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書評 渡邉啓貴・上原良子編著『フランスと世界』

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日仏経営学会誌 第37 号(2020)

- 56 -

《書 評》

渡邉啓貴・上原良子編著『フランスと世界』

Hirotaka WATANABE et Yoshiko UEHARA éd.,

La France et le monde

(法律文化社

2019 年)

関西大学 亀井克之

Katsuyuki KAMEI, Université du Kansaï

1 本書の章立て

総論 フランス外交の歴史 第1 部 地域編 1 フランスとドイツ 2 フランスとヨーロッパ 3 フランスとアフリカ 4 フランスとマグレブ 5 フランスと中東 6 フランスとインドシナ 7 フランスと南太平洋島嶼 第II 部 トピック編 1 フランスの政治 2 フランスの軍事・国防 3 フランス経済の特質と変貌 4 フランスの経済・金融 5 フランス文化外交の変遷 6 フランスの農産物 7 フランスと原子力 8 科学技術とフランスのグローバル戦略 9 フランスの脱植民地化 10 フランスの自治体外交 11 フランスの移民 コラム 1 ジャーナリズム 2 ファッション

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書評:渡邉啓貴・上原良子編著『フランスと世界』 - 57 - 3 世界の中のフランス映画 4 ワイン・料理 5 フランスとテロ 6 建築および都市遺産の保護・活用政策

2 本書の内容

本書はフランスの外交を中心に、フランスと世界とのかかわりを俯瞰した研究入門書で ある。編別構成は「総論」でフランス外交の歴史をふりかえり、「第Ⅰ部 地域編」でフ ランス外交にとっての戦略的対象地域を「フランスとドイツ」「フランスとヨーロッパ」 などの章に分けて検討している。「第Ⅱ部 トピック編」では、政治・軍事・経済・原子 力などを取り上げて、フランスと世界とのかかわりを論じている。随所に挿入された「コ ラム」では、ワイン・ファッション・都市遺産など魅力ある切り口からフランスの現在が 伝えられている。 「外交」を切り口にしたユニークな書物である。フランスの経営に裨益する論点も数多 く盛られており、グローバル化に正対して伝統を革新していくフランス社会・経済の息吹 が全編からうかがえる。日仏経営学会からは大川知子(コラム 2「ファッション」)と矢 後和彦(第II 部4「フランスの経済・金融」)が執筆に参画している。

3 本書の評価

3-1 総 評

本書は、フランスの外交や世界の中でのフランスをめぐる事情に関心を持つ読者に向け て編纂された書物である。大学生を対象とした教科書として位置づけられるが、一般読者 にとって十分に読みごたえのある著作となっている。 我が国では、多くの海外に関する研究は英語文献に依拠したものが主流であるため、各 国の外交や対外政策研究は英米の視点からのものが多くなっている。米英のスタンダード に対抗しうる視点をもたらしうるのがフランスである。それゆえ、本書では、フランス語 の文献に基づいて、フランス研究を専門とする研究者が、各自の分野について執筆し、初 学者からある程度の専門知識を有する読者にも、十分な知見が得られるように編集されて いる。一例として、第II 部3「フランス経済の特質と変貌」は長部重康名誉教授が執筆し ている。その結果として、外交大国フランスの現在の姿を俯瞰するのに適した著作となっ ている。

3-2 コラム3「世界の中のフランス映画」(福田桃子)

フランスは映画発祥の国である。本コラム冒頭では、リュミエール兄弟が1895 年 12 月 2 日にパリ 9 区キャピュシーヌ大通り 14 番地で世界初の有料上映会を開催したことが記さ れている。なお、それに先立ち、リュミエール兄弟が、南仏ラ・シオタの別荘で、「シオ タ駅の到着」を上映したのが、映画の発祥だとされている。地中海に面したこの街はそれ

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日仏経営学会誌 第37 号(2020) - 58 - ゆえ「映画のゆりかご」と呼ばれることがある。付言するとラ・シオタはフランスの国民 的競技ペタンク発祥の地でもある。さらに名優ミシェル・シモンの出身地でもある。 本コラムは、草創期の名作の時代から、ヌーベルバーグを経て、現代の作品に至るまで を俯瞰的に解説している。しかし、本コラムは他のフランス映画論評と一線を画している 点がある。それは、本書全体のテーマとして貫かれている「世界の中でのフランス映画」 という観点である。 したがって、まず第一にフランス映画作品、フランス映画産業において、いかにフラン ス以外の国の出身者が貢献しているかを示している。その例として、ロシア出身のサシャ・ ギドリ、アメリカ・ハリウッドのスターを起用するリュック・ベッソン監督、2013 年のカ ンヌ映画祭を席巻した『アデル、ブルーは熱い色』のチュニジア人監督アブデラディフ・ ケシシュ、『トリコロール・白』に主演し現在アメリカとフランスを往復して監督として も活躍しているジュリー・デルピーなどに言及している。第二に、フランス映画マーケッ トにおけるフランス映画作品と外国映画作品のシェアについて述べている。第三に、日本 とフランスの文化交流における映画の役割の重要性について論じている。ゴダールの『勝 手にしやがれ』や『気違いピエロ』に代表されるヌーベルバーグの作品がいかに日本の映 画界に影響を及ぼしたか、一方、小津安二郎や黒澤明らの日本映画がいかにフランスで評 価されてきたかについて述べられている。日本における「フランス映画祭」などの状況に ついても触れられている。2 頁という本コラムの分量の中で、「世界の中でのフランス映 画」の位置づけを的確に把握できる内容となっている。

3-3 第 II 部4「フランスの経済・金融」(矢後和彦)

本章は、冒頭において、フランスの経済・金融と世界との関わりについて以下のように 要約している。 「フランスは貿易赤字国であり、先進諸国や中国と工業製品を中心に交易をすすめてい る。フランスは世界有数の直接投資国であり、先進諸国との投資の関わりが深い。フラン スの銀行・金融セクターは世界の上位に位置して世界経済に影響を与えている」 その上で、フランス的な独自性に言及している。 「一見すると「普通の資本主義」と見えるフランスの経済・金融は、他方で伝統的に「強 力な国家」の後見を受けてきた。1970 年代まで、フランスの経済は国有企業と高度に集権 化された金融システムによって牽引されてきたのである。しかしながらこうした「国家に よる後見」は、資本移動が自由化に向かい、変動相場制が一般化してくる1970 年代には 完全に行き詰まる。ここからフランスは「開放小国経済」として、生産性の向上と通貨・ 財政の健全化、国有企業の民営化に舵を切った。 経済の自由化・規制緩和・民営化はグローバル資本主義の鉄則のように見えるが、フラ ンスでは別のシナリオが用意された。すなわち、自由な資本移動や競争的な市場は、国家 の介入がなくなれば自動的に現れるのではなく、国家による適切な規制や生存の保証を踏 まえた後見の中でこそ実現するという、欧州起源の「新自由主義」が定着していったので ある」 こうした問題意識の下、本章は、グローバル経済に向き合いながらなおかつ「強力な国

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書評:渡邉啓貴・上原良子編著『フランスと世界』 - 59 - 家」を後ろ盾に有するフランス資本主義の独自性を貿易、投資、金融の諸相から、グラフ を多用して、わかりやすく俯瞰している。 なお、「開放小国経済」について本章は次のように解説している。 「「開放小国経済」とは、資本の流出入が自由に行えるが、自国だけの都合では為替を 操作することができない国の経済の姿を示す用語である。フランスの場合、アメリカのよ うに基軸通貨をみずからの意向に沿ってコントロールすることはできない。フランスはド イツと並んで欧州の盟主といわれえるが、ユーロの動向については独立性の高い欧州中央 銀行(ECB)に権限がゆだねられている。為替の操作や自前の金融政策に頼ることができ ない以上、「開放小国経済」の命運は、いかに効率よく、いかにすぐれたモノを輸出する か―「生産性」の向上―にかかってくる」 またフランスの「新自由主義」の現実として、フランスでは、経済の自由化・規制緩和・ 民営化は、決して英米流の規制緩和など「国家の退場」を導いたのではなく、雇用や技術 優位を守護しようとする「強力な国家」をもたらしたことを本章は指摘している。そして、 フランスでは、自由化・規制緩和の先頭に立ったのが、英米のような保守政権ではなく、 中産階級を守ろうとする社会民主主義政権だったことがその証左であるとしている。 グローバル経済の中で、「生産性を向上させつつ、社会安定の基盤となる中産階級を守 り抜く」という、「強い国家」「新自由主義」が抱えるジレンマについて言及して本章は 締めくくられている。フランスを揺るがせた「黄色いベスト運動」は、このジレンマの表 出であると本章は結論で触れている。 こうしたジレンマを抱えるフランス経済の現状ついて、瀬藤澄彦『フランスはなぜショ ックに強いのか――持続可能なハイブリッド国家』(文眞堂)では、フランス経済のハイ ブリッド性によって、こうしたジレンマに対処していると論じられていることに付言して おく。

4 結 語

以上のように、本書は、世界との関わりを軸に、現代フランスを俯瞰するのに適した著 作である。経済や経営に関する章もあり、日仏経営学会会員にとって、優れた著作である と判断する。 (参考文献) 瀬藤澄彦『フランスはなぜショックに強いのか――持続可能なハイブリッド国家』文眞堂、2017 年

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