社会系教科教育学会
『社会
系教
科教
育学研究』第
6号 1994
(pp.41-46)
食を主題とする社会科授
一
生活文化教材の科学化をめ
ざして−
業の設計
The Design of Social Studies Teaching- focused on Food
:How to
develop scientific Social Coginition
o
n Life-Culture Materials
序
1
研
究
の
視
点
中学
校
社
会科
は
,公
民
的
資質
の
育
成
をね
らい
と
した
教
科
で
ある
。特
に
,地
理
的分
野
は
,わ
が
国
土や
世界
の
人
々の
生活
の様
子
を知
り
,
自分
の
住
む
地域
を見
つめ
直
す
こ
との
で
き
る教
科
で
あ
り
,本
来
,子
ど
もた
ち
に
と
っ
て
,興
味
の
つ
き
な
い社
会へ
の
目
を開
く魅
力の
あ
る教
科
で
ある
は
ず
で
ある
。
しか
し,
一方
で
,
受験
科
目と
して
「地
理
=暗
記
科
目
」
と
い
う誤解
を
受
けた
り,産
業
・経
済
重視
,人
間不
在
の
地
理
と
い
う批
判が
な
され
て
きた
。
平成
元
年
度版
中学校
社会
科
学
習
指
導要
領
(以後
「新
学
習指
導
要
領
」
)で
は
,社
会
科
は
国
際
化の
進
展
等社
会
の
変
化に
対
応
して
,広
い視
野
に
立
った
日本
の
国
土
認識
が
一層
深
め
られ
る
よ
う配
慮
して
,内
容の
改善
が
図
られ
た
。特
に
,国際
化に
対
応
し,衣
食
住
な
ど
人
々の
生
活
を
重
視
し
,世
界
や
日本
の
諸
地域
を弾
力的
に
扱
うな
ど
,大
き
く改
め
構
成
され
,ま
た
,課
題
学
習
が
導入
され
,
自ら
主
体
的に
学
ぶ
子
ども
を育
て
る
こ
とが
強調
され
て
い
る
。
今
回の
改
訂の
生活
重
視へ
の
転
換
は
,中
学校
地
理
的分
野
に
お
いて歓
迎
され
る
もの
で
ある
が
,一
方で
,人
々の
生
活や
文化
を教
材
化
す
る
こ
とは
難
し
く
,
とも
すれ
ば
,
具体
物
や
活
動の
場
面
の
提
示
に終
始
し
,教
科
と
しての
科
学性
を
失
う
こと
にな
る
。
社会
科
は
,子
ど
もの
社会
認識
形
成
を
目的
とす
る教
科
で
あ
るの
で
,現
場
の
教
師
に
と
っ
て
,科
学
化
をめ
ざす
「生
活
文
化
」学
習の
具
体
的
な授
業
設
計理
論
が
必
要
と
され
て
い
る
。
2
研究の
目的
(1)目的
本研究の
目的は
,今後の社会科教育の鍵概念である
「生活文化
」の授
業をどう
したら科学化できるかを社
会認識
形成の
立場か
ら検討
し
,授
業設計
理論
を構
築
し,
授
業
モデル
を提案す
るもの
である。
尚
,
「生活文化」の中でも更に
中核の概念
である食
に絞
り研究
を行
う。
上記の研究
目的
を達成するために
,以下の
方法で研
酒
井
喜八郎
(名古屋
市
立大
江
中
学校)
究を進める
。
(2
)研究仮説
食
を主題とす
る学習に時間軸
を組み
込んだ授業設計
をす
るな
らば
,社会認識が深ま
り,地域性が明
らかに
なる。
(3
)作
業仮説
食に接近す
る最近の社会科学
としての人類学
・歴史
学等の
成果か
ら基
本概念
と思考
法
を抽出
し
,授業設計に
援用が
できれ
ば
,匚
生
活文fヒ
」教
材の
科学陛
が高
まる
。
3
研究の
方法
本研究は生活文化の授
業設計理論の構築
をめ
ざすも
の
であるから
,先行研究に
ついては全て,問いの
質と
生徒が獲得す
る知識の
質による
ミク
ロな社会認識構造
の分析
を通
して論を進めていく。
巾
食に関す
る先行研究と学習指導要領の
取扱いを明
らかに
し,現状
と問題点
を明らかにす
る。
(2)食に関心
成果を概観
を示す人類学
し,生徒に獲得
・歴史学等の社会諸科学の
させたい主要概念
を抽
出
す
る。
(3)食に関心
を示す人類学者
・歴史学者等の思考法
を
分析
して
,問いの構造を明らかにす
る。
(4
)生徒が獲得する知識の
質
(授業の
内容)と認識構
造の深化過程
(授業の
方法)が明らか
となる授
業分
析
フレ
ーム
ワー
ク
を
(2
囗3
)
か
ら作成
し,既存の食
を
主
題
とする授
業の科学性の検討
を行う。
(5
囗4
)
の
成果
をも
とに
,授
業設計理論を構築
し,授
業
モデル
を提
案する
。
授
業モデル作成に
あたっては
,中学校社会科への課
題学習の
導入に
対応
させ
る。
注
:
「生活文化」は広義の意味での
「生活
・文化」
と解釈する。
ただ
し,研究に
おいては食に絞る
。
|
社会認識形成か
ら見た食を主題
とする学習の歴史
と問題
柳
田社会科や石田龍次郎の
昭和22
年版
「人文地理
」
の食に関する
問いの
質を吟味
した
。民俗学等の
成果か
-41-ら 援 用 し た質 の高 い 問 い も 見 -41-ら れ る が, 問 い が 構 造 化 さ れ て い な い。 1980年 代 に 生 活 文 化 学 習 が定 着 し たが, こ れ は生 活 文 化 教 材 と社 会 認 識 形 成 とを つ な ぐ授 業 理 論 が な い 点 に 問 題 か お る。1) H 食 に関 す る 人 類 学 ・ 歴 史 学 等 を 始 め と す る 社 会 諸 科 学 の援 用 (1) 子 ど も に 獲 得 さ せ る 基 本 概 念 の 抽 出 ア メ リ カ の バ ン ク ス が 人 類 学 の 基 本 概 念 を1973 年 に 発 表 し て い る 。 そ こ で, 食 に 関 す る 最 近 の人 類 学 や 歴 史 学 等 の 研 究 成 果 を 整 理 し 食 を 主 題 と す る学 習 で 獲 得 さ せ る 基 本 概 念 の 抽 出 を 試 み た。2) (2) 食 に 関 す る人 類 学 者 ・ 歴 史学 者 ら の問 い の 構 造 の 抽 出 食 に 関 す る社 会 科 学 者 の問 い の構 造 は, 時 間 軸 と空 間 軸 を 駆 使 し て, 社 会 科 学 の 基 本 で あ る 社 会 事 象 の 因 果 関 係 を 追 求 す る 問 い の 連 続 に よ り認 識 が 深 化 し て い る こ とが 明 ら か と な っ た。3) こ の 問 い の 構 造 分 析 か ら, 生 活 文 化 教 材 の授 業 の 科 学 化 を め ざ す に は, 時 間 軸 を 導 入 す る と い う 仮説 の有 効 性 が高 ま っ た。 Ⅲ 社 会 認 識 構 造 に 着 目 し た 授 業 分 析 1 授業 分 析 フ レ ー ム ワ ー ク の設 定 n の よ う に, 食 を 主 題 と し た 人 類 学 を 始 め と す る隣 接 科 学 の基 本 概 念 の 抽 出 と, 問 い の構 造 ( 思 考 法 ) の 分 析 を 基 に して , 食 を 主 題 と す る 授 業 の 科 学 性 を 吟 味 す る 分 析 フ レ ー ムワ ー クを 次 の通 り 設 定 し た 。 《授 業 分 析 フ レ ー ムワ ー ク》 │←空間軸→│← 時 間 軸 →│ 授 業 自 然 経 済 保 存 技 術 輸送 技 術 食 文 化 穀 物 化 家 畜 化 農 法 土 壌 階 層 社 会 認 識 構 造 例 1 ○ D → ○ D 二 層 (D : 因 果 関 係 的 知 識 H:分 析 的 知 識 W:記 述 的 知 識 ) 二 重 線 よ り左 が 主 に空 間 軸 , 右 が時 間 軸 で , 例 1 の よ う に二 重 線 を ま た が っ て , 因 果 関 係 的 知 識 が 2 つ 組 み込 ま れ て い れ ば, 認 識 が 深 化 す る 授業 と な る。 同 時 に , 保 存 技 術 の因 果 関 係 の理 解 へ深 化 し て い る と い う こ と も 確 認 で き る よ う に 工 夫 さ れ て い る 。 つ ま り , 社 会 認 識 の深 化 構 造 と 人 類 学 等 の 基 本 概 念 が 組 み込 ま れ て い る か ど う か が 総 合 的 に判 断 で き る授 業 分 析 フ レ ー ム ワ ー クを 開 発 し た 。 2 授 業 分 析 の 方 法 次 に 授業 分 析 を 行 う 際 の 視 点 お よ び 方 法 ・ 対 象 を 明 ら か に す る 。 (1) 食 を 主 題 と す る 学 習 の「 科 学 性 」 の吟 味 授業 者 が 子 ど も に 獲 得 さ せ た 知 識 ( 中 核 と な る 問 い に よ っ て 導 か れ る 知 識 ) を 実 践 例 か ら 抽 出 し , 知 識 の 質 と 深 化 構 造 に 着 目 し て 分 析 す る。 (2) 分 析 対 象 文 献 につ い て 食 を 主 題 と す る 学 習 の 授業 を 『 教育 科 学社会 科教 育 』 ・ 『 歴 史 地 理 教 育 』 ・ 『 ひ と 』 を は じ め 最 近 出 版 さ れ た 授 業 例 集 ( 『 教 材 百 科 : 食 べ物 の 授 業 』 ・ 『 社 会 科 課 題 学 習 の 新 展 開 』 ・ 『 世 界 の人 々 の生 活 の 教 材 化 と 展 開 』 ) 等 か ら 幅広 く70 事 例 集 め て, 分 析 し た。 (3) 授 業 分 析 の視 点 人 類 学 ・ 歴 史 学 の 成 果 を 抽 出 し て そ の 内容 項 目 と 獲 得 さ れる 知識 を照 らし合 わせ る。 そ の際 , 知 識 の組 み込 ま れ方 も検討 す る。 7つ の内容 項 目 は次 の通 り であ る。 卜 「 保 存 技 術 」 ・ 「 輸 送 技 術 」 ・ 「 食 文 化 の 創 造 ・蹴 元 四 岡 ・ 「 階 層 ・ 社 会 集 団 」 2 授 業 方 法 の 科 学 性を 吟 味 す る 視 点 食 を 主 題 と す る授 業 方 法 の科 学 性 を吟 味 す る ため に, 次 の 3つ の 視 点 を 設 定 す る 。 視 点 ①習 得 さ れ る知 識 の 質 は ど う か 。 事 実 的 知 識 か 因 果 関 係 的 知 識 か O 視 曵 ② 現 象 的 因 果 関 係 と 本 質 的 因 果 関 係 が ど ん な 構 造 に な っ て い る か。 視 点 ③ 二 層 構 造 の場 合 現象 的 因 果 関係 か ら 本質 的 因 果 関係 へ導 く時 の問 い はど うな って い るか 。 1. 2 の 視 点 を 総 合 的 に 見 る 分 析 フ レ ー ムワ ー クを 作 り , 食 を 主 題 と す る 授 業 の 分 析 を 行 う。 授 業 の分 析 結 果 を 表 1 に 示 す。 表 1 は, 授 業 分 析 フ レ ー ム ワ ー ク の 結果 を ま と め た も ので あ り, 社 会 認 識 構 造 が 一 覧 で き る よ う に工 夫 し て あ る。O 【 表 1 】 授 業 分 析 結 果 一 覧 科 学 的 社 会認 識 形 成 を め ざ す 食 を主 題 と す る学 習 の分析 フ レ ー ムワ ー ク 授 業 題 目 授業者 出 典 食 目 標の 分 類 地理学 人類学・歴史学( 生活の知恵) 网能会a 自然 環境 政 治 鰹 筋 保 存 技術 輸送 技術 食文 化 哺 位・ 受容 穀物 家畜 化 嘆法土壌階啗社会 集団 検証 深化 二旧 1 「 食糧 と人間」を通し て のグ ロー パルェ デ ュケーシ3 ンの試み 石 橋昌雄 社会科教育 Na 252.1984 pp. 27-30 インド の食 方向目標 提示型 O D 0W S スライ ド −U 2 ココヤシを ネクに東 南 ア ジア の学習 を深める 竚柳 修司 社 会科教育 No. 287.8.1986 PP. 38-39 コ コ ヤ シ 方向目標 提示型 頑
伺
S ]] ヤノ に吐M 二旧 3 西アジアの遊牧の 授業 安 井 俊夫 社会科教育 Na411.4.1987 DD 10-24 乳 肉 己述的知 識 こよる目 柧 餘 型 O H OH! OH ST 話し合 い 67 遼牧民の生活 とイスラム教 矢口 舜慈 社会科の解説 と実践小学館 1989 pp.74-76 パ ン 乳 説明的知 識 によ る目 梳 提示型 OD 0 W ow T 一泗 68 身近に国際化 教材間発のヒント 波眼 社会科教育 Na381.9.1993 pp. 52-55 天 ぷら そば ハ ン ハ ゙ ー カ ゙ 方向目標 提示型 O D S 一回 69 歴史授業のワ ールド化 有 田和正 社 会科教育 No.381.9.1993 pp. 95-98 木の家 の食事 方向目標 提示型 OD ST 一旧 ― 42 ―3 授業 分 析 の 結 果 授業 を 分 析 し た 結 果 につ い て 考 察 す る。 (1) 視 点 ① につ い て の分 析 結 果 と 考 察 《視点 ① :習 得 さ れ る 知 識 の質 は事 実 的 知 識 か因 果 関 係 的 知 識 か。 》 食 を 主 題 と す る 授 業 を , 獲 得 さ れ る 知 識 に よ っ て 分 類 し た 結 果 ,70 事 例 中23 事 例 が 事 実 的 知 識 を 獲 得 す る も の で 約 3分 の 1を 占 めて い る。 ま た, こ れに対 し て, 因 果 関 係 的 知 識 を 獲 得 す る授 業 は,70 事 例 中47 事 例 で あ っ た 。 こ れ は 社 会 事 象 間 の 因 果 関 係 の追 求 を 基 本 と す る 社 会 科 授 業 と し て は少 な い 。 (2) 視点 ② につ い て の分 析 結 果 と 考 察 《視点 ② :現 象 的 因 果 関 係 と 本 質 的 因 果 関 係 的 知 識 の深 化 構 造 につ い て 》 ア 〈二 層 構 造 か ど う か。 〉 次 に, 認 識 構 造 に 着 目 し た。 科 学 的 社 会 認 識 形 成 を めざ す た め に は 現象 的 因 果 関 係 か ら本 質 的 因 果 関 係 の 理 解 に認 識 構 造 が二 層 に 深 化 し て い く こ と が 不 可 欠 で あ る。5)二 層 構 造 に な っ て い る 授業 は,70 事 例 中18 事 例 と 全 体 の 3割 に 満 た な い。 ま た , 因 果 関 係 的 知 識 が 獲 得 さ れ る 授 業 の 中 に 限 っ て も,47 事 例 中18 事 例 で あ っ た。 更 に , 獲 得 す る 因 果 関 係 的 知 識 の 内 容 を 検 討 し た が, 食 を 主 題 と す る 学 習 に お い て は 現象 的 因 果 関 係 を 厂自然 」 と 結 び 付 け て い る も の が多 く, こ の 一 層 の 因 果 関 係 の 追 求 で 終 わ る も の が多 い。 ま た, 現 象 的 因 果 関 係を 「 経 済 」 と 結 び 付 け て い る も のが 多 い 。 ま た, 社 会 認 識 が 深 化 す る た め に, 食 と 1つ の 自 然 的 因 果 関 係 と 実 際 に 砂 糖 き び の節 の 数 や 米 の数 を 数 え る 活 動 を 取 り 入 れ, 検証 過 程 を 結 び 付 け て 二 層 構 造 に し て 深 化 を め ざ す パ タ ー ン も 7事 例 見 ら れ た。 こ の パ タ ー ン は有 田 氏 の実 践 に よ く見 ら れ る 。 そ し て 本 質 的 因 果 関 係 に人 間 の「 生 活 の知 恵 」 , 即 ち 歴 史 的 な 視 点 を 組 み込 も う と し た 授 業 は 6事 例 と少 な い 。 ( 表 2 ) 【 表 2】 現 象 的 因 果 関 係 と 本 質 的 因 果 関 係 の認 識 構 造 現 象的 因 果 関 係 本 質 的 因 果 関 係 事 例数 自然 1 0 経 済 5 自然 経 済 9 経 済 経 済 3 生 活 の知 恵 1 4 生 活 の知 恵 生 活 の 知恵 1 自 然 生 活 の 知恵 5 イ 〈人 類 学 等 の知 識 の組 み込 ま れ 方 は ど う か 。 〉 次 に, 人 類 学 ・ 歴 史 学 の成 果 か ら 匚保 存 技 術 」 匚輸 送 技 術 」 「 ̄食 文 化 の創 造 ・ 受 容 」 匚穀 物 化 ・家 畜 化 」 等 の項 目 を 設 定 し , 授 業 者 が 生 徒 に 獲 得 さ せ た 知 識 が どの内 容 に属し, しか もその知 識がD ( 因果関係 的知 識),H (分析 的知識) , w (記述的知 識) の3つの どの形 で組 み込 まれてい るか分析し た。 分析結果 は次 の通りであ る。( 表3) 【 表3】人類学 等の知識 の組み込ま れ方 地 理 学 人 類 学 ・ 歴 史 学 ( 生 活 の知 恵 ) 自 然 環 境 政 治 経 済 保 存 技 術 輸 送 技 術 食文 化 の 創造 ・受 容 穀 物 家 畜 化 農 法 土 壌 階層 社会 集団 D 23 21 6 2 7 0 2 0 1 H 3 4 1 2 4 2 2 1 0 W 1 1 2 0 11 3 0 0 1 計 27 26 9 4 22 5 4 1 J 「 食 」 と「 自 然 環 境 」 と の 内 容 が 因 果 関 係 的 知 識 と し て 獲 得 さ れ る よ う に 組 み込 ま れ て い る のが23 もあ る。 「 食 」 と「 政 治 経 済 」 と の 内 容 が因 果 関 係 的 知 識 と し て 獲 得 さ れ るよ う に 組 み込 ま れ て い る の が21 あ る。 し か し, 「 食 文 化 」 の創 造 ・ 受 容 の内 容 が 因 果 関 係 的 知 識 と し て 獲 得 さ れ る も の が 7に 対 し て 記 述 的 知 識 と し て 獲 得 さ れ る も の が11 で あ る 。 こ の よ う に見 る と , 食 と 自 然 と の 因 果 関 係 の追 求 や 食 と政 治 経 済 と の 因 果 関 係 の追 求 は多 く な さ れて い る が , 生 活 の知 恵 と の 因 果 関 係 の 追 求 を 組 み 込 ん だ 授業 は わず か し か な い こ と が 明 ら か と な っ た。 こ れ は, 生 活 の知 恵 が 記 述 的 知 識 と し て は 教 え ら れ て い て も, 社 会 認 識 形 成 を めざ し な が ら, 時 間 軸 を 取 り 入 れ て地 域 性 の理 解 へ 深 め て い く よ う に設 計 さ れ た 授 業 が 少 な い こ とを 意 味 し て い る。 ウ【 社 会 認 識 構 造 の 深 化 パ タ ー ン につ い て 】 70事 例 に 及 ぶ 授 業 分 析 か ら, 食を 主 題 と す る 授 業 の 内 容 と方 法 の 科 学 性 を 検 討 し , 総 合 分 析 フ レ ー ム ワ ー ク に よ り 一 覧 で き る よ う に し た。 尚 , そ の中で も特 に, 社 会 認 識 構 造 の 深 化 パ タ ー ン に着 目 す る と, 主 に 次 の 4 つ の パ タ ー ンに 分 類 で き る こ と が 明 らか と な っ た 。 《 パ タ ー ン 1》 : 食 文 化 が 記 述 的 知 識( W) と し て 組 み込 ま れて い る 授 業 授 業 題 目 地 理 学 人 類 学 ・ 歴 史 学( 生 活 の知 恵 ) 科学姓 会 灘
蒻齟詰皿
殞
詐
農法 土壌蕊
検証鸚
12 世 界の 食 事(2) スライド・ ゲ゛ ム を 中 心 に 0 W スラ イT ド × こ の 授 業 は, ア フ リ カ の ク ス ク ス や 南 太平 洋 の ウ ム 料 理 等 の 食 文 化 を 扱 い , 教 師 に よ る ス ラ イ ド 提 示 が あ り 興 味 深 い が , 記 述 的 知 識 の 獲 得 で 終 わ っ て い る 。 《 パ タ ー ン 2》 : 食 と 保 存 技 術 の 因 果 関 係 的 知 識 D が 1 つ 組 み 込 ま れ て い る が 検 証 過 程 と の組 み合 わ せ で 認 識 が深 化 し 二 層 構 造 と な っ て い る 授 業 。1 沮のD→V( 証) 二川 ヽ造 授 業 題 目 地 理 学 人 類 学・ 歴 史 学 ( 生 活 の 知恵 ) 科学 鞋 竟 累識
蒻齟皿顫
纈
RW
農法 土壌誤
検証顋
17 寒 い 地 方 の 人 々の く ら し D○ − 夕- S燈 (二層) この授業 の事例 に, 野菜の保存 法と寒い地 域との因 果関係を探 求す るものがある。 まず, 「なぜ寒 い地方 の人々 は野菜を雪 の中に埋 めるのか。」 という問い に 対して,子 ど もたちが「雪 の中 は暖かい から」 と予想 す る。 これだけ の授業 であ れば, 食 と保 存技術の因果 関係的知 識D が 1つ しか組 み込 まれてい ないので認識 は深化 しない。 しかし, この授業 で は,更 に, これを 検証 するた めに, 実際 に雪 の中の温度を 計って,認識 が二 層構造 になり, 社会認識 が深化す る事例であ る。 《パ ターン3》 二 層 の因果 関係的知識( 現象的因果関 係と本質 的因 果 関係) が組み込ま れ,認 識が深化 している授業。 Dp ( 現 象 的 因 果 関 係) → De( 本 質 的因 果 関 係 ) 二層 構 造 Dp ( 畏 で77E回 曁 茘 関 係ヤ ゛ De(ヲ ぼg 叉と§jWJ 係 ) 二層 構 造 授 業 題 目 地理 学 人 類学 ・ 歴 史 学 ( 生 活 の知 恵 ) 秤 皿 坦認 澂談詛蘇噐
腦
RI
農法 土壌 晉 集団 検証暼
24 ハ ンバ ー ガ'− の授業 T 説明 二層 0D ○D この授業 は, ハンバ ーガ ーの消費量(変数) と熱帯 林 の減少( 変数) との因果関係を 探究す る。 更に, ア メリカではな く中米 の牛肉 が使 われ る理 由( 地域差) を 探究 する。食 と経済コ スト が本質的な 因果 関係的知 識 として組 み込 まれた事例 である。 《パタ ーン4》 二 層の因果関 係的知識( 現象 的因果関 係と本質 的因 果 関係)が組 み込 まれてい る。 更に,Dp とDeが 空 間 軸(二 重線 より左) と時間 軸( 二重線 より右) にまた がってい るので 社会認識形成 と同時 に地 域性 の理 解へ 進 む授業。 D p( 現 象 的 因 果 関 係) →D e( 本質 的因 果 関 係 ) 二 層 構 造 Dp( 豐 蓊 諂 因 果 関 係)・De 果 関 係 ) 二 層 構 造 授 業 題 目 地 理 学 人 類 学・ 歴 史 学 ( 生 活 の知 恵 ) 袢 四 挫 認澂蒻 詛
蘇 詛
懽
篩
農法 土壌蕊
検証 深化 二層 47 野 田 の 醤 油 づ く り T 説明 二層 0 D 0 D この授業 は野田 の醤油づ くり の立地 の理由を まず現 在の空間 七探究してい る。 更 に, 過去の空間 に目を向 け,特 に江戸時代 から発達し た理由を醤油を 保存す る 樽 のたがの技術 の発達 との因果 関係か ら明らかにして い く。 尚, 前述 の如 く分析フ レー ムワ ークの二 重線より左 が地 理学等 の内容 で空間軸を示 す。 右が人 類学等 の生 活 の知 恵 の 内容 で 主 に時 間 軸 を 示 す。 従 って, 今後 は, パ タ ー ン 4 の よ う に二 重 線 の右 の時 間 軸 に意 図 的 に, D ( 因 果 関 係 的 知 識 ) が 組 み込 ま れ る よ う に す れ ば , 歴 史 的 ア プ ロ ーチ が可 能 に な り 総 合 的 に 社 会 事 象 を 追 求 す る授 業 が 設 計 で き る。6) 以 上 の 授業 分 析 か ら 明 ら か に な っ た の は, 食 と い う 身 近 な 具 体 物 か ら授 業 を 展 開 し て い るが , 獲 得 さ せ る 知 識 が 明 確 に 授 業 者 の ね ら い と な っ て い な い と , 食 を 使 って も た だ 生 徒 が活 動 し た だ け で 社 会 認 識 が 育 た な い と い う こと で あ る。 授 業 者 が 目 標 を 明 確 に し て , 食 に関 し て 生 活 の知 恵 を ど ん な 知 識 と して 組 み込 む か が 重 要 で あ る。 従 っ て, 食 を 主 題 と す る学 習 の科 学 化 を 図 る た め に は, 授 業 の目 標 = 獲 得 さ れ る 知 識 に , 地 域 の人 々 の 生 活 の知 恵 を 因 果 関 係 的 知 識 と し て 組 み込 む こ と が 必 要 で あ る。 (3) 視 点 ③ の 分 析 結 果 と 考 察 《二 層 構 造 に す る た め の 問 い ( 手 だ て ) と は何 か。 》 そ れで は,食 を主 題 とす る学 習 にお い て 社 会 認 識 を 深 化 させ るた め の手 だて は何 だ ろ うか。 そ こで , 分 析 対 象 の授業 の うち,社 会認 識 構 造が二 層 に な っ て い るn 事 例 を更 に ミクロ に吟 味 して, どん な 問 い が 組 み込 ま れ て い る かを 抽出 して 整 理 した。 こ の結果 を 表 4に示 す 。(表 4 ) 【 表 4】 二 層 構 造 に す る た め の 問 い ( 手 だ て) 現象 的 因 果 関 係 現 象 的 因 果 関 係 か ら 本質 的 因果 関 係 の 理 解 へ 導 く問 い 本 質 的 因 果 関 係 N(1原 因 結果 過 去or地 域 差 ( 内 容 )原 因 結 果 16 歴 史 現 地 の人 が 食 べ れ な い食 過 去 ヤ ム イモ 畑→ カ カ オ畑 経 済 現 地 の 人 が 食 べ れ な い 食 20 経 済 地 域 発 展 過 去1972 年 に 激増 農 政 地 域 発 展 21 自 然 飢 餓 過 去 独 立 後 の 飢 餓 経 済 飢餓 22 自然 食 文化 地 域 差 日 本 も寒 い が オ ンド ル はな い 。 自 然 食 文 化 23 自然 農 業 の 発 展 地 域 差 フ ラ ンス 革 命 後 に 発 展。 農 業 集 団 農業 の発 展 24消費 量 土 地 利 用 地 域 差 ア メ リカ と 中 米 経 済 コスト土 地 利 用 25 人 口 人 口 支 持力 と し て の 米 地 域 差 タ イ・ ア メ リ カ米 と 他 国米 経 済 コスト 輸出 増 44 自 然 西 日 本 的 要素 地 域 差 西 の要 素 強 歴 史 西 日 本的 要 素 47 材 料 地 域 形 成 過 去 江戸 時 代 当 時 の醤 油 の 保 存 技 術 輸 送 技 術 地 域形 成 53 自 然 地 域 形 成 過 去1876 年 の冷 凍 船 の開 発( 年 表掲 示) 輸 送 技 術 地 域形 成 70人 の 行 為 中 国 か ら 文化 を 輸 入 地 域 差 他 の 事 例と 比 較 技 術 受 容 遣 唐 使 の 派遣 そ の結果, 科学的社 会認識形成を めざす ために は, 現象的因 果関係 の理解か ら本質的 因果関係 の理解へ認 識が二層 構造 にな ってい ることが必要で あるが, その 深化 へ向かう問い は, 地域差 に着目し たり, 過去 の空 間 に戻る問いを 組み込んで地 域性を追求 してい ること が明らか にな った。 例えばNa 23 の授業 は,地 域差 に着 目させ る問 いが ― 44 ―組み
込まれ
た授業である
。この授
業は
,フランス
でパ
ン作
りが発達
した理
由を
,まず
小麦栽培に適
している
という自然条件で説明
した後
,色鉛筆で,生徒に
,特
にパン作
りが集中
して発展
している地域
を色塗
りさせ
て
,パ
リ近郊の農村に集中
していることに
気付かせ
て
(地域
差に着
目)
,その原因
を追求
して,フランス革
命後の
自由農
民層の
増加が
小麦作
りを更に発展
させた
という本質的因果関係の理解にまで認識
を深化させ
て
いる
。また,
No.
20
の
授業は
,過去の空間に戻る問い
が組み
込まれ
た授業である
。この授
業は愛媛のみ
かん
作
りの
原因を暖かい気候
とい
う自然条件と結び
つけた
(現象的因果関係の
理解
)後
,
「1972
年に愛媛のみか
ん作
りが発展
したのはなぜか
」という過
去の
ある時点
に戻る問いをだす
ことで
,当時の農業奨励政策
という
本質的因果関係の理解に認識
を深めている
。
視
点③の
分析か
ら
,授
業設計において,社会認識構
造を
二層に深化させるためには
,
①
「地域差
」に着
目させ
るか
,②
「 ̄
過去」の
ある時点
の空間に戻ることが極め
て有効である
。これ
は,地域
差に着
目す
ることで
,それぞれの
地域の独特の
対応や
技術の創造が追
求され
ることにな
り
,また
,過去の
あ
る時
点の
空間に戻ることで
,その
時代背景の
もとで人
間が困難や制限に対応
しなが
ら
,生活の知恵や技術
を
創造
してきた
ことが明らかになるか
らである
。
この
2つの社会認識深
化の
手だては
,
nで分析
した
社会科学者の思考法に
共通するものが
あり
,社会認識
形成
をめ
ざす授業設計に生かす
ことができる
。
3
授
業設計へのア
プロー
チ
【科
学的社会認識
形成
をめ
ざす食
を主題とする学習
の
アプロー
チ】
科学的社会認識形成
をめ
ざす食
を主題とする学習の
授業設計
を行うためには次の①か
ら④
が満た
され
るこ
とが必要で
ある。
①
食に
関する人類学等の社会
諸科学の
成果を因果関係
の
形で組み
込む。
②
現象的因果関係は
自然環境
との因果関係に着
目して
抽出す
る。
③本
質的因果関係は
,時間軸
を導入
して,匚
地域
差」
に着目
した
り
,
[ ̄
過去]の
空間に戻
り,その地域
や時
代において
どん
な
「制限
」が
あ
り,それ
に対
して人は
どんな適応
をして
「技術
」や匚
生活の
知恵」
を生み出
してきたか
を吟味すれ
ば,歴史的因果関係が抽出でき
る。
④②③が二層構造になるように意図的に組み
込む
。
また
,授業分析の結果か
ら,科学的社会認識形成を
め
ざす食
を主題
とする学習の基本構
造は次の
ようにな
る。
で
上プー
(生活の知恵)
移
動
(流
通
)
ぞ
一
一一 空
地域
形成
間
→
IV
授
業モデル
と今後の
課題
1
授
業モデル
以上の授
業設計理論に基づき
,食を主題とする
学習
によって社会認識形成を図るための概念探究型の授
業
モデル
を3タイ
プ
(モデルabc)
提案する
。7
)
その際
,新
しく中学校社会科に導入
された課題学習
に対応
させて設計
した
。 8
)9
)
また,モデルでは
,初
期社会科や
,現行の生活文化の
地理授業でほ
とんど取
り残され
ていた課題であった問
いの構造
化の問題を解
決する
1つの試み
と
して
,人類学者や歴史学者の概念
装置
を意図的に授
業に組み
込んだ。
〈モデル
一
社会事象の関連を追求する
a〉;
主食の授
業
(人類学の成果の組み
力を育てる
。
込み
)
〈モデルb
一
社会事象の原因と結
〉;
料理
・台所の授業
果の関係
(ミク
を追求す
ロな社会事象)
る
力を育
てる
。
〈モデル
c
〉;
昆布巻の授
業
(食文化と地域形成)
一
社会事象の関連を追求する力を育てる
。
2
今後の課題
モデル
a
b
c
は
,地理学習に時間軸を導入
し中核とな
る本質的な因果関係
を導く問いを抽出できれば
,現場
に適用できる有用性の高いもの
である
。今後の実践で
検証
していきたい
。また
,生活文化教材の授
業を科学
化する
場合
,問いの構造化の
問題は更に検
討され
るべ
き課
題である。
[注及び引用文献]
1)伊東亮三氏は
,初期社会科の知識に学ぶべきもの
が
多いことを示唆
している
。
(26
年版指導要領がめ
ざ
したもの
,残
したもの)
「教
育科学社会科教育」明治
図書Na274 1985.8,pp.27-31)
初期社会科については
従
来論じられ
てきたが問いの
質の面から充分吟味され
ていなかった
。詳しくは,拙文
「食
を主題
とする社
会
科授
業の設計
一
生活文化教材の科学化をめ
ざしてー
」
兵庫教育大学修
士論文1993.12
第
1章参照のこと
。
2)紙面の
枚数の関係
で省略す
る
。食
に関す
る人
類学
・
歴史学等の
動向を整理
し
,ボル
ト等を参考に
,基本概
念
を因果関係の形で整理
して概念表を作成
した
。例
え
ば
,上位の概念
としては次のよ
うに抽出
した
。
〈保存技術〉
:
「穀物は余剰食糧
を生みだ
したので国
家が生まれ
た。」
〈輸送技術〉
:
「保存
技術の
発達が
地域
形成
を促
した
。
」
〈穀物化〉
:
「人々は厳
しい制
限の中で次
々と知恵を
― 45
―
生 み出 して き た ので 厳 し い 自 然 条 件 に 適 応 で き た。 」 丁各 民 族 は 自 分 た ち の 風 土 に 合 い , 人 口 を ま か な え る だ け の食 を 得 る 方 法 を 生 みだ し たO」 〈 食 生 活 の受 容 ・ 創 造 〉 「 人 々 は 食生 活 を 受 容 し, 新 し い 食 文 化 を 創 造 し て き た。 」 〈 階 層 ・ 社 会 集 団 〉 : 「 食 は階 層 ・ 社 会 集 団 形 成 と 因 果 関 係 があ る。 」 〈 土 壌 〉 : 「 土 壌 侵 食 と 文 明 の崩 壊 と 関 連 が あ る。 」 〈 土 壌 〉 : 「 人 間 が 技術 革 新 を 繰 り 返 し て き た こ と が 食 糧 の生 産 を 増 や し た 。 」 等 で あ る 。 詳 し く は, 拙 文 ( 前 掲 論 文l )) 第 2章 を 参 照 の こ と。 3) 角 山 栄 氏 の 『茶 の世 界 史 』 中 公 新 書 の 問 い の構 造 を 分 析 し た 。 資 料 と し て 一 部 を 紹 介 す る 。 角 山 氏 の問 い の構 造 は 時 間 軸 と 空 間 軸 が 巧 み に 駈 使 さ れ て 認 識 の 深 化 が 行 わ れて い る。 詳 し く は 拙 文 ( 前 掲 論 文1)第 2 章 ) を 参 照 の こ と。 【 角 山 栄 氏 の「 茶 の 世 界 史 」 の 問 い の 構 造 】