社
会
系教
科
教
育
学
会
『社会
系教
科教
育
学
研
究
』第
4号 1992
(pp.
93-98)
環境経済学の成果を組み込んだ環境教育の授業
Organizing Lesson Plans of Environmental
Education based on the Study of Environmental Economics
I
序
最
近
,環
境教
育の
重要
さを
指摘
す
る
声が
国際
的に
大
き
くな
りつ
つあ
る
。
我が
国
で
も,
1991
年
6月
,
文部
省
と
しての
ま
とま
った
考
え方
が示
され
(气
た
しか
し
,環
境
教
育
とは
何
を
どの
よ
うに教
える
こ
とな
の
か
,その
内容
も
方法
も。
いま
だ確
立
してい
る
とは
言
い
難
い
。
この
よ
うな
状
況に
あっ
て
,本稿
では
,中
学校
社
会
科
(公
民
的分
野
)
に
お
ける
環
境教
育の
,特
に
内容
面
に
お
ける
環
境
問題
認
識
に焦
点
を
当て
る
。そ
して
,社
会
諸
科
学
と
しての
環
境
経済
学
を
,
どの
よ
うに
社
会
科
に
お
ける
環境
教
育に
組み
込
め
ば
よ
いか
に
つ
いて
論
じる
。
Ⅱ
社会認識と
しての環境問題認識
社会科教育の
目的は
,
「社会認識の形成を通して,
市
民的資質を育成する
」ことにある
。岩田一彦
氏は,
この匚
社会認識」を,氏の知識論において,
「説明的
知識
・概念的知識を習得すること」
(゜・・。53
)
と捉える。
この
ことを社会科における環境教
育としての
環境問題
認識に当てはめると
,環境問題認識とは,環境問題に
関わる説明的知識
・概念的知識を習得することといえ
る
。さらに説明的知識
・概念的知識について,岩田氏
は次のよ
うに述べている
。厂
社会事象間の関係を,原
因
と結果の関係で
示しているものを説明
的知識
と呼ぶ
。
…略
(水
山)…社会科学の発達に伴って,上記の
よう
な説明的知識が
蓄積
され
,人類共通の
財産になってい
く
。特定の具体
的社会的事象の因果関係
的説明が蓄積
され
てくると
,次
には
『特定の社会的事象』という限
定を抜か
しても通用する法則性が抽出され
るようにな
る
。…略
(水山)…このような法則性を表現
している
知識を概念的知識と呼ぶ
。
」
(゜・
・。
“-43
)
つま
り,説明的
知識も概念的知識もともに社会事象間の関係を原因
と
結果の
関係で
示したもので
あり,説明的知識の
中で
よ
り法財性
の高いものが概念的知識なので
ある
。以上か
ら
,社会科における環境問題認識を目指す授
業におい
ても
,社会諸科学の研究成果に基づいた
因果関係的知
識
,それもできるだけ法則性の高い概念的知識の習得
を目指すべきことが
示され
た。
水
山
光 春
(京
都
教
育
大
学教
育学
部
附属
桃
山中
学校)
Ⅲ
環境経済学に基づいた環境問題認識のための知識
本稿では
,環境問題認識のための社
会諸
科学
と
して
,
環境経済
学を取
り上げる
。それ
は,環境問題の解決を
究極的な目標
とする環境教育においては
,環境問題の
原
因のみ
ならずそれへの
対応についても
認識させるこ
とが必要であり
(
o
)
,そのためには環境経済学が有効
と考
えるか
らで
ある
。環境問題の
ように,その解決の
ために
多くの
時間
と費用を必要
とする問題
に
あっては
,
道徳や法による規制や強制ではな
く
,無理
・無駄
なく
人々を
してその解決へ
誘導するこ
とが求め
られ
ている
。
しかもその対応
策は長続
きするものでなくてはならな
い
。この
目標を達成するには
,経済の視
点を導入する
ことが
有効である
(
a. p210)
。
そ
こで
,環境経済学から,
特に環境問題
への
対応
を中心に知識を抽出す
る
。な
お,
本項では
,環境経済
学としての
公共経済学的ア
プロー
チを
中心として考察する
。
1.環境問題の発生に関する知識
(財の特殊性
として
の公共財的性質)
公
共財は
,一般に
「消
費に
おける共同性が
存在
し,
かつ排除不能
(あるいは著しく困難)な財
」
(
(゛。162
)
と定義され
る
。この二つの性質が
,通常の財である私
的財
と
区別され
る所以である
。消費の
共同性とは
,私
的財の場合の
ように
,ある人がその財を消費する
こと
によって
,他の
人が消費できな
くなることがない性質
である
。また,消費の排除不能性
とは
,財やサー
ビス
の消
費に対
して,料金を支払わな
い人をその財の
消費
から排除することができない性
質である
。このように
定義する
と
,清浄な空気などの
「環境」も公共財の
一
種と考える
ことができる
。清浄な空気による恩恵は誰
かが
受ける
と
しでも
,そのことが
別の誰かが
受ける恩
恵
を減少さ
せることはない
。また
,ある特
定の人だけ
をそのような空気の
利用か
ら排除する
ことも
できな
い
。
ただ
,大気は
,ある一定
量を超えて使用される
と,厳
密な意味での消費の共同性が成立
しなくなる
(この現
象は
,一般に
「混雑現象」と呼ばれ
る。
)ことに注意
する必要がある
。このような公共財的性質
を持つ環境
が破壊され
,環境
問題が発生するのは,次の二つの理
由による
。
−93−
まず第
一に
,環境の持
つ消費の排除
不能
性の
ため
に
,
環境が無料で
好きなだけ使用され
る結
果
,環境が過剰
に利用されるからである
。
第二の理
由は以下の通
りである
。たとえ誰かによっ
て環境が保全
され
たと
しても
,
「保全された環境は
プ
ラス
の公共財
であ
り
,その消費を排除することができ
ず
,環境保全による利益はすべ
ての人々に
及ぶ
。この
ため各個
人は
自分で環境
を保全
しようとせず
,他の人
の環境保全策にただ乗
りしようとする
。この結
果,自
由な経済
活動に任せておくと
,誰も環境を保全しよ
うとしなくなり
,環境破壊だけが進むことにな
る
。
(Ol
」
゛O
)
つま
り,保全
され
た環境の持つ消費の排
除不能性
と共同性が
,他
人の
環境保全策へのただ乗
り
を許
して
しま
うの
である
。
以上か
ら
,環境の
持つ公共財的性質から捉
える
こと
のできる環境
問題発生に関する因果関係的知識
を
,次
のよ
うに設定する
。
厂一
自由な経済活動に任せてお
一一
F-4卜-LJ '│U- IS一一--
1 l―l ' ― II一一
‘  ̄ ∼'1一`一一
一一--
゛ 丶∼7 トー4くと,自然環境はそ
一一
“`丶'一一-一
ぺ`'ノ“ ゛‘' ∼ l!
の 公 共 財 的 性 質 の た め に 過 剰 利 用 さ れ る の で , 環 1 1境
問題
が発
生す
る
。保
全
され
た
環境
も
また
公
共財
|
的
HJII 一性
質
八l ●Jを持
`J -つ
´○ I。
このた
・-ニタ 1-j 112j/め
,各個
人の
丶'二μ自由
4μ-1'な保
゛`ドp l-冫全
策
7丶・l
に 任 せ て お く と , 誰 も 環 境 を 保 全 し よ う と せ ず , !i
環境
a悪化
し続け
s。 |
---皿㎜
㎜㎜
㎜皿
㎜㎜
㎜-四四
←=㎜・㎜皿
㎜j
2,環境
問題への
対応に関す
る知識
巾
直接規制
環境問題に
対応す
るための社会
的
・政
策
的手段
には
,
匚
直接規制
」と匚
経済的手段
」の二種類があり,直接
規制はさ
らに
「濃度規制
」と
「総量規制」に分れ
る
。
濃度規
制は
,工場や事
業所から排出
され
る環境汚染
物質に対
してある濃度基準
を設定
し
,その濃度
以上で
の汚
染物質の排出
を規制するもの
である
。この場合
,
規制が行われた対象地域の汚染物質濃
度は減
少す
るが
,
汚染者は
,排出する空気や水の
量を増や
し,希釈する
ことによっていくらでも汚染物質の排出量を増やす
こ
とが
できる
。また
,それ
ゆ元汚染者に対
して汚染物
質そのものの
削減に対する動因を与えない
。
総
量規制にも
,匚
生産過程
で汚染物質が排出される
ような財の
生産量の規制
」匚
汚染物質の原因となる生
産要素の
投入量の規制
[ ̄
」
汚染物質そのものの排出量
の規制]の
3タイ
プが想
定ができる
(C0.91
)
。
これ
らの
中で
,最も効率的
と考
えられ
る
「汚染物質
そのものの排
出量の規制
」について
,日引聡氏
らは次
の
ように述べ
ている。
「 ̄
省エネ
投資
,省エネ
技術開発
,脱硫装置の設置な
どの公害防止投資
する
ならば,企
業は生産量
さらには公害防止技術の
1単位
あた
りの
開発
汚染物質の
を促進
排
出量
を減
少させることができる
。したがって,汚染
物
質の総排出量の規制は
,省エネ
を促進
した
り,さら
には公害防止を促進
した
りするインセンテ
ィブを各企
業に
与える
。資源配分に関
しては,同
じ排出量で生産
している
2つの企
業を比較
した
とき
,財の生産量が相
対的に
多い企業には排出物の割
り当てを多くし
,相対
的に少ない企業には割
り当て
を少な
くすれ
ばよい
。こ
の
ように割
り当てれ
ば
,ある一定の
排出量の
もとで,
社会全体でよ
り多くの財が生産できるようになる
。
しか
し
,そのためには
,政府はすべ
ての企業の
生産
構造
を知る必要が
ある
。これ
は現実には
非常に困難で
あ
り
,仮に知ることができた
としても,その
ためには
莫大な費用がかかる
。したがって,社会
的に見て最適
になる
ように排
出量
を割
り当てることは著
しく困難で
あ
り
,かな
り大きな資源配分上の
ロスが
生じることは
避けられ
ない
。
(
」
(7
`p. 91-95
)
つま
り
,総量規制
としての
「汚染物質その
ものの排
出量の規制
」に
よっては
,環境の
質は改善され
るが
,
その
完全実施が
困難であるので資源
配分
上の
ロス
を生
じる
。濃度規制が一時的に対象地域の環境の
質を改善
す
ることがあっても
,根本的に環境
汚染物質をなくす
も
のでないことはす
でに述べた
。
以上の内容をま
とめ
て
,直接規制
についての
因果関
係
的知識
を次の
ように設定する。
匚一
一一
一一
一一-←
一一
一一
一一--
一一-一
直接規制
を導入す
ると
,汚染物
質の濃度
上昇や
!
|汚染物質の排出が抑制
され
るの
で
,
(一次的,地l
i域的な場合も含めて)環境の
・資源
配分
上の
ロス
を生
じる
。 ・
質は
改善
され
るが
,i
I_ 。____
__________」
(2
)経済
的手段
経済的手段とは
,財政システムや市場メカニズム
を
利用
して
,企
業や消費者
を環境の保全に向けて誘導す
る方法である
。本稿では
,これ
らの経済的手段の
中で
も中心
となる
「課徴金制度
」
「補助金制度」および市
場創設の中の
「排出権市場制度
」に
ついて考察する。
①
課徴金制度
課徴金制度
とは
,環境汚染物質の排出や資源採取等
の環境の
利用に対
して料金を課する
ことによって
,環
境
資源の過剰な利用を抑えようとするもので
ある
。す
なわち
,課徴金制度に
おいては
汚染の程度に応
じて企
業は責任を負う
。この原則は,一般に汚染者負担の原
則
(P
P
P
; Polluter Pays Principle)
と呼ばれて
いる
。
P
P
Pの本
来の
目的は企
業の公害防止を誘導す
る
ことにある
。その仕組み
を宮本憲
一氏らは次の
よう
に説明す
る。
「ま
全量に対
った
して課徴金
く公害防止
を支払わ
を実行
しない企業は
なけれ
ばならな
,汚染物の
い。逆に
ま
った
く公害を出さな
けれ
ば
,課徴金の
支払いはない
が
,公害防止費
を負担
しなけれ
ばな
らない
。ある程度
ま
で公害防止
をおこなえば
,その
時の排出量に応
じた
課徴金
を支払わな
くてはな
らない
。すなわ
ち公害防止
費用
と課徴金
とは
,企
業に
とってはまった
く余分な私
的費用
となる
。ここで私
的費用を最小にするために
,
企業にと
っての最適汚染量が定まると期待され
る
。」(
O
−148-149)
このように
P
P
Pは
,課徴金の率を操
作する
ことによ
って
,最適汚染量に到達するまで企
業
が
公害防止に努力することを誘導する
。以上か
ら,次
の
因果
関係
的知識
を抽出する
。
匸 二 二二 こ 二 で
匸 二 二ご 二口
課徴金制度
を導入す
ると
,私的費用
を最小にす
るための企業にとっての最適汚染
量が
決
まるの
で
,
企業はその
最適汚染量までの公害防止に努
力しよ
坏'l
杁
巫剛況'
已
?八尸iSJ LI
怐囘貝川'
巴収甲t
`-ツ
|
|
るための企業にとっての最適汚染量が決まるので,|
|
企業はその最適汚染量までの公害防止に努力しよ|
l
!
うとする。その結果
,最適汚染量の水準まで環境I
の質は改善される。
!
L_二二_
二了_'_
二_____________ I
また
,課徴金制度は資源配分の効率性に関
して,次
のような効果をもつ
。
「汚染物質の排出に対して課徴金
を課す
と
,課徴金
の支払いを少なくするため
に
,企
業は
できる限
り汚染
物質の排出
を抑制
しようとする
。す
なわ
ち,汚染物質
の排出の原因となる生産要素の
投入
をできるだけ少な
くし
,そ
うでない生産要素の
投入
を増加させ
,生産要
素の代替を促進させることによ
って汚染物質の排出を
減
らそうとする
。また脱硫
装置
などのように発生
した
汚染物質を除去
した
り
,発生自体
を防止する
ような資
本
への
投資
を増加させることによって,排出量を減
少
させようとする
。さらには,将
来の課徴金
による費用
負担
を軽減
させるために
,企業は汚染物質の排出
を削
減するような技術開発
を促
進す
る
。
」
(゜
‥。73
)
つまり,
課徴金制度は
,企業に対
して課徴金の支払いを少なく
するための
いろいろな努
力を引き出すことになるわ
け
だが
,この
ような努力の相乗的な結果と
して,効率的
な資源
配分が促進され
るのである
。以上の考
察か
ら,
次の因果関係的知識
を抽出する。
− ︲課
徴金
制
度
の
導
入は
,企
業
に課
徴
金
の
支
払
い
を
少な
くす
るた
めの
,
生産
要
素
の代
替
,汚
染
防止
に
I役
! を排
立
つ資本
出す
る財
へ
の
の
生産
投
資や
の
抑制
技
術
,と
開
発の
い
った
促
進
,汚
環
境
染物
改善へ
質
1 1l ミaylr`゛-i/ ミ/¶g一一秦Jみ-t二-4'│'・I゛41 ミ'  ̄゜'71`レu7丶二・ | の動因 を与え る。 その結果, 効率的 な資源配分 が! i 促進S れ6 . | ___ _--・ 一 一−_ 一 一一 一−・ 一 一一 一−│
②
補助金制度
補
助金制度とは
,環境
汚染物質の排
出
を減
ら
した
り,
環境資源の保全や回復を財政的に支援することに
よっ
て,この
ような活動
を奨励
しようとする制度である
。
︲ I ︲具体的には
,一単位の
排出量の
削減による外部費用に
見合
う額
を排
出量
一単位
当た
りの補助金として設定す
る
。
この補助金制度は
,資源配分の効率性に関
して次の
ような効果をもつ
。
「汚染物質の
削減に対して補助金
を与
えると
,企
業は補
助金の
受け取
り額
をできるだけ
大き
くしようとして
,できる限
り汚染物質の排出を減
らそ
うとする
。すなわ
ち,汚染物質の
排出の原因とな
る生産要素の
代替
を促
進させる
。また,発
生した汚染
物質
を除去
した
り
,発生自体
を防止するような資本へ
の
投資
を増加させることによって
,排出量を減
少させ
ようとする
。さらには,将
来の補助金の
受け取
り額
を
増加
させるために
,企
業は
汚染物質の
排出
を削減する
ような技術開発
を促進する
。
(O
」
‥。74
)
以上か
ら,補助
金制度は
への
投資や技術開発の促進
,
「生産要素の代替」
」
「汚染物質を排出する財
「汚染防止に役立つ資本
の
生産の抑制
」といった点で,資源配分の効率性に関
して
,課徴金
制度
と同じ効果をもつことがわか
る。そ
こで
,次の因果関係的知識を抽出する。
一一
一一--- 一一--
一一
一一
一一
| 補助金制度の
禰剔衷明夊り守八q
導入は,企業に補助金の
d
ヽ
,
’│
K禾
卜挧叨 ̄
tl
ア
`
乙
ノ
受け取
スリ叺ソI
り]
を多くするための環境改善への動因を与える。そ1
の結
果,効率的な資源配分が促進
され
る。
一一
③
排出権市場制度
− ︲一排出権市場制度
とは
,あらか
じめ汚染物質の排出許
容量を定めておき
,その許容量に見合
うだけの排出権
を設定
し
,市場で売
買するもの
である。この
ように制
度が設計され
る
と
,次の
ような効果がもたらされ
る。
「
・
存在する排出権の分
しか汚染物質は排出され
な
いの
で
,当初決め
られ
た排出総量を超えて汚染物
質が排出
され
ることはない
。
・
技
術開発に与えるインセ
ンテ
ィブの効
果
を含め
,
資源
配分に与える影響は課徴金のケース
と同じに
なる。
・
市場取
引を通
して排
出権
は相
対的に優れ
た技術
水準
をもつ企
業によ
り多く配分され
,その企業
が相
対的に多くの財
を生産することにより
,排
出量
を
一定水準に抑制
しつつ効率的な生産が達
成され
る
。」'(
゜'
゛。102
゛
約)
以上か
ら
,排出権市場制度に関
して次の
因果関係
的
知識を抽
出する
。
一一
一一----一一---一一
一一
一一
| 排出権市場制度
を導入す
らと,各企業は存在す
!
る
排
出権
分
しか
汚
染物
質
を排
出
で
きな
いの
で
,環
|
境の
質は
そ
の
汚
染物
質の
水
準
に維
持
され
る
iご)
竺竺竺
竺竺竺竺で
竺二
コ
ロ蓊蓊嘉辰贏元又
飛蓊
ご螽
冂
95 ―
i通
じて
,総体
的に
優れ
た技
術水
準
を持
つ企
業㈲∩
!
出権
は
配
分
され
るの
で
,決
め
られ
た
排
出
許
可水
準|
|。
も
とで
社
会全
体
。
生
産
量は
最
大
とな乱
i
│
___。
一一
一_
__
一_
__________
以
上の①
∼③
の
各経
済
的
手段
に
つい
ての
因
果関
係
的
な
知識
よ
り
,
さ
らに
高
次の
知識
と
して
,効
率
的な
資源
配分
に
関
して次
の
概
念
的
知識
を設
定す
る
。
口一--
一一
一一
一一
一一
一一----一一
一一
経済的手段の導入は
,企
業に環境改善のための ̄!
|
動因を与える。その結
果,効率的な資源配分が促|
|
-一 一---
進される
。
一一-・一 一
一一
一 一
一 一
|
IV
地
球
環
境
問題
と
しての
「地
球
温
暖
化
」に
つ
いての
認
識
を
目指す
授
業
モ
デル
1
.授
業逼
程
お
よび
学
習
指
導要
領
との
関連
環
境
問
題
認
識
と
しての
説
明
的
知識
・概念
的知
識の
習
得
を
目指
す
学
習過
程
は
,一般
に
概
念探
求
型の
学
習過
程
に属
す
る
。この
学
習過程は
,基本
的に次の
よ
うに
な
る
。
①
導
入
→
②
学
習
問
題の
発
見
・把
握
→
③
仮
説
(予
想
)の
提
示
→
④
関
連
資料
の
収
集
・検
討
・
→
⑤
関係
考
察
・検
証
→
⑥
ま
とめ
・応
用
本モデルも基本的にこの学習過程にしたがって設計す
る。
また,本モデルでは,平成元年版中学校学習指導要
領
(公民的分野)における
「国民生活と福祉」の中の
「公害の防止など環境の保全
」に関連して,地球規模
の環境問題
(特に
「地球温暖化」
)を題材とした授業
(全3時間)を設計する。
2.題材としての
「地球温暖化」について
地球環境問題としての地球温暖化の直接的な原因は,
水蒸気
・二酸化炭素
・フロン
・メタンといった温室効
果気体の大気中の濃度上昇にある
。増田善信氏による
と,
「温室効果気体の濃度が現在の増加率で増え続け
るとすれば
,全地球平均気温は,
2030
年代に現在より
1.5
∼3.5
°C
程度上昇する
」
(9・
’。53
)
と考えられる。そし
てこの温度上昇によって
,海面上昇にともなう陸地の
消失
,農畜産業に与える被害等々が予測されている。
これらはさらに細かく数え上げていくときりがない
が,経済学の目で見ると,大切なポイントが二つあ
る。
まず第
一は,この温暖化をもたらしている温室効果
気体の約50
%は二酸化炭素(CO.)であり,さらに
このC02の発生原因の約60
%が化石燃料の消費にあ
るということである
(゛。74
)
。では,なぜ化石燃料消費
にともなうC02の増加がくいとめられ
ないのだろう。
その
一因は
,地球大気の持
つ公共財的性
質にある。公
共財と
しての地球大気は消費の排除不能性と共同性
を
持
つがために
,過剰利用
され
,誰も自分からは進んで
大気を保存
しよ
うと
しな
いのである
。
第二に
,地球温
暖化現象の
「不可逆
・不確
実
・超長
期
」という三つの特徴
との関連
である。これ
らの特徴
および
先ほ
どあげた匚
地球温暖化の
影響
」は
,ま
さに
超長期にわ
たる莫大な温暖化対策のための出費を予想
させ
る
。この温
暖化対策
費を組み
込みながら,しかも
人類に対する経済
的な負担
をできるだけ減ら
しつつ
,
社会経済的な成長を持続する手段と
して
「最適資源配
分
」が
求め
られ
ている。勿論,
co2を減らす最も確
実な方法はC0
,
を出さないことである
。
しか
し,そ
のことは,
C02
[lj
]
収技術が未確
立な今
日に
おいては
,
化石燃料の使用
を禁ずる
こと
を意味するの
でその
完全
実施は
不可能である
。またC02
tt,
窒素酸化物や硫
黄酸イ
匕
物と違いその排出源
は無数に
あるの
で
,この
よ
うな規制は事実上困難で
ある
。そこで,経済的手段の
導入が考
えられ
ている
。経済的手段
としての課徴金制
度や補助金制度
,排出権市場制度は,
C02 f
こ
よる環
境破
壊に対する費用
を組み
込み
なが
ら,
co2発生量
を減
ら
し
,しか
も将
来的なC02
削減への動因を与え
ることを可能にするシス
テム
である
。このシステム
を
導入することに
よって
,最適資源配分が促進
され
,さ
らには地球温暖
化問題の解
決に
つながるので
ある
。
以上の考察をふま
えて
,本単
元では,地球温暖
化の
原因としての地球大気の
「公共財
」的性
質,および地
球温暖化対策と
しての
「経済
的手段」に関して
,以下
の説明的知識の習得
を目指す
。
A
地球の大気は公共財
的性
質を持
つ
。
その
ため
,
温室効
果気体は
自然に限界が
あってもそれ
を越
えて排
出され
,地球は温暖化す
る。また
,保全
された
大気も公共財的性質
を持つの
で
,各自の
自由な保全策に任せ
ておくと
,各人は誰も自分
か
ら進んでは地球温暖
化を阻止
しようとは
しな
い
。その結果
,温
暖化は進行
し続
ける。
B
対応
面か
ら見ると
,温暖化対策と
しての経済
的
手段は
,企業に温室効果
気体
(特にCO, )
削減のための様々な動因を与えるの
で
,効率
的
な資源
配分が促進され
,温暖化問題の解決に
つ
ながる
。
3
,授
業の
展
開
第
1時
には
,説
明
的
知識
Aの
習
得
を
目指す
。そ
の
た
め
に導
入
段
階
では
,ま
ず
地球
環
境
問
題
には
どの
よ
うな
もの
の
広
さ
が
と影
ある
響の
か
を確
大
き
認
し
さに
,
気
それ
づか
らの
せ
共
る
。学習
通
点
と
しての
問題
把
握
範
囲
段
96−
階 では,「 地球温 暖化」 の現象 的因果 関 係 につ い て整 理 し, 原因 体として の C0 ,の増加 に着目させ るとと もに, 匚地 球温暖化 にと もなう大 き な悪 影 響 が予 測 さ れるのに, なぜ C02の増加がくい とめ られない のだ ろ うか」 という学習問題 を設定さ せる。予 想・仮説設 定 段階で は, 匚個人 の所有物 ではな い とい う大 気 の 性 格 が, 温暖化 を引 き起 こしてい るのではない か」 と, 予 想を仮説化 する。 検証 段階で は, 公共 財的性格を 持 つ大 気 の保 全に対し て,人 はど のように行動す るかを 探求 させ る。 最後 のまとめ・応用段 階で は,説明 的知 識A を習得 させ るとともに,説明的知 識Aに示 す因果 関 係が酸性 雨や オゾ ン層 の破壊 といった問題 にもあて はまるか考 えさせ る。 第2時 には, 説明 的知 識Bの習 得を 目指す。導 入段 階 では,地 球温暖化 に対 応する ために様々な国際 会議 が 行わ れて いるこ とに気 付かせ る。学 習問題把握段 階 で は, それらの国際 会議におい て検討 さ れてい る経済 的手 段とし ての課徴 金制度・補助金 制度・排出権 市場 制 度 の 仕 組 み のあ ら ま し を 整 理 す る と と も に ,「 経 済 的 手 段 を 導 入 す る と, な ぜ C 0 2の 排 出 量 が 減 り , 効 率 的 な 資 源 配 分 が 促 進 さ れ る の だ ろ う か 」 と い う 学 習 問 題を 設 定 さ せ る。 予 想 ・ 仮 説 設 定 段 階 で は , 匚経 済 的 手 段 の 導 入 は, COz の削 減 につ な が る 様 々 な 行 動 へ の 動 因 を 企 業 に与 え , そ れ ら の 相 乗 的 効 果 と し て 効 率 的 な 資 源 配 分 が 促 進 さ れ る の で は な い か 」 と , 予 想 を 仮 説イ匕す る。 検 証 段 階 で は, 課 徴 金 制 度 ・ 補 助 金 制 度 ・ 排 出 権 市 場 制 度 の そ れ ぞ れ が, 企 業 行 動 に 与 え る 影 響 に つ い て 探 求 さ せ る。 最 後 の ま と め ・ 応 用 段 階 で は, 説 明 的 知 識B を 習 得 さ せ る と と も に, 説 明 的 知 識 B に 示 す 因 果 関 係 が 直 接 規 制 に もあ て は ま る か 考 え さ せ る。 学 習 指 導 案 の 検 証 ・ ま と め 段 階 を 〈図 1 〉 に 示 す 。 第 3 時 に は, 地 球 温 暖 化 が もた ら す 直 接 的 影 響 , お よ び 対 応 策 が も た らす 間接 的 影 響 が 国 家 間 に 利 害 対 立 を も た らし て い る こ と を 理 解 さ せ, 地 球 規 模 で の利 害 調 整 が 必 要 な こ と に 気 付 か せ る。 段階 学 習 活 動 主 な 発 問 ・ 呼 び か け 予 想 さ れ る 生 徒 の活 動 指 導 上 の留 意 点 資 料 等 検 証 段 階 5 .仮 説 の 検 証 を 行 う。 * 制 度 別 に 検 証 し て い くっ ○ 課 徴 金 ・ 補 助 金 ・ 排 出 権 の 3 グ ル ー プ に 別 れて 考 え よ う。 ○ 結 果 を 発 表 し よ う。 課 徴 金 制 度 の場 合 は ど のよ う に な る だ ろ う。 (B −3 ) ○ 西 ド イ ツで は, 課 徴 金 制 度 の導 入 で ど の よ う な 効 果 が生 ま れ て い る だ ろ う。 ○ 補助 金 制 度 の場 合 は ど の よ う に な る だ ろ う。 (B −3 ) ・ 企 業 と し て は 重 油 を大 量 に 使 う 火力 発 電 所 ( 火 電 ) を 想 定 す る。 7[ ̄西 ド イ ツ排 水 課 徴 金 制 度 の 説 明 」 CO, … … …a果徴 金 を 支 払 い た く な い の で 減 らす 。 省 エ ネ… … 使 用 す る 重 油 ↓ 単 位 あ たり のC0, を 減 ら し 課 徴 金 の支 払 を 少 な く す る こ と に な る ので 進 め る。 技 術 開 発 … 将 来 のC0, を 減 ら し 課 徴 金 の 支 払 を 少 な く す るこ と に な る ので 進 め る。 ・ 企 業 の2/3 以 上 が 技 術 開 発 を 行 っ て い る 。 ・ 省 エ ネ も行 っ て い る。 ・ 西 ド イ ツの 場 合 は 排 水 課 徴 金 で あ る が, 原 理 的 に は同 じ で あ る こ とを 補足 す る 。 C0, … … … 補 助 金 を も ら い たい の で 減 らす 。 省 エ ネ… … 使 用 す る重 油 1 単 位 あ た り のC0, を 減 らし , 補助 金 の受 け取 り を 多 く す る こ と に な る の で 進 め る。 技術 開 発 …将 来 のC0, を 減 ら し , 補助 金 の受 け 取 り を 増 や す こ と に な る の で 進 め る。 一97 −
段階 学 習 活 動 主 な 発 問 ・ 呼 び か け 予 想 さ れ る 生 徒 の活 動 指 導 上 の留 意 点 資 料 等 検 証 段 階 6 .検証 の内 容 を 整 理 し, 因 果 関 係を 明 確 に す る。 ○ 排 出 権 制 度 の場 合 は ど の よ う に な る だ ろ う。 (B −3 ) ○ 検証 し た 結 果 を 整 理 し よ う。 ・ 補 助 金受 け 取 り を 目 当 て に し た 新 た な 企 業 の参 入 を 招 く可 性 もあ る こ と に 注 意 さ せ る。 C0, … … … 発 行 さ れ て い る排 出 権 分 し かC02 は 排 出 さ れ な い 。 省 エ ネ … … 使 用 す る重 油 工単 位 あ た り のC02 使 用 量 を 減 ら し , 排 出権 購 入 量 を 減 ら す こ と に な る ので 進 め る。 技 術 開 発 … 将 来 の排 出 権 購 入 量 を 減 らす こ と に な る の で進 め る 。 ま と め 経 済 的 手 段 と し て の課 徴 金 制 度 や補 助 金 制 度 ・ 排 出 権 市 場 制 度 は , 企業 にC02 そ の も の の削 減 や 省 エ ネ・C02 削 減 技 術 開 発 へ の動 因 を 与 え る の で , 効 率 的 な 資 源配 分 が 促 進 さ れ , 地 球 温 暖 化 問 題 の 解 決 につ な が る 。 〈 図 1〉 第 2 時 検 証 ・ ま と め 段 階 の 学 習 指 導 過 程 V 終 り に 本 稿 で は, 環 境 問 題 認 識 を , よ り 質 の 高 い も の に す る た め の内 容 構 成 に つ い て 検 討 し, 環 境 経 済 学 の研 究 成 果 に 基 づ いて , 環 境 問 題 認 識 のた め の 質 の 良 い 因 果 関 係的 知 識 を 設 定 し た 。 さ ら に , こ れら の知 識を 基 に, 地 球 環 境 問 題 に つ い て の 認 識 を め ざ す 授 業 モ デ ル を 「 地 球 温 暖 化 」 を 題 材 と し て 構 想 し た。 環 境 問 題 を 授 業 で 扱 う際 に は , と か く , 匚 C 0 2 の 増 加 が 地 球 温 暖 化 の 原 因 で あ る。」 と い っ た 上 べ だ け の 理 解 に と ど ま っ た り , 短 絡 的 に 匚大 気 中 の C 0 ,を 増 加 さ せ る よ う な製 品 は使 わ な い よ う に し ま し ょ う」 と い う 結論 を 引 出 そ う と す る 傾 向 に あ る。 し か し , 社 会 事 象 の 本 質 の 理 解 を 目 的 と す る 社 会 科 に あ っ て は, 環 境 問 題 の 本 質 的 な 因 果 関 係 を , 社 会 諸 科 学 の 研 究 成 果 に 基 づ い て ま ず正 し く 理 解 さ せ る こと が重要 で あ る。 【 注 及 び引 用 文 献 】 ① 文 部 省 「 環 境 教 育 指 導 資 料 ( 中 学 校 ・ 高 等 学 校 編)」 大 蔵 省 印 刷 局 19 肘 年 こ の中 で, 環 境 教 育 の目 的 が 次 の よ う に 示 さ れて い る 。F ̄環 境 教 育 と は,『 環 境 や 環 境 問 題 に 関 心 ・ 知 識 を 持 ち, 人 間活 動 と 環 境 と の か か わ り に つ い て の 総 合 的 な 理 解 と認 識 の 上 に た っ て , 環 境 の 保 全 に 配 慮 し た 望 ま し い 働 き か け の で き る技 能 や 思 考 力 , 判 断 力 を 身 に 付 け , よ り 良 い 環 境 の創 造 活 動 に主 体 的 に 参 加 し環 境 へ の責 任あ る 行 動 が と れ る 態 度 を 育 成 す る 』 こ と と 考 え る こ と が で き よ う。」(p,6 ) ② 岩 田 一 彦 「小 学 校 社 会 科 の 授 業 設 計」 東 京 書 籍 1991 年
③ UNESCO International Strategy for Action in the field of Environmental Education and Training for the 1990's 1987
こ の 中 で は, 環 境 問 題 の 知 識 の 伝 達 に 関 し て , 「 環 境 問 題 を 防 止 ・ 解 決 す る手 段 に つ い て も 伝 え な け れ ば な ら な い 」 と , 述 べ ら れ て い る。 ④ 北 野 康 他 編 「 地 球 温 暖 化 が わ か る 本 」 マ ク ミ ラ ン ・ リ サ ーチ 研 究 所 1990 年 ⑤ 野 口 悠 紀 夫 「 公共 経 済 学 」 日 本 評 論 社 1982 年 ⑥ 環 境 庁 地 球 環 境 経 済 研 究 会 「 地 球 環 境 の政 治 経 済 学 」 ダ イ ヤ モ ン ド 社 1990 年 ⑦ 日引 聡 ・ 森 田 恒 幸 ・ 岩 田 規 久男 「 地 球 環 境 保 全 の た め の 経 済 的 手 段 」 橋 本 道 夫 他 編 『地 球 環 境 と経 済 』 ( 講 座 「 地 球 環 境 」 第 3 巻 ) 中 央 法 規 1990 年 ⑧ 宮 本 憲 一 ・ 塚 谷 恒 雄 「 公 害 」 東 研 出 版 1982 年 ⑨ 増 田善 信 「 地 球 環 境 が 危 な い 」 新 日 本 出 版 社 1990 年 −98 −