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人工知能倫理と人工知能学会

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Academic year: 2021

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495 創設 30 周年記念特集─歴代会長随想─ 人工知能学会に対する全般的な思いは本学会創設 25 周年のときにすでに書かせていただきました [堀 11] の で,ここでは,最近筆者が最も関心を抱いている人工知 能学会の抱える特定の課題について書いてみたいと思い ます.それは,人工知能倫理の問題です. 会員の皆様がよくご存じのとおり,ここ数年の第 3 次 AIブームで,人工知能研究への期待が驚くほど高まる と同時に,人工知能研究の進歩に対する不安の声も高 まってきています.人工知能学会として人工知能倫理を どう考えるかについての公式の見解は人工知能学会倫理 委員会で議論しているところですが,ここでは,著者の 個人的な思いを書いてみます. 著者が常々不満に思っていたことは,人工知能が社会 に及ぼす影響を議論する人々が「どうなる可能性がある か(あるいはないか)」(典型例としては「人工知能が人 類を滅ぼす可能性があるかないか」)という可能性の議 論ばかりを行い,「何をどうしたい」のか,さらには「何 をどうしたいからそのために人工知能の何をどうする」 のかという議論をあまり行っていないように見受けられ ることでした. 例えば,「機械が心をもつようになりますか」という 質問を受けると著者は「機械が心をもつようになるかど うかではなく,機械に心をもたせたいかどうかを考え てみませんか.そして,もし機械に心をもたせたいと おっしゃるならば,何のためにどのような心をどうやっ てもたせるかを議論しましょう」と答えてきました [堀 15a]. あるいはまた,人工知能が人々にとって想定外の災難 をもたらす可能性はあるかもしれないので,悪い事態が 起こりそうになったら直ちに可能な対処を行うために, 人工知能を構成する技術は,できるだけ透明にかつ制御 可能なように構成しておくというようないわば設計美学 のようなものも考えるべきだと主張してきました [堀 13, 堀 15b]. 今後,著者の考える人工知能の設計美学を何らかの人 工知能設計方法論のような形にまとめ上げていくことは できるかもしれません.しかし,それはあくまでも著者 の考える設計美学であって,他人に押し付けるべきもの ではないでしょう. 最近著者が考えるのは,人工知能倫理に関する議論の 結果を,人工知能学会として何らかの形で固定化してし まっては,人工知能学会らしさが失われてしまって,つ まらないのではないかということです. ここで,人工知能学会らしさとは何かを振り返ってお きましょう. 人工知能学会が嫌ってきたことと好んできたことを列 挙してみます. ● 権威主義は嫌い.威張る年寄りは嫌い.無理矢理の 意見統一は嫌い. ● 自由な発想は好き.既存の枠組みから外れることは 好き. 今後,人工知能学会らしく人工知能倫理の議論をさら に展開していくとするならば,無理矢理に意見統一をす ることは行わず,自由な発想を尊重し,既存の枠組みか ら外れることも許容して,人工知能に関係する倫理観を 動的に構成し続けていこう,ということになりますでし ょうか.当然のことながら人工知能の研究を行っている 研究者だけでなく,さまざまな分野の専門家および一般 の人々も巻き込まなければなりません. 既存の SNS の枠組みの延長上でそのような議論を 行っても議論が荒れるだけで終わってしまうかもしれま せん.為政者が素人判断で人工知能研究への法規制を考 えるような恐れもあるかもしれません.マスコミも偏っ た論調に傾いていかないとも限りません.集合知の形成 は,人工知能の研究対象でもあるわけですから,我々は 我々の研究成果を人工知能倫理に関する議論にも適用し てみせようではありませんか. 人工知能学会らしく多元的かつ動的に人工知能倫理を 構成し続ける場をつくってみたいと思いませんか.それ を人工知能学会の理事会で一つ用意してくださいという のではなく,人工知能学会会員がそれぞれ自分の技を駆 使して,いろいろと異なる複数の場をつくってみせると いうことになるならば,それは他の学会では見られない 実践の姿になることでしょう. 「創設 30 周年記念特集─歴代会長随想─」

人工知能倫理と

人工知能学会

第 12 代会長 

堀  浩一

(東京大学)

(2)

496 人 工 知 能  31 巻 4 号(2016 年 7 月)

♢ 参 考 文 献 ♢

[堀 11] 堀 浩一:人工知能学会創立 25 周年にあたって,人工知能 学会誌,Vol. 26, No. 6, p. 570(2011) [堀 13] 堀 浩一:人工知能とは,人工知能学会誌,Vol. 28, No. 5, pp. 793-801(2013) [堀 15a] 堀 浩一:シンギュラリティへ向けて─あなたと私はどう したいか?,情報処理,Vol. 56, No. 1, pp. 41-43(2015) [堀 15b] 堀 浩一:人工知能の研究開発をどう進めるか─技術的特 異点(シンギュラリティ)を見据えて,情報管理,Vol. 58, No. 4, pp. 250–258(2015) 堀  浩一(正会員) 1979年東京大学工学部電子工学科卒業.1984 年同大学院工学系研究科 博士課程修了.工学博士.同年,国立大学共同利用機関国文学研究資料 館助手.1986 年同助教授.1988 年東京大学先端科学技術研究センター 助教授.1997 年同大学院工学系研究科教授.2015 年より東京大学附属 図書館副館長を兼務.電子情報通信学会,情報処理学会,日本ソフトウェ ア科学会,日本認知科学会,IEEE,ACM 各会員.2008 ~ 09 年度本学 会会長.

著 者 紹 介

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