適応指導教室における心理的支援と教育的支援融合の効果 -10年間の追跡調査から-
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(2) 釧路論集 −北海道教育大学釧路校研究紀要−第46号(平成26年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.46(2014):63-70. 適応指導教室における心理的支援と教育的支援融合の効果 −10年間の追跡調査から− 安 川 禎 亮 北海道教育大学教職大学院(釧路担当). Effects of the Combination between Educational and Psychological Supports in the Adaptation Assistance Center -The Follow-up Survey of 10 yearsSadaaki, YASUKAWA Advanced Teacher Professional Development Programs, Graduate School of Education, Hokkaido University of Education. 要旨 本論文は、心理的支援と教育的支援を融合し、効果を上げてきたA教室卒業生の予後を分析することで、不登校児童生 徒支援のさらなる充実に寄与することを目的とする。不登校状態になった子どもたちに、よりニーズに合った取り組みを 10年間模索してきたA教室では、 復帰率や進学率の上昇など、 支援途上における効果は実証された。 今回の追跡調査により、 適応指導教室において、その支援にかかわる時間についても一定の目安が示されたと考える。また、今後の不登校支援に おける課題も明白となった。. がなされてきた。しかし、その支援の結果である通室者の. Ⅰ はじめに . 追跡調査については、 その歴史の浅さから、 本間ら (1997) 、. 1.目的. 中川ら(1997)、 佐藤ら (2006)があるだけである。 本間らは、. 喫緊の教育課題である不登校に関して、文部科学省. その追跡調査から予後が良好な者が約70%であることを明. (1992)は,「教育委員会が学校以外の場所や学校の余裕. らかにした。また、予後良好を規定する最大の要因が現在. 教室などにおいて,児童生徒の在籍校と連携をとりつつ,. の友人との適応的な関係であり、この友人適応に最も影響. 個別カウンセリング,集団活動,教科活動などを行うとこ. を与えているのが、適応指導教室での活動経験であること. ろ」と定義した適応指導教室の整備を推進している。しか. を実証した。. し,その実態は,役割や望ましいあり方について明確にさ. 本論文は、心理的支援と教育的支援を融合し、効果を上. れてこなかったこともあり,地域の実情に応じて様々なも. げてきたA教室卒業生の予後を分析することで、不登校児. のとなっている。したがって、文部科学省(2003)は「未. 童生徒支援のさらなる充実に寄与することを目的とする。. だ適応指導教室の整備状況は十分なものといえず、今後 いっそう質、量両面の充実が望まれる」と述べている。. 2.A教室. 本研究対象であるA市教育委員会適応指導教室(以下A. A教室は、小学部と中学部があり、6名の指導員が指導. 教室)は、1994年に設立された。2001年度までは、臨床心. に当たっている。また、臨床心理士による個別面接も行っ. 理士による個別面接のみで対応していたが、多くの事例を. ている。多くの場合,個別のカウンセリングから支援を始. 見るのに支障がでてきた。そのため、2001年秋より、教育. め,個人のエネルギーの回復状況を判断して,訪問指導を. 的な援助を中心とする集団適応指導教室を併設した。ま. 適宜入れ、教育的支援である集団活動に移行し,学校復帰. た、対象を学校不適応に広げ、訪問指導も導入した。臨床. を目指している(表1・2・参照)。. 心理士による心理的援助と元教員及び教員志望の若者によ る教育的援助の融合を試みたのである。結果、在籍中の支 援において、効果は明らかになった(安川、 2014)。 適応指導教室における支援については、過去多くの研究. − 63 −.
(3) 安 川 禎 亮 Ⅱ 対象と方法. <表1 スタッフと役割> 指導主事. 学校との調整及び適 全体のマネージメント 応指導教室の運営 コーディネート 事例の管理及び運営 児童生徒、保護者へ の面接 教員へのコンサル テーション. 心理相談員 心理的支援. 適応指導教室での学 習を含めた集団適応 指導 ひきこもり傾向や非 行傾向の児童生徒へ の訪問. 集団適応指 導教室 教育的支援 指導員. 1.対象 心理的支援と教育的支援の融合を試みた2002年度中学部 卒業生から2010年度中学部卒業生の75名を対象とする。 2.方法 「2011年度卒業生を囲む会」に出席した卒業生にはイン タビューを実施した。「卒業生を囲む会」に欠席したが、 調査期間中に来室した者にも同様のインタビューを行っ た。 それ以外の卒業生に関しては、 電話によるインタビュー を実施した。 調査後、高校中退経験のある卒業生に関して、当時の指 導記録をもとに、その原因を分析する(事例による検討) 。. <表2 生徒への対応の流れ> 3.インタビュー項目. 学校 (管理職・教育相談担当者). ①現在の状況 ②卒業後の進路変更. ↓ 4.調査期間. かたらい教室 (指導主事). 2011年8月∼2012年2月. ↓ 個別面接 集団適応指導教室 ←→ ←→ (心理相談員) (指導員). 訪問指導 (指導員). Ⅲ 結果 直接会って近況を聞けた者は44名である。その内訳は、. ↓. 2011年度「卒業生を囲む会」に出席した者33名と、調査期. 学校 (管理職・教育相談担当者). 間中にA教室を訪れた者11名。電話によるインタビュー受 けた者26名であった。残りの5名に関しては、転居により 所在不明であった。. 年度 2002 2003. 2004. 2005. 性別 ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♂ ♀ ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀. 進 路 公立・定時 公立・定時 公立・全日 私立・全日 私立・全日 私立・全日 私立・全日 高等専修 私立・全日 私立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・全日 公立・全日. <表3−1 A教室卒業生の動向> 高校中退 大学進学 専門学校進学 就労 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○. ○. − 64 −. 近況 高校卒業後就労 高校卒業後就労 高校卒業後就労 大学卒業後就労 短大卒業後就労 高校中退後病気療養中 短大卒業後就労 短大卒業後就労 大学生 専門学校卒業後就労 転居のため連絡つかず 大学生 大学生 高校卒業後就労 高校卒業後就労 高校卒業後就労 高校中退後病気療養中 大学生 高校卒業後就労 短大卒業後就労.
(4) 適応指導教室における心理的支援と教育的支援融合の効果 <表3−2 A教室卒業生の動向> 年度 2006. 2007. 2008. 2009. 2010. 性別 ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♀ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♂ ♂ ♀ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♂. 進 路 高等専修 高等専修 公立・定時 その他 高等専修 私立・全日 高等専修 私立・全日 高等専修 私立・全日 私立・全日 公立・全日 公立・全日 高等専修 その他 私立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 その他 高等専修 公立・定時 高等専修 公立・全日 公立・定時 私立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 公立・全日 私立・全日 公立・通信 公立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・定時 私立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・全日 私立・全日 公立・通信 高等専修 公立・全日 公立・全日 私立・全日 私立・全日 公立・全日 公立・全日. 高校中退 大学進学 専門学校進学 ○ ○ ○. 就労. ○. ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○. ○ ○ ○. ○. ○ ○. ○ ○ ○. ○. ○ ○. ○. ○ ○ ○. ○. ○. ○. ○. ○. − 65 −. 近況 専門学校生 大学生 専門学校生 在宅 専門学校生 転居のため連絡つかず 転居のため連絡つかず 大学生 高等専修卒業後就労 大学生 大学生 大学生 高校中退後病気療養中 専門学校生 転居のため連絡つかず 高校中退後単位制から大学 大学生 高校卒業後就労 転居のため連絡つかず 大学生 高校卒業後就労 高校卒業後就労 高校卒業後就労 高校生 高校生 中学卒業後就労 高校生 高校中退後就労 高校生 高校生 高校中退後就労 高校中退後単位制に 高校中退後単位制に 高校生 高校生 高校生 高校中退後単位制に 高校生 高校生 高校中退後単位制に 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生 高等専修中退後就労 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生 高校生.
(5) 安 川 禎 亮 と考えられる。学校と様々な連携を行ってはいるが、内申. 1.中学卒業後の進路. 書が大きなウエイト占める公立高校進学には、不利である ことは否めない。 . <表4 進路> 校 種. 人 数. 公立・全日. 27. 公立・定時. 6. 公立・通信. 2. 私立・全日. 27. 校 種. 人 数. 高等専修校. 10. 公立・全日. 3. その他(在宅・就職). 3. 公立・定時. 2. 私立・全日. 5. 高等専修校. 1. 2.高校中退 <表5 中退の校種>. 高校へは、75名中72名が進学した。進学率は96%になる。 内申書の点で不利になる適応指導教室において、27名が公 立全日に進学したことは、在籍校の理解と協力があったか. 高校進学者72名の中で11名が中退する。その11名すべて. らである。以下の取り組みを行い、学校と協力し、進路保. が1年時に中退している。高校中退率は15%である。その. 障につなげていった。. 内の5名が単位制の高校に進路変更した。. A教室では、不登校の状態を脱するために、生徒の活動 の状態を「学校復帰途上の段階」まで持っていき、学校を. 3.高校卒業後の進路. 体験活動の場とし、学校と連携を取りながら生徒の学校で の活動が出来るように支援することにある。学校を舞台に. <表6 高校卒業後の進路>. した活動支援が不登校支援として大切であると思う。そ. 校 種. 人 数. の時、指導員は生徒の状況を見守りながら、今何が出来て. 4年生大学. 13. 何が難しいかを見極めていく。そして、その時の生徒理解. 短期大学. 4. を学校で担任に伝えていく。それには日々のA教室での活. 専門学校. 9. 動内容が大きく関わってくる。ほぼ毎日行っている「個人 での学習」「指導員との会話・相談」などの個別的な関わ. 短大を含めた大学へは38名中(38という数は大学進学年. りを基本にしながら、集団での調理体験やスポーツ体験を. 齢者から転居による消息不明者数を引いた値) 、17名が進. 生徒たちに運営を任せながら実施してきた。その指導員と. 学し、進学率は44.7%である。専門学校への進学率は、. の信頼関係を基盤にして学校での活動に参加していく。適. 13.2%で、併せて約6割の子どもたちが高校卒業後、上級. 応指導教室以外ではまだ一人で動けないので学校へは最初. の学校に進学している。. は指導員も付き添いで参加していく。たとえば定期テスト 参加の場合受ける科目と、受ける場所なども事細かに学校. 4.就労. 側と打ち合わせをする。点数はともかくとりあえずテスト. 就労についてであるが、就労年齢者数24名中、20名が就. を受けることが出来たという体験はその後に大きな自信と. 労しており、就労率は83%である。これはアルバイト等の. なって行く。最初の頃テスト参加はできなくても学期に中. 非正規労働も含んでいる。4名が未就労であるが、3名の. 間テストと期末テストは何回かチャンスはあるので実現し. 病気療養中の者を含んでいる。非常に高い就労率である. やすいイベントではある。毎回参加できるようになると結. が、これは、A教室では「子ども・若者支援事業」にも取. 果的に特定の体験の連続性、継続性を保つことになる。不. り組んでいるからである。卒業後も色々なことを相談しに. 登校の生徒にとっては学校生活に絡んだ日常生活の改善が. やって来る卒業生もおり、彼らとつながることにより、就. 最終的な目標になっている。われわれの目的は中学校在学. 労支援に取り組むことができると考えている。. 中に学校復帰を目指してはいるが、学校復帰途上の状態を 保ちながら出来るだけたくさんの体験と、多くのスタッフ. Ⅳ 事例による検討. や仲間たちとの人間関係を持てるようにするのが一番の狙 いである。. 終結後に本人および保護者から文章化の許諾は得ている. また中学校3年生にとって、学校復帰にチャレンジしな. が、プライバシー保護の観点から、事例の本質を損なわな. がら、あるいは自分への自信や対人関係への自信を獲得し. い程度に修正を加えた。. ながら適応指導教室に通い続けることは、高校進学という 目標につながっていることをも意味するものである。. 1.事例. しかし、高等専修校(不登校経験者用のカリキュラムが. 中学校3年生女子C子である。成績優秀で、小学校では. 組まれている)や、私立高校に進学する数は、やはり多い. 常にトップであった。音楽関係のクラブに所属し、6年生. − 66 −.
(6) 適応指導教室における心理的支援と教育的支援融合の効果 取り去ってきたようであった。. では、代表を任される。. 筆者は祖母の愛情については、「娘さんとお孫さんを誰 2.家族. にも負けないくらい愛されていたのですね」と、受容的な. 母、妹、祖父母の4人。両親は、C子が小学校2年生の. 態度で話を聞いた。ただ、 「その愛情のかけ方が少し間違っ. 時に離婚した。母親は、祖父の会社に経理担当として働い. ており、C子にとっては、成長を邪魔するものではなかっ. ている。祖父は、会社を経営し、非常にまじめである。祖. たのか」ということに気付くようなカウンセリングを続け. 母は、専業主婦で、娘の代わりに孫の世話を精一杯やって. た。また、C子の年齢にとって、母親の存在の意味を少し. いる。. ずつ、話していった。 C子の場合、何ら自己決定してこなかった自分、すべて. 3 通室までの経過(X年−1・C子中学校2年). 祖母の言うとおりにしてきた自分に対して大きな疑問と不. C子は中学校2年生の6月半ばから、体調面の不調を訴え. 安を持ったのだと考えられる。不安と疑問から自信も喪失. るようになり、学校を休みがちになった。そして、2学期. したC子は外の世界、学校へは行けない。そして、学校と. からは全く登校できなくなった。学校や保護者が連携し、. いう外の世界から身を守るために、家にこもった。 さらに、. 様々な取り組みをしたが、C子の状態は良くならなかっ. 仕事優先の母親に対して、 寂しさと不満を抱いていたと考. た。年が明けた1月半ば、学校の強い勧めでA教室にカウ. えられた。したがって、次回から母親が面接に来るように. ンセリングのため祖母が来室した。この時の祖母は、C子. 祖母に依頼した。祖母は渋々であるが、了承した。ただ、. が学校を休むようになってからの苦労を矢継ぎ早に話した. 仕事が忙しいから、隔週でお願いするとのことであった。. だけで、次回面接の予約もせずに帰った。. 〇第2期 母親の問題(X年6月∼7月#5∼#8). その後、C子が3年生に進級した4月半ば、C子の担任. 初回面接に、母親はあまり気乗りしない様子でやって来. から連絡があった。小学校6年生の妹も登校渋りが見ら. た。キャリアウーマンとして、誰にも負けずに仕事をこな. れ、家族がかなり焦っているとのことで、前回と違い、強. す様子がうかがえた。. くカウンセリングを希望しているとのことであった。祖. 「離婚をしてから、男性には負けたくないと思い、懸命. 母と母親に対して筆者によるカウンセリングがスタートし. に仕事をしてきた。私が一生懸命働くことにより、子ども. た。. たちは生活できている。なのに、 なぜ二人とも不登校になっ てしまったのか。祖母も懸命に育ててくれているのに。子. 4 支援の方針. どもたちは、何もわかっていない。ただの怠けとしか思え. ひきこもりの子どもへの母親面接における治療研究で、. ない。本当に情けない」と、矢継ぎ早に語った。. 林(2005)は、親面接の治療的アプローチには、親自身あ. 子どもが不登校になった際、多くの親が、「この子は情. るいは子ども自身に焦点を当てるだけではなく、親子相互. けない。どうしようもない」ということを語る。不登校と. 作用の関係性に焦点を当てることの重要性を指摘してい. いう状態がすべてであり、どこにも良いところはないと思. る。本ケースにおいても、親子の相互関係改善によるC子. いがちである。そんな時筆者は「生まれたとき、どんな子. の行動変容を目指した。. どもに育ってほしいと思いましたか」と問うことにしてい る。全員、「丈夫な子、優しい子」と答える。 「お子さんは. 5.母親と祖母への心理的支援. 優しくありませんか」と返すと、 「優しいんです、この子」. C子の祖母に対して週に1回(#1∼#4) 、母親に対し. と慈しむような表情で答える。「現在、学校に行っていな. ては隔週1回(#5∼#8) 、合計8回のカウンセリングを. いけど、優しい子どもに育って良かったですね。すばらし. 続けた。. いことです」. 〇第1期 家族の問題(X年5月#1∼#4). このようなやりとりから、子どもの存在を再認識し、関. 母親が面接に来ると思っていたが、 「娘は仕事で忙しい。. わり方が変化していく。人は、誰でも自分の悪いところは. 離婚をしてから私がすべて育てている」と今回も祖母が. わかっている。そこを攻め続けられたら、決して起き上が. やって来た。祖母によると、娘(C子の母親)は、大変優. ることは出来ないと考える。. 秀で、家庭にこもらせるのはもったいない。また、娘も仕. 子どもの良いところを再認識することをテーマにカウン. 事を生きがいとしているとのことであった。祖母は初めて. セリングを続けた。また、 母親は、 仕事をすることにより、. の孫であるC子に精一杯愛情を注いだ。怪我をさせないよ. 父親の役割も演じようとしていた自分に気づいた。それ. うに、病気にならないように大変気遣いながら育てた。ま. は、意味のあることであるが、祖母がいるからということ. た、それ以上にかわいい娘が苦しむ姿を見ることが忍びな. で、決して今まで娘たちを優しく抱きしめることはしてこ. かった。C子は母親同様に大変優秀であったので、勉強面. なかったようであった。思春期を迎えても「お母さんは仕. や運動面で祖母の思い通りの成績を残した。祖母にとって. 事が忙しいの。おばあちゃんに聞いてもらいなさい」と、. C子は誇りであった。そのため、C子の苦しむ姿は耐えら. 冷たくあしらっていたそうであった。. れないことであり、すべての障害や困難を無意識のうちに. 「お仕事が大切なのは、よくわかります。でも、お母さ. − 67 −.
(7) 安 川 禎 亮 んは、あなた一人ですよ。たまには、抱きしめてあげてく. こられた」との印象で通っていた。表情も硬く、青ざめて. ださい」と筆者は何度か話した。徐々にではあるが、母親. いた。しかし、訪問指導を行った指導員との関係を発展さ. の役割について、理解を示し、子どもの気持ちや存在を認. せ、他の指導員とも話せるようになると、ここが自分の居. めることをC子に行ってくれるようになった。母親の態度. 場所であると認識できたようで、表情に明るさが出てき. の変化により、C子の表情が柔らかくなり、A教室に通う. た。また、C子がA教室に通うようになったことで、妹の. 気持ちが少し出てきたとのことであったので、訪問指導を. 登校しぶりも収まり、順調であると語った。. 導入することにした。. 〇 10月∼12月(安定の時期). ここまでは、心理的な支援である。ここで、教育的支援. 指導員との交流により、大人への信頼を取り戻したC子. である集団適応指導教室にC子を通室させるために、週1. は、同年代の子どもとも明るい表情で話せるようになって. 回の訪問指導を導入した。. きた。ただ、家に閉じこもっていた時期が長いためか、か なり気を遣いながら会話しているように思われた。. 6.訪問指導による支援. 少しでも相手が暗い顔をすると、「ごめん」と声をかけ. 訪問指導導入時のC子は、表情は柔らかくなったが、学. た。そして、後で「私が悪いことをしたからに違いない」. 校の話題をすると拒否反応を示した。母親や祖母となら外. と自分を責めた。小さい頃から、「頑張っている母親に心. 出することはできたが、 他人と会うことは極力避けていた。. 配かけてはいけない」と気を遣いながら生きてきたことが. そこで、無理のない訪問を心がけた。何ヶ月も外との接. うかがえた。. 触を断っているため、無理な訪問は命取りになる。母親へ. 過剰適応であることは、まちがいなかった。これでは、. のカウンセリングで、家での状態は落ち着きを取り戻しつ. いつかつぶれてしまう。筆者は、C子にもカウンセリング. つあったが、慎重に行くべくであると考えていた。訪問指. を必要と思い、女性の心理相談員にカウンセリングを依頼. 導をしたのは、集団適応指導員の20代前半の女性指導員で. した。しかし、カウンセリングにおいても過剰適応し、無. ある。常に筆者と連絡を取り、C子の心理状態を考えなが. 理をして、精一杯の笑顔で返答していたようである。. ら支援した。. ○ X年1月∼3月 (部分登校と進路決定の時期). 訪問面接の構造であるが、週1回、どんなに長くても50. 過剰適応の状態は、気になったが、本来の頑張りやさん. 分。場所に関しては柔軟性を持たせ、C子のその時の状態. の性格が居場所を得たことにより、また顔を出してきたよ. により、玄関、自室、外と設定した。以下は、その指導員. うで、いろんなことに取り組みすぎて体調を壊すことも. の訪問記録である。. あった。しかし、毎日楽しそうに生活していた。何事にも. 〇 初回(X年8月). 全力で取り組めるようになってきた。疲れが出ないかとこ. 普通は、訪問指導を導入してもその子と会うまでに1ヵ. ちらが心配するほど頑張っていた。. 月かかることもある。C子の場合は、祖母の協力もあり、. 3学期になり、さらに学習にも頑張っていた。学校に対. 1回目で会うことができた。「近くまで来たから」という. しては、自分で「行く」と決めれば必ず行かなければなら. 理由で訪問をした。祖母が「先生、来られたで。どうする. ないと言う気持ちが強いように思われた。自己決定するこ. の?」と声をかけると、玄関まで出てきて、 「すみません、. との大切さを認識したと考えると、成長したことを喜ばな. わざわざ」と言った。本人の意思を確認して、部屋に上が. ければなかったのだが、逆に自分自身にプレッシャーをか. り話をした。かなり気を遣う子だとの印象を持った。. けているように思われた。しかし、高校入試もあるので、. 〇 2回. 無理のない週1回の部分登校を始めた。無理に押しつける. 玄関まで出てきたが、「しんどい」ということなので、. ことはせず、本人の意思を尊重し、本人の判断に任せるこ. 無理せずそのまま帰った。. とにした。結果、高校入試も無事受験することが出来、卒. 〇 3回. 業式にも参加できた。これはC子にとって大きな自信に. 私の問いかけに対しては、かなりしっかりとした言葉. なったと考えられる。. で、しかも長文で返す。夜には仕事が終わった母親と妹の. 〇 X年+1 8月(高校入学と中退). 3人で散歩を行っているとのことであった。母親面接での. 夢と希望を抱いて、私立の全日制に入学した。家族みん. 親としての気づきや確認事項が家庭内で実施され、家族間. なで話し、C子自身が決めた高校であった。出身中学校の. の空気が変化していると感じた。. 生徒があまり行かない、少し離れた高校であった。5月頃 までは、元気に通っていたが、徐々に遅刻が増え、欠席す. 7.集団適応指導教室での支援. ることが多くなった。そして、2学期には全く登校しなく. 3回の訪問指導の後、母親がC子をA教室に連れてき. なった。この高校は、附属中学校を併設しており、半数以. た。8月の下旬だった。訪問指導をして約3週間、祖母と. 上が中学校から上がってくる生徒であった。その中で、C. 母親の面接を開始して、約4ヶ月後のことであった。. 子は懸命に友達を作ろうと頑張ったが、「最初から固定さ. 〇X年8月下旬∼9月末(不安定な時期). れた友人関係が多く、辛かった」と語った。 9月下旬に. 母親に連れられてきたC子は、最初は「無理矢理連れて. 母親とA教室に訪ねてきた。C子は「母親のように仕事に. − 68 −.
(8) 適応指導教室における心理的支援と教育的支援融合の効果 就きたいので、単位制で頑張る」と語った。. この教室を自分の居場所と認知し、指導員や生徒との人. 現在、単位制を無事卒業し、大学の経済学部に通ってい. 間関係の中で、自信を取り戻し、前向きに生きていける基. る。. 盤を築き、外の世界(学校)に足を踏み出す。 A教室では、教育的支援と心理的支援の役割を最初から. Ⅴ 考察. 意識して分け、かつ並行して実践したので、指導員も心理. . 相談員も自分の役割やそれぞれの作業課題ははっきりして. 1.学校復帰への心的過程と支援. おり混乱はなかった。心理相談員は彼らの内的世界を理解. . し、本人らしさを大切にし自己治癒力の回復を目指す。一 <表7 心理的な回復過程>. 方指導員は登校や受験など現実的な課題や現実適応のため. ①警戒の時期→②大人(カウンセラー、指導員)への信 頼回復の時期→③自尊心の芽生えの時期→④振り返りの 時期→⑤同年代との交流の時期→⑥在籍校授業・行事へ のへ参加の時期→⑦学校復帰. の支援を中心に関わる。また学校は指導主事からの依頼に 応じて、不登校児童生徒が再登校する時、学校の中に居場 所を用意し、進路指導など丁寧に関わった。一つの事例に 学校を含めて多様な支援をしていったことが本人の学校復 帰や志望校合格につながったと考えられる。. A教室は、2001年度秋より、心理的支援と教育的支援の. . 融合を目指し、支援を行ってきた。表7は、学校復帰まで. 2.追跡調査から見えた課題. の心的な回復過程を示している。Ⅳ事例による検討でC子. 中学卒業後の進路を確実に保障できたことは、非常に喜. の支援を記述したが、通常、以下の支援を行っている。 . ばしいことである。また、高校卒業後の進路も大学を含め. 不登校の子どもへの母親面接における治療研究で、林. 上級の教育機関に6割の者が進学していたこと、就労率が. (2005)は、「親面接の治療的アプローチには、親自身あ. 8割を超えていることは、A教室に自信と喜びを与えた。. るいは子ども自身に焦点を当てるだけではなく、親子相互. これから関わる子どもや保護者に、決して悲観する必要の. 作用の関係性に焦点を当てること」の重要性を指摘してい. ないことを伝えることができる。. る。A教室の心理的支援においても、親子の相互関係の改. しかし、課題も出てきた。中退率の高さである。全体で. 善により児童生徒の行動変容を目指している。. は、16.7%であるが、2008年度が30%、2009年度が20%と. 保護者への面接を通して、親としての傷つきを癒し、親. 他年度に比べ高い。. としての自信を取り戻してもらうよう支援をしている。多. 表7の回復状態では、2008年度、2009年度の中退した生. くの場合、学校や担任批判から始まるが、カウンセラーの. 徒を見てみると、在籍期間が平均6ヶ月で回復状態では③. 受容的共感的態度から、徐々にではあるが、問題は家族関. ④⑤であった。在籍期間が短かったために、十分な回復過. 係や愛情のかけ方にあったことに気づいていく。結果、保. 程を経なかったことが、その要因として考えることが出来. 護者が親として自信を持ち、親の役割をとれるようになる. る。. と、家庭での環境が改善され、児童生徒の精神が安定する. 不登校状態になった子どもたちに、よりニーズに合った. と考える。. 取り組みを10年間模索してきた。復帰率や進学率の上昇な. この状態になった時に、生徒を教育的支援である集団適. ど、支援途上における効果は上がった。また、今回の追跡. 応指導に移行する。東(2001)は、 「一般的にひきこもり. 調査により、適応指導教室において、その支援にかかわる. がちな不登校生は他者に対する不安感・不信感が強く、彼. 時間についても一定の目安が示されたと考える。. らに必要なのは家族以外の他者と信頼関係を結ぶことであ. 4名の者が未就労であり、そのうち3名が精神的な疾患. る」と述べている。A教室では、子どもが、安全感、信頼. を抱えている。「子ども・若者支援事業」での卒業後のつ. 感、安心感を得ることが出来る新たな人間関係を体験する. ながりが、 今後益々重要になってくるものと考える。 また、. ことを第1の目標にしている。基盤となる安心感や信頼感. 医療機関や保健所等の関係機関との連携にも力を入れる必. 獲得のために、大人と居ても穏やかで安心でき、心地よい. 要性を痛感する。 . 身体感覚に包まれることが最も重要であると考える。した がって、一人のキーパーソンとなる指導員との親密な二者. 4.事例検討からの課題. 関係によって、愛着を再形成することが入室初期において. 事例検討で示したC子は、表7の回復過程では、最終の. の目標になる。. 段階まで行き、 そして、 進学していった。A教室において、. 家庭での安定を得、指導員との新たな人間関係によりエ. 精神的にも回復し、自立した生活が送れるものと考えてい. ネルギーを回復するが、いきなり学校へは行くことはでき. た。しかし、高校1年時で中退をしている。同じような事. ない。そこには学習に対する不安と同世代の大集団にはま. 例が、後2名いた。. だ入ることができない心理状態がある。集団適応指導は、. 3名の指導記録を読み返してみると、一つの共通した特. 学習面の保障とともに小集団による対人関係の再構築とい. 徴が見られた。それは、過剰適応であった。C子がそうで. う側面が大切である。. あったように、常に周囲のことを気遣い、よい子を演じよ. − 69 −.
(9) 安 川 禎 亮 うと頑張る姿が浮かび上がってきた。カウンセリングで支 えながら、集団適応指導で対人関係の取り方も十分に支援 できたと考えていたが、ここに、A教室の今後の課題があ ると考える。 青田(2008)は、不登校になる子どもの特徴を「いい子 すぎる、感受性が強すぎる、優しすぎる」と、述べている。 A教室に在籍している子どもたちもそうである。ただ、C 子を含む3名は、その傾向が強かった。青田が言う「すぎ る」を取り除くために心理的支援と教育的支援の融合を目 指した。しかし、事例検討から考察するに不十分であった と言わざるを得ない。 今後、さらに心理・教育両面から、この課題を克服する 支援方法を探求する必要がある。 引用参考文献 1)文部科学省:登校拒否問題についてー児童生徒の「心 の居場所」づくりを目指してー.学校不適応対策調査研究 協力者会議,1992. 2)文部科学省:今後の不登校への対応のあり方.不登校 問題に関する調査協力者会議,2003. 3)安川禎亮(2014) :適応指導教室における効果的な支 援について.北海道教育大学研究紀要,第64巻第2号, 17-33 4)中川厚子・森井ひろみ・鶴田桜子(1997) :適応指導 教室の機能に関する研究.カウンセリング研究,Vol30, 255-265 5)本間友巳・中川美穂子(1997) :不登校児童生徒の予 後とその規定要因.カウンセリング研究,Vol30,142-150 6)佐藤則行・青木真理(2006) :適応指導教室における 支援のあり方.福島大学総合教育研究センター紀要,創刊 号,25-30 7)林知代(2005) :ひきこもりの息子を持つ母親との心 理療法過程.心理臨床学研究. 8)東友幸(2001) :引きこもりがちな不登校生徒に対す るメンタルフレンドによるアプローチ.心理臨床学研究. 9)青田進(2008) :私が不登校になった理由,大阪書籍.. − 70 −.
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