原 著
倭女医禄、笏63巻平蔑騨蒲〕
東京都における施設入所を希望する在宅重症心身障害者の実態
東京都立東大和療育センター(院長:三吉野産治) 東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) ヒラ ヤマ 平 山 ヨシ ト義 人
(受付 平成5年6月22日) Non・insti加tionalized Severely Retarded Adults in Tokyo Yoshito HIRAYAMA Division of Child Neurology(President:Sanli MIYOSHINO), Tokyo Metropolitan Higashiyamato Medical Center for the Handicapped Department of Pediatrics(Director:Prof. Yukio FUKUYAMA) Tokyo Women’s Medical College Physical findings as well as famihar and social backgrounds of severely retarded adults cared for in their homes in Tokyo were investigated. I identified forty cases v幽ose severe physical and motor handicaps were noticed in childhood and whose fam三lies felt that it was difficult to care for them at home. Twenty cases were bedr量dden and thirty had to take antiepileptic drugs. They ingested all foods orally and all but one had to be fed. The average age of the 26 men was 27.9 years, weight 41.O kg, and the average age of the 14 women was 26.9 years, weight 38.5 kg. Thirty cases had gone to school and twenty seven cases were presently attending a l㏄al daycare center for handicapped persons almost daily. Thirty−four of the 40 cases lived with their parents. Thirty seven were cared for at home by their mothers, two by their sisters and one by her grandmother. The average age of family members who were the ma重n care providers was 58.O years. Thirty four of the fathers were still working. The main reasons why families decided to institutionalize these indMduals were chronic back pain,fatigue and death of a parent. I hope that improvements in medical and social support will make it poss三ble for these individuals to live at home longer. はじめに 著者は,東京都に存在する6∼14歳の重症心身 障害児(以下重障児と略す)に関する疫学調査を 行い,島しょ部を除く東京都内に830名の重障児が おり,その84%が在宅していることを確認した1). また東京都が行ってきた在宅重障児訪問事業によ り得られた資料より2),18歳以上の重症心身障害 児(以下重障者と略す)もかなり在宅しているこ とが確認されている. 従来,重障児を幼少時より施設入所させる傾向 にあったが,でき得る限り長期におたり家族と共 に暮らせることが,重障児・者にとって幸せであ ることは疑いのないところで,今回施設入所を希 望した重障者の実態調査を行い,重障児・者が在 宅を続けられるために必要な本人および保護者の 状況,医療・教育・福祉的背景につき検討した. 対 象 対象は,東京都が新たに開設した重障児施設(東 京都立東大和療育センター)への入所を希望し, 1992年8月1日より10月末日までに入所した重障 者44名で,うち40名は在宅を続けていた.残る4 名は入所する1年以上前より他の医療機関に入院あるいは入所していたため,厳密には在宅重障者 ではなかった.なお東京都は,入所者を選定する にあたり,医師および行政関係者より構成する選 考委員会を設け,在宅重障者を優先した. 結 果 1.対象者の実態 1)性別および年齢構成(図1) 性別は男性27名,女性17名で,年齢は19歳から 44歳に分布していた.男性の平均年齢は27.9歳, 女性の平均年齢は26.9歳であった. 2)大島分類による内訳 入所対象者の重症度を,肢体不自由と知能障害 の程度を組み合わせた大島分類3)の1∼4とする という選考過程での方針もあり,大島分類1(寝 たきり,IQ20以下)が20名(45.5%),分類2(座 れる,IQ20以下)が16名(38.6%),分類3(座れ る,IQ21∼35)が1名(2.3%),分類4(寝たき り,IQ21∼35)が3名(6.8%)と41名(93%強) が大島分類の1∼4に属した.残る3名のうち, 分類5(歩行障害,IQ20以下)が1名(2.3%), 人数 10 8 6 4 2 蒙蒙轟 羅霧醇 □男 平均2了9歳 E女 平均269歳
、L臨
.19 20剛24 25∼29 30∼34 35∼39 40∼44 (歳) 図1 男女別年齢分布 分類8(座れる,IQ36∼50)が1名(2.3%),分 類9(寝たきり,IQ36∼50)が1名(2.3%)であっ た. 3)体重(図2) 入所時に測定した男性の体重は最低23.1kgか ら最高73.3kgに分布し,平均は41.Okgであった. 女性の体重は最低22.3kgから最高58,5kgに分布 し,平均は38.5kgであった. 4)医療機関受診状況 入所する1年以上前より他の医療機関に入院し ていた4名を除く,在宅を続けていた40名が定期 的あるいは病気の際に受診していた医療機関は, 31名が重障児施設に併設された医療機関,9名が 大学病院などその他の医療機関であった. 5)服薬iの有無 44名辞40名が何らかの服薬を継続していた.そ の内訳は,抗てんかん剤(筋弛緩剤拳るいは便秘 薬を併用していた例も含む)33名,筋弛緩剤4名, その他の薬剤3名であった. 6)てんかん合併頻度と抗てんかん剤の服用剤 数‘ 44名中33名がてんかんを合併し,いずれも抗て んかん剤を服用していた.抗てんかん剤の服用剤 数と服用人数(図3)を服用剤数の多い順に列挙すると,最高が5剤で3名,4剤7名,3剤8名,
2剤12名,単剤4名で,平均服用剤数は2.8剤で あった.入所前の発作頻度(図4)は毎日数回あ るものと月に数回あるものが各9例と多く,過去 にあったが1年以上無いもの8名,年に数回ある もの6名,週に数回あるもの1名と続いた. 7)栄養摂取 人数 10 8 6 4 2 1萎嚢錘 斧 日男平均411kg │女平均385㎏ 体 20噌29 30僧39 40∼49 50∼59 60周69 70壇 (kg) 図2 男女別体重分布 点数 5 4 3 2 124681012
図3 抗てんかん剤服用剤数 人数人数 10 8 6 4 2 1 2 3 4 5 6 図4 てんかん発作頻度 1:毎日数回ある,2:週に数回ある,3:月に数回 ある,4:年に数回ある,5:過去にあったが1年以 上無い,6:今まで1度も無い. 人数 24 20 16 12 8 4 1 2 3 4 5 図5 食事介助 1:全介助(経管),2:全介助(経口),3:かなり 介助が必要,4:わずかな介助が必要,5:介助不要. 41名は経口的な栄養摂取が可能であった.主食 の形態は,普通食22名,六十11名,粥5名,ミキ サー食3名であった.経管栄養を受けていた3名 は,いずれも入院前1年以上にわたり他の医療機 関に入院していた. 食事介助の度合(図5)は,全介助が必要であっ たものが29名で,うち3名は経管栄養であった.1 かなり介助が必要であったもの4名,わずかな介 助が必要であったもの2名,介助が不要であった ものは1名のみであった. 8)排泄介助(図6) 36名では全介助が必要,6名ではかなり介助が 必要であった.トイレ移動や,更衣の着脱に全く 介助を必要としなかったものが1旧いたが,同例 は食事も自立していた. 9)理解反応(図7) 働きかけに全く反応しないもの12名,働きかけ に多少は反応するもの12名,単語の意味を理解す るもの11名,日常会話を理解するもの8名であっ 36 32 28 24 20 16 12 8 4 人数 1 2 3 4 図6 排泄介助 1:全介助,2:かなり介助が必要,3:必要に応じ て,4:介助不要. 人数 12 10 8 6 4 2 1 2 3 4 図7 理解反応 1:働きかけに全く反応しない,2:働きかけに多少 は反応する,3:単語の意味を理解する,4:日常会 話を理解する. 人数 16 14 12 10 8 6 4 2 1 2 3 4 5 図8 表現反応 1:表現手段が無い,2:意味のわからない声や身振 りで表現する,3:単語や意図した身振りで表現する, 4:文章で表現する. た. 10)表現反応(図8) 表現手段がないもの15名,意味のわからない声 や身振りで表現するもの17例,単語や意図した身 振りで表現するもの11例,二語文で表現するもの 1名,文章で表現するもの3例であった. 11)就学の有無 44名中34名(77.3%)が就学経験者であった.
その内訳は肢体不自由児養護学校が31名,精神薄 弱児養護学校が2名,普通校が1名であった.精 神薄弱児養護学校に通学した2名はいずれも,か つて歩行可能であった.普通校へ通学した1名の 基礎疾患は退行性疾患であった.10名は就学経験 が無かったが,就学経験の有無の境となる年齢は 31∼32歳であった. 12)施設への入所体験の有無 在宅を続けていた40名中27名’(67.5%)は,緊 急一時入所,あるいは短期体験入所制度を利用し て重障児施設へ入所したことがあった. 13)心身障害者福祉施設への通所の有無 在宅を続けていた40名誉27名は,重障児・者通 所事業施設をはじめとした心身障害者のための通 所・通園機関へ通所していた.通所していなかっ た13門中7名は就学経験も無く,年齢も31歳以上 であった.4名は20歳代であったが,寝たきりで 医療的な意味で重症であったため通所できなかっ た.1名は通所経験があったが,入所する1年ほ ど前から母親の病気で送迎が難しくなり通所して いなかった.1名は祖母と2人暮らしで,住宅が 四階にあったため,送迎が難しく通所していな かった. 2.在宅重障者の保護者の実態 1)主介護者 在宅を続けていた40名の日常生活を,主として 介護していたのは母親が37名,姉妹2名,祖母1 名であった.姉妹が介護していた例は,いずれも 入所する1∼2年以内に母親が死亡していた. 主介護者の年齢(図9)は,30歳(姉)から79 歳に分布し,平均58.0歳であった.なお姉妹が主 介護者であった2例を除いた主介護者の平均年齢 は59.4歳であった. 2)家族構成 2名の父親と2名の母親が死亡しており,1名 の父親は離婚して別居していた.また両親と別れ て祖母と2人で暮らしていたものが1名いた.両 親と同居していたものは34名であった.対象者を
除いた同居者数は,1が3名,2が12名,3が16
名,4が8名であった. 3)父親の就業の有無 人数 14 12 10 8 6 4 2 年齢 30∼3940∼4950∼5960∼6970∼79(歳) 図9 主介護者の年齢分布 同居中の37名の父親のうち31名(83.8%)は現 職にあった.その内訳は会社員24名,自営業5名, その他2名であった.6名は定年退職していた. 4)住居および収入 自宅に住んでいたもの22名,借家に住んでいた もの17名,社宅に住んでいたもの1名であった. 児童相談所より送られた資料によると,家族の経 済状況を示唆する収入は,上が4名,中が30名, 下が6名であった. 3.措置理由 正規の措置理由は,全例が主介護者の病気(ほ ぼ2/3は腰痛),慢性疲労,死亡,あるいは高齢に よる介護困難であった.とはいえ,住宅を続けさ せる余力はあったが,この機会を逃すと措置入所 させることが難しくなるのではないかとの危惧か ら,入所に踏み切った保護者もいたものと推定さ れる. 考 案 平均年齢27.5歳まで在宅することができた背景 を,重障者の側からとらえると,全介助とはいえ 経口的な食事摂取が可能で,男女とも平均体重が 40kg前後であったことから,常時濃厚な医療を必 要とした症例が少なかったものと思われる.また 難治性のてんかん合併例でも,発作重積を反復し 緊急に医療機関を受診せざるを得なかった症例が 少なかったことも在宅を続けられた要因と思われ る.保護者の側からとらえると,両親が健在で同居 していた症例が多かったことが第一の要因と思わ れる.とはいえ,父親が現職の家庭が多く,日中 の介護には平均年齢が60歳に近い母親があたって いたことを考えると,腰痛などに悩まされたであ ろうことが想像され,今回の入所を決めた保護者 の決断は十分理解できるところである. また,医療面からみると,全例いざという時に 頼れる医療機関とのつながりを持ちえたこと,緊 急時には一次的に入院あるいは入所し十分な医療 を受けることができていたことも,長く在宅を続 けられた要因と思われる. さらに,東京都は在宅重症心身障害児対策の一 環として,1979年目り専門医師等による訪問健康 診査(在宅重症心身障害児訪問事業)を,1982年 より訪問看護事業を,1983年より短期体験入所事 業を,1988年より通所事業を開始しており4),養護 学校卒業後も社会とのつながりを持てるように なったことが,在宅重障者の増加に大きな影響を 与えたものと思われる. 他方,障害児教育の義務化も重要な役割を演じ たものと思われる.入所時年齢31∼32歳を境に, 年長者では就学経験がなく,入所前に福祉施設へ 通所していた者も少なく,また緊急一時入所経験 者も少なかったのに反し,年少者では通所,緊急 入所の経験者も多かったことは,学校を通じて保 護者への福祉清報の提供があったことを裏付ける ものであろう.学齢に達すれば重障児でも通学が 可能となり,通学している間は母親が家庭の仕事 をしたり休息を取ることができるようになったこ とが,在宅重障者の増加をもたらした最大の要因 であったかもしれな:い. 重障児・者が少しでも長い間在宅を続けられる ための要因につき,さらに症例を増やし検討する 予定である. ま と め 1.措置入所を希望した19歳以上の在宅重障者 を対象に,年長になるまで在宅が可能であった要 因につき検討した. 2.年長になるまで在宅が可能であった症例で は,経口的な食事摂取が可能で,比較的健康に恵 まれていた症例が多かったこと,医療機関との連 絡が密に取れていたこと,両親が同居していた例 が多かったことが判明した. 3.行政サイドの在宅重障児・者に対する各種の 取り組み,全員就学による教育的取り組みにより 重障児・者が在宅を続けやすい環境が整備されて きたことにより,在宅重障者は今後さらに増加す るものと予想される. 文 献 1)平山義人,鈴木文晴,荒木 敦ほか:東京都にお ける重症心身障害児の有病率の検討.厚生省精 神・神経疾患研究委託重度重複障害児の疾病構造 と長期予後に関する研究,平成元年度研究報告 書 :}.6−20, 1991 2)倉田清子,苗木 昇,伊藤昌弘ほか:東京都在宅 重症心身障害児の現状.重症心身障害研究誌 1701:39−43, 1992 3)大島一良:重症心身障害児の基本的問題.公衆衛 生35:648−655,1971 4)東京都衛生局健康推進部母子保健課:在宅重症心 身障害児訪問事業概要.pp1−6,1992