原 著 〔東女医大誌 第57巻 第5号頁 329∼346 昭和62年5月〕
Nd−YAG LASERによる内視鏡下胃癌治療の臨床的研究
東京女子医科大学 消化器病センター外科(主任 ハ セ ガワ トシ ヒロ長谷川利弘
’羽生富士夫教授) (受付 昭和62年2月12日)Clinical Studies of Endoscopic Treatment for
Gastric Cancer by Nd・YAG Laser
Toshihiro HASEGAWA
Department of Gastroenterogical surgery, Institute of Gastroenterology(Director: Tokyo Women’s Medical College
Prof. Fujio HANYU)
Endoscopic Nd−YAG Laser irradiation has been performed on 34 patients with gastric cancer,and the effectiveness of Laser treatment was studied.17 cases Qtlt of them were irradiated with Nd−YAG
Laser l to 25 days before surgical operation, and then we tried to inquire histo・pathological Laser effect
for gastric cancer from the resected specimens. As a result, the cases which the cancerous infiltration confined within mucosa and submucosal tissue, could be effectively and radically treated by Laser. But it was suggested that the complete Laser treatment for the gastric cancer invaded expansively in the submucosal layer might be difficult.
On the other hand,17 cases with gastric cancer(containe 15 cases of early gastric cancer)on which surgery could not be carried・out by some reasons such as serious complications, were treated only by Laser irradiatioh, and followed up endoscopically(the longest period:2years and 8 months). Eight cases of protruded types of the early gastric cancer Were successfully treated except l case of local recurrence. However, the result of treatment for depressed type of the early gastric cancer was poor. In 31esions of 2 cases, recurrence was provedl by biopsy at the earlier stage after Laser
irradiation. In another case, the biopsy specimen had showed carcinoma cells continuously in
existence. From these point of view, Laser treatment is extremely suitable for protruded mucosal
gastric carcinoma. Therefore, it is necessary to diagnose correctly the extention and depth of
cancerous invasion be茸ore Laser treatment, Further it is important to know the existence of the lymph node metastasis for radical treatment,but it seems to be one of the crucial problems solved in the near future. 緒言 対象と方法 成績 目 次 1.Nd−YAGレーザー照射の目的 2.照射手技に関して 3.切除例の病理組織学的検討 1)隆起型胃癌 2)陥凹型胃癌 4.経過観察症例の検討 考察 結論 文献 緒 言 1881年にTheodor Billrothカミ初めて胃癌患者 の胃切除術に成功して以来,今日まで胃癌治療の 原則が外科手術であることは動かしがたい事実で ある.一方,近年本邦では,集団検診の励行や飛
躍的な診断技術の向上に伴い,胃癌,特に早期胃 癌が数多く発見され.るようになったが,同時に高 齢あるいは高度の合併症といった理由で,外科手 術が行ないえない胃癌患者が増加してぎたことも また事実である.こ.うした患者の治療の一端を内 視鏡医が担ってきた.その歴史は1969年常岡ら1) の内視鏡下胃ポリープ切断採取法に始まったと いってよいであろう.その後高周波電流によるポ リペクトミーへと発展し,さらに抗癌剤や土タ ノ.一ルの局所療法,.cryosurgeryの報告を見るよ うになった.そして,1975年頃からFrUhmorgen2) やKiefhaber3)によって消化管出血の治療に用い られていたレーザ7が我が国に導入され,1979年 に水島ら4)により初めてレーザーによる胃癌治療 の試みが発表されてからは,我が国における胃癌 のレーザー治療は急速に広まった.著老ら5)も 1980年よりNd−YAGレーザー装置を使用して, 胃癌の内視鏡下治療に応用してきた.そこで本論 文ではこれら自験例をもとに,胃癌のレーザ.一治 療について,切除標本の組織学的所見および臨床 表1 胃癌に対するNd−YAGレーザー照射症例 1980.12∼1984. 4 症例No. 年齢 性 内視鏡診断 照射回数 経 過 再 発 併用手段 合 併 症 1 71 ♂ 11a 1回 手 術 2 49 ♂ IIa 1 〃 3 64 ♂ IIa 2 〃 4 78 ♂ 1 1 〃 5 42 ♀ 1 1 〃 6 64 ♀ IIa 1 〃
A
7 48 ♀ IIa十IIC 1 〃 8 70 ♂ 1 1 〃 ポリペクトミー 食道癌 9 65 ♀ 1 1 〃 10 70 ♂ 1 1 〃 食道癌 群 11 35 ♀ IIC 1 〃 12 56 ♂ III十II C 1 〃 13 55 ♂ IIC 1 〃 14 79 ♂ IIC十Ha 1 〃 15 67 ♂ IIC十IIa 2 〃(2ヵ月後) 血小板血症 16 51 ♀ Borr.IV 1 〃 17 64 ♂ Borr.II 1 〃 18 70 ♂ IIa hIC 52 1年4ヵ月 P年3ヵ月 (+) i+) 心不全 19 66 ♂ IIa 6 1年11ヵ月 (一) 糖尿病 20 73. ♀ IIC十IIa 4 2年10ヵ月 (一) 21 74 ♂ IIC 3 1年4ヵ月 (十) 1型早期胃癌 22 66 ♂ IIa 2 2年10ヵ月 (一) 23 78 ♀ 1 4 1年5ヵ月,他病死 (一) ポリペクトミー 腎不全,心不全 B 24 65 ♀ IIa 4 3ヵ月,他病死 (一) 食道癌 25 60 ♀ III十II C 5 1年4ヵ月 (+) 糖尿病 26 65 ♂ IIa 2 1年3ヵ月 (一) 27 81 ♀ Borr,1 3 10ヵ月 (一) 胃筋肉腫術後 群 28 59 ♂ 胃全摘後吻合部再発 2 3ヵ月,癌死 癌陰性化せず 29 63 ♂ IIC 4 6ヵ月 癌陰性化せず 肝硬変 30 67 ♂ 1 4 5ヵ月 (一) 31 69 ♀ 1 1 5ヵ月 (一) ポリペクトミー 胃ポリポーシス 32 76 ♂ II C十III 2 2ヵ月 治療中 33 53 ♂ IIC 1 1ヵ月 治療中 34 46 ♂ IIc 1 1ヵ月 治療中経過より検討を加え,本法の臨床的意義,適応と 限界について知見を得ることができたので報告す る, 対象と方法 対象とした症例は,東京女子医科大学消化器病 センターにおいて,1980年12月から1984年4月ま
での3年5ヵ月間に,内視鏡観察下にNd−YAG
レーザー照射を行なった胃癌34例,うち早期胃癌 30例,31病巣,進行胃癌4例である(表1).A。手 術前に照射した症例群(17例),B.何らかの理由で 外科手術が行なえなかった症例群(17例)の2群 に大別し,前者では切除標本の病理組織学的な検 索により,後者では生検を併用した頻回な内視鏡 の経過観察により,胃癌に対するNd−YAGレー ザーの治療効果を検討した.用いたレーザー機器は西独MBB社製Nd−
YAGレーザー装置メディラスである.内視鏡鉗 子孔を通じて艶xibleな石英ファイバーにより レーザー光を導き,対象病巣に約1∼2cmの距離 をとり照射した.この装置はライトガイドの先端 で最高100ワヅトの出力が得られ,0.1秒から9。9秒 までの間の連続照射が可能である.本研究では他 の疾患の治療や;基礎的検討の経験から,1ショッ ト40∼75ワット,0.5∼1秒の間歓的照射(パルス 照射)が最適であると判断し照射条件を設定した. 治療の目的や病巣の大きさによってこの条件を変 え,照射ショヅト数や範囲も随時調節した.また, 安全性への配慮から,ある程度以上大きい(隆起 性病変では長径約1cm以上)場合は日時を変え, 1週に1∼2回の割合で分割照射を行なった. ファイバースコープは主に前方直視型のオリンパ スGIF−XQを使用した.胃体部後壁等正面視の困 難な部位の病巣の治療には,適時側視型のオリン パスGF−B3を用いた. 成 績 1.Nd・YAGレーザー照射の目的 レーザー照射を行なった目的別に各症例を分類 すると,A群では①胃癌に対するレーザーの組織 学的な治療効果を知るために手術前に試験的な照 射をした症例(14例)②食道癌と早期胃癌の重複 例で,手術前早期胃癌の方だけレーザー治療を行 反転照射 通常の照射/\//\
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図1 Nd−YAGレーザー照射の実際:隆起型病変 なった症例(2例)③癌腫からの出血をレーザー により術前に止血した症例(1例),B群では④重 篤な合併症や高齢,手術拒否等の理由で外科手術 が行なえず,手術に代わる局所の治療手技として レーザー照射をした早期胃癌(15例)あるいは進 行胃癌(1例)⑤胃全摘後食道空腸吻合部の再発 により狭窄を生じ,これを解除する目的でレー ザー照射を行なった症例等に分けられる.なお, 特別に手術を断念する理由がないのに,レーザー のみで治療し,経過観察している症例はない. 2.照射手技に関して 照射の実際を隆起性病変の場合を例にとり図1 に示す.赤色の可視光であるヘリウムーネオン レーザーが同軸上に組込まれており,赤色に照ら された部位に,フットスイッチの操作により YAGレーザーが照射される.適正な出力のレー ザー光が病巣部に照射されると,その中心部は蛋 白の凝固により白変ずる.出力が高いと炭化し黒 色に変化する.さらに照射野全体は急速:に浮腫を 生じ膨化する.このような肉眼的形態変化を参考 にしながら,隆起性病変では図のごとく,肛門側 より順に照射し,照射中の膨化が狙撃照射の妨げ とならないようにした.また,必要によってはファ イバースコープを反転させ,肛側面への追加照射 も行なった.1回の治療で腫瘤が脱落し平担化す ることは少なく,徐々に縮小するのが普通である. すなわち,出力の集中した中心部には潰瘍を形成 し副堤様隆起が残存する.生検により癌組織の遺 残を確認しつつ追加照射を行なった.1型早期胃 癌のように比較的高い隆起性病変では,同一部位 に何度か照射を重ねても,穿孔等の問題は起こら表2 隆起型胃癌に対するNd−YAGレーザーの影響一手術前照射症例の組織学的検討一 症例 形 態 病変の大ぎさ 照射方法 照射範囲 手術まで フ日数 癌深達度 e響深度Laserの 1 1玉a L6×0.7cm 70ワット0.5秒・50回 大部分 1日
m
sm 2 IIa 2.3×2.0 50 0.5 27 約1/2 1m
sm 3 IIa 12×0.7 75 1 15V5 0.5 17 大部分 llm
sm 4 1 L5×1.5 50 1 2 2 占 ’L、、 1m
sm 5 1 4.0×2.0 40 1 54 約1/3 3m
sm 6 IIa 3.0×2.5 70 0.5 40 一部分 14m
sm 7 IIa十IIC 1.5×1.5 40 1 30 約1/2 1 pm sm 8 1 約2.0×2.0 40 1 22 全 面 7 完全消失 SS iUI−IV) 9 1 3.5×2.5 40 1 28 約1/3 1m
sm 10 1 約2.5×2.5 40 1 50 全 面 14 完全消減 sm 症例No.8は先にpolypectomyを施行 ないようである.しかし,大きな隆起性病変では, 逆に照射による縮小効果が現れにくく,このよう な場合は高周波電流のポリペクトミーを併用する ことにより,照射総量を減ずることができた(症 例No.8,23,31).平坦や陥凹型に対する照射手技 も,隆起型の場合とほぼ変わらないが,重複照射 や広範囲の照射は穿孔をまねく危険性が高いと思 われるので避けた.また,照射による形態変化が 著しいことが多く,二回目以降の照射を行なう際 には,照射範囲や線量を慎重に決定した. 3.切除例の病理組織学的検討 Nd−YAGレーザーの照射が,病巣局所にどのよ うな治療効果をもたらすものか,手術前1∼25日 に照射した17例(症例No.1∼17)の切除標本から 病理組織学的に検討した. 1)隆起型胃癌 はじめに隆起型早期胃癌に限定して照射を行 なった(表2,図2).これは,隆起型病変では境 界が比較的明瞭で,照射による肉眼的な形態変化 が捕えやすく,組織学的な影響との対比が容易で あろうと想定したためである.症例により病巣の 大きさ,形態,存在部位が異なり,照射の方法も それぞれ変えたので,以下に個々の症例を呈示し 照射効果を述べる.症例No.4では,手術の前日 に1型早期胃癌上の任意の2点に,50ワット,11碁器詳2需濡
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●癌 物線維化 凝固壊死,出血 ・三浮腫 図2 隆起型胃癌に対するNd−YAGレーザーの影響 秒で,それぞれ1ショットおよび2ショットの照 射をした.肉眼的にはともに限局した白濁が認め られるが大差はない(写真1).しかしルーペ像で はレーザーによる凝固壊死変性が1ショットでは mに止まっているのに対し,2ショヅトでは一部 smに達していた(写真2,写真3).照射の重複 により,局所の受ける熱量が増加し,変性がより 深部に及ぶことを示している.本症例では病巣近傍の正常粘膜面には50ワット,0.5秒の1回照射 を行なった.肉眼的には腫瘤上の照射部位とほぼ 変わらないが,組織学的には照射時間が1/2であ るにもかかわらず,粘膜筋板から一部smに影響 が及んでいた(写真4).腫瘤のない分だけ,正常 粘膜では深くまでレーザーが到達したものと推測 される.しかし,基本的には病変部も非病変部も 変性の性状に差は認められなかった.なお,水平 方向へのレーザーの影響は極めて限局したもので あることが知られているが,本症例でも病変部, 非病変部とも凝固壊死変性の境界は鮮明で,周囲 への連続的な波及は認められな:かった.症例No. 1のIIa型早期胃癌に対しては,手術前日に長径 1,6cmの隆起面全域に70ワット,0.5秒差条件で 50回の照射をした.写真5は照射直後の内視鏡像 である.隆起の表面は白変,浮腫状に膨隆し,軽 微な出血も認められた.切除後のルーペ像(写真 6)では,隆起の表面近くに癌組織が僅かに残存 しているが,浮腫と凝固壊死はsmに及んでおり, このまま経過観察されていれぽいずれ脱落したで あろうと思われる.症例No.3は2回にわたり, 隆起の大部分に照射を行なったつもりであった が,標本上ではかなり広範囲に癌組織の遺残が確 認された.内視鏡的な境界の診断が不正確であっ たといえる.No.8および10はともに食道癌に合 併した1型早期胃癌の症例である.このうちNo. 8では胃体上部の1型早期胃癌に対し,先に内視 鏡的なポリペクトミーを施行し,その切除断端に 癌組織が陽性であったため,レーザー照射を追加 した.1週後の手術により得られた切除標本上に は,レーザー照射野にUHVの深い潰瘍の形成が 認められたが,胃癌組織は存在しなかった(写真 7).この症例では隆起への照射ではなく,ポリペ クトミー後の潰瘍,すなわち陥凹型胃癌と同等の 病変に照射されたことになる.No.7はIla+Ilc の診断で口側室1/2にレーザー照射がされた.実 は,一部pmにかかる進行癌であったが,照射範囲
内ながらpm以下と表側に浸潤したsm部分の癌
組織に変性は認められなかった.1回の照射によ るレーザーの影響深度の限界を示すものであり, 同時に粘膜下を浸潤する胃癌に対するレーザー治 療の困難さを教示しているものと考えられる.な お,照射後2週以上経過してから切除された症例 No.3,6,10では,浮腫は消失し粘膜下層に線維化 の出現が認められた.以上,隆起型病変へのレー ザー照射により病理組織学的に得られた結果を小 誌する.(1)癌部,非癌部ともレーザー照射によ る変性の性状に大きな差は認められなかった.(2) 第2表に設定した条件下でぱ,ポリペクトミーを 併用した1例を除き,レーザーの影響深度はsm までに止まっていた.(3)IIa+IIcの1例以外は 癌深達度はすべてInであり,レーザー照射範囲内 の癌組織は消滅していた.(4)smを広範に浸潤 する癌組織をすべて焼灼しきるのは困難である. (5)比較的境界が明瞭と思われる隆起型病変で も,正しく浸潤範囲が把握されていないことがあ る.(6)照射後2週を経過すると,粘膜下層に線 維化が出現する. 2)陥凹型胃癌 次に陥凹型胃癌に対するレーザーの治療効果を 同様に切除標本より検討した(症例No.11∼17). 40∼75ワット,0.5∼1秒の条件による少ない回数 の照射では,病巣に与える影響深度は,隆起型胃 癌や正常粘膜の場合と基本的には全く変わらな かった. しかし,照射回数が多く,重複した部位では, 容易にsmまで達していた.隆起型に較べより深 部までレーザーの影響が及び易いといえる.症例 No.15では2回の照射の2ヵ月後に手術が行なわ れたが,線維化を残し療痕治癒していた.癌組織 も認められなかった.症例No.13は胃体部小曲の 広いIIc型早期胃癌である(写真8).手術予定の 1週前に病巣の一部を残し70ワット,1秒で30 シ・ットの照射を行なった.写真9は照射直後の 内視鏡像である.6日後大量の吐下血をきたし, 緊急内視鏡検査で巨大な出血性の潰瘍が認められ た(写真10).レーザーの影響は肉眼的にも組織学 的にも漿膜面にまで及んでいた(写真11,写真12). 症例No,12も同様に予測より深い出1血性の潰瘍 を形成していた.この2例ともレーザー照射を開 始して間もない頃の症例であり,その後条件の設 定変更等により出血例はないが,陥凹型胃癌では・型早期・癌.(一_
…\i\1\i\二1∴置_
週 0 12 含 5 7 12
図3 症例No.23 レーザー治療による形態変化 レーザーの影響が容易に深部まで達することを改 めて知らされた.症例No.17は胃体上部のBorr−mann Ii型胃癌である. craterの露出血管より動
脈性の出血が認められたため,レーザーによる一 時的な止血を図り,これが奏効した結果待期的に 手術を行ないえた症例である. 4.経過観察症例の検討 何らかの事情により外科手術が不可能で,レー ザー治療を行ない経過観察をした症例は,治療中 も含め第1のNo.18∼34の17例,18病変である. このうち15例,16病変は内視鏡的に早期胃癌と診 断された.治療回数は2∼6回,最長経過観察例 は2年8ヵ月に達した.治療中の3例は別にして, 症例No,28の吻合部再発と症例29のIIcの2例で は,治療後も生検上癌陰性化が得られていない. その他の12例ではレーザー治療により,一旦は生 検で癌陰性となった.しかし,3例,4病変に比 較的早い時期に再発が確認された.このうちの3 病変まではIIC,あるいはIII+IICの陥凹型早期胃 癌であり,この型のレーザー治療が難しいことを 示している.一方,隆起型早期胃癌の治療成績は 良好で,1例にのみ再発が認められた.症例No. 23は78歳の女性で,胃体部に1型早期胃癌が存在 したが,高度の腎不全と心不全のため手術を断念 し,レーザー治療が選択された.4回の分割照射 により,すぐ隣に並存した良性ポリープとともに, ぎれいに疲痕治癒した(写真13,写真14,図3). その後再発はなかったが,1年5ヵ月後心不全の ため死亡した.症例No.20およびNo.22(写真15, 写真16)は,治療後持続的に再発のない最長経過 観察例である.写真17∼写真20は症例No.30,1 型早期胃癌の治療経過の内視鏡像である.症例 No.27は81歳の女性で,前庭部にBorrlnann I型 と思われる大きな隆起性病変が認められた.通過 障害を訴えたので手術を勧めたが,高齢である.こ とを理由に拒否し,やむなくreductionのつもり でレーザー治療を行なった.この結果腫瘤は著し く縮小し,症状も軽快した.治療10ヵ月後肉眼的 にはIIC様の病変が残存しているが,生検では癌 陰性である.いずれ再発するものと予測されるが, 吻合部再発による狭窄の解除を試みた症例No. 28とともに,姑息的治療として良好な結果が得ら れた1例である. 考 察 1960年Maimanら6)がルビーから発振に成功し
たレーザー光は,眼科領域でのLaser
photocoagulationに端を発し,その医学的応用に 関する研究は急速に進められてきた.消化器関係 では,Goodale7)が硬性内視鏡下に炭酸ガスレー ザーを,胃ビランの止血1に用いたのが最初であっ たが,ファイバースコープ下での実用が可能に なったのは,1973年Nathら8)によりHexibleな石 英ファイバーが開発されてからである.1975年 FrUhmorgenら2)がアルゴンレーザーにより,ま たKiefhaberら3)がNd−YAGレーザーにより,消 化管出血の止血を目的に臨床応用を開始してから は,西独および米国の臨床家たちにより繁用され, 良好な成績が報告されてきた.我が国では1979年 水島ら4)9)が消化管出血の止血,ひき続き胃癌治療 の試みを報告したのが初めである.1980年には第22回消化器内視鏡学会において“Laser
Endoscopylo)”のシンポジウムが持たれたが,この 頃から多くの施設にレーザー装置が導入され,基 礎的検討とともに臨床成績が報告されるように なった9)・11>∼15).当初は止血に関する研究報告が多 かったが,胃癌ことに早期胃癌の多い我が国の事 情を反映して,レーザー内視鏡の研究は次第に胃 癌を中心とした消化管腫瘍の治療に向けられるよ うになったのである.1984年の消化器レーザー内 視鏡研究会における本邦の集計報告によれぽ, Nd・YAGレーザー装置は全国で計44台設置され,290例の早期胃癌がYAGレーザーにより治療さ
れたという.著者ら5)の施設でも1980年にNd− YAGレーザー装置を導入し,同年12月に臨床応長谷川利弘論文付図1
、
写真1 症例No.4 1型早期胃癌への2点照射
長谷川利弘論文付図II
写真8 症例No.13 治療前内視鏡像。胃体部小変に 広範なIIC病巣を認める. 写真9 症例No,13 譲状に膨隆 照射直後の内視鏡像.発赤し浮 写真10 症例No.13 照射6日後緊急内視鏡像.照射 野に一致した大きな出血性潰瘍を認める. 葵辮織
搬 罎鷲欝灘
熱、 欝げ {肖論難
写真11 症例No.13 手術中所見.レーザーは胃漿膜 面にまで発赤として波及.長谷川利弘論文付図III
輪 難 雛囁i晦飛沸’
写真13 症例No.23 レーザー治療前内視鏡縁.並存 する2個の隆起型病変,肛側(右側)が1型早期胃 癌 写真14症例No.23 レーザー治療2ヵ月後の内視 鏡像.隆起は2個とも赤色疲痕として治癒 写真15 症例No.22 レーザー治療前内視鏡像1灘
写真16 症例No,22 像 レーザー治療後3ヵ月の内視鏡長谷川利弘論文付図IV
写真17 症例No.30 レーザー治療畿内視鏡像.胃角 後壁の1型早期胃癌 写真18 症例No.30 レーザー治療途中の内視鏡像 (1週後).隆起は縮小,表面に白苔を付着 写真19 症例No.30 レーザー治療途中の内視鏡像 (3週後).隆起は平坦化,潰瘍を形成 写真20 症例No.30 後) レーザー治療後内視鏡像(8週長谷川利弘論文付図V
吻’ 蝋甥鵠’難惣総欝・
写真2 症例No.4 1型早期胃癌への照射,50ワット,1秒,1ショット. ∴.縦』』外らド・、・ギ 写真3 同,2ショット 写真4 Nd−YAGレーザー1回照射による正常粘膜面の変化.長谷川利弘論文付図VI
灘 寒ゾ 写真6 症例No.1切除標本のルーペ像,腫瘤表面に僅かに癌組織が残存 鮪灘:講醤◎凹▽・一
写真7 症例No.8切除標本のルーペ像.レーザーの影響はSSに達し癌組織は残存 しない. へ、照::聯1縛ぞ搬灘灘
囎
写真12 症例No.13 切除標本のルーペ像. UI・IVの潰瘍を形成,照射野の癌組織は 消滅.用を開始した. 現在内視鏡下に行なわれているレーザー治療法 は次の2種類に大別される.そのひとつは高出力
のNd−YAGレーザーやアルゴンレーザーによ
り,組織を凝固焼灼しようとする方法であり,他 のひとつは前者よりやや遅れて開発された方法で あるが,腫瘍親和性光感受性物質を静脈内へ投与 した後,低出力のアルゴンダイレーザーや窒素 レーザーを照射し,腫瘍細胞内に生ずる光化学反応を利用して治療しようとする方法である
(photoradiation therapy).本研究で用いたNd・ YAGレーザーは,波長1060nmの光で,他のレー ザーより組織への浸透力が強いことが特色であ る。照射による組織変性の本質は,レーザー光が 組織に吸収されて高い熱エネルギーに変換され, 組織の蛋白凝固,炭化,蒸散をもたらすことにあ る.変性の程度は1回照射出力,照射持続時間, 照射ショット回数等の条件の組合わせに左右され る,すなわちそれぞれが増すと,単位面積当たり に加わる熱量も増加し,組織破壊の程度も段階的 に如きFくなるわけである.また,クォーツファイ バーの先端から病変までの距離や照射角度も大き な影響を持つ.距離が遠くなるほど,照射角が接 線方向に近ずくほど熱エネルギーは減弱する.こ れらの基礎的事項に関する実験成績は数多く報告 されており,臨床応用の際参考とした.しかし, いずれも正常粘膜に対するもので,実際に胃癌を 治療する場合は,照射出力や距離等の条件以外に も,病変自身の形態や大きさ,表面の凹凸,色調, 白苔の有無等によっても,照射効果に微妙な差を 生ずることが確認された.著者らは諸家の報告と ほぼ同様の40∼75ワット,0.5∼1秒,距離1∼2cm に条件を設定して照射したが,1,2の例外を除い て,この条件下での治療に支障はなかった.症例 に応じて照射ショヅト回数や照射範囲を随時調節 し,直視下に観察される肉眼的変化を目安に治療 すれば,大出血や穿孔等の大きな問題は生じない ものと思われる.ファイバースコープは主に前方 直視型を使用した.病巣の局在部位によっては正 面視が困難で,確実な狙撃照射ができないことが ある.このような時には側視鏡を用いたが,クォー ツファイバーに強アングルをかけると先端出力が 低下し,目標とした肉眼変化を得るまでにかなり 多めのシ・ット数を必要とした.並木ら16)はこう したケースへの対策として,鉗子の起立角度をな だらかにしたレーザー用側視型2チャンネルファ イバースコープを試作し報告している.なお,最 近接触型のYAGレーザー治療用プローブが鈴木 ら17)によって開発され,目的とした病巣に確実に 照射することが可能になった.10∼20ワットの低 出力で十分な効果があるという.中原18)も比較的 大きな隆起性病変や,狭窄症例の治療に有効であ ると報告している. 次に,Nd−YAGレーザーが腫瘍組織に対してい かなる治療効果をもたらすものか,手術前にレー ザー照射を行なった症例の切除胃から,病理組織 学的に検討した.ここで知ろうとしたことの第1 は,果たして本当に局所で胃癌を消滅させること ができるかという基本的な問題である.第2には どの程度の大きさ(あるいは深さ,または広さ) まで治療が可能か,第3には対象病変の形態によ る差はあるのかという問題である.すなわち局所 だけに限った治療の可能性を検討したものであ り,リンパ節転移の有無を含めた根治性を論じよ うとしたものではない.したがって,意図的に大 きさや形態の異なる病変を対象とし,照射範囲も 病変の一部,あるいは半面,さらには手術前に腫 瘍をすべて消滅させるつもりで全面へと,様々に 条件を変えて照射した.まず1型早期胃癌の症例 No.4では2点に同条件で回数だけ違えて照射 し,腫瘍内でもレーザーの深達度は照射量の増加 にともなって深くなることを知った.この事実に 関しては伊藤ら27)が実験的に作成した“胃粘膜隆 起”へYAGレーザーを照射し確認したこととも 一致するし,平嶋19)がENNG実験胃癌犬を用い, 照射線量に応じた癌組織の破壊が起こると,切除 胃から確認したこととも一致する.また病変部, 非病変部ともレーザーによる凝固壊死変性の水平 方向の境界は鮮明である.同時に変性そのものの 質も,病変部と非病変部で変わらないことが判明 した.この変性とはまさに光凝固であり,笹子20)も MNNG誘発胃癌ラットの実験結果から, Nd一YAGレーザーの光凝固作用には,癌組織に特異 性を認めないと述べている.これらの事実より推 論すると,いかに腫瘍が大きかろうとレーザー照 射量さえ増やせば,実験で正常粘膜が穿孔に至る まで焼灼されるのと同様に,癌組織もすべて消滅 させうるのだといえる.それでは次に,どの程度 まで広がりと深さの治療が可能かという問題に触 れる.症例No.1,3,8,10では手術前に腫瘍全面 に照射したものであるが,照射された範囲内では 癌組織が完全に消滅しているか,いずれ脱落する ことが予測された.4例とも深達度mの早期胃癌 であったが,mに限局していれぽ,術前に僅か1 回照射したこの程度の治療でも,十分に局所の癌
腫は消滅させることが可能である.症例7は
IIa+IIc類似進行胃癌であったが,照射範囲内で ありながらsm部分の癌腫を治療しきれていな い.smをmassiveに占拠する胃癌は,1回の照 射で治療することは困難であると思われる.斉藤ら21)はMNNG実験胃癌ラット,およびENNG
実験胃癌犬で,正常粘膜に穿孔を起こさない条件 下のYAGレーザー照射では,粘膜下層以下に癌 細胞の残存が認められたと報告している.同様に 諸家の切除胃からの検討でも,smを広範に占拠 する胃癌の治療は困難であるとする報告が多い が,i著者も全く同意見である.広がりに関しては 治療以前の問題であり,正しい浸潤範囲を診断で きれば局所治療は可能である.ただし常に安全性 とのかねあいが大切であり,病変が広く深いほ ど,照射による組織欠損が大となり,出血や穿孔 をまねく危険性が高くなることを十分承知してい なけれぽならない.第3に,形態によるレーザー の治療効果をみると,陥凹型早期胃癌である症例 No.11,12,13では,組織学的には隆起型の場合 とほぼ変わらず,照射範囲内の癌組織はすべて消 滅していた.むしろ照射量が多すぎた傾向があり, ssまで影響の及ぶ症例も認められた.隆起型より 病巣の容積が小さいので,レーザーが深部まで達 し易いのは当然の結果である.この意味では,先 の“ニ射線量に応じた癌組織の破壊が起こる”と いう推論に全く矛盾しない.しかし,渡辺22)および 鈴木23)は,やはり手術前に照射した切除標本の検 討から,癩痕組織の線維性増殖が高度な場合は, レーザーの深達度を障害すると指摘している.胃 潰瘍を合併した陥凹型早期胃癌では,必ずしも照 射線量に見合った治療効果が得られるとは限ら ず,癌遺残の危険性があることを示唆するもので あろう.また,治療過程で潰瘍を形成する隆起型 胃癌でも,2週過ぎ頃からsmに線維化が確認さ れている(照射2∼4週後手術した症例No.3,6, 10).境界が明瞭で照射範囲を決定し易い隆起型早 期胃癌とはいえ,適切な時期に適切な照射がされ ないと,残存している癌組織が癩痕に阻まれて治 療しきれず,将来再発をもたらす原因となること も考慮しておかなければならない. 早期胃癌と診断された15例,16病変に対し, YAGレーザー治療を行ない,その後内視鏡によ る経過観察をした.治療終了後持続的に生検陰性 で経過しているのは75%である.中原ら24)は最長 5年間平均2年8カ,月の経過観察で,生検持続陰 性率は65%であったという.また,岡崎ら25)は21例 中84%と報告している.治療成績を形態別に比較 すると,隆起型早期胃癌は良好で,僅か1例に生 検で再発が認められたに過ぎない.しかし,陥凹 型は不良で,再発した4病変のうち3例までは陥 凹型であった.諸家24)∼29)の報告でも一般に陥凹型 での再発率が高いようである.自験例で成績不良 の陥凹型の治療をみると,治療後なかなか生検で の癌陰性化が得られな:いか,または一度陰性化し ても比較的早い時期に再発を起こすかのいずれか であった.どちらの場合も局所の癌遺残であるこ とは疑いない.癌遺残を招くような不完全な照射 であったということになる.この不完全さは第1 に癌の広がりに対してであり,第2には癌の深さ に対してである.つまり,治療前に癌の浸潤範囲 と深達度について正確な診断がなされていなかっ た結果,不十分な照射となり,癌の遺残につながっ たと考えられる.適切な治療を行なうためにはど うしても正しい浸潤範囲と深達度を知る必要があ るわけである.しかし,特に陥凹型胃癌ではこの 診断が困難なことが少なくない.正しく診断する ための対策として,第1の浸潤範囲に関しては, 僅かな色調差やniveau差も見逃さないよう詳細に観察し,境界と思われる付近より多数の生検標 本を採取する.必要によっては,色素散布法典の 補助診断手技を活用する.また,安全性を損わな い程度に,癌巣周囲の非癌部と思われる部位を含 んだ,広めの照射を行なうことも癌遺残を防ぐこ とになるであろう.第2の深達度については,手 術例の統計学的成績に基づいた,大きさ,肉眼型, 粘膜ヒダの性状等の肉眼的形態の内海と深達度と の関係を参考にしなければならない.さらに客観 的に胃癌の深達度を知る方法として,超音波内視 鏡による試み30)∼32)もあり,神津ら29)は深達度診断 は74.3%であったと報告している.浅木ら33)は粘 膜下に水溶性造影剤を局注し,X線撮影により深 達度診断を試みている(submucosography).治 痘に先がけ,経験的な肉眼的所見からぽかりでは なく,このように様々な補助診断法を駆使してで も,正しい浸潤範囲と深達度診断が得られなけれ ばならない.それはレーザー治療の成否はこの診 断次第であるといっても過言ではないからであ る.しかしながら,再発の原因は治療前の不正確 な診断のためだけとは限らない。治療前に見られ た病巣の形態がレーザー照射によって一変し,鹿 部と心立部の鑑別が困難となり,その後の治療に 支障をきたすことがある.紛らわしい部分は追加 照射をしてすべて焼灼できればよいのだが,照射 範囲が広いとどうしても手控えて中途半端な治療 に終わってしまうことになる.この結果再び癌遺 残を生じ,悪循環となって治療が遷延する.この ようなことを防止するためには,初回の照射で治 療しきれるか,またはその後十分量の追加照射が 可能な病巣に限定すれぽよい.すなわち,できる かぎり小さく,浅い病変(微小胃癌ないしは小胃 癌)が治療の対象として適当であると考えられる. 以上,経過観察例からの知見を述べたが,レー ザー照射後持続的に生検陰性で,とりあえずレー ザー治療が有効であったと考えられる症例は最長 例でも3年に過ぎない.早期胃癌に対するNd− YAGレーザー治療の臨床評価を問うにはさらに 多くの症例の集積と,長期経過観察による検討が 必要であろう. 動脈から出血中のBorrmann II型胃癌,胃全摘 後吻合部再発による狭窄を生じた胃癌,および通 過障害を訴えた前庭部のBorrmann I型胃癌に対 し姑息的なレーザー治療を行なった.1例目では 止血に成功し待期的手術が可能であったし,2,3 例目でも症状の改善が認められ,対症的な治療手 段として有用であった.渡辺ら23)は進行癌35例の 姑息的治療を行ない,胃癌からの出血例,および 食道癌と噴門癌の狭窄例に有効であったと述べて いる.また,最近外国文献にもYAGレーザー照 射による姑息的治療が有効であったという報 告34)36)が見られるようになった.このように外科 的治療の適応からはずれた,胃癌症例の多くは, レーザー治療の対象となりうる.しかし進行胃癌 では焼灼しようとする病変が大きく,効果が得ら れるまでに大量のレーザー照射を必要とすること が多い.手術不能の胃癌患者が長期の治療に耐え られる状態とも思えないので,あまり効果の期待 できないreductionのみの治療をレーザーに求め るのは避けるべきである. 外科手術の不可能な胃癌症例は,安全に行ない うる範囲内で,姑息的治療も含め,すべてレーザー 治療の適応であるといえる.効果的に治療ができ るのは,mまたは一部smにかかる程度までの早 期胃癌で,しかも隆起型が望ましい.陥凹型早期 胃癌も小胃癌(長径1cm以内)以下の大きさであ れぽ,局所に関する限り効率の良い治療が可能で ある.ここではあえてリンパ節転移の有無を問わ ない.それは手術不能であるとする以上は,リン パ節転移があろうとなかろうと,局所に対して何 らかの治療手段が講じられるべきであると考える からである.その意味では,むしろ他の局所治療 方法(例えば内視鏡的ポリペクトミー等)5)との優 劣を,各症例ごとに比較検討しなけれぽならない. さらには原点にたち返り,本当に外科手術が不可 能であるか否かを再考すべきであろう.近年,麻 酔学や術後管理の進歩により,かなり高齢でもま たよほど高度の合併症でないかぎり,胃切除程度 の手術は比較的安全に行なうことが可能になって いる.したがって手術適応の有無の決定は各科で 合議の上慎重に行ない,安易なレーザー治療は慎 むべきであろう.
次に外科手術を中止すべき納得できる理由がな くても,積極的にレーザーのみで早;期胃癌を治療 する妥当性があるかという問題に触れてみたい. 胃癌治療の根治性を論ずる場合,リンパ節のen− blockな郭清を含む,胃切除術が最良の治療法で あることは明白である.手術後の検索で仮にリン パ節転移がないと判定されても,予防的治療とし てのリンパ節郭清の意義は深い.局所だけの治療 法であるレーザー照射法の根治性を云々すること は,この意義を無視したものとなる.したがって どのような性状の早期胃癌に対しても,根治性に 関する限り手術に優る治療方法はないわけであ る.それでもなおかつ手術に肉薄した治療法とし ての意義を見出だそうとすれぽ,手術例での統計 的検討が必要である.東京女子医科大学消化器病 センターにおいて,1965年より1982年までの18年 間に切除された早期、胃癌1,019例を検討した結 果37),m癌で3.6%, sm癌で16.9%のリンパ節転 移が確認された.また,1968年より1985年までに 切除された1313例の早期胃癌を大きさ別に比較38) すると,5mm以下20例中19例(95%)はm癌で, リンパ節転移は認められていない.6∼10mmは 43例で,うち33例(76.7%)がm癌,リンパ節転 移は2例(4.7%)であった.一方,崎田39}の早期 胃癌全国集計報告によると,m癌で全体の4%, sm 癌では18.9%にリンパ節転移陽性であり,大きさ 別には5mm以下で5.4%,6∼10mmで4.3%に 転移が認められている.5mln以下の微小胃癌で, しかも深達度がmの早期胃癌では,リンパ節転移 は極めて少ないということになる.また,北岡 ら40)は1,000例の早期胃癌の手術例の検討から,ul (一)で深達度mのもの,直径2cm以下のsm微小 浸潤型の癌(1,IIa, IIC)ではリンパ節転移がなく, 病巣の局所切除(手術)だけで完全治癒の可能性 があると報告しでいる.つまり,特定の形態で, 大きさと深達度も限定すれぽ,リンパ節の治療は 必要がないとする見解である.レーザー治療が局 所切除に準じた治療法であるとすると,積極的な レーザー治療の対象病変がかなり絞りこまれた感 もするが,現実にはmないしはごく一部smへ浸 潤していると,明確に深達度の診断をすることは しぼしぼ困難である.また,これらの条件を満た す症例は,かなり少なく限られたものであるが, 強いて積極的なレーザー治療の適応をあげるとす るならぽ,現時点では微小胃癌が妥当であろうと 思われる.しかし手術以外にリンパ節転移の有無 を確定する手段はなく,少なくとも現段階では, 微小胃癌であろうと,特別な理由のないかぎり, 手術を第一選択とすべきであると考える.ただし, 将来リンパ節転移の有無が簡単に判別でき,なお かっこれを非観血的に完治する方法が考案される ならぽ,局所治療の手段として極めて有用なNd− YAGレーザー照射療法は,手術に代わる早期胃 癌の治療法として確立されることになるであろ う. 結 論 1980年12月から1984年4月までの3年5ヵ月間 に34例の胃癌症例を対象として,内視鏡下にNd− YAGレーザー照射を行なった.その治療効果に ついて,病理組織および臨床経過の二面から検討 し以下の結論を得た. 1.ヒト胃癌組織は一部の例外を除き,正常粘膜 面と同様に照射量に応じた凝固壊死変性を生ず る.
2.mあるいは一部smにかかる程度までの早
期胃癌は,局所で消滅させることができるがsm を広範に占拠する胃癌の治療は困難である. 3.一般に隆起型早期胃癌の治療成績は良好(8 例中再発は1例)である.しかし,陥凹型早期胃 癌は再発が高く,治療成績は不良(5例中3例に 再発,1例は癌陰性化せず)である. 4.陥凹型早期胃癌の治療成績が不良である原 因は,その浸潤範囲と深達度に見合った照射が行 なわれなかった結果の癌遺残であると推測され る.したがって,成績向上のために可能な限り正 確な浸潤範囲と深達度診断が要求される. 5.姑息的な対症治療を目的とした症例も含め, 手術のできない胃癌症例に対する局所治療法としてNd−YAGレーザー照射は優れた治療法であ
る.しかし,さらに症例を集積し,長期の経過観 察による検討を要する. 6.現時点では,深達度診断,リンパ節転移の問題を抱えており,手術に代わる胃癌治療の手段で あると考えるのは時期尚早である. 稿を終えるにあたり,御指導と御校閲を賜わりまし た羽生富土出教授に深甚なる謝意を捧げます.また, 本研究にあたり終始御指導と御助言を戴きました鈴 木博孝教授,鈴木茂助教授に深謝致します.さらに, 御協力戴きました胃疾患研究班ならびに内視鏡室の 諸兄に御礼申し上げます.(本研究の要旨は第24回日 本消化器内視鏡学会,第39回胃癌研究会,第25回消化 器病学会大会において発表した.) 文 献 1)常岡健二・内田隆也:われわれの考案した内視鏡 下の胃ポリープ切断野州法.Gastroenterol En− dosc ll:174−183,1969
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