道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第44号(平成24年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.44(2012):49-58. 道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用 木 幡 亜加里・池 田 保 夫 北海道教育大学釧路校地学研究室. Study of teaching materials on tsunami and utilization to education of disaster prevention: a case study of eastern Hokkaido, Japan Akari KOBATA and Yasuo IKEDA Department of Earth Sciences, Hokkaido University of Education, Kushiro Campus. 要 旨 2011年の東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波は、全国に地震・津波に関する防災の見直しをせまることになった。釧 路市を含む道東太平洋岸地域も津波堆積物等の研究から、約500年周期で巨大津波が襲来していることが指摘されている。 前回の巨大津波襲来が17世紀、それから350年ほど経っているため、近い将来巨大津波が再来する恐れがある。本研究は、 津波に関する教材研究として、音別町馬主来沼の剥ぎ取り地層標本の作成と他地域(霧多布湿原と根室市南部沼の地層標 本)との対比、釧路市の津波浸水域の推定、津波実験装置の製作を行い、これらの防災教育への活用を考察した。この結 果、これらは、誰もが、いつでも、どこでも実験や観察ができるため、日常の授業の中で持続的に防災教育を行なうこと が可能であり、低頻度大規模災害に対するリスクの認知と理解がより進むことが期待される。. 1.はじめに. いたことが津波堆積物の解析からわかってきた(例えば七. 2011年3月11日、14時46分、太平洋三陸沖を震源とする. 山ほか、2002; Nanayama et al., 2003) 。前回の巨大津. マグニチュード(M)9の巨大地震とそれに伴って発生した. 波は約350年前の17世紀に起きていることから、釧路市を. 巨大津波により大規模地震災害が引き起こされた。今回の. はじめ道東の太平洋岸域一帯が近い将来、巨大津波に襲わ. 大地震は、日本海溝に沿った三陸沖から茨城沖までの南北. れることが予想されている。. 450kmのプレート沈み込み境界が同時に破壊されて震源断. 東北地方太平洋沖地震以降、国および都道府県の行政機. 層面が最大30mほどずれておきた連動型地震であった(気. 関で津波想定の大幅な見直しが始められている(例えば、. 象庁報道発表資料28報, 2011a) 。地震発生から1年、警察. 内閣府, 2012; 藤沢市, 2012)。しかし、津波の想定域の. 庁のまとめで2012年3月10 日現在、死者は15,854人、行方. 見直しは示されていても、個々はどのように行動すべきか. 不明者もいまだ3,155人の未曾有の自然災害となった。気. については提示されていない。課題は、個々の防災意識を. 象庁は、この地震を2011年東北地方太平洋沖地震と命名し. どのように高めるのかが問われているといえる。このこ. た。さらに、この地震によって、懸念されていた「原発震. とから、著者らは津波に関して、防災教育という観点から. 災」が、福島で発生してしまった。気象庁(2011b)の平. 見直しの必要性を感じた。この大震災以前の2010年に釜石. 成23年3月地震・火山月報(防災編)によれば、岩手県大. 市では防災教育支援推進プログラムの一環として「津波防. 船渡市白浜漁港で津波の高さ16.7mを記録し、この釧路市. 災教育のための手引き」が発刊されている(釜石市教育委. でも、東港区副港で2.8mが記録された。釧路市では、こ. 員会ほか, 2010) 。この手引書は学年別・教育目的別津波. の津波によって、住家の床上浸水68戸、床下浸水150戸の. 防災教育カリキュラムが組まれていて充実した内容になっ. 浸水被害を受けた(釧路市, 2011a) 。またこの津波は、新. ている。また今回の大震災後の防災教育の見直しとして、. 釧路川で、河口から約11km上流まで遡上したことがわかっ. 「身を守るためには、自分で考える力を育てる」(東日本. た(北海道開発局, 2011) 。. 大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議,. 東北地方太平洋沖地震と同様の連動型地震は、過去、千. 2011)という指摘がなされ、朝日新聞が全国の教育委員会. 島海溝南部に沿った複数の震源域で発生し、今回の大震災. に対して行ったアンケート調査(朝日新聞, 2011)でも自. と同規模の巨大津波が北海道太平洋岸の十勝から根室まで. ら考える力を重視する方向性がみられる。著者らは、こう. の千島海溝沿岸地域を400-500年周期で何度も襲ってきて. した観点・視点を育てるためには、防災教育の実践を普段. - 49 -.
(3) 木 幡 亜加里・池 田 保 夫 の学習の中で持続的に遂行していくことが重要であると考. 世紀に、Ts4は、13世紀に堆積したものとされている。. える。そのため、津波の教材研究を進めていく上で、誰も. 一般に、現地で湿地帯の下の地層をみる場合、検土杖(産. が、いつでも、どんな場所でも簡単に行えるものは何かと. 業技術総合研究所の吉川秀樹氏作成)を地中に突き刺し引. いうことを考えることにした。こうしたことを踏まえて、. き抜くことで、図2のような柱状試料が得られる。ここで. 新たな防災教育カリキュラムを道東地域でも構築していく. は、Ta-a、Ko-c2、Ta-b、Ts3が確認される(図2)。こう. 一里塚として、釧路市周辺の津波堆積物の調査、釧路市で. した試料は現地で自分の目で地層を観察し、海岸から陸の. の巨大津波を想定した浸水域の推定、津波実験装置の製作. 方に向かって複数本試料を得ることで地層の対比などの実. を行い、これらを津波に関する防災教育にどう活用するの. 習を行うにはよい手段であるが、学校の授業の中では、時. か考察する。なお、本報告は、木幡(2012)の卒業論文を. 間的問題もあり、なかなか本物の地層に触れる機会が少な. 基礎に、若干の修正・改善を加えたものである。. いのが現状である。. 2.津波に関する教材研究 津波の教材研究を進めていくうえで、実際に見て、確認 して、試してみるという視点から「自分で考える力」の基 礎を築くことを目指した。具体的には、1)大地の下にあ る津波の記録をみつけ地層標本を作製し、津波堆積物の時 間的空間的拡がりを確認する。2)過去の巨大津波の記録 から釧路市街地の津波の浸水域を確認し、さらに釧路市で 配布されている500年間隔地震津波ハザードマップ(釧路 市, 2011b) と比較してみる。 3) 津波の本質を知るために、 図1 馬主来沼,霧多布湿原,南部沼の位置. 教卓の上でも実験できるような簡単な津波の実験装置を作 り、津波を可視化することを試みる。 2-1 大地の下の津波の記録を見る 道東には、釧路湿原や霧多布湿原など大小さまざまな湿 地帯があり、これらは海との深い関わりの中で独自の景観 をつくりだし、多くの動植物が生態系を営んでいる。その ため、多くの観光客がこうした湿原を訪れるともに学校教 育の実習の場にもなっている。ただ、多くの人は、湿原. 図2 馬主来沼において検土杖で採集した試料. の表層部に注目するものの、数十センチ下の地下に注意を 注ぐ人は多くない。例えば、霧多布湿原の地下には1960年 のチリ地震津波や、1952年十勝沖地震津波、そして1843年 天保津波の痕跡、17世紀の巨大津波の痕跡、さらに古い時. 2-1-1 地層標本の作製. 代を示す深いところにも津波堆積物が存在し、過去4000. 学校の教室で、実際の地層標本に触れることができれ. 年間から5000年くらいの間に少なくとも10 枚の巨大津波. ば、誰もが、いつでも、どこでもみることができるだろう。. の痕跡が発見されている(七山ほか, 2000a; 七山ほか,. その一つの方法として剥ぎ取り法による地層標本の作成が. 2000b) 。. ある。今回、馬主来沼において、産業技術総合研究所の七. 本論では、釧路市の西方、白糠町と音別町との境界に位. 山 太博士と重野聖之氏の指導、協力のもと事前に機械で. 置する馬主来沼 (図1) で津波の地層記録を見る機会があっ. 掘削されて現れた地層断面(図3)から地層標本を作製す. たので、地層標本の教材作成を行った。馬主来沼では、七. る機会を得た。図3の地層断面は、北緯42°55′26.4” 、東. 山ほか(2001)によって、地表下10~80cmにTa-a(樽前山. 経144°00′12.0”に位置し、七山ほか(2001)によって確認. 起 源:1739AD)、Ko-c2( 駒 ヶ 岳:1694AD) 、Ta-b( 樽. されている広域テフラと津波堆積物(Ts1またはTs2を除. 前山起源:1667AD) 、B-Tm(白頭山起源:約9世紀)等. く)がみられる。なお、Ts5については、同定はできなかっ. の広域テフラが確認され、これらの広域テフラを鍵層とし. たが、ここでは暫定としておく。地層標本の作製は、図3. て馬主来沼地域の津波堆積物の層序を総括すると,Ta-a. の地層断面をさらに平坦にするため、スコップでさらに削. の上位に1枚の津波堆積物(Ts1:1960年のチリ地震津波. り、凝固剤(Hycel SAC-100)をかけ(図4) 、布を貼り. 堆積物もしくはTs2:1952年の十勝沖地震津波堆積物)が,. 付け(図5)、薬品が固まるまで約1時間放置し、その後. Ta-bとB-Tmの間に2枚の巨大津波堆積物(Ts3, Ts4)が,. スコップを使いながら剥がし、採取する(図6)。剥ぎ取っ. B-Tmの下位に1枚の巨大津波堆積物(Ts5)が認定され. た地層標本は、水でよく洗い流し、余分な土等を除き、乾. ている。これらのことから巨大津波堆積物(Ts3)は、17. 燥させた。その後、はけで表面をよく掃い、透明ラッカー. - 50 -.
(4) 道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用 を3-4回スプレーし、標本表面をコーティングした後、 板に貼り付け補強を施して完成させた(図7) 。こうした 標本があると、教室の中に持ち込むことができ、実際の地 層を手に触れながら観察することが可能になる。. 図6 地層を剥ぎ取っている様子. 図3 馬主来沼での地層断面. 図4 地層断面に凝固剤をかけた様子. 図7 完成した地層標本(縦約135cm、横約60cm). 図5 凝固剤の上から布をかける様子. - 51 -.
(5) 木 幡 亜加里・池 田 保 夫 2-1-2 津波堆積物の砂と砂浜の砂の比較. がチャート、乳白色系が長石類、透明色系が石英、黒色系. 次に地層標本に含まれる津波堆積物が実際に津波によっ. が輝石類と色によっておおまかな分類ができるので小学生. て海から運ばれてきた砂であることを確認するため、津波. でも分類することができる。結果、砂浜の砂は深成岩が最. 堆積物の砂(Ts3)と馬主来の砂浜から採集した砂を比較. も多く、次にチャート、石英、火山岩、長石類、輝石の順. した。両者の砂を篩にかけ、粒径を500~850μmに揃えた. で多く見られた(図8) 。津波堆積物は深成岩と石英が大. 上でそれぞれ実体顕微鏡により観察した。津波堆積物は、. 半を占め、次に長石類、チャート、火山岩、輝石の順で多. 検土杖で採取した試料から得たもので、砂浜の砂と津波堆. かった(図9) 。砂浜の砂と津波堆積物は構成の割合は多. 積物はそれぞれ約500粒ずつ観察した。砂粒は、赤褐色系. 少の違いが出たが、構成する物質はほぼ一致した。. 図8 馬主来砂浜の砂の構成. 図9 馬主来沼での津波堆積物(TS3)の砂の構成. 2-1-3 津波堆積物の時間的空間的拡がり. 部沼間の地層の対比を行なうことができる。その結果、馬. 地層標本をみることで自分の足下には 巨大津波の堆積. 主来沼で確認されたテフラ(Ta-a, Ko-c2, B-Tm)と津波. 物があることは認識できるが、それがどのくらい広く分布. 堆積物(Ts3, Ts4, Ts5)の広域的な対比が行なえることが. しているのかがわかればより津波の規模の理解が進むだろ. わかる(図10) 。テフラの対比線は、層の中ほどで、津波. う。こうした地層標本は、浜中町霧多布湿原と根室市南部. 堆積物は層の基底部で結んでいる。なお、津波堆積物は、. 沼(図1)でも作成されていて、それぞれ霧多布湿原セン. Ts5の下に、霧多布湿原では、さらに6枚、南部沼では、. ターと根室市歴史と自然の資料館に展示されている。これ. 5枚みえるが、ここではそれらの対比は省略してある。. らの地層標本を活用することで馬主来沼、霧多布湿原、南. 図10 馬主来沼、霧多布湿原、南部沼の地層標本での地層対比. - 52 -.
(6) 道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用 2-2 津波浸水域の推定. 波の高さが予想される500年周期の巨大津波に対応してい. 約500周期で北海道を襲っている巨大地震にともなう. るのか検討してみる。釧路市配布のハザードマップと5m. 巨大津波について、釧路での津波の高さはNanayama et. 津波想定のものでは、釧路川と新釧路川に挟まれた地域に. al.(2003)によれば、春採湖に海抜5mの盛り土を乗り. 大きな違いがみられる。市配布のものでこの地域は海沿. 越えて過去何度も津波が入って来ているということ、ま. い、釧路川沿いのみの浸水だが、5m津波では湿原を越え. た、シュミレーションにより道東太平洋沿岸に3~10mの. るほどほぼ全域が浸水してしまう(図11)。この比較をさ. 津波が来る可能性があるということが記されている。そこ. らにわかりやすくするために、釧路市配布のハザードマッ. で、国土地理院2万5千分の1地形図(釧路、釧路港、大. プと5mと10mの津波のそれぞれの場合の住宅等建物のお. 楽毛、遠矢)に記入されている標高をもとに津波の波の高. およその浸水域面積とその割合を求めた。方法は、地形図. さが5mと10mを想定した時の津波浸水域の推定を行っ. の上に紙を置き、建物のある部分をトレースした後、紙を. た。地形図で標高が不明な地点がある場合は1m毎に計測. 切り取り、その重さをもとに求めた。結果、釧路市配布の. 可能な高度計を用いて補完した。津波の高さ5mと10mの時. ハザードマップの場合、住宅等建物は約7平方km、建物全. の浸水域の結果を概略図にしてそれぞれ図11と図12に示す. 体の約14%が浸水、5m津波の場合、住宅等建物は約24平. (詳細な浸水域の分布図は木幡, 2012を参照) 。5mの津. 方km、建物全体の約45%が浸水、10m津波の場合、建物は. 波の場合は大楽毛海岸沿いの地域と新釧路川と釧路川に挟. 約40平方km、建物全体の約74%が浸水してしまう。. まれたほぼ全域の地域、さらに釧路川と別保川を遡上した. 以上の結果、市配布のハザードマップに記されている津. 津波によって別保と遠矢までの一部地域が浸水する。10m. 波緊急一時避難施設のうち、道立釧路高等技術専門学院、. の津波の場合は大楽毛から釧路までの海岸沿いからその背. 光陽小学校、柳町スピードスケート場、共栄中学校、共栄. 後の釧路湿原にかけての広範囲の地域、遠矢と別保地域が. 小学校、青葉小学校、北中学校、中央小学校、城山小学校. 浸水する。遠矢と別保地域は背後に丘陵が迫っているた. は最上階に避難しても10m津波の場合、安全を確保できな. め、10mの津波の場合でも5mの時の浸水域の時に比べ僅か. いということが予想される。なお、5m、10m想定の浸水. に浸水域が拡がる程度で浸水域にそれほど大きな変化はみ. 域は単純に標高をもとに推定しているため、津波がどこま. られない。. で遡上し、駆け上がっていくのかについては考慮していな. 釧路市では500年間隔地震津波ハザードマップ (釧路市,. い。そのため、浸水域は推定以上に拡大することが考えら. 2011)が配布されているが、この想定が最低でも5mの津. れる。. 図11 5m津波の浸水域(網かけ部). - 53 -.
(7) 木 幡 亜加里・池 田 保 夫. 図12 10m津波の浸水域(網かけ部). 2-3 津波の実験装置. 17) 。また、リアス式海岸のように湾のように奥が狭まっ. 津波発生のメカニズムについて正しい知識を身につける. た地形の場合、波の高さはさらに大きくなることが知られ. 手段の一つとして、津波実験装置の製作を行った。ここで. ている。この津波を再現するために、先ほどの実験装置に. は、津波の高さが水深と地形のちがいからどのように変化. 発砲スチロールで作った壁を斜めに取り付け、収納ケース. するのかをみること目指した。教材として比較的小型の津. の角に向かって狭まるようにして実験を行った(図18)。. 波実験装置は既に様々なものが開発されているが(例えば. その結果、波の高さは、深いところが約1cm、浅いところ. 佐武ほか, 2009)、それでも装置の大きさが2m前後の大. が約3cmとなり(図19、20)、肉眼でもわかるほどに波の高. 掛かりなものが多く見られ、誰もがすぐに作れて、どこで. さが増すことが確認された。. も行なえるとは言えない。ここでは、誰もが、いつでも、. 津波は水全体を伝わっていくが、水面のみで伝わる表面. どこでも実験が行えるような教材として、教卓の上でも津. 波の再現も試みた。表面波は扇風機の風を当てることで起. 波の本質を知ることができるような簡単な実験装置を目指. こした。実験の結果、水面が細かく揺れ、表面波を確認す. した。水槽の長さが90センチほどの比較的小型の津波実験. ることができ、津波との比較が行えるとわかった。. 装置は川端・福田(2004)によって作成されている。本報告 では、これを参考に、さらに改良を加えた簡易的な実験装 置を作成した。この結果、図13 に示すように、水槽とし て39cm×74cm×32cmのプラスチック製収納ケースを用い, 津波発生部は左側の鉄製の実験用スタンドの土台を上下さ せ、レンガを沈めて水深を調整し、波が見やすいよう絵の 具で水に色を付け、さらに水深の違いによる波の高さの変 化を測定するために定規を収納ケースの側面に貼り付けた 実験装置を作成した。 津波は水深が浅くなるほど波の高さを増すことが知られ ている。このことを確かめるために、図14のようにケース の底にレンガを置いて水深を設定した。結果、水深が深い ところの波の高さが約0.5cm、浅いところが約1cmと、水 深と波の高さの関係をわずかではあるが表現でき(図15、. 図13 収納ケースを用いた津波実験装置。津波は左側のス. 16)、津波が陸地に到達する前の引き波も観察できた(図. - 54 -. タンドを上下させて発生させる。.
(8) 道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用. 図14 津波発生前の水深の違い. 図17 引き波の様子. 図15 水深が深いところでの波の高さ(矢印). 図18 リアス式海岸地形の湾を再現するために取り付けた 発砲スチロールの壁(白色部). 図16 水深が浅いところでの波の高さ(矢印) 図19 湾の地形で水深が深いところの波の高さ(矢印). - 55 -.
(9) 木 幡 亜加里・池 田 保 夫 の危険性を実感することが期待できる。こうした作業は、 知識と行動を結ぶつける体験的な活動になり得るのではな いかと考える。 津波浸水域の推定については、市販されている地形図を 使用し、特別な道具・器械も必要ないため誰もが、いつで も、どこでも机上で確認することができる。従って、この 作業は、子どもたちでも行なうことができるので、最初に 自分たちの生活圏、学校付近や家、ショッピング街、公園 などの浸水域の推定からはじめると興味をもってくれるだ ろう。そして、必要に応じて、地形図の上だけでなく実際 にその場所に行き地形を確認させるとよいだろう。浸水 域のマップを作成した後、津波が来た時のイメージをした 図20 湾の地形で水深が浅いところの波の高さ(矢印). り、安全な場所、避難ルートを話し合うとよいと考える。 この作業は総合的な学習の時間で実施することが可能では. 3.防災教育への活用. ないかと考える。また、豊沢(2011)によると被災したと. 防災教育について東日本大震災を受けた防災教育・防災. きのイメージは主観的で具体的であるほど防災行動意図に. 管理等に関する有識者会議(2011)は中間とりまとめにお. 結びつきやすいとのことなので、このマップの検討もでき. いて、「周りの状況に応じ、自らの命を守り抜くため『主. るだけ身近な例で、具体化していくことが効果的であると. 体的に行動する態度』の育成」と「防災教育の基礎となる. 考える。この体験的な活動により子どもたちの自発的な気. 基本的な知識に関する指導充実」が必要であると記してい. づきが生まれ、防災を行動に移すきっかけになると期待さ. る。また、「知識と行動は単純に連動するものではなく、. れる。. 知識を与えられただけでは、自らの行動に結びつきにく. 津波実験装置は津波のメカニズムを理解する上で大変役. い。行動につなげるためには、児童生徒等が、知識を主体. 立ち、津波発生の仕組みだけでなく、津波の高さが高くな. 的に学び、体験的な活動を通して、自ら気付きを得ること. る要因である水深の違いと湾のような地形の場合も実験に. が重要である。 」 とも記されている。このことを踏まえて、. より理解できる。この装置は小学校6年生の「土地のつく. 本報告で扱った津波に関する教材の防災教育への活用につ. りと変化-火山の噴火や地震による土地の変化」の単元で. いて考察する。. 発展的な授業として用いると良いと考える。. 地層標本については、作成自体を児童生徒が学校の授業. 学習指導要領で記されているように、防災教育は学校の教. で行うのは困難だが、教員が事前に標本を作成して授業で. 育活動全体で行うものなので、理科教育で身に付けた知識. 活用できる。実際、地層標本を小学校 6年理科単元「大地. を防災教育で目指す行動意識につなげる機会になると考え. のつくりと変化」などに導入した授業への活用例が多く報. られる。この学びの中で、知識と行動を結びつける児童が. 告されている(例えば、武藤・川上, 2009 ) 。霧多布湿原. 主体的に学ぶこと、体験的な活動になるのではないかと考. センターや根室市歴史と自然の資料館のような施設に展示. える。さらに、400-500年に一度という低頻度大規模災害. されている地層標本も活用することで、広域的な地層の対. のリスクの認知と理解をより進めるためには、防災教育の. 比に使用できる。小学校低学年であれば教員があらかじめ. 実践をイベントのような一時的なものでなく、普段の学習. 対比線を記入しておいて同じ地層を同色に塗ったり、小学. の中で持続的に遂行していく必要がある。そのためには、. 校高学年以上であれば自分で同じ地層部分を見いだして. 学校の中だけの防災教育には限界があり、研究者と行政と. 対比線を引かせるとよいだろう。こうした作業を通じて、. 学校・市民、これら三者が相互に連携して鉄のトライアン. 生徒たちは、津波堆積物の時間的空間的拡がりを捉えるこ. グルのように一体となった活動が必要である。こうした活. とが可能になるだろう。もし、課外授業などで現地に行け. 動により、より長期的な視点にたって自然と向き合う姿勢. るならば、検土杖を用いた試料採取が考えられる。検土杖. を根づかせることができるようになるだろう。実際、この. を海岸から陸地の方に向かって試料を採集し観察していけ. 仕組は、2000年の有珠山噴火のおり噴火前に市民を避難さ. ば、津波堆積物の拡がりをよりリアルに捉えることができ. せることに成功させているのである。. るだろう。地層の観察とともに、津波堆積物と砂浜の砂の 比較も小学校でルーペを用いるなどの簡易的な方法で可能. 4.まとめ. である。岩石と鉱物はその色分けでもある程度分類ができ. 本論文では剥ぎ取り法による地層標本の作製、釧路市の. るので小学校の低学年でも作業ができる。こうした観察を. 津波浸水域の推定、津波実験装置の製作を行い、これらは、. 通して、生徒たちは、津波によって砂などが陸側に運ばれ. 誰もが、いつでも、どこでも防災教育に活用できることが. 堆積することを理解するだけでなく、津波がその地点まで. わかった。. 何度も到達しているということに気づくことができ、津波. 馬主来沼での剥ぎ取り法による地層標本の作成では、4. - 56 -.
(10) 道東地域を例にした津波に関する教材研究と防災教育への活用 災教育支援事業」, 90p.. 枚の火山灰層と3枚の津波堆積物を確認できた。そして、 その津波堆積物と砂浜の砂を比較したところ砂の構成がほ. 川端紹義・福田修武 (2004), 防災教育を意識した地震の. ぼ一致し、津波堆積物が実際に海から運ばれてきた砂であ. モデル実験について. 和歌山県教育研修センター研 究紀要, 7, 64-75.. るということが確認できた。また、霧多布湿原と根室市南 部沼の地層標本と対比し、広域的な地層のつながりを確認. 木幡亜加里 (2012), 津波に関する教材研究と防災教育へ の活用. 北海道教育大学釧路校卒業論文(手記),. した。. 45p.. 津波浸水域の推定では、5m津波の場合建物の約45%、 10m津波の場合約74%が浸水してしまうということがわ. 釧路市 (2011a), 東日本大震災への釧路市の取り組みに ついて. 広報くしろ, 5月号, 3.. かった。浸水域推定は津波の遡上を考慮していないため、 浸水域はさらに拡大することが予想され、また、緊急一時. 釧路市 (2011b), 500年間隔地震津波ハザードマップ. 釧 路市総務課.. 避難施設に指定されている中でも危険な所がある。そのた め、釧路市で配布されているハザードマップの不十分な点. 気象庁 (2011a), 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地. が明らかになった。. 震について(第28 報), 報道発表資料, 2011年3月25. 津波実験装置の製作では収納ケース、レンガ、実験用ス. 日17時30分.. タンドを用いて、津波が伝わる様子、水深による波高の変. 気象庁 (2011b), 平成23年3月地震・火山月報(防災編) . 気象庁, 320p.. 化、湾の地形での波高の増幅を再現することができた。し かし、水深の違いによる波高の変化はミリ単位の場合があ. 武藤大輔・川上紳一 (2009), 長良川河床の地層はぎ取り. り、肉眼では確認が困難だったため、デジタルカメラの. 標本を活用した授業展開-小学校6年理科単元「大地の. 高速連写機能を使わなければならなかった。ただ、デジタ. つくりとその変化」における実践. 岐阜大学教育学 部研究報告(自然科学),33,39-46.. ル撮影したものは、すぐにプロジェクター等で映せて確認 できるので、この問題は克服できるだろう。それでも今後. 七山 太・重野聖之・三浦健一郎・牧野彰人・古川竜太・. は、津波の性質を理解するために小型かつ単純な装置のま. 佐竹建治・斉藤健一・嵯峨山 積・中川 充 (2002),. まに、津波という現象を視覚的にさらにわかりやすく伝え. イベント堆積岩を用いた千島海溝沿岸域における先. る装置を開発することは必要であろう。. 史~歴史津波の遡上規模の評価-十勝海岸地域の調査 結果と根釧海岸地域との広域比較-. 活断層・古地震 研究報告, No.2, 209-222.. 謝辞 本論文を作成するにあたり、地層の剥ぎ取り試料作成の. Nanayama, F., Satake, K., Furukawa, R., Shimokawa,. 機会をあたえていただき、全面的なご協力とご指導してい. K., Atwater, B.F., Shigeno, K., Yamaki, S. (2003),. ただいた産業技術総合研究所の七山太博士と重野聖之氏に. Unusually large earthquakes inferred from tsunami. 厚くお礼申し上げます。また、産業技術総合研究所の吉川. deposits along the Kuril trench. Nature, 424, 660663.. 秀樹氏には、検土杖を作成していただき、それを無償で貸 与していただいたことに深く感謝申し上げます。さらに、. 七 山 太・ 佐 竹 建 治・ 下 川 浩 一・ 古 川 竜 太・ 重 野 聖 之. 現場での地層の剥ぎ取り試料作成を手伝っていただいた地. (2000a), イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸域の. 学研究室の菅野昴也、加藤優樹、小管明日香の各氏に感謝. 津波の遡上規模と再来間隔の検討. 平成11年度活断. いたします。. 層・古地震研究調査概要報告書, 工業技術院地質調査 所, 1-17. 七山 太・佐竹建治・下川浩一・重野聖之・古川竜太・廣. 参考文献 朝日新聞 (2011),. 田 勲・牧野彰人・野島順二・小板橋重一・石井正. 震災後変わる防災教育. 朝日新聞北. 之 (2000b), 千島海溝沿岸地域、霧多布湿原におい. 海道支社, 9月1日, 16面.. て確認された巨大地震津波イベント. 月刊地球号外,. 内閣府 (2012), 南海トラフの巨大地震モデル検討会.. no.28, 139-146.. (http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai_trough/ nankai_trough_top.html). 七山 太・重野聖之・牧野彰人・佐竹建治・古川竜太 (2001),. 藤沢市 (2012), 津波避難情報マップについて. (http://. イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸地域における. www.city.fujisawa.kanagawa.jp/bousai/page100054.. 津波の遡上規模の評価-根室長節湖、床潭沼、馬主来. shtml). 沼、キナシベツ湿原および湧洞沼における研究例-. 活断層・古地震研究報告, no.1, 251-272.. 北海道開発局 (2011), 釧路川直轄河川改修事業再評価. 佐武直紀・福和伸夫・原 徹夫・太田賢治・飯沼博幸 (2009),. 原案準備書説明資料. 北海道開発局, 27p.. 地震防災教育のための津波実験装置の開発. 日本. 釜石市教育委員会・釜石市市民部防災課・群馬大学災害社 会工学研究室 (2010),. 建築学会技術報告集, 15, 321-324.. 釜石市津波防災教育のための. 手引き. 文部科学省防災教育支援推進プログラム「防. 豊沢純子 (2011), 災害イメージの具体性が防災行動意図. - 57 -.
(11) 木 幡 亜加里・池 田 保 夫 に及ぼす影響?解釈レベル理論の視点からの検討. 学 校危機とメンタルケア, 3, 12-20. 東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識 者会議 (2011), 東日本大震災を受けた防災教育・防 災管理等に関する有識者会議中間とりまとめ. 文部科 学省, 17p.. - 58 -.
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