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主題学習再考 : 世界史学習論の批判と創造(2)

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(1)

社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第12号 2000(pp.1−8)

主題学習再考

と創

(2)

Reconsideration of the Thematic Approach m History Education:

A Critique of

a Theory of Studying World History

(2)

1 

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(兵庫教育大学)

本社会科教育研究会『社会科研究』25号, 1976, 78-84頁) ○藤井千之助匚歴史教育論攷(2)一歴史教育にお ける主題学習についてー(」『広島経済大学研究 論集』13巻3号, 1990, 9-35頁) ○宮崎正勝匚中等社会科教育における主題学習と エクセムプラリッシュ方式」(『北海道教育大学 教育実践研究指導センター紀要』14号, 1995, 卜n頁) 内野論文は,主として指導計画作成における主 題学習と通史学習との関連を論じたもので,主題 学習を通史学習の後に位置づける方法と通史学習 の中に組み込む方法の2類型を示し,それぞれの 主題設定の基準を考察した。河合論文は,主題学 習に関する研究と実践の歩みを整理しつつ,大き く3つの問題点一主題学習の位置付け,自己展開 学習や発表学習との異同,通史学習との関連−を 指摘した。また,藤井論文は,指導要領の改訂に 伴い教科書での主題の取り上げ方がどのように変 化したかを分析するとともに,歴史的思考力育成 の吼曵から,主題は疑問文の形で示すべきことを 説いた。さらに宮崎論文は, 1950年代の旧西ドイ ツで定式化された範例方式の理論と方法を踏まえ て主題学習を再編すべきことを説き,厂アフリカ 分割」を事例にそ。の展開モデルを示した。 いずれの論考も本研究に示唆するところは大き いが,主題学習の問題状況を分析した河合論文は 四半世紀も前のものだし,内野,藤井両論文は一 面的な考察に留まっている。また,宮崎論文も今 なぜ再び範例方式なのか,提示された展開モデル を見ても説得力は弱い指導要領における主題学習の成立と変容を歴史的。そこで,本研究ではまず 1−

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2 成立期の主題学習 (1)主題学習の誕生 既述の通り,主題学習は1960年版の「世界史B」 から始まった。この指導要領では,世界史と地理 に標準3単位のA科目と4単位のB科目が設けら れたが,世界史の場合,AB両科目は目標・内容 ともほぼ同じであり,違いはただ主題学習の有無 にのみあった。因みに「世界史B」では,内容の まえがきに次のように示された。 世界史Bは,世界史Aの場合よりも深めて 取り扱うものとするが,その際たとえばシル クロードと東西交渉,イギリスの議会政治の 発達,西部開拓と南北戦争,露土戦争と列強 の世界政策,ワイマール体制とその崩壊など のような適当な主題を選び,政治的,経済的, 社会的な観点から総合的に学習させる。それ によって,歴史的思考力をいっそうつちかう ことをあわせ考慮するものとする。 ここでは,まず事例として挙げられた5つの主 題が注目される。いったい,いかなる根拠に基づ いてこれらの主題が選択されたのか。『学習指導 要領解説』(以下,解説書と略称)(好学社, 1961) には,主題選択の基準として以下の3点が示され ている(122-123頁)。 O「倫理・社会」や「政治・経済」の学習と関 連の深いもの。 ○政治的,経済的,社会的な観点から総合的に 学習できるもの。 ○できるだけ世界の地域相互のことがらに関連 のあるものO だが,これらの基準を全て満たすことが必要な −2− のか,それともどれか1つに該当すればよいのか は不明である。仮に後者であるとしても,5つの 事例がどの基準から選択されたのかは明らかにさ れていない。そもそも,これらの中で説得力のあ るのは第3の基準だけだといってよい。なぜなら, 第1の基準は具体性を欠くし,第2の基準は指導 要領にも示されているように,主題学習の方法を 意味しているからである。そこで,5つの事例を もとに推測すると,いずれも歴史学的に見て重要 な主題一事例順に内陸アジア史,イギリス史,ア メリカ史,帝国主義期の国際関係史,ドイツ史の 主題−であること,地域世界ごとの通時的学習で は扱いにくい大きな主題であること,といった共 通項が浮き彫りになる。 次に注目されるのは,主題の取扱いの方法とし て総合的な学習が,また,主題学習のねらいとし て歴史的思考力の育成が掲げられていることであ る。つまり,通常の系統的学習においては政治史 ないし経済史,文化史といった一定の観点から学 習するのに対し,主題学習では複数の観点から総 合的に学習することによって,主題についての理 解を深めるとともに,歴史的思考力を育成しよう というのである。なお,歴史的思考力の語はすで に1956年版の目標でも示されたが, 1960年版で改 めて主題学習との関連で強調されることになった。 ただし,その具体的内容や育成の手だてについて は,解説書でも触れられていない3)。 このように,成立期の主題学習の特色として, ①3単位科目ではなく4単位科目に位置づけられ たこと,②歴史学的に重要な主題が例示されたこ と,③歴史的思考力の育成が目標に掲げられたこ と,の3点を指摘することができる。以上から明 らかなように,主題学習はより高度で総合的な世 界史認識の形成を目指して,旧来の世界史構成を 補完する内容構成論として提起されたものであっ たととらえられよう。 (2)主題学習の原理の確立 1970年の改訂で,世界史は日本史と同じく標準 3単位の単一の科目となった。主題学習の動向か 注目されたが,結果的には「世界史」で継承され ただけでなぐ,匚日本史」にも導入されることに なった。

(3)

世界史の単位数が4から3に減少する中で主題 学習を維持するためには,大胆な内容精選が不可 欠である。そこで, 1970年版の厂世界史」は文化 圏別の構成を採用し,15世紀頃までの世界史を東 アジア,西アジア,ヨーロッパの3文化圏ごとに 大きくまとめてとらえさせる工夫を行った。また, 主題を例示するのをやめ,代わって主題設定の観 点を内容の取り扱い事項で示した。該当する部分 を抜き出せば,次のようになる。 (2)匚世界史」の目標を達成し,生徒の歴 史的思考力をいっそう深めるため,歴史的な 流れの学習の中で,適切な主題を設けて指導 することが望ましい。その際,次の諸点を考 慮して取り扱う。 ア 主題は,目標の達成,生徒の理解度,教 材の効果などをよく吟味したうえで,たと えば,次のような観点などから選ぶことが 考えられること。 a 政治的,経済的,社会的,文化的,国 際的な諸点から,多角的,総合的に学習 できるもの b 世界の歴史上の事象について,地域ご との比較考察的な,あるいは地域相互の 関連的な学習のできるもの c 世界の歴史上の事象の発展を,時代別, 地域別にある程度大きくまとめて学習で きるもの 歴史的思考力の育成を掲げていることや3つの 観点の内容からして, 1970年版が1960年版の主題 学習を踏襲していることは明らかである。しかし ながら,あえて事例を示さずに授業者の創意工夫 を求めたこと,また,学習方法についても,厂教 師の解説が中心となることもあろうが,主題につ いての研究・討議・発表や資料の収集など,可能 なかぎり,生徒の自発的な活動を中心に学習を展 開することが望ましい(解説書」 ,大阪書籍, 1972, 172頁)と指摘したことなどから,内容構成論と しての主題学習に加えて,新たに学習論としての 主題学習を打ち出そ日本史」でも,初めて匚うとしたことが窺歴史的思考力をつちえる。 −3− かう」ことを目標に明記するとともに,中項目数 を減らして内容を精選し,内容の取り扱いで「世 界史」と同様の主題学習の方法を示した。また, 前記の解説書では「生徒による共同研究・共同発 表といった型(133」 頁)も示唆した。こうしたこ とから, 1970年版では「世界史」と「日本史」が 歩調を合わせて,主題学習を教師主導の通史的系 統学習を補完する歴史教育の学習論(=生徒主体 の学習),及び内容構成論(=主題的構成)とし て位置づけようとしたものと解釈できる。 しかし, 1970年版主題学習も,原理的には大き な矛盾をかかえていたoそれが結局のところ主題 学習の形骸化を招くことになる。 (3)主題学習の原理的矛盾 主題学習を内容構成論としてだけでなく,学習 論としてもとらえようとする試みは重要であろう。 だが, 1970年版のように,歴史学的に意義のある 主題を設定して総合的に学習させ,歴史的思考力 を深めることと,生徒の主体的な学習を促すこと とは必ずしも両立しない。生徒に相当高度な問題 関心でもないかぎり,歴史学的な主題を自発的に 追究させるのは困難であろう。ここに,第1の矛 盾が指摘できるa 日本の歴史上の。その点,おもな人物と時代背景との「日本史」では。 関連について学習できるもの b 外来文化の摂取や日本人の文化的創造につ いて総合的に学習できるもの c 衣・食・住などの生活の発展を,ある程度 大きくまとめて学習できるもの という主題選択の観点をとっており(内容の取扱 い),生徒の興味や関心にそった主題学習を行お うとしていることが窺える。 第2の矛盾は,内容構成論そのものの中に,つ まり通史的系統学習の補完としての主題学習にあ る。「世界の歴史に関する基本的事項を理解させ, 歴史的思考力をつちかう」(1970年版「世界史」 の目標(1)より)ことが,通史的系統学習によっ てなされるのであれば,あえて「歴史的思考力を いっそう深める」ために主題学習をしなくてもよ いではないか。ただでさえ通史学習には時間がか かるのだから,3単位の世界史で無理することは ないと考えても不思議はない。それでも主題学習

(4)

が必 要 だ と い う の な ら ば , 説 得力 あ る 補 完 の 論 理 を 示 す べ き で あ ろ うO 第 3 の 矛 盾 は 学 習 論 の あ い ま い さ に あ る。 確 か に, 系 統 的 内 容 で あ る と 主 題 的 内 容 で あ る と を 問 わ ず , 高 校 の 歴 史 学 習 は教 師 主 導 で な さ れ が ち で あ る し, 系 統 的 内 容 が 対 象 で あ っ て も, 生 徒 の 発 表 や 討 論 な ど に よ っ て 学 習 を 進 め る 場 合 の あ る こ と は 周 知 の 通 り で あ る。 し か し, 学 習 論 と し て 主 題 学 習 を 提 起 す る以 上 , 従 来 の学 習 論 と の違 い を 鮮 明 に す る こ と が 必 要 で あ り, そ の た め に は例 え ば 生 徒 主 体 の学 習 で あ る こ と を 明 記 し , 具 体 的 な 方 法 論 を 示 す べ きで は な か っ た だ ろ う か。 そ の 点 て , 匚世 界 史 」 の 場 合 , 主 題 学 習 と 文 化 團 学 習 を い ず れ も 厂○ ○ 学 習 」 と い う語 で 表 記 し た こ と の 問 題 性 も指 摘 さ れ る 。 つ ま り , 文 化 圏 学 習 が 文 化 圏 ご と の学 習 で あ る よ う に , 主 題 学 習 も 一 定 の主 題 の 学 習 と 受 け取 ら れ て し ま っ た。 文 化 圏 学 習 が 文 化 圏 ご と の通 史 的 学 習 で よ い の な ら, 厂文 化 圏 別 構 成 」 あ る い は 単 に 匚文 化 圏 の 学 習 」 と 表 し て 主 題 学 習 と 区 別 す べ き で あ っ た し , 文 化 圏 学 習 が 固 有 の 学 習 論 を も つ ので あ れ ば, そ れ を は っ き り と 示 す べ き で あ っ た と い え よ う4)。 こ う し た矛 盾 を は ら みっ つ , 主 題 学 習 は そ の 後 1978 年 版 匚世 界 史 」「 日 本 史 」,:1989年 版 の 地 理 歴 史 科 匚世 界 史 B 」「 ̄日 本 史 B 」 に受 け 継 が れ , 日 本 の 高 校 歴 史 教 育 に 表 向 き は す っ か り 定 着 す る こ と に な っ た 。 だ が , そ れ と と も に主 題 学 習 の 形 骸 化 も 進 ん だ 。 社 会 の変 化 や 歴 史 学 界 の 動 向 を 反 映 し , 世 界 史 に お け る主 題 選 択 の観 点 と し て 新 た に 文 化 人 類 学 ( 工978年 版 ) や比 較 文 明 ・ 社 会 史 ・ 同 時 代 史(1989 年 版 ) の 観 点 が 導 入 さ れ た が, 1989 年 版 で は そ の 観 点 さ え 指 導 要 領 に は示 さ れ ず, 解 説 書 で の指 摘 に留 ま っ た。 ま た, 教 科 書 で も , 学 校 現 場 で 最 も採 択 率 の 高 い も の に は主 題 項 目 が 一 切 記 述 さ れ な い な ど ≒ 主 題 学 習 の実 質 的 な 意 味 は一 段 と 軽 く な っ た。 3 新 しい主 題学習 ( 1) 主題学 習 の再 生 1978年版 指導要 領 の頃か ら, 系統的 知識 の詰 め 込 みと なりがち な教科学 習へ の批判 が目立つ よ う になり, 教育改 革 のスロ ーガ ンとして「 ゆとり と -充 実 」, 匚自 己 教 育 力 の 育 成 」 が打 ち 出 さ れ た。19 89年 版 で は さ ら に 「 ̄新 学 力 観 」 が 提 唱 さ れ, 従 来 の 知 識 ・ 理 解 中 心 の 学 力 観 か ら, 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 や 思 考 ・ 判 断 を 中 心 と し た学 力 観 へ の 転 換 が 目 指 さ れ た 。1999 年 版 は, そ う し た 改 革 路 線 の い わ ば 総 仕 上 げ を 図 っ た も の と と ら え ら れ る。 改 訂 に 先 立 って , 中 央 教 育 審 議 会 は 匚ゆ と り の 中 で 生 き る 力 を は ぐ く む 」 こ と を キ ー ワ ード に し た 改 革 を 検 討 し, 学 校 完 全 週 5日 制 の実 施 や 総 合 的 な 学 習 の 時 間 の 創 設 な ど を 答 申 し た。 続 い て 教 育 課 程 審 議 会 は1998 年 7月 に答 申 を 出 し, 小 学 校, 中 学 校 及 び高 等 学 校 の社 会 科 , 地 理 歴 史 科 , 公 民 科 の 改 善 の 基 本 方 針 を 示 し た。 そ の う ち , 改 善 の 重 点 を 指 摘 し た箇 所 は次 の 通 り で あ る ( 下 線 部 は 筆 者 によ る )。 ( イ) 児童 生 徒 の発 達 段階 を踏 まえ, 各 学校 段階 の特色を一 層明 確 にして内容 の重点 化を 図 る。 ま た, 網羅 的で知 識偏重 の学 習にな ら な いよう にす るとと もに, 社会 の変 化に自 ら 対 応す る能力 や態度を 育成 する観点 か ら, 基 礎 的・基 本的 な内容 に厳選 し, 学 び方や調 べ 方 の学習 ,作業 的, 体 験的 な学習 や問題 解決 的 な学 習な ど児童生 徒 の主 重 視 す る 。 な 学 習 を 一 層 そ の上で, 地理歴 史科 の改善 の具体的 事項 とし て, 次のよ うに示 した(下 線部 は筆者 によ る)。 ( ア) 地 理歴 史 科 につ いて は, 現 行 の基本 的 な科目 構成を 維持しつ つ, 各科目 の特質 を生 かして 内容を 厳選 する とと もに, 各科 目で主 一 題学習 によ る内容を 工夫 し, また科 目内で内 容を 選択 して学習 す る仕 組 みを一 層拡 充 して 筧 曵を置い て学習 で きるよう工 夫す る。 答 申 の下線 部 に明 らかなよ うに,:1999年 の指導 要 領の改訂 で は, ①生 徒 の主 体的 な学習を 重視 す るた めに, ②内 容を厳 選し, ③主題 学習 を工夫 す る ことが求 めら れた。 1989年版 に引 き続 き,世 界 史, 日 本史 には標準 2単 位のA科 目 と4単位 のB 科目 が設置さ れたが, 答 申を受 けて これ らの全科 4−

(5)

目で主題学習が内容項目に位置づけられることに なった。 匚世界史A」では内容匚(3)現代の世界と日本」 の中項目厂オ地域紛争と国際社会」と匚力 科学 技術と現代文明」,匚世界史B」では内容「’(1)世 界史への扉」の各中項目と内容匚(5)地球世界の 形成」の中項目匚工 国際対立と国際協調」,匚オ 科学技術の発達と現代文明」,匚力 これからの 世界と日本」がそれに該当する。また,匚日本史 A」,匚日本史B」でも,それぞれ最初の大項目 「(工)歴史と生活」,匚(1)歴史の考察」が主題学 習に充てられた。 こうして,形骸化していた主題学習に再びスポッ トライトが当たることになった。では,世界史の 新しい主題学習にはどのような工夫がなされたの か。また,それは従来の主題学習が内包した矛盾 を克服し得るものになっているのだろうか。 (2)新しい主題学習の特質①一内容構成論− 1999年版主題学習の第1の特質は,内容構成論 について新たな考え方を提起したことである。従 来の主題学習は,適切な時期を選んで通史学習に 組み込む構成が一般的であったが,今回は新たに 導入部に位置づける方法と終結部に位置づける方 法が提起された。特に「世界史A」では後者を, 匚日本史A」,匚日本史B」では前者を6),そして 匚世界史B」では双方の構成を採用したOそれぞ れのねらいは何か,「 ̄世界史B」の場合を手がか りに考察してみよう。 まず,「世界史B」の導入項目の内容を示せば 以下のようになる(下線部は筆者による)。

①世界

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主題

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が国の歴史にかかわる主題など, を設定し追究する学習を通して, な主題に対す る関心と世界史学習への意欲を高める。

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下線部に示されているように,主題学習のねら いは高度な世界史認識の形成にではなく,むしろ 生徒の世界史学習への動機づけを図ることに置か れていることがわかる。また,中項目の内容や例 示された主題を見ても,生徒の興味や関心にそう ものを中心に設定していることは明らかである。 これに対し,終結部の3つの主題学習項目につ いては,解説書で匚それまでの世界史学習によっ て身に付けた知識や歴史の見方を踏まえ,生徒自 身が現代の課題を主体的に追究し,考察するのが ねらいである。」(実教出版, 1999, 74頁)と述べ, 導入部とはねらいが異なることを示唆している。 つまり,匚世界史B」の全体構造は,始めに主題 学習を行って生徒の世界史への関心・意欲を高め, それを踏まえて通史的系統学習を展開し,最後に 再び主題学習によって,系統学習で得た知識や技 能を現代の課題の追究に応用するという形になっ ているのである。 こうした全体構造を踏まえると,主題学習は決 して通史的系統学習の単なる補完ではなく,世界 史学習をより生徒主体のものにし,かつ生徒にとっ て学ぶ意味を見出しやすいものにしていくために 不可欠な内容構成論であることが了解される。そ の意味で,成立期の主題学習が内包した第1,第 2の矛盾はほぼ解消されたといえよう。 ただし,授業時間数との関連で,主題学習が画 餅に終わる恐れも否定できない。前述のように, 教育課程審議会答申は主題学習の前提として内容 の厳選を挙げた。しかし,19世紀以降の近現代史 に内容を限定した匚日本史A」を除き7),どの科 目も実質的な内容に関しては従前とほとんど変わっ

(6)

ていない。したがって,新しい内容構成論の意義 が多くの教師に理解されないかぎり,従来と同じ 轍を踏むことにもなりかねない。 (3)新しい主題学習の特質②一学習論一 新しい主題学習の第2の特質は,学習論に関し ても一層踏み込んだ説明をしていることである。 導入項目については,厂生徒の実態等に応じ, アからウまでのうち適宜項目を選択し,二つ程度 主題を設定して追究する学習を行うこと。その際, 世界史学習の導入に当たることを考慮し,抽象的 で高度な指導にならないようにすること」,また 終結部の項目については,匚例示された課題など を参考に適切な主題を設定し,生徒の主体的な追 究を通して認識を深めさせるようにすること」と, 内容の取扱いで指摘している。内容構成上の位置 づけの違いによって若干のニュアンスの差は感じ られるものの,生徒主体の学習を促そうとしてい るのは確かである。解説書はさらにこれを補足し て,匚いずれの場合も,生徒の主体的な追究を促 すために,作業的・体験的な学習を導入するなど, 学習活動を工夫することが求められる。」(75頁) と述べている。 また, 1970年版以来続いてきた文化圏構成が廃 止されたことにより,文化圏学習の語も使われな ぐなった。その是非はともかく,結果的に主題学 習が単なる主題の学習ではなく,通史学習とは異 なる独自の学習論であることの説明が容易になっ た。これらの点で,成立期の主題学習が内包した 第3の矛盾も,理論上は克服されたといえる。 4 主題学習の可能性 1999年版の主題学習は成立期の主題学習の原理 的矛盾をほぼ解消し, 2003 (平成15)年からの実 施に備えることになった。しかし卜内容構成論と 学習論を中心に,どんなに指導要領での位置づけ が整備されたとしても,具体的な主題学習の授業 構成論や学習方法論を欠いては,広範な実践は望 めないだろう。そこで,最後にこの2点について 考察し,主題学習の可能性を探りたい。 (1)主題学習の授業構成論 内容構成論としての主題学習は,いわゆる通史 的構成(chronological approach)に対する主 −6− 題的構成(thematic approach)を意味したが, 主題学習の授業構成は,主題の内容に応じて事実 記述的方法と概念探求的方法とに二分される。 まず,厂(1)世界史への扉」の匚イ 日常生活に 見る世界史」や匚ウ 世界史と日本史とのつなが り」に示されたトピック的主題を扱う場合,事実 記述的授業構成(factual approach)になる。 日常生活に見る世界史の一例として匚お茶」を取 り上げ下のようにな,考えられる問いをランダムに示せば,以ろう8 ・お茶にはどんな種類かおるか。 ・世界の国々ではどんなお茶を飲んでいるか。 ・世界の国々にはどんなお茶の作法かおるか。 ・そもそもお茶の原産地はどこか。 ・日本(あるいはヨーロッパ)にはいつ頃,ど こからお茶が伝わったか。 ・日本(あるいはヨーロッパ)でのお茶の流行 は,社会生活にどんな影響を与えたか。 ・世界史上,お茶をめぐっておきだ事件にどん なものがあるか。 ・現在,世界で茶の生産量,消費量の多い国は どこか。 このように,問いは匚どのように(How?)」 が基本となり,それに対する回答は,できるだけ 事実を丹念に調べて,記述していくことになる。 したがって,授業の成否は,まず生徒の興味・関 心のある主題を選択できるかどうか,次に主題に 関して生徒の常識を覆すような珍しい事実が調べ られるかどうか,さらには調べた事実をドラマチッ クかつヴィジュアルに編集できるかどうかにかかっ てくる。これは,生徒主体に追究し,発表する場 合でも原則として変わらない。 これに対し「(1)世界史への扉」の匚ア 世界 史における時間と空間」で扱う主題は,トピック ではなく時間意識や空間感覚といった概念である。 それゆえ,そうした概念的主題を扱う場合は概念 探求的授業構成(conceptual approach)をとる ことになる。つまり,指導要領に例示された時計,

暦,世界地図などは主題ではなく,人々の時間意 識や空間感覚を探求するための素材(教材・学習 材)を意味するのである。

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の変容」を探求する授業を想定してみよう。まず, 産業革命の前後の人々の時間意識を調べ,教育内 容を確定しなければならない。一部を示そう9‰ 〈産業革命前〉 ○産業革命前の人々は,自然のリズムに従って 労働する中で,時間は昼夜,季節により循環 するという円環的時間意識をもった。 ○前近代には機械時計は生まれていなかった。 〈産業革命後〉 ○産業資本家は,労働者にタイム・ディシプリ ンに従って間断なく働くことを求めた。 ○近代には機械時計が普及した。 ○産業革命後の人々は,時計のリズムに従って 生活する中で,時間は直線的で等間隔のもの であるという時間意識をもつようになった。 次に,これらの概念を探求するための素材を探 すと,この時期に産業資本家の論理ともいうべき 「時は金なり」の格言が生まれたことや,労働者 の中には日曜に引き続き月曜日も工場を欠勤し, 仲間との酒やゲームに興じるF ̄聖月曜日」の慣行 が広く見られた事実が明らかになる。この事実を 踏ま「時は金なえると,次のような問いが立てられり」とはどんな意味か。またる。,君 たちはこの言葉にどんな印象をもつか。 ・この格言は誰が,いつ頃,どんな意味合いで 使ったのだろう。 ・なぜ,この格言が広まったのか。 ・産業革命前の人々は時間をどのようにとらえ ていたのか。また,それはなぜか。 ・産業革命初期の労働者は,こうした格言に従っ たのだろうか。 ・なぜ,労働者は月曜日も工場を欠勤する(聖 月曜日)ようなことをしたのだろう。給料が 減ってもかまわなかったのか。 ・産業革命後の労働者の時間意識はどのように 変わっていったか。 ・そもそも労働者にとって産業革命とはどんな 意味をもったのだろうか。 中心をなす問いは「なぜ(Why ? )」と「どん な意味か(What's the meaning ? )」である。 こうした問いに対の解釈を導くことになる。解釈は討論を通し,生徒はまず推論により一定してよ −7− り確かな仮説へと高められる場合もある。そして, この解釈ないし仮説を,歴史の事実(=資料)を 手がかりに検証してゆくのである。したがって, 授業の成否は,いかに生徒の多様な解釈を促す問 いを立てられるか,また,いかにそれらの解釈を 検証しうる資料が準備できるかにかかってくる。 いずれにせよ,主題学習の可能性の一つにこの 概念探求的授業構成を挙げることができる。時間 的にも空間的にも広範囲に及ぶ人類の歴史を,通 史的,系統的に学習させるのは至難の業である。 だが,主題学習では異なる地域世界の出来事や構 造を共時的に比較したり,一つの地域世界の出来 事や構造を通時的に比較することで,歴史の中か ら社会についての概念的な見方考え方を身につけ させることができる。これは,通史学習では育成 できない歴史的思考力として貴重であろう。 (2)主題学習の学習方法論 学習論としての主題学習は,教師主導の受動的 学習(passive learning)に対し,生徒主体の能 動的学習(active learning)を意味した。だが, 主題を設定しさえすれば生徒主体の学習が成立す るとはかぎらない。主題学習を生徒による能動的 学習にするには,学級に応じた教師のねばり強い 指導が必要であろう。ここでは,一般論として踏 まえておくべき主題学習の方法を示す。 ①主題学習の前提 主題学習に先立って,世界史の全体構成をどう するかが問われよう。教科書にそった系統的学習 を前提とするのであれば,年間指導計画にきちん と位置づけて授業時間を確保せねばならない。ま た,世界史の全体を主題学習で構成する方法もあ るが10),これについては別の機会に論じたい。 ②主題の設定 主題の設定に当たっては,そのねらいが世界史 への関心や意欲を高めることにあるのか,世界史 学習の成果を応用させることにあるのかを明確に しつつ,生徒の興味・関心の度合い,手がかりと なる資料(教材・学習材)の有無を勘案して複数 の主題を提示し,生徒自身に選択させたい。 ③主題の追究 主題の内容に応じて事実記述的方法か,概念探 求的方法かが決まる。前者の場合,教科書や資料

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集,百科事典,インターネット等を活用して,主 題に関するできるだけ確かな情報を集めること, また,情報を取捨選択して一定の物語を編集する ことが必要になる。後者の場合,情報の収集・整 理の過程で発見した問題に対し仮説を立てて検証 したり,複数の事例を比較考察したりすることを 通して,概念形成を行うことになる。生徒主体に 学習する場合は,ある程度教師が問題提起したり, 探求の手がかりを示唆することが必要であろう。 ④主題学習のまとめ 主題学習のまとめには生徒による発表活動が有 効である。口頭発表,レポート,世界史新聞づく りなど多様な方法かおるが,追究の結果だけでな く,調べ活動の方法やプロセスについても発表さ せたい。そして,自己評価や生徒の相互評価も踏 まえ適正に評価することが重要である。 主題学習の可能性はこうした一連の学習の流れ にも見出すことができる。新学力観の普及や総合 的な学習の時間の導入により,教師の与えた課題 を生徒に作業させたり,体験させたりする活動が 今後一層重視されてくることが予想される。だが, 認識形成を伴わない活動は空虚だし,認識の主体 性を欠いた学習もまた主体的学習とはいえない。 その意味で,主題の設定から追究,まとめ・発表 に至るまでをひとつながりの学習としてとらえる 主題学習のつのモデル方法はして有効であろう。,高校の歴史教育を改革する一 5 おわりに 指導要領を手がかりに,新旧の主題学習の原理 と方法を探り,課題を考察してきた。もとより本 研究は高校世界史のあるべき学習論を提起したも のではない。指導要領という形で上から教育課程 の基準が示され,それに基づいて教科書検定がな される現行の枠組みの中で,世界史学習を現実に 改革しうる方法論を模索したものである。 最後に,次の3点を確認しておきたい。第扣こ, 主題学習は世界史カリキュラムをどう構成するか を教師に問いかけるものだということ,第2に, 主題学習は常に総合的な考察を求めるとはかぎら ず,主題によっては概念探求的な考察も必要なこ とるが,第,それ3に,主題学習は生徒主体のを促すには全てを生徒に任せるの学習を旨とすでは −8− なく教師の適切な指導が不可欠なことである。 [註] 1)これは筆者の実感でもあるが,公表された主 題学習の論文数にも如実に表れている。因みに, 星村平和,川口靖夫編『世界史教育関係文献目 録(稿) -1949∼j、995-』(清水書院, 1997)掲 載の関連論文を,指導要領の実施時期ごとに集 計すると以下のようになる。このうち1968-72 の5年間に26本(全体の回3)が集中している。 ①工960年版の時期(1963-72):36本 ②1970年版の時期(1973-81):29本 ③1978年版の時期(1982-93):13本 2)拙稿匚文化圏学習の再生を求めて一世界史学 習論の批判と創造−」全国社会科教育学会『社 会科研究』50号,工999, 22レ230頁 3)歴史的思考力の説明は, 1958年版の中学校社 会の指導書(実教出版,96頁)に見られる。 匚中学校の段階になれば,ものごとのおこりゃ 変化を明らかにするだけでなく,大まかにいっ て歴史は発展するものであり,その発展には必 ず原因や結果があるということを考えさせる必 要があろう。また,社会の諸事象の間の相互の 関連を,総合的に考える能力をつちちかうこと もたいせつなことである。]ここから,高校の 主題学習でつちかう歴史的思考力が,総合的に 考える能力を指していることは明らかである。 4)前掲2)の拙稿でこの問題について考察した。 5)江上波夫他『詳説世界史』(山川出版社)を 指す。検定対策からか,巻頭に厂主題学習にっ いて」と題する文章を2頁に亘って記載し,主 題学習の観点,と実例を挙げているが,実際の学 習を意図した内容記述にはなっていない。 6)日本史A,Bでは,この他に主題学習を通史 学習に組み込む従来の方法も継承されている。 7)それは生徒が小・中学校で2度にわたり日本 の歴史を学んでいるからこそできたのであり, 世界史は生徒が高校で初めてまとまった形で学 ぶことを考えると,厂世界史A」が前近代史を 全面的には削除できなかったのも肯けよう。 8)角山栄『茶の世界史』中公新書, 1980,他。 9)角山栄,川北稔編『路地裏の大英帝国−イギ リス都市生活史』平凡社, 1982,他。 10)先行研究で挙げた宮崎論文を参照されたい。

参照

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