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習慣性顎関節脱臼に対する外科療法 −後方斜面温存の関節隆起切除術および新開発チタンプレート+人工骨併用の関節隆起増高術−

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全文

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緒     言

 顎関節脱臼はあらゆる年齢層に起こりうるが, 年齢別の 発症頻度でみると 20 歳代の若年者層と 70~80 歳代の高 齢者層に多い傾向にある1~3 ).顎関節脱臼は急性脱臼と 習慣性脱臼と陳旧性脱臼に分類され, 習慣性顎関節脱臼 は他の脱臼に比べて頻度が高く, 年齢別の発症頻度は報告 によって異なるが若年層や高齢者層に多い傾向がみられ る1, 2 ).本邦では前例のない速度で社会の高齢化が進むこ とが予想され, 年齢 3 区分のうち老年人口の割合は, 2015 年 26.6%であったが, 出生中位・死亡中位推計で 2036 年 33.3%, 2065 年 38.4%と増加していくとされている4 ).高 齢者の顎関節脱臼では習慣性のものが 45%に認められるこ とから3 ), 今後, 習慣性顎関節脱臼の症例数が増加してい くと推測される.

総  説

第 64 回総会シンポジウム 2  「超高齢化社会における顎関節脱臼に対する外科治療」 愛知学院大学歯学部顎口腔外科学講座 (主任代行:長尾 徹教授)

Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Aichi Gakuin University School of Dentistry (Acting Chief: Prof. NAGAO Toru)

習慣性顎関節脱臼に対する外科療法

−後方斜面温存の関節隆起切除術および

新開発チタンプレート + 人工骨併用の関節隆起増高術−

小 木 信 美・栗 田 賢 一

Surgical management of recurrent TMJ dislocation

− Eminectomy preserving posterior articular slope &

Augmentation eminoplasty with a newly-designed titanium plate

and artificial bone complex

OGI Nobumi ・ KURITA Kenichi

Abstract: This article describes two different surgical procedures for recurrent temporomandibular joint dislocation: eminectomy preserving the posterior slope of the eminence and augmentation eminoplasty with a newly designed titanium plate and artificial bone complex. After non-surgical attempts at prevention of dislocation failed, surgical intervention was considered. Both procedures were performed under general anesthesia with nasotracheal intubation.

 Eminectomy preserving the posterior articular slope: Surgical resection of the anterior articular slope required precise cuts with piezoelectric surgery. The slope was removed with an angled-up cutting surface from the inferior border of the zygomatic arch to the lower end of the eminence. The advantages of this surgical procedure were its relative simplicity and maintenance of the posterior functional surface.

 Augmentation eminoplasty: The newly designed titanium plate has high mechanical strength. However, plate augmentation alone without artificial bone coverage caused anterior condylar bone resorption. The plate covered with the artificial calcium phosphate bone was used to avoid condylar resorption. The artificial bone has high compressive strength. The complex fixed with the zygomatic arch prevented dislocation without any plate fracture or artificial bone breakage.

 There were no major disadvantages of these procedures. The postoperative course was uneventful, with a stable joint state.

 Both procedures are reliable for the management of recurrent temporomandibular joint dislocation. Key words: recurrent temporomandibular joint dislocation (習慣性顎関節脱臼),eminectomy (関節隆起切除術),

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 顎関節脱臼は直接的に生命を脅かす訳ではないが, 顎関 節が脱臼した状態では通常の嚥下が困難になるので誤嚥性 肺炎を生じることがある5, 6 ).高齢者の顎関節脱臼は習慣 性になりやすく5 ), 脱臼を繰り返す状態に対応する必要が ある.習慣性顎関節脱臼では, 整復しても直ぐに再脱臼が 起こりうることや脱臼が繰り返されるため, 対応に苦慮す ることがある.更に高齢者で認知機能低下や要介護状態に ある場合, 患者自身が自立した状態で医療機関を受診する ことは困難で, 再脱臼が周囲の家族や介護者に負担を強い ることからも, 顎関節を安定した状態に保つ必要がある.  高齢者は一般に多病で基礎疾患を有していることが多 く7 ), 加齢によって全身的な予備力や機能が減退している ので, 合併症や入院の長期化などを伴いやすいという問題 を内在している8 ).習慣性顎関節脱臼の患者に全身疾患が 多く認められるとされ2 ), 高齢の顎関節脱臼患者では術中 や術後に何らかの偶発症を生ずる可能性もある9 ).習慣性 顎関節脱臼では, 誘因となる認知症, 脳血管性疾患, 精神疾 患, 神経疾患といった既往歴や服薬歴も考慮した上で9 ) 最初に保存療法を行うが, 脱臼をコントロールできない場 合, 手術の適応となる.高齢者や全身状態に問題のある患 者に対する顎関節脱臼の手術では全身状態に配慮する慎重 な姿勢と低侵襲度の術式が求められている5, 6 ).当講座で は, 習慣性顎関節脱臼に対する手術療法として, 前方関節 隆起切除術による運動平滑化法, または, 新開発チタンプ レートと人工骨の併用の関節隆起増高術による運動抑制法 を行っている.これら術式による外科的侵襲は大きくなく 高齢者にも応用が可能である.

習慣性顎関節脱臼の手術適応と術式の選択

 習慣性顎関節脱臼に対して, 保存療法を一次治療として 顎関節脱臼防止帽 (AGO キャップ®) による開口制限を行 い, 習慣性顎関節脱臼をコントロールしている5 ).AGO キャップ®の装着を中止しても再脱臼を起こさない症例や 顎関節脱臼の頻度が減少し日常生活を支障なく過ごすこと のできる症例を経験している.しかし, 効果が限定的な場 合, 二次治療として手術療法を選択している.  習慣性顎関節脱臼に対する手術術式は多種多様で, どの 治療方法が習慣性顎関節脱臼に対して長期の脱臼抑制効果 があるかということについてはエビデンスが十分ではな い10).当講座では, 習慣性顎関節脱臼に対して確実性が高 いと考えられる関節隆起切除術による運動平滑化法11), ま たは, ミニプレートによる運動抑制では破折などによる再 発の可能性があるため12), 機械的強度を高めた新開発のチ タンプレートを応用した関節隆起増高術による運動抑制法 を, 症例によって使い分けている.  関節隆起切除術は, 関節隆起が十分高く含気腔が手術侵 襲の及ぶ関節隆起内に認められない患者に行っており, 比 較的若年の患者に適応している5 ).ただし, 下顎頭が前上 方に大きく移動して側頭窩に陥入するような症例では関節 隆起切除術は適応とならず5 ), 関節隆起増高術を考慮する.  高齢者に対しては, 関節隆起の前方部に人工骨を置いて 下顎頭が前方に脱臼しないようにする関節隆起増高術を 行っている.高齢になるのに伴い関節隆起の平坦化と筋緊 張の低下によって下顎頭が前上方へ脱臼することに対応す るため5 ), 新開発チタンプレートと人工骨を併用して下顎 頭の運動抑制をしている13)

手術時の治療目標

 運動平滑化法の目標は, 開口時に関節隆起の前方に滑走 した下顎頭が閉口時に下顎窩へ戻りやすくすることにあ る.当講座では, 関節隆起の前方を切除して機能面である 後方斜面を可及的に温存する関節隆起切除を行っている. 術中, 関節隆起を切除した後に下顎を前後的に動かして閉 口時の抵抗の感覚が術前よりも軽減していることで下顎頭 が戻りやすくなっていることを確認している.  運動抑制法における目標は, 関節隆起の前方に障害を設 けて脱臼する開口域まで下顎頭を前方滑走させないことに あり, 術中に障害物の位置で開口域を調整することも可能 である.治療目標としてアメリカ口腔顎顔面外科学会の基 準 AAOMS Parameters of Care-95 14) に準じて術中に関節隆

起の前方に置いた障害物で開口域が最大で 35mm 以下にな るように設定して手術を行っている.

画像検査による術前評価

 顎関節の CT を術前に撮影して関節隆起や頰骨弓の形態 や高径・幅径を把握するとともに関節隆起内での含気腔の 有無を確認し, 手術術式の適応を考慮している.パノラマ エックス線撮影法は CT と比較してコストや放射線被曝な どの面で優れスクリーニングとしてよい方法であるが15~ 17), 関節隆起や下顎頭の状態を正確に確認することや含気 腔を確実に検出することは難しいため16, 18), 術前 CT によ る三次元的な精査が必要である.関節隆起の含気腔の有病 率では, 関節隆起で 8.0~21.3%の患者に認められると報 告されている16, 17).含気腔の存在範囲は, 関節隆起の一部 に限局したものから関節隆起全体を占めるものまで程度は さまざまである19).含気腔は多房性のものが圧倒的に多 く, 関節隆起の含気腔は片側性が両側性よりも多く認めら れるのに対し16, 18, 20), 下顎窩の含気腔では両側性が片側性 よりも多いことにも留意しておく16, 20).含気腔の存在が

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関節隆起や下顎窩の形態に影響することはないが, 顎関節 の手術時には含気腔の存在を考慮すべきである21).乳様 突起の含気腔は周囲の骨に拡がっている可能性があり, 一 部で生じた感染は広範囲に及ぶことがある22).関節隆起 の切除や関節隆起増高のスクリュー固定において含気腔を 開放する可能性や含気腔に手術侵襲が及ぶ可能性から術前 の CT で含気腔の分布と大きさを確認しなければならない. また, 少数例ながら関節隆起全体が 1 つの含気腔となって いるような症例が存在することがあり, 関節隆起の骨に侵 襲を加えるとバリアとなる骨がないために頭蓋底の骨を穿 孔・損傷する危険性が指摘されている19).関節隆起の大 部分が 1 つの含気腔となる症例では骨削除は禁忌となるた め, 術前 CT 検査による確認は必須である19)  関節隆起増高術においてはプレートを頰骨弓にスク リュー固定するため, 含気腔がない症例であっても頰骨弓 表面から頭蓋内面までの距離を CT 画像で把握しておき, スクリューの長さやスクリューホール形成のためのドリリ ングの深さに配慮する必要がある23)

顎関節へのアプローチ

 顎関節の手術において創部の感染予防のため, 術野皮膚 の消毒後に顎関節部をサージカルドレープで被覆してい る.更に術中に下顎を把持し, 前後に動かすことや開閉口 運動をさせることで下顎頭の動きや関節隆起部の抵抗状 態を確認するので, 口部も穴の空いていないサージカルド レープで被覆して口腔内を直接, 触れないようにして感染 予防に留意している.  関節隆起切除術と関節隆起増高術のいずれの術式であっ ても顎関節へのアプローチは全身麻酔下に耳前部で顔面神 経の走行を考慮して24), 耳珠下端を起点として上方へ皮 膚切開を行っている.関節隆起切除術では, 皮膚切開の長 さは 2 cm で支障なく手術を完遂できている.関節隆起増 高術ではフラップを展開するため上方へ切開を延長してい る.皮膚切開後は, Al-Kayat Bramley 法25) に倣い顔面神経 の損傷を回避するために側頭筋膜浅葉の深さまで到達して 剥離・展開した後, 浅葉と深葉の間にある脂肪組織を確認 して顎関節にアプローチしている25, 26).関節結節の全体 が視認できるように頰骨弓外側で剥離を開始し, 下方にも 剥離して関節包全体を明示している.下顎窩・関節結節の 外側縁で骨膜剥離子の先端を当てることで骨と軟組織の境 界を確認し, 上関節腔内に局所麻酔薬を注入した後に下顎 窩・関節結節の外側縁の下縁に沿ってメスで関節包を切開 し, 上関節腔を開放している.この術式であれば顔面神経 の前額枝は前方の皮弁内にあるため, 創部で顔面神経に直 接的に接することはない.術後に顔面神経の前額枝に運動 障害を生じることがまれにあるが, 一過性の運動障害であ り, 経時的に回復し顔面神経麻痺が残存することはない.

前方斜面関節隆起切除術の術式

 関節隆起切除術において関節隆起を低くすることで閉口 時に下顎頭が後方へ移動する際の障害をなくし下顎窩に戻 りやすくすることと顎関節腔開放に伴い術野創部に瘢痕が 形成されることで顎関節脱臼を回避している27, 28).関節 隆起切除術は過去に多くの報告がされており, 関節隆起を 切除することでは一致しているが, 骨の切除量は一定では なく, 関節隆起の一部に留めるものから全体を切除するも のまでさまざまである19).当講座では, 関節隆起切除術を 行う場合, 関節隆起の前方を切除し関節隆起の後方斜面を 可及的に残すようにしている.関節隆起の前方斜面を切除 することの目的は, 閉口時に下顎頭が前方から後方へ移動 する際の抵抗が減少して下顎頭が下顎窩に戻りやすくなる ことと, 後方斜面の温存によって下顎頭が前方滑走する際 の機能面を残すことと下顎頭を下顎窩で安定させることに ある.関節隆起切除では, 超音波切削器具を使用すること で正確で直線的な骨の切除が可能となる (写真 1A~C). 下顎頭が下顎窩に戻りやすくなっているか否かの判断は, 術中にドレープを介して下顎を把持して前後に動かし関節 隆起を越える際に切除前よりも下顎頭の動きに抵抗がなく 円滑になっているかをみることで確認できる.開閉口に伴 う動きが円滑でない場合, 関節隆起切除部の最下端で抵抗 が生じるため丸めている.また, 術中に下顎を徒手的に大 きく開口させて下顎頭を関節隆起の前方に置いて脱臼し ている状態にしても, 切除前は下顎頭が関節隆起に引っ掛 かって脱臼した状態のままになっていたものが, 関節隆起 の前方斜面切除後には力を加えなくても下顎頭が自然に下 顎窩に戻る状態が再現されることでも閉口時の下顎頭に対 する抵抗が減少していることを確認できる.

関節隆起増高術の術式

 高齢者では関節隆起が低くなることと筋緊張低下で下顎 頭が前上方へ大きく移動するため関節隆起切除術を第一 選択とせず5 ), 関節隆起増高術を適応している.プレート で下顎頭の滑走を制限し顎関節脱臼に応用した Buckley-Terry 法29) が発表されて以来, 同様の報告がなされている. 既存の L 字型ミニプレート単独による顎関節隆起増高術 は関節隆起切除術と同様に効果があるとされているが30) T 字型ミニプレートが時間経過とともに金属疲労を生じ破 折すること31) や変形して脱臼が再発する可能性があるこ とから32), ミニプレートの機械的強度は顎関節脱臼を防止

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する上で十分ではないと判断し, Buckley-Terry 法29) にみ られるような既存のプレートによる関節隆起増高術は行っ ていない.  当講座では, 顎関節脱臼防止のために機械的強度を高め た T 字型チタンプレートを開発して下顎頭前方脱臼の抑制 に使用している.プレートの厚みは 1 mm で既存のプレー トと変わらないが, T 字垂直部の幅を, 先端で 5.5mm, 基 部で 8.04mm として既存のミニプレートよりも幅広くする ことで機械的強度を高めたチタンプレート (図示した新開 発チタンプレートで荷重降伏点は 265.7N) を臨床で応用 している (写真 2A, B).プレートの厚みを増すことでも 機械的強度を高めることは可能であるが, 新開発チタンプ レートは平板であり, 顎関節脱臼に対して屈曲して使用す るため, 厚みは徒手的に屈曲可能な 1 mm としている.術 式として, 開口制限の程度を確認しながら, 新開発チタン プレートをリン酸カルシウム骨ペーストの人工骨 (バイオ ペックス® -R) で被覆して関節隆起の前方を一部削除した 部分に置き, 機能面である関節隆起後方斜面を残す関節隆 起増高術を行っている.  新開発チタンプレートは既存の T 字型ミニプレートに 比較して高い機械的強度を有している.下顎運動時の応力 がプレートに作用しても破折や変形を生じることなく顎関 節脱臼をコントロール可能であることから, 当初は新開発 チタンプレート単独で関節隆起増高術を行っていた.しか し, 新開発チタンプレート単独では機械的強度が高いため プレートの変形や破折を生じない代わりに, 術後 CT によ る経過観察で下顎頭の前縁でプレートが接触する部分に骨 吸収を生じていることが判明した (写真 3A, B).骨吸収 は開口時に新開発チタンプレートとの間で下顎頭に線状の 圧力が集中的にかかるためと推察され, 更に骨吸収が進行 する可能性があり, 圧力の分散のため再手術でプレートと 人工骨を併用した.下顎頭前面にかかる圧力を新開発チタ ンプレート単独による線状ではなく, 被覆した人工骨の面 で当たるようにして開口時に下顎頭との間で発生する圧力 を分散させている (写真 4A, B).下顎頭前縁が人工骨と 面で接触するようになり, 術後の CT で下顎頭前縁の骨吸 写真 1 前方斜面関節隆起切除術 A:術前の顎関節 3D-CT;関節隆起の前方斜面の切除予定線 B:超音波切除器具による関節隆起の前方斜面の切除後 C:術後の顎関節 3D-CT;関節隆起の前方斜面切除の術後 写真 2 新開発チタンプレート A: 新開発チタンプレートの T 字垂直部の基部 (両頭矢印部) で幅 8.04mm. B: 新開発チタンプレートの屈曲後 A A B B C

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収部に骨皮質で覆われた骨再生が認められている13) (写真 5A, B).術後は, 創部に炎症所見を認めず, 頰骨弓のスク リュー固定部分の緩みや人工骨部分の破断なく, 人工骨と プレートとの間でも動揺なく安定して再脱臼を防止してい る13).このことから, 下顎頭に線状に加わっていた圧が軽 減されることで, いったん生じた骨吸収部分の骨が再生し うると推察された.  新開発チタンプレート単独で下顎頭に骨吸収を生じるこ とが判明してからは, 新開発チタンプレートと人工骨とを 併用しており, 骨吸収なく安定した状態で脱臼防止ができ ている.人工骨部を配置する基準としては, 関節結節の前 方で術中にドレープを介して下顎を把持して動かしてみて 写真 3 新開発チタンプレート単独による関節隆起増高術の矢状断 CT A, B:新開発チタンプレートで下顎頭前縁に生じた骨吸収 (右, 左). 写真 4 人工骨被覆プレートによる関節隆起増高術 A:リン酸カルシウム骨ペーストの人工骨で被覆した新開発チタンプレート B:関節隆起前方にスクリュー固定した人工骨被覆プレート       写真 5 人工骨被覆プレートによる関節隆起増高術術後の矢状断 CT A, B:人工骨被覆プレート術後で下顎頭前縁骨吸収部の骨再生 (右, 左). A A A B B B

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開口域が 35mm 以内となるよう位置を調整し14), 関節結 節の骨を前方で一部削除して配置している.人工骨を配置 する際に周囲の軟組織を強く圧迫しないように挿入時に抵 抗を確認しながら人工骨の形態修正も行っている.  人工骨には, リン酸カルシウム骨ペーストの他, 溶解度が 高く吸収されるβ -TCP 製人工骨や弾力性があり母床骨に 適合しやすいハイドロキシアパタイト・コラーゲン複合体 などがある33).リン酸カルシウム骨ペーストは, 水和反応 後にハイドロキシアパタイトとなるため33), 生体適合性が 高く34), 異物反応もなく固形化した後は非吸収性で高い圧 縮強度を有し35), 人工骨のなかで顎関節脱臼を防止するの に適している.リン酸カルシウム骨ペーストは多くの領域 で使用され, 骨欠損に対する補填などに臨床応用されてい る36, 37).リン酸カルシウム骨ペースト (バイオペック ス® -R) は, 粉剤 (α型リン酸三カルシウム, リン酸四カル シウム, リン酸水素カルシウム, 水酸アパタイト, リン酸 マグネシウム) と専用練和液 (コンドロイチン硫酸エステ ルナトリウム (別名:コンドロイチン硫酸ナトリウム), コ ハク酸二ナトリウム無水物, 亜硫酸水素ナトリウム, 注射 用水) から成り, ポリプロピレン製の専用乳鉢セットを含 めて滅菌された状態のキットとして製品化されている.人 工骨の粉剤と専用練和液を練和すると 1.5 分でペースト状 となり, 成形は 2.5 分以内に行うよう指示されている.成 形する際, 練和したペーストは適切な稠度を有し, ペース トが滅菌ゴム手袋に付着することもないので操作性は良好 で, 希望する形に成形することは容易である.リン酸カル シウム骨ペーストは練和時の水和反応によって硬化して速 やかにアパタイト構造となり固形化するが33), 指で押さえ ても変形しなくなる固形化には 7 分以上が必要である.人 工骨部分の形態によっては関節隆起の前方に挿入する際に 周囲の軟組織を圧迫することから修正が必要となるが, 固 形化した後でもエンジンバーで削ることで形態を修正する ことができる.リン酸カルシウム骨ペーストは練和から固 形化・硬化の過程のなかで発熱することはないため, 発熱 による周囲組織への影響はない34).リン酸カルシウム骨 ペーストが固形化すれば, 頰骨弓にプレートとともにスク リュー固定した直後から脱臼を防止することが可能とな る.術後, 筋収縮活動を止めることはできないが, 顎間固 定などの開口制限をしなくてもプレートが緩むことなく安 定して脱臼を防止できている.リン酸カルシウム骨ペー ストは固形化した後も硬化が進行し, 圧縮強度は 1 日以内 に 40MPa 以上となり, 更に 3 日後には 80MPa の高い圧縮 強度に達し, 以後も安定した強度が維持される35).新開発 チタンプレートを屈曲して人工骨で被覆する作業に若干の 時間を要するが, 作業自体はほとんどが顎関節の外で行わ れるため外科的侵襲は大きくないと考えられる.リン酸カ ルシウム骨ペーストは血液が混入すると圧縮強度が減少す るという性質があるが35), 本術式ではリン酸カルシウム骨 ペーストの練和から固形化までの作業を血液に触れない体 外で行うため, ペーストへの血液混入による強度低下はな い.この関節隆起増高術では, リン酸カルシウム骨ペース トの注入方式をとらず, 体外で固形化してから応用するの で目的外の部位にペーストが侵入することによる問題はな い.ただし, 人工のインプラント体である以上は術後に手 術部位に感染を生じる可能性があるため, 術中の清潔操作 には配慮する必要がある.

結     語

 当講座では, 習慣性顎関節脱臼に一次治療として顎関節 脱臼防止帽 (AGO キャップ®) による保存療法で対応して いるが, 保存療法が十分に奏功しない症例に対して二次治 療として手術療法を選択している.関節隆起が十分高く含 気腔を関節隆起内に認めない比較的若年の患者に運動平滑 化法として関節隆起の後方斜面を温存する関節隆起切除術 を適応している.また, 関節隆起が平坦化した高齢者に対 しては関節隆起増高術として新開発チタンプレートに人工 骨を組み合わせて下顎頭の運動を抑制している.いずれの 治療法においても問題となるような合併症を生じることな く習慣性顎関節脱臼を良好に制御することができている. 謝辞  本論文の執筆に際し多大なご協力を賜りました愛知学院大 学歯学部の顎口腔外科学講座ならびに歯科放射線学講座の諸 兄に深謝いたします.  本論文に関して, 開示すべき利益相反状態はない. 引 用 文 献 1 ) 武者 篤, 狩野証夫, 他:顎関節脱臼症例の臨床的 検討.Kitakanto Med J 58: 287-295, 2008. 2 ) 加藤晃一郎, 村井正寛, 他:顎関節脱臼 251 例の臨 床的観察−口腔外科と救命救急科との比較−.日口 外誌 60: 687-692, 2014. 3 ) 柴田考典, 栗田賢一, 他:<顎関節脱臼:高齢化社 会における対応> 高齢者の顎関節脱臼の現状と治 療法 (再脱臼防止法) の概要.日顎誌 28: 3-13, 2016. 4 ) 国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来推計 人口 (平成 29 年推計) −平成 28 (2016) 年~平成 77 (2115) 年− http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/ zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp (2020 年 6 月 18 日に利用) 5 ) 栗田賢一:<顎関節脱臼:高齢化社会における対応 > 高齢者顎関節脱臼の展望と試み.日顎誌 28: 22-27, 2016.

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参照

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