% 12% 2%. 2) 在宅療養開始・訪問看護サービス導入の経緯 在宅療養開始の契機と訪問看護サービス導入の経緯を表3に示す。有効回答者 の64%が、病院退院時に在宅療養に移行をしており、一方で、入院と関係なく在宅療 養を開始する契機については、介護負担の高まり(23%)、病状悪化(15%)が挙げら れた。病院退院時に医師からの勧めにより訪問看護導入となったケースは30%あり、 退院指導において病院・地域間の連携がなされたものといえる。残る70%は、入退院 が契機ではなく、在宅療養の過程のある時点で訪問看護導入に到ったものである。 訪問看護は医師による訪問看護指示書の記入により開始されるが、在宅療養中に医 師から訪問看護導入の勧めがあったのは14%であった。ケアマネージャーからの勧め が40%、本人・家族の希望が16%と、今回の回答者のうち在宅療養の過程のある時点 で訪問看護を導入した利用者のうち8割は、ケアマネージャーの勧めや自らの希望が 先にあり、医師に希望を伝えて訪問看護指示につながったものと見られる。ケアマネ ージャーによる勧めは40%と多く、在宅療養を続ける過程で訪問看護を導入する節 目に,ケアマネージャーの助言が利用者の決定につながることが分かる。 表3 在宅医療開始の契機と訪問看護導入の経緯 在宅療養開始の経緯(n=170) 病院退院時に在宅療養に移行 介護負担の高まりによる在宅療養開始 病状悪化による在宅療養開始 介護施設から在宅に移行 介護施設入所待ちの期間に在宅療養開始 訪問看護導入の経緯 (n=174) 病院退院時、医師からの勧め 在宅療養中、医師からの勧め ケアマネージャからの勧め 本人・家族の希望. 8. 108 39 25 5 2. 64% 23% 15% 3% 1%. 53 24 69 28. 30% 14% 40% 16%.
(9) 3) EQ-5D、ICECAP日本語暫定版の得点 EQ-5D各項目の得点(良い状態から順に1・2・3点)の度数分布は図1の通りとなっ た。「移動の程度」、「ふだんの活動」では1点が10%台、「身の回りの管理」、「痛み・ 不快感」では20%程度であり、これらの項目については何らかの問題を抱える利用者 が7~8割以上であった。一方で「不安/ふさぎ込み」についての問題を抱える利用者 は半数程度であった。. 図1. EQ-5D項目得点度数分布(n=174). この項目得点に基づいて換算したEQ-5Dスコアの分布は図2の通りであった。平均 0.47点(標準偏差0.24点)、最小値-0.11点、最大値1点(6名)であった。. 図2. EQ-5Dスコア度数分布(n=174) 9.
(10) ICECAP日本語暫定版各項目の得点分布は図3の通りであった。良い状態から順に 4・3・2・1点となっている。今回の有効回答者については、4・3点の良い状態であると 回答した利用者の割合は、「安定・安心」(78%)、「愛情・友情」(68%)で大きな割合を 占めた一方で、「楽しみ・喜び」(27%)、「自立」(29%)、「達成感・成長」(41%)では半 数以下であり、項目間に度数分布の違いが見られた。. 図3. ICECAP日本語暫定版項目得点の度数分布. ICECAP日本語暫定版の各項目得点およびEQ-5Dスコア間の相関係数は表4の通 りであった。「愛情・友情」・「自立」・「達成感・成長」相互間には相関係数0.484~ 0.597の中程度の相関があり、それ以外のICECAP日本語暫定版各項目間には弱い 相関が見られた。ICECAP日本語暫定版各項目のEQ-5Dスコアとの間の相関は、「楽 しみ・喜び」が0.489と中程度の相関を示し、その他4項目は0.257~0.372と弱い相関 が見られた。 表4 ICECAP日本語暫定版項目得点およびEQ-5Dスコアのピアソン相関係数 安定・安心. 愛情・友情. 自立. 達成感・成長. 楽しみ・喜び. 安定・安心 愛情・友情. .363*. 自立. .387*. .484*. 達成感・成長. .369*. .498*. .597*. 楽しみ・喜び. .239*. .356*. .352*. .348*. EQ-5Dスコア. .294*. .372*. .346*. .257*. *p<0.01. 10. .489*.
(11) EQ-5Dスコアの分布(図2)を見ながら、0.50を境としてEQ-5D高スコア群と低スコア 群に分けた。EQ-5D高スコア群はn=109、平均0.63、SD:0.11、同低スコア群はn=65、 平均0.21、SD:0.17であった。両群のICECAP日本語暫定版の各項目得点を比較した ものが図4である。各項目について最も良い状態(4点)であった利用者はEQ-5D高ス コア群・低スコア群それぞれ、「安定・安心」38%・23%、「愛情・友情」26%・14%、「自 立」10%・8%、「達成感・成長」8%・8%、「楽しみ・喜び」5%・2%となり、「達成感・成長」 で両群がほぼ同じ割合であった他は高スコア群の方が良い状態により大きな割合で 分布した。両群の分布を比較するカイ2乗検定では、全項目について統計的に有意 な差が見られた。. 図4. EQ-5D高スコア群・低スコア群のICECAP日本語暫定版項目得点 * p<0.05, ** p<0.01. 訪問看護導入の経緯別に見たEQ-5D ICECAP日本語暫定版の各項目得点分布 を、EQ-5D高スコア群・低スコア群の別に図5-1~図5-5に示す。「安定・安心」(図5-1) はEQ-5D高スコア群では導入の経緯による有意な差は見られなかったが、同低スコア 群では、退院時の医師の勧め(以下「退院」)群の36%が最も良い状態(4点)と回答し ているのに対し、在宅療養中の医師の勧め(以下「医師」)9%、同ケアマネ―ジャーの 勧め(以下「ケアマネ」)20%、本人・家族の希望(以下「本人」)10%と、分布には統計 上有意な差が見られた。「安定・安心」はEQ-5D高スコア群においては訪問看護導入 11.
(12) の経緯によらずに良い状態が維持される一方で、EQ-5D低スコア群においては、在 宅療養の過程で低下するものの、退院時に訪問看護が導入された場合は「安定・安 心」が維持される傾向があることが示唆される。. 図5-1. 訪問看護導入の経緯による「安定・安心」項目得点分布の比較 (*p<0.05). 訪問看護導入の経緯が「愛情・友情」項目得点分布に及ぼす影響を図5-2に示す。 EQ-5Dスコアの高低に依らずに、「退院」・「医師」・「ケアマネ」群では「本人」群よりも 良い状態(4点)の分布が多かった。統計的に有意な差はないものの、訪問看護導入 の際に専門職が関与することにより「愛情・友情」の状態が良くなる傾向があると言え る。. 図5-2. 訪問看護導入の経緯による「愛情・友情」項目得点分布の比較 12.
(13) 訪問看護導入の経緯が「自立」項目得点分布に及ぼす影響を 図5-3に示す。 EQ-5Dスコアの高低に依らずに、「退院」・「ケアマネ」群で「医師」・「本人」群よりも良 い状態(4点)の分布が多かった。退院支援の一環としての訪問看護導入やケアマネ ージャーが関与する訪問看護導入は「自立」の良い状態をもたらす傾向があると言え る。. 図5-3. 訪問看護導入の経緯による「自立」項目得点分布の比較. 「達成感・成長」項目に対しては、EQ-5Dスコアの高低によって異なった影響が見ら れた。EQ-5D高スコア群においては、訪問看護導入の経緯によらずに「達成感・成長」 4点が10%程度、3点が30~40%程度であった。これに対し、EQ-5D低スコア群におい ては、「ケアマネ」群で4点:15%、3点:45%が、「退院」群でも4点:9%、3点:14%が良 い状態にあるのに対し、「医師」では4~3点が皆無、「本人」でも4点は皆無であった。 EQ-5D低スコア群における「自立」項目得点分布と同様の傾向があり、統計的に有意 な差も認められた(図5-4)。 以上の「安定・安心」、「愛情・友情」、「達成感・成長」項目についてはEQ-5D高スコア 群において訪問看護導入の経緯による違いは大きくはなかった。しかしながら、残る 「楽しみ・喜び」項目については、EQ-5D高スコア群において上記の項目とは違う傾 向が見られた。「楽しみ・喜び」が4~3点の良い状態の利用者は、「本人」で53%と多く、 次いで「ケアマネ」34%、「医師」31%、「退院」26%となった(図5-5)。本人・家族の希 望による訪問看護の導入、いわば自発的な導入が、専門職に勧められてから訪問看 護を導入するよりもより大きな楽しみや喜びをもたらすことが示唆された。ただし、これ はEQ-5D高スコア群に限られ、同低スコア群では訪問看護導入の経緯による大きな 違いは見られなかった。 13.
(14) 図5-4. 訪問看護導入の経緯による「達成感・成長」項目得点分布の比較 (*p<0.05). 図5-5. 訪問看護導入の経緯による「楽しみ・喜び」項目得点分布の比較 (*p<0.05). 14.
(15) 5. 考察 本研究では訪問看護の意義の一つを在宅療養者のウェル・ビーイング実現にあると いう見地から出発し、訪問看護の効果的な導入のあり方について明らかにするため、 訪問看護の導入経緯に着眼しつつ、訪問看護利用者のウェル・ビーイング実現過程 を探求した。Sen(1985)の潜在能力アプローチを在宅療養者において展開し、達成さ れている生活の水準と、福祉的自由という2点からの評価を試みた。本研究における 新しい試みとして、英国において開発された質問紙調査票の日本語暫定版を用いて 福祉的自由の評価を行った。Sen(1985)やAl-Janabiら(2012)が指摘するように、福祉 的自由の評価に際しては個人の多様なあり方や文化的背景を慎重に考慮する必要 がある。ICECAP日本語暫定版の信頼性・妥当性の検討は他所に譲るが、本稿で扱 った範囲で対象者の福祉的自由を全て評価してしまうことには慎重でなくてはならな い。しかしながら、ICECAP日本語暫定版各項目の得点は達成されている生活の水 準の評価に用いたEQ-5D日本語版の得点と統計的に有意な相関を示しており(表4)、 達成された生活の水準との関連を備えた福祉的自由の一つの指標としては有用であ ることが示唆される。 在宅療養者の生活背景や身体状態は多様であるため、本稿では、EQ-5Dスコアの 分布を見ながら同高スコア群・低スコア群の2群に分け、達成されている生活の水準 の別に、訪問看護導入の経緯が福祉的自由の状態(ICECAP日本語暫定版各項目) とどのように関連するかの検討を行った。その結果、訪問看護導入の経緯の違いが EQ-5D低スコア群において得点分布の差をもたらす項目と、同高スコア群において得 点分布の差をもたらす項目とがあった。前者は「安定・安心」と「達成感・成長」であり、 在宅療養の過程で低スコア群は高スコア群に比べて悪い状態になる一方で、退院時 に訪問看護が導入された場合やケアマネージャーが関与して訪問看護を導入した場 合には高スコア群と大差ない良い状態を維持している(図5-1、図5-4)。すなわち、 「安定・安心」や「達成感・成長」という福祉的自由は、達成された生活の水準が低い 在宅療養者にとって損なわれやすいものであるが、退院支援の一環として、あるいは、 ケアマネージャーが必要性を判断して訪問看護が導入される場合には良好に維持さ れるものと考えられ、訪問看護の効果的な導入がなされているといえる。 一方で「楽しみ・喜び」については、EQ-5D高スコア群において、訪問看護導入の 経緯の違いが得点分布の差として現れた。退院時の導入、在宅療養中の医師からの 勧め、ケアマネージャーからの勧め、本人・家族の希望による導入の順に、良い得点 の分布割合が大きくなった(図5-5)。したがって、達成された生活水準の比較的高い 場合には、利用者自らの希望で訪問看護の導入の決定に至るときに「楽しみ・喜び」 が効果的に高まること、在宅療養の経過の中で医師やケアマネージャーの助言に基 づいて訪問看護を導入する場合、退院時の導入に比べて「楽しみ・喜び」が効果的 に高まることが示唆される。退院という時点では在宅ケアの必要度の顕著な変化が生 15.
(16) じ、利用者の自発性が十分でなくても訪問看護の導入という決定に至ることが比較的 容易である。それに対し、在宅療養の過程で病状や介護状況の変化が緩慢である中 ではサービスの必要度が判断されにくい。そのような中で本人・家族の希望に基づい て訪問看護導入に至った場合は、導入決定における利用者の自発性が高いといえる。 こうした利用者は自らの希望で訪問看護を導入することにより、生活の「楽しみ・喜び」 を効果的に高めていることが分かる。また、自らの決定で訪問看護導入に至らない場 合でも、医師、ケアマネージャーという専門職からの助言が利用者に決定を促し、効 果的な訪問看護の導入に至って「楽しみ・喜び」を実現させていることが示唆された。. 6. 結論 在宅療養者の福祉的自由は、達成されている生活の水準により損なわれやすい部 分があるが、訪問看護を導入することによって効果的に維持することが可能である。 退院時に地域医療連携が円滑に図られ訪問看護が導入されることが福祉的自由の 向上に効果的である一方、ケア必要度の変化がわかりにくい在宅療養の過程の中で 医師やケアマネージャーの専門的助言に基づいて訪問看護を導入することによって も福祉的自由を効果的に向上させられ、在宅療養者のウェル・ビーイング実現に資す るものであることが示唆された。. 7. 引用文献 Al-Janabi H, Flynn TN, Coast J (2012). Development of a self-report measure of capability wellbeing for adults: the ICECAP-A. Qual Life Res 21(1):167-76. Commission on Social Justice (1993). What is social justice? In Pierson C, Castles FG (ed.) (2006). The Welfare State Reader, 2nd ed. Cambridge: Polity Press. Drummond MF, Sculpher MJ, Torrance GW, et al. (2005). Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes, 3rd ed. New York: Oxford University Press. 福原俊一(2002). 臨床のためのQOL評価と疫学. 日本腰痛会誌 8(1): 31-7. Henderson V, Nite G (1978). Principles and Practice of Nursing, 6th ed. New York: Macmillan Publishers. 厚生労働省平成24年度在宅医療連携拠点事業(2012). 在宅医療の体制構築に係 る指針. In: 平成24年度在宅医療連携拠点事業説明会資料(平成24年7月11日実 施)138-151. Meleis AI (2007). Theoretical Nursing: Development and Progress, 4th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins. 16.
(17) Sen A (1992). Inequality Reexamined. New York: Russell Sage Foundation. Sen A (1985) Well-being, Agency and Freedom; The Dewey Lectures 1984. J Philo 82(4): 169-221. Streeten P (1980). Basic needs and human rights. World Dev 8: 107-111. 太郎丸博(2005). 人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門 . 京都: ナ カニシヤ出版. Thorson MJ, Halloran EJ (2005). Henderson’s conceptualization of nursing. In. Fitzpatrick JJ, Whall AL (ed.) Conceptual Models and Nursing: Analysis and Application, 4th ed. Upper Saddle River, N.J.: Pearson Prentice Hall. Tsuchiya A, Ikeda S, Ikegami N, et al (2002). Estimating an EQ-5D population value set: the case of Japan. Health Econ 11(4): 341-53.. 8. 感想・謝辞 今回、勇美記念財団の研究助成を受けられたことから、在宅医療実践の場に身を 置きながらも、研究という観点から、日頃の実践と利用者の生活のありようを見直す機 会に恵まれました。特に利用者の生活のありようを見つめることは、看護者として基本 的な、大事なことであるとは知りながら、意識して見直さないと見失いがちなものでもあ り、実に貴重な機会になりました。今回の研究を通じ、人が生活の中で真に自由であ ることを発揮することがウェル・ビーイングの根本にあることが分かりました。研究として 不十分な部分は多々ありますが、在宅療養中という境遇にある利用者が真の自由を 獲得する上で訪問看護が大きな鍵を担っていることを研究結果は示唆していますの で、今回得られた着眼点に立ちながら、今後一層研究を掘り下げ、在宅療養中の人 の生活のありようにより近づきたいと思います。 本研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成によって行われました。 記して感謝いたします。. 17.
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