( 東 女 医 大 誌 第54巻 第10号1 頁 1036-1046昭和59年10月 J
正常人および運動ニューロン疾患における
小噌銀球
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の検討
東 京 女 子 医 科 大 学 脳 神 経 セ ン タ ー 神経内科学教室(主任丸山勝一教授〉 サ サ キ シ ョ ウ イ チ佐 々 木 彰 一
( 受 付 昭 和59年8月2日〉A Study of Small Argyrophilic Bodies in Normal Individuals and Motor Neuron Disease
Shoichi SASAKI
,
M.D.Department of Neurology (Direcrtor: Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute Tokyo Women's Medical College
Small, argyrophilic globules are known to occur in the anterior horns of the spinal cord, especially at the lumbosacral level, in normal adults. In this study, the distribution and number of small argyrophilic globules in the anterior horns of the lower lumbar spinal cord was examined in 51 normal individuals, 10 amyotrophic lateral sc1erosis (ALS) patients, 4 Werdnig-Ho妊manndisease (WHD) patients and 4 patients with chronic poliomyelitis. Among the normal individuals, argyrophilic globules were usually rare until after one year of age when they became common. The globules in both ALS and chronic poliomyelitis patients were distributed in conformity with surviving anterior horn cells even reflecting the asymmetry of involvement in chronic poliomyelitis. In keeping with the young age and meager anterior horn cell population
,
globules were not seen in Werdnig-Ho旺manndisease.The presence of globules in other motor nuc1ei is less well documented. The distribution and number of these structures in the motor nuc1ei of the brain stem were examined in90 normal individuals of various ages, in 11 ALS patients, and in 5 patients with WHD. Among the normal individuals, argyrophilic globules were not seen until after one year of age. After that they became detectable
,
but never became as common as in the lumbosacral level of the spinal cord. The distribution and number of the globules in ALS were not di任erentfrom those in normal individuals. No c1ear-cut relationship could be detected between the number or distribution of globules and the c1inical courses of the disease or the number of surviving neurons. In WHD, as might be expected because of the young age of the patients, globules were not seen in any motor nuc1ei of the brain stem which we examined.An electron microscopic study was undertaken to elucidate the fine structure of the argyrophilic globules seen in normal adults and to compare them with the spheroids found in ALS. The argyroph1iic bodies were found to consist of masses of randomly arranged bundles of neurofilaments intermingles with small numbers of vesic1es, mitochondria and dense granular material.As originally proposed by previous workers, the masses are probably enlarged portions of either myelinated or non-myelinated axons.
While reminiscent of the spheroids seen in ALS, the argyrophilic globules differ from them in two significant ways. The argyrophilic globules
はじめに 正常人の脊髄,特に腰仙髄前角に小さな噌銀球 が存在することは, 1955年, Smithl)~こよって初め て指摘された.その後, 1968年, Carpenter2 )は運 動ニューロン疾患における噌銀球の意義に着目 し,噌銀球の中で、直径20μ 以 上 の も の をspher -oids,それより小さいものをglobulesと呼んで, 両者を区別した.その理由は, spheroidsは筋萎縮 性側索硬化症(以下, ALS),特にその臨床経過の 短い症例で認められ,かつ正常例では一般に認め られないのに対し, globulesは一般に正常人にお いて認められ,その存在意義に相違が見られるか らである. 今回著者はglobulesについて下記の検索を行 なったので,報告する. 1)腰仙髄に見られるglobulesの出現頻度を, 正常人,運動ニューロン疾愚 (ALS,Werdnig目 Hoffmann病〉および慢性灰白脊髄前角炎につい て比較検討した. 2)脳幹部運動神経核内におけるglobulesを, 神経病理学的に異常所見の認められなかった90症 例,および運動ニューロン疾患において検索した. (従来,脳幹部におけるglobulesを検索した報告 は極めて少なく,特に正常例における検索は,著 者の知る限りではなかった.) 3) globulesに関する電顕的報告も従来行なわ れていないので,今回著者は2例の正常成人の脊 髄 前 角 に 見 ら れ たglobulesを電顕で検索し, spheroidsとの異同についても検討した. 対象および方法 1.対象 正常対照として, 1969年 か ら 1982年 の 聞 に ニューヨーク・モンテフィオーレ病院で経験され た連続剖検例のうち,神経病理学的に脊髄実質に 異常所見の認められなかった生後1日から 88歳ま での腰仙髄のパラフィン薄切横断切片(約7μ 〉標 本に, HEおよびBielschowsky変法3)染色が施さ れていた51症例と,運動ニューロン疾患として, ALS 1017U, Werdnig-Hoffmann病4例,その他に 慢性灰白脊髄前角炎 4例を対象とした. 2. globulesの染色性,形態および同定 -1037 143 globulesはHE染 色 で は わ ず か に ヘ マ ト キ シ リンに淡染し,淡い青色を呈するか,または時に 薄くエオジンを含んだ色調を呈する小体として観 察されたが,数を数えたり,好発部位を検索する のには適さなかった.この小体は強い噌銀性を有 するため, Bielschowsky変法染色では黒褐色の 小体として特に目立った NisslおよびLFB-PAS 染色ではglobulesを確認できなかった. globulesは円形,楕円形またはいびつ状を呈 し,その直径は平均10-15μ 位であるが,時に 10μ 以下の赤血球位の大きさのもの,また稀には20μ 以上の大きなものも見られる.今回の検索では, Carpenter2 )の提案に沿って, 20μ 以上の噌銀球は spheroidsとして除外し,それより小さい曙銀球 について検索を行なった.正常成人の場合には, この区別は問題にならないが, ALSの場合には spheroidsの出現のためにその区別が非常に困難 なので,便宜上かかる方法をとった. この鍍銀染色標本でglobulesを検索する場合, 次の5つの構造物を区別,排除しなければならな し 、 まず第一に,小血管の横断面である.Bielsch -owsky変法染色では,軸索のみならず血管周囲の 結合線維成分も濃染するために, しばしば小血管 の断面がglobulesと紛らわしい所見を呈するこ とがあるが,血管の場合には必ず網目状の構造が 認められ,かっ管腔を証明できることが多いので, 区別は可能である.第二に問題となるのは,小型 の神経細胞または小型のグリアが標本によっては 時に濃染して, globulesと同じような形状を呈す る場合である.この場合には星状の数本の細胞突 起が認められ,軸索の腫脹とは区別できるが,こ れは比較的まれな所見である.第三に太い有髄神 経の軸索の横断面が鑑別診断の対象となるが, こ の場合には多くは焦点を上下させることにより細 長い軸索が同じ直径で上下に走ることを確認で き,除外できる.また,その直径が7μ 以上になる ことは比較的少ない.第四に赤血球が時として濃 染することがあり, この場合,血管内に存在する 時には鑑別が容易であるが, neuropilに紛れ込ん でし、る時には鑑別は必ずしも容易でなく,注意、を
要する.そこで今回の検索では,赤血球の直径で ある7μ 以下の曙銀性小体は一切除外して,その数 を測定した.globulesは小型のものから大型のも のへ変化すると考えられるので,小型のものを除 外することは不合理であるが,小さな噌銀球はそ の同定が難しいので,今回の検索からは除外した. 最後に, corpora amylaceaが曙銀性を有するこ とも時にあるが, この場合にはその染色性および 同心円状構造から一般に容易に鑑別できる. 以上の構造物に由来する噌銀性小体を除外した 小噌銀球を, Carpenter2 )の提唱に従い,ここでは globulesと呼ぶ. 3.腰仙髄におけるglobules globulesは脊髄に一様に出現しているもので はなく,明らかな好発レベルおよび部位が存在す る.すなわち,特に腰仙髄のレベルで、見られやす く,その中でも特に脊髄前角の内側および腹側中 央部に両側性に群集する傾向がある(図1).これ らの部位は多数の比較的太い軸索が前根に向かっ て集束する基部に相当していた.今回の検索では, この部位を中心に測定を行なった.また,同一症 例でも切片によりその数および分布に相当のばら つきが見られるので,各症例の数枚の標本の中で 一番多く見られる標本のglobulesの数を当該症 例のglobulesの数として測定した. 4.脳幹部運動神経核内における glob叫es 1970年から1982年の聞に,ニューヨーク・モン テフィオーレ病院で経験された連続剖検例のう ち,脳幹部に神経病理学的に異常所見の認められ なかった症例を抽出,その中から脳幹部のノミラ 図l ヒトの腰仙髄前角におけるglobulesの好発部 位を示す. フィン薄切横断切片にBielschowsky変法染色が 施されていた症例を選び出し,そのうち運動神経 核の検索が十分可能な90症例について検討した. 例 外 と し て , 一 側 の 三 叉 神 経 運 動 核 にcentral chromatolysisが認められた帯状抱疹の1例も検 索した. 運動ニューロン疾患としては, ALS 11例, Wer-dnig-Ho任mann病5例を対象として選び,検索し た 脳幹部における globulesの検索も,脊髄におけ るのと同様な方法で行なった. 5. glob叫esの電顕的検索 症例はCase1 (70歳,女性〉およびCase2 (76 歳,女性〉で, ともに現病歴および既往歴に神経 学的異常所見を認めず,剖検時の臨床診断はそれ ぞれ骨関節症および肺炎であった.剖検はそれぞ れ死後5時間半および4時間で、行なわれた. 電顕用に剖検時,腰髄下部を2.5%グノレタールア ルデハイド (1/15mol燐離緩衝液pH7.4)で圃定 し,さらにオスミウム酸で後固定したのち,アル コール脱水,プロピレンオキサイド処理後エポン 包埋を行ない,超薄切片について酢酸ウラニウム とクエン酸鉛の重染色を施した. 剖検所見としては, Case 1 では基底核に~東|日性 小梗塞巣が認められた以外に著変はなく, Case 2 では両側アンモン角に軽度の硬化像と肩桃核に陳 旧性小硬塞巣が認められた以外に著変はなかっ た.
2
例とも,脊髄前角および錐体路などには異 常所見は認められなかった. 結 果 1.腰仙髄におけるglob叫esの検索 1.正常対照例・ 51例 便宜上6つの年齢層に分け,各年齢層における 症例数および1前 角 当 た り のglobulesの平均数 を右側,左側に分けて表1
に示した.一般に乳児 ではglobulesはほとんど見られないが, 1歳を過 ぎると比較的容易に認められるようになり,最も 出現頻度の高い70歳以上の老人では,平均25以上 のglobulesが各前角に認められた(写真1, 2). 加齢と globlesの数の増加とは明確な相関関係を 示すわけではないが,全体的に見れば,老人によ 1038ー表l 正 常 人 の 腰 仙 髄 前 角 に 見 ら れ た 各 年 齢 層 に お けるglobulesの 平 均 数 年(歳〉齢 症 例 数 1前角当たりの globulesの平均数 右 側 左 側 0-1
・
8 稀 稀 1-10 4 7 10 11-20 11 16 16 21-50 6 14 10 51-70 13 19 19 71- 9 29 26 合 計 51 • 0 -1歳の年齢層ではglobulesはほとんど見られなかっ たが,生後6ヵ月の先天性心疾患の症例では右側および左 側にそれぞれ6個および 8個見られた 写真l 正 常 成 人 例 の 図lに 相 当 す る 部 位.破 線 内 に globulesが集落をなして多数散在している CBiels -chowsky変法染色x180) 写真2 写真1の強鉱大_globulesが散在してみられ る (arrows).CBielschowsky変法染色X1.570) り多くglobulesが現われる傾向があった.左右差 に関して言えば,同一症例では,たまたまある切 145 片のglobulesの数に左右差が認められることは あっても,他の切片のglobulesの数を平均する と,一般にほとんど差はなかった. 脊髄前角の内側および腹側中央部がglobules の好発部位であるが,前角のその他の部位や後角 にも globulesは認められた.しかしながら,その 数は好発部位に比較すると少なし散在している のみであった. globulesの大多数は神経細胞体とは離れた部 位に存在し,神経細胞との連続性は認められな かった.また, globulesが多数認められた腰髄前 角 で も , 神 経 細 胞 の 萎 縮・変 性 ・脱落 お よ び astrocyteの増生を示す所見は認められず,錐体 路にも異常はなかった. 乳幼児および小児の脊髄では一般にglobules の数は成人に比較して少ないが, うち2症例にお いては前述の腰髄レベルの内側部にglobulesの 集落が認められた.これらの症例は6カ月および 5歳で,臨床診断はそれぞれ先天性心疾患および Wi
I
ms腫虜であり,神経病理学的には前者で大脳 皮質に陳旧性の出血性梗塞, 後者で馬尾に転移性 病変を認めた以外に著変はなかった.この2
例の globulesの数は他の症例に比較して特に多く, 左:右の数はそれぞれ6: 8,50・46認められた. しかしながら,これらのglobulesの集落付近の脊 髄実質には,組織学的病変は全く認められなかっ た. 腰 仙 髄 の 中 で 特 に 第2
仙 髄 に お け るOnufr・ owicz核(以下, Onuf核とする〉の中にglobules が見られるかどうかについて特別の注意を払って 検索を行なったが, Onuf核の中にはglobulesは ほとんどなく,あってもせいぜい数個で形も比較 的小さしその周囲の前角よりも出現頻度は低い 傾向にあった.左右差は認められなかった. 2. ALS・10伊j 10例のALSの症例はいずれも典型的な臨床お よび病理学的な所見を呈したものである.その内 訳,年齢およびglobulesの平均数を表2に示す, 10例の平均年齢は65歳で, globulesの平均数は正 常対照例より少なかった.表Hこ示すように, globulesの数は前角神経細胞の脱落の程度が強 -1039ー表2 ALSの 腰 仙 髄 前 角 に 見 ら れ たglobulesの 数 1削角当りの 細*前胞の角程の神脱度経落 central chro -症 例 性 別 (年歳齢〉 擢〔病年期〕間 病 型 globulesの平均数 見神ma経らto細れly胞るsi前のsの角数 "spheroids 右 側 左 側 1.A22160 女 80 8/12 家 族 性
。 。
高 度 2. 78-128 女 73 孤 発 性 65 79 比 較 的 よ く 保 存 多 数 十件 3. A21717 女 63 1'/12 孤 発 性。 。
高 度 4. A75-51 女 82 1'/12 孤 発 性 5 4 中 等 度 5. A76-267 女 55 1'/12 孤 発 性 8 9 中 等 度 6. OS1352 女 56 2 孤 発 性 54 59 比 較 的 よ く 保 存 多 数 十件 7. OS1567 女 54 22/12 家 族 性。
2 高 度 8. A20017 男 53 5 孤 発 性 4 5 高 度 9. A21641 女 82 5 孤 発 性 34 42 比 較 的 よ く 保 存 少 数+
10. A18842 女 52 9 孤 発 性 2 2 高 度 *高度・ 1前角当たり比較的明らかな前角神経細胞の数が10個以下 中 等 度 :10-25個 比 較 的 よ く 保 存 :25個以上 村 州 前 角 当 た り 5個以上 十 1-2個 一.見られない 表3 ALSの 腰 仙 髄 前 角 に お け るglobulesの 数 と 前 角 神 経 細 胞 の 脱 落 の 程 度(spheroidsは除く〉 1前角当たりの 前脱角落神の程経細度胞の 症 例 数 globulesの平均数 右 側 左 側 局 度 5 1 2 中 等 度 2 7 7 比較的よく保存 3 51 6 合 計 10 前 角 神 経 細 胞 の 脱 落 の 程 度 の 説 明 は 表2に準ずる. い症例では少なく,前角神経細胞が高度に脱落し ている症例では見られないか,あっても左右にそ れぞれ数個見られるにすぎなかった.それに対し, 前角神経細胞が比較的よく保たれていた3
症例 (Case 24), 6, 9)ではいずれも, globulesの分布 は前角全般にわたり正常対照例よりもむしろ多 く,平均数が左右それぞれ5
0
を超えていた.しか しながら,好発部位で特に増加しているという所 見はなかった.これらglobulesがよく見られた症 例では, spheroidsもまた高頻度に認められた. ALSの躍病期間と globulesの関係について言 えば,一般的に長期で高度の臨床症状を呈した症 例ではglobulesは少なかったが,比較的長い5年 の臨床経過を持った症例でも,前角細胞が比較的 よく保たれている場合には, globulesも多数認め られた (Case9). ALSの場合には,左右の前角の病変程度に左右 差はなく, globulesにも左右差は認められなかっ た. Onuf核を確認できた症例では,正常対照例と同 様, globulesはごく少数しか認められなかった. 3. Werdnig-Hoffmann病 4例 Werdnig-Ho百mann病 で は 全 例 と も globules を同定し難く,全く認められないか,それらしい ものがあっても確実にglobulesと同定すること はできなかった.これら4
例し、ずれも,前角神経 細胞の消失はきわめて高度であった. Onuf核 は 1症例のみ検索可能であったが, globulesは認められなかった. 4. 慢性灰白脊髄前角炎: 4例 4例はいずれも治癒後長い経過の慢性灰白脊髄 前角炎の後遺症で,平均年齢は3
9
歳であった. こ れ ら の 症 例 は , 前 述 し たALSや Werdnig-Hoffmann病の症例と異なり,表4に示すように, 4例中2例 でglobulesの出現頻度に明らかな左 右差が認められた.前角神経細胞のよく保たれて いる部位にはglobulesが多く認められ,前角神経 細胞が高度に消失している部位ではglobulesの ~1040 ー表4 慢 性 灰 白 脊 髄 前 角 炎 の 腰 仙 髄 前 角 に 見 ら れ た globulesの数 1前角当たりの 前の脱角神落経の細程胞 度 症 例 性別 年〔歳齢〕権患側globul自の平均数 右 側 左 側 右 側j左 側 1.A21784 男 76 左側 24
。
十朴 2. A77-91 男 48 左側 14。
斗十 3. A21918 女 61 両側。
3 十仲 十什 4. A19229 男 50 両側。 。
十朴 十件 十件。高度 +十:中等度 :見られず 数にも著しい減少が認められた.慢性灰白脊髄前 角炎の場合には,病変は局所的な病巣を呈するが, 病巣部の中にはglobulesの出現も少なかった.慢 性灰白脊髄前角炎の場合にも全例を通じて言える こ と は , 前 角 神 経 細 胞 の 脱 落 の 程 度 に 従 っ て globulesの減少が認められたということである. Onuf核は l症例で検索可能で、あった.globules はOnuf核の周囲には数個認められたが,その内 部には両側とも確認できなかった. II.脳幹部運動神経核内における globulesの検 索 1.正常対照例・9
0
例 globulesの形態,大きさ,染色性などは脊髄で 見られたものと異なる点はなかった.9
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例の症例数を年齢別に示し,その各年齢層で globulesの検索可能な標本が得られた各運動神 表5 脳 幹 部 に 神 経 病 理 学 的 に 異 常 所 見 の 認 め ら れ なかった90例 の 年 齢 別 の 症 例l数 お よ び そ の 各 年 齢 層でglobulesの検索の可能な標本が得られた各運 動 神 経 核 別 の 症 例 数 年〔歳〉齢 症例数 各運動神経核別の症例数 III V VI VII 盟 。~ 1 4 l l 1 3 1 ~10 14 2 3 3 3 9 11~20 6 2 4 21~30 2 1 2 31~40 3 1 4 41~50 8 2 1 5 51~60 8 1 1 8 61~70 14 2 2 2 9 7l ~80 18 3 3 l 14 81~ 13 1 1 l 11 合 計 90 11 14 8 6 69 」 」 ー 」 147 表6 脳幹部の各運動神経核においてglobulesが見 ら れ た 症 例 数 を 年 齢 別 に 示 す(globulesの 見 ら れ た症例数/検索された症例数入 年齢〔歳〕 III V VI VII E 。~ 1。
/1。
/1。
/1 0/3 1 ~10 2/2 1/3 3/3。
/3 1/9 11~20 1/2 1/4 21~30 1/1 1/2 31~40。
/1。
/4 41~50 1/2。
/1 3/5 51~60 0/1。
/1 4/8 61~70 1/2 2/2 2/2 3/9 7l ~80。
/3 2/3 0/1 9/14 81~90 1/1。
/1。
/1 7/11 合 計 5/11 7/14 3/8 2/6 29/69 経核別の症例数を記載したのが表5である.また, 各運動神経核において globulesが見られた症例 数を年齢別に示したのが表6である.脳幹部にお いて見られたglobulesには,腰仙髄前角で見られ るような好発部位は見当たらなかった.globules は1歳以下の乳児では見られなかったが 1歳以 上の幼肥では比較的見られやすくなり,高齢者で はさらに観察される頻度が高くなったが,その数 白体は少なく,一般に数個のことが多かった.し かし,時には比較的多数(たとえば左右の舌下神 経核にそれぞれ約10個〉のglobulesが認められる こともあった.globulesが認められた症例では, 左右差が認められない場合が多かった. 個々の運動神経核におけるglobulesの出現頻 度は,苦下神経核では64例中29例,顔面神経核で は5例中 2例,外転神経核では 7例中 3例,三叉 神経核では14例中 7例,動眼神経核では11例中5f
郊であった. 臨床的にー側の三叉神経領域に障害が見られた 帯状癌疹の1症例では,同運動神経核内に例外的 に比較的多数のglobulesが両側性に観察された. この症例では患側にcentralchromatolysisが認 められたが,神経細胞の脱落はなかった.2
.
ALS: 11伊l
ALS症例においてglobulesが見られた年齢別 の症例数を表7に示す.舌下神経核では11例中4 例にglobulesが認められた.検索できたその他の1041-表7 ALS jJE例においてglobulesが見られた症例 数を年齢別に示す(globulesの見られた症例数/検 索された症例数). 年齢〔歳〕 III V VI VII 班 21-30 0/1 31-40 41-50 1/1 51-60 0/2 1/5 61-70 0/2 71-80 0/1 0/1 1/1 2/2 81- 0/1 合 計 0/3 0/1 0/1 1/1 4/11 運動神経核内では 1症例の顔面神経核内に数個 のglobulesが認められた.見られたglobulesの 数は,正常対照例と比較して大差なかった.舌下 神経核では検索できた全例で,程度の差はあるが 運動ニューロンの萎縮・変性・脱落などの変化が 認められた.外眼筋支配の神経核は検索し得た範 囲ではいす.れも正常に保たれていた. spheroidsはどの運動神経核内にも認められな かった. 3. Werdnig・Hoffmann病 :5例 検索できた舌下神経核3例,動眼神経核2例, 顔面神経核 l例のいずれの運動神経核内にも, globulesおよびspheroidsは見出されなかった. 写 真 3 globuleの 横 断 面.内 部 は 不 規 則 な neurofilamentsの集塊より成っている.周囲に髄鞘 はみられない. -1042ー 111. glob叫esの電顕的検索 光顕上でglobulesが多数存在していた腰髄下 部前角を電顕で検索した.光顕上のglobulesに一 致 す る 構 造 物 は, 細 胞 膜に固ま れ た 錯 綜 す る fibrilsの集塊より成っていた(写真3,4).これ らのglobulesの多くは髄鞘によって被われてい なかったが(写真
3
),被われているものもしばし ば認められた(写真4入錯綜するfibrilsの走行様 式は不規則な渦巻状を成し, fibrils~こ混在して少, 数 のmitochondria,
vesicles,
electron dense materialなどの細胞内小器官が認められた.この fibrilsを 構成 す る filamentsは,約lOnmの 写 真4 薄 い 髄 鞘 に よ っ て 被 わ れ たglobule. neurofilamentsの集塊の中にミトコンドリアおよ びelectrondensegranulesが混在して認められる. 写 真5 globuleの 中 に み ら れ たneurofilamentsの 強拡大.neurofilamentsと 形 態 上 向 ー で あ っ た が ( 写 真 5 ) , 有 髄 性 軸 索 の 中 を 長 軸 に 平 行 し て 走 る neurofilamentsと は 明 ら か に 異 な っ た 配 列 を 示 していた.fibrilsの集塊を被っている髄鞘の厚さ は正常の髄鞘と比較すると薄く,髄鞘の厚さ/軸 索の直径との比は減少していた(写真4).また, fibrilsの集塊を有する有髄線維の一端が腫大し, 腫大した部分の髄鞘は薄くなり,一部は欠損して いる所見も得られた.光顕上,小突起様に見えた ものは,電顕上,腫大していない神経細胞の突起 であり, fibrilsが小突起より globules内に連続的 に 移 行 し て い る 所 見 が 認 め ら れ た . こ れ ら の fibrilsの集塊は神経細胞体に近接して認められる こともあったが,神経細胞体あるいは樹状突起と の連続性は電顕上でも見出せず,神経細胞体内に もfibrilsの集塊は認められなかった.また,fibrils の集塊の中には,粗面小胞体やりポフスチンなど, 明らかに神経細胞体あるいは樹状突起を示唆する 所見は得られなかった. 考 察 L腰仙髄における globulesについて 正常成人の脊髄における globulesについては Smith1 )およびCarpenter2)の報告があるが,今回 の著者の検索では,脊髄におけるglobulesの分布 は彼らの報告とよく一致し,特に腰髄下部の前角 腹側の付近で白質に近接する部位に多く認められ た 1955年, Smithl)は20歳から84歳までの80例にわ たる成人剖検例の脊髄を調べ,主に腰仙髄に存在 する小噌銀球を初めて指摘した.Smithは加齢と 小曙銀球の出現頻度との関連性については否定的 態度をとっている.著者の知る限り, 20歳以下の 症例についての報告はないようである.今回の検 索では,乳幼児では成人に比べglobulesの数は少 なく,特に1歳未満ではほとんど認められなかっ た.しかし,例外として 6カ月および 5歳の 2 症例の腰髄の好発部位レベルでは,成人によく似 たglobulesの集落が認められた.この所見に関し ては病変が関与しているとは思われないが,これ が単なる個人差によるものか,またはその他の理 由によるものかは不明である. 一1043 149 Wohlfart5 )お よ びCarpenter2)は運動ニューロ ン疾患において噌銀球の出現をとりあげて,その 意義について述べている.特にCarpenter2)は直径 20μ以上の大きさのspheroidsと,それ以下の大 きさのglobulesについて検討し, ALSの初期変 化 と し て のspheroidsの 意 義 を 提 唱 し た . こ の Carpenter2 )の報告後,最近ALSの初期病変とし てこれらのspheroidsが注目されるようになり, 特に井上,平野4)6)の報告した発症後短期間で、死亡 した1剖検例では多数の spheroidsが認められ, それと同時に多くの前角細胞にchromatolysisが 存在することが指摘されている.Carpenter2 )は globulesについても経過の短い症例には多いこ とを報告しており,著者が行なった今回の検索の 結果はCarpenter2 )の報告に沿っている.しかし, 単に臨床経過の長短と関係しているというより も,著者の症例では前角神経細胞の減少の程度に 従ってglobulesの数も減少しており, globulesの 増加が見られる症例は,前角神経細胞がよく保た れている症例に限られていた.このことは一般に 経過の短い症例に相当するが,必ずしも躍病期間 のみに相関しているわけでなく 5年経過した症 例でも globulesが多数認められるものもあった. また, ALSの場合にはglobulesの出現はspher -oidsの出現と関連しているように思われた.前角 神経細胞が比較的よく保たれspheroidsが多く見 られた症例で、は, globulesが前角全般にわたって 多数認められたが,特に好発部位で増加している という所見は明らかでなかった. Carpenter2 )は慢性灰白脊髄前角炎の症例にお いては躍患側にglobulesが少ないことを述べて いるが,著者の症例もよく一致していた. Werdnig-Hoffmann病 に お い て はspheroids の出現に関する記載がなく,またglobulesに関す る報告も見られない.著者のWerdnig-Ho百mann 病の症例では, spheroidsもglobulesも全例にわ た り 認 め ら れ な か っ た . こ の こ と は Werdnig-Hoffmann病の症例がし、ずれも若年であり,かつ 高度の前角神経細胞の減少が見られたことからう なずける. 全般に,正常で、も Onuf核にはglobulesは少な
く,運動ニューロン疾患についての特記すべき所 見は得られなかった. 2.脳幹部におけるglobulesについて 脳 幹 部 の 検 索 で は , 脊 髄 に 比 べ て 見 ら れ た globulesの数は少なく,一般に多くても 1運動神 経核内に数個散在して認められるに過ぎなかっ た.しかしながら,時に正常対照例でも比較的多 数のglobulesが見られることもあり,それが個人 差によるものか,あるいはその他の理由によるも のかは不明である.今回の脳幹部の検索では,脊 髄で見られるような好発部位は確認できなかった が,連続切片で系統的に検索したわけではないの で,好発部位が存在しないと言い切ることはでき ない. 各運動神経核で見られたglobulesの数が少な かったため,加齢との関係は明らかでなかったが, 脊 髄 の 場 合 と 同 様 , 乳 児 で は 見 ら れ な か っ た globulesが 1歳を過ぎると比較的容易に観察さ れ,中年および高齢者ではより認められやすい傾 向を示した. 脳幹部運動神経核内で見られたglobulesの形 態,大きさおよび染色性は脊髄で見られたものと 差はなく,左右差も認められなかった. 今回の脳幹部の検索では,見られたglobulesの 数が少なかったため, globulesの出現頻度と臨床 経過の長短あるいは前角細胞の脱落との関係は明 らかにし得なかった. ALSの舌下神経核内のglobulesの検索につい ては, Carpester2 )や 村 上 ら7)の 報 告 が あ る . Carpenter2 )はALS11例のうち鍍銀染色が行なわ れている2例について検索し, 1例にglobulesを 見出している.その症例では舌下神経核の細胞脱 落が認められたが,臨床的には舌下神経障害が見 られていない.村上ら7)もALS症例の舌下神経核 内でglobulesの存在を確認している.著者の検索 では, 11例中4例にglobulesが認められたが,い ずれも 1神経核内に数個で,その数および分布は 正常対照例と比較して大差なかった. Carpenter2 )はALS症例6例中4例の顔面神経 核内に,また 5例中 4例の三叉神経運動核内に globulesを見出している.これらの症例のうち
1
例では,軽度の神経細胞の脱落が見られたが,そ の他の症例では脱落は認められていない.舌下神 経核以外の脳神経運動神経核の検索では,著者は 1症例の顔面神経核内に数個のglobulesを認め た.この顔面神経核の神経細胞には著変がなく, 脱落も認められなかった.今回,舌下神経核を除 く各運動神経核内においてglobulesを検索でき た症例数は少なかったので, Carpenter2 )の報告し たデータとは比較できなかった. Werdnig-Hoffmann病 で 脳 幹 部 に お け る globulesについての報告は見当たらず,また今回 の著者の検索によってもいずれの運動神経核内に もglobulesを見出せなかった.これらの症例のほ とんどは乳児であり,かっ舌下神経核および顔面 神経核では高度の神経細胞の脱落が見られた. 3. globulesのoriginについて 前述したSmithl)は, globulesの本態に関し,そ の染色性および存在部位が軸索の付近にあること や,この小噌銀球が一端に突起を有する場合もあ ることなどから,軸索に由来する可能性が強いと した.一方, 1959年, W ohlfart5 )は曙銀球(2-30 μ〉が側索病変と比例して出現する傾向のあるこ とから, これらの噌銀球の多くは軸索の終末が腫 大 し た も の で あ ろ う と 考 え た .globulesは neurofilamentsが主体を成すことから,神経細胞 に由来するものである.neurofilaments以外の organelleはごく少数で,これらはmitochondria, vesicles, electron dense granulesに限られ,し、ず れも正常の軸索内にも認められるものである.核, 粗面小胞体やリポフスチンなど,神経細胞体や樹 状 突 起 の 主 幹 に 由 来 を 求 め る こ と の で き る or -ganelleの存在は,著者が検索した2症例では認 められなかった.これらの電顕所見は, globules は軸索が局所的に腫大したものとする光顕上の結 論を支持するものである.そのほか, globulesが しばしば伸展した髄鞘により固まれている所見 も, globulesが軸索に由来することを裏づけるも のである. 井上,平野4)により報告されたALSの症例に認 められた神経細胞のcentralchromatolysisの存 在と,光顕上spheroidsと確認されたものが時に1044-は神経細胞体の一部であることを示す所見は, ALSのpathogenesisを考える上で重要な事実で ある.正常な成人に存在する globulesは, ALSiこ 認 め ら れ て い る spheroidsと は そ の 大 き さ が 異 なっていても同じ構造を有することから,ALSに 認められる spheroidsの解釈については,今後よ り慎重な検討を要するものと思われる. ま と め 1)正常人51例の脊髄の腰仙髄前角に見られる globulesの 検 索 を 行 な っ た . 一 般 に , 乳 児 で は globulesはまれにしか認められなかったが 1歳 以上の小児では容易に認められ,成人ではその頻 度が高かった.しかし,加齢に伴う globulesの増 加は特に明らかではなく,また左右差は認められ なかった. 2)ALS 10例, Werdnig-Hoffmann病4例およ び慢性灰白脊髄前角炎4例につき,脊髄における globulesの出現頻度を検索した.これらのいずれ の症例においても, globulesの出現頻度は前角神 経細胞の脱落と関係があり,脱落の強し、症例ほど globulesの 数 は 少 な か っ た . 特 に Werdnig-Hoffmann病では,明らかなglobulesは認められ なかった.ALS症例で前角神経細胞が比較的よく 保 た れspheroidsが多く認められる症例では, globulesも多く認められた.慢性灰白脊髄前角炎 で、は病変部の相違に基づ、いた左右差が認められ た 3) 正 常 対 照90例 の 脳 幹 部 運 動 神 経 核 の 検 索 で は, globulesは乳児では見られなかったが 1歳 以上の幼小児では見られやすくなり,成人および 高齢者ではその頻度が高かった.しかし,見られ たglobulesの数は少なく,加齢との関連性は明ら かでなかった.globulesの数に左右差は認められ なかった.spheroidsは見られなかった.
4)ALS 11例, Werdnig-Ho白nann病5例につ いて,脳幹部運動神経核における globulesの検索 を行なった.ALS 11例中4例 にglobulesが認め られたが,その数は少なく,正常対照例と大差は なかった.また, globulesと臨床経過の長短およ び神経細胞の脱落との関連性も見出せなかった. Werdnig-Hoffmann病 で は , い ず れ の 症 例 に も 1045 151 globulesは認められなかった.
spheroidsはALS症 例 お よ び Werdnig-Hoffmann病症例し、ずれにも見られなかった. 5) 2例 の 正 常 成 人 の 脊 髄 前 角 に 見 ら れ た globulesを電顕で検索し, spheroidsとの異同に ついて検討した.globulesの電顕所見は錯綜する neurofilamentsの集塊から成り,その中に少数の mitochondria
,
vesicles,
dense granular material などの細胞内小器官が混在し, ALSで見られてい るspheroidsの電顕像と一致した.globulesは軸 索に由来すると考えられた. 6)globulesはALSで 認 め ら れ て い るspher -oidsと比較すると,大きさがより小さいこと,お よびglobules内 に は 粗 面 小 胞 体 や リ ポ フ ス チ ン な ど の 構 造 物 が 認 め ら れ な か っ た 点 で 注 目 さ れ る. 本研究はALS Society of Americaおよび NIH grant非2P50 NS 11605-07 A 1の援助によっ て成された. 稿を終えるにあたり,御指導,御校関を頂きました 丸山勝一教授に深謝申し上げます.また,病理標本検 索の機会を与えて下さると同時に,直接御指導頂きま したニューヨーク・モンテフィオーレ病院平野朝雄教 授に御礼を申し上げます. 本論文の要旨の一部は第58回米国神経病理学会 0982年〉および第24回日本神経病理学会0983年〉に おいて発表した. 文 献 1)Smith, M.C_: Argyrophile bodies in the human spinal cord.J
N eurol N eurosurg Psychiatry18 13-16 (1955) 2)Carpenter, S.: Proximal axonal enlargement in motor neuron disease.N eurology (Minneap.) 18 841-851 (1968) 3)平野朝雄・神経病理を学ぶ人のために.医学書院 東京 (1976)54頁 4)井上聖啓・平野朝雄:筋萎縮性側索硬化症の初期 病 変 全 経 過10カ月の1剖検例一.神経内科 11 448-455 (1979) 5) W ohlfart, G.: Degenerative and reg巴nerative axonal changes in the ventral horns, brain stem and cerebral cortex in amyotrophic lateralsc1erosis. Acta Universitatis Lundensis (N ew Series2) 56 1-13 (1959) 6)平野朝雄・井上聖啓 筋萎縮性側索硬化症の初期 病 変-chromatolysis,spheroid, Bunina小体の 1046 電顕的観察一.神経内科 13 148-160 (1980) 7)村上信之・中野今治・平野朝雄.筋萎縮性側索硬 化症における舌下神経核病変の神経病理学的研 究.臨床神経 23 131-139 (1983)