1
.背景と目的
我が国の大学においても faculty development (FD) の考え方が浸透してきたのは、2008 年の法 制的義務化の影響が大きい。その一環として、学 生による学期末における授業評価も定着した。 学生による評価結果を妙に納得して、授業の改 善策を練る教師がいる。一方、学生の評価結果を 目にして憤っている教師、「出席率 90 パーセント 以上の学生だけに評価させよう」といった苦言を 呈する教師もいる。 学生の評価を受けて、新たに設置された大学教 育センターが、授業力向上のために研修会を開催 する大学もある。例えば、東京農工大学の大学教 育センターでは、「板書の方法を工夫してほしい」 という学生の意見をもとに、『板書を中心とした ティーチングスキル』の研修を行った(東京農工 大学大学教育センター、2007)。FD の進展に伴い、Active learning (AL) が注目 されている。旧態の大学の授業では、教壇から一 方的に学生に語る教師の姿が見られた。ノートパ ソコンとプロジェクターが導入されるようになっ た昨今でも、授業のやり方は昔のままとの批判も 聞かれる。hand out を配布しないとか、穴埋めを させるように不完全なものを配布するなどの工夫 がみられるが、いぜんとして学生の居眠りや off task を防ぐのが難しい。これを打破するために、 教室を passive な状態から active な状態に変革す ることを提唱するのが AL である。 Silberman (1996) は、AL のために実に 101 もの ストラテジーを紹介している。これを見る限り、 LA は理論的背景をもった 1 つの新しい授業方法 (teaching strategy) の提言というよりは、役に立 つものは何でも取り込んでいこうという技法集の ように見える。したがってそのなかには、既に別 のキーワードで、理論的にも実証的にも研究が進 められてきたものもあれば、教師の個人的な願い を背景に教室のなかで地道に試みられている技法 も混じっている。 これまで、新しい授業ストラテジーが提唱され るとき、発見学習やプログラム学習がそうであっ たように、それまでのやり方を全否定して、新し
大学における授業振り返りシート導入の試み
河野 義章
A case study of using A lesson reflection sheet in a college class
Yoshiaki KONO
A purpose of this paper is to examine an effect of useing a reflection sheet in a college class. Thirty-one female university students were asked to fill-in blank spaces on the sheet as homework, after reflecting about a weekly psychological assessment class. Students filed the sheet at the forefront of their lesson note portfolio. A class topic of each lesson were printed on the paper beforehand. Students wrote in the contents of the lesson and the reporting assignment. Matters and themes with interest to need to learn were written at successive blanks voluntarily. The results of multiple regression analysis indicated that completing the reflection sheet increased the term-end examination score.Key words : reflection sheet(振り返りシート)、student development(学業発達)、
active learner(アクティブな学習者)、active learning(アクティブな授業)、
いやり方を導入することが勧められた。しかし、 授業ストラテジーの設計の視点からは、1 科目 15 回の授業を全て AL にするのは、生産的ではない。 また、90 分の授業を全て AL にする必要もない。 個々の授業方法にはそれぞれ長所短所があり、ま た全ての教材のトピックが AL に適しているとは いえないからである (河野、2009)。さらに、FD 研 修でこれを勧められると、教師の側で、「とても やっていられない」いう抵抗にあう可能性がある し、「そんなこと、もうやっているよ」という冷 ややかな受け止め方をされることもある。 新しい授業ストラテジーが、古いものと全取っ 替えのかたちで提唱されると、やがてその新しい ものも、ある日顧みられなくなるのが、これまで の教育界のならいであった。 そこで、AL の提言にあたっては、「あなたの授 業のやり方を少し変えてみましょう」というマイ ナーチェンジの勧めが肝要である。 その代わりに、教室のなかで大きく変ることが 期待されるのは、学生の側である。例えば、教え る側の板書など授業スキルが向上しても、学ぶ側 のノートテイキングなどの学習スキルが身につい ていなければ、教える側の努力は報われることは ない。そこで、学生の成績の向上のためには、faculty development (FD) と student development (SD) の 両方を視野にいれる必要性が認識されるように なった。学生の学習習慣、学習スキル、学習スト ラテジーの改善のための、Student Development Center が、各大学に設置されるようになった。こ れまでの精神生活上の適応問題に対応するカウン セラーとは別に、学業発達上の問題に対応するカ ウンセラーの養成と配置が急務とされている。
Student Development Center で は、 相 談 者 に 個々に対応するだけでなく、新学期や夏休みに、 特別に時間を設定して上手な学び方の取り立て指 導のプログラムを展開する。 しかし、具体的な学習習慣、学習スキル、学習 ストラテジーは、それぞれの教科の授業によって 期待される中味が異なる。たとえば、ノートの使 い方を考えても、文学、語学と数学、自然科学で は違ってくる。予習や復習についても、個々の教 師の授業のねらいによって、ちがってくる。そこ で、教師は、自分の授業で学生がよい学びができ るようになるためには、毎日の授業において学生 に対して,自分の授業にあわせて,study skills の 改善を不断に訴えながら、自分の授業の改善をは かることが、FD において肝要である。
そこで、Active learning から active learner をつ くることをめざしたい。 河井 (2003) は、大学生の学習法に関して、6 つの因子 (要点把握、ICT 活用、視覚活用、理解 促進・深化、メモ活用、関連資料活用) を見出し た。そこから、学生は「学習への理解促進や要点 把握」を主に学習方法として重視していて、「学 習への深まり」の手だては希薄だった。また、学 年が進む ( 1 年生から 2 年生に) と、「理解促進・ 深化」「関連資料活用」が減少することが明らか になった。
Nasir & Kono (2004) は社会構成主義の立場か ら、小学生のための理科の学習者尺度を準備し た。第一因子 (積極的参加) は、「自分で実際に、 触ったり、見たり、観察したり、実験したりする と、理科の授業は分かりやすくなる」、「何のため に活動するのか、その目的をはじめに知ってくと 理解しやすい」、「理科の授業では、小さなグルー プで勉強するのか好きだ」などの項目から構成さ れた。第二因子 (共同) には、「学習を深めるため には、クラスの仲間や先生との話し合いが必要で ある」、「教室で先生がたいせつな話をしたとき、 ノートに書き留める」、「理科の授業で、先生が私 の考えを聞いてくれて、分かってくれたとき自信 がわく」、などが含まれる。第三因子 (自己責任) は、「理科の授業で学んだことを良く理解するた めに、教科書以外の本を読む」、「勉強するのは自 分の責任だから、自分から進んで勉強する」、「理 科の授業で興味もったことに関係した本を読む」、 などの項目が含まれた。 中島 (2009) はこの尺度を小学生に実施し、得 点の高い子どもは、教師が板書しなかった事柄も すすんでノートに記述していることを明らかにし た。 梅田・河野 (2011, 2012) では、中学生のため の上手な授業の受け方尺度を開発しているが、そ の第 4 因子には、「先生が話しているときは集中 して聞く」、「授業を理解しようと先生の話を注意 深く聞く」、「先生の指示や説明をしっかりと聞 く」、の項目が含まれている。集中・注意深く・ しっかりは、教室のなかでこれまで繰り返し教師
業振り返りシートは、もっぱら学生の自己評価の ための補助の機能を果たす。教師は集めたり、コ メントをフィードバックしたりすることもない。 しかし、学習場面から時間を置いて学びを振り返 ることにより、学習内容の保持を助ける機能が期 待できる。加えて、学習したトピックから引き出 された興味や疑問から、学びを広げたり深めたり するきっかけづくりになる。さらに、期末試験の 準備にあたり、この振り返りシートを見ることに より、学びの全体像を把握することができる。 教師が AL の仕掛けを多く組み込むと、仕掛け がなくなったとき、また学生は passive な態度に 戻る可能性がある。そのため、授業振り返りシー トは、もっぱら自宅学習で記入することにした。 そこで、本報告では、大学での学生の学びを受 身的なものから積極的なものに変えるために、 「授業振り返りシート」を導入することの影響を 検討することを目的とする。
2
.方 法
2.1
協力者 A 女子大学の 2 年生 35 名のうち、資料の整っ た 31 名分を分析の対象とした。2.2
授業2.2.1
授業の概要 本研究の分析対象となったのは、心理学科の第 3 学年の選択必修科目として開設されている「心 理アセスメント」である。シラバスには、次のよ うにその概要が記載されている。 「子どもの発達課題を支える心理教育的援助に おいて行われる心理アセスメントの意義を理解 し、その場面で利用される個々のアセスメント用 具についての基礎理論を学ぶ。また、心理アセス メントを行うときに留意すべき倫理について理解 を深める。」 さらに、到達目標として、次の記載がある。 「心理教育的援助のためのアセスメントに利用さ れる個々の用具の開発の歴史と基礎理論を理解 し、結果を解釈する力を高める。」 オリエンテーションに続いて、「心理教育的援 助と心理アセスメント」の講義があり、その後毎 週 1 つずつ、アセスメント用具の解説と実習が行 から注意喚起されたことである。これに対して、 注目したいのは第 3 因子で、「話し手がどんな目 的をもっているのか意識しながら聞く」、「話の内 容を自分の言葉で言い換えながら聞く」、「話を聞 きながら先生の話の内容が正しいかどうかチェッ クする」、「話の内容をこれまで学んだことと関連 づけながら聞く」、の項目が含まれている。これ は認知心理学を背景とした精緻化・体制化の学習 ストラテジー (study strategies) である。 これらの研究から、active learner の姿が浮かび あがってくる。 ・積極的に参与する 準備や後片づけのボランティア、自発的発言、 知識の自発的構成 ・仲間と学びあう リーダーシップ、協働・共同 ・自己評価する 学べたこと、学べなかったこと ・学びを広げる、深める 興味や疑問 そこで、学生を active learner にする手だてと して、授業振り返りシートに注目する。 これは、毎週の授業の後、自宅でその授業の内 容、興味をもった点、よく理解できない点、出さ れた家庭学習の課題、さらに深く学びたい点など をメモする表である。形式は A 4 サイズの用紙一 枚で、授業ノート (ポートフォリオを作ることが 指示されている) の先頭に挟み込んでおく。 これまでも、授業の後にコメントカードが利用 されてきた。主な目的は出席の確認を容易にする ためであり、教師の手元に残ったままになること が多い。 さらに、「大福帳」 の利用も実践されている (織 田 1991、向後 2002)。これは A 4 用紙の表裏に、 14 回分の枠をつくり、授業の感想や質問を記入で きるようにしたものである。毎回の授業の最後に 記入のための時間をとり、回収する。教師はこれ にコメントを書いて次の授業のはじめに返却す る。学生にとっては学びの経歴を一枚の用紙で、 容易に振り返ることができる。しかし、記入と返 却のために授業時間が削られるし、教師が学生一 人一人にコメントを書くための時間が膨大にな る。この時間のコストが短所である。 かたちは大福帳に似ているが、今回導入した授降は自宅で記入するよう指示された。 なお、5 月の連休後に、ポートフォリオと振り 返り表について、学期末に集めて評価の材料にな ることを再度確認した。 学期末に提出された振り返りシートの評価は、 2 人の修士課程の大学院生が 5 段階で行った。そ の一致率は、80.1%であった。一致しなかったも のについては、筆者が成績評価のためにあらかじ め実施した評定を参考に、最終評価を決定した。
2.3.2
授業ノート 第一回目のオリエンテーションの時間に、ポー トフォリオの意義について解説し、A 4 用紙用の ファイルを準備するように指示した。また、授業 終了後に集めて、成績評価の対象になることを説 明した。この授業ノートは、ポートフォリオの形 式的側面から、5 段階に評定された( 4 とても優 れている、3 優れている、2 少し雑である、1 たい へん雑である、0 未提出)。2.3.3
課題、発展的学び1
、発展的学び2
学期末に提出されたポートフォリオをチェック して、3 つの測度を求めた。 課題10
:授業であつかった用具に関連した論文 を読んでレポートを書く課題は、10 回要求され た。学期末の成績判定の際には、当該論文の工夫 されている点の指摘、当該論文をさらに発展させ るための視点の提起、仲間の論文を読んで気づい たことの記述内容が、重みをつけて得点化され た。しかし、本報告では、提出情況が把握できる ように、提出回数を測度とした。 発展的学び1:授業のなかで話題にした用語など のなかで、時間の関係で詳しく説明できないも の、既習内容の学び直しについて、自宅で自発的 に学んでノートにまとめておくように指示され た。7 回課されたが、学期末に提出された授業 ノートで、1 つの記載について 1 点とした。 発展的学び2:授業のなかで、興味関心をもっ て、さらに幅広くあるいは深く学びたいことを振 り返りシートに記載するように奨励された。これ についても、ノートに学びの痕跡があるものにつ いて 1 点を加えた。2.3.4
テスト75
75 点満点の期末試験の成績が測度とされた。 「教育目標の分類学」の基準 (河野,1988) により、 知識問題 50 点、総合問題 25 点の配点で、作成し われた。取りあげる計画だった用具は、知能、人 格、発達、テスト不安、達成動機、ストレス、親 子関係、夫婦関係、学級集団、学習意欲、学業、 進路である。ただし、途中宿泊研修が入ったた め、夫婦関係は省略された。2.2.2
授業の特徴 授業の流れは、基本的に AL の考え方を反映し てデザインされた。90 分の授業は、ほぼ三等分さ れた。 はじめの約 30 分は、前の週に与えられた課題 の読み合わせにあてられた。各回の授業で取り上 あげた用具を用いた研究論文が紹介され、CiNii からダウンロードしたり、図書館の所蔵雑誌から コピーしたりして読むこと。それを A 4 用紙一枚 に要約したレポートの作成が求められた。要約に あたっては、研究が行われた背景、具体的な目 的、方法や分析の工夫されている点、具体的な結 果、考察の論点、研究をさらに発展させるための 視点、について記述することが求められた。 そこで、授業のなかでは 3 人がチームになり、 お互いのレポートを回し読みして、それぞれのレ ポートに赤文字で意見を書き込んだ。その後、手 元に戻った自分のレポートの裏面に、他の人のレ ポートと読みくらべて気づいたことを記入するこ とが求められた。最後に教師が回収して、教師か らのコメントを加えて、基本的に次週に返却され た。 次の 30 分では、その週に実習する用具が配布 され、回答の仕方の説明の後、実際に回答した。 最後の 30 分では、その用具の理論的背景の解 説、採点の方法、実施上の留意点などの解説が行 われ、学生は自分の得点を確認した。 最後に、課題として読むべき論文が紹介され た。2.3
材料2.3.1
授業振り返りシート 第一回目の授業で、各自に A 4 用紙片面に印刷 されたものが一枚ずつ配布され、記入方法が説明 された。各週に 1 行ずつ使用して、あらかじめ取 り扱う用具が印刷してある。その日の授業内容、 自宅学習のレポート課題、課題への取り組みの評 定、発展的学びの欄を埋めることが求められた。 学生は、第一週だけ教室で記入の練習を行い、以た。試験教室には、授業ノートポートフォリオの 持ち込みが許可された。 最終的な学期末の成績評価は、このテスト 75 と平常点(出席点、係りとしての授業貢献度、提 出物の成績)をあわせて行われた。
2.3.5
出席 14 回の授業の出席回数をそのまま利用した。3
.結 果
分 析 の 対 象 と し た 各 変 数 の 記 述 統 計 量 は、 Table 1 に整理した。3.1
授業振り返りシート 提出された振り返りシートは、5 段階に評価さ れた (Fig. 1 )。評価点 4 (たいへんていねいである) に評価されたのは、受講学生のほぼ 4 分の 1 であ る。この評価点の分布は、自発的学習態度の個人 差が大きいことを示している。実際の授業振り返 りシートの例を Fig. 2 および Fig. 3 に示した。 Fig. 2 は、評価点 4 と判定された振り返りシー トの例である。毎回の授業で扱ったトピック、レ Table 1 各変数の統計量 度数 最小値 最 M SD 出席 31 9 14 12.68 1.51 ノート 31 0 4 2.81 1.20 振り返り シート 31 0 4 2.19 1.35 課題10 31 2 10 7.35 2.84 発展 1 31 0 7 1.42 1.88 発展 2 31 0 4 0.23 0.81 test75 31 25 75 52.10 15.63 Fig. 1 授業振り返りシートの評定 Fig. 2 授業振り返りシート 例 1欄に 「active learner」 と 「100 円ショップに行く」 のというメモ書きがあり、話を聞いていた痕跡を 示している。「 3 年 B 組金八先生の教室と大学の 教室はどこが違うのか」 の話し合いから、FD と SD の話をして、ポートフォリオのためのファイ ルを買うことが勧められたことが分かる。
3.2
授業ノート ポートフォリオのかたちで提出された授業ノー トは、形式的な規準に基づいて 5 段階に評定され た。評価点 5 (とても優れている) は、振り返り シート、講義ノート、配付されたアセスメント用 具の解説プリント、レポート課題の材料、レポー ト課題、発展学習の資料が、きちんと綴じ込まれ ていた。当然、独立で立っていられるほど厚いも のに仕上がっていた。31 人の受講生のうち 11 人 (35.5%) が評価点 5 であり、一番多い割合であっ た。 一方、評価点 1 (たいへん雑である) の 2 名の 授業ノートは、振り返りシート 1 枚と授業ノート 1 枚をホチキスで止たものであった。いずれも、 ポートフォリオ作成のためのファイルの準備がで きていなかった。 ポートを読む課題がほとんどもれなく書き込まれ ている。 課題への取り組み欄の二重丸 (◎) は、仲間の レポートと読み比べた後の自分の作成したレポー トへの自己採点の結果を示している。ほとんど二 重丸の評価をしている。○が 1 つあるが、「やっ たけど忘れました」 と小さくメモしている。 発展的学びについては、発展 1 の学びの課題と して、授業中に出されたものである。この課題 は、授業の進行に合わせて、黒板の右端の欄に記 述する約束になっている (東京農業大学大学教育 センター、2007)。 さらに、授業に刺激されて、さらに広く深く学 びたいことも、この欄に書き、休日など時間の余 裕のあるときに取り組むように奨励された。 一方、Fig. 3 の授業振り返りシートは、評価点 2 と判定されたものである。この学生は、授業の 内容と課題の欄は、ほぼ埋めている。しかし、発 展的学びの欄は、空白ばかりが目立つ。欠席が 2 回あり、レポートは 8 つ提出されている。課題へ の取り組み欄は、○ (ふつう) が並び、△ (もう少 し努力) と× (かなり努力を要する) も見られ る。ただ、1 回目のオリエンテーションの時間の Fig. 3 授業振り返りシート 例 2なかった。逆に、学びの痕跡が全く見られなかっ たのが、15 人 (48.4%) もいた。ただ、半数以上の 受講生は、何らかの発展的学び 1 への痕跡がみら れたことは、注目しておきたい。 加えて、発展的学び 2 も奨励された。こちら は、授業の学びに刺激をうけ、興味をもったこと について、さらに学びを広げたり深めたりするこ とが奨励された。しかし、これについては、31 人の受講生のうち、28 人 (90.3%) に学びの痕跡 がみられなかった。4 つの課題に自主的に取り組 んだのが 1 人、2 つと 1 つの課題に取り組んだの が、それぞれ 1 人ずつであった。
3.5
テスト75
期末試験は、75 点満点で実施された。得点の ピークは 70 点で、7 人 (22.6%) がこれにあたる。 あとは、各得点に 2 名程度まんべんなく分布して いる。88.4%の受講生が、このテストだけから見 た合格ラインに達していた。3.6
出席 出席数が規定に満たない受講生は、この試験を 受けていない。授業は、合宿研修を除いて 14 回 行われた。12 人 (38.7%) は皆出席であった。こ れをピークに、13 回 ( 8 人、25.8%)、12 回 ( 6 人、 19.4%)であり、全体的によい出席率といえる。3.7
各変数の関連 テスト 75 に与える各変数の影響を検討するた めに、使用した変数の相関行列を Table 2 に整理 した。 振り返りシートは、ノート、課題 10、発展 1 、 評価点 2 の授業ノート ( 7 人、22.6%) は、毎回 の授業でアセスメント用具の解説プリントが配付 されたため、その空欄にメモ書きして済ませたも のが多く見られた。3.3
課題10
毎回の授業で取り上げたアセスメント用具を 使った研究論文が紹介され、それを読んでレポー トを作成することが要求された。授業の開始時点 で、3 人がチームになり廻し読みしながら、赤字 でコメントを加える作業をした。これが終わった ら、仲間のレポートと自分のレポートを読んだ感 想を自分のレポートの裏に書き込んだ。授業のあ とで、教師によって回収された。 課 題 と し て 与 え ら れ た の は、10 回 で あ っ た が、10 回とも提出できたのが 12 人 (38.7%)、8 回 が 8 人 (25.8%) で、ある程度熱心に取り組んだと いえる。提出が義務づけられたことを反映してい る。3.4
発展的学び 授業のなかで、別の授業で学んだことを想起す る必要がある。たとえば、Big five 性格検査の実 習では、これまで学んだ性格テストの形式の特徴 や長所短所を思い起こすことが期待される。ま た、学力テストの作り方の実習では、テストの標 準化の過程まで学びを発展させたいが、授業のな かで時間が確保できないので、自発的に学び、 ノートに整理することが奨励された。これが発展 的学び 1 である。 7 つの課題がだされたが、ノートに4回以上学 びの痕跡が認められたのが 4 人 (12.9%) に過ぎ Table 2 変数間の相関 出席 2 ノート 振り返りシート 課題10 発展 1 発展 2 test75 出席 − ノート .30 − 振り返り シート .13 .54** − 課題10 −.04 .61** .70** − 発展 1 .20 .57** .59** .60** − 発展 2 .03 .29 .33 .27 .55** − test75 .06 .38* .62** .55** .44* .39* −第 1 に、学習習慣の形成があげられる。教室で 授業を受けた後に、それに関連した自宅学習が奨 励されている。しかし、大学生の授業外学習に関 する諸報告では、おしなべてその時間数は少な く、具体的な問題や教材が与えられないと学習す る方法が分からないという学生の実態がある (吉 田ほか、2011)。このことは、知識は自ら構成して いくものであるという、構成主義的学習態度が身 についていないことを示している。 そこで、授業のあった日に、自宅でこのシート のわずかなスペースを埋める作業を繰り返すこと によって、どの時間帯に家庭学習の時間を確保し たらよいか考えるようになり、学習習慣がかたち づくられる契機になる。 授業後に自宅で学ぶことが期待されても、たく さんの時間とエネルギーをかけることのコストを 考えると、学生は二の足を踏む。これに対して、 今回導入された授業振り返りシートは、記入ス ペースが小さいために、学生のコスト意識を低減 する作用がある。伊豆原子・向後 (2002) では、 電子化された大福帳と呼ばれるシートへの記入に 要する時間は、約 5 分であった。大福帳は授業に 対するコメントを自由に書くものであるが、今回 導入された振り返りシートでは、授業内容、レ ポート課題、発展的学び 1 、発展的学び 2 と記入 する内容が具体的に指定されているので、もう少 し時間がかかったと予想されるが、学生の時間と エネルギーに対するコスト意識は、それほど大き なものでなかったと推測される。 第 2 は、自己評価のきっかけである。小さなス ペースであるが、毎週の授業内容をメモする際 に、ノートを見直すようになる。その段階で、授 業内容で理解できた点、よく理解できなかった点 に気づくことになる。 Silberman (1996) の第 88∼第 92 の AL のための ストラテジーは、自己評価のためのストラテジー になっている。実際にはルーティン化するため に、どれか 1 つを選んで 15 回の授業で実践する ことになるが、授業のなかで時間のコスト増につ ながる。 今回の授業は、授業全体が AL の考えに基づい てデザインされているので、どこで自己評価の時 間を節約するかが課題であった。自宅での振り返 りシートの記入により、学生は具体的な自己評価 test75 との間で有意な関連が認められた。しか し、期待された active learner の指標である発展 2 との関連は有意とはならなかった。これには、受 講者の数の少なさが反映している。発展 2 は、発 展 1 と高い有意な関連が認められ、発展 1 に取り 組むことが、発展 2 の自主的な学びへとつながる ことが確認された。また、test75 は、出席を除く 各変数と有意な関連が認められた。A 女子大で は、出席管理が厳しくなされていることが反映し ている。 そこで、テスト 75 への各変数の影響の大きさ を明らかにするために、テスト 75 を被説明変数 として、強制投入方による重回帰分析を実施した (村瀬ほか、2007)。この分析には、SPSS (Vir.20) を使用した。 Table 3 をみると、test75 に影響を与える変数 は、振り返りシート、課題 10、発展 2 の順であり、 特に振り返りシートが、10%水準で有意であった。
4
.考 察
4.1
授業振り返りシートは、なぜ効果があるのか 31 人という少ない受講者であったが、毎回の授 業について授業振り返りシートをていねいに完成 させることが、期末試験の成績を有意に高くする 効果が認められた。また、このシートを完成させ ることが、毎週のレポート課題(課題 10 の提出) や自発的学び (発展 1 ) への取り組みとも有意な 関連があることが認められた。では、この一枚の 振り返り表が、なぜ有効なのか。 Table 3 test75 を被説明変数とする重回帰分析 説明変数 β r 出席 .05 .06 ノート −.09 .38* 振り返りシート .41+ .62** 課題10 .30 .55** 発展 1 −.06 .44* 発展 2 .23 .39* R2 .45* Adj.R2 .32* N 31 注)β:標準回帰係数 r:相関係数 **p<.01 *p<.05 +p<.10だけで学生と接触する大学教員には、そのような 細かなフィードバックを与える機会がない。出欠 の確認にあわせてコメントカードを書かせる大学 教員も多いが、多人数の教室では一人一人に決め の細かなフィードバックを与えるのは限界があ る。大学におけるフィードバックの少なさが学生 の学習動機を低めているという指摘もある (溝 上、1997)。 もし、この振り返りシートを AL の主なるスト ラテジーとして活用するのであれば、フィード バックの機会を増やすような工夫が必要になる。 IT 化もその 1 つの手立てとして試みられている (宮田 2007、元木 2009、伊豆原・向後 2009)。しか し、それを開発する時間と経費のコストは膨大な ものになる。 第 2 は、効果についての実証データの提示であ る。本報告は、そのための 1 つの資料となる。少 な い コ ス ト で、 効 果 が あ る こ と が 分 か れ ば、 フィードフォワードの効果から、学生は進んで振 り返り表の作成に取り組む active learner に成長 することが期待できる。 A 女子大学で活用が奨励されている「ドリーム 手帳」には、毎回の授業内容を記入する欄が準備 されている。これを利用することは、振り返り シートの利用と同様の効果が期待できる。
4.3
今後の課題 第 1 に、期末試験問題の理解水準の検討が必要 である。本報告では、被説明変数である期末試験 (test75) は、「教育目標の分類学」の知識と総合の 2 種類から構成されていた。前者が 67 パーセント、 後者が 33 パーセントであった。active learner に 期待されるのは、授業中に与えられた情報を単純 に再生する知識問題に正答するだけでなく、総合 問題や評価問題に高い得点をとることである。総 合問題は「与えられた情報をもとに新しい問題や 課題状況を自ら設定する能力」であり、評価問題 は「ある目的に照らして材料や方法の価値を判断 する能力」である (河野、1988)。したがって、授 業振り返りシートの効果をより細かく検討するた めには、期末試験の構成を考慮して、理解水準別 に振り返りシートとの関連を明らかにすることが 必要となる。 第 2 に、学習者の特性の検討が必要である。受 のやり方を自発的に身につけることができると期 待される。 また、復習の大切さは強調されるが、机に座っ て何をしたらよいのか分からないのは、小学生で も大学生でも同じである。この振り返りシートを 利用した短時間の作業は、復習で大切なのは自己 評価であることを受講生に分からせる効果があ る。 第 3 に、遅れ再認の効果が考えられる。 Silberman (1996) の第 79∼第 87 の AL のためのストラテジー は、学習内容を忘れないためのストラテジーが並 んでいる。しかし、授業のなかに組み込まれた活 動では、時間の経過による情報の忘却や変形など の可能性がある。たとえば、提出しなければなら ない宿題がなんであるのかについても、帰宅時点 で忘れていることも多い。そこで自宅で振り返り シートを埋めることは、時間をおいて忘れかけた ものを再認して、保持を確実なものにする効果が ある。 第 4 は、学習を広げたり深めたりたりするきっ かけである。これまでのコメントカードやリフレ クションカードは、単に授業の感想を求めるもの が多かった。これに対して、今回の試みでは、オ リエンテーションで、振り返りシートには、もっ と詳しく知りたいこと (発展 2 ) も記入するよう に伝えられた。これが定着すれば、授業を批判的 に聞く態度が育ち、それにより授業での学びを広 めたり深めたりするきっかけになる。これが、知 識を自ら構成していく構成主義的学習者を育てる と期待される。4.2
授業振り返りシートの活用を促すために 第 1 にフィードバックの工夫である。提出され た振り返りシートの評価結果は、Fig. 1 に見るよ うに、その記述内容に個人差が大きいことが分 かった。今回の授業では、毎週学生に課した論文 の要約のレポート課題の取り扱いに初めの約 30 分があてられ、一週間後に個別のフィードバック も与えられた。そのため、時間のコスト削減た め、振り返りシートへのフィードバックを省略し たことが裏目にでてしまった。 小学校の教員の場合、朝の会の時間に集めた日 記や連絡帳に目を通して、コメントをつけて帰り の会で返却している。しかし、週に一回授業時間す効果.日本教育工学論文誌,33, 57-60. 中島ちさと(2009).構成的学習者はどんなノー
トをとるのか 河野義章(編著)授業研究法 入門.図書文化,p.175.
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