滋賀県地場産業の地理学的研究 : 存続理由の考察を中心にして
172
0
0
全文
(2) と呼ばれる販売力のある商人が存在していたこ. ①伝統的な技術・技法、その産地が持つ固有の. とも見逃せない。. 哀術・技法、高度な技術力、熟練した技術者. さて、滋賀県には、前述の定義によって検討. などが存在したこと…「技術・技法の存在」. の対象となる地場産業・産地が9っ存在する。. ②その産地が従来から持っている技術・技法を. 具体的には、信楽焼陶器産地、甲賀・日野薬産. 応用又は転用して、原材料の変化などにも対. 地、湖東麻織物産地、彦根バルブ産地、彦根仏. 応し、消費者のニーズに応えるべく製造品目. 壇産地、彦根ファンデーション産地、長浜縮緬. を転換・増加させてきたこと…「製造品目の. 産地、高島綿織物産地、高島扇骨産地の9産地. 転換・増加」. である。このように滋賀県の地場産業はこの多. ③製品を確実に販売するための流通経路を確保. 様性に特徴がある。この多様さ故に、滋賀県の. してきたこと…「確固たる流通経路の存在」. 地場産業を扱う場合はこれらすべての地場産. この三点の中でも、滋賀県の地場産業につい. 業・産地を研究対象としなければならない。. 本研究の目的は、滋賀県内9っの全地場産 業・産地を取り上げて、各地場産業・産地の存. ては特に②「製造品目の転換・増加」及び③「確. 固たる流通経路の存在」が重要であると筆者は 結論づけた。. 続理由を沿革・産地の概要・生産・流通の4っ. さて、①「技術・技法の存在」、②「製造品目. の観点から考察し、それをもとに滋賀県地場産. の転換・増加」、③「確固たる流通経路の存在」. 業全体の存続理由を解明することである。この. の存続理由は、他地域の地場産業についても一. 目的を達成するために、本研究では、まず、滋. 般化できることであろう。そこで、本研究の結. 賀県商工労働部、滋賀県工業技術センター、各. 論から滋賀県の地域性は、次のように整理する. 産地組合関係者ならびに各産地の事業主体者か. ことができる。. ら聞き取り調査を実施し、また各種資料及びそ. 滋賀県は大消費地に近接しており、古来より. の他の文献からの情報をもとに、前述した本研. 交通の要衝となっている。このように大消費地. 究の4っの観点から各地場産業・産地を分析・. に近いことが、消費者のニーズを取り入れやす. 考察する。次に、そこで得た分析や考察から各. いという利点となり、そのことが滋賀県の地場. 地場産業・産地の特徴を整理し、各地場産業・. 産業において製造品目の転換・増加の動機づけ. 産地の存続理由を明らかにする。そして、最後. となったと推測できる。また、大消費地との近. にその各地場産業・産地存続理由の視点から各. 接性及び交通の要衝であることが、流通面での. 地場産業・産地を位置づけ、さらに滋賀県地場. 発達を促す風雨を生み出してきたといえよう。. 産業全体の存続理由を解明するという研究の方 法を用いた。. このようにして分析・考察した結果、次のよ うな結論が得られた。. 滋賀県地場産業全体の存続理由は次の三点で ある。. 主任指導教官. 指導教官. 岩田 一彦. 南埜 猛.
(3) 平成12年度 修士論文. 滋賀県地場産業の地理学的研究 一存続理由の考察を中心にして一. 兵庫教育大学大学院. 学校教育研究科. 教科・領域教育専攻. 社会系コース. M99509G. 奥村 公英.
(4) 次. 目. 1. 研究の目的と方法. 序 論. 研究の視点と目的・一……………・・…・……………………一 1. 第1節 第2節. 先行研究……・一………・・…・………一……一…………・・…… 5. 第3節. 研究の方法. 第1章 第1節. 肺・卿. 滋賀県の地誌・・……. 8. 位置・自然一一・一……………………一・一………一…・・8. 1.位置・面積. 8. 2.地形・気候. 8. 第2節 社会・経済・ 1.人口. 13 13. 2.経済・産業. 13. 3.近江商人. 16. 第2章. 滋賀県地場産業の概要一・……・…・…・・………一……・・……19. 第1節. 全国の地場産業の概要一一…………・………一一……19. 1.産地数、産地形成時期. 19. 2.企業数:、従業員数. 19. 3.生産額. 20. 4.まとめ. 21. 第2節. 滋賀県地場産業・産地の概要………・・………・……・…・21. 1.分布状況. 21. 2.業種別構成. 23. 3.地域経済に果たす役割. 第3章 第1節 1.. @・㈹警。嘔肺7. 24. 滋賀県各地場産業・産地の現状…………・…・・…………・27 信楽焼陶器産地・……………・…・・……・…………・………・・…27. 沿革. 27. 一i..
(5) 2.産地の概要. 28. 3.生産. 31. 4.流通. 33. 第2節. 甲賀・日野薬産地・…・…一一…・・一・一一■■…・・……・…36. 1.沿革:. 36. 2.産地の概要. 40. 3.生産. 42. 4.流通. 44. 第3節. 湖東麻織物産地・……………・…・……・…・………・……・……47. 1.沿革. 47. 2.産地の概要. 48. 3.生産. 51. 4.流通. 53. 第4節. 彦根バルブ産地…・……・・…一…一一…一一・……・…・…57. 1.沿革:. 57. 2.産地の概要. 62. 3.生産. 67. 4.流通. 72 75. 第5節 彦根仏壇産地. 1.沿革. 75. 2.産地の概要. 77. 3.生産. 78. 4.流通. 80. 第6節. 彦根ファンデーション産地・・一……・・……・・…………・・. 84. 1.沿革. 84. 2.産地の概要. 87. 3.生産. 90. 4.流通. 94. 第7節. 長浜縮緬産地・……・………………………・……一一…_…g7. 1.沿革. 97. 2.産地の概要. 100. 一ii..
(6) 3.生産. 103. 4.流通. 105. 第8節. 高島綿織物産地・・・・………・……・一・・…一一…・・一一…108. 1.沿:革. 108. 2.産地の概要. l11. 3.生産. 114. 4.流通. 116. 第9節. 高島扇骨産地一一…一一……一・………一…一…一一一一・……118. 1.沿革. 118. 2.産地の概要. 120. 3.生産. 121. 4.流通. 125. 第4章 第1節 第2節. 滋賀県地場産業・産地存続理由の検討……・・・・………. 129. 滋賀県地場産業の特徴・一…・…・一…・…………一一・. 129. 滋賀県各地場産業・産地の存続理由・一一…一…一. 131. 1。信楽焼陶器産地の存続理由. 131. 2.甲賀・日野薬産地の存続理由. 136. 3.湖東麻織物産地の存続理由. 138. 4。彦根バルブ産地の存続理由. 139. 5.彦根仏壇産地の存続理由. 140. 6.彦根ファンデーション産地の存続理由. 141. 7.長浜縮緬産地の存続理由. 143. 8.高島綿織物産地の存続理由. 145. 9.高島扇骨産地の存続理由. 145. 第3節. 滋賀県地場産業全体の存続理由の考察・……………146. 結論_…・…・…_.._____.____……_._.……・……__153. 参考文献…一・…………・……………・・・・……・…・一・……・一・……・…・…・……I158. 謝辞. …・…162 .ii量一.
(7) 図表・写真一覧表. 〈図一覧〉 第1章. 図1−1. 滋賀県の地形. 図1−2. 滋賀県の地域区分. 図1−3. 4地域の代表的な市町村の雨温図. 図1−4 図1−5. 滋賀県の産業別就業者数の割合. 図1−6. 県内総生産(産業分)の産業別推移. 図1−7. 滋賀県における近世のおもな街道、港、峠越え. 国民総生産(産業分)の産業別推移. 第2章. 図2−1. 滋賀県地場産業・産地の分布. 図2−2. 滋賀県地場産業の企業数・従業員数・生産額の業種別割合. 第3章. 図3−1. 信楽焼陶器産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−2. 信楽焼陶器産地の製造品目別生産額の推移. 図3−3 図3−4. 信楽焼陶器製品の生産工程. 図3−5. 甲賀・日野薬産地における平成元年から平成10年までの. 信楽焼陶器製品の流通経路. 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−6. 薬剤の生産工程. 図3−7. 錠剤の生産工程. 図3−8 図3−9. 薬剤の流通経路. 湖東麻織物産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−10. 平成7∼9年の湖東麻織物の総生産額に対する製造品目別. 一iv一.
(8) 生産比率. 図3−11. 湖東麻織物の生産工程. 図3−12. 湖東麻織物の流通経路. 図3−13. 平成9年度の製造品目別出荷先の割合. 図3−14. 彦根バルブ産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−15. 彦根バルブ産地における平成元年から平成10年までの 品目別生産額. 図3−16. 彦根バルブ産地の生産額と全国のバルブ生産額との比較. 図3−17. バルブの生産工程. 図3−18. バルブ製品の流通経路. 図3−19. 彦根仏壇産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−20. 彦根仏壇の生産工程及び流通経路. 図3−21. 彦根ファンデーション産地における製造品目別生産高の 割合. 図3−22. 彦根ファンデーション産地における平成元年から平成10年 までの企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−23. ファンデーション製品の生産工程. 図3−24. 彦根ファンデーション製品の流通経路. 図3−25. 長浜縮緬産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−26. 製造品目別生産量の推移. 図3−27. 浜縮緬の製造品目別生産量の推移. 図3−28. 浜縮緬の生産工程. 図3−29. 浜縮緬の流通経路. 図3−30. 高島綿織物産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 図3−31. 高島綿織物産地における平成元年から平成10年までの 製造品目別生産額の推移. 一V一.
(9) 図3−32. 高島綿織物産地における平成元年から平成10年までの 製造品目(詳細)別生産額の推移. 図3−33. 綿クレープ及び資材織物の生産工程. 図3−34. 綿クレープ及び資材織物の流通経路. 図3−35. 高島扇骨の生産工程. 図3−36. 扇骨及び扇子の流通経路. 第4章. 図4−1. 信楽町を訪問した観光客数の推移. 〈表一覧〉. 第1章 表1−1 4地域の代表的な市町村における最高気温・最低気温・ 降水量・積雪日数. 第2章 表2−1 滋賀県地場産業の業種別企業数・従業員数・生産額 表2−2 製造品出荷額における地場産業が地域経済に占める割合 表2−3 従業者数における地場産業が地域経済に占める割合. 第3章. 表3−1. 平成2年と平成3年の従業員規模別企業数ならびに 従業員数. 表3−2. 高島綿織物産地企業分布. 第4章. 表4−1. 滋賀県内各地場産業・産地の考察結果. 表4−2. 各地場産業・産地と存続理由. 一vi一.
(10) 〈写真一覧〉. 第3章 写真3−1. バルブ製造用の機械. 写真3−2. 手作業での工程. 写真3−3. 塗装工程. 写真3−4. 梱包の様子. 写真3−5. 木地師の作業場. 写真3−6. 組立の様子. 写真3−7. サンプルの作成工程の様子. 写真3−8. 裁断工程の様子. 写真3−9. コニ場内の様子. 写真3−10. 縫製工程(高い技術力を要する工程). 写真3−11. 検査工程. 写真3−12. 「仲じまい」と呼ばれる工程. 写真3−13. 「本ざし」と呼ばれる工程. 第4章 写真4−1. 大型陶器を成形する機械. 写真4−2. 熟練した技術による成形. 写真4−3. 輪櫨の体験ができる小売店. 写真4−4. 大食堂を備えた小売店. 一v盤一.
(11) 序論 研究の目的と方法 第1節 研究の視点と目的 近年、消費者のニーズはますます多様化してきている。それゆえ、 少品種大量生産を軸に発展してきた大企業はそのニーズの対応に苦慮し ている。つまり、強さの象徴であった、一律の製品を大量に市場に供給 するという大企業の大量生産主義が、現在では逆に弱点となってしまっ たのである。それに対して地場産業は多様であり、長年にわたって技術 を蓄積し、多品種少量生産という小回りのきく生産を行い、消費者の要 望に対応している。また、地場産業は地域に労働力市場を提供したり、. 地域の所得水準向上に寄与するなど、地場産業が地域に果たす役割は大 きい。. しかしながら、地場産業の現状は景気低迷による受注の減少、輸入 品との競合や後継者不足などの諸問題に直:面し、厳しい状況である。そ. の現状を克服することは、地域経済において今同的課題であり、急務と なっている。筆者は現在地域に展開している地場産業の存続理由を考察 し解明することによって、今旧的課題の克服や今後の展望についての手 立てや示唆が得られるものと考える。. ところで、地場産業に関する研究は今日まで数多くなされてきた。そ して、それらの研究は大きく二つに分類することができる。一つは、地 場産業そのものを対象にした研究であり、もう一つは、特定の地場産業・ 産地を対象にした研究である。. 両研究ともその内容は多岐にわたっている。地場産業そのものを対象 にした研究の内容をいくつか挙げると、地場産業の定義づけや類型化に 視点を置いたもの、地場産業の抱える問題点と今後の展望について考察 したもの、地場産業と地域経済という観点から地場産業の重要性を説き 地場産業と地域経済の振興・活性化について論じられたものなどがある。. 最初に本研究対象である地場産業の定義について、先行研究における 議論を踏まえて筆者の考えを述べておきたい。. 前述したとおり、地場産業の定義についてはこれまでも議論されてい. 一1一.
(12) るところである。ここでは、まず代表的な定義をみてみよう。. 山崎充(1977)は、地場産業を次のように定義している。「①特定の 地域に起こった時期が古く、伝統のある産地である。②特定の地域に同 一業種の中小零細企業が地域的企業集団を形成して集中立地している。. ③多くの地場産業の生産、販売構造がいわゆる社会的分業体制を特徴と している。④ほかの地域ではあまり産出しない、その地域独自の「特産 品」を生産している。⑤市場を広く全国や海外に求めて製品を販売して いる。」の五つの特性を備えた中小企業を地場産業であると定義してい る。ただし、山崎は必ずしもこの五つの特性が完全に備わっていなけれ ばならないわけでなく、この五つの特性の内一つ、二つの特性がここで 規定したものとやや異なっていたとしても、全体的にここで定義したニ ュアンスに近い特性を持っていれば地場産業とみてよいとしている。. 清成忠男(1998)は、地場産業は産業の一つの類型であって、その 担い手のほとんどが中小企業である点に注目している。そして、地場産 業とは、通常は産地を形成し、全国市場ないしは外国市場向けに消費財 を供給する産業である。こうした地場産業は、もともとは資源立地であ り、地元の資源と労働力を結びつけ、地域的独自性を有する財を供給し てきた。いわば特産品工業であると定義している。 石倉三;雄(1989)によれば、地場産業とは地元資本による同一業種:. に属する多数の中小企業が特定地域に集積して産地を形成し、地域内に 賦存する自然資源・原材料を利用し、もしくはそれらを地域外から移入、. あるいは海外から輸入し、地域内の労働力によって産地に集積された技 術・技法を駆使して、いわば経営資源を活用することによって特産物一 三として消費財に関する完成品、あるいは中間製品・半製品一を多分に 労働集約的な生産方法に依拠して、当該製品などの販路を地元はもとよ り、広く国内市場、あるいは製品によっては海外市場にまで求めている ものであるとしている。. また、関満博(1998)は地場産業とは、①人々の日常の生活圏とい ったレベルの空間的な範囲(地域)の中で、特定製品生産に携わる生産 者が集中的に立地(産地化)していること。②それらが主として地場の. 一2一.
(13) 中小企業によって担われていること。③そうした特定製品、特定生産者 集団が地域の重要な存在となり、地域の歴史、文化に多大な影響を与え ていることなどであると定義している。. これらの定義を整理すると、次のようになる。. 山崎を除く各論者の定義は山崎の定義をベースにしており、山崎が示 した観点からある特定の観点を強調したり、別の角度から観点を捉えた り、補足的に別の観点を盛り込んだりしたものとなっている。. 前述の各論者の所説で共通していることは、地場産業の担い手は主と して中小企業であるということ、地場産業では表現の違いはあるが、特 産物(特定製品)を生産していることの二点である。また、相違点とし ては次の点が指摘できる。山崎は①起源、②企業規模、③生産・販売構 造、④製品、⑤市場の観点に着目して地場産業の特性を導き出し定義し ており、清成は山崎の定義の中から特に②企業規模、④製品、⑤市場を 強調している。石倉は山崎の定義をベースにしながら、さらに「地域」. というものを重視して各観点に着目している。関の定義は山崎の定義の ②企業規模、④二二を強調しながら、さらに山崎が観点としてあげてい ない地域の歴史や文化にまで踏み込んで定義している。. 小原(1996)は山崎の概念規定は考え抜かれた代表的な概念ではあ るが、しかし、それさえも概念の一例でしかなく、三二産業の概念を規 定すること自体が難しいことを指摘している。このように地場産業につ いて統一的な定義を設定することは困難ではあるが、地場産業の研究を する上で、研究者は地場産業についてある程度の枠組みを示しておく必 要がある。そこで、筆者は地場産業が地域と密接に結びついていること ならびに地場産業も時代の趨勢や経済の動向などにより多様に変化する ものであるという認識から、次のように地場産業を定義することにした。 地場産業とは下記の①∼③を備えた産業である。. ①特定の地域に同一業種の、地元資本による中小企業が集中立地し て産地を形成している。. ②地元で産する原材料や他地域から移入又は海外から輸入した原材 料を用い、地元の労働力を利用して、その産地に受け継がれてき. 一3一.
(14) た技術・技法又は場合によってはその技術・技法を応用もしくは 転用することにより、特産品(主に消費財関連の完成品や半完成品・ 中間製品など)を生産している。. ③販路を地元はもとより広く全国市場や製品によっては海外市場にま で求めて製品を販売している。. 次に、この定義に基づいて地場産業を構成する諸要素を抽出すると、 地元資本、中小企業、原材料、地元の労働力、伝統ある技術・技法、特 産品、販売・流通などの諸要素が導き出せる。これらの要素は地場産業 に必要不可欠な要素であるといえよう。この主要要素の中で、下平尾勲. (1996)が「地場産業の発達過程で、市場の問題は重要な地位を占め た。(中略)原料資源が良質かつ豊富であり、固有の技術が地元に定着 し、販売市場も安定しているという条件のもとで地場産業は発展してき た。これらの条件が相互作用しつつ発展の原因となり、また結果となっ て成長してきた。この中でも、販売市場の安定的な確保ということがと くに地場産業の産地発展の有力な条件であった。」と述べているように、 「流通」という要素は地場産業にとって最重要要素である。. しかしながら、従来の地場産業の考察においては、その定義を見ても わかるように、生産面を重視したものとなっている。もちろん地場産業 が成立するためには、「生産」という側面が重要である。しかし、地場 産業・産地が存続するためには「流通」という側面が非常に重要となっ てくる。したがって、地場産業を考える上では、「生産」と「流通」の 両視点をともに重視して研究する必要がある。. 以上のことから、地場産業を研究する際の観点としては次の4点に 整理することができる。 ① 沿革 [起源、発展過程、産地組合]. ② 産地の概要 [地元資本一企業、地元の労働カー従業員数、生産額] ③ 生産 [原材料、技術・技法、特産品(製造品目)] ④ 流通 [販売形態、販売経路コ. さて、このような視点から滋賀県の位置に注目してみると、滋賀県は 地理的には日本全国のほぼ中央部にあり、西に京都・大阪・神戸、東に. 一4一.
(15) は名古屋を中心とする大消費地と近接している。また、北陸地方と京阪 神・中京を結ぶ重要な交通拠点の一つでもある。このように、滋賀県は 京阪神・中京・北陸を結ぶ交通の要衝となっており、流通面での有利性 が認められる。また、歴史的に言えば、滋賀県には「近江商人」と呼ば れる販売力のある商人が存在していたことも見逃せない。これらのこと から、滋賀県の地場産業の発展には「流通」の面が深く寄与していると 考えられる。. 滋賀県には、前述の定義によって検討の対象となる地場産業・産地が. 9つ存在する。その9っの地場産業・産地は滋賀県下全域に散在し、業 種も窯業・土石製品製造業、化学工業(薬晶製造業)、繊維工業、衣服・. その他の繊維製品製造業、一般機械器具製造業、木材・木製品製造業、. 家具・装備品製造業などがあり、完成品や半完成品・中間製品などを生 産している。このように、滋賀県の地場産業は多様である。その多様さ 故に、滋賀県の地場産業を扱う場合はすべての地場産業・産地を研究対 象としなければならない。. 以上のことから、本研究では滋賀県内9つの全地場産業・産地を取り 上げて、各地場産業・産地の存続理由を沿革:・産地の概要・生産・流通. の4つの観点から考察し、それをもとに滋賀県地場産業全体の存続理 由を解明することを目的とする。. 第2節 先行研究 前節で述べたように、地場産業に関する先行研究は、地場産業そのも のを対象にした研究と特定の地場産業・産地を対象にした研究の大きく 二つに分類することができる。まず、地場産業そのものを対象にした研 究の中で、代表的な研究を取り上げる。. 地場産業の定義づけや類型化に視点を置いた研究では、山崎充が『日 本の地場産業』(1977)の中で、地場産業の定義づけや類型化を行うと ともに、社会的分業体制の実態と特徴について分析し、地場産業の抱え る問題点の解明と今後の展望について考察している。. 地場産業の抱える問題点と今後の展望について考察したものとして. 一5一.
(16) は、板倉勝高が『地場産業の発達訂正版』(1984)で、地場産業の重 要性、日本の地場産業の系譜・分布・生産流通体系について論述し、ヨ ーロッパの事例を踏まえて日本の特殊性について分析するとともに、日 本の地場産業の問題点と発展過程、行政による地場産業振興策について 考察している。黄完晟は『日本の地場産業・産地分析』(1997)で、木 製家具産地を事例として取り上げ、円高以降の地場産業・産地の構造変 化を究明するとともに、日本・韓国・台湾の木製家具工業を比較し、産 地の今後の展望について考察している。. 地場産業と地域経済という観点から地場産業の重要性を説き地場産業 と地域経済の振興・活性化について論じたものには、石倉三雄が『地場 産業と地域経済』(1989)で鹿児島の川辺仏壇産地と秋田仏壇産地を事 例として取り上げ、地域経済の振興を図る地場産業の実態把握と分析を 通して、地場産業が国民経済に果たす役割を多元的な視点から捉えてい る。また、続編と考えられる『地場産業と地域振興』(1999)では、イ タリアを事例にして、集中型社会から分散型社会への転換の必要性を説 き、地場産業が地域振興の担い手の一つになるための示唆を与えている。 また、下平尾勲は『地場産業 地域から見た戦後日本経済分析』(1996). で、戦後の日本経済の経過と対応させながら、地場産業の変化と発展に ついて論及し、地回産業や地域の視点から、日本経済の変化とその性格 を明らかにしている。小原久治は『地域経済を支える地場産業・産地の 振興策』(1996)で、地域経済の一端を支える地場産業・産地の振興の 重要性を説き、地域経済の活性化と発展に寄与できる地場産業・産地全 体及び産地中小企業の振興策について考察している。. 次に、特定の地場産業・産地を対象にした研究では、個別の地場産 業・産地を対象にした研究や特定地域内に存する地場産業・産地を対象 にした研究など研究対象の範囲も広く、またその内容も多岐にわたって いる。そこで、ここでは滋賀県の地場産業・産地を対象にした研究に限 定して、その代表的なものを取り上げる。. まず、三哲雨は『信楽陶磁器産地における産地再編成と情報利用』 (1989)で、信楽陶磁器産地における情報利用の実態とその変化にっ. 一6一.
(17) いて考察している。また、宮川泰夫は『城下町彦根における地場産業の. 配置その(1)』(1985)で、城下町彦根に立地するバルブ・仏壇・フ ァンデーションの三つの地場産業を取り上げ、それら地場産業の城下町 彦根における棲み分けと変容の要因を各地場産業の発生の段階、工業構 造の特性、相互の配置関係に注目して解明している。小倉栄一郎は『湖 国の地場産業』(1984)で、滋賀県の各地場産業・産地を概説している。. このように滋賀県の地場産業・産地を対象にした研究は、個別の地 場産業・産地を対象にした研究や滋賀県内の一定範囲内に存する地場産 業・産地を対象にした研究はあるものの、滋賀県の全地場産業・産地を 対象にした研究は概説的なものしかない。また、存続理由に視点を置い た地場産業の研究は皆無である。それゆえに、滋賀県の全地場産業・産 地を取り上げ、存続理由の解明を軸に分析・考察することにより、今後 の滋賀県の地場産業・産地の存続や発展に対して、新しい知見を得、そ して新たな提言を行うことが可能であると考える。. 第3箇 研究の方法 研究の方法は以下に示すとおりである。. 1)滋賀県商工労働部、滋賀県工業技術センター、各産地組合関係者な らびに各産地の事業主三者から聞き取り調査を実施し、また各種資. 料及びその他の文献からの情報をもとに、前述した本研究の4つの 観点から各地場産業・産地を分析・考察する。. 2)1)で得た分析や考察から各地場産業・産地の特徴を整理し、各地 場産業・産地の存続理由を明らかにする。. 3)2)で導かれた各地場産業・産地存続理由の視点から各地場産業・ 産地を位置づけ、さらに滋賀県地場産業全体の存続理由を解明する。. 一7一.
(18) 第1章 滋賀県の地誌1) 滋賀県の各地場産業・産地の分析をするための前提として、まず研究 対象地域である滋賀県について、位置・自然、社会・経済の面から整理 し、その地域の特徴を明らかにする。. 第1節 位置・自然 1.位置・面積 滋賀県は日本列島のほぼ中央に位置し、面積は国土の約1%に相当す. る4,017.4k㎡で、全国第38位、近畿6府県中第4位の広さとなって いる。しかし、琵琶湖を除けば3,347k㎡で、陸地のみでは全国第41 位の小県である。. 県域は、北は福井県、東は岐阜県、南東は三重県、西は京都府と接し、. 日本海側の若狭湾と太平洋側の伊勢湾・大阪湾の湾入によって形づくら れた地峡部に当たる。本県の経・緯度の極点は、次のとおりである。. 極東. 神崎郡永源寺町大字三川. 東経 136度27分. 極西. 高島郡朽木村大宇生杉. 極南. 甲賀郡信楽町大字多羅尾. 北緯 34度47分. 極北. 伊香郡余呉町大字中河内. 北緯 35度42分. 東経 135度46分. 本県は東西約66.6km、南北約101.8kmで、南北に長い。また、地 形と気候との関係から風土の南北性はかなり強い。大津市にある県庁は. 東経135度52分、北緯35度0分で、著しく南西に偏している。 2.地形・気候 滋賀県は日本最大、最古の湖である琵琶湖を中心にして、周囲を伊吹 山地・鈴鹿山地・比良山地・野坂山地・信楽山地(高原)などによって、. ほとんど隙間なく囲まれている。琵琶湖の周辺はこれらの山々から流れ 出る姉川、愛知川、日野川、野洲川、安曇州などの大小の河川が扇状地. や三角州をつくりながら湖に注ぎ、近江盆地を形成している。(図1− 1). 一8一.
(19) 出典:日本地誌研究所編(1976):『日本地誌 第13巻 近畿地方総覧 三重県・滋賀県・奈良県』,二宮書店,p.416に修正・加筆. 図1−1 滋賀県の地形. 一9..
(20) 丘陵・台地・沖積低地の分布は南部や東部では広く、西部や北部では 由地が湖岸に迫っているために狭くなっている。盆地周辺の山々はほと んどが断層山地で、山腹斜面は概して急斜するが、山頂一帯の高さはほ ぼそろっており、極端に高い山や火山はない。. 滋賀県の地形の基本構造は、地盤運動に支配されている。周辺の山々 は地塁山地であり、中央部の低地は地溝または断層角からなる盆地であ る。河谷の形態は、直線的な断層谷と、地塊性山地の急斜面を流下する 短小で急流の渓谷が多く、できた時代が若い後者の河谷沿いでは、豪雨 時などに崩壊を伴う災害が発生することも多い。. また、琵琶湖の湖岸線は概して単調であるが、北岸は湖岸まで山が迫 り、切り立った断崖があるなどして、出入りの多い湖岸線を形成してい る。. 湖に流入した水は、唯一の流出河川である瀬田川より宇治川、淀川と なって京阪神に貴重な水資源を供給している。また、その水資源は琵琶 湖疎水を通じて水力発電に活用されたり、京都市民の大切な飲料水にも なっている。. 本研究では、滋賀県の地域区分を次のように設定した。滋賀県の中 央部にある琵琶湖を基準にして、滋賀県を4つの地域に区分した。つ まり、琵琶湖の南側地域の湖南地域、同様にして北側地域の湖北地域、. 東側地域の湖東地域、西側地域の湖西地域、以上の4地域である。(図 1−2). そこで、気候についてはこの4地域の代表的な市町村の気温と降水 量のデータをもとに述べる。局地的条件によっても、気候は多様に変化 するものであるが、大まかには、それぞれ次のような特徴にまとめられ る。湖南地域は夏に降水量が多く、他地域と比較すると比較的温暖であ る。湖東地域は年間降水量が比較的少なく、寒暖の差が大きい内陸性盆 地の気候を示している。湖北地域・湖西地域は日本海から吹き込む冬型. の季節風の影響により、冬期に雪による降水量が多い(図1−3,表1 −1)。. 一10一.
(21) 0. 10. 麗. 余呉町. 20. ,. /. ㎞. ①. 湖∫ 妹之本町. i ロ. へ. マキノ町. し =、’. r. ∼. θ4. 臓井畷. ’州高月町、〆’ 6.9” 〆. 亀’1 北. 、伊吹町. 、・葡北肱き. \、. \ 芦・て悦姫麟、....へ、 i. びわ瞭. 1’\ ,!・、. \...湖. 1. ’. びハ ノ ちノへで. ). 今津町. グ. 厩. 西浅井. 試亀、て ’“=!\・. 人入,. ” 長浜市. 、\、.新旭町. 1ぐ、 1. 臨. ゆ. !安曇川町{. 朽木村. ’レ9㌦し. し. ’. 07冒曹. コ. ら、’. ,へ 山東町 ’層。\’. 、近江町)・へ、. ㌔、、. 西. 「 1 ・.‘. 高島町. 米原町層\、. 謄. ノ. 彦根市. ン{一’. バ/. 捧賀曳. 努鱒濡癖多㌦. く. 、ヒ、. し. ロ. ロ. ロ. ヘ. ヤ. し. 、、 \置假荘町.ぐ〉へ〆.層くこ」\. 、. 圃流八幡響》べ:興;毒:1:1環 馬、 ノ. ,.、 ζ’. 八日市市\㍉・.、 ノ. 守姉鴇洲町へ’\.へへ控〆永醐 亀・、. 覧. 竜王町 、. 叉 \ ・… (\.,/へ、ノ ロ ロ. らやぐ う ゆ. }驚生町 ∼ ら. らヤ. 鞭市㍉・、宕瞬 1、. 日野町. 、.. ∼. ’㌧遜蕨1禰(水。嘉. 櫛癖八ゾズ湾:ご. …’. へ. ρ・曹讐∼. ノ. ロ. /. び. ダグ. ご 〆7ら9/. マ. ド. ㌧隔. ノ. ’・ 甲南町 ご. 、、南. 〉甲期. 信楽町. 出典:筆者作成. 図1−2. 滋賀県の地域区分. 一11一. 土山町. ! ㌦’.、.へ、. 、も.
(22) 雨温酒(湖南地域・大津) mm 600. ℃ 30. 600. 30℃. 25. 500. ll. 20 15. 400 300. 10. 200. 5. 100. 500 400 300. ‘. 200. 100 0. 雨温図(湖北地域・虎姫). mm. 0. 措 茸. 0. 123456789101112. 123456789101112. (月). (月). 雨温図(湖東地域・蒲生). mm @. ・. 600. 30. ℃. 雨温図(湖西地壊・今津). mm 600. 500. 25. 500. 400. 20. 400. 300. 15. 300. 200 100. 10 5. 2∞ 100. 0. 0. ll 鴛. lo. 0. 123456789101112 (月). O. 123456789101112 (月). 出典:滋賀県企画部情報統計課(1998):『平成7年度滋賀県統計書』 より筆者作成. 図1−3 4地域の代表的な市町村の雨温図. 表1−1 4地域の代表的な市町村における 最高気温・最低気温・降水量・積雪日数. 間降 里. 1607mm 1576mm 1797mm 2040mm. 大津 蒲生 虎姫 今津. 積雪日 9E1. 12日 35日 44日. 出典:滋賀県企画部情報統計課(1998):『平成7年度滋賀県統計書』 より筆者作成. 一12一. ℃’.
(23) 第2節. 社会・経済. 1.人口. 人口は1,287,005人(平成7年10,月1日現在)で、全国で第31位 である。しかし、平成2年と平成7年を比較した人口増加率は5.3%で あり、5.5%の埼玉県に次いで全国第2位である。また、平成10年10. .月1日から平成11年9月30日までの1年問の人口動態をみると、出 生が14,265人、死亡が9,353人であるので、4,912人の増加となり、. 県外からの転入が38,790人、県外への転出が33,684人であるので、 5,106人の増加となって、全体では10,018人の人口増加となっている。. 次に、産業別就業者数をみる(図1−4)。平成7年では就業者数は. 全体で654,947人となっている。その内訳は第1次産業就業者数が 33,047人、第2次産業就業者数が267,257人、第3次産業就業者数が 352,168人、分類不能の産業就業者数が2,475人となっている。第2次. 産業就業者の内、地場産業を含む製造業に携わる就業者数は209,639 人で、就業者全体の32%を占めている。. ロ第1次産業 画面2次産業 国第3次産業 □分類不能. 0覧. 20瓢. 40瓢. 60瓢. 80覧. 100%. 出典:滋賀県企画県民部情報統計課(1999):『滋賀県県勢要覧平成11年版』,. 滋賀県統計協会,152p.より筆者作成. 図1−4 滋賀県の産業別就業者数の割合. 2.経済・産業. 図1−5は国民総生産の中から産業分のみを抽出し、産業別にその 割合をグラフにしたものである。それによると、第1次産業は減少の 一13一.
(24) 一途をたどっていること、高度経済成長期は第2次産業が全国的に大. 躍進を遂げたこと、高度経済成長期以後は第2次産業から第3次産業 へと比重が変化してきたことがうかがえる。また、国民総生産(産業分). に占める製造業の割合は昭和40(1965)年で27.7%、昭和50(1975) 年で32.3%、昭和60(1985)年で3L4%、平成7(1995)年には26.2% となっている。 (年). S40 S50. 団第1次産業 舷窓2次産業 囲第3次産業. S60 H7 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 100%. 出典:経済企画庁:『国民所得統計年報(昭和42年版)』及び経済企画庁. 経済研究所『国民経済計算年報(平成11年版)』より筆者作成. 図1−5 国民総生産(産業分)の産業別推移 しかし、滋賀県では高度経済成長期以後も第2次産業が主力となっ ている。そのことは図1−6から読み取れる。図1−6は昭和40(1965) 年の高度経済成長期から10年ごとに県内総生産の産業別割合を示した ものである。これをみてもわかるとおり、第1次産業の占める割合は年々. 低下しており、第2次産業、第3次産業の占める割合が増加している。. 第1次産業の割合が低下していることは国全体と共通している。しか し、第2次産業、第3次産業の占める割合の推移は国全体とは異なっ ている。国全体では第2次産業からさらに第3次産業への割合が増加 しているのに対して、滋賀県では第2次産業の占める割合が高い。特 に、第2次産業は昭柏60(1985)年には県内総生産の60.7%を占めて いる。また、県内総生産に占める製造業の割合は昭和40(1965)年で. 一14一.
(25) 32.8%、昭和50(1975)年で36.9%、昭和60(1985)年で52.8%、 平成7(1995)年少し減少したものの、48.7%を占めている。 (年). S40. S50. 臼第1次産業 囲第2次産業 屈第3次産業. S60. H7 0傷. 20%. 40%. 60%. 80%. 100%. 出典:滋賀県企画県民部情報統計課:『滋賀県統計書』(各年度版). より筆者作成. 図1−6 県内総生産(産業分)の産業別推移 平成8年の県内総生産額は58,813億円で、全国で第24位である。 平成8年の県内総生産の産業別割合をみると、第1次産業は1.1%、第 2次産業は54.5%、第3次産業は38.4%となっており、やはり第2次 産業の割合が高くなっている。とりわけ、製造業は県内総生産全体の 45.1%を占めており、本県の主要産業となっている。また、県内総生産. に占める第2次産業の割合は、全国第1位となっている。このように 国全体と比較しても、滋賀県は第2次産業の割合が高く、第2次産業 の中でもとりわけ地場産業を含む製造業の割合が高くなっていることが わかる。. また、滋賀県の一人あたりの県民所得が全国平均を上回ってきたの は昭和50年代後半頃からであり、平成8年度には一人あたりの県民所 得は3,557,000円となり、東京都、愛知県に次いで全国第3位となっ た。これは昭和50年代から大手電気機器メーカーや輸送機械メーカー. 。15一.
(26) などの従業員一人あたりの付加価値が高い製造業の業種が滋賀県に進出 し、その生産が軌道に乗ってきたことに起因している。なお、大企業が 滋賀県に進出してきた背景として滋賀県の交通面における利便性、流通 面での有利性が指摘できる。. 3.近江商人2). 近江商人とは近江国(現在の滋賀県)を在所としつつも、活動地域を 日本全国に求め、広域に展開する商人のことをいう。近江国出身で、近 江国内のみで商業に従事していた商人は地商いと呼ばれ、区別されてい た。. 近江商人もその出身地域によって、八幡商人、高島商人、日野商人、 湖東商人、犬上郡・坂田郡の商人の大きく5つに分類される。. まず、江戸時代初期から活躍していた近江商人は八幡商人と高島商人 である。八幡商人は麻布・蚊帳・畳表を主に扱い、京都、大坂、江戸や 東北地方にまで出店し、進出した。そして、琵琶湖を通じて臼本二三の 小浜や敦賀とつながりのあった八幡商人と湖西の高島商人は、蝦夷地(北 海道)や奥羽地方へ渡り、その地の新たに造られた城下町に出店を設け、. 中心的商人となった。また、高島出身の呉服問屋は高島地方に綿織物産 地を形成させ、京都と東北地方に出店し、呉服で成功した。. 八幡商人と高島商人に少し遅れて日野商人が活躍する。日野商人は漆 椀・売薬・帷子・小間物等の特産品を持って行商した。ほとんど全国に 店を設け、出店の数も多かった。しかし、中心は畿内から関東の範囲で あった。. 江戸時代後期から末期にかけて、神崎郡五個荘町を中心に能登川町、 愛知郡の愛知川沿いから出た湖東商人が現れる。湖東商人の活動範囲は 松前から四国・九州に及び、特産の麻布等の近江国内産物の持下り行商 に始まり、綿関係品や絹布・生糸・麻・紅花類の産物廻しの商法によっ て富を築いた。そして、湖東商人の出店開設は明治維新以降が大部分で ある。. 犬上郡・坂田郡出身の商人は幕末以後に活動している。犬上郡出身の. 一16一.
(27) 商人は湖東商人の系統に属し、麻布・呉服を取り扱った。坂田郡出身の 商人は長浜縮緬や肥料を取り扱っていた。. このように近江商人が現在の滋賀県地場産業成立期に生産していた製 品を取り扱っていたことは,近江商人と地場産業の流通面との関わりの 深さを示している。 X劇道. 一嗣一. 栃ノ木蝕. x 峠.舷 。’ h 駅. 越 前. 美. 薯. レし。. 9 之本 濃. 〈. 劇・メ 要 ド}\ノ. ’. 道 部 臨. ノρ ハてし. 劇1卜、 春. 市場. 鰐接. 誰=. 丹ぐへ. 波いタ {. デ. 本 ψ黄 童近 菊江. 鰍 1・. 漁豪. 根蟹井≧. 琶. ぐ!r ノ. 図 ぐ. ・惇.. 御,♂. 劉. 富. ll. も、、. ぎ. ■. 彩釜●倉. ノ本緊’. 糖. 誉穴. .毒 生. 紬田. 杢’. 移 尺B市. 御. メ. 忌. ∫ 田. 田. 享. !. * 爵. 山. 伊. 勢. 鱒. 城. 出典:日本地誌研究所編(1976):『日本地誌 第13巻 近畿地方総覧. 三重県・滋賀県・奈良県』,二宮書店,p.412より抜粋. 図1−7 滋賀県における近世のおもな街道、港、峠越え 港は丸子以上の船のある港、彦根・膳所藩領を除く。. 一17一.
(28) また、これらの近江商人が発祥した要因の一つとして、全国規模で商 業を展開していく上で近江国(滋賀県)の位置が有利であったことが挙 げられる。つまり、図1−7に示すとおり、近江国(滋賀県)には京都・ 大坂や江戸(東京)に通じる幹線道路である東海道や中山道、北陸地方 に通じる北国街道があり、それらの主街道につながる脇街道も張り巡ら されている。また、琵琶湖の湖上交通と諸街道によって日本海側の敦賀 や小浜の港に通じ、奥羽・蝦夷地(北海道)ともつながっていた。この ように、近江国(滋賀県)における流通面での有利性が近江商人の発祥 ならびに活躍に寄与していた。. 注. 1)本章を論述するにあたっては、次の文献を参考にした。 滋賀県企画県民部情報統計課編(1999):『滋賀県勢要覧』,152p. 2)この項を論述するにあたっては,次の文献を参考にした。 末永國紀(2000):『近江商人』中央公論新社,238p.. .18一.
(29) 第2章 滋賀県地場産業の概要 本章では、産地数、産地形成時期、企業数、従業員数、生産額の点か ら、まず全国の地場産業を概観し、地場産業全体の全国的な傾向を明ら. かする。その上で、滋賀県地場産業の全9産地について、分布状況、業 種別構成、地域経済に果たす役割の点から滋賀県の地場産業の位置づけ を明らかにする。. 第1節. 全国の地場産業の概要1). 1.産地数、産地形成時期 産地数を業種別にみると、「繊維」が全産地の23.2%と最も割合が高 く、以下「木工・家具」が全産地の14.9%、「食:料品」が全産地の14.7%. 等の順になっており、軽工業分野が中心である。. また、地域別にみてみると、関東地区が148産地と最も多く、続い. て近畿地区の105産地、中部地区の81産地となっている。この3地区 の産地数の合計は全産地数の61.4%を占める。これら3地区の地域的 な業種の特徴としては、3産地ともに全国の状況と同様に「繊維」が最 も多い。. 産地の形成時期では、江戸時代又はそれ以前が全体の35.1%と最も 多く、次いで、明治時代が同28.1%、そして、第二次世界大戦後が同 22.1%となっている。. 2.企業数、従業員数 平成10年度の産地における企業総数は66,219企業、従業員総数は 667,358人である。業種:別では「繊維」が最も多く、企業数では全体の. 37.7%、従業員数では全体の22.9%を占めている。なお、他地区と比. 較して近畿地区の「繊維」は産地数こそ第3位であるが、企業数・従 業員数はともに他地区を圧倒的に抑えて第1位である。また、「繊維」. 関係の企業が近畿地区内の全地場産業企業数の52.5%を占め、従業員 数でも近畿地区内の全地場産業従業員の32.9%を占有している。した. 49一.
(30) がって、近畿地区の地場産業の特徴として、「繊維」の果たす役割が大 きいことが指摘できる。. 地域別の企業数では、近畿地区に22,766企業、関東地区に14,794. 企業、中部地区に12,772企業が存在し、これら3つの地域で全体の 76.0%を占めている。前述のとおり、産地数では近畿より関東の方に多 くの産地が存在しているにもかかわらず、企業数では関東より近畿の方 が多くなっている。. 次に、従業員規模別企業数をみると、従業員数5人以下の企業が全. 体の62.7%と最も多く、従業員数20人以下の小規模企業は全体の 85.6%もの割合を示している。このことは中小・零細企業によって地場 産業・産地が構成されていることを示している。各業種における従業員 数20人以下の企業の占める割合をみると、「衣服・その他の繊維製品」 の69.8%を除いて、他のすべての業種で70%を超えている。特に、「繊 維」は9L8%、「木工・家具」は90.0%と高い割合になっている。. また、企業形態別企業数をみると、独立メーカーが47.6%、下請関 連企業が40.3%、製造卸の企業が8.1%、卸売業が4.0%となっている。. 業種別にみると、独立メーカーが多い業種としては「食料品」(独立メ ーカーが91.0%)、「窯業・土石」(同85.6%)、「木工・家具」(同 63.7%)が挙げられる。一方、下請関連企業の多い業種としては「繊維」 (下請関連が65.3%)が指摘できる。. 3.生産額 平成10年の全国の産地の総生産額は11兆7,050億円であった。業 種別では「衣服・その他の繊維製品」が最も多く2兆4,279億円(全 体の20.7%)、次いで、「繊維」が2兆633億円(全体の17.6%)、「食. 料品」が1兆9,414億円(全体の16.6%)の順になっており、上位2 業種は繊維産業で占められている。. 地域別にみると、関東の産地が3兆809億円で、全体の26.3%、近 畿の産地が2兆5,960億円で、全体の22.2%を占めている。このよう に、関東と近畿の産地で全産地の生産額の約50%近くを占有している。. .20一.
(31) 4.まとめ 日本の地場産業は、繊維産業を中心にして軽工業が主力となってい る。地場産業・産地は東京を中心とする関東地区、名古屋を中心とする 中部地区、大阪を中心とする近畿地区に多く集積している。そして、そ の地場産業・産地は中小・零細企業によって構成されている。特に、「繊. 維」や「木工・家具」でその割合が高い。また、企業形態は業種によっ て違いがあるが、全体的には独立メーカーや下請関連企業の割合が高く、 それに比べると製造卸業や卸売業の割合は極端に低くなっている。. 産地の形成時期では、江戸時代又はそれ以前に形成された産地は、 明治時代に形成された産地や第二次世界大戦以後に形成された産地より も多い。. 第2節 滋賀県地場産業・産地の概要 1.分布状況. 現在滋賀県に立地する9つの地場産業・産地の分布状況は図2−1 に示したとおりである。このように滋賀県において地場産業・産地が県 下全域に散在していることがわかる。. 地域区分別にみると、湖南地域に2産地、湖東地域に4産地、湖北 地域に1産地、湖西地域に2産地となっており、湖東地域に多く集積し ている。特に、湖東地域では彦根市に3産地が集中している。業種別で は繊維工業が最も多く、湖東麻織物産地(湖東地域)、長浜縮緬産地(湖. 北地域)、高島綿織物産地(湖西地域)の3産地が存在する。その他の 業種はそれぞれ1産地で、窯業・土石製品製造業の信楽焼陶器産地(湖 南地域)、化学工業の甲賀・日野薬産地(湖南地域)、衣服・その他の繊. 維製品製造業の彦根ファンデーション産地(湖東地域)、一般機械器具 製造業の彦根バルブ産地(湖東地域)、木材・木製品製造業の高島扇骨 産地(湖西地域)、家具・装備品製造業の彦根仏壇産地(湖東地域)と なっている。. 一21一.
(32) 0. 10. 20 k皿. ノ. !. 闘. !. ①. ’ ,. ’. 、. k !. ノ. ’. ’. へ }イ r“. ノ. ’ ノ. ’、. 一. ’、. ’. 、. r鞠. ’. ノ. 、. }、. ノ’. ノ、. ノ 1 、’. 、. \. ザ. 貞、」 、 、、,ノ、 ’\」. ゆ 、_一い、ご、、. ノ\1. 琵. 》、■高島身骨産地. 琶. ,’. ’. x諭磁. !. ■長浜緬謡 ノ、 ’. 、 4 、 、げ〆》つ. 湖. 》一 @. ’一 @、. 鴨》. !、 (. 、. 》. 1 、、 、 ノ. 亀. 、. 、. !. ノ. !. 祖バル蹴 ■講甥一シ。ン産地. ♪ げ」. ρ. へ へ. ! 、. 、. 1ぞ響讐\〔 1. 、、. 、、. 、. や!. r}一、. 、 、. ◎大津. 、、. り. ヘ. ’!. ゴ. \八・」、 、. 、 1. !. も. リ. 1. 価ンー τ ㌔噛、 乳. 、 ヘ. イー. 1、 !、. 〆、. @ 、. 、. 、 ,. ! 》 一グへ㍉・ 、 !一 !. 、r. 、ビ、・、ご\ン ノ. ノ 、、ノ、L、. 、. 一、レ、 ,!. 2ゾノ\一ノ1一ノ. ミ 1、λ・、 く. 、 一. 、. ’. ’ 、. 、、. ヘ. 、 ^. 、. ’. , 、. 、! ■!. リ. 匙 一. !. ノ. 、’一 覧. !’v、\ の !. も、. ノ. 1■甲賀丁融継地. ♪ノ. ■信楽焼陶器産地. 曳、. 出典:筆者作成. 図2−1 滋賀県地場産業・産地の分布. 一22一.
(33) 2.業種別構成. 平成10(1998)年における滋賀県の地場産業は企業数659社、従業 員数8,638人、生産額1,194億円となっており、県下の製造業における 地場産業の割合は、企業数16.4%、従業員数5.4%、生産額1.9%とな っている。. さて、滋賀県の地場産業を繊維・衣服、木工・家具、窯業・土石、機 械・金属、雑貨・その他(化学を含む)に大別し、その割合を示したも. のが表2−1と図2−2である。 表2−1 滋賀県地場産業の業種別企業数・従業員数・生産額 生産額. 従業員数企業数. (億円) (人) (社). 繊維・衣服. 510 2974. 48. 769. 124 290. 83. 1227. 157. 1350. 51. 雑貨・その他. 222. 2318. 294. 74. 出典:現地聞き取り調査及び滋賀県商工労働部(2000):『滋賀県の商工業 平成11. 年版』より筆者作成. 企業数(社). □繊維・衣服 ロ木工・家具 従業員数(人). 囲窯業・土石 ■機械・金属. Z雑貨・その他 生産額(億円). 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 100%. 出典:現地聞き取り調査及び滋賀県商工労働部(2000):『滋賀県の商工業 平成11. 年版』より筆者作成. 図2−2 滋賀県地場産業の企業数・従業員数・生産額の業種別割合. 一23一.
(34) 企業数では繊維・衣服で44.6%と最も高く、続いて窯業・土石、木 工・家具、雑貨・その他、機械・金属の順となっている。従業員数でも やはり繊維・衣服が筆頭で34.4%と高い割合を示している。以下雑貨・. その他、機械・金属、窯業・土石、木工・家具と続いている。生産額で. は繊維・衣服が42.7%を占め、続いて機械・金属、雑貨・その他、窯 業・土石、木工・家具の順となっている。. このように業種別では企業数、従業員数、生産額ともに繊維・衣服の. 割合が高くなっている。これは、滋賀県の全地場産業9産地の内、繊維. が3産地、衣服が1産地あり、滋賀県の全地場産業・産地数のおよそ半 分を占めているからである。また、木工・家具は企業数の割に従業員数、. 生産額ともに低くなっている。これは木工・家具に属する彦根仏壇産地 では仏壇の製造工程が分業化されているために、小規模・零細企業が多 くなっていることに起因する。. 3.地域経済に果たす役割 各地場産業の主要産地における生産額、その地域の全製造品出荷額及 び全製造品出荷額における地場産業生産額の占有率を表したものが、表. 2−2である。これによると、綿織物の主要生産地として知られる新旭 町及び陶器産地として有名な信楽町では、全製造品出荷額における地場. 産業製造品出荷額の占有率が40%以上の高率となっている。また、麻 織物産地の能登川町、薬産地の甲賀町、バルブ・仏壇・ファンデーショ ンの産地である彦根布では20%前後、縮緬の産地である長浜市、扇骨・ 綿織物の産地の安曇川町では10%を超えるシェアとなっている。. 従業者数については表2−3に示したとおりである2)。信楽町や甲賀. 町ではその地域の製造業全従業者における地場産業従業者の占有率が 50%を超える数値となっている。新旭町では綿織物関係の従業者がその. 地域の製造業全従業者の44.7%、能登川町では麻織物関係の従業者が 37.8%を占めている。彦根市ではバルブ、仏壇、ファンデーションの地. 場産業従業者の合計がその地域の製造業全従業者の27.2%となってい る。また、長浜市や安曇川町でも地場産業従業者の割合は15%前後と. .24..
(35) なっている。. 表2−2 製造品出荷額における地場産業が地域経済に占める割合 (単位:万円). 主要地域の主要地域 製造品目 主要地域名地場産業製の全製造占有率 造品出荷額品出荷額 信楽町. 陶器. 40.0% 18.5%. 麻織物. 21.6% 15.6%. 仏壇 フアン丁一 ション. 彦根市. 1.9%. 彦根市. 0.7%. 長浜市. 10.7%. 綿織物. 44.0% 7.8%. 扇骨. 安暴川町. 2.3%. 出典:滋賀県企画県民部情報統計課(1999):『平成9年工業統計調査結果報告書』. より筆者作成. 表2−3 従業者数における地場産業が地域経済に占める割合 (単位=人). 主要地域の 主要地域の 製造品目. 主要地域名. 陶器 薬 麻織物 バルブ 仏壇. 信楽町 甲賀町 能登川町 彦根市 彦根市. プアンデー. @ション 縮緬 綿織物 扇骨. 彦根市 長浜市 新旭町 安曇川町 安曇川町. n場産業 ]業者数. 占有率 @製造業 S従業者数. 1,073. 1,996. 53.8%. 1,051. 1,914. 54.9%. 805. 2,130. 37.8%. 2278. 11,683. 19.5%. 376. 11,683. 3.2%. 530. 1t683. 4.5%. 1,392. 8,654. 16.1%. 816 156 39. 1,824. 44.7%. 1,383. れ.3%. 1,383. 2.8%. 出典:滋賀県企画県民部情報統計課(1999):『平成9年工業統計調査結果報告書』. より筆者作成. 一25一.
(36) ただし、統計上現れる数値は前述したとおりであるが、高島扇骨産地 や彦根ファンデーション産地では、聞き取り調査から内職従事者が多数 存在していることが判明している。それらの内職従事者を含めれば、高 島扇骨産地や彦根ファンデーション産地の従業者の裾野は広がり、その 地域の製造業全従業者に対する地場産業従業者の割合はさらに高くなる。 これらのことから、滋賀県において地場産業は地域の経済を支える柱の 一つとなっていることが多く、雇用面でも地域に労働市場を提供すると いう重要な役割を果たしていることがわかる。. 注. 1)全国の地場産業の概況を論述するにあたって、下記の文献を参考・ 引用した。 ・中小企業庁(1999):『全国の産地平成10年度産地概況調査結果』,. 124p. ・中小企業庁(2000):『全国の産地 平成11年度産地概況調査結果』,. 134p. 2)その地域の従業者数を抽出するにあたって、各地場産業・産地の地 域別従業者数の正確な資料が存在しないために、工業統計調査結果 報告書の数を用いた。. 一26一.
(37) 第3章滋賀県各地場産業・産地の現状 本章では、各産地の存続理由を究明するための基礎資料を構築する。. 具体的には県下の全地場産業の9産地に関して、沿革、産地の概要、 生産工程、流通の4っの観点について、産地組合関係者や企業経営者 等への聞き取り調査、関連文献・資料をもとにその実態を明らかにする。. なお、現地調査は1999年7,月、8,月、12月、2000年1,月、2月、8 月に行なった。. 第1節 信楽焼陶器産地. 1.沿革D 信楽は1250年の歴史を誇る伝統ある産地で、その始まりは奈良時代 の天平14(742)年聖武天皇が紫香楽宮を造営されたとき、宮造営用 の瓦と東大寺大仏鋳造用の増蝸を作ったことが始まりとされる。その後、 一時衰えたが、鎌倉時代中期の焼物隆盛期に再び盛んに生産され、瀬戸・. 常滑・越前・丹波・備前とともに、日本六古窯と呼ばれる焼き物産地の 一つとなっている。. 信楽で生産される焼き物は時代とともに変化してきた。鎌倉時代には 農耕用の種壷や水がめなどの素朴な焼物が作られた。室町時代・安土桃 山時代には茶陶器が生産され、江戸時代中期には穴窯から登り窯への移 行により、茶壷や日用雑器類(梅壷、味噌壷、L ソ利、土鍋等)が大量生 産された。. 明治時代になると、西洋文明の流入により、金属製日用雑器によって 陶製品がその中心的地位を失うとともに、信楽全域に展開していた窯場 も、信楽町長野地区を中心とした大物焼成窯に集約されるようになった。. こうして、主要製品であった茶壷が金属缶やガラス瓶の出現により不振 となったため、製糸用糸取鍋、便器、醸造瓶、火鉢などの大型陶器が生 産されるようになった。特に火鉢は、「海鼠紬(なまこゆう)」と呼ばれ. る紬薬や石膏型などの開発により、他産地に追随を許さないほどに隆盛. を極め、昭和30年頃まで全国需要の90%以上を生産し、信楽焼の主要. 一27一.
(38) 製品となった。しかし、昭柏30年代半ばから生活様式の変化ならびに 高度経済成長期におけるエネルギー転換によって火鉢の需要は激減した ため、植木鉢に製品転換するとともに、建築ブームに乗ったタイルの生 産を手掛け、その他にも庭園陶器(傘立て、テーブルセット、燈篭等)、. 花瓶、食器、置物(狸、蛙、干支等)などを生産し、現在は主流製品の ない多様化の時代に入っている。. 生産工程においても時代とともに変化が見られる。薪を燃料とする登 り窯から重油を燃料とする単独窯さらにはトンネル窯へと変化し、現在 では電気窯、ガス窯が普及して、製品が効率的、省力的に生産できるよ うになった。. そして今日、信楽焼陶器産地は、原料から製品までの加工・製造の一 貫体制と産地内に製品の流通を担当する産地問屋を持つ産地となってい る。. 信楽焼の知名度の向上、伝統文化の再評価、小学校における地場産業 学:習の充実などにより、創作や見学のために信楽町を訪問する人々も 年々増加している。また、陶器祭りなどのイベントや陶芸の森やそれに 付属する施設の充実、自動車交通の発達も加わり観光客も増えている。. 2.産地の概要 産地の規模は信楽陶器工業協同組合によると、平成10年では製造業 の企業数が約200社(内組合加入企業168社)、従業員数が1,116人(組. 合加入企業分のみ)、出荷額が124億7872万円となっている。. 当産地の産地問屋は約77社存在する。その内訳は信楽陶器卸商業協 同組合加盟の業者が57社、アウトサイダー企業(組合未加入の企業) が約20社である。この組合加盟業者の内3∼4社が製造卸業者であり、. 組合加盟業者57社中50社が小売も行っている。また、当産地の産地 問屋は従業員数20人以上の大規模な企業は3∼4社しか存在せず、従 業員数5人以下の小規模な企業が90%以上を占めている。そして、小 規模な企業は夫婦もしくは両親と息子という家族内労働の形態が主とな っている。. 一28一.
(39) 産地の全国に占める平成9年のシェアは企業数3.6%、従業員数1.5%、. 製造品出荷野畑1.3%である。ただ、植木鉢や庭園用品等については 19.6%のシェアを占めている。 (千万円・人)1800. 1600 1400 1200 葉000. 800 600 400 200. (社). 162 董61. 桑. 160. ・ A ▲. 159. A. 158. 、職 ノ. ×. ≧・・▲. 157 156. 0. 155. 元23456789船 (年). 一ロー生産額+従業員数…告・・企業数 出典:滋賀県商工労働部:『滋賀県の商工業』,各年度版より筆者作成. 図3−1 信楽焼陶器産地における平成元年から平成10年までの 企業数、従業員数、生産額の推移. 当産地における平成元年から平成10年までの企業数、従業員数、生 産額の推移(図3−1)をみると、企業数、従業員数ともにほぼ横這い 状態である。また、従業員規模別企業数をみると、従業員数5人以下の 企業が全体の71.3%となっており、規模の小さい企業の割合が高い。. なお、従業員数6∼20人までの企業は21.0%であるので、従業員数20 人以下の企業数は全体の92.3%にも上る。. 生産額は、バブル景気崩壊以後も平成3年世界陶芸祭の開催などを通. じて順調な伸びを示していたが、平成4年をピークに減少傾向をたど り、平成8年から少し盛り返したものの、平成10年には減少している。 次に、現在の代表的な製造品目である植木鉢、インテリア・エクステ リア、花器類、建材、食卓用品について、その生産額の推移(図3−2) から、各品目の特徴を述べる。. 一29一.
(40) (百万円). 10000. 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000. 0. 元2345678910(年) 一植木鉢 …観珊」] 一. ・花器. [ 。一食卓用品. 出典:滋賀県商工労働部:『滋賀県の商工業』,各年度版より筆者作成. 図3−2 信楽焼陶器産地の製造品目別生産額の推移. (1) 植木鉢. 昭和58年の25億円をピークに、平成4年までは20億円台の生産額 を維持してきたが、平成5年以降生産額はさらに減少し、平成7年に は11億5千万円(ピーク時の46%)まで落ち込んだ。これは、「プラ スチック製植木鉢の普及、ならびに輸入品(イタリア、スペイン、イン ドネシア、フィリピンなどより)の増加が大きな原因である。また、不 況により観葉植物をレンタルする企業が減少したことに比例して、観葉 鉢の需要も減少した」((有)丸伴工場社長、松本伴嗣一年。以下、「松 本氏談」と略記)ことが要因の一つに挙げられる。. しかし、ガーデニングブーム到来により、植木鉢やプランターの生産 が増加したことで平成8年以降生産額が少し上向き傾向にある。 (2) インテリア・エクステリア. 平成5年の24億7千万円をピークに減少傾向にある。この部門の主 力製品である傘立ても平成5年をピークにして販売が停滞している。 (3) 花器類. 平成5年の生産額13億4千万円のピーク時まで着実に伸ばしていた. 一30一.
(41) が、それ以降減少傾向にあり、百貨店等のギフト商品の不振により、平. 成9年にはここ10年間で最低の11億円を切るところまで下げている。 (4) 建材. 建材は昭和57年から当産地の品種別生産額第1位で、産地の構成比 では最大となっている。. 平成4年には93億円を越える生産額を記録したが、これをピークに 減少し始め、平成8年には75億6千万円(ピーク時の81.2%)となっ た。平成9年には80億円台まで盛り返したが、これは特別な事情によ るものである。すなわち、「当産地内で建材を中心に製造している企業 が淡路島に会館を建設することになり、その会館を建設するにあたって 信楽の建材を大量に利用したため、一時的に増加したものである。その ため、全体としては今後も減少傾向にある。」(信楽窯業技術試験場 福 村哲専門員談。). バブル景気崩壊後も生産額が順調な伸びを示したのは、信楽焼のタイ ルが住宅等の建設工程でも後半部で使用される外装用タイルとして用い られるため、バブル景気時代に建設された住宅の外装用タイルの受注が 平成4年ぐらいまであったことによる影響と推測される。 (5) 食卓用品. 着実に生産額を伸ばし、平成8年には21億円近くまで生産額を伸ば し、平成9年も20億円台を維持している。. 3.生産 信楽焼陶器は大まかには図3−3に示す①∼⑨の工程を経て、製品と なる。. ①原 土→ ②粉 砕 → ③陶 土 → ④成 形→ ⑤乾 燥. ↓ ⑨製 品 ← ⑧本 焼 ← ⑦施 紬 ← ⑥素 焼 出典:滋賀県立窯業技術試験場から提供された資料より作成. 図3−3 信楽焼陶器製品の生産工程. 一31一.
関連したドキュメント
「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー
大阪府中央卸売市場加工食品卸売商業協同組合こだわり食材市場 小売業.
石川県カテゴリー 地域個体群 環境省カテゴリー なし.
地域 東京都 東京都 埼玉県 茨城県 茨城県 宮城県 東京都 大阪府 北海道 新潟県 愛知県 奈良県 その他の地域. 特別区 町田市 さいたま市 牛久市 水戸市 仙台市
360 東京都北区個店連携支援事業補助金事業変更等承認申請書 産業振興課商工係 361
京都 滋賀 大阪 奈良
② 現地業務期間中は安全管理に十分留意してください。現地の治安状況に ついては、
専門は社会地理学。都市の多様性に関心 があり、阪神間をフィールドに、海外や国内の