再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察(2) 社会経済的観点からの試論
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵ 社会経済的観点からの試論. 角 一 典 北海道教育大学旭川校社会学研究室. A Consideration about the Social Construction Based on Renewable Energies An Essay on Social Economical Perspective. KADO Kazunori Department of Sociology, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿では,再生可能エネルギーを基盤とした社会構築にあたって,物質的限界を考慮しなが ら,地域の単位での持続可能性を前提とする「新しい経済」の必要性と,効率に代わって倫理 や道徳が優位に位置づけられるモラルエコノミーの追求の重要性を主張するとともに,再生可 能エネルギーを基盤とした社会において,エネルギーインフラの公有化・住民による発電設備 の共同所有の拡大が進む必要があることを指摘した。. はじめに 再生可能エネルギーは世界的に一定の位置を占 めるに至っており,日本でもFITの導入以降,急. 展開しようと思う。. 1 「新しい経済」の基礎. 速にそのプレゼンスを高めている。その一方で,. 1.1 規定枠としての物理的限界. 不適切な開発も目立つようになり,その意義に疑. 高度経済成長期の日本では激甚な公害が発生し. 義が生じるようなケースも現れている。そのよう. たが,公害を生み出した経済に対する批判の最先. な状況において,再度再生可能エネルギーを基盤. 鋒に立っていた宮本憲一は,そこから環境経済学. とした社会構築について検討を加えることは,大. という新たな学問領域を切り拓いた。そこには,. 切 な 作 業 に な る の で は な い か と 思 わ れ る。 角. 既存の経済学が公害という社会問題の解決にとっ. (2015) では, 社会哲学的な観点からの考察を行っ. て少しの役にも立たない,むしろそれどころか公. たが,本稿では,社会経済的な観点からの考察を. 害を促進するイデオロギーですらあることへの,. 13.
(3) 角 一 典. 経済学者としての宮本の反省もあったのかもしれ. 利益として勘定に入れていることは明らかだ。. その思想は脈々と受け継がれ,また, ない1。現在,. 北の先進国の資源消費の水準を地球全体に一般. 日本以外でも,新たな経済学の必要性を説く者が. 化することの生態学的な帰結を理解したけれ. 現れている。例えば,デイリーの『持続可能な発. ば,一二億の中国人全員に自動車,冷蔵庫,洗. 展の経済学』は,言うならば現代版の経済学批判. 濯機等が行きわたったことを想像してみるだけ. であるが,その主張は明快である。カップからは. で十分だ。中国人が食物連鎖の高次の栄養段階. じまる社会的費用の研究,ハーディンによる共有. のものを食べ始める―肉を多く,穀物を少な. 地の悲劇の指摘,あるいはローマクラブによる成. く食べ始める―時の,農業からの生態学的帰. 長の限界,さらにはエコロジカルフットプリント. 結をそれに付け加えてみよ。一ポンドの肉のた. による環境負荷の指標化など,さまざまな学術分. めには約一〇ポンドの穀物を人間用から家畜用. 野から物理的限界を指摘する論が展開されている. に転換することが必要だ。草原に対しても,森. が,経済学にあらためて物理的限界という枠を導. 林の牧草地への転換に対しても,同様の圧力が. 入しようとするところにデイリーの狙いがあると. 高まる。. いえる。無限の経済成長を追求しようとする現状. そうした拡張は,将来,地球の生態学的な生. 2. のシステムは矛盾を内包する存在である 。長い. 命扶養力を破壊してしまうのだろうか。経済学. 引用になるが,デイリーの認識を以下に確認して. 国々が北の国々のようになる過程を意味する。. 者のモデルではそうした「破壊」が「最適」で ・・・・ ありうるので,おそらくそうだろう。支配的な ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ モデルは生態学的な費用を一切除外している。 ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ しかし,生態学的な費用を認識しているモデル ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ でさえ,もしそれが現在価値の最大化を基礎に ・・・・ しているのであれば「最適な」破壊を導く可能. しかし,既存の裁量の技術をはるかにしのぐも. 性 が あ る( 傍 点 筆 者 )(Daly,1995=2005:. のを想定したとしても,生態学的な扶養力を上. 6-7)。. おく。 発展が何か具体的なものを意味するとすれ ば,それは,消費の水準と様式に関して,南の. 回らずに,北の国々における現在の消費水準と 消費様式を世界中に一般化することは不可能. デイリーは「生態学」という表現を使っている. だ。 生態学的な扶養力を上回らないというのは,. が,別の言葉を使えば,デイリーの著書の題名と. 自然資本を消費することなく,またそれによっ. も関わるが,持続可能な再生産ともいうべき内容. て将来世代の生活と富を扶養する地球の能力を. がそこに含まれている。今日の主流派経済学はそ. 減じることがないということだ。我々はすでに. れを無視・軽視していることにデイリーは批判を. 自然資本を消費し,それを国民計算の中で当期. 加えているわけだが,実体経済そのものが,そう した視点を未だに軽視しているところに,より一. 1 宮本はマルクス経済学に立脚していたが,近代経済. 層深刻な問題が存在している。. 学を批判する立場にあったマルクス経済学も,公害と いう社会問題には無力であった。デイリーによれば, 「経 済学には循環器系しかない。このことはマルクス主義 経済学にも新古典派経済学にも等しくあてはまる真実. 持続可能性について,デイリーは地球という単. だ」という(Daly,1995=2005:271)。. 位で考えていたと思われるが,この考え方は地域. 2 見田(1996)のように,情報化によって価値付与に 物理的要素を必要としなくなった今日,経済成長と環 境の保全は両立するという主張もあるが,基本的には. 14. 1.2 地域と経済. という単位でも考え得るものである。地球あるい は地域が持つ限界を超えて経済は成長できない。. 成長の限界を指摘する向きが主流であるように思われ. したがって,地球というマクロな水準での認識に. る。. 止まらず,より細分化された水準での生態学的な.
(4) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. 持続可能性が,経済成長に先立つ基準として位置. 国際的なクロマグロの漁獲規制が話題になるな. づけられなければならない。. ど,漁業資源の減少は深刻であり,また,廃プラ. 興味深いことに,デイリーは,「資本の再国民. スチックによる海洋汚染などの指摘も記憶に新し. 化(renationalization)」・「国民経済や地域経済の. い。こうした現象はグローバル化以前からのもの. 発展のための,資本の共同体への定着」といった. ではあるが,グローバル化は,むしろそれを加速. 言葉を使い,主流派経済学の主張の現実的表現で. させている感すらある。. あるグローバリズムを批判し,その帰結として経. 食料廃棄問題を取り上げる中で,クロイツベル. 済の国民国家への回帰を主張している。現代の経. ガーは以下のような指摘をしている。 「地域性は,. 済学は,富や効用をより大きくするために市場を. 持続可能経済の中心原則である。地域内の食料品. 最大限活用すること,市場の「円滑な」機能を極. の生産と加工を現地で行うことによって雇用を創. 力除去することを主張しており,それは現在,近. 出し,地元の農業および文化環境の維持を促す。. 代世界システムの基礎単位であった国民国家をも. 生産者,販売者,消費者を結ぶ経路を短くし,流. 「解体」する力として現れている。いわゆる新自. 通に必要な資源とエネルギーを最小化する。これ. 由主義的な政策の下で,経済のグローバル化が急. らを実現する地域サイクルは環境にやさしく,食. 速に進み,世界市場は大きくひとつになろうとし. 品廃棄物の削減にも効果的だ」(Kreutzberger &. ているようにみえる。. Thurn,2011=2013:309)。「全世界で消費されて. しかしそれは,さまざまな形で弊害を生み出し. いる水の4分の1が,後に廃棄される作物の栽培. つつある。これまでにない水準の富裕層が形成さ. に 使 わ れ 」 て お り(Kreutzberger & Thurn,. れる一方で,中間層は大きく解体され,貧富の差. 2011=2013:18),一説には供給量の3分の1が廃. が拡大を続けている。リカードの比較生産費説に. 棄に回っているともいわれる世界的な食糧廃棄問. 従えば,発展途上国はその得意とするところで生. 題は,グローバル化が大きく寄与していると考え. 産を拡大することで果実を得られるはずであった. られている。クロイツベルガーは,「現代におけ. が,現実に生み出されたのは先進国の需要に振り. る問題は,価格と価値の区別がつかなくなってい. まわされる経済で,農業では,自分たちの食べる. ることにある」(Kreutzberger & Thurn,2011=. ものを先進国から輸入して,自分たちの口には入. 2013:8)と指摘するが,アメリカ・カナダ・オー. らないものを先進国の人間のために「作らされ」,. ストラリアなど,先進国で,広大な面積で大量の. 工業分野においても,安い労働力を目当てに多国. 化石燃料・化学肥料・農薬を使用して安価に製造. 籍企業が進出するものの,より条件の良い地域が. される穀物が,かつてはどこの地域にもあったは. 見つかれば次へと移動する「フットルース」な工. ずの食べ物への「崇敬」の念を希薄化させ,また,. 業でしかない。さらにそれらは,自分たちのため. 以前は高嶺の花だった食品も,グローバルなフー. のものではなく,これも先進国の需要を満たすた. ドシステムが構築されることによって安価に供給. めの生産でしかない。. されるようになることで,人びとの食料への消費. 環境面でも,先進国において次第に強化される. 性向を大きく変化させている。その結果として,. 規制とは裏腹に,発展途上国における環境破壊は,. 我々は「かつてないほどの疎外状況」に置かれて. 以前よりも速度を上げながら進展しているように. いるようにみえる。. みえる。実際,現在の化石燃料の使用量は,ロー. その一方で,安全安心をキーワードとしてオー. マクラブが警告を発した1972年時点よりもはるか. ガニック食品などが先進国で一定のシェアを獲得. に多いし,森林も,先進国では蓄積に転じている. しているのは,なんとも矛盾した話である。それ. ものの,発展途上国における森林消失のペースに. は,行き過ぎた農業の「工業化」に対する人々の. はるかにおよばない。海洋においても,近年では. 抵抗の側面もあれば,単なる付加価値を生み出す. 15.
(5) 角 一 典. 記号として機能しているに過ぎない側面もみら. る3(小林他監修,2010:104)。. れ,一概に評価することは難しい。しかし,少な くとも理念として,有機農業は持続可能性ときわ. 上記では,水という観点から,流域を単位とし. めて高い親和性がある。有機農業運動研究のパイ. た再生産システムの構築が目指されているが,こ. オニアの一人である桝潟は, 「自然のなかに秘め. の指摘で重要なのは,エネルギー生産に止まらず,. られたエネルギー源はその更新性や循環性をさま. 包括的な再生産の仕組みの一角に再生可能エネル. たげない限り,私たちに豊かな生活を永続的に保. ギーが位置づけられていることだろう。リカード. 障してくれるものなのである」と述べた(多辺田. の比較生産費説にはじまる,専門特化による効率. 他,1986:249) 。健全な有機農業は,自ずと持続. 化の発想は,再生可能エネルギーを軸とした社会. 可能性の方向に進むものである。例えば,CSA. にはなじまない。むしろ複雑な生態系の再生産の. (Community Supported Agriculture)では,生. 中でいかに無理なく効率的にエネルギーを生み出. 産者と消費者の相対的な近接性が生命線になって. すことができるかが,再生可能エネルギー利用に. いる。いわゆる市場経済が,場所を問うことなく. あたって非常に大切な視点である。. 「最も高い値を付ける買い手」に商品を供給する のとは全く異なる考え方がその根底にある。. 1.3 市場の「相対化」と倫理・道徳への着目. 小林は,小水力発電の普及に触れて以下のよう. 先にみたとおり,宮本憲一やデイリーは,主流. に述べている。. 派経済学への批判的な視座を基に新たな経済学の 構築を目指した。しかし,彼らは経済学を否定し. わたしには,人間社会が生き残るために,地 下水ではなく表流水を使う持続的な社会の確立 を,地球がわが国に課しているように思える。 しかし,現在のわが国は全く逆方向を向いてい る。限界の見えた有限のエネルギー資源を使い. 3 なお,建設省河川局長を務めた竹村は,著書で以下 のようなエピソードを紹介している。「『ナショナルジ オグラフィック』から,帝国ホテルでスピーチしたグ ラハム・ベルの発言を引用する。. 続け,略奪的な地下水資源の利用で生産される. 『日本を訪れて気がついたのは、川が多く、水資源に. 農産物を輸入する社会を肯定し,人間社会が生. 恵まれていることだ。この豊富な水資源を利用して、. き残る仕組みづくりの努力を怠っている。わが 国が,最優先で取り組まなければならないこと. 電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電 気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生 産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は. は,流域を単位とした地表の資源管理に基づく. 恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂. 持続的で未来志向の社会像を世界に示すことで. げる可能性がある』. はないだろうか。小水力利用は流域単位の資源. つまりベルは,日本が水力発電に適していることを 見抜いたのだ」 (竹村,2016:48) 。. 管理に基づく水田稲作の形成と類似点が多い。. 再生可能エネルギーの選択にあたっては,当該地域. なぜなら,繰り返される流域の水循環に依存す. ごとの特性に準拠した取り組みが重要となる。もちろ. る表流水利用のひとつだからである。水田稲作. ん,上記の記述は大規模なダム等による発電が想定さ. の社会をつくってきたわが国に,小水力も利用 する流域管理・地域経営の社会を創出できない. れているが,日本の多くの地域が豊富な水資源を持っ ていることは確かで,現行の利用を妨げることなく小 水力を導入できる地域は少なくない。また,僻地や離. わけがない。そして,自然エネルギーの未来の. 島などでは,系統から独立しているがゆえに貴重な電. ためにも,また健全で,持続的な流域管理を具. 力源にもなり得る。例えば屋久島では,屋久島電工が. 体化するためにも,地表のエネルギー利用を推 進する小水力利用は不可欠であるように思え. 所有する3基の水力発電(56500kW)からの電気が種 子屋久農業協同組合・上屋久町電気施設協同組合・安 房電気利用組合と九州電力に供給され,組合により供 給される電力が,島内では83%のシェアを占めている。. 16.
(6) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. たわけではなく,あくまでも経済学を「革命的に」. する」規律的権力もしくは「生-権力」(フー. 蘇らせることを狙っていたと考えた方が良いだろ. コー)への権力の転換,それらにともなう,自. う。この点は,隠された費用を価格に反映させる. 然的環境と人間社会とを媒介する価値と規範の. ことの必要性を説いたカップや宇沢弘文ら社会的. 根源的変容である。今日,大きな問題となって. 費用論者や,第二次世界大戦までの歴史を振り返. いる気候変動問題などのさまざまな環境問題. り,戦後の世界のあり方を模索したポランニーに. も,遺伝子組換えなどの生命操作技術にまつわ. も通じるところがあるだろう。すなわち,行き過. る諸問題も,歴史社会学的に見れば,モラル・. ぎた市場信奉は社会的な害悪をもたらし,むしろ. エコノミーによる抵抗の中から浮き彫りにされ. 人間社会にとってマイナスの存在になるが,彼ら. たこの時代の社会の変化に淵源しているといえ. は市場の有効性までは否定していないし,むしろ. よう(傍点筆者)(池田,2016:39)。. 人間社会のためには必要だと考えていたとみなす べきである。彼らはマルクス主義経済学者のよう. 傍点を付した部分を反転させれば,モラルエコ. に,市場を否定して一足飛びに計画経済に飛びつ. ノミーが目指そうとしているものがみえてくるだ. くような志向性は有していなかったと思われる。. ろう。すなわちそれは,市民によるコントロール. 一部の人間によって生産を適切にコントロールし. が可能な経済であり,エコロジーと結びついた経. ようとした20世紀の社会主義・共産主義の実験. 済である。あるいは市民が主体の経済,市民のた. は,1989年の東欧革命とそれに続くソビエト連邦. めの経済ともいえるかもしれない。. の解体という形で幕を閉じた。これは計画経済に. 上記の意味をより明確にするために,ここで内. 対する市場経済の勝利と評価されている。完全に. 橋の言葉を取り上げたい。内橋は,「日本が経済. 未来を見通せる人間はおらず, 「神の見えざる手」. 大国になり得たのは,生活大国にはならない道を. によってそれは実現されるより他ないということ. 選んだからである」と述べている(内橋,1998:. が,当面は20世紀の社会実験によって証明された. 134)。今日でも,公害は経済成長のための必要悪. ということになろうか。. だったという認識は,多くの人々にとって違和感. 近年,グローバル化の流れの中で,一部の農民. のないものと思われる。しかし,内橋に言わせれ. による抵抗が試みられている。それらはさまざま. ば,高度経済成長は人々の豊かさなき経済成長に. な分析をされているが,モラルエコノミーは有力. 過ぎなかったわけであり,経済成長の成功をもっ. な概念のひとつになっている。モラルエコノミー. て公害が免罪されるわけではないのである。つま. に触れて,池田は以下のような論述をしている。. り,優先されるべきは人々の生活の豊かさの実現 (それは当然物質的なものに限定されない)であっ. そのような変化の本質は,モラル・エコノ. て,それが損なわれるような経済成長は倫理的・. ミーという歴史的構成概念によって,すなわち,. 道徳的に反していると見なすべきなのである4。. 社会からの市場制度の離床に対する当時の民衆 の抵抗運動から構成された概念を通して逆照射 することによって読み解くことができる。そこ ・・・・・・・ ・・ から浮かび上がる変化とは,多くの人々,特に ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 農民が,市場をコントロールするのではなく, ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 市場にコントロールされる存在に変わったこ ・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ と,そして,エコノミーのエコロジーからの切 ・ 断, 人々を『死なせるか生きるままにしておく』 絶対的権力から,「生きさせるか死の中へ廃棄. 4 石田と古川は,ガンジーを引用しながら以下のよう な現代文明批判をしている。 「今ではテクノロジーが『豊 かでなければ人間らしく生きられない』という定義を つくり、テクノロジー中心の世界、テクノロジーが主 役である世界をつくろうとしている。まさに生産優位 の原理である。ガンジーのいう7つの罪のうち、『道徳 なき商業(Commerce without morality) 』と『人間性 なき科学(Science without humanity) 』の2つを犯し ているように思えてならない。今こそものつくりにお ける正義や道徳をあらためて真剣に考える時代とも言. 17.
(7) 角 一 典. 上記のような考え方は,脱原発を決定したドイ. 上記の答申で目に付くのは③である。ドイツの. ツの 「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」. 脱原発は,単純に原発が危険な電源であるという. 5. 答申にもみられる 。吉田によれば,答申は以下. ような「安易な」考え方に基づいたものではなく,. のように整理された。. 将来世代も含めた公正・正義も視野に入れたもの である7。まさにこの点にこそ,未来の経済が追. 倫理委員会の報告の要点は,次の通りです。. 求しなければならないものであり,エネルギー供. ①原発の安全性が高くても事故は起こりうる。. 給においてもこの点こそが重要な点となる。上記. ②事故が起きると,他のどんなエネルギー源よ. の答申も,最終的に再生可能エネルギーが最も適. りも危険である。. 切であると判断しているわけであるが,それは,. ③次の世代に廃棄物処理などを残すのは倫理的 問題がある。. 特別に再生可能エネルギーが経済的に優位である からでも,技術的に優秀であるからでもない。放. ④原子力より安全なエネルギー源がある。. 射線による被害や二酸化炭素の排出によるリスク. ⑤地球温暖化問題もあるので化石燃料を使うこ. などと比較した上での結論であることに注目しな ければならない8。ここには,経済性よりも倫理. とは解決策ではない。 ⑥再生可能エネルギーの普及と,エネルギーの. に高い価値を置く姿勢がみてとれるだろう。. 効率性を上げる政策で原子力を段階的にゼロ にしていくことは将来の経済のためにも大き. 1.4 減電社会. なチャンスになる。. ヨーロッパに比べればまだまだ遅れているとい. このうち,②と③の理由が重要な判断基準に 6. なりました(吉田,2012:28)。. わざるを得ないが,FIT導入以降,日本の再生可 能エネルギーも急速な普及を遂げている。例えば, 浅岡によれば,「福島原発事故後に再生可能エネ. える」(石田/古川,2014:15)。. ルギー電気の固定価格買取法が導入され,太陽光. 5 そもそも,脱原発の是非を問う上で「倫理」を掲げ. 発電については急速な拡大がみられた。2015年8. るドイツの姿勢と,日本のエネルギー政策との間の距. 月は猛暑であり,全原子力発電所が停止していた. 離には驚きを禁じ得ないが,それは,エネルギー政策. にもかかわらず,節電要請が不要であったのは,. の受益者をどのように定義するかの違いなのかもしれ ない。未来世代を含めた国民世論(より安全なエネル. 福島原発事故後に約20基分の太陽光発電設備が導. ギー源を)に軸を置いたドイツと,産業界の要請(よ り安くより安定した電力を)に軸を置いた日本,とい うことになるだろうか。なお,村上春樹がカタルーニャ 国際賞授賞式で次のようにコメントしているのは興味. 7 エントロピーの法則の観点から経済学を構想した. 深い。 「たとえ世界中が、『原子力ほど効率の良いエネ. レーゲンも,将来世代への影響を視野に入れていたこ. ルギーはない。それを使わない日本人は馬鹿だ』とあ. とが, 以下の文章で理解されるだろう。 「われわれがキャ. ざ笑ったとして、われわれは原爆体験によって植え付. デラックを生産するごとに、さもなければ鍬 や踏 み鍬. けられた、核に対するアレルギーを、妥協することな. を生産するために使うことのできた一定量の低エント. く持ち続けるべきだった。核を使わないエネルギーの. ロピーを、われわれは取り返しのつかないやり方で破. 開発を、日本の戦後の歩みの、中心命題に据えるべき. 壊している。言い換えれば、われわれがキャデラック. だったのです」(伊藤,2012:93)。. を一台生産するごとに、われわれは将来の人命を減ら. 6 さらにこの答申では以下のような指摘もされてい. 18. も,大いに参考にすべきである。. プラウ. ス ペ ー ド. すという犠牲を払っている」 (Daly,1995=2005:275). る。 「研究を進めるための場が作り出されなければなら. 8 最近,ヨーロッパでは,化石燃料から再生可能エネ. ないし、また、学術と社会との対話が強められなけれ. ルギーへのシフトは,温暖化対策だけではなく,健康. ばならない」 (吉田,2012:175)。技術開発にあたって. 問題(呼吸器疾患・糖尿病・早産など)とリンクして. 研究者・技術者側が市民に対してしっかりと説明責任. いる。化石燃料使用に関わる医学的な知見が生かされ. を果たさなければならないということを説いている点. ているわけである。.
(8) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. 入され,これが夏のピーク電力を賄ったためであ. 西,2012:59)。その実態について,小西は以下の. る」 (浅岡,2016:58) 。九州電力管内では,太陽. ようにレポートしている。. 光発電の普及にともない,揚水発電の運用に変化 が生じているという。従来,揚水発電は昼間の電. REE(Red Eléctrica de Espaňa)によると,. 力不足解消のために運用されていたが,2014年以. 24時間前から32時間前の出力予測が調整用の発. 降,昼間の汲み上げ回数が急増し,15年に昼夜の. 電所の分析のために最も重要で,さらに5時間. 回数が逆転,16年には昼間の汲み上げが7割近く. 前 の 出 力 予 測 に 基 づ い て 修 正 し て い る。. 9. を占めるようになっている 。さらに,九州電力. SIPRECOLICO11は,過去5年で予測精度を急. 管内では2017年5月4日,再生可能エネルギーに. 激に向上させており,特に5時間前から32時間. よる電力供給がピーク時78%,1日平均で38%を. 前までの予測精度が上がっている。24時間前の. 達成している。. 予測では,2006年には21%であった予測の誤差. 再生可能エネルギーの普及とともに,節電技術. (平均出力によって無次元化された平均絶対誤. の進展も著しい。例えば,伊藤によれば, 「近年,. 差)は2010年には14%にまで下がった(小西,. 『節電』を大きく進めているのは技術革新だ。. 2012:55)。. LED(発光ダイオード)電球は,従来の白熱電 球と同じ明るさを,五分の一の電力で出すことが. 再生可能エネルギーや節電等のエコ・テクノロ. できる。また,日本工業規格(JIS)に基づく一. ジーの向上は今後も一層進めていかなければなら. 〇畳用エアコンの年間消費電力量は,平均で二〇. ない。しかし,その一方で,石田と古川の以下の. 一〇年度(平成二二年度)は八七二kWh(キロ. 指摘にも注意しなければならない。. ワット時) 。一九九五年度(平成七年度)の一四 九 二kWhに 比 べ, 約 四 割 減 で あ る 」( 伊 藤, 10. 快適性と利便性だけを求めた,湯水のように. 2012:80) 。また,スペインを調査した小西によ. 資源やエネルギーを使い,地球環境に大きな負. れば,日本では不安定電源としかみなされていな. 荷をかけたテクノロジーへの反省からエコ・テ. い風力発電が,ヨーロッパではすでに主力電源と. クノロジーが生まれた。それは,多くの生活者. みなされているという。「『風力発電事業者にとっ. に,地球環境の重要性を浸透させ,日本では. て,問題は不測の風ではない。不足の風を予測す. 90%近くの生活者に環境意識を浸透させた。こ ・・・・・・・ の貢献は極めて大きい。ただ,何かと何かを置 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ き換えるだけのテクノロジーは,結果として消 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 費の免罪符となり,環境負荷を抑えることには ・・・・ ならないのである。2012年10月12日の日本経済. る技術の不足だけが問題なのである。 』風力発電 は風任せであてにならない電源という位置付けで はなく,“予測可能な変動電源”である。予測がき ちんとされれば“あてになる電源”なのである」 (小. 新聞によれば,エコポイントによって削減され た二酸化炭素の量は,実際には環境省の想定の 9 なお,九州電力では,総発電設備容量2354万kWに 対して,揚水発電設備容量は230万kW(小丸川:120万・ 天山:80万・太平:30万)である。. 1/12であったという。エコ・ジレンマを象徴す る数字と言えるかもしれない(傍点筆者) (石. 10 「こうした成果の背景にあるのは「トップランナー方 式」だ。省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関す る法律)で指定する自動車、エアコン、テレビ受信機、. 11 REEは,GEMAS(Maximum Admissible Wind. 電気冷蔵庫などについて、一定期間内に『エネルギー. Power Generation in System)という制御・監視シス. 消費効率が現在商品化されている製品のうち最も優れ. テムを導入することで電力系統の安定的運用を行って. ている機器の性能以上にする』というもの」(伊藤,. おり,SIPRECOLICOは,風力発電出力予測モデルと. 2012:80)。. してその一部を構成している。. 19.
(9) 角 一 典. 田/古川,2014:14)。. なければならないものばかりではない。減電社会 の含意は,単なる省エネにとどまらず,冷暖房・. これは,技術のみによるブレイクスルーには限. 給湯・調理などの不要な電力利用も縮減すること. 界があることを指摘するものである。東海道新幹. にある。これからは,最もふさわしいエネルギー. 線に代わる東京-大阪間の移動手段として建設が. が何かを考えながら選択が行われていくことが望. 進んでいるリニアモーターカーは,リニア一編成. ましい。基本的に,電気は熱利用ではきわめて非. (12両)を500㎞ /hで走らせるために3.5万kWの. 効率である。. 電源を必要とする(広瀬,2012:193)。700系のの. さらにいえば,電力の使用を減らすだけでなく,. ぞみが定格出力1.3万kWであるのと比べて3倍弱. エネルギー全体の使用を減らす必要があるだろ. もの電力が必要となる。1980年代の日本では,都. う。ソフトエネルギーパスを提唱したロビンスの. 市部における大気汚染レベルの改善がなかなか進. 議論でも,単なるエネルギー源の置き換えではな. まなかった。自動車の排ガス規制によって一台ご. く,エネルギー消費そのものを技術革新で減らし. との排出量が改善されたにもかかわらず,自動車. ていくことが議論の前提となっている。ヨーロッ. の台数が増えたために,その効果が相殺されてし. パでは,住宅の断熱性能基準が日本より格段に厳. まったのである。すでに人口減のモードに入った. しく,近年それがさらに強化されており,結果と. 日本で同じようなことが起こる可能性は低いが,. して冷暖房で消費されるエネルギーの縮減につな. 技術依存でライフスタイルそのものを改めないの. がっている。また,効率的に外気を導入するよう. では,課題の根本的な解決は困難である。. にすることで消費エネルギーを減らす(パッシブ. 小澤は「減電社会」を提唱しているが,「脱原. エネルギー・風の道)努力も,日本よりはるかに. 発のためには『脱電気』が,節電ではなく『減電』. 進んでいる。. が, キ ー ワ ー ド な の で あ る 」 と い う( 小 澤,. しかしながら,さらに一歩進めて,ライフスタ. 12. 2012:168) 。筆者の認識では,脱原発に止まらず,. イルの見直しについても検討を進めるべきであ. 持続可能な社会の形成のためにも減電は重要であ. る。現在の消費レベルを維持することは物理的に. る。 「オール電化攻勢を推進したことにより,東. 不可能であろうし,さらには先進国と発展途上国. 京電力管内だけで原発二基分(二〇〇万キロワッ. との間の格差を是正していくことも加味すれば,. ト,容量ベース)の消費電力増になったことが,. 現状維持はますます不可能になっていく。持続可. 福島第一原発事故後に新聞で報道された」 (小澤,. 能な形で次の世代へとこの地球をバトンタッチす. 2012:59) 。何もかもが電気を必要とする社会が福. るには,消費水準を,少なくとも物質的な側面に. 島の事故を引き起こした,というのは言い過ぎだ. おいては縮小を余儀なくされるだろう。しかしそ. ろうが,2018年の北海道におけるブラックアウト. れは,我慢ではなく,合理的な生活の追求であり,. もしかりで,電気に過度に依存する社会がいかに. 持続可能な文化の創造である。冒頭でも検討した. 脆弱なものであるかを我々に見せつけた。便利だ. とおり,これまでの経済学には物理的な限界に対. からこそ依存が進んできたが,実際には,電気で. する意識が欠落しており,また,実体経済におい てもその傾向に違いはない。生活水準も,自ずと. 12 最近はFITによる電力料金の上昇が問題として指摘. 地球の供給能力と人口の割り算によって上限が規. されることが増えているように思える。今までどおり. 定されるべきものであり,エコロジカルフットプ. の生活をしていればそうなるわけであって,省電力に. リントの議論の指摘のとおり,現在はもう一つの. よる相殺が望ましい方向である。再生可能エネルギー の拡大によって負担が増えると批判するよりは,負担. 地球が必要になってしまうくらいの消費水準に達 しているのである。これは,小手先の修正で解決. ていくことが,今後は望まれる。. できるレベルの話ではなく,革命的な変化が必要. 20. を抑制するために消費を見直すという考え方が拡大し.
(10) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. とされている13。. 植田は,電力における固定価格買取制度のモデ ルとなったアーヘン市の取り組みは,電力供給イ. 2 エネルギーインフラの所有をめぐって 2.1 ヨーロッパにおけるエネルギーインフラ の再公有化からの示唆. ンフラが公営だったからこそのことであると指摘 する。「この制度(アーヘンモデル)の背景とし ては,ドイツの都市経営の伝統があったことも寄 与していると思われる。当時,ドイツの多くの都. 新自由主義的な風潮が高まる中,政府が保有す. 市でもそうであったが,アーヘン市では,水など. る企業体が民営化されるだけでなく,従来は市場. も供給している市営の公社が,電気も供給してい. 化になじまないとされてきた分野においても民営. た」 (植田,2013:157)。日本の再生可能エネルギー. 化が推進されるようになっている。皮肉にも,相. の導入状況を振り返れば理解できるが,発送電お. 対的に公務員の比率が低い日本において,1980年. よび電力の小売が9電力に独占されていた日本で. 代に3公社の民営化が実施され,それが成功モデ. は,再生可能エネルギーの導入は遅々として進ま. ルとされて先進諸国でも模倣されるようになり,. なかった15。また,再生可能エネルギーの生産者. さらには水道や,ヨーロッパの場合は電力インフ. が電力会社と買い取り契約を結ぶことができたと. ラも公営から民営への転換が進められてきた。. しても,電力会社に有利な価格設定になり,発電. しかし,近年,ヨーロッパでは民営化された事. 施設の経営は綱渡りの状況を余儀なくされた。再. 業を再び公営に戻す事例が目立ってきている。端. 生可能エネルギーに興味を持つ消費者も,電力会. 的にいえば,当初喧伝されていたような,民営化. 社の壁に阻まれて発電源を選択する権利を与えら. による利益はほとんど実感されず,むしろその弊. れていなかった。電力会社にしてみれば,巨額の. 害の方が目立ちはじめたからこそ,そうした流れ. 設備投資を回収するためには既存の発電所の電気. が生じていると評価すべきだろう14。. を優先するのは当然のことであり,他社の電力を 買い取るにしても,それはなるべく低い価格に抑. 13 しかし,これはそれほど大変なことではないように. え込もうとするのも当然といえる。送配電網が電. も思える。日本人の靴下の年間購入数は,1970年頃1. 力会社の支配下にある限り,よほど政治の覚悟が. 足程度だったが,現在は10足程度に増えている。これ. ない限り,固定価格買取制度のような市場の論理. は修理の習慣がなくなったことのみならず,履けなく なるまで履かずに捨てる数が増えたことも関係してい. に逆行するような仕組みを導入することは無理で. るだろう。東日本大震災以降,電力消費量は約1割減. ある。ドイツの場合は公有の送配電網が存在した. 少をしているが,節電意識の定着の効果が大きいもの. からこそ,固定価格買取制度というアイデアが生. と思われる。ただし,節電効果が大きかったのは産業 部門で,家庭における節電効果は相対的に低い水準に とどまっている。. 判に受け入れるのも正しい態度とはいえまい。. 14 ヨーロッパでは,新自由主義的政策およびその核の. 15 日本におけるもうひとつの課題は,大規模発電所か. ひとつである民営化の推進に対して反省モードに入っ. ら末端へと電力を供給することをベースに送電線網が. ているこの時期に,日本では新自由主義的「改革」が次々. 作られており,それが再生可能エネルギー拡大の妨げ. に進められている。例えば,2018年12月6日に水道法. となっていることである。小西によれば「2012年6月. が改正され,水道事業の民間委託への道が開かれた。. にはエネルギーと温暖化に関する選択肢が政府から提. また,2018年4月1日に種子法が廃止され,これまで. 示され、2030年に向けて再生可能エネルギーは電力需. 公的機関が開発した新品種を無償で供給してきた仕組. 要の25~35%へと増加させる方向性が明確に打ち出さ. みに風穴が空けられている。2003年9月に地方自治法. れている。そのための系統対策コストは、日本全体の. が改正され,同時に指定管理者制度が導入されたが,. 広域運用を前提として2030年までの累積は2.7兆円から. 2013年度から武雄市の図書館の指定管理者にTUTAYA. 5.2兆円としめされている」という(小西,2012:59) 。. が指名されたことも賛否両論の話題となった。一概に. 発送電分離が実現されたとしても,送電にかかる上記. 弊害ばかりを指摘するのも片手落ちであろうが,無批. の追加投資を誰が行うのかが問われることとなる。. 21.
(11) 角 一 典. まれ,反核・反原子力の波にも乗ってそれが全国. ドイツの先進的な自治体公社が,大手電力会社と. 的な制度として確立したわけである16。. 比べてスリムな経営で成功していることは,その. . ことを証明している」(諸富編,2015:187)。ドイ. 2.2 インフラストラクチュア=社会資本とし. ツでも送電については一元化されている。しかし,. ての送配電網 17. 配電網については地域の状況に応じた効率化や工. 道路や水道 と同じく,送配電網もインフラス. 夫も可能になるだろう。諸富に従えば,むしろそ. トラクチュアとして捉えるのであれば,ヨーロッ. の方が,全国一律のサービスよりも効率的な運営. パ(特にドイツ)における再公有化の流れはわか. が可能になるわけである18。. りやすい。ここでは諸富のドイツの再公有化に関. ここで注意しなければならないのは,再公有化. する解説を紹介しよう。「ドイツでは, 『発電』『送. とは高度経済成長期型の福祉国家への回帰ではな. 電』 『配電』 『小売』の電力システムのアンバンド. いということであろう。公営企業を民営化する新. リングが達成されている。このアンバンドリング. 自由主義的路線が確立した背景には,公営企業体. が意図したことは,『発電』『小売』部門において. の非効率性があった。非営利という考え方が効率. 自由競争が行われ,それを担保するために, 『送電』. の軽視へとつながっていたといわれるが,今日,. 『配電』部門の中立性・公平性を担保する,とい. 公営といえども効率とは無縁ではない。諸富の解. うことである」 (諸富編,2015:174)。おそらく,. 説に従えば,常に民営が効率的であるというのは. 道路は特定の所有に帰するに適さないから公的所. 幻想であり,やり方さえ間違えなければ公営で. 有となっているものと考えられる。そして,発電. あっても効率性を有することが可能なのである。. 方法の多様性を担保するためには,送配電網も道. かつて広井は「定常型社会」を提起し,ポスト近. 路と同じ扱いをする方が合理的である。. 代におけるコミュニティの重要性を指摘してい. また,諸富は,ドイツにおける再公有化の背景. た。当然のことながら,コミュニティは前近代的. について以下のようにも指摘する。 「戦前の日本. なムラ社会であるわけもなく,近代を経験した. の自治体がそうであったように,電気事業に関し. 我々が得た新たな価値,例えば自由やプライバ. ていえば,むしろ公営の方が実績をあげており,. シーなどと整合性を保つことができるコミュニ. 経済性に富んでいる。電気事業,とりわけ配電事. ティを形成する必要がある。1970年代,農村から. 業は, ある程度までは規模の経済性が働くものの,. 都市への激しい社会移動の結果,地域におけるコ. 規模が肥大化しすぎると,むしろ効率性を削ぐ。. ンフリクトが多発し,その対応として都市におけ るコミュニティの再構築が目指され,概ね一定の. 16 シュラーズによれば「日本には、体制外部の対抗勢 力を育てる制度的条件が欠けており、弱体でかつ体制. 成果を収めた。しかし,若林が指摘したように, それは多くの都市住民が故郷でムラ社会の経験と. 批判的な環境保護運動は政策機会から排除される傾向. 記憶を有しており,それをベースにコミュニティ. にあった」(諸富編,2015:43)。社会運動が政策上の影. を構築することが可能だったからだといえる。し. 響力を持たない日本では,内発的な改革は相当に困難. かし,二世以降になると,そうした経験は希薄化. であろう。 17 水道については,世界的に民営化が進展している。. しており,かつてのようなコミュニティの形成は. ただし,民営化といっても,多くの場合は上下分離の. 22. 仕組みのケースが多いようである。道路も,一部の有. 18 鉄道事業との対比が適切かどうかは微妙だが,輸送. 料道路には民営のものもある。日本の場合は,箱根ター. 密度に応じて本数・編成・車両等を変えるのは当然の. ンパイクのように観光開発目的で作られたものがその. こと,会社が違えば料金も職員の雇用・給与体系も異. 代表になる。しかし諸外国の例をみても,直接的に営. なるのは当たり前のことである。しかし,国鉄時代は,. 利目的で道路が設置されているケースは,寡聞にも聞. 全国一律の料金および賃金・給与という縛りが,結果. いたことがない。. として経営上の負担となった。.
(12) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. 困難である。しかし,人々の交流は絶えたわけで. 所有が重要だということである。個人および集団. なく,例えばインターネットなど,新たなツール. による所有を増やし,市場の力に頼らないこと,. を活用した交流が生成している。再公有化も,単. 市場に対抗する力を強めることの大切さを,モラ. 純な先祖返りではなく,ポスト近代にふさわしい. ルエコノミーは説いている。近頃の言葉で表現す. 形が求められている。. るならば,それは「市民資本」の充実ということ になるだろう。再生可能エネルギーの拡大は必要. 2.3 発電施設の所有について. だが,それがいかなる資本によって達成されるか. ヨーロッパでは,エネルギーインフラの再公有. ということも,同時に大切な要素である。残念な. 化とともにエネルギー協同組合の設立が活発であ. がら,日本の再生可能エネルギー市場は,今のと. る。それは,基本的には地域住民による共同所有. ころ大資本の草刈り場になっているというのが適. であるが,広域から志を共有する人々の投資を引. 切な見立てであろう。この状況を放置せず,市民. き受けるような場合もある。住民による共同所有. が主人公になれるような制度設計が望まれる。. の効用を植田は次のように指摘する。 「農家は自. 日本でも市民風車や市民協働発電所と称する太. ら出資することで,発電所に対して所有者的な意. 陽光パネル設置のような取り組みはみられるが,. 識をもつことになるので,自分のことのように,. 残念ながらそれはきわめて小さな取り組みでしか. 発電所のパフォーマンスを気にするようになる。. ない19。いわゆる国民性(ex.弱い主体性)のよ. フィジカルには同じ発電機能をもった施設では. うな議論もあり得るかもしれないが,ここでは協. あっても, それが迷惑施設にはならず,地域にとっ. 同組合をめぐる制度上の問題を指摘しておきた. てなくてはならない共有財産へと変身するのであ る」 (植田,2013:148)。 日本における再生可能エネルギー施設について は,ほとんどが域外資本による所有・運営になっ ており,住民はその事業から基本的に疎外された. 19 このような中で,中国地方の農協による小水力発電 事業は特異な存在である。持続可能な農村社会に言及 した村田と渡邉は以下のように述べている。「注目すべ きは農協です。20農協が47発電所を運転しており、発 電出力は8292kWです。その特長は、これら20農協のう. 状況にある。近年,日本でも風車の建設に対する. ち北海道の1農協(帯広市川西農協)の1発電所(発. 反対運動は増加傾向にあり,ソーラー発電所を原. 電出力160kW)を除く19農協が中国地方5県の農山村. 因とする光害も社会問題化している。もちろん, 事業の進め方自体に問題があるケースも多く,そ. に集中していることです。鳥取県の6農協12発電所で 発電出力合計1402kW(うち4農協4発電所は電化農協 で632kW)島根県3農協6発電所1015kW、岡山県2農. うした事業は論外である。しかし,一度認知され. 協3発電所1395kW、広島県9農協24発電所3586kW(う. てしまった問題によって,健全に進められている. ち2農協2発電所は電化農協で275kW)、山口県1農協. 事業にも疑惑の目が注がれてしまうような事態に なってしまうのは,日本のあるべきエネルギー供. 1発電所300kWです。そしてこれらの小水力発電所は、 その大半が1952年の『農山漁村電気導入促進法』制定 にもとづいて、1950年代から60年代初めに開設された. 給システムの構築にとってマイナスである。した. ものです。当時『電化農協』という専門農協や土地改. がって,住民の疎外状況を解消することがひとつ. 良区も加わって『中国小水力発電協会』が組織され、. の解決策になるわけだが,そのひとつの方法とし て,住民自身が施設の所有者になる道を拡げるこ. 60年代末のピーク時には90発電所を数えたといわれま す。その発電出力はほとんどが500kW以下で、とくに 200kW未満の小規模のものが多いことです。これは農. とを推奨する仕組みづくりが求められる。先述の. 村電化の中で電力会社の配電網から排除された山村僻. ヨーロッパの状況は,それが実現されているがゆ. 地集落の電化を合併前の旧農協が担ってきたことを示. えの現象なのである。 もうひとつ指摘しておきたいのは,先述のモラ ルエコノミーの実現に向けても,市民による共同. しています」 (村田/渡邉,2012:98-99) 。戦後間もな い電力不足の時期とはいえ,制度的な後押しがあった からこそ,中国地方の農協による小水力発電事業は今 日まで続いているのである。. 23.
(13) 角 一 典. い。ヨーロッパの多くの国では,単一の協同組合. 会構築を実現するために,どのような社会経済上. 法が存在し,設立にあたってその目的が問われる. の配慮が必要になるかということについて検討を. ということはまずない。しかし,戦後の日本は,. 試みた。本稿では,無限の経済成長を追求する現. 設立目的ごとに異なる法律を制定して協同組合を. 行のシステムの限界を前提とした,地域の持続可. 認めてきた。農業では農業協同組合,漁業では漁. 能性をベースとした新たな倫理的経済の構築の必. 業協同組合,消費では生活協同組合といった具合. 要性の指摘からはじまり,再生可能エネルギー普. である。このような制度の下では,協同組合はそ. 及の基盤として,エネルギーインフラの公的所有. の活動が法律でかなり厳しい規制を受けることと. および発電設備の共同所有の普及の進展が必要で. なり, 自由に活動を展開することは容易ではない。. あることを主張した。. 栗本は, 「日本においては,協同組合が社会的包. 本稿の議論の基底には,基本的に,再生可能エ. 摂にいかに取り組むか,また再生可能エネルギー. ネルギーが相対的に経済性が低いという認識があ. 協同組合をいかに促進するか,そのために協同組. る。しかし,近い将来,再生可能エネルギーは技. 合の資本をいかに活用するかという課題にあたっ. 術的改良とともに普及によるスケールメリットも. て私たちは大きな制度的障壁に直面している。例. 相俟って,既存のエネルギー源を経済性の上で上. えば,生協や農協が再生可能エネルギーの生産と. 回るという予測が立てられている。飯田は, 「太. 流通に関与しようとしても,電気事業法や農地法. 陽光発電や風力発電などの自然エネルギーが,や. による制約,各種協同組合法による員外利用禁止. がては他のどんなエネルギーよりも安くなって普. 20. の壁に阻まれており ,そのためのファイナンス. 及していくことになれば,エネルギー分野での価. についても縦割りの制度のもとで協同組合の余裕. 格破壊を引き起こすことはもちろんのこと,社会. 資金が有効に活用されていない。このような障害. の枠組みそのものを大きく変えていく『破壊型技. を乗り越えるためにもフレキシブルな組合員資. 術』としての役割を担う可能性があります」と述. 格,事業目的をもった新たな協同組合を設立する. べている(飯田/ ISEP,2014:19)。ここでの破. 必要が高まっている」と指摘する(栗本,2014:. 壊は,もちろん創造的破壊を指している。すなわ. 94) 。 日本でも規制緩和が進んでいるが,私見では,. ち,限界が見えてきた近代を再構築するための道. それは新たな金銭的利得獲得の機会を多国籍企業. 具として再生可能エネルギーのテクノロジーが位. 等に提供するための規制緩和のようにみえる。し. 置づけられているのである。このような状況が実. かし,より重要な規制緩和は,市民活動の活性化. 現すれば,経済性で既存のエネルギー源を凌駕し,. が促進されるようなものであるのではないだろう. 原子力エネルギーや化石燃料は駆逐されるだろ. か。. う。しかし,今回の検討は,単にエネルギー源を 置き換えるに止まらず,「健全な社会の構築」と. おわりに. いうもうひとつの課題への,不十分ではあるが, 回答でもあることを指摘しておきたい。. ここまで,再生可能エネルギーを基盤とした社. 参考文献 20 例えば,栗本の指摘する以下の例はその典型である。 「生協法の員外利用禁止規定によって生協施設の太陽. ・浅岡美恵,2016, 「温暖化防止と脱原発 再生可能エネ. 光発電事業は『自家消費』の範囲に抑制されている。. ルギーが地域経済を回す」『季刊 自治と分権』62:. 農地法による土地利用調整は太陽光発電のための転用. 43-59. ・飯 田哲也/環境エネルギー政策研究所(ISEP)編,. 設置は固定価格買取制度の対象から外された」(栗本,. 2014,『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊か. 2014:94)。. にする』学芸出版社.. 24. を規制しており、2012年から農地への太陽光パネルの.
(14) 再生可能エネルギーを基盤とした社会構築に関する考察⑵. ・池 田寛二,2016,「気候変動の社会学をめざして」 『社. ・広瀬隆,2012, 『原発ゼロ社会へ!新エネルギー論』集. 会志林』62⑷:35-51.. 英社新書.. ・石田秀樹/古川柳蔵,2014,『地下資源文明から生命文. ・Polanyi, K., 1944=2001, The Great Transformation :. 明へ 人と地球を考えたあたらしいものつくりと暮ら. The Political and Economic Origins of Our Time,. し方のか・た・ち ネイチャー・テクノロジー』東北. Boston: Beacon Press.( = 野 口 建 彦 / 栖 原 学 訳,. 大学出版会.. 2009,『〔新訳〕大転換 市場社会の形成と崩壊』東洋. ・伊藤義康,2012, 『分散型エネルギー入門 電力の地産 地消と再生可能エネルギーの活用』講談社ブルーバッ. 経済新報社) . ・見田宗介,1996, 『現代社会の理論 情報化・消費化社. クス. ・植田和弘,2013,『緑のエネルギー原論』岩波書店.. 会の現在と未来』岩波新書. ・村田武/渡邉信夫編,2012, 『脱原発・再生可能エネル. ・内橋克人,1998,『同時代への発言 2 「消尽の世紀」 の涯に 震災・消費・人間』岩波書店.. ギーとふるさと再生』筑波書房. ・諸 富徹,2015,『「エネルギー自治」で地域再生! 飯. ・小澤祥司,2012, 『減電社会 コミュニティから始める エネルギー革命』講談社.. 田モデルに学ぶ』岩波ブックレット. ・諸富徹編,2015, 『再生可能エネルギーと地域再生』日. ・Kreutzberger S. & Thurn V., 2011, Die Essensvernichiter: Warum die Hä lfte alter Lebensmittel im Müll landet. 本評論社. ・吉田文和,2012, 『脱原発時代の北海道 これからのエ. und wer dafur verantwortlich ist, Köln: Verlag. ネルギーの話をしよう』北海道新聞社.. Kiepenheuer & Wisch GmbH & Co. KG.(=長谷川圭. ・L ovins, A.B., 1977, Soft Energy Paths : Toward a. 訳,2013, 『さらば,食料廃棄 捨てない挑戦』春秋社) .. Durable Peace, USA: The Friends of Earth Inc..(=室. ・角一典,2015,「再生可能エネルギーを基盤とした社会. 田泰弘/槌屋治紀訳,1979, 『ソフト・エネルギー・パ. 構築に関する考察 社会哲学的観点からの試論」『北海 道教育大学紀要 人文科学・社会科学編』66⑴:197-. ス 永続的平和への道』時事通信社) . ・L ovins, A.B. and Rocky Mountain Institute, 2011,. 212,北海道教育大学.. Reinventing Fire, White River Junction: Chelsea Green. ・栗 本昭,2014, 「協同組合基本法の可能性を考える」 ,. Publishing.(=山藤泰訳,2012, 『新しい火の創造 エ. 生協総合研究所編,『生協総研レポート77 非営利法人. ネルギーの不安から世界を解放するビジネスの力』ダ. 制度研究会成果まとめ』,pp.85-95. ・小西雅子,2012,「再生可能エネルギーの大幅導入に成. イヤモンド社) . ・若林幹夫,2007, 『郊外の社会学 現代を生きる形』ち. 功したスペイン その背景に『気象予測』を活用した 独自の挑戦あり」『天気』59⑽:53-60.. くま新書. ・Wackernagel, M. and W.E. Rees, 1996, Our Ecological. ・小林久/戸川裕昭/堀尾正靭監修,科学技術振興機構. Footprint : Reducing Human Impact on the Earth,. 社会技術研究開発センター「地域に根差した脱温暖. Gabriola Island, British Colombia: New Society. 化・環境共生社会」研究開発領域地域分散電源等導入. Publishers.(=和田喜彦監訳/池田真里訳,2004,『エ. タスクフォース編,2010,『小水力発電を地域の力で』. コロジカル・フットプリント 地球環境持続のための. 公人の友社.. 実践プランニング・ツール』合同出版) .. ・竹村公太郎,2016,『水力発電が日本を救う 今あるダ ムで年間2兆円超の電力を増やせる』東洋経済新報社. ・田 中充/白井信雄編(地域適応研究会著),2013, 『気. . (旭川校教授). 候変動に適応する社会』技報堂出版. ・多 辺田政弘/藤森昭/桝潟俊子/久保田裕子,1986, 『地域自給と農の論理 生存のための社会経済学』学 陽書房. ・Daly, H.E., 1996, Beyond Growth: The Economics of Sustainable Development, Boston: Beacon Press.(=新 田功/蔵本忍/大森正之訳,2005,『持続可能な発展の 経済学』みすず書房). ・広井良典,2001,『定常型社会 新しい「豊かさ」の構 想』岩波新書. ・広井良典,2013, 『人口減少社会という希望 コミュニ ティ経済の生成と地球倫理』朝日新聞出版.. 25.
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