Ⅰ.問題と目的 2007( 平成 19) 年 4 月の学校教育法改定により,障 害の種別や程度に基づく従来の特殊教育から,一人ひ とりの教育的ニーズを重視する特別支援教育への制度 的転換が図られた。特別支援教育が明確な法的位置づ けを与えられたことにより,すべての学校において, 知的発達の遅れを伴わない発達障害を含めた障害のあ る児童生徒のための組織的・専門的な支援体制の整備 が求められたのである。 文部科学省(2004)によれば,全国 5 地域の公立 小・中学校の通常学級担任教員が「知的発達に遅れは ないものの,学習面や行動面で著しい困難を持ってい る」と判断した児童生徒は 6.3% に上ることが明らか となった。さらに,高等学校に関しても,相応数の発 達障害のある生徒の在籍が明らかにされている(内野・ 高橋,2006)。しかしながら,通常学級を担任する教 員の多くは,障害のある子どもを指導するための不安 を抱えており,特別支援教育の急速な展開に戸惑って いることが明らかにされてきた(秋山,2004;長曽我 部・尾園・猪俣・安東,2007;渡部・武田,2008)。 そのような中,校内において中心的な役割を果たす 特別支援教育コーディネーターの存在が注目されてい る。文部科学省(2004)によれば,特別支援教育コー ディネーターには,①校内の関係者や関係機関との連 絡調整,②保護者に対する相談窓口,③担任への支援, ④巡回相談や専門家チームとの連携,⑤校内委員会で の推進役といった役割が与えられている。ただし,多 様な役割が特別支援教育コーディネーターに対して要 求される一方で,担当者は活動のための事務的・時間 的負担を感じており,専門性の担保も課題となってい る(新井,2005;大塚・大石,2007;三宅・横川・吉 利,2008)。 このような背景のもと,特別支援教育コーディネー ターは,経験豊富なベテラン教員が担当することが 多いことが明らかにされている(柘植・宇野・石橋, 2007)。しかし,特別支援教育コーディネーターの取 り組みが導入されて間もないこともあり,その多くが 特別支援教育コーディネーターの初任者であることが 推察される。教育一般において,初任者はリソースの 所在が分からず疲弊し,自己研修の方策を心得ていな いために自信を喪失しやすいことが指摘されている (宇都・今林,2006)。そこで,本研究では初任特別支 援教育コーディネーターの職務に対する不安やニーズ に焦点をあて,今後の研修や校内支援体制の在り方に 関する示唆を探りたい。
初任特別支援教育コーディネーターの職務に対する意識と支援ニーズ
-小・中・高校教員の実態調査-
A Survey on Job-Consciousness and Support Needs of Novice Special Needs
Education Coordinator in the Public School
吉 利 宗 久(岡山大学)・石 橋 由紀子(兵庫教育大学)
Munehisa Yoshitoshi(Okayama University), Yukiko Ishibashi(Hyogo University of Teacher Education)
要旨:本研究では,小・中・高校における初任特別支援教育コーディネーターの職務に対する不安やニー ズに焦点をあてアンケート調査を実施し,今後の研修や校内支援体制の在り方に関する示唆を探っ た(有効回答率;91.5%,119 名)。その結果,初めて特別支援教育コーディネーターを担当する上で, 専門知識に対して不安を抱いており,校内支援体制の構築,障害に関する特性理解や指導法について の研修のニーズがあることが明らかになった。また,特別支援教育コーディネーターの活動について の意識・態度は特別支援学校教員免許の有無,教員経験年数等によって差があることが示された。研 修会等を実施する際には,新任の特別支援教育コーディネーターの多くが共通して有する支援ニーズ と,教職経験、所有免許状等の諸条件によって異なる職務意識の両面から研修の内容や方法を検討す る必要があろう。Ⅱ.方法 (1)調査の対象と手続き ある県の教育委員会主催の初任特別支援教育コー ディネーター研修会の受講者を対象とした。対象の内 訳は,小学校 76 名,中学校 29 名,高校 25 名の合計 130 名であった(特別支援学校の対象者は,役割が異 なるため対象外とした)。調査の実施にあっては,研 修開始前に調査票を配付し,当日中に回収を行う集 合調査の手法を用いた。その結果,小学校 68 名,中 学校 27 名,高校 24 名,不明 1 名の 120 名(回収率 92.3%)から回答が得られた。ただし,回答に不備(学 校種不明)がみられた 1 名を除外し,119 名を有効と した(有効回答率,91.5%)。 (2)調査期日 調査日は,2009(平成 21)年 5 月下旬であった。 (3)調査内容 属性や経験に関する人口統計学的変数を質問した上 で,多肢選択方式による 5 項目を設定した。さらに, 特別支援教育の専門性(①姿勢・態度,②知識・実践 的応用力,③条件整備)の観点から 5 件法による 15 項目(評価尺度;1 =そう思わない,2 =どちらかと いえばそう思わない,3 =どちらともいえない,4 =ど ちらかといえばそう思う,5 =そう思う)を構成した。 Ⅲ . 結果と考察 (1)新任特別支援教育コーディネーターの指名状況 回答者の基本的な属性について,表 1 に示した。全 表1.回答者の属性
体的な特徴としては,特別支援教育コーディネーター の指名を受けた者は,女性の方が多かった。特に,小 学校,中学校においては女性が 6 割以上であった。ま た,40 歳代および 50 歳代のベテラン教員が占める割 合が高く,教員経験年数も 20 年以上の者が多く指名 されていた。一方で,現任校における経験は,3 年未 満の者が約4割を占めた。そして,特別支援教育学校 教諭免許の保有状況については,小学校で約 2 割が保 有していたが,逆に高校には免許保有者がみられな かった。同様に,特別支援教育の実践経験も教育段階 が上がるに伴い,経験者の割合が低下する傾向があっ た。そして,ほとんどが特別支援教育コーディネーター の指名を受ける前に研修を受けていなかった。研修 を受けた場合の実際の研修時間(n=11,範囲 3 ∼ 60, SD=19.79)は,5 時間未満(3 名),6 ∼ 10 時間(3 名), 10 時間以上(5 名)と幅広い範囲にあった。 また,表 2 に示したように,小学校,中学校を中心 に多くの教員が一人で特別支援教育コーディネーター を担当していた。一方で,高等学校において幅広い(0 ∼ 7 名)傾向がみられた。校内における立場を表 3 に 示す。通常学級担任が占める割合が最も多く,特別支 援学級担任と合わせて過半数を占めた。特別支援教育 コーディネーターに関する初期の研究では,教頭が適 任であることが指摘されていた(曽山・武田,2006)。 実際に柘植・宇野・石橋(2007)の調査では教頭が 8.9% を占めていたものの,今回の調査では教頭との回答は ほとんどみられなかった。特別支援教育コーディネー ターの専任は, 1 割程度であった。学級担任がコーディ ネーターを兼務することは時間的に困難(小倉・太 田;2008,三宅・横川・吉利;2008)である実態を踏 まえ,専任制をとる学校もわずかながら出てきつつあ る。「その他」の内容における具体的な記述(n=10)は, 中学校(n= 3 名)で通級担当(1 名),特別支援学級 副担任( 2 名),高校(n= 7 名)で教育相談係( 5 名), 厚生課長( 1 名),相談課長( 1 名)であった。 表 4 に,特別支援教育コーディネーターに指名され 表2.特別支援教育コーディネーター担当者数(n=118, 小学校無回答1) 表3.初任特別支援教育コーディネーターの校内での立場(n=119)
た理由を示した。「他に適任者がなかったため」(項目 7)が各校種に共通して最も多かった。「よくわからな い」(項目 10)という回答と合わせて,消極的といえ る理由が上位にみられた。続いて,中学校を中心に「特 別支援学級での勤務経験があるため」(項目 3 ),「現 任校勤務が長いため」( 4 項目),「教職経験が長いた め」(項目5)といったキャリア重視の傾向がみられ た。そして,「特別支援に関心が高いため」(項目 9 ), 「自ら希望したため」(項目 8 ),「特別支援学校免許を 保有しているため」(項目 1 ),「特別支援学校での勤 務経験があるため」(項目 2 )が1割以下にとどまり, 「心理士など資格を有しているため」(項目 6 )という 理由はみられなかった。「その他」(項目 11)におい ては,「特別支援教育対象児の担任」および「公務分 掌」が(各 5 件)と多かった。これと合わせて,「児 童支援担当のため」,「不登校対応のため」,「新たに特 別支援学級担任になったため」,「専科・研究主任のた め」「担任を持っていないため」,「通級担当のため」,「養 護学校との兼任のため」など校内の立場に関係する内 容が多くみられた(各 1 件)。一方,「相談経験が長い」, 「大学で関連領域を学んだため」,「定時制の経験があ るため」と専門性が考慮されていたり,「前任者から の依頼」,「経験を積むため」(各 1 件)という回答も あった。柘植・宇野・石橋(2007)が校長に対して特 別支援教育コーディネーターの指名理由を尋ねたとこ ろ,「特別支援教育に対する熱意」(43.7%),「特別支 援教育に関する知識・技能」(43.6%),「校内教職員 に対するリーダーシップ」(35.3%)等が挙げられて いた。しかし,吉村(2005)によれば、特別支援教育コー ディネーターの人選について説明があったとの回答は およそ 6 割であった。管理職の側では特別支援教育に 関する姿勢や知識を重んじた指名を行っていても,人 選の理由が特別支援教育コーディネーター自身に明確 に伝えられていないケースも少なくないものと考えら れる。特別支援教育コーディネーターの実践に対する 動機づけの観点からも,指名理由を明確にして積極的 な活動を支えていく必要があろう。 (2)特別支援教育コーディネーター担当のための条 件と支援 特別支援教育コーディネーターに最も求められる資 質を表 5 に示す。各校種に共通して,「特別支援教育 に対する熱意」(項目 1 )および「特別支援教育に関 する知識・技能」(項目 2 ),「他の職員からの信頼性」(項 目 5 )が上位を占めた。「校内教職員に対するリーダー シップ」(項目 4 ),「特別支援教育に関する経験」(項 目 3 ),「保護者への相談や連絡調整力」(項目 9 ),「校 外の専門家などとの連絡調整力」( 8 項目),「保護者 からの信頼性」( 7 項目)は 1 割未満にとどまってい た。そして,「校長からの信頼性」(項目 6 )はみられ なかった。「その他」(項目 10)の具体的回答としては, 表4.特別支援教育コーディネーターに指名された理由 ( 複数回答 ; n=140, 小 84, 中 31, 高 24)
情報発信(1 件)があげられた。 表 6 は,初任特別支援教育コーディネーターが優先 して学ぶべきと考えられた内容である。「校内支援体 制の構築方法」(項目 4 ),「様々な障害に関する特性 理解や指導法」(項目 8 ),「発達障害に関する特性理 解や指導」(項目 10)が 3 割以上の高い割合を示した。 「他領域専門機関との連携方法」(項目 2 ),「実態把握 (アセスメント)方法」(項目 7 ),「特別支援教育の理 念や基本的な考え」(項目 9 ),「保護者との連携方法」 (項目 1 )が 2 割程度であり,「個別の指導計画の作成」 (項目 5 ),「個別の教育支援計画の作成」(項目 6 ),「セ ンター的機能の発揮・活用の仕方」(項目 3 ),「教材・ 教具の開発方法」(項目 12),「障害理解教育の推進(項 目 11)は比較的に少数であった。「その他」(項目 13) としては,ケース会の効果的運営( 1 件)があげられた。 大塚(2009)によれば,校内支援体制の構築におけ る主要な取り組みは,①校内委員会とケース会議,② 校内研修,③個別の教育支援計画の策定である。さら に,校内委員会が機能していると認識する校内委員会 の姿は,「確実に実施し具体的な支援体制や支援内容 を話題にすること」(今里・小島,2008)であると指 摘されている。特に初任者のコーディネーターに対し て研修会を設定する際には,具体的にどのような取り 組みをすることが校内支援体制の構築につながるのか 表5.特別支援教育コーディネーターに最も求められる資質(n=119) 表6.初任特別支援教育コーディネーターが優先して学ぶべき内容(3 肢選択 ; n=312, 小 181, 中 69, 高 62)
ということに焦点を当てることが重要であろう。 初めて特別支援教育コーディネーターを担当する上 での不安については,「専門知識に対する不安」(項目 2)が全校種で共通して最も高い割合を示した(表 7 )。 さらに全体として,「外部機関との連携方法に対する 不安」(項目 7 ),「他の業務との両立に対する不安」(項 目1)が大きく,一定の割合で「保護者との連携・コミュ ニケーションに対する不安」(項目 5 ),「役割が不明 確であることに対する不安」(項目 6 ),「校内の協力 体制に対する不安」(項目 3 ),「情報不足に対する不安」 (項目4)も感じられていた。「相談相手がいないこと の不安」(項目 8 ),「特にない」(項目 10)はほとん どみられなかった。「その他」(項目 9 )の具体的な記 述はなかった。不安が多岐にわたっていることが分か る。 表 8 に示したとおり,初めて特別支援教育コーディ ネーターの役割を果たす上で最も必要なサポートは, 各校種に共通して「校内教職員の特別支援教育への理 解」(項目 2 ),「校内体制の整備充実」(項目 4 ),「活 動するための時間的な配慮」(項目 7 )が高いニーズ を示した。校内における支援体制整備が強く要望され ていた。続いて,「専門機関からの助言」(項目 5 ),「研 修機会の確保」(項目 3 ),「校長のリーダーシップ」(項 目 1 ),「学校全体の保護者への啓発」(項目 6 )の順 となった。「特に必要ない」(項目 8 )はまったく回答 がなく,支援の必要性が大きいことが明らかになった。 (3)特別支援教育コーディネーターの意識 特別支援教育コーディネーターの意識について,① 基本的な姿勢・態度(5 項目),②知識・実践的応用力(6 項目),③支援体制( 4 項目)の視点から検討を行う。 表7.初めて特別支援教育コーディネーターを担当する上での不安(3 肢選択 ; n=271, 小 155, 中 62, 高 54) 表8.初めて特別支援教育コーディネーターの役割を果たす上で最も必要なサポート(3 肢選択 ; n=300, 小 66, 中 25, 高 24)
なお,特徴的な傾向を中心に整理する。 1)活動に関する基本的な意識・態度 特別支援教育コーディネーターの活動に関する基本 的な意識・態度の結果を表 9 に示した。特別支援教 育に関する関心の様子を探ったところ,全体で 82.6% (95 名)が「賛成」(評定 4,5)の意思を示した(項 目 1-1)。特別支援教育に関する関心は極めて高いこ とが分かる。ただし,高校の平均得点が唯一 3 点台に とどまっており,小学校および中学校よりも低い実態 があった。特別支援教育コーディネーターを経験す ることによる教育活動への積極的な影響については, 90.5%(105 名)が肯定的な認識を示した(項目 1-2)。 いずれの学校種別に関しても 4 点台の平均値が示さ れ,好意的な態度が大多数を占めた。そして,特別支 援学校教諭免許を有する群(M=4.90)が有さない群 (M=4.41)よりも高い得点傾向を示した。免許の所有 者が,特別支援教育コーディネーターの経験をより いっそう好意的に捉えている様子が明らかになった。 新任特別支援教育コーディネーターは,特別支援教育 に関する関心も高く,実践的な意義を感じている。と くに,免許保有者が特別支援教育コーディネーターの 経験が教育活動全般に役立つと考える傾向があった。 一方で,特別支援教育コーディネーターの活動に関 して,大多数(100 名,87.0%)が特別な力量が必要 であると考えていた(項目 1-3)。また,いずれの学 表9.特別支援教育コーディネーターの活動に関する基本的な意識・態度
校種においても,4 点以上の高い平均得点が示されて いた。そして,ほぼ半数(55 名,47.8%)が特別支援 教育コーディネーターを担当する上での負担感を感 じていた(項目 1-4)。学校種別にみても,共通して 4 点以上の高い平均得点が示された。特別支援教育コー ディネーターの活動が特別なスキルを必要としてお り,その職務を果たすためには負担感を示す者も少な くない。 さらに,特別支援教育コーディネーターの継続的 な担当について,3 分の 1 以下(31.3%,36 名)のみ が「賛成」の意思を示した(項目 1-5)。学校種別に は,小学校群における意識が比較的に高く,中学校 から高校と教育段階があがるとともに低得点となっ た。そして,免許を有する群(M=3.76)が有さない 群(M=3.02)よりも高い得点傾向を示した。免許の 所有状況が継続的な担当の意欲に影響する傾向を指摘 できる。また,研修なし群において特別支援教育経 験あり群(M=3.37)が経験なし群(M=3.02)よりも 高い得点傾向にあった。そして,特別支援教育経験 なし群において,研修あり群(M=3.67)が研修なし 群(M=3.02)よりも高い得点傾向を示した。特別支 援教育の経験と研修が,特別支援教育コーディネー ターの継続的な担当に対する好意的な態度を相互に促 進している可能性が示唆される。加えて,研修と教員 経験の関係について,研修あり群において経験 10 年 未満の新任群(M=4.50)が経験 11 ∼ 20 年の中堅群 (M=2.25)よりもかなり高い得点を示した。さらに, 中堅群は経験 21 年以上のベテラン群(M=3.60)より も低い得点である傾向がみられた。つまり,研修あり 群において新任群が中堅群よりも研修の効果を示し, ベテラン群においても中堅群よりも好意的な態度の傾 向がみられた。同様に,新任群において研修あり群 (M=4.50)が研修なし群(M=3.00)よりも高い得点を 示す傾向がみられた。一方,中堅群において研修なし 群(M=3.15)が研修あり群(M=2.25)よりも高い得 点傾向を示した。新任群における研修の効果が大きい 傾向が明らかになるとともに,中堅群では研修の効果 が必ずしもみられなかった。教職経験ごとに直面する 課題も異なることも推測され,経験に配慮した研修の 内容や方法を検討する必要も示唆される。 2)特別支援教育コーディネーターの知識・実践的応 用力 特別支援教育コーディネーターの知識・実践的応用 力に関する質問項目と結果を表 10 に示した。特別支 援教育コーディネーターの指名を受けた際に,その役 割をイメージできたと回答した者は半数以下(47 名, 40.9%)であった(項目 2-1)。このことは,どの学校 種についても共通している傾向といえる。そして,研 修あり群(M=3.19)が研修なし群(M=2.75)よりも 高い平均得点を示した。研修を受けることで特別支援 教育コーディネーターの役割について理解を深めるこ とができると考えられる。そして,教員経験に関して, 初任者群(M=1.54)が中堅群(M=3.21)とベテラン 群(M=3.48)よりも平均得点が低かった。教育経験 によりイメージが高められ,研修によっても同様の効 果が期待できるといえよう。また,発達障害における 学習指導に関する助言をすることができると感じてい る者は,ごくわずか(20 名,17.2%)であった(項目 2-2)。特に高校では,平均値が 1 点台にとどまってい た。特別支援教育経験に関して,経験あり群(M=3.31) が経験なし群(M=1.76)よりも高い平均得点を示した。 研修については,研修あり群(M=2.85)が研修なし 群(M=2.24)よりも高い平均得点を示した。ここでも, 特別支援教育の経験と研修の意義を確認できる。 また,項目 2-3 に示したように,発達障害の社会ス キルに関する指導に助言ができると考えていた者は, かなり少数であった(16 名,13.9%)。とくに,高校 の平均得点が 1 点台と極めて低かった。全体におけ る特別支援教育経験に関して,経験あり群(M=3.06) が経験なし群(M=1.78)よりも高い平均得点を示した。 研修については,研修あり群(M=2.83)が研修なし 群(M=2.07)よりも高い平均得点を示した。発達障 害の実態把握についてアドバイスができると考えた者 の割合は低かった(項目 2-4,19 名,16.5%)。なかでも, 高校における同意の割合が低調であった。特別支援教 育経験において,経験あり群(M=3.17)が経験なし 群(M=1.80)よりも高い平均得点を示した。研修に ついては,研修あり群(M=2.94)が研修なし群(M=2.10) よりも高い平均得点を示した。 石橋・平賀・小島・是永・片岡・丸山・水内・吉利(2009) が,小学校通常学級担任に対して自身が有する専門的 な知識・技能について尋ねたところ,学習指導(指導
方法や教材開発)(肯定 11.8%,否定 61.1%),社会ス キルの指導(肯定 8.4%,否定 63.8%),実態把握(ア セスメント)(肯定 7.9%,否定 38.7%)であった。さ らに,中学校通常学級担任ではいずれも小学校より肯 定が下回っていた(吉利・小島・平賀・水内・丸山・ 是永・片岡・石橋,2009)。これらの結果と比較する と,特別支援教育コーディネーターが一定の専門的な 知識・技能を有していると判断できるが,まだ十分な 水準には至っていないと考えられる。研修会への参加 時間とコーディネーター活動は関連しており,10-20 時間が教員へのコンサルテーション活動実施の有無の 分水嶺になっている(柘植・宇野・石橋,2007)こと を考慮すれば,研修機会の拡大がぜひとも望まれる。 個別の教育支援計画の立案に関して一定の助言がで きる(項目 2-5)ことに対して,「賛成」は非常に少なかっ た(19 名 ,16.4%)。特別支援教育経験においては,経 表 10.特別支援教育コーディネーターの知識・実践的応用力に関する意識
験あり群(M=3.06)が経験なし群(M=1.57)よりも 高い平均得点を示した。また,研修に関して,研修あ り群(M=2.66)が研修なし群(M=2.00)よりも高い 平均得点を示した。そして,保護者への対応の流れを 理解していることに「賛成」の意思を示した回答者は 24.3%(28 名)と非常に少なかった(項目 2-6)。教員 経験に関して,初任者群(M=1.92)が中堅群(M=2.45) とベテラン群(M=3.28)よりも有意に平均得点が低 かった。また,研修なし群において,特別支援教育経 験あり群(M=3.19)が経験なし群(M=2.27)よりも 得点が高かった。 3)特別支援教育コーディネーターの支援体制に関す る意識 特別支援教育コーディネーターの活動は校内におい て理解されている(項目 3-1)との問いに対して,「賛 成」は半数以下(45 名,38.8%)であった。また,校 長は特別支援教育コーディネーターの活動を積極的 にサポートしている(項目 3-2)については,「賛成」 は約半数(54 名,46.6%)であった。とくに肯定的な 姿勢は,小学校(53.0%)および中学校(53.8%)で 過半数であったのに対して,高校ではかなり低い状況 (20.8%)であった。そして,免許あり群において教 職初任者群と中堅群(M=2.50)よりも教職ベテラン 群(M=3.92)の平均得点が高かった。さらに,教職 ベテラン群において免許あり群(M=3.92)が免許な し群(M=3.30)よりも平均得点が高かった。特別支 援教育コーディネーターの教育経験と研修による知識 の獲得が,校内の支援や理解を取り付ける上でも重要 な意味を持つことも推察できる。 特別支援教育コーディネーターの活動で困ったとき に,こまめに相談できる相手がいるとの問いには,半 数以上が肯定的な姿勢を示した(項目 3-3)。特別支 援教育コーディネーターの研修機会は十分に確保さ れている(項目 3-4)において,十分との考えは 3 割 程度であった。そして,免許あり群(M=3.33)が免 許なし群(M=2.82)よりも得点が高い傾向があった。 校内における相談相手はいても,知識や経験を広げて 表 11.特別支援教育コーディネーターの支援体制に関する意識
いくための機会は限られている。広く情報を得るため の機会を確保していくことも課題となろう。 おわりに 本研究では,初任特別支援教育コーディネーターの 職務に対する不安やニーズに焦点をあて,今後の研修 や校内支援体制の在り方に関する示唆を探った。その 結果,初めて特別支援教育コーディネーターを担当す る上で,自身の専門知識に対して不安を抱いており, 校内支援体制の構築,様々な障害に関する特性理解や 指導法についての研修のニーズがあることが明らかに なった。また,特別支援教育コーディネーターの活動 についての意識・態度は特別支援学校免許の有無,特 別支援教育の経験の有無,教員経験年数等によって差 がみられた。今後は,特別支援教育コーディネーター の経験年数,職務に対する不安やニーズをはじめ,経 験等の差異に応じた効果的な研修を企画していくこと が重要であろう。 文献 ・秋山邦久(2004)「特別支援教育に対する小中学校 教員の意識に関する調査研究」『人間科学研究』26, pp.55-66. ・新井英靖(2005)「通常学校の特別支援教育コーディ ネーターの役割および校内での地位に関する調査研 究」『発達障害研究』27(1),pp.76-82. ・石橋由紀子・平賀健太郎・小島道生・是永かな子・ 片岡美華・丸山啓史・水内豊和・吉利宗久(2009)「特 別支援教育の専門性に対する通常学級教員の態度と 意識―小学校における実態調査を通して」『日本特 殊教育学会第 47 回大会発表論文集』p.488. ・今里順一・小島道生(2008)「長崎県の小・中学校 における特別支援教育の現状と課題―特別支援教育 コーディネーターが認識する機能度からの検討―」 『特別支援教育コーディネーター研究』3,pp.1-6. ・内野智之・高橋智(2006)「高校等に在籍する軽度 発達障害児の教育実態:神奈川県の高校等への質問 紙調査から」『東京学芸大学紀要(総合教育科学系)』 57,pp.231-252. ・内野智之(2009)「中学校調査からみた発達障害生 徒の高校進学の困難・ニーズ」『障害者問題研究』 36(4),pp.254-263. ・宇都慎一朗・今林俊一(2006)「初任教師の心理的 発達に関する研究(2):ソーシャル・サポートの及 ぼす初任教師の教師観への影響について」『鹿児島 大学教育学部教育実践研究紀要』16,pp.79-90. ・大塚玲・大石啓文(2007)「小・中学校における特 別支援教育コーディネーターの現状と養護学校への 支援ニーズ」『静岡大学教育実践総合センター紀要』 13,pp.173-183. ・大塚玲(2009)「小学校における校内支援体制の構 築と特別支援教育コーディネーターの役割」『静岡 大学教育学部研究報告(人文・社会科学編)』59, pp.109-122. ・曽山和彦・武田篤(2006)「特別支援教育コーディネー ターの指名と養成研修の在り方に関する検討」『特 殊教育学研究』43(5),pp.355-361. ・柘植雅義・宇野宏幸・石橋由紀子(2007)『特別支 援教育コーディネーターに関する全国悉皆調査』. ・長曽我部博・尾園千広・猪俣千夏・安東末廣(2007)「特 別支援教育に対する小・中学校教師の研修の在り 方」『宮崎大学教育文化学部紀要(教育科学)』16, pp.73-89. ・濱紀子・井上とも子(2008)「T 県の高校における 特別支援教育の推進上の課題―特別支援教育コー ディネーターへのアンケートをもとに―」『特別支 援教育コーディネーター研究』3,pp.7-12. ・三宅康勝・横川真二・吉利宗久(2008)「小・中学 校における特別支援教育コーディネーターの職務と 校内体制」『岡山大学教育実践総合センター紀要』8, pp.117-126. ・文部科学省(2004)『小・中学校における学習障害 (LD),注意欠陥 / 多動性障害(AD/HD)等の児童 生徒への教育支援を行う体制を整備するためのガイ ドライン(試案)』 ・吉村司(2005)「特別支援教育コーディネーターの 在り方と校内支援体制作り―小中学校教員に対する 意識調査から」『SNE ジャーナル』11(1),pp.59-72. ・吉利宗久・小島道生・平賀健太郎・水内豊和・丸山 啓史・是永かな子・片岡美華・石橋由紀子(2009)「特 別支援教育の専門性に対する通常学級教員の態度と 意識―中学校における実態調査を通して」『日本特 殊教育学会第 47 回大会発表論文集』p.62. ・渡部紘子・武田篤(2008)「軽度発達障害に関する小・
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謝辞
本研究の実施にあたり,ご協力くださいました関係 者の皆様に心より感謝を申し上げます。