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<論説>刑事手続における取引(2)--ドイツにおける判決合意手続

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(1)刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 刑 事 手 続1 こ お け る取 引(2) ドイ ツ に お け る 判 決 合 意 手 続. 典. 辻 一. 本. 央. は じめ に. 二Abspracheの. 概観. LAbspracheの. 意義. 2.判. 例実務. 3.立. 法 の動 向. 4.小. 括(以 上57巻2号). 三Abspracheに. 関 す る法 的 問題 点. 1.比. 較法的考察. 2.判. 決 合 意 手 続 の許 容 性. 3.判. 決 合 意 の法 的性 質. 4.自. 白 の取 扱. 5.量. 刑 問題(刑. 6.合. 意 中絶 の効 果. 7.合. 意 の事 後 的 是 正(上 訴 問題). 8.合. 意 の適 格 性(適 用 範 囲). 9.小. 括(以 上 本 号). の責 任 相 応 性). 四. 我 が 国 の 刑 事 訴 訟 にお け る取 引 的 要 素. 五. お わ りに. 三Abspracheに. 上 述 の と お り,ド 月28日. 関す る法 的問題 点. イ ツ に お い て,判. 決 合 意(Absprache)は,2009年5. に 連 邦 下 院 で 政 府 最 終 法 案 が 可 決 さ れ,同. て い る(1)。こ れ に よ っ て,判. 決 合 意 は,制. (1)辻 本 典 央 「刑 事 手 続 に お け る取 引. 年8月4日. よ り施 行 さ れ. 定 法 に 根 拠 を もつ 「公 式 の 手 続 」. ドイ ツ に お け る判 決 合 意 手 続(1)」. 57巻2号(2009)。. 1. 近法.

(2) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. とな っ た。 その 理 論 的 性 質 や 法 的 限 界 点 を 知 る こ と は,今 後 の 動 向 を 展 望 す る うえ で 重 要 な 課 題 で あ る。. 1.比. 較法的考察. ドイ ツの 判 決 合 意 の 性 質 を 知 る うえ で,諸 外 国 に お け る 同種 手 続 との 比 較 の 視 点 は有 益 で あ り,ド イ ツの 学 説 に お いて も,こ の よ うな 比 較 法 的 視 点 に基 づ く研 究 は,数 多 く公 刊 され て い る。 諸 外 国 の 制 度 を 詳 し く紹 介 す る こ と は,そ れ 自体 重 要 な 課 題 で は あ るが,こ. こで は,ド イ ツ法 との 比 較. と い う観 点 か ら,ド イ ツの 研 究 に お け る比 較 法 的 考 察 を 通 じた概 観 に と ど め る。. (1)ア. メ リカ合 衆 国. 判 決 合 意 は,ド そ れ は,立. イ ツ の 刑 事 裁 判 で い ま や 日 常 的 な も の と な っ て い る が,. 法 に 先 行 す る 「実 務 の 申 し子 」 と 表 現 さ れ る よ う に(2>,理 論 的. 基 礎 づ け が あ い ま い な ま ま 浸 透 ・定 着 して い っ た も の で あ る 。 学 説 上,こ の 手 続 の 理 論 的 問 題 点 の 指 摘 に 基 づ き,ド 性 が 活 発 に 議 論 さ れ て い る 。 そ の 際,し らの 考 察 も 行 わ れ る が,ド. イ ツ憲 法 お よ び刑 訴 法 との 適 合 ば しば諸 外 国 との 比 較 法 的 視 点 か. イ ツ刑 事 訴 訟 に お け る本 問 題 に関 す る最 初 の 論. 稿(3>が そ う で あ る よ う に,そ の 多 くが ア メ リ カ 法 の 「答 弁 取 引 」(pleabargaining)を. 検 討 対 象 と し て い る(4>。. (2)HansDahs『HandbuchdesStrafverteidigers7Auf.」354頁(2005)。 (3)KarlF.Schumann「DerHandelmitGerechtigkeit:FunktionsproblemederStrafjustizundihreL6sungen,amBeispieldesamerikanischenpleabargaining」(1977)。 (4)代. 表 的 な も の と し て,ThomasWeigend『Abspracheninauslandischen. Strafverfahren:einerechtsvergleichendeUntersuchungzukonsensualenElementenimStrafprozeB』(1990),GersonTrUg「Erkenntnisse ausderUntersuchungdesUS-amerikanischenpleabargaining-Sys-/. 2.

(3) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). ア メ リ カ 法 に お け る 答 弁 取 引 は,概 終 わ り,検. ね,次. の よ う に手 続 され る。 捜 査 が. 察 官 が 起 訴 す る と,「 罪 状 認 否 手 続 」(arraignment)が. れ る 。 被 告 人 が こ の 段 階 で 「有 罪 答 弁 」(pleaofGuilty)ま 答 弁 」(nocontestplea)を く簡 略 化)さ れ,円. 行 う と,そ. れ る 。 こ れ に よ り,刑. 下 同 じ)に. た は著 し. 事 司 法 に か か る コ ス トが 大 き く節 約 さ の 有 罪 答 弁(不. 抗争答弁を. 向 け られ た 手 続 は,「 ア メ リ カ の 刑 事 手 続 の 運 用 に と っ. て 必 要 不 可 欠 な 手 続 で あ る 」(5)。 従 っ て,有 は 高 く,そ. た は 「不 抗 争. の 後 の 公 判 審 理 が 省 略(ま. 滑 な 刑 事 手 続 が 実 践 さ れ る こ と か ら,こ. 含 む,以. 開始 さ. 罪 答 弁 に対 す る司 法 機 関 の 関 心. こ に 取 引 に 向 け た 誘 因 が 認 め られ る 。 こ の よ う な 被 告 人 の 有 罪. 答 弁 を 目 的 と し た 取 引 を,「 答 弁 取 引 」 と い う。 そ こ で は,一 被 告 人 側 か ら は 有 罪 答 弁 が,検. 察 官 か ら は訴 因 ま た は 量 刑 意 見 の 内容 が. 取 引 さ れ る 。 検 察 官 の 処 分 す る 内 容 に 応 じ て,前 bargaining),後. 般 的 に,. 者 を 訴 追 取 引(charge. 者 を 量 刑 取 引(sentencebargaining)と. 起 訴 裁 判 所 の 選 択(judgeshopping),家. い う 。 そ の 他,. 族 や 知 人 の 不 訴 追 な ど,様. 々な. 事 項 が 単 独 で ま た は複 数 組 み 合 わ せ て 取 引 され る。 こ の 答 弁 取 引 手 続 は,か え る と い っ た 理 由 で,否 第 二 次 世 界 大 戦 後,被 事 事 件 の う ち80%台 そ れ ゆ え,答. つ て は,政. 治 権 力 が 刑 事 裁 判 に不 当 な 影 響 を 与. 定 的 な 見 解 が 優 勢 で あ っ た と い わ れ る(6)。し か し, 告 人 の 有 罪 答 弁 に基 づ いて 処 理 され る事 件 数 は全 刑. で ず っ と 推 移 し,近. 弁 取 引 は,ア. 時 は,さ. ら に90%を. メ リ カ 刑 事 裁 判 に 不 可 欠 の も の と な っ て お り,. も は や 原 則 形 式 で あ る と い っ て よ い 。 連 邦 最 高 裁 も,1970年 決(7)に お い て,有. 超 え て い る。. のBrady判. 罪 答 弁獲 得 に向 けた 答 弁 取 引 は憲 法 違 反 で はな い と判 示. \temsfUrdendeutschenAbsprachendiskurs」ZStW120(2008)331。 (5)島. 伸 一・『ア メ リ カ の 刑 事 司 法 一 ワ シ ン ト ン 州 キ ン グ 郡 を 基 点 と し て 一 」155. 頁(2002)。 (6)島(前. 掲 注(5))153頁. 。. (7)Bradyv.UnitedStates397U.S.742(1970)。. 3.

(4) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. して い る。 答 弁 取 引 は,制 定 法 に 根 拠 を もつ 。 特 に,連 邦 刑 事 訴 訟 規 則(FRCP) 11条 は,連 邦 刑 事 手 続 に関 して,有 罪 答 弁 お よ び答 弁 取 引 につ いて 規 定 し て い る。 これ に よ る と,取 引 に際 して の 交 渉 は検 察 官 と被 告 人 ・弁 護 人 と の 間 で 行 わ れ,裁 判 官 の 関 与 は禁 止 され て い る(一 一 部 州 法 で は許 容 され て い る)。 交 渉 が終 わ る と,両 当事 者 は,取 引 の 結 果 と これ に基 づ く有 罪 答 弁 を裁 判 所 に提 出 し,裁 判 所 は,答 弁 に対 す る被 告 人 の 任 意 性 が 認 め られ る こ と を条 件 に これ を 受 理 す る。 被 告 人 は,裁 判 所 が 取 引 結 果 の 受 理 を 一一 定 の 理 由か ら却 下 した場 合,有 罪 答 弁 を 撤 回 す る こ とが で き るが,受 理 され た場 合 で もな お判 決 が 下 され る まで は 「公 正 か つ 正 義 」 の 理 由 に よ って 撤 回 す る こ とが で き る。 ま た,検 察 官 が約 束 を 遵守 しな か った と き(例 え ば, 訴 追 取 引 に反 して 一一 定 の 訴 因 を 起 訴 した場 合),被 告 人 は,有 罪 答 弁 を 撤 回 し,当 該 証 拠 の 排 除 を 主 張 す る こ とが で き る(連 邦 証 拠 法410条)。 ア メ リカ法 の 答 弁 取 引 との 比 較 か ら,次 の よ うな 分 析 が み られ る。 ア メ リカで は,第 二 次 世 界 大 戦 後 か らず っ と,有 罪 答 弁 に よ り刑 事 手 続 が 終 結 す る割 合 が 常 に80%を 超 え て い るが,こ の 現 象 は 「刑 事 司 法 の 負 担 過 剰 」 と い う観 点 の み で 説 明 で き る もの で はな い。 被 告 人 の 有 罪 答 弁 は,防 御 権 行 使 お よ び審 判 対 象 に対 す る処 分 と して 理 解 され るべ きで あ り,当 事 者 主 義 的 手 続 構 造 と,そ れ に伴 う真 実 の 形 式 化 を 前 提 とす る。 裁 判 所 は,そ の よ うな 手 続 構 造 に お いて は,真 実 発 見 よ りも紛 争 解 決 の 仲 裁 役 で あ る こ と が 求 め られ るの で あ り,FRCP11条. は,答 弁 取 引 へ の 裁 判 所 の 関 与 を 禁 止. す る こ とに よ り,そ の よ うな 第 三 者 的立 場 を 明 示 して い る の で あ る(8)。 他 方,ド. イ ツ刑 事 訴 訟 の 伝 統 的 構 造 は,裁 判 所 に集 中 され た権 限 に基 づ いて. 実 体 的 真 実 発 見 を 至 上 の 課 題 と し,各 訴 訟 主 体 に その 意 味 で の 処 分 権 を 認 (8)TrUg(前. 掲 注)364頁. 以 下,MartinMUIIer『Problemeumeinegesetz-. licheRegelungderAbsprachenimStrafverfahren」362頁(2008)。. 4.

(5) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). め る もの で はな い。 合 意 手 続 の 導 入 に は,裁 判 所 を 第 三 者 的 立 場 にお き, 各 当事 者 に処 分 権 を 認 め る こ と(そ の 前 提 と して,捜 査 段 階 にお け る被 疑 者 の 地 位 を 拡 充 し,真 の 当事 者 対 等 を 図 る こ と)が 必 要 で あ る(9)。. (2)イ. ングラン ド. や は り当 事 者 主 義 訴 訟 構 造 を 持 つ イ ン グ ラ ン ドとの 比 較 法 的 考 察 か ら は,基 本 的 に,ア メ リカ と 同様 の 評 価 が み られ る⑩。 イ ン グ ラ ン ドに も,被 告 人 に よ る有 罪 答 弁 の 獲 得 を 目的 と して,訴 追 取 引 お よ び量 刑 取 引 が 存 在 す る。 これ に加 え て,量 刑 上 重 要 な 事 実 に関 す る 取 引(「 事 実 取 引」)も 存 在 し,こ れ らが 単 独 で また は複 数 の 組 み 合 わ せ に よ っ て,被 告 人 側 と訴 追 側 とで 合 意 が締 結 され る。 イ ング ラ ン ドで は(ll), 起 訴 裁 量 主 義 が 採 用 され,訴 追 取 引 は刑 事 訴 追 機 関(検 察 官)に 認 め られ た訴 追 裁 量 に基 づ いて,被 疑 者 が 一一 定 の 犯 罪 につ いて 自 白す る こ とを 条 件 に,当 該 犯 罪 や 他 の 犯 罪 の 不 訴 追,低. い等 級 の 犯 罪 で の 訴 追 と い った 取 引. が 行 わ れ る。 ま た,当 事 者 追 行 主 義 に基 づ き,犯 罪 事 実 だ けで な く量 刑 事 情 につ いて も基 本 的 に 当事 者 の 主 張 立 証 に委 ね られ る こ とか ら,公 判 の 過 程 で(ま. た は開 始 前 に)検 察 官 が 主 張 す るべ き量 刑 事 情 に関 して も取 引 が. 行 わ れ る(検 察 官 は量 刑 事 情 を 述 べ るだ けで あ り,日 本 と違 って 科 刑 意 見 は述 べ な い)。 さ らに,1994年. 「刑 事 司 法 お よ び治 安 維 持 の 法 律 」(CJPO). 48条 に よ る と,被 告 人 が 手 続 の 早 い段 階 で 自 白 した 場 合,3分. (9)TrUg(前. 掲 注(4))367頁. の1ま で の. 以下。. ⑩PatrickM.B6meke『RechtsfolgenfehlgeschlagenerAbsprachenim deutschenundenglischenStrafverfahren:einerechtsvergleichende UntersuchungderFolgeproblemestrafprozessualerVersttindigung」 (2001)。 qDイ. ギ リ ス の 司 法 制 度 に 関 し て,小. 設 と 私 人 訴 追 主 義 」(1995),鯨. 山雅 亀. 越溢弘. 5. 『イ ギ リ ス の 訴 追 制 度. 検察庁の創. 『刑 事 訴 追 理 念 の 研 究 」(2005)。.

(6) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 減 刑 を受 け る こ とが で き る。 この 減 刑 規 定 は,被 告 人 の 自 白を 行 う動 機 に 関 わ らず 適 用 され る こ とか ら,例 え ば弁 護 人 が 事 前 に裁 判 官 に対 して 自 白 した場 合 の お お よ その 量 刑 を 照 会 し,裁 判 官 が これ に答 え る と い う形 で の 取 引 も行 わ れ る。 訴 追 取 引 お よ び事 実 取 引 は,比 較 的 イ ン グ ラ ン ドの 訴 訟 構 造 に適 合 す る もの で あ るの に対 し,量 刑 取 引 は,本 来 公 正 中立 の 裁 判 官 を取 引 主 体 とす る もの で あ る こ とか ら,批 判 も強 い 。 判 例 も,1970年 Turner判. の. 決(②以 来,量 刑 取 引 を否 定 す る立 場 を 示 して い る。 も っ と も,. 弁 護 人 が 裁 判 官 と公 判 外 で 折 衝 す る こ と 自体 は禁 止 され な い た め,そ こで 量 刑 取 引 に向 け た交 渉 が 非 公 然 に行 わ れ る こ と も 日常 的 で あ る。 そ こ で,こ の よ うな 取 引 実 務 が な お正 統 な もの と して 承 認 され る た め に,と. りわ け,実 体 的 に正 当な 裁 判 の 確 保 お よ び手 続 公 開 性 の 観 点 に お い. て 一一 定 の 手 続 的 担 保 が 必 要 とな る。 この 点 につ いて,イ. ン グ ラ ン ドで は,. 裁 判 官 忌 避 や 上 級 審 で の 事 後 的 是 正 と い っ た一般 的 な 規 定 に加 え て,い わ ゆ る 「Newton聴. 聞 」⑬ と い う手 続 が おか れ て い る こ とが 注 目 され る。 この. 手 続 は,特 に事 実 取 引 が 行 わ れ た場 合 に お いて,検 察 側 が 取 引 に反 す る量 刑 事 情 を 述 べ た と き,被 告 人 に弾 劾 の 機 会 を 保 障 す る もの で あ る。 これ に よ って,先. に約 束 に基 づ き 自 白を 提 供 した被 告 人 が,不 意 打 ち的 に約 束 に. 反 した重 い判 決 を 受 け る こ とが 防 止 され る こ と にな って い る。 イ ング ラ ン ドの 取 引 実 務 の 特 徴 は,ア メ リカ と異 な り,各 々の 取 引 に向 け た交 渉 が 非 公 然 に行 わ れ る傾 向 が 強 い点 に あ る。 それ ゆえ,1990年. 代に. は法 制 化 の 動 き も見 られ たが,現 在 の と こ ろ結 実 して いな い。 当時 の 弁 護 士 会 作 業 グル ー プ(Seabrook委. 員 会)案,お. よ び これ を 受 け た王 立 刑 事. 法 委 員 会 に よ る立 法 案 に対 し,学 説 か ら,こ の 法 案 は手 続 効 率 性 に傾 き,. ⑰R.v.Turner(1970)54CrAppR361。 ⑱. 本 手 続 は,指 CrAppR13)を. 導 的 判 例 で あ るNewton判 き っか け とす る。. 6. 決(R.v.Newton(1982)77.

(7) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 手 続 に関 与 す る法 曹 の 間 で の 同調 が 被 告 人 に不 当な 圧 力 とな る と して,強 く反 対 され た た めで あ る。 この よ うな イ ン グ ラ ン ドの 動 向 との 比 較 か ら,特 に量 刑 取 引 は,訴 訟 構 造 如 何 に関 わ らず,刑 事 手 続 法 お よ び憲 法 原 則 との 関 係 で 大 きな 問 題 性 を 持 つ もの で あ る,そ の よ うな 取 引 に際 して 被 告 人 に対 す る不 当 な 圧 力 を 如 何 に防 止 す るべ きか が 課 題 で あ る との 分 析 が み られ る⑭。. (3)イ. タ リア. イ タ リア は,周 知 の と お り,1989年 新 刑 事 訴 訟 法 に よ って,予 審 廃 止 を 中心 とす る本 質 的 な 訴 訟 改 革 に よ り,か つ て の 職 権 主 義 的 ・糾 問 的 訴 訟 構 造 か ら,公 判 中心 主 義 ・弾 劾 主 義 を 基 調 とす る訴 訟 構 造 へ の 転 換 を 遂 げて い る。 他 方 で,公 判 中心 主 義 の 実 現 は必 然 的 に司 法 機 関 の 負 担 増 大 を 伴 う た め,簡 易 な事 件 処 理 に向 け た手 続 も同 時 に導 入 さ れ た⑮。 就 中 「取 引 手 続 」(patteggiamento)は,ド. イ ツ法 の 判 決 合 意 との比 較 に よ り詳 細 に考. 察 され て い る⑯。 イ タ リアの 取 引 手 続 は,当 事 者(被 告 人 と検 察 官)の 合 意 に基 づ いて3 分 の1ま で の 範 囲 で 減 軽 され た刑 の 適 用 が 申 し立 て られ る と,公 判 手 続 が 省 略 され,書 面 審 理 に よ って の み 判 決 が 言 い渡 され る もの で あ る。 裁 判 所 は,こ の 科 刑 に関 す る 当事 者 の 申立 に拘 束 され る。 申立 の 前 提 と して,検. ωB6meke(前 ⑮. 掲 注 ⑩)237頁. 以下。. イ タ リ ア に お け る 訴 訟 改 革 に つ い て,松 と 新 刑 事 手 続 の 構 造(1)(2・. 田岳 士. 「イ タ リ ア に お け る 予 審 廃 止. 完)」 論 叢143巻1号,144巻3号(1998),同. 事 手 続 に お け る 訴 訟 行 為 の 再 現 可 能 性 に つ い て 」 刑 雑44巻2号(2005),「 リ ア の 裁 判 制 度 と 合 意 手 続 」 刑 事 法 ジ ャ ー ナ ル22号(2010)。 a6)KorinnaWeichbrodt「DasKonsensprinzipstrafprozessualerAbsprachen:zugleicheinBeitragzurReformdiskussionunterbesondererBerUcksichtigungderitalienischenRegelungeinvernehmlicherVerfahrensbeendigung」(2006)○. 7. 「刑 イ タ.

(8) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 察 官 か らは一一 定 の 減 刑 が,被 告 人 か らは公 判 に お け る手 続 権 利 の 放 棄 が 合 意 され るが,そ. こ に取 引 的 要 素 の 存 在 を 認 め る こ とが で き る。. イ タ リアの 取 引 手 続 につ いて,ド. イ ツの 判 決 合 意 との 比 較 か ら,次 の よ. う に分 析 され て い る。 イ タ リアの 取 引 手 続 は,両 当事 者 に一一 定の処分権を 認 め る手 続 原 理 に基 づ くもの で あ り,実 体 的 真 実 の 探 求 を 相 当程 度 放 棄 す る もの で あ る。 特 に,ド イ ツの 判 決 合 意 と異 な り,合 意 の 主 体 か ら裁 判 官 を除 外 した こ と,減 刑 の 範 囲 が 明 確 に法 定 され た こ と は,被 告 人 に対 す る 合 意 に応 じる こ とへ の 圧 力 を 防 止 す る意 味 で 重 要 で あ る⑰。. (4)そ の 他 そ の 他 の 欧 州 諸 国 に お け る取 引手 続 と の 比 較 に よ る考 察 も,活 発 で あ る(⑧ 。 スペ イ ン は,す で に1882年 に,英 米 法 の 有 罪 答 弁 に匹 敵 す る 「罪 責 承 認 手 続 」(conformidaddesacusado)を. 導 入 して い る。 ス ペ イ ンは,現 在 で. も,基 本 的 に糾 問 的 ・職 権 主 義 的 訴 訟 構 造 を 持 つ が,他 方 で,当 事 者(被 告 人)に 一一 定 の 処 分 権 を 認 め る と い うか た ちで 当事 者 主 義 的 訴 訟 構 造 との 融 合 が 図 られ て い る。2003年 改 正 法 に よ る と,被 告 人 が す で に捜 査 段 階 に お いて 自 白を した場 合,必 要 的 に減 刑 され る。 この 罪 責 承 認 手 続 は,被 告 人 側 の 一一 方 的 な 訴 訟 行 為 で あ る と理 解 され て い るが,そ の 前 提 と して,刑 事 訴 追 機 関 との 交 渉 お よ び一一 定 の 合 意 が 必 要 とな る。 スペ イ ンで は,こ の よ うな 取 引 的 要 素 と,糾 問 的 ・職 権 主 義 的 訴 訟 構 造,起 訴 法 定 主 義 と い っ た刑 事 訴 訟 上 の 基 本 原 理 との 関 係 に お いて,合 意 に よ る訴 訟 形 成 の 考 え 方 が 優 越 して い る と評 価 され て い る⑲。. ⑰Weichbrodt(前 ㈹. 掲 注 ⑯)318頁. 直 近 の も の と し てMuller(前. ⑲Mtiller(前. 掲 注(8))343頁. 以 下,321頁 掲 注(8))。. 以下。. 8. 以 下。.

(9) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). フ ラ ン ス は,刑 事 手 続 の 迅 速 性 ・効 率 性 と,市 民 の 手 続 的 権 利 の 保 障 と を 目標 と して,2000年. に刑 事 手 続 の 大 改 正 を 行 って い る。 そ の 際,手 続 打. 切 規 定 に加 え て,合 意 に よ る事 件 処 理 に向 け た手 続 も導 入 され て い る。 フ ラ ン スの 合 意 手 続 で は,捜 査 段 階 で 被 疑 者 が 自 白 した 場 合,検 察 官 が 被 疑 者 に一一 定 の 刑 を 提 示 し,被 疑 者 が これ に 同意 す る と,対 審 公 判 を 経 る こ と な く直 ち に判 決 手 続 に移 行 す る。 この よ うな フ ラ ン スの 合 意 手 続 は,ド イ ツの 略 式 手 続 に近 いが,そ の 手 続 内容 お よ び適 用 範 囲 が 厳 格 に法 定 され て い る こ とか ら,交 渉 の 余 地 が 少 な く,特 に被 疑 者 が 未 決 勾 留 に付 され て い る場 合 に は,検 察 官 の 提 案 に応 じるべ き方 向 に向 けた 相 当 な 圧 力 が 存 在 す る。 こ の合 意 手 続 に対 して は,フ ラ ンス 国 内 で も批 判 が 強 い(「 答 弁 」 で は あ るが,「 取 引」 で は な い!)⑳ 。 ポ ー ラ ン ドは,1998年. 新 刑 訴 法 に よ り,略 式 手 続 に加 え,合 意 手 続 を 法. 定 した。 この 手 続 は,検 察 官 と被 告 人 が 合 意 の うえ,公 判 を 経 な いで 直 ち に有 罪 判 決 が 下 され るべ き こ と と,そ の 場 合 の 科 刑 を 申 し立 て,裁 判 所 が これ を 受 理 す る と,直 ち に判 決 に移 行 す る と い う もの で あ る。2003年 改 正 に よ り,こ の 手 続 に よ る場 合,法 定 刑 を 下 回 る科 刑 も可 能 と され る こ と に な って い る。 裁 判 所 は,当 事 者 の 申立 に拘 束 を 受 け る こ とな く,こ れ を 否 認 して 通 常 手 続 に移 行 す るか,ま. た は 申立 内容 を 修 正 す る こ と もで き る。. 後 者 の 場 合,裁 判 所 も その 時 点 で 交 渉 主 体 とな り,両 当 事 者 との 間 で 合 意 が 形 成 され るべ き こ と にな る。 ポ ー ラ ン ドの 刑 事 訴 訟 は,新 法 にお いて も な お起 訴 法 定 主 義 ・実 体 的 真 実 解 明 原 則 を 基 本 とす るが,合 意 手 続 の 導 入 に よ り,い わ ば混 合 的 な 訴 訟 構 造 に変 化 した と評 価 され るel)。. ⑳Muller(前. 掲 注(8))351頁. 以下。. ⑳Mtiller(前. 掲 注(8))359頁. 以下。. 9.

(10) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. (5)ノJ、 非 舌 以 上 の と お り,現 在 の 国 際 的 状 況 を み る と,訴 訟 構 造 に お いて 当事 者 主 義 を採 るか ま た は職 権 主 義 を 採 るか に関 わ らず,刑 事 手 続 に取 引 的 要 素 が 介 在 す る こ と は,も はや 普 遍 的 な 現 象 とな って い る。 その 際,刑 事 訴 訟 に お け る真 実 の 解 明 を どの よ う に理 解 す るべ きか が,取 引 に よ る事 件 処 理 の 正 統 化 に と って,最 大 の 課 題 とな る。 ア メ リカや イ ン グ ラ ン ドの よ う に, 基 本 的 に各 当事 者 の 訴 訟 対 象 に関 す る処 分 権 を(少 な くと も一一 定 程 度)承 認 す る場 合 は格 別,職 権 主 義 に基 づ く真 実 解 明 を 原 則 とす る法 制 に お いて も,当 事 者 の 合 意 した 内容 につ いて 裁 判 所 に一一 定 の 拘 束 性 を 認 め るな ど, 取 引 的 要 素 に よ る一一 定 の 修 正 が み られ る。 これ に対 し,ド イ ツの 判 決 合 意 は,少 な くと も現 在 の 実 務 で 一般 的 な 形 態 に お いて は,裁 判 長 の 主 導 の も と,職 権 主 義 に基 づ く真 実 解 明 の 原 則 を 損 な わ な い こ とが 前 提 とな って い る。 この よ うな 訴 訟 構 造 に お いて,取 引 的 要 素 は いわ ば異 分 子 的 な 存 在 とな る。 それ ゆえ,ド. イ ツの 判 決 合 意 は,. 諸 外 国 との 比 較 に お いて,依 然 と して 職 権 に よ る真 実 探 求 との 葛 藤 が 残 さ れ て い る と い う意 味 で,異 質 の もの と理 解 され る。. 2.判. 決合意手続の許容性. (1)一 般 的 許 容 性 判 決 合 意 は,ド イ ツ刑 事 手 続 に お い て そ もそ も許 容 され る もの で あ る か 。 まず,こ の 根 源 的 な 問 題 につ いて の 議 論 を 概 観 す る。 (i)反対 論 か らは,こ の 手 続 が 実 務 先 行 で あ り,立 法 お よ び学 説 に お け る 法 的 ・理 論 的 裏 付 けな く実 務 の 必 要 性 の み に よ り運 用 され て い る こ とが 批 判 され る。 それ ゆえ,こ の 手 続 が 議 論 の 姐 上 に載 せ られ て 以 来,現 行 法 体 系 お よ び手 続 原 理 との 適 合 性 が 常 に問 題 と され て き た。 ま た,司 法 機 関 と犯 罪 者(被 告 人)と の 交 渉 は 「正 義 」 との 取 引 で あ っ 10.

(11) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). て お よ そ許 され るべ き もの で はな い と い う こ と も,否 定 的 要 素 と して 挙 げ られ る。 正 義 との 取 引 と い う批 判 点 は,実 務 で 密 か に行 わ れ て きた 判 決 合 意 の 問 題 を初 め て 露 見 した 著 名 弁 護 士 に よ る論 文 が 「Deal」 と い うペ ン ネ ー ム(所 属 は 「Mauschelhausen」=闇. 取 引 の館)で. 執 筆 され て い る こ. と に も表 わ され る よ う に四,判 決 合 意 に つ い て常 に指 摘 さ れ る 問題 で あ る。 取 引 に よ って 実 体 的真 実 と異 な る事 実 認 定 お よ び法 効 果 を もた らす 判 決 は,も は や正 義 の名 に お い て支 持 さ れ な い とい うわ け で あ る㈱。 も っ と も, 刑 事 司 法 に お け る正 義 は常 に 実 体 的真 実 を前 提 と しな け れ ば な らな い か は,そ れ 自体 重 要 な 問 題 で あ る。 刑 事 手 続 の 究 極 の 目標 は,犯 罪 に よ って か く乱 され た法 秩 序 を 回 復 し,改 めて 法 的 平 穏 を 創 設 す る こ とで あ る。 実 体 的 真 実 発 見 は絶 対 的 な もの で はな く,手 続 的 に正 統 な 裁 判 との 衡 量 に よ り,判 決 が 正 義 を 実 現 す る もの で あ るか が 決 せ られ るべ き と い うわ けで あ る⑳。 その 他,取 引 に基 づ く手 続 運 営 は,英 米 にお け る手 続 文 化 に よ る もの で あ って,大 陸 法 的 手 続 構 造 を 持 つ ドイ ツの 法 文 化 に適 合 しな い と も批 判 さ れ る。 しか し,手 続 構 造 の 違 い は,手 続 主 体 の 関 与 の 仕 方 に影 響 す る と し て も,前 述 の 他 の 欧 州 諸 国 の 動 向 か らも,取 引 的 要 素 の 導 入 可 能 性 を 左 右 す る もの と は いえ な い。 (ii)肯 定 論 か らは,ま ず,BGH判. 例 で も強調 され る よ う に,判 決 合 意 手 続. が 実 務 の 負 担 を 軽 減 させ,効 率 的 ・実 効 的 な 刑 事 司 法 の 実 現 に奉 仕 す る も の で あ る こ とが 指 摘 され る。 しば しば,こ の 手 続 が ドイ ツ刑 事 裁 判 に欠 か. ⑳DetlefDeal「DerstrafprozessualeVergleich」StV1982,545。 ⑳BerndSchUnemann「DieinformellenAbsprachenalsUberlebenskrisedesdeutschenStrafverfahrens」 mann」361,380頁 ⑳Weichbrodt(前 向 け た 過 程 で. 「FestschriftfurJUrgenBau-. 以 下(1992)。 掲 注 ⑯)38頁. 以 下 は,「. しか な い 」 と 述 べ る 。. 11. 実 体 的 真 実 の 探 求 は,正. 義 の 追 求 に.

(12) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. す こ との で きな い ほ ど に まで 発 展 し,も はや これ を 排 除 す る こ と(後 戻 り す る こ と)な どで き な い と い う ご と くで あ る㈱。 も っ と も,こ れ に 対 して は,刑 事 司 法 の 負 担 過 剰 は人 的 ・金 銭 的 資 源 の 乏 しさ に 原 因 が あ る の で あ って,そ の 対 応 策 を 取 引 的 要 素 の 導 入 に求 め るの は本 質 的 で はな い との 疑 問 も考 え られ る。 肯 定 論 か らは,刑 事 司 法 の 負 担 軽 減 は手 続 関 係 人 に と って の 利 益 が 大 き い と も指 摘 され る。 裁 判 官 お よ び検 察 官 の 負 担 軽 減 は刑 事 司 法 の 効 率 性 に つ な が るが,弁 護 人 お よ び被 告 人 に と って の 利 益 も否 定 で きな い。 弁 護 人 は,取 引 に よ り簡 易 迅 速 に手 続 が 終 結 され る こ とで 多 くの 事 件 を 担 当す る こ とが で き る。 ま た,裁 判 所 お よ び検 察 官 との 間 で 取 引 を 成 功 させ る こ と は,法 律 専 門 家 同士 の 結 束 を 固 め,将 来 の 仕 事 が 円滑 に行 う こ とが で き る (つ ま り 「話 せ る奴 で あ る」 と の評 価 を 高 め る)こ. と も,弁 護 人 に と って. の 利 益 と され る。 被 告 人 も,手 続 の 緩 和 に よ り,時 間 的 ・精 神 的 ・身 体 的 な 苦 痛 が 軽 減 され る。 取 引 に よ り減 刑 され る こ と も,大 きな 利 益 で あ る。 も っ と も,弁 護 人 を 含 め た法 律 専 門 家 の 利 益 は三 者 の 間 で 共 通 一致 す る も の で あ る が,そ れ が 被 告 人 の利 益 に 適 合 す る と は 限 ら な い。 端 的 に い え ば,弁 護 人 と被 告 人 の 利 益 が 対 立 す る と き(例 え ば被 告 人 が 無 実 で あ る場 合 や,公 判 で 納 得 い くまで 争 い た い と希 望 す る場 合 な ど)に は,弁 護 人 が 自 己の 利 益 を追 求 す る あ ま り,被 告 人 を いわ ば 「売 り渡 して しま う」 場 面 も考 え られ な くはな い。 従 って,当 事 者 の 利 益 は,特 に被 告 人 の 利 益 と そ の 他 の 関 与 者 の 利 益 との 前 述 の よ うな 関 係 に お いて,判 決 合 意 を 肯 定 させ る要 素 と して 過 度 に強 調 され て はな らな い⑳。. (2D本. 文 前 掲BGH大. ⑳Weichbrodt(前. 刑 事 部2005年 掲 注 ⑯)129頁. 決定。 以 下。. 12.

(13) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). (2)憲 法 お よ び制 定 法 原 理 との 適 合 性 一般 的 許 容 性 論 に加 え て ,よ. り法 律 論 的 観 点,判 決 合 意 は憲 法 原 理 お よ. び制 定 法 原 理 に反 しな い か と い う観 点 か ら,そ の 許 容 性 が 検 討 さ れ て い る。 個 別 の 問 題 点 は項 を 改 めて 詳 論 す るが,基 本 的 諸 原 理 との 関 係 は あ る べ き手 続 形 成 に 向 けた 立 法 論 に もつ な が り う る もの で あ る か ら伽,こ こで 概 観 して お こ う。 (i)憲 法 との 適 合 性 ドイ ツ基 本 法(GG)103条1項. は,「 被 告 人 の基 本 権」 とい う タ イ トル. の も と,「裁 判 所 の 面 前 にお いて,何 人 に も,法 的 聴 聞 を 受 け る権 利 が 与 え られ る」 と規 定 す る。 これ に よ って,被 告 人 は,原 則 と して 裁 判 が 下 され る前 に その 基 礎 とな るべ き公 訴 事 実 につ いて 意 見 を 述 べ,そ の 結 果 と して 裁 判 所 の心 証 形 成 に働 き か け る こ とが で き る㈱。 さ らに,被 告 人 は,手 続 に お いて 単 な る客 体 と して の 地 位 に おか れ て はな らず,主 体 的 な 地 位 が 保 障 さ れ な けれ ば な らな い。 こ の こ とは,一 般 的 人 格 権(GG2条1項)お よ び人 間 の 尊 厳 原 理(GG1条1項)か. ら も要 請 さ れ る。 しか し,判 決 合 意. は,通 常 の 場 合,被 告 人 を 除 い た法 律 専 門 家(裁 判 長,検 察 官,弁 護 人) の 間 で 合 意 が 形 成 され,被 告 人 は,弁 護 人 を 通 じて そ の 結 果 を 知 ら され, ただ これ に応 じるの み で あ る と され て い る。 この よ うな 形 で 裁 判 結 果 が 形 成 され る判 決 合 意 は,被 告 人 を 単 な る手 続 客 体 と して の 地 位 に疑 め,そ の 法 的 聴 聞 を 受 け る権 利 を 害 す るの で はな いか が 問 題 とな る。 この よ うな 問 題 を 回 避 す る た め に は,合 意 の 形 成 に際 し,被 告 人 を 関 与 させ,ま た は少 な くと も その 意 思 が 弁 護 人 を 通 じて 的 確 に反 映 され る よ う,配 慮 され な け れ ばな らな い。. ⑳Muller(前. 掲 注(8))85頁. 以下。. (28)BVerfGE1,418。. 13.

(14) 近畿大学法学. GG92条. 第58巻 第1号. は,司 法 権 は 裁判 官 に委 ね られ る こ と と し,GG101条1項2文. は,法 定 され た裁 判 官 に よ り裁 判 が 行 わ れ るべ き こ とを 定 めて い る。 例 え ば,合 意 に基 づ いて 判 決 が 下 され る場 合,本 質 的 に その 内容 が 公 判 外 の 場 で,裁 判 長,検 察 官,弁 護 人 の 三 者 で 決 定 され る こ と にな れ ば,司 法 権 が 法 定 され た裁 判 体(参 審 員 を 含 む)に. よ って の み 行 使 され るべ き右 憲 法 原. 則 との 関 係 が 問 わ れ る。 この よ うな 観 点 か らは,参 審 員 を 合 意 の 交 渉 に関 与 させ るか,ま. た は少 な くと も合 意 の 本 質 部 分 が 公 判 で 行 わ れ る こ とが 確. 保 され な けれ ばな らな い㈲。 GG3条1項. は,法 の前 の 平 等 的取 扱 の 原 則 が定 め られ る。 こ の一一 般的. 平 等 原 則 か らは,本 質 的 に等 しい もの は法 的 に対 等 に扱 わ れ な けれ ばな ら な い。 例 え ば,刑 事 被 告 人 は,手 続 に お い て平 等 の手 続 的権 利 が与 え られ, 同種 同等 の 犯 罪 に対 して 本 質 的 に 同一一 の 刑 に よ り制 裁 され るの で な けれ ば な らな い。 しか し,判 決 合 意 は,弁 護 人 の 存 在 が 不 可 欠 で あ る。 被 告 人 が 弁 護 人 を 雇 用 で き る場 合 と,資 力 等 の 理 由で 雇 用 で きな い場 合 とで,そ. も. そ も合 意 手 続 に よ る利 益 を 受 け得 るか 否 か で 差 異 が 生 じる。 合 意 手 続 に よ る場 合 と そ うで な い場 合 との 格 差 が,い わ ゆ る 「二 段 階 司 法」(Klassenjustiz)(30)と 表 され る よ う に,不 平 等 取 扱 と評 価 され るわ け で あ る。 この 問 題 を解 消 す る た め に は,判 決 合 意 を 一切 否 定 す るか,ま. た は判 決 合 意 を 導 入. す るの で あれ ば,恣 意 的 に不 平 等 扱 いが な され な い よ う,対 立 手 続 との 違 い を実 質 的 に正 当化 で き る よ うな 利 益 衡 量 に基 づ い た条 件 が 法 定 され る こ とが 必 要 で あ る。 (ii)刑 事 実 体 法 との 関 係 実 体 法 規 定(主 と して 「刑 法 典 」(StGB))と ⑳BerndSchunemann「WetterzeicheneineruntergehendenStrafproze Bkultur?」StV1993,657。 ⑳WernerSchmidt-Hieber「AbsprachenimStrafprozeB-Privilegdes Wohlstandskriminellen?」NJW1990,1884。. 14. の 関 係 で は,量 刑 に関 す る.

(15) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 一一 般 原 則 を定 め たStGB46条1項. との 適 合 性 が 問 題 と な る。 そ こ で は,. 「行 為 者 の責 任 が量 刑 の基 礎 で あ る」こ と,す な わ ち責 任 相 応 刑 の 原 則 が 明 示 され て い る。 この 責 任 相 応 刑 原 則 との 関 係 は,後 述(5(1))で その 他,StGBと. 詳 論 す る。. の 関 係 につ い て,例 え ば 憲法 裁判 所BDは,判 決 合 意 が 行. わ れ た際,そ れ が 極 端 に実 体 と は異 な る事 実 認 定 や 法 律 適 用 に至 る場 合 に は,法 律 歪 曲 罪 や 処 罰 妨 害 罪 な ど に よ る処 罰 の 可 能 性 を 認 めて い る。 ㈹. 刑 事 手 続 法 との 関 係. 刑 事 手 続 法 との 適 合 性 に 関 して,特 「裁 判 所 構 成 法 」(GVG)に StpO244条2項. に 「刑 事 訴 訟 法 」(StpO)お. よび. お いて 示 され る手 続 原 理 との 関 係 が 問 わ れ る。. は,ド イ ツ刑 事 訴 訟 の 本 質 で もあ る,職 権 に よ る実 体 的. 真 実 解 明 の 原 則 を 定 め る。 裁 判 所 が 被 告 人 との 合 意 に向 けた 交 渉 にお いて 事 実 面 ま た は法 効 果 面 に お いて 一一 定 の 処 分 を 行 う場 合,裁 判 所 は本 原 則 に 反 す るの で はな いか が 問 題 とな る。 この 点 につ いて,新 法 は,合 意 手 続 の 中核 的 規 定 で あ るStPO257c条. に お い て,職 権 解 明 原 則 はそ の ま ま妥 当 す. る こ とを 明 示 した。 これ に よ る と,合 意 手 続 に お いて もな お,裁 判 所 は, 実 体 的 真 実 解 明 を 義 務 付 け られ,合 意 手 続 に お け る事 実 面 ・法 効 果 面 で の 処 分 を 許 され な い。 それ ゆえ,合 意 締 結 に よ り被 告 人 の 自 白の み に基 づ い て 判 決 が 下 され る場 合 で も,そ の 信 用 性 が 慎 重 か つ 入 念 に審 査 され な けれ ばな らな い。 も っ と も,こ の よ うな 前 提 が そ も そ も合 意 手 続 の 趣 旨 に沿 う もの で あ るか は問 題 で あ る。 それ ゆえ,刑 事 訴 訟 にお け る 「真 実 」 の 理 解 (刑事 手 続 に お け る正 義 の実 現 に と って真 実 が至 上 の もの とさ れ る べ き か) が,改. めて 問 題 とな る勧。. GVG169条 (31)本. は,「 事 実 審 裁 判 所 の 面 前 で の審 判 は,判 決 宣 告 お よ び 決 定. 文 前 掲 憲 法 裁 判 所1987年. 決定。. 圃Roxin/SchUnemann「Strafverfahrensrecht26Auf.』2頁(2009)に と,「 刑 事 手 続 の 目 的 は,被 く,(2)訴. よる. 疑 者 ・被 告 人 の 可 罰 性 に 関 し て,(1)実. 訟 規 定 に 則 っ て 成 立 した,(3)法. 15. 的 平 穏 を 創 設 す る,裁. 体 的 に正 し. 判 で あ る 」。.

(16) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. の 場 合 も含 めて,公 開 で 行 わ れ る」 と規 定 す る。 判 決 合 意 手 続 は,そ れ が も っぱ ら公 判 外 の 密 室 で 裁 判 長 を 含 め た手 続 関 係 人 に よ って 締 結 され る と す る と,こ の 公 開 原 則 との 適 合 性 が 問 わ れ る。 裁 判 の 公 開 は,ヨ ー ロ ッパ 人 権 条 約(EMRK)6条1項. に規 定 され る と お り,一 義 的 に は,密 室 で は. な く白 日の も とで 裁 判 を 受 け る こ との 被 告 人 の 権 利 で あ るが,こ れ に と ど ま らず,社 会 へ の 情 報 提 供 お よ び それ に基 づ く司 法 の 統 制 を も 目的 とす る もの で あ る。 それ ゆえ,単 純 に,訴 訟 関 係 人 の 処 分 に委 ね られ るべ き もの で はな い。 も っ と も,従 来 か ら,公 判 前 ・外 で,訴 訟 関 係 人 が 裁 判 長 と適 宜 打 合 せ す る こ と は,何. ら否 定 され るべ き もの と は理 解 され て いな い。 判. 決 合 意 手 続 に お いて も,公 判 外 の 交 渉 が その よ うな 単 な る打 合 せ に と ど ま る程 度 の もの で あれ ば,必 ず しも公 開 原 則 に反 す る もの で はな い。 StpO261条. は,裁 判 所 の 判 決 は,公 判 に お け る 「審 理 の総 体 」 に基 づ い. て 下 され な けれ ばな らな い こ とを 定 め る。 裁 判 所 は,自 身 の 面 前 に お け る 公 判 廷 に顕 出 され た事 実 お よ び証 拠 に基 づ いて,被 告 人 が 有 罪 で あ る こ と の 自身 の 確 信 が 形 成 され た場 合 に限 り,有 罪 判 決 を 下 す こ とが で き る。 し か し,判 決 合 意 手 続 に お いて,公 判 前 ・外 の 交 渉 の 場 で 裁 判 所 の 心 証 形 成 が 行 わ れ る こ と にな る と,こ の 公 判 中心 主 義 ・自 由心 証 主 義 との 適 合 性 が 問 わ れ る。 つ ま り,合 意 が 判 決 に と って 代 わ る こ と は許 され な い。 この こ と は,判 決 の 基 礎 とな る事 実 面 だ けで な く,特 定 の 刑 量 が 約 束 され る場 合 も 同様 で あ る。 量 刑 が 公 判 外 の 合 意 の 場 で 決 定 され,裁 判 所 が これ に拘 束 され る とな る と,StpO261条. に違 反 す る。 従 って,こ の 公 判 中心 主 義 ・自. 由心 証 主 義 との 関 係 に お け る調 整 が 必 要 とな る。 最 後 に,StPO136a条. は,拷 問等 に加 え,不 当な 強 制 や 欺 岡 等 に よ る尋. 問 を禁 止 す る。 合 意 交 渉 が 被 告 人 の 自 白を 対 象 とす る と き,本 条 で 禁 止 さ れ る方 法 に該 当す る こ と にな って はな らな い。 それ ゆえ,判 決 合 意 に お い て 被 告 人 に 自 白の 提 供 を 求 め るな らば,そ れ が 被 告 人 の 自 由な 意 思 決 定 に 16.

(17) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 基 づ く も の で あ る こ と が 担 保 さ れ な け れ ば な らな い㈱。. 3.判. 決合意の法的性質剛. 判 決 合 意 手 続 は,法. 的 に どの よ うな 性 質 を 持 つ もの で あ るか 。 判 決 合 意. 手 続 は,「取 引」(Handel)(3D,「 和 解 」(Vergleich)㈱,「 合 意 」(Verstandigung), 「判 決 合 意 」(Absprache)な して そ の 効 果(特. ど と多 様 に 称 せ ら れ て い る が,こ. に 合 意 内 容 の 拘 束 力)如. 何,す. れ も,主. と. な わ ち法 的 性 質 如 何 の 問. 題 と関 連 す る。. (1)訴. 訟行為説. こ の 見 解 は,判 決 合 意 は 単 に 訴 訟 関 係 人 の 訴 訟 行 為 で あ る と説 明 す る(3の 。 訴 訟 行 為 と は,訴 す る 行 為,つ ば 告 訴,公. 訟 関 係 人 が 訴 訟 上 の 法 律 効 果 を そ の 意 思 に基 づ いて 惹 起. ま り明 確 な 意 思 に よ っ て 訴 訟 を 促 進 す る べ き 表 示 行 為(例 訴 提 起,判. 訟 関 係 人(特. 決,上. 訴 申 立 な ど)で. に 裁 判 所)に. ら に他 の 訴. よ る 特 定 の 行 為 を 求 め る べ き 取 効 行 為(Er-. wirkungshandlung)と,そ. れ 自 体 で 一一 定 の訴 訟 的効 果 を生 じ させ るべ き. 与 効 行 為(Bewirkungshandlung)と ㈱Schunemann(前. あ る 。 こ れ は,さ. え. に 区 別 さ れ る ㈱。. 掲 注 ⑳)370頁. は,被. 疑 者 ・被 告 人 の 包 括 的 な 防 御 権 放 棄 に. 対 す る 司 法 側 か ら の 濫 用 を 阻 止 す る 規 定 の 欠 訣 が,合. 意 手続 の 許 容 性 を 否 定 さ. せ る要 因 で あ る と述 べ て い る。 (3・DAriadneIoakimidis『DieRechtsnaturderAbspracheimStrafverfahren』(2001),邦. 語 文 献 と して,田. 口守 一. 「ド イ ツ 刑 事 訴 訟 に お け る 合 意 手. 続 の 法 的 構 成 」 『光 藤 景 咬 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 ・上 巻 」355頁(2001。 の 目 的 」(2007)所 (3DSchumann(前 ㈹Deal(前. 収)。 掲 注(3))。. 掲 注 ⑳)545頁. 。. (3TWernerSchmidt-Hieber『Verst註ndigungimStrafverfahren:M6glichkeitenundGrenzenftirdieBeteiligtenindenVerfahrensabschnitten」109頁. 以 下(1986)。. 劔Roxin/SchUnemann(前. 掲 注(32))140頁. 17. 。. 『刑 事 訴 訟.

(18) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. す な わ ち,論 者 に よ る と,こ れ を 判 決 合 意 に関 して,合 意 自体 は,合 意 当事 者 に よ る後 の 履 行 行 為 を 要 求 す る と い う意 味 で 取 効 行 為 で あ り,合 意 を実 行 す る行 為 が,与 効 行 為 で あ る。 しか し,判 決 合 意 を 訴 訟 行 為 で あ る と位 置 づ けて も,そ こか ら,そ の 法 的 効 果,特. に拘 束 力 を 持 つ か 否 か につ. いて,特 定 の 結 論 が 推 論 され るわ けで はな い。 それ ゆえ,こ の 見 解 は,具 体 的 問 題 の 解 決 に有 益 な もの で はな い紛。. (2)非 拘 束 的 予 測 説 この 見 解 は,前 述 訴 訟 行 為 説 と並 行 して 主 張 され,判 決 合 意 は訴 訟 関 係 人 間 で の 訴 訟 の 進 行 お よ び結 論 に関 す る単 な る(拘 束 力 の な い)予 測 的 行 為 で しか な い と説 明 す る㈲。 訴 訟 関係 人 は,手 続 終 結 前 に,手 続 結 果 につ いて の 法 律 上(さ. らに は事 実 上 も)拘 束 力 あ る意 思 表 示 を 行 う こ とな どで. きな い,そ れ ゆえ,判 決 合 意 で 提 示 され た各 約 束 条 件 は,何. ら拘 束 力 が 認. め られ る こ との な い単 な る予 測 的 陳 述 にす ぎな い と い うわ けで あ るω。 この 見 解 に対 して は,そ れ は循 環 論 法 で あ る との 批 判 に加 え て,訴 訟 現 実 に合 致 しな い との 批 判 が あ る。 実 際 の 訴 訟 で は,各 訴 訟 関 係 人 は お互 い に合 意 され た約 束 の 遵 守 を 目指 して 活 動 し,相 手 方 の 合 意 内容 の 履 行 に対 して 一一 定 の 信 頼 が 存 在 す る と い う点 が ま っ た く看 過 され て い る と い うわ け で あ る。 さ ら に,「 非 拘 束 的 予 測 」 とい う名 前 自体 が 概 念 矛 盾 で あ る,合 意 手 続 で は相 互 に関 連 した従 属 的 な 行 為 が 約 束 され るの で あ り,各 主 体 が 自身 の 行 為 を 一一 方 的 に予 測 して い るわ けで はな い と も批 判 され る働。. ㈲Ioakimidis(前 ωSchmidt-Hieber(前. 掲 注(34))111頁. 。. 掲 注(3①)1885頁. 。. ωWernerSchmidt-Hieber「AbsprachenimStrafprozess-RechtsbeugungundKlassenjustiz?」DRiZ1990,321。 (42)Ioakimidis(前. 掲 注 ⑳)113頁. 以 下 。. 18.

(19) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). (3)目 論 見 表 明 説 この 見 解 は,合 意 交 渉 に お け る各 主 体 の 意 思 表 示 を,自 己 の 将 来 の 訴 訟 活 動 に 向 け た 目論 見(Absicht)の. 表 明 で あ る と理 解 す る。 これ は,さ. ら. に,そ の拘 束 力 の 存 否 に よ り,「不 安 定 的 目論 見 表 明 」 と 「安 定 的 目論 見 表 明 」 と に区 別 され る。 前 者 は,相 手 方 の 将 来 の 一 定 の 行 動 に対 す る 自己 の 行 動 の 目論 見 を 表 明 す る も の で あ り,後 者 は,確 定 的 な 目論 見 と して (但 し,一 一 定 の条 件 を付 加 す る こ と もあ る)表 明 さ れ る もの で あ る㈲。 前 者 に対 して は,非 拘 束 的 予 測 説 と 同様,実 際 の 合 意 実 務 を 反 映 す る も の で はな い とす る批 判 が あ る。 後 者 に対 して も,合 意 内容 に一 定 の 拘 束 力 が 認 め られ るの は,例 え ば裁 判 長 の 刑 の 上 限 の 告 知 に見 る よ う に,そ の 意 思 表 示 の 存 在 自体 とい う客 観 的 構 造 に 対 す る信 頼 保 護 の 観 点 に よ る の で あ って,表 明 主 体 が 如 何 な る意 図 で それ を 表 明 した か で 区 別 され るの は妥 当で はな い と批 判 され る幽。. (4)紳 士 協 定 説 この 見 解 は,判 決 合 意 は法 的 拘 束 力 こ そ認 め られ な いが,各 主 体 はそ の 約 束 遵 守 に向 けて 事 実 上 の 拘 束 を 受 け る と理 解 す る。 合 意 主 体 は,相 互 の 信 頼 に基 づ いて 各 々の 約 束 を 遵 守 す る こ と に努 め,こ の 意 味 で の 拘 束 は い わ ば紳 士 協 定 とい う性 質 の もの とい うわ けで あ る㈲。 この見 解 は,判 決 合. ⑬BerndSchUnemann「AbsprachenimStrafverfahren?Grundlagen, Gegenst証ndeundGrenzen『VerhandlungendesachtundfUnfzigsten DeutschenJuristentages:MUnchen1990BandI』74頁 (前 掲 注 ㈱)370頁 ωIoakimidis(前. 以. 。 掲 注(34))115頁. 。. ㈹JUrgenBaumann「VonderGrauzonezurrechtsstaatlichenRegelungEinVorschlagzurEinfUhrungdesRechtsgespr註chsin§265 StPO」NStZ1987,157,HansDahs「Verst註ndigungimStrafverfahren -M6glichkeitenundGrenzenfUrdieBeteiligtenindenVerfahren-/. 19. 下(1990),同.

(20) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 意 が 法 的 根 拠 を 持 たな い もの で あ る と して も,裁 判 実 務 の 実 情 を 的 確 に説 明 す る もの と して,学 説 上 有 力 に主 張 され る。 被 告 人 は,基 本 的 に 自 白の 提 供 と い う先 履 行 の リス クを 負 うが,裁 判 所 の 約 束 が 少 な くと も事 実 的 に (内部 的 に)拘 束 力 を もつ とす る こ と で,被 告 人 の 信 頼 も保 護 され る こ と に な る㈱。 この 見 解 に対 して は,事 実 的 拘 束 力 と い う構 成 自体 が 概 念 矛 盾 で あ る, 拘 束 力 は法 的 意 味 に お いて あ るか な いか が 問 題 と され るべ きで あ り,仮 に 約 束 が 遵 守 され な い場 合 に何 ら法 的 な 効 果 が 生 じな い と い うの で あれ ば, それ は単 に拘 束 力 が な い と い う にす ぎな い と批 判 され る。 合 意 の 当事 者 が 相 手 方 の 履 行 を 法 的 意 味 に お いて 信 頼 で きな いの で あれ ば,そ れ は公 正 手 続 原 則 に も適 合 しな い と い うわ けで あ る㈲。. (5)契 約 説 こ の見 解 は,判 決 合 意 の 法 的 拘 束 力 を肯 定 す る。 「契 約 」(Vertrag)の 概 念 は,単 に民 法 上 の もの に と ど ま らず,公 法 を 含 め た あ らゆ る法 領 域 に お いて 妥 当す る もの で あ り,2名. 以 上 の 意 思 が 合 致 す る こ と に よ り一一 定の. 法 的 効 果 を 生 じさせ る もの で あ る。 各 主 体 が 自律 的 に特 定 の 内容 を 合 意 す る こ と に よ って,い わ ば法 創 造 的 意 義 を 持 つ 。 判 決 合 意 も,こ の 意 味 で 契 約 と構 成 され るべ きで あ り,そ の 締 結 に よ り,合 意 内容 に基 づ いて 一一 定の 法 律 関 係 が発 生 し,そ こ に法 的 拘 束 力 も認 め られ る と い うわ け で あ る㈹。 この 見 解 に よ る と,合 意 は,契 約 と して その 法 律 効 果 が 肯 定 され るが,例 え ば合 意 当事 者 の 一一 方 が 約 束 を 遵 守 しな い場 合,他 方 に は,こ れ に よ り履 \sabschnitten.VonWernerSchmidt=Hieber(Buchbesprechung)」 NJW1987,138。 ㈹MartinNiem611er「AbsprachenimStrafprozeB」StV1990,34. ㈲Ioakimidis(前. 掲 注(34))116頁. 。. ㈹Ioakimidis(前. 掲 注 ⑳)116頁. 以 下 。. 20.

(21) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 行 拒 否 権 が 生 じる。 ま た,す で に履 行 され た部 分 が あ る場 合(例 え ば被 告 人 が 自 白 を 提 供 した よ うな 場 合),契. 約 無 効 に伴 う遡 及 的 な 原 状 回復 請 求. 権 が 生 じる。 この よ う に,判 決 合 意 を 契 約 と理 解 し,一 一 定 の 法 律 効 果 を 承 認 す る見 解 は,確 か に,特 に被 告 人 の 信 頼 を 厚 く保 護 す る もの で あ り,そ れ 自体,論 者 が 述 べ る と お り,公 正 手 続 原 則 にか な う。 も っ と も,こ の よ うな 契 約 構 成 は,刑 事 手 続 原 則 との 適 合 性 が 問 わ れ な けれ ばな らな い。 特 に,国 家 刑 罰 権 を 契 約 対 象 とす る意 味 で の 処 分 権 は,民 事 事 件 にお け る(契 約)当 事 者 と異 な り,裁 判 所 を 含 む 司 法 機 関 に は認 め られ て いな いの で はな いか 。 これ に対 して は,裁 判 所 は真 実=事 実 を 処 分 す るわ けで はな い,約 束 は被 告 人 の 所 為 責 任 に相 応 した刑 の 範 囲 に限 られ る,そ れ ゆえ,裁 判 所 が 被 告 人 と合 意(=契. 約)を 締 結 す る こ と は国 家 刑 罰 権 を 処 分 す る もの で はな い. と反 論 され る㈹。. (6)ノJ、 非 舌 以 上 か ら,判 決 合 意 の 法 的 構 成 につ いて,法 的 拘 束 力 如 何 を め ぐる議 論 を 概 観 した。 学 説 上,法 的 拘 束 力 を 否 定 しつ つ,事 実 的 拘 束 力 の み 認 め る 見 解 が 有 力 で あ っ たが,近 時 は,契 約 構 成 に基 づ き一 定 の 法 的 拘 束 力 を 肯 定 す る見 解 も主 張 され て い る。 いず れ に して も,こ の 問 題 は,合 意 に対 す る被 告 人 の信 頼 を保 護 しつ つ, 既 存 の 刑 事 訴 訟 原 則 と如 何 に 適 合 す るか とい う難 問 を 提 起 す る もの で あ る。 こ の点 に つ い て,BGH前. 掲1997年 基 本 判 決 は,合 意 の 拘 束 性 を 基 本. 的 に承 認 しつ つ,被 告 人 の 罪 責 ま た は量 刑 に影 響 を 与 え う る新 事 実 が 判 明 した場 合 に限 り裁 判 所 は その 離 脱 を 許 され る と して いた が,2005年. 大刑事. 部 決 定 は,こ の 要 件 を 緩 め,右 事 情 が単 に(過 失 に よ っ て も)裁 判 所 に よ っ 働Ioakimidis(前. 掲 注 ⑳)134頁. 以下。. 21.

(22) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. て 看 過 され て い た にす ぎな い場 合 も離 脱 が 認 め られ る と した。 大 刑 事 部 決 定 に対 して,合 意 の 拘 束 力 に対 す る被 告 人 の 信 頼 よ りも実 体 的 真 実 発 見 に 重 き を置 い た もの との 批 判 も見 られ る⑳。 新 法 は,法 的 構 成 に関 す る説 明 は回 避 しつ つ,合 意 に一一 定の拘束力を付 与 して い る。 そ して,合 意 が 中絶 無 効 と され る場 合 に お け る法 的 効 果 と し て,相 手 方(被 告 人)の 信 頼 を 保 護 す るべ く,裁 判 所 に対 し,合 意 を 離 脱 す る 際 の 告 知 と理 由 説 明 を 義 務 付 け る こ と に よ り,手 続 的 に 解 決 を 図 っ た。 この 点 は,合 意 が 中絶 無 効 と され た場 合 の 効 果 如 何 お よ び被 告 人 の 信 頼 保 護 に関 す る問 題 と して,後. 4.自. に詳 述 す る。. 白の 取 扱. 判 決 合 意 手 続 は,自 明 で あ るが,簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 を 目的 とす る。 そ れ ゆえ,そ の 要 素 と して,被 告 人 側 か らの 自 白の 提 供 が 不 可 欠 で あ る。 合 意 締 結 に向 け た交 渉 に際 し,裁 判 所 か ら減 刑 な ど一一 定 の 利 益 が 提 案 され, 被 告 人 が これ に応 じて 自 白の 提 供 を 決 意 した場 合,こ の よ うな 自 白 は そ も そ も事 実 認 定 の 基 礎 と な る証 拠 と して 使 用 す る こ と が 許 さ れ る か61)。ま た,そ の よ う に して 提 供 され た 自 白 は,そ の 信 用 性 を 如 何 に して 審 査 され るべ きか 。. (1)自. 白の 証 拠 能 力. ドイ ツ 刑 訴 法 で は,被 疑 者 ・被 告 人 に は 供 述 を す る か 否 か を 自 ら決 定 し,自 己 に不 利 益 な 供 述 を 強 制 され る こ と はな い と い う意 味 で の 供 述 の 自 由性(黙 秘 権)が 保 障 され て い る こ とを 前 提 に,そ の 保 障 に向 け た様 々な. ⑳Duttge/Schoop「. 判 例 評 釈BGH大. 刑 事 部2005年3月3日. 2005,4210 (51)辻. 本典央. 「約 束 に よ る 自 白 の 証 拠 能 力 」 近 法57巻4号(2010)。. 22. 決 定 」StV.

(23) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 制 度 的 担 保 が 規 定 され て い る。 例 え ば,尋 問 に際 して,暴 行,欺 岡,不 当 な 強 制 等 の 手 段 に よ り被 疑 者 ・被 告 人 の 供 述 に向 けた 意 思 決 定 ・意 思 活 動 の 自 由を 侵 害 こ とが 禁 止 され(StPO136a条1項),こ. の 禁 止 に違 反 して 得. られ た 自 白 は絶 対 的 に(被 疑 者 ・被 告 人 の 同意 に関 わ らず)証 拠 か ら排 除 され る(StpO136a条3項)眺. 判 決 合意 手 続 に関 して,特 に 「欺 岡」,「不. 当強 制 」,「非 法 定 利 益 の 約 束 」 の 禁 止 類 型 が 問 題 とな る㈱。 第 一一に,合 意 交 渉 に際 して,司 法 機 関 側 が そ もそ も遵 守 す る意 思 の な い 利 益 を 提 示 し,こ れ に よ って 被 疑 者 ・被 告 人 に 自 白を 決 意 させ た 場 合,こ れ は欺 岡 に あ た り,禁 止 され る こ と につ いて は問 題 が な い。 例 え ば,警 察 や 検 察 官 か らの 減 刑 提 案 や,裁 判 所 か らの 刑 の 執 行 形 態 や 収 容 場 所 の 約 束 な ど,そ も そ も権 限 を 持 たな い機 関 が あ るか の よ う に告 知 す る場 合,あ. る. い は,当 該 手 続 状 況 に お いて,存 在 しな い証 拠 を 存 在 す る と偽 った り,法 律 の 状 況 につ いて 虚 偽 を 述 べ るな どの 行 為 が,こ. こで 禁 止 され る欺 岡 に該. 当す る勧。 第 二 に,不 当強 制 と は,逮 捕 ・捜 索 押 収 な ど法 定 され た 強 制 手 段 以 外 の もの で,被 疑 者 ・被 告 人 の 供 述 自 由を 侵 害 す る こ と に向 け られ た もの で あ る㈲。 判 決 合 意 に際 して,自 白 に対 して 提 案 され る利 益 が,も は や被 疑 者 ・ 被 告 人 に お いて 合 意 に応 じるか 否 か の 意 思 決 定 の 自 由が 残 され て いな い ほ ど過 剰 な もの で あ る場 合,不. 当強 制 に 当 た る。 自 白 した 場 合 に対 して 約 束. され る刑 量 と,合 意 を 拒 否 し通 常 の 対 立 的 手 続 に よ って 下 され る場 合 の 刑 S2)権. 利 告 知 義 務(StPO136条1項)に. 能 力 が 否 定 さ れ る(BGH刑 辻本典央. 対 す る違 反 の 場 合 も,一 事 第 五 部1992年2月27日. 「弁 護 権 の 実 質 的 保 障 」 犯 罪 と 刑 罰20号(近. S3)JudithHauer『GestandnisundAbsprache」262頁 励Hauer(前. 掲 注63))335頁. 定 の 場 合,証. 決 定=BGHSt38,214)。 刊 予 定)。 以 下(2007)。. 。. ㈲Meyer-GoBner/Cierniak『Strafprozessordnung:Gerichtsverfassungsgesetz,NebengesetzeunderganzendeBestimmungen52Auf」604頁 (2009)。. 23. 拠.

(24) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 量 とで,そ の 差 が 著 し く,も はや 被 疑 者 ・被 告 人 と して は合 意 を 拒 否 す る と い う選 択 肢 が 考 え られ な い場 合,供 述 に向 け た意 思 決 定 ・意 思 活 動 の 自 由が 不 当 に侵 害 され る こ と にな る。 従 って,司 法 機 関 側 が,こ の いわ ゆ る 「制 裁 幅」(許 容 され な い程 過 剰 な)を る場 合,StPO136a条. も って 被 疑 者 ・被 告 人 に 自 白を 求 め. に お け る禁 止 尋 問 手 段 に該 当 す る66)。も っ と も,判. 決 合 意 は,こ れ に よ って 自 白を 引 き 出 して 簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 を 目指 す も の で あ るか ら,「制 裁 幅」が 一一 定 の 範 囲 に と ど ま る場 合 は許 容 され な けれ ば な らな い。 この 制 裁 幅 の 許 容 範 囲 に関 して 見 解 が 対 立 して い るが,い ず れ にせ よ公 正 手 続 の 観 点 か らは,事 前 に減 刑 幅 が 法 定 され て い る こ とが 必 要 で あ ろ う㈱。 第 三 に,自 白す れ ば減 刑 す る との 提 案 は,そ れ を 許 容 す る法 規 定 が 存 在 しな い と き,非 法 定 利 益 の 約 束 に該 当 して 禁 止 され る こ と にな るの か が 問 題 とな る。 ドイ ツ刑 法 に は,日 本 と異 な り,量 刑 に関 す る一般 基 準 が 存 在 す る(StGB46条)。. これ に よ る と,被 告 人 の 犯 行 後 の 行 為 も,量 刑 に際 し. て 考 慮 され るべ き こ と と され て い る(同 条2項2文)。. そ こ で は,特 に被 害. 者 に対 す る損 害 賠 償 や 和 解 の 試 み が 明 示 され て い るが,こ れ は例 示 にす ぎ ず,刑 罰 目的 に反 しな い限 りで 列 挙 事 由以 外 の もの も考 慮 され て よ い。 判 例 お よ び学 説 の 支 配 的 見 解 に よ る と,被 告 人 の 公 判 に お け る 自 白 も,そ れ が 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 に基 づ くもの で あ る場 合,こ れ を 減 刑 方 向 で 考 慮 す る こ と が で き る⑬。 この よ う な 自 白 の減 刑 的 考 慮 は,行 為 者 の行 為 責 任 に 基 づ く一一 定 の 幅 の 範 囲 内で,具 体 的 に科 され るべ き刑 を 下 限 方 向 に お いて. 66)Hauer(前. 掲 注63))319頁,ThomasWeigend「DerBGHvorderHeraus-. forderungderAbsprachenpraxis」. 『50JahreBundesgerichtshof:Fest-. gabeausderWissenschaftBd.4:Strafrecht,StrafprozeBrecht」 1011,1039頁(2000)。 ⑳Hauer(前 68)BGH刑. 掲 注 励)239頁. 以 下 。. 事 第 一 部1951年4月10日. 判 決(BGHSt1,105)。. 24.

(25) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). 考 慮 す る にす ぎな いか ら,量 刑 に関 す る支 配 的 見 解 で あ る 「幅 の 理 論 」 と も適 合 す る と理 解 さ れ て い る(後 述5(1)参 照)。 こ の支 配 的 見 解 に対 して は,そ も そ も幅 の 理 論 を 前 提 とす る と,自 白 その もの の 減 刑 効 果 は あ くま で 司 法 機 関 側 の 量 刑 に お け る裁 量 の 範 囲 内の もの で あ る に と ど ま り,そ こ に 「利 益 性 」 が 認 め られ るの か は疑 問 で あ る と批 判 され る。 む しろ,自 白 に対 す る減 刑 効 果 は,実 体 法 上 の 量 刑 論 に よ る利 益 で はな く,手 続 促 進 に 対 す る報 奨 と して 手 続 的 な 利 益 で あ る と理 解 し,手 続 法 の 整 備 に よ って 初 めて 合 法 利 益 にな る と い うわ けで あ る翻。 な お,合 意 が い っ たん 締 結 され,被 告 人 が 先 履 行 と して 自 白を 提 供 した 後 で,一 一 定 の 事 情 に よ り裁 判 所 が 合 意 か ら離 脱 す る(つ ま り合 意 が 中絶 し た)と き,先 履 行 され た被 告 人 の 自 白 はな お も証 拠 と して 使 用 で き るか が 問 題 とな る。 この 点 は,従 前 存 在 した合 意 に対 す る被 告 人 の 信 頼 保 護 と い う観 点 か ら考 察 され るべ き問 題 で あ り,項 を 変 え て 詳 述 す る(6(2))。. (2)自. 白の 信 用 性. ドイ ツ刑 訴 法 は,日 本 と異 な り 「補 強 法 則 」を規 定 して い な い。 従 って, 被 告 人 の 自 白の み を 証 拠 と して 有 罪 判 決 を 下 す こ と もで き る。 も っ と も, 裁 判 官 の 自 由心 証 主 義(StpO261条)を. 前 提 に して も,裁 判 所 は,職 権 で. 真 実 を探 求 す るべ き義 務 が 課 せ られ(StpO244条2項),被. 告人 が有罪で. あ る こ と につ いて 確 信 を 得 な けれ ばな らな い。 判 決 合 意 に基 づ き 自 白が 提 供 され た場 合,そ の 自 白の 信 用 性 を どの よ う に評 価 す るべ きか 。 まず,自. 白が,包 括 的 で 非 常 に詳 細 に事 実 を 述 べ る もの で あ り,そ れ 自. 体 で十 分 信 用 性 が認 め られ る と い う と き,そ れ を 基 に 有 罪 認 定 す る こ と は,特 段 の 問 題 を 生 じさせ な い。 も っ と も,判 決 合 意 に基 づ いて 自 白が 提. 69)Hauer(前. 掲 注 勧)381頁. 以下。. 25.

(26) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 供 され る場 合,た. いて い,弁 護 人 が 被 告 人 を 代 弁 し,し か も単 に公 訴 事 実. の と お りで あ る と い う趣 旨だ けが 述 べ られ る。 この よ うな 「脆 弱 な 自 白」 (schrankGestandnis)で. あ って も,有 罪 認 定 の基 礎 とす る こ とが で き る. か 。 ま た,自 白が,被 告 人 に よ り真 の 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 か らな され たの で はな く,合 意 交 渉 に お け る取 引 の 過 程 で いわ ば戦 略 的 に行 わ れ たの で は な いか と疑 わ れ る場 合,そ の よ うな 自 白 は真 実 を 提 示 す る もの と いえ るの だ ろ うか ㈹。 こ の よ うな 自 白 の質 につ い て,前 述 の とお り(二3(5)),立. 法過程 で見. 解 の 対 立 が み られ たが,最 終 的 に は,個 別 具 体 的 事 情 に お け る柔 軟 な 対 応 に委 ね られ る こ と とな り,法 律 で 自 白の 質 を 制 限 す る こ と まで は規 定 され な か っ た。 確 か に,自 白の 質 は,判 決 合 意 に お いて 取 引 が 前 置 され る構 造 か らは,実 体 的 真 実 に向 け た安 全 弁 と して,通 常 の 手 続 に よ る場 合 に比 べ て これ を 高 く設 定 して お くこ と に も,一 一 定 の 合 理 性 が あ る。 しか し,自 白 の 質 につ いて,い わ ば外 形 的(量 的)に 拘 束 した と して も,そ の 内容 の 正 確 性 が 担 保 され るわ けで はな い。 実 体 的 真 実 探 求 の 観 点 か らは,如 何 な る 場 合 に お い て も,そ の信 用 性 が慎 重 か つ 入 念 に 審 査 され な け れ ば な らな い。 も っ と も,具 体 的 事 情 に よ って,そ の 審 査 の 方 法 お よ び程 度 は異 な り う るの で あ るか ら,新 法 の と っ た途 は,そ れ 自体 妥 当で あ り,裁 判 実 務 に お け る その 運 用 が 問 わ れ な けれ ばな らな い。 従 って,裁 判 所 は,常 に,個 別 具 体 的 事 情 に お いて 存 在 す る客 観 的 証 拠 や 資 料 との 適 合 性 な どか ら,自 白の 信 用 性 を 審 査 しな けれ ばな らな い。 そ の 際,ド. イ ツの 自 白の 信 用 性 審 査 に関 す る実 務 につ いて,そ の 審 査 に用 い. られ る記 録 や 証 拠 の 適 格 性 に対 す る問 題 提 起 が な され て い る。 通 常 の 場 合,自. 白の 信 用 性 調 査 に用 い られ るの は,公 判 で 証 拠 と され る こ との な い. ⑳Schunemann(前. 掲 注 ⑳)373頁. 。. 26.

(27) 刑事手続 にお ける取引(2) 捜 査 段 階 で収 集 され た 諸 資 料(い 構 造 に お いて,自. わ ゆ る一一 件 記 録)で. あ る⑥)。この よ うな. 白 は も はや 真 実 を 支 え る もの で はな く,い わ ば 「捜 査 手. 続 の 結 果 に対 す る屈 服 」 で あ る,そ の 克 服 に は捜 査 手 続 にお け る弁 護 人 の 地 位 ・権 限 の強 化 が 条 件 で あ る との指 摘 もみ られ る㈹。 確 か に,捜 査 段 階 に お け る弁 護 人 の 地 位 ・権 限 の 強 化 は それ 自体 支 持 され るべ きで あ るが, 結 局 は,真 実 探 求 の 作 業 が 公 判 で はな く捜 査 段 階 に前 倒 しされ る こ と にな り,公 判 の形 骸 化 に つ な が りか ね な い との 疑 問 も向 け られ る㈹。 む しろ, 公 開 公 判 に お いて,全 て の 訴 訟 関 係 人 が 立 会 の も とで,自. 白一 般 に妥 当 す. る注 意 則 に基 づ いて 実 質 的 に審 査 を す る と い う こ とで,解 決 が 図 られ な け れ ばな らな い。 も っ と も,さ ら に根 本 的 に は,「 真 実 」 の 概 念 を,伝 統 的 に理 解 され て き た よ う に,絶 対 的 な もの と して 理 解 され るべ きか が 問 題 で あ る。 この 点 は,刑 事 手 続 にお い て 追 求 され るべ き正 義 とは 何 か とい う問 題(前 述2(2)) に も関 連 す るが,真 実 に基 づ く実 体 的 正 義 を 至 上 の もの と理 解 す るか,ま た は,手 続 の 公 正 さ,特 に被 告 人 の 主 体 的 地 位 の 保 障 と して いわ ば手 続 的 (形式 的)正 義 の優越 を正 面 か ら肯定 す るか とい う,本 質 的 な 問題 にい た る㈹。. 5.量. 刑 問 題(刑 の 責 任 相 応 性). 判 決 合 意 に お いて,減 刑 と引 き換 え に 自 白の 提 供 が 約 束 され る場 合,こ の よ うな か た ちで 自 白を 減 刑 的 に考 慮 す る こ と は許 され るか 。 自 白の 減 刑 的 考 慮 は,量 刑 一般 に も妥 当す る問 題 で あ るが,こ. こで は,特 に,合 意 に. 向 け られ た交 渉 段 階 で,い わ ば取 引 の 材 料 と して 自 白が 提 供 され た 場 合 の ⑳SchUnemann(前. 掲 注 ㈱)376頁. 以 下 は,こ. の よ う な か た ち で の 「捜 査 手 続 の. 賛 美 」 を 批 判 す る。 ㈲Roxin/SchUnemann(前 ㈹. 池 田公 博. (64Hauer(前. 掲 注 ⑳)94頁. 。. 「ド イ ツ の 刑 事 裁 判 と 合 意 手 続 」 刑 事 法 ジ ャ ー ナ ル22号(2010)。 掲 注63))203頁. 以 下,Trug(前. 27. 掲 注(4))365頁. 。.

(28) 近畿大学法学. 第58巻 第1号. 量 刑 の 適 法 性 につ いて,ド. イ ツ量 刑 理 論 の 支 配 的 見 解 で あ る 「幅 の 理 論 」. を前 提 に検 討 して お く。. (1)幅 の 理 論 と責 任 相 応 刑 の 原 則 幅 の理 論 とは,行 為 者 に 対 して 追 及 され る べ き 責 任 に は一一 定 の幅 が あ り,そ の 範 囲 の 中で,量 刑 の 管 轄 を 持 つ 裁 判 官 に一一 定 の 裁 量 が 与 え られ る とす る もの で あ る。 行 為 責 任 を 前 提 に,刑 の 上 限 と下 限 の 枠 が 設 定 され, こ の幅 の範 囲 内 で,さ. ら に,所 定 の 量 刑 事 情(StGB46条)に. 基 づ いて,. 行 為 者 に不 利 とな る事 実 お よ び有 利 とな る事 実 が 総 合 的 に衡 量 され,一 般 予 防 お よ び特 別 予 防 の 刑 罰 目的 に鑑 み て,裁 判 官 が 具 体 的 刑 を 決 定 す る と い うわ けで あ る㈲。 StGB46条1項1文. に よ る と,行 為 者 の責 任 が量 刑 の基 礎 で あ る と され,. 責 任 相 応 刑 の 原 則 が 定 め られ て い る。 この 行 為 者 の 責 任 は,単 純 に犯 罪 そ れ 自体 の 違 法 性,責 任 性 に よ って の み 決 定 され るの で はな く,刑 罰 目的 に 応 じて,行 為 者 の 諸 事 情 な ど,様 々 な 要 素 に よ って 決 定 され る。 特 に, StGB46条2項. は,量 刑 に際 し考 慮 され るべ き事 情 が 列 挙 され,そ こに は,. 行 為 者 の 行 為 後 の 事 情(損 害 賠 償 や,被 害 者 との 和 解 に向 け た努 力)も 挙 げ られ て い る。 裁 判 実 務 で は,行 為 者 が 刑 事 手 続 で 自 白す る こ と も,減 刑 事 情 と して 考 慮 され るべ き こ とが 認 め られ て い る。 行 為 者 の 自 白が 反 省 悔 悟 に基 づ くもの で あ る と き,再 社 会 化 の 必 要 性 が 軽 減 され る と い うわ けで あ る。 も っ と も,こ の よ うな考 慮 にお い て も,そ れ が過 剰 な もの に な る と, 責 任 相 応 の 観 点 か ら疑 問 が 生 じる。 それ ゆえ,幅 の 理 論 を 前 提 と して も, 最 終 的 に宣 告 さ れ る 刑 は,常 に行 為 者 の 責 任 に 相 応 して い な け れ ば な ら ず,こ れ は,刑 の 上 限 に お いて も,下 限 に お いて も妥 当す る㈹。 (6DBGH刑 ㈹BGH(前. 事 第 二 部1965年8月4日. 判 決(BGHSt20,264)。. 掲 注(6D)。. 28.

(29) 刑 事 手 続 にお け る取 引(2). (2)自. 白の 減 刑 的 考 慮. この よ う に,行 為 者 の 責 任 に相 応 して 決 定 され るべ き具 体 的 刑 は,そ の 算 定 に際 して 考 慮 され るべ き事 情 がStGB46条. に列 挙 され て い る。 この う. ち,自 白 と関 係 す るの が,行 為 者 の 「犯 行 後 の 行 為 」 で あ る。 法 律 上 は, 被 害 者 へ の 損 害 賠 償 や 和 解 の 試 み が 例 示 され て い るが,こ れ に と ど ま る も の で はな く,行 為 者 の 犯 行 後 の 行 為 に よ って,そ の 責 任 お よ び再 社 会 化 の 軽 減 と認 め られ る もの で あれ ば,減 刑 的 に考 慮 され て よ い。 例 え ば,刑 事 手 続 で 被 告 人 が 自 白 した場 合,そ の 自 白が 被 告 人 の 反 省 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 に基 づ くもの で あ る と認 め られ るな らば,そ れ を 減 刑 的 に考 慮 す る こ と に問 題 はな い㈲。 で は,判 決 合 意 に際 して 減 刑 と引 き換 え に 自 白の 提 供 が 約 束 され,実 行 され た場 合,な. お も,こ れ を 減 刑 的 に考 慮 す る こ と は許 され るか 。 判 決 合. 意 が 前 置 され て い た場 合 で も,被 告 人 に お いて 反 省 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 と い う責 任 を 軽 減 させ るべ き主 観 的 事 情 が 認 め られ る場 合 に は,こ れ を 減 刑 的 に考 慮 す る こ と に支 障 はな い。 この 場 合 に も,軽 い刑 を 得 よ う と い う戦 略 的 意 思 が 存 在 す る こ と も あ りう るが,両 事 情 は主 観 面 にお いて 併 存 しう る もの で あ るか ら,合 意 交 渉 の 存 在 が 減 刑 的 考 慮 を 常 に排 除 す る もの で は な い。 も っ と も,こ の よ うな 主 観 的 事 情 は,そ の 証 明 の 困 難 さ ゆえ に,被 告 人 の 反 省 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 が 確 定 的 に認 定 され な い こ と も容 易 に想 定 され る。 む しろ,合 意 交 渉 が 先 行 す る場 合,従 前 の 被 告 人 の 応 訴 態 度 か ら は,自 白を 提 供 す る動 機 に お いて 純 訴 訟 戦 略 的 な もの で あ る こ とが,容 易 に推 定 され る こ と も多 い で あ ろ う。 この 点 に つ い て,前 掲BGH判 る と(二2(3)),量 情(自. 例 によ. 刑 事 情 に も プ ロ レオ 原 則 が 妥 当 し,被 告 人 に不 利 な 事. 白の 動 機 が 純 訴 訟 戦 略 的 な もの で あ る こ と)が 確 定 的 に認 定 され な. い限 り,そ の 有 利 な 事 情(自 (6TBGH(前. 白が 反 省 悔 悟 お よ び罪 の 認 識 に基 づ くもの で. 掲 注 働)。. 29.

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