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環境経済学の成果を組み込んだ環境教育の授業

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(1)

系教

『社会

系教

科教

』第

4号 1992

(pp.

93-98)

環境経済学の成果を組み込んだ環境教育の授業

Organizing Lesson Plans of Environmental

Education based on the Study of Environmental Economics

I 

,環

境教

育の

重要

さを

指摘

声が

国際

的に

くな

りつ

つあ

我が

も,

1991

6月

文部

しての

とま

った

え方

が示

され

(气

しか

,環

とは

どの

うに教

える

とな

,その

内容

方法

も。

いま

だ確

してい

とは

この

うな

況に

あっ

,本稿

では

,中

学校

(公

的分

ける

境教

育の

,特

内容

ける

問題

に焦

当て

。そ

して

,社

しての

経済

どの

うに

ける

環境

育に

組み

いか

いて

じる

Ⅱ 

社会認識と

しての環境問題認識

社会科教育の

目的は

「社会認識の形成を通して,

民的資質を育成する

」ことにある

。岩田一彦

氏は,

この匚

社会認識」を,氏の知識論において,

「説明的

知識

・概念的知識を習得すること」

(゜・・。53

と捉える。

この

ことを社会科における環境教

育としての

環境問題

認識に当てはめると

,環境問題認識とは,環境問題に

関わる説明的知識

・概念的知識を習得することといえ

。さらに説明的知識

・概念的知識について,岩田氏

は次のよ

うに述べている

。厂

社会事象間の関係を,原

と結果の関係で

示しているものを説明

的知識

と呼ぶ

…略

(水

山)…社会科学の発達に伴って,上記の

よう

な説明的知識が

蓄積

され

,人類共通の

財産になってい

。特定の具体

的社会的事象の因果関係

的説明が蓄積

され

てくると

,次

には

『特定の社会的事象』という限

定を抜か

しても通用する法則性が抽出され

るようにな

。…略

(水山)…このような法則性を表現

している

知識を概念的知識と呼ぶ

(゜・

・。

“-43

つま

り,説明的

知識も概念的知識もともに社会事象間の関係を原因

結果の

関係で

示したもので

あり,説明的知識の

中で

り法財性

の高いものが概念的知識なので

ある

。以上か

,社会科における環境問題認識を目指す授

業におい

ても

,社会諸科学の研究成果に基づいた

因果関係的知

,それもできるだけ法則性の高い概念的知識の習得

を目指すべきことが

示され

た。

水 

山 

光 春

(京

学教

育学

附属

山中

学校)

Ⅲ 

環境経済学に基づいた環境問題認識のための知識

本稿では

,環境問題認識のための社

会諸

科学

して

環境経済

学を取

り上げる

。それ

は,環境問題の解決を

究極的な目標

とする環境教育においては

,環境問題の

因のみ

ならずそれへの

対応についても

認識させるこ

とが必要であり

,そのためには環境経済学が有効

と考

えるか

らで

ある

。環境問題の

ように,その解決の

ために

多くの

時間

と費用を必要

とする問題

あっては

道徳や法による規制や強制ではな

,無理

・無駄

なく

人々を

してその解決へ

誘導するこ

とが求め

られ

ている

しかもその対応

策は長続

きするものでなくてはならな

。この

目標を達成するには

,経済の視

点を導入する

ことが

有効である

a. p210)

。 

こで

,環境経済学から,

特に環境問題

への

対応

を中心に知識を抽出す

。な

お,

本項では

,環境経済

学としての

公共経済学的ア

プロー

チを

中心として考察する

1.環境問題の発生に関する知識

(財の特殊性

として

の公共財的性質)

共財は

,一般に

「消

費に

おける共同性が

存在

し,

かつ排除不能

(あるいは著しく困難)な財

(゛。162

と定義され

。この二つの性質が

,通常の財である私

的財

区別され

る所以である

。消費の

共同性とは

,私

的財の場合の

ように

,ある人がその財を消費する

こと

によって

,他の

人が消費できな

くなることがない性質

である

。また,消費の排除不能性

とは

,財やサー

ビス

の消

費に対

して,料金を支払わな

い人をその財の

消費

から排除することができない性

質である

。このように

定義する

,清浄な空気などの

「環境」も公共財の

種と考える

ことができる

。清浄な空気による恩恵は誰

かが

受ける

しでも

,そのことが

別の誰かが

受ける恩

を減少さ

せることはない

。また

,ある特

定の人だけ

をそのような空気の

利用か

ら排除する

ことも

できな

ただ

,大気は

,ある一定

量を超えて使用される

と,厳

密な意味での消費の共同性が成立

しなくなる

(この現

象は

,一般に

「混雑現象」と呼ばれ

る。

)ことに注意

する必要がある

。このような公共財的性質

を持つ環境

が破壊され

,環境

問題が発生するのは,次の二つの理

由による

−93−

(2)

まず第

一に

,環境の持

つ消費の排除

不能

性の

ため

環境が無料で

好きなだけ使用され

る結

,環境が過剰

に利用されるからである

第二の理

由は以下の通

りである

。たとえ誰かによっ

て環境が保全

され

たと

しても

「保全された環境は

ラス

の公共財

であ

,その消費を排除することができ

,環境保全による利益はすべ

ての人々に

及ぶ

。この

ため各個

人は

自分で環境

を保全

しようとせず

,他の人

の環境保全策にただ乗

りしようとする

。この結

果,自

由な経済

活動に任せておくと

,誰も環境を保全しよ

うとしなくなり

,環境破壊だけが進むことにな

(Ol

゛O

つま

り,保全

され

た環境の持つ消費の排

除不能性

と共同性が

,他

人の

環境保全策へのただ乗

を許

して

しま

うの

である

以上か

,環境の

持つ公共財的性質から捉

える

こと

のできる環境

問題発生に関する因果関係的知識

,次

のよ

うに設定する

厂一

自由な経済活動に任せてお

一一

F-4卜-LJ '│U- IS

一一--

1 l―l ' ― II

一一

‘  ̄ ∼'1一`

一一

一一--

゛ 丶∼7 トー4

くと,自然環境はそ

一一

“`丶'

一一-一

ぺ`'ノ“ ゛‘' ∼ l

の 公 共 財 的 性 質 の た め に 過 剰 利 用 さ れ る の で , 環 1 1

問題

が発

生す

。保

され

環境

また

共財

HJII 一

八l ●J

を持

`J -

´○ I

このた

・-ニタ 1-j 112j/

,各個

人の

丶'二μ

自由

4μ-1'

な保

゛`ドp l-冫

7丶・

に 任 せ て お く と , 誰 も 環 境 を 保 全 し よ う と せ ず , !

i 

環境

a悪化

し続け

s。       |

---皿㎜

㎜㎜

㎜皿

㎜㎜

㎜-四四

←=㎜・㎜皿

㎜j

2,環境

問題への

対応に関す

る知識

巾 

直接規制

環境問題に

対応す

るための社会

・政

的手段

には

直接規制

」と匚

経済的手段

」の二種類があり,直接

規制はさ

らに

「濃度規制

」と

「総量規制」に分れ

濃度規

制は

,工場や事

業所から排出

され

る環境汚染

物質に対

してある濃度基準

を設定

,その濃度

以上で

の汚

染物質の排出

を規制するもの

である

。この場合

規制が行われた対象地域の汚染物質濃

度は減

少す

るが

汚染者は

,排出する空気や水の

量を増や

し,希釈する

ことによっていくらでも汚染物質の排出量を増やす

とが

できる

。また

,それ

ゆ元汚染者に対

して汚染物

質そのものの

削減に対する動因を与えない

量規制にも

,匚

生産過程

で汚染物質が排出される

ような財の

生産量の規制

」匚

汚染物質の原因となる生

産要素の

投入量の規制

[ ̄

汚染物質そのものの排出量

の規制]の

3タイ

プが想

定ができる

(C0.91

これ

らの

中で

,最も効率的

と考

えられ

「汚染物質

そのものの排

出量の規制

」について

,日引聡氏

らは次

ように述べ

ている。

「 ̄

省エネ

投資

,省エネ

技術開発

,脱硫装置の設置な

どの公害防止投資

する

ならば,企

業は生産量

さらには公害防止技術の

1単位

あた

りの

開発

汚染物質の

を促進

出量

を減

少させることができる

。したがって,汚染

質の総排出量の規制は

,省エネ

を促進

した

り,さら

には公害防止を促進

した

りするインセンテ

ィブを各企

業に

与える

。資源配分に関

しては,同

じ排出量で生産

している

2つの企

業を比較

した

とき

,財の生産量が相

対的に

多い企業には排出物の割

り当てを多くし

,相対

的に少ない企業には割

り当て

を少な

くすれ

ばよい

。こ

ように割

り当てれ

,ある一定の

排出量の

もとで,

社会全体でよ

り多くの財が生産できるようになる

しか

,そのためには

,政府はすべ

ての企業の

生産

構造

を知る必要が

ある

。これ

は現実には

非常に困難で

,仮に知ることができた

としても,その

ためには

莫大な費用がかかる

。したがって,社会

的に見て最適

になる

ように排

出量

を割

り当てることは著

しく困難で

,かな

り大きな資源配分上の

ロスが

生じることは

避けられ

ない

(7

`p. 91-95

つま

,総量規制

としての

「汚染物質その

ものの排

出量の規制

」に

よっては

,環境の

質は改善され

るが

その

完全実施が

困難であるので資源

配分

上の

ロス

を生

じる

。濃度規制が一時的に対象地域の環境の

質を改善

ることがあっても

,根本的に環境

汚染物質をなくす

のでないことはす

でに述べた

以上の内容をま

とめ

,直接規制

についての

因果関

的知識

を次の

ように設定する。

匚一

一一

一一

一一-←

一一

一一

一一--

一一-一

直接規制

を導入す

ると

,汚染物

質の濃度

上昇や

|汚染物質の排出が抑制

され

るの

(一次的,地l

i域的な場合も含めて)環境の

・資源

配分

上の

ロス

を生

じる

。     ・

質は

改善

され

るが

,i

I_ 。____

__________」

(2

)経済

的手段

経済的手段とは

,財政システムや市場メカニズム

利用

して

,企

業や消費者

を環境の保全に向けて誘導す

る方法である

。本稿では

,これ

らの経済的手段の

中で

も中心

となる

「課徴金制度

「補助金制度」および市

場創設の中の

「排出権市場制度

」に

ついて考察する。

課徴金制度

課徴金制度

とは

,環境汚染物質の排出や資源採取等

の環境の

利用に対

して料金を課する

ことによって

,環

資源の過剰な利用を抑えようとするもので

ある

。す

なわち

,課徴金制度に

おいては

汚染の程度に応

じて企

業は責任を負う

。この原則は,一般に汚染者負担の原

(P

; Polluter Pays Principle)

と呼ばれて

いる

Pの本

来の

目的は企

業の公害防止を誘導す

ことにある

。その仕組み

を宮本憲

一氏らは次の

よう

に説明す

る。

「ま

全量に対

った

して課徴金

く公害防止

を支払わ

を実行

しない企業は

なけれ

ばならな

,汚染物の

い。逆に

(3)

った

く公害を出さな

けれ

,課徴金の

支払いはない

,公害防止費

を負担

しなけれ

ばな

らない

。ある程度

で公害防止

をおこなえば

,その

時の排出量に応

じた

課徴金

を支払わな

くてはな

らない

。すなわ

ち公害防止

費用

と課徴金

とは

,企

業に

とってはまった

く余分な私

的費用

となる

。ここで私

的費用を最小にするために

企業にと

っての最適汚染量が定まると期待され

。」(

−148-149)

このように

Pは

,課徴金の率を操

作する

ことによ

って

,最適汚染量に到達するまで企

公害防止に努力することを誘導する

。以上か

ら,次

因果

関係

的知識

を抽出する

匸 二 二二 こ 二 で

匸 二 二ご 二口

課徴金制度

を導入す

ると

,私的費用

を最小にす

るための企業にとっての最適汚染

量が

まるの

企業はその

最適汚染量までの公害防止に努

力しよ

坏'l

巫剛況'

?八尸iSJ LI

怐囘貝川'

巴収甲t

`-ツ

| 

るための企業にとっての最適汚染量が決まるので,|

| 

企業はその最適汚染量までの公害防止に努力しよ|

l 

! 

うとする。その結果

,最適汚染量の水準まで環境I

の質は改善される。       

L_二二_

二了_'_

二_____________  I

また

,課徴金制度は資源配分の効率性に関

して,次

のような効果をもつ

「汚染物質の排出に対して課徴金

を課す

,課徴金

の支払いを少なくするため

,企

業は

できる限

り汚染

物質の排出

を抑制

しようとする

。す

なわ

ち,汚染物質

の排出の原因となる生産要素の

投入

をできるだけ少な

くし

,そ

うでない生産要素の

投入

を増加させ

,生産要

素の代替を促進させることによ

って汚染物質の排出を

らそうとする

。また脱硫

装置

などのように発生

した

汚染物質を除去

した

,発生自体

を防止する

ような資

への

投資

を増加させることによって,排出量を減

させようとする

。さらには,将

来の課徴金

による費用

負担

を軽減

させるために

,企業は汚染物質の排出

を削

減するような技術開発

を促

進す

(゜

‥。73

つまり,

課徴金制度は

,企業に対

して課徴金の支払いを少なく

するための

いろいろな努

力を引き出すことになるわ

だが

,この

ような努力の相乗的な結果と

して,効率的

な資源

配分が促進され

るのである

。以上の考

察か

ら,

次の因果関係的知識

を抽出する。

− ︲

徴金

入は

,企

に課

少な

くす

るた

めの

生産

の代

,汚

防止

I役

! を排

つ資本

出す

る財

生産

資や

抑制

,と

発の

った

,汚

染物

改善へ

1 1

l ミaylr`゛-i/ ミ/¶g一一秦Jみ-t二-4'│'・I゛41 ミ'  ̄゜'71`レu7丶二・ | の動因 を与え る。 その結果, 効率的 な資源配分 が! i 促進S れ6 .        ___ _--・ 一 一−_ 一 一一 一−・ 一 一一 一−│

② 

補助金制度

助金制度とは

,環境

汚染物質の排

を減

した

り,

環境資源の保全や回復を財政的に支援することに

よっ

て,この

ような活動

を奨励

しようとする制度である

︲ I ︲

具体的には

,一単位の

排出量の

削減による外部費用に

見合

う額

を排

出量

一単位

当た

りの補助金として設定す

この補助金制度は

,資源配分の効率性に関

して次の

ような効果をもつ

「汚染物質の

削減に対して補助金

を与

えると

,企

業は補

助金の

受け取

り額

をできるだけ

大き

くしようとして

,できる限

り汚染物質の排出を減

らそ

うとする

。すなわ

ち,汚染物質の

排出の原因とな

る生産要素の

代替

を促

進させる

。また,発

生した汚染

物質

を除去

した

,発生自体

を防止するような資本へ

投資

を増加させることによって

,排出量を減

少させ

ようとする

。さらには,将

来の補助金の

受け取

り額

増加

させるために

,企

業は

汚染物質の

排出

を削減する

ような技術開発

を促進する

(O

‥。74

以上か

ら,補助

金制度は

への

投資や技術開発の促進

「生産要素の代替」

「汚染物質を排出する財

「汚染防止に役立つ資本

生産の抑制

」といった点で,資源配分の効率性に関

して

,課徴金

制度

と同じ効果をもつことがわか

る。そ

こで

,次の因果関係的知識を抽出する。

一一

一一--- 一一--

一一

一一

一一

| 補助金制度の

禰剔衷明夊り守八q

導入は,企業に補助金の

’│

K禾

卜挧叨 ̄

tl

受け取

スリ叺ソI

り]

を多くするための環境改善への動因を与える。そ1

の結

果,効率的な資源配分が促進

され

る。

一一

排出権市場制度

− ︲一

排出権市場制度

とは

,あらか

じめ汚染物質の排出許

容量を定めておき

,その許容量に見合

うだけの排出権

を設定

,市場で売

買するもの

である。この

ように制

度が設計され

,次の

ような効果がもたらされ

る。

・ 

存在する排出権の分

しか汚染物質は排出され

いの

,当初決め

られ

た排出総量を超えて汚染物

質が排出

され

ることはない

・ 

術開発に与えるインセ

ンテ

ィブの効

を含め

資源

配分に与える影響は課徴金のケース

と同じに

なる。

・ 

市場取

引を通

して排

出権

は相

対的に優れ

た技術

水準

をもつ企

業によ

り多く配分され

,その企業

が相

対的に多くの財

を生産することにより

,排

出量

一定水準に抑制

しつつ効率的な生産が達

成され

。」'(

゜'

゛。102

約)

以上か

,排出権市場制度に関

して次の

因果関係

知識を抽

出する

一一

一一----一一---一一

一一

一一

| 排出権市場制度

を導入す

らと,各企業は存在す

出権

しか

染物

を排

きな

いの

,環

境の

質は

染物

質の

に維

され

iご)

竺竺竺

竺竺竺竺で

竺二

ロ蓊蓊嘉辰贏元又

飛蓊

ご螽

95 ―

(4)

i通

じて

,総体

的に

優れ

た技

術水

を持

つ企

業㈲∩

!

出権

され

るの

,決

られ

可水

準|

|。

とで

会全

量は

とな乱  

___。

一一

一_

__

一_

__________

上の①

∼③

各経

手段

つい

ての

果関

知識

らに

次の

知識

して

,効

的な

資源

配分

して次

知識

を設

定す

口一--

一一

一一

一一

一一

一一----一一

一一

経済的手段の導入は

,企

業に環境改善のための ̄!

| 

動因を与える。その結

果,効率的な資源配分が促|

| 

-一 一---

進される

。      

一一-・一 一

一一

一 一

一 一

IV 

問題

しての

「地

」に

いての

目指す

デル

.授

業逼

よび

導要

との

関連

しての

知識

・概念

的知

識の

目指

習過

,一般

念探

型の

習過

に属

。この

習過程は

,基本

的に次の

うに

入 

→ 

題の

・把

握 

→ 

(予

)の

示 

→ 

資料

・検

→ 

関係

・検

証 

→ 

とめ

・応

本モデルも基本的にこの学習過程にしたがって設計す

る。

また,本モデルでは,平成元年版中学校学習指導要

(公民的分野)における

「国民生活と福祉」の中の

「公害の防止など環境の保全

」に関連して,地球規模

の環境問題

(特に

「地球温暖化」

)を題材とした授業

(全3時間)を設計する。

2.題材としての

「地球温暖化」について

地球環境問題としての地球温暖化の直接的な原因は,

水蒸気

・二酸化炭素

・フロン

・メタンといった温室効

果気体の大気中の濃度上昇にある

。増田善信氏による

と,

「温室効果気体の濃度が現在の増加率で増え続け

るとすれば

,全地球平均気温は,

2030

年代に現在より

1.5

∼3.5

°C

程度上昇する

(9・

’。53

と考えられる。そし

てこの温度上昇によって

,海面上昇にともなう陸地の

消失

,農畜産業に与える被害等々が予測されている。

これらはさらに細かく数え上げていくときりがない

が,経済学の目で見ると,大切なポイントが二つあ

る。

まず第

一は,この温暖化をもたらしている温室効果

気体の約50

%は二酸化炭素(CO.)であり,さらに

このC02の発生原因の約60

%が化石燃料の消費にあ

るということである

(゛。74

。では,なぜ化石燃料消費

にともなうC02の増加がくいとめられ

ないのだろう。

その

一因は

,地球大気の持

つ公共財的性

質にある。公

共財と

しての地球大気は消費の排除不能性と共同性

つがために

,過剰利用

され

,誰も自分からは進んで

大気を保存

しよ

うと

しな

いのである

第二に

,地球温

暖化現象の

「不可逆

・不確

・超長

」という三つの特徴

との関連

である。これ

らの特徴

および

先ほ

どあげた匚

地球温暖化の

影響

」は

,ま

さに

超長期にわ

たる莫大な温暖化対策のための出費を予想

させ

。この温

暖化対策

費を組み

込みながら,しかも

人類に対する経済

的な負担

をできるだけ減ら

しつつ

社会経済的な成長を持続する手段と

して

「最適資源配

」が

求め

られ

ている。勿論,

co2を減らす最も確

実な方法はC0

を出さないことである

。 

しか

し,そ

のことは,

C02

[lj

収技術が未確

立な今

日に

おいては

化石燃料の使用

を禁ずる

こと

を意味するの

でその

完全

実施は

不可能である

。またC02

tt,

窒素酸化物や硫

黄酸イ

物と違いその排出源

は無数に

あるの

,この

うな規制は事実上困難で

ある

。そこで,経済的手段の

導入が考

えられ

ている

。経済的手段

としての課徴金制

度や補助金制度

,排出権市場制度は,

C02 f

よる環

境破

壊に対する費用

を組み

込み

なが

ら,

co2発生量

を減

,しか

も将

来的なC02

削減への動因を与え

ることを可能にするシス

テム

である

。このシステム

導入することに

よって

,最適資源配分が促進

され

,さ

らには地球温暖

化問題の解

決に

つながるので

ある

以上の考察をふま

えて

,本単

元では,地球温暖

化の

原因としての地球大気の

「公共財

」的性

質,および地

球温暖化対策と

しての

「経済

的手段」に関して

,以下

の説明的知識の習得

を目指す

A 

地球の大気は公共財

的性

質を持

その

ため

温室効

果気体は

自然に限界が

あってもそれ

を越

えて排

出され

,地球は温暖化す

る。また

,保全

された

大気も公共財的性質

を持つの

,各自の

自由な保全策に任せ

ておくと

,各人は誰も自分

ら進んでは地球温暖

化を阻止

しようとは

しな

。その結果

,温

暖化は進行

し続

ける。

B 

対応

面か

ら見ると

,温暖化対策と

しての経済

手段は

,企業に温室効果

気体

(特にCO, )

削減のための様々な動因を与えるの

,効率

な資源

配分が促進され

,温暖化問題の解決に

ながる

,授

業の

1時

には

,説

知識

Aの

目指す

。そ

に導

では

,ま

地球

には

どの

うな

もの

と影

ある

響の

を確

さに

それ

づか

らの

。学習

しての

問題

96−

(5)

階 では,「 地球温 暖化」 の現象 的因果 関 係 につ い て整 理 し, 原因 体として の C0 ,の増加 に着目させ るとと もに, 匚地 球温暖化 にと もなう大 き な悪 影 響 が予 測 さ れるのに, なぜ C02の増加がくい とめ られない のだ ろ うか」 という学習問題 を設定さ せる。予 想・仮説設 定 段階で は, 匚個人 の所有物 ではな い とい う大 気 の 性 格 が, 温暖化 を引 き起 こしてい るのではない か」 と, 予 想を仮説化 する。 検証 段階で は, 公共 財的性格を 持 つ大 気 の保 全に対し て,人 はど のように行動す るかを 探求 させ る。 最後 のまとめ・応用段 階で は,説明 的知 識A を習得 させ るとともに,説明的知 識Aに示 す因果 関 係が酸性 雨や オゾ ン層 の破壊 といった問題 にもあて はまるか考 えさせ る。 第2時 には, 説明 的知 識Bの習 得を 目指す。導 入段 階 では,地 球温暖化 に対 応する ために様々な国際 会議 が 行わ れて いるこ とに気 付かせ る。学 習問題把握段 階 で は, それらの国際 会議におい て検討 さ れてい る経済 的手 段とし ての課徴 金制度・補助金 制度・排出権 市場 制 度 の 仕 組 み のあ ら ま し を 整 理 す る と と も に ,「 経 済 的 手 段 を 導 入 す る と, な ぜ C 0 2の 排 出 量 が 減 り , 効 率 的 な 資 源 配 分 が 促 進 さ れ る の だ ろ う か 」 と い う 学 習 問 題を 設 定 さ せ る。 予 想 ・ 仮 説 設 定 段 階 で は , 匚経 済 的 手 段 の 導 入 は, COz の削 減 につ な が る 様 々 な 行 動 へ の 動 因 を 企 業 に与 え , そ れ ら の 相 乗 的 効 果 と し て 効 率 的 な 資 源 配 分 が 促 進 さ れ る の で は な い か 」 と , 予 想 を 仮 説イ匕す る。 検 証 段 階 で は, 課 徴 金 制 度 ・ 補 助 金 制 度 ・ 排 出 権 市 場 制 度 の そ れ ぞ れ が, 企 業 行 動 に 与 え る 影 響 に つ い て 探 求 さ せ る。 最 後 の ま と め ・ 応 用 段 階 で は, 説 明 的 知 識B を 習 得 さ せ る と と も に, 説 明 的 知 識 B に 示 す 因 果 関 係 が 直 接 規 制 に もあ て は ま る か 考 え さ せ る。 学 習 指 導 案 の 検 証 ・ ま と め 段 階 を 〈図 1 〉 に 示 す 。 第 3 時 に は, 地 球 温 暖 化 が もた ら す 直 接 的 影 響 , お よ び 対 応 策 が も た らす 間接 的 影 響 が 国 家 間 に 利 害 対 立 を も た らし て い る こ と を 理 解 さ せ, 地 球 規 模 で の利 害 調 整 が 必 要 な こ と に 気 付 か せ る。 段階 学  習  活  動 主 な 発 問 ・ 呼 び か け 予 想 さ れ る 生 徒 の活 動 指 導 上 の留 意 点 資 料 等 検 証 段 階 5 .仮 説 の 検 証 を 行 う。 * 制 度 別 に 検 証 し て い くっ ○ 課 徴 金 ・ 補 助 金 ・ 排 出 権 の 3 グ ル ー プ に 別 れて 考 え よ う。 ○ 結 果 を 発 表 し よ う。 課 徴 金 制 度 の場 合 は ど のよ う に な る だ ろ う。   (B −3 ) ○ 西 ド イ ツで は, 課 徴 金 制 度 の導 入 で ど の よ う な 効 果 が生 ま れ て い る だ ろ う。 ○ 補助 金 制 度 の場 合 は ど の よ う に な る だ ろ う。   (B −3 ) ・ 企 業 と し て は 重 油 を大 量 に 使 う 火力 発 電 所 ( 火 電 ) を 想 定 す る。 7[ ̄西 ド イ ツ排 水 課 徴 金 制 度 の 説 明 」 CO, … … …a果徴 金 を 支 払 い た く な い の で 減 らす 。 省 エ ネ… … 使 用 す る 重 油 ↓ 単 位 あ たり のC0, を 減 ら し 課 徴 金 の支 払 を 少 な く す る こ と に な る ので 進 め る。 技 術 開 発 … 将 来 のC0, を 減 ら し 課 徴 金 の 支 払 を 少 な く す るこ と に な る ので 進 め る。 ・ 企 業 の2/3 以 上 が 技 術 開 発 を 行 っ て い る 。 ・ 省 エ ネ も行 っ て い る。 ・ 西 ド イ ツの 場 合 は 排 水 課 徴 金 で あ る が, 原 理 的 に は同 じ で あ る こ とを 補足 す る 。 C0, … … … 補 助 金 を も ら い たい の で 減 らす 。 省 エ ネ… … 使 用 す る重 油 1 単 位 あ た り のC0, を 減 らし , 補助 金 の受 け取 り を 多 く す る こ と に な る の で 進 め る。 技術 開 発 …将 来 のC0, を 減 ら し , 補助 金 の受 け 取 り を 増 や す こ と に な る の で 進 め る。 一97 −

(6)

段階 学  習  活  動 主 な 発 問 ・ 呼 び か け 予 想 さ れ る 生 徒 の活 動 指 導 上 の留 意 点 資 料 等 検 証 段 階 6 .検証 の内 容 を 整 理 し, 因 果 関 係を 明 確 に す る。 ○ 排 出 権 制 度 の場 合 は ど の よ う に な る だ ろ う。   (B −3 ) ○ 検証 し た 結 果 を 整 理 し よ う。 ・ 補 助 金受 け 取 り を 目 当 て に し た 新 た な 企 業 の参 入 を 招 く可 性 もあ る こ と に 注 意 さ せ る。 C0, … … … 発 行 さ れ て い る排 出 権 分 し かC02 は 排 出 さ れ な い 。 省 エ ネ … … 使 用 す る重 油 工単 位 あ た り のC02 使 用 量 を 減 ら し , 排 出権 購 入 量 を 減 ら す こ と に な る ので 進 め る。 技 術 開 発 … 将 来 の排 出 権 購 入 量 を 減 らす こ と に な る の で進 め る 。 ま と め 経 済 的 手 段 と し て の課 徴 金 制 度 や補 助 金 制 度 ・ 排 出 権 市 場 制 度 は , 企業 にC02 そ の も の の削 減 や 省 エ ネ・C02 削 減 技 術 開 発 へ の動 因 を 与 え る の で , 効 率 的 な 資 源配 分 が 促 進 さ れ , 地 球 温 暖 化 問 題 の 解 決 につ な が る 。 〈 図 1〉 第 2 時  検 証 ・ ま と め 段 階 の 学 習 指 導 過 程 V  終 り に 本 稿 で は, 環 境 問 題 認 識 を , よ り 質 の 高 い も の に す る た め の内 容 構 成 に つ い て 検 討 し, 環 境 経 済 学 の研 究 成 果 に 基 づ いて , 環 境 問 題 認 識 のた め の 質 の 良 い 因 果 関 係的 知 識 を 設 定 し た 。 さ ら に , こ れら の知 識を 基 に, 地 球 環 境 問 題 に つ い て の 認 識 を め ざ す 授 業 モ デ ル を 「 地 球 温 暖 化 」 を 題 材 と し て 構 想 し た。 環 境 問 題 を 授 業 で 扱 う際 に は , と か く , 匚 C 0 2 の 増 加 が 地 球 温 暖 化 の 原 因 で あ る。」 と い っ た 上 べ だ け の 理 解 に と ど ま っ た り , 短 絡 的 に 匚大 気 中 の C 0 ,を 増 加 さ せ る よ う な製 品 は使 わ な い よ う に し ま し ょ う」 と い う 結論 を 引 出 そ う と す る 傾 向 に あ る。 し か し , 社 会 事 象 の 本 質 の 理 解 を 目 的 と す る 社 会 科 に あ っ て は, 環 境 問 題 の 本 質 的 な 因 果 関 係 を , 社 会 諸 科 学 の 研 究 成 果 に 基 づ い て ま ず正 し く 理 解 さ せ る こと が重要 で あ る。 【 注 及 び引 用 文 献 】 ① 文 部 省 「 環 境 教 育 指 導 資 料 ( 中 学 校 ・ 高 等 学 校 編)」 大 蔵 省 印 刷 局 19 肘 年 こ の中 で, 環 境 教 育 の目 的 が 次 の よ う に 示 さ れて い る 。F ̄環 境 教 育 と は,『 環 境 や 環 境 問 題 に 関 心 ・ 知 識 を 持 ち, 人 間活 動 と 環 境 と の か か わ り に つ い て の 総 合 的 な 理 解 と認 識 の 上 に た っ て , 環 境 の 保 全 に 配 慮 し た 望 ま し い 働 き か け の で き る技 能 や 思 考 力 , 判 断 力 を 身 に 付 け , よ り 良 い 環 境 の創 造 活 動 に主 体 的 に 参 加 し環 境 へ の責 任あ る 行 動 が と れ る 態 度 を 育 成 す る 』 こ と と 考 え る こ と が で き よ う。」(p,6 ) ②  岩 田 一 彦 「小 学 校 社 会 科 の 授 業 設 計」 東 京 書 籍 1991 年

③ UNESCO International Strategy for Action in the field of Environmental Education and Training for the 1990's 1987

こ の 中 で は, 環 境 問 題 の 知 識 の 伝 達 に 関 し て , 「 環 境 問 題 を 防 止 ・ 解 決 す る手 段 に つ い て も 伝 え な け れ ば な ら な い 」 と , 述 べ ら れ て い る。 ④  北 野 康 他 編 「 地 球 温 暖 化 が わ か る 本 」 マ ク ミ ラ ン ・ リ サ ーチ 研 究 所 1990 年 ⑤  野 口 悠 紀 夫 「 公共 経 済 学 」  日 本 評 論 社 1982 年 ⑥  環 境 庁 地 球 環 境 経 済 研 究 会 「 地 球 環 境 の政 治 経 済 学 」 ダ イ ヤ モ ン ド 社 1990 年 ⑦  日引 聡 ・ 森 田 恒 幸 ・ 岩 田 規 久男 「 地 球 環 境 保 全 の た め の 経 済 的 手 段 」 橋 本 道 夫 他 編 『地 球 環 境 と経 済 』 ( 講 座 「 地 球 環 境 」 第 3 巻 ) 中 央 法 規 1990 年 ⑧  宮 本 憲 一 ・ 塚 谷 恒 雄 「 公 害 」 東 研 出 版 1982 年 ⑨  増 田善 信 「 地 球 環 境 が 危 な い 」 新 日 本 出 版 社 1990 年 −98 −

参照

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■詳細については、『環境物品等 の調達に関する基本方針(平成 27年2月)』(P90~91)を参照する こと。

■詳細については、『環境物品等 の調達に関する基本方針(平成 30年2月)』(P93~94)を参照する こと。

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