建 設 マ ネ ジ メ ン ト研 究論 文集Vol.152008
公 開入札情報を用いた総合評価方 式の実態分析
日本 大 学 金 子 雄 一 郎*1 日本 大 学 大 学 院 本 橋 純*2
日本 大 学 島 崎 敏 一*3
By Yuichiro KANEKO, Jyun MOTOHASHI and Toshikazu SHIMAZAKI
本研究は一般 に公開 され てい る入札情報を用いて,総 合評価方式の実態 に関す る基礎
的な分析 を行 うものである.具 体的には国土交通省発注 の一般土木工事の入札情報 を用い
て,(1)個 々の入札 を対象に落札率や入札価格及び技術評価のばらつき具合 を求め,入 札 に
おける競争状況を把握する とともけ
に(2)個 々の入札参加企業 を対象に総合評価方式下での
競争力や,技 術力 と入札価格の関係な どを分析 し,企 業 の入札行動を把握す る.以 上の分
析 か ら,総 合評価方式 による入札の実態 と課題 を明 らかにす る.
【
キーワー ド】総合評価方式,公 開入札階報,入 札行動
1.は じめに
我 が国の公共 工事の入札 に総合評価方式 が本格的
に導入 されて一定の期 間が経過 した.周 知の とお り
総合評価 方式は,入 札価格 と技術 に関わ る要素 を総
合的 に評価 して落札者 を決定す る方式であ り,公 共
工事の品質確保や 向上,著
しい低価格入 札へ の対応
な ど,従 前の価格 のみ による 自動的落札方式 におい
て生 じていた課題 の解決が期待 されている。
総合評価方式 の評価方式 として簡 易型,標 準型,
高度技術提案型の3つ
があるが,そ れぞれ の意義は
次の とお りで ある1).ま ず簡易型は 「
簡易な施 工計
画や企業が保 有す る施 工技術 の実績,当 該 工事 の施
工 に値接係 わ る配 置予定技術者の能力 を評価す るこ
とによ り,企 業が発注者 の指示す る仕様 に基づ き,
適切かつ確 実に工事 を遂行す る能力 を有 してい るか
を確認す ること」であ り,価 格 を重視 しつつ品質確
保 を達成す ることが趣 旨と考 えられる.
また,標 準型及び高度技術提案型 は 「
施工上 の特
定の課題等 について民間事業者に よる技術提案 を募
り,工 事の品質 向上 を期待す ること」であ り,品 質
向上を重視す ることが趣 旨と考えられ る.
上述 したよ うに総合評価 方式が導入 されて一定の
時間が経過 した現在,こ れ らの趣 旨に沿った入札が
行われているかを確認す ることは重要 と考 えられ る.
また,総 合評価方式は価格 に加 えて技術 に関わ る
要素 も評価す る方式で あるこ とか ら,企 業 の入 札に
対す る行動 に も一 定の影響 を及ぼす もの と想定 され
る.具 体的には,入 札参加 企業は 自社 の有す る技術
水準 をある程度念頭 に置いて入札価格 を決 めると考
え られ ることか ら,仮 に技術水準の低い企業が より
低価格で入札 に参加 し落札 した場合,総 合評価方式
の趣 旨か ら外れ る結果が生 じて しま う可能性 がある.
したが って,入 札結果の分析 を通 して企業 の入 札行
動 を把握 してお くことは意義の あることと考 えられ
る.こ こで入札行動 とは,「 入札に参加す る企 業が
自社の評価値 が最 大 となるよ うに,入 札価格の設 定
や技術提案を行 うこと」 と定義す る.
一方で近年
,公 共工事の手続 きの透 明性 ・公 平性
の確保の観 点か ら,入 札の評価 に関す る基準や 落札
者の決定方法,入 札者の提示 した性能等 の評価や落
札結果な どの情報 が一般 に公 開 され るよ うになって
い る.こ れ らの情報 を用い ることで,総 合評価方式
の実態を把握することが可能になる.
以上 を踏 ま え本研 究 は,公 開入 札情 報 を用 い て
個 々 の入 札 及 び 個 々 の企 業 に着 日 した総 合 評価 方 式
の実態に関す る分析 を行 うことを 目的 とす る.具 体
*1理 工 学 部 土 木 工 学 科03-3259-0664 *2理 工 学 研 究 科 博 士 前 期 課 程 土 木 工 学 専 攻 *3理 工 学 部 土 木 工 学 科03-3259-0989的には,(1)落 札率や入 札価格及び技術評価のば らつ
き具合 な どを求 め,入 札 にお ける競争状況 を把握す
るとともに(2)総 合評価方式下で の企業の競争力,
技術力 と入札価 格の関係 な どを分析 し,企 業の入札
に対す る行動 を把握す る.な お,競 争状況の把握 と
入札行動の分析 は簡易型及び標 準型 を対象 とし,件
数が非常に少 ない高度技術提案型は対象外 とす る.
2.既 往研 究の整 理と本研究の位置付 け
(1)総 合評価方式に関する研究
総合評価方式が広範 に導入 され たこ とに伴い,最
近にな り総合評価方式の実土
施結果や留意事項,課 題
に関す る報告 が行われつつ ある.例 えば堤 ら2)は,
平成18年 度上半期の国土交通省の全国8地 方整備局
の実施状況 を分析 した結果,加 算点 を拡大 している
ものの依然 として最低価格者が落札す る割合 が大 き
く価格 の影響が大きい こと,簡 易型では簡易 な施工
計画や企業及び配置予 定技術者の過去の工事 実績等
が技術力評価 に有効 であるこ と,標 準型では工事特
性 を踏 まえた本 質的な課題設定や評価 のあ り方 につ
いて検討が必要であるこ とを指摘 してい る.ま た,
堀 ら3)は,平 成18年 度 に九州地方整備局で試行的に
実施 した高度 技術提案型 について,評 価値 の算定方
法次第で技術 点で高得点 を得て も価格 の影響が大 き
過 ぎるな ど,改 善すべ き課題 を指摘 している.
一方
,国 値轄工事 においては基本 的に除算方式が
採用 されているが,こ の除算方式の課題へ の対応 と
して加 算方式の導入 が検討 され てい る.こ の点 につ
いて毛利 ら4)は,平 成19年 に直轄工事で試行 した加
算方式での総合評価 について,技 術力 を促進す る効
果,低 価格 に よる落札 を抑制す る効果 が見 られた こ
とを報告 してい る.さ らに伊藤5)は,総
合評価方式
の変遷 を整理 した うえで,将 来的に検討 が必要 とな
る課題 として,VE提
案の形骸化への対応,技 術によ
るコス ト縮減の促進な どを提示 してい る.
以上の研究 は,主 に発 注側機 関が入札結果 を基に
実施上の課題 を抽 出 したもので,今 後 の改善 に向け
た重要な知見が得 られてい るが,定 量的な分析 につ
い ては必ず しも十分行われていない.具 体的 には,
入札参加企業 間で価格や技術に関す る競争 が どの程
度行われているか,簡 易型 と標 準型 な ど評価方式間
での違いはあるかな どについては把握 されていない.
これ らの点は評価 方式 の趣 旨に沿 った入札 が行われ
てい るかを確認する観 点か らも重要 と考え られ る.
(2)企 業の入札行動に関する研究
一方で
,企 業 の入札行動 に関す る研究 もい くつか
行われてい る.岩 松 ら6)は,建 設省 の各地方建設局
(当時,現 地方整備局)の 公 開 され た入札データを
用いて企業 の入札行動 を分析 してい る.具 体的 には,
企業の入札値 のば らつ きが欧米 に比べて小 さい方 で
あること,我 が国 では落札価格 に近い価格提示 を安
定的に行 える 「
常識的な」入札行動 を とる企業 が多
い ことなどが示 されている.さ らに岩松 ら7)は,国
土交通省 を中心 とした国の近時点での入 札結果デー
タを用 いて競争状況を分析す る とともに
著者 らの
過去 の分析 との比較を行 ってい る.そ の結果,建 設
市場 の需給状況や入札契約制度の改革を通 じて,全
体 として落札率の低 下傾 向や入札値の変動係数 の増
大な どに現われているとの知見を得ている.
また森本 ら8)は,同
じく公開入札結果情報(四 国
地方整備局 と徳 島県県 土整備部の情報)を 用いて入
札競争状態を分析 してい る.そ の結果,各 企業の入
札態度は四国地方整備局の入札参加者 は平均近 くに
分布す る傾 向にあるが,徳 島県では安定的 に高値入
札傾 向が多い こと,入 札態度 を示す契約前価格力指
標 と入札機会(指 名回数)に は全 く関係 がない こと
などが示 されている.
以上の研究 は公開 されてい る入札情報 を積極的に
活用 し,個 々の入札 に関す る分析 に加 えて,個 々の
企業 に着 目した分析 を行っている点が大 きな特徴 で
ある.こ うしたアプローチは,総 合評価方式下にお
ける入 札の分析 において も有効 である と考え られ る.
(3)本 研究の位置付け
以上 を踏 まえ本研 究は,既 往研究 では検討 され て
いない総合評価方式下 にお ける競争状況 の把握 を中
心 と した定量的 な分析 を行 うとともに,企 業の入札
行 動 に 関す る分 析 を行 う.具 体的 に は,総 合 評 価 方
式で実施 され た入札 に関す る情報 を用いて,ま ず,
個々の入札 を対象 に落札率や入札価格及び技術評価
のば らつき具合 を求 め,入 札にお ける競争状況 を把
握 す る.次 い で,個 々の入札参加企業 を対象 に総合
評価 方式 下での競争力,技 術力 と入札価格の関係 な
ど を 分 析 し,企 業 の 入 札 に 対 す る 行 動 を把 握 す る. 以 上 か ら総 合 評 価 方 式 に よ る 入 札 の 実 態 と課 題 を 明 らか に す る. 3.個 々 の 入 札 に 着 目した分 析 (1)分 析 対 象 本 研 究 で は,国 土 交 通 省 中 部 地 方 整 備 局 発 注 の 一 般 土 木 工 事 の う ち 総 合 評 価 方 式 が 採 用 され て い る 一 般 競 争 入 札 を 対 象1にWeb上 の公 開 入 札 情 報9)を 用 い て分 析 を 行 う.対 象 期 間 は 平 成18年 度 及 び19年 度(7月 ま で),入 札 件 数 は244件 で あ る 注1).な お, 総 合 評 価 方 式 の 評 価 値 の 算 出 方 法 は,全 て 除 算 方 式 で あ る.こ こ で,公 開 入 札4情報 か ら具 体 的 な 入 手 可 能 な 項 目は,表-1の とお りで あ る. (2)入 札 結 果 の 概 要 a)入 札 件 数 及 び 入 札 参 加 者 数 本 研 究 で 対 象 と した 入 札 は 全244件 で あ り,入 札 方 式 の 内訳 は簡 易 型188件,標 準 型31件,高 度 技 術 提 案 型1件 で あ り,残 りの24件 はWeb上 で 入 札 公 告 が入 手 で き な か っ た た め 不 明 で あ る. ま た,各 入 札 へ の 参 加 企 業 数 は 平 均6.1,最 大-3, 最 小1で あ る.な お,1社 の み 参 加 の 入 札 は-4件 注2)で あ る .こ れ らの分布 を図-1に 示す. b)落 札 率 分 析 対 象 の 入 札 に お け る 落 札 率 は 平 均90.2%,標 準 偏 差7.9%で あ る注3).落 札 率 の 最 低 は60.0%で あ り, こ の 入 札 を含 め15件 が低 入 札 価 格 調 査 の 対 象 と な っ て い る.一 方,入 札 方 式 別 で は 簡 易 型 が91.5%,標 準 型 が8∼4%,高 度 技 術 提 案 型 が78.4%で あ り,簡 易 型 の 落 札 率 が 高 い 傾 向 に あ る 。 な お,落 札 率 に つ い て 入 札 参 加 企 業 数 と平 均 落 札 率 の 関 係 を示 した の が 図-2で あ る.こ れ よ り参 加 企 業 数 が 多 く な る に し た が っ て,平 均 落 札 率 も 低 下 傾 向 に あ る こ と が 分 か る. c)入 札 価 格 及 び 技 術 評 価 の 競 争 状 況 (1)入 札 価 格 の変 動 係 数 個 々 の 入 札 に お け る 参 加 企 業 間 の 競 争 状 況 を 表 す 指 標 と して 標 準 偏 差 が 挙 げ られ る が,工 事 の 規 模 に 影 響 され る こ とか ら,こ れ を 除 外 した(平 均 で 除 し た)統 計 量 で あ る 変 動 係 数 を 用 い る.こ こ で,入 札 価 格 に つ い て 変 動 係 数 を 算 定 した 結 果 を 表-2に 示 す. 表-1Web上 で 入 手 可 能 な項 目 注:国土 交通省各地方整備局 においても公開されている.
図-擁入札における参加企業数分布
図-2入 札参加企業数と平均落札率
表-2入 札価格の変動係数
注:表 中の 入札 件 数(N)は,入 札 方 式 が 不 明 なもの,1社 のみ 参 加 の もの を除 いた植 で ある. な お,高 度 技 術 提 案 型 は1件 で あ る こ と か ら対 象 と しな い.こ れ よ り全 体 で は 平 均6.2%,最 大-7.2%, 最 小1.1%で あ る.平 成17∼18年 度 の 国 発 注 工 事 の入 札 デ ー タ を 分 析 し た 岩 松 ら7)に よ る と,建 設 工 事 の 入 札 価 格(論 文 中 で は 入 札 値 と表 記)の 変 動 係 数 は 全 体 で は5.8%,一 般 土木 工 事 で は4。1%と な っ て お り, これ ら よ りや や 大 き い 水 準 で あ る 。一 方,評 価 方 式 別 で は 簡 易 型 が5.8%,標 準 型 が 8.7%と 標 準 型 の 方 が 大 き く,ば らつ き を持 っ た 競 争 が 行 わ れ て い る こ とが 分 か る.標 準 型 は 簡 易 型 に 比 べ て 技 術 的 な 工 夫 の 余 地 が 大 き い 工 事 が 対 象 と な る こ と か ら,こ の 工 夫 の 対 価 の 入 札 価 格 へ の 反 映 度 が 入 札 参 加 企 業 間 で 異 な っ て い る こ と が うか が え る. こ の 変 動 係 数 は 入 札 に 参 加 す る 企 業 の 数 や 競 争 力, 工 事 の 種 類 な ど に よ っ て 変 化 す る 可 能 性 が あ る と考 え られ る.こ の う ち参 加 企 業 数 と の 関 係 を 示 した も の が 図 一3で あ る.こ れ よ り,参 加 企 業 数 の 多 少 に 関 わ らず 変 動 係 数 の 多 く は10%以 下 に 分 布 して お り, こ の 結 果 か ら は,両 者 の 間 に 必 ず し も 明 確 な 関 係 性 が あ る とは 認 め られ な い. (2)技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 (1)と同様1に 個 々 の 入 札 に お け る 参 加 企 業 間 の 技 術 評 価 点(標 準 点 と加 算 点 の 合 計)の 変 動 係 数 を算 定 した 結 果 を 表-3に 示 す.こ れ よ り全 体 で は,平 均 3.6%,最 大9.0%,最 小0.3%で あ り,入 札 価 格 の 変 動 係 数 と 比 べ て 小 さ くな っ て い る こ と が 分 か る.こ れ は,技 術 評 価 点 の う ち 入 札 参 加 資 格 の あ る 企 業 全 て に 与 え られ る標 準 点 が100点 で あ る の に 対 して,加 算 点 は簡 易 型 を 中 心 に 多 く の入 札 で30点 で あ り,企 業 間 で 差 が 開 き に く い 傾 向 に あ る た め と考 え ら れ る. 一 方,評 価 方 式 別 で は 簡 易 型 が3.5%,標 準 型 が 4.1%と 標 準 型 の 方 が 大 き く,ば らつ き を持 っ た 競 争 が 行 わ れ て い る こ と が 分 か る.上 述 した よ うに 標 準 型 は 簡 易 型 に 比 べ て よ り技 術 的 な 要 素 を 必 要 とす る こ と,加 算 点 の満 点 が 高 い(最 大70点)場 合 が 多 い こ とか ら,企 業 間 で 差 が 開 き や す い 傾 向 に あ る た め と考 え られ る. (3)入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 (1)及び(2)を踏 ま え,個 々 の 入 札 に お い て 価 格 及 び 技 術 面 で ど の よ うな 競 争 が 行 わ れ て い る か を 把 握 す る た め,入 札 毎 の 入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 を プ ロ ッ ト し た 結 果 を 図-4(簡 易 型),図-5(標 準 型)に 示 す.ま た,こ れ ら に つ い て 全 体 の 平 均 を 基 準 と して"競 争 状 況 の パ タ ー ン 分 け"(図 中 の 領 域 (1)∼(4))を 行 っ た 結 果 を 併 せ て 示 す. ま ず 図 一4(簡 易 型)よ り,入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 が 小 さ い,す な わ ち価 格 と技 術 の 両 面 で 僅 差 の競 争 が 行 わ れ て い る領 域(3)が60件 と最 も 多 い こ と が 分 か る.簡 易 型 の 趣 旨 は 価 格 を 重 視 し つ つ
図-3入 札参加企業数と入札価格の変動係数
表-3技 術評価点の変動係数
注:表 中 の 入 札 件 数(N)は,入 札方 式 が不 明な もの,1社 の み 参 加 の ものを除 い た値 であ る. (1)27件(16%),(2)52件(31%),(3)60件(35%),(4)31件(18%) 図-4入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数(簡 易 型) (1)7件(25%),(2)5件(18%),(3)5件(18%),(4)11件(39%) 図-5入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数(標 準 型) 品 質 土確保 を 達 成 す る こ とで,主 に 技 術 的 な 工 夫 の 余 地 が 小 さ い 工 事,換 言 す れ ば 企 業 間 で 価 格 や 技 術 面 で の 差 が 大 き く な らな い 工 事 を対 象 と し て い る と思わ れ る が,こ の 領 域 の 入 札 に お い て は 概 ね 趣 旨 に 沿 っ た 結 果 が 得 られ て い る可 能 性 が あ る. 一 方,図 一5(標 準 型)よ り,価 格 と技 術 の 両 面 で ば らつ き を 持 っ た 競 争 が 行 わ れ て い る 領 域(1)が7件 で あ る の に 対 し て,価 格 面 で の ば らつ き が 技 術 面 の ば らつ き よ り大 き い 領 域(4)が11件 と最 も多 くな っ て お り,価 格 に よ る 競 争 が 優 先 され て い る こ と を 示 唆 して い る.標 準 型 の 趣 旨 は 技 術 提 案 に よ る 工 事 の 品 質 向 上 で あ り,技 術 面 を よ り重 視 す る も の と思 わ れ る が,趣 旨 に 沿 っ た 結 果 が 得 られ て い な い 可 能 性 が あ る.こ の 点 に つ い て は,総 合 評 価 方 式 の 今 後 の 検 討 課 題 と考 え られ る. な お,今 回 の 検 討 は 個 々 の 入 札 に お け る入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 か らパ タ ー ン 分 け を行 っ た 段 階 で 留 ま っ て お り,結 果 に つ い て は 必 ず し も一 般 性 を 有 した も の とは 言 え な い.今 後,他 の 分 析 手 法 や 特 性 値 との 比 較 検 証 が 必 要 で あ る. (3)最 低 価 格 者 以 外 の 落 札 状 況 総 合 評 価 方 式 の 特 徴 で あ る 最 低 価 格 者 以 外 の 企 業 が 落 札 した 入 札 は32件(244件 中)で あ る.こ の う ち簡 易 型17件,標 準 型11件 で あ り(残 り4件 は入 札 公 告 を 入 手 で き な か っ た た め 不 明),標 準 型 に お け る 割 合 が 高 く な っ て い る こ と が分 か る. こ の32件 の入 札 につ い て,落 札 者 の 価 格 及 び 技 術 評 価 点 の 水 準 を示 した の が 表-4で あ る.最 低 価 格 者 以 外 が 落 札 し て い る の で,当 然 の こ と な が ら,技 術 評 価 点 が 平 均 以 上 で あ る入 札 が-8件 と大 半 を 占 め て い る. な お 参 考 ま で,最 低 入 札 価 格 者 が 落 札 し た 入 札 に つ い て 同様 の 集 計 を 行 っ た 結 果 を 表-5に 示 す.こ れ よ り表-4に 比 べ て 技 術 評 価 点 が 平 均 よ り低 い 企 業 が 落 札 して い る割 合 が36.3%と 高 く な っ て い る こ とが 分 か る.こ の うち 品 質 向 上 が 趣 旨 で あ る標 準 型 が9件 含 ま れ て お り,こ の 点 に つ い て は,総 合 評 価 方 式 の 今 後 の 検 討 課 題 と考 え られ る. (4)ま とめ これ ま で の 個 別 の 入 札 に 着 目 した 分 析 結 果 を ま と め る と,以 下 の とお りで あ る 。
表一4落札者の価格及び技術評価点の水準
(最低価格者以外が落札した入札:32件)
表 一5落 札 者 の 価 格 及 び 技 術 評 価 点 の 水 準 (最低 価 格 者 が 落 札 した 入 札:212件) ・ 各 入 札 へ の 参 加 企 業 は 平 均6社 程 度 で あ る . ・ 落 札 率 は平 均90.2%で あ り,簡 易 型 が大 きい傾 向' に あ る,ま た,入 札 参 加 企 業 数 が 多 くな る に した が っ て,平 均 落 札 率 は低 下 傾 向 に あ る. ・ 入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 を 比 較 す る と入 札 価 格 の方 が 高 くな っ て い る 。す な わ ち,価 格 面 で よ りば らつ き を 持 っ た 競 争 が行 われ て お り,他 の 結 果 と も合 わ せ る と,落 札 に は 依 然 と し て価 格 の 影 響 が 大 き い と言 え る, ・ 簡 易 型 と標 準 型 の 変 動 係 数 に つ い て ,入 札価格, 技 術 評 価 点 と も標 準 型 の 方 が 大 き い傾 向 に あ る. ・ 入 札 価 格 と技 術 評 価 点 の 変 動 係 数 を 基 に 入 札 結 果 をパ タ ー ン分 け した 結 果,標 準 型 に お い て 趣 旨 に 沿 っ た結 果 が 得 られ て い な い 可 能 性 が あ る. 4.個 々 の 企 業 に着 目 した 分 析 (1)総 合 評 価 方 式 下 に お ける企 業 の 競 争 力 a)基 本 的 考 え方 こ こ で は 総 合 評 価 方 式 下 に お け る個 々 の 企 業 の 入 札 行 動 に つ い て 分 析 を 行 う.岩 松 ら5),6)は,あ る企 業 の 入 札 価 格 が そ の 入 札 に お け る 落 札 価 格 か ら どれ く らい 乖 離 して い る か とい う指 標 は,個 々 の 入 札 に お け る そ の 企 業 の 競 争 力 を 示 して い る と い う観 点 か ら,以 下 の よ うな 「競 争 力 値 」 を 用 い て 企 業 の タ イ プ 分 け を行 っ て い る. 「競 争 力 値 」={(入 札 価 格 一 落 札 価 格) /落 札 側価格}×100(1) 本 研 究 で は,総 合 評 価 方 式 下 に お け る入 札 を 分 析対 象 と して い る こ とか ら,こ の 総 合 評 価 を 念 頭 に お い た 「競 争 力 値 」 に つ い て 検 討 す る.各 企 業 は(技 術 評 価 点/価 格)で 表 され る評 価 値 が 最 大 に な る よ うに 行 動 す る と考 え られ る.こ の うち 技 術 評 価 点 に つ い て は 発 注 者 側 が 付 け る も の で あ り,企 業 側 で コ ン トロー ル は で き な い が,各 企 業 は 技 術 評 価 点 が 高 く な る よ う に 努 力 す る も の と考 え る.そ の 評 価 値 を 用 い て 式(2)の よ うな 総 合 評 価 方 式 下 で の 「競 争 力 値 」 を 算 出 す る. 総 合 評 価 方 式 下 で の 「競 争 力 値 」 ={(落 札 者 の 評 価 値-入 札 者 の評 価 値)/ 落 札 者 の評 価 値}×100(2) こ こ で,「 競 争 力 値 」 が 小 さ い ほ ど,当 該 企 業 の 競 争 力 は 高 い こ と を示 し,逆 に 「競 争 力 値 」 が 大 き い ほ ど,競 争 力 が 低 い こ と を示 して い る,な お,落 札 者 で あ る場 合 に は 「競 争 力 値 」 は0と な る. こ こ で 岩 松 ら6)も 指 摘 して い る よ うに,企 業 の 競 争 へ の 参 加 状 況 は 様 々 で あ り,入 札 行 動 の 観 察 を 目 的 と した 場 合,入 札 や 落 札 の 回 数 の 多 い 企 業 を 対 象 と す る の が 適 切 で あ る.そ こ で 本 研 究 で は 既 往 研 究 を参 考}に 入 札 参 加 回 数 が5回 以 上 で か つ 落 札 回 数 が1回 以 上 の 企 業(93社)を 対 象 に 分 析 を 行 う. b)分 析 結 果 各 企 業 に つ い て,期 間 中 に 参 加 し た 全 て の 入 札 に お け る 「競 争 力 値 」 の 平 均 を横 軸 けに 標 準 偏 差 を縦 軸 に プ ロ ッ ト した 結 果 を 図-6に 示 す.こ れ よ り, 「競 争 力 値 」 の 平 均 や 標 準 偏 差 が 企 業 毎 で 様 々 で あ り,企 業 間 で 入 札 価 格 の 設 定 や 技 術 提 案 の 水 準 が 異 な っ て い る こ とが 分 か る. ま た,全 体 的 に は 右 肩 上 が りに な っ て い る.す な わ ち,「 競 争 力 値 」 の 平 均 が 低 い 企 業 ほ ど標 準 偏 差 も 低 く な っ て お り,こ れ よ り競 争 力 が 高 い 企 業 ほ ど 毎 回 安 定 的 な 入 札 が 行 わ れ て い る こ と が,逆 に 競 争 力 が 低 い 企 業 は 不 安 定 な 入 札 が 行 わ れ て い る こ とが うか が え る.な お こ の 結 果 は,入 札 価 格 の 競 争 力 を 分 析 した 岩 松 ら6),7)の 結 果 と同 じ傾 向 に あ る が,平 均 や 標 準 偏 差 の 値 は 高 くな っ て い る. 一 方,落 札 回 数 別 に 見 た 「競 争 力 値 」 の 平 均 と標 準 偏 差 を表-6に 示 す.こ れ よ り,当 然 の こ とな が ら 落 札 回 数 が 多 い ほ ど,平 均,標 準 偏 差 と も小 さ くな っ て い る こ と が分 か る.
図-6企 業毎の競争力値の平均と標準偏差
表-6落 札回数別に見た競争力値
な お,今 回 の 分 析 で は 対 象 を一 般 土 木 工 事 に 限 定 して い る も の の,企 業 に と っ て 得 意 ・不 得 意 な 工 事 は 存 在 す る も の と考 え られ,そ の 点 を 踏 ま え た 入 札 へ の 参 加 基 準 も企 業 に よ っ て 異 な る と思 わ れ る .こ れ ら の 点 に つ い て は今 後 分 析 を進 め た い. (2)技 術 評 価 と入 札 価 格 の 関 係 総 合 評 価 方 式 は 入 札 価 格 に 加 え て 技 術 力 や 技 術 提 案 に つ い て も評 価 され る こ とか ら,例 え ば 技 術 力 が 低 い と考 え て い る 企 業 が 入 札 価 格 を 低 め に 設 定 す る (あ る い は そ の 逆)な ど,企 業 の 入 札 に 対 す る 行 動 に も影 響 を 与 え る こ とが 想 定 され る.そ こ で,個 々 の 企 業 に お け る 技 術 評 価 と入 札 価 格 と の 関係 に つ い て 分 析 す る. こ の う ち 技 術 評 価 に つ い て は,入 札 毎 に加 算 点 の 満 点 が 異 な る こ とか ら満 点 に 対 す る 割 合 で 比 較 す る. ま た,各 企 業 の 入 札 価 格 とそ の 入 札 に お け る 落 札 価 格 と の 乖 離 率 は 式(3)で 表 され る.こ の 乖 離 率 は 上 述 の 式(1)の 競 争 力 値 の 算 定 式 と 同 じ で あ る が,こ こ で は分 析 の 主 旨 か ら乖 離 率 と表 記 した い. 価 格 乖 離 率(%)={(入 札 価 格-落 札 価 格) /落 札 価 格}×100(3)な お,価 格 乖 離 率 が0の 場 合 は そ の 企 業 が 落 札 者 で あ る こ と を 示 し て お り,マ イ ナ ス の 場 合 は 総 合 評 価 の 結 果,最 低 価 格 者 以 外 が 落 札 し た こ と を 示 して い る. 以 上 に 基 づ き 入 札 結 果 を用 い て,入 札 に 参 加 した 企 業 の 技 術 評 価 と価 格 乖 離 率 と の 関 係 を 示 した の が 図-7(簡 易 型),図-8(標 準 型)で あ る.こ れ よ り技 術 評 価(加 算 点 の 満 点 に 対 す る割 合)は,簡 易 型, 標 準 型 と も 中 間(50%)付 近 を 中 心 に 左 右 に広 く分 布 して お り,価 格 乖 離 率 は,簡 易 型 は0∼20%の 範 囲 に 集 中 し,標 準 型 は0∼30%の 範 囲 に分 布 して い る こ と が 分 か る.す な わ ち,右 肩 上 が りに は な っ て お らず, こ の 結 果 か ら は 技 術 評 価 と入 札 価 格 の 設 定 の 間 に は 明 示 的 な 関係 は認 め られ な い と言 え る. な お,加 算 点 の 割 合 が 低 い 企 業 が よ り低 い 価 格 (落 札 価 格 に 近 い 価 格)で 入 札 に 参 加 して い る 傾 向 が 一 部 で 見 受 け られ,特 に 品 質 向 上 を趣 旨 と し て い る 標 準 型 で も 見 られ る こ と は,3.(3)で も述 べ た よ うに,総 合 評 価 方 式 の 今 後 の 検 討 課 題 と考 え られ る. (3)ま とめ こ れ ま で の 個 々 の 企 業 に 着 目 した 分 析 結 果 を ま と め る と,以 下 の とお りで あ る. ・ 総 合 評 価 方 式 下 に お け る企 業 の 競 争 力 値 を 算 定 し た 結 果,入 札 に 対 す る行 動 が企 業 間 で 異 な っ て い る こ と,全 体 的 に は 右 肩 上 が りな っ て お り,競 争 力 が 高 い 企 業 ほ ど毎 回 安 定 的 な 入 札 が 行 わ れ て い る こ とが うか が え る. ・ 個 々 の 企 業 に 技 術 評 価 と入 札 価 格 設 定 との 関係 に つ い て 分 析 した 結 果,両 者 の 間 に は 明 示 的 な 関 係 は 認 め られ な い も の の,加 算 点 の 割 合 が低 い 企 業 が よ り低 い 価 格 で 入 札 に 参 加 して い る傾 向 が 一 部 で 見 受 け られ る. 5.お わ りに 本 研 究 は 一 般 に公 開 され て い る 入 札 情 報 を用 い て, 総 合 評 価 方 式 の 実 態 に 関 す る基 礎 目 な 分 析 を行 っ た. そ の 結 果,個 々 の 入 札 に お け る競 争 状 況 や 企 業 の 入 札 に 関 す る行 動 な ど,総 合 評 価 方 式 に よ る 入 札 の 実 態 と課 題 が 明 ら か に な っ た.具 体 的 に は,落 札 に は 依 然 と して 価 格 の 影 響 が 大 き く,特 に 標 準 型 に お い て も 技 術 評 価 点 の 低 い 企 業 が 落 札 して い る入 札 が 見
図-7技 術評価 と価格乖離率の関係(簡易型)
図-8技 術評価と価格乖離率の関係(標準型)
受 け られ ること,企 業の入札行動 については競争力
が高い企業 ほ ど安定的 な入札 が,逆 に競争力 が低い
企業 は不安定な入札 が行 われ てい ることな どである.
なお,本 研 究では総合評価方式 の評価方式である
簡易型 と標準型 の入札結果 を対象 に分析 を行ったも
のである.総 合評価方式 自体 の意義 である工事 目的
物の性能 の向上や総合的な コス トの縮減,技 術 と経
営に優れた健全 な建設業 の育成1)な どが達成 されて
い るかについて は,中 長期 的な視 点か らの分析 と評
価 が必要 で あ り,今 後 の課題 と したい.
【
補注】
1)中 部地方整備 局 を対象 とした理 由 として 「
入 札
情報サー ビス」掲載 の入札結果 について,技 術
評価点(加 算 点)の 内訳 まで把握 できることが
挙 げ られ る.な お,一 般 土 木 工 事 の うち 国 道 事 務 所 及 び 河 川 国 道 事 務 所 の 工 事(主 に 道 路 関 係)を 対 象 と して い る. 2)-回 入 札 が行 われ て い る 場 合 に は,落 札 率 と整 合 を取 る た め2回 目の 参 加 企 業 数 を 採 用 して い る. 3)分 析 対 象 期 間 中 の 落 札 率 の 推 移 に つ い て,国 土 交 通 省 の 緊 急 公 共 工 事 品 質 確 保 対 策(平 成18年 1-月8日)が 実 施 され た 前 後 で は,落 札 率 の 平 均 は そ れ ぞ れ90.4%(平 成18年1-月 以 前), 90.1%(平 成19年L月 以 降)で あ り,ほ とん ど 違 い は な い. 【参 考 文 献 】 1) 公 共 工 事 に お け る 総 合 評 価 方 式 活 用 検 討 委 員 会: 公 共 工 事 に お け る 総 合 評 価 方 式 活 用 ガ イ ドラ イ ン,-005. 2) 堤 達 也 ・溝 口宏 樹: 国 土 交 通 省 に お け る 総 合 評 価 方 式 実 施 状 況 の 分 析 に つ い て, 第25 回 建 設 マ ネ ジ メ ン ト問 題 に 関 す る 研 究 発 表 ・討 論 会 講 演 集, pp.37-40, 2007. 3) 堀 康 雄 ・大 野 誠 ・北 園 猛 ・川 添 清 純 ・松 本 和 信: 高 度 技 術 提 案 型 総 合 評 価 方 式 の 適 用 につ い て,第25回 建 設 マ ネ ジ メ ン ト問 題 に 関 す る研 究 発 表 ・討 論 会 講 演 集, pp.41-44, 2007. 4) 毛 利 淳 二 ・溝 口 宏 樹 ・堤 達 也 ・清 家 基 哉 ・ 藤 堂 卓 英: 公 共 工 事 の 総 合 評 価 方 式 に お け る 除 算 方 式 と 加 算 方 式 の 比 較 ∼ 試 行 事 例 を 通 じ て ∼,第25回 建 設 マ ネ ジ メ ン ト問 題 に 関 す る 研 究 発 表 ・討 論 会 講 演 集, pp.33-36, 2007. 5) 伊 藤 弘 之: 公 共 工 事 に お け る 総 合 評 価 方 式 の 変 遷 と 今 後 の 課 題 に つ い て, 建 設 マ ネ ジ メ ン ト研 究 論 文 集, VoL14, pp.215-2-6, 2007. 6) 岩 松 準 ・秋 山 哲 一 ・遠 藤 和 義: 建 設 プ ロ ジ ェ ク トに お け る 入 札 戦 略 に 関 す る 研 究, 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集, 第548号, pp.207-213, 2001. 7) 岩 松 準 ・遠 藤 和 義 ・秋 山 哲 一: 公 開 デ ー タ に よ る 近 年 の 入 札 行 動 の 変 化 に 関 す る 分 析, 日本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集,第622号, pp.169-174, 2007. 8) 森 本 恵 美 ・滑 川 達 ・山 中 英 生: 公 開 入 札 結 果 情 報 を 用 い た 入 札 競 争 状 態 の 統 計 分 析, 建 設 マ ネ ジ メ ン ト研 究 論 文 集, Vol.12, pp.139-148, 2005. 9) 「入 札 情 報 サ ー ビ ス 」 (http://www.i-ppi.jp/Search小Web/Index.htm) 及 び 中 部 地 方 整 備 局Web上 の 入 札 公 告.