「福祉の権利化」の視点からみたひとり親家庭の福祉政策
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(2) ある福祉法政策が成立していない。それゆえ、福祉の権利化の視点からみると かなり問題のある権利侵害が起こっている。」とする。 そして仮説の結論をより具体的に述べるならば、①児童扶養手当等の経済的 給付では、福祉の権利化を阻む要因として、ひとり親家庭へのプライバシーを 無視した過剰なひとり親家庭への介入を前提とした、経済的給付の締め付けが ソフト・ロー的な調整を通じ行われており、②福祉 / 就労支援サービスでは「サー ビスの付与段階」および「サービスの権利行使段階」におけるソフト・ロー化 の不備により権利性が曖昧なままにおかれている、とする。 これらを踏まえての本稿の構成は、以下の通りである。項目Ⅱでは、本稿で の議論の前提となる「福祉の権利化」とはそもそもどのような概念なのかを検 討する。その後、項目Ⅲにおいて、児童扶養手当にみる福祉の権利化の到達状 況を確認した後、当該手当とソフト・ロー的調整機能がいかなる手法で展開さ れているのかを検討する。続く項目Ⅳでは、福祉 / 就労支援サービス給付にお ける福祉の権利化の到達状況を同じく確認した後に、それらのサービスにおい て、サービスの付与段階または権利行使段階において、いかなる課題点が生じ ているかを確認する。最後、項目Ⅴにおいて、本稿での検証結果ならびに今後 の検討課題について整理する。 なお本稿での射程は、日本のひとり親家庭、特に母子家庭に着目する。母子 及び父子並びに寡婦福祉法(以下、 「母子父子寡婦福祉法」とする。)では、母 子家庭とは、「配偶者のいない女子であって…現に児童を扶養しているもの」 (同法第6条第6項)であり、配偶者のいない女子とは、「配偶者⑵と死別した女 子であって、現に婚姻⑶をしていないもの及びこれに準ずる次に掲げる⑷女子」 (同法第6条第1項)を指す。そしてここでの児童とは、 「20歳に満たない者」 (同 第6条第3項)と定義する。 Ⅱ.「福祉の権利化」とは何か 1.「福祉権」をめぐる動向 本稿での仮説の前提となる、「福祉の権利化」および「福祉権」⑸の概念につ いて述べる。近年の社会保障法学並びに社会政策学の分野では、福祉権検討の ─ 90 ─.
(3) 機運がみられる。例えば矢野聡氏は、アメリカの福祉権の検討を通じ「福祉権 とはアメリカ・イギリス等アングロサクソン系の先進諸国で最近になって頻繁 に用いられる welfare right または right to welfare であ」り、「これは20世紀も後 半になって、主として現れた集団としての権利から障害や貧困など個別の問 題を抱える弱者に焦点を当てるための比較的新しい概念」であるとする[矢野 2014:1272]。さらに尾形健氏は、福祉権は「従来の「生存権」・「社会権」では 必ずしも尽くされない、市民の生活に対し国家的支援ないし配慮が要請される 場面を、市民の側から権利として理解するキーワード」[尾形2018:4]である とし「単なる所得保障給付という意味のみならず、より広く市民の生活の質を 確保するために承認されるべき権利を包摂する」ものであると説明する[尾形 2018:5]。 これら2者の福祉権の定義は、必ずしも明確に同一範疇の概念を示すもので はないが、福祉権という概念が、先行研究において新たに検討すべき概念とし て高まりを見せているのは事実であるといえる。だが他方で、いったい、福祉 の権利とはいかなる内実を指し、それをいかに「法」として根拠づけるかの曖 昧性も指摘される[矢野2014:1285、秋元2010:chp6]。 2.「福祉の権利化」をめぐる論点. (1)「福祉の権利化」を困難にする2つの理由 なおここでいう、 「福祉の権利化」とはなんであろうか。秋元美世氏は、こ の点につき O. オニールの理論を紹介しながら「法律などにより、権利の保有 者とそれに対応する義務の担い手、さらに権利の内容が明確にルール化されて いること」を指すとする[秋元2010:148]。 では、なぜ「福祉の権利化」はそもそも困難になっているのか。秋元氏は、 この問いに対し、以下の2つの理由を、福祉の権利化が困難な理由として挙げる。 1点目は、社会福祉領域における資源の有限性であり、2点目は、社会福祉が対 象とするところのニーズ(必要)の個別性・多様性に伴い、行政裁量が避けら れないという意味での裁量の不可避性と、それに伴う福祉の権利のルール化の 困難性である[秋元2010:145-146]。 この点、例えば日本の社会福祉制度の状況を鑑みても、多くの福祉に関する ─ 91 ─.
(4) 営みについて明確なルール化がなされず、権利と義務の明確な対応関係がない ままに置かれている[秋元2010:149]し、福祉の権利や人権に関しては、福祉ニー ズの多様性ゆえ、自由権や財産権の場合と同じような形でルール化(制度化) ができないというジレンマ[秋元2010:149]を抱える。このような意味でいえば、 日本の社会福祉の状況も福祉の権利化がされていないという点では同状況である。 (2)「福祉の権利化」のための構想 さらに秋元氏は、福祉サービスにおける「福祉ニーズの多様性」を保ったま ま、福祉サービスがいかに権利化できるかの手法について検討する。そしてそ の手法として1点目に、福祉の権利の「ソフト・ロー」⑹化又は「緩やかな制度化」 という提案を行う。そしてこのような制度化を強調される理由として、秋元氏 はそのことにより裁判所による法的救済を得る事への期待があるとし、例えば 福祉の権利に対する救済を「ソフト・ロー」化または「緩やかな制度化」で実 現することにより、結局は福祉の権利の確立が可能ではないかと述べる[秋元 2010:151]。 そして秋元氏は、I. バイノーの理論を援用しつつ「苦情申し立てやオンブズ マン制度が裁判所の救済を望めないようなケースの救済制度として一定の役割 を果たしている実態を踏まえ、そうしたオンブズマンなどの制度での救済の対 象となりうる利用者の一定の利益に資するという形で、新しい権利保障概念の 位置づけを与えようとする」制度を、福祉の権利化へ近づく手段として評価す る[秋元2010:152]。このような例を挙げ、秋元氏は「たとえば行政の福祉に 関する事業においては、法的ルールにあたるような基準が仮に策定されていな くても、その事業を進めるにあたっての指針のようなものが定められているこ とが多」く、「そうした緩やかなルール…から、それぞれの分野の福祉立法の 理念規定などを関連付けることによって…、一定の意味のある当為を導き出す ことは可能」[秋元2010:152]であり、そのことにより福祉ニーズの多様性を 保持したまま、福祉サービスの権利化がある程度可能ではないかと指摘する。 また秋元氏は、福祉の権利化のための手法として2点目に、当該福祉サービ スの「付与」段階と当該サービスの「行使」段階におけるチェック機能を確立 することにより、実質的なサービス行使の段階で、福祉の権利が実際的に機能 ─ 92 ─.
(5) しているかのチェックが可能であるし、福祉サービスのニーズを保持したまま 権利を確立するには、その視点が必要であるとする。 このように、秋元氏によれば1点目に福祉の権利の「ソフト・ロー化」ある いは「緩やかな制度化」を実現すること、2点目に、福祉サービスの「付与」 段階と「行使」段階におけるチェック機能を確立すること、この2点を行うこ とで、福祉サービスのニーズ性を保持したまま、福祉の権利化の確立はある程 度可能ではないかとの提起が行われる。 (3)「福祉の権利化」議論の本報告へのあてはめ 以上、先行研究では、福祉権をどのように「権利化」していくかが近年の焦 点となり、その手法につき検討されている。 本稿では、これらの点に示唆を受け、例えば秋元氏が提案する「福祉の権利化」 を試みるための構想の視点から考えた場合、日本の母子家庭の福祉法政策にお いてどのような到達点に立つ、ないしはいかなる問題が含有されている、とい えるのかを巡り、児童扶養手当および母子家庭に対する福祉 / 就労支援サービ スの領域から検討していく。 Ⅲ.児童扶養手当にみる福祉の権利化とソフト・ロー的要素との調整 1.児童扶養手当法における権利の「制度化」の度合い ここでは福祉の権利化の議論を、児童扶養手当法(以下、 「児扶手法」とする。 ) を題材に検討する。まず児扶手法における権利の「制度化」の度合いの点を確 認していく。先述のオニールの「権利の制度化」にあてはめ、児童扶養手当の 権利の制度化の度合いを、権利の保有者、権利内容、義務の内容と担い手、受 給権保護の規定を含め確認すると、表1の通りとなる。 ①の児童扶養手当の権利の保有者は、児扶手法第4条⑺にある通り、「婚姻を 解消した父母等」とされ、権利の保有者は法定されている。②の保有する権利 内容は、児扶手法第4条の通り、「児童扶養手当の受給」となる。③の義務の担 い手と内容だが、児扶手法第2条⑻により、趣旨に基づいた手当の使用及び自立 の促進を行う旨、さらに児扶手法第13条の3⑼により、正当な理由なく求職活動 ─ 93 ─.
(6) を怠る者に対する手当の一部支給停止措置が設けられる。さらに④として、児 扶手法第24条⑽に譲渡・担保・差押禁止を規定する受給権の保護、そして児扶 手法第17条⑾に、仮に権利が侵害された場合の審査請求および行政訴訟の規定 が定められている。 表1: 児童扶養手当における「権利化」の度合 ①権利の保有者(受給権者)→婚姻を解消した父母等(児扶手法第4条) ②権利の内容→児童扶養手当の受給(同第4条) ③義務の担い手と内容 Ⓐ趣旨に基づいた手当使用及び自立の促進(同第2条) Ⓑ正当な理由なく求職活動を怠る者に対する手当の一部支給停止措置(同13条の3) ④受給権保護→譲渡・担保・差押禁止(同第24条) 審査請求(同第17条)、行政訴訟 出所 : 筆者作成. このように児童扶養手当制度は、児扶手法に基づき、権利の保有者、権利内 容、義務の担い手と内容が法定化されており、審査請求・行政訴訟における権 利救済も可能とされている。その意味で、オニールのいう「福祉の権利化」に おける制度化要件に、一見かなりの程度合致したシステムであると判断できる。 しかしながら、児童扶養手当の権利化の度合いにもかかわらず、本稿では、当 該手当において、権利化の促進がソフト・ロー的調整で実施される場面や、逆 にソフト・ロー的調整により権利の遮断の機能が児童扶養手当に見られている 点を指摘しておく。 2.児扶手法にみる権利化の促進 / 遮断の機能を有するソフト・ロー的な調整要素 (1)2002年の児扶手法改正 ここで、児童扶養手当における権利化の促進 / 遮断機能について確認してお く前に、それらを引き起こす重要な転機であった2002年の児扶手法改正内容に ついて確認しておく。 2002年の児扶手法の改正内容は、主に以下の4つである。すなわち①手当を ─ 94 ─.
(7) 受給している母の自立に向けた努力の責務の明確化、②支給期間・手当額の関 係の見直し、③支給額の細分化、④支給額算定の際の養育費の所得参入、であ る[石山2014:28-29]。 本稿において特に注目すべきは、①および②の改正内容である。具体的には、 ①と②の改正内容に関係し、権利内容の縮小化を危惧したオンブズマン的な行 動が関係団体から提起されることにより、ソフト・ロー的機能が働き、その過 程において児童扶養手当の権利性を保持する「福祉の権利化の促進」の動きが 存在したことを指摘する。さらに逆に、児童扶養手当受給の受給資格の審査を 巡り、特に「母子家庭か否か」の判断をめぐり、法律で規定しない方法でのプ ライバシーへの介入調査が過度に行われることにより、結果として児童扶養手 当における福祉の権利化を遮断する機能がみられることも指摘する。 次項では、福祉の権利化を促進したソフト・ロー的調整機能から確認する。 (2)就労努力の責務をめぐる「対抗軸」としてのソフト・ロー的な調整要素 2002年の児扶手法改正における、①「手当を受給している母の自立に向けた 努力の責務の明確化」について説明する。これは、児扶手法第14条第4号⑿とし て新たに設けられた規定であり、正当な理由なく求職活動等の自立に向けた活 動をしなかった場合は、手当が支給停止となる旨を規定したものである。 同時に、②の「支給期間・手当額の関係の見直し」とは、児扶手法第13条の 3⒀に設けられた規定である。そこでは支給開始から5年、または支給要件発生 から7年経過した時点を目途に一部支給停止となる旨が定められた。 これら上記2改正に関し、当事者団体の「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」 や全国母子寡婦福祉団体連合会が反対の署名活動を実施した[中囿2016:83]⒁。 さらに研究者からも「児童扶養手当の減額や打切りなどのペナルティを与えて も、それが経済的自立の促進につながるかどうか難しい」との反対意見が出さ れた[阿部・大石2005:159-160]。 これら改正内容に対する動きを受けた後、結果として2007年12月の児扶手法 施行令第8条⒂および児扶手法施行規則では、その減額を「障害や疾病などで就 業が困難な事情がないにもかかわらず、就業意欲がみられない者」⒃のみの減 額とすることとした。これにより、就労努力の責務をめぐる児童扶養手当の実 ─ 95 ─.
(8) 質上の減額措置の「凍結」と判断されたこととなる。 だが現在でも、この減額措置制度自体は存在する。そのため受給者は実務上 「5年等経過者一部支給停止」の適用除外を申請する必要がある。そして対象と なる受給者は「一部減額支給停止適用除外事由届出書」及び事由を証明する書 類を、児童扶養手当受給開始から5年を経過するまでに、市町村に提出する義 務を負う。そして受給から5年経過以降の現況届提出時に、あわせて届出書及 びその証明書類を毎年提出することとなる。なおこの手続きを怠った場合及び 適用事由に該当しなくなった場合には、5年経過後の手当減額となり、これら の措置による一部支給停止者は、全受給者(約101万人)に対し、0.3%(約3 千人)とされている(2017年3月末現在、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 2018:69)⒄。 この現象を、先述の秋元氏による福祉の権利化のための構想の第1、福祉の 権利のソフト・ロー化又は緩やかな制度化という提案から敷衍してみる。2002 年の自扶手法改正の内容がそのまま実施されていれば、それはひとり親家庭に とっては権利の保有者(受給権者)の縮小化という事態に繋がっていく。むろん、 合理的理由による権利の保有者の確定は社会保障受給権の確立に必要であるが、 今回の2002年改正の自扶手法改正の背後には、就労自立への政策転換ならびに その背景にあるひとり家庭の増加による児童扶養手当の支給総額の増加への抑 制という政策課題が存在した。この意味、このような合理的理由なき「権利の 保有者(受給権者)」の縮小化に対抗する動きが、関係団体の反対署名を通じ てのオンブズマン的要素、すなわちハード・ローの締め付けに対応してのソフ ト・ロー的要素を有する調整機能⒅により行われ、それが福祉の権利の促進作 用が発現し規定の修正につながっている、との分析が可能である。 なお実質的な「凍結」がなされているにもかかわらず、そもそも法規定が存 続する理由として、すでにかなりの割合の母子家庭が就労しているにもかかわ らず⒆母子家庭は働くべきという「社会的コンセンサス」があるという点を指 摘しておく⒇。 以上、児童扶養手当における、権利化の推進という点を、関係団体が示した ソフト・ロー的要素を有する調整機能から確認した。次項では、逆に当該手当 における福祉の権利の遮断機能を有するソフト・ロー的調整機能について検討 ─ 96 ─.
(9) する。 (3) 「ひとり親家庭か否かの判断」における「権利の遮断」機能を有するソフト・ ロー的調整要素. この間、児童扶養手当の審査を巡り、交際相手や妊娠の有無を窓口や文書で 確認する一部の自治体の対応に疑問の声が上がっている点が、新聞報道されて いる[内深・伊藤2019、中川2019]。 児童扶養手当は、ひとり親を支援する趣旨から「事実婚」の場合は対象にな らない。この場合の事実婚とは、異性から定期的な生計費の援助を受けている 状態であり、本来、交際自体は手当の支給要件に影響しない。 上記の点を巡って問題となる点が、児童扶養手当の不正受給を防ぐためとい う行政の主張と、プライバシーの侵害は許されるのかという問題である。この 点につき例えば群馬県渋川市では、自宅へ定期的に訪問する交際相手がいると 回答した人に、相手が自宅で食事をしたり、宿泊したりする回数が週何回ある かを書面で尋ねている。そして担当者は「事実婚の実態や経済的支援について 調査の強制力もない中で、事実婚の要素を伝え、把握するため」とし、県の指 導の下で聞いている、と述べる。 ここでこの点をめぐっての児扶手法における事実婚の概念やおよびその具体 的解釈について確認しておく。まず児童扶養手当における事実婚の概念は「児 童扶養手当及び特別児童扶養手当関係法令上の疑義について」( 昭和55年6月23 日児企第26号)で示される。この通達によれば、「当事者間に社会通念上夫婦 としての共同生活と認められる事実関係が存在しておれば、それ以外の要素に ついては一切考慮することなく、事実婚が成立しているものとして取り扱う… (後略)」とされる。 ここにおける事実婚の具体的な判断方法としての生活実態は何を指すのかだ が「児童扶養手当の取扱いに関する留意事項について」(平成27年4月17日雇児 福発0417第1号)では、「事実婚は、原則として同居していることを要件とする が、ひんぱんに定期的な訪問があり、かつ、定期的に生計費の補助を受けてい る場合あるいは、母子が税法上の扶養親族としての取り扱いを受けている場合 等の場合には、同居していなくとも事実婚は成立しているものとして取り扱う ─ 97 ─.
(10) …(後略)」とされる。 このように自扶手法および関係通達では、事実婚の概念およびその具体的解 釈について一応は示されているものの、それをどのように判断する基準自体に ついては曖昧なままである。この点につき、児扶手法第29条第1項には受給資 格の有無及び手当の額の決定のために必要な書類提出又は職員による質問させ る項目㉑があり、かつ不正受給が行われたときの罰則規定も同法第35条㉒にある。 にもかかわらず、実際の調査に当たって「それをどこまで実施するか」の具体 的基準が明確化されていないという問題が存在するのである。なお棚村政之氏 によると、英国では、原則15歳以下の子どもを養っている親に支給される児童 手当では、不正受給は、生活保護、年金、住宅手当などの公的給付と共に、一 括して国の不正受給調査局が調査すると述べられる(内深・伊藤2019における 棚村氏談話) 。そして棚村氏によれば、このような点に対する調査権限は、専 門部局を創設して行うべきであり、日本での現状のように、自治体が恣意的に 調査権限を振るう状況はプライバシーの侵害の観点から問題であるとされる。 結果、児童扶養手当の申請段階において、事実婚か否かの確認を巡る「権利 の保有者(受給権者)の問題」に対しての調査の行使基準の不明確性が、日本 の児童扶養手当の実際の運用において少なからず存在する。このことにより、 自治体によるプライバシーを無視した調査が歯止めなく実施される可能性が引 き起こされる。この現象を、先述の秋元氏による福祉の権利化のための構想の 第1、福祉の権利のソフト・ロー化又は緩やかな制度化という提案から敷衍し てみる。ここでは、正当な受給者を確認するという名目で行われる権利の保有 者のプライバシー確認作業を、行政が定められた基準が存在しない方法をもっ て実質的に行っている。このようなある意味、ソフト・ロー的な調整要素は、 結果として児童扶養手当を本来受給すべき資格のある者に対し、結果的に申請 を抑制させる効果を持つといわざるをえないし、それは福祉の権利の遮断機能 を有すると筆者は考える。 なお上記に対し、ひとり親を支援する全国組織「シングルマザーサポート団 体全国協議会」は2019年に、全国の窓口でプライバシーに配慮した対応が徹底 されるよう、実態把握や統一のマニュアル策定などを求め、厚生労働省に要望 書を提出した。この関係団体の動きからも明白なように、上記基準のない恣意 ─ 98 ─.
(11) 的な調査は、福祉の権利化の視点からみても重大な点であるし、かつ問題を有 するものであるといえるだろう。 以上、本項目では、2002年改正以降の児童扶養手当制度において、権利化の 促進がソフト・ロー的調整機能で実施される点および、権利の遮断の機能が行 政のソフト・ロー的調整機能で実際される点の作用を確認してきた。次項目で は、ひとり親家庭の福祉 / 就労支援サービス給付における福祉の権利化の到達 状況を確認した後、当該サービスにおいて、サービスの付与段階または権利行 使段階で、福祉の権利化の視点から検討した際、いかなる課題点が生じている かを確認する。 Ⅳ.福祉 / 就労支援サービス給付におけるハード・ローの不備 1.ひとり親家庭の福祉 / 就労支援における支援の不十分性 2013年の8月、社会保障審議会児童部会・ひとり親家庭への支援施策の在り 方に関する専門委員会は「ひとり親家庭への支援施策の在り方について(中間 まとめ)」で、以下の点を指摘している。すなわち、ひとり親家庭の支援政策 全体について総合相談体制が不十分(同6ページ)であり、かつ支援政策が知 られず、利用が低調(同8ページ)という点である。 このように、専門委員会報告でも2002年の法改正以降の福祉 / 就労サービス の不十分性が指摘されるところである。本稿では、福祉の権利化の観点から見 たときに、これらのサービス給付において、何が権利化を阻害しているのか、 について確認していく。 2.福祉 / 就労支援サービス給付における権利の「制度化」の度合い 前述の児童扶養手当同様、まずひとり親家庭の福祉 / 就労サービスにおける 権利の「制度化」の度合いの点を確認していく。日本のひとり親家庭の福祉 / 就労サービスについては、母子父子寡婦福祉法に定められているため、その権 利の制度化の度合いを、権利の保有者、権利内容、義務の内容と担い手、受給 権保護の規定を含め確認すると、表2の通りとなる。. ─ 99 ─.
(12) 表2: ひとり親家庭の福祉 / 就労サービス給付における「権利化」の度合 ①サービスの保有者(受給権者)→母子家庭等及び寡婦(母子父子寡婦福祉法第1条) ②サービスの内容→ ㋐母子・父子自立支援員への相談(同法第8条) ㋑母子福祉資金の貸付(同第13条) 父子福祉資金の貸付(同第31条の6) ㋒母子家庭日常生活支援事業(同第17条) 父子家庭日常生活支援事業(同第31条の7) ㋓売店の設置の許可(同第25条) 製造たばこの小売販売業の許可(同第26条) ㋔公営住宅の供給に関する特別の配慮(同第27条、同第31条の8) ㋕特定教育・保育施設の利用等の特別の配慮(同第28条、同第31条の8) ㋖母子家庭就業支援事業等における相談(同第30条) 父子家庭等就業支援事業等における相談(同第31条の9) ㋗母子家庭等自立支援給付金(同第31条) 父子家庭等自立支援給付金(同第31条の10) ㋘母子家庭生活向上事業(同第31条の5) 父子家庭生活向上事業(同第31条の11) ※上記のサービス給付規定は、すべて努力規定 ③義務の担い手と内容→Ⓐ自立への努力(同第4条) Ⓑ扶養義務の履行(同第5条) ④受給権保護→自立支援給付金における受給権保護(同第31条の3) 自立支援給付金における不正利得の徴収(同第31条の2) 不服申立てのシステム(審査請求、行政訴訟)無し 出所 : 筆者作成. 児童扶養手当と比較して、福祉 / 就労サービス給付は、サービスの保有者は 母子父子寡婦福祉法第1条㉓にて法定化されているものの、そのサービスメニュー の実施はすべて自治体の努力義務である㉔。そして義務の担い手と内容であるが、 同法第4条㉕により自立への努力、同法第5条㉖により、扶養義務の履行が規定 されている。そして、受給権保護については、同法第31条により自立支援給付 金における受給権保護が、また同法第31条の2㉗により自立支援給付金における 不正利得の徴収が設けられているものの、サービス給付に当たっての不服申立. ─ 100 ─.
(13) てのシステムである審査請求や行政訴訟については規定されていない。 このように母子家庭における福祉 / 就労支援サービス給付は、母子父子寡婦 福祉法を根拠とし、サービスの内容すべてが法定化されているもののその実施 は努力規定に留まる。さらに審査請求・行政訴訟における権利救済は規定され ていないという現状である。この意味で、オニールのいう「福祉の権利化」に おける制度化要件にはそもそもあてはまっていない制度であると判断できる。 なお、実際のサービス内容を具体的に決定するのは、自治体の「要綱」であ る。これは自治体における福祉サービスの給付について詳細に定めているもの の、当該自治体の財政事情等により実施状況が左右され、どうしてもサービス 給付の権利に結びつかない側面があるところはしばしば指摘される。 このように、同じひとり親家庭の支援を規定する法であっても、児扶手法の 権利化と比較して、母子父子寡婦福祉法の規定は、その権利化に比して弱いも のであることがわかる。次項にて、その権利化の弱さが、当該サービス給付に おいてどのような具体的課題を惹起しているのかについて言及していく。 3.福祉 / 就労支援サービス給付におけるハード・ローの不備による具体的課題. (1)当該サービスの付与段階での具体的課題. ここでは、先述の秋元氏の福祉の権利化のための構想の2点目に挙げられて いる、福祉サービスの「付与」段階と「行使」段階におけるチェック機能に 着目し、ひとり親家庭の福祉 / 就労サービスにおける課題点について確認する。 後述の通り、サービスの付与段階と利用段階において、残念ながらチェック機 能は働いていない場合が多いといわざると得ない。ここでは当該サービスの付 与段階における課題として、「制度の周知の不備」と「制度が採用されていな い自治体の存在と制度の実施の “ 解釈 ”」という点に着目して検討する。 ① 制度の周知における不備 表3の通り、ひとり親家庭の福祉 / 就労サービスは、その制度周知において「制 度を知らなかった」の割合が非常に高い。表3では主要なひとり親家庭の福祉 / 就労サービスを掲載しているが「制度を知らなかった」が10% を下回っている のはハローワークのみである。この意味で、ひとり親家庭の福祉 / 就労サービ ─ 101 ─.
(14) スは、法に内容は規定されているものの、実際には受給対象者の多くはその制 度自体を知らない。またサービスの受給機会を徒過したとしても、その点に関 する救済手段は今のところ一切規定されていない。 表3: ひとり親世帯等調査(平成28年度)の利用の周知度 母子世帯福祉関係の公的制度の周知度. 制度を知らなかったと答えた割合(%) 平成23年. 公共職業安定所(ハローワーク). 平成28年. 7.2. 9.8. 母子福祉資金. 67.8. 55.6. 自立支援教育訓練給付金事業. 45.3. 45.7. ひとり親家庭等日常生活支援事業. 54.3. 53.0. 養育費相談支援センター. 58.3. 53.2. 出所 : 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告表22-1より筆者作成. このような福祉 / 就労サービス給付の状況と比較し、例えば児童扶養手当制 度には、申請以降しか受給権が発生せず給付が遡及しないため、聴覚障害を有 する障害者夫婦が児童扶養手当の受給資格を得るための広報周知が遅れ、その 点をめぐって行政の広報義務違反を争った裁判例がある(永井訴訟)㉘。この点、 児童扶養手当と比較してすらも、福祉 / 就労支援サービスにおける制度の周知 という点に対する保障、すなわちこの点に関する福祉の権利化の点は、今なお 後れを取っているといえよう。 ②制度が採用されていない自治体の存在と制度の実施の “ 解釈 ” 次にひとり親家庭の福祉施策は都道府県の施策が多く、また利用制度が複雑 であるために、実現しなければならない制度が具体化されていないということ がいえる。例えば表4の通り、ひとり親家庭のヘルパーの派遣事業では、国の 制度自体を都道府県でも採用していない自治体があることや、採用していても 量的に不足しており年度の後半になると利用ができなくなる、という問題も先 行研究では指摘されている[森田2016:25]。. ─ 102 ─.
(15) 表4: 都道府県における母子家庭の母等の自立支援関係事業の実施状況等(平成28年度) 事業名 自立支援教育訓練給付金事業. 高等職業訓練促進給付金等事業 ひとり親家庭日常生活支援事業 ひとり親家庭生活向上事業. ひとり親家庭高等学校卒業程度 認定試験合格支援事業. 実施済. 平成29年度以降 実施予定. 47. 0. 47. 0. 0. 25. 0. 22. 30. 3. 14. 33. 7. 7. 実施なし 0. 出所 : 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課2018:145より筆者作成。. さらに、どのくらいの程度制度を実施していれば “ 実施 ” なのかの解釈も異なる。 例えば母子父子寡婦福祉法では、「公営住宅の供給に関する特別の配慮」が規 定されているものの、実際の制度実施状況をみると、「ひとり親家庭が特別に 入居できる公営住宅枠」を用意する自治体もあれば、公営住宅の抽選の回数を 一般世帯と比較して増加するのみにとどまる自治体も見られる㉙。 (2)当該サービスの利用段階での具体的課題 次に、当該サービスの利用段階における課題として、 「制度の利用しづらさ」 と「包括的支援の不備」という点に着目して検討する。 ①制度の利用しづらさ ひとり親家庭の福祉 / 就労サービスでは、制度につながっても、制度が利用 しにくかったりできなかったりすることがしばしば存在する。例えば先行研究 においても、待機児童の多い自治体では実質、ひとり親家庭の教育・保育施設 の優先入所が十分利用できないという点が指摘される[森田2016:25]。 さらに制度の利用について自治体によりその考え方が異なる場合がある。例 えば母子生活支援施設について、自治体によっては母子生活支援施設の利用に ついて消極的な自治体があるし、また入所期間が2年と決まっているところも あれば任せてもらえる自治体もあるという点が指摘される[渡辺・赤石・中道・ 側垣2017:25]。. ─ 103 ─.
(16) ②包括的支援の不備 さらにひとり親家庭における就労支援のあり方をみると、ソーシャルワーク 的機能と、職業紹介や定着支援などのマッチング過程が、多くの場合分断状態 にある点が指摘される[西岡2017:14]。そもそも先行研究においては、ひとり 親家庭においては、母子や父子、離婚や死別、別居、非婚などのさまざまな属 性が分化しており、ただでさえ排除されやすいひとり親家庭がその分化にとも ないさらに孤立しやすい点が指摘されている[山屋2016]。 属性の孤立しやすさに荷重して、ひとり親家庭の福祉 / 就労サービス給付が、 ソーシャルワーク的機能とマッチング機能を分断したまま展開されていては、 利用段階において不利益が出る点は明白である。この意味で、ひとり親家庭施 策そのものが、利用段階において包括的な支援を意識するものとなっているか の検証が必要であろうし、精神的な不安や複合的な困難を抱えがちなひとり親 世帯の「生活支援」「子育て支援」を含めての包括的な支援のイメージがサー ビスの提供段階において意識されているかの検証が必要となる。 以上の分析を整理していく。先述の児童扶養手当においてはソフト・ロー 的調整機能が権利の促進化 / 遮断化のいずれの点においても発現したのに対し、 本項目のひとり親家庭の福祉 / 就労支援サービスは、サービス自体は法定化さ れているものの、サービスの付与段階および利用段階においていずれも、ソフ ト・ロー的調整すらなされない、福祉の権利化以前の状況にとどまっている点 が指摘される。児童扶養手当法に比較しても、福祉の権利化の道が途上にある といえる。 Ⅴ.検証結果 / 今後の検討課題 以上、本稿では「福祉の権利化」の視点からみて、日本のひとり親家庭の福 祉法政策はどのような到達点に立ち、かついかなる課題を有するのかを検討し てきた。そのための本稿での仮説の問いとして、「 『福祉の権利化』」の視点か ら検討した際に、日本のひとり親家庭の福祉法政策は、どのような到達点に立 つ、またはいかなる問題が内包されているといえるのか」と設定し、本稿での 結論として「日本のひとり親家庭の福祉法政策を見ると、「福祉の権利化」の ─ 104 ─.
(17) 理念に基づいて、権利性のある福祉法政策が成立していない。それゆえ、福祉 の権利化の視点からみるとかなり問題のある権利侵害が起こっている。」とい う点について論証を行った。 具体的には、項目Ⅲにおいて、児童扶養手当の経済的給付では、就労自立に 向けての当該給付の有期化および給付制限の改正法規定に対し福祉の権利化の 促進機能をもつ、ソフト・ロー的調整機能が関係団体の反対運動から発現した こと、また他方、福祉の権利化を阻む要因として、ひとり親家庭へのプライバ シーを無視した過剰なひとり親家庭への介入を前提とした、経済的給付の締め 付けが、行政機関によるソフト・ロー的な調整機能を通じ行われている点を明 らかにした。さらに項目Ⅳでは、ひとり親家庭の福祉 / 就労支援サービスでは 「サービスの付与段階」および「サービスの権利行使段階」における分析を通 じて、児童扶養手当制度と比較しても、当該サービス給付は、ハード・ロー自 体が不十分なものであり、かつソフト・ロー的調整機能により権利性が確保さ れているかといえば、そのような点においても課題を抱えるという点を明らか にした。 本稿では、福祉の権利化という点をキーワードに、ひとり親家庭の経済的給 付である児童扶養手当と福祉 / 就労サービスについて検討してきた。他方、い わゆる離婚時の「養育費施策」が近年ではホットイシューとなっているが、今 回はこの点についてまでは踏み込んで検討できてはいない㉚。また福祉の権利 化論およびソフト・ロー分析についても、まだ検討途上であるので、この点に ついては今後の課題としたい。. [参考文献]. ・独立行政法人 労働政策研究・研修機構[2019]「プレスリリース 母子家庭の貧困. 率は5割超え、13%が「ディープ・プア」世帯 「第5回(2018)子育て世帯全国調 査結果速報」(2019年10月17日). ・丹波史紀[2016]「ひとり親家庭の「自立」と就労支援をめぐる現状と課題」『社会 福祉学研究』第126号、鉄道弘済会。. ・藤崎宏子[2014]「文献紹介 一番ケ瀬理論の再検討」『家族社会学研究』第26巻第 2号。. ─ 105 ─.
(18) ・矢野聡[2014]「平等と福祉:福祉権をめぐって」『政経研究』50(3)、日本大学法学 会。. ・尾形健編[2018]『福祉権保障の現代的課題 生存権論のフロンティアへ』日本評 論社。. ・秋元美世[2010] 『社会福祉の利用者と人権』有斐閣。. ・清水真希子[2019]「民事におけるソフトロー」『法学セミナー』776号、日本評論 社。. ・石山直樹[2014]「2002年以降のひとり親世帯の生活状況と児童扶養手当制度の変 遷」『横浜女子短期大学研究紀要』8号、横浜女子短期大学。. ・中囿桐代[2016]「「女性活躍社会」の下での母子家庭の母の労働と生活-強制され る就労と貧困-」『日本労働社会学会年報』第27号、日本労働社会学会。. ・阿部彩・大石亜希子[2005]「母子家庭の経済状況と社会保障」『子育て世帯の社会 保障』東京大学出版会。. ・厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課[2018] 「ひとり親家庭の支援について」. ・黒田有志弥[2016]「社会手当の意義と課題―児童手当制度及び児童扶養手当制度 からの示唆」『社会保障研究』1(2)、国立社会保障・人口問題研究所。. ・東野充成[2014]「児童扶養手当の改定と「ひとり親世帯」の家族像」『九州教育社 会学会研究紀要』第42巻。. ・内深紗子、伊藤舞虹「ひとり親への審査、プライバシーは 児童扶養手当の資格め ぐり「援助男性は?」. 「宿泊回数は?」朝日新聞2019年09月12日付朝刊33面。. ・中川純子「「私」侵す自治体 児童扶養手当、「事実婚」か調査」毎日新聞2019年10 月2日付朝刊。. ・西村健一郎[2003] 『社会保障法』有斐閣。. ・木下秀雄[1988]「社会保障における情報と権利」『労働法学の理論と課題 片岡昇 先生還暦記念』有斐閣。. ・森田明美[2016]「ひとり親家庭の支援制度を見直す4つの視点」『公明』公明党機 関誌委員会。. ・渡辺由美子・赤石千衣子・中道亜紀子・側垣一也[2017]「ひとり親世帯の支援の 現状」『月刊福祉』100(12)、全国社会福祉協議会。. ・西岡正次[2017]「ひとり親家庭と就業における課題:問われる支援モデルの革新」 『ヒューマンライツ』355号、部落解放研究所。. ・山屋理恵「現場報告 ひとり親の包括的就労支援に求められるもの」『社会福祉研 究』126号、鉄道弘済会弘済会館。. ─ 106 ─.
(19) 註. ⑴ 日本の母子家庭の貧困率は、独立行政法人 労働政策研究・研修機構が実施した「子 どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」によると、2011年が. 44.6%、2014年が57.0%、2018年が51.4% であり、むしろ法改正後、母子家庭の貧困 率が悪化している[独立行政法人労働政策研究・研修機構2019:7] 。. ⑵ 婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。. ⑶ 婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。 ⑷ 離婚、配偶者の生死が明らかでない、配偶者から遺棄されている等。. ⑸ なお本稿の前提となる日本法政学会報告で、長上深雪氏より「生活権」ではなく あえて「福祉権」を使用する意図についての質問があった。一番ケ瀬康子氏をはじ めとし、社会福祉学分野では「生存権」ではなく「生活権」の用語を使用するのは. 周知の通りである。そしてそこでの「生存」は生物学的レベルの生命維持という限 定的な響きを持つのに対し、「生活」は、いのち・日々の暮らし・生涯を含意する. とされ、労働力の消費過程で生じる「労働問題」に対し、その再生産過程で生じる. 「生活問題」に着目し、その解決を目指すものであるとされる[藤崎2014] 。この意 味で、本稿の射程範囲はまさに一番ケ瀬氏がいう「生活権」の領域であることは確 かである。だが本稿では、社会保障法の中で比較的権利化が進んでいる社会保険等. の保険法における権利との対比で、 「生活」として同様に重要性を持つにも関わらず、 いまだ権利化が進んでいない状態の社会福祉領域」という意味も含ませた上での「福 祉権」の用語を使用する。. ⑹ ソフト・ローとは法的拘束力のない社会規範のことを指す。他方、ハード・ロー. というのは、法的拘束力があり最終的に裁判所で履行が義務付けられるような社会 規範を指す。例えばハード・ローとは国会の制定法や裁判所の判例法理であり、ソ フト・ローとは、ハード・ローでないもの、例えば私的な主体が形成した規則やガ. イドラインなどと解されることもある[清水2019:30]。ただ同時にソフト・ローとハー. ド・ローの定義はそれほど単純な問題でもない。またソフト・ローを統一的に説明. する理論やソフト・ローに固有な理論を探し求めることが重要ではなく、国家以外. の主体が作るルールや国家が当然にはエンフォースしないルールにも法律学の研究 対象を拡大し、なかつそのような拡大した対象を研究することが可能になるような 方法論を見つけることが、ソフト・ロー研究の主眼であるため、ソフト・ローの外. 延を明確にするための厳密な定義を置くことは必ずしも重要でないとされる[清水. 2019:30-31]。なお本稿の前提となる日本法政学会報告で、吉田夏彦氏よりソフト・ ローとハード・ローの区別についての質問があった。この点につきまだ筆者自身の 検討は深められていないところであるため、上記の見解を紹介させていただく。. ⑺ 児扶手法第4条 都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福. 祉事務所(社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務. ─ 107 ─.
(20) 所をいう。以下同じ。 )を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、. 次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者に対し、児童扶 養手当(以下「手当」という。 )を支給する。. 一 次のイからホまでのいずれかに該当する児童の母が当該児童を監護する場合 当該母. イ 父母が婚姻を解消した児童 ロ 父が死亡した児童 ハ 父が政令で定める程 度の障害の状態にある児童 ニ 父の生死が明らかでない児童 ホ その他イか らニまでに準ずる状態にある児童で政令で定めるもの. 二 次のイからホまでのいずれかに該当する児童の父が当該児童を監護し、かつ、 これと生計を同じくする場合 当該父. イ 父母が婚姻を解消した児童 ロ 母が死亡した児童 ハ 母が前号ハの政令で 定める程度の障害の状態にある児童 ニ 母の生死が明らかでない児童 ホ そ の他イからニまでに準ずる状態にある児童で政令で定めるもの. ⑻ 児扶手法第2条 児童扶養手当は、児童の心身の健やかな成長に寄与することを. 趣旨として支給されるものであつて、その支給を受けた者は、これをその趣旨に従 つて用いなければならない。. 2 児童扶養手当の支給を受けた父又は母は、自ら進んでその自立を図り、家庭の 生活の安定と向上に努めなければならない。. ⑼ 児扶手法第13条の3 受給資格者(養育者を除く。以下この条において同じ。 )に. 対する手当は、支給開始月の初日から起算して五年又は手当の支給要件に該当する に至つた日の属する月の初日から起算して七年を経過したとき(第六条第一項の規. 定による認定の請求をした日において三歳未満の児童を監護する受給資格者にあつ ては、当該児童が三歳に達した日の属する月の翌月の初日から起算して五年を経過 したとき)は、政令で定めるところにより、その一部を支給しない。ただし、当該. 支給しない額は、その経過した日の属する月の翌月に当該受給資格者に支払うべき 手当の額の二分の一に相当する額を超えることができない。. ⑽ 児扶手法第24条 手当の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し 押えることができない。. ⑾ 児童扶手法第17条 都道府県知事のした手当の支給に関する処分に不服がある者 は、都道府県知事に審査請求をすることができる。. ⑿ 児扶手法第14条 手当は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、その 額の全部又は一部を支給しないことができる。. 四 受給資格者(養育者を除く。)が、正当な理由がなくて、求職活動その他厚生 労働省令で定める自立を図るための活動をしなかつたとき。. ⒀ 児扶手法第13条の3 受給資格者(養育者を除く。以下この条において同じ。 )に. 対する手当は、支給開始月の初日から起算して五年又は手当の支給要件に該当する. ─ 108 ─.
(21) に至つた日の属する月の初日から起算して七年を経過したとき(第六条第一項の規. 定による認定の請求をした日において三歳未満の児童を監護する受給資格者にあつ ては、当該児童が三歳に達した日の属する月の翌月の初日から起算して五年を経過 したとき)は、政令で定めるところにより、その一部を支給しない。ただし、当該. 支給しない額は、その経過した日の属する月の翌月に当該受給資格者に支払うべき 手当の額の二分の一に相当する額を超えることができない。. ⒁ これらの署名活動の背景には、母子家庭になった理由として、離婚やそれに伴う. DV 等の問題が存在し、それに伴い育児に対する困難や精神的疾患を抱える家庭な ど、多様なひとり親家庭が想定されること、それゆえに、一律に児童扶養手当支給. 開始から5年等の一定程度の期間をもって支給停止の措置を行うことは、それらの 事情を勘案しておらず、現状に即していないとの理解がある。また母子家庭の就労 状況については、非正規雇用や不安定雇用が多くを占め、求職活動を行ったとして も、現在の日本の雇用状況では、必ずしも安定的な職が望めないため、そのような. 状態で求職活動を行い自立せよというのはそもそも無理があるのではないかという 状況もある。. ⒂ 児扶手法施行令第8条 法第13条の3第2項に規定する政令で定める事由は、次に 掲げる事由とする。. 一 受給資格者が就業していること又は求職活動その他厚生労働省令で定める自立 を図るための活動をしていること。. 二 受給資格者が別表第一に定める障害の状態にあること。. 三 前号に掲げる事由のほか、受給資格者が疾病又は負傷のために就業することが. できないことその他の自立を図るための活動をすることが困難である事由として 厚生労働省令で定める事由があること。. ⒃ より具体的には、①受給者が就業している場合、②求職活動その他自立を図るた めの活動をしている場合、③受給資格者が疾病、負傷又は要介護状態等にあるため. 就業することが困難である場合、④受給資格者が監護する児童又は受給資格者の親 族が障害、負傷、要介護状態にあるため、受給資格者がこれらの者の介護を行う必 要があり就業することが困難である場合、とされる。. ⒄ 手続き詳細は「児童扶養手当法第13条の3の規定に基づく一部支給停止措置及 び一部支給停止措置適用除外に係る事務について」平成20年3月31日雇児福発第 0331001号、を参照。 ⒅ なお本稿の前提となる日本法政学会報告で、井上従子氏より関係諸団体の行動を ソフト・ローと捉える点についての範囲の妥当性に関する質問があった。その点に. ついては、確かに筆者も本来のソフト・ローの範疇よりこの事例が広い範疇を指し ている点は理解する。だが本稿での趣旨は、児童扶養手当をめぐるハード・ローの. 状況に対しての、エンパワメントや修正機能としてのソフト・ロー要素について着. ─ 109 ─.
(22) 目するものであり、その点でいえば、本稿での児童扶養手当を巡っての動きは、そ. の趣旨から考えるとソフト・ロー的要素を有するものであると理解している。その 意味で、本稿では、 「ソフト・ロー」化、ではなく、「ソフト・ロー的要素を有する 調整機能」という点で表現したいと考える。. ⒆ 「ひとり親家庭等の支援について」厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課(平成30. 年4月)によれば、日本の母子家庭の81.8% が就労している(平成28年度全国ひと り親世帯等調査より) 。なお海外のひとり親家庭の就業率は、アメリカ66.4%、イ ギリス52.7%、フランス68.8%、ドイツ64.2%(いずれも2011年)と日本より低い。. ⒇ なおこの法制定が存続する点を肯定的に解するものに黒田2016、否定的に解する ものに東野2014がある。. ㉑ 児扶手法第29条 都道府県知事等は、必要があると認めるときは、受給資格者に. 対して、受給資格の有無及び手当の額の決定のために必要な事項に関する書類(当. 該児童の父又は母が支払つた当該児童の養育に必要な費用に関するものを含む。 ) その他の物件を提出すべきことを命じ、又は当該職員をしてこれらの事項に関し受 給資格者、当該児童その他の関係人に質問させることができる。. ㉒ 児扶手法第35条 偽りその他不正の手段により手当を受けた者は、三年以下の懲 役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号) に正条があるときは、刑法による。. ㉓ 母子父子寡婦福祉法第1条 この法律は、母子家庭等及び寡婦の福祉に関する原. 理を明らかにするとともに、母子家庭等及び寡婦に対し、その生活の安定と向上の. ために必要な措置を講じ、もつて母子家庭等及び寡婦の福祉を図ることを目的とする。. ㉔ なお2014年の母子父子寡婦福祉法改正により、「母子家庭生活向上事業(同第31. 条の5)」および「父子家庭生活向上事業(同第31条の11) 」は法定化ですらなかっ た予算事業から一応「法定化」された。これは子どもの相談・学習支援、ひとり親 同士の情報交換支援等にかかる事業である。. ㉕ 母子父子寡婦福祉法第4条 母子家庭の母及び父子家庭の父並びに寡婦は、自ら. 進んでその自立を図り、家庭生活及び職業生活の安定と向上に努めなければならない。. ㉖ 母子父子寡婦福祉法第5条 母子家庭等の児童の親は、当該児童が心身ともに健. やかに育成されるよう、当該児童の養育に必要な費用の負担その他当該児童につい ての扶養義務を履行するように努めなければならない。. 2 母子家庭等の児童の親は、当該児童が心身ともに健やかに育成されるよう、当 該児童を監護しない親の当該児童についての扶養義務の履行を確保するように努 めなければならない。. 3 国及び地方公共団体は、母子家庭等の児童が心身ともに健やかに育成されるよう、 当該児童を監護しない親の当該児童. ㉗ 母子父子寡婦福祉法第31条の2 偽りその他不正の手段により母子家庭自立支援. ─ 110 ─.
(23) 給付金の支給を受けた者があるときは、都道府県知事等は、受給額に相当する金額 の全部又は一部をその者から徴収することができる。. ㉘ 大阪高判平成5年10月5日判自124号50頁。ただし本判決では、 「わが国の現行法上、 ドイツの社会法典総則13条ないし15条のような給付主体の広報、周知義務徹底義務、 助言・教示義務を定めた明文の規定は存在せず…その内容や範囲が必ずしも明確と. いえない広報や周知徹底義務を公的強制力をもって強要するような法的義務を無理 なく導き出すことは困難…であり、法的強制力の伴わない広報、周知徹底の責務が. 認められるにとどまらざるをえない」とされる。なおこの点、西村2003:110-111では、 行政庁側の義務を明らかにするために、広報、助言、教示に関する規定を整備する. 必要性を指摘するし、木下1988ではドイツ社会法典の規定を参考に、この点を肯定 的に解する。. ㉙ 筆者実施の自治体ヒアリング調査より。. ㉚ なお諸外国の養育費政策の比較法研究として、日本人権教育研究学会[2019] 『人 権教育研究』第19巻にて、フランス(神尾真知子氏) 、台湾(宮畑加奈子氏)、アイ. ルランド(増田幸弘氏) 、スウェーデン(古橋エツ子氏)、ドイツ(和田美智代氏) の研究論文が掲載されているのでご参照いただきたい。. ─ 111 ─.
(24) The Study on the Welfare Policy for Single-Parent Families in Japan: The Perspective of the Welfare-Rights Megumi Kanagawa The aim of this article is to order and analyze how the welfare-rights of singleparent families should be established in Japan. The article begins with an explanation of the basic concepts of welfare-rights. Next, I analyze the Child-Rearing Allowance Act revised in 2002, from the perspective of welfare rights. I then consider the job and welfare service system for single-parent families, from the perspective of welfare rights. Finally, I end with a discussion of some of the remaining issues facing the field. I conclude that the welfare-rights of single-parent families have not been established in Japan, and in particular that legislation is the most important challenge in the job and welfare service system for single-parent families from the perspective of the welfare rights.. ─ 112 ─.
(25)
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